(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 263/16 20060101AFI20250508BHJP
C07C 265/04 20060101ALI20250508BHJP
【FI】
C07C263/16
C07C265/04
(21)【出願番号】P 2021570040
(86)(22)【出願日】2021-01-04
(86)【国際出願番号】 JP2021000012
(87)【国際公開番号】W WO2021141002
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2020000234
(32)【優先日】2020-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 智光
(72)【発明者】
【氏名】前田 喜彦
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-062071(JP,A)
【文献】特表2013-523881(JP,A)
【文献】国際公開第18/070541(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104086458(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102702028(CN,A)
【文献】特開2006-232797(JP,A)
【文献】特開2016-150922(JP,A)
【文献】特開2007-055993(JP,A)
【文献】特開2006-291188(JP,A)
【文献】特開平07-278088(JP,A)
【文献】国際公開第08/143207(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 263/16
C07C 265/00
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-二置換ホルムアミド化合物(A)の存在下、下記式(2)で示される化合物(B)とホスゲンとを接触させ、ホスゲン反応物を得る工程(2)、
および前記工程(2)で得られたホスゲン反応物とヒドロキシアミン塩酸塩化合物とを接触させ、下記式(1)で示されるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る工程(3)を含み、
前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物中のジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が0.1質量%以下である、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
R
3-CO-OH・・・(2)
(式(2)中、R
3は炭素数2または3のエチレン性不飽和基である)
(R
3-COO)
n-R
4-(NCO)
m・・・(1)
(式(1)中、R
3は上記式(2)のR
3と同義であり、R
4はエーテル基を含んでもよい炭素数1~7のm+n価の炭化水素基であり、mおよびnはそれぞれ独立して1または2の整数である)
【請求項2】
前記ジアルキルカルバモイルクロリドが、N,N-ジメチルカルバモイルクロリド、ジヘキシルカルバモイルクロリド、ジベンジルカルバモイルクロリド、ジシクロヘキシルカルバモイルクロリドおよびジ-(2-エチルヘキシル)カルバモイルクロリドからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記化合物(A)が、ジヘキシルホルムアミド、ジベンジルホルムアミド、ジシクロヘキシルホルムアミドまたはジ(2-エチルヘキシル)ホルムアミドである、請求項1または2に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物が、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレートまたは1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートである、請求項1~3のいずれか一項に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物中のジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が1質量ppm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【請求項6】
下記式(3)で示される化合物(E)とギ酸とを接触させ、前記化合物(A)を得る工程(1)をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
NHR
1R
2・・・(3)
(式中、R
1とR
2はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数5~10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数5~10のシクロアルキル基、または置換基を有してもよい炭素数6~10のアリール基である)
【請求項7】
前記N-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量が100質量ppm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロイルオキシエチルイソシアネートおよびメタクリロイルオキシエチルイソシアネートに代表される、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、反応性の高いイソシアナト基と、エチレン性の二重結合とを一つの分子内に有するため、塗料(コーティング材)、接着材、ホトレジスト、歯科材料、磁性記録材料などに使用され、工業上きわめて有用な化合物である。
【0003】
イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、例えば、触媒の存在下、(メタ)アクリル酸化合物およびホスゲン等を用いて製造することができる(特許文献1参照)。
【0004】
ホスゲンを使用してイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を製造する際に、原料の一つである(メタ)アクリル酸化合物を酸クロリド化する触媒として、N,N-ジメチルホルムアミド(以下「DMF」とも称す)を使用すると、ホスゲンとDMFとが反応し、不純物としてジアルキルカルバモイルクロリドの一つであるジメチルカルバモイルクロリド(DMCC)が発生する。DMCCは毒性が高く、また、水と激しく反応して塩酸蒸気が生じる。さらに、ジアルキルカルバモイルクロリドが分解すると、塩化水素やジアルキルアミンが発生するが、これらは金属の腐食等を促進する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれるジアルキルカルバモイルクロリドを除去するため、蒸留等の精製処理が行われている。しかし、(メタ)アクリル酸エステル化合物中に含まれるジアルキルカルバモイルクロリドの含有量を減少させるための手段には未だ改善の余地が残されていた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み(メタ)アクリル酸エステル化合物中に含まれるジアルキルカルバモイルクロリドの含有量を減少させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に対して、本発明者らは鋭意検討した結果、原料の一つであるエチレン性不飽和基を有する化合物とホスゲンを反応させる際に、所定の触媒を使用することによりイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれるジアルキルカルバモイルクロリドの含有量を減少できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、例えば、以下の[1]~[18]に記載の事項を含む。
【0009】
[1]N-二置換ホルムアミド化合物(A)の存在下、下記式(2)で示される化合物(B)とホスゲンとを接触させ、ホスゲン反応物を得る工程(2)、
および前記工程(2)で得られたホスゲン反応物とヒドロキシアミン塩酸塩化合物とを接触させ、下記式(1)で示されるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る工程(3)を含み、
前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物中のジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が0.1質量%以下である、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
R3-CO-OH・・・(2)
(式(2)中、R3は炭素数2または3のエチレン性不飽和基である)
(R3-COO)n-R4-(NCO)m・・・(1)
(式(1)中、R3は上記式(2)のR3と同義であり、R4はエーテル基を含んでもよい炭素数1~7のm+n価の炭化水素基であり、mおよびnはそれぞれ独立して1または2の整数である)
[2]前記ジアルキルカルバモイルクロリドが、N,N-ジメチルカルバモイルクロリド、ジヘキシルカルバモイルクロリド、ジベンジルカルバモイルクロリド、ジシクロヘキシルカルバモイルクロリドおよびジ-(2-エチルヘキシル)カルバモイルクロリドからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、[1]に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
[3]前記化合物(A)が、ジヘキシルホルムアミド、ジベンジルホルムアミド、ジシクロヘキシルホルムアミドまたはジ(2-エチルヘキシル)ホルムアミドである、[1]または[2]に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
[4]前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物が、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレートまたは1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートである、[1]~[3]のいずれかに記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【0010】
[5]前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物中のジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が1質量ppm以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
[6]下記式(3)で示される化合物(E)とギ酸とを接触させ、前記化合物(A)を得る工程(1)をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
NHR1R2・・・(3)
(式中、R1とR2はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数5~10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数5~10のシクロアルキル基、または置換基を有してもよい炭素数6~10のアリール基である)
[7]前記N-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量が100質量ppm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法。
【0011】
[8]ジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が0.1質量%以下である、下記式(1)で示されるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
(R3-COO)n-R4-(NCO)m・・・(1)
(式(1)中、R3は炭素数2または3のエチレン性不飽和基であり、R4はエーテル基を含んでもよい炭素数1~7のm+n価の炭化水素基であり、mおよびnはそれぞれ独立して1または2の整数である)
[9]前記ジアルキルカルバモイルクロリドが、N,N-ジメチルカルバモイルクロリド、ジヘキシルカルバモイルクロリド、ジベンジルカルバモイルクロリド、ジシクロヘキシルカルバモイルクロリドおよびジ-(2-エチルヘキシル)カルバモイルクロリドからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、[8]に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
[10]前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物が、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレートまたは1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートである、[8]または[9]に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
[11]前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物中のジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が1質量ppm以上である、[8]~[10]のいずれかに記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
[12]前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物中のN-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量が100質量ppm以下である、[8]~[11]のいずれかに記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
【0012】
[13]N-二置換ホルムアミド化合物(A)の存在下、下記式(2)で示される化合物(B)とホスゲンとを接触させ、ホスゲン反応物を得、得られたホスゲン反応物とヒドロキシアミン塩酸塩化合物とを接触させて得る、下記式(1)で示され、ジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が0.1質量%以下である、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
R3-CO-OH・・・(2)
(式(2)中、R3は炭素数2または3のエチレン性不飽和基である)
(R3-COO)n-R4-(NCO)m・・・(1)
(式(1)中、R3は上記式(2)のR3と同義であり、R4はエーテル基を含んでもよい炭素数1~7のm+n価の炭化水素基であり、mおよびnはそれぞれ独立して1または2の整数である)
[14]前記ジアルキルカルバモイルクロリドが、N,N-ジメチルカルバモイルクロリド、ジヘキシルカルバモイルクロリド、ジベンジルカルバモイルクロリド、ジシクロヘキシルカルバモイルクロリドおよびジ-(2-エチルヘキシル)カルバモイルクロリドからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、[13]に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
[15]前記化合物(A)が、ジヘキシルホルムアミド、ジベンジルホルムアミド、ジシクロヘキシルホルムアミドまたはジ(2-エチルヘキシル)ホルムアミドである、[13]または[14]に記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
[16]前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物が、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレートまたは1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートである、[13]~[15]のいずれかに記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
[17]前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物中のジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が1質量ppm以上である、[13]~[16]のいずれかに記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
[18]前記イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物中の前記N-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量が100質量ppm以下である、[13]~[17]のいずれかに記載のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、不純物であるジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が少ないため、塗料(コーティング材)、接着材、ホトレジスト、歯科材料、磁性記録材料などの分野において有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が0.1質量%以下であるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物およびその製造方法を含む。以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明において「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸またはアクリル酸を意味する。
【0015】
<イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物>
本発明の一実施態様である、ジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が0.1質量%以下であるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物について説明する。
【0016】
本発明において、イソシアナト基(-NCO)を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、下記式(1)で示される化合物である。
【0017】
(R3-COO)n-R4-(NCO)m・・・(1)
【0018】
式(1)中、R3は炭素数2または3のエチレン性不飽和基である。R3の炭素数が4以上であると、エチレン性不飽和基の反応性が低下する場合がある。R3は、原料の入手容易性の点から、CH2=CH(CH3)-またはCH2=CH2-(ビニル基)であることが好ましい。
【0019】
式(1)中、R4は炭素数が1~7、好ましくは2~6、より好ましくは3~5、更に好ましくは2のm+n価の炭化水素基であり、直鎖状であってもよいし分岐状であってもよい。また、R4はエーテル結合を含んでいてもよい。R4は原料の入手容易性の点から、-CH2-、-CH2CH2-、または-CH2CH2OCH2CH2-であることが好ましく、より好ましくは-CH2CH2-である。
【0020】
式(1)中、mおよびnはそれぞれ独立して1または2の整数であり、製造容易性の点からいずれも1であることが好ましい。
【0021】
式(1)で示されるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、3-メタクリロイルオキシ-n-プロピルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシイソプロピルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシ-tert-ブチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-4-イソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-3-イソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-2-イソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-1-イソシアネート、5-メタクリロイルオキシ-n-ペンチルイソシアネート、6-メタクリロイルオキシ-n-ヘキシルイソシアネート、7-メタクリロイルオキシ-n-ヘプチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレート、3-メタクリロイルオキシフェニルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシフェニルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、3-アクリロイルオキシ-n-プロピルイソシアネート、2-アクリロイルオキシイソプロピルイソシアネート、4-アクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシ-tert-ブチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-4-イソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-3-イソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-2-イソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-1-イソシアネート、5-アクリロイルオキシ-n-ペンチルイソシアネート、6-アクリロイルオキシ-n-ヘキシルイソシアネート、7-アクリロイルオキシ-n-ヘプチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、3-アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、4-アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、1,1-ビス(メタクリロイルオキシメチル)メチルイソシアネート、1,1-ビス(メタクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)メチルイソシアネート、1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートが挙げられる。
【0022】
このうち、製造容易性および/または原料の入手容易性の点から、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレートまたは1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートであることが好ましく、より好ましくは2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートまたは2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートであり、更に好ましくは2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートである。
【0023】
(ジアルキルカルバモイルクロリド)
本発明において、ジアルキルカルバモイルクロリド(ジアルキルカルバモイルクロライドとも称される)は、後述する化合物(A)とホスゲンとの反応によって生じるカルバモイル基を有する化合物である。ジアルキルカルバモイルクロリドとしては、N,N-ジメチルカルバモイルクロリド、ジヘキシルカルバモイルクロリド、ジベンジルカルバモイルクロリド、ジシクロヘキシルカルバモイルクロリドおよびジ-(2-エチルヘキシル)カルバモイルクロリドからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0024】
本発明において、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれるジアルキルカルバモイルクロリドの含有量は、0.1質量%以下であり、0.01質量%以下が好ましく、0.005質量%以下がより好ましい。ジアルキルカルバモイルクロリドの含有量の下限としては、特に制限はなく、0質量ppmでもよい。過度に精製することは収率の観点から現実的ではないため、ジアルキルカルバモイルクロリドの含有量の下限は、例えば、1質量ppmであり、10質量ppmでもよい。
【0025】
上記ジアルキルカルバモイルクロリド含有量は、例えば、後述する工程(3)後に行われる精製工程を経て得られるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を用いて、ガスクロマトグラフィーにより内部標準法に従って測定することができる。この際、例えば、精製前のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれるジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が上記範囲内であれば、精製後のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれるジアルキルカルバモイルクロリドの含有量も上記範囲内であると判断してもよい。
【0026】
(N-二置換ホルムアミド化合物(A))
本発明のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物中に含まれるN-二置換ホルムアミド(A)の含有量は、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の安定性や重合の容易さの点から100質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましく、20質量ppm以下がさらに好ましい。N-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量の下限としては、特に制限はなく、0質量ppmでもよい。過度に精製することは収率の観点から現実的ではないため、N-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量の下限は、例えば、1質量ppmであり、10質量ppmでもよい。
【0027】
N-二置換ホルムアミド化合物(A)は、後述する<イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法>に記載された化合物(A)と同義である。
【0028】
上記ジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が0.1質量%以下であるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物は、例えば、後述する製造方法により得ることができる。
【0029】
<イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法>
本発明の一実施態様である、ジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が0.1質量%以下であるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法について説明する。該製造方法は、工程(2)および工程(3)が含まれ、好ましくは工程(1)が含まれる。なお、該製造方法では、工程(2)に次いで工程(3)が行われ、工程(1)を行う場合には、工程(1)は、工程(2)の前に行われる。以下、各工程について説明する。
【0030】
[工程(2)]
工程(2)は、化合物(A)の存在下、化合物(B)とホスゲンとを接触させ、ホスゲン反応物を得る工程である。
【0031】
(化合物(A))
化合物(A)は、化合物(B)とホスゲンとの酸クロリド化反応時に使用される触媒である。化合物(A)は、N-二置換ホルムアミドであり、好適には下記式(4)で示される化合物である。
【0032】
NR1R2CHO・・・(4)
【0033】
式(4)中、R1とR2はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数5~10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数5~10のシクロアルキル基、または置換基を有してもよい炭素数6~10のアリール基であり、電子的効果由来と推測される触媒活性および、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物との分離のしやすさの点から置換基を有してもよい炭素数6~9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6~9のシクロアルキル基、または置換基を有してもよい炭素数7~9のアリール基であることが好ましい。上記化合物(A)を使用することで、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれるジアルキルカルバモイルクロリドの含有量を0.1質量%以下に減少させることができる。その作用機序は不明であるが、ジアルキルカルバモイルクロリドの沸点が高いためイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を蒸留精製する際に高沸点成分としてジアルキルカルバモイルクロリドが残存すると推測される。前記置換基としては、例えばエーテル基およびアリール基が挙げられる。
【0034】
化合物(A)の大気圧下における沸点は、250℃以上が好ましく、270℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。
【0035】
化合物(A)としては、例えば、ジヘキシルホルムアミド(以下「DHF」とも称す)、ジベンジルホルムアミド(以下「DBNF」とも称す)、ジシクロヘキシルホルムアミド(以下「DCHF」とも称す)およびジ(2-エチルヘキシル)ホルムアミド(以下「DEHF」とも称す)が本発明に好適に使用することができる。これらの大気圧における沸点はそれぞれ、DHF:326℃、DBNF:380℃、DCHF:329℃、DEHF:378℃である。化合物(A)は、後述する工程(1)により得ることができる。
【0036】
(化合物(B))
化合物(B)は、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の原料の一つであり、下記式(2)で示される化合物である。
【0037】
R3-CO-OH・・・(2)
【0038】
式(2)中、R3は上記式(1)のR3と同義であり、好適態様についても同様である。化合物(B)としては、(メタ)アクリル酸が本発明において好適に使用することができる。
【0039】
(条件)
化合物(B)とホスゲンとの反応は、化合物(B)の酸クロリド化によりホスゲン反応物が得られれば特に制限されないが、例えば、以下のような条件で行うことができる。
化合物(A)と化合物(B)を、化合物(B)に対する化合物(A)の割合が化合物(B)1mol当たり0.1~5.0mol%になるように混合し、混合液を50~70℃に加熱する。その後、化合物(B)1mol当たり100~150mol%のホスゲンを加え、50~70℃で1.5~3.0時間を反応させ、ホスゲン反応物を得ることができる。
【0040】
上記反応の際、ホスゲン反応物の生成に影響を与えなければ、重合防止剤などのその他の成分が含まれてよい。また、ホスゲンを除去し、蒸留等によってホスゲン反応物の精製処理を行ってもよい。
【0041】
[工程(3)]
工程(3)は、上記工程(2)で得られたホスゲン反応物と、ヒドロキシアミン塩酸塩化合物とを接触させ、上記式(1)で示されるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を得る工程である。
【0042】
(ヒドロキシアミン塩酸塩化合物)
ヒドロキシアミン塩酸塩化合物は、ホスゲン反応物との反応により上記式(1)で示されるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を生成させることができれば特に制限はない。ヒドロキシアミン塩酸塩化合物としては、例えば、下記式(5)の化合物が挙げられる。
【0043】
(HO)n-R4-(NH2)m(HCl)m・・・(5)
【0044】
式(5)中、R4、mおよびnは、上記式(1)のR4、mおよびnとそれぞれ同義であり、好適態様も同様である。
【0045】
ヒドロキシアミン塩酸塩化合物におけるヒドロキシアミンとしては、エタノールアミン、3-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-1-プロパノール、1-アミノ-2-プロパノール、4-アミノ-1-ブタノール、2-アミノ-1-ブタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、5-アミノ-1-ペンタノール、2-アミノ-1-ペンタノール、6-アミノ-2-メチル-2-ヘプタノール、2-(2-アミノエトキシ)エタノールが挙げられる。このうち、エタノールアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノールが本発明において好適に使用することができる。
【0046】
(条件)
ホスゲン反応物とヒドロキシアミン塩酸塩化合物との反応は、本発明のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物が得られれば特に制限されず、例えば、公知に方法により行うことができる。具体的には、ヒドロキシアミンと、ヒドロキシアミン1mol当たり0.5~2.0mol当量の塩酸とを混合し80~100℃で0.5~2.0時間反応させヒドロキシアミンの塩酸塩を得る。次いで、ヒドロキシアミンの塩酸塩100質量部に対して120~140質量部のホスゲン反応物を加えて0.1~1.0時間反応させ、アミノアルキルアクリレート塩酸塩を得る。これとホスゲンとを接触させて80~90℃で7~10時間反応させアミノアルキルアクリレート塩酸塩にイソシアナト基を導入し、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を得ることができる。
【0047】
上記反応において、蒸留などにより得られたイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を精製してもよい。
【0048】
工程(3)により得られたイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物中の、N-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量は、イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の安定性や重合の容易さの点から100質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましく、20質量ppm以下がさらに好ましい。N-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量の下限としては、特に制限はなく、0質量ppmでもよい。過度に精製することは収率の観点から現実的ではないため、N-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量の下限は、例えば、1質量ppmであり、10質量ppmでもよい。
【0049】
上記N-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量は、例えば、後述する工程(3)後に行われる精製工程を経て得られるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を用いて、ガスクロマトグラフィーにより内部標準法に従って測定することができる。この際、例えば、精製前のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれるN-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量が上記範囲内であれば、精製後のイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物に含まれるN-二置換ホルムアミド化合物(A)の含有量も上記範囲内であると判断してもよい。
【0050】
[工程(1)]
工程(1)は、下記式(3)で示される化合物(E)のアミン化合物とギ酸とを接触させ、上記化合物(A)を得る工程である。
【0051】
NHR1R2・・・(3)
【0052】
式(3)中、R1とR2は上記式(4)中のR1とR2とそれぞれ同義であり、好適態様も同様である。
【0053】
(化合物(E))
化合物(E)としては、例えば、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、およびジオクチルアミンなどが本発明に好適に使用することができる。
【0054】
(条件)
化合物(E)とギ酸との反応は、本発明で使用できる化合物(A)が得られれば特に制限されないが、例えば、公知に方法により行うことができる。具体的には、化合物(E)と有機溶媒とを混合し、得られた混合液に、化合物(E)1mol当たり1.0~1.5mol当量のギ酸を加え、100~125℃で3~6時間反応させる。反応後の反応液を濾過し、得られた濾液と有機溶媒とを混ぜ、化合物(A)の結晶を得ることができる。
【0055】
本発明の一実施態様である、上記化合物(A)の存在下、上記式(2)で示される化合物(B)とホスゲンを接触させ、ホスゲン反応物を得、得られたホスゲン反応物とヒドロキシアミン塩酸塩化合物とを接触させて得る、ジアルキルカルバモイルクロリドの含有量が0.1質量%以下であるイソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物における、用語の意味は上記<イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物>および<イソシアナト基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の製造方法>に記載の各用語と同義である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0057】
実施例における測定方法および算出方法は以下のとおりである。
[2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、ジアルキルカルバモイルクロリドおよび触媒(ホルムアミド化合物)の含有量]
2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、ジアルキルカルバモイルクロリドおよび触媒(ホルムアミド化合物)の各含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析により後述する条件で各成分を分離し内部標準法により測定した。
【0058】
[ハーゼン色数(APHA)]
ハーゼン色数はJIS K0071-1:2017に準拠し、比色管を用いてAPHA標準液との比較により測定した。
【0059】
[フリー塩素]
100mLの三角フラスコに試料10gを量り取り、メタノールで150mLまで希釈した。得られた溶液について、1/100mol/Lの硝酸銀溶液を用いて電位差滴定を行い、フリー塩素の濃度を求めた。電位差滴定は、自動滴定装置(製品名:COM-550、平沼産業社製)を用いて行った。
【0060】
[加水分解性塩素]
加水分解性塩素の測定は、JIS K1603:2007に準じて以下のように行った。100mLの三角フラスコに試料5gを量り取り、35mLのメタノールおよび15mLの水を加え反応液を調製した。この三角フラスコに還流冷却器を取り付けて、80℃の水浴で反応液を30分間加熱還流した後、室温まで冷却した。冷却後、得られた溶液について、1/100mol/Lの硝酸銀溶液を用いて電位差滴定を行い、加水分解性塩素の濃度を求めた。
【0061】
[ガスクロマトグラフィーの測定条件]
カラム:内径0.32mm、長さ30m、液相膜厚1.0μm(製品名:DB-1、J&WScientific社製)
カラム温度:初期温度50℃、その後10℃/分で昇温、最終温度300℃(15分間)
注入口温度:300℃
検出器温度:300℃
検出器:水素炎イオン化(FID)検出器
キャリア-ガス:ヘリウム
流量(カラム):1.2mL/分
【0062】
[ジアルキルカルバモイルクロリドの発生率]
工程(2)におけるジアルキルカルバモイルクロリド(以下「ジカルバモイルクロリド体」とも称す)の発生率は、ガスクロマトグラフィーにより測定したジカルバモイルクロリド体の含有量と、工程(2)で得られた溶液の質量からジカルバモイルクロリド体のモル数を算出し、その数値を工程(2)で使用したN-二置換ホルムアミドのモル数で除して算出した。
【0063】
<製造例1> DHFの製造
本発明の工程(1)に従い、以下のようにしてDHF(化合物(A))を製造した。滴下漏斗およびディーンスタークを設置した100mLの三口フラスコに、37.1g(0.2mol)のジヘキシルアミン(化合物(E))および43.6g(0.47mol)のトルエンを投入した。そこに、滴下漏斗を介して11.2g(0.24mol)のギ酸を5分間かけて滴下した。この際、中和反応により発熱が生じるため、外部に設置した水のジャケットにより内温を100℃以下に維持した。ギ酸投入完了後、オイルバスにより内温を125℃まで昇温させ、中和反応により発生した水を、トルエンとの共沸により反応系外へ除去しながら5時間反応を実施した。反応液からトルエンを減圧留去した後、0.1kPa(絶対圧力)、150℃で蒸留して目的のDHFを得た。ジヘキシルアミンに対するDHFの収率は90%だった。
【0064】
<製造例2> DBNFの製造
本発明の工程(1)に従い、以下のようにしてDBNF(化合物(A))を製造した。滴下漏斗およびディーンスタークを設置した100mLの三口フラスコに、39.4g(0.2mol)のジベンジルアミン(化合物(E))および43.6(0.47mol)のトルエンを投入した。そこに、滴下漏斗を介して11.2g(0.24mol)のギ酸を5分間かけて滴下した。この際、中和反応により発熱が生じるため、外部に設置した水のジャケットにより内温を100℃以下に維持した。ギ酸投入完了後、オイルバスにより内温を125℃まで昇温させ、中和反応により発生した水を、トルエンとの共沸により反応系外へ除去しながら5時間反応を実施した。反応液をJIS P3801:1995に規定の5種Aの濾紙を用いて濾過し、反応液から不溶物を除去した。濾液に50mLのヘキサンを加え、5℃に冷却して結晶を析出させた。析出した結晶を濾過により回収し、回収した結晶を50mLのヘキサンで2回洗浄した。洗浄後、結晶を40℃で6時間乾燥し、目的のDBNFを得た。ジベンジルアミンに対するDBNFの収率は67%だった。
【0065】
<製造例3> DCHFの製造
本発明の工程(1)に従い、以下のようにしてDCHF(化合物(A))を製造した。滴下漏斗およびディーンスタークを設置した100mLの三口フラスコに、37.1g(0.2mol)のジシクロヘキシルアミン(化合物(E))および43.6(0.38mol)の酢酸-n-ブチルを投入した。そこに、滴下漏斗を介して11.2g(0.24mol)のギ酸を5分間かけて滴下した。この際、中和反応により発熱が生じるため、外部に設置した水のジャケットにより内温を100℃以下に維持した。ギ酸投入完了後、オイルバスにより内温を125℃まで昇温させ、中和反応により発生した水を、酢酸-n-ブチルとの共沸により反応系外へ除去しながら10日間反応を実施した。反応液をJIS P3801:1995に規定の5種Aの濾紙を用いて濾過し、反応液から不溶物を除去した後、酢酸-n-ブチルを減圧留去して結晶を得た。得られた結晶を50mLのヘキサンに溶かし、5℃に冷却して結晶を析出させた。析出した結晶を濾過して回収し、5℃に冷却した10mLのヘキサンで2回洗浄した。洗浄後、結晶を40℃で6時間乾燥し、目的のDCHFを得た。ジシクロヘキシルアミンに対するDCHFの収率は36.7%だった。
【0066】
<製造例4> DEHFの製造
本発明の工程(1)に従い、以下のようにしてDEHF(化合物(A))を製造した。滴下漏斗およびディーンスタークを設置した2Lの三口フラスコに、600g(2.48mol)のジ(2-エチルヘキシル)アミン(化合物(E))と538g(5.84mol)のトルエンを投入した。そこに、滴下漏斗を介して137.3g(2.98mol)のギ酸を2時間かけて滴下した。この際、中和反応により発熱が生じるため、外部に設置した水のジャケットにより内温を100℃以下に維持した。ギ酸投入完了後、オイルバスにより内温を125℃まで昇温させ、中和反応により発生した水を、トルエンとの共沸により反応系外へ除去しながら5時間反応を実施した。反応液からトルエンを減圧留去した後、目的のDEHFを得た。ジ(2-エチルヘキシル)アミンに対するDEHFの収率は90%だった。
【0067】
<製造例5> ジ-n-ブチルホルムアミドの製造
本発明の化合物(A)の比較例として、以下のようにしてジ-n-ブチルホルムアミド(以下「DBF」と称す)を製造した。滴下漏斗およびディーンスタークを設置した100mLの三口フラスコに、25.85g(0.2mol)のジ-n-ブチルアミンと43.6g(0.47mol)のトルエンを投入した。そこに、滴下漏斗を介して11.2g(0.24mol)のギ酸を5分間かけて滴下した。この際、中和反応により発熱が生じるため、外部に設置した水のジャケットにより内温を100℃以下に維持した。ギ酸投入完了後、オイルバスにより内温を125℃まで昇温させ、中和反応により発生した水を、トルエンとの共沸により反応系外へ除去しながら5時間反応を実施した。反応液からトルエンを減圧留去した後、0.1kPa(絶対圧力)、120℃で蒸留して目的のDBFを得た。ジ-n-ブチルアミンに対するDBFの収率は93%だった。
【0068】
<製造例6> 4-ホルミルモルホリンの製造
本発明の化合物(A)の比較例として、以下のようにして4-ホルミルモルホリン(以下「4-FM」と称す)を製造した。滴下漏斗およびディーンスタークを設置した100mLの三口フラスコに、17.42g(0.2mol)のモルホリンと43.6g(0.47mol)のトルエンを投入した。そこに、滴下漏斗を介して11.2g(0.24mol)のギ酸を5分間かけて滴下した。この際、中和反応により発熱が生じるため、外部に設置した水のジャケットにより内温を100℃以下に維持した。ギ酸投入完了後、オイルバスにより内温を125℃まで昇温させ、中和反応により発生した水を、トルエンとの共沸により反応系外へ除去しながら5時間反応を実施した。反応液からトルエンを減圧留去した後、0.1kPa(絶対圧力)、100℃で蒸留して目的の4-FMを得た。モルホリンに対する4-FMの収率は91%だった。
【0069】
<実施例1> 2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートの製造
本発明の製造方法に従って、以下のようにして2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下「AOI」と称す)を製造した。
【0070】
[工程(2)]
200mLの四口フラスコに、70g(0.97mol)のアクリル酸(化合物(B))、0.01g(0.07mol)のフェノチアジン、および2.73g(アクリル酸に対して1mol%)の製造例4で製造したDEHF(化合物(A))を加え、60℃に昇温した。ここに、96.1g(0.97mol)のホスゲンを8時間かけて導入した。60℃で2時間反応させたあと、3-クロロプロピオン酸クロリド(ホスゲン反応物)を含む酸クロリドの混合物(3-クロロプロピオン酸クロリド/アクリル酸クロリドのモル比=6.34)を得た。該混合物の収率は87.8%であった。また、ジカルバモイルクロリド体の発生率は21.8mol%であった。結果を表1に示す。
【0071】
[工程(3)]
撹拌機、コンデンサー、温度計および内装管を備えた300mLの四口フラスコに、70g(1.15mol)の2-アミノエタノールを入れ85℃まで昇温させた。ここに40.5g(1.11mol)の塩化水素を200mL/分で吹き込み、エタノールアミンの塩酸塩を調製した。
【0072】
次いで、調製したエタノールアミンの塩酸塩に、142.6gの上記製造した酸クロリドの混合物を90分かけて滴下し、15分間反応させ、3-クロロプロピオン酸エチルアミン塩酸塩を得た。得られた3-クロロプロピオン酸エチルアミン塩酸塩に、115.5g(1.17mol)のホスゲンを6.9時間かけて投入し、1時間反応させ3-クロロプロピオン酸エチルイソシアネートを得た。得られた3-クロロプロピオン酸エチルイソシアネートを1000mLの四口フラスコに移し、260g(2.82mol)のトルエンと0.6g(0.004mol)の重合防止剤を加え、40℃に昇温した。
【0073】
ここに、194g(1.92mol)のトリエチルアミンを添加した後、75~80℃まで昇温し8時間反応させた。反応により発生したトリエチルアミン塩酸塩を濾過により除去し、粗AOI溶液を得た。粗AOI中のジカルバモイルクロリド体の含有量は34質量ppmだった。得られた粗AOI溶液からトルエンを留去した後、薄膜蒸留により精製されたAOIを得た。精製後のAOI中のジカルバモイルクロリド体は検出されなかった。結果を表1に示す。
【0074】
<実施例2~4および比較例1~3>
実施例1の触媒およびその使用量を、表1に示したように、製造例1~3、5および6で製造した触媒およびその使用量にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてAOIを製造した。結果を表1に示す。ガスクロマトグラフィーを用いたAOI中の触媒およびジアルキルカルバモイルクロリド体の検出下限はそれぞれ10質量ppmだった。また、比較例1において、粗AOI中のジカルバモイルクロリド体の含有量は0.4質量%だった。このことから、本発明の場合とは異なり、比較例で生じた粗AOI中のジカルバモイルクロリド体は精製によって除去されにくく、精製後のAOIに残存しやすいことが推測される。なお、比較例1において、DMFは市販品(関東化学株式会社製)のものを使用した。
【0075】
<実施例5>
実施例1の精製方法を薄膜蒸留から単蒸留に変更した以外は、実施例1と同様にしてAOIを製造した。結果を表1に示す。
【0076】