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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-16
(45)【発行日】2025-05-26
(54)【発明の名称】基板処理装置および基板処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250519BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/304 643A
H01L21/304 648L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021080561
(22)【出願日】2021-05-11
(65)【公開番号】P2022174633
(43)【公開日】2022-11-24
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【弁理士】
【氏名又は名称】森 秀行
(72)【発明者】
【氏名】中庄谷 孝仁
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/064840(WO,A2)
【文献】特開2016-048775(JP,A)
【文献】特開2016-219773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/306
B08B 3/00
B05C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板処理装置であって、
円盤状のベース部材と、前記ベース部材の周縁部に設けられ、基板が前記ベース部材から上方に離間するように前記基板を保持する複数の保持部材と、を具備し、前記基板を水平姿勢で保持する基板保持部と、
前記基板保持部を鉛直軸線周りに回転駆動する回転駆動部と、
前記基板保持部に保持された前記基板に処理液を供給する処理液ノズルと、
前記基板保持部の周囲に設けられ、前記基板保持部により保持されて回転する基板から飛散する処理液を受け止める液受けカップと、
一端が液受けカップの排気口に接続されるとともに他端が負圧発生源に接続された、前記液受けカップ内の雰囲気を吸引するカップ排気路と、
前記基板保持部に保持された基板の下面と前記ベース部材の上面との間に形成された基板下方空間内にパージガスを吐出するパージガスノズルと、
前記パージガスノズルから吐出されるパージガスの流量を制御するパージガス流量制御機器と、
少なくとも前記パージガス流量制御機器の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記基板を保持した基板保持部の回転に伴い前記基板下方空間内に生じる負圧を相殺するような流量で前記パージガスノズルから前記基板下方空間内にパージガスが吐出されるように前記パージガス流量制御機器の動作を制御し、
前記制御部は、前記パージガスの流量以外の処理レシピに予め定義された少なくとも1つの処理パラメータと、前記負圧の相殺を実現するために必要なパージガスの流量との関係を示すテーブルまたは関数を記憶し、
前記制御部は、前記テーブルまたは前記関数に基づいて前記パージガスの流量を決定し、決定されたパージガスの流量で前記パージガスノズルからパージガスが吐出されるように前記パージガス流量制御機器を制御し、
前記少なくとも1つの処理パラメータには、
前記基板保持部の回転速度と、
前記カップ排気路を介した排気の流量、前記カップ排気路内の圧力、および前記排気の流量を決定する弁の開度、のうちの少なくとも1つと、
が含まれている、基板処理装置。
【請求項2】
基板処理装置であって、
円盤状のベース部材と、前記ベース部材の周縁部に設けられ、基板が前記ベース部材から上方に離間するように前記基板を保持する複数の保持部材と、を具備し、前記基板を水平姿勢で保持する基板保持部と、
前記基板保持部を鉛直軸線周りに回転駆動する回転駆動部と、
前記基板保持部に保持された前記基板に処理液を供給する処理液ノズルと、
前記基板保持部の周囲に設けられ、前記基板保持部により保持されて回転する基板から飛散する処理液を受け止める液受けカップであって、前記液受けカップの内部に切り替え可能な少なくとも2系統の流路が形成されるように構成されている、前記液受けカップと、
一端が液受けカップの排気口に接続されるとともに他端が負圧発生源に接続された、前記液受けカップ内の雰囲気を吸引するカップ排気路と、
前記基板保持部に保持された基板の下面と前記ベース部材の上面との間に形成された基板下方空間内にパージガスを吐出するパージガスノズルと、
前記パージガスノズルから吐出されるパージガスの流量を制御するパージガス流量制御機器と、
少なくとも前記パージガス流量制御機器の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記基板を保持した基板保持部の回転に伴い前記基板下方空間内に生じる負圧を相殺するような流量で前記パージガスノズルから前記基板下方空間内にパージガスが吐出されるように前記パージガス流量制御機器の動作を制御し、
前記制御部は、前記パージガスの流量以外の処理レシピに予め定義された少なくとも1つの処理パラメータと、前記負圧の相殺を実現するために必要なパージガスの流量との関係を示すテーブルまたは関数を記憶し、
前記制御部は、前記テーブルまたは前記関数に基づいて前記パージガスの流量を決定し、決定されたパージガスの流量で前記パージガスノズルからパージガスが吐出されるように前記パージガス流量制御機器を制御し、
前記少なくとも1つの処理パラメータには、
前記基板保持部の回転速度と、
前記液受けカップの前記少なくとも2系統の流路のうちの使用されている流路を決定するパラメータと、
が含まれている、基板処理装置。
【請求項3】
基板処理装置であって、
円盤状のベース部材と、前記ベース部材の周縁部に設けられ、基板が前記ベース部材から上方に離間するように前記基板を保持する複数の保持部材と、を具備し、前記基板を水平姿勢で保持する基板保持部と、
前記基板保持部を鉛直軸線周りに回転駆動する回転駆動部と、
前記基板保持部に保持された前記基板に処理液を供給する処理液ノズルと、
前記基板保持部の周囲に設けられ、前記基板保持部により保持されて回転する基板から飛散する処理液を受け止める液受けカップと、
一端が液受けカップの排気口に接続されるとともに他端が負圧発生源に接続された、前記液受けカップ内の雰囲気を吸引するカップ排気路と、
前記基板保持部に保持された基板の下面と前記ベース部材の上面との間に形成された基板下方空間内にパージガスを吐出するパージガスノズルと、
前記パージガスノズルから吐出されるパージガスの流量を制御するパージガス流量制御機器と、
少なくとも前記パージガス流量制御機器の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記基板を保持した基板保持部の回転に伴い前記基板下方空間内に生じる負圧を相殺するような流量で前記パージガスノズルから前記基板下方空間内にパージガスが吐出されるように前記パージガス流量制御機器の動作を制御し、
前記基板処理装置は、前記基板下方空間内の圧力を検出する圧力センサをさらに備え、前記制御部は、少なくとも前記圧力センサによる検出圧力に基づいて、前記基板下方空間内に生じる前記負圧を相殺しうる前記パージガスの流量を決定し、決定されたパージガスの流量で前記パージガスノズルからパージガスが吐出されるように前記パージガス流量制御機器を制御する、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理装置および基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造において、水平姿勢に保持された基板を鉛直軸回りに回転させつつ、基板の上面および/または下面に洗浄処理を施す基板処理装置が用いられる。特許文献1には、そのような基板処理装置の一例が記載されている。この基板処理装置は、円盤状のスピンベースと、スピンベースの周縁部付近に設けられた3つ以上の基板保持部材が設けられている。スピンベースの中央部には、洗浄液供給部と気体噴出口が設けられている。基板を回転させながら洗浄液供給部により基板の下面中央部に洗浄液を供給することにより、基板の下面を洗浄する洗浄処理が行われる。その後に、洗浄液の供給を停止して基板の回転を継続することにより基板を乾燥させる乾燥処理が行われる。
【0003】
乾燥処理時には、乾燥の促進のため気体噴出口から基板の下方の空間にガス(不活性ガスまたはドライエア)が供給される。洗浄処理時に洗浄液が気体噴出口に入り込むと、入り込んだ洗浄液がガスの吐出開始時にミスト状に吹き出し、基板を汚染する。これを防止するために、洗浄処理時にも、乾燥処理時よりも小さい流量でガスを気体噴出口から吹き出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-135178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、基板の下面のパーティクルを削減できる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、基板処理装置であって、円盤状のベース部材と、前記ベース部材の周縁部に設けられ、基板が前記ベース部材から上方に離間するように前記基板を保持する複数の保持部材と、を具備し、前記基板を水平姿勢で保持する基板保持部と、前記基板保持部を鉛直軸線周りに回転駆動する回転駆動部と、前記基板保持部に保持された前記基板に処理液を供給する処理液ノズルと、前記基板保持部の周囲に設けられ、前記基板保持部により保持されて回転する基板から飛散する処理液を受け止める液受けカップと、一端が液受けカップの排気口に接続されるとともに他端が負圧発生源に接続された、前記液受けカップ内の雰囲気を吸引するカップ排気路と、前記基板保持部に保持された基板の下面と前記ベース部材の上面との間に形成された基板下方空間内にパージガスを吐出するパージガスノズルと、前記パージガスノズルから吐出されるパージガスの流量を制御するパージガス流量制御機器と、少なくとも前記パージガス流量制御機器の動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記基板を保持した基板保持部の回転に伴い前記基板下方空間内に生じる負圧を相殺するような流量で前記パージガスノズルから前記基板下方空間内にパージガスが吐出されるように前記パージガス流量制御機器の動作を制御する、基板処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、基板の下面のパーティクルを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る基板処理装置の縦断側面図である。
図2】基板処理装置に含まれる処理ユニットの縦方向概略断面図である。
図3】ウエハ回転速度に対応するカップ排気路内の圧力P3の設定を説明するグラフである。
図4】パージガス吐出流量とパーティクル増分の関係を調べた実験結果を示すグラフである。
図5】パージガス吐出流量とカップ排気路内の圧力P3との関係を示すグラフである。
図6】ウエハ下方空間に圧力センサを設けた実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
基板処理装置の一実施形態を、添付図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る基板処理システムの概略構成を示す図である。以下では、位置関係を明確にするために、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を規定し、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする。
【0011】
図1に示すように、基板処理システム1は、搬入出ステーション2と、処理ステーション3とを備える。搬入出ステーション2と処理ステーション3とは隣接して設けられる。
【0012】
搬入出ステーション2は、キャリア載置部11と、搬送部12とを備える。キャリア載置部11には、複数枚の基板、本実施形態では半導体ウエハ(以下ウエハW)を水平状態で収容する複数のキャリアCが載置される。
【0013】
搬送部12は、キャリア載置部11に隣接して設けられ、内部に基板搬送装置13と、受渡部14とを備える。基板搬送装置13は、ウエハWを保持するウエハ保持機構を備える。また、基板搬送装置13は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、ウエハ保持機構を用いてキャリアCと受渡部14との間でウエハWの搬送を行う。
【0014】
処理ステーション3は、搬送部12に隣接して設けられる。処理ステーション3は、搬送部15と、複数の処理ユニット16とを備える。複数の処理ユニット16は、搬送部15の両側に並べて設けられる。
【0015】
搬送部15は、内部に基板搬送装置17を備える。基板搬送装置17は、ウエハWを保持するウエハ保持機構を備える。また、基板搬送装置17は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、ウエハ保持機構を用いて受渡部14と処理ユニット16との間でウエハWの搬送を行う。
【0016】
処理ユニット16は、基板搬送装置17によって搬送されるウエハWに対して所定の基板処理を行う。
【0017】
また、基板処理システム1は、制御装置4を備える。制御装置4は、たとえばコンピュータであり、制御部18と記憶部19とを備える。記憶部19には、基板処理システム1において実行される各種の処理を制御するプログラムが格納される。制御部18は、記憶部19に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって基板処理システム1の動作を制御する。
【0018】
なお、かかるプログラムは、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、その記憶媒体から制御装置4の記憶部19にインストールされたものであってもよい。コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体としては、たとえばハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルディスク(MO)、メモリカードなどがある。
【0019】
上記のように構成された基板処理システム1では、まず、搬入出ステーション2の基板搬送装置13が、キャリア載置部11に載置されたキャリアCからウエハWを取り出し、取り出したウエハWを受渡部14に載置する。受渡部14に載置されたウエハWは、処理ステーション3の基板搬送装置17によって受渡部14から取り出されて、処理ユニット16へ搬入される。
【0020】
処理ユニット16へ搬入されたウエハWは、処理ユニット16によって処理された後、基板搬送装置17によって処理ユニット16から搬出されて、受渡部14に載置される。そして、受渡部14に載置された処理済のウエハWは、基板搬送装置13によってキャリア載置部11のキャリアCへ戻される。
【0021】
次に処理ユニット16の構成について図2を参照して説明する。
【0022】
図2に示すように、処理ユニット16は、チャンバ20と、基板保持回転機構30と、処理流体供給部40と、液受けカップ50と、回転カップ60とを備える。
【0023】
チャンバ20は、基板保持回転機構30と処理流体供給部40と液受けカップ50とを収容する。チャンバ20の天井部には、FFU(Fan Filter Unit)21が設けられる。FFU21は、チャンバ20内にダウンフローを形成する。
【0024】
基板保持回転機構30は、基板保持部31と、回転駆動部33とを有している。基板保持部31は、ウエハWよりもやや大きい直径を有する円盤状のベース板311と、ベース板311の周縁部に設けられた複数のチャック部(保持部材)312と、ベース板311の下面中央部から下方に延びる中空の回転軸313とを有している。チャック部312によりウエハWを把持させることにより、ウエハWが水平姿勢で基板保持部31に保持される。回転駆動部33は、例えば電気回転モータからなり、回転軸313を鉛直軸線周りに回転させることができる。
【0025】
基板保持部31は、さらに基板昇降部314を有している。基板昇降部314は、基板保持部31のベース板311の上面に形成された円形の窪みに嵌合する円盤体315と、円盤体315の上面から突出する複数の支持ピン316と、円盤体315の下面中央部から下方に延びる中空の軸317とを有している。基板昇降部314の軸317は、基板保持部31の回転軸313の内部に収容されている。
【0026】
基板昇降部314を昇降させるために、昇降機構318が設けられている。昇降機構318は、例えばエアシリンダまたはボールネジ等のリニアアクチュエータ319と、リニアアクチュエータ319により上下方向に移動して軸317の下端を押し上げるリフト部材320とを有する。昇降機構318により、円盤体315を下降位置(図2に示す位置)と、上昇位置(ベース板311から上方に離れた位置)との間で移動させることができる。
【0027】
基板保持部31のチャック部312は、ベース板311に付設されたチャック操作機構により、ウエハWの周縁部を把持する把持位置と、ウエハWから離れる解放位置との間で移動させることができる。チャック操作機構は、例えば、下降位置に移動している円盤体315により押されることにより動作するリンク機構からなる。チャック操作機構は、円盤体315が下降位置に位置しているときにはチャック部312を把持位置に位置させ、円盤体315が上昇位置に位置しているときにはチャック部312を解放位置に位置させるように構成されている。このようなチャック操作機構は公知であり、図示および説明は省略する。
【0028】
少なくとも円盤体315が下降位置に位置しているときには、ベース板311と円盤体315とが相補的な凹凸(例えば円盤体315の上面およびベース板311の下面の一方に設けられた突起と、他方に設けられた窪み)からなる適当なインターロック構造により、ベース板311と円盤体315とが一体的に回転するようになっている。
【0029】
つまり、ベース板311と円盤体315とは相対的に昇降可能であるが、少なくとも円盤体315が下降位置に位置しているとき、あるいは常時、ベース板311と円盤体315とは相対回転不能である。ベース板311の回転軸313と円盤体315の軸317とを相対的に昇降可能かつ相対回転不能に係合させてもよい。
【0030】
ウエハWを処理ユニット16に搬入するときには、基板昇降部314の円盤体315を上昇位置に位置させる。この状態で、チャンバ20の側壁に設けられた搬出入口(図示せず)を通ってチャンバ20内に侵入してきた基板搬送装置17のアームが、基板昇降部314の支持ピン316にウエハWを渡す。その後、円盤体315を下降位置まで下降させる。この動きに伴い把持位置に移動したチャック部312によりウエハWが把持されるとともに、ウエハWが支持ピン316からわずかに離れる。また、円盤体315が基板保持部31のベース板311と相対回転不能に係合する。これにより、ウエハWが、基板保持部31によりしっかりと保持された状態となる。ウエハWを処理ユニット16から搬出するときには上記と逆の手順を実行すればよい。
【0031】
基板昇降部314の軸317の内部に、パージガス供給管91(パージガスノズル)が設けられている。パージガス供給管91の内部がパージガス供給路となる。パージガス供給管91の上端部に、ベース板311と円盤体315との間の空間にパージガスを噴射する1つ以上のパージガス噴射穴92が設けられている。
【0032】
1つ以上のパージガス噴射穴92には、真上に向けてパージガスを噴射するパージガス噴射穴、水平方向パージガスを噴射するパージガス噴射穴、および斜め上方に向けてパージガスを噴射するパージガス噴射穴のうちの少なくともいずれか1つを含めることができる。このように複数のパージガス噴射穴を設ける場合、パージガス供給管91の上端に複数のパージガス噴射穴が形成されたキャップを取り付けてもよい。
【0033】
パージガス供給管91は、基板保持部31の回転軸313および基板昇降部314の軸317が回転しているときも、非回転状態を維持できるように設けられている。パージガス供給管91は、基板昇降部314の軸317を昇降させたときも上下方向に移動しないように設けられている。
【0034】
パージガス供給管91を軸317内に設けることに代えて、軸317内の空洞をパージガス供給路として設けてもよい。この場合、軸317がパージガスノズルとしての役割を持つ。またこの場合、例えば、軸317の下端部に接続したロータリージョイントを介して、パージガス供給路内にパージガスを供給することもできる。
【0035】
パージガス供給管91には、パージガス供給機構94が接続されている。パージガス供給機構94は、パージガス供給源941(例えば工場用力としての窒素ガス供給源)と、パージガス供給管91に接続されたガス供給路942と、ガス供給路942に介設された開閉弁、流量制御弁、流量計等の流量制御機器943とを有する。パージガスとしてドライエアを用いることもできる。
【0036】
処理流体供給部40は、ウエハWに対して処理流体(処理液、処理ガス等)を供給する。処理流体供給部40は、基板保持部31に保持されて回転するウエハWに向けて処理液を吐出(供給)する複数の処理液ノズル41,42,43を備えている。例えば処理液ノズル41から洗浄用薬液(例えばDHF(希フッ酸))が吐出され、処理液ノズル42からはリンス液としてのDIW(脱イオン水つまり純水)が吐出され、処理液ノズル43からは高揮発性かつ低表面張力の乾燥補助用の有機溶剤例えばIPA(イソプロピルアルコール)が吐出される。処理液としてSC-1等のアルカリ性薬液を含めてもよい。処理流体には、ウエハWの表面の乾燥を促進させるためにウエハWの表面に吹き付けられる窒素ガスのような乾燥補助用のガスを含めてもよい。
【0037】
各処理液ノズル(41~43)には、処理液供給源に接続されるとともに開閉弁及び流量調整弁等の流量調整器が介設された処理液供給路を備えた図示しない処理液供給機構から、それぞれの処理液(処理流体)が供給される。
【0038】
処理液ノズル41~43は、1つ以上(図示例では1つ)のノズルアーム44に取り付けられている。ノズルアーム44は、アーム駆動機構45により昇降および旋回することができ、これにより、処理位置(ウエハWの中心部の真上とウエハ周縁部の真上との間の任意の位置)と、液受けカップ50の外方の待機位置との間で移動することができる。
【0039】
液受けカップ50は、複数のカップ体、図示例では2つのカップ体(51,52)を有しており、そのうちの1つのカップ体(52)が流路切り替えのために可動である。詳細には、液受けカップ50は、外側に位置する不動の環状の第1カップ体51と、その内側に位置する昇降可能な環状の第2カップ体52と、さらにその内側に位置する不動の内壁54とを有している。
【0040】
なお、本明細書において、「半径方向(径方向)」及び「円周方向(周方向)」と記載する場合、特に断り書きが無い限り、全体として概ね回転体(幾何学用語における回転体)として形成された液受けカップにおける中心軸線(これは基板保持部31の回転中心軸線と同じである)を中心とする半径(または直径)方向及び円周の方向を意味している。
【0041】
図2の左側には上昇位置にある第2カップ体52が示され、図2の右側には下降位置にある第2カップ体52が示されている。第1、第2カップ体51、52及び内壁54は回転しない。第1カップ体51と第2カップ体52との間には第1流路501が形成されており、第2カップ体52と内壁54との間には第2流路502が形成されている。
【0042】
第2カップ体52は、図2に概略的に示された昇降機構52EVにより昇降させることができる。第2カップ体52が下降位置にあるときに、第1カップ体51の張出部5102と第2カップ体52の張出部5202とが互いに離間して第1流路501がウエハWの周縁の近傍に向けて開口する(図2の右半分を参照)。第2カップ体52が上昇位置にあるときに、張出部5102と張出部5202とが互いに近接して第2流路502がウエハWの周縁の近傍に向けて開口する(図2の左半分を参照)。
【0043】
第1流路501および第2流路502の各々の途中に屈曲部が設けられており、屈曲部で急激に向きを変えられることにより各流路を流れる気液混合流体から液体成分が分離される。分離された液体成分は第1流路501に対応する液受け511、および第2流路502に対応する液受け512内に落下する。液受け511、512は、それぞれに対応する排液口521、522を介して、薬液の種類(酸性、アルカリ性、有機(本例では酸性および有機))に応じた工場の液体排液系に(単純化して矢印で示した)に接続されている。
【0044】
液受けカップ50の底部には、第1流路501及び第2流路502に連通するカップ排気口55が形成されている。カップ排気口55には、カップ排気路56が接続されている。
【0045】
チャンバ20(処理ユニット16のハウジング)の下部であって、かつ、液受けカップ50の外部には、チャンバ20内の雰囲気を排気するためのチャンバ排気口57が設けられている。チャンバ排気口57にはチャンバ排気路58が接続されている。チャンバ排気路58には、例えばバタフライ弁59からなる流量制御弁が介設されている。
【0046】
カップ排気路56にチャンバ排気路58が合流する。合流部の下流側においてカップ排気路56に切替弁53が設けられている。切替弁53を切り替えることにより、排気の種類に応じた工場排気系(酸排気系、アルカリ排気系、有機排気系等)にカップ排気口55を連通させることができる。工場排気系は負圧(負圧のレベルは概ね一定に維持されている)となっているため、工場排気系に連通する空間(液受けカップ50内の空間、カップ排気路56、チャンバ排気路58等)内の雰囲気が吸引される。
【0047】
チャンバ排気路58のバタフライ弁59の開度を調節することにより、カップ排気路56とチャンバ排気路58との排気流量比を調節することができる。バタフライ弁59の開度を小さくすると、カップ排気路56の排気流量が増し、その結果、液受けカップ50内がより強く吸引されることになる。
【0048】
バタフライ弁59をカップ排気路56のみに設けてもよく、カップ排気路56およびチャンバ排気路58の両方にバタフライ弁59を設けてもよい。
【0049】
回転カップ60は、基板保持部31のベース板311に取り付けられており、ベース板311と一緒に回転する。回転カップ60は上カップ体61と下カップ体62とを有している。上カップ体61および下カップ体62は、円周方向に沿って間隔を開けてベース板311の外周部に取り付けられた複数の固定部材63(図2には1つだけ示す)により、ベース板311に固定されている。
【0050】
カップ排気路56を介して液受けカップ50内が吸引されているときには、液受けカップ50の上部開口の上方の空間内にあるガス(FFUから吐出された清浄空気)が液受けカップ50内に引き込まれる。液受けカップ50内に引き込まれる空気の多くは、上カップ体61と下カップ体62との間の空間を通って、第1流路501または第2流路502に流入する(矢印F1を参照)。
【0051】
また、基板保持部31およびウエハWが回転すると、円盤状の回転体(ウエハW、ベース板311、円盤体315など)の表面近傍にあるガス(清浄空気、窒素ガス等)が当該回転体の表面に引き摺られて回転体の外周縁部に向けて流れる。ウエハWの上面(表面)側を流れるガス(矢印F2を参照)は、主に上カップ体61と下カップ体62との間の空間を通って、第1流路501または第2流路502に流入する。ウエハWの下面(裏面)とベース板311および円盤体315との間の空間(以下、簡便のため「ウエハ下方空間S0」と呼ぶ)を流れるガス(矢印F3を参照)は、主に下カップ体62とベース板311との間を通って第1流路501または第2流路502に流入する。
【0052】
なお、本件出願においては概略的に示された液受けカップ50および回転カップ60の具体的な形状および構成の一例は、本件出願人による先行特許出願(特願2013-205418号)に係る特許公開公報(特開2014-123713号)に詳細に説明されているので、こちらも参照されたい。
【0053】
次に、制御装置4による制御の下で自動的に行われる処理ユニット16の動作について簡単に説明する。
【0054】
基板搬送装置17により未処理のウエハWが処理ユニット16に搬入され、基板保持部31に保持される。すなわち、図2に示した状態となる。次いでウエハWが回転を開始する。回転しているウエハWの表面に、まず、薬液(例えばDHF等の酸性薬液)が供給されて薬液洗浄処理が施され(薬液洗浄工程)、次いで、リンス液(例えばDIW)が供給されてリンス処理が施される(リンス工程)。
【0055】
その後、回転しているウエハWの表面に、乾燥用液(例えばIPA)が供給され、ウエハW表面のリンス液が乾燥用液に置換される(乾燥用液置換工程)。次いで、乾燥用液の供給を停止して引き続きウエハWを回転させることによりウエハWが乾燥させられる(乾燥工程)。
【0056】
上記の工程が実行されている間、ウエハWの表面に供給された処理液(薬液、リンス液、乾燥用液等)は、遠心力によりウエハWの外方に飛散する。飛散した液は微小液滴(ミスト)となり、ウエハWの周囲(特にウエハWの周縁部の近傍の空間)を漂う。このミストがウエハWに再付着するとパーティクルの原因となる。
【0057】
液受けカップ50の内部空間はカップ排気路56を介して常時吸引されているため、FFU21から下向きに流出した清浄ガス(クリーンエア、クリーンドライエア、あるいは窒素ガスが混合されたクリーンエアなど)は、液受けカップ50内に引き込まれ、ウエハWの周縁部の近傍を通過して第1流路501または第2流路502に流入し(矢印F1を参照)、カップ排気口55を介して液受けカップ50から排出される。ウエハWの周縁部の近傍の空間内を漂うミストは、上記の清浄ガスの流れに乗って、第1流路501または第2流路502に流入する。第1流路501または第2流路502を流れる途中でミストは清浄ガスから分離され、排液口521または排液口522を介して液受けカップ50から排出される。
【0058】
ここでウエハ下方空間S0に着目する。ウエハWが回転しているときには、前述したようにウエハ下方空間S0内のガスは、ウエハW、ベース板311および円盤体315の回転に引き摺られて、ウエハ下方空間S0の半径方向外側の空間に向けて流れる(矢印F3を参照)。このようにウエハ下方空間S0内のガスが外側に出て行くため、ウエハ下方空間S0内の圧力(以下、「圧力P0」と呼ぶ)は低下する。
【0059】
第1流路501のうちの上カップ体61と下カップ体62との間の空間の出口近傍の領域を「領域S1」と呼び、領域S1内の圧力を「圧力P1」と呼ぶこととする。また、第2流路502のうちの上カップ体61と下カップ体62との間の空間の出口近傍の領域を「領域S2」と呼び、領域S2内の圧力を「圧力P2」と呼ぶこととする。また、カップ排気路56のうちのチャンバ排気路58との合流点よりやや上流側の領域を「領域S3」と呼び、領域S3内の圧力を「圧力P3」と呼ぶこととする。また、チャンバ20内における液受けカップ50の外側であってかつウエハWの上面(表面)の上方の空間を「空間SC」と呼び、空間SC内の圧力を「圧力PC」と呼ぶこととする。
【0060】
第1流路501の入口が開口しているときには、ウエハ下方空間S0内の圧力P0が、第1流路501の領域S1の圧力P1より低くなると、(例えば下カップ体62の外周縁とベース板311の外周縁との隙間を通って)領域S1内に存在する処理液のミストを含むガスの一部がウエハ下方空間S0に流入する。ウエハ下方空間S0に流入したミストはウエハWの下面(裏面)に付着し、パーティクルの原因となる。このため、ウエハWの下面の汚染を防止するため、少なくとも領域S1を処理液のミストが浮遊している間は、圧力P0≧圧力P1(以下、「条件1」と呼ぶ)とすることが望ましい。
【0061】
同様に、第2流路502の入口が開口しているときには、圧力P0≧圧力P2(以下、「条件1’」と呼ぶ)とすることが望ましい。
【0062】
また、ウエハ下方空間S0内の圧力P0が、ウエハ周縁部の上方の領域SCの圧力PCよりも低くなると、例えば下カップ体62の外周縁とウエハWの外周縁との隙間を通って)領域SCに存在する処理液のミストを含むガスの一部がウエハ下方空間S0に流入する。従って、ウエハWの下面の汚染を防止するため、少なくとも領域SCを処理液のミストが浮遊している間は、圧力P0≧圧力PC(以下、「条件2」と呼ぶ)とすることが望ましい。
【0063】
但し、条件1、2を満足するために圧力P1,PCを低下させることは好ましくない。ウエハWの周縁部の近傍におけるガスの流れ(流速、乱流発生状況等)は、主に、空間SC内の圧力PCと領域S1内の圧力P1との差により定まる。領域S1内におけるガスの流れが不適切だと、例えばウエハWから離脱した処理液のミストがウエハWの表面に再付着して、最も重要なウエハWの表面が汚染される可能性がある。そのような可能性を最小化するために、カップ排気流量(これにより圧力P1が定まる)が制御されている。また、空間SC内の圧力PCはFFUのガス(クリーンエア)供給流量およびチャンバ排気流量により決定されるが、これら2つの流量は通常は大きく変化させるものではなく、概ね一定に維持されるものである。つまり、圧力P1、PCは、ウエハWの下面の汚染を防止するためだけのために大きく変化させるべき値ではない。
【0064】
なお、実際の装置の運用の一態様においては、液処理の内容およびウエハWの回転速度に応じて、特にウエハWの近傍において最適な気流が形成されるようにチャンバ排気路58のバタフライ弁59の開度を制御することにより、カップ排気流量が制御されている。工場排気系の負圧は概ね一定に維持されており、バタフライ弁59の開度を大きくするとチャンバ排気路58の排気流量が増す一方でカップ排気路56の排気流量が減少し、バタフライ弁59の開度を小さくするとその逆になる。カップ排気流量を小さくするとカップ排気路56の領域S3の圧力P3が高くなり、カップ排気流量を大きくするとカップ排気路56の領域S3の圧力P3が低くなる。
【0065】
図3のグラフは実際の装置の運用の一例を示している。図3のグラフにおいて、横軸はウエハWの回転速度(rpm))であり、縦軸はカップ排気路56の領域S3の圧力P3である。下側の線は液受けカップ50内に第1流路501が形成されているときの制御を、そして上側の線は液受けカップ50内に第2流路502が形成されているときの制御を示している。第1流路501の形状と第2流路502の形状とが互いに異なっているため、それぞれに対して最適なウエハW周縁部近傍の気流が形成されるように、ウエハ回転速度と圧力P3(つまりバタフライ弁59の開度)との関係を変えている。
【0066】
なお、使用する処理液が薬液である場合とリンス液である場合とで圧力P3(すなわちカップ排気流量)を変更してもよい。薬液のミストがウエハWに再付着した場合の悪影響の方が、リンス液のミストがウエハWに再付着した場合の悪影響よりも大きいからである。
【0067】
図3のグラフに示された関係は、パージガス供給管91からのガス吐出が無い状態での関係である。なお、ウエハWを回転させると、前述した気流F2、F3の影響でガスが第1流路501または第2流路502に押し込まれるため、ウエハW回転数が増大するとカップ排気路56の領域S3の圧力P3は増大する。図3のグラフに示された圧力P3の値は、その影響も含めた値である。
【0068】
バタフライ弁59の開度を一定とした場合には、カップ排気路56の領域S3の圧力P3が上昇(低下)すると、第1流路501の領域S1の圧力P1も上昇し(正の相関がある)、圧力P3および圧力P1の変化の傾向も類似しており、圧力P3は圧力P1より高い、という関係があるということが既に確認されている。液受けカップ50の構成上の理由により、圧力P1を直接測定することは困難である。このため、以下の説明では、カップ排気路56に設けた圧力センサにより測定した圧力P3を圧力P1の指標(第1流路501からウエハ下方空間S0にガスが流入するか否かの指標)として用いることとする。なお、第2流路502が開口している場合も、圧力P3および圧力P2の関係について同じことが言える。
【0069】
ここで、処理液のミストを含むガスがウエハ下方空間S0に防止することの説明に戻る。前述したように条件1(あるいは条件1’)および条件2を満足するために圧力P1(あるいは圧力P2),PCを低下(変化)させることは好ましくないのであるから、従って、ウエハ下方空間S0内の圧力P0を増大させることにより上記条件1(あるいは条件1’)、2を満足させることが好ましい。そのためには、パージガス供給管91からウエハ下方空間S0内に吐出されるガスの流量を増大させればよい。
【0070】
但し、パージガス供給管91からのガスの吐出流量を過度に増大させると、ガスが衝突する部分のウエハWの温度が低下して、ウエハWの温度の面内均一性が損なわれるおそれがあることも考慮される。
【0071】
次に、パージガス供給管91からのガスの吐出流量(以下、簡便のため、「パージガス吐出流量B」とも呼ぶ)を変えてウエハWの表面に対して液処理を行ったときのウエハWの裏面に生じたパーティクルの量を調べた実験結果について説明する。ウエハWの回転速度(以下、簡便のため、「ウエハ回転速度R」とも呼ぶ)は、1000rpmおよび1500rpmとした。この実験では、パージガス吐出流量Bがゼロのときに、図3のグラフに示した排気路56の領域S3の圧力P3が実現されるように、ウエハ回転速度Rが1000rpmおよび1500rpmにそれぞれ対応するバタフライ弁59の開度を設定した。つまり、ウエハ回転速度Rが1000rpmのときの圧力P3が59kPa、ウエハ回転速度Rが1500rpmのときの圧力P3が71kPaとなるようにした。なお、バタフライ弁59の開度は、パージガス吐出流量Bがゼロのときの開度を維持した(つまり、バタフライ弁59の開度は、パージガス吐出流量Bの変化に応じて変更はしていない)。
【0072】
液受けカップ50内に第2流路502が形成された状態で行った実験の結果を図4のグラフに示す。図4のグラフにおいて、横軸はパージガス吐出流量B(L/min)であり、縦軸は、液処理後における40nm以上の大きさのパーティクルの数から液処理前における40nm以上の大きさのパーティクルの数を減じた数値、つまりパーティクル数増分(ΔN)(Adder Particle Counts)である。○(白抜き丸)のプロットはウエハ回転速度が1000rpm、●(黒丸)のプロットはウエハ回転速度が1500rpmのときのデータを示している。
【0073】
ウエハ回転速度Rが1000rpmの場合、パージガス吐出流量Bの増大とともにパーティクル数増分(ΔN)が減少してゆき(ウエハ下方空間S0内の圧力P0が増大するため)、40L/minでパーティクル数増分(ΔN)が問題無いレベルまで減少している。つまりこのとき、ウエハWの回転によりウエハ下方空間S0に生じた負圧が、ウエハ下方空間S0に供給されたパージガスにより相殺されたものとみなすことができる。
【0074】
なお、前述したようにウエハ回転速度Rが一定ならばパージガス吐出流量Bに関わらずバタフライ弁59の開度を一定に維持しているため、パージガス供給管91からのガスの吐出流量の増大による第1流路501へのガス流入量の増大に伴い、カップ排気路56の領域S3の圧力P3も増大する。パージガス吐出流量Bが0L/min(吐出無し)のときの圧力P3は59kPaであり、パージガス吐出流量Bが40L/minのときの圧力P3は62kPaであった。両者の差分(59kPa-62kPa=-3kPa)を、ウエハ回転速度が1000rpmの場合におけるウエハ下方空間S0内の減圧状態を表す指標(ΔP)として用いることができる。
【0075】
図5には、液受けカップ50内に第1流路501が形成されている場合、および第2流路502が形成されている場合のそれぞれにおいて上記と同様の実験を行ったときの、ウエハ回転速度Rが1000rpmのときのパージガス吐出流量Bと圧力P3との関係を、示している。いずれの場合においても、パージガス吐出流量Bの増大に伴い圧力P3が概ねリニアに増大していることがわかる。
【0076】
次に、ウエハ回転速度が1500rpmの場合の場合について説明する。この場合も、パージガス吐出流量Bが0L/min(吐出無し)のときのカップ排気路56の領域S3の圧力P3が図3のグラフに従った値(71kPa)となるように、バタフライ弁59の開度を制御した。また、液受けカップ50内に第2流路502を形成した。この場合は、図4のグラフに示すように、ガス吐出流量が70L/minに達するとパーティクル数増分が問題無いレベルまで減少し、そのときの圧力P3は76kPaであった。この結果から、ウエハ回転速度が1500rpmの場合におけるウエハ下方空間S0内の減圧状態を表す指標(ΔP)の値は、71kPa-76kPa=-5kPaである。
【0077】
上記の実験結果から、ウエハ回転速度Rが高い方が、ウエハ下方空間S0内の減圧度合いは大きく、減圧を解消するために(すなわち、処理液のミストがウエハ下方空間S0内に侵入することを防止するために)必要なパージガス吐出流量Bが大きいことがわかる。前述したように、パージガス吐出流量Bを過剰に大きくするとウエハWの面内温度均一性が損なわれるおそれが高い。このため、ウエハ下方空間S0内の圧力を処理液のミストがウエハ下方空間S0内に侵入しない条件を満たす必要最小限のパージガス吐出流量B(それよりも多少大きい流量でも構わないが)でガスを吐出することが好ましい。
【0078】
上記の説明を踏まえて、処理ユニット16におけるパージガス吐出流量Bの制御方法のいくつかの具体例について説明する。以下に説明する制御は、例えば制御装置4(図1参照)による制御の下で行うことができる。制御プログラムおよび処理レシピなどは、記憶部19に記憶させておくことができる。
【0079】
<第1の制御方法>
処理レシピにおける各時間区間において、実験によりパージガス吐出流量Bを予め決定しておく。処理条件が異なる全ての時間区間において、先に図4を参照して説明した実験と同様の実験を行うことにより、パーティクル増分(ΔN)が問題とならないようなパージガス吐出流量B(好ましくはその最小値)を求める。そして、求められたパージガス吐出流量Bを処理レシピの各時間区間に記載しておく。制御装置4は記憶部19に記憶された処理レシピに記載されたパージガス吐出流量Bが実現されるようにパージガス供給機構94を制御する。
【0080】
なお、処理条件が異なる全ての時間区間においてパージガス吐出流量Bを実験により求めることに代えて、処理条件が若干異なっていても類似している複数の時間区間に対しては、代表する時間区間に対して行った実験に基づいて他の時間区間のパージガス吐出流量Bを決定してもよい。例えば、例えば、粘性等の特性(ミスト形成に関与する特性)があまり変わらない異なる2種類の薬液については、一方の薬液に関連して決定されたパージガス吐出流量Bを他方の薬液に流用してもよい。
【0081】
<第2の制御方法>
予め実験により求めたテーブル(関係表)または関数に基づいて、パージガス吐出流量Bを計算により求め、計算により求められたパージガス吐出流量Bが実現されるように、制御装置4がパージガス供給機構94を制御するようにしてもよい。つまり、この場合、処理レシピにはパージガス吐出流量Bは記載されない。
【0082】
ウエハ下方空間S0へミストを含むガスが侵入しうるか否かを決定しうる処理ユニットの運転条件を定義するパラメータとして(パージガス吐出流量Bを除く)、下記のものが例示される。
(1)使用している液受けカップ50内の流路(第1流路501または第2流路502)(これは、例えば、昇降可能な第2カップ体52の高さ位置情報により表すことができる)
(2)ウエハW(基板保持部31)の回転速度
(3)カップ排気流量(バタフライ弁59の設定開度)
(4)ノズル41~43から吐出される処理液の種類(温度も含む)
(5)ノズル41~43から吐出される処理液のウエハW表面への着液点の位置(ノズルスキャンの場合も含む)(これは、例えばノズル位置情報により表すことができる)
(6)ノズルからの処理液の吐出流量
(7)FFUからのガス(例えば清浄空気)の供給流量
(8)チャンバ20内の圧力SC(これを測定するために圧力センサを設けることができる)
(9)圧力P3
なお、上述したパラメータは完全に独立してはおらず相関関係を有するパラメータも存在するので、パラメータの一部を省略することもできる。例えば、チャンバ内圧力SCは、FFUからのガス供給流量により実質的に決定されるため、(6)、(7)のいずれかを省略することができる。
【0083】
制御装置4の記憶部19に、上記パラメータ(1)~(9)のうちの少なくともいくつか(例えばパラメータ(1)~(4))と、採用すべきパージガス吐出流量Bとの関係を示したテーブルまたは関数を格納しておく。制御装置4は、記憶部19に記憶されている処理レシピに記載されている上記パラメータの少なくともいくつかの値を読み出し、その値を上記テーブルまたは関数に適用することにより、パージガス吐出流量Bを求める。そして、求められたパージガス吐出流量Bが実現されるように、制御装置4がパージガス供給機構94を制御する。
【0084】
<第3の制御方法>
図6に概略的に示すように、ウエハ下方空間S0内に、ウエハ下方空間S0内の圧力P0を直接的に測定する圧力センサ95を設けてもよい。圧力センサ95の検出信号は、信号線96に出力される。信号線96は、パージガス供給管91が挿入されている回転軸313の空洞内を通して引き出すことができる。信号線96は例えば制御装置4に入力することができる。
【0085】
圧力センサ95および信号線96を、回転軸313に直接接触しないように、かつ、ベース板311および円盤体315に接触しないように配置するために、信号線96を十分に剛性の高い太い被覆電線で形成してもよい。あるいは、信号線96を剛性の高いシース(図示せず)の内部に収容してもよい。このようなシースの内部空間を大気圧の空間と連通させて圧力センサ95に基準大気圧を供給することにより、圧力センサ95によりゲージ圧を測定してもよい。
【0086】
ウエハ下方空間S0内に圧力センサ95を設けた場合、例えば以下のような運用を行うことができる。
【0087】
<運用例1>
処理レシピにおける各時間区間において、パージガス吐出流量Bを変化させつつ図4のグラフを得るために実行した実験と同様の実験を行い、圧力センサ95の検出値とパーティクル増分(ΔN)との関係を求めておく。そしてこの関係に基づいて、処理条件ごとにパーティクル増分(ΔN)が問題とならないような圧力センサ95の検出値(好ましくは最小値)を求める。そして、求められた圧力センサ95の検出値を処理レシピの各時間区間に記載しておく。制御装置4は記憶部19に記憶された処理レシピに記載された圧力センサ95の検出値が実現されるようにパージガス供給機構94をフィードバック制御する。
【0088】
<運用例2>
図5のグラフに示したように、パージガス吐出流量Bと圧力P3との間には相関関係がある。パージガス吐出流量Bとウエハ下方空間S0内の圧力P0との間に正の相関関係があることは明らかであり、また、前述したように圧力P3と圧力P1(あるいは圧力P2)と間に正の相関関係がある。圧力P0≧圧力P1(条件1)がパーティクル増分(ΔN)が問題とならないようになるための一つの条件である。そこでまず、圧力P3と圧力P1との既知の関係に基づいて実際に測定した圧力P3から圧力P1の推定値を算出する。そしてこの圧力P1の推定値と圧力センサ95により直接測定した圧力P0が上記の条件1を満たすように、パージガス供給機構94をフィードバック制御してもよい。前述した条件2(圧力P0≧圧力PC)も満たす必要がある場合にも、同様の考え方でパージガス供給機構94をフィードバック制御することができる。
【0089】
上記の場合、圧力P3を実際に測定する圧力センサ(図示せず)と、圧力P0を実際に測定する圧力センサ(図示せず)とを設ける必要がある。なお、条件1と条件2とを同時に満たす必要があるならば、圧力P0が、圧力P1と圧力PCとを比較して大きい方の圧力(P1またはPC)以上であるという条件を満たすようにパージガス供給機構94をフィードバック制御することができる。
【0090】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0091】
また、基板の下面(裏面)の周縁部が処理対象となる液処理においても、上記の実施形態で説明した技術を用いることにより基板の下面の中央部のパーティクルを低減することができる。このように基板の下面の少なくとも周縁部にノズルから処理液が供給される場合には、軸317内あるいはパージガス供給管91内への処理液の侵入を防止するため、パージガス供給管91常時少量のパージガスを吐出させておくことが好ましい。
【0092】
基板は、半導体ウエハに限定されるものではなく、ガラス、セラミック等の他の材料からなる基板であってもよい。
【符号の説明】
【0093】
W 基板(半導体ウエハ)
4 制御部(制御装置)
31 基板保持部
311 ベース部材(ベース板)
312 保持部材(チャック部)
33 回転駆動部
41~43 処理液ノズル
50 液受けカップ
55 排気路(カップ排気路)
91 パージガスノズル(パージガス供給管)
943 パージガス流量制御機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6