(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】設計支援装置、設計支援方法及び設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20250508BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20250508BHJP
G06F 111/06 20200101ALN20250508BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/27
G06F111:06
(21)【出願番号】P 2021075151
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100153040
【氏名又は名称】川井 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】花岡 恭平
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-052737(JP,A)
【文献】特開2014-006825(JP,A)
【文献】特開2016-045536(JP,A)
【文献】特開2016-200902(JP,A)
【文献】特表2016-523402(JP,A)
【文献】国際公開第2019/088185(WO,A1)
【文献】特開2021-038344(JP,A)
【文献】特開2020-144799(JP,A)
【文献】特開2020-030683(JP,A)
【文献】特開2020-071827(JP,A)
【文献】目的変数が複数のときに実験計画法のベイズ最適化(Bayesian Optimization, BO)が対応! [online],2019年03月25日,[検索日 2024.11.01],インターネット,URL:https://datachemeng.com/bayesian_optimization_for_multiple_y/
【文献】GONZALEZ, J. et al.,Batch Bayesian Optimization via Local Penalization [online],2015年10月15日,[検索日 2024.11.01],インターネット,URL:https://arxiv.org/abs/1505.08052
【文献】米津智弘 外4名,コスト考慮型ベイズ最適化による複数目的関数最適化とその材料分野への応用,電子情報通信学会技術研究報告,一般社団法人電子情報通信学会,2017年06月16日,Vol. 117, No. 110,pp. 207-213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
G06Q 10/04 -10/047
G06Q 50/04
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目が向上するような、前記複数の設計パラメータを求める設計支援装置であって、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得部と、
前記設計パラメータ群に基づいて、目的変数としての前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築部と、
各予測モデルから得られる観測値の多次元確率分布からサンプリングした複数の目的変数群を一のサンプリング点として、前記目的変数群を所定点数サンプリングするサンプリング部と、
前記目的変数群に含まれる目的変数の数を次元数とし各目的変数の値を要素とするベクトルを所定の演算によりスカラー化することにより、各サンプリング点の目的変数群の評価値を算出する評価値算出部と、
各サンプリング点の前記評価値の分布に基づいて、前記設計パラメータ群を入力とし、前記評価値の向上に関する獲得関数評価値を所定の獲得関数により出力する獲得関数評価部と、
前記獲得関数評価値の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得部と、
前記設計パラメータ群取得部により取得された前記設計パラメータ群を出力する出力部と、
を備える設計支援装置。
【請求項2】
前記評価値算出部は、前記目的変数群に含まれる目的変数の重み付け和を含む前記評価値を算出する、
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項3】
前記評価値算出部は、各目的変数に目標値が設定されている場合には、前記目的変数群に含まれる複数の目的変数のうち、目標値との差が最も大きい目的変数の該目標値に対する差を更に含む前記評価値を算出する、
請求項2に記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記獲得関数評価部は、LCB(Lower Confidence Bound)、UCB(Upper Confidence Bound)、EI(Expected Improvement)及びPI(Probability of Improvement)のうちのいずれかの獲得関数により前記獲得関数評価値を出力する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の設計支援装置。
【請求項5】
前記設計パラメータ群取得部は、前記獲得関数評価値を最適化する一つの設計パラメータ群を取得する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の設計支援装置。
【請求項6】
前記設計パラメータ群取得部は、複数の前記設計パラメータ群を所定のアルゴリズムにより取得する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の設計支援装置。
【請求項7】
前記予測モデルは、前記設計パラメータ群を入力とし、前記観測値の確率分布を出力とする回帰モデルまたは分類モデルであり、
前記モデル構築部は、前記実績データを用いた機械学習により、前記予測モデルを構築する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の設計支援装置。
【請求項8】
前記予測モデルは、ベイズ理論に基づく予測値の事後分布、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布、回帰モデルの予測区間及び信頼区間の理論式、モンテカルロドロップアウト、及び、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布のうちのいずれか一つを用いて観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標を予測する機械学習モデルである、
請求項7に記載の設計支援装置。
【請求項9】
複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目が向上するような、前記複数の設計パラメータを求める設計支援装置における設計支援方法であって、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得ステップと、
前記設計パラメータ群に基づいて、目的変数としての前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築ステップと、
各予測モデルから得られる観測値の多次元確率分布からサンプリングした複数の目的変数群を1のサンプリング点として、前記目的変数群を所定点数サンプリングするサンプリングステップと、
前記目的変数群に含まれる目的変数の数を次元数とし各目的変数の値を要素とするベクトルを所定の演算によりスカラー化することにより、各サンプリング点の目的変数群の評価値を算出する評価値算出ステップと、
各サンプリング点の前記評価値の分布に基づいて、前記設計パラメータ群を入力とし、前記評価値の向上に関する獲得関数評価値を所定の獲得関数により出力する獲得関数評価ステップと、
前記獲得関数評価値の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得ステップと、
前記設計パラメータ群取得ステップにより取得された前記設計パラメータ群を出力する出力ステップと、
を有する設計支援方法。
【請求項10】
コンピュータを、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目が向上するような、前記複数の設計パラメータを求める設計支援装置として機能させるための設計支援プログラムであって、
前記コンピュータに、
作製済みの前記製品、前記仕掛品、前記半製品、前記部品又は前記試作品に関しての、前記設計パラメータ群と前記複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得機能と、
前記設計パラメータ群に基づいて、目的変数としての前記特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、前記実績データに基づいて構築するモデル構築機能と、
各予測モデルから得られる観測値の多次元確率分布からサンプリングした複数の目的変数群を1のサンプリング点として、前記目的変数群を所定点数サンプリングするサンプリング機能と、
前記目的変数群に含まれる目的変数の数を次元数とし各目的変数の値を要素とするベクトルを所定の演算によりスカラー化することにより、各サンプリング点の目的変数群の評価値を算出する評価値算出機能と、
各サンプリング点の前記評価値の分布に基づいて、前記設計パラメータ群を入力とし、前記評価値の向上に関する獲得関数評価値を所定の獲得関数により出力する獲得関数評価機能と、
前記獲得関数評価値の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得機能と、
前記設計パラメータ群取得機能により取得された前記設計パラメータ群を出力する出力機能と、
を実現させる設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、設計支援装置、設計支援方法及び設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習を活用した製品設計が研究されている。製品設計の一分野として、例えば、機能性材料の設計においては、例えば、実験及び作製済みの材料に関する原材料配合比と特性とのペアからなる学習データとを用いた機械学習により材料の特性を推定するモデルを構築し、未実験の原材料配合比に対する特性の予測が行われている。このような特性の予測により実験計画を立てることにより、効率的に材料の特性及び原材料配合比等のパラメータを最適化することが可能となり、開発効率の向上が図られている。また、このような最適化の手法として、ベイズ最適化が有効であることが知られており、ベイズ最適化を用いて設計値を出力する設計装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、材料等の製品開発においては、複数の目的変数(特性)が与えられた状況で、設計変数に応じて変化する複数の特性を向上させるために、複数の目的変数の最適化が行われる。これを多目的最適化という。目的変数間にトレードオフがある場合において、最適解(パレート解)は複数存在し、一つに定まらない。例えば、各目的変数に対して目標値が設定される場合に、最適なパレート解を得るために、多くのパレート解を求めて、設計目標に近いパレート解を選択するというアプローチを取ることが考えられる。しかしながら、このようなアプローチでは、多くの目的関数の評価が必要であり、その処理負荷が膨大となり現実的ではない。このような問題は、材料設計に限られず、製品設計全般に共通のものである。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製プロセスにおいて目的変数を構成する製品の特性及び設計変数の最適化を、より少ない実験回数により低負荷で可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る設計支援装置は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目が向上するような、複数の設計パラメータを求める設計支援装置であって、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得部と、設計パラメータ群に基づいて、目的変数としての特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築部と、各予測モデルから得られる観測値の多次元確率分布からサンプリングした複数の目的変数群を一のサンプリング点として、目的変数群を所定点数サンプリングするサンプリング部と、目的変数群に含まれる目的変数の数を次元数とし各目的変数の値を要素とするベクトルを所定の演算によりスカラー化することにより、各サンプリング点の目的変数群の評価値を算出する評価値算出部と、各サンプリング点の評価値の分布に基づいて、設計パラメータ群を入力とし、評価値の向上に関する獲得関数評価値を所定の獲得関数により出力する獲得関数評価部と、獲得関数評価値の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得部と、設計パラメータ群取得部により取得された設計パラメータ群を出力する出力部と、を備える。
【0007】
本開示の一側面に係る設計支援方法は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目が向上するような、複数の設計パラメータを求める設計支援装置における設計支援方法であって、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得ステップと、設計パラメータ群に基づいて、目的変数としての特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築ステップと、各予測モデルから得られる観測値の多次元確率分布からサンプリングした複数の目的変数群を一のサンプリング点として、目的変数群を所定点数サンプリングするサンプリングステップと、目的変数群に含まれる目的変数の数を次元数とし各目的変数の値を要素とするベクトルを所定の演算によりスカラー化することにより、各サンプリング点の目的変数群の評価値を算出する評価値算出ステップと、各サンプリング点の評価値の分布に基づいて、設計パラメータ群を入力とし、評価値の向上に関する獲得関数評価値を所定の獲得関数により出力する獲得関数評価ステップと、獲得関数評価値の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得ステップと、設計パラメータ群取得ステップにより取得された設計パラメータ群を出力する出力ステップと、を有する。
【0008】
本開示の一側面に係る設計支援プログラムは、コンピュータを、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計において、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより設計パラメータの最適化を図る手法に適用するために、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の特性を示す複数の特性項目が向上するような、複数の設計パラメータを求める設計支援装置として機能させるための設計支援プログラムであって、コンピュータに、作製済みの製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品に関しての、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とからなる実績データを複数取得するデータ取得機能と、設計パラメータ群に基づいて、目的変数としての特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測する予測モデルを、実績データに基づいて構築するモデル構築機能と、各予測モデルから得られる観測値の多次元確率分布からサンプリングした複数の目的変数群を一のサンプリング点として、目的変数群を所定点数サンプリングするサンプリング機能と、目的変数群に含まれる目的変数の数を次元数とし各目的変数の値を要素とするベクトルを所定の演算によりスカラー化することにより、各サンプリング点の目的変数群の評価値を算出する評価値算出機能と、各サンプリング点の評価値の分布に基づいて、設計パラメータ群を入力とし、評価値の向上に関する獲得関数評価値を所定の獲得関数により出力する獲得関数評価機能と、獲得関数評価値の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する設計パラメータ群取得機能と、設計パラメータ群取得機能により取得された設計パラメータ群を出力する出力機能と、を実現させる。
【0009】
このような側面によれば、実績データに基づいて特性項目の観測値を予測する予測モデルが構築される。この予測モデルは、目的変数としての観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するので、各特性項目の予測モデルから得られる観測値の多次元分布に基づいて、任意の点数の目的変数群をサンプリングすることができる。各サンプリング点における目的変数群を要素とするベクトルに対して所定の演算を行うことにより、スカラー値により表現された各サンプリング点に関する評価値を得ることができる。そして、各サンプリング点の評価値の分布に基づいて、所定の獲得関数を用いて出力された獲得関数評価値の最適化により、次の実験等に好適な設計パラメータ群を得ることができる。従って、評価値を直接学習して獲得関数を構築する通常の方法と比べて、より高精度な機械学習モデルを得ることが可能になり、結果として実験等に採用される設計パラメータ群の好適度の向上により、実験回数の低減が可能となる。
【0010】
他の側面に係る設計支援装置では、評価値算出部は、目的変数群に含まれる目的変数の重み付け和を含む評価値を算出することとしてもよい。
【0011】
このような側面によれば、目的変数の重み付け和が評価値に含まれることにより、各サンプリング点の特徴が適切に表現された評価値を得ることができる。また、評価値算出部は、目的変数を入力として、所定の処理により算出される任意のスカラー値を評価値として算出してもよい。
【0012】
他の側面に係る設計支援装置では、評価値算出部は、各目的変数に目標値が設定されている場合には、目的変数群に含まれる複数の目的変数のうち、目標値との差が最も大きい目的変数の該目標値に対する差を更に含む評価値を算出することとしてもよい。
【0013】
このような側面によれば、最適化を最小化問題とする場合には、評価値算出部は、目的変数群に含まれる複数の目的変数のうち目標値を基準として最も数値が高い目的変数の該目標値に対する差を更に含む評価値を算出することとしてもよい。また、最適化を最大化問題とする場合には、評価値算出部は、目的変数群に含まれる複数の目的変数のうち目標値を基準として最も数値が低い目的変数の該目標値に対する差を更に含む評価値を算出することとしてもよい。このように算出された評価値に基づいて得られた獲得関数評価値の最適化により、最適化の一過程において目標値から最もかけ離れた目的変数を、目標値に近付けるために効果的な設計パラメータ群を得ることができる。
【0014】
他の側面に係る設計支援装置では、獲得関数評価部は、LCB(Lower Confidence Bound)、UCB(Upper Confidence Bound)、EI(Expected Improvement)及びPI(Probability of Improvement)のうちのいずれかの獲得関数により、前記獲得関数評価値を出力することとしてもよい。
【0015】
このような側面によれば、評価値の向上に好適な設計パラメータ群を評価するのに好適な獲得関数評価値が出力される。
【0016】
他の側面に係る設計支援装置では、設計パラメータ群取得部は、獲得関数評価値を最適化する一つの設計パラメータ群を取得することとしてもよい。
【0017】
このような側面によれば、特性項目に関する評価値の向上が可能な設計パラメータ群を得ることができる。
【0018】
他の側面に係る設計支援装置では、設計パラメータ群取得部は、複数の設計パラメータ群を所定のアルゴリズムにより取得することとしてもよい。
【0019】
このような側面によれば、次の実験に供される複数の設計パラメータ群を容易に得ることができる。
【0020】
他の側面に係る設計支援装置では、予測モデルは、設計パラメータ群を入力とし、観測値の確率分布を出力とする回帰モデルまたは分類モデルであり、モデル構築部は、実績データを用いた機械学習により、予測モデルを構築することとしてもよい。
【0021】
このような側面によれば、予測モデルが所定の回帰モデルまたは分類モデルとして構築されるので、特性項目の観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標の取得が可能な予測モデル得られる。
【0022】
他の側面に係る設計支援装置では、予測モデルは、ベイズ理論に基づく予測値の事後分布、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布、回帰モデルの予測区間及び信頼区間の理論式、モンテカルロドロップアウト、及び、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布のうちのいずれか一つを用いて観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標を予測する機械学習モデルであることとしてもよい。
【0023】
このような側面によれば、設計パラメータ群に基づく特性項目の観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標としての予測が可能な予測モデルが構築される。
【発明の効果】
【0024】
本開示の一側面によれば、製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製プロセスにおいて目的変数を構成する製品等の特性及び設計変数の最適化を、より少ない実験回数により低負荷で可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係る設計支援装置が適用される材料設計のプロセスの概要を示す図である。
【
図2】実施形態に係る設計支援装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る設計支援装置のハードブロック図である。
【
図4】作製済みの材料に関する設計パラメータ群の例を示す図である。
【
図5】作製済みの材料に関する観測値の例を示す図である。
【
図6】材料設計における特性項目及び設計パラメータの最適化のプロセスを示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る設計支援装置における設計支援方法の内容の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0027】
図1は、実施形態に係る設計支援装置が適用される製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の設計のプロセスの一例である材料設計のプロセスの概要を示す図である。なお、以下において、「製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品」を「製品等」と記載する。本実施形態の設計支援装置10は、当該製品等の特性を示す複数の特性項目及び各特性項目の最適化を要するあらゆる製品等の設計のプロセスに適用できる。設計支援装置10は、設計パラメータの決定と決定された設計パラメータに基づく製品、仕掛品、半製品、部品又は試作品の作製との繰り返しにより製品等の設計パラメータ及び目的変数の最適化を図る手法に適用されることができる。具体的には、設計支援装置10は、材料の開発・設計の他に、例えば、自動車及び薬品等の製品の設計、薬品の分子構造の最適化等に適用できる。本実施形態では、上述のとおり、製品等の設計の一例としての材料設計の例により、設計支援装置10による設計支援処理を説明する。
【0028】
図1に示されるように、設計支援装置10による設計支援処理は、プラント及び実験室A等における材料の作製及び実験に適用される。即ち、設定された設計パラメータ群xにより、プラント及び実験室A等において材料が作製され、作製された材料に基づいて、材料の特性を示す複数の特性項目の観測値yが取得される。なお、プラント及び実験室Aにおける材料作製及び実験は、シミュレーションであってもよい。この場合には、設計支援装置10は、次のシミュレーションの実行のための設計パラメータ群xを提供する。
【0029】
設計支援装置10は、設計パラメータ群x及び設計パラメータ群xに基づいて作製された材料の複数の特性項目の観測値yからなる実績データに基づいて、複数の特性項目及び設計パラメータの最適化を行う。具体的には、設計支援装置10は、作製済みの材料に関する設計パラメータ群x及び観測値yに基づいて、次の作製及び実験のための、より好適な特性を得られる可能性がある設計パラメータ群xを出力する。
【0030】
例えば、本実施形態の設計支援装置10は、材料製品の設計において、複数の設計変数をチューニングして、複数の特性を向上するという目的のために適用される。材料製品の設計の一例として、ある材料を複数のポリマー及び添加剤を混ぜて作製する場合において、設計支援装置10は、各ポリマー及び添加剤の配合量等の設計パラメータ群を設計変数とし、特性項目である弾性率、熱膨張率の観測値を目的変数として、複数の特性に対して設定した一つの評価値を向上するような設計パラメータ群のチューニングに用いられる。
【0031】
図2は、実施形態に係る設計支援装置の機能構成の一例を示すブロック図である。設計支援装置10は、複数の設計パラメータからなる設計パラメータ群に基づいて作製される材料の設計において、材料の特性を示す複数の特性に対して設定された一つの評価値を向上させるような、複数の設計パラメータを求める装置である。
図2に示すように、設計支援装置10は、プロセッサ101に構成された機能部、設計パラメータ記憶部21及び観測値記憶部22を含み得る。各機能部については後述する。
【0032】
図3は、実施形態に係る設計支援装置10を構成するコンピュータ100のハードウェア構成の一例を示す図である。なお、コンピュータ100は、設計支援装置10を構成しうる。
【0033】
一例として、コンピュータ100はハードウェア構成要素として、プロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、および通信制御装置104を備える。設計支援装置10を構成するコンピュータ100は、入力デバイスであるキーボード、タッチパネル、マウス等の入力装置105及びディスプレイ等の出力装置106をさらに含むこととしてもよい。
【0034】
プロセッサ101は、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを実行する演算装置である。プロセッサの例としてCPU(Central Processing Unit)およびGPU(Graphics Processing Unit)が挙げられるが、プロセッサ101の種類はこれらに限定されない。例えば、プロセッサ101はセンサおよび専用回路の組合せでもよい。専用回路はFPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラム可能な回路でもよいし、他の種類の回路でもよい。
【0035】
主記憶装置102は、設計支援装置10等を実現するためのプログラム、プロセッサ101から出力された演算結果などを記憶する装置である。主記憶装置102は例えばROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)のうちの少なくとも一つにより構成される。
【0036】
補助記憶装置103は、一般に主記憶装置102よりも大量のデータを記憶することが可能な装置である。補助記憶装置103は例えばハードディスク、フラッシュメモリなどの不揮発性記憶媒体によって構成される。補助記憶装置103は、コンピュータ100を設計支援装置10等として機能させるための設計支援プログラムP1と各種のデータとを記憶する。
【0037】
通信制御装置104は、通信ネットワークを介して他のコンピュータとの間でデータ通信を実行する装置である。通信制御装置104は例えばネットワークカードまたは無線通信モジュールにより構成される。
【0038】
設計支援装置10の各機能要素は、プロセッサ101または主記憶装置102の上に、対応するプログラムP1を読み込ませてプロセッサ101にそのプログラムを実行させることで実現される。プログラムP1は、対応するサーバの各機能要素を実現するためのコードを含む。プロセッサ101はプログラムP1に従って通信制御装置104を動作させ、主記憶装置102または補助記憶装置103におけるデータの読み出しおよび書き込みを実行する。このような処理により、対応するサーバの各機能要素が実現される。
【0039】
プログラムP1は、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記録媒体に固定的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、これらのプログラムの少なくとも一つは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0040】
再び
図2を参照して、設計支援装置10は、データ取得部11、モデル構築部12、サンプリング部13、評価値算出部14、獲得関数評価部15、設計パラメータ群取得部16及び出力部17を備える。設計パラメータ記憶部21及び観測値記憶部22は、
図2に示されるように、設計支援装置10に構成されてもよいし、設計支援装置10からアクセス可能な他の装置として構成されてもよい。
【0041】
データ取得部11は、作製済みの材料に関しての実績データを複数取得する。実績データは、設計パラメータ群と複数の特性項目のそれぞれの観測値とのペアからなる。設計パラメータ記憶部21は、実績データにおける設計パラメータ群を記憶している記憶手段であって、例えば主記憶装置102及び補助記憶装置103等に構成されてもよい。観測値記憶部22は、実績データにおける観測値を記憶している記憶手段である。
【0042】
図4は、設計パラメータ記憶部21に記憶されている設計パラメータ群の例を示す図である。
図4に示されるように、設計パラメータ記憶部21は、1回目(t=1)から(T-1)回目(t=T-1)の材料作製における設計パラメータ群x
tを記憶している。設計パラメータ群xは、一例として、原材料Aの配合量、原材料Bの配合量及び設計パラメータD等を含んでもよく、設計パラメータの数Dに応じた次元数のベクトルデータを構成しうる。設計パラメータは、例示したものの他、例えば、分子構造及び画像等の非ベクトルデータ等であってもよい。また、複数の分子の種類から最適な分子を選ぶ問題を扱う場合には、設計パラメータは、複数の分子のうちの選択肢を示すデータであってもよい。
【0043】
図5は、観測値記憶部22に記憶されている観測値yの例を示す図である。
図5に示されるように、観測値記憶部22は、1回目(t=1)から(T-1)回目(t=T-1)の材料作製において作製された材料の特性を示す複数の特性項目k(k=1~K)の観測値y
k,tを記憶している。特性項目kは、一例として、ガラス転移温度、接着力及び特性項目Kを含んでもよい。設計パラメータ群x
tと観測値y
k,tとのペアが実績データを構成する。
【0044】
設計支援装置10は、1回目(t=1)から(T-1)回目(t=T-1)の材料作製における実績データに基づいて、各特性項目の観測値が向上するような、T回目の設計パラメータ群xTを求める。
【0045】
モデル構築部12は、実績データに基づいて予測モデルを構築する。予測モデルは、設計パラメータ群xに基づいて、目的変数としての特性項目kの観測値ykを確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するモデルである。予測モデルを構成するモデルは、観測値ykを確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測可能なモデルであればよく、その種類は限定されない。
【0046】
例えば、予測モデルは、設計パラメータxを入力とし、観測値ykの確率分布を出力とする回帰モデルであってもよい。予測モデルが回帰モデルである場合には、予測モデルは、例えば、線形回帰、PLS回帰、ガウス過程回帰、ランダムフォレスト、及び、ニューラルネットワークといった回帰モデルのうちのいずれか一つにより構成されてもよい。モデル構築部12は、実績データを用いた周知の機械学習の手法により、予測モデルを構築してもよい。モデル構築部12は、実績データを予測モデルに適用して当該予測モデルのパラメータを更新する機械学習の手法により、予測モデルを構築してもよい。
【0047】
ガウス過程回帰として構築される予測モデルでは、教師データの説明変数を構成する実績データにおける設計パラメータ群x及び目的変数を構成する観測値y並びに予測対象の設計パラメータxをモデルに入力することにより、観測値の確率分布が予測される。
【0048】
また、予測モデルは、ベイズ理論に基づく予測値の事後分布、アンサンブルを構成する予測器の予測値の分布、回帰モデルの予測区間及び信頼区間の理論式、モンテカルロドロップアウトにより得られる分布、及び、異なる条件で複数個構築した予測器の予測の分布のうちのいずれか一つを用いて観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標を予測する機械学習モデルであってもよい。
【0049】
観測値の確率分布、又はその代替指標の予測は、モデル固有の手法によって得ることができる。観測値の確率分布若しくはその近似又は代替指標は、ガウス過程回帰及びベイジアンニューラルネットワークであれば予測値の事後分布に基づいて、ランダムフォレストであれば、アンサンブルを構成する予測器の予測の分布に基づいて、線形回帰であれば予測区間及び信頼区間に基づいて、及び、ニューラルネットワークであればモンテカルロドロップアウトに基づいて得ることができる。但し、各機械学習モデルに対する観測値の分布またはその代替指標の算出方法は上記手法に限定されない。
【0050】
また、任意のモデルを、観測値の確率分布またはその代替指標を予測できるモデルに拡張することもできる。例えば、ブートストラップ法等で複数個のデータセットを構築し、それぞれに対して予測モデルを構築することで得られる、各モデルの予測値の分布を、観測値の確率分布の代替指標として用いるモデルが例として挙げることができる。但し、機械学習モデルを観測値の確率分布またはその代替指標を予測できるモデルに拡張する方法は上記手法に限定されない。
【0051】
また、モデル構築部12は、予測モデルのハイパーパラメータを周知のハイパーパラメータチューニングの手法により、チューニングしてもよい。即ち、モデル構築部12は、実績データにおける説明変数である設計パラメータ群xを表すベクトルと、目的変数である観測値yを用いた最尤推定により、予測モデルのハイパーパラメータを更新してもよい。
【0052】
また、予測モデルは、分類モデルにより構築されてもよい。予測モデルが分類モデルである場合には、モデル構築部12は、実績データを用いた周知の確率分布の評価が可能な機械学習の手法により予測モデルを構築できる。
【0053】
このように、モデル構築部12が所定の回帰モデルまたは分類モデルにより予測モデルを構築することにより、任意の設計パラメータ群xに基づいて、特性項目の観測値の確率分布の取得が可能となる。
【0054】
また、予測モデルは、一の特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するシングルタスクモデル、または、複数の特性項目の観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するマルチタスクモデルであってもよい。このように、特性項目の性質に応じて適宜に構成されたマルチタスクモデルまたはシングルタスクモデルにより予測モデルを構築することにより、予測モデルによる観測値の予測の精度を向上できる。
【0055】
サンプリング部13は、各予測モデルから得られる観測値の多次元確率分布からサンプリングした複数の目的変数群を一のサンプリング点として、所定点数の目的変数群のサンプリングを行う。
【0056】
具体的には、例えば目的変数としての観測値yk(k=1~K)が、予測モデルに基づいて多次元正規分布に従い、かつ互いに無相関な場合に、以下のように表記される。
yk~N(mk(x),σk(x)2)
このような場合において、サンプリング部13は、1つの設計パラメータ群xに基づいて、目的変数ykの確率分布から、複数のyk(k=1~K)をサンプリングする。
【0057】
より具体的には、サンプリング部13は、第n(n:1~N)のサンプリング点として、目的変数群yk,n(k=1~K、n=1~N)をそれぞれサンプリングする。第nのサンプリング点の目的変数群ynは、以下に表記されるように、目的変数群に含まれる目的変数の数を次元数とし、各目的変数の値を要素とするベクトルを構成する。
yn=[y1,n,y2,n,..,yk,n,..,yK,n]
【0058】
そして、サンプリング部13は、所定の点数であるN点のサンプリング点に相当する目的変数群集合Yを取得する。
Y=[y1,y2,..,yn,..,yN]
目的変数群y1,y2,..,yn,..,yNは、各々がベクトルを構成する。
【0059】
なお、以上の例示では、目的変数としての観測値ykが正規分布に従い、且つ互いに無関係であることを仮定したが、相関があってもよく、また、正規分布であることにも限定されず、その他の確率分布に従うこととしてもよい。また、サンプリング部13によるサンプリングについて、目的変数ごとにサンプリングする例により説明したが、そのような例には限定されず、サンプリング部13は、例えば、各特性項目の予測モデルにより規定される目的変数の多次元正規分布に基づいて目的変数群を一括でサンプリングしてもよい。
【0060】
また、サンプリング部13は、事前にサンプリング及び保存した標準正規分布からのサンプリング点に基づいて、目的変数群yk,nのサンプルを得ることとしてもよい。具体的には、サンプリング部13は、予め、平均0,分散1の正規分布である標準正規分布からサンプリング点y_stdk,n(n=1~N)をサンプリングしておき、以下の変換式により、目的変数群yk,nのサンプルを得ることができる。
yk,n=y_stdk,n*σk(x)+mk(x)
【0061】
なお、コンピュータに実装された設計支援装置10においては、サンプリング部13は、N点のサンプリングを一括で実施してもよいし、複数の設計パラメータ群xのそれぞれに対応するサンプリングを一括で実施してもよい。
【0062】
評価値算出部14は、一の設計パラメータ群x及び一のサンプリング点に対応する目的変数群の評価値を算出する。具体的には、上述のとおり、一のサンプリング点の目的変数群は、目的変数群に含まれる目的変数の数を次元数とし、各目的変数の値を要素とするベクトルを構成するので、評価値算出部14は、目的変数群を表すベクトルを所定の演算によりスカラー化することにより、各サンプリング点の評価値を算出する。各サンプリング点の評価値は、より一般には、目的変数を入力として所定の処理により算出される任意のスカラー値であってもよい。
【0063】
評価値算出部14は、一例として、以下の式(1)に示すように、スカラー化関数(Scalarizing Function:SF)により評価値vnを算出する。
vn=SF(yn) ・・・(1)
評価値vnは、スカラー値を構成する。スカラー化関数SFは、目的変数群ynに含まれる目的変数の重み付け和を算出する項を含んでもよい。また、各目的変数に目標値が設定されている場合において、最適化を最小化問題とする場合には、スカラー化関数SFは、目的変数群に含まれる複数の目的変数のうち目標値を基準として最も数値が大きい目的変数の該目標値に対する差を含む項を更に含んでもよい。また、最適化を最大化問題とする場合には、スカラー化関数SFは、目的変数群に含まれる複数の目的変数のうち目標値を基準として最も数値が小さい目的変数の該目標値に対する差を含む項を更に含んでもよい。
【0064】
評価値算出部14は、例えば、各目的変数に目標値が設定され、最適化を最小化問題とする場合には、以下の式(2)により評価値v
nを算出してもよい。
【数1】
式(2)のうちの、第1項は目的変数群y
nに含まれる目的変数の重み付け和を算出する項であり、w
kは目的変数y
kに対する正の重みであって目的変数間のスケールの違いを調整するためのものであり、ρは第1項と第2項とのバランスを調整するための任意の定数である。また、式(2)のうちの第2項は、目的変数群y
nに含まれる複数の目的変数のうちの目標値との差が最も大きい目的変数の、該目標値に対する差を含む項であり、g
kは、目的変数y
kの目標値である。
【0065】
式(2)の第1項に例示されるように、評価値vnが目的変数群ynに含まれる目的変数の重み付け和を含むことにより、このように算出された評価値vnを用いたベイズ最適化のプロセスにおいて、各目的変数がパレート解に近付くことを促進させることができる。また、式(2)の第2項に例示されるように、評価値vnが目的変数群ynに含まれる複数の目的変数のうちの目標値との差が最も大きい目的変数の、該目標値に対する差を含む項を含むことにより、ベイズ最適化のプロセスにおいて、目的変数が目標値に近付くことを促進させることができる。
【0066】
評価値算出部14は、第1~第Nのサンプリング点の目的変数群ynのそれぞれの評価値vnを算出することにより、第1~第Nの評価値vnからなる評価値集合Vを得ることができる。
V=[v1,v2,..,vn,..,vN]
上述のとおり、評価値v1,v2,..,vn,..,vNは、それぞれスカラー値を構成する。
【0067】
なお、コンピュータに実装された設計支援装置10においては、評価値算出部14は、N点のサンプリング点のそれぞれに対応する評価値v1,v2,..,vn,..,vNの算出を一括で実施してもよい。
【0068】
獲得関数評価部15は、各サンプリング点の評価値の分布に基づいて、設計パラメータ群を入力とし、評価値の向上に関する獲得関数評価値を所定の獲得関数により出力する。
【0069】
獲得関数評価部15は、例えば、LCB(Lower Confidence Bound)といった周知の獲得関数を用いて獲得関数評価値を出力してもよい。LCBは、関数の出力を最小化する場合に用いられ、LCBの値を最小化することで好適な設計パラメータ群xが得られる。
【0070】
獲得関数をLCBにより構築する場合、獲得関数評価部15は、以下の式(3)のように獲得関数評価値A(x)を定義及び構築する。
A(x)=mv(x)-aσv(x) ・・・(3)
獲得関数評価部15は、評価値集合Vに含まれる評価値vnの分布に基づいて、平均mv(x)及び標準偏差σv(x)を評価及び取得し、式(3)に示される獲得関数により獲得関数評価値を出力する。式(3)におけるaは、任意のパラメータである。上記獲得関数の式(3)は、設計パラメータ群xをパラメータとしたときの、次の実験におけるvnの観測値が正規分布に従うと仮定した場合の信頼区間下限を表す。
【0071】
また、獲得関数評価部15は、UCB(Upper Confidence Bound)、EI(Expected Improvement)及びPI(Probability of Improvement)といった周知の関数により獲得関数評価値A(x)を出力してもよい。
【0072】
設計パラメータ群取得部16は、獲得関数評価部15により出力された獲得関数評価値A(x)の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する。
【0073】
一例として、設計パラメータ群取得部16は、獲得関数の出力を最適化する少なくとも一つの設計パラメータ群xを取得してもよい。具体的には、設計パラメータ群取得部16は、獲得関数評価部15により出力された獲得関数評価値A(x)を目的変数とする最適化を実施し、最適解として設計パラメータ群xを取得する。
【0074】
また、一例として、設計パラメータ群取得部16は、複数の設計パラメータ群を所定のアルゴリズムにより取得してもよい。具体的には、設計パラメータ群取得部16は、獲得関数に対して、バッチベイズ最適化の手法を適用することにより、複数の設計パラメータ群を取得してもよい。バッチベイズ最適化の手法は、例えば、Local Penalization等の手法であってもよいが、その手法は限定されない。
【0075】
出力部17は、設計パラメータ群取得部16により取得された設計パラメータ群を出力する。即ち、出力部17は、1回目(t=1)から(T-1)回目(t=T-1)の材料作製における実績データに基づいて得られた設計パラメータ群を、T回目の材料の作製のための設計パラメータ群xTとして出力する。
【0076】
また、設計パラメータ群取得部16により複数の設計パラメータ群が取得される場合には、出力部17は、(T-1)回目の次回以降のN回分の材料作製のための設計パラメータ群として、取得された設計パラメータ群を出力する。複数回分の材料作製のための設計パラメータ群は、同時の実験及び材料作製に供されてもよい。
【0077】
出力の態様は限定されないが、出力部17は、例えば、所定の表示装置に表示させたり所定の記憶手段に記憶させたりすることにより、設計パラメータ群候補を出力する。
【0078】
図6は、材料設計における特性項目及び設計パラメータ群の最適化のプロセスを示すフローチャートである。
【0079】
ステップS1において、設計パラメータ群が取得される。ここで取得される設計パラメータ群は、初期の材料作製(実験)のためのものであって、任意に設定された設計パラメータ群であってもよいし、既に行われた実験等に基づいて設定された設計パラメータ群であってもよい。
【0080】
ステップS2において、材料作製が行われる。ステップS3において、作製された材料の特性項目の観測値が取得される。ステップS2における作製条件としての設計パラメータ群とステップS3において取得された各特性項目の観測値とのペアは、実績データを構成する。
【0081】
ステップS4において、所定の終了条件が充足されたか否かが判定される。所定の終了条件は、設計パラメータ群及び特性項目の観測値の最適化のための条件であって任意に設定されてもよい。最適化のための終了条件は、例えば、作製(実験)及び観測値の取得の所定回数への到達、観測値の目標値への到達及び最適化の収束等であってもよい。所定の終了条件が充足されたと判定された場合には、最適化のプロセスが終了される。所定の終了条件が充足されたと判定されなかった場合には、プロセスは、ステップS5に進む。
【0082】
ステップS5において、設計支援装置10による設計支援処理が行われる。設計支援処理は、次の材料作製のための設計パラメータ群を出力する処理である。そして、プロセスは、再びステップS1に戻る。
【0083】
なお、ステップS1~S5により構成される処理サイクルの1サイクル目において、設計パラメータ群及び特性項目の観測値のペアが初期データとして複数得られる場合には、ステップS1~S4の処理は省略される。初期データが得られない場合には、ステップS1において、例えば実験計画法及びランダムサーチ等の任意の方法で得られた設計パラメータ群が取得される。処理サイクルの2サイクル目以降では、ステップS1において、ステップS5において出力された設計パラメータ群が取得される。
【0084】
図7は、実施形態に係る設計支援装置10における設計支援方法の内容の一例を示すフローチャートであって、
図6におけるステップS5の処理を示す。設計支援方法は、プロセッサ101に設計支援プログラムP1が読み込まれて、そのプログラムが実行されることにより、各機能部11~17が実現されることにより実行される。
【0085】
ステップS11において、データ取得部11は、作製済みの材料に関しての実績データを複数取得する。実績データは、設計パラメータ群と特性項目のそれぞれの観測値とのペアからなる。
【0086】
ステップS12において、モデル構築部12は、実績データに基づいて、予測モデルを構築する。
【0087】
ステップS13において、サンプリング部13は、予測モデルに基づいて、一つの設計パラメータ群xに基づいて各予測モデルから得られる観測値の多次元確率分布からサンプリングした複数の目的変数群を一のサンプリング点として、所定点数の目的変数群のサンプリングを行う。
【0088】
ステップS14において、評価値算出部14は、目的変数群の各目的変数の値を要素とするベクトルを所定の演算によりスカラー化することにより、各サンプリング点の評価値を算出する。
【0089】
ステップS15において、獲得関数評価部15は、各サンプリング点の評価値の分布に基づいて、所定の獲得関数評価値を出力する。
【0090】
ステップS16において、設計パラメータ群取得部16は、ステップS15において獲得関数評価部15により得られた獲得関数評価値の最適化により少なくとも一つの設計パラメータ群を取得する。
【0091】
ステップS17において、出力部17は、ステップS16において設計パラメータ群取得部16により取得された設計パラメータ群を、次の材料作製(ステップS1)のための設計パラメータ群として出力する。
【0092】
次に、コンピュータを、本実施形態の設計支援装置10として機能させるための設計支援プログラムについて説明する。
図8は、設計支援プログラムの構成を示す図である。
【0093】
設計支援プログラムP1は、設計支援装置10における設計支援処理を統括的に制御するメインモジュールm10、データ取得モジュールm11、モデル構築モジュールm12、サンプリングモジュールm13、評価値算出モジュールm14、獲得関数評価モジュールm15、設計パラメータ群取得モジュールm16及び出力モジュールm17を備えて構成される。そして、各モジュールm11~m17により、データ取得部11、モデル構築部12、サンプリング部13、評価値算出部14、獲得関数評価部15、設計パラメータ群取得部16及び出力部17のための各機能が実現される。
【0094】
なお、設計支援プログラムP1は、通信回線等の伝送媒体を介して伝送される態様であってもよいし、
図8に示されるように、記録媒体M1に記憶される態様であってもよい。
【0095】
以上説明した本実施形態の設計支援装置10、設計支援方法及び設計支援プログラムP1によれば、実績データに基づいて特性項目の観測値を予測する予測モデルが構築される。この予測モデルは、目的変数としての観測値を確率分布若しくはその近似又は代替指標として予測するので、各特性項目の予測モデルから得られる観測値の多次元分布に基づいて、任意の点数の目的変数群をサンプリングすることができる。各サンプリング点における目的変数群を要素とするベクトルに対して所定の演算を行うことにより、スカラー値により表現された各サンプリング点に関する評価値を得ることができる。そして、各サンプリング点の評価値の分布に基づいて、所定の獲得関数を用いて出力された獲得関数評価値の最適化により、次の実験等に好適な設計パラメータ群を得ることができる。従って、評価値を直接学習して獲得関数を構築する通常の方法と比べて、より高精度な機械学習モデルを得ることが可能になり、結果として実験等に採用される設計パラメータ群の好適度の向上により、実験回数の低減が可能となる。
【0096】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0097】
P1…設計支援プログラム、m10…メインモジュール、m11…データ取得モジュール、m12…モデル構築モジュール、m13…サンプリングモジュール、m14…評価値算出モジュール、m15…獲得関数評価モジュール、m16…設計パラメータ群取得モジュール、m17…出力モジュール、10…設計支援装置、11…データ取得部、12…モデル構築部、13…サンプリング部、14…評価値算出部、15…獲得関数評価部、16…設計パラメータ群取得部、17…出力部、21…設計パラメータ記憶部、22…観測値記憶部。