(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-13
(45)【発行日】2025-05-21
(54)【発明の名称】ビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール系重合体含有水溶液、塗料及びセメント混和剤
(51)【国際特許分類】
C08F 8/12 20060101AFI20250514BHJP
C08F 8/48 20060101ALI20250514BHJP
C08F 216/06 20060101ALI20250514BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20250514BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20250514BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20250514BHJP
【FI】
C08F8/12
C08F8/48
C08F216/06
C09D5/00 Z
C09D129/04
C04B24/26 B
(21)【出願番号】P 2025503004
(86)(22)【出願日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2024015533
(87)【国際公開番号】W WO2024219481
(87)【国際公開日】2024-10-24
【審査請求日】2025-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2023068342
(32)【優先日】2023-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱 健一朗
(72)【発明者】
【氏名】天野 雄介
【審査官】渡邉 勇磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/282239(WO,A1)
【文献】特開2023-34384(JP,A)
【文献】特開2021-116386(JP,A)
【文献】特表2000-501136(JP,A)
【文献】特開2019-119891(JP,A)
【文献】特開平4-309509(JP,A)
【文献】特開2008-143922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/12
C08F 8/48
C08F 216/06
C09D 5/00
C09D 129/04
C04B 24/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系重合体であって、
前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1.5質量%、20℃におけるpHが4を示す水溶液状態において、前記水溶液の20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度X[cp]と、
前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1.5質量%、20℃におけるpHが10を示す水溶液状態において、前記水溶液の20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度Y[cp]とが、下記式(1)を満たすビニルアルコール系重合体。
1.5<Y/X<1,500 (1)
【請求項2】
前記水溶液粘度Yが20cp以上である、請求項1に記載のビニルアルコール系重合体。
【請求項3】
前記水溶液粘度Y[cp]と、前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1.5質量%、20℃におけるpHが10を示す水溶液状態において、前記水溶液の20℃でのせん断速度100[1/s]における水溶液粘度Z[cp]とが、下記式(2)を満たす、請求項1
に記載のビニルアルコール系重合体。
1.5<Y/Z<100 (2)
【請求項4】
ラクトン環を有する構成単位(A)を含む、請求項
1に記載のビニルアルコール系重合体。
【請求項5】
イオン性基を有する構成単位(B)を含む、請求項
1に記載のビニルアルコール系重合体。
【請求項6】
炭素数が3以上の炭化水素よりなる疎水性基を有する構成単位(C)を含む、請求項
1に記載のビニルアルコール系重合体。
【請求項7】
ラクトン環を有する構成単位(A)、イオン性基を有する構成単位(B)、及び炭素数が3以上の炭化水素よりなる疎水性基を有する構成単位(C)を含み、
前記ビニルアルコール系重合体の全構成単位に対する、前記構成単位(A)の含有率を(a)とし、前記構成単位(B)の含有率を(b)とし、前記構成単位(C)の含有率を(c)とし、前記構成単位(C)における疎水性基の炭素数を(d)とし、前記構成単位(B)におけるイオン性基の数を(e)として、下記式(3)を満たす、請求項
1に記載のビニルアルコール系重合体。
5<(c×(d-3)
2)/(a+b×e)<95 (3)
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体及び水を含む、ビニルアルコール系重合体含有水溶液。
【請求項9】
前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1~3質量%、20℃におけるpHが7以上であって、20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度が、20~1,000,000cpである、請求項8に記載のビニルアルコール系重合体含有水溶液。
【請求項10】
前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1~3質量%、20℃におけるpHが7未満であって、20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度が、20~100,000cpである、請求項8に記載のビニルアルコール系重合体含有水溶液。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体を含有する、塗料。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体を含有する、セメント混和剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルアルコール系重合体、並びに当該ビニルアルコール系重合体を含有する、ビニルアルコール系重合体含有水溶液、塗料及びセメント混和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール系重合体は、親水性又は高い結晶性に起因する優れた皮膜特性(機械的強度、耐油性、造膜性、酸素ガスバリア性等)を有する。このためビニルアルコール系重合体は、当該特性を利用して、粘度調整剤(増粘剤)、接着剤、紙用塗工剤、繊維加工剤、バインダー、エマルジョン安定剤、フィルム及び繊維等の原料として広く利用されている。また、用途に合わせてビニルアルコール系重合体の性能を向上させるために、官能基の導入、結晶性の制御等による変性ビニルアルコール系重合体の開発が行われている。
【0003】
例えば粘度調整剤(増粘剤)の用途では、ビニルアルコール系重合体が有する水酸基同士の相互作用により、通常のビニルアルコール系重合体でも優れた増粘効果を有する。しかし、さらに高い水溶液粘度が要求される場合には、飽和炭化水素基のような疎水性基を少量導入した変性ビニルアルコール系重合体が提案されている(特許文献1、2)。これらの変性ビニルアルコール系重合体は、水酸基同士の相互作用に加え、水溶液中では疎水性基同士の相互作用が働くことから、さらに高い増粘効果を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-291120号公報
【文献】国際公開第2019/189402号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に記載の変性ビニルアルコール系重合体は、低濃度で優れた増粘性を発現する。しかしながら、これらの変性ビニルアルコール系重合体を、粘度を付与する対象(例えばエマルジョン)と混合するプロセスにおいて、変性ビニルアルコール系重合体を対象まで送液する際には、混合後に変性ビニルアルコール系重合体の濃度が低下することを考慮し、送液時の変性ビニルアルコール系重合体溶液を高濃度に調製する必要がある。
本発明者らが検証した結果、前述の変性ビニルアルコール系重合体は、高濃度では粘度が高くて送液できない、あるいはそもそも溶解できないといった、取扱い性の点で課題があることが分かった。
【0006】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、簡易に粘度を大きく変化させることが可能なビニルアルコール系重合体水溶液を得ることができるビニルアルコール系重合体、簡易に粘度を大きく変化させることが可能なビニルアルコール系重合体水溶液、並びに当該ビニルアルコール系重合体を含有する塗料及びセメント混和剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]ビニルアルコール系重合体であって、
前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1.5質量%、20℃におけるpHが4を示す水溶液状態において、前記水溶液の20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度X[cp]と、
前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1.5質量%、20℃におけるpHが10を示す水溶液状態において、前記水溶液の20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度Y[cp]とが、下記式(1)を満たすビニルアルコール系重合体。
1.5<Y/X<1,500 (1)
[2]前記水溶液粘度Yが20cp以上である、上記[1]に記載のビニルアルコール系重合体。
[3]前記水溶液粘度Y[cp]と、前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1.5質量%、20℃におけるpHが10を示す水溶液状態において、前記水溶液の20℃でのせん断速度100[1/s]における水溶液粘度Z[cp]とが、下記式(2)を満たす、上記[1]又は[2]記載のビニルアルコール系重合体。
1.5<Y/Z<100 (2)
[4]ラクトン環を有する構成単位(A)を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載のビニルアルコール系重合体。
[5]イオン性基を有する構成単位(B)を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のビニルアルコール系重合体。
[6]炭素数が3以上の炭化水素よりなる疎水性基を有する構成単位(C)を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載のビニルアルコール系重合体。
[7]ラクトン環を有する構成単位(A)、イオン性基を有する構成単位(B)、及び炭素数が3以上の炭化水素よりなる疎水性基を有する構成単位(C)を含み、
前記ビニルアルコール系重合体の全構成単位に対する、前記構成単位(A)の含有率を(a)とし、前記構成単位(B)の含有率を(b)とし、前記構成単位(C)の含有率を(c)とし、前記構成単位(C)における疎水性基の炭素数を(d)とし、前記構成単位(B)におけるイオン性基の数を(e)として、下記式(3)を満たす、上記[1]~[3]のいずれかに記載のビニルアルコール系重合体。
5<(c×(d-3)2)/(a+b×e)<95 (3)
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載のビニルアルコール系重合体及び水を含む、ビニルアルコール系重合体含有水溶液。
[9]前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1~3質量%、20℃におけるpHが7以上であって、20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度が、20~1,000,000cpである、上記[8]に記載のビニルアルコール系重合体含有水溶液。
[10]前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1~3質量%、20℃におけるpHが7未満であって、20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度が、20~100,000cpである、上記[8]に記載のビニルアルコール系重合体含有水溶液。
[11]上記[1]~[7]のいずれかに記載のビニルアルコール系重合体を含有する、塗料。
[12]上記[1]~[7]のいずれかに記載のビニルアルコール系重合体を含有する、セメント混和剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡易に粘度を大きく変化させることが可能なビニルアルコール系重合体水溶液を得ることができるビニルアルコール系重合体、簡易に粘度を大きく変化させることが可能なビニルアルコール系重合体水溶液、並びに当該ビニルアルコール系重合体を含有する塗料及びセメント混和剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明に含まれる。
本明細書において、簡易に粘度を大きく変化させることが可能な特性を「粘度変更性」と称する。
本明細書において、「水溶液状態」とは、溶媒(水)を除く成分が水に溶解している、もしくは分散している状態を意味する。
【0010】
[ビニルアルコール系重合体]
本発明に係るビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール系重合体であって、
前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1.5質量%、20℃におけるpHが4を示す水溶液状態において、前記水溶液の20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度X[cp]と、
前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1.5質量%、20℃におけるpHが10を示す水溶液状態において、前記水溶液の20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度Y[cp]とが、下記式(1)を満たすビニルアルコール系重合体である。
1.5<Y/X<1,500 (1)
【0011】
本発明に係るビニルアルコール系重合体は、上記粘度比(Y/X)が1.5超と大きい。したがって、本発明に係るビニルアルコール系重合体によれば、当該ビニルアルコール系重合体の水溶液のpHを変更することにより、簡易に粘度を大きく変化させることが可能である。したがって、ビニルアルコール系重合体の水溶液を配管等を用いて送液する際には、酸を添加する等によりpHを低くして、水溶液を容易に低粘度にすることが可能であり、これにより送液をスムーズに行うことができる。また、増粘剤等として使用する際には、アルカリを添加する等によりpHを高くして、水溶液を容易に高粘度にすることが可能である。
【0012】
<粘度比(Y/X)>
上記粘度比(Y/X)は、1.5超かつ1,500未満である。1.5以下であると、ビニルアルコール系重合体の水溶液の粘度を容易に変更することができないため、pHを調整することにより増粘性と送液性の両立を図ることができない。1,500以上であると、僅かなpHの変化により粘度が著しく変化するため、粘度調整が難しく、利便性が悪い。
当該観点から、当該粘度比(Y/X)は、好ましくは1.5超1,000以下、より好ましくは1.5超800以下、さらに好ましくは1.5超500以下、よりさらに好ましくは3.0以上500以下、よりさらに好ましくは5.0以上500以下、よりさらに好ましくは5.0以上300以下、よりさらに好ましくは10以上300以下、よりさらに好ましくは15以上300以下、よりさらに好ましくは25以上300以下である。
【0013】
炭素数が多い水性基を有する構成単位を導入したり、疎水性基を有する構成単位の含有率を増やしたり、重合度を高くしたり、イオン性基を有する構成単位の含有率を増したり、ビニルエステルモノマー単位を減らすと、当該粘度比(Y/X)が増加する傾向が有り、また、炭素数が少ない疎水性基を有する構成単位を導入したり、疎水性基を有する構成単位の含有率を減らしたり、重合度を低くしたり、イオン性基を有する構成単位の含有率を減らしたり、ビニルエステルモノマー単位を増やすと、当該粘度比(Y/X)が減少する傾向が有る。
【0014】
<粘度X>
上記粘度X[cp]は、ビニルアルコール系重合体の水溶液の送液性を向上させる等の観点から、好ましくは6,000cp以下である。また、当該粘度X[cp]は、ビニルアルコール系重合体水溶液の粘度変更後の増粘性の観点から、好ましくは1cp以上である。当該観点から、当該粘度X[cp]は、好ましくは1~6,000、より好ましくは10~5,500、さらに好ましくは20~5,500、よりさらに好ましくは25~5,500、よりさらに好ましくは100~5,500、よりさらに好ましくは100~3,000、よりさらに好ましくは100~2,500、よりさらに好ましくは130~2,500である。
【0015】
酸性度の高いイオン性基を変性したり、重合度を高くしたり、ビニルエステルモノマー単位を減らすと、当該粘度X[cp]が増加する傾向が有り、また、重合度を小さくしたり、ビニルエステルモノマー単位を増やすと、当該粘度X[cp]が減少する傾向が有る。
【0016】
<粘度Y>
上記粘度Y[cp]は、ビニルアルコール系重合体の水溶液の粘度変更性及び増粘性の観点から、好ましくは20cp以上である。また、当該粘度Y[cp]は、ハンドリング性の観点から、好ましくは500,000cp以下である。当該観点から、当該粘度X[cp]は、好ましくは20~500,000、より好ましくは100~300,000、さらに好ましくは100~200,000、よりさらに好ましくは200~200,000、よりさらに好ましくは500~200,000、よりさらに好ましくは2,000~200,000、よりさらに好ましくは5,000~200,000、よりさらに好ましくは6,000~200,000、よりさらに好ましくは10,000~150,000である。
【0017】
炭素数が多い疎水性基を有する構成単位を導入したり、疎水性基を有する構成単位の含有率を増やしたり、重合度を高くしたり、イオン性基を有する構成単位の含有率を増やしたり、ビニルエステルモノマー単位を減らすと、当該粘度Y[cp]が増加する傾向が有り、また、炭素数が少ない疎水性基を有する構成単位を導入したり、疎水性基を有する構成単位の含有率を減らしたり、重合度を低くしたり、イオン性基を有する構成単位の含有率を減らしたり、ビニルエステルモノマー単位を増やすと、当該粘度Y[cp]が減少する傾向が有る。
【0018】
<粘度比(Y/Z)>
前記水溶液粘度Y[cp]と、前記ビニルアルコール系重合体の含有率が1.5質量%、20℃におけるpHが10を示す水溶液状態において、前記水溶液の20℃でのせん断速度100[1/s]における水溶液粘度Z[cp]とが、下記式(2)を満たすことが好ましい。
1.5<Y/Z<100 (2)
当該粘度比(Y/Z)が1.5超であると、チキソトロピー性に優れる。当該粘度比(Y/Z)が100未満であると、ハンドリング性に優れる。
当該観点から、当該粘度比(Y/Z)は、より好ましくは2.0~80、さらに好ましくは5~80、よりさらに好ましくは10~80、よりさらに好ましくは20~80、よりさらに好ましくは20~60、よりさらに好ましくは20~50である。
【0019】
炭素数が多い疎水性基を有する構成単位を導入したり、疎水性基を有する構成単位の含有率を増やしたり、イオン性基を有する構成単位の含有率を増やしたり、ビニルエステルモノマー単位を減らすと、当該粘度比(Y/Z)が増加する傾向が有り、また、炭素数が少ない疎水性基を有する構成単位を導入したり、疎水性基を有する構成単位の含有率を減らしたり、イオン性基を有する構成単位の含有率を減らしたり、ビニルエステルモノマー単位を増やすと、当該粘度比(Y/Z)が減少する傾向が有る。
【0020】
<粘度Z>
上記粘度Z[cp]は、ビニルアルコール系重合体の水溶液の送液性を向上させる等の観点から、好ましくは10,000cp以下である。また、当該粘度Z[cp]は、増粘性の観点から、好ましくは10cp以上である。当該観点から、当該粘度Z[cp]は、好ましくは10~10,000、より好ましくは50~10,000、さらに好ましくは100~10,000、よりさらに好ましくは100~6,000、よりさらに好ましくは100~4,000、よりさらに好ましくは500~4,000、よりさらに好ましくは1,000~3,000である。
【0021】
炭素数が多い疎水性基を有する構成単位を導入したり、疎水性基を有する構成単位の含有率を増やしたり、イオン性基を有する構成単位の含有率を増やすと、当該粘度Z[cp]が増加する傾向が有り、また、炭素数が少ない疎水性基を有する構成単位を導入したり、疎水性基を有する構成単位の含有率を減らしたり、イオン性基を有する構成単位の含有率を減らすと、当該粘度Z[cp]が減少する傾向が有る。
【0022】
上記水溶液粘度X[cp]、水溶液粘度Y[cp]、水溶液粘度Z[cp]、及び水溶液粘度W[cp]は、レオメーターを用いて測定することができ、詳しくは実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
<pH調整剤>
ビニルアルコール系重合体の水溶液のpHの調整方法に特に制限は無いが、当該水溶液に酸性化合物又は塩基性化合物を添加することが好ましい。
【0024】
酸性化合物としては、塩酸、硫酸、燐酸、硝酸、フッ酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、クロロ酢酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、クエン酸などの有機酸が挙げられる。これらの中でも、好ましくはp-トルエンスルホン酸、クエン酸、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸であり、より好ましくはクエン酸である。酸性化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
塩基性化合物としては、例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属重炭酸塩;トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどの第三級アミン;ピリジン、2,6-ルチジンなどの含窒素複素環式芳香族化合物などが挙げられる。これらの中でも、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、より好ましくは水酸化ナトリウムである。塩基性化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
<ビニルアルコール系重合体の構成単位>
(ラクトン環を有する構成単位(A))
本発明に係るビニルアルコール系重合体は、ラクトン環を有する構成単位(A)を含むことが好ましい。
本発明に係るビニルアルコール系重合体がラクトン環を有すると、ビニルアルコール系重合体の表面が溶けて癒着して塊状になることが防止され、その結果としてビニルアルコール系重合体を水溶液にする際に溶解し難くなることが防止される。
ラクトン環は、例えば、ビニルエステルと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合した後、けん化することで得られる。
当該ビニルエステルの具体例は、後述する(ビニルエステルモノマー単位)の具体例と同一である。当該(メタ)アクリル酸エステルの具体例は、後述する(イオン性基を有する構成単位(B))中におけるアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの具体例と同一である。
ラクトン環を有する構成単位(A)は、好ましくは下記の構造式(1)で表される単位、構造式(2)で表される単位及び構造式(3)で表される単位からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは下記の構造式(1)で表される単位及び構造式(2)で表される単位からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは構造式(1)で表される単位である。
なお、構造式(1)、構造式(2)及び構造式(3)中、*は隣接する構成単位に結合する結合手である。
構造式(2)及び構造式(3)中、Rは、メチル基、カルボキシ基、又はカルボキシ基の塩である。
【0027】
【0028】
(イオン性基を有する構成単位(B))
本発明に係るビニルアルコール系重合体は、イオン性基を有する構成単位(B)を含むことが好ましい。
本発明に係るビニルアルコール系重合体は、イオン性基を有する構成単位(B)を含むため、水溶液にしたときの水への溶解性が向上すると共に、当該水溶液のpHを低くしたときにビニルアルコール系重合体中の水酸基と反応してラクトン環構造を形成、またはイオン性基がプロトン化することにより、粘度が低下するため、水溶液の送液をスムーズに行うことができる。
【0029】
イオン性基としては、特に制限はなく、例えば、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホ基、スルホ基の塩、アミノ基、アミノ基の塩、第4級アンモニウム基の塩、などの基が挙げられる。上記塩としては、工業入手性、コストの観点から、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。これらのイオン性基は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、粘度変更性、酸性度の観点で、カルボキシ基、カルボキシ基の塩が好ましい。
【0030】
イオン性基を有する構成単位(B)を構成する単量体としては、カルボキシ基又はその塩を有する単量体、カルボキシ基を有する単量体のエステル、スルホ基又はその塩を有する単量体、アミノ基又はその塩を有する単量体、第4級アンモニウム基の塩を有する単量体等が挙げられる。これらの単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、粘度変更性、酸性度の観点で、カルボキシ基又はその塩を有する単量体、カルボキシ基を有する単量体のエステルが好ましい。
また、イオン性基を有する構成単位(B)は、後述する構造式(6)で表される構成単位であってもよい。
【0031】
<<カルボキシ基又はその塩を有する単量体、並びにカルボキシ基を有する単量体のエステル>>
カルボキシ基又はその塩を有する単量体、並びにカルボキシ基を有する単量体のエステルとしては、ビニルエステル単量体と共重合可能で、けん化後にカルボキシ基又はその塩がビニルアルコール系重合体中に存在するものであればよく、例えば、アクリル酸又はその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸又はその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピルなどのメタクリル酸エステル;マレイン酸又はその塩;マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチルなどのマレイン酸エステル;イタコン酸又はその塩;イタコン酸モノメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチルなどのイタコン酸エステル;フマル酸又はその塩;フマル酸モノメチル、フマル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチルなどのフマル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸又はその誘導体;フタルアルデヒド酸、イソフタルアルデヒド酸、テレフタルアルデヒド酸、グリオキシル酸、ホルミル酢酸、ホルミルプロパン酸等のホルミルカルボン酸又はこれらの塩;などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、反応性及び工業入手性の観点で、アクリル酸メチル、アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸、イタコン酸モノメチル、フタルアルデヒド酸、イソフタルアルデヒド酸、テレフタルアルデヒド酸、グリオキシル酸又はこれらの塩が好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸又はこれらの塩がより好ましい。
【0032】
<<スルホ基又はその塩を有する単量体>>
スルホ基又はその塩を有する単量体としては、特に制限はなく、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ベンズアルデヒドスルホン酸(オルトベンズアルデヒドスルホン酸、メタベンズアルデヒドスルホン酸、パラベンズアルデヒドスルホン酸)、2-アクリルアミド-2-フェニルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等の不飽和スルホン酸又はこれらの不飽和スルホン酸の塩;ベンズアルデヒド-2,4-ジスルホン酸等の不飽和ジスルホン酸又はこれらの不飽和ジスルホン酸の塩;が挙げられる。これらのスルホ基又はその塩を有する単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、反応性及び工業入手性の観点で、オルトベンズアルデヒドスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、ベンズアルデヒド-2,4-ジスルホン酸又はこれらの塩が好ましく、ベンズアルデヒドスルホン酸又はその塩がより好ましい。
【0033】
<<アミノ基又はその塩を有する単量体>>
アミノ基又はその塩を有する単量体としては、アミノ基(-NH2)又はその塩、メチルアミノ基(-NHCH3)又はその塩、ジメチルアミノ基(-N(CH3)2)又はその塩、ジエチルアミノ基(-N(CH2CH3)2)又はその塩、ジフェニルアミノ基(-NPh2)又はその塩を有するものが挙げられ、例えば、ビニルジメチルアミン、ビニルジエチルアミン、ビニルジフェニルアミン、アリルジメチルアミン、メタクリルジエチルアミン等の不飽和アミン又はその塩が挙げられる。これらのアミノ基又はその塩を有する単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、工業入手性の観点で、ビニルジメチルアミンが好ましい。
【0034】
<<第4級アンモニウム基の塩を有する単量体>>
本明細書において、「第4級アンモニウム基」とは、1つの窒素原子に4つの炭素原子が結合して陽イオンになったものをいう。ただし、4つの炭素原子は必ずしも異なる炭素原子である必要はなく、同一の炭素原子である場合を含む。
第4級アンモニウム基の塩を有する単量体としては、第4級アンモニウムクロライド(-N+(CH
3)
3Cl-)等の第4級アンモニウム基の塩を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、3-(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド(MAPTAC)、などが挙げられる。これらの第4級アンモニウム基の塩を有する単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、工業入手性の観点で、3-(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド(MAPTAC)が好ましい。
<<構造式(6)で表される構成単位>>
イオン性基を有する構成単位(B)は、下記構造式(6)で表される構成単位であってもよい。
【化2】
構造式(6)中、*は隣接する構成単位に結合する結合手である。
構造式(6)中、R
5はイオン性基である。当該イオン性基としては、好ましくは前述のイオン性基であり、より好ましくはカルボキシ基又はその塩である。
【0035】
(炭素数が3以上の炭化水素よりなる疎水性基を有する構成単位(C))
本発明に係るビニルアルコール系重合体は、炭素数が3以上の炭化水素よりなる疎水性基を有する構成単位(C)を含むことが好ましい。
本発明に係るビニルアルコール系重合体は、炭素数が3以上の炭化水素よりなる疎水性基を有する構成単位(C)を含むため、静置時に、疎水性基同士の相互作用により物理架橋を形成することにより、増粘性が向上する。また、撹拌等によりせん断応力が加わると、物理架橋が一時的に外れて粘度が低下する。これらにより、本発明に係るビニルアルコール系重合体は、チキソトロピー性が発現する。
当該構成単位(C)としては、下記構造式(4)で表される構成単位、下記構造式(5)で表される構成単位等が挙げられる。
【0036】
【0037】
構造式(4)中、*は隣接する構成単位に結合する結合手である。
構造式(4)中、R1は、単結合、アミド結合(-C(=O)-NH-)、又は、エーテル結合(-O-)である。R2は、炭素数が3以上の炭化水素よりなる疎水性基であり、好ましくは炭素数が3以上のアルキル基又はアルケニル基である。R3は、水素、又はメチル基である。
当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは3~25である。炭素数が3以上であると、チキソトロピー性が良好に発現する。炭素数が25以下であると、ビニルアルコール系重合体が水に良好に溶解する。
これらの観点から、当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、より好ましくは4~25、さらに好ましくは6~20、よりさらに好ましくは6~12、よりさらに好ましくは10~12である。
当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、直鎖状であっても分岐していてもよいが、上記の観点から、好ましくは直鎖状である。
当該アルキル基は、好ましくはヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等である。
【0038】
【0039】
構造式(5)中、*は隣接する構成単位に結合する結合手である。
構造式(5)中、R2は、構造式(4)中のR2と同様である。
構造式(5)は、ビニルアルコール系重合体におけるメチレン基の両端に結合する2個の炭素に結合している2個の水酸基に、アルデヒド又はその誘導体を結合させることにより生成することができる。
当該アルデヒド又はその誘導体の炭素数は、好ましくは4~20、である。炭素数が4以上であると、チキソトロピー性が良好に発現する。炭素数が20以下であると、ビニルアルコール系重合体が水に良好に溶解する。当該観点から、より好ましくは4~16、更に好ましくは6~14、より更に好ましくは10~12である。
当該アルデヒドは、好ましくは1-ブタナール、イソブチルアルデヒド、tert-ブチルアルデヒド、ペンタナール、3-メチル-ブタナール、1-ヘキサナール、1-ヘプタナール、1-オクタナール、2-エチルヘキサナール、1-ノナナール、1-デカナール、3,7-ジメチル-1-オクタナール、1-ウンデカナール、1-ドデカナール、3-メチル-3-ブテナール、シトラール、シトロネラール、7-オクテナールであり、より好ましくはドデカナール、デカナール、及びヘキサナール、から選択される少なくとも1種である。
【0040】
(ビニルアルコールモノマー単位)
本発明に係るビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコールモノマー単位を含むことが好ましい。
【0041】
(ビニルエステルモノマー単位)
本発明に係るビニルアルコール系重合体は、ビニルエステルモノマー単位を含むことが好ましい。
ビニルエステルモノマー単位としては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどが挙げられる。中でも、工業的観点から、酢酸ビニルが好ましい。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明のビニルアルコール系重合体は、本発明の効果が得られる限り、構成単位(A)、構成単位(B)、構成単位(C)、ビニルアルコールモノマー単位及びビニルエステルモノマー単位以外の構成単位をさらに有することができる。当該構成単位は、例えば、ビニルエステルと共重合可能なエチレン性不飽和単量体等に由来する構成単位や、アセタール化等の後変性された構成単位である。エチレン性不飽和単量体は、例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレンなどのα-オレフィン類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物である。
【0043】
(構成単位の含有量)
本発明に係るビニルアルコール系重合体中における、構成単位(A)の含有率(a)は、好ましくは0.1~10モル%である。0.1モル%以上であると、水への溶解性に優れる。10モル%以下であると、構成単位(A)以外の構成単位に起因する効果に優れる。
当該観点から、構成単位(A)の含有率(a)は、より好ましくは0.1~8.0モル%、さらに好ましくは0.1~6.0モル%、よりさらに好ましくは1.0~6.0モル%、よりさらに好ましくは2.0~6.0モル%、よりさらに好ましくは3.0~5.5モル%、よりさらに好ましくは3.0~5.0モル%である。
【0044】
本発明に係るビニルアルコール系重合体中における、構成単位(B)の含有率(b)は、好ましくは0.1~10モル%である。0.1モル%以上であると、水溶液にしたときの水への溶解性が向上すると共に、当該水溶液のpHを低くしたときにビニルアルコール系重合体中の水酸基と反応してラクトン環構造を形成すること、またはプロトン化することにより、粘度が低下するため、水溶液の送液をスムーズに行うことができる。10モル%以下であると、構成単位(B)以外の構成単位に起因する効果に優れる。
当該観点から、構成単位(B)の含有率(b)は、より好ましくは0.1~8.0モル%、さらに好ましくは0.1~6.0モル%、よりさらに好ましくは1.0~6.0モル%、よりさらに好ましくは2.0~6.0モル%、よりさらに好ましくは2.0~5.5モル%、よりさらに好ましくは2.0~5.0モル%である。
【0045】
本発明に係るビニルアルコール系重合体中における、構成単位(C)の含有率(c)は、好ましくは0.1~10モル%である。0.1モル%以上であると、水溶液にしたときの粘度が向上する。10モル%以下であると、構成単位(C)以外の構成単位に起因する効果に優れる。
当該観点から、構成単位(C)の含有率(c)は、より好ましくは0.1~8.0モル%、さらに好ましくは0.5~8.0モル%、よりさらに好ましくは1.2~8.0モル%、よりさらに好ましくは1.2~5.5モル%、よりさらに好ましくは1.2~3.0モル%である。
【0046】
本発明に係るビニルアルコール系重合体中における、ビニルアルコールモノマー単位の含有率は、好ましくは60~99モル%である。60モル%以上であると、水溶性に起因する効果に優れる。99モル%以下であると、ビニルアルコールモノマー単位以外の構成単位に起因する効果に優れる。
当該観点から、ビニルアルコールモノマー単位の含有率は、より好ましくは65~98モル%、さらに好ましくは70~97モル%、よりさらに好ましくは75~97モル%、よりさらに好ましくは77~96モル%である。
【0047】
本発明に係るビニルアルコール系重合体中における、ビニルエステルモノマー単位の含有率は、好ましくは0.01~20モル%である。0.01モル%以上であると、水溶液の貯蔵安定性に優れる。20モル%以下であると、ビニルエステルモノマー単位以外の構成単位に起因する効果に優れる。
当該観点から、ビニルエステルモノマー単位の含有率は、より好ましくは0.01~12.0モル%、さらに好ましくは0.05~5.0モル%、よりさらに好ましくは0.05~1.0モル%、よりさらに好ましくは0.05~0.5モル%である。
【0048】
本発明に係るビニルアルコール系重合体において、ラクトン環を有する構成単位(A)、イオン性基を有する構成単位(B)、及び炭素数が3以上の炭化水素よりなる疎水性基を有する構成単位(C)を含み、
前記ビニルアルコール系重合体の全構成単位に対する、前記構成単位(A)の含有率を(a)とし、前記構成単位(B)の含有率を(b)とし、前記構成単位(C)の含有率を(c)とし、前記構成単位(C)における疎水性基の炭素数を(d)とし、前記構成単位(B)におけるイオン性基の数を(e)として、下記式(3)を満たすことが好ましい。
5<(c×(d-3)2)/(a+b×e)<95 (3)
【0049】
構成単位(C)における疎水性基の炭素数(d)は、構造式(4)においてはR1、及びR2に含まれる炭素数の和をdとし、構造式(5)においてはR2の炭素数、及びアセタール部の炭素数の和をdとした。
【0050】
当該式(3)中の中辺「(c×(d-3)2)/(a+b×e)」のうち、分子「(c×(d-3)2)」は樹脂の疎水性基同士の相互作用の大きさを示す指標であり、分母「(a+b×e)」は水への溶解性を示す指標であり、したがって、中辺「(c×(d-3)2)/(a+b×e)」は疎水性と親水性のバランスを示す指標である。
当該中辺「(c×(d-3)2)/(a+b×e)」が5超であると、増粘性という優れた効果を有する。当該中辺が95未満であると、水への溶解性を維持したまま、高い粘度変更性を示すという優れた効果を有する。
当該観点から、当該中辺「(c×(d-3)2)/(a+b×e)」は、より好ましくは6~70、さらに好ましくは10~60、よりさらに好ましくは10~55、よりさらに好ましくは13~55、よりさらに好ましくは15~55、よりさらに好ましくは15~50、よりさらに好ましくは15~45、よりさらに好ましくは15~40である。
【0051】
(ビニルアルコール系重合体の物性)
<<変性量>>
本発明に係るビニルアルコール系重合体の変性量は、特に限定されないが、好ましくは0~30.0モル%である。30.0モル%以下であると、ビニルアルコール系重合体に起因する効果に優れる。当該観点から、当該変性量は、より好ましくは0~20.0モル%、更に好ましくは0~15.0モル%、より更に好ましくは0~10.0モル%、より更に好ましくは0~8.0モル%、0~6.0モル%であってもよく、0.1~8.0モル%であってもよく、より更に好ましくは0.1~6.0モル%、より更に好ましくは1.0~6.0モル%である。
<<重合度>>
本発明に係るビニルアルコール系重合体の重合度は、特に限定されないが、好ましくは100~5,000である。100以上であると、水溶液粘度に優れる。重合度が5,000以下であると工業的に製造し易い。より好ましくは200~4,500であり、更に好ましくは300~4,000であり、更に好ましくは400~2,500であり、更に好ましくは500~2,500であり、更に好ましくは600~2,500であり、更に好ましくは700~2,500であり、より更に好ましくは700~2,000であり、より更に好ましくは800~1,800であり、より更に好ましくは900~1,800である。
【0052】
[ビニルアルコール系重合体の製造方法]
本発明に係るビニルアルコール系重合体の製造方法には特に制限は無く、例えば、下記の製造方法により製造することができる。
【0053】
(1)ビニルエステルモノマーと、イオン性基を有する単量体又はそのエステルとを重合させた後にけん化してビニルアルコール系重合体を製造し、次いで当該ビニルアルコール系重合体中の水酸基をアルデヒドでアセタール化させて、本発明に係るビニルアルコール系重合体を得る。
(2)ビニルアルコール系重合体中の水酸基をアルデヒドでアセタール化させた後、当該ビニルアルコール系重合体にイオン性基を有するアルデヒドをアセタール化させることにより、当該ビニルアルコール系重合体の側鎖にイオン性基を付与して、本発明に係るビニルアルコール系重合体を得る。
(3)ビニルエステルモノマーと、イオン性基を有する単量体又は当該エステルと、疎水性基を有する単量体とを重合させた後にけん化して、本発明に係るビニルアルコール系重合体を得る。
(4)ビニルエステルモノマーと、疎水性基を有する単量体とを重合させた後にけん化して、本発明に係るビニルアルコール系重合体を得る。
【0054】
(重合)
ビニルアルコール系重合体の製造方法(重合方法)としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。中でも、分子量分布の狭い重合体を得る観点から、無溶媒で重合する塊状重合法あるいは種々の有機溶媒中で重合する溶液重合法が好ましい。連鎖移動等の副反応を起こすおそれのある溶媒や分散媒を使用しない観点からは塊状重合法が好ましく、反応液の粘度調整や重合速度の制御等の観点からは溶液重合が好ましい。
溶液重合時に使用される有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;トルエン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール等の低級アルコール;などが挙げられる。中でも、コストの観点から、好ましくは低級アルコールであり、より好ましくはメタノールである。
有機溶媒の添加量は、目的とするビニルアルコール系重合体の重合度に応じて溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよい。例えば、ビニルエステル系単量体に対する有機溶媒の質量比(有機溶媒/ビニルエステル系単量体)が0.01~10の範囲であることが好ましい。質量比(有機溶媒/ビニルエステル系単量体)は、好ましくは0.1以上であり、好ましくは5以下である。
【0055】
(ラジカル重合開始剤)
ラジカル重合開始剤(開始剤)としては、従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。
アゾ系開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬社製、商品名「V-70」)などが挙げられる。
過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;ジイソブチリルパーオキシド;2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。これらに過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などをさらに組み合わせて過酸化物系開始剤としてもよい。
レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L-アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
中でも、アゾ系開始剤が好ましく、比較的低温で重合し、副反応を抑制する観点から、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルがより好ましい。
開始剤の添加量は、重合触媒により異なり一概には決められず、重合速度に応じて任意に選択される。当該開始剤の添加量は、ビニルアルコール系重合体の原料モノマー100質量部に対して、好ましくは0.001~1.0質量部、より好ましくは0.005~0.1質量部、さらに好ましくは0.008~0.05質量部である。
【0056】
重合温度は0℃~80℃であることが好ましい。重合温度が0℃以上であると、重合速度が十分となり、生産性が向上する。一方、重合温度が80℃以下であると、分子量分布が狭いビニルアルコール系重合体を得ることができる。当該観点から、重合温度は好ましくは10~80℃、より好ましくは20~80℃、さらに好ましくは40~70℃、より更に好ましくは50~70℃である。
【0057】
目的とする重合率になったところで、反応系内の急冷又は重合停止剤の添加、あるいはその両方を同時に行うことによって重合反応を停止させる。
反応系内を急冷する場合は、反応器のジャケットに冷却水を流す方法もあるが、予め冷却された液体媒体を反応器に添加する方法が好ましい。
【0058】
(けん化)
けん化は、けん化前のビニルアルコール系重合体をアルコール又は含水アルコールに溶解した状態で行うことが好ましい。
【0059】
けん化反応に使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられ、メタノールが好ましい。けん化反応に使用されるアルコールは、アセトン、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル、トルエンなどの他の溶媒を含有していてもよいが、前記アルコール中に含まれる他の溶媒の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
添加後のアルコール溶液の濃度は、好ましくは1.0~50質量%、より好ましくは5~45質量%、更に好ましくは8~40質量%である。
けん化反応に用いられる触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、鉱酸などの酸触媒が挙げられる。中でも、取り扱いが簡便な観点から、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0060】
けん化反応の温度は、例えば20~70℃が好ましい。20℃以上であるとけん化反応を速やかに進行させることができる。
けん化反応の進行に伴って、ゲル状生成物が析出してくる場合には、その時点で分離し、生成物を粉砕し、洗浄後、乾燥することにより、本発明のビニルアルコール系重合体が得られる。
【0061】
(アセタール化)
ビニルアルコール系重合体とアルデヒドとの反応(アセタール化反応)は、公知の方法で行うことができる。例えば、ビニルアルコール系重合体の水溶液とアルデヒドとを酸触媒の存在下でアセタール化反応させて、アセタール化したビニルアルコール系重合体の粒子を析出させる水媒法;ビニルアルコール系重合体を有機溶媒中に分散させ、酸触媒の存在下、アルデヒドとアセタール化反応させ、得られた反応混合液に、ビニルアルコール系重合体に対して貧溶媒である水などを混合することにより、アセタール化したビニルアルコール系重合体を析出させる溶媒法、ビニルアルコール系重合体を有機溶媒中に分散させ、酸触媒の存在下、アルデヒドとアセタール化反応させ、アセタール化したビニルアルコール系重合体を得る方法などが挙げられる。
上記酸触媒は特に限定されず、例えば、酢酸、p-トルエンスルホン酸などの有機酸類;硝酸、硫酸、塩酸などの無機酸類;二酸化炭素などの水溶液にした際に酸性を示す気体;陽イオン交換樹脂や金属酸化物などの固体酸触媒などが挙げられる。
【0062】
[ビニルアルコール系重合体の水溶液]
本発明に係るビニルアルコール系重合体の水溶液は、前述のビニルアルコール系重合体及び水を含む。
本発明に係るビニルアルコール系重合体の水溶液は、前述のビニルアルコール系重合体を含んでいるため、簡易に粘度を大きく変化させることが可能である。
【0063】
本発明に係るビニルアルコール系重合体の水溶液中におけるビニルアルコール系重合体の含有率は、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%、さらに好ましくは1.0~4.0質量%、よりさらに好ましくは1.3~3.0質量%である。
当該水溶液中における水の含有率は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
当該水溶液は、pH調整剤を含有していてもよい。pH調整剤としては、前述のものが好適である。
当該水溶液のpHの好適範囲は、用途に応じて異なるが、好ましくは1~14、より好ましくは3~12、さらに好ましくは4~10である。
当該水溶液は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、さらに界面活性剤、各種可塑剤、消泡剤、紫外線吸収剤、充填剤、耐水化剤等の添加剤を含有してもよい。
【0064】
本発明の一態様に係るビニルアルコール系重合体の水溶液は、ビニルアルコール系重合体の含有率が1~3質量%、20℃におけるpHが7以上であって、20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度が、20~1,000,000cpである。
また、本発明の別態様に係るビニルアルコール系重合体の水溶液は、ビニルアルコール系重合体の含有率が1~3質量%、20℃におけるpHが7未満であって、20℃でのせん断速度1[1/s]における水溶液粘度が、20~100,000cpである。
【0065】
[塗料、セメント混和剤]
本発明に係る塗料は、前述のビニルアルコール系重合体及び水を含有する。また、本発明に係るセメント混和剤は、前述のビニルアルコール系重合体及び水を含有する。
【0066】
本発明に係る塗料は、前述のビニルアルコール系重合体及び水に、必要に応じて他の成分を更に含有してもよい。前述の他の成分としては、特に限定されず、例えば、水系エマルション樹脂、顔料、硬化触媒、架橋剤、充填剤、消泡剤、艶消し剤、架橋反応触媒、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、界面活性剤、光安定剤、防黴剤、防藻剤、黄変防止剤、還元剤、紫外線吸収剤、凍結安定剤、酸化防止剤、成膜助剤、有機溶剤、防錆剤、可塑剤、静電防止剤、潤滑剤、消臭剤、防腐剤、帯電調整剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
前述のビニルアルコール系重合体の含有量は、塗料に必要な物性に応じて任意に設定することができる。特に限定されないが、好ましくは0.001~10質量%である。顔料の含有量は、特に限定されないが、塗料の樹脂固形分に対する顔料の質量割合(PWC)は好ましくは1~70質量%である。
【0068】
本発明に係る塗料は、その用途や塗布対象の材料等に応じて、好適な方法で塗布することができる。塗布方法としては、限定されるものではないが、例えば、フローコーティング法、スプレー吹き付け法、刷毛塗り法、フレキソ印刷法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、ロールコート法、キャスティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法が挙げられる。所定の塗布対象に塗布した後、乾燥させて揮発分を除去することにより塗膜が得られる。この際、必要に応じて、紫外線照射処理や40~120℃程度の温度での加熱処理等を行ってもよい。
【0069】
前述の塗布対象としては、その表面に塗膜が形成可能なものであれば特に限定されず、無機基材、有機基材のいずれでもよい。基材の材料としては、以下に限定されるものではなく、例えば、天然樹脂、合成樹脂などの有機基材;セラミックス、金属、ガラス、石、コンクリート、セメントなどの無機基材が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「%」および「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」および「質量部」を表す。
【0071】
[合成例1]
(重合工程)
還流冷却器、撹拌機、温度計、窒素導入管、後添加液の仕込み部、及びポンプを備える反応器に、酢酸ビニル640質量部、メタノール254質量部、アクリル酸メチル1.05質量部を仕込んで混合液とした。当該混合液を撹拌しながら系内を窒素置換した。これとは別に、コモノマーの逐次添加溶液として、アクリル酸メチルのメタノール溶液(濃度20質量%)を調製し、30分間窒素バブリングした。反応器の昇温を開始し、60℃に到達した時点で2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)0.06質量部を添加して重合を開始した。重合反応の進行中は、調製した前記アクリル酸メチルのメタノール溶液を系内に滴下することで、重合溶液におけるモノマー組成(酢酸ビニルとアクリル酸メチルのモル比率)が一定となるようにした。酢酸ビニルの重合率が30モル%となった時点で重合を終了した。
【0072】
(けん化工程)
次いで、減圧下にて未反応の酢酸ビニルモノマーを除去し、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液を調製した。得られたPVAc溶液にメタノールを添加して濃度が10質量%となるように調整した。次いで温度を60℃に保ちながら、共重合体中の酢酸ビニルモノマー単位1モルに対して水酸化ナトリウムが10ミリモルとなる割合で、濃度10質量%の水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加えて、2時間けん化反応を行った。
【0073】
(後処理工程)
その後室温(20℃)まで冷却し、濾別して得られた白色固体の生成物にメタノール900質量部、水100質量部を添加し、共重合体中のアクリル酸メチル単位1モルに対して3モルとなる割合で水酸化ナトリウム水溶液を添加して、温度を60℃に保ち、2時間撹拌した。濾別して得られた白色固体にメタノール1000質量部を加えて室温で1時間放置洗浄した。濾別して得られた白色固体にメタノール1000質量部、酢酸15質量部を加えて室温で3時間放置洗浄した。濾別して得られた白色固体の生成物にメタノール1000質量部を加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を2回繰り返した後、遠心脱液して得られた生成物を乾燥機中40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、ビニルアルコール系重合体(a)として「PVOH-A」を得た。
【0074】
[合成例2]
(重合工程)
還流冷却器、撹拌機、温度計、窒素導入管、後添加液の仕込み部、及びポンプを備える反応器に、酢酸ビニル640質量部、メタノール243質量部、イタコン酸0.34質量部を仕込んで混合液とした。当該混合重合液を撹拌しながら系内を窒素置換した後に加熱し、60℃に到達した時点で2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)0.1質量部を添加して重合を開始した。重合開始時点より、重合系中におけるビニルアルコール系重合体の濃度を分析しつつ、イタコン酸の5質量%メタノール溶液を滴下して重合を進行させた。重合開始から215分までの間にイタコン酸の5質量%メタノール溶液68質量部をほぼ均一に滴下した後、室温(20℃)まで冷却して重合を停止した。
【0075】
(けん化工程)
次いで、減圧下にて未反応の酢酸ビニルモノマーを除去し、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液を調製した。得られたPVAc溶液にメタノールを添加して濃度が35質量%となるように調整したPVAcのメタノール溶液286質量部に、15.7質量部のアルカリ溶液(NaOHの12質量%メタノール溶液)とメタノール31.9質量部を添加して、40℃でけん化を行った。すなわち、アルカリ溶液を添加した後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化反応を行った。
【0076】
(後処理工程)
その後室温(20℃)まで冷却し、酢酸メチル200質量部を添加して残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認した後、濾別して得られた白色固体の生成物にメタノール1000質量部を加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた生成物を乾燥機中40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、ビニルアルコール系重合体(a)として「PVOH-B」を得た。
【0077】
[合成例3]
還流冷却管、温度計を備え付けた三つ口フラスコに、室温(20℃)で、メタノール30.0質量部、ドデカナール0.5質量部を加え、メカニカルスターラーで撹拌しながら、合成例1で得られたPVOH-Aを10質量部、1分間かけて添加した。当該反応溶液にp-トルエンスルホン酸0.4質量部を添加し、65℃に昇温して5時間反応を行った。8モル/L水酸化ナトリウム水溶液を0.3質量部添加し、65℃で2時間反応を行った。濾別して得られた白色固体の生成物にメタノール100質量部を加えて撹拌洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、濾別して得られた生成物を乾燥機中40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、ビニルアルコール系重合体(a)となる「PVOH-C」を得た。
【0078】
[合成例4]
還流冷却管、温度計を備え付けた三つ口フラスコに、室温(20℃)で、メタノール40.0質量部、ベンズアルデヒドスルホン酸ナトリウム2.9質量部を加え、メカニカルスターラーで撹拌しながら、市販のビニルアルコール系重合体(株式会社クラレ製、銘柄28-98)を10質量部、1分間かけて添加した。当該反応溶液にp-トルエンスルホン酸1.4質量部を添加し、65℃に昇温して5時間反応を行った。8モル/L水酸化ナトリウム水溶液を0.9質量部添加し、65℃で2時間反応を行った。濾別して得られた白色固体の生成物にメタノール100質量部を加えて撹拌洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、濾別して得られた生成物を乾燥機中40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、ビニルアルコール系重合体(a)となる「PVOH-D」を得た。
【0079】
<評価>
合成例1~2で得られたビニルアルコール系重合体PVOH-A、PVOH-Bについて、以下の測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
<変性量>
合成例1~2で得られたビニルアルコール系重合体のコモノマーの変性量は、例えば1H―NMRを用いて求めることができ、例えばビニルアルコール系重合体の前駆体であるビニルエステル系重合体を1H―NMRで測定することで変性量を求めることができる。合成例1においては、PVOH-Aの前駆体であるビニルエステル系重合体(0.05g)をクロロホルム-d(0.95g)に溶解させ、500MHzの1H-NMR測定を行った。測定されたビニルエステルモノマー単位の主鎖メチンプロトンに由来するピーク(4.7―5.1ppm)、アクリル酸メチルの側鎖メチル基に由来するピーク(3.6―3.7ppm)の積分値から変性量を算出した。合成例2においては、PVOH-Bの前駆体であるビニルエステル系重合体(0.05g)をジメチルスルホキシド-d6(0.95g)に溶解させ、500MHzの1H-NMR測定を行った。測定されたビニルエステルモノマー単位の主鎖メチンプロトンに由来するピーク(4.5―5.0ppm)、イタコン酸の側鎖メチレン基に由来するピーク(3.0―3.2ppm)の積分値から変性量を算出した。ここで、上記変性量は、ビニルアルコール系重合体(a)を構成する全構成単位に対する、コモノマーから成る構成単位の含有量に相当する。なお、NMR分析は目的生成物の構造を明確化するために、種々の温度条件、核種での測定や、添加剤を用いた測定を組み合わせてもよい。
【0081】
<ビニルエステルモノマー単位含有率>
合成例1~2で得られたビニルアルコール系重合体のビニルエステルモノマー単位含有率は、例えば1H―NMRを用いて求めることができる。合成例1~2で得られたビニルアルコール系重合体(0.05g)をジメチルスルホキシド-d6(0.95g)に溶解させ、500MHzの1H-NMR測定を行った。得られた1H-NMRスペクトルから、ビニルエステルモノマー単位の側鎖のメチルプロトンに由来するピーク(1.9-2.0ppm)を用い、ビニルアルコール系重合体(a)を構成する全構成単位に対する、ビニルエステルモノマー単位の含有率を求めた。なお、NMR分析は目的生成物の構造を明確化するために、種々の温度条件、核種での測定や、添加剤を用いた測定を組み合わせてもよい。
【0082】
<重合度>
粘度平均重合度はJIS K 6726-1994に準じで測定される。得られたビニルアルコール系重合体を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から求めた。
【0083】
【0084】
(実施例1)
還流冷却管、温度計を備え付けた三つ口フラスコに、室温(20℃)で、メタノール56.7質量部、ドデカナール0.6質量部を加え、メカニカルスターラーで撹拌しながら、合成例1で得られたPVOH-Aを10質量部、1分間かけて添加した。当該反応溶液にp-トルエンスルホン酸1.3質量部を添加し、65℃に昇温して5時間反応を行った。8モル/L水酸化ナトリウム水溶液を1.7質量部添加し、65℃で2時間反応を行った。
濾別して得られた白色固体の生成物にメタノール100質量部を加えて撹拌洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、濾別して得られた生成物を乾燥機中40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-1」を得た。各条件を表2に示す。
【0085】
(実施例2)
メタノール添加量、ドデカナール添加量、p-トルエンスルホン酸添加量、及び8モル/L水酸化ナトリウム水溶液添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-2」を得た。各条件を表2に示す。
【0086】
(実施例3)
メタノール添加量、ドデカナールに代えて、デカナール0.8質量部を添加したこと、及び8モル/L水酸化ナトリウム水溶液添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-3」を得た。各条件を表2に示す。
【0087】
(実施例4)
デカナール添加量を変更したこと以外は、実施例3と同様の方法により、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-4」を得た。各条件を表2に示す。
【0088】
(実施例5)
メタノール添加量、ドデカナールに代えて、ヘキサナール1.6質量部を添加したこと、以外は、実施例2と同様の方法により、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-5」を得た。各条件を表2に示す。
【0089】
(実施例6)
ドデカナール添加量、PVOH-Aに代えて合成例2で得られたPVOH-Bを添加したこと、p-トルエンスルホン酸添加量、8モル/L水酸化ナトリウム水溶液添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-6」を得た。各条件を表2に示す。
【0090】
(実施例7)
メタノール添加量、ドデカナールに代えてベンズアルデヒドスルホン酸ナトリウム0.9質量部添加したこと、PVOH-Aに代えて合成例3で得られたPVOH-Cを添加したこと、p-トルエンスルホン酸添加量、8モル/L水酸化ナトリウム水溶液添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-7」を得た。各条件を表2に示す。
【0091】
(実施例8)
ヘキサナール添加量を変更したこと以外は、実施例5と同様の方法により、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-8」を得た。各条件を表2に示す。
【0092】
(比較例1)
還流冷却管、温度計を備え付けた三つ口フラスコに、室温(20℃)で、水578.0質量部を加え、メカニカルスターラーで撹拌しながら、市販のビニルアルコール系重合体(株式会社クラレ製、銘柄28-98)を10質量部、1分間かけて添加した。90℃に昇温して1時間撹拌し溶解させた。この溶液を40℃に放冷後、デカナール0.6質量部、濃度20%の塩酸1.2質量部を加え、40℃で3時間反応を行った。8モル/L水酸化ナトリウム水溶液を0.3質量部添加し、65℃で2時間反応を行い、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-9」の水溶液を得た。
【0093】
(比較例2)
合成例1で得られた「PVOH-A」をビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-10」とした。
【0094】
(比較例3)
ドデカナール添加量、8モル/L水酸化ナトリウム水溶液添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-11」を得た。各条件を表2に示す。
【0095】
(比較例4)
ドデカナール添加量、PVOH-Aに代えて合成例4で得られたPVOH-Dを添加したこと、p―トルエンスルホン酸添加量、8モル/L水酸化ナトリウム水溶液添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ビニルアルコール系重合体(X)となる「PVOH-12」を得た。各条件を表2に示す。
【0096】
【0097】
<評価>
実施例及び比較例で得られたビニルアルコール系重合体(X)について、以下の評価を行った。結果を表3、表4に示す。
【0098】
<各構成単位の含有率>
実施例及び比較例で得られたビニルアルコール系重合体(0.05g)をジメチルスルホキシド-d6(0.95g)に溶解させ、500MHzの1H-NMR測定を行った。得られた1H-NMRスペクトルから、ラクトン環を有する構成単位(A)、イオン性基を有する構成単位(B)、疎水性基を有する構成単位(C)、ビニルアルコールモノマー単位、及びビニルエステルモノマー単位の含有率を算出した。なお、本発明において「構成単位」は官能基を有する繰り返し単位を意味し、ラクトン環を有する構成単位、アセタール化で導入したイオン性基、及び疎水性基も「1単位」とした。なお、ジカルボン酸系のモノマーを使用し、一方のカルボキシ基がラクトン環を形成し、もう一方がイオン性基を形成した場合は、ラクトン環を有する構成単位(A)、イオン性基を有する構成単位(B)を重複して計算した。なお、ラクトン環においては、例えばカルボキシ基を有する単量体単位の1単位と、それに隣接するビニルアルコール単量体単位の1単位が反応することで、ラクトン環1単位が生成する。また、アセタール化された構造もアセタール単位の1単位と2単位のビニルアルコールモノマー単位とが反応してアセタール化された構造1単位が生成する。当該点を考慮して、分母のビニルアルコール系重合体単位において、ラクトン環、アセタール化された構造は「2単位」として計算した。
【0099】
<重合度>
ビニルアルコール系重合体(a)の測定値を使用した。
【0100】
<水溶液の調製方法>
ビニルアルコール系重合体(X)、又はビニルアルコール系重合体(X)の水溶液にイオン交換水を添加し、ビニルアルコール系重合体に含まれるラクトン環を有する構成単位(A)の2/3モル量の8モル/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し、95℃で撹拌して溶解し、ビニルアルコール系重合体(X)の含有率が1.6質量%である水溶液を調製した。当該1.6質量%ビニルアルコール系重合体水溶液を20℃に放冷し、マグネティックスターラーを用い当該水溶液を攪拌しながら、イオン交換水、及び20質量%クエン酸水溶液又は2モル/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し、20℃におけるpHが4又は10となる1.5質量%水溶液を調製した。さらに20℃で5分間撹拌した。
pHは、市販品のpHメーター(株式会社堀場製作所製のコンパクトpHメーターラクアツイン(LAQUA twin))を用いて測定した。なお、ラクトン環を有する構成単位(A)に対する2/3モル量の8モル/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し95℃で撹拌した際に、均一に溶解しない場合は不溶とし、pHの調整は行わなかった。
なお、ビニルアルコール系重合体(X)の含有率は、下記式にて算出した。
含有率[質量%]=ビニルアルコール系重合体(X)添加量[g]/水溶液全体の重量[g]×100
【0101】
<粘度X、Y>
前述の方法に従いpHが4となるように調製した後、5分後の1.5質量%水溶液(粘度X用)について、回転レオメーター(TA Instruments-Waters LLC製レオメーターDiscoveryHR-2)を用いて、以下の測定条件でせん断速度:1.0[1/s]、測定時間182秒の時点における粘度Xを求めた。
また、前述の方法に従いpHが10となるように調製した後、5分後の1.5質量%水溶液(粘度Y用)について、回転レオメーター(TA Instruments-Waters LLC製レオメーターDiscoveryHR-2)を用いて、以下の測定条件でせん断速度:1.0[1/s]、測定時間182秒の時点における粘度Yを求めた。
<測定条件>
使用治具:ソルベントトラップ付ステンレススチール製ペルチェコーンジオメトリ(HRx0,ステンレススチール製、40mm、1°コーン)
測定温度:20℃
測定時間:300秒
せん断速度:1.0[1/s]
粘度Yについて、下記の基準にて点数を判定した。なお粘度Yが高いほど、低濃度でも高粘度を示すことから、増粘性に優れる。
5点:10,000cp以上
4点:5,000cp以上10,000cp未満
3点:1,000cp以上5,000cp未満
2点:400cp以上1,000cp未満
1点:400cp未満
【0102】
<粘度比Y/X>
上述の方法で測定した粘度X,Yの粘度比Y/Xについて、下記の基準にて点数を判定した。なお粘度比Y/Xが大きいほど、簡易に粘度を大きく変化させることが可能であり、粘度変更性に優れる。
5点:50.0以上
4点:10.0以上50.0未満
3点:5.0以上10.0未満
2点:1.5以上5.0未満
1点:1.5未満
【0103】
<粘度Z>
前述の方法に従いpH10となるように調製した水溶液について回転レオメーター(TA Instruments-Waters LLC製レオメーターDiscoveryHR-2)を用いて、以下の測定条件で粘度を測定した。なお、0.01[1/s]のせん断速度を30秒間キープした後に、断続的に0.1[1/s]のせん断速度を30秒間キープするという操作を、下記6段階のせん断速度の小さい方から順に行い(6段階×30秒=180秒)、各せん断速度における粘度を測定した。せん断速度:100[1/s]に切り替えてから28秒が経過した時点における粘度Zを表4に示す。
<測定条件>
使用治具:ソルベントトラップ付ステンレススチール製ペルチェコーンジオメトリ(HRx0,ステンレススチール製, 40mm、1°コーン)
測定温度:20℃
測定時間:180秒
せん断速度:0.01、0.1、1、10、100、1000[1/s]
【0104】
<粘度比Y/Z>
上述の方法で測定した粘度Y、Zの粘度比Y/Zについて、下記の基準にて点数を判定した。なお粘度比Y/Zが大きいほど、送液時のせん断速度により低粘度化することが可能であり、送液性に優れる。
5点:10.0以上
4点:5.0以上10.0未満
3点:2.0以上5.0未満
2点:1.5以上2.0未満
1点:1.5未満
【0105】
<増粘剤総合評価>
上記3つの評価項目(粘度Y、粘度比Y/XおよびY/Z)の得点の総和を、ビニルアルコール系重合体の性能の総合評価とした。結果を表4に示す。
<粘度変更性>
粘度Xを測定した水溶液を20℃で攪拌しながら、2モル/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHが10となるように調整した後、20℃で5分間撹拌した後、粘度Xと同様の測定条件で1.0[1/s]における粘度Wを求めた。
このときの粘度が粘度Xよりも4.0倍以上の粘度を示した場合をA,2.5倍以上4.0倍未満の粘度を示した場合をB,1.5倍以上2.5倍未満の粘度を示した場合をC,1.5倍未満の粘度を示した場合をDとした。結果を表4に示す。
【0106】
【0107】