(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-14
(45)【発行日】2025-05-22
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/66 20060101AFI20250515BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20250515BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20250515BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20250515BHJP
【FI】
C08G59/66
C09J11/04
C09J11/06
C09J163/00
(21)【出願番号】P 2020553222
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040617
(87)【国際公開番号】W WO2020080390
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-05-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2018196086
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 一希
(72)【発明者】
【氏名】新井 史紀
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】岸 智之
【審判官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/082962(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、
(B)分子内に5員環以上の単環の脂環構造
と、チオエーテル結合を含み、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含み、分子量が210以上600以下の2官能チオール化合物、及び、分子内に5員環以上の単環の芳香環構造と、エーテル結合を含み、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含み、分子量が210以上600以下の2官能チオール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の2官能チオール化合物と、
(C)アミン化合物と、
(D)平均粒径が0.1μm以上10μm以下のフィラーと、を含む樹脂組成物。
【請求項2】
(A)エポキシ樹脂と、
(B)下記一般式(B-4)で表される分子量が210以上の2官能チオール化合物、及び下記一般式(B-5)で表される分子量が210以上の2官能チオール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の2官能チオール化合物と、
(C)アミン化合物と、
(D)平均粒径が0.1μm以上10μm以下のフィラーと、を含む、樹脂組成物。
【化24】
(一般式(B-4)中、s、tは、それぞれ独立に3又は4の整数である。)
【化25】
(一般式(B-5)中、u、vは、それぞれ独立に3又は4の整数である。)
【請求項3】
前記(B)成分が、下記一般式(B-1)、(B-2)又は(B-3)で表される2官能チオール化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化20】
(一般式(B-1)中、n、mは、それぞれ独立に1~3の整数である。)
【化21】
(一般式(B-2)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に水素原子又は下記一般式(b-1)で表される基である。ただし、R
1及びR
2のいずれか一方は、下記一般式(b-1)で表される基であり、R
3及びR
4のいずれか一方は、下記一般式(b-1)で表される基である。)
【化22】
(一般式(b-1)中、rは、1~3の整数である。)
【化23】
(一般式(B-3)中、G
1、G
2は、それぞれ独立に-O-又は-CH
2-であり、
但し、G
1
、G
2
の少なくとも一方は、-O-であり、p、qは、それぞれ独立に2~5の整数である。)
【請求項4】
前記(A)成分の重量平均分子量が240~1,000である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(C)のアミン化合物が、イミダゾール系化合物、第三級アミン系化合物及びアミンアダクトから選択される少なくとも1種のアミン化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記成分(B)の2官能チオール化合物のチオール基の総数が、樹脂組成物中の全チオール基の数を100としたとき20~100である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(D)成分のフィラーの含有量が、樹脂組成物の全体量100質量%に対して、5~70質量%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
さらに(E)安定剤を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記(E)成分の安定剤が、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート、及び、バルビツール酸からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む接着剤。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む封止材。
【請求項12】
請求項10に記載の接着剤又は請求項11に記載の封止材を用いて製造されたイメージセンサーモジュール。
【請求項13】
請求項10に記載の接着剤又は請求項
11に記載の封止材を用いて製造された半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的低温の熱硬化、具体的には80℃程度での熱硬化が求められる用途において使用可能な樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やスマートフォンのカメラモジュールとして使用されるイメージセンサーモジュールの製造時に構造体の組み立てには、比較的低温、具体的には80℃程度の温度で熱硬化する接着剤や封止材が使用される。半導体素子、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、コンデンサなどの電子部品を含む半導体装置の製造時においても、80℃程度の温度で熱硬化する樹脂組成物を含む接着剤や封止材の使用が好ましい。
【0003】
また、イメージセンサーモジュールや半導体装置の製造時に使用する接着剤又は封止材は、耐湿性も要求される。さらに、携帯電話やスマートフォン等のモバイル機器には、落下等に対する耐衝撃性が要求され、半導体装置に使用される接着剤等の硬化物には、応力吸収性が要求される。
【0004】
例えば特許文献1には、低温での熱硬化が可能であり、100℃以上、湿度が70%以上の高温高湿で試験するプレッシャークッカーテスト(以下、「PCT」ともいう。)においても耐性に優れる一液型接着剤として、分子中に4個のチオール基を有するチオール化合物を含む樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、チオール化合物が分子内に4個のチオール基を有するポリチオール化合物が主体の樹脂組成物は、架橋点が多くなり、得られる硬化物が、応力吸収性に乏しい場合がある。また、イメージセンサーモジュールや半導体装置の組み立てに用いる接着剤や封止材には、硬化後の耐湿性も要求されるとともに、塗布時の温度変化に対して粘度変化が小さいことも要求される。
【0007】
そこで、本発明は、低温での硬化が可能であり、耐湿性及び応力吸収性に優れた硬化物が得られ、使用時に取り扱い性の良好な樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りであり、本発明は、以下の態様を包含する。
[1](A)エポキシ樹脂と、
(B)分子内に芳香環構造又は脂環構造と、ヘテロ原子を含み、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含み、分子量が210以上の2官能チオール化合物、及び、分子内に芳香環構造又は複素環構造と、ヘテロ原子を含んでいてもよく、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含み、分子量が210以上の2官能チオール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の2官能チオール化合物と、
(C)アミン化合物と、
(D)平均粒径が0.1μm以上10μm以下のフィラーと、を含む樹脂組成物である。
[2]前記(B)成分が、分子内に脂環構造と、チオエーテル結合を含み、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含む、2官能チオール化合物である、前記[1]に記載の樹脂組成物である。
[3]前記(B)成分が、分子内に芳香環構造と、エーテル結合を含み、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含む、2官能チオール化合物である、前記[1]に記載の樹脂組成物である。
[4]前記(B)成分が、下記一般式(B-1)、(B-2)又は(B-3)で表される2官能チオール化合物である、前記[1]に記載の樹脂組成物である。
【化1】
(一般式(B-1)中、n、mは、それぞれ独立に1~3の整数である。)
【0009】
【化2】
(一般式(B-2)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に水素原子又は下記一般式(b-1)で表される基である。ただし、R
1及びR
2のいずれか一方は、下記一般式(b-1)で表される基であり、R
3及びR
4のいずれか一方は、下記一般式(b-1)で表される基である。)
【化3】
(一般式(b-1)中、rは、1~3の整数である。)
【0010】
【化4】
(一般式(B-3)中、G
1、G
2は、それぞれ独立に-O-又は-CH
2-で結合される2価の基であり、p、qは、それぞれ独立に2~5の整数である。)
[5]前記(B)成分が、下記一般式(B-4)又は(B-5)で表される2官能チオール化合物である、前記[1]に記載の樹脂組成物である。
【0011】
【化5】
(一般式(B-4)中、s、tは、それぞれ独立に3又は4の整数である。)
【0012】
【化6】
(一般式(B-5)中、u、vは、それぞれ独立に3又は4の整数である。)
[6]前記(A)成分の分子量が240~1,000である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物である。
[7]前記(C)成分のアミン化合物が、イミダゾール系化合物、第三級アミン系化合物、及びアミンアダクトから選択される少なくとも1種のアミン化合物である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物である。
[8]前記(B)成分の2官能チオール化合物のチオール基の総数が、樹脂組成物中の全チオール基の数を100としたとき20~100である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物である。
[9]前記(D)成分のフィラーの含有量が、樹脂組成物の全体量100質量%に対して、5~70質量%である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物である。
[10]さらに(E)安定剤を含む、前記[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物である。
[11]前記(E)成分の安定剤が、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート、及び、バルビツール酸からなる群から選択される少なくとも1つである、前記[10]に記載の樹脂組成物である。
[12]前記[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む接着剤である。
[13]前記[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む封止材である。
[14]前記[12]に記載の接着剤又は前記[13]に記載の封止材を用いて製造されたイメージセンサーモジュールである。
[15]前記[12]に記載の接着剤又は前記[13]に記載の封止材を用いて製造された半導体装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、80℃程度の低温での硬化が可能であり、耐湿性及び応力吸収性に優れた硬化物が得られ、使用時に取り扱い性の良好な樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示に係る樹脂組成物、接着剤、封止材、イメージセンサーモジュール及び半導体装置の実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下の樹脂組成物、接着剤、封止材、イメージセンサーモジュール及び半導体装置に限定されない。
【0015】
本発明の第一の実施形態に係る樹脂組成物は、
(A)エポキシ樹脂と、
(B)分子内に芳香環構造又は脂環構造と、ヘテロ原子を含み、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含み、分子量が210以上の2官能チオール化合物、及び、分子内に芳香環構造又は複素環構造と、ヘテロ原子を含んでいてもよく、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含み、分子量が210以上の2官能チオール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の2官能チオール化合物と
(C)アミン化合物と、
(D)平均粒径が0.1μm以上10μm以下のフィラーと、を含む。
【0016】
(A)成分:エポキシ樹脂
樹脂組成物は、(A)成分としてエポキシ樹脂を含む。(A)成分のエポキシ樹脂として、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、カテコール、レゾルシノールなどの多価フェノールとエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル、1,6-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)ナフタレンのようなナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、エポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、環状脂肪族エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの樹脂に限定されるものではない。(A)成分のエポキシ樹脂は、樹脂組成物からなる硬化物の耐湿性を改善するためにエステル結合を含まないエポキシ樹脂であることが好ましい。このようなエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0017】
(A)成分のエポキシ樹脂は、芳香環を含まないエポキシ樹脂であってもよい。ここで芳香環は、ヒュッケル則を満たす構造であり、例えばベンゼン環である。(A)成分のエポキシ樹脂として、芳香環を含まないエポキシ樹脂は、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、アルコールエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの樹脂に限定されるものではない。このようなエポキシ樹脂として、例えば水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリブタジエン、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等が挙げられる。(A)成分として、芳香環を含まないエポキシ樹脂を用いる場合、芳香環を含まないエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基の数は、粘度及び接着性の観点から、樹脂組成物中の全エポキシ基の数を100としたとき20~100であることが好ましく、40~100であることがより好ましく、50~100であることがさらに好ましい。
【0018】
(A)成分のエポキシ樹脂として、例えば以下の式(A-1)で表されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0019】
【0020】
式(A-1)中、R5は、炭素数が1~15の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、wは、1~20の整数である。
【0021】
式(A-1)で表されるエポキシ樹脂は、下記式(A-1-1)及び/又は(A-1-2)であらわされるエポキシ樹脂であってもよい。
【0022】
【0023】
式(A-1-1)中、xは、1~15の整数である。
【0024】
【0025】
式(A-1-2)中、yは、1~20の整数である。
【0026】
(A)成分のエポキシ樹脂は、例えば以下の式(A-2)で表されるエポキシ樹脂であってもよい。
【0027】
【0028】
式(A-2)中、R6~R9は、それぞれ独立に炭素数1~3の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。
【0029】
(A)成分のエポキシ樹脂は、粘度と揮発性のバランスの観点から、重量平均分子量が240~1,000であることが好ましい。(A)成分のエポキシ樹脂は、重量平均分子量が、より好ましくは250~1,000であり、さらに好ましくは260~1,000であり、よりさらに好ましくは270~1,000である。(A)成分のエポキシ樹脂の重量平均分子量が240未満だと揮発性が高くなりやすく硬化物にボイドが生じるおそれがある。一方、(A)成分のエポキシ樹脂の重量平均分子量が1,000を超えると高粘度となり作業性が悪化する場合がある。本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値をいう。
【0030】
(B)成分:2官能チオール化合物
本発明の一実施形態の樹脂組成物中に含まれる(B)2官能チオール化合物は、分子内に芳香環構造又は脂環構造と、ヘテロ原子を含み、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含み、分子量が210以上の2官能チオール化合物、及び、分子内に芳香環構造又は複素環構造と、ヘテロ原子を含んでいてもよく、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含み、分子量が210以上の2官能チオール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の2官能チオール化合物である。(B)成分の2官能チオール化合物は、四国化成工業株式会社から入手することができる。
【0031】
(B)成分の2官能チオ―ル化合物は、分子量が210以上であり、揮発性が低いため、例えば80℃の低温で樹脂組成物を熱硬化させる際に2官能チオール化合物が揮発することなく、ボイドの発生が抑制され、物性を維持した硬化物を得ることができる。分子量は280以上であることがより好ましい。また、(B)成分の2官能チオール化合物は、硬化性の観点から、分子量が1,000以下であることが好ましく、600以下であることがより好ましい。
【0032】
(B)成分の2官能チオール化合物は、ヘテロ原子を有し、(A)成分のエポキシ樹脂との相溶性が良好であり、例えば80℃の低温での硬化により、均質な硬化物が得られる。(B)成分の芳香環構造は、5員環以上の単環の芳香環構造、例えばシクロペンタジエン、ベンゼンなどが挙げられる。脂環構造は、5員環以上の単環の脂環構造、例えば、シクロペンタン、シクロヘキセンなどが挙げられる。複素環構造は、単環であっても多環であってもよく、ヘテロ原子を有する脂環構造であってもよく、ヘテロ原子を有する芳香環構造であってもよく、ヘテロ原子を有する縮合多環構造であってもよい。分子鎖中に含まれるヘテロ原子は、例えば硫黄(S)、酸素(O)原子が挙げられ、分子鎖中にチオエーテル結合又はエーテル結合を含むことが好ましい。(B)成分の2官能チオール化合物は、エポキシ樹脂との相溶性及び低揮発性の観点から、ヘテロ原子が硫黄原子であること、すなわち、分子内に脂環構造と、チオエーテル結合を含み、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖を含むことが好ましい。また、(B)成分の2官能チオール化合物は、エポキシ樹脂との相溶性及び低揮発性の観点から、ヘテロ原子が酸素原子であること、すなわち、分子内に芳香環構造と、エーテル結合を含み、エステル結合を含まない、末端にチオール基を有する分子鎖とを含むことが好ましい。金属に対する接着強度の観点から、(B)成分の2官能チオール化合物は、分子内に脂環構造と、チオエーテル結合を含み、エステル結合を含まない末端にチオール基を有する分子鎖を含むことがより好ましい。
【0033】
また、(B)成分の2官能チオール化合物は、2個のチオール基を有するため、樹脂組成物を硬化させた場合に、3官能以上のチオール化合物が主体の硬化物に比べ、応力吸収性に優れた硬化物を得ることができる。
【0034】
さらに、(B)成分の2官能チオール化合物は、分子内にエステル結合を含まないため、例えばPCTにおける環境のような高温高湿下においても、耐加水分解性が高く、得られる硬化物の接着強度を維持することができる。
【0035】
(B)成分は、例えば下記一般式(B-1)で表される2官能チオール化合物であることが好ましい。(B-1)で表される2官能チオール化合物は、四国化成工業株式会社から入手することができる。
【0036】
【0037】
一般式(B-1)中、n、mは、それぞれ独立に1~3の整数であり、n、mは、それぞれ2であることが好ましい。
【0038】
一般式(B-1)で表される2官能チオール化合物は、下記一般式(B-1-1)で表される2官能チオール化合物であることが好ましい。
【0039】
【0040】
(B)成分は、例えば下記一般式(B-2)で表される2官能チオール化合物であることが好ましい。(B-2)で表される2官能チオール化合物は、四国化成工業株式会社から入手することができる。
【0041】
【0042】
一般式(B-2)中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子又は下記一般式(b-1)で表される基である。ただし、R1及びR2のいずれか一方は、下記一般式(b-1)で表される基であり、R3及びR4のいずれか一方は、下記一般式(b-1)で表される基である。
【0043】
【0044】
一般式(b-1)中、rは、1~3の整数であり、2であることが好ましい。
【0045】
一般式(B-2)で表される2官能チオール化合物は、下記一般式(B-2-1)で表される2官能チオール化合物であることが好ましい。
【0046】
【0047】
(B)成分は、例えば下記一般式(B-3)で表される2官能チオール化合物であることが好ましい。(B-3)で表される2官能チオール化合物は、四国化成工業株式会社から入手することができる。
【0048】
【0049】
一般式(B-3)中、G1、G2は、それぞれ独立に-O-又は-CH2-で結合される2価の基であり、p、qは、それぞれ独立に2~5の整数である。G1、G2は、-O-で結合される2価の基であることが好ましく、p、qは、3又は4であることが好ましく、4であることがより好ましい。
【0050】
前記一般式(B-3)で表される2官能チオール化合物は、下記一般式(B-3-1)で表される2官能チオール化合物であることが好ましい。
【0051】
【0052】
前記(B)成分は、例えば下記一般式(B-4)で表される2官能チオール化合物であることが好ましい。(B-4)で表される2官能チオール化合物は、四国化成工業株式会社から入手することができる。
【0053】
【0054】
一般式(B-4)中、s、tは、それぞれ独立に3又は4の整数であり、4であることが好ましい。
【0055】
前記(B)成分は、例えば下記一般式(B-5)で表される2官能チオール化合物であることが好ましい。(B-5)で表される2官能チオール化合物は、四国化成工業株式会社から入手することができる。
【0056】
【0057】
一般式(B-5)中、u、vは、それぞれ独立に3又は4の整数であり、4であることが好ましい。
【0058】
本発明の一実施形態の樹脂組成物において、さらに(B)成分以外のチオール化合物(単官能チオール化合物、2官能チオール化合物、3官能以上のチオール化合物)を含んでいてもよい。(B)成分の2官能チオール化合物に含まれるチオール基の数は、樹脂組成物中の全チオール基の数を100としたとき20~100であることが好ましく、40~100であることがより好ましく、50~100であることがさらに好ましい。樹脂組成物中に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基に対する全チオール化合物のチオール基の当量比(エポキシ当量:チオール当量)は、1:0.5から1:1.5であることが好ましい。樹脂組成物において、樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ当量に対してチオール当量が0.5当量未満あるいは1.5当量超となる量であると、未反応のエポキシ樹脂あるいはチオール化合物が硬化物に残存するため、樹脂組成物の接着強度が低下する。
【0059】
(C)成分:アミン化合物
本発明の一実施形態の樹脂組成物において、(C)成分のアミン化合物は、イミダゾール系化合物、第三級アミン系化合物及びアミンアダクトから選択される少なくとも1種のアミン化合物であることが好ましい。(C)成分のアミン化合物は、エポキシ樹脂の硬化促進剤としての機能を有するものであることが好ましい。例えば、(C)成分のアミン化合物は、室温では不溶の固体で、加熱することにより可溶化し硬化促進剤として機能する化合物であることが好ましく、その例として、常温で固体のイミダゾール系化合物、第三級アミン化合物、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤、例えば、アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(アミン-エポキシアダクト系潜在性硬化促進剤)、アミン化合物とイソシアネート化合物又は尿素化合物との反応生成物(尿素型アダクト系潜在性硬化促進剤)などが挙げられる。
【0060】
イミダゾール系化合物としては、例えば、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-(2-メチルイミダゾリル-(1))-エチル-S-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-(2’-メチルイミダゾリル-(1)’)-エチル-S-トリアジン・イソシアヌール酸付加物、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール-トリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール-トリメリテイト、N-(2-メチルイミダゾリル-1-エチル)-尿素、N,N’-(2-メチルイミダゾリル-(1)-エチル)-アジボイルジアミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
第三級アミン系化合物としては、例えば、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジ-n-プロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、N-メチルピペラジンなどのアミン化合物や、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾールなどのイミダゾール化合物のような、分子内に3級アミノ基を有する1級もしくは2級アミン類;2-ジメチルアミノエタノール、1-メチル-2-ジメチルアミノエタノール、1-フェノキシメチル-2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、1-ブトキシメチル-2-ジメチルアミノエタノール、1-(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル)-2-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル)-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシ-3-ブトキシプロピル)-2-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシ-3-ブトキシプロピル)-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル)-2-フェニルイミダゾリン、1-(2-ヒドロキシ-3-ブトキシプロピル)-2-メチルイミダゾリン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N-β-ヒドロキシエチルモルホリン、2-ジメチルアミノエタンチオール、2-メルカプトピリジン、2-ベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、4-メルカプトピリジン、N,N-ジメチルアミノ安息香酸、N,N-ジメチルグリシン、ニコチン酸、イソニコチン酸、ピコリン酸、N,N-ジメチルグリシンヒドラジド、N,N-ジメチルプロピオン酸ヒドラジド、ニコチン酸ヒドラジド、イソニコチン酸ヒドラジドなどのような、分子内に3級アミノ基を有するアルコール類、フェノール類、チオール類、カルボン酸類及びヒドラジド類;などが挙げられる。市販されている第三級アミン系化合物としては、例えばフジキュアーFXR-1030、フジキュアーFXR-1020(株式会社T&K TOKA製)が挙げられる。
【0062】
市販されている固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤の例としては、ノバキュアHXA9322HP(旭化成株式会社製)、フジキュアーFXR-1121(株式会社T&K TOKA製)、アミキュアPN-23、アミキュアPN-F(味の素ファインテクノ株式会社製)などが挙げられる。固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化剤又は潜在性硬化促進剤のより詳細な例は、特開2014-77024号公報の記載を援用する。
【0063】
樹脂組成物に含まれる(C)成分のアミン化合物の含有量は、アミン化合物の種類によって異なる。ポットライフを長くする観点から、樹脂組成物に含まれる(C)アミン化合物は、樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~40質量部、より好ましくは0.5~35質量部、よりさらに好ましくは1.0~30質量部である。なお(C)成分には、エポキシ樹脂に分散された分散液の形態で提供されるものがある。そのような形態の(C)成分を使用する場合、(C)成分が分散しているエポキシ樹脂の量も、本発明の樹脂組成物における前記成分(A)の量に含まれる。
【0064】
(D)成分:フィラー
本発明の一実施形態の樹脂組成物中に含まれる(D)成分のフィラーは、平均粒径が0.1μm以上10μm以下であり、好ましくは0.1μm以上8μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上5μm以下であり、よりさらに好ましくは0.1μm以上3μm以下である。樹脂組成物に含まれる(D)成分のフィラーの平均粒径が0.1μm以上10μm以下であると、比較的高い温度の環境で樹脂組成物を使用した場合であっても、樹脂組成物の粘度の低下を抑制することができ、取り扱い性が向上する。(D)成分のフィラーの平均粒径が0.1μm未満であると、粘度が上昇し作業性に悪影響を及ぼす場合がある。(D)成分のフィラーの平均粒径が10μmを超えると、加温下での粘度低下が著しくなる。フィラーの平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積基準の粒度分布における小径側からの体積累積頻度が50%に達する粒径(メジアン径)をいう。市販のフィラーを用いた場合には、フィラーの平均粒径は、カタログに記載された平均粒径を参照することができる。
【0065】
(D)成分のフィラーの含有量は、樹脂組成物の全体量100質量%に対して、好ましくは5~70質量%、より好ましくは8~60質量%、さらに好ましくは10~50質量%である。(D)成分のフィラーの含有量が、樹脂組成物の全体量100質量%に対して、5質量%未満であると、フィラーの量が少なすぎて、例えば高温下(加温下)において、樹脂組成物の粘度の低下を抑制し難くなり、70質量%を超えると、フィラーの量が多すぎて、樹脂組成物の粘度が高くなり取り扱い性がよくない場合がある。
【0066】
(D)成分のフィラーの粒子形状は、平均粒径が0.1μm以上10μm以下のものであれば特に限定されず、例えば、球状又はリン片状のものを用いることができる。
【0067】
(D)成分のフィラーは、平均粒径が0.1μm以上10μm以下のものであれば、材質は特に限定されず、接着剤用途又は封止材用途に添加されるフィラーから広く選択することができる。具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、マグネシア、ガラスなどの無機物質からなるフィラーが挙げられる。これらの中でも、シリカ、アルミナからなるフィラーが低熱膨張性、低吸水性の観点から好ましく用いるこができる。(D)成分のフィラーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。市販品としては、例えば、シリカフィラー(製品名:SOE2、株式会社アドマテックス製、平均粒径:0.5μm)、シリカフィラー(製品名:SE1050、株式会社アドマテックス製、平均粒径:0.3μm)、シリカフィラー(製品名:MP-8FS、株式会社龍森製、平均粒径:0.7μm)、シリカフィラー(製品名:SOE5、株式会社アドマテックス製、平均粒径:1.5μm)シリカフィラー(製品名:FB5SDX、電気化学工業株式会社製、平均粒径:5μm)、シリカフィラー(製品名:BSP6、株式会社龍森製、平均粒径5μm)、シリカフィラー(製品名:FB7SDX、電気化学工業株式会社製、平均粒径:7μm)などが挙げられる。
【0068】
(E)成分:安定剤
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、(E)成分の安定剤を含んでいてもよい。樹脂組成物は、(E)成分の安定剤を含むことにより、常温(25℃)での貯蔵安定性を向上させ、ポットライフを長くすることができる。(E)成分の安定剤としては、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート、及び、バルビツール酸からなる群から選択される少なくとも1つが、常温(25℃)での貯蔵安定性を向上させる効果が高いため好ましい。
【0069】
液状ホウ酸エステル化合物としては、例えば、2,2’-オキシビス(5,5’-ジメチル-1,3,2-オキサボリナン)、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ-n-プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ-n-ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリス(2-エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10-テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13-ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7-トリオキサウンデシル)ボラン、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ-o-トリルボレート、トリ-m-トリルボレート、トリエタノールアミンボレートを用いることができる。
なお、(E)成分として含有させる液状ホウ酸エステル化合物は、常温(25℃)で液状であるため、樹脂組成物の粘度を低く抑えられるため好ましい。
(E)成分として樹脂組成物に液状ホウ酸エステル化合物を含有させる場合、樹脂組成物100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましく、0.03~3質量部であることがより好ましく、0.1~1質量部であることがさらに好ましい。
【0070】
アルミキレートとしては、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトネート(例えば、川研ファインケミカル株式会社製のALA:アルミキレートA)を用いることができる。
(E)成分としてアルミキレートを含有させる場合、樹脂組成物100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.05~5質量部であることがより好ましく、0.1~3質量部であることがさらに好ましい。
【0071】
(E)成分としてバルビツール酸を含有させる場合、樹脂組成物100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましく、0.05~3質量部であることがより好ましく、0.1~1質量部であることがさらに好ましい。
【0072】
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、さらに、必要に応じて、(F)他の成分として、シランカップリング剤、イオントラップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、及び、搖変剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を含有してもよい。また、粘度調整剤、難燃剤、あるいは溶剤などを含有してもよい。
【0073】
樹脂組成物の粘度
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、ディスペンサにより塗布される。一般的にディスペンサの吐出部は加温されている。ディスペンサの吐出部にはクーリングシステムが設置されていない場合もある。このような場合には、最初は30℃で塗布していても、時間の経過とともに吐出部が40℃以上となることもある。本発明の一実施形態の樹脂組成物は、30℃における粘度が0.05~100Pa・sであることが好ましく、より好ましくは0.05~80Pa・s、さらに好ましくは0.1~70Pa・sである。樹脂組成物の30℃における粘度が0.05~100Pa・sの範囲であると、室温付近における樹脂組成物の取り扱い性が良好であり、イメージセンサーモジュールや半導体装置を組み立てる際に適した粘度となる。30℃における粘度は、粘弾性計測定装置(レオメータ)(例えば、ティー・エイ・インスツルメント(TA instrument)・ジャパン株式会社製、型番:ARES-G2)を用いて、後述する実施例における評価方法に基づいて測定することができる。
【0074】
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、前述のレオメータで測定した50℃における粘度が0.05~100Pa・sであることが好ましく、より好ましくは0.05~80Pa・s、さらに好ましくは0.1~70Pa・sである。樹脂組成物の50℃における粘度が0.05~100Pa・sの範囲であると、比較的高温の環境下で樹脂組成物を用いた場合であっても、樹脂組成物の取り扱い性が良好であり、イメージセンサーモジュールや半導体装置を組み立てる際に適した粘度となる。
【0075】
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物の50℃における粘度と、30℃における粘度の比(30℃の粘度/50℃の粘度)が、1~4であることが好ましく、より好ましくは1~3.5、さらに好ましくは1~3である。樹脂組成物の50℃における粘度と、30℃における粘度の比(30℃の粘度/50℃の粘度)が、1~4であると、樹脂組成物を使用する温度に多少の変化が生じても、ディスペンサの吐出条件等、取り扱い条件を変更する必要がなく、取り扱い性が良好である。
【0076】
応力吸収性(ガラス転移温度(Tg)の差(ΔTg))
樹脂組成物の硬化物の応力吸収性は、損失弾性率(Tg1)(℃)と損失正接(Tg2)(℃)との差(ΔTg)を指標とできる。本明細書において、損失弾性率(Tg1)とは、損失弾性率のピーク温度(極大値が複数ある場合はそれらのうちの最大値の温度)であり、損失正接(Tg2)とは、損失正接のピーク温度(極大値が複数ある場合はそれらのうちの最大値の温度)である。損失弾性率(Tg1)が、樹脂硬化物がガラス領域からガラス転移領域に変化し始める温度を示すのに対し、損失正接(Tg2)は、樹脂硬化物の物性がガラス領域とゴム領域の中間を示し、また外部から与えられた応力を樹脂硬化物が変形することで吸収する能力が最も高い温度を示す。このため、損失弾性率(Tg1)と損失正接(Tg2)の温度差が大きいほど、ガラス転移領域が広く、幅広い温度領域で応力を吸収しやすいといえる。損失弾性率(Tg1)及び損失正接(Tg2)は、動的粘弾性測定装置(DMA)やレオメータ等による測定により、機械的に算出することができる。なお、DMAで測定した場合、損失弾性率はE’’、損失正接はtanδで表される。
【0077】
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、その硬化物をDMAで測定した損失弾性率E’’(Tg1)と損失正接tanδ(Tg2)との温度差が、10℃以上であることが好ましく、12℃以上であることがより好ましく、14℃以上であることがさらに好ましい。また、ガラス転移領域が広すぎる場合は、相対的に応力吸収性が低下するため、温度差は、50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。
本発明の一実施形態の樹脂組成物を硬化させた硬化物の損失弾性率(Tg1)(℃)及び損失正接(Tg2)(℃)は、例えば動的粘弾性測定装置(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、製品名:DMS6100)を用いて測定することができる。昇温速度は、例えば、1~5℃/分で行うことができる。
【0078】
樹脂組成物の製造方法
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、前記(A)成分~(D)成分、及び、必要に応じて(E)成分を添加し、混練することにより製造できる。樹脂組成物の製造方法は特に限定されない。たとえば、本実施形態に係る樹脂組成物は、前記(A)成分~(D)成分、必要に応じて(E)成分を含む原料を、ライカイ機、ポットミル、三本ロールミル、ハイブリッドミキサー、回転式混合機、あるいは二軸ミキサーなどの混合機によって混合することで製造することができる。これらの成分は、同時に混合してもよく、一部を先に混合し、残りを後から混合してもよい。また、上記装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0079】
接着剤
本発明の一実施形態の接着剤は、上述の樹脂組成物を用いる。本発明の一実施形態の接着剤は、使用時に取り扱い性が良好であり、低温での硬化が可能であり、物性を損なうことなく、応力吸収性に優れた硬化物を得ることができる。具体的な熱硬化条件としては、例えば60℃以上120℃以下である。
【0080】
封止材
本発明の一実施形態の封止材は、上述の樹脂組成物を用いる。本発明の一実施形態の封止材は、使用時に取り扱い性が良好であり、低温での硬化が可能であり、物性を損なうことなく、応力吸収性に優れた硬化物を得ることができる。具体的な熱硬化条件としては、例えば60℃以上120℃以下である。
【0081】
イメージセンサーモジュール
本発明の一実施形態のイメージセンサーモジュールは、前述の樹脂組成物を含む接着剤又は封止材を用いて形成されたものである。イメージセンサーモジュールには、携帯電話やスマートフォンのカメラモジュールも含まれる。本発明の一実施形態の樹脂組成物は、使用時に取り扱い性が良好であり、低温での硬化が可能であり、物性を損なうことなく、応力吸収性に優れた硬化物を得ることができるため、80℃程度の低温での硬化が要求されるイメージセンサーモジュールの組み立てに用いる接着剤又は封止材に含まれる樹脂組成物として好適に用いることができる。
【0082】
半導体装置
本発明の一実施形態の半導体装置は、前述の樹脂組成物を含む接着剤又は封止材を用いて形成されたものである。半導体装置は、半導体特性を利用することで機能しうる装置全般を指し、電子部品、半導体回路、これらを組み込んだモジュール、電子機器などを含むものである。本発明の一実施形態の樹脂組成物は、使用時に取り扱い性が良好であり、80℃程度の低温での硬化が可能であり、物性を損なうことなく、応力吸収性に優れた硬化物を得ることができるため、低温での硬化を要求されるイメージセンサーモジュールの組み立てに用いる接着剤又は封止材に含まれる樹脂組成物として好適に用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
実施例及び比較例
下記表1又は2に示す配合で各成分を、混合して樹脂組成物を調製した。なお、下記表において、(A)成分~(F)成分の配合割合を示す数字は、すべて質量部を示している。表1又は2中の各成分は、以下の通りである。
【0085】
(A)成分:エポキシ樹脂
(A1)EPICLON EXA-850CRP:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、DIC株式会社、重量平均分子量:344、エポキシ当量:172g/eq。
(A2)YDF8170:ビスフェノールF型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社、重量平均分子量:316、エポキシ当量:158g/eq。
(A3)YX8000:水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製、重量平均分子量410、エポキシ当量:205g/eq。
(A4)YX7400:一般式(A-1-1)で表され、一般式(A-1-1)中のxが10.3である、エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製、重量平均分子量870、エポキシ当量:435g/eq。
(A5)TSL9906:一般式(A-2)で表され、一般式(A-2)中のR6~R9がメチル基であるエポキシ樹脂、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、重量平均分子量296、エポキシ当量181g/eq。
【0086】
チオール化合物
(B)成分:2官能チオール化合物
(B1)チオール化合物1:一般式(B-1-1)で表される2官能チオール化合物、四国化成工業株式会社製、分子量389、チオール当量:211g/eq。
(B2)チオール化合物2:一般式(B-2-1)で表される2官能チオール化合物、四国化成工業株式会社製、分子量445、チオール当量:243g/eq。
(B3)チオール化合物3:一般式(B-3-1)で表される2官能チオール化合物、四国化成工業株式会社製、分子量286、チオール当量:159g/eq。
(B’)(B)成分以外のチオール化合物
(B’4)DMDO:3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン)、東京化成工業社製、分子量182、チオール当量91g/eq。
(B’5)1,10-デカンジチオール、東京化成工業社製、分子量206、チオール当量103g/eq。
(B’6)EPMG-4:テトラエチレングリコール ビス(3-メルカプトプロピオネート)、SC有機化学株式会社製、分子量372、チオール当量186g/eq。
(B’7)PEMP:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(PEMP)、SC有機化学株式会社製、分子量489、チオール当量122g/eq。
(B’8)C3 TS-G:1,3,4,6-テトラキス(3-メルカプトプロピル)グリコールウリル、四国化成工業株式会社製、分子量432、チオール当量114g/eq。
【0087】
(C)成分:アミン化合物
(C1)フジキュアーFXR-1121:固体分散型アミンアダクト、株式会社T&K TOKA製。
(C2)HXA9322HP:固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化触媒(マイクロカプセル型イミダゾールアダクト)、旭化成株式会社製、重量の1/3がマイクロカプセル型イミダゾールアダクト、2/3がビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物、エポキシ当量180g/eq。
(C3)フジキュアーFXR-1020、第三級アミン系化合物、株式会社T&K TOKA製。
【0088】
(D)成分:フィラー
(D1)SOE5:シリカフィラー、株式会社アドマテックス製、平均粒径1.5μm。
(D2)BSP6:シリカフィラー、株式会社龍森製、平均粒径5μm。
(D’)(D)成分以外のフィラー
(D’3)MSV-25G:シリカフィラー、株式会社龍森製、平均粒径25μm。
【0089】
(E)成分:安定剤
(E1)TIPB:トリイソプロピルボレート、東京化成工業株式会社製。
【0090】
(F)他の成分
(F1)KBM403:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)、信越化学株式会社製。
【0091】
評価方法
揮発性
直径5cm、深さ0.5cmの金属容器の重量を測定する。そこにチオール化合物1.0gを目安に加え、蓋を被せずに80℃のオーブンに1時間放置した。放冷後、金属容器の重量を測定しチオール樹脂からの揮発分を測定した。その結果、1,10-デカンジチオールの揮発分は11%、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールの揮発分は27%だったのに対して、チオール化合物1、2、3を含むその他のチオール樹脂の揮発分は全て1%以下であった。
【0092】
粘度の測定
実施例及び比較例の樹脂組成物の粘度は、25℃から昇温させていき、30℃における粘度(Pa・s)と50℃における粘度(Pa・s)を測定した。測定は、粘弾性計測定装置(レオメータ)(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、型番:MARS60)を用いた。測定条件を以下に示す。また、樹脂組成物の50℃の粘度に対する30℃に対する粘度の比(30℃の粘度/50℃の粘度)を求めた。この粘度の比は、1~4であると好ましく、1~3.8であるとより好ましく、1~3.5であるとさらに好ましく、1~3であるとよりさらに好ましい。
プレート径:35mmφ(パラレル型)
周波数:1Hz
歪:0.5
昇温速度:3℃/分
ギャップ:500μm
【0093】
ガラス転移温度(Tg)の差(ΔTg)の算出
動的粘弾性測定装置(DMA)(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、製品名:DMS6100)を用いて、実施例及び比較例の樹脂組成物を硬化させた硬化物の損失弾性率E’’(Tg1)(℃)と損失正接tanδ(Tg2)(℃)を測定した。テフロン(登録商標)テープを貼付した2枚のガラス板を用意し、1枚のガラス板のテフロン(登録商標)テープ面上に、125μmのスペーサーフィルム及び樹脂組成物を載置し、テフロン(登録商標)テープ面同士が対向するように、もう1枚のガラス板を載置し、送風乾燥機にて80℃180minにて加熱硬化することにより、厚さ:130μm程度の硬化物を得た。また、できた硬化物が脆弱な場合は、適宜スペーサーフィルムの厚みを変えて硬化物を作製した。この硬化物をガラス板から剥離した後、硬化物から試験片(10±0.5mm×40±1mm)を切り出し、試験片の幅、厚みを測定した。その後、前述の動的粘弾性測定装置を用いて、測定を行った(昇温速度:3℃/min、周波数:10Hz、測定範囲:-40~150℃、ひずみ振幅5.0μm、引張法)。tanδ(損失正接)のピーク温度(極大値が複数ある場合はそれらのうちの最大値の温度)を読み取り、ガラス転移温度(Tg2)とした。また、損失弾性率E’’のピーク温度(極大値が複数ある場合はそれらのうちの最大値の温度)を読み取り、ガラス転移温度(Tg1)とした。ガラス転移温度(Tg1)(℃)と、ガラス転移温度(Tg2)(℃)の差であるΔTg(℃)を算出した。ΔTgは、12℃以上であることが好ましい。
【0094】
耐加水分解性
上記DMA測定と同じ条件で厚さ:130μm程度の硬化物を作製した。樹脂組成物中にエステル結合を含む化合物を含む場合には、高温高湿下で加水分解し、比較例5、6の組成物の樹脂硬化物をPCT条件(121℃、2気圧)に10時間入れ続けたところ、樹脂硬化物は液状化し、耐加水分解性が良好ではなかった。一方、樹脂組成物中にエステル結合を含むチオール化合物を含むが、本発明に係る2官能チオール化合物を併用した実施例15、16の組成物は、樹脂硬化物の外観に異常は見られなかった。
【0095】
【0096】
【0097】
実施例1~20の樹脂組成物から得られた硬化物は、耐加水分解性、低揮発性が良好であり、硬化後の硬化物中にボイドが混入していなかった。また、実施例1~20の樹脂組成物の、50℃の粘度に対する30℃の粘度の比(30℃の粘度/50℃の粘度)が1~4であることから、樹脂組成物を使用する環境雰囲気に関わらず、樹脂組成物の取り扱い性が良好であることが確認できた。また、実施例1~20の樹脂組成物を硬化させて得られた硬化物のΔTgは、12℃以上であり、ガラス転移領域が広く応力吸収性に優れることが確認できた。
【0098】
比較例5,6の樹脂組成物から得られた硬化物は、樹脂組成物にエステル結合を含む化合物が含まれるため、加水分解し易く、耐湿性が改善されていなかった。また、比較例3,4の樹脂組成物を硬化して得られた硬化物中にはボイドが混入していた。比較例1~6の樹脂組成物の、50℃の粘度に対する30℃の粘度の比(30℃の粘度/50℃の粘度)はいずれも4以上であることから、環境温度によっては取り扱い難い場合があった。また、比較例6の樹脂組成物を硬化させて得られた硬化物は、ΔTgが10℃程度であり、他の組成物と比較してガラス転移領域が狭く応力吸収性に劣ることが確認できた。