(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-07
(45)【発行日】2025-05-15
(54)【発明の名称】粒子線照射システム及び粒子線照射施設
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20250508BHJP
【FI】
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2019166000
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-03-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 賢一
(72)【発明者】
【氏名】西内 秀晶
(72)【発明者】
【氏名】片寄 雅
【合議体】
【審判長】井上 哲男
【審判官】立花 啓
【審判官】土田 嘉一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-182987号公報(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212290(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/108534(WO,A1)
【文献】特開平07-272900号公報(JP,A)
【文献】国際公開第2015/042525(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に設置され、荷電粒子ビームを加速する加速器と、
前記加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送する輸送装置と、
前記輸送装置により輸送された荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置と、
前記加速器とは個別に前記床面に設置され、前記照射装置が取付けられたガントリと、
を備える粒子線照射システムであって、
前記ガントリは、
前記照射装置を前記照射対象の周りで回転させる回転体と、
前記回転体の前記床面への投影面と、前記加速器または前記輸送装置の前記床面への投影面と、が少なくとも一部で重なる位置に前記回転体を前記床面から支持する支持装置と、
を有し、
前記支持装置の材質の少なくとも一部は金属である、
粒子線照射システム。
【請求項2】
前記加速器と前記ガントリとは、部屋として区切られた1つの空間内に配置される
請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項3】
前記支持装置が第1接地面と第2接地面とで床面に接し、前記第1接地面と前記第2接地面の間に前記加速器または前記輸送装置の少なくとも一方の少なくとも一部が配置される、
請求項2に記載の粒子線照射システム。
【請求項4】
前記輸送装置は、前記加速器で加速された荷電粒子ビームを上向きに偏向する第1偏向電磁石と、前記第1偏向電磁石で偏向された荷電粒子ビームを前記回転体の回転軸の方向に偏向する第2偏向電磁石とを有する、
請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項5】
前記ガントリは、前記回転体の外周面の外側で荷電粒子ビームを偏向する第3偏向電磁石を更に有し、
前記支持装置は、前記回転体の回転軸方向における前記第3偏向電磁石より前方に配置される第1支持部と前記第3偏向電磁石より後方に配置される第2支持部とを有する、
請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項6】
前記ガントリは、前記回転体の外周面に荷電粒子ビームを輸送する輸送ラインを更に有し、
前記回転体の外周面からの前記輸送ラインの高さと、前記回転体の下方での前記加速器または前記輸送装置の床面からの高さとの和よりも、前記支持装置の高さの方が大きい、
請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項7】
前記輸送装置の一部が前記粒子線照射システムが設置される部屋の壁面に固定される、
請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項8】
前記ガントリは、前記輸送装置で輸送された荷電粒子ビームを前記回転体の外周面の外側に輸送し、前記回転体の周方向に輸送し、前記回転体の回転軸に向かう方向に輸送する輸送ラインを更に有する、
請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項9】
前記加速器は、環状経路で荷電粒子ビームを加速するシンクロトロンである、
請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項10】
床面に設置され、荷電粒子ビームを加速する加速器と、
前記加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送する輸送装置と、
前記輸送装置により輸送された荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置と、
前記加速器とは個別に前記床面に設置され、前記照射装置が取付けられたガントリと、
を備える粒子線照射システムであって、
前記ガントリは、
前記照射装置を前記照射対象の周りで回転させる回転体と、
前記回転体の前記床面への投影面と、前記加速器または前記輸送装置の前記床面への投影面と、が少なくとも一部で重なる位置に前記回転体を前記床面から支持する支持装置と、
を有し、
前記加速器は、環状経路で荷電粒子ビームを加速するシンクロトロンであり、
前記支持装置は、第1の脚と第2の脚とを有し、
前記第1の脚が前記環状経路の内側に位置し、前記第2の脚が前記環状経路の外側に位置するように、前記環状経路を跨いで前記床面に接地する、
粒子線照射システム。
【請求項11】
前記輸送装置は、前記加速器で加速された荷電粒子ビームを床面に沿って輸送する第1ビーム輸送部と、前記第1ビーム輸送部の下流で荷電粒子ビームを上向きに輸送する第2ビーム輸送部とを有し、
前記支持装置は、前記第2ビーム輸送部を後方にし、2つの脚部で前記第1ビーム輸送部を跨いで前記床面に接地する、
請求項10に記載の粒子線照射システム。
【請求項12】
前記支持装置の材質の少なくとも一部は金属である、
請求項10に記載の粒子線照射システム。
【請求項13】
前記支持装置の材質の少なくとも一部はコンクリートである、
請求項1または10に記載の粒子線照射システム。
【請求項14】
建屋と、
前記建屋内に設置される請求項1乃至13のいずれか一項に記載の粒子線照射システムと、
を有する粒子線照射施設。
【請求項15】
前記照射対象は患者であり、
前記患者を載置して前記回転体の内側に進入可能な治療台が設置される治療室と前記加速器および前記ガントリが設置される部屋との間に設けられる仕切り壁を更に有する、
請求項14に記載の粒子線照射施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射システム及び粒子線照射施設に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、X線あるいは粒子線などの放射線を患部に照射する治療法である。放射線治療のための装置のうち最も普及しているのがX線治療装置である。しかし、X線は、線量が体表面で最大となり減衰しながら体内を通過するため、腫瘍の前後にある正常な組織に影響を及ぼす恐れがある。一方、粒子線は、ブラッグカーブと呼ばれる、飛程の深い部分で高い線量分布を有している。粒子線治療では、その高い線量分布(ブラッグピーク)よりも深い部分には線量を付与しない特長を活かし、ブラッグピークを患部位置に調整して線量集中性を高めて照射する。粒子線治療は、X線治療と比較して患部への線量集中性を高めつつ、患部周辺への影響を抑えることができる。このような治療を実現する粒子線治療システムのさらなる普及が求められている。
【0003】
しかしながら、粒子線治療システムは、X線治療装置と比較して高額であることに加え、設置面積が大きいことも普及の妨げとなっている。粒子線治療システムをさらに普及していく上で、粒子線治療システムの設置面積の低減、小型化、および低価格化が求められている。
【0004】
特許文献1には、小型化された粒子線治療システムが開示されている。粒子線治療システムは、荷電粒子ビームを加速するシンクロトロンと、シンクロトロンで加速された荷電粒子ビームを輸送する高エネルギービーム輸送系と、高エネルギービーム輸送系により輸送された荷電粒子ビームを患者に照射する照射野形成装置を備える回転ガントリと、から構成される。特許文献1に開示された技術は、シンクロトロンと回転ガントリの間で荷電粒子ビームを輸送する高エネルギービーム輸送系を、シンクロトロンからの荷電粒子ビームの軌道の中心と、回転ガントリの回転の中心とが、略同一直線状になるように構成することで、粒子線治療システムの設置面積の低減を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示のひとつの目的は、粒子線治療システムの設置面積を低減する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のひとつの態様による粒子線照射システムは、床面に設置され、荷電粒子ビームを加速する加速器と、加速器から出射された荷電粒子ビームを輸送する輸送装置と、輸送装置により輸送された荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置と、床面に設置され、照射装置が取付けられたガントリと、を備える。また、ガントリは、照射装置を照射対象の周りで回転させる回転体と、回転体の床面への投影面と加速器または輸送装置の床面への投影面とが少なくとも一部で重なる位置に回転体を床面から支持する支持装置と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示のひとつの態様によれば、設置面積を低減した粒子線照射システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】回転体が回転した状態の粒子線治療システムを示す図である。
【
図6】粒子線治療システムが建屋に設置された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
ここでは、照射対象に粒子線ビームを照射する粒子線照射システムの一例として、癌患者の癌組織に粒子線ビームを照射する粒子線治療システムについて説明する。
【0012】
図1は、粒子線治療システムの鳥瞰図である。
図2は、粒子線治療システムの上面図、
図3は、粒子線治療システムの側面図、
図4は、粒子線治療システムの正面図である。
図2の上面図は、
図1に示した粒子線照射システムを矢印Aの方向から見た図である。
図3の側面図は、
図1に示した粒子線照射システムを矢印Bの方向から見た図である。
図4の正面図は、
図1に示した粒子線照射システムを矢印Cの方向から見た図である。
【0013】
まず、粒子線照射システムの構成および動作の概略を説明する。
【0014】
粒子線治療システムは、直線加速器2、低エネルギービーム輸送装置3、シンクロトロン4、高エネルギービーム輸送装置5、回転ガントリ1、および照射ノズル6を有する。
【0015】
直線加速器2は、荷電粒子を加速して荷電粒子ビームを発生させる。直線加速器2で発生した荷電粒子ビームは、低エネルギービーム輸送装置3で輸送され、シンクロトロン4に入射する。シンクロトロン4に入射した荷電粒子ビームは、シンクロトロン4で所望のエネルギーまで加速され、高エネルギービーム輸送装置5に出射される。シンクロトロン4から出射された荷電粒子ビームは、高エネルギービーム輸送装置5を通り、回転ガントリ1に運ばれる。
【0016】
回転ガントリ1は、回転軸30周りに回転する回転体11と、高エネルギービーム輸送装置5に対して相対的に回転可能に高エネルギービーム輸送装置5と接続し回転体11と共に回転するガントリ輸送ライン19と、回転体11を回転可能に支持する支持装置14とを有する。
【0017】
図4の治療ケージ8の内部を参照すると、回転ガントリ1には、回転体11と共に回転する照射ノズル6が設置されている。照射ノズル6は、先端を回転軸30に向けて回転軸30周りに回転する。患者が載置される治療台7は、照射ノズル6の先端の向く方向に患者が載置されるように配置されている。
【0018】
高エネルギービーム輸送装置5からの荷電粒子ビームは、ガントリ輸送ライン19で照射ノズル6に輸送され、照射ノズル6の先端から治療台7に載置された患者の患部に照射される。回転体11を回転させることで、照射ノズル6が治療台7の周りを回転し、荷電粒子ビームを患者の患部へどの方向から照射するかを変化させることができる。なお、本実施例では、治療台7は、患者を載置する天板と、天板をXYZ軸の方向へ駆動する3つの平行駆動機構と、天板をZ軸周りに回転させる回転駆動機構とを備える治療台を例に説明しているが、これに限定されるものではない。たとえば、Z軸方向への駆動機構と、第1アームと第1アーム旋回機構、第2アームと第2アーム旋回機構、天板と天板をピッチ・ロール・ヨーに回転させる回転機構、を有するロボットアーム式治療台等、他の治療台でもよい。
【0019】
次に、粒子線治療システムに含まれる各装置の構成および動作について説明する。
【0020】
直線加速器2は、イオン源と線形加速器とを備えている。イオン源は、中性ガスに高速の電子を衝突させるなどして荷電粒子を発生する。線形加速器は、イオン源で発生した荷電粒子をシンクロトロン4による加速が可能な状態の荷電粒子ビームにまで加速し、低エネルギービーム輸送装置3に向けて出射する。荷電粒子ビームとは荷電粒子が細く流れるビームである。ここでは、荷電粒子として、例えば、水素、ヘリウム、炭素、窒素、酸素、ネオン、シリコン、アルゴンなどがある。
【0021】
低エネルギービーム輸送装置3は、直線加速器2から出射された荷電粒子ビームを、内部が高真空に保たれた空間によって輸送する装置であり、荷電粒子ビームをシンクロトロン4へと輸送する。
【0022】
シンクロトロン4は、低エネルギービーム輸送装置3からの荷電粒子ビームを、環状の経路により、癌の治療に好適なエネルギ(70MeVから220MeV程度)となるまで加速する装置である。シンクロトロン4の環状経路は、荷電粒子ビームを所定の角度に偏向する偏向電磁石15Aと、荷電粒子ビームの水平方向及び垂直方向の収束および/または発散を制御する四極電磁石16Aと、荷電粒子ビームの経路である真空ダクト17Aと、荷電粒子ビームを加速する高周波加速空洞21と、を互いに接続して構成されている。本実施例では、荷電粒子ビームを90度偏向する4個の偏向電磁石15Aが4隅に配置され、真空ダクト17Aがそれら偏向電磁石15Aを貫通して環状経路を構成している。
【0023】
本実施例では、シンクロトロン4の建屋100への据付け方法として、建屋100の床面に設置された架台22の上に、偏向電磁石15A、四極電磁石16A、および高周波加速空洞21を固定するという方法が採られている。
【0024】
なお、本実施例では、シンクロトロン4を架台22を介して床面に据付けているが、架台22を用いずシンクロトロン4を床面に直接据付けてもよい。
【0025】
また、本実施例では、4個の偏向電磁石15Aが環状経路に配置されている構成を示しているが、シンクロトロン4の構成はこれに限定されるものではない。シンクロトロン4における偏向電磁石15Aの個数は4個未満でもよいし、5個以上でもよい。また、本実施例では、偏向電磁石15Aの偏向角度を90度としているが、シンクロトロン4の構成がこれに限定されることはない。偏向電磁石15Aの偏向角度は他の角度でもよい。また、シンクロトロン4は、偏向電磁石15A、四極電磁石16A、高速加速空胴21以外の機器を、環状経路上、環状経路と低エネルギ輸送系3との接続部、または、環状経路と高エネルギービーム輸送装置5との接続部に備えてもよい。
【0026】
また、本実施例では、加速器として直線加速器2とシンクロトロン4とを用いて荷電粒子ビームを加速する例を示しているが、この構成に限定されることはない。他の例として、サイクロトロン、シンクロサイクロトロン、荷電粒子ビームを加速する軌道を偏心させて任意のエネルギーの荷電粒子ビームを出射する円形加速器など、他の加速器を用いてもよい。
【0027】
シンクロトロン4で加速された荷電粒子ビームは高エネルギービーム輸送装置5へ送られる。
【0028】
高エネルギービーム輸送装置5は、シンクロトロン4で加速された荷電粒子ビームを偏向しながら回転ガントリ1に輸送する装置である。高エネルギービーム輸送装置5は、偏向電磁石15Bと、四極電磁石16Bと、真空ダクト17Bとを組み合わせて構成されている。
【0029】
高エネルギービーム輸送装置5は、
図3に示すように、略水平に荷電粒子ビームを輸送する第1ビーム輸送部5(1)と、略垂直に荷電粒子ビームを輸送する第2ビーム輸送部5(2)とを有する。更に、高エネルギービーム輸送装置5は、第1ビーム輸送部5(1)と第2ビーム輸送部5(2)の間に、荷電粒子ビームを90度偏向する偏向電磁石15B1を有し、第2ビーム輸送部5(2)と回転ガントリ1との間に、荷電粒子ビームを90度偏向する偏向電磁石15B2を有する。
【0030】
第1ビーム輸送部5(1)は、荷電粒子ビームの収束および/または発散を制御する四極電磁石16Bを、略直線状の真空ダクト17Bが貫通した構成である。第1ビーム輸送部5(1)は、床面に設置された架台22のうえに四極電磁石16Bを固定することにより、架台22を介して床面に据付けられている。
【0031】
第2ビーム輸送部5(2)は、第1ビーム輸送部5(1)と同様に、四極電磁石16Bを略直線状の真空ダクト17Bが貫通した構成である。第2ビーム輸送部5(2)は、四極電磁石16Bが架台22に固定された状態で建屋100の壁面に固定して据付けられている。第2ビーム輸送部5(2)を壁面に固定することにより、その設置面積を低減するとともにその設置を安定させることができる。
【0032】
シンクロトロン4から出射された荷電粒子ビームは、第1ビーム輸送部5(1)の四極電磁石16Bと真空ダクト17Bとにより、偏向電磁石15B1まで輸送される。たとえば、輸送される荷電粒子ビームの進行方向は例えば床面に対して略水平であり、第1ビーム輸送部5(1)は、シンクロトロン4から偏向電磁石15B1までを略直線上に結んでいる。
【0033】
第1ビーム輸送部5(1)から偏向電磁石15B1に輸送された荷電粒子ビームは、偏向電磁石15B1により床面から遠ざかる方向に偏向される。このとき、たとえば、偏向電磁石15B1の偏向角度は90度であり、偏向された荷電粒子ビームが向かう方向は、略鉛直方向上向きである。偏向電磁石15B1で偏向された荷電粒子ビームは、第2ビーム輸送部5(2)に入射する。第2ビーム輸送部5(2)は、入射した荷電粒子ビームを偏向電磁石15B2に輸送する。
【0034】
偏向電磁石15B2は、第2ビーム輸送部5(2)からの荷電粒子ビームを回転ガントリ1の方向に偏向し、回転ガントリ1に入射する。このとき、たとえば、偏向電磁石15B2の偏向角度は90度であり、偏向された荷電粒子ビームが向かう方向は、床面と略水平かつシンクロトロン4に向かう方向である。言い換えると、偏向電磁石15B2からの荷電粒子ビームは、シンクロトロン4から出射した方向とは反対の方向に向かう。
【0035】
高エネルギービーム輸送装置5と回転ガントリ1との接続点は、回転ガントリ1の回転軸30上にあり、高エネルギービーム輸送装置5から回転ガントリ1に入射する荷電粒子ビームの進行方向は、回転ガントリの回転軸30に一致する。
【0036】
なお、本実施例では、高エネルギービーム輸送装置5が荷電粒子ビームを90度偏向する2個の偏向電磁石15B1、15B2を備える構成を例に説明したが、この構成に限定されることはない。他の例として、偏向電磁石15Bの数は1個でも3個以上でもよい。また、偏向電磁石15Bの偏向角度は90度に限定されず、他の角度でもよい。たとえば、シンクロトロン4から出射した荷電粒子ビームが床面と略水平な平面内で偏向されてから、偏向電磁石15B1に入射してもよい。また、たとえば、偏向電磁石15B2で偏向された荷電粒子ビームが床面と略水平な平面内で偏向されてから回転ガントリ1に入射してもよい。
【0037】
また、本実施例では、第1ビーム輸送部5(1)の床面への据付けと、第2ビーム輸送部5(2)の壁面への据付けに架台22を用いる例を示したが、この構成に限定されることはない。他の例として、第1ビーム輸送部5(1)の床面への据付けと、第2ビーム輸送部5(2)の壁面への据付けの一方または両方に架台22を用いなくてもよい。
【0038】
また、本実施例では、第1ビーム輸送部5(1)を床面に据付け、第2ビーム輸送部5(2)を壁面に据付けているが、据付け場所はこれらに限定されない。たとえば、第2ビーム輸送部5(2)を支持装置14に固定してもよい。
【0039】
回転ガントリ1は、フロントリング9、リアリング10、回転体11、サポートローラー12、ガントリ回転モータ(図示せず)、支持装置14、およびガントリ輸送ライン19を備える。
【0040】
回転体11は、フロントリング9側からリアリング10側に向かって順に、第1円筒部11(1)と円錐部11(2)と第2円筒部11(3)とを備える。フロントリング9とリアリング10とが第1円筒部11(1)で接続される。回転体11のフロントリング9側は開口しており、回転体11内側かつフロントリング9側には、患者に荷電粒子ビームを照射し治療する空間である治療ケージ8が設けられている。ガントリ輸送ライン19は、回転体11に固定されている。
【0041】
支持装置14は、シンクロトロン4と同じ床面に据付けられている。支持装置14の上には、サポートローラー12が、回転可能に固定される。フロントリング9およびリアリング10はサポートローラー12上に搭載されている。すなわち、支持装置14は、サポートローラー12を介して、フロントリング9、リアリング10、回転体11、およびガントリ輸送ライン19を支持している。
【0042】
ガントリ回転モータの動力でサポートローラー12が回転し、フロントリング9およびリアリング10に動力を伝達することにより、フロントリング9とリアリング10と回転体11とガントリ輸送ライン19とが一体となって、回転軸30周りに回転する。
【0043】
図5は、回転体が回転した状態の粒子線治療システムを示す図である。上記
図1~4には、照射ノズル6が治療台7に載置される患者に鉛直方向の上方から荷電粒子ビームを照射できる状態の粒子線治療システムが示されている。この状態を含め、回転体11は略360度回転可能である。
図5には、回転体11が正面から見て時計回りに90度回転し、照射ノズル6が患者の真横から水平方向に荷電粒子ビームを照射できる状態が示されている。
【0044】
ガントリ輸送ライン19は、高エネルギービーム輸送装置5から入射する荷電粒子ビームを偏向しながら照射ノズル6に輸送する装置である。ガントリ輸送ライン19は、回転軸30上の接続点20で、高エネルギービーム輸送装置5と回転可能に接続されている。ビーム輸送ライン19は、偏向電磁石15Cと四極電磁石16Cと真空ダクト17Cとを含む複数部材を組合せて構成されている。
【0045】
ガントリ輸送ライン19は、高エネルギービーム輸送装置5から回転軸30に沿う進行方向で入射した荷電粒子ビームを、第2円筒部11(3)の内側に通し、偏向電磁石(不図示)で回転軸30から遠ざかる方向に偏向する。ガントリ輸送ライン19は、回転軸30から遠ざかる方向に偏向された荷電粒子ビームを回転体11の外側に輸送する。
【0046】
回転体11の外側では、偏向電磁石15C1、四極電磁石16C、真空ダクト17C、および偏向電磁石15C2で構成された部分が、第1円筒部11(1)の外周面に取り付けられている。回転体11の外側に出た荷電粒子ビームは、偏向電磁石15C1により、回転軸30に垂直な平面内で偏向角度135度で偏向され、四極電磁石16Cによりビームの広がりが制御されながら真空ダクト17Cで回転体11の周方向に輸送される。真空ダクト17Cで輸送された荷電粒子ビームは、偏向電磁石15C2により、回転軸30に垂直な平面内で回転軸30に向かう方向に135度偏向される。回転軸30に向かう方向に偏向された荷電粒子ビームは、回転体11内側に入り、照射ノズル6を介して、治療ケージ8内の患者に照射される。
【0047】
ガントリ輸送ライン19を上述の構成とすることで、回転ガントリ1の回転軸30の前後方向の長さを短くでき、粒子線治療システムの設置面積を低減することができる。ここでいう粒子線治療システムの設置面積は粒子線治療システムを設置するのに要する床面積である。
【0048】
また、本実施例では、ガントリ輸送ライン19が3個の偏向電磁石を備える構成を示しているが、ガントリ輸送ライン19の構成はこれに限定されるものではない。ガントリ輸送ライン19における偏向電磁石の個数は3個未満でもよいし、4個以上でもよい。また、本実施例では、偏向電磁石15C1、15C2の偏向角度を135度としているが、これに限定されることはない。偏向電磁石15C1、15C2の偏向角度は他の角度でもよい。また、ガントリ輸送ライン19は、偏向電磁石15C、四極電磁石16C、真空ダクト17C以外の機器を備えてもよい。
【0049】
なお、本実施例では、荷電粒子ビームの収束および/または発散を制御しながら回転体11の周方向に輸送する構成のガントリ輸送ラインを例示したが、この構成に限定されることはない。他の例として、ガントリ輸送ライン19は、高エネルギービーム輸送装置5から回転軸30に沿う進行方向で入射した荷電粒子ビームを回転軸30から遠ざかる方向に偏向し、回転軸30から遠ざかる方向に偏向された荷電粒子ビームを回転軸30と略平行な方向に偏向し、回転軸30と略平行な方向に偏向された荷電粒子ビームを回転軸30に向かう方向に偏向する構成としてもよい。
【0050】
支持装置14は、回転ガントリ1が回転してガントリ輸送ライン19が下方に位置するときに、ガントリ輸送ライン19がシンクロトロン4または高エネルギービーム輸送装置5の第1ビーム輸送部5(1)に接触しない高さになっている。より具体的には、ガントリ輸送ライン19の偏向電磁石15C1と偏向電磁石15C2の下方にあるシンクロトロン4または高エネルギービーム輸送装置5の機器の床面からの高さと、偏向電磁石15C1または偏向電磁石15C2の第1円筒部11(1)の外周面からの高さの最大値と、の合計値よりも、支持装置14の床面からの高さは高い。
【0051】
支持装置14に十分な高さを持たせることで、回転ガントリ1とシンクロトロン4とを同一床面上に設置面積を重ねて配置することができ、粒子線治療システム全体としての設置床面積を低減することができる。また、支持装置14に十分な高さを持たせることで、従来はガントリ輸送ラインと床面の接触を避けるため、ガントリ輸送ラインの通過領域のみ床面を低くしていたのに対して、建屋100の床面を低くする必要がなくなり、建屋100を簡易な構成とすることができる。
【0052】
本実施例では、支持装置14は、4本の脚を有し、それら4本の脚で回転体11を支持している。本実施例では、支持装置14は、第1支持装置14(1)と第2支持装置11(2)で構成されている。第1支持装置14(1)と第2支持装置14(2)はいずれも2本の脚を有するアーチ型の形状をしており、回転軸30の方向に並んでいる。第1支持装置14(1)がフロントリング9側にあり、第2支持装置14(2)がリアリング側にある。第1支持装置14(1)がガントリ輸送ライン19の偏向電磁石15C1と偏向電磁石15C2より前方に配置される。第2支持装置14(2)がガントリ輸送ライン19の偏向電磁石15C1と偏向電磁石15C2よりも後方に配置されている。このように支持装置14を前方の第1支持装置14(1)と後方の第2支持装置14(2)とで構成することで、回転体11が回転するときに、回転体11と共に回転するガントリ輸送ライン19が第1支持装置14(1)と第2支持装置14(2)の間を通ることができ、支持装置14と輸送ライン19との衝突を回避することができる。第1支持装置14(1)は、フロントリング9を搭載するサポートローラー12を支持している。第2支持装置14(3)は、リアリング10を搭載するサポートローラー12を支持している。
【0053】
第1支持装置14(1)は、一方の脚がシンクロトロン4の円環の内側の床面に、他方の脚が円環の外側の床面に配置され、シンクロトロン4の円環が第1支持装置14(1)の脚と脚の間を通り、アーチ空間をくぐるように配置される。言い換えると、第1支持装置14(1)は、シンクロトロン4の円環を跨ぐように配置される。また、高エネルギービーム輸送装置5が、第2支持装置14(2)の脚と脚の間を通り、アーチ空間をくぐるように配置される。言い換えると、第2支持装置14(2)は、高エネルギービーム輸送装置5を跨ぐように配置される。これにより、回転体11の下方に、シンクロトロン4と高エネルギービーム輸送装置5の一部を配置することができる。支持装置14が床面に接するある接地面と支持装置14が床面に接する他の接地面との間にある支持装置14が床面に接していない部分に、シンクロトロン4および/または高エネルギービーム輸送装置5を配置することができ、粒子線治療システム全体としての設置面積を低減することができる。
【0054】
特に前方にある第1支持装置14(1)の下方にあるシンクロトロン4から出射された荷電粒子ビームを、高エネルギービーム輸送装置5により、第2支持装置14(2)の2つの脚の間を通して後方に輸送し後方で上向きに輸送する構成が、シンクロトロン4と高エネルギービーム輸送装置5を回転体11の下方に効率よく配置し、粒子線治療システムの設置面積の低減に寄与する。
【0055】
なお、支持装置14の構成および配置は、本実施例に限定されるものではない。回転体11が、直線加速器2、シンクロトロン4、または高エネルギービーム輸送装置5の少なくとも一部よりも高い位置に配置されていればよい。直線加速器2、シンクロトロン4、または高エネルギービーム輸送装置5の少なくとも一部が回転体11の下方に配置されていると、さらに粒子線治療システム全体としての設置面積を低減することができる。また、高エネルギービーム輸送装置5を略鉛直方向に延伸して配置することで、設置面積を低減することができる。しかし、必ずしも、直線加速器2、シンクロトロン4、または、高エネルギービーム輸送装置5が回転体11の下方に配置されていなくてもよい。回転体11が高い位置に配置されることで、その下方には制御装置や電源を設置するスペースが確保でき、粒子線治療システム全体としての設置面積を低減することができる。
【0056】
なお、本実施例では、支持装置の脚が4本を例に説明したが、4本に限定されることはなく、3本以下でもよく5本以上でもよい。また、本実施例では、アーチ型の第1支持装置とアーチ型の第2支持装置とを例に説明したが、第1支持装置14(1)と第2支持装置14(2)が一体の構造となっていてもよいし、脚の一部または全部が別々の構造となっていてもよい。
【0057】
また、支持装置14の材質は、鉄などの金属としてもいいし、一部または全部をコンクリート等、他の材質を使用してもよい。支持装置14の材質を金属とすれば、シンクロトロン4と高エネルギービーム輸送装置5の据付け後に支持装置14を据付けることができ、シンクロトロン4と高エネルギービーム輸送装置5の据付けを容易に行うことができる。一方、支持装置14の材質をコンクリートとし、粒子線治療システムの制御装置(図示せず)とシンクロトロン4または高エネルギービーム輸送装置5との間に配置することで、制御装置の遮蔽壁としての機能をも果たすようにすることができる。
【0058】
また、本実施形態では、回転ガントリ1が略360度回転する例を示したが、回転角度は360度以下でよく、回転角度が300度以下のハーフガントリ等他のガントリを用いてもよい。
【0059】
回転ガントリ1が上述の支持装置14を備えることにより、直線加速器2とシンクロトロン4と高エネルギービーム輸送装置5とが設置される領域と、回転ガントリ1が設置される領域とを上下に重ねてそれら機器を配置することができ、粒子線治療システム全体としての設置面積を低減することができる。言い換えると、直線加速器2とシンクロトロン4と高エネルギービーム輸送装置5との床面への投影面の少なくとも一部と、回転ガントリ1の床面への投影面の少なくとも一部と、が重なるように機器を配置することができ、粒子線治療システム全体としての設置面積を低減することができる。
【0060】
照射ノズル6は、高エネルギービーム輸送装置5から輸送されてきた荷電粒子ビームを患者の癌組織の形状に合わせて好適な線量分布に加工し、患部に照射する装置である。照射ノズル6は、回転ガントリ1の回転体11に取り付けられ、回転体11と一体に回転軸30周りを回転することで、治療ケージ8内の患者に任意の方向から荷電粒子ビームを照射することができる。
【0061】
図6は、粒子線治療システムが建屋に設置された状態を示す図である。
【0062】
粒子線治療システムは、建築物である建屋100内に設置され、粒子線治療システムと建屋100とで粒子線治療施設を構成する。建屋100には、互いに治療室壁103で隔てられた加速器室101と治療室102とが設けられる。加速器室101には、直線加速器2とシンクロトロン4と高エネルギービーム輸送装置5と回転ガントリ1とが据付けられる。治療室102には患者が載置される治療台7が設置されている。治療台7は、治療室壁103の開口から治療ケージ8に出し入れ可能となっている。
【0063】
加速器室101は、回転ガントリ1が略360度自由に回転できるように回転軸30から回転半径のスペースが確保されている。なお、回転軸30が建屋100の外壁に対して斜めの角度を取るように回転ガントリ1を配置することで、建屋100の対角線上のスペースを利用でき、設置面積をより低減することができる。たとえば、
図2に示すように、略矩形の建屋100に対して、回転軸30が建屋100の対角線に沿うように配置される。
【0064】
本実施例では、加速器室101に、直線加速器2とシンクロトロン4と高エネルギービーム輸送装置5と回転ガントリ1とが設置されている例を説明したが、これに限定されず、たとえば、直線加速器2または高エネルギービーム輸送装置5が加速器室101でない別室に設置されてもよい。また、加速器室101内に制御装置(不図示)を配置してもよい。このときシンクロトロン4と制御装置との間の遮蔽壁を加速器室101に設けてもよい。
【0065】
本実施例では、シンクロトロン4を加速器の例として説明している。シンクロトロン4は、任意のエネルギーまで荷電粒子ビームを加速し、任意のエネルギーの荷電粒子ビームを出射することができる。一方、他の加速器であるサイクロトロンやシンクロサイクロトロンは、最大エネルギーまで加速した荷電粒子ビームしか出射できない。サイクロトロンやシンクロサイクロトロンでは、最大エネルギーで出射した荷電粒子ビームをディグレーダーと呼ばれる機器を通過させることでエネルギーを任意の値まで落として、患者に照射する。このとき、エネルギーを吸収するためディグレータは放射化してしまう。そのため、サイクロトロンの場合は、患者の被ばく量をおとすために、患者が載置されるガントリと加速器との間に分厚い放射壁を設ける必要がある。一方、ディグレータを必要としないシンクトロトロン4は、サイクロトロンやシンクロサイクロトロンのような放射壁が不要であり、加速器と回転ガントリ1とを同室に設置することができる。
【0066】
このように加速器と回転ガントリ1とが同室に設置できることで、建屋100の高さを抑え、粒子線治療施設の小型化、低価格化を実現することができる。ただし、シンクロトロン4に限らず、任意のエネルギーを出射できる加速器であれば、設置面積が低減されるという効果を得ることができる。
【0067】
また、円形または円環状の加速器から発生する中性子などは、円の外周方向への指向性を持つ。治療ケージ8とシンクロトロン4とが同一平面上に位置しないため、シンクロトロン4から発生する中性子のうち治療台7上の患者に向かうものが少なく、治療室102床面や治療室壁103を放射壁のように厚くしなくてもよい。
【0068】
治療室102のフロアレベルは、回転半径のスペースを確保した回転軸30の近傍に設定されるため、加速器室101のフロアレベルに対して通常6~8m程度高い位置となる。
【0069】
本実施例では、回転ガントリ1が1つ治療室102が1つの構成を例に説明したが、これに限定されない。加速器室101に回転ガントリ1が2以上設置され、建屋100に治療室102が2以上備えられていてもよい。
【0070】
上述した実施形態は説明のための例示であり、発明の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…回転ガントリ、2…直線加速器、3…低エネルギービーム輸送装置、4…シンクロトロン、5…ビーム輸送装置、6…照射ノズル、7…治療台、8…治療ケージ、9…フロントリング、10…リアリング、11…回転体、12…サポートローラー、14…支持装置、15…偏向電磁石、16…四極電磁石、17…真空ダクト、19…ガントリ輸送ライン、20…接続点、21…高周波加速空洞、22…架台、30…回転軸、100…建屋、101…加速器室、102…治療室、103…治療室壁