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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】水酸化アルミニウム粉末
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/021 20220101AFI20250520BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20250520BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250520BHJP
【FI】
C01F7/021
C08K3/20
C08L101/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021112858
(22)【出願日】2021-07-07
(65)【公開番号】P2023009509
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】森田 聖太郎
(72)【発明者】
【氏名】北 智孝
(72)【発明者】
【氏名】前田 巧介
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-322813(JP,A)
【文献】特開平09-176367(JP,A)
【文献】特開平03-050142(JP,A)
【文献】特表平08-508459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00 - 7/788
C08L 101/00
C08K 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10MPaで成型したときの成型密度である第1の成型密度が1.60~2.20g/cmであり、
前記第1の成型密度に対する、0.5MPaで成型したときの成型密度である第2の成型密度の比が0.875~0.970であり、
質量基準粒度分布における、微粒側からの累積頻度が50質量%となる粒子径が30μm以下であり、
BET比表面積が2.0m /g以下であり、
前記質量基準粒度分布において1~200μmの粒径範囲に1つ又は2つのピークを有する、水酸化アルミニウム粉末。
【請求項2】
ケイ素またはチタンを含む、請求項1に記載の水酸化アルミニウム粉末。
【請求項3】
前記ケイ素の含有量は、SiO換算値で0.02~0.30質量%であり、
前記チタンの含有量は、TiO換算値で0.01~0.30質量%である、請求項2に記載の水酸化アルミニウム粉末。
【請求項4】
90質量%粒子径(D90)が100μm未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水酸化アルミニウム粉末。
【請求項5】
前記質量基準粒度分布において1~200μmの粒径範囲に1つのピークを有する場合は、該ピークの頻度が4.0質量%以上であり、
前記質量基準粒度分布において1~200μmの粒径範囲に2つのピークを有する場合は、一方のピークの頻度が4.0質量%以上であり、他方のピークの頻度が0質量%超4.0質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水酸化アルミニウム粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は水酸化アルミニウム粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化アルミニウム粉末は、樹脂成型体(封止材、サーマルインターフェース材料(Thermal Interface Material:TIM)、人工大理石等)への充填材として需要が高まっている。
例えば特許文献1には、原料水酸化アルミニウムを、圧縮能力が5~500kgf/cmであるスクリュー型捏和機で粉砕することを特徴とする、充填材用途の水酸化アルミニウムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-322813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されるような従来技術では、水酸化アルミニウム粉末を樹脂に添加した際に増粘しやすいおそれがあることがわかった。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、樹脂に添加した際に粘度上昇を十分に抑制できる水酸化アルミニウム粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様1は、
10MPaで成型したときの成型密度である第1の成型密度が1.60~2.20g/cmであり、
前記第1の成型密度に対する、0.5MPaで成型したときの成型密度である第2の成型密度の比が0.875~0.970である、水酸化アルミニウム粉末である。
【0007】
本発明の態様2は、
ケイ素またはチタンを含む、態様1に記載の水酸化アルミニウム粉末である。
【0008】
本発明の態様3は、
前記ケイ素の含有量は、SiO換算値で0.02~0.30質量%であり、
前記チタンの含有量は、TiO換算値で0.01~0.30質量%である、態様2に記載の水酸化アルミニウム粉末である。
【0009】
本発明の態様4は、
90質量%粒子径(D90)が100μm未満である、態様1~3のいずれか1つに記載の水酸化アルミニウム粉末である。
【0010】
本発明の態様5は、
質量基準粒度分布において1~200μmの粒径範囲に1つ又は2つのピークを有し、
ピークが1つの場合は、該ピークの頻度が4.0質量%以上であり、
ピークが2つの場合は、一方のピークの頻度が4.0質量%以上であり、他方のピークの頻度が0質量%超4.0質量%以下である、態様1~4のいずれか1つに記載の水酸化アルミニウム粉末である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、樹脂に添加した際に粘度上昇を十分に抑制できる水酸化アルミニウム粉末を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、樹脂に添加した際の粘度(以下「樹脂粘度」とも称する)の上昇を十分に抑制でき、樹脂成形体に充填したときの外観不良を十分に抑制できる水酸化アルミニウム粉末を実現するべく、様々な角度から検討した。その結果、10MPaで成型したときの密度(以下「第1の成型密度」とも称する)および第1の成型密度に対する、0.5MPaで成型したときの密度(以下「第2の成型密度」とも称する)の比を所定範囲に制御することにより、樹脂粘度の上昇を十分に抑制できることを見出した。
さらに、従来技術よりも大きな圧力(500~3000kgf/cm、すなわち49.0~294.0MPa)で粉砕することを含む製造方法により、所望の第1の成型密度および第2の成型密度/第1の成型密度の比が得られることを見出した。
【0013】
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0014】
<1.水酸化アルミニウム粉末>
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、10MPaで成型したときの成型密度である第1の成型密度が1.60~2.20g/cmであり、前記第1の成型密度に対する、0.5MPaで成型したときの成型密度である第2の成型密度の比が0.875~0.970である。これにより、樹脂粘度の上昇を十分に抑制できる。
【0015】
第1の成型密度が1.60g/cm未満であると、樹脂粘度が上昇する。第1の成型密度は、好ましくは1.63g/cm以上であり、さらに好ましくは1.66g/cm以上である。第1の成型密度の上限については特に制限されないが、例えば2.20g/cm超とするためにはより詳細な製造条件の設定が必要となり、生産性を考慮すると2.20g/cm以下にしておくことが好ましい。
【0016】
第2の成型密度/第1の成型密度の比が0.875未満であると、樹脂粘度が上昇する。第2の成型密度/第1の成型密度の比の上限は特に制限されないが、第2の成型密度/第1の成型密度の比を0.970超とするためにはより詳細な製造条件の設定が必要となり、生産性を考慮すると0.970以下にしておくことが好ましい。
【0017】
第1の成型密度は以下のようにして求めるものとする。
水酸化アルミニウム粉末3.00gを内径20.0mmの円筒一軸成型用金型に入れ、万能材料試験機(例えばエー・アンド・デイ(A&D)社製、TENSILON RTG-1310)を用い、当該水酸化アルミニウム粉末を圧縮速度1mm/分で10MPaの圧力になるまで圧縮充填し、重量/体積の比を第1の成型密度とする。
第2の成型密度は、上記方法において、圧力を10MPaから0.5MPaに変更すること以外は同様にして求めるものとする。
【0018】
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、90質量%粒子径(すなわち、質量基準粒度分布における、微粒側からの累積頻度が90質量%となる粒子径であって、D90とも称する)が100μm未満であることが好ましい。これにより、水酸化アルミニウム粉末が、樹脂成形体に充填したときの外観不良を十分に抑制することができ、また樹脂成形体の強度を十分に確保しやすくなる。好ましくは、D90が90μm以下であり、より好ましくは65μm以下であり、さらに好ましくは45μm以下である。
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、D90が20μm以上であることが好ましい。これにより、水酸化アルミニウム粉末を液中に分散させる際の分散不良を抑制することができる。
【0019】
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、所望の第1の成型密度および第2の成型密度/第1の成型密度の比を満たす一例として、ケイ素またはチタンを含み得る。上記場合において、ケイ素の含有量を、SiO換算値で0.02質量%以上とすることが好ましく、チタンの含有量を、TiO換算値で0.01質量%以上とすることが好ましい。これにより、所望の第1の成型密度および第2の成型密度/第1の成型密度の比に調整しやすくなる。一方で、ケイ素およびチタンの含有量の上限は特に制限されないが、生産性を考慮すると、それぞれ0.30質量%以下にしておくことが好ましい。
【0020】
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、不純物としてナトリウムを含み得る。ナトリウム含有量は、例えばNaO換算値で0.13質量%以下とすることが好ましい。これにより、樹脂成形体に充填したときの樹脂の劣化および絶縁性の低下を抑制することができる。
【0021】
ケイ素、チタンおよびナトリウムの含有量は、水酸化アルミニウム粉末を無機酸の水溶液に溶解させて水溶液を調製した後、ICP発光分光分析装置を用いて求めるものとする。具体的には、ケイ素の波長(251.611nm)、チタンの波長(334.940nm)およびナトリウムの波長(589.592nm)の強度を測定し、それぞれSiO、TiOおよびNaOに換算して、SiO、TiOおよびNaOの質量を算出し、溶解させた水酸化アルミニウム粉末の質量に対する該SiO、TiOおよびNaOの質量の比を、それぞれケイ素、チタンおよびナトリウムの含有量(質量%)とする。また、本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、Al(OH)、SiO、TiOおよびNaOの他、不可避不純物を含んでもよい。不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素等の混入が許容される。
【0022】
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、質量基準粒度分布において1~200μmの粒径範囲に1つ又は2つのピークを有することが好ましい。これにより、水酸化アルミニウム粉末を樹脂成形体に充填したときの外観不良を抑制することができ、また水酸化アルミニウム粉末を液中に分散させる際の分散不良をより抑制することもできる。ピークが1つの場合は、該ピークの頻度が4.0質量%以上であり得る。ピークが2つの場合は、一方のピークの頻度が4.0質量%以上であり得、他方のピークの頻度が0質量%超4.0質量%以下であり得る。この場合、好ましくは、質量基準粒度分布において1~200μmの粒径範囲にピークを1つのみ有することである。これにより、上記樹脂成形体の外観不良および分散不良を、さらに抑制することができる。
【0023】
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、質量基準粒度分布において、1μm未満および200μm超の粒径範囲の一方または両方のそれぞれに1つ以上のピークを有し得、前記ピークの頻度は0質量%超0.5質量%以下であってもよく、または、1μm未満および200μm超の粒径範囲にピークを有さなくてもよい。
【0024】
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、50質量%粒子径(すなわち、質量基準粒度分布における、微粒側からの累積頻度が50質量%となる粒子径であって、D50とも称する)が30μm以下であることが好ましい。これにより、水酸化アルミニウム粉末を樹脂成形体に充填したときの外観不良を抑制することができ、また樹脂成形体の強度を確保しやすくなる。
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、D50が7μm以上であることが好ましい。これにより、水酸化アルミニウム粉末を液中に分散させる際の分散不良を抑制することができる。
【0025】
なお、質量基準粒度分布(D50およびD90含む)は、以下のようにして求める。
水酸化アルミニウム粉末をイソプロピルアルコール中に加え、出力25Wの超音波を120秒間照射して水酸化アルミニウム粉末を水溶液中に分散させたものに対して、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて質量基準粒度分布(D50およびD90含む)を求める。該粒度分布は、粒子径0.02μm~2000μmの範囲を対数スケールで132分割し、各区間の粒子径を有する水酸化アルミニウムの質量を測定して求めるものとする。なお、レーザー散乱式粒子径分布測定装置としては、機器間差および本実施例等との整合性を考慮すると、マイクロトラックMT-3300EXII(日機装社製)又はそれと同等の装置を使用することが好ましい。また、粒度分布測定時において、水酸化アルミニウム粉末の濃度を上記測定装置の測定可能濃度に適宜調整した上で測定するのがよい。
【0026】
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、BET比表面積を2.0m/g以下とすることが好ましい。これにより、水酸化アルミニウム粉末を液中に分散させる際の分散不良を抑制することができる。なお、BET比表面積は、JIS-Z-8830:2013に規定された方法に従って、全自動比表面積測定装置(例えば、Mountech社製、Macsorb HM-1201)を用いて窒素吸着法により求めるものとする。
【0027】
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は、樹脂に添加した際に粘度上昇を十分に抑制でき、樹脂成型体(封止材、サーマルインターフェース材料(Thermal Interface Material:TIM)、人工大理石等)への充填材として好適である。適用可能な樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンとの共重合体、エチレン及び/又はプロピレンと例えばブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、ノネン-1、4-メチルペンテン-1、デセン-1等の他のα-オレフィンとの共重合体で代表されるポリオレフィン、スチレン(共)重合体、メタクリル酸メチル(共)重合体、ポリアミド、ポリカーボネート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアセタール、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルペンテン等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末は上記樹脂に限らず、他の合成樹脂、天然樹脂又は紙等の充填材として使用することも可能である。
【0028】
本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末の製造方法の一例では、50質量%粒子径(D50)が10~200μmであり、且つ半径0.05~1μmの細孔の累積容積が0.01~1mL/gである水酸化アルミニウム粉末を用意する工程と、49.0~294.0MPaの圧力で粉砕する工程と、92m/秒以下の衝突速度で解砕する工程と、を含む。以下、各工程について詳述する。
【0029】
[水酸化アルミニウム粉末を用意する工程]
原料となる水酸化アルミニウム粉末(以下、「原料水酸化アルミニウム粉末」とも称する)を用意する。原料水酸化アルミニウム粉末は、50質量%粒子径(D50)が10~200μmであり、且つ半径0.05~1μmの細孔の累積容積(以下「細孔累積容積」とも称する)が0.01~1mL/gであり得る。これらにより、所望の第1の成型密度、第2の成型密度/第1の成型密度の比を得やすくなる。好ましくは、細孔累積容積が0.02~1mL/gである。これにより、所望のD90を得やすくなり、また、所望の質量基準粒度分布である水酸化アルミニウム粉末を得やすくなる。
【0030】
なお、細孔累積容積は以下のように求める。
水酸化アルミニウム粉末を120℃で4時間乾燥を行い、吸着水分を除去する。その後、精密天秤にて0.5~0.6g程度秤量し、直径15mm、高さ24mmの測定セルに充填する。この測定セルを自動ポロシメータ(例えば、Micromeritics社製、オートポアIII9420)にセットし、低圧側(1~10000psi)、高圧側(10000~60000psi)に分けて測定する。これらの測定データを合算し、細孔半径0.002μm以上100μm以下の領域における細孔容積分布を求め、細孔半径0.05μm以上1.0μm以下の領域における累積容積を算出する。
【0031】
原料水酸化アルミニウム粉末の結晶構造は例えばギブサイト型、バイヤライト型等であり、好ましくはギブサイト型である。
【0032】
原料水酸化アルミニウム粉末は、過飽和状態にあるアルミン酸ナトリウム溶液に種晶を添加し、攪拌しながら加水分解し、水酸化アルミニウムを析出させ、得られた水酸化アルミニウムをろ過洗浄し、乾燥する方法によって製造することができる。ここで、析出条件を適宜調整すること(及び/又は析出したものを一部溶解させること、及び/又は析出したものを粉砕または解砕すること)等により、上記粒子径および細孔累積容積を有する原料水酸化アルミニウム粉末が得られる。なお、上記上記粒子径および細孔累積容積を満たすものであれば、市販の水酸化アルミニウム粉末を用いてもよい。
【0033】
[49.0~294.0MPaの圧力で粉砕する工程]
上記原料水酸化アルミニウム粉末を49.0~294.0MPaの圧力で粉砕する。ここで「粉砕」とは、ある大きさの固体粒子(例えば一次粒子)に何らかのエネルギーを加えて、元の大きさよりも小さくする操作を意味する。
【0034】
49.0MPa以上の圧力で粉砕することにより、所望の第1の成型密度および第2の成型密度/第1の成型密度の比を得やすくなる。より好ましくは49.0MPa超であり、さらに好ましくは68.6MPa以上である。粉砕時の圧力の上限は特に制限されないが、生産性を考慮すると294.0MPa以下にしておくことが好ましい。
【0035】
上記圧力で粉砕する粉砕機としては、例えば、コニーダー、オンレーター、セルフクリーニング型捏和機、ギヤコンパウンダー、一軸式スクリュー型捏和機、二軸式スクリュー型捏和機等が挙げられる。当該装置は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を組合せて用いてもよい。また、粉砕機は回分式、連続式のいずれの形式も適用できるが、単位重量当りの粉砕エネルギーを低減する観点からは連続式が好ましい。連続式粉砕機を使用するとき、粉砕機内の原料水酸化アルミニウムが必ずしも全体的に粉砕されている必要はなく、例えば原料水酸化アルミニウムの移送方向(軸方向)に順次粉砕度が高くなるようにすればよい。スクリュー型捏和機の場合、圧縮能力は例えばスクリューの形状、長さや回転数、ローター(原料をスクリューに移送する作用をする。)の回転数等により調節することができる。
【0036】
粉砕機内には、固相として原料水酸化アルミニウム粉末が存在し、その他に、通常、気相として空気等、液相として水等が存在する。粉砕時における粉砕機内のそれらの状態が粉砕により得られる水酸化アルミニウム粉末の物性に影響を及ぼすことがあるので、粉砕は、固相、液相及び気相の充填形態が(a)固相及び気相が連続し液相が実質的に存在しないドライ(Dry)状態、(b)固相及び気相が連続で液相が不連続なペンデュラー(Pendular)状態又は(c)固相、気相及び液相が連続なファニキュラーI(Funicular I)状態で行われることが好ましい。このような充填形態は外観上、サラサラないしパサパサした混合系を構成している。
【0037】
粉砕は、粉砕時においてドライ状態、ペンデュラー状態又はファニキュラーI状態が達成されるように、原料水酸化アルミニウム粉末の含液率を粉砕前に調節してから行うことが好ましい。含液率の調節は、例えば、原料水酸化アルミニウム粉末を乾燥したり又は水、アルコール等の液体を添加したりして行えばよい。好ましい含液率は、原料水酸化アルミニウムの粒度分布等によって異なり一義的ではないが、例えば、30重量%以下、より好ましくは10重量%以下であり、また1重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。含液率が高くなり過ぎると、原料水酸化アルミニウムを効率的に粉砕することは困難となる。
【0038】
粉砕時に水等の液体を添加したり、水等を含む原料水酸化アルミニウム粉末を粉砕したとき、粉砕後の水酸化アルミニウム粉末には、通常、乾燥が施される。乾燥は例えば、公知の乾燥機を使う方法、又は粉砕を連続式粉砕機で行うときにはこの粉砕機の一部を加熱する方法等によって行うことができる。
【0039】
[92m/秒以下の衝突速度で解砕する工程]
上記工程後、92m/秒以下の衝突速度で解砕する。ここで「解砕」とは、細かい粒子が集まって一塊になっているもの(例えば二次粒子)を、ほぐして細かくする(例えば一次粒子にする)操作を意味する。
【0040】
解砕時の衝突速度を92m/秒以下にすることにより、所望の第2の成型密度/第1の成型密度の比を得やすくなる。例えば衝撃式の粉砕機等を用いることで、上記衝突速度で解砕することができる。
【0041】
[ケイ素またはチタンを含有させる工程]
上記3つの工程に加えて、さらにケイ素またはチタンを含有させてもよい。ケイ素またはチタンを含有させる方法としては、例えば、シランカップリング剤またはチタンカップリング剤で表面処理することが挙げられる。シランカップリング剤およびチタンカップリング剤としては公知の材料を用いることができ、解砕後の水酸化アルミニウム粉末に対して公知の方法で表面処理することができる。カップリング剤の添加量としては、水酸化アルミニウム粉末中のケイ素の含有量がSiO換算値で0.02~0.30質量%となるように、またはチタンの含有量がTiO換算値で0.01~0.30質量%となるように添加することが好ましい。ケイ素またはチタンを含有させる工程は、上記3つの工程のうち、いずれかの工程中に実施してもよいし、いずれかの工程の前または後に実施してもよい。
【0042】
シランカップリング剤又はチタンカップリング剤としては、溶解度パラメータ(SP値)が14.0~21.0MPa0.5である有機鎖または配位子を含むものを用いることが好ましい。これにより、第1の成型密度および第2の成型密度/第1の成型密度の比の向上に寄与し得る。上記シランカップリング剤又はチタンカップリング剤としては、例えばヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、8-メタクリルオキシオクチルトリメトキシシラン、7-オクテニルトリメトキシシラン、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネートが挙げられるがこれらに限定されない。
なお、上記SP値としては、カップリング剤のSi原子またはTi原子に隣接する最も鎖長の長い有機鎖または配位子のSP値をFedorsらが提案した方法によって計算した値を用いた。Fedorsらが提案した方法とは、具体的には「ROBERT F.FEDORS, A Method for Estimating Both the Solubility Parameters and Molar Volumes of liquids, POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE, 1974, Vol.14, No.2, p147-154」を参照して求められる値をMPa0.5単位に変換した値である。以下、特に説明なければ、「SP値」とは、上記のように計算した値を意味する。
【0043】
以上のように本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末の製造方法の一例を説明したが、本発明の実施形態に係る水酸化アルミニウム粉末の所望の特性を理解した当業者が試行錯誤を行い、本発明の実施形態に係る所望の特性を有する水酸化アルミニウム粉末を製造する方法であって、上記の製造方法以外の方法を見出す可能性がある。
【実施例
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0045】
原料水酸化アルミニウム粉末(D50:81μm、細孔累積容積:0.09mL/g)を水分率5wt%に調整し、粉砕機(一軸スクリュー型捏和機)に連続的に投入して粉砕した。粉砕機の圧力は、投入速度を調節して196.0MPaとした。なお、粉砕機の圧力については、別途同じ原料水酸化アルミニウム粉末を冷間等方圧プレスにて圧縮粉砕してプレス圧とD90の関係を調査しておき、粉砕後の水酸化アルミニウム粉末のD90から粉砕機の圧力を簡易的に求めている。
得られた粉砕物を、120℃で乾燥し、衝撃粉砕機(自由粉砕機、奈良機械製)に投入して解砕した。衝撃粉砕機の衝突速度は、46m/秒とした。
得られた解砕物100質量部に、カップリング剤溶液(水0.4質量部、エタノール3.6質量部、シランカップリング剤(オクタデシルトリメトキシシラン、東京化成工業製、SP値:17.0)1.0質量部の混合物)2.5質量部を添加し、遊星式撹拌機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて1000rpmで5分間混合した。その後、乾燥(120℃、90分間)して実施例1に係る水酸化アルミニウム粉末を得た。
【0046】
8-メタクリルオキシオクチルトリメトキシシラン(信越化学工業製、SP値:18.7)を用いたカップリング剤溶液2.0質量部を添加し、その他は実施例1と同様にして実施例2の水酸化アルミニウム粉末を得た。
【0047】
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive製、SP値:19.4)を用いたカップリング剤溶液1.5質量部を添加し、その他は実施例1と同様にして実施例3の水酸化アルミニウム粉末を得た。
【0048】
原料水酸化アルミニウム粉末(D50:65μm、細孔累積容積:0.14mL/g)を水分率5wt%に調整し、粉砕機(一軸スクリュー型捏和機)に連続的に投入して粉砕した。粉砕機の圧力は、投入速度を調節して196.0MPaとした。なお、粉砕機の圧力については、別途同じ原料水酸化アルミニウム粉末を冷間等方圧プレスにて圧縮粉砕してプレス圧とD90の関係を調査しておき、粉砕後の水酸化アルミニウム粉末のD90から粉砕機の圧力を簡易的に求めている。
得られた粉砕物を、120℃で乾燥し、衝撃粉砕機(自由粉砕機、奈良機械製)に投入して解砕した。衝撃粉砕機の衝突速度は、91m/秒とした。
得られた解砕物9000質量部に、カップリング剤(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive製、SP値:19.4)45質量部を添加し、高速流動混合機(株式会社カワタ、SMV-20)を用いて130℃で20分間撹拌して、実施例4に係る水酸化アルミニウム粉末を得た。
【0049】
カップリング剤溶液に、イソプロピルアルコールおよびチタンカップリング剤(イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、味の素ファインテクノ製、SP値:18.0)混合物(イソプロピルアルコール:チタンカップリング剤=4:1)のカップリング剤溶液1.5質量部を用い、その他は実施例1と同様にして実施例5の水酸化アルミニウム粉末を得た。
【0050】
イソプロピルアルコールおよびチタンカップリング剤(イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、味の素ファインテクノ製、SP値:18.8)の混合物(イソプロピルアルコール:チタンカップリング剤=4:1)のカップリング剤溶液2.0質量部を用い、その他は実施例1と同様にして実施例6の水酸化アルミニウム粉末を得た。
【0051】
原料水酸化アルミニウム粉末(D50:81μm、細孔累積容積:0.01mL/g)に、振動ミル(8mmφ鉄球)を施した。
得られた粉砕物100質量部に、カップリング剤(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive製、SP値:19.4)0.50質量部を添加し、ヘンシェルミキサーを用いて100℃で混合して、比較例1の水酸化アルミニウム粉末を得た。
【0052】
水分率5wt%に調整した市販の水酸化アルミニウム粉末(住友化学製、CW-308、D50:11μm)のウェットケークに、カップリング剤(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive製、SP値:19.4)を、水酸化アルミニウム粉末に対する添加量が0.50質量%となるように添加し、120℃の流動乾燥機でシランカップリング剤処理を行い、比較例2の水酸化アルミニウム粉末を得た。
【0053】
水分率20wt%に調整した市販の水酸化アルミニウム粉末(住友化学製、CL-303、D50:5.5μm)のウェットケークに、カップリング剤(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Momentive製、SP値:19.4)を、水酸化アルミニウム粉末に対する添加量が0.60質量%となるように添加し、120℃の流動乾燥機でシランカップリング剤処理を行い、比較例3の水酸化アルミニウム粉末を得た。
【0054】
実施例1~6および比較例1~3の水酸化アルミニウム粉末に対し、以下の方法により、第1の成型密度、第2の成型密度、質量基準粒度分布(D50及びD90含む)、BET比表面積、ケイ素・チタン・ナトリウム含有量(SiO・TiO・NaO換算)を求めた。
【0055】
[第1の成型密度]
水酸化アルミニウム粉末3.00gを内径20.0mmの円筒一軸成型用金型に入れ、万能材料試験機(エー・アンド・デイ(A&D)社製、TENSILON RTG-1310)を用い、当該水酸化アルミニウム粉末を圧縮速度1mm/分で10MPaの圧力になるまで圧縮充填し、重量/体積の比を第1の成型密度とした。
【0056】
[第2の成型密度]
水酸化アルミニウム粉末3.00gを内径20.0mmの円筒一軸成型用金型に入れ、万能材料試験機(エー・アンド・デイ(A&D)社製、TENSILON RTG-1310)を用い、当該水酸化アルミニウム粉末を圧縮速度1mm/分で0.5MPaの圧力になるまで圧縮充填し、重量/体積の比を第2の成型密度とした。
【0057】
[質量基準粒度分布(D50及びD90含む)]
水酸化アルミニウム粉末をイソプロピルアルコール中に加え、出力25Wの超音波を120秒間照射して水酸化アルミニウム粉末を水溶液中に分散させたものに対して、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて質量基準粒度分布(D50およびD90含む)を求めた。該粒度分布は、粒子径0.02μm~2000μmの範囲を対数スケールで132分割し、各区間の粒子径を有する水酸化アルミニウムの質量を測定して求めた。レーザー散乱式粒子径分布測定装置としては、機器間差および本実施例等との整合性を考慮すると、マイクロトラックMT-3300EXII(日機装社製)を使用した。また、粒度分布測定時において、水酸化アルミニウム粉末の濃度を上記測定装置の測定可能濃度に適宜調整した上で測定した。
【0058】
[BET比表面積]
JIS-Z-8830:2013に規定された方法に従って、全自動比表面積測定装置(Mountech社製、Macsorb HM-1201)を用いて窒素吸着法によりBET比表面積を求めた。
【0059】
[ケイ素・チタン・ナトリウム含有量(SiO・TiO・NaO換算)]
水酸化アルミニウム粉末を無機酸の水溶液に溶解させて水溶液を調製した後、ICP発光分光分析装置を用いてケイ素、チタンおよびナトリウムの含有量を求めた。具体的には、ケイ素の波長(251.611nm)、チタンの波長(334.940nm)およびナトリウムの波長(589.592nm)の強度を測定し、それぞれSiO、TiOおよびNaOに換算して、SiO、TiOおよびNaOの質量を算出し、溶解させた水酸化アルミニウム粉末の質量に対する該SiO、TiOおよびNaOの質量の比を、それぞれケイ素、チタンおよびナトリウムの含有量(質量%)とした。
【0060】
さらに以下の方法で樹脂粘度を求めた。
水酸化アルミニウム粉末6.25質量部とビスフェノールA型エポキシ樹脂混合物(AQ010-8140、常温硬化樹脂 53型主剤)1.56質量部を遊星式撹拌機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて1000rpmで3分間混合し、コンパウンドを得た。動的粘弾性測定装置(Rheosol-G3000)に直径30mmパラレルプレートを装着し、ここへ上記コンパウンドをセットした。パラレルプレートのギャップを0.50mm、温度100℃の条件にて10分間静置した後に、せん断速度40s-1における樹脂粘度を測定した。樹脂粘度が高く、パラレルプレートをギャップ0.50mmまで降下できないものは測定不可とした。
結果を以下の表1にまとめる。なお、表1において、「SiO含有量」はSiO換算値で表したケイ素含有量であり、「TiO含有量」はTiO換算値で表したチタン含有量であり、「NaO含有量」はNaO換算値で表したナトリウム含有量である。表2において、「第2のピーク」の欄の「-」は、第2のピークが存在しなかったことを意味する。表1において、「樹脂粘度」の欄の「測定不可」は、高粘度のために粘度が測定できなかったことを意味する。
【0061】
【表1】
【0062】
表1の結果より、次のように考察できる。表1の実施例1~6は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件の全てを満足する例であり、樹脂粘度が35Pa・s以下であり、樹脂粘度の上昇を十分に抑制できた。またD90が100μm未満であるため、樹脂成形体に充填したときの外観不良を十分に抑制することができ、また樹脂成形体の強度を十分に確保しやすくなる点で、好ましい例であった。
一方、比較例1~3は、本発明の実施形態で規定する要件を満たしていない例であり、特に樹脂粘度が35Pa・s超であり、樹脂粘度の上昇を十分に抑制できなかった。
【0063】
比較例1は、水酸化アルミニウム粉末の製造過程において振動ミル工程が行われており、第2の成型密度/第1の成型密度の比が0.875未満であったため、樹脂粘度が35Pa・s超となり、樹脂粘度の上昇を十分に抑制できなかった。
【0064】
比較例2は、第1の成型密度が1.60g/cm未満であったため、樹脂粘度が35Pa・s超となった。恐らくは、水酸化アルミニウム粉末の製造過程において、粉砕工程を行わなかったこと等により、第1の成型密度が1.60g/cm未満になり、樹脂粘度の上昇を十分に抑制できなかったと考えられる。
【0065】
比較例3は、第1の成型密度が1.60g/cm未満であったため、樹脂粘度が35Pa・s超となった。恐らくは、水酸化アルミニウム粉末の製造過程において、少なくとも原料アルミニウムのD50が10μm未満であったため、第1の成型密度が1.60g/cm未満になり、樹脂粘度の上昇を十分に抑制できなかったと考えられる。