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特許7680935電子銃の陰極機構、及び電子銃の陰極機構の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-13
(45)【発行日】2025-05-21
(54)【発明の名称】電子銃の陰極機構、及び電子銃の陰極機構の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/06 20060101AFI20250514BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20250514BHJP
【FI】
H01J37/06 B
H01L21/30 541B
H01L21/30 541W
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021174612
(22)【出願日】2021-10-26
(65)【公開番号】P2023064369
(43)【公開日】2023-05-11
【審査請求日】2024-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 良栄
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-221895(JP,A)
【文献】特開2014-089881(JP,A)
【文献】特開2019-114340(JP,A)
【文献】特開2013-246917(JP,A)
【文献】特許第7573601(JP,B2)
【文献】米国特許第10593505(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱することで熱電子を放出する第1の面を有する柱状、円錐台状、若しくはこれらの組み合わせの上部と、前記第1の面と略平行であり前記上部の最大径サイズよりも大きい径サイズの第2の面を有し前記上部と一体で構成された下部と、を有する結晶と、
上面側から第1の径サイズと前記第1の径サイズよりも大きい第2の径サイズとの異なる複数の内径を有する筒状に形成され、前記結晶の前記第1の面が上面よりも飛び出し、かつ筒内で前記結晶の前記第2の面と当接した状態で、前記結晶を保持する保持部と、
前記結晶の前記下部の裏面側で前記結晶を前記保持部から外れないように抑える抑え部と、
を備えたことを特徴とする電子銃の陰極機構。
【請求項2】
前記保持部の上面からの前記第1の面の飛び出し量は、前記第1の面の直径の10%以下であることを特徴とする請求項1記載の電子銃の陰極機構。
【請求項3】
前記保持部には、前記上面から途中の高さ位置まで前記第1の径サイズとなり、若しくは前記上面から拡がりながら前記途中の高さ位置で前記第1の径サイズとなり、前記途中の高さ位置から裏面側に向かって前記第1の径サイズよりも大きい前記第2の径サイズとなる開口部が形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の電子銃の陰極機構。
【請求項4】
前記保持部を支持する、それぞれ同一断面サイズを維持した状態で延びる第1と第2の支柱をさらに備えたことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電子銃の陰極機構。
【請求項5】
前記保持部と前記抑え部とは、同一材料で構成されることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の電子銃の陰極機構。
【請求項6】
上面側から第1の径サイズと前記第1の径サイズよりも大きい第2の径サイズとの異なる複数の内径の開口部が形成された筒状の保持部の裏面側から、加熱することで熱電子を放出する第1の面を有する柱状、円錐台状、若しくはこれらの組み合わせの上部と、前記第1の面と略平行であり前記上部の最大径サイズよりも大きい径サイズの第2の面を有し前記上部と一体で構成された下部と、を有する結晶を前記開口部内に差し込む工程と、
前記第1の面が前記開口部の差し込んだ先から飛び出し、かつ前記開口部内の前記第2の径サイズから前記第1の径サイズに変わる面に前記結晶の前記第2の面を当接させた状態で、抑え部により前記結晶の前記下部の裏面側で前記結晶を前記保持部から外れないように抑える工程と、
を備えたことを特徴とする電子銃の陰極機構の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、電子銃の陰極機構、及び電子銃の陰極機構の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、マスクブランクスへ電子線を使ってマスクパターンを描画することが行われている。
【0003】
例えば、マルチビームを使った描画装置がある。1本の電子ビームで描画する場合に比べて、マルチビームを用いることで一度に多くのビームを照射できるのでスループットを大幅に向上させることができる。かかるマルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の穴を持ったマスクに通してマルチビームを形成し、各々、ブランキング制御され、遮蔽されなかった各ビームが光学系で縮小され、マスク像が縮小されて、偏向器で偏向され試料上の所望の位置へと照射される。
【0004】
電子ビームを放出する熱電子銃の陰極(カソード)には、電子放出面と同じ高さ位置まで側面が被覆材で被覆された結晶が用いられる(例えば、特許文献1参照)。結晶は使用と共に消耗し、初期の状態よりも電子放出面が後退してしまう。側面が被覆材で被覆された結晶を用いる場合、電子放出面が被覆材の端面よりも所定量後退してしまうと、所望の輝度分布が得られなくなってしまいカソードの寿命を迎えることになる。カソードが寿命を迎えると、その都度、装置を停止させる必要があり、装置の稼働時間が短くなってしまう。一方、側面が被覆されていない結晶を用いる場合、結晶の側面からも電子が放出されてしまい所望の輝度分布に制御することが難しい。よって、所望の輝度分布が得られるカソードの寿命を延ばすことが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】再公表特許WO2007/055154号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一態様は、所望の輝度分布が得られるカソードの寿命を延ばすことが可能な陰極機構及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の電子銃の陰極機構は、
加熱することで熱電子を放出する第1の面を有する柱状、円錐台状、若しくはこれらの組み合わせの上部と、第1の面と略平行であり上部の最大径サイズよりも大きい径サイズの第2の面を有し上部と一体で構成された下部と、を有する結晶と、
上面側から第1の径サイズと第1の径サイズよりも大きい第2の径サイズとの異なる複数の内径を有する筒状に形成され、結晶の第1の面が上面よりも飛び出し、かつ筒内で結晶の第2の面と当接した状態で、結晶を保持する保持部と、
結晶の下部の裏面側で結晶を保持部から外れないように抑える抑え部と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、保持部の上面からの第1の面の飛び出し量は、第1の面の直径の10%以下であると好適である。
【0009】
また、保持部には、上面から途中の高さ位置まで第1の径サイズとなり、若しくは上面から拡がりながら途中の高さ位置で第1の径サイズとなり、途中の高さ位置から裏面側に向かって第1の径サイズよりも大きい第2の径サイズとなる開口部が形成されると好適である。
【0010】
また、保持部を支持する、それぞれ同一断面サイズを維持した状態で延びる第1と第2の支柱をさらに備えると好適である。
【0011】
また、保持部と抑え部とは、同一材料で構成されると好適である。
【0012】
本発明の一態様の電子銃の陰極機構の製造方法は、
上面側から第1の径サイズと第1の径サイズよりも大きい第2の径サイズとの異なる複数の内径の開口部が形成された筒状の保持部の裏面側から、加熱することで熱電子を放出する第1の面を有する柱状、円錐台状、若しくはこれらの組み合わせの上部と、第1の面と略平行であり上部の最大径サイズよりも大きい径サイズの第2の面を有し上部と一体で構成された下部と、を有する結晶を開口部内に差し込む工程と、
第1の面が開口部の差し込んだ先から飛び出し、かつ開口部内の第2の径サイズから第1の径サイズに変わる面に結晶の第2の面を当接させた状態で、抑え部により結晶の下部の裏面側で結晶を保持部から外れないように抑える工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、保持部の上面からの結晶の飛び出し量を高精度に制御できる。この結果、所望の輝度分布が得られるカソードの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1における電子銃の陰極機構の構成の一例を示す断面図である。
図2】実施の形態1における電子銃の陰極機構の構成の一例を示す上面図である。
図3】実施の形態1における結晶の一例と保持部の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。
図4】実施の形態1における電子銃の陰極機構の製造方法の一例を説明するための断面図である。
図5】実施の形態1における抑え部の固定方法の一例を示す図である。
図6】実施の形態1における抑え部の固定方法の他の一例を示す図である。
図7】実施の形態1の比較例におけるカソードの寿命を説明するための図である。
図8】実施の形態1におけるカソードの寿命を説明するための図である。
図9】実施の形態1における結晶の電子放出面の高さ位置と電界分布との関係を説明するための図である。
図10A】実施の形態1における輝度、カソード温度、及びエミッション電流と、電子放出面の飛び出し量との関係を示す図である。
図10B】実施の形態1におけるエミッション電流と、電子放出面の飛び出し量との関係を示す図である。
図11】実施の形態1における結晶の他の一例と保持部の他の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。
図12】実施の形態1における結晶の他の一例と保持部の他の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。
図13】実施の形態1における結晶の一例と保持部の他の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。
図14】実施の形態1における結晶の他の一例と保持部の他の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。
図15】実施の形態1における結晶の他の一例と保持部の他の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。
図16】実施の形態1における描画装置の構成の一例を示す図である。
図17】実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図18】実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。
図19】実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。
図20】実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図21】実施の形態1におけるマルチビームの描画方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態では、電子ビームとして、マルチビームを用いた構成について説明する。但し、これに限るものではなく、シングルビームを用いた構成であっても構わない。また、以下、描画装置について説明するが、熱電子放出源から放出される電子ビームを用いる装置であれば、描画装置以外の装置であっても構わない。例えば、画像取得装置、或いは検査装置等であっても構わない。
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における電子銃の陰極機構の構成の一例を示す断面図である。
図2は、実施の形態1における電子銃の陰極機構の構成の一例を示す上面図である。
図3は、実施の形態1における結晶の一例と保持部の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。
図1及び図2において、電子銃のカソード機構222(陰極機構)は、結晶10と、保持部12と、抑え部13と、1対の支柱14,16と、1対のベース部18,19とを備える。
【0017】
結晶10は、加熱することで一端面となる電子放出面11(第1の面)から熱電子を放出する。結晶10の材料として、例えば、六ホウ化ランタン(LaB)が用いられる。結晶10の電子放出面11内の結晶方位は、同一である。例えば、(100)或いは(310)の結晶方位を有すると好適である。
【0018】
図3に示すように、結晶10は、上部70と下部80とにより構成される。上部70と下部80とは一体に構成される。上部70は、柱状、円錐台状、若しくはこれらの組み合わせにより構成される。柱状には、例えば、円柱、四角柱、或いは四角よりも多角な多角柱が含まれる。図1図3の例では、上部70が直径φの円柱状に形成される場合を示している。上部70の上面が電子放出面11(第1の面)となる。電子放出面11は円形であることが望ましい。
【0019】
下部80は、柱状若しくは円錐台状により構成される。柱状には、例えば、円柱、四角柱、或いは四角よりも多角な多角柱が含まれる。同様に、柱状には、例えば、円柱、四角柱、或いは四角よりも多角な多角柱が含まれる。或いは3角柱であっても構わない。或いは最大径サイズが異なる複数の柱体若しくは円錐台状の組み合わせであっても構わない。図1~3の例では、下部80が上部70の最大径サイズよりも大きい直径φの円柱状に形成される場合を示している。下部80は、上部70の最大径サイズよりも大きい径サイズの座面81(第2の面)を有する。座面81は、下部80の上面となる。座面81は、電子放出面11と略平行に形成される。
【0020】
保持部12は、結晶10の電子放出面11を露出し、結晶10の他の面の少なくとも一部を被覆した状態で、結晶10を保持する。保持部12の材料として、グラファイト、タンタル、タングステン、及びイリジウムのうち1つを用いることができる。具体的には、保持部12は、上面側から小さい径サイズ(第1の径サイズ)とかかる小さい径サイズよりも大きい径サイズ(第2の径サイズ)との異なる複数の内径を有する筒状に形成され、結晶10の電子放出面11が上面よりも飛び出し、かつ筒内で結晶10の座面81と当接した状態で、結晶10を保持する。保持部12は、例えば、直径φの円柱体の中央部に貫通した開口部42が形成される。具体的には、以下の開口部42が形成される。
【0021】
保持部12には、上面から途中の高さ位置hまで結晶10の上部70の最大径サイズ+αのサイズ(第1の径サイズ)となり、若しくは上面からテーパー状に拡がりながら途中の高さ位置hで結晶10の上部70の最大径サイズとなり、途中の高さ位置hから裏面側に向かって結晶10の上部70の最大径サイズよりも大きい結晶10の下部80の最大径サイズ+αのサイズ(第2の径サイズ)となる開口部42が形成される。図3の例では、上面から途中の高さ位置hまで直径φ+αのサイズの開口部分42-1で形成され、途中の高さ位置hから裏面側に向かって直径φ+αのサイズの開口部分42-2で開口部42が形成される場合を示している。ここでαは所定の嵌め合い関係になるためのマージンである。よって、高さ位置hに座繰り面43(筒底)が形成されることになる。
【0022】
抑え部13は、結晶10の下部80の裏面側に当接させた状態で配置される。抑え部13は、結晶10が保持部12から外れないように結晶10を抑える。抑え部13は、保持部12と同一材料で構成されると好適である。抑え部13の材料として、グラファイト、タンタル、タングステン、及びイリジウムのうち1つを用いることができる。
【0023】
図4は、実施の形態1における電子銃の陰極機構の製造方法の一例を説明するための断面図である。図4に示すように、まず、保持部12の裏面側から、結晶10を開口部42内に差し込む。その際、結晶10は上部70が先に開口部42に入る向きで差し込む。そして、座面81が開口部42内の座繰り面43に当接する位置まで差し込む。これにより、電子放出面11を開口部42の差し込んだ先から所定の飛び出し量dだけ飛び出させることができる。座面81と座繰り面43との当接が無ければ、飛び出し量dを調整することは難しい。実施の形態1では、座面81と座繰り面43とを当接させることで、設計寸法通りに結晶10を配置できる。
【0024】
このように、電子放出面11が開口部42の差し込んだ先から飛び出し、かつ開口部42内の結晶10の下部80の最大径サイズ(第2の径サイズ)から結晶10の上部70の最大径サイズ(第1の径サイズ)に変わる座繰り面43に結晶10の座面81を当接させた状態で、抑え部13により結晶10の下部80の裏面側で結晶10を保持部12から外れないように抑える。
【0025】
図5は、実施の形態1における抑え部の固定方法の一例を示す図である。図5の例では、抑え部13の側面に例えばカーボンペースト材等の接着剤90を塗布した状態で、保持部12の開口部42に抑え部13を差し込む。これにより、抑え部13を保持部12に接着できる。或いは、接着剤90はネジでも代用でき、例えばこの場合上記の構造、方法で結晶を抑えることができる。
【0026】
図6は、実施の形態1における抑え部の固定方法の他の一例を示す図である。図6の例では、保持部12の外周側から開口部42内に貫通する少なくとも1つの孔93を形成しておく。各孔93は、抑え部13が配置される高さ位置に形成される。例えば、水平方向に孔93を形成する。また、例えば、位相を180度ずらして2つの孔93を形成すると良い。或いは、位相を120度ずつずらして3つの孔93を形成するとさらに良い。抑え部13が保持部12の開口部42に差し込まれた状態で、孔93を通じて楔92を抑え部13に打ち込む。これにより、抑え部13が変形し、保持部12内に固定される。
【0027】
或いは、抑え部13が配置される高さ位置において、抑え部13の側面に孔93と対応する位置に孔93が延びる方向にメネジを形成する。そして、抑え部13が保持部12の開口部42に差し込まれた状態で、孔93を通じてオネジ94を差し込み、さらに、抑え部13の側面に形成されたメネジにオネジ94をねじ込むことで、抑え部13を保持部12内に固定しても良い。図6の例では、オネジ94に頭部が付いていないものを示しているが、これに限るものではない。一般的な頭部の付いたボルトを用いても構わない。
【0028】
或いは、保持部12に形成される孔93にメネジを形成する。そして、抑え部13が保持部12の開口部42に差し込まれた状態で、孔93にオネジ94をねじ込んでいき、オネジ94の先を抑え部13に当接させ、さらに押圧するようにしても好適である。これにより、抑え部13側面では、オネジ94の先との摩擦により抑え部13が保持部12内に固定される。
【0029】
以上のように、座面81が座繰り面43と当接するように構成されることで、電子放出面11の飛び出し量dを高精度に制御できる。
【0030】
1対の支柱14(第1の支柱)と支柱16(第2の支柱)は、保持部12を支持する。1対の支柱14,16は、それぞれ同一断面サイズを維持した状態で延びる。1対の支柱14,16は、隙間の幅Wを開けて配置される。1対の支柱14,16は、保持部12を介して結晶10を加熱するためのヒータとして機能する。
【0031】
1対のベース部18,19は、1対の支柱14,16を固定する。具体的には、ベース部18は、支柱14の下側端を固定する。ベース部19は、支柱16の下側端を固定する。ベース部18は、碍子54に支持された、金属製の配線50に接続され、配線50によって支持される。ベース部19は、碍子54に支持された、金属製の配線52に接続され、配線52によって支持される。
【0032】
保持部12と、1対の支柱14,16と、1対のベース部18,19とは、同一材料による一体構造により形成される。一体構造の材料として、グラファイト、タンタル、タングステン、及びイリジウムのうち1つを用いることができる。保持部12と、1対の支柱14,16と、1対のベース部18,19とを一体構造に形成する場合、まず、板状のベース部分の中央に円柱を直立させた形状に母材を形成する。ベース部分の幅Lは、円柱の直径φに比べて十分大きいサイズにすると好適である。例えば、2倍以上のサイズに形成する。図2の例では、例えば3倍程度のサイズで形成される場合を示している。そして、ベース部の長手方向の中央部であって円柱の中央部を通る位置に保持部12にあたる部分を残して幅Wの切込み加工を施して、ベース部18とベース部19とを分離すると共に、支柱14と支柱16とを分離する。これにより、ベース部18、支柱14、保持部12、支柱16、及びベース19の順で電流が流れる直列の流路を形成できる。また、円柱状の保持部12の上面の中央部に上述した開口部42を形成する。これにより一体構造の保持部12と、1対の支柱14,16と、1対のベース部18,19とを形成できる。
【0033】
電線50を介して幅Lのベース部18に流れる電流は、断面積が大きいため抵抗を小さく抑えることができ、発熱量を抑制できる。そして、ベース部18から急激に断面積が小さくなる支柱14では抵抗が大きいため、発熱量を増大させることができる。ここで、例えば、徐々に断面積を小さくする形状では、抵抗が小さい部分が少なく必要な発熱量を得るためには大きな電力が必要となってしまう。これに対して実施の形態1では、支柱14は、小さい断面積を維持したまま保持部12に向かって延びるため抵抗が大きい状態を維持できる。よって、必要な発熱量を得る際に、小さい電力で効率よく発熱できる。支柱16についても同様である。
【0034】
1対の支柱14,16は、上述したように直径φ4の円柱部分から削り出される。直径φ4の円柱部分は、保持部12の領域を残して、中央部に幅Wの切込みを形成することにより2つの半割状部分に削り出される。さらに、図1の右上の1対の支柱の上面図に示したように、半割された部分の両側の部分2,3,4,5をそれぞれ削り、断面の外側辺が円弧状となった幅Dの1対の支柱14,16が形成される。これにより、支柱14,16は、3辺が直線で1辺が曲線の断面構造を有する。半割された部分の両側の部分2,3,4,5をさらに削ることで、支柱14,16の断面積をさらに小さくできる。断面積を小さくすることで抵抗を高め、電流を流す際に効率よく温度を上昇させることができる。
【0035】
図7は、実施の形態1の比較例におけるカソードの寿命を説明するための図である。
図8は、実施の形態1におけるカソードの寿命を説明するための図である。
図7(a)では、円柱状の下部の上に円錐台状の上部が配置された結晶60を用いる場合を示している。比較例では、保持部62の上面と結晶60の上面(電子放出面)とが同じ高さ位置になるように配置される。また、保持部62には、結晶60の円錐台の斜面に沿って、斜面と隙間を空けてフィラー材61が配置される場合を示している。比較例では、使用による結晶60の消耗により、図7(b)に示すように電子放出面が後退する。後退量Δが所定の値になると所望の輝度分布が得られなくなり、カソードの寿命となる。カソードが寿命を迎えると、その都度、装置を停止させる必要がある。使用開始から保持部62の上面からの後退量Δが所定の値に達するまでの期間が短いと、カソード交換の頻度が増加し、装置のダウンタイムが増えてしまう。これに対して、実施の形態1では、図8に示すように、電子放出面11を保持部12の上面から所定の飛び出し量dだけ飛び出すように配置する。そのため、使用開始から保持部62の上面からの後退量Δが所定の値に達するまでの期間を比較例よりも長くすることができる。よって、カソードの寿命を延ばすことができる。但し、ビームの安定した輝度或いは一様の輝度分布を得るためには、単純に電子放出面11を保持部12の上面から突出させれば良いわけではない。飛び出し量dを制御することが重要である。
【0036】
図9は、実施の形態1における結晶の電子放出面の高さ位置と電界分布との関係を説明するための図である。図9では、電子放出面11の高さ位置が、保持部12上面と同じ高さ位置Aと、保持部12上面から突出した高さ位置Bと、さらに突出した高さ位置Cと、保持部12上面よりも後退した高さ位置Dとを示す。図9のグラフでは、A~Dのそれぞれの状態での電子放出面11付近の電界分布を示している。電子放出面11の高さ位置が、保持部12上面からずれると電子放出面11付近の電界分布も同様に一様では無くなる。電子放出面11の保持部12上面からの高さ位置のずれが大きくなると、それに伴い電界分布のずれが大きくなる。電界分布のずれが大きくなると、電界によるレンズ効果が大きくなりビームは広がりを持つようになり、試料面上での輝度(又は電流密度)或いは輝度分布(又は電流密度分布)を許容範囲内に制御することが困難になる。そのため、電子放出面11の高さ位置は許容範囲内に調整される必要がある。
【0037】
図10Aは、実施の形態1における輝度、カソード温度、及びエミッション電流と、電子放出面の飛び出し量との関係を示す図である。図10Aにおいて、電子放出面の飛び出し量は、電子放出面11の直径に対する飛び出し量の割合で示している。カソード温度及びエミッション電流が一定の条件では、飛び出し量が増加するのに伴い、輝度が低下してしまう。
輝度は限られた電子放出面11から多くの電子放出がされた方が高くなる。そして、飛び出し構造になると電子放出面11の他、円柱外周からも電子放出が起こる。飛び出し構造では電子放出面11以外にさらに外周面の面積を考慮する必要が生じる。エミッション電流が一定の条件、かつカソード温度が同一条件で比較した場合、飛び出し構造の結晶10の方が、飛び出していない構造の結晶よりも表面積が大きいため、エミッション電流を表面積で割った電子密度は低くなる。その結果、輝度が低くなってしまう。
輝度を一定に維持するためには、カソード温度及びエミッション電流を大きくする必要がある。しかしながら、カソード温度及びエミッション電流を大きくするにも限界がある。そのため、ビーム全体で所望の輝度範囲(許容範囲)を維持するためには、電子放出面の飛び出し量dに制限がある。
【0038】
図10Bは、実施の形態1におけるエミッション電流と、電子放出面の飛び出し量との関係を示す図である。図10Bでは、縦軸にエミッション電流Eを示す。横軸に電子放出面の飛び出し量(%)を示す。図10A図10Bでは縮尺が合っていない。図10Bでは、輝度、ここでは輝度の代わりに電流密度Jを一定に維持した場合のエミッション電流の変化を示している。電子放出面の飛び出し量を大きくすると、図10Aに示したように輝度(電流密度)が低下するので、一定の輝度(電流密度)を維持するためには、図10Bに示すように、エミッション電流Eを増加する。その他、カソード温度も増加する。エミッション電流を大きくすることはエミッション電流を制御している電源の容量の増加につながるので好ましくない。また、カソードの温度上昇は結晶の蒸発、昇華を速めてしまい寿命が早く来てしまう。カソードの温度上昇を許容した場合でも、高圧電源の保証範囲からエミッション電流Eの最大値Emaxが決まる。その結果、図10Bに示すように、エミッション電流Eの最大値Emaxとなる電子放出面の飛び出し量が一義的に決まり、その飛び出し量は電子放出面の直径の10%となる。よって、保持部12の上面からの電子放出面11の飛び出し量dは、電子放出面11の直径の10%以下であることが好適である。
【0039】
実施の形態1では、結晶10の座面81と保持部12の座繰り面43とを当接させることで、それ以上電子放出面11が突出することを抑制できる。よって、電子放出面11と座面81との距離と、保持部12上面と座繰り面43との距離とを精度良く製造していれば、座面81と座繰り面43とを当接させることにより、カソード機構222を製造するにあたり、かかる電子放出面11の飛び出し量dを高精度に制御した組み立てができる。
【0040】
図1及び図3の例では、結晶10の上部70の形状が柱状の場合を示したが、これに限るものではない。
【0041】
図11は、実施の形態1における結晶の他の一例と保持部の他の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。図11の例では、結晶10の上部70の形状が円錐台状の場合を示している。図11の例では、電子放出面11が直径φで上部70の下端が直径φとなる下端に向かってテーパー状に広がる円錐台の形状を示している。その場合、上部70の最大径サイズは、上部70の下端の直径φとなる。下部80は上部70の最大径サイズである直径φよりも大きい直径φの円柱状に形成される。よって、座面81は、直径φと直径φの間の平面となる。
【0042】
保持部12には、上面から途中の高さ位置hまで上面からテーパー状に拡がりながら途中の高さ位置hで結晶10の上部70の最大径サイズとなり、途中の高さ位置hから裏面側に向かって結晶10の上部70の最大径サイズよりも大きい結晶10の下部80の最大径サイズ(第2の径サイズ)となる開口部42が形成される。図11の例では、上面から途中の高さ位置hまで上部70の斜面に沿ってテーパー状に広がり途中の高さ位置hで直径φ+αのサイズで形成され、途中の高さ位置hから裏面側に向かって直径φ+αのサイズで開口部42が形成される場合を示している。ここでαは所定の嵌め合い関係になるためのマージンである。よって、高さ位置hに座繰り面43が形成されることになる。
【0043】
図12は、実施の形態1における結晶の他の一例と保持部の他の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。図12の例では、結晶10の上部70の形状が柱状と円錐台状を組み合わせた形状の場合を示している。図12の例では、円錐台の上に円柱が配置された形状を示している。図12の例では、結晶10の上部70のうち、保持部12上面付近から電子放出面11までの部分が円柱で構成され、保持部12上面付近から結晶10の下部80までが円錐台で構成される。図12の例では、電子放出面11が直径φで保持部12上面まで直径φのまま同じ径サイズとなり、直径φの保持部12上面高さ位置から直径φとなる上部70の下端に向かってテーパー状に広がる円錐台の形状を示している。その場合、上部70の最大径サイズは、上部70の下端の直径φとなる。下部80は上部70の最大径サイズである直径φよりも大きい直径φの円柱状に形成される。よって、座面81は、直径φと直径φの間の平面となる。
【0044】
保持部12には、上面から途中の高さ位置hまで上面からテーパー状に拡がりながら途中の高さ位置hで結晶10の上部70の最大径サイズとなり、途中の高さ位置hから裏面側に向かって結晶10の上部70の最大径サイズよりも大きい結晶10の下部80の最大径サイズ(第2の径サイズ)となる開口部42が形成される。図12の例では、上面で直径φ+αとなり、上面から途中の高さ位置hまで上部70の斜面に沿ってテーパー状に広がり途中の高さ位置hで直径φ+αとなるサイズで形成され、途中の高さ位置hから裏面側に向かって直径φ+αのサイズで開口部42が形成される場合を示している。ここでαは所定の嵌め合い関係になるためのマージンである。よって、高さ位置hに座繰り面43が形成されることになる。
【0045】
上述した例では、保持部12の開口部42の側面と結晶10の上部70の側面との間に隙間が実質的に無い場合を示したが、これに限るものではない。
【0046】
図13は、実施の形態1における結晶の一例と保持部の他の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。図13の例では、結晶10の上部70の側面と保持部12との間に隙間Gを設けた構成を示している。その他の構成は、図3と同様である。
【0047】
図14は、実施の形態1における結晶の他の一例と保持部の他の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。図14の例では、結晶10の上部70の円錐台斜面と保持部12との間に隙間Gを設けた構成を示している。その他の構成は、図11と同様である。
【0048】
図15は、実施の形態1における結晶の他の一例と保持部の他の一例と抑え部の一例を拡大した断面図である。図15の例では、結晶10の上部70の円錐台斜面と保持部12との間に隙間Gを設けた構成を示している。その他の構成は、図12と同様である。
【0049】
図3、及び図11図15に示した構成のいずれの構成を用いる場合であっても構わない。いずれの構成を用いる場合であっても電子放出面11の飛び出し量を高精度に制御しながらカソードの寿命を延ばすことができる。
【0050】
図16は、実施の形態1における描画装置の構成の一例を示す図である。図16において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、マルチ電子ビーム描画装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒102(マルチ電子ビームカラム)と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、縮小レンズ205、制限アパーチャ基板206、対物レンズ207、偏向器208、及び偏向器209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるレジストが塗布されたマスクブランクス等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0051】
電子銃201(電子ビーム放出源)は、上述したカソード機構222を有する。電子銃201は、カソード機構222の他に、ウェネルト224(ウェネルト電極)及びアノード226(アノード電極)を有している。また、アノード226は、カソード機構222の結晶10よりも正の電位の状態に制御され、結晶10から放出される熱電子を引き出す。例えば、アノード226は、接地(地絡)されている。
【0052】
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、電子銃電源装置120、偏向制御回路130、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、ステージ位置検出器139、及び磁気ディスク装置等の記憶装置140を有している。制御計算機110、メモリ112、電子銃電源装置120、偏向制御回路130、DACアンプユニット132,134、ステージ位置検出器139及び記憶装置140は、図示しないバスを介して互いに接続されている。偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ機構204が接続されている。DACアンプユニット132の出力は、偏向器209に接続される。DACアンプユニット134の出力は、偏向器208に接続される。偏向器208は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ134を介して偏向制御回路130により制御される。偏向器209は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ132を介して偏向制御回路130により制御される。ステージ位置検出器139は、レーザ光をXYステージ105上のミラー210に照射し、ミラー210からの反射光を受光する。そして、かかる反射光の情報を使ったレーザ干渉の原理を利用してXYステージ105の位置を測定する。
【0053】
制御計算機110に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0054】
電子銃電源装置120内には、加速電圧電源回路236、バイアス電圧電源回路234、フィラメント電力供給回路231(フィラメント電力供給部)、及び電流計238が配置される。
【0055】
加速電圧電源回路236の陰極(-)側が電子鏡筒102内のカソード機構222の両極の配線50,52に接続される。加速電圧電源回路236の陽極(+)側は、直列に接続された電流計238を介して接地(グランド接続)されている。また、加速電圧電源回路236の陰極(-)は、バイアス電圧電源回路234の陽極(+)にも分岐して接続され、バイアス電圧電源回路234の陰極(-)は、カソード機構222とアノード226との間に配置されたウェネルト224に電気的に接続される。言い換えれば、バイアス電圧電源回路234は、加速電圧電源回路236の陰極(-)とウェネルト224との間に電気的に接続されるように配置される。そして、フィラメント電力供給回路231は、かかるカソード機構222の両極の配線50,52間に電流を流してカソード機構222内の結晶10を所定の温度に加熱する。言い換えれば、フィラメント電力供給回路231は、カソード機構222にフィラメント電力を供給することになる。フィラメント電力とカソード温度T(結晶10の加熱温度)は一定の関係で定義可能であり、フィラメント電力によって、所望のカソード温度に加熱することができる。よって、カソード温度Tは、フィラメント電力によって制御される。フィラメント電力は、カソード機構222の両極間に流れる電流とカソード機構222の両極間にフィラメント電力供給回路231によって印加した電圧の積で定義される。加速電圧電源回路236は、カソード機構222とアノード226間に加速電圧を印加することになる。バイアス電圧電源回路234は、ウェネルト224に負のバイアス電圧を印加することになる。
【0056】
また、描画装置100の外部から描画データが入力され、記憶装置140に格納される。描画データには、通常、描画するための複数の図形パターンの情報が定義される。具体的には、図形パターン毎に、図形コード、座標、及びサイズ等が定義される。
【0057】
ここで、図16では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0058】
図17は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。図17において、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。図17では、例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ直径の円形であっても構わない。成形アパーチャアレイ基板203(ビーム形成機構)は、マルチビーム20を形成する。具体的には、これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。また、穴22の配列の仕方は、図17のように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。例えば、縦方向(y方向)k段目の列と、k+1段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)k+1段目の列と、k+2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0059】
図18は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。ブランキングアパーチャアレイ機構204は、図18に示すように、支持台33上にシリコン等からなる半導体基板31が配置される。基板31の中央部は、例えば裏面側から削られ、薄い膜厚hのメンブレン領域330(第1の領域)に加工されている。メンブレン領域330を取り囲む周囲は、厚い膜厚Hの外周領域332(第2の領域)となる。メンブレン領域330の上面と外周領域332の上面とは、同じ高さ位置、或いは、実質的に同じ高さ位置になるように形成される。基板31は、外周領域332の裏面で支持台33上に保持される。支持台33の中央部は開口しており、メンブレン領域330の位置は、支持台33の開口した領域に位置している。
【0060】
メンブレン領域330には、図17に示した成形アパーチャアレイ基板203の各穴22に対応する位置にマルチビーム20のそれぞれのビームの通過用の通過孔25(開口部)が開口される。言い換えれば、基板31のメンブレン領域330には、電子線を用いたマルチビーム20のそれぞれ対応するビームが通過する複数の通過孔25がアレイ状に形成される。そして、基板31のメンブレン領域330上であって、複数の通過孔25のうち対応する通過孔25を挟んで対向する位置に2つの電極を有する複数の電極対がそれぞれ配置される。具体的には、メンブレン領域330上に、図8に示すように、各通過孔25の近傍位置に該当する通過孔25を挟んでブランキング偏向用の制御電極24と対向電極26の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、基板31内部であってメンブレン領域330上の各通過孔25の近傍には、各通過孔25用の制御電極24に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路)が配置される。各ビーム用の対向電極26は、グランド接続される。
【0061】
制御回路41内には、例えば、CMOSインバータ回路等の図示しないアンプ(スイッチング回路の一例)が配置される。アンプの出力線(OUT)は制御電極24に接続される。一方、対向電極26は、グランド電位が印加される。アンプの入力(IN)には、閾値電圧よりも低くなるL(low)電位(例えばグランド電位)と、閾値電圧以上となるH(high)電位(例えば、1.5V)とのいずれかが制御信号として印加される。実施の形態1では、アンプの入力(IN)にL電位が印加される状態では、アンプの出力(OUT)は正電位(Vdd)となり、対向電極26のグランド電位との電位差による電界により対応ビームを偏向し、制限アパーチャ基板206で遮蔽することでビームOFFになるように制御する。一方、アンプの入力(IN)にH電位が印加される状態(アクティブ状態)では、アンプの出力(OUT)はグランド電位となり、対向電極26のグランド電位との電位差が無くなり対応ビームを偏向しないので制限アパーチャ基板206を通過することでビームONになるように制御する。
【0062】
制御電極24と対向電極26の組は、それぞれ対応するスイッチング回路となるアンプによって切り替えられる電位によってマルチビーム20の対応ビームをそれぞれ個別にブランキング偏向する。このように、複数のブランカーが、成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビーム20のうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0063】
次に描画装置100における描画機構150の動作について説明する。描画機構150は、電子銃201から放出された熱電子を用いて試料101にパターンを描画する。具体的には以下のように動作する。電子銃201(電子放出源)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202により成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、矩形の複数の穴22(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム20)が形成される。かかるマルチビーム20は、ブランキングアパーチャアレイ機構204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器:個別ブランキング機構)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビームを偏向する(ブランキング偏向を行う)。
【0064】
ブランキングアパーチャアレイ機構204を通過したマルチビーム20は、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ基板206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、マルチビーム20のうち、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向された電子ビームは、制限アパーチャ基板206の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向されなかった電子ビームは、図1に示すように制限アパーチャ基板206の中心の穴を通過する。かかる個別ブランキング機構のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。そして、ビーム毎に、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板206を通過したビームにより、1回分のショットのビームが形成される。制限アパーチャ基板206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208,209によって、制限アパーチャ基板206を通過した各ビーム(通過したマルチビーム20全体)が同方向に一括して偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
【0065】
図19は、実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。図19に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20のショットで照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば-x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を-y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、-x方向に向かって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、-x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、成形アパーチャアレイ基板203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で成形アパーチャアレイ基板203に形成された複数の穴22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。また、図19の例では、各ストライプ領域32を1回ずつ描画する場合を示しているが、これに限るものではない。同じ領域を複数回描画する多重描画を行っても好適である。多重描画を行う場合には、位置をずらしながら各パスのストライプ領域32を設定すると好適である。
【0066】
図20は、実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。図20において、ストライプ領域32には、例えば、試料101面上におけるマルチビーム20のビームサイズピッチで格子状に配列される複数の制御グリッド27(設計グリッド)が設定される。例えば、10nm程度の配列ピッチにすると好適である。かかる複数の制御グリッド27が、マルチビーム20の設計上の照射位置となる。制御グリッド27の配列ピッチはビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく偏向器209の偏向位置として制御可能な任意の大きさで構成されるものでも構わない。そして、各制御グリッド27を中心とした、制御グリッド27の配列ピッチと同サイズでメッシュ状に仮想分割された複数の画素36が設定される。各画素36は、マルチビームの1つのビームあたりの照射単位領域となる。図20の例では、試料101の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。照射領域34のx方向サイズは、マルチビーム20のx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じた値で定義できる。照射領域34のy方向サイズは、マルチビーム20のy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じた値で定義できる。なお、ストライプ領域32の幅は、これに限るものではない。照射領域34のn倍(nは1以上の整数)のサイズであると好適である。図20の例では、例えば512×512列のマルチビームの図示を8×8列のマルチビームに省略して示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素28間のピッチが設計上のマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。図20の例では、ビーム間ピッチで囲まれる領域で1つのサブ照射領域29を構成する。図20の例では、各サブ照射領域29は、4×4画素で構成される場合を示している。
【0067】
図21は、実施の形態1におけるマルチビームの描画方法の一例を説明するための図である。図21では、図20で示したストライプ領域32を描画するマルチビームのうち、y方向3段目の座標(1,3),(2,3),(3,3),・・・,(512,3)の各ビームで描画するサブ照射領域29の一部を示している。図6の例では、例えば、XYステージ105が8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)する場合を示している。かかる4つの画素を描画(露光)する間、照射領域34がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、照射領域34をXYステージ105の移動に追従させる。言い換えれば、トラッキング制御が行われる。図21の例では、8ビームピッチ分の距離を移動する間にショット毎にy方向にビーム照射対象の画素36をシフトしながら4つの画素を描画(露光)することで1回のトラッキングサイクルを実施する場合を示している。
【0068】
具体的には、描画機構150は、当該ショットにおけるマルチビームの各ビームのそれぞれの照射時間のうちの最大照射時間Ttr内のそれぞれの制御グリッド27に対応する描画時間(照射時間、或いは露光時間)、各制御グリッド27にマルチビーム20のうちONビームのそれぞれ対応するビームを照射する。最大照射時間Ttrは、予め設定される。実際には、最大照射時間Ttrにビーム偏向のセトリング時間を加えた時間がショットサイクルとなるが、ここでは、ビーム偏向のセトリング時間を省略し、最大照射時間Ttrをショットサイクルとして示している。そして、1回のトラッキングサイクルが終了すると、トラッキング制御をリセットして、次のトラッキングサイクルの開始位置へとトラッキング位置を振り戻す。
【0069】
なお、各サブ照射領域29の右から1番目の画素列の描画は終了しているので、トラッキングリセットした後に、次回のトラッキングサイクルにおいてまず偏向器209は、各サブ照射領域29の下から1段目かつ右から2番目の画素の制御グリッド27にそれぞれ対応するビームの描画位置を合わせる(シフトする)ように偏向する。
【0070】
以上のように同じトラッキングサイクル中は偏向器208によって照射領域34を試料101に対して相対位置が同じ位置になるように制御された状態で、偏向器209によって1制御グリッド27(画素36)ずつシフトさせながら各ショットを行う。そして、トラッキングサイクルが1サイクル終了後、照射領域34のトラッキング位置を戻してから、図10の下段に示すように、例えば1制御グリッド(1画素)ずれた位置に1回目のショット位置を合わせ、次のトラッキング制御を行いながら偏向器209によって1制御グリッド(1画素)ずつシフトさせながら各ショットを行う。ストライプ領域32の描画中、かかる動作を繰り返すことで、照射領域34a~34oといった具合に順次照射領域34の位置が移動していき、当該ストライプ領域の描画を行っていく。
【0071】
そして、試料101上のどの制御グリッド27(画素36)をマルチビームのどのビームが照射するのかは描画シーケンスによって決まる。サブ照射領域29がn×n画素の領域とすると、1回のトラッキング動作で、n制御グリッド(n画素)が描画される。次回のトラッキング動作で上述したビームとは異なるビームによって同様にn画素が描画される。このようにn回のトラッキング動作でそれぞれ異なるビームによってn画素ずつ描画されることにより、1つのn×n画素の領域内のすべての画素が描画される。マルチビームの照射領域内の他のn×n画素のサブ照射領域29についても同時期に同様の動作が実施され、同様に描画される。
【0072】
以上のように、実施の形態1によれば、保持部12の上面からの結晶10の飛び出し量を高精度に制御できる。この結果、所望の輝度分布が得られるカソード機構222の寿命を延ばすことができる。よって、描画装置100のダウンタイムを低減できる。
【0073】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0074】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0075】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての電子銃の陰極機構、電子銃、及び電子ビーム描画装置は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0076】
2,3,4,5 部分
10 結晶
11 電子放出面
12 保持部
13 抑え部
14,16 支柱
18,19 ベース部
20 マルチビーム
22 穴
24 制御電極
25 通過孔
26 対向電極
27 制御グリッド
28 画素
29 サブ照射領域
30 描画領域
32 ストライプ領域
31 基板
33 支持台
34 照射領域
35 単位領域
36 画素
41 制御回路
42 開口部
43 座繰り面
54 碍子
50,52 配線
60 結晶
61 フィラー材
62 保持部
70 上部
80 下部
81 座面
100 描画装置
101 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
112 メモリ
120 電子銃電源装置
130 偏向制御回路
132,134 DACアンプユニット
139 ステージ位置検出器
140 記憶装置
150 描画機構
160 制御系回路
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
204 ブランキングアパーチャアレイ機構
205 縮小レンズ
206 制限アパーチャ基板
207 対物レンズ
208,209 偏向器
210 ミラー
222 カソード機構
224 ウェネルト
226 アノード
231 フィラメント電力供給回路
234 バイアス電圧電源回路
236 加速電圧電源回路
238 電流計
330 メンブレン領域
332 外周領域
図1
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図3
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図10A
図10B
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