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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】冷却装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20250508BHJP
   H01L 23/40 20060101ALI20250508BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20250508BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/40 F
H05K7/20 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021063356
(22)【出願日】2021-04-02
(65)【公開番号】P2022158446
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】小野 孝彦
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-143414(JP,A)
【文献】特開2013-4775(JP,A)
【文献】特開2015-156471(JP,A)
【文献】特開2016-108457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00―3/40
C08L 101/00―101/16
H01L 23/34―23/473
H01L 21/48―21/60
H01L 23/14
H05K 3/30―3/32
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱性素子を搭載する配線層と、放熱部材と、樹脂および無機フィラーを含有し前記配線層と放熱部材との間に配置される絶縁樹脂層とを積層状に備え、
前記絶縁樹脂層の配線層側の面の、配線層の外方から配線層の絶縁樹脂層側の面に及ぶ位置に差込樹脂部材が埋め込まれており、
前記差込樹脂部材のボイド率が絶縁樹脂層のボイド率より小さいことを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
前記差込樹脂部材が環形であり、前記配線層の中央部が絶縁樹脂層に接している請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記差込樹脂部材の弾性率が絶縁樹脂層の弾性率より大きい請求項1または2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記差込樹脂部材の比誘電率が絶縁樹脂層の比誘電率より高い請求項1~のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項5】
前記差込樹脂部材が、前記絶縁樹脂層内に埋め込まれる本体部と、この本体部の一方の面から絶縁樹脂層外に突出する凸部とを有し、前記凸部の側面が前記配線層の側面に接している請求項1~のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項6】
前記凸部の高さが、配線層の側面側から外方に向かって連続的に低くなる形状である請求項に記載の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップ等の発熱性素子を冷却する冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】

発熱性素子として例えばパワー半導体チップを備えるパワーモジュールは、パワー半導体チップを冷却する冷却装置をパワーモジュール基板として一般に具備している。
【0003】
冷却装置は、パワー半導体チップが上面に搭載される配線層と、パワー半導体チップの熱を放散する放熱部材(例:ヒートシンク)とを備えており、さらに、配線層と放熱部材との間に配置された絶縁層を備えている。絶縁層は、配線層と放熱部材を電気的に絶縁するための層である。絶縁層としてはセラミック基板または絶縁樹脂シートが広く用いられている。
【0004】
セラミック基板は、絶縁樹脂シートと比べて熱伝導性に優れているが、剛性が高い。そのため、セラミック基板を絶縁層として備えた冷却装置では、長期間に亘る冷熱負荷や半導体チップの高温動作時にセラミック基板の内部に発生する熱応力によりセラミック基板にクラックが発生する懸念がある。さらに、冷却装置の製造過程において高温焼結を行わなければならない場合がある。
【0005】
絶縁樹脂シートは柔軟性を有している。そのため、絶縁樹脂シートを絶縁層として備えた冷却装置では、上述した冷熱負荷や上述した熱応力が絶縁樹脂シートで緩和されるため、パワーモジュールの信頼性が高められる。さらに、この冷却装置ではその製造過程において高温焼結を行う必要がないという利点がある。
【0006】
前記絶縁樹脂シートは樹脂と無機フィラーを混合してシート状に成形したものである。しかし、シート状に成形しただけでは、樹脂中あるいは樹脂と無機フィラーとの間にボイドが存在する(図3参照)。絶縁樹脂シート中にボイドが存在すると、ボイドに電界が集中することにより局所放電が発生し、絶縁破壊が起こり易くなる。このため、前記絶縁シートを放熱部材に接着する際に、加熱しながら加圧してボイドを取り除いている(特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1に放熱ベース基板と配線層基板を絶縁樹脂シートで接着するための方法が記載されている。この方法は、放熱ベース基板に該基板と同寸法の絶縁樹脂シートを重ね、その上に絶縁樹脂シートよりも小さい配線層基板を重ね、絶縁樹脂シートに配線層基板を囲むようにダミー基板を配置し、配線層基板およびダミー基板を加熱しながら押圧するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-62021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された方法において、ダミー基板は配線層基板と同じ厚さであり、配線層基板の外周面に沿ってダミー基板が配線層基板に隙間無く接していることが好ましい。しかし、実際には部品寸法のばらつきやダミー基板と配線層基板とのクリアランスの設定によって隙間が生じる。隙間に対応する部分は絶縁樹脂シートが十分に加圧されず、ボイドが残ることがある。上述したように、ボイドに電界が集中するので、電界が集中する箇所と電気絶縁性が低下する部分が近くなることで、特に上記の隙間に対応する部分、即ち、配線層基板の側面と絶縁樹脂シート側の面が出合う出隅の近傍部分における絶縁信頼性が低下する、という問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、配線層と放熱部材との間に絶縁樹脂層を介在させた冷却装置における絶縁信頼性の向上を目的とする。
【0011】
即ち、本発明は下記[1]~[7]に記載の構成を有する。
【0012】
[1]発熱性素子を搭載する配線層と、放熱部材と、樹脂および無機フィラーを含有し前記配線層と放熱部材との間に配置される絶縁樹脂層とを積層状に備え、
前記絶縁樹脂層の配線層側の面の、配線層の外方から配線層の絶縁樹脂層側の面に及ぶ位置に差込樹脂部材が埋め込まれていることを特徴とする冷却装置。
【0013】
[2]前記差込樹脂部材が環形であり、前記配線層の中央部が絶縁樹脂層に接している前項1に記載の冷却装置。
【0014】
[3]前記差込樹脂部材のボイド率が絶縁樹脂層のボイド率より小さい前項1または2に記載の冷却装置。
【0015】
[4]前記差込樹脂部材の弾性率が絶縁樹脂層の弾性率より大きい前項1~3のいずれかに記載の冷却装置。
【0016】
[5]前記差込樹脂部材の比誘電率が絶縁樹脂層の比誘電率より高い前項1~4のいずれかに記載の冷却装置。
【0017】
[6]前記差込樹脂部材が、前記絶縁樹脂層内に埋め込まれる本体部と、この本体部の一方の面から絶縁樹脂層外に突出する凸部とを有し、前記凸部の側面が前記配線層の側面に接している前項1~5のいずれかに記載の冷却装置。
【0018】
[7]前記凸部の高さが、配線層の側面側から外方に向かって連続的に低くなる形状である前項6に記載の冷却装置。
【発明の効果】
【0019】
上記[1]に記載の冷却装置によれば、差込樹脂部材によって絶縁樹脂層における配線層の出隅近傍部分のボイドが低減されているので高い絶縁信頼性が得られる。
【0020】
上記[2]に記載の冷却装置によれば、配線層の中央部が差込樹脂部材を介さず直接絶縁樹脂層に接しているので高い放熱性が得られる。
【0021】
上記[3]に記載の冷却装置は、差込樹脂部材のボイド含有率が絶縁樹脂層のボイド含有率より小さいので、電界集中を緩和する効果が大きく、なお一層高い絶縁信頼性が得られる。
【0022】
上記[4]に記載の冷却装置は、差込樹脂部材の弾性率が絶縁樹脂層の弾性率より大きので、ボイドの低減効果が大きく、なお一層高い絶縁信頼性が得られる。
【0023】
上記[5]に記載の冷却装置は、差込樹脂部材の比誘電率が絶縁樹脂層の比誘電率より高いので、配線層の出隅近傍において電界集中を緩和する効果が大きく、ひいては絶縁信頼性を高めることができる。
【0024】
上記[6]に記載の冷却装置は、差込樹脂部材の凸部の側面が配線層の側面に接しているので側面からの局所放電が阻止され、ひいては絶縁信頼性を高めることができる。
【0025】
上記[7]に記載の冷却装置は、差込樹脂部材の凸部の体積が小さいので、冷熱サイクルにおいて発生する圧縮応力および引張応力に起因して生じるクラックの進展スピードが遅くなる。その結果、クラックが配線層と差込樹脂部材の接合界面に達して両者が剥離するまでの時間が長くなるので、高い接着信頼性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A】本発明にかかる冷却装置の斜視図である。
図1B図1Aの1B-1B線断面図である。
図2図1Aの冷却装置の分解斜視図である。
図3】絶縁樹脂シートの断面図である。
図4】差込樹脂部材を備えない冷却装置の製造方法を示す断面図である。
図5】差込樹脂部材を備えた冷却装置の製造方法を示す断面図である。
図6】他の形状の差込樹脂部材と、この差込樹脂部材を備えた冷却装置の断面図である。
図7】さらに他の形状の差込樹脂部材と、この差込樹脂部材を備えた冷却装置の断面図である。
図8】さらに他の形状の差込樹脂部材と、この差込樹脂部材を備えた冷却装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照しつつ、本発明にかかる冷却装置の実施形態について詳述する。以下の説明において、同じ符号を付したものは同一または同等のものであり、重複する説明を省略する。
【0028】
図1A、1B、2に示すように、冷却装置1は、半導体チップ等の発熱性素子を冷却するものであり、例えばパワーモジュール基板として用いられるものである。
【0029】
前記冷却装置1は、発熱性素子(図示省略)を搭載する配線層11と、前記発熱性素子を冷却するための放熱部材12と、前記配線層11と放熱部材12を電気的に絶縁するためにこれらの間に配置された絶縁樹脂層13とが積層状に一体化され、さらに前記絶縁樹脂層13の配線層11側の面に差込樹脂部材20が埋め込まれている。
【0030】
前記配線層11は、前記絶縁樹脂層13とは反対側の面(図面上の上面)に上述した発熱性素子がはんだ付等により接合されて搭載されるものである。前記配線層11は電気伝導性を有するものであり、その材料はアルミニウム、銅、金属-炭素粒子複合材(例:アルミニウム-炭素粒子複合材)などである。また、発熱性素子が配線層11の上面に接合される際には、はんだ付け性を高めることなどを目的としてニッケルめっき層などのニッケル層が配線層11の上面に形成される場合がある。前記配線層11の厚さは限定されるものではなく、通常0.3mm~3mmである。前記配線層11の平面視形状は限定されるものではなく、本実施形態では略四角形状である。前記配線層11の平面寸法は、配線層11と前記絶縁樹脂層13に埋め込まれる差込樹脂部材20との位置関係により、絶縁樹脂層13よりも小さい。
【0031】
前記放熱部材12は、絶縁樹脂層13側の面が平坦状に形成された板状の金属(例:アルミニウム、銅)製のものであり、具体的にはヒートシンク、放熱板などである。なお、本発明では、放熱部材12はヒートシンクまたは放熱板であることに限定されるものではなく、その他に例えば、冷却媒体の流通路を有するものであってもよい。
【0032】
前記絶縁樹脂層13は、樹脂と無機フィラーの混合物からなる。前記樹脂の種類は限定されるものではなく、具体例としてエポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂を挙げることができる。前記無機フィラーは電気絶縁性および高熱伝導性を有するものを用い、具体的には窒化ホウ素粒子、アルミナ粒子等を挙げることができる。 また、前記絶縁樹脂層13における無機フィラーの含有率は限定されるものではないが、50質量%~90質量%の範囲が好ましい。無機フィラーの含有率が90質量%を超えるとシートの形態を維持できなくなる可能性がある。50質量%未満では複合則より十分な熱伝導性が得られない可能性がある。さらに、絶縁樹脂層13の厚さも限定されるものではなく、通常30μm~200μmである。
【0033】
前記差込樹脂部材20は、前記絶縁樹脂層13の配線層11側の面の、配線層11よりも外方から配線層11の絶縁樹脂層13側の面11aに及ぶ位置に埋め込まれている。従って、配線層11の絶縁樹脂層側の面11aと側面11bとが出合う出隅11cが差込樹脂部材20上にあり、差込樹脂部材20の一端側の部分が配線層11と絶縁樹脂層13の間に介在し、他端側の部分が絶縁樹脂層13の表面と同一平面上に露出している。
【0034】
前記冷却装置1における前記絶縁樹脂層13は、図3の、樹脂31と無機フィラー32を混合してシート状に成形した絶縁樹脂シート30を材料として用い、この絶縁樹脂シート30を他の構成部材とともに仮組みし、加熱および加圧することにより形成される。前記絶縁樹脂シート30は、樹脂31中および樹脂31中に分散する無機フィラー32の周りにボイド33が存在する。
【0035】
以下に、前記絶縁樹脂シート30を共通材料として用い、前記差込樹脂部材20を使用せずに作製した冷却装置100と、差込樹脂部材20を使用して作製した本発明の冷却装置1を比較する。2種類の冷却装置1、100は差込樹脂部材20の有無を除いて同じ材料を用いており、加熱および加圧条件も共通であるから、重複する説明は省略する。
(差込樹脂部材を備えない冷却装置)
まず、冷却装置100の製造方法を説明する。
【0036】
図4に示すように、放熱部材12の上に該放熱部材12と平面寸法が同寸の絶縁樹脂シート30を重ね、その中央にこれらよりも寸法の小さい配線層11を重ねて仮組みする。次に、この仮組物の配線層11の周囲の絶縁樹脂シート30が露出している部分に、ステンレス鋼等の剛体からなる押し当て治具40を載置し、プレス機で真空引きをしながら配線層11および押し当て治具40を放熱部材12側に押し付けて加熱しつつ加圧する。温度および加圧圧力は150℃~200℃、0.1MPa~10MPが好ましい。加熱により絶縁樹脂シート30が軟化して粘着力が増し、加熱・加圧後に冷却して樹脂が硬化すると絶縁樹脂シート30と放熱部材12が接合されるとともに絶縁樹脂シート30と配線層11が接合される。
【0037】
上記の工程において、配線層11の側面11bと押し当て治具40の側面40aとの間には、押し当て治具40のセットに必要な隙間45がある。そして、前記押し当て治具40および配線層11を同時に押圧することにより軟化した絶縁樹脂シート30の一部が変形して隙間45に入り込む。前記絶縁樹脂シート30はボイド33を含んでいるので、隙間45に入り込んだ変形部分34にもボイド33が含まれている。絶縁樹脂シート30中のボイド33は加圧によってある程度除去されるが、前記隙間45は押し当て治具40および配線層11による加圧力を受けないので、変形部分34のボイド33はそのまま残留する可能性が高い。
【0038】
前記変形部分34は配線層11の出隅11cに近接しており、ここにボイド33が残っていると電界が集中して絶縁信頼性が低下する。
(差込樹脂部材を備えた冷却装置)
次に、図1A、1B、2の冷却装置1の製造方法について説明する。
【0039】
図2および図5に示すように、放熱部材12の上に絶縁樹脂シート30を重ね、その上に差込樹脂部材20を重ね、差込樹脂部材20上に配線層11を重ねて仮組みする。本実施形態の差込樹脂部材20は四角形の環形であり、外形の平面寸法が絶縁樹脂シート30よりも小さく、環内側の寸法が配線層11よりも大きい。従って、上記の構成材料を仮組みすると、配線層11の全周で出隅11cが差込樹脂部材20上にあり、絶縁樹脂層13側の面11aの一部が差込樹脂部材20に接している。
【0040】
次に、前記仮組物に押し当て治具40を載置する。押し当て治具40の一部が差込樹脂部材20に接触し、この状態で配線層11と押し当て治具40を放熱部材12側に押し付けて加熱しつつ加圧する。前記差込樹脂部材20は加熱により軟化した絶縁樹脂シート30中に押し込まれ、表面が絶縁樹脂シート30の表面と同じ高さに埋め込まれる。上記の差込樹脂部材20を使用しない場合と同じく、前記配線層11の側面11bと押し当て治具40の側面40aとの間に隙間45はあるが、隙間45部分の絶縁樹脂シート30は、差込樹脂部材20を介して押し当て治具40および配線層11の両方に押圧され、差込樹脂部材20が絶縁樹脂シート30に埋め込まれて絶縁樹脂層30が形成される。このように、絶縁性樹脂シート30は隙間45部分も十分に加圧されるので、この部分に存在するボイド33が低減される。そして、作製された冷却装置1(図1B参照)は、前記配線層11の絶縁樹脂層13側の面11aは中央部が絶縁樹脂シート30(絶縁樹脂層13)に接し、出隅11c近傍の外縁部が差込樹脂部材20に接している。
【0041】
前記差込樹脂部材20を備える冷却装置1においては、絶縁樹脂層13は配線層11の出隅11cの近傍部分においてボイド33が低減しているので、電界集中が回避されて絶縁信頼性が高くなる。
【0042】
なお、前記冷却装置1は、予め差込樹脂部材20を絶縁樹脂シート30の所定位置に埋め込んでおき、差込樹脂部材20を埋め込んだ絶縁シート30を配線層11および放熱部材12に組み付けることによって作製することもできる。
(差込樹脂部材の材料)
前記差込樹脂部材を構成する樹脂の種類は限定されるものではなく、具体例としてポリイミド、ポリフェニルサイファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレンを挙げることができる。また、前記樹脂に無機フィラーを含有させてもよく、放熱性を高めることができる。一方、樹脂のみの差込樹脂部材は無機フィラーを含有させた場合よりも放熱性は劣るがボイドの含有率が低くなる傾向がある。
【0043】
前記差込樹脂部材は樹脂成形品であるから内部にボイドを含んでいることがある。ただし、前記差込樹脂部材は絶縁樹脂層における配線層の出隅近傍部分のボイドを低減することを目的として使用する部材であるから、前記差込樹脂部材中のボイドの含有率が絶縁樹脂層中のボイド率よりも小さいことが好ましい。また、前記差込樹脂部材中のボイド含有率は5%以下であることが好ましい。差込樹脂部材がこれらの条件を満たしていることによって電界集中を緩和する効果が大きくなり、なお一層絶縁信頼性を高めることができる。
【0044】
前記差込樹脂部材の弾性率が絶縁樹脂層の弾性率よりも高いことが好ましい。図5に参照されるように、配線層11および押し当て治具40を介して差込樹脂部材20で隙間45部分を押圧する際に、差込樹脂部材20が絶縁樹脂シート30よりも硬い方が隙間45部分を十分に加圧でき、絶縁樹脂シート30中のボイド33を低減させる効果が大きい。ひいては、電界集中を緩和して冷却装置1の絶縁信頼性をなお一層高めることができる。
【0045】
前記差込樹脂部材の比誘電率が絶縁樹脂層の比誘電率よりも大きいことが好ましい。電界は鋭く尖った部分で高くなるので、配線層の出隅において電界が高くなる。そして、電界の集中する部分に比誘電率の大きい差込樹脂部材を配置することによって電界集中を緩和することができ、ひいては、冷却装置の絶縁信頼性を高めることができる。
【0046】
図1Bに示すように、環形の差込樹脂部材20において、絶縁信頼性を十分に確保するという観点より、出隅11cから差込樹脂部材20の内端までの寸法W1を500μm以上に設定することが好ましく、5000μm以上であればなお一層好ましい。半導体モジュールの耐電圧の指標としてAC2.5kV以上をパスするためには、W1を5000μm以上に設定するのがより好ましい条件となる。また、出隅11cから差込樹脂部材20の外端までの距離W2は前記隙間45の寸法よりも大きく押し当て治具40が差込樹脂部材20を押圧できることが条件であり、少なくとも5000μm以上が押し当て治具40に重なるように設定することが好ましい。前記差込樹脂部材20の厚みT1は、差込樹脂部材20を加圧したときに無機フィラー粒子が崩れない厚みに設定することが好ましい。具体的には、厚みT1は10μm~100μmが好ましく、50μm~70μmであればなお一層好ましい。
(差込部材の他の形状)
差込樹脂部材は配線層の出隅の近傍部分に配置されていればよく、図1A、1B、2のフラットな環形に限定されるものではない。他の形状として図6~8の差込樹脂部材22、50、55を例示できる。
【0047】
図6の差込樹脂部材22は配線層11の絶縁樹脂層13側の面11aの全体を覆うものである。このような形状の差込樹脂部材22は絶縁信頼性が高い。一方、図1A、1B、2の環形の差込樹脂部材20は配線層11の中央部が直接絶縁樹脂層13に接しているので放熱性が高い。前記差込樹脂部材22の好ましい厚みT1は、図1A等の環形の差込樹脂部材20と共通である。
【0048】
図7の差込樹脂部材50は、プレート状の本体部51と、この本体部51の一方の面から突出する断面形状が四角形の凸部52とを有している。前記本体部51は絶縁樹脂層13に埋め込まれ、一端側の部分が配線層11と絶縁樹脂層13の間に介在し、他端側の部分が絶縁樹脂層13の表面と同一平面上に露出している。前記凸部52は絶縁樹脂層13外に突出し、凸部52の側面52aが配線層11の側面11bに接するように配置されている。かかる形状の差込樹脂部材50により、配線層11の側面11bからの局所放電を阻止してなお一層絶縁信頼性を高めることができる。前記凸部52の高さT2(図面上の上下方向において本体部51の厚みT1を含む寸法)は0.2mm~1mmが好ましく、幅W3は50μm~100μmが好ましい。前記幅W3は加圧時の配線層11と押し当て治具40のクリアランスに相当する。また、出隅11cから差込樹脂部材50の本体部51内端までの寸法W1は、凸部52が無い形態の差込樹脂部材20と同じく500μm以上であることが好ましい。
【0049】
前記差込樹脂部材50は、予め所定形状に成形したものを準備し、これを他の構成部材とともに仮組みし、加熱および加圧により本体部52を絶縁樹脂層13(絶縁樹脂シート30)に埋め込むことができる。また、フラットプレートの素材を他の構成部材とともに仮組し、配線層11と押し当て治具40の間の隙間45に軟化させた素材を入り込ませ、隙間45に入り込んだ変形部分を凸部52とし、絶縁樹脂層13(絶縁樹脂シート30)に埋め込まれた部分を本体部51とすることもできる。
【0050】
図8の差込樹脂部材55は、凸部56の高さが配線層11の側面11b側から外方に向かって連続的に小さ低くくなり、断面形状が三角形に形成されている。前記凸部56の最大高さT3(図面上の上下方向において本体部51の厚みT1を含む寸法)は0.2mm~1mmが好ましく、幅W4は200μm~1000μmが好ましい。前記幅W4は、配線層11と絶縁樹脂層13の線膨張係数差により発生する熱応力を緩和するのに適した寸法である。このような断面形状が三角形の凸部56は、図7の四角形の凸部52よりも体積が小さく接着信頼性が高くなる。その理由は以下のとおりである。
【0051】
本発明において、冷却装置の構成部材を仮組みし、加熱および加圧することにより絶縁樹脂層(絶縁樹脂シート)および差込樹脂部材の樹脂を軟化させ、冷却して硬化させることにより各構成部材を接合一体化している。この製造工程において、樹脂の硬化と硬化に伴う収縮により応力が発生し、収縮応力は硬化する樹脂の体積が大きくなるほど大きくなる。差込樹脂部材と配線層の接合界面においてまた、高温側では膨張により圧縮応力が発生し、低温側では収縮による引張応力が発生する。そして、冷却装置の使用時の冷熱サイクルにおいて、差込樹脂部材と配線層の線膨張係数差に基づく圧縮応力と引張応力が発生する。このとき発生する応力を解放するために差込樹脂部材側にクラックが発生し、クラックが配線層と差込樹脂部材の界面に達すると接着の信頼性が低下することになる。差込樹脂部材の凸部の体積が小さいほどクラックの進展スピードが遅くなり、剥離までの時間が長くなる。換言すると、凸部の体積が小さくなるほど接着寿命が長くなるので、接着信頼性が高くなる。
【0052】
なお、図7、8の差込樹脂部材50、55は平面視において環形であり配線層11の中央部が絶縁樹脂層13に接しているが、凸部を有する差込樹脂部材においても配線層の全面が差込樹脂部材に接する形状に変更することができる(図6参照)。また、本体部51の好ましい厚みT1は、上述した凸部の無い差込樹脂部材20、22における厚みT1に準じる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は半導体チップ等の発熱性素子を冷却する冷却装置として利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1、100…冷却装置
11…配線層
11a…絶縁樹脂層側の面
11b…側面
11c…出隅
12…放熱部材
13…絶縁樹脂層
20、22、50、55…差込樹脂部材
30…絶縁樹脂シート
33…ボイド
40…押し当て治具
40a…側面
51…本体部
52、56…凸部
52a…側面
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8