(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-08
(45)【発行日】2025-05-16
(54)【発明の名称】FeCo系合金製の積層造形物
(51)【国際特許分類】
C22C 33/02 20060101AFI20250509BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20250509BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20250509BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20250509BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20250509BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20250509BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20250509BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20250509BHJP
H01F 1/16 20060101ALI20250509BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20250509BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20250509BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20250509BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20250509BHJP
C22F 1/10 20060101ALN20250509BHJP
【FI】
C22C33/02 L
B22F1/05
B22F3/00 E
B22F10/28
B33Y70/00
C22C19/07 C
C22C30/00
C22C38/00 304
H01F1/16
B22F1/00 Y
B33Y80/00
C21D6/00 C
C22F1/00 628
C22F1/00 660C
C22F1/00 661Z
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 692A
C22F1/10 E
(21)【出願番号】P 2023123174
(22)【出願日】2023-07-28
【審査請求日】2024-11-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 透
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-002020(JP,A)
【文献】特開2021-085063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
C22C 19/00-19/07
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 38/00-38/60
H01F 1/12- 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeCo系合金からなる合金粉末
のみを用いて積層造形された積層造形体であって、構成相中にB2規則相およびα相を含むことを特徴とする、積層造形体。
【請求項2】
積層造形体をCo管球を用いてX線回折で測定したときの、B2規則相の(100)面とα相の(200)面とのピーク強度比が、B2(100)/α(200)≧2.5%を満足していること、を特徴とする請求項1に記載の積層造形体。
【請求項3】
FeCo系合金が、質量%で、Co:45.0~55.0%、V:0~2.5%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる合金であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層造形体。
【請求項4】
積層造形体の平均結晶粒径が15μm以上である、請求項1または2に記載の積層造形体。
【請求項5】
積層造形体の平均結晶粒径が15μm以上である、請求項3に記載の積層造形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形法の急速溶融急冷凝固プロセスに適したFeCo系合金を用いて積層造形された積層造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
Fe49Co2V(数値は質量%。)を代表組成とするパーメンジュールは、保磁力が低く飽和磁束密度が高い軟磁性材料として知られているFeCo系合金である。そしてパーメンジュールは、小型・高出力モーター、高磁力を要する電磁弁、電子機器のポールピース等に使用されている。パーメンジュールはB2規則相の析出により脆化する難加工材であるから、B2規則相が含まれた鋼材を部品へと加工することは容易ではない。
【0003】
金属積層造形によるニアネットシェイプでの部品製造ができれば好都合となるが、単純にパーメンジュールの成分組成で積層造形をしただけでは本来の軟磁気特性が発揮されるわけではない。たとえば、Fe50Coについて金属積層造形を適用した研究発表の概要集(非特許文献1参照。)において、積層造形物のX線回折のデータが示されているが、α相以外に同定されていないピークが観測されているものの、そのピーク中にB2規則相が認められておらず、パーメンジュールの溶製材のような軟磁気特性が発揮されておらず、十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】久世哲嗣ら 「軟磁性材料の特性に及ぼす造形条件および熱処理条件の影響」粉体粉末冶金協会講演概要集2-29A(2023年春季大会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、優れた軟磁気特性を示すFeCo系合金からなる金属積層造形物を提供することにある。
なお、FeCo系合金とは、主たる成分がFeとCoからなり、残部不可避的不純物からなる合金系のことであって、本発明でいうFeCo系合金においては、さらに任意的添加成分としてVを少量含有する場合も含む。
【0006】
いわゆるパーメンジュールは、保磁力が低く飽和磁束密度が高い軟磁性材料であるが、B2規則相が軟磁気特性の改善に関わっている。ところが金属組織中にB2規則相が含まれていると、脆性を呈することから靭性に乏しく、実用上、加工しづらいこととなる。そこで、靭性などの機械特性の観点から、溶製材においては、B2規則相の生成をむしろ制御するべく熱処理がなされたり、Vを積極的に添加することでB2規則相の含有量をコントロールすることが試みられている。
【0007】
積層造形は複雑な三次元形状を形成することに適した造形法であることから、あらかじめニアネットシェイプで加工できる積層造形法で造形物を作成することができる。すると、加工面での靭性への考慮のウエイトを一見下げやすいと思われる。
【0008】
ところが、パーメンジュール組成の成分の粉末を用いて積層造形を試みると、非特許文献1に記載のように、B2規則相が含まれていないものとなる。すると、パーメンジュールと成分組成自体は共通であるにもかかわらず、急速急冷凝固される積層造形法の積層造形体では、高価なCoを50%近く用いていながら、期待するような優れた軟磁気特性が呈され難く、所望の軟磁気特性には十分とはいえないものであった。
【0009】
単に成分組成が共通であっても、金属積層造形法による造形体は溶製材とは結晶組織に相違があり、局所的に溶融された粉末が急速急冷されるステップを繰り返して造形されていく性質上、単に積層造形しただけではB2規則相が形成されることなしに造形体が形成されるためである。
【0010】
なお、非特許文献1において同定されていないピークは、γ相や酸化物相、金属積層特有のひずみ由来のピークのいずれかによるものと考えられるものであり、B2規則相とは異なる。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、積層造形法で形成されたFeCo合金からなる積層造形体でありながら、優れた軟磁気特性を示す造形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、FeCo系合金のB2規則相は冷却が緩慢であるときに生成することから、微細粉末が急速急冷凝固されて形成される積層造形法による造形体においては急速急冷のままではB2規則相が生成しないこと、積層造形直後の組織は微細であることから、造形直後の急冷凝固された状態の造形体は、保磁力が過度に高くなりすぎてしまっており、一般的な溶製材のパーメンジュールと同等程度の軟磁気特性がかえって得難いことについての知見をもとに、さらに鋭意検討した結果、熱処理条件を工夫することによって、急速急冷凝固する積層造形法で形成されたFeCo系合金粉末(任意的付加成分としてVを含有していてもよい。)を用いた積層造形体においても、金属組織を形成する構成相中にB2規則相およびα相を含む積層造形体が得られること、本来のパーメンジュールと同様の優れた軟磁気特性を呈する造形体が得られることを見出した。
【0013】
すなわち、発明者らは、FeCo系合金は、一般的に結晶粒が微細であると保磁力が高くなってしまうことから、急速急冷凝固のままだと微細組織となり本来の磁気特性が発揮されることがないが、積層造形体をγ単相域である1000℃以上から高温焼きなましすることで、結晶粒が粗大化し、また、B2規則相が含有された組織が得られることとなり、その結果、パーメンジュール溶製材と同程度の軟磁気特性に優れた積層造形体が得られることを見出した。
【0014】
そこで、本発明の課題を解決するためのその第1の手段は、FeCo系合金からなる合金粉末を用いて積層造形された積層造形体であって、構成相中にB2規則相およびα相を含むことを特徴とする、積層造形体である。なお、ここでいうFeCo系合金は、Fe、Coを主成分とし、任意定成分としてVを少量含有していてもよく、残部が不可避的不純物である合金をいう。
【0015】
その第2の手段は、積層造形体をCo管球を用いてX線回折で測定したときの、B2規則相の(100)面とα相の(200)面とのピーク強度比が、B2(100)/α(200)≧2.5%を満足していること、を特徴とする第1の手段に記載の積層造形体である。
【0016】
その第3の手段は、FeCo系合金が、質量%で、Co:45.0~55.0%、V:0~2.5%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる合金であることを特徴とする、第1または第2の手段に記載の積層造形体である。ここでいうVは任意的成分であって、Vは0%であってもよい。
【0017】
その第4の手段は、積層造形体の平均結晶粒径が15μm以上である、第1から第3のいずれか1の手段に記載の積層造形体である。
【発明の効果】
【0018】
上記手段によると、積層造形による造形体であっても、飽和磁束密度が高く保磁力の低い軟磁気特性に優れたFeCo系合金の金属積層造形物を得ることができる。
図2に示すように、積層造形ままではB2規則相を含有しないことから、急速急冷凝固の積層造形のままではVの添加は任意的とすることができる。そして、たとえば熱処理条件を工夫することで、焼きなましによってB2規則相を含有させることもできるので溶製材に近い軟磁気特性を得ることができ、また靭性などの機械特性も適宜調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明成分のFeCo系合金粉末を用いて積層造形した後、1100℃から焼きなました積層造形体について、Co管球で測定したX線回折の測定結果を示すグラフで、横軸は2θ、縦軸は強度を対数軸で示したものである。
【
図2】本発明成分のFeCo系合金粉末を用いて積層造形したままの積層造形体について、Co管球で測定したX線回折の測定結果を示すグラフで、横軸は2θ、縦軸は強度を対数軸で示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るFeCo系合金粉末を積層造形して得られた積層造形体は、FeCo系合金(Vを任意に含んでいてもよい。)を材料として、金属積層造形により作製される。積層造形体を焼きなまし後、徐冷することによりα相に加えて、B2規則相を含んだ造形物を得ることができる。
【0021】
[粉末]
本発明のFeCo系合金からなる積層造形体に用いる積層造形用の粉末について説明する。積層造形に用いるFeCo系合金粉末は、種々の方法で得ることができ、水アトマイズ法、単ロール急冷法、双ロール急冷法、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法及び遠心アトマイズ法が例示されるが、球状化などの観点からガスアトマイズ粉末であることが好ましい。また、積層造形に用いる粉末の流動性と充填率の観点から、FeCo系合金粉末の平均粒子径は、体積平均で10μm以上100μm以下であることが望ましい。そこで以下ではガスアトマイズ粉末を例に説明する。
【0022】
[造形]
造形物の作製方法として、金属粉末を溶融および凝固する工程である急速溶融急冷凝固プロセスが挙げられる。このプロセスの具体例として、三次元積層造形法、溶射法、レーザーコーティング法および肉盛法が挙げられる。特に、本発明のFeCo系合金粉末は、粉末床溶融結合方式の三次元積層造形法に適しており、大きなサイズの造形物を高密度に形成することができる。
【0023】
三次元積層造形法として、例えば3Dプリンターを用いることができ、複雑な立体形状のニアネットシェイプの造形体を得ることができる。積層造形法のうち粉末床溶融結合方式(パウダーベッド方式)では、敷き詰められた本発明のFeCo系合金粉末に、レーザービーム又は電子ビームが照射される。照射により、粒子が急速に加熱され、急速に溶融する。溶融された粒子はその後、急速に凝固する。この溶融と凝固とにより、粒子同士が結合する。照射は、敷き詰められたFeCo系合金粉末の一部に対して選択的になされる。敷き詰められた粉末のうち、照射がなされなかった部分は溶融しない。照射がなされた部分のみにおいて、結合層が形成されることとなる。
【0024】
結合層の上に、さらにFeCo系合金粉末が薄く敷き詰められる。このFeCo系合金粉末の一部に、レーザービーム又は電子ビームが照射される。照射により、粒子が急速に溶融する。溶融された粒子はその後、急速に凝固する。この溶融と凝固とにより、粉末中の粒子同士が結合され、新たな結合層が形成される。新たな結合層は、既存の結合層とも結合される。
【0025】
照射による結合が繰り返されることによって、結合層の集合体が徐々に成長する。この成長により、三次元形状を有する造形物が得られる。この積層造形法により、複雑な形状の造形物が、容易に得られる。
【0026】
[熱処理]
FeCo系合金粉末を用いた積層造形体は、形成された未熱処理造形物をそのまま用いるのではなく、未熱処理造形物に対して焼きなまし熱処理を施す工程を経ることで、本発明の所望する特性の積層造形体を得ることができる。
【0027】
すなわち、FeCo系合金の積層造形体は、焼きなまし時の冷却速度を2000℃/hr以下とすることで、B2規則相を含む積層造形体を得ることができる。また、冷却速度を下げることでB2規則相の量を増やして、軟磁気特性を改善させることができる。冷却速度は、600℃/hr以下が好ましく、100℃/hr以下がより好ましい。
【0028】
FeCo系合金は、鍛造などの従来工程で使用される場合には、α単相域である900℃以下の温度で焼きなましされている。もっとも、急速急冷凝固を伴う積層造形法による積層造形体は、造形ままの状態では、急冷凝固の微細組織であるため、保磁力が高すぎることとなる。そこで、900℃以上の温度で焼きなまし行うこととすると、結晶粒を粗大化させることにより、保磁力の低い優れた軟磁気特性を得ることができる。また、γ単相域である1000℃以上で焼きなまし行うことでB2規則相の析出を促進させることができる。焼きなまし温度は、γ単相域から冷却することとし、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1050℃以上、さらに好ましくは1100℃以上である。
【0029】
[B2規則相(100)面と/α相(200)面のX線回折のピーク強度比]
Co管球を用いてX線回折で測定したときの、B2規則相の(100)面とα相(200)面とのピーク強度比:B2(100)/α(200)≧2.5%
Co管球を用いたX線回折によって得られたデータから、B2(100)/α(200)のピーク強度比を計算し、B2規則相の含有量を定量化した。B2規則相を含むFeCo系合金は優れた軟磁気特性を示すことから、B2(100)/α(200)ピーク強度比は、好ましくは2.2%以上、より好ましくは3.3%以上、さらに好ましくは3.9%以上である。
【0030】
[結晶粒径]
微細な金属粉末を用いて積層造形した造形体は、結晶粒径が微細となりやすく、通常の溶製材に比して保磁力が高くなる傾向にあるが、結晶粒径が粗大であるほど、保磁力が低く軟磁気特性に優れる。そこで熱処理によって、平均結晶粒径が15μm以上とすると、優れた軟磁気特性が得られる。積層造形体の平均結晶粒径は、好ましくは21μm以上であり、より好ましくは42μm以上であり、さらに好ましくは81μm以上である。
【0031】
[保磁力]
FeCo系合金は軟磁性材料として使用されるため、保磁力が低い方が好ましい。そこで好ましい保磁力は280[A/m]以下とする。より好ましい保磁力は、181[A/m]以下であり、さらに好ましい保磁力は75[A/m]以下である。
【0032】
[成分]
次に、本発明の実施の形態の説明に先立って、FeCo系合金の好ましい成分組成について規定する理由を説明する。なお成分における%は質量%である。
【0033】
Co:45.0~55.0%
Coは、磁性体を得るための基本の成分である。そこで、本発明ではCoは45.0~55.0%とする。Coが45%未満であると透磁率が低くなり、また、保磁力も高くなってしまう。この観点からは、Coの下限は好ましくは47.0%以上、より好ましくは、48.0%以上、さらに好ましくは49.0%以上である。他方、Coが55%を超えると飽和磁束密度が小さくなり、また、保磁力も高くなる。この観点から、Coの上限は好ましくは、53.0%以下、より好ましくは52.0%以下、さらに好ましくは51.0%以下である。
【0034】
V:0~2.5%
Vは加工性を改善させる成分として本発明に任意に付加することができる成分であるが、Vは0%であってもよい。B2規則相が過多であると靭性が劣り加工性が悪化することから、Vを添加すると加工性が向上する。もっとも、Vが過多になると、飽和磁束密度が下がることに加えて、保磁力も増加してしまう。そこで、Vの添加は0~2.5%以下(Vは0%を含む。)とする。
【0035】
なお、本発明は積層造形法による造形体であるから、ニアネットシェイプの形状を予め造形することができるので、加工性よりも軟磁気特性を優先して添加するVの量を少なくすることができる。この観点からは、Vは2.0%以下、より好ましくは、1.0%以下、さらに好ましくは、0.5%以下である。また、Vは0%であってもよい。
【0036】
残部:Fe及び不可避的不純物
Feは一般的に飽和磁気モーメントが高い成分であり、Coを添加することによって、FeCo系合金として優れた飽和磁束密度を実現することができる。
【0037】
[実施例]
表1、2に本発明の実施例および比較例に用いた粉末の化学成分を示す。この粉末を用いた積層造形体の成分もほぼ同様となる。
【0038】
(粉末の作成)
粉末は真空溶解不活性ガスアトマイズ法により作製した。具体的には、真空中にて、アルミナ製坩堝で、表1,2に記載の所定の組成を有する原料を高周波誘導加熱で加熱し、溶解した後、坩堝下にある直径が5mmのノズルから、溶湯を落下させ、この溶湯に高圧アルゴンガスを噴霧し、粉末を得た後、-63μmの篩で分級した。
【0039】
(積層造形について)
これらの粉末を原料として、三次元積層造形装置(EOS-M280)により、積層造形法を実施し、10×10×10mmの直方体からなる積層造形体を得た。造形条件は装置標準パラメータMS1(積層厚み40μm)をベースとしつつ、その出力を300W、走査速度を1100mm/sに変更したものを用いて積層造形を実施した。この積層造形体を保磁力測定の試験片とした。
【0040】
(熱処理条件について)
表1、2に、実施例および比較例の積層造形体の熱処理条件を示す。焼きなましは、真空雰囲気下で炉冷、Ar雰囲気化でガス冷、大気雰囲気下で水冷の条件で行い、冷却速度の違いを評価した。
【0041】
[B2(100)/α(200)X線強度比]
熱処理後の造形体(10×10×10mm)を、積層方向に垂直な面で切断した後に、機械的研磨行い、研磨面についてX線回折の測定を行った。X線回折は、Rigaku社製のRAPID IIを使用しCo管球で測定を行った。α相(PDF番号:01ー087ー0722)の(200)面の反射のピークと、B2規則相(PDF番号:01―071―5029)の(100)面の反射のピークの最大値の比を取り、B2(100)/α(200)X線強度比とした。
【0042】
[組織観察:結晶粒径の決定]
熱処理後の造形体(10×10×10mm)を、積層方向に垂直な面で切断した後に機械的研磨し、研磨面を王水腐食処理した後に、埋め込み試料の中心部を光学顕微鏡にて倍率400倍で観察した。ランダムに選んで5カ所で観察を行い、線分法にて算出した結晶粒径の平均値を、その試料の平均結晶粒径とした。
【0043】
[保磁力測定]
保磁力の測定は、保磁力計(HC-1031、電子磁気工業株式会社製)を用いて行った。熱処理後の造形体(10×10×10mm)を保磁力計に置き、積層方向に垂直な面に磁場をかけて保磁力の測定を行った。
【0044】
[飽和磁束密度測定]
飽和磁束密度測定は、振動試料型磁力計(VSM)により測定した。熱処理後の造形体(2×2×2mm)に対して、積層方向に垂直な面に磁場をかけて飽和磁束密度の測定を行った。
【0045】
各測定の結果を表1,表2に示す。表2において下線を引いた部分は本発明の手段の成分組成やピーク強度比から外れており、また作用効果が下回ったものであることを示す。
【0046】
【0047】
【0048】
本発明の実施例は、1000℃以上の高温から焼きなましされており、緩慢に冷却されたことで
図1に示すようにB2規則相が観察されている。実施例では、保磁力はいずれも200[A/m]以下であり、優れた保磁力を示した。また飽和磁束密度も2.10T以上であり、軟磁性特性に優れたものとなった。
【0049】
なお、実施例6は、B2(100)/α(200)強度比[%]が2.2と値が低く、第2の手段で規定する2.5以上のピーク強度比を下回ったことから、B2の含有量がやや低いものであったところ、他の実施例よりも保磁力がやや高めの値となっている。
【0050】
本発明の実施例では、非特許文献1に記載されているα相相以外の同定できないピークは観測されなかった。非特許文献1ではB2規則相は観察されておらず、その造形時の積層厚みが20μmであったのに対し、本発明では積層厚み40μmと異なる造形条件を適用していることから、急冷凝固時の熱履歴の違いが構成相に差を生じたものである。
また、非特許文献では1000℃より下のα単相域で焼きなましを行っていたのに対して、本発明ではγ単相域で焼きなましを行っており、この高温の焼きなましもB2規則相の析出を促進している。
本発明のものは非特許文献1と異なる構成相であり、B2規則相を含んでいることから、保持力が200[A/m]以下を呈するものとなっている。そこで、本発明では、溶製材のバルクのパーメンジュールの軟磁気特性を、積層造形材においても実現することが確認された。
【0051】
一方で、比較例の保磁力は全て300[A/m]を超えており、保磁力に優れないものとなった。また飽和磁束密度も2.08T以下と実施例よりも低いものとなった。
比較例1は、Vの量が過多であり、保磁力が高すぎ、また、飽和磁束密度が低くなった。
比較例2は、Coが過少であり、保磁力が高すぎ、また、飽和磁束密度が低くなった。
比較例3は、Coが過多であり、保磁力が高すぎ、また、飽和磁束密度が低くなった。
比較例4は、水冷であることから、冷却が緩慢でなければ生じないB2規則相が構成相中に含まれていないものとなったため、保磁力が高く、また、飽和磁束密度が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るFeCo系合金を用いて積層造形した積層造形材は、優れた軟磁気特性を示すことから、小型・高出力モーター、高磁力を要する電磁弁、電子機器のポールピース等といった部品に適用することができる。