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特許7681314アルカリ金属電池用の電極活物質、それを含む電極及びアルカリ金属電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-14
(45)【発行日】2025-05-22
(54)【発明の名称】アルカリ金属電池用の電極活物質、それを含む電極及びアルカリ金属電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20250515BHJP
   C01G 31/04 20060101ALI20250515BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250515BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20250515BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250515BHJP
【FI】
H01M4/58
C01G31/04
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0562
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021551727
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2020038342
(87)【国際公開番号】W WO2021070944
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2019186875
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度国立研究開発法人科学技術振興機構_戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発 委託研究_産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】作田 敦
(72)【発明者】
【氏名】林 晃敏
(72)【発明者】
【氏名】辰巳砂 昌弘
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/049986(WO,A1)
【文献】特開2015-076180(JP,A)
【文献】特開2015-146240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 10/054
C01G 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
a1MSa2a3
(式中、AはLi及びNaから選択され、MはV、Nb、Ti及びMoから選択され、XはCl、Br、I及びSOから選択され、a1は2以上4以下であり、a2は2.5以上5以下であり、a3は0.05以上0.6以下である
で表されることを特徴とするアルカリ金属電池用の電極活物質。
【請求項2】
前記AがLiを含み、MがVを含み、XがCl、Br、I及びSOから選択されるいずれかを含む請求項1に記載のアルカリ金属電池用の電極活物質。
【請求項3】
a1が2.5以上3.5以下であり、a2が2.5以上4以下であり、a3が0.1以上0.45以下である請求項1又は2に記載のアルカリ金属電池用の電極活物質。
【請求項4】
前記式:Aa1MSa2a3が、(LiS)b1-(Vb2-(LiX)b3(b1/b2は1~9であり、b3/b2は0.1~1.5であり、cは1~2である)で表される請求項1~3のいずれか1つに記載のアルカリ金属電池用の電極活物質。
【請求項5】
前記AがNaを含み、MがVを含み、XがCl、Br、I及びSOから選択されるいずれかを含む請求項1に記載のアルカリ金属電池用の電極活物質。
【請求項6】
前記アルカリ金属電池が、全固体電池である請求項1~5のいずれか1つに記載のアルカリ金属電池用の電極活物質。
【請求項7】
前記アルカリ金属電池が、正極及び負極と、正極と負極間に位置する固体電解質層とを備え、前記正極が、固体電解質を含まない請求項1~6のいずれか1つに記載のアルカリ金属電池用の電極活物質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の電極活物質を含むアルカリ金属電池用の電極。
【請求項9】
正極及び負極と、正極と負極間に位置する電解質層とを備え、
正極または負極またはその両方が、請求項1~7のいずれか1つに記載の電極活物質を含むアルカリ金属電池。
【請求項10】
前記電解質層が固体電解質層を含む、請求項9に記載のアルカリ金属電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属電池用の電極活物質、それを含む電極及びアルカリ金属電池に関する。更に詳しくは、本発明は、充放電寿命が長く、高容量のアルカリ金属電池を提供し得る電極活物質及びそれを含む電極、充放電寿命が長く、高容量のアルカリ金属電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、ハイブリッド自動車等の自動車、太陽電池、風力発電等の発電装置において、電力を貯蔵するためにリチウムイオン電池の需要が増大している。
また、安全性の確保の観点から、電解質層に液体を使用せず、固体電解質を使用した全固体電池が盛んに研究されている。
ここで、リチウムイオン電池や全固体電池は、正極、電解質層及び負極の積層体から構成される。この内、全固体電池の正極活物質に含まれる正極活物質として、例えば、国際公開WO2016/063877号(特許文献1)では、AS・AX(式中、Aは、アルカリ金属であり、Xは、I、Br、Cl、F、BF4、BH4、SO、BO、PO、O、Se、N、P、As、Sb、PF、AsF、ClO、NO、CO、CFSO、CFCOO、N(SOF)及びN(CFSOから選択される)で表される全固体二次電池用の正極活物質が提案されている。
【0003】
上記正極活物質は伝導性が低いため、固体電解質や導電助剤と混合する必要があった。混合することで、導電性は向上するが、正極に占める正極活物質の量が減ることで、容量が低下するという課題があった。
上記課題を解決するために、固体電解質や導電助剤と混合せずとも十分な伝導性を示す正極活物質が、林、辰巳砂他、日本化学会年会(2017)(非特許文献1)で提案されている。非特許文献1では、LiS-V-S(LiVS)を正極活物質として使用することで、固体電解質や導電助剤と混合せずとも、充放電が可能であると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2016/063877号
【文献】林、辰巳砂他、日本化学会年会(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1では、図1に示す充放電曲線が記載されている。図1から分かるように、サイクル数を重ねる毎に、容量が低下している。そのため、この正極活物質でも充放電寿命及び容量が十分ではなく、充放電寿命がより長く、より高容量のアルカリ金属電池を提供し得る電極活物質を提供することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者等は、活物質に電解質の役割を付与することにより、よりイオン伝導性及び電子伝導性を向上できるとのコンセプトの下で、硫黄を構成成分として含む電極活物質において、特定の遷移金属とアニオン成分とを構成成分として更に含有させれば、充放電寿命がより長く、より高容量のアルカリ金属電池を提供し得ることを見いだし本発明に到った。
かくして本発明によれば、下記式:
a1MSa2a3
(式中、AはLi及びNaから選択され、Mは4~6族元素であるV、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、及びWから選択され、XはF、Cl、Br、I、CO、SO、SO、NO、BH、BF、PF、ClO、CFSO、(CFSON、(CSON、(FSON及び[B(C]から選択され、a1は1~9であり、a2は2~6であり、a3は0~1であり、(a1が3、かつa3が0の場合、a2は4でない。さらに、MがVを含まない場合、a3>0である)で表されることを特徴とするアルカリ金属電池用の電極活物質が提供される。
また、本発明によれば、上記電極活物質を含むアルカリ金属電池用の電極が提供される。
更に、本発明によれば、正極及び負極と、正極と負極間に位置する電解質層とを備え、前記電極、すなわち正極または負極またはその両方が、上記電極活物質を含むアルカリ金属電池が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、充放電寿命がより長く、より高容量のアルカリ金属電池を提供し得る電極活物質を提供できる。
また、以下の構成のいずれかを有する場合、充放電寿命が更に長い、または更に高容量のアルカリ金属電池を提供し得る電極活物質を提供できる。
(1)AがLi、MがV、XがCl、Br、I及びSOから選択される。
(2)式:Aa1MSa2a3が、(LiS)b1-(Vb2-(LicX)b3(b1/b2は1~9であり、b3/b2は0.1~1.5であり、cは1~2である)で表される。
(3)AがNa、MがV、XがCl、Br、I及びSOから選択される。
(4)アルカリ金属電池が、全固体電池である。
(5)アルカリ金属電池が、正極及び負極と、正極と負極間に位置する固体電解質層とを備え、電極が、固体電解質を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】非特許文献1に記載された充放電曲線である。
図2】実施例1の電極活物質のXRDパターンである。
図3】実施例1の全固体電池の初期充放電曲線である。
図4A】LiS:Vを67:33のモル比で含む電極活物質からなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図4B】LiS:Vを70:30のモル比で含む電極活物質からなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図4C】LiS:Vを75:25のモル比で含む電極活物質からなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図5A】LiS:Vを67:33のモル比で含む電極活物質からなる電極を用いた全固体電池の、充電状態から充放電を開始した場合の充放電曲線である。
図5B】LiS:Vを67:33のモル比で含む電極活物質からなる電極を用いた全固体電池の放電状態から充放電を開始した場合の充放電曲線である。
図6】実施例2の電極活物質のXRDパターンである。
図7A】LiS:Vを75:25のモル比で含む電極活物質からなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図7B】90(0.75LiS・0.25V)・10LiClからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図7C】90(0.75LiS・0.25V)・10LiBrからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図7D】90(0.75LiS・0.25V)・10LiIからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図7E】90(0.75LiS・0.25V)・10LiSOからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図8A】90(0.75LiS・0.25V)・10LiIからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図8B】90(0.75LiS・0.25V)・10LiIからなる電極を用いた全固体電池の経サイクル数変化を示すグラフである。
図9】90(0.75LiS・0.25V)・10LiIからなる電極を用いた全固体電池の充放電容量を規制した際の充放電曲線である。
図10A】90(0.75LiS・0.25V)・10LiIからなる電極を用いた全固体電池の電流密度を変化させて充放電を行った場合の充放電曲線を示すグラフである。
図10B】90(0.75LiS・0.25V)・10LiIからなる電極を用いた全固体電池の電流密度を変化させて充放電を行った場合の経サイクル数変化を示すグラフである。
図10C】90(0.75LiS・0.25V)・10LiIからなる電極と、固体電解質として54LiPS・46LiIとを用いた全固体電池の電流密度を変化させて充放電を行った場合の経サイクル数変化を示すグラフである。
図11A】90(0.75LiS・0.25V)・10LiIからなる電極を用いた全固体電池のインピーダンスプロットである。
図11B】90(0.75LiS・0.25V)・10LiIからなる電極を用いた全固体電池のインピーダンスプロットである。
図11C】90(0.75LiS・0.25V)・10LiIからなる電極を用いた全固体電池のインピーダンスプロットである。
図12A】実施例2の電極活物質中のS原子の2p軌道を示すXPSプロットである。
図12B】実施例2の電極活物質中のV原子の2p軌道を示すXPSプロットである。
図13】90(0.70LiS・0.30V)・10LiIからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図14A】90(0.70LiS・0.30V)・10LiSOからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図14B】80(0.70LiS・0.30V)・10LiI・10LiSOからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図15A】実施例5の電極活物質のXRDパターンである。
図15B】実施例5の電極活物質のXRDパターンである。
図16A】LiVSからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図16B】90LiVS・10LiIからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図16C】90LiVS・10LiSOからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図16D】80LiVS・20LiSOからなる電極を用いた全固体電池の充放電曲線である。
図17】実施例6の電極活物質のXRDパターンである。
図18】75NaS・25Vからなる電極を用いた全固体電池の充放電容量である。
図19】90(0.75NaS・0.25V)・10NaIからなる電極を用いた全固体電池の充放電容量である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の電極活物質は、アルカリ金属電池の電極に含まれる活物質に関している。ここで、アルカリ金属電池としては、充放電時に、Li、Na等のアルカリ金属が可動イオンとして正極及び負極間でやりとりされる電池であれば特に限定されない。例えば、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池等の電解質層が非水電解液を含むイオン電池、全固体リチウム電池、全固体ナトリウム電池等の電解質層に固体電解質層を使用する全固体電池等が挙げられる。また、アルカリ金属電池は、一次電池でも二次電池でもよいが、本発明の電極活物質は、充放電寿命を長くできる効果を有しているため、二次電池であることが好ましい。
【0010】
(電極活物質)
電極活物質は、下記式:
a1MSa2a3
で表される。
式中、Aは、Li及びNaから選択される。Aは、より容量を向上する観点から、Liであることが好ましい。
Mは、V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、及びWの遷移金属の群から選択される。Mは、より容量を向上する観点から、V、Nbを含むことが好ましい。
Xは、F、Cl、Br、I、CO、SO、SO、NO、BH、BF、PF、ClO、CFSO、(CFSON、(CSON、(FSON及び[B(C]からのアニオン成分の群から選択される。Xは、より容量を向上する観点から、Cl、Br、I及びSOから選択されることが好ましい。
【0011】
a1は1~9であり、a2は2~6であり、a3は0~1である(但し、a1が3かつa3が0の場合、a2は4でない。さらに、MがVを含まない場合、a3>0である)。a1、a2及びa3は、M及びXの価数に応じてその範囲が変化するモル比である。また、a1は、充放電に応じて、値が変化する。a1が1未満の場合、初期充電容量が少なくなり、負極にLiを含む必要が生じる。a1が9より大きい場合、逆蛍石型のLiS主体の材料となり、電子伝導性が低下することがある。a2が2未満の場合、硫黄の酸化還元による容量が得られなくなるため、高電位領域の容量が低減してしまう。a2が6より大きい場合、電子伝導性が低下してしまうことがある。a3が1より大きい場合、イオン伝導性の向上が期待できるが、電子伝導性と理論容量の低下が生じてしまう。a1は2~4であることが好ましく、a2は3~5であることが好ましく、a3は0より大きいことが好ましく、0.05~0.6であることがより好ましい。
式中のa1は、1~9の範囲に含まれる任意の数値範囲であり得、例えば、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5又は9.0の値から選択される任意の上限値及び下限値の組み合わせで表される範囲とすることができる。
式中のa2は、2~6の範囲に含まれる任意の数値範囲であり得、例えば、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5又は6.0の値から選択される任意の上限値及び下限値の組み合わせで表される範囲とすることができる。
式中のa3は、0~1の範囲に含まれる任意の数値範囲であり得、例えば、0.01、0.025、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、0.99又は1.0の値から選択される任意の上限値及び下限値の組み合わせで表される範囲とすることができる。
【0012】
1つの実施形態では、電極活物質は、下記式:
a1MSa2a3
(式中、AはLi及びNaから選択され、Mは4~6族元素(V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、及びW)から選択され、XはF、Cl、Br、I、CO、SO、NO、BH、BF、PF、ClO、CFSO、(CFSON、(CSON、(FSON及び[B(C]から選択され、a1は1~9であり、a2は2~6であり、a3は0<a3≦1である)で表されていてもよい。
【0013】
別の実施形態では、上記式のa3は0である。すなわち、電極活物質は、下記式:
a1MSa2
(式中、AはLi及びNaから選択され、Mは4~6族元素(V、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、及びW)から選択され、a1は1~9であり、a2は2~6である)と表されていてもよい。
【0014】
a1MSa2a3で表される電極活物質の内、(LiS)b1-(Vb2-(LicX)b3で表される電極活物質であることがより好ましい。b1、b2及びb3は、モル比である。cは1~2であり、Xの価数に応じてその範囲が変化するモル比である。
cは、1~2の範囲に含まれる任意の数値範囲であり得、例えば、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9又は2.0の値から選択される任意の上限値及び下限値の組み合わせで表される範囲とすることができる。
b1/b2は1~9であり、b3/b2は0.1~1.5であることが好ましい。b1/b2が1未満の場合、バナジウム含量の増加による材料コストの増加が生じることがある。b1/b2が9より大きい場合、電子伝導性が低下することがある。また、b1/b2が1未満の場合、リチウムの含有量が下がるため初期充電容量が低下する。b3/b2が0.1未満の場合、LicX成分の添加効果が十分に得られないことがある。b3/b2が1.5より大きい場合、理論容量が低下する。
b1/b2は、1~9の範囲に含まれる任意の数値範囲であり得、例えば、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5又は9.0の値から選択される任意の上限値及び下限値の組み合わせで表される範囲とすることができる。
b3/b2は、0.1~1.5の範囲に含まれる任意の数値範囲であり得、例えば、0.1、0.15、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4又は1.5の値から選択される任意の上限値及び下限値の組み合わせで表される範囲とすることができる。
電子伝導性、イオン伝導性、初期充電容量、可逆容量、充放電寿命のバランスの観点から、b1/b2は1.5~4.5であることが好ましく、2~4であることがより好ましく、2.5~3.5であることがさらに好ましい。また、b3/b2は0.1~1.0が好ましく、0.15~0.8がより好ましい。
【0015】
電極活物質は、AがLiの場合、CuKα線を用いたXRD(X線回折)の2θ/°における28°付近のLiSに相当するピークが、0.1°以上の半値全幅を示すことが好ましい。この半値幅であれば、より結晶性の低い電極活物質を得ることができる。
【0016】
電極活物質の製造方法は、その原料を複合化可能な方法であれば、特に限定されない。ここで、原料としては、例えば、アルカリ金属の硫化物、V等の遷移金属の硫化物、アルカリ金属とアニオン成分との塩の混合物が挙げられる。
複合化の方法としては、より不定比組成の試料の合成が可能であることや、低結晶性の試料が得られるという観点から、メカノケミカル処理が好ましい。
メカノケミカル処理は、均一に各成分を反応または複合化できさえすれば、処理装置及び処理条件には特に限定されない。
処理装置としては、通常ボールミルが使用できる。ボールミルは、大きな機械的エネルギーが得られるため好ましい。ボールミルの中でも、遊星型ボールミルは、ポットが自転回転すると共に、台盤が自転の向きと逆方向に公転回転するため、高い衝撃エネルギーを効率よく発生できるので、好ましい。
【0017】
処理条件は、使用する処理装置に応じて適宜設定できる。例えば、ボールミルを使用する場合、回転速度が大きいほど及び/又は処理時間が長いほど、原料を均一に混合できる。具体的には、遊星型ボールミルを使用する場合、50~600回転/分の回転速度、0.1~100時間の処理時間、1~100kWh/原料1kgの条件が挙げられる。原料のアルカリ金属塩が水や酸素と反応することを防ぐために、グローブボックスなどを用いて不活性雰囲気下(例えばアルゴン雰囲気下)で、水分濃度が1000ppm以下、酸素濃度が1000ppm以下の環境下で処理が行われることが好ましい。
上記メカノケミカル処理により、電極活物質が得られる。
【0018】
(電極)
電極は、電極活物質のみからなっていてもよく、結着材、導電材、電解質等と混合されていてもよい。
本発明のアルカリ金属電池用の電極は、電極活物質を含む。本発明の電極活物質は、それのみで十分高いイオン伝導性及び電子伝導性を有している。そのため、従来の電極に含まれていた固体電解質や導電材の使用量を減らすことができ、又は固体電解質及び導電材を使用しなくてもよい。その結果、電極に占める電極活物質の割合を増やすことができるので、より高容量のアルカリ金属電池を提供できる。電極に占める電極活物質の割合は特に限定されないが、電極活物質を主成分として含むことが好ましい。ここで、主成分として含むとは、電極に占める電極活物質の割合が電極を構成する全成分に対して50質量%以上であることを指す。電極に占める電極活物質の割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは97質量%以上であり、より好ましくは98質量%以上であり、より好ましくは99質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。但し、固体電解質や導電材の使用を否定するものではなく、必要に応じて、これらを使用してもよい。
【0019】
結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン等が挙げられる。
結着剤は、電極中の電極活物質100重量部に対して、40重量部以下の重量で含むことができ、30重量部以下であることが好ましく、20重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることがより好ましく、5重量部以下であることがより好ましく、3重量部以下であることがより好ましく、1重量部以下であることがより好ましい。
導電材としては、例えば、天然黒鉛、人工黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、カーボンブラック、気相成長カーボンファィバ(VGCF)等が挙げられる。
導電材は、電極中の電極活物質100重量部に対して、40重量部以下の重量で含むことができ、30重量部以下であることが好ましく、20重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることがより好ましく、5重量部以下であることがより好ましく、3重量部以下であることがより好ましく、1重量部以下であることがより好ましい。
固体電解質としては、以下のアルカリ金属電池の欄で説明する固体電解質層に使用される電解質が挙げられる。
本発明の電極活物質に加えて、必要に応じて、本発明の電極活物質以外の電極活物質を加えてもよい。本発明の電極活物質を正極活物質として用いる場合は、本発明の電極活物質以外の電極活物質としては、例えば、ATi12、ACoO、AMnO、AVO、ACrO、ANiO、ANiMn、ANi1/3Co1/3Mn1/3、S、AS、FeS、TiS、AFeO、A(PO)、AMn等が挙げられる(AはLi又はNa)。電極活物質はLiNbO、NaNbO、Al、NiS等の材料で被覆されていてもよい。被覆の厚みは均一であってもよいし、偏りがあってもよいが、均一であることが好ましい。本発明の電極活物質を負極活物質として用いる場合は、本発明の電極活物質以外の電極活物質としては、例えばLi、Na、In、Sn、Sb等の金属、Na合金、グラファイト、ハードカーボン、Li4/3Ti5/34、Li(PO)、Na4/3Ti5/34、Na(PO)、SnO等の種々の遷移金属酸化物等が挙げられる。
本発明の電極活物質以外の電極活物質は、電極中の電極活物質100重量部に対して、40重量部以下の重量で含むことができ、30重量部以下であることが好ましく、20重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることがより好ましく、5重量部以下であることがより好ましく、3重量部以下であることがより好ましく、1重量部以下であることがより好ましい。
電極は、例えば、電極活物質及び、任意に結着材、導電材、電解質等を混合し、得られた混合物をプレスすることで、ペレット状として得ることができる。
【0020】
(アルカリ金属電池)
アルカリ金属電池に使用される電極は、上記本発明の電極である。本発明の電極は、正極、負極又は正極及び負極(但し、互いの組成は異なる)に用いることができる。
本発明の電極を正極として用いた場合、充放電時に、Li、Na等のアルカリ金属が可動イオンとして正極及び負極間でやりとりすることができれば特に限定されず、本発明の負極以外の負極と組み合わされて用いてもよい。また、本発明の電極を負極として用いた場合、充放電時に、Li、Na等のアルカリ金属が可動イオンとして正極及び負極間でやりとりすることができれば特に限定されず、本発明の正極以外の正極と組み合わされて用いてもよい。
本発明の正極以外の正極に用いる正極活物質としては、例えば、ATi12、ACoO、AMnO、AVO、ACrO、ANiO、ANiMn、ANi1/3Co1/3Mn1/3、S、AS、FeS、TiS、AFeO、A(PO)、AMn等が挙げられる(AはLi又はNa)。正極活物質はLiNbO、NaNbO、Al、NiS等の材料で被覆されていてもよい。被覆の厚みは均一であってもよいし、偏りがあってもよいが、均一であることが好ましい。
本発明の負極以外の負極に用いる負極活物質としては、例えば、Li、Na、In、Sn、Sb等の金属、Na合金、グラファイト、ハードカーボン、Li4/3Ti5/34、Li(PO)、Na4/3Ti5/34、Na(PO)、SnO等の種々の遷移金属酸化物等が挙げられる。
正極及び負極は、電極活物質のみからなっていてもよく、結着材、導電材、電解質等と混合されていてもよい。これらの負極活物質又は正極活物質は、それぞれ単独で用いられていてもよく、また2種以上が組み合わされて用いられても良い。
結着材、導電材及び電解質は、上記電極の欄で挙げた物をいずれも使用できる。
電極は、例えば、電極活物質及び、任意に結着材、導電材、電解質等を混合し、得られた混合物をプレスすることで、ペレット状として得ることができる。また、負極活物質として金属又はその合金からなる金属シート(箔)を使用する場合、そのまま使用可能である。
【0021】
正極及び/又は負極は更に集電体と組み合わされて複合体を形成していてもよい。
集電体としては、正極及び/又は負極と組み合わせることができ、集電体としての機能が果たせるものであれば材質、形状等は特に限定されない。集電体の形状としては、均一な合金板の様なものであっても、孔を有した形状であってもよい。また、箔、シート状、フィルム状の形態であってもよい。
【0022】
集電体の素材としては、例えば、Ni、Cu、Ti、Fe、Co、Ge、Cr、Mo、W、Ru、Pd、Al、ステンレススチール、又は鋼等が挙げられる。これらの素材は、それぞれ単独で用いられていてもよく、また2種以上が組み合わされて用いられても良い。
【0023】
アルカリ金属電池に使用される電解質層は、その層が非水電解液を含むのか、全固体であるのかに応じて、言い換えると非水電解質層であるのか、全固体電解質層であるのかに応じて、構成する材料種が異なる。
【0024】
(1)非水電解質層
この電解質層は、公知の電解質と非水溶媒との混合物から構成できる。
電解質としては、例えば、AClO、APF、ABF、ACFSO、AAsF、AB(C、ACl、ABr、CHSOA、CFSOA、AN(SOCF、AN(SO、AC(SOCF、AN(SOCF等が挙げられる(AはLi又はNa)。
非水溶媒としては、特に制限されず、例えばカーボネート類、エーテル類、ケトン類、スルホラン系化合物、ラクトン類、ニトリル類、塩素化炭化水素類、エーテル類、アミン類、エステル類、アミド類、リン酸エステル化合物等が挙げられる。これらの代表的なものとして、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルホルメート、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ-ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、エチルメチルカーボネート、1,4-ジオキサン、4-メチル-2-ペンタノン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、1,2-ジクロロエタン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0025】
(2)固体電解質層
固体電解質層を構成する固体電解質には、特に限定されず、全固体電池に通常使用される固体電解質をいずれも使用できる。例えば、A2S・Nxy(AはLi又はNa、NはP、Si、Ge、B、Al、Gaから選択され、x及びyは、Mの種類に応じて、化学量論比を与える整数である)で表される固体電解質が挙げられる。具体的なNxyとしては、P25、SiS2、GeS2、B23、Al23、Ga23等が挙げられる。これら具体的なNxyは、1種のみ使用してもよく、2種以上併用してもよい。この内、P25が特に好ましい。
更に、A2SとNxyとのモル比は、50:50~90:10であることが好ましく、67:33~80:20であることがより好ましく、70:30~80:20であることが更に好ましい。
固体電解質には、A2S・Nxy以外に、ハロゲン化リチウムやLi3PO4等の各種リチウム塩、ハロゲン化ナトリウム、Na3PO4等のナトリウム塩等、他の固体電解質が含まれていてもよい。
【0026】
固体電解質は、ガラス状であっても、ガラスセラミックス状であっても、結晶であってもよい。なお、ガラス状とは、実質的に非結晶状態を意味する。ここで、実質的にとは、100%非結晶状態に加えて、非結晶状態の固体電解質中に結晶状態の固体電解質が微分散している場合を含んでいる。ガラスセラミックス状とは、ガラス状の固体電解質をガラス転移点以上の温度で加熱することにより生じる状態を意味する。
ガラスセラミックス状の固体電解質は、非晶質状態のガラス成分中に、結晶質部が分散した状態であってもよい。結晶質部の割合は、ガラスセラミックス全体に対して、50質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。なお、結晶質部の割合は透過型電子顕微鏡観察やリートベルト法による結晶構造解析等により測定可能である。
更に、ガラスセラミックス状の固体電解質は、対応するガラス状の固体電解質に存在していたガラス転移点が存在しないものであってもよい。
固体電解質は、例えば、所定の厚さになるようにプレスすることにより固体電解質層とすることができる。プレスの圧力は、50~2000 MPaの範囲の圧力から選択されてもよい。
上記固体電解質は、一種類からなっていてもよく、複数種の混合物からなっていてもよい。
【0027】
固体電解質層中、A2S・Nxyが占める割合は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることが好ましく、90%質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。固体電解質層の厚さは特に限定されないが、5~1000μmであることが好ましく、5~500μmであることがより好ましく、5~200μmであることがより好ましく、5~100μmであることがより好ましく、10~100μmであることがより好ましく、10~50μmであることがより好ましい。固体電解質層は、例えば、固体電解質粉末をプレスすることで得ることができる。
【0028】
(3)アルカリ金属電池の製造方法
本発明は、本発明の電極活物質を用いたアルカリ金属電池の製造方法も提供する。
【0029】
(3-1)イオン電池
非水電解質層を使用する場合、正極と負極とを電池缶に挿入し、電池缶に電解質及び非水溶媒の混合物を注ぐことによりイオン電池を得ることができる。
正極と負極との間にセパレータを使用してもよい。この場合は、微多孔性の高分子フィルムを用いることが好ましい。具体的には、ナイロン、セルロースアセテート、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン高分子よりなるセパレータを使用できる。正極、セパレータ及び負極は、積層してもよい。
(3-2)全固体電池
全固体電池は、例えば、正極と、固体電解質層と、負極とを積層し、プレスすることによりセルを得、これを容器に固定して得ることができる。
【実施例
【0030】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。以下の実施例及び比較例において、LiSは三津和化学社製(純度>99.9%)、Vは高純度化学社製(純度>99.9%)、LiCl、LiBr、LiI及びLiSOはAldrich社製(純度>99.999%)を用いた。
また、以下の実施例及び比較例において、イオン伝導度及び電子伝導度はSolartron Analytical社のポテンショガルバノスタットSolartron 1287A及びインピーダンスアナライザ1260Aを用いて測定した。X線回折装置としては、リガク社製全自動多目的X線回折装置SmartLabを用いて、CuKα線にて、2θ=10°~90°の範囲で構造解析を行った。XPS測定にはThermo Fisher Scientific社製のK-Alpha X 線光電子分光 (XPS) システムにて、単色化Al-Kα(1486.6 eV)のX線を用いて測定した。測定面積は約400μmで、帯電中和にはAr中和銃を用いて、エッチングにはArイオン種を用いた。帯電補正は、試料の表面汚染物(ハイドロカーボン, CHS,284.7 eV)を基準とした。
実施例1
LiS及びVを93:7、90:10、81:19、75:25、70:30、68:32、67:33及び59:41のモル比となるように計量し、遊星型ボールミルに投入した。投入後、遊星型ボールミルによりメカノケミカル処理することで、8種の電極活物質を得た。
遊星型ボールミルは、Fritsch社製Pulverisette P-7を使用し、ポット及びボールはZrO製であり、45mlのポット内に直径4mmのボールが500個(約90g)入っているものを使用した。メカノケミカル処理は、投入量0.3~0.5g、510rpmの回転速度、室温、乾燥アルゴングローブボックス内で80時間行った。8種の電極活物質の粉末XRDパターンを図2に示す。図2の下部には、LiS、V及びLiVSのXRDパターンを記載している。81:19、75:25、70:30、68:32、67:33、及び59:41のモル比のLiS及びVを含む電極について、電子伝導度を測定したところ、いずれも測定上限を超える10-1Scm-1以上の高い伝導度を示した。一方で、LiS含有量の高い90:10のモル比の電極では、4.6×10-7Scm-1と比較的低い電子伝導度を示した。また、93:7のものは、10-7 Scm-1以下であった。このことから90:10のものでも、Vとの複合化により電子伝導性が向上していることがわかる。なお、電子伝導度測定用試料は得られた電極活物質粉末80mgを室温(25℃)、360MPaで一軸プレス成形することで得られた粉末成形体である。
【0031】
上記電極を正極として使用して全固体電池を製造し、その電池の初期充放電曲線を測定した。測定条件は、得られた二次電池(セル)を、25℃下、0.13mA/cm2の電流密度で充放電を1サイクル行ったこととした。結果を図3に示す。図3において、左側の縦軸はLi-In対極に対する電圧を示す。また、初期充電容量及び初期放電容量を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
なお、全固体電池は、以下のように製造した。
得られた電極活物質3mgとLi2S・P25からなる固体電解質(以下SE、Li2SとP25とのモル比75:25)80mgをプレス(圧力360MPa)することで直径10mm、厚さ約0.7mmの正極層、SE層の二層ペレットを得た。正極層にはSEを混合していない。使用したSEは、以下の方法で合成した。
【0034】
Li2S(出光興産社製:純度99.9%以上)及びP25(アルドリッチ社製純度99%)を75:25のモル比で1g秤量し、遊星型ボールミルに投入した。投入後、メカノケミカル処理することで、SEを得た。遊星型ボールミルは、Fritsch社製Pulverisette P-7を使用し、ポット及びボールは酸化ジルコニウム製であり、45mlのポット内に直径4mmのボールが500個入っているミルを使用した。乾式メカノケミカル処理は、510rpmの回転速度、室温、乾燥窒素グローブボックス内で10時間行った。なお、この合成法は、Akitoshi Hayashi et al., Journal of Non-Crystalline Solids 356 (2010) 2670-2673のExperimentalの記載に準じている。
【0035】
上記正極層及び電解質層の積層体に負極として、Li-In合金を積層し、ステンレススチール製集電体で挟み再度プレス(圧力120MPa)することで全固体電池を得た。
【0036】
67:33、70:30及び75:25のモル比のLiS及びVを含む3種の電極について5回までの充放電曲線を測定した結果を図4A図4Cに示す。また、1~5回目の充電容量及び放電容量を表2に示す。測定条件は、得られた二次電池(セル)を、25℃下、0.13mA/cm2の電流密度とした。
【0037】
【表2】
【0038】
図4A図4C及び上記表2から、サイクル数を経ても充放電曲線は、ほとんど変化せず、繰り返し充放電に強い電池であることが分かる。
【0039】
67:33のモル比のLiS及びVを含む電極を用いた全固体電池について、充電状態から充放電を開始した場合と、放電状態から充放電を開始した場合とで、充放電曲線が異なるか否かを確認した。確認結果を図5A(充電開始)及び図5B(放電開始)に示す。図5A及び図5Bから、どちらの状態から充放電を開始しても、充放電曲線は、ほとんど変化していないため、電極活物質の結晶構造に大きな変化が生じていないことが推測される。
【0040】
実施例2
LiS、V及びリチウム塩(LiX:LiCl、LiBr、LiI又はLiSO)を67.5:22.5:10のモル比となるように計量すること以外は実施例1と同様にして、4種の電極活物質(90(0.75LiS・0.25V)・10LiCl、90(0.75LiS・0.25V)・10LiBr、90(0.75LiS・0.25V)・10LiI及び90(0.75LiS・0.25V)・10LiSO)を得た。4種の電極材料の粉末XRDパターンを図6に示す。図6の下部には、LiS、V、LiI及びLiVSのXRDパターンを記載している。図中の番号は粉末回折データベースJCPDSカードの番号を表す。
得られた電極活物質10mgをプレス(圧力360MPa)することで直径10mm、厚さ約0.05mmの4種のペレット(正極)を得た。
上記4種の正極を用いること以外は実施例1と同様にして、全固体電池を製造し、実施例1と同様の条件で、その電池の5回までの充放電曲線を測定した。結果を図7B図7Eにそれぞれ示す。図7Aは、図4Bと同じデータを用いた図であり、参考のためにここでも記載している。また、1~5回目の充電容量及び放電容量を、各電極活物質の粉末成形体のイオン伝導率ともに表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
図7A図7B図7E及び上記表3から、サイクル数を経ても充放電曲線は、ほとんど変化せず、繰り返し充放電に強い電池であることが分かる。図7A図7B図7Eとから、電極活物質がリチウム塩を更に含むことで、充放電容量を向上できることが分かる。
【0043】
90(0.75LiS・0.25V)・10LiIを使用した全固体電池について、実施例1と同様の条件で、その電池の20回までの充放電曲線を測定した。結果を図8Aに示す。また、正極の充放電容量の経サイクル数変化を図8Bに示す。図8A及びBから、20回のサイクル数を経ても、充放電容量がほとんど変化しないことが分かる。
上記全固体電池について、充放電容量を280mAhg-1に規制した上で、実施例1と同様の条件で、10回までの充放電曲線を測定した。結果を図9に示す。図9から、充放電容量を規制しても、充放電曲線が大きく変化しないことが分かる。また、充電電位の低下と放電電位の上昇から充放電を繰り返すことで性能が向上していくことが読み取れる。
【0044】
上記全固体電池について、サイクル数5回までの電流密度を0.13mA/cm2、10回までを0.64mA/cm2、15回までを1.3、20回までを2.3、25回までを0.13とすること以外は実施例1と同様の条件で、充放電曲線を測定した。結果を図10Aに示す。また、正極の充放電容量の経サイクル数変化を図10Bに示す。図10A及び図10Bから、高い電流密度でも充放電可能であることが分かる。また、高い電流密度での充放電の前後でも電極の充放電容量の傾向がほぼ同一であるため、過酷な充放電条件下でも、構造変化の生じ難い電極活物質であることが分かる。
【0045】
正極の充放電容量の経サイクル数変化の別の測定例として、電極活物質として90(0.75LiS・0.25V)・10LiIを、SEとして54LIPS・46LiI(モル比)を用いた全固体電池を作製し、正極の充放電容量の経サイクル数変化を測定した。
SEとして用いた54LIPS・46LiIは、LIPSとLiIとを遊星型ボールミルに投入し、上記SEの製造方法のようにメカノケミカル処理することで製造した。全固体電池の製造については、電極活物質として90(0.75LiS・0.25V)・10LiIを用い、SEとして54LIPS・46LiIを用いること以外は実施例1と同様にした。
【0046】
得られた全固体電池を、サイクル数5回までの電流密度を0.13mA/cm2、10回までを0.64mA/cm2、15回までを1.30mA/cm2、20回までを2.60mA/cm2、20回以降を0.13mA/cm2とすること以外は実施例1と同様の条件で、充放電曲線を測定した。
測定した正極の充放電容量の経サイクル数変化を図10Cに示す。図10Cより、200サイクルを超えるサイクル数でも、300mAhg-1を越える充放電能力が維持されることが示され、また、充放電サイクル間の充放電容量の変動が少ないことから、本発明の電極活物質を用いた全固体電池は、安定した充放電能力を有することが示された。
【0047】
90(0.75LiS・0.25V)・10LiIを使用した全固体電池について、電流密度を0.13mA/cm2での、初回の、充電前、充電後及び放電後のインピーダンスプロットを図11A図11Cに示す。図11A図11Cから、初回の放電後に電極活物質の抵抗が低減していることが分かる。これは、電極活物質が比較的軟らかいため、充放電を経ることで、電極の製造時に形成された隙間(界面)が減少するためであると推測される。
【0048】
上記全固体電池について、充放電による電極活物質の構造の変化を検討するために、電極中のS原子の2p軌道及びV原子の2p軌道の変化をXPSにより得られるプロットで観察した。観察は、充電前、初回充電後、1.2V付近まで放電(放電途中:充電容量と同程度まで放電)、完全放電及び2回目充電後の5点とした。また、LiIの添加による構造の変化を確認するために、75LiS・25Vを使用した全固体電池中の充電前の電極中のS原子の2p軌道及びV原子の2p軌道の変化をXPSにより得られるプロットで観察した。結果を図12A及び図12Bに示す。図12A及び図12Bから、以下のことが推測される。
(1)充電前の90(0.75LiS・0.25V)・10LiIと75LiS・25Vの2p軌道のプロファイルを比較すると、LiIの添加によりSやVの電子状態はほとんど変化しない。
(2)S原子の2p軌道のプロファイルから、充電により多硫化物が生成していることが分かる。2回目充電後の方が初回充電後よりも多硫化物の量が多くなっていることも分かる。
(3)S原子の2p軌道のプロファイルには、放電途中では、多硫化物に相当するピークは見られない。また、LiSが生成していることを伺わせるピークが見られる。
(4)S原子の2p軌道のプロファイルから、完全放電すると、LiSと類似の酸化状態のS(S2-)のみが存在することになることが分かる。このことから硫黄の酸化還元が生じており、これが高容量化に寄与していることが分かる。
(5)充電前、初回充電後及び2回目充電後のV原子の2p軌道のプロファイルから、充電によって、各ピークが少しだけ高エネルギー側にシフトしていることが分かる。このシフトから、充電によって、Vが酸化されることが推察される。
【0049】
実施例3
LiSとVのモル比を0.70:0.30に変えること以外は実施例2と同様にして、全固体電池を製造し、実施例1と同様の条件で、その電池の5回までの充放電曲線を測定した。結果を図13に示す。また、1~5回目の充電容量及び放電容量を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
図13及び上記表4から、サイクル数を経ても充放電曲線は、ほとんど変化せず、繰り返し充放電に強い電池であることが分かる。
【0052】
実施例4
LiS、V及びLiSOのモル比を63:27:10に、LiS、V、LiI及びLiSOのモル比を56:24:10:10に変えること以外は実施例2と同様にして、全固体電池を製造し、実施例1と同様の条件で、その電池の5回までの充放電曲線を測定した。結果を図14A及び図14Bに示す。また、1~5回目の充電容量及び放電容量を表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
図14A及び図14B、並びに上記表5から、サイクル数を経ても充放電曲線は、ほとんど変化せず、繰り返し充放電に強い電池であることが分かる。
【0055】
実施例5
LiS、V及びSを50:17:33のモル比となるように計量すること以外は実施例1と同様にして、電極活物質(LiVS)及び電極を得た。
また、LiS、V、S及びリチウム塩(LiI又はLiSO)を45:15:30:10のモル比となるように計量すること以外は実施例2と同様にして、2種の電極活物質(90LiVS・10LiI、90LiVS・10LiSO)及び正極を得た。
更に、LiS、V、S及びリチウム塩(LiSO)を40:13.6:26.4:20のモル比となるように計量すること以外は実施例2と同様にして、電極活物質(80LiVS・20LiSO)及び正極を得た。
これら4種の電極活物質のXRDパターンを図15A及び図15Bに示す。図15A及び図15Bの下部には、LiS、V、LiI及びLiSOのXRDパターンを記載している。
図15A及び図15Bから、リチウム塩の添加により、XRDパターンは、LiVSから大きく変化しないことが分かる。また、LiSに対応するピークが若干ブロード化していることから、リチウム塩の添加により、アモルファス化していることが分かる。
4種の電極活物質を用いること以外は実施例1と同様にして、2回までの充放電曲線を測定した。結果を図16A図16Dに示す。また、1~2回目の充電容量及び放電容量を表6に示す。
【0056】
【表6】
【0057】
図16A図16D及び上記表6から、LiVSにリチウム塩を添加することで、サイクル数を経ても充放電曲線は、ほとんど変化せず、繰り返し充放電に強い電池が得られることが分かる。図16B図16C及び図16Dとから、LiIがLiSOよりも初回の充電容量を向上できることが分かる。
【0058】
実施例6
NaS(ナガノ社)及びVを、75.0:25.0のモル比となるように計量すること以外は実施例1と同様にして、電極活物質75NaS・25Vを得た。また、NaS、V及びNaI(シグマアルドリッチ社)を67.5:22.5:10のモル比となるように計量すること以外は実施例1と同様にして、電極活物質90(0.75NaS・0.25V)・10NaIを得た。これらの電極活物質の粉末XRDパターンを図17に示す。図17の下部には、比較としてNaSのXRDパターンも記載している。
【0059】
得られた電極活物質のイオン伝導度を、イオン伝導度測定用セルを製造して測定した。イオン伝導度測定用セルは、以下のようにして製造した。
製造した75NaS・25V40mgを、一軸油圧プレスを用いて圧力100MPaで1分間プレスしてペレットを得た。このペレットの両面に、40mgのNaPSガラスセラミックス固体電解質をそれぞれ貼り付け圧力370MPaで3分間プレスした。プレス後、両端のNaPSガラスセラミックス固体電解質に、30mgのNa-Sn合金を積層し、ステンレススチール製集電体で挟み再度プレス(圧力100MPa)してイオン伝導度測定用セルを製造した。使用したNaPSガラスセラミックス固体電解質は、NaS及びP25を75:25のモル比で1g秤量して遊星型ボールミルに投入し、メカノケミカル処理することで製造した。また、75NaS・25Vの代わりに90(0.75NaS・0.25V)・10NaIを使用したセルも製造した。
【0060】
製造した2種類のセルを用いてイオン伝導度を測定した。測定の結果、NaVSを使用したセルのイオン伝導度はσNa=4.2×10-6 Scm-1であり、90(0.75NaS・0.25V)・10NaIを使用したセルのイオン伝導度はσNa=5.4×10-6 Scm-1であった。
【0061】
得られた75NaS・25Vと、NaPSガラスセラミックス固体電解質とを、重量比で7:3となるように混合した。この混合物10mgをプレス(圧力360MPa)することで直径10mm、厚さ約0.05mmのペレット(正極)を得た。
この正極と、固体電解質としてNaPSガラスセラミックス固体電解質と、負極としてNa-Sn合金を用いること以外は実施例1と同様にして、全固体電池を製造した。また、75NaS・25Vの代わりに90(0.75NaS・0.25V)・10NaIを使用した全固体電池も製造した。
【0062】
製造した2種類の全固体電池の初期充放電曲線を測定した。電池測定条件は、充放電を60℃で行ったこと以外は実施例1と同様に測定した。測定の結果を図18及び図19にそれぞれ示す。図18及び図19より、どちらの全固体電池も、200mAhg-1以上の充放電容量を有していることが示された。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図16D
図17
図18
図19