(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-16
(45)【発行日】2025-05-26
(54)【発明の名称】テラヘルツモジュール
(51)【国際特許分類】
H03B 7/08 20060101AFI20250519BHJP
H01P 1/203 20060101ALI20250519BHJP
【FI】
H03B7/08
H01P1/203
(21)【出願番号】P 2022537919
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2021025773
(87)【国際公開番号】W WO2022019136
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2024-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2020123912
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「共鳴トンネルダイオードとフォトニック結晶の融合」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨士田 誠之
(72)【発明者】
【氏名】ヘッドランド ダニエル ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】永妻 忠夫
(72)【発明者】
【氏名】西田 陽亮
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-187716(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0191774(US,A1)
【文献】特開2014-197837(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0044211(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0169405(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 7/08
H01P 1/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波を放射する能動素子を含むテラヘルツチップと、
前記テラヘルツチップと結合される誘電体基板とを備え、
前記テラヘルツチップは、半導体基板を含み、前記能動素子は、前記半導体基板の上面に配置され、
前記誘電体基板の複数の側面のうちの第1の側面の一部に、前記第1の側面の上辺から下辺に至るまでの切り込み部が形成され、
前記テラヘルツチップは、前記半導体基板の上面が前記第1の側面と平行となり、かつ前記半導体基板が前記切り込み部の奥側に配置されるような向きに嵌め込まれており、
前記テラヘルツチップの厚さは、前記切り込み部の深さと同じである
、テラヘルツモジュール。
【請求項2】
テラヘルツ波を放射する能動素子を含むテラヘルツチップと、
前記テラヘルツチップと結合される誘電体基板とを備え、
前記テラヘルツチップは、半導体基板を含み、前記能動素子は、前記半導体基板の上面に配置され、
前記誘電体基板の複数の側面のうちの第1の側面の一部に、前記第1の側面の上辺から下辺に至るまでの切り込み部が形成され、
前記テラヘルツチップは、前記半導体基板の上面が前記第1の側面と平行となり、かつ前記半導体基板が前記切り込み部の奥側に配置されるような向きに嵌め込まれており、
前記テラヘルツチップの厚さは、前記切り込み部の深さよりも大きい
、テラヘルツモジュール。
【請求項3】
前記切り込み部は、前記第1の側面に平行な面を有し、
前記半導体基板の下面が、前記第1の側面に平行な前記切り込み部の面と接触する、請求項1
または2記載のテラヘルツモジュール。
【請求項4】
前記誘電体基板は、フォトニック結晶である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のテラヘルツモジュール。
【請求項5】
前記フォトニック結晶には、前記半導体基板の上面に垂直な方向に前記テラヘルツ波の導波路が形成される、請求項
4記載のテラヘルツモジュール。
【請求項6】
前記フォトニック結晶に、前記テラヘルツ波の定められた周波数成分を通過または除去するフィルタが形成される、請求項
4記載のテラヘルツモジュール。
【請求項7】
前記フォトニック結晶には、前記能動素子から放射された前記テラヘルツ波を集光する平面レンズが形成される、請求項
4記載のテラヘルツモジュール。
【請求項8】
1列に配置された複数個の前記テラヘルツチップが、前記フォトニック結晶に結合される、請求項
4記載のテラヘルツモジュール。
【請求項9】
前記能動素子は、共鳴トンネルダイオードである、請求項1~
8のいずれか1項に記載のテラヘルツモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、テラヘルツモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話など、電磁波を用いた情報通信応用が進んでいる。電磁波を特徴づける値として、周波数と波長とがある。一般に周波数が高いほど大容量の情報を伝送することが可能なため、次世代の携帯電話の規格である5Gでは、28ギガヘルツ帯または39ギガヘルツ帯の電磁波(ミリ波)の利用が検討されている。一方、5Gを超えた超高速無線通信の実現を目指したより高い周波数の電磁波であるテラヘルツ波に関する研究が進展している。テラヘルツ波を利用した応用システムの実用化に向けて、小型集積化が可能な電子デバイスによるテラヘルツ波発生器および検出器の開発が期待されている。
【0003】
たとえば、非特許文献1には、テラヘルツチップに金属モード変換機構を介して、誘電体基板であるフォトニック結晶の導波路に接続する構成が開示されている。この構成では、0.3THz帯において、テラヘルツチップと誘電体基板との間において最大90%の結合効率が得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】XIONGBIN Yu, JAE-YOUNG Kim, MASAYUKI FUJITA, TADAO NAGATSUMA, Vol, 27, No.20/30 September 2019, Optics Express 28707.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1では、テラヘルツチップの厚さをフォトニック結晶の厚さの半分程度にする必要がある。しかしながら、テラヘルツチップをこのような厚さに薄膜化加工するのは、容易ではない。
【0006】
それゆえに、本開示の目的は、テラヘルツチップを薄膜化することなく、テラヘルツチップと誘電体基板との間において高い結合効率を得ることができるテラヘルツモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のテラヘルツモジュールは、テラヘルツ波を放射する能動素子を含むテラヘルツチップと、テラヘルツチップと結合される誘電体基板とを備える。テラヘルツチップは、半導体基板を含み、能動素子は、半導体基板の上面に配置される。誘電体基板の複数の側面のうちの第1の側面の一部に、第1の側面の上辺から下辺に至るまでの切り込み部が形成される。テラヘルツチップは、半導体基板の上面が第1の側面と平行となり、かつ半導体基板が切り込み部の奥側に配置されるような向きに嵌め込まれている。
【0008】
好ましくは、切り込み部は、第1の側面に平行な面を有する。テラヘルツチップは、半導体基板の下面が、第1の側面に平行な切り込み部の面と接触する。
【0009】
好ましくは、テラヘルツチップの厚さは、切り込み部の深さと同じである。
好ましくは、テラヘルツチップの厚さは、切り込み部の深さよりも大きい。
【0010】
好ましくは、誘電体基板は、フォトニック結晶である。
好ましくは、フォトニック結晶には、半導体基板の上面に垂直な方向に前記テラヘルツ波の導波路が形成される。
【0011】
好ましくは、フォトニック結晶に、前テラヘルツ波の定められた周波数成分を通過または除去するフィルタが形成される。
【0012】
好ましくは、フォトニック結晶には、能動素子から放射されたテラヘルツ波を集光する平面レンズが形成される。
【0013】
好ましくは、1列に配置された複数個のテラヘルツチップが、フォトニック結晶に結合される。
【0014】
好ましくは、能動素子は、共鳴トンネルダイオードである。
【発明の効果】
【0015】
本開示のテラヘルツモジュールによれば、テラヘルツチップを薄膜化することなく、テラヘルツチップと誘電体基板との間において高い結合効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】非特許文献1に記載されたテラヘルツチップ192の斜視図である。
【
図2】非特許文献1に記載されたテラヘルツチップ192の上面図である。
【
図3】非特許文献1に記載されたテラヘルツモジュールを表わす図である。
【
図4】テラヘルツチップ10の外観を表わす図である。
【
図5】テラヘルツチップ10を上側から下側方向(-Z方向)に見たときの図である。
【
図6】
図5におけるRTD20の付近を拡大した図である。
【
図9】実施の形態1の誘電体基板50を表わす図である。
【
図10】実施の形態1におけるテラヘルツモジュールを表わす図である。
【
図11】実施の形態1のテラヘルツモジュールの実装方法の例を表わす図である。
【
図12】実施の形態2の誘電体基板50を表わす図である。
【
図13】実施の形態2におけるテラヘルツモジュールを表わす図である。
【
図14】実施の形態3におけるテラヘルツモジュールを表わす図である。
【
図18】テラヘルツモジュールの第1の応用例を表わす図である。
【
図19】テラヘルツモジュールの第2の応用例を表わす図である。
【
図20】テラヘルツモジュールの第3の応用例を表わす図である。
【
図21】テラヘルツモジュールの第4の応用例を表わす図である。
【
図22】テラヘルツモジュールの第5の応用例を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
[従来の構造]
非特許文献1に記載された構造について説明する。
【0018】
図1は、非特許文献1に記載されたテラヘルツチップ192の斜視図である。
図2は、非特許文献1に記載されたテラヘルツチップ192の上面図である。
図3は、非特許文献1に記載されたテラヘルツモジュールを表わす図である。
【0019】
RTD(Resonant Tunneling Diode)は、テラヘルツ帯の周波数の高周波電磁波(テラヘルツ波)を発振する。RTDは、超高感度な検出器として動作させることもできる。MIM(Metal Insulator Metal)は、テラヘルツ波を反射させる反射鏡として動作する。テラヘルツモジュールは、テラヘルツチップ192とフォトニック結晶とを結合させて構成される。
【0020】
導電路139a、139bは、方向xに向かうにつれて方向yにおける寸法が大きくなるテーパ状を呈する。これによって、テラヘルツチップとフォトニック結晶の導波路のスケールの相違による問題を解消して、高い結合率を得ることができる。
【0021】
対称性および放射損失を低減するために、テラヘルツチップ192の表面にInP基板191が配置される。
【0022】
高い結合率を得るためには、テラヘルツチップ192の厚さdをフォトニック結晶の厚さ(200μm)の半分程度(100μm)にする必要がある。なぜなら、フォトニック結晶の厚さ方向の中央部において、結合効率が最も大きくなるためである。テラヘルツ波の周波数を増加させると、テラヘルツ波の波長が短くなるので、テラヘルツチップ192の厚さdを小さくしなければならず、加工するのが容易ではない。
【0023】
[実施の形態1]
図4~
図8を用いて、テラヘルツモジュール構成を説明する。
【0024】
図4は、テラヘルツチップ10の外観を表わす図である。
テラヘルツチップ10は、幅w、長さL、厚さdを有する。テラヘルツチップ10の幅wの方向をx方向、テラヘルツチップ10の長さLの方向をy方向、テラヘルツチップ10の厚さdの方向をz方向とする。
【0025】
テラヘルツチップ10において、半導体基板であるInP基板1の上面(表面)にRTD20およびスロット30が配置される。
図4に示すように、テラヘルツチップの厚さ方向(-z方向)にテラヘルツ波が伝搬される。
【0026】
テラヘルツチップ10の底面をInP基板1の下面(裏面)とする。
図5は、テラヘルツチップ10を上側から下側方向(-z方向)に見たときの図である。
図6は、
図5におけるRTD20の付近を拡大した図である。
【0027】
厚さ方向(z方向)において上部電極4と下部電極2との間にあり、y方向において、上部電極4と下部電極2とを横断する領域にシャント抵抗SR1、SR2が形成されている。シャント抵抗SR1、SR2は、寄生発振を抑制する機能を有する。
【0028】
厚さ方向(z方向)において、上部電極4の下側に、スロット30、RTD20が形成されている。
【0029】
厚さ方向(z方向)において上部電極4と下部電極2との間にあり、y方向において、上部電極4と下部電極2とが重なる部分にMIMキャパシタ6a、6bが形成される。
【0030】
図7は、
図6のI-I線に沿う断面図である。InP基板1の面(上面および下面)に垂直な方向がz方向である。
【0031】
RTD20は、半導体基板であるInP基板1の上面に配置され、n型不純物を高濃度にドープされたGaInAs層91aと、GaInAs層91aの上面に配置され、n型不純物をドープされたGaInAs層92aと、GaInAs層92aの上面に配置されたアンドープのGaInAs層93aと、GaInAs層93aの上面に配置されたAlAs層94aと、AlAs層94aの上面に配置されたGaInAs層95と、GaInAs層95の上面に配置されたAlAs層94bと、AlAs層94bの上面に配置されたアンドープのGaInAs層93bと、GaInAs層93bの上面に配置され、n型不純物をドープされたGaInAs層92bと、GaInAs層92bの上面に配置され、n型不純物を高濃度にドープされたGaInAs層91bとからなる。
【0032】
RTD20の横側には、SiO2膜98a、98bが堆積される。
GaInAs層91bの上面に上部電極4が配置される。
【0033】
GaInAs層91aの上面およびInP基板1の上面に下部電極2が配置される。
ここで、各層の厚さは、例えば、以下の通りであるが、これに限定されるものではない。
【0034】
n+型のGaInAs層91a、91bの厚さは、それぞれ例えば、約400nm、15nm程度である。n型のGaInAs層92aおよび92bの厚さは、略等しく、例えば、約25nm程度である。アンドープGaInAs層93a、93bの厚さは、約2nm、20nm程度である。AlAs層94aおよび94bの厚さは、等しく、例えば、約1.1nm程度である。GaInAs層95の厚さは、例えば、約4.5nm程度である。InP基板1の厚さは、数100μm程度である。
【0035】
上部電極4および下部電極2は、いずれも例えば、Au/Pd/TiまたはAu/Tiのメタル積層構造からなる。Ti層は、半絶縁性のInP基板1との接触状態を良好にするためのバッファ層である。上部電極4および下部電極2の各部の厚さは、例えば、約数100nm程度であり、全体として、平坦化された積層構造が得られている。上部電極4および下部電極2は、いずれも真空蒸着法、またはスパッタリング法などによって形成することができる。
【0036】
上述したように、RTD20は、InP基板1の上面に配置される。RTD20は、下部電極2と上部電極4との間において共振器を形成する。RTD20から放射された電磁波は、InP基板1の上面に垂直方向の面発光放射パターンを有する。
【0037】
図8は、
図6のII-II線に沿う断面図である。
MIMキャパシタ6a、6bは、厚さ方向(z方向)において、上部電極4と下部電極2との間にあり、y方向において、上部電極4と下部電極2とが重なる部分に配置されるSiO
2膜98によって形成される。
【0038】
図9は、実施の形態1の誘電体基板50を表わす図である。
誘電体基板50は、テラヘルツ波の偏光機能、周波数フィルタ機能、および平面レンズなどの機能を実現することができる。誘電体基板50は、たとえば、フォトニック結晶などの誘電体によって構成される。誘電体基板50に展開される回路デバイスは、金属配線を利用しないため、周波数の高いテラヘルツ帯において、低損失なシステムを実現することができる。
【0039】
誘電体基板50の厚さはSdである。誘電体基板50の複数の側面のうちの第1の側面SPに切り込み部CSが形成される。切り込み部CSは、第1の側面SPの上辺USから下辺LSに至るまでに第1の側面SPに対して垂直方向に形成されている。
【0040】
切り込み部CSは、直方体の形状である。切り込み部CSの長さがLであり、幅がwであり、深さがd2である。w=Sd、d2<dである。切り込み部CSは、面71Pと、面72Pと、面73Pとを有する。面71Pは、第1の側面SPと平行である。面72Pおよび面73Pは、第1の側面SPに対して垂直である。
【0041】
図10は、実施の形態1におけるテラヘルツモジュールを表わす図である。
テラヘルツモジュールは、テラヘルツチップ10と、テラヘルツチップ10と結合される誘電体基板50とを備える。
【0042】
誘電体基板50の切り込み部CSに、テラヘルツチップ10が嵌め込まれている。テラヘルツチップ10は、InP基板1の上面が切り込み部CSの第1の側面SPと平行となり、InP基板1が切り込み部CSの奥側に配置されるような向きに嵌め込まれている。テラヘルツチップ10の底面(InP基板1の下面(裏面))が面71Pと接触する。テラヘルツチップ10の2つの側面が、切り込み部CSの2つの面72P、73Pとそれぞれ接触する。
【0043】
テラヘルツチップ10の厚さdは、切り込み部CSの深さd2よりも大きい。したがって、テラヘルツチップ10の最も上側の面は、誘電体基板50の外側に配置される。
【0044】
本実施の形態では、テラヘルツチップ10の厚さは、任意に設定することができる。テラヘルツチップ10の厚さ方向が、誘電体基板50の表面方向と同じ方向なるので、テラヘルツチップ10を薄膜化する必要がなくなる。
【0045】
シミュレーション結果によれば、本実施の形態のテラヘルツモジュールは、従来例のテラヘルツモジュールと同様に、90%の結合効率を得ることができることが示されている。
【0046】
図11は、実施の形態1のテラヘルツモジュールの実装方法の例を表わす図である。
誘電体基板50の溝84の部分が第1の側面SPに相当する。図示しないが、第1の側面SPに切り込み部CSが形成されて、テラヘルツチップ10が嵌め込まれている。
【0047】
マイクロ波回路基板80は、金属層80aと樹脂層80bとを備える。同軸コネクタ70からマイクロ波回路基板80の金属層80aに信号および電圧が伝送される。これらの信号および電圧は、さらに、ボンディングワイヤ90を通じてテラヘルツチップ10に送られる。
【0048】
以上のように、本実施の形態によれば、誘電体基板の側面に形成された切り込み部にテラヘルツチップを嵌め込んで、テラヘルツチップと誘電体基板とを結合することによって、テラヘルツチップを薄膜化加工することなく、テラヘルツチップと誘電体基板との間で高い結合効率を得ることができる。
【0049】
[実施の形態2]
図12は、実施の形態2の誘電体基板50を表わす図である。
【0050】
誘電体基板50の厚さはSdである。誘電体基板50の第1の側面SPに切り込み部CSが形成される。切り込み部CSは、第1の側面SPの上辺USから下辺LSに至るまでに第1の側面SPに対して垂直方向に形成されている。形成される。
【0051】
切り込み部CSは、直方体の形状である。切り込み部CSの長さがLであり、幅がwであり、深さがdである。w=Sdである。切り込み部CSは、面74Pと、面75Pと、面76Pとを有する。面74Pは、第1の側面SPと平行である。面75Pおよび面76Pは、第1の側面SPに対して垂直である。
【0052】
図13は、実施の形態2におけるテラヘルツモジュールを表わす図である。
テラヘルツモジュールは、テラヘルツチップ10と、テラヘルツチップ10と結合される誘電体基板50とを備える。
【0053】
誘電体基板50の切り込み部CSに、テラヘルツチップ10が嵌め込まれている。テラヘルツチップ10は、InP基板1の上面が切り込み部CSの第1の側面SPと平行となり、InP基板1が切り込み部CSの奥側に配置されるような向きに嵌め込まれている。テラヘルツチップ10の底面(InP基板1の下面(裏面))が面74Pと接触する。テラヘルツチップ10の2つの側面が、切り込み部CSの2つの面75P、76Pとそれぞれ接触する。
【0054】
テラヘルツチップ10の厚さdは、切り込み部CSの深さdと等しい。したがって、テラヘルツチップ10の最も上側の面は、誘電体基板50の第1の側面SPと接続する。
【0055】
本実施の形態でも、実施の形態1と同様に、テラヘルツチップ10の厚さは、任意に設定することができる。テラヘルツチップ10の厚さ方向が、誘電体基板50の表面方向と同じ方向なるので、テラヘルツチップ10を薄膜化する必要がなくなる。
【0056】
[実施の形態3]
図14は、実施の形態3におけるテラヘルツモジュールを表わす図である。
【0057】
実施の形態2と同様に、誘電体基板50の切り込み部CSにテラヘルツチップ10が嵌め込まれている。テラヘルツチップ10には、ボータイアンテナが形成される。
【0058】
テラヘルツチップ10は、アンテナ電極4Bおよび2Bと、第1伝送線路(スロット)40Sおよび20Sと、RTD20と、第2伝送線路(スロット)40Fおよび20Fと、パッド電極40Pおよび20Pと、低域通過フィルタ9とを備える。
【0059】
アンテナ電極4Bおよび2Bは、自由空間に対してテラヘルツ波を送受信することができる。第1伝送線路40Sおよび20Sは、アンテナ電極4Bおよび2Bに接続され、テラヘルツ波を伝送することができる。
【0060】
RTD20の主電極がそれぞれ第1伝送線路40Sおよび20Sに接続される。
第2伝送線路40Fおよび20Fは、RTD20に接続され、テラヘルツ波を伝送することができる。
【0061】
パッド電極40Pおよび20Pは、第2伝送線路40Fおよび20Fに接続される。
低域通過フィルタ9は、パッド電極40Pおよび20Pに接続される。
【0062】
第1伝送線路40Sおよび20Sのインピーダンス変換により、アンテナ電極4Bおよび2Bと、RTD20との間をインピーダンス整合することができる。パッド電極20Pおよび40Pは、バイアス電源およびデータ信号供給用電極を構成可能である。
【0063】
低域通過フィルタ9は、MIMリフレクタを備えていても良い。パッド電極40Pとパッド電極20Pとの間に接続された抵抗素子を設けても良い。抵抗素子は、金属配線を備えていても良い。金属配線は、ビスマス、ニッケル、チタン、若しくは白金を備えていても良い。
【0064】
ボータイアンテナのアンテナ電極4Bと2Bの間隔は、伝送線路(スロット線路)間隔と実質的に等しい。
【0065】
RTD20の断面は、実施の形態1の
図7において説明したものと同様である。
実施の形態1のスロットアンテナに代えて、テラヘルツチップがボータイアンテナを備える場合においても、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0066】
[実施の形態4]
本実施の形態において、上記の実施形態において説明したテラヘルツモジュールの応用例を説明する。
【0067】
誘電体基板50として、フォトニック結晶B1を用いることができる。
図15は、フォトニック結晶B1の斜視図である。
図16は、フォトニック結晶B1の平面図である。
図17は、フォトニック結晶B1の断面図である。
【0068】
フォトニック結晶B1は、たとえば、二次元フォトニック結晶スラブと称される。フォトニック結晶B1は、たとえば、半導体材料により構成される。フォトニック結晶B1を構成する半導体材料としては、たとえば、Si、GaAs、InP、GaN、GaInAsP/InP、InGaAs/GaAs、GaAlAs/GaAs、GaInNAs/GaAs、GaAlInAs/InP、AlGaInP/GaAs、およびGaInN/GaNなどである。
図15および
図16において、フォトニック結晶B1の平面視の形状は矩形状であるが、台形状、または他の形状であってもよい。
【0069】
フォトニック結晶B1は、表面41および裏面42を有する。表面41および裏面42いずれも平坦である。フォトニック結晶B1の第1の側面SPの切り込み部(図示は省略)にテラヘルツチップ10が嵌め込まれる。
【0070】
フォトニック結晶B1は、複数の格子点31を含む。複数の格子点31は、フォトニック結晶B1のフォトニックバンド構造のフォトニックバンドギャップ帯におけるテラヘルツ波を回折させる。複数の格子点31は、フォトニック結晶B1のXY平面において周期的に配置されている。複数の格子点31は各々、たとえば、孔により構成される。
図17に示すように、孔は、フォトニック結晶B1を貫通しており、表面41から裏面42に至っている。
図15および
図16では、孔の形状は円形であるが、多角形または楕円形であってもよい。また、
図15および
図16では、正方格子の周期配列が示されているが、長方格子、三角格子、または蜂の巣格子などの2次元的な周期配列であってもよい。
【0071】
格子点31の格子定数を調整することによって、テラヘルツ波の屈折率を変化させることができる。これによって、テラヘルツ波の伝搬経路を制御することができる。たとえば、伝送経路を直線、曲げ、分岐(分波)、交差、方向性結合(合波)することができる。また、フォトニック結晶B1は、屈折率閉じ込め構造を利用したコンパクトな伝送路、フィルタ、レンズなどの非線形光学素子、アンテナなどを平面集積化することができる。
【0072】
以下では、誘電体基板50として、フォトニック結晶B1を用いた5つの応用例を説明する。
【0073】
図18は、テラヘルツモジュールの第1の応用例を表わす図である。
誘電体基板50は、格子点31の格子定数を調整して屈折率分布を形成することによって、テラヘルツ波の誘電体導波路110を形成することができる。誘電体導波路110は、InP基板1の上面及び下面に垂直方向に形成される。InP基板1の上面および下面は、誘電体基板50の第1の側面SP、切り込み部CSの面71P、および切り込み部CSの面74Pと平行である。
【0074】
図19は、テラヘルツモジュールの第2の応用例を表わす図である。
誘電体基板50は、格子点の格子定数を調整して屈折率分布を形成することによって、平面レンズ112を形成することができる。
図19に示すように、テラヘルツチップ10から放射されたテラヘルツ波が平面レンズ112によって集光される。
【0075】
なお、誘電体基板50は、格子点の格子定数を調整することによって、平面レンズ112ではなく、テラヘルツ波を反射する反射鏡、またはテラヘルツ波の定められた周波数成分を通過または除去するフィルタなどを形成することができる。
【0076】
図20は、テラヘルツモジュールの第3の応用例を表わす図である。
複数のテラヘルツチップ10を1列に配置して、フォトニック結晶に結合することによって、テラヘルツチップアレイが形成される。複数のテラヘルツチップ10は、駆動電圧の相違によって、互いに別個の周波数のテラヘルツ波を放射する。複数のテラヘルツチップ10から放射されたテラヘルツ波が平面レンズ112によって集光され、出力用導波路119を通じて出力される。
【0077】
図21は、テラヘルツモジュールの第4の応用例を表わす図である。
フォトニック結晶に形成されたフィルタによって、周波数多重化を実現することができる。周波数に応じて、合波または分波が可能となる。
【0078】
複数のテラヘルツチップ10は、互いに別個の周波数のテラヘルツ波を放射する。
複数のテラヘルツチップ10から放射されたテラヘルツ波が分波器181によって分波され、複数の導波路183へ送られる。複数の導波路183から出力された複数の周波数のテラヘルツ波は、合波器182によって多重化される。多重化されたテラヘルツ波はアンテナへ出力される。
【0079】
図22は、テラヘルツモジュールの第5の応用例を表わす図である。
フォトニック結晶に、共振器117、カップラ133、ミキサ132、吸収体134が形成される。
【0080】
局部発振器131は、複数のテラヘルツチップ10が1列に配置されたアレイと、合成レンズ115と、高いQ値を有する共振器117とを備える。
【0081】
局部発振器131から放射された局部発振信号LOの一部が、吸収体134へ送られ、残りが、カップラ133へ送られる。吸収体134によって、局部発振信号LOが反射されるのを防止することができる。
【0082】
カップラ133は、局部発振信号LOをミキサ132へ送り、ミキサ132から出力された変調信号RFを通さない。
【0083】
ミキサ132は、中間周波数信号IFと局部発振信号LOとを混合することによって、変調信号RFを生成して、アンテナへ放射する。
【0084】
[シミュレーション]
次に、シミュレーションの結果を説明する。
【0085】
図23は、シミュレーション結果を表わす図である。
図23において、
図11に示すマイクロ波回路基板80を設けた場合の透過率と、マイクロ波回路基板80を設けなかった場合の透過率が表されている。
図23に示すように、両者の差は、約1dB程度である。マイクロ波回路基板80を設けることによる透過率への影響は十分に小さいことが示される。
【0086】
[変形例]
本開示は、上記の実施形態に限定されるものではない。たとえば、以下のような変形例も含む。
【0087】
(1)上記の実施形態では、能動素子の例としてRTDを用いたが、これ以外のダイオードまたはトランジスタでも構成可能である。例えば、能動素子として、タンネット(TUNNETT:Tunnel Transit Time)ダイオード、インパット(IMPATT:Impact Ionization Avalanche Transit Time)ダイオード、GaAs系電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)、GaN系FET、高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT:Heterojunction Bipolar Transistor)若しくはCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)FETなどを用いることもできる。
【0088】
(2)テラヘルツチップは、第1トンネルバリア層/量子井戸(QW:Quantum Well)層/第2トンネルバリア層が、AlAs/GaInAs/AlAsの構成を有する例が示されているが、このような材料系に限定されるものではない。例えば、第1トンネルバリア層/量子井戸層/第2トンネルバリア層が、AlGaAs/GaAs/AlGaAsの構成を有する例であっても良い。また、第1トンネルバリア層/量子井戸層/第2トンネルバリア層が、AlGaN/GaN/AlGaNの構成を有する例であっても良い。また、第1トンネルバリア層/量子井戸層/第2トンネルバリア層が、SiGe/Si/SiGeの構成を有する例であっても良い。
【0089】
(3)上記の実施形態では、テラヘルツチップは、スロットアンテナ、またはボータイアンテナを備えるものとしたが、これに限定するものではない。テラヘルツチップが備えるアンテナは、電波(テラヘルツ波)が基板の垂直方向に放射するようなものであれば、その形状は問わない。たとえば、テラヘルツチップは、パッチアンテナ、ダイポールアンテナ、またはリングアンテナ等の平面アンテナを備えるものとしてもよい。
【0090】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
1,191 InP基板、2 下部電極、4 上部電極、4B アンテナ電極、6a,6b MIMキャパシタ、9 低域通過フィルタ、10,192 テラヘルツチップ、20 RTD、30 スロット、20P,40P パッド電極、31 格子点、40F 第2伝送線路、40S 第1伝送線路、41 表面、42 裏面、50 誘電体基板、70 同軸コネクタ、71P,72P,73P,74P,75P,76P 面、80 マイクロ波回路基板、80a マイクロ波回路基板の金属層、80b マイクロ波回路基板の樹脂層、84 溝、90 ボンディングワイヤ、91a,91b,92a,92b,93a,93b,94a,94b,95 層、98,98a,98b SiO2膜、110 誘電体導波路、112 平面レンズ、115 合成レンズ、117 共振器、119 出力用導波路、131 局部発振器、132 ミキサ、133 カップラ、134 吸収体、139a,139b 導電路、181 分波器、182 合波器、183 導波路、B1 フォトニック結晶、CS 切り込み部、LS 下辺、SP 側面、SR1,SR2 シャント抵抗、US 上辺。