IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許7679888常磁性ガーネット型透明セラミックス、磁気光学材料及び磁気光学デバイス
<>
  • 特許-常磁性ガーネット型透明セラミックス、磁気光学材料及び磁気光学デバイス 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-12
(45)【発行日】2025-05-20
(54)【発明の名称】常磁性ガーネット型透明セラミックス、磁気光学材料及び磁気光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/44 20060101AFI20250513BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20250513BHJP
   G02F 1/09 20060101ALI20250513BHJP
   G02B 27/28 20060101ALN20250513BHJP
【FI】
C04B35/44
C04B35/50
G02F1/09 501
G02B27/28 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023559548
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2022040094
(87)【国際公開番号】W WO2023085107
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2024-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2021185376
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碇 真憲
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓士
(72)【発明者】
【氏名】田中 恵多
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-202916(JP,A)
【文献】特開2017-137223(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132668(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/44
C04B 35/50
G02F 1/09
G02B 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される複合酸化物の焼結体であり、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有し、平均焼結粒径が5μm以上であり、光路長25mmでの波長1064nmにおける全光線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下であり、更に光路長25mmでの波長1300nmにおける全光線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下であることを特徴とする常磁性ガーネット型透明セラミックス。
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、0.05≦x≦0.4、0≦y<0.004、0.6≦1-x-y<0.95、0≦z<0.004、0.001<y+z<0.005である。)
【請求項2】
波長1064nmでのベルデ定数が32rad/(T・m)以上である請求項1記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
【請求項3】
光路長25mmにおける波長1064nmのレーザー光を入射した場合の光学有効径内全面における消光比が42dB以上である請求項1又は2記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
【請求項4】
光路長25mmにおける波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mm、入射パワー100Wで入射した場合の該ビーム径の変化量が10%以下である請求項1~3のいずれか1項記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
【請求項5】
熱伝導率が4.8W/(m・K)以上である請求項1~4のいずれか1項記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスからなる磁気光学材料。
【請求項7】
請求項6記載の磁気光学材料を用いて構成される磁気光学デバイス。
【請求項8】
上記常磁性ガーネット型透明セラミックスをファラデー回転子として備え、該ファラデー回転子の光学軸上の前後に偏光材料を備えた波長帯0.9μm以上1.1μm以下で利用可能な光アイソレータである請求項7記載の磁気光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常磁性ガーネット型透明セラミックスに関し、より詳細には、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適なテルビウムを含むガーネット型透明セラミックスからなる磁気光学材料、並びに該磁気光学材料を用いた磁気光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ファイバーレーザーの高出力化が可能となってきたこともあり、該ファイバーレーザーを用いたレーザー加工機の普及が目覚しい。ところで、レーザー加工機に組み込まれるレーザー光源は、外部からの光が入射すると共振状態が不安定化し、発振状態が乱れる現象が起こる。特に発振された光が途中の光学系で反射されて光源に戻ってくると、発振状態は大きく撹乱される。これを防止するために、通常光アイソレータがレーザー光源と光ファイバーの間など光源の光出射側に設けられる。
【0003】
光アイソレータは、ファラデー回転子と、ファラデー回転子の光入射側に配置された偏光子と、ファラデー回転子の光出射側に配置された検光子とからなる。また、ファラデー回転子は、光の進行方向に平行に磁界を加えて利用する。このとき、光の偏波線分はファラデー回転子中を前進しても後進しても一定方向にしか回転しなくなる。更に、ファラデー回転子は光の偏波線分が丁度45度回転される長さに調整される。ここで、偏光子と検光子の偏波面を前進する光の回転方向に45度ずらしておくと、前進する光の偏波は偏光子位置と検光子位置で一致するため透過する。他方、後進する光の偏波は検光子位置から45度ずれている偏光子の偏波面のずれ角方向とは逆回転に45度回転することになる。すると、偏光子位置における戻り光の偏波面は偏光子の偏波面に対して45度-(-45度)=90度のずれとなり、偏光子を透過できない。こうして前進する光は透過、出射させ、後進する戻り光は遮断する光アイソレータとして機能する。
【0004】
上記光アイソレータを構成するファラデー回転子として用いられる材料では、従来からTGG結晶(Tb3Ga512)とTSAG結晶((Tb(3-x)Scx)Sc2Al312)が知られている(特開2011-213552号公報(特許文献1)、特開2002-293693号公報(特許文献2))。TGG結晶は現在標準的なファイバーレーザー装置用として広く搭載されている。他方TSAG結晶のベルデ定数はTGG結晶の1.3倍程度あるとされており、こちらもファイバーレーザー装置に搭載されてもおかしくない材料であるが、Scが極めて高価な原料であるため、製造コストの面から採用が進んでいない。
その後も、特許第5611329号公報(特許文献3)や特許第5935764号公報(特許文献4)のようにTSAG結晶の開発は続けられているが、いずれもSc使用量の低減が達成できず、普及には至っていない。
【0005】
上記以外では、TSAGより更にベルデ定数が大きなファラデー回転子として、昔からTAG結晶(Tb3Al512)も知られている。ただしTAG結晶は分解溶融型結晶であるため、固液界面においてまずペロブスカイト相が最初に生成され、その後にTAG相が生成されるという制約があった。つまりTAG結晶のガーネット相とペロブスカイト相は常に混在した状態でしか結晶育成することができず、良質で大サイズのTAG結晶育成は実現していない。
【0006】
特許第3642063号公報(特許文献5)や特許第4107292号公報(特許文献6)には、この混晶を抑制する手段として、FZ育成用の多結晶原料棒、ないしは種結晶を多孔質とすることで、初相であるペロブスカイト相を多孔質媒体中に優先的に析出させる方式が提案されている。ただし、実際には溶融位置が移動するにつれてペロブスカイト相が析出しやすい位置も移動してしまうため、種結晶と多結晶原料棒の界面だけを多孔質化したからといって、ペロブスカイト相の析出を完全に抑制することは本質的に不可能であった。
【0007】
このような制約がある中、特開2008-7385号公報(特許文献7)に、TAG組成の酸化物をセラミックスで作製し、しかも透光性を持たせる材料が提案されている。セラミックスは融点より100℃以上低温で焼結製造することができるため、単結晶育成では問題となっていた分解溶融の問題をクリアすることが可能となる。実際にTAGの分解が始まるのは1840℃以上であるため、この温度以下で理論密度ぎりぎりまで焼結緻密化することができれば、TAG単相の透明焼結体を得ることが可能となる。
【0008】
特許文献7では、ガーネット構造を有し、テルビウム・アルミニウム酸化物からなるセラミックスの製造方法であって、原料を調合する工程と、仮焼する工程と、仮焼粉を粉砕する工程と、成形する工程と、焼成する工程とを備え、仮焼粉を粉砕する工程において、粉砕後の仮焼粉の平均粒径が0.2~1.6μmであり、成形する工程において、成形後の密度が3.26g/cm3以上であると透光率の大きいTAGセラミックスが作製できるとしている。
【0009】
しかしながら、特許文献7では、その透光性は極めて不十分であり、たかだか厚み1.5mmでの直線透過率ですら、最大で35%にとどまっていた。ちなみにTAGを光アイソレータ等のファラデー素子として利用する場合、例えば1.06μm帯レーザー用ではその光を45度回転させるために必要な素子長は約15mm必要であり、これは該文献の略10倍の長さに相当する。厚み1.5mmで35%しか光が透過しない材料では、その素子長を10倍に伸ばすと透過率が0.01%未満、即ちほぼゼロとなって全く機能しなくなってしまう。
即ち、たとえ異相発生を抑制可能なセラミックス製造法であっても、実用レベルのTAGはこれまで存在していなかった。
【0010】
なお、特許文献6にはTAG結晶中のTbの一部をCeで置換するとTAGに比べてベルデ定数が大きくなることが示されている。ベルデ定数が大きくなれば入射光を45度回転させるのに必要な素子長を短くすることができるため、トータルの吸収量は少なくなるが、厚み1.5mmでの直線透過率が35%では、たとえ素子長が半分になっても45度回転厚み透過率は1%未満であり、実用化には程遠い。
【0011】
上記のような状況の中で、最近、組成が(Tbx1-x3Al512(x=0.5~1.0)である緻密なセラミックス焼結体が既存のTGG結晶に比べて消光比が高く(既存の35dBが39.5dB以上に改善し)、挿入損失も低減できる(既存の0.05dBが0.01~0.05dBに改善する)ことが開示された(Yan Lin Aung, Akio Ikesue, Development of optical grade (Tbx1-x3Al512 ceramics as Faraday rotator material, J.Am.Ceram.Soc.,(2017),100(9),4081-4087(非特許文献1))。この非特許文献1で開示された材料は、まずセラミックスであるため、TGG結晶で問題となっていたペロブスカイト異相の析出もなく、更にTbイオンの一部をYイオンで置換することで、更なる低損失化が可能になったものであり、きわめて高品質のガーネット型ファラデー回転子を得ることのできる材料である。
【0012】
また最近になり、国際公開第2018/193848号(特許文献8)に、下記式(1)で表される複合酸化物の焼結体であり、光路長15mmでの波長1064nmにおける直線透過率が83%以上であることを特徴とする常磁性ガーネット型透明セラミックスが開示されている。
(Tb1-x-yScxCey3(Al1-zScz512 (1)
(式中、0<x<0.08、0≦y≦0.01、0.004<z<0.16である。)
【0013】
特許文献8では、TAGとそん色のないベルデ定数を有しつつ、且つ光路長15mmであっても直線透過率が83%以上確保されるように改善されたため、ほぼ実用レベルに達したといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2011-213552号公報
【文献】特開2002-293693号公報
【文献】特許第5611329号公報
【文献】特許第5935764号公報
【文献】特許第3642063号公報
【文献】特許第4107292号公報
【文献】特開2008-7385号公報
【文献】国際公開第2018/193848号
【0015】
【文献】Yan Lin Aung, Akio Ikesue, Development of optical grade (TbxY1-x)3Al5O12 ceramics as Faraday rotator material, J.Am.Ceram.Soc.,(2017),100(9),4081-4087
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、非特許文献1の材料について本発明者らが実際に追試をしてみると、かなり再現性が乏しく、TGG結晶よりも挿入損失が小さい高品質なセラミックス焼結体はなかなか得られないことが確認された。
また、特許文献8の実施例の材料を再現したサンプルに、本発明者らが実際に波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mmに調整した上で入射パワー100Wの出力で入射してみたところ、熱レンズの発生による入射レーザービーム径の変化量が15%を超えていることが明らかとなった。波長1064nmで入射パワー100Wのレーザー光を入射させた場合のビーム径の変化量は望ましくは10%以下であることから、特許文献8の材料が真にハイパワー適用性のあるものとは言い難い。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、テルビウム及びイットリウムを含有する常磁性ガーネット型酸化物の焼結体からなる、真に透明で、光学均質性の高い、常磁性ガーネット型透明セラミックス、磁気光学材料及び該磁気光学材料を用いた磁気光学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記目的を達成するため、下記の常磁性ガーネット型透明セラミックス、磁気光学材料及び磁気光学デバイスを提供する。
1.
下記式(1)で表される複合酸化物の焼結体であり、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有し、平均焼結粒径が5μm以上であり、光路長25mmでの波長1064nmにおける全光線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下であり、更に光路長25mmでの波長1300nmにおける全光線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下であることを特徴とする常磁性ガーネット型透明セラミックス。
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、0.05≦x≦0.4、0≦y<0.004、0.6≦1-x-y<0.95、0≦z<0.004、0.001<y+z<0.005である。)
2.
波長1064nmでのベルデ定数が32rad/(T・m)以上である1記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
3.
光路長25mmにおける波長1064nmのレーザー光を入射した場合の光学有効径内全面における消光比が42dB以上である1又は2記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
4.
光路長25mmにおける波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mm、入射パワー100Wで入射した場合の該ビーム径の変化量が10%以下である1~3のいずれかに記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
5.
熱伝導率が4.8W/(m・K)以上である1~4のいずれかに記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス。
6.
1~5のいずれかに記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスからなる磁気光学材料。
7.
6記載の磁気光学材料を用いて構成される磁気光学デバイス。
8.
上記常磁性ガーネット型透明セラミックスをファラデー回転子として備え、該ファラデー回転子の光学軸上の前後に偏光材料を備えた波長帯0.9μm以上1.1μm以下で利用可能な光アイソレータである7記載の磁気光学デバイス。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、テルビウム及びイットリウムを含有する常磁性ガーネット型酸化物であって、真に透明な、光学均質性の高い常磁性ガーネット型透明セラミックスを提供できる。更に、熱伝導率が高く、光学均質性も良好であるため、出力100W以上の高出力レーザー装置に適用可能であり、セラミックス焼結体のためスケールアップも容易な、真に実用的なものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る磁気光学材料をファラデー回転子として用いた光アイソレータの構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<常磁性ガーネット型透明セラミックス>
以下、本発明に係る常磁性ガーネット型透明セラミックスについて説明する。
本発明に係る透明セラミックス材料は、下記式(1)で表される複合酸化物の焼結体であり、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有し、平均焼結粒径が5μm以上であり、光路長25mmでの波長1064nmにおける全光線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下であり、更に光路長25mmでの波長1300nmにおける全光線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下であることを特徴とする常磁性ガーネット型透明セラミックスである。
(Tb1-x-yxScy3(Al1-zScz512 (1)
(式中、0.05≦x≦0.4、0≦y<0.004、0.6≦1-x-y<0.95、0≦z<0.004、0.001<y+z<0.005である。)
【0022】
式(1)において、テルビウム(Tb)は鉄(Fe)を除く常磁性元素のなかで最大のベルデ定数をもつ材料であり、特にガーネット構造を有する酸化物中に含有される場合、波長1064nmにおいて完全に透明であるため、この波長域の光アイソレータに使用するには最も適した元素である。
【0023】
イットリウム(Y)はイオン半径がテルビウムよりも2%程度小さく、アルミニウムと化合して複合酸化物を形成する場合に、ペロブスカイト相よりもガーネット相を安定して形成し、且つ結晶子中の残存歪みを縮小することのできる材料であり、これにより異相による散乱、内部応力による消光比劣化及びテルビウムイオンのf-f遷移吸収を防止することができるため、本発明においては重要な構成元素である。更にテルビウムイオンの一部をイットリウムイオンで置換することにより焼結性(昇温途中での化合反応や急激な相変化、これらに伴う急激な比重の変化)が平準化されるため、セラミックス焼結体中の残存気孔量をイットリウムイオンで置換しない場合よりも効果的に制限することができるため、本発明においては好適な構成元素である。
【0024】
アルミニウム(Al)はガーネット構造を有する酸化物中で安定に存在できる3価のイオンのなかで最小のイオン半径を有する材料であり、テルビウム含有の常磁性ガーネット型酸化物の格子定数を最も小さくすることのできる元素である。テルビウムの含有量を変えることなくガーネット構造の格子定数を小さくすることができると、単位長さあたりのベルデ定数を大きくすることができるため好ましい。実際TAGのベルデ定数はTGGのそれの1.25~1.5倍に向上する。そのためテルビウムイオンの一部をイットリウムイオンで置換することでテルビウムの相対濃度を低下させた場合でも、単位長さ当りのベルデ定数をTGG同等、ないしは若干下回る程度にとどめることが可能となるため、本発明においては好適な構成元素である。
【0025】
スカンジウム(Sc)はガーネット構造を有する酸化物中でテルビウムのサイトにもアルミニウムの一部のサイトにも固溶することのできる中間的なイオン半径を有する材料であり、テルビウム及びイットリウムからなる希土類元素とアルミニウムとの配合比が秤量時のばらつきによって化学量論比からずれた場合に、ちょうど化学量論比に合うように、そしてこれにより結晶子の生成エネルギーを最小にするように、自らテルビウム及びイットリウムからなる希土類サイトとアルミニウムサイトへの分配比を調整して固溶することのできるバッファ材料である。また、アルミナ異相やペロブスカイト型の異相の析出を抑制する効果を合わせ持つ元素であり、本発明においては不可欠の元素である。
【0026】
しかしながら、スカンジウムはかなり簡単にテルビウムのサイトにもアルミニウムのサイトにも固溶できてしまうため、安易に添加量を増やしてしまうと、即ち混合原料材料中のスカンジウムの存在割合が有意に高まってしまうと、どうしてもスカンジウムの濃度ムラの影響が無視できなくなり、焼結工程を経た後の焼結体中の焼結粒子毎にテルビウムサイトとアルミニウムサイトにそれぞれ固溶するスカンジウムの量が異なる焼結粒子集合体ができあがってしまう。その結果として、(i)焼結粒子毎の実効屈折率にばらつきが生じ、焼結体全体として屈折率ムラ起因の前方散乱が悪化してしまうという問題があるのみならず、(ii)スカンジウムは過度に焼結抑制効果を持つため、焼結体が合体して大粒径化することによって均質化していくプロセスを阻害する問題もある。これにより、粒界表面積がなかなか低減できず、歪みや微妙な界面散乱を焼結体内部に保存する結果につながり、消光比の局所的な低下や、熱伝導率の局所的な低下(局所低下)と、これによる平均熱伝導率(熱伝導率の平均値)の低下をもたらす。この場合、例えば熱伝導率の局所低下があると、入射パワー100Wのレーザー光を入射した場合の該ビーム径の変化量が15%以上に増大してしまうため好ましくない。
【0027】
以上の二律背反する性質から、スカンジウムの添加量は、異相析出を抑制する効果を維持しつつ、可能な限り少ない範囲を探し出し、その範囲で管理することが好ましい。
【0028】
式(1)中、xの範囲は0.05≦x≦0.4であり、0.06≦x≦0.3995が好ましく、0.1≦x≦0.399が更に好ましい。xがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができる。
【0029】
xが0.05未満の場合、イットリウムでテルビウムの一部を置換する効果が得られず実質TAGを作製する条件と変わらなくなり、そのため低散乱、低吸収の高品質なセラミックス焼結体を安定製造することが困難となるため好ましくない。また、xが0.4よりも多い場合、波長1064nmでのベルデ定数が32rad/(T・m)未満となるため好ましくない。更にテルビウムの相対濃度が過剰に薄まると、波長1064nmのレーザー光を45度回転させるのに必要な全長が25mmを超えて長くなり、製造が難しくなるため好ましくない。
【0030】
式(1)中、yの範囲は0≦y<0.004であり、0.0005≦y<0.004が好ましく、0.001≦y<0.004がより好ましい。yがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができるため好ましい。更にまた、焼結体の均質性や粒界散乱に起因する熱伝導率の過度な低下を防止できるため好ましい。
【0031】
yが0.004以上の場合、ペロブスカイト型異相、ないしはアルミナ異相の析出抑制効果が飽和して変わらない中、スカンジウムの焼結抑制効果が過度に効くことに起因する焼結ムラや焼結歪みの残存、ないしは粒界散乱の残存が生じ、その結果、消光比の局所低下や熱伝導率の平均値の低下が生じるため好ましくない。
【0032】
式(1)中、1-x-yの範囲は0.6≦1-x-y<0.95であり、0.6≦1-x-y<0.899がより好ましい。1-x-yがこの範囲にあると大きなベルデ定数を確保できると共に波長1064nmにおいて高い透明性が得られる。
【0033】
(1)式中、zの範囲は0≦z<0.004であり、0.0005≦z<0.004がより好ましく、0.001≦z<0.004が更に好ましい。zがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができるため好ましい。更にまた、焼結体の均質性や粒界散乱に起因する熱伝導率の過度な低下を防止できるため好ましい。
【0034】
zが0.004以上の場合、ペロブスカイト型異相、ないしはアルミナ異相の析出抑制効果が飽和して変わらない中、スカンジウムの焼結抑制効果が過度に効くことに起因する焼結ムラや焼結歪みの残存、ないしは粒界散乱の残存が生じ、その結果、消光比の局所低下や熱伝導率の平均値の低下が生じるため好ましくない。
【0035】
(1)式中、y+zの範囲は0.001<y+z<0.005であり、0.0015<y+z<0.005がより好ましく、0.002<z<0.005が更に好ましい。y+zがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができるため好ましい。更にまた、焼結体の均質性や粒界散乱に起因する熱伝導率の過度な低下を防止できるため好ましい。
【0036】
y+zが0.001以下の場合、ペロブスカイト型の異相やアルミナ異相が析出するリスクが高まるため好ましくない。またy+zが0.005以上の場合、ペロブスカイト型異相、ないしはアルミナ異相の析出抑制効果が飽和して変わらない中、スカンジウムの焼結抑制効果が過度に効くことに起因する焼結ムラや焼結歪みの残存、ないしは粒界散乱の残存が生じ、その結果、消光比の局所低下や熱伝導率の平均値の低下が生じるため好ましくない。
【0037】
本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、上記式(1)で表される複合酸化物を主成分として含有し、副成分として、焼結助剤の役割をはたすSiO2を0.1質量%を限度として、それ以下の範囲で含有する。焼結助剤としてSiO2を微量添加すると、ペロブスカイト型の異相やアルミナ異相等の析出が抑制されるため、常磁性ガーネット型透明セラミックスの透明性が更に向上する。更に、微量添加されたSiO2は1400℃以上での焼結中にガラス化して液相焼結効果をもたらし、ガーネット型セラミックス焼結体の緻密化を促進することができる。ただし、SiO2を0.1質量%超添加すると、長さ(光路長)25mmの常磁性ガーネット型透明セラミックスに波長1064nmでビーム径1.6mmの100Wレーザー光線を入射した場合の該ビーム径の変化量が10%を超えてしまうため好ましくない。
【0038】
ところで、「主成分として含有する」とは、上記式(1)で表される複合酸化物を90質量%以上含有することを意味する。式(1)で表される複合酸化物の含有量は99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることが更に好ましく、99.999質量%以上であることが特に好ましい。
【0039】
本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、上記の主成分と副成分とで構成されるが、更に他の元素を含有していてもよい。その他の元素としては、ルテチウム(Lu)、セリウム(Ce)等の希土類元素、あるいは様々な不純物群(不可避的成分)として、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、燐(P)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等が典型的に例示できる。
【0040】
その他の元素の含有量は、Tb及びYの全量を100質量部としたとき、10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることが更に好ましく、0.001質量部以下(実質的にゼロ)であることが特に好ましい。
【0041】
本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均焼結粒径が5μm以上であり、好ましくは5.5μm以上である。本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均焼結粒径の上限は特に制限はないが、通常30μm以下である。平均焼結粒径が5μm未満であると、熱伝導率が4.8W/(m・K)を下回るリスクが高まる。
【0042】
なお、ここでいう常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均焼結粒径は、後述する製造方法におけるHIP処理後の二次焼結体の結晶の平均粒径であり、その研磨された面を顕微鏡等で直接観察することで決定することができ、電子顕微鏡(SEM)の反射電子像が例として挙げられる。研磨された面では粒径の判断がつきにくい場合は、1200~1300℃サーマルエッチングや0.1M希塩酸処理を施し、粒界を際立たせてもよい。結晶粒径(粒径の大きさ)は、SEM等の高分解能画像で任意に引いた線の長さをCとし、この線上の粒子数をN、画像の倍率をMとして、以下の式で求められる("Lineal Intercept Technique for Measuring Grain Size in Two-Phase Polycrystalline Ceramics" Journal of the American Ceramic Society,55,109 (1972))。
D=1.56C/(MN)
この場合、Nは10以上が好ましく、100以上がより好ましい。
【0043】
本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは無色透明の外観を呈しており、その光路長25mmでの波長1064nmにおける全光線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下であり、更に光路長25mmでの波長1300nmにおける全光線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下である。本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは利用が想定される波長(1064nm)において高透過率であるだけではなく、利用が想定される波長よりも長波長帯でも、波長1064nmにおける値と同様、全光線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下であると、消光比が向上し、光路長25mmでの波長1064nmでビーム径1.6mmの100Wレーザー光線を入射した場合の該ビーム径の変化量が10%以下となり、熱伝導率が4.8W/(m・K)以上となるため好ましい。
【0044】
なお本発明において、「全光線透過率」とは、測定光路中にサンプルを置かずにブランク(空間)状態で測定した対象波長の積分球透過スペクトル(光の強度)を100%とした場合における透明セラミックスサンプルを透過させた後の対象波長の光の積分球強度の比率(全光線透過率)を意味する。即ち、ブランク状態で測定した対象波長の光の強度(入射光強度)をI0、透明セラミックスサンプルを透過させた後の散乱光を含めた光の積分球集光強度をIとした場合、I/I0×100(%)で表すことができる(以下、実施例において同じ)。また「前方散乱」とは以下のとおり定義される。即ち、測定光路中にサンプルを置いた状態で前記の「全光線透過率」を測定した後、更に続けて積分球の入射窓の対極にある出射窓を開ける。この状態で再度サンプルに光を入射させる。サンプルから出射してきた光成分のうち、散乱せずにまっすぐに直進してきた透過光のみ積分球の外に逃がし、透明セラミックスサンプル内でわずかに散乱して積分球内に角度をもって入射してきた光の強度ISのみ受光して測定する。すると、先ほどのI0を用いて、IS(/I0×100(%)で表すことができる光の強度が対象サンプルの「前方散乱」である(以下、実施例において同じ)。
【0045】
本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、波長1064nmでのベルデ定数が32rad/(T・m)以上であることが好ましく、36rad/(T・m)以上であることがより好ましい。ベルデ定数が32rad/(T・m)以上であれば、外筒磁石の設計と工夫により、アイソレータ全体の外形を大きくせずにTGG単結晶を用いたアイソレータとの互換が可能であり、ベルデ定数が36rad/(T・m)以上であると、既存材料であるTGG単結晶との置き換えを、部品の設計変更無しに簡便に行える。
【0046】
本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、ファラデー回転子(セラミックス素子単体)として、光路長25mmでの波長1064nmにおける消光比が42dB以上であることが好ましく、特に光路長25mmにおける波長1064nmのレーザー光を入射した場合の光学有効径内全面における消光比が42dB以上であることが好ましく、44dB以上がより好ましく、45dB以上が更に好ましい。本発明のガーネット組成範囲であると、局所歪みを低減しつつ、過度な粒成長抑制が働かないため光学有効面全体にわたり均質で粒界散乱の少ない透明セラミックス焼結体が仕上がるため、ファラデー回転子(セラミックス素子単体)として光路長25mmでの波長1064nmにおける光学有効径内全面における消光比を安定して42dB以上に管理することが可能である。
【0047】
なお、ここでいう「消光比」は、波長1064nmの10~20mWのレーザー光をそのビーム径を対象の常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学面の光学有効径内全面に相当する径に拡げた状態で0~90度に偏光して対象の常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学面に対して垂直に(光学的に利用する軸方向に)入射し、その出射光を偏光子を通して受光器に入射して、受光器で光の強度を測定し、最大値(I0’)と最小値(I’)より、下記式で計算して求められる値である(以下、実施例において同じ)。
消光比(dB/25mm)=-10×log10(I’/I0’)
【0048】
また、「光学有効径」とは、透明セラミックスの光学面において光学的に有効な領域(光学有効領域)のことをいい、詳しくは、円柱形状の常磁性ガーネット型透明セラミックスの場合、その光学的に利用する軸上にある光学面(円形面)において光学的に利用できない端面外縁部を除いた領域をいい、ここでは光学面の面積率にして10%に相当する光学面外縁部を除いた領域、つまり光学面の外縁から内側に入った面積率にして90%の領域のことをいう。また、「光学的に有効な領域」とは、常磁性ガーネット型透明セラミックスにおいて入射光が透過して出射するときに磁気光学材料として有効に機能する領域を意味する。
【0049】
また、本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、光路長25mmにおける波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mm、入射パワー100Wで入射した場合の該ビーム径の変化量が10%以下であることが好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下が更に好ましい。当該ビーム径の変化量が10%以下であると、マーキング、スクライビング、その他の精密加工用レーザーの加工点でのエネルギー密度が仕様範囲内に収まるため、実質的に100W用ハイパワーレーザーシステムに採用できる。
【0050】
上記「ビーム径の変化量」は以下のようにして求められる。
即ち、波長1064nm,出射パワー100W,直径1.6mmでコリメートされたレーザー光(空間平行光線)を対象の常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学面に入射する際の光(入射光)のビーム径をビームプロファイラにて測定してこのときの値をr0とし、次にこの光を長さ25mmの対象の常磁性ガーネット型透明セラミックスを透過させた光(透過光)のビーム径を測定し、rとして、(1-r/r0)×100(%)で算出される値をビーム径の変化量とする。なお、当該ビーム径の変化量は、対象の常磁性ガーネット型透明セラミックスの測定系へのセット位置や角度、並びに日間誤差などでも変化することから、測定に際して対象の常磁性ガーネット型透明セラミックスの測定系へのセット位置や角度を変化させて測定し、また測定する日を変えて数回(少なくとも2回)測定し、その測定値の最大値をビーム径の変化量とするとよい。
【0051】
本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、熱伝導率が4.8W/(m・K)以上であることが好ましい。ここでいう熱伝導率はJIS R1611に準拠し、レーザーフラッシュ法にて測定したものであり、上述した平均熱伝達率である。ただし、レーザーフラッシュ法での熱伝導率評価用サンプルは、磁気光学材料としての利用が想定される光路長25mmまで細長く仕上げる必要はなく、厚みが1mm、外径が10mmφ程度の大きさがあれば、十分に熱伝導率の測定が可能である。ただし、成形体の形状のみ変えた他は、すべて磁気光学用常磁性ガーネット型透明セラミックスと製造方法が共通である熱伝導率評価用サンプルとして仕上げる必要がある。この熱伝導率評価用サンプルを測定することより、磁気光学用常磁性ガーネット型透明セラミックスの熱伝導率とすることができる。
【0052】
<常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法>
[原料]
本発明で用いる原料としては、テルビウム、イットリウム、スカンジウム、アルミニウムからなる金属粉末、ないしは前記金属粉末を硝酸、硫酸、尿酸等の水溶液で溶解したもの、あるいは上記元素の酸化物粉末等が好適に利用できる。また、上記元素を共沈させたものを原料として好適に利用できる。上記原料の純度は99.9質量%以上が好ましく、99.99質量%以上が特に好ましい。
【0053】
それらの元素を式(1)に対応する組成となるように所定量秤量し、混合することにより出発原料を作製することができる。あるいはまた、前記所定量秤量した混合原料を焼成して所望の構成の立方晶ガーネット型酸化物を主成分とする焼成原料を得て、当該焼成原料を粉砕して粉末状にして出発原料として用いてもよい。このときの焼成温度は、950℃以上、且つこの後に行われる焼結温度よりも低い温度が好ましく、1100℃以上、且つこの後に行われる焼結温度よりも低い温度がより好ましい。ここでいう「主成分とする」とは、焼成原料の粉末X線回折結果から得られる主ピークがガーネット構造由来の回折ピークからなることを指す。なお、ペロブスカイト型の異相やアルミナ異相のガーネット母相に対する存在割合が1%以下である場合、これらの粉末X線回折パターンの主ピークすらほとんど検知できないため、実質的には得られる粉末X線回折結果はほぼガーネット単相パターンに酷似する。
【0054】
上記の出発原料である粉末形状については特に限定されず、例えば角状、球状、板状の粉末が好適に利用できる。また、二次凝集している粉末であっても好適に利用できるし、スプレードライ処理等の造粒処理によって造粒された顆粒状粉末であっても好適に利用できる。更に、出発原料における粉末の調製工程については特に限定されない。共沈法、粉砕法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド加水分解法、その他あらゆる合成方法で作製された原料粉末が好適に利用できる。また、得られた原料粉末を適宜湿式ボールミル、ビーズミル、ジェットミルや乾式ジェットミル、ハンマーミル等によって処理してもよい。
【0055】
本発明で用いるガーネット型酸化物粉末原料中には、その後のセラミックス製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。本発明においては、これらについても特に限定されない。即ち、各種の分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等が好適に利用できる。ただし、これらの有機添加剤としては、不要な金属イオンが含有されない、高純度のタイプを選定することが好ましい。
【0056】
[製造工程]
本発明では、上記出発原料を用いて、所定形状にプレス成形した後に脱脂を行い、次いで焼結して、相対密度が最低でも94%以上に緻密化した焼結体を作製する。その後工程として熱間等方圧プレス(HIP(Hot Isostatic Pressing))処理を行うことが好ましい。なお熱間等方圧プレス(HIP)処理をそのまま施すと、常磁性ガーネット型透明セラミックスが還元されて若干の酸素欠損を生じてしまう。そのため微酸化HIP処理、ないしはHIP処理後に酸化雰囲気でのアニール処理(酸化アニール処理)を施すことにより酸素欠損を回復させることが好ましい。これにより、欠陥吸収のない透明なガーネット型酸化物セラミックスを得ることができる。
【0057】
(成形)
本発明の製造方法においては、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。即ち、ごく一般的な、型に充填して一定方向から加圧する一軸プレス工程や変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧する冷間静水圧加圧(CIP(Cold Isostatic Pressing))工程や温間静水圧加圧(WIP(Warm Isostatic Pressing))工程が好適に利用できる。なお、印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置やWIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。あるいはまた、成形時に成形工程のみでなく一気に焼結まで実施してしまうホットプレス工程や放電プラズマ焼結工程、マイクロ波加熱工程なども好適に利用できる。更にプレス成形法ではなく、鋳込み成形法による成形体の作製も可能である。加圧鋳込み成形や遠心鋳込み成形、押出し成形等の成形法も、出発原料である酸化物粉末の形状やサイズと各種の有機添加剤との組合せを最適化することで、採用可能である。
【0058】
(脱脂)
本発明の製造方法においては、通常の脱脂工程を好適に利用できる。即ち、加熱炉による昇温脱脂工程を経ることが可能である。また、このときの雰囲気ガスの種類も特に制限はなく、空気、酸素、水素等が好適に利用できる。脱脂温度も特に制限はないが、もしも有機添加剤が混合されている原料を用いる場合には、その有機成分が分解消去できる温度まで昇温することが好ましい。
【0059】
(焼結)
本発明の製造方法においては、一般的な焼結工程を好適に利用できる。即ち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。このときの雰囲気は特に制限されず、不活性ガス、酸素ガス、水素ガス、ヘリウムガス等の各種雰囲気、あるいはまた、減圧下(真空中)での焼結も可能である。ただし、最終的に焼結体における酸素欠損の発生を防止することが好ましいため、より好ましい雰囲気としては、酸素ガス、減圧酸素ガス雰囲気である。
【0060】
焼結工程における焼結温度は、1500~1780℃が好ましく、1550~1750℃が特に好ましい。焼結温度がこの範囲にあると、異相析出を抑制しつつ緻密化が促進されるため好ましい。
【0061】
焼結工程における焼結保持時間は数時間程度で十分だが、焼結体の相対密度は最低でも94%以上に緻密化させなければいけない。また10時間以上長く保持させて焼結体の相対密度を99%以上に緻密化させておくと、最終的な透明性が向上するため、更に好ましい。
【0062】
(熱間等方圧プレス(HIP))
本発明の製造方法においては、焼結工程を経た後に更に追加で熱間等方圧プレス(HIP)処理を行う工程を設けることができる。
【0063】
なお、このときの加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr-O2が好適に利用できる。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50~300MPaが好ましく、100~300MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透明性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透明性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
【0064】
また、その際の処理温度(所定保持温度)は1100~1780℃、好ましくは1200~1730℃の範囲で設定される。熱処理温度が1780℃超では酸素欠損発生リスクが増大するため好ましくない。また、熱処理温度が1100℃未満では焼結体の透明性改善効果がほとんど得られない。なお、熱処理温度の保持時間については特に制限されないが、あまり長時間保持すると酸素欠損発生リスクが増大するため好ましくない。典型的には1~3時間の範囲で好ましく設定される。
【0065】
なお、HIP処理するヒーター材、断熱材、処理容器は特に制限されないが、グラファイト、ないしはモリブデン(Mo)、タングステン(W)、白金(Pt)が好適に利用でき、処理容器として更に酸化イットリウム、酸化ガドリニウムも好適に利用できる。特に処理温度が1500℃以下である場合、ヒーター材、断熱材、処理容器として白金(Pt)が使用でき、且つ加圧ガス媒体をAr-O2とすることができるため、HIP処理中の酸素欠損の発生を防止できるため好ましい。処理温度が1500℃を超える場合にはヒーター材、断熱材としてグラファイトが好ましいが、この場合は処理容器としてグラファイト、モリブデン(Mo)、タングステン(W)のいずれかを選定し、更にその内側に二重容器として酸化イットリウム、酸化ガドリニウムのいずれかを選定したうえで、容器内に酸素放出材を充填しておくと、HIP処理中の酸素欠損発生量を極力少なく抑えられるため好ましい。
【0066】
(酸化アニール)
本発明の製造方法においては、HIP処理を終えた後に、得られた透明セラミックス焼結体(HIP体)中に酸素欠損が生じてしまい、かすかに薄灰色の外観を呈する場合がある。その場合には、前記HIP処理温度以下、典型的には1000~1500℃、好ましくは1300℃超1500℃以下、より好ましくは1350~1500℃、更に好ましくは1400~1500℃にて、酸素雰囲気下で酸化アニール処理(酸素欠損回復処理)を施すことが好ましい。この場合の保持時間は特に制限されないが、酸素欠損が回復するのに十分な時間以上で、且つ無駄に長時間処理して電気代を消耗しない時間内で選択されることが好ましい。該酸化アニール処理により、たとえHIP処理工程でかすかに薄灰色の外観を呈してしまった透明セラミックス焼結体であっても、すべて無色透明の欠陥吸収のない常磁性ガーネット型透明セラミックスとすることができる。
【0067】
(光学研磨)
本発明の製造方法においては、上記一連の製造工程を経た常磁性ガーネット型透明セラミックスについて、その光学的に利用する軸上にある両端面を光学研磨することが好ましい。このときの光学面精度は測定波長λ=633nmの場合、λ/2以下が好ましく、λ/8以下が特に好ましい。なお、光学研磨された面に適宜反射防止膜を成膜することで光学損失を更に低減させることも可能である。
【0068】
以上のようにして、上述した本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックス、即ち上記式(1)で表されるテルビウム及びイットリウムを含有する複合酸化物の焼結体であり、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有し、平均焼結粒径が5μm以上であり、長さ(光路長)25mmでの波長1064nmにおける全光線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下であり、更に長さ(光路長)25mmでの波長1300nmにおける全光線透過率も84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下である常磁性ガーネット型透明セラミックスを提供することができる。また、このようにして得られた常磁性ガーネット型透明セラミックスにおいて、好ましくは波長1064nmでのベルデ定数が32rad/(T・m)以上であり、好ましくは光路長25mmにおける波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mm、入射パワー100Wで入射した場合の該ビーム径の変化量が10%以下であって、更に好ましくは熱伝導率が4.8W/(m・K)以上であり、且つファラデー回転子(セラミックス素子単体)として、好ましくは光路長25mmでの波長1064nmのレーザー光を入射した場合の光学有効径内全面における消光比が42dB以上のものとすることができる。
【0069】
[磁気光学デバイス]
更に、本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは磁気光学材料として利用することを想定しているため、該常磁性ガーネット型透明セラミックスにその光学軸と平行に磁場を印加したうえで、偏光子、検光子とを互いにその光軸が45度ずれるようにセットして磁気光学デバイスを構成利用することが好ましい。即ち、本発明の磁気光学材料は、磁気光学デバイス用途に好適であり、特に波長0.9~1.1μmの光アイソレータのファラデー回転子として好適に使用される。
【0070】
図1は、本発明の磁気光学材料からなるファラデー回転子を光学素子として有する光学デバイスである光アイソレータの一例を示す断面模式図である。図1において、光アイソレータ100は、本発明の磁気光学材料からなるファラデー回転子110を備え、該ファラデー回転子110の前後には、偏光材料である偏光子120及び検光子130が備えられている。また、光アイソレータ100は、偏光子120、ファラデー回転子110、検光子130の順序で配置され、それらの側面のうちの少なくとも1面に磁石140が載置されていることが好ましい。
【0071】
また、上記光アイソレータ100は産業用ファイバーレーザー装置に好適に利用できる。即ち、レーザー光源から発したレーザー光の反射光が光源に戻り、発振が不安定になるのを防止するのに好適である。
【実施例
【0072】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1~7、比較例1~6]
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末、及び大明化学(株)製の酸化アルミニウム粉末を入手した。更にキシダ化学(株)製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の液体を入手した。純度は粉末原料がいずれも99.95質量%以上、液体原料が99.999質量%以上であった。
上記原料を用いて、混合比率を調整して表1に示す最終組成となる13種類の酸化物原料を作製した。
即ち、テルビウム、イットリウム、アルミニウム及びスカンジウムのモル数がそれぞれ表1の各組成のモル比率となるよう秤量した混合粉末を用意した。続いてTEOSを、その添加量がSiO2換算で表1の質量%になるように秤量して各原料に加えた。
そして、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は15時間であった。その後スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料を作製した。
続いて、これらの粉末をイットリアるつぼに入れ、高温マッフル炉にて1100℃で保持時間3時間で焼成処理し、それぞれの組成での焼成原料を得た。得られた各焼成原料をパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した(XRD分析)。X線回折パターンのリファレンスデータと測定パターンとの比較から試料の結晶系を特定した。ほとんどの場合(酸化物原料No.1~8、10~13の場合)、ガーネット単相(立方晶)のピークのみ検出され、酸化物原料No.9の場合についてはガーネット相のピークパターン以外にペロブスカイト異相の弱いピークが検出された。
以上の結果を表1にまとめて示す。
【0074】
【表1】
【0075】
こうして得られた酸化物原料につき、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながら再度エタノール中でナイロン製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間はいずれも24時間であった。その後、スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料を作製した。得られた13種類の粉末原料につき、それぞれ一軸プレス成形、198MPaの圧力での冷間静水圧加圧処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該脱脂済成形体を真空焼結炉に仕込み、1550℃で3時間処理して13種類の焼結体を得た。このとき、サンプルの焼結相対密度は94.5%から98.8%の範囲におさまっていた。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar雰囲気中、200MPa、1600℃、2時間の条件でHIP処理した。得られた焼結体はいずれも外見上ほとんど灰色化(酸素欠損吸収)は確認されなかった。ただし念のため、得られた各セラミックス焼結体について、各々のロット管理をしながら酸素雰囲気炉にて、1450℃で20時間アニール処理して、酸素欠損を十分に回復させる処置をほどこした。こうして実施例と比較例の13種類の焼結体を用意した。
続いて、得られた各セラミックス焼結体を、直径10mm、厚さ1mmの円板状と、直径5mm、長さ25mmのロッド状(円柱状)となるように各々研削及び研磨処理し、更にそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨した。
【0076】
上記のようにして得られたサンプルのうち、円板状のものについては、以下の要領で熱伝導率を測定した。その後、当該サンプルをサーマルエッチングして各サンプルの平均焼結粒径を測定した。またロッド状の各サンプルについては、全光線透過率、前方散乱、消光比をそれぞれ以下のように測定した。
【0077】
(熱伝導率の測定方法)
熱伝導率の測定はJIS R1611に準拠し、レーザーフラッシュ法により測定した。具体的には、外径10mmφ、厚み1mmの各サンプルについて、まずPerkin-Elmer社製の示差走査熱量計を用いて測定n数2で比熱測定を実施し、続いてNETZSCH社製の熱拡散率測定装置を用いて、キセノンランプ照射により測定n数2で熱拡散率測定を実施した。これらの値と、各組成での理論密度の値を用いて以下の式により熱伝導率を求めた。
熱伝導率(W/(m・K))=「理論密度(kg/m3)」×「比熱容量(J/(kg・K))」×「熱拡散率(m2/s)」
【0078】
(平均焼結粒径の測定方法)
サンプルの結晶粒の平均焼結粒径は、"Lineal Intercept Technique for Measuring Grain Size in Two-Phase Polycrystalline Ceramics" Journal of the American Ceramic Society,55,109 (1972)を参考に決定した。具体的には前記の最終光学研磨されたサンプルを大気下1300℃、6時間処理することでサーマルエッチングした光学端面の粒界を光学顕微鏡で観察することにより決定した。平均粒径をDとすると、任意に引いた線の長さをCとし、この線上の粒子数をN、画像の倍率をMとして、下記式
D=1.56C/(MN)
で有効数字2桁で決定した。なお、Nの数はおおよそ10~20個であった。
【0079】
(全光線透過率及び前方散乱の測定方法)
全光線透過率及び前方散乱は、日本分光(株)製の分光光度計V-670を用いて、波長1064nm、及び1300nmの2波長について測定した。まず全光線透過率の測定は、該分光光度計V-670にワーク(サンプル)をセットせずに分光器で分光させた光を照射し、該光を予め装置にセットされている積分球で受けて、集光された光を検知器で受光する。このときの得られた照度をI0とし、続いてワークを装置にセットして、今度は分光させた光をワークに入射し、透過してきた光を再度積分球で集めて検知器で受光する。このときの得られた照度をIとして次式により求めた。
全光線透過率(%/25mm)=I/I0×100
次に前方散乱の測定は、前記のワークがセットされた状態から積分球裏面の反射板を取り除いた以外はすべて同じ測定系で、再び分光された光をワークに入射し、透過してきた光を再度積分球で集めて検知器で受光する。得られた照度は直線透過成分以外の散乱成分を表し、これをISとして次式により求めた。
前方散乱(%/25mm)=IS/I0×100
なお、前記の全光線透過率、前方散乱ともに波長1064nm及び1300nmの2波長について測定した。
【0080】
(消光比の測定方法)
以下のようにして、ファラデー回転子としての消光比を測定した。
消光比は、NKT Photonics社製の光源と、コリメータレンズ、偏光子、ワークステージ、検光子、Gentec社製のパワーメータ並びにGeフォトディテクタを用いて内製した光学系を用い、波長1064nmの光をビーム径3mmφと大きく設定した状態でサンプルの一方の光学面に照射してサンプル中を透過させ、この状態で検光子の偏光面を偏光子の偏光面と一致させた際の光の強度I0’(レーザー光強度として最大値)を測定し、続いて検光子の偏光面を90度回転して偏光子の偏光面と直交させた状態で再度受光強度I’(レーザー光強度として最小値)を測定したうえで、以下の式に基づいて計算により求めた。
消光比(dB/25mm)=-10×log10(I’/I0’)
なお、ビーム径を3mmφより太くすると、直径5mmφのサンプルの外周でビームの裾が蹴られはじめるため、このビーム径3mmφを事実上のサンプルの光学有効径内全面に光を入射させた状態と定義した。
【0081】
続いて、上記光学研磨したサンプルについて中心波長が1064nmとなるように設計された反射防止膜(ARコート)をコートした。
【0082】
このようにして得られた各セラミックスサンプルについてベルデ定数、熱レンズによるレーザー光のビーム径の変化量を以下のように測定した。即ち、図1に示すように、得られた各セラミックスサンプル(ファラデー回転子110に相当する)の前後に偏光素子(偏光子120、検光子130)をセットし、このセラミックスサンプルを外径32mm、内径6mm、長さ40mmのネオジム-鉄-ボロン磁石(磁石140)の中心に挿入した後、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、ベルデ定数を測定した。更に、ネオジム-鉄-ボロン磁石を外してから各セラミックスサンプルに前記と同様の条件にて波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射した。その際の熱レンズの発生をビーム径の変化量として計測評価した。
【0083】
(ベルデ定数の測定方法)
ベルデ定数Vは、以下の式に基づいて求めた。なお、セラミックスサンプルに印加される磁界の大きさ(H)は、上記測定系の寸法、残留磁束密度(Br)及び保持力(Hc)からシミュレーションにより算出した値を用いた。
θ=V×H×L
(式中、θはファラデー回転角(rad)、Vはベルデ定数(rad/(T・m))、Hは磁界の大きさ(T)、Lはファラデー回転子の長さ(この場合、0.025m)である。)
【0084】
(熱レンズによる入射レーザー光のビーム径の変化量の測定方法)
IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)にて100W出力の空間平行光線を出射し、ビームプロファイラにて焦点位置でのビーム径を計測した。続いて該出射光線ライン上にセラミックスサンプルをセットし、サンプルセットにより変化したビーム径の変化量をビームプロファイラで再計測し、両者の差分を熱レンズによるビーム径の変化量として求めた。なお、該ビーム径の変化量は測定誤差が生じやすいことから、日を改めて再度同様の測定を実施し、大きい方の値をビーム径の変化量とした。
以上の結果を表2に示す。
【表2】
【0085】
以上の結果、本発明の複合酸化物組成に管理されたすべての実施例群(実施例1~7)、並びに比較例5では、いずれも波長1064nm及び1300nmにおいて全光線透過率が84.0%以上であり、且つ前方散乱が0.5%以下、更に消光比が42dB以上となっており、高度に透明な常磁性ガーネット型透明セラミックスが作製できていることが確認された。更に出力100Wのレーザー光を入射した際の熱レンズによるビーム径の変化量もすべて10%以下に抑えられており、ハイパワーレーザーシステムに搭載可能であることが確かめられた。ただし、比較例5ではTb濃度が低くなり過ぎたためベルデ定数が32rad/(T・m)を下回っていた。更にTbとYの存在確率がほぼ等価で、且つ平均粒径も小さくなったためか、熱伝導率も4.8W/(m・K)未満に留まっていた。
また比較例2~4はScが全く添加されていないため、消光比、全光線透過率、前方散乱、ビーム径の変化量がいずれも規定の範囲を下回っていた。比較例1の場合ではTb比率が高すぎたため、消光比、全光線透過率、前方散乱、出力100Wのレーザー光を入射した際の熱レンズによるビーム径の変化量がいずれも規定の範囲を下回っていた。
比較例6の場合はSiO2のドープ量が多すぎたため、熱伝導率、波長1300nmでの全光線透過率、出力100Wのレーザー光を入射した際の熱レンズによるビーム径の変化量がいずれも規定の範囲を下回っていた。
なお、実施例1~7は平均焼結粒径が5μm以上であることにより、熱伝導率はすべて4.8W/(m・K)以上となった。
以上の結果、式(1)のx、y、zを本発明の所定の範囲に管理し、且つ、焼結助剤としてSiO2を所定の範囲内でドープすることにより、平均焼結粒径が5μm以上であり、光路長25mmでの波長1064nmにおける直線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下であり、更に光路長25mmでの波長1300nmにおける直線透過率が84.0%以上で、且つ前方散乱が0.5%以下である高度に透明な常磁性ガーネット型透明セラミックスを提供でき、更には、熱伝導率が4.8W/(m・K)以上であり、波長1064nmでのベルデ定数32rad/(T・m)以上であって、光路長25mmにおける波長1064nmの出力100Wのレーザー光入射時の熱レンズによるビーム径の変化量が10%以下であり、ファラデー回転子として光路長25mmでの波長1064nmにおける消光比が42dB以上である常磁性ガーネット型透明セラミックスとなっており、この透明セラミックスを磁気光学材料として用いた場合にハイパワー用途でも利用可能な高性能の磁気光学デバイスを提供できる。
【0086】
なお、これまで本発明を上述した実施形態をもって説明してきたが、本発明は該実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0087】
100 光アイソレータ
110 ファラデー回転子
120 偏光子
130 検光子
140 磁石
図1