(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-09
(45)【発行日】2025-05-19
(54)【発明の名称】飼料組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23K 20/163 20160101AFI20250512BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20250512BHJP
A23K 50/75 20160101ALI20250512BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20250512BHJP
【FI】
A23K20/163
A23K10/30
A23K50/75
C12N1/00 A
(21)【出願番号】P 2022049620
(22)【出願日】2022-03-25
【審査請求日】2024-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2021083960
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】西本 完
(72)【発明者】
【氏名】遠野 雅徳
(72)【発明者】
【氏名】山崎 信
(72)【発明者】
【氏名】清 多佳子
(72)【発明者】
【氏名】小林 寿美
(72)【発明者】
【氏名】大津 晴彦
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】西本完,イネ科牧草に特有なオリゴ糖ロリオースの生合成経路及び代謝機構に関する研究,科学研究費助成事業研究成果報告書,2021年06月17日
【文献】西本完、北岡本光,牧草由来オリゴ糖 ロリオースおよびロリオース二糖の調整,応用糖質科学,日本,2019年08月20日,Vol. 9, No. 3,pp. (44)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 20/163
A23K 10/30
A23K 50/75
C12N 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロリオース又はロリオース二糖を含有することを特徴とする飼料組成物。
【請求項2】
家畜又は家禽用であることを特徴とする請求項1に記載の飼料組成物。
【請求項3】
ニワトリ用であることを特徴とする請求項1に記載の飼料組成物。
【請求項4】
ロリオース又はロリオース二糖を含有する飼料組成物の製造方法であって、以下の工程(1)~(3)
、及び(5)を含むことを特徴とする飼料組成物の製造方法、
(1)ドクムギ属植物及びウシノケグサ属植物からなる群から選ばれる1種以上の植物の種子から籾殻を除去する工程、
(2)工程(1)で得られた種子を、粉砕する工程、
(3)工程(2)で得られた種子粉砕物から0.5~2.0mmの目開きのふるいを通過する種子粉砕物を回収する工程、
(5)工程(3)で回収された種子破砕物を使用して飼料組成物を得る工程。
【請求項5】
(4)工程(3)で得られた種子粉砕物から100~200μmの目開きのふるいを通過しない種子粉砕物を回収する工程を更に含むこと、
及び工程(5)が工程(4)で回収された種子破砕物を使用して飼料組成物を得る工程であることを特徴とする請求項4に記載の飼料組成物の製造方法。
【請求項6】
ロリオース又はロリオース二糖を含有することを特徴とする微生物増殖用組成物。
【請求項7】
微生物が、ビフィズス菌であることを特徴とする請求項6に記載の微生物増殖用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料組成物、飼料組成物の製造方法、及び微生物増殖用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで畜産業界においては、家畜の生産性向上や感染症予防のため、抗菌性飼料添加物等の抗菌性物質の投与が日常的に行われてきた。しかしながら、そのような抗菌性物質の乱用は薬剤耐性菌の頻出を招く要因であることが明らかとなり、2017年、世界保健機関は、成長促進や疾病予防を目的とした健康な動物への抗生物質の使用をやめるよう勧告した。これにより、生産現場において、罹患率の上昇による生産性の低下が問題視されるようになり、畜産物の生産性向上が重要な課題となっている。このような課題の解決に向け、抗菌性物質の代替となる家畜の生産性向上に資する製品の開発が期待されており、腸内細菌叢の改善効果を期待した飼料用添加物の開発に注目が集まっている。
【0003】
ヒトの食品や家畜の飼料に対してオリゴ糖等のプレバイオティクスを添加し、腸内細菌叢を改善させることはよく知られている。例えば、特許文献1には、オリゴ糖組成物から構成される動物飼料組成物が記載されており、この動物飼料組成物が動物の成長を増進することが記載されている。また、特許文献2には、フラクトオリゴ糖を主成分とする糖類を含有する家畜飼料が記載されており、この家畜飼料が家畜の離乳時に多く見られる下痢を改善し、体重増加を効率化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-509176号公報
【文献】特開昭60-34134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
飼料へのプレバイオティクス等の添加は畜産物の生産コスト増加に直結することから、コストパフォーマンスに優れた新たなプレバイオティクス素材の開発が求められている。本発明は、このような背景の下でなされたものであり、動物の腸内細菌叢を改善し、動物の成長を増進する新規な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、牧草として用いられているドクムギ属(Lolium)及びウシノケクサ属(Festuca)植物に特徴的に含まれるロリオースと呼ばれるオリゴ糖に着目し、ドクムギ属植物の一種であるライグラスの種子粉砕物がニワトリのヒナに対して増体効果を示すことを見出し、この知見に基づき、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔7〕を提供するものである。
〔1〕ロリオース又はロリオース二糖を含有することを特徴とする飼料組成物。
【0008】
〔2〕家畜又は家禽用であることを特徴とする〔1〕に記載の飼料組成物。
【0009】
〔3〕ニワトリ用であることを特徴とする〔1〕に記載の飼料組成物。
【0010】
〔4〕ロリオース又はロリオース二糖を含有する飼料組成物の製造方法であって、以下の工程(1)~(3)を含むことを特徴とする飼料組成物の製造方法、
(1)ドクムギ属植物及びウシノケグサ属植物からなる群から選ばれる1種以上の植物の種子から籾殻を除去する工程、
(2)工程(1)で得られた種子を、粉砕する工程、
(3)工程(2)で得られた種子粉砕物から0.5~2.0mmの目開きのふるいを通過する種子粉砕物を回収する工程。
【0011】
〔5〕(4)工程(3)で得られた種子粉砕物から100~200μmの目開きのふるいを通過しない種子粉砕物を回収する工程を更に含むことを特徴とする〔4〕に記載の飼料組成物の製造方法。
【0012】
〔6〕ロリオース又はロリオース二糖を含有することを特徴とする微生物増殖用組成物。
【0013】
〔7〕微生物が、ビフィズス菌であることを特徴とする〔6〕に記載の微生物増殖用組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、新規な飼料組成物、飼料組成物の新規な製造方法、及び新規な微生物増殖用組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】各種オリゴ糖を用いたビフィズス菌増殖試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)飼料組成物
本発明の飼料組成物は、ロリオース又はロリオース二糖を含有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明において「飼料組成物」とは、通常、各種飼料に添加する添加用組成物を意味するが、飼料組成物自体が飼料となる場合もある。
【0018】
ロリオースは、スクロースのグルコース残基にガラクトース残基がα1,3-結合した三糖であり、ラフィノースの異性体である。ロリオースは、牧草であるペレニアルライグラス(Lolium perenne L.)やメドウフェスク(Festuca pratensis Huds.)に存在することが知られているが、植物体内における動態・消長や生理的役割などはよくわかっていない。
【0019】
使用するロリオースは、精製されたものであってもよいが、夾雑物を含むものであってもよい。夾雑物を含むロリオースとして、例えば、ロリオースを含む植物の種子の粉砕物を使用することができる。ロリオースを含む植物の種子の粉砕物は、例えば、後述する飼料組成物の製造方法に従って調製することができる。また、精製されたロリオースは、前述した種子粉砕物を抽出精製することにより調製することができる。
【0020】
ロリオース二糖は、ロリオースのフルクトフラノシル結合を分解し、フルクトース残基を除去することで生成するガラクトースとグルコースがα1,3-結合した二糖(α-D-galactosyl-(1,3)-D-glucose)であり、メリビオースの異性体である。ロリオース二糖についても研究例は少なく、慣用名も付けられていない。
【0021】
使用するロリオース二糖は、ロリオースと同様、精製されたものでも、夾雑物を含むものでもよい。ロリオース二糖は、ロリオースを酸処理することによって調製することができる。
【0022】
本発明の飼料組成物は、ロリオースやロリオース二糖以外の成分を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の飼料組成物を添加した飼料を動物に給与する場合、その飼料中のロリオース又はロリオース二糖の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01~10重量%とすることができ、好ましくは、0.1~1重量%とすることができる。
【0024】
本発明の飼料組成物を給与する動物の種類は特に限定されないが、家禽(例えば、ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、ガチョウ、カモ、アヒルなど)や家畜(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジなど)が好ましく、ニワトリが特に好ましい。
【0025】
後述する実施例に示すように、ロリオースは、ニワトリに対して増体効果を示す。この理由は必ずしも明確ではないが、ロリオースがビフィズス菌増殖効果を持つことから(
図1)、ニワトリの腸内細菌叢が改善されたことによるものと推測される。ロリオース二糖がニワトリに対して増体効果を示すことは現時点では確認されていないが、ロリオース二糖も、ロリオースと同様に、ビフィズス菌増殖効果を持つことから(
図1A~D)、ロリオース二糖もニワトリに対して増体効果を示すと推測される。また、ロリオース及びロリオース二糖の増殖効果は、ニワトリ盲腸から単離されたビフィズス菌だけでなく(
図1A)、ブタの糞便(
図1D)やウシのルーメン(
図1B)から単離されたビフィズス菌に対して確認されていることから、ロリオース及びロリオース二糖は、ウシやブタなどニワトリ以外の動物に対しても増体効果を示すと推測される。
【0026】
(B)飼料組成物の製造方法
本発明のロリオース又はロリオース二糖を含有する飼料組成物の製造方法は、下記の工程(1)~(3)を含むことを特徴とするものであり、より好ましくは、更に下記の工程(4)を含むことを特徴とするものである。
【0027】
工程(1)では、ドクムギ属植物及びウシノケグサ属植物からなる群から選ばれる1種以上の植物の種子から籾殻を除去する。ドクムギ属植物としては、イタリアンライグラス(Lolium multiflorum Lam.)、ハイブリッドライグラス(Lolium x hybridum Hausskn.)、ペレニアルライグラス(Lolium perenne L.)、ドクムギ(Lolium temulentum L.)などを挙げることができ、ウシノケグサ属植物としては、メドウフェスク(Festuca pratensis Huds.)、 トールフェスク(Festuca arundinacea Schreb.)、シープフェスク(Festuca ovina L.)などを挙げることができる。使用する種子は、これらの植物の中の1種類だけでもよく、2種類以上混合した種子を使用してもよい。籾殻の除去は、イネ科植物の種子の籾殻除去において常用される方法に従って行うことができる。
【0028】
工程(2)では、工程(1)で得られた種子を粉砕する。粉砕は、イネ科植物の種子の粉砕において常用される方法に従って行うことができる。
【0029】
工程(3)では、工程(2)で得られた種子粉砕物から0.5~2.0mmの目開きのふるい(第一のふるい)を通過する種子粉砕物を回収する。第一のふるいとしては、0.5~2.0mmの目開きのふるいを使用すればよいが、0.8~1.5mmの目開きのふるいを使用することが好ましく、1.0mmの目開きのふるいを使用することがより好ましい。
【0030】
工程(4)では、工程(3)で得られた種子粉砕物から100~200μmの目開きのふるい(第二のふるい)を通過しない種子粉砕物を回収する。第二のふるいとしては、100~200μmの目開きのふるいを使用すればよいが、150~200μmの目開きのふるいを使用することが好ましく、180μmの目開きのふるいを使用することがより好ましい。このように第一のふるいを通過し、第二のふるいを追加しない種子粉砕物を回収することによって、ロリオースを多く含み、夾雑物の少ない種子粉砕物を得ることができる。
【0031】
(C)微生物増殖用組成物
本発明の微生物増殖用組成物は、ロリオース又はロリオース二糖を含有することを特徴とするものである。ここで、「微生物増殖用組成物」とは、投与対象動物(ヒト又はヒト以外の動物)体内の特定の微生物を増殖されるために用いられる組成物をいう。微生物の種類は特に限定されないが、腸やルーメンなどの消化管に存在する宿主に有益な作用をもたらす微生物が好ましく、例えば、ビフィズス菌、乳酸菌などを挙げることができる。
【0032】
使用するロリオース及びロリオース二糖は、飼料組成物と同様に、精製されたものでも、夾雑物を含むものでもよい。
【0033】
本発明の微生物増殖用組成物は、ロリオースやロリオース二糖以外の成分、例えば、賦形剤、乳化剤、安定化剤、pH調製剤、香料などを含んでいてもよい。また、本発明の微生物増殖用組成物を、栄養組成物、食品組成物、又は医薬組成物として使用する場合は、各組成物に通常含まれるような成分を含んでいてよい。
【0034】
本発明の微生物増殖用組成物の摂取又は投与量は、目的の微生物を増殖させることのできる量であれば特に限定されないが、例えば、ビフィズス菌を増殖させる場合であれば、ヒト成人1日当たりの摂取又は投与量として、体重1kg当たりロリオースやロリオース二糖として0.01~100mgとすることができ、好ましくは、1~10mgとすることができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1〕
(1)方法
(1.1)オリゴ糖素材の調製
ロリオースを含有するイタリアンライグラス種子は、市販のワセアオバ(雪印種苗株式会社)を用い、嗜好性試験には種子そのものを、第一次給与試験では、種子を超遠心粉砕機(ZM-100、レッチェ社)にて、1mmメッシュのスクリーンで粉砕したライグラス種子(粉)を用いた。また、(2.2)に後述するように、ライグラス種子(粉)においてエネルギー不足が示唆されたことから、第二次給与試験では、粉砕前に低速撹拌によるもみすりを行うとともに、粉砕後に180μmのふるいを通過した画分を除去したものをライグラス種子(製粉)として用いた。これによりロリオース含有量を維持したまま、不要な成分を除去した組成物を給与試験に用いた。
【0037】
ラクト-N-ビオースI(LNB)は以前開発された方法に従って調製した高純度粉末(純度99%)を使用した(M. NISHIMOTO and M. KITAOKA: Practical Preparation of Lacto-N-biose I, the Candidate of the Bifidus Factor in Human Milk. Biosci. Biotechnol. Biochem., 71 (8), 2101-2104 (2007))。
【0038】
(1.2)嗜好性試験
31日齢のロードアイランドレッド種の雄ヒナを10羽供試して嗜好性試験を行った。平均体重がおおよそ等しくなるように2羽ずつ5区画のケージに収容し、それぞれのケージに市販の採卵鶏幼雛用飼料(対照飼料、アジャスト幼雛、豊橋飼料株式会社)、対照飼料とライグラス種子を等量配合した飼料(ライグラス飼料(粒))の双方を自由摂取できるように餌箱を設置した。試験期間は6日間とし、奇数日は対照飼料を向かって左側、ライグラス飼料(粒)を右側に、偶数日はその逆になるように、毎日餌箱の位置を入れ替え、6日間のそれぞれの飼料の摂取量を測定した。
【0039】
(1.3)第一次給与試験
35日齢の白色レグホーン種の雄ヒナを供試した。卵用鶏育成幼雛期の養分要求量を満たすように設計した、トウモロコシ・大豆粕主体の対照飼料(表1)、対照飼料と粉砕したライグラス種子を等量配合した飼料(ライグラス飼料(粉))、対照飼料にLNBを1%添加した飼料の合計3種類の飼料を調製した。それぞれの飼料に、平均体重が等しくなるようにヒナを5羽ずつ割り付け、8日間給与した。配合したライグラス種子の代謝エネルギー(ME)含量及び回腸アミノ酸消化率を酸化クロムによるインデックス法により求めた。
【表1】
【0040】
(1.4)第二次給与試験
16日齢の黄斑プリマスロック種の雄ヒナを供試した。卵用鶏育成幼雛期の養分要求量を満たすように設計した、トウモロコシ・大豆粕主体の対照飼料、(1.1)に記述したように精製したライグラス種子を50%配合し、栄養素含量が対照飼料と同等になるように調製したライグラス飼料(製粉)(表1)、LNBを0.1%及び1.0%添加した飼料を調製した。それぞれの飼料に、平均体重が等しくなるようにヒナを5羽ずつ割り付け、16日間給与した。
【0041】
(1.5)ビフィズス菌培養試験
Bifidobacterium属細菌種の基準株(理化学研究所バイオリソース研究センター微生物材料開発室より入手)の各種オリゴ糖資化性を検討した。Man-Rogosa-Sharpe培地(55g/L)にPhytone peptone(5g/L)とL-システイン HCl (0.5 g/L)を加えた液体培地を用いて24時間嫌気条件で前培養後、糖源フリー基礎培地[トリプトン(5.0 g/L)、酵母抽出物 (5.0 g/L)、ペプトン(10 g/L)、K2HPO4 (2.0 g/L)、クエン酸二アンモニウム (2.0 g/L)、酢酸ナトリウム (5.0 g/L)、硫酸マンガン一水和物 (0.25 g/L)、硫酸マンガン一水和物 (0.58 g/L)、Tween 80 (1 ml/L)及びL-システイン HCl (0.5 g/L)]に各種オリゴ糖を最終濃度1%(w/v)添加した条件にて72時間嫌気培養した。培養終了後の培養上清pHと濁度(OD600)を測定することにより、各菌株のオリゴ糖資化性を判定した。
【0042】
Bifidobacterium属細菌種の基準株は、B. pullorum subsp. gallinarum JCM 6291T(単離源:ニワトリ盲腸)、B. ruminantium JCM 8222T(単離源:ウシルーメン)、B. catenulatum subsp. catenulatum JCM 1194T(単離源:ヒト糞便)、B. longum subsp. suillum JCM 19995T(単離源:子豚糞便)、B. thermacidophilum subsp. thermacidophilum JCM 11165T(単離源:下水)、B. boum JCM 1211T(単離源:ウシルーメン)の6菌株を使用した。また、オリゴ糖は、アラビノース(Ara)、グルコース(Glu)、フラクトオリゴ糖(FOS)、ラフィノース(Raf)、ラクトース(Lac)、ガラクト-N-ビオース(GNB)、LNB、ロリオース二糖(Fes)、ロリオース(Lol)、トレハロース(Tre)を使用した。
【0043】
(1.6)ロリオース精製標品の調製(1)
市販のペレニアルライグラス種子(600g)をミルサーで粉砕後、2.4Lの80%(v/v)エタノールを加えオリゴ糖画分を溶解させた。懸濁液をろ過によりろ液と沈殿に分画後、沈殿に対して再度2.4Lの80%(v/v)エタノールを加え再抽出した。得られたろ液(4.6L)をエバポレータで1.4Lまで濃縮後、2Lの水を加えてろ過することにより不溶性画分を除去した。得られたろ液を精密ろ過(PMP003膜、旭化成)、および限外ろ過(SLP0053膜、旭化成)により分子量10000以上の夾雑物を除去した。また、得られたろ液(2.5L)にDEAE-セルロース担体を加えて撹拌しろ過することで、負電荷の夾雑物を担体に吸着させ除去した。得られたろ液(3.3L)をエバポレータで80mLまで濃縮し、ゲルろ過(担体TOYOPEARL HW40S、東ソー、カラム径φ5cm、高さ90cm)に供し、ロリオース画分を回収した。回収画分を濃縮・凍結乾燥することにより、純度95%以上のロリオース標品3gを得ることができた。
【0044】
(1.7)ロリオース精製標品の調製(2)
(1.1)に記載した方法により得られたライグラス種子(製粉)300gに4倍容の水を加え水溶性成分を抽出後、ろ過により水溶液を回収した。得られた溶液に300gの活性白土を加え懸濁後にろ過することにより、溶液中の色素成分を除去した。同溶液を活性炭カラムに供し、30%(v/v)エタノールによりオリゴ糖画分を溶出した。得られたオリゴ糖画分をエバポレータで30mLまで濃縮し、ゲルろ過カラム(担体TOYOPEARL HW40S、東ソー、カラム径φ5cm、高さ90cm)に供し、ロリオース画分を回収した。回収画分を濃縮・凍結乾燥することにより、純度95%以上のロリオース標品1.5gを得ることができた。
【0045】
(1.8)ロリオース二糖精製標品の調製
上述の方法により調製したロリオース標品3.2gを180mLの水で溶解したのち、180mLの0.2M塩酸-塩化カリウム緩衝液(pH1.9)を加え、60℃で22時間、酸加水分解を行った。反応終了時に水酸化ナトリウムを加えて溶液のpHを中性(pH7.5)にした後、エバポレータで20mLまで濃縮した。濃縮液を上記と同様にゲルろ過カラムに供し、ロリオース二糖画分を回収した。回収画分を濃縮・凍結乾燥することにより、純度95%以上のロリオース二糖標品1.1gを得ることができた。
【0046】
(2)結果と考察
(2.1)嗜好性試験
ライグラス種子の飼料利用性を検証するため、市販の飼料とライグラス飼料(粒)の嗜好性を比較した。その結果、給与期間中の摂取量は、対照飼料=332±15g、ライグラス飼料(粒)=304±25g(平均値±標準誤差、n=5)であり、有意な差は認められなかった。供試したヒナは、試験前より対照飼料を摂取していたのにもかかわらず両区の間に差がみられなかったことを考えると、ライグラス種子の嗜好性は悪くないと推察される。
【0047】
(2.2)第一次給与試験
LNB及びライグラス種子(粉)を添加した飼料を用いて給与試験を行った。ライグラス種子は飼料の形状をそろえるため、(1.1)に記述のとおり粉砕したライグラス種子(粉)を用いた。飼養成績について表2に示す。飼料摂取量は各区間に差は認められなかったが、増体量はライグラス区が他区よりも有意に低かった。飼料効率についてもライグラス(粉)区が他区よりも有意に低かった。配合したライグラス種子のME含量は、2.22±0.06kcal/gと推定された。ライグラス(粉)区の増体量及び飼料効率が低かった理由として、飼料中のエネルギーが不足したことが考えられる。対照飼料のME含量の実測値が2.97kcal/gであったのに対して、ライグラス(粉)区は2.59kcal/gと約0.4kcal/gほど低かった。飼料摂取量は区間に差が見られなかったことから、ライグラス飼料中のエネルギーを対照飼料と同等になるように調製することにより、対照区と同程度の飼料成績が期待できると考えられた。LNB区については、対照区と有意な差は認められなかったものの、飼料効率が良くなる傾向が見られた。ライグラス種子の回腸アミノ酸消化率は50%前後と一般的な飼料原料よりも概ね低く、配合設計する際にはアミノ酸消化率を加味する必要があると考えられた。
【表2】
【0048】
(2.3)第二次給与試験
LNB、及びエネルギーを調整したライグラス(製粉)を添加した飼料用いて給与試験を行った。ライグラス種子は飼料の形状及びエネルギーをそろえるため、(1.1)に記述のとおり粉砕後に製粉したライグラス種子(製粉)を用いた。なお、ライグラス種子の製粉処理により繊維性成分が除去され、ロリオース含有量にほぼ変動がなかったため、ロリオース含有率は1.4倍に向上していた。飼養成績について表2に示す。LNB区については、対照区と飼料摂取量及び増体量が向上する傾向が認められたものの、有意差が付くほどではなかった。一方、ライグラス(製粉)区においては、増体量に5%水準の有意な向上が観察された。なお、飼料摂取量及び飼料効率は区間において差は認められなかった。ライグラス(製粉)区の飼料を調製する際、エネルギー源となる油脂及び不足する一部のアミノ酸を配合し、対照区と同等の栄養素となるようにした。その結果、第一次給与試験で観察された増体量の低下は解消され、さらに対照区よりも良好な増体が確認された。その要因として、有意差はなかったものの、ライグラス(製粉)区の飼料摂取量は他区よりも多かったことがあげられる。第一次給与試験においても、ライグラス配合飼料区の増体量は低かったものの、飼料摂取量は他区と比較して遜色がなかったことから、ライグラス自体の嗜好性が良好であることが推察された。なお、対照飼料及びライグラス配合飼料のME含量は、それぞれ3.09及び3.05 kcal/gと、ほぼ同等であった。
【0049】
(2.4)ビフィズス菌培養試験
培養終了後における各菌株の培養上清の濁度を
図1に示す。ロリオース添加条件では、JCM 6291T、JCM 8222T、JCM 1194T、JCM 19995T、及びJCM 11165Tの5菌株の増殖が観察された。一方、ロリオース二糖添加条件では、JCM 6291T、JCM 8222T、JCM 1194T及びJCM 19995Tの4菌株の増殖が観察されたが、ロリオース添加条件と比較すると、JCM 6291T及びJCM 8222Tはあまり増殖しなかった。
【0050】
〔実施例2〕
(1)方法
供試鶏:ブロイラー(チャンキー)
試験区:4区(10羽ずつ4群で群飼×4区=計160羽)
(1)コントロール・・・・・・・・・・第二次給与試験の対照飼料
(2)ライグラス種子(製粉)・・・・・ 第二次給与試験のライグラス種子飼料
(3)ライグラス種子(製粉)半量・・・上記(1)(2)を等量混合
(4)フラクトオリゴ糖3%添加区・・・ 上記(1)に試薬グレードのフラクトオリゴ糖を3%添加
給与期間:1日齢~24日齢
【0051】
(2)結果
ブロイラー(チャンキー)においても、コントロールと比較して同等の有意な増体効果が得られた。また、ライグラス種子(製粉)の割合を半量に減らした場合でも有意な増体効果が認められた。さらに、飼料効率においてもライグラス種子(製粉)の混合により向上することが確認された。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、飼料に関連する産業において利用可能である。