IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧 ▶ AGCエスアイテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-中空シリカ粒子及びその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】中空シリカ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/12 20060101AFI20250520BHJP
   C01B 33/193 20060101ALI20250520BHJP
【FI】
C01B33/12 Z
C01B33/193
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022503621
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2021006698
(87)【国際公開番号】W WO2021172294
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2020032046
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020161378
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020161379
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390005728
【氏名又は名称】AGCエスアイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】加茂 博道
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅史
(72)【発明者】
【氏名】片山 肇
【審査官】福田 浩生
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-136363(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103937241(CN,A)
【文献】特開2010-260755(JP,A)
【文献】特開2010-222147(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107176610(CN,A)
【文献】国際公開第2019/131658(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/46
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを含むシェル層を備え、前記シェル層の内部に空間部を有する中空シリカ粒子であって、
赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度が0.60以下であり、1GHzでの比誘電率が1.3~5.0であり、かつ1GHzでの誘電正接が0.0001~0.05であり、
細孔容積が0.2cm /g以下である、中空シリカ粒子。
【請求項2】
ヘリウムガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定により求めた粒子の密度が2.00~2.30g/cmである、請求項1に記載の中空シリカ粒子。
【請求項3】
アルゴンガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定により求めた粒子の密度が0.35~2.00g/cmである、請求項1又は2に記載の中空シリカ粒子。
【請求項4】
平均一次粒子径が50nm~10μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空シリカ粒子。
【請求項5】
BET比表面積が1~300m/gである、請求項1~4のいずれか1項に記載の中空シリカ粒子。
【請求項6】
真球度が0.75~1.0である、請求項1~5のいずれか1項に記載の中空シリカ粒子。
【請求項7】
吸油量が15~1300mL/100gである、請求項1~6のいずれか1項に記載の中空シリカ粒子。
【請求項8】
二次粒子のメディアン径が0.20~60μmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の中空シリカ粒子。
【請求項9】
二次粒子の粗大粒径(D90)が1~100μmである、請求項1~8のいずれか1項に記載の中空シリカ粒子。
【請求項10】
前記中空シリカ粒子の表面が、シランカップリング剤で表面処理されている、請求項1~のいずれか1項に記載の中空シリカ粒子。
【請求項11】
前記中空シリカ粒子が、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mを含有し、前記中空シリカ粒子に含まれる金属Mの濃度が、50質量ppm以上5質量%以下である、請求項1~1のいずれか1項に記載の中空シリカ粒子。
【請求項12】
コアの外周にシリカを含むシェル層を形成して中空シリカ前駆体を得て、前記中空シリカ前駆体からコアを除去し、800℃以上で熱処理し、熱処理後の粒子に対してシランカップリング剤で表面処理する、
細孔容積が0.2cm /g以下である、中空シリカ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリカ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、信号の高速化および配線の高密度化が求められている。この要求を満たすために、接着フィルム、プリプレグ等の絶縁樹脂シート、並びにプリント配線板に形成される絶縁層に用いられる樹脂組成物を、低比誘電率化、低誘電正接化、低熱膨張化することが求められている。
【0003】
これらの要求を満たすために、充填材として中空粒子を用いた検討が行われており、種々の提案がなされている。例えば特許文献1では、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)中空シリカ、および(D)溶融シリカを含有する樹脂組成物が記載されている。また、特許文献2では、中空粒子と熱硬化性樹脂とを含有する低誘電樹脂組成物において、中空粒子として、シェル全体の98質量%以上がシリカで形成されており、平均空隙率が30~80体積%であり、かつ平均粒径が0.1~20μmである低誘電樹脂組成物が記載されている。
【0004】
また、低比誘電率材料として使用される中空シリカ材料についても種々提案がされており、例えば特許文献3には、気孔を有するシェルを有する閉空洞構造を有し、空洞容積率が0~86%、比誘電率が1.5~3.3、20~43.5GHz周波数帯域での流動のための比誘電率が1.5~3.3、誘電損失角正接が0.0005~0.004である中空シリカ材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2013-173841号公報
【文献】日本国特開2008-031409号公報
【文献】中国特許出願公開第111232993号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の中空シリカ粒子は、溶媒に添加したとき、粒子内部に溶媒が浸透してしまい、目的とする利用ができなくなるということがあった。例えば、中空シリカ粒子をメチルエチルケトンに添加した場合、粒子内部にメチルエチルケトンが含浸して、組成物の粘度が上がってしまい、中空シリカ粒子の添加量が上げられず、十分な低比誘電率化が達成できなかった。
【0007】
また、特許文献3に記載された中空シリカ材料は、その実施例では、テンプレートの無機化合物に対してシリカを被覆し、テンプレートを除去したのち、シリカゾルを添加して熟成し、中空シリカ粒子を得ているが、この方法ではテンプレートの無機化合物が凝集しやすく、一次粒子同士の凝集や、凝集径を制御できない問題があった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、比誘電率および誘電正接のいずれもが十分に小さく、また分散性にも優れる、新たな中空シリカ粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記(1)~(13)に関するものである。
(1)シリカを含むシェル層を備え、前記シェル層の内部に空間部を有する中空シリカ粒子であって、赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度が0.60以下であり、1GHzでの比誘電率が1.3~5.0であり、かつ1GHzでの誘電正接が0.0001~0.05である中空シリカ粒子。
(2)ヘリウムガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定により求めた粒子の密度が2.00~2.30g/cmである、前記(1)に記載の中空シリカ粒子。
(3)アルゴンガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定により求めた粒子の密度が0.35~2.00g/cmである、前記(1)又は(2)に記載の中空シリカ粒子。
(4)平均一次粒子径が50nm~10μmである、前記(1)~(3)のいずれか1つに記載の中空シリカ粒子。
(5)BET比表面積が1~300m/gである、前記(1)~(4)のいずれか1つに記載の中空シリカ粒子。
(6)真球度が0.75~1.0である、前記(1)~(5)のいずれか1つに記載の中空シリカ粒子。
(7)吸油量が15~1300mL/100gである、前記(1)~(6)のいずれか1つに記載の中空シリカ粒子。
(8)二次粒子のメディアン径が0.20~60μmである、前記(1)~(7)のいずれか1つに記載の中空シリカ粒子。
(9)二次粒子の粗大粒径(D90)が1~100μmである、前記(1)~(8)のいずれか1つに記載の中空シリカ粒子。
(10)細孔容積が0.2cm/g以下である前記(1)~(9)のいずれか1つに記載の中空シリカ粒子。
(11)前記中空シリカ粒子の表面が、シランカップリング剤で表面処理されている、前記(1)~(10)のいずれか1つに記載の中空シリカ粒子。
(12)前記中空シリカ粒子が、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mを含有し、前記中空シリカ粒子に含まれる金属Mの濃度が、50質量ppm以上5質量%以下である、前記(1)~(11)のいずれか1つに記載の中空シリカ粒子。
(13)コアの外周にシリカを含むシェル層を形成して中空シリカ前駆体を得て、前記中空シリカ前駆体からコアを除去し、800℃以上で熱処理し、熱処理後の粒子に対してシランカップリング剤で表面処理する中空シリカ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、緻密なシェル層を有した、比誘電率および誘電正接のいずれもが十分に小さい、中空シリカ粒子を提供できる。本発明の中空シリカ粒子はメチルエチルケトンやN-メチルピロリドンなどの溶媒が浸透し難いので、樹脂組成物中でも優れた低比誘電率および低誘電正接が発揮できる。また、適度な凝集径を持っており、樹脂への分散性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、例1で得られた中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡像(SEM像)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明するが、以下の説明における例示によって本発明は限定されない。
【0013】
(中空シリカ粒子)
本発明の中空シリカ粒子は、シリカを含むシェル層を備え、シェル層の内部に空間部を有する。中空シリカ粒子がシェル層の内部に空間部を持つことは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察や走査型電子顕微鏡(SEM)観察により確認できる。SEM観察の場合は、一部が開口した破損粒子を観察することにより、中空であることが確認できる。TEM観察やSEM観察によって確認できる、内部に空間部を持つ球状の粒子を「一次粒子」と定義する。なお、中空シリカ粒子は、焼成や乾燥の工程によって一次粒子同士が一部結合するため、製造で得られた中空シリカ粒子は一次粒子が凝集した二次粒子の集合体となっていることが多い。
【0014】
本明細書において、シェル層が「シリカを含む」とは、シリカ(SiO)が50質量%以上含まれることを意味する。シェル層の組成は、ICP発光分析法やフレーム原子吸光法などによって測定できる。シェル層が含むシリカは80質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。上限は理論的に100質量%である。シェル層が含むシリカは100質量%未満が好ましく、99.99質量%以下がより好ましい。残分としてはアルカリ金属酸化物およびケイ酸塩、アルカリ土類金属酸化物およびケイ酸塩、カーボン等が挙げられる。
また、「シェル層の内側に空間部を有する」とは、1個の一次粒子の断面を観察した際に、1個の空間部の周囲をシェル層が囲んでいる中空状態を意味する。すなわち中空粒子1個は、大きな空間部を1個とそれを取り囲むシェル層とを有する。
【0015】
本発明の中空シリカ粒子は、赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOH(シラノール基)に由来するピーク強度が0.60以下であり、1GHzでの比誘電率が1.3~5.0であり、かつ1GHzでの誘電正接が0.0001~0.05である。赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度と、比誘電率、誘電正接が前記の関係を満たすことで、低い誘電損失を有し、高周波回路に十分対応できる基板を提供できる。
【0016】
赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度は0.60以下である。前記SiOHに由来するピーク強度が0.60より大きいと、SiOHに由来した誘電正接の成分が多く発現し、誘電正接が悪化する傾向になる。前記波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度は、0.40以下であることが好ましく、0.30以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましく、0.10以下が特に好ましい。波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度は低いほど誘電正接が下げられるためその下限は低いほどよく、下限は特に限定されない。
【0017】
ここで、「付近」とは、波数3746cm-1付近の場合は、ピーク中心の波数が3746cm-1で、その前後の幅が14cm-1である波数3732cm-1から波数3760cm-1の範囲をいう。他の波数についても同様である。
【0018】
赤外分光法による波数3746cm-1付近のSiOHに由来するピーク強度は、拡散反射法によりFT-IRスペクトルにおいて、SiOHの吸収(波数3746cm-1付近)強度を、波数1060cm-1付近の各種SiOHに由来するピーク強度を1として規格化することにより求めることができる。
【0019】
本発明の中空シリカ粒子は、1GHzでの比誘電率が1.3~5.0である。特に粉体の誘電率測定において、10GHz以上ではサンプルスペースが小さくなり測定精度が悪化するので、本発明では1GHzでの測定値を採用する。1GHzでの比誘電率が前記範囲であると、電子機器に求められる低比誘電率を達成できる。なお、1GHzでの比誘電率が1.3未満の中空シリカ粒子を合成することは、実質的に困難である。
1GHzでの比誘電率は、下限が1.4以上であることが好ましく、1.5以上がより好ましい。また上限は4.5以下であることが好ましく、4.0以下がより好ましく、3.5以下がさらに好ましく、3.0以下が特に好ましく、2.5以下が最も好ましい。
【0020】
また、本発明の中空シリカ粒子は、1GHzでの誘電正接が0.0001~0.05である。1GHzでの誘電正接が0.05以下であると、電子機器に求められる低比誘電率を達成できる。また、1GHzでの誘電正接が0.0001未満の中空シリカ粒子を合成することは、実質的に困難である。
1GHzでの誘電正接は、下限が0.0005以上であることが好ましく、0.0006以上がより好ましい。また上限は0.04以下であることが好ましく、0.03以下がより好ましく、0.02以下がさらに好ましく、0.01以下がよりさらに好ましく、0.005以下が特に好ましく、0.003以下が最も好ましい。
【0021】
比誘電率及び誘電正接は、専用の装置(例えば、キーコム株式会社製「ベクトルネットワークアナライザ E5063A」)を用い、摂動方式共振器法にて測定できる。
【0022】
本発明の中空シリカ粒子は、ヘリウムガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定(以下、ヘリウムピクノメーター法ともいう。)により求めた中空シリカ粒子の密度が、2.00~2.30g/cmであることが好ましい。
ヘリウムピクノメーター法により求めた密度により、中空シリカ粒子のシェル層が細孔を有しているか否かが分かる。ヘリウムピクノメーター法により求めた中空シリカ粒子の密度が2.00g/cm以上であると、ヘリウムガスが粒子内部に侵入し、内部の空間部に留まった状態であることがわかるので、シェル層が細孔を有していることが分かる。
【0023】
ヘリウムピクノメーター法により求めた中空シリカ粒子の密度が2.00g/cm以上であるとシェル層が緻密なシリカ層となって、中空シリカ粒子が破損し難くなり、2.30g/cm以下であると結晶性が低い非晶質のシリカ質となり、比誘電率が低く抑えられる。ヘリウムピクノメーター法により求めた中空シリカ粒子の密度は、下限は2.05g/cm以上であることがより好ましく、2.07g/cm以上がさらに好ましく、2.09g/cm以上が特に好ましく、2.10g/cm以上が最も好ましく、また上限は2.25g/cm以下であることがより好ましい。
【0024】
そして、本発明の中空シリカ粒子は、アルゴンガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定(以下、アルゴンピクノメーター法ともいう。)により求めた中空シリカ粒子の密度が、0.35~2.00g/cmであることが好ましい。
アルゴンピクノメーター法により求めた密度により、中空シリカ粒子が中空であるか否かが分かる。アルゴンガスはヘリウムガスよりも分子サイズが大きいので、シェル層が緻密であると該シェル層を通過することができず、粒子の見かけ密度が測定される。
【0025】
アルゴンピクノメーター法により求めた中空シリカ粒子の密度が2.00g/cm以下であると、見かけ上の密度がシリカの真密度(約2.20g/cm)よりも小さいので、粒子内部に空間部があると判断できる。また、密度が0.35g/cm以上であると、中空シリカ粒子のシェル強度を保てる。
また、アルゴンピクノメーター法で求めた密度が、ヘリウムピクノメーター法で求めた密度より低いことで、中空シリカ粒子の内部を微小な気体分子が行き来できるため、粒子内部が常圧となる。ガラスバルーンのように非常に緻密なシェル(殻)をもつ粒子では、粒子内部と大気との圧力差があるため、樹脂組成物とする際に、攪拌や混練などの操作を行うと破砕しやすいが、本発明の中空シリカ粒子は粒子内部と大気との圧力差が小さいため、前記操作によって破砕されにくい。
【0026】
アルゴンピクノメーター法により求めた中空シリカ粒子の密度は、粒子のシェルの強度の観点から、下限は0.40g/cm以上であることがより好ましく、0.50g/cm以上が最も好ましい。また上限は、空気の含有率を保ち、比誘電率の上昇を抑制するという観点から、1.70g/cm以下であることがより好ましく、1.60g/cm以下がさらに好ましく、1.50g/cm以下が特に好ましく、1.40g/cm以下が最も好ましい。
【0027】
中空シリカ粒子の見かけ密度は比重瓶を用いて測定することもできる。比重瓶に試料(中空シリカ粒子)と有機溶媒を入れ、25℃で48時間静置後測定する。中空シリカ粒子のシェルの緻密度によっては有機溶媒の浸透に時間を要することもあるため、上記の時間静置することが好ましい。この方法で測定した結果は、アルゴンガスを用いた乾式ピクノメーターによる密度測定の結果と対応する。
【0028】
本発明の中空シリカ粒子は一次粒子径と殻の厚みを調整することで、粒子の見かけ密度を調整できる。粒子の密度を変えることで、溶媒中に沈降するか、分散し続けるか、上に浮くかを調整できる。溶媒中に分散させたい場合は、溶媒の密度と粒子の見かけ密度が近いことが望ましい。例えば、密度が1.0g/cmの水に分散させたい場合は、粒子の見かけ密度を0.8g/cm以上1.2g/cm以下に調整するのが好ましい。
【0029】
中空シリカ粒子の試料中、シェル層が破損せず、内部に空間部を保有している完全な中空粒子の割合を中空粒子率という。本発明の中空シリカ粒子はシェル層が緻密であるため、各種溶媒やアルゴンガスおよびアルゴン分子より動的分子径が大きいガスは浸透し難いものであるが、シェル層が破損した粒子(破損粒子)が存在すると、その内部に侵入する。よって、中空粒子率で見かけ密度が変化する。中空粒子率が高いほど中空シリカ試料の見かけ密度は小さくなり、中空粒子率が低いほど、中空シリカ試料の見かけ密度は高くなる。これを利用して、収率100%と仮定したとき、原料の仕込み量から求められる理論的な密度と、乾式ピクノメーターで測定した見かけ密度から中空粒子率が求められる。
また、中空シリカ粒子を製造する際の、オイルコアを除去する前のろ過後のケーキを用いて、熱処理時の重量変化からも中空粒子率は求められる。ろ過後のケーキをほぐして一晩乾燥すると、破損粒子内のオイル成分は揮発し、完全な中空粒子内のオイル成分は保持される。仕込んだオイル成分が全て揮発した場合(中空粒子率0%)と、全て保持された場合(中空粒子率100%)の熱処理時の重量変化量を原料の仕込み量から計算できるので、ろ過後1晩乾燥した試料を800℃まで熱処理したときの重量変化から中空粒子率が求められる。
【0030】
中空シリカ粒子の一次粒子の大きさは、SEM観察によりその粒子径(直径)を直接観察することによって求められる。具体的には、SEM画像より100個の粒子の一次粒子の大きさを測定し、それらを集計して得られた一次粒子の大きさの分布を、全体の一次粒子の大きさの分布と推定する。SEM観察により、解凝集が難しい粒子の一次粒子径を直接測定できる。
この一次粒子の大きさは、凝集粒子の粒子表面状態に反映されるため、比表面積および吸油量を決めるパラメータとなる。
【0031】
一次粒子の大きさの平均値(平均一次粒子径)は50nm~10μmの範囲であることが好ましい。平均一次粒子径が50nm未満であると、比表面積、吸油量および細孔容積が上昇し、粒子表面のSiOH量と吸着水が増え、誘電正接が上昇しやすくなる。また、平均一次粒子径が10μm以下であると、フィラーとしての取り扱いがしやすい。
平均一次粒子径は、製造再現性の観点から、下限は、70nm以上であることがより好ましく、100nm以上が最も好ましく、また上限は、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下が特に好ましい。
【0032】
中空シリカ粒子は、BET比表面積が1~300m/gであることが好ましい。BET比表面積が1m/g以上であると樹脂組成物とした際に樹脂との密着性が確保でき、300m/g以下であると吸油量を抑え、吸着水を減らすことができる。
緻密なシェルができるほど比表面積は小さくなることから、BET比表面積は、200m/g以下であることがより好ましく、100m/g以下がさらに好ましく、50m/g以下が特に好ましく、30m/g以下が最も好ましい。また、BET比表面積は、2m/g以上であることがより好ましく、3m/g以上が最も好ましい。
【0033】
比表面積の値は中空シリカの一次粒子径とシェルの厚みに比例する。一次粒子の半径をr、シェルの厚みをdとしたとき、BET比表面積の値は、3r/(r-(r-d))×2.2以上であることが好ましい。
【0034】
ここで、BET比表面積の測定は、比表面積測定装置(例えば、株式会社島津製作所製「トライスターII3020」)を用い、前処理として中空シリカ粒子を230℃で50mTorrとなるまで乾燥させた後、液体窒素を用いた多点法で測定できる。
【0035】
中空シリカ粒子の真球度は、0.75~1.0であることが好ましい。真球度が低くなると、中空シリカ粒子が破損しやすくなり、アルゴンピクノメーター法による密度が低下して、比表面積が大きくなり、誘電正接が上昇する場合がある。
真球度は、走査型電子顕微鏡(SEM)により写真撮影して得られる写真投影図における任意の100個の粒子について、それぞれの最大径(DL)と、これと直交する短径(DS)とを測定し、最大径(DL)に対する最小径(DS)の比(DS/DL)を算出した平均値で表すことができる。
光散乱性や触感などの観点から、真球度は、0.80以上であることがより好ましく、0.82以上がさらに好ましく、0.83以上がよりさらに好ましく、0.85以上が特に好ましく、0.87以上が殊更に好ましく、0.90以上が最も好ましい。
【0036】
中空シリカ粒子のシェル厚さは、一次粒子の直径1に対して、0.01~0.3であることが好ましい。シェル厚さが一次粒子の直径1に対して0.01より小さいと、中空シリカ粒子の強度が低下することがある。この比が0.3より大きいと、内部の空間部が小さくなってしまい、中空形状であることによる特性が出なくなってしまう。
シェル厚さは、一次粒子の直径1に対して、0.02以上であることがより好ましく、0.03以上がさらに好ましく、また0.2以下であることがより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
【0037】
ここで、シェル厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって個々の粒子のシェル厚さを測定することによって求められる。
【0038】
中空シリカ粒子は内部に空間部を有するため、粒子内部に物質を内包できる。本発明の中空シリカ粒子はシェル層が緻密であるため各種溶媒が浸透し難いものであるが、破損粒子が存在すると、内部に溶媒が浸入する。よって、破損粒子の割合で吸油量が変化する。
【0039】
中空シリカ粒子の吸油量は、15~1300mL/100gであることが好ましい。吸油量が15mL/100g以上であると樹脂組成物に用いた際に樹脂との密着性が確保でき、1300mL/100g以下であると樹脂組成物に用いた際に樹脂の強度が担保でき、組成物の粘度を低下できる。
吸油量が多いと粘性が高くなることから、中空シリカ粒子の吸油量は、1000mL/100g以下であることがより好ましく、700mL/100g以下がさらに好ましく、500mL/100g以下が特に好ましく、200mL/100g以下が最も好ましい。また、吸油量が低すぎると粉体と樹脂との密着性が悪化する場合があるため、20mL/100g以上であることがより好ましい。
【0040】
なお、上記したような破損粒子の割合と吸油量との関係から、破損粒子の割合を調整することで吸油量を調整できる。さらに、一次粒子間の空間も油を保持できる空間であることから、一次粒子が凝集した二次粒子のメディアン径が大きいと吸油量が多くなり、二次粒子のメディアン径が小さいと吸油量が少なくなることが考えられる。
【0041】
中空シリカ粒子の二次粒子のメディアン径は、0.20~60μmであることが好ましい。
メディアン径が小さすぎると、樹脂組成物とした際に粘度が上がったり、分散性が悪化する場合があるため、0.20μm以上であることが好ましく、0.25μm以上がより好ましく、0.30μm以上がさらに好ましい。また、メディアン径が大き過ぎると、樹脂組成物を膜に成型した際、粒立ちの原因となるため、60μm以下であることが好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下が特に好ましく、10μm以下が最も好ましい。
【0042】
二次粒子の粒径(一次粒子の凝集時の凝集径)はレーザー散乱によって測定することが好ましい。SEMによって凝集径を測定することは、粒子間の境目が不明瞭で、ウエットな状態での分散を反映しないためである。また、コールターカウンターによる測定では、中空粒子と中実粒子での電場変化が異なり、中実粒子に対して対応した数値を出すことが困難であるためである。
【0043】
中空シリカ粒子の二次粒子の粗大粒径(D90)は、1~100μmであることが好ましい。粗大粒径が小さい粒子を作製する場合は、反応液中のシリカ源の濃度を下げる必要があり、生産性が悪化するため、生産効率の観点から、粗大粒径は1μm以上であることが好ましい。また、粗大粒径が大きすぎると、樹脂組成物を膜に成型した際、粒立ちの原因となるため、100μm以下であることが好ましい。粗大粒径は、下限は3μm以上であることがより好ましく、5μm以上が最も好ましく、また上限は70μm以下であることがより好ましく、60μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましく、30μm以下が最も好ましい。
【0044】
なお、粗大粒径も上記したように、レーザー散乱によって二次粒子の粒径を測定することにより求められる。
【0045】
中空シリカ粒子の細孔容積は、0.2cm/g以下であることが好ましい。
細孔容積が0.2cm/gより大きいと、水分を吸着しやすくなり、樹脂組成物の誘電損失が悪化することがある。細孔容積は、0.15cm/g以下であることがより好ましく、0.1cm/g以下がさらに好ましく、0.05cm/g以下が特に好ましい。
【0046】
中空シリカ粒子の表面は、シランカップリング剤によって処理されていることが好ましい。
中空シリカ粒子の表面がシランカップリング剤によって処理されていることで、表面シラノール基の残存量が少なくなり、表面が疎水化され、水分吸着を抑えて誘電損失を向上できるとともに、樹脂組成物とする際に、樹脂との親和性が向上し、分散性や、樹脂製膜後の強度が向上する。
【0047】
シランカップリング剤の種類としては、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、オルガノシラザン化合物等が挙げられる。シランカップリング剤は1種類を単独で用いてもよいし2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
シランカップリング剤の付着量としては、中空シリカ粒子の粒子100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2質量部以上がさらに好ましく、また10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0049】
中空シリカ粒子の表面がシランカップリング剤で処理されていることはIRによるシランカップリング剤の置換基によるピークの検出により確認できる。また、シランカップリング剤の付着量は、炭素量の測定や、熱重量測定(TG)により測定できる。
【0050】
中空シリカ粒子は、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mを含有することが好ましい。中空シリカ粒子に金属Mが含まれることで、焼成時にフラックスとして働き、比表面積が低下して誘電正接を低くできる。
金属Mは中空シリカ粒子の製造において、反応工程から洗浄工程の間に含有される。例えば、反応工程において、シリカのシェルを形成する際の反応溶液中に前記金属Mの金属塩を添加することや、中空シリカ前駆体を焼き締めする前に前記金属Mの金属イオンを含む溶液で洗浄することにより、中空シリカ粒子に金属Mを含有できる。
【0051】
中空シリカ粒子に含まれる金属Mの濃度は、50質量ppm以上5質量%以下であることが好ましい。金属Mの濃度が50質量ppm以上であると焼成時のフラックス効果により結合シラノール基の縮合が促進され、残存するシラノール基を減らせるので、誘電正接を低下できる。金属Mの濃度が高すぎると、シリカと反応してケイ酸塩となる成分が多くなり、中空シリカ粒子の吸湿性が悪化する場合があるため、5質量%以下で含有することが好ましい。金属Mの濃度は、100質量ppm以上がより好ましく、150ppm以上がより好ましく、また、1質量%以下が好ましく、5000質量ppm以下が好ましく、1000質量ppm以下が最も好ましい。
【0052】
金属Mの測定方法は、中空シリカ粒子に過塩素酸とフッ酸を加えて強熱し主成分のケイ素を除去したのちにICP発光分析で測定できる。
また、シリカ原料としてアルカリ金属ケイ酸塩を用いる場合は、シリカ原料としてケイ素アルコキシドを用いる場合に比べて、得られる中空シリカ粒子のシェル層に原料由来の炭素(C)成分は少なくなる。
【0053】
(中空シリカ粒子の製造方法)
本発明の中空シリカ粒子の製造方法としては、例えば、水相、油相、及び界面活性剤を含む水中油型エマルションを用い、エマルション中で中空シリカ前駆体を得て、この前駆体から中空シリカ粒子を得る方法が挙げられる。この水中油型エマルションは、水中に油相が分散したエマルションであり、このエマルションにシリカ原料が添加されると油滴にシリカ原料が付着し、オイルコア-シリカシェル粒子を形成できる。
【0054】
本発明の中空シリカ粒子の製造方法は、コアの外周にシリカを含むシェル層を形成して中空シリカ前駆体を得て、前記中空シリカ前駆体からコアを除去し、800℃以上で熱処理し、熱処理後の粒子に対してシランカップリング剤で表面処理することを含む。前記中空シリカ前駆体を得る際には、水相、油相、及び界面活性剤を含む水中油型エマルションに第1のシリカ原料を添加し、1段目シェルを形成し、1段目シェルが形成されたエマルションに第2のシリカ原料を添加し、2段目シェルを形成し、中空シリカ前駆体を得ることが好ましい。
以下、水中油型エマルションを単にエマルションとも記す。また、第1のシリカ原料が添加されて生成しかつ第2のシリカ原料が添加される前のオイルコア-シリカシェル粒子が分散した分散液、及び、第2のシリカ原料が添加された後のオイルコア-シリカシェル粒子が分散した分散液も、エマルションと記すことがある。後者の第2のシリカ原料が添加された後のオイルコア-シリカシェル粒子が分散した分散液は中空シリカ前駆体分散液と同等のものであってもよい。
【0055】
<1段目シェルの形成>
まず、水相、油相、及び界面活性剤を含む水中油型エマルションに第1のシリカ原料を添加し、1段目シェルを形成する。
【0056】
エマルションの水相は、主として水を溶媒として含む。水相には、水溶性の有機液体、水溶性樹脂等の添加剤がさらに添加されてもよい。水相における水の割合は50~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましい。
【0057】
エマルションの油相は、水相成分と相溶しない非水溶性の有機液体を含むことが好ましい。この有機液体がエマルション中で液滴となり、中空シリカ前駆体のオイル-コア部分を形成する。
【0058】
有機液体としては、例えば、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、イソノナン、n-ペンタン、イソペンタン、n-デカン、イソデカン、n-ドデカン、イソドデカン、ペンタデカン等の脂肪族炭化水素類、もしくはそれらの混合物であるパラフィン系基油、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂環式炭化水素類、もしくはそれらの混合物であるナフテン系基油、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、メシチレン、テトラリン、スチレン等の芳香族炭化水素類、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-n-アミル、酢酸イソアミル、乳酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル等のエステル類、パーム油、大豆油、菜種油等の植物油、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル等のフッ素系溶剤等が挙げられる。また、シェル形成反応温度で疎水性液体となるポリオキシアルキレングリコールを用いることもできる。例えば、ポリプロピレングリコール(分子量1000以上)、オキシエチレン単位の割合が20質量%未満で、曇点(1質量%水溶液)が40℃以下、好ましくは、20℃以下のポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体などが挙げられる。中でも、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン型のブロック共重合体が好ましく用いられる。
これらは単独で、又は、単一相で油相を形成する範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
有機液体としては、炭素数8~16、特に炭素数9~12の炭化水素が好ましい。有機液体は、操作性、火気への安全性、中空シリカ前駆体と有機液体との分離性、中空シリカ粒子の形状特性、水への有機液体の溶解性などを総合的に考慮して選定される。炭素数が8~16の炭化水素は、その化学的安定性が良好であれば、直鎖状、分岐状又は環状の炭化水素であってよく、炭素数の異なる炭化水素を混合して用いてもよい。炭化水素としては、飽和炭化水素が好ましく、直鎖状飽和炭化水素がより好ましい。
【0060】
有機液体の引火点としては、20℃以上のものが好ましく、40℃以上のものが好ましい。引火点が20℃未満の有機液体を用いる場合、引火点が低すぎるため、防火上、作業環境上の対策が必要である。
【0061】
エマルションは、乳化安定性を高めるために、界面活性剤を含む。界面活性剤は、水溶性又は水分散性が好ましく、水相へ添加して用いることが好ましい。好ましくは、非イオン性界面活性剤である。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、下記の界面活性剤を挙げることができる。
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体系界面活性剤、
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤:ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、
ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル系界面活性剤:ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル、
ポリオキシエチレン脂肪族エステル系界面活性剤:ポリオキシエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレングリコールモノオレエート、
グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤:ステアリン酸モノグリセライド、オレイン酸モノグリセライド。
さらに、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル系界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系界面活性剤等を用いてもよい。
これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
上記した非イオン性界面活性剤のなかでも、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体系界面活性剤を好ましく用いることができる。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体は、ポリオキシエチレンブロック(EO)とポリオキシプロピレンブロック(PO)とが結合したブロック共重合体である。ブロック共重合体としては、EO-PO-EOブロックコポリマー、EO-POブロックコポリマー等が挙げられ、好ましくはEO-PO-EOブロックコポリマーである。EO-PO-EOブロックコポリマーのオキシエチレン単位の割合は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体の重量平均分子量は、3,000~27,000が好ましく、6,000~19,000がより好ましい。
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体全体に対して、ポリオキシエチレンブロックの合計量は40~90質量%が好ましく、ポリオキシプロピレンブロックの合計量は10~60質量%が好ましい。
【0063】
界面活性剤の使用量は、界面活性剤の種類、界面活性剤の親水性あるいは疎水性の程度を表す指標であるHLB(Hydrophile-lipophile balance)、目的とするシリカ粒子の粒子径等の条件により異なるが、水相中の含有量が500~20,000質量ppmが好ましく、1,000~10,000質量ppmがより好ましい。500質量ppm以上で、エマルションをより安定化できる。また、20,000質量ppm以下で、中空シリカ粒子に残留する界面活性剤の量を少なくできる。
【0064】
水相と油相とは、質量比で、200:1~5:1で配合してよく、好ましくは100:1~9:1である。
【0065】
水中油型エマルションの作製方法は、以下に限定されない。事前に水相及び油相をそれぞれ調整しておき、水相に油相を添加して、十分に混合ないし撹拌させることで作製できる。さらに物理的に強いせん断力を与える超音波乳化、撹拌式乳化、高圧乳化などの方法を適用できる。また、微細孔を持つ膜を通して微細にした油相を水相中に分散させる膜乳化法や、界面活性剤を油相に溶解させた後に水相を加えて乳化を行う転相乳化法、界面活性剤が曇点付近の温度を境に水溶性から油溶性に変化することを利用した転相温度乳化法などの方法がある。これらの乳化方法は、目的とする粒子径、粒度分布等の特定により適宜選択できる。
得られる中空シリカ粒子を小粒子径化し、粒度分布を狭めるために、水相中に油相が十分に分散し乳化されることが好ましい。例えば、混合液は、100bar以上、好ましくは400bar以上の圧力で高圧ホモジナイザーを用いて乳化できる。
【0066】
1段目シェルの形成工程では、水中油型エマルションに、第1のシリカ原料を添加する。
第1のシリカ原料としては、例えば、水溶性シリカが溶解した水溶液、固体シリカが分散した水性分散液、これらの混合物、ならびに、アルカリ金属ケイ酸塩、活性ケイ酸及びケイ素アルコキシドからなる群から選ばれる1種以上またはそれらの水溶液または水分散液が挙げられる。これらのうちアルカリ金属ケイ酸塩、活性ケイ酸及びケイ素アルコキシドからなる群から選ばれる1種以上またはそれらの水溶液または水分散液が、入手容易性が高い点で好ましい。
【0067】
固体シリカとしては、例えば、有機ケイ素化合物を加水分解して得られたシリカゾル、市販のシリカゾルが挙げられる。
アルカリ金属ケイ酸塩のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム等が挙げられ、中でも入手の容易さ、経済的理由によりナトリウムが好ましい。すなわちアルカリ金属ケイ酸塩としては、ケイ酸ソーダが好ましい。ケイ酸ソーダは、NaO・nSiO・mHOで表される組成を有する。ナトリウムとケイ酸の割合は、NaO/SiOのモル比nで1.0~4.0が好ましく、さらには2.0~3.5が好ましい。
【0068】
活性ケイ酸はアルカリ金属ケイ酸塩を陽イオン交換処理によりアルカリ金属を水素に置換して得られるものであり、この活性ケイ酸の水溶液は弱酸性を示す。陽イオン交換には、水素型陽イオン交換樹脂を用いることができる。
アルカリ金属ケイ酸塩及び活性ケイ酸は、水に溶解ないし分散させてから、エマルションに添加することが好ましい。アルカリ金属ケイ酸塩及び活性ケイ酸水溶液の濃度は、SiO濃度として3~30質量%が好ましく、さらには5~25質量%が好ましい。
【0069】
ケイ素アルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のテトラアルキルシラン類を好ましく用いることができる。
また、シリカ原料とともに、他の金属酸化物等を混合することで、複合粒子を得ることも可能である。他の金属酸化物としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化銅、酸化鉄、酸化錫等が挙げられる。
【0070】
第1のシリカ原料としては、上記したシリカ原料を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。なかでも、第1のシリカ原料として、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液、特にケイ酸ソーダ水溶液を用いることが好ましい。
【0071】
第1のシリカ原料の水中油型エマルションへの添加は、酸性条件下で行うことが好ましい。酸性環境下でシリカ原料を添加することで、シリカ微粒子を発生させネットワークをつくることで1段目の被膜が形成される。反応温度は80℃以下であることがエマルションの安定性維持のために好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましく、50℃以下が特に好ましく、40℃以下が最も好ましい。また、被膜の厚みを均一にするためにシリカ微粒子のネットワーク形成速度を制御する観点から、4℃以上であることが好ましく、10℃以上がより好ましく、15℃以上がさらに好ましく、20℃以上が特に好ましく、25℃以上が最も好ましい。
【0072】
水中油型エマルションのpHは、被膜の厚さをより均一にし、得られる中空シリカのシリカシェル層をより緻密にするという観点から、3未満とすることがより好ましく、2.4以下がさらに好ましく、また、1以上であることがより好ましい。
【0073】
水中油型エマルションのpHを酸性にするには、酸を添加することが挙げられる。
酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、過塩素酸、臭化水素酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0074】
第1のシリカ原料の添加では、第1のシリカ原料の添加量は、エマルション中に含まれる油相100質量部に対して、第1のシリカ原料中のSiOが1~50質量部となるようにすることが好ましく、3~30質量部がより好ましい。
【0075】
第1のシリカ原料の添加では、第1のシリカ原料を添加後、エマルションのpHを酸性に維持した状態で、1分以上保持することが好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。
【0076】
次に、第1のシリカ原料が添加されたエマルションのpHを3以上7以下(弱酸性から中性)で保持することが好ましい。これによって、第1のシリカ原料を油滴の表面に固定化できる。
例えば、第1のシリカ原料を添加したエマルションに塩基を添加することで、エマルションのpHを3以上とする方法がある。
【0077】
塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、アミン類等が挙げられる。
あるいは陰イオン交換処理によりハロゲンイオン等の陰イオンを水酸化物イオンに交換する方法を用いてもよい。
【0078】
塩基を添加する際は、第1のシリカ原料が添加されたエマルションを撹拌しながら塩基を徐々に添加して、エマルションのpHを徐々に上昇させることが好ましい。撹拌が弱かったり、多量の塩基を一度に投入したりすると、エマルションのpHが不均一になり、1層目の被膜の厚みが不均一になることがある。
【0079】
エマルションは、撹拌しながら保持することが好ましい。この保持時間は、10分以上であってよく、1時間以上が好ましく、4時間以上であってもよい。この保持温度は100℃以下であることがエマルションの安定性維持のために好ましく、95℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましく、85℃以下が特に好ましい。また、熟成を促進させるためには保持温度は、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、45℃以上が特に好ましい。
【0080】
<2段目シェルの形成>
次に、アルカリ金属イオン存在下、エマルションに第2のシリカ原料を添加する。これによって、中空シリカ前駆体分散液が得られる。ここで、中空シリカ前駆体は、オイルコア-シリカシェル粒子となっている。
【0081】
第2のシリカ原料のエマルションへの添加は、アルカリ性条件下で行うことが好ましい。
第1のシリカ原料の添加では、油滴への第1のシリカ原料の付着をより均一にするために、エマルションを一旦酸性とした後にpHを3以上7以下(弱酸性から中性)にする方法を用いている。この方法によって得られる1層目のシリカ層は多孔質であり、緻密性が不十分なため強度が低くなってしまう。第2のシリカ原料の添加において、エマルションをアルカリ性とすることで、先に得られた1層目のシリカ層上に、高密度な2層目のシリカ層を形成できる。
【0082】
第2のシリカ原料を添加する際のエマルションのpHは、新しい微粒子の発生を抑えるために、8以上であることが好ましく、8.5以上がより好ましく、8.7以上がさらに好ましく、8.9以上が特に好ましく、9以上が最も好ましい。また、pHが高すぎるとシリカの溶解度が大きくなるため、13以下であることが好ましく、12.5以下がよりに好ましく、12以下がさらに好ましく、11.5以下が特に好ましく、11以下が最も好ましい。
【0083】
水中油型エマルションのpHをアルカリ性にするには、塩基を添加することが挙げられる。塩基としては、上記したものと同様の化合物が用いられる。
【0084】
第2のシリカ原料としては、上記した第1のシリカ原料と同様のものを単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。なかでも、第2のシリカ原料の添加では、ケイ酸ソーダ水溶液及び活性ケイ酸水溶液の少なくとも一方を好ましく用いることができる。
エマルションをアルカリ性条件下で第2のシリカ原料を添加する際には、第2のシリカ原料と同時にアルカリ金属水酸化物を添加する方法を用いてもよい。また、第2のシリカ原料にアルカリ金属ケイ酸塩としてケイ酸ソーダを用いる方法でもよい。この場合、第1のシリカ原料の添加後にpHを5以上とした弱酸性のエマルションに、アルカリ成分であるケイ酸ソーダ成分を添加するため、第2のシリカ原料を添加しながらエマルションのpHをアルカリ性に保持できる。また、アルカリ金属イオンがエマルション中に存在するようになる。
【0085】
なお、第2のシリカ原料にケイ酸ソーダ水溶液を用いる場合などで、pHが上がりすぎてしまう場合は、pHを調整するために酸を加えてもよい。ここで用いる酸には、第1のシリカ原料を添加する時と同じ酸を用いてもよい。
【0086】
第2のシリカ原料の添加はアルカリ金属イオンの存在下で行うことが好ましい。このアルカリ金属イオンは、第1のシリカ原料由来、第2のシリカ原料由来、pH調整のために加えた塩基由来であってよく、エマルションへの添加剤の添加等によっても配合が可能である。例えば、第1のシリカ原料及び第2のシリカ原料の少なくとも一方に、アルカリ金属ケイ酸塩を用いる場合である。また、エマルションの添加剤に、アルカリ金属のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、脂肪酸塩等を用いる場合である。
【0087】
第2のシリカ原料の添加は、例えば、第1のシリカ原料の添加後のエマルションに、ケイ酸ソーダ水溶液及び活性ケイ酸水溶液のうち一方を添加してもよく、両方を添加してもよい。両方を添加する場合は、ケイ酸ソーダ水溶液及び活性ケイ酸水溶液を一括して添加してもよいし、順番に添加してもよい。
【0088】
例えば、第2のシリカ原料の添加は、pH調整をしながら、1層目のシリカ層上へのシリカ原料の付着を促進するために、ケイ酸ソーダ水溶液を添加する工程と、活性ケイ酸水溶液を添加する工程とを、1回行う又は2回以上繰り返すことができる。
【0089】
第2のシリカ原料は、1層目のシリカ層上へのシリカ原料の付着を促進するために、加熱されたエマルションに添加することが好ましい。加熱温度は、新しい微粒子の発生を抑えるため、30℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましく、45℃以上が特に好ましく、50℃以上が最も好ましい。温度が高くなるとシリカの溶解度が高くなるため、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましく、85℃以下が特に好ましく、80℃以下が最も好ましい。加熱されたエマルションを用いた場合、第2のシリカ原料の添加後は、生成したエマルションを室温(約23℃)まで徐冷することが好ましい。
【0090】
第2のシリカ原料の添加では、第2のシリカ原料の添加量は、油相100質量部に対して、第2のシリカ原料中のSiOが20~500質量部となるように調整されるのが好ましく、40~300質量部となるように調整されるのがより好ましい。
第2のシリカ原料の添加では、第2のシリカ原料を添加後にエマルションのpHをアルカリ性に維持した状態で、10分以上保持することが好ましい。
【0091】
第1のシリカ原料の添加及び第2のシリカ原料の添加を通して、第1のシリカ原料及び第2のシリカ原料の添加量の合計量は、油相100質量部に対して、第1のシリカ原料中のSiOと第2のシリカ原料中のSiOの合計が30~500質量部となるように調整されるのが好ましく、50~300質量部となるように調整されるのがより好ましい。
【0092】
本発明のシリカシェル層は主としてシリカより構成されるが、屈折率調整など、必要に応じてTiやZrなどの他の金属成分を含有させてもよい。他の金属成分を含有させる方法は特に限定されないが、例えばシリカ原料を添加する工程で金属ゾル液や金属塩水溶液を同時に添加するなどの方法が用いられる。
【0093】
上記のようにして中空シリカ前駆体分散液が得られる。
【0094】
中空シリカ前駆体分散液から中空シリカ前駆体を得る方法としては、例えば、分散液をろ過する方法、加熱して水相を除去する方法、沈降分離もしくは遠心分離により前駆体を分離する方法等がある。
一例としては、0.1μm~5μm程度のフィルターを用いて分散液をろ過し、ろ別された中空シリカ前駆体を乾燥する方法がある。
【0095】
また必要に応じて、得られた中空シリカ前駆体を、水や酸、アルカリ、有機溶剤等で洗浄してもよい。
【0096】
<中空シリカ前駆体の熱処理>
そして、中空シリカ前駆体からオイルコアを除去して熱処理する。オイルコアを除去する方法としては、例えば、中空シリカ前駆体を焼成しオイルを燃焼分解する方法、乾燥によりオイルを揮発させる方法、適切な添加剤を加えてオイルを分解させる方法、有機溶媒等を用いてオイルを抽出する方法等がある。中でも、オイルの残留物が少ない中空シリカ前駆体を熱処理する方法が好ましい。
【0097】
中空シリカ前駆体を焼成することによりオイルコアを除去する方法では、少なくとも2段階の異なる温度で熱処理することが好ましい。2段目の焼成温度は1段目の熱処理温度よりも高い温度で行うことが好ましい。また、1段目の焼成後、2段目の熱処理を行う前に中空シリカ前駆体を室温に戻してもよいし、1段目の焼成温度を維持した状態から2段目の熱処理温度に昇温してもよい。
【0098】
1段目の熱処理では、オイルコアと界面活性剤の有機成分を除去する。中空粒子内のオイルを熱分解する必要があるため、100℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、300℃以上が最も好ましい。1段目の熱処理が高温過ぎると、シリカシェルの緻密化が進み内部の有機成分の除去が難しくなるため、800℃未満が好ましく、550℃以下が好ましく、530℃以下がより好ましく、520℃以下がさらに好ましく、510℃以下が特に好ましく、500℃以下が最も好ましい。
【0099】
そして、2段目の熱処理では、中空シリカ粒子を焼しめ、シェルの緻密化を行うとともに、表面シラノール基を減らし、誘電正接を低下させる。1段目の熱処理温度より高温で行うことが好ましいため、800℃以上が好ましく、900℃以上がより好ましく、1000℃以上が最も好ましい。また、温度が高くなると、アモルファスシリカの結晶化が起こって比誘電率が高くなるため、1200℃以下が好ましく、1150℃以下がより好ましく、1100℃以下が最も好ましい。なお、2段目の熱処理温度は、1段目の熱処理温度よりも200℃以上高いことが好ましく、200~800℃高いことがより好ましく、400~700℃高いことがさらに好ましい。
【0100】
<中空シリカ焼成粒子の表面処理>
その後、前記工程で得られた中空シリカ焼成粒子をシランカップリング剤で表面処理する。この工程により、中空シリカ焼成粒子の表面に存在するシラノール基とシランカップリング剤とが反応し、表面シラノール基が減少して、誘電正接を減少できる。また、表面が疎水化して樹脂に対する親和性が改善するため、樹脂に対する分散性が向上する。
【0101】
表面処理の条件には特に制限はなく、一般的な表面処理条件でよく、湿式処理法や乾式処理法が用いられる。均一な処理を行う観点から、湿式処理法が好ましい。
【0102】
表面処理に用いるシランカップリング剤としては、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、オルガノシラザン化合物等が挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0103】
具体的に表面処理剤としては、アミノプロピルメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系カップリング剤;グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、グリシジルブチルトリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系カップリング剤;メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン系カップリング剤;メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メタクロキシプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン等のシラン系カップリング剤;CF(CFCHCHSi(OCH、CF(CFCHCHSiCl、CF(CFCHCHSi(CH)(OCH、CF(CFCHCHSi(CH)C1、CF(CFCHCHSiCl、CF(CFCHCHSi(OCH、CFCHCHSiCl、CFCHCHSi(OCH、C17SON(C)CHCHCHSi(OCH、C15CONHCHCHCHSi(OCH、C17COCHCHCHSi(OCH、C17-O-CF(CF)CF-O-CSiCl、C-O-(CF(CF)CF-O)-CF(CF)CONH-(CHSi(OCH等のフッ素含有シランカップリング剤;ヘキサメチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、トリシラザン、シクロトリシラザン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルシクロトリシラザン等のオルガノシラザン化合物等が挙げられる。
【0104】
シランカップリング剤の処理量としては、中空シリカ粒子の粒子100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上がより好ましく、また10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0105】
シランカップリング剤で処理する方法としては、例えば、中空シリカ焼成粒子にシランカップリング剤をスプレーする乾式法や、中空シリカ焼成粒子を溶剤に分散させてからシランカップリング剤を加えて反応させる湿式法等が挙げられる。
【0106】
上記工程により得られた中空シリカ粒子は、乾燥や焼成の工程により凝集していることがあるため、取り扱いやすい凝集径にするために解砕してもよい。解砕の方法としては、例えば、乳鉢を使う方法、乾式あるいは湿式のボールミルを使う方法、振とう式篩を使う方法、ピンミル、カッターミル、ハンマーミル、ナイフミル、ローラーミル、ジェットミルなどの解砕機を使う方法等がある。なお、二次粒子の好ましい凝集径(具体的に、メディアン径及び粗大粒径)は上記したとおりである。
【0107】
本発明の中空シリカ粒子は緻密化されたシェル層を有するので、メチルエチルケトンやN-メチルピロリドン等の有機溶媒に添加した際に各種溶媒の浸透性が低い。よって各種溶媒における分散性が良好であり、また、溶媒中における中空粒子特有の性質を維持できる。
【0108】
本発明の中空シリカ粒子は、各種充填材として使用でき、特にパソコン、ノートパソコン、デジタルカメラ等の電子機器や、スマートフォン、ゲーム機等の通信機器等に用いられる電子基板の作製に用いられる樹脂組成物の充填材として好適に使用できる。
【実施例
【0109】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の説明において、共通する成分は同じものを用いている。また、特に説明のない限り、「%」、「部」はそれぞれ「質量%」、「質量部」を表す。
また、例1~23は実施例であり、例24は比較例である。
【0110】
<試験例1>
(例1)
「エマルションの作製」
純水1250gにEO-PO-EOブロックコポリマー(ADEKA社製プルロニックF68)を7g添加し溶解するまで撹拌した。この水溶液にn-ドデカン42gを加え、IKA社製ホモジナイザーを使って液全体が均一になるまで撹拌し、粗エマルションを作製した。
この粗エマルションを、高圧乳化機(エスエムテー社製LAB2000)を使い、圧力400barで3回乳化を行い、エマルション径が0.3μmの微細エマルションを作製した。
【0111】
「1段目シェル形成」
得られた微細エマルション1300gに、pHが2(表1の(i)に記載の条件)となるよう、希釈したケイ酸ソーダ水溶液(SiO濃度10.4質量%、NaO濃度3.6質量%)41gと2M塩酸を加え、30℃(表1の(ii)に記載の条件)で保持しながら良く撹拌した。
この液を良く撹拌しながら1M水酸化ナトリウム水溶液をpHが6(表1の(iii)に記載の条件)となるようゆっくり滴下し、オイルコア-シリカシェル粒子分散液を得た。得られたオイルコア-シリカシェル粒子分散液を保持し、熟成させた。
【0112】
「2段目シェル形成」
1段目シェル形成で得られたオイルコア-シリカシェル粒子分散液全量を70℃に加熱し、撹拌しながら1M NaOHをゆっくり添加し、pHを9とした。
次に、希釈したケイ酸ソーダ水溶液(SiO濃度10.4質量%、NaO濃度3.6質量%)460gを、pH9になるように0.5M塩酸とともに徐々に添加した。
この懸濁液を70℃で2日間保持した後、ゆっくり室温まで冷却し、中空シリカ前駆体分散液を得た。
【0113】
「ろ過、洗浄、乾燥、焼成」
中空シリカ前駆体分散液全量を、0.45μmの親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)メンブレンフィルターを用いて加圧ろ過(圧力0.28MPa)でろ過を行った。その後、40℃の蒸留水350mlを加えて再度加圧濾過し、中空シリカケーキを洗浄した。
ろ過後のケーキを、窒素雰囲気下で、60℃で1時間、続けて400℃で4時間乾燥し(昇温時間5℃/min)、有機分を除去することで中空シリカ前駆体を得た。
得られた前駆体を、1000℃で4時間焼成(昇温時間5℃/min)することでシェルの焼き締めを行い、中空シリカ焼成粒子を得た。
【0114】
「表面処理」
200mlガラスビーカーに、前記中空シリカ焼成粒子10g、メチルエチルケトン120ml、ヘキサメチルジシラザン0.8gを添加し、室温で3時間攪拌した。その後、疎水性PTFEメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、メチルエチルケトン20mlで洗浄後、150℃に温度調整した真空乾燥機で2時間真空乾燥した。得られた固体をメノウ乳鉢で粉砕し、表面処理された中空シリカ粒子を得た。
【0115】
「評価」
1.赤外分光スペクトルの測定
赤外分光スペクトルは、IR Prestige-21(島津製作所社製)を用い、ダイヤモンド粉末中へ分散させて拡散反射法で測定した。測定範囲は400~4000cm-1、分解能は4cm-1、積算回数は128回とした。
ダイヤモンド粉末への希釈は、[質量希釈率]=([サンプル質量])/([ダイヤモンド質量]+[サンプル質量])と定義し、[質量希釈率]=85-2.5×[BET比表面積]とした。
また、中空シリカ粒子は180℃で1時間真空乾燥したものを用いた。
得られたIRスペクトルのうち、1060cm-1付近の各種SiOHに由来するピーク強度を1として規格化し、波数3746cm-1付近のピーク強度を得た。結果を表2に示す。
【0116】
2.乾式ピクノメーターを用いた密度測定
乾式ピクノメーター(Micromeritics社製AccuPycII 1340)を用いて密度を測定した。測定条件は下記の通りである。結果を表2に示す。
・試料セル:10cmセル
・試料重量:1.0g
・測定ガス:ヘリウム、あるいは、アルゴン
・パージ回数:10回
・パージ処理充填圧力:135kPag
・サイクル回数:10回
・サイクル充填圧力:135kPag
・圧力平衡を終了するレート:0.05kPag/分
【0117】
3.真球度、平均一次粒子径
例1で得られた中空シリカ粒子を走査型電子顕微鏡により撮影した。その走査型電子顕微鏡像(SEM像)を図1に示す。
図1から任意の100個の粒子について、それぞれの最大径(DL)と、それと直行する短径(DS)とを測定し、最大径(DL)に対する最小径(DS)の比(DS/DL)を算出した平均値から真球度を求めた。同様に任意の100個の粒子の一次粒径を集計して得られた分布の平均値を平均一次粒子径とした。結果を表2に示す。
【0118】
4.メディアン径
得られた中空シリカ粒子をマイクロトラック・ベル社製の回折散乱式粒子分布測定装置(MT3300)によって測定し、粒子分布(直径)の中央値を2回測定した平均値を求めた結果、メディアン径は2μmであった。
【0119】
5.比表面積、細孔容積
中空シリカ粒子を230℃で減圧乾燥して水分を完全に除去し、試料とした。この試料について、マイクロメリティック社製の自動比表面積、細孔分布測定装置「トライスターII」にて、アルゴンガスを用いて多点BET法比表面積及び細孔容積を測定した。結果を表2に示す。
【0120】
6.吸油量
吸油量は、JIS K 5101-13-1に沿って測定した。結果を表2に示す。
【0121】
7.金属M(M=Li,Na,K,Rb,Cs,Mg,Ca,Sr,Ba)の濃度
球状中空シリカ粒子に過塩素酸とフッ酸を加えて強熱し、主成分のケイ素を除去したのちにICPE-9000(島津製作所社製)を用いてICP-AES(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定した。前記測定により、金属MとしてNa、K、Mg、Caが検出された。金属Mの総量を表2に示す。
【0122】
8.比誘電率、誘電正接
比誘電率、誘電正接は、専用の装置(ベクトルネットワークアナライザ E5063A、キーコム社製)を用い、摂動方式共振器法にて、試験周波数1GHz、試験温度約24℃、湿度約45%、測定回数3回で測定を実施した。
具体的には、中空シリカ粒子を150℃で真空乾燥後、PTFEの筒に粉末を十分にタップしながら充填し、容器ごと比誘電率を測定した後、対数混合則を用いて粉末の比誘電率および誘電正接に換算した。結果を表2に示す。
【0123】
(例2~4)
表1に示したように、焼成温度を変更した以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0124】
(例5~8、18~21)
表1で表したように、2段目シェル形成でのケイ酸ソーダ水溶液量を変更したことと、中空シリカケーキの洗浄条件を変更した以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0125】
(例9~10)
IKA社製ホモジナイザーのみを用いてエマルションを作製し、表1に表した粒径のエマルションを得た以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0126】
(例11)
エマルション作製工程でEO-PO-EOブロックコポリマー(ADEKA社製プルロニックF68)の使用量を70gに変更し、n-ドデカンをオリーブオイルに変更し、圧力400barで5回高圧乳化して、表1に表した粒径のエマルションを得、また焼成温度を800℃に変更した以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0127】
(例12~15)
表1に表したように、1段目シェル作製の条件を変更した以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0128】
(例16)
エマルション作製工程でEO-PO-EOブロックコポリマー(ADEKA社製プルロニックF68)の使用量を20gに変更し、n-ドデカンをn-ヘキサデカンに変更し、圧力400barで3回高圧乳化して、表1に表した粒径のエマルションを得、また1段目シェル形成の条件を表1に表したように変更した以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0129】
(例17)
表面処理工程を実施しなかったこと以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0130】
(例22、23)
エマルション作製工程でn-ドデカンをデカンに変更し、圧力400barで3回高圧乳化して、例22は室温で48時間、例23は室温で96時間放置して表1に表した粒径の微細エマルションを得た以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0131】
(例24)
表1に示したように、焼成温度を変更した以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0132】
上記の結果を表2にまとめて示す。
なお、例1について中空シリカ粒子のSEM像を図1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
表2に示したように、乾式ピクノメーターを用いた密度測定では、測定ガスにヘリウムを用いた場合は2.20g/cmと、シリカの真密度と同等の値が得られており、ヘリウムガスがシェルを通過し、中空シリカの内腔へ侵入することがわかった。一方、アルゴンガスを用いた場合は、いずれの例でもヘリウムピクノメーター法による値より小さい値が得られており、アルゴンガスがシェルを通過する速度が遅いため、中空シリカの内腔を含まない粒子密度が得られたと考えられる。
【0136】
また、例1~23は1GHzでの比誘電率と誘電正接が小さかったのに対し、例24は1GHzでの比誘電率と誘電正接のいずれも大きく、本発明の所望の効果を得られないものであった。
特に、例1~4と例24との対比からわかるとおり、赤外分光法での波数3746cm-1付近のピーク強度を変化させた結果、ピーク強度が0.60を超えると比誘電率、誘電正接がともに満足できる結果とはならなかった。これは焼成温度が十分でなく、表面シラノール基の残量が多いことと、シリカの焼結の進みが不十分なため、シェルが緻密とならなかったためと考えられる。また、焼成温度が1200℃を超えると、比誘電率が上昇傾向となることがわかった。これは、アモルファスシリカの結晶化が進んだためと考えられる。また、焼成温度がとヘリウムピクノメーターとの密度は対応し、1000℃まではヘリウムピクノメーターの密度は上昇していき、1000℃で飽和していることがわかった。これはシリカに含まれるシラノール基が脱水して、シリカの理論密度に近づくためと考えられる。
【0137】
<試験例2>
中空シリカ粒子の樹脂分散性を調べるため、次のような試験を実施した。中空シリカ粒子として、試験例1で作製した例1、14~16を使用した。
スチレン変性ポリフェニレンエーテル樹脂のトルエン溶液(三菱瓦斯化学株式会社製「OPE-2St(数平均分子量1200)」、不揮発分64.4wt%)100部、中空シリカ粒子100部をメチルエチルケトン(MEK)15部に混合し、自転・公転ミキサー「あわとり練太郎」(商品名、型式:ARE-250、株式会社シンキー製)で2000rpm、5分間混練して、樹脂ワニスを作製した。
【0138】
得られた樹脂ワニスを、JIS K5400に記載の粒ゲージ法に準じて測定を行い、メディアン径粒ゲージを求めた。また、中空シリカ粒子の二次粒子のメディアン径および二次粒子の粗大粒径(D90)については、マイクロトラック・ベル社製の回折散乱式粒子分布測定装置(MT3300)によって測定し、粒子分布(直径)の中央値を2回測定した平均値を二次粒子のメディアン径、粒度分布(直径)の累積が90%となる粒径の平均値を二次粒子の粗大粒径(D90)とした。結果を表3に示す。
【0139】
【表3】
【0140】
表3の結果より、二次粒子のメディアン径が0.22μmの例16は二次凝集しやすい傾向がみられ、粒ゲージの値が大きくなることがわかった。また二次粒子のメディアン径が60μmの例15は大きな粒子の割合が高くなり、同様に粒ゲージの値が大きくなる傾向になることがわかった。
また、二次粒子の粗大粒径(D90)が大きくなると大きな粒子の割合が高くなり、粒ゲージの値が大きくなる傾向になることがわかった。
【0141】
<試験例3>
中空シリカ粒子のシェルの緻密性を確認するため、次のような試験を実施した。中空シリカ粒子として、試験例1で作製した例1、12、13を使用した。
10mLのゲーリュサック型比重瓶を用いて、メチルエチルケトン(MEK)中での密度を測定した。比重瓶に中空シリカ粒子を0.20g加え、MEKで比重瓶を満たして、25℃で48時間放置後の密度を測定した。結果を表4に示す。
【0142】
【表4】
【0143】
表4より、アルゴンピクノメーター法での密度が低くなるのに対応して、MEK中での密度が低くなることが確認された。このことから、本例で得られた中空シリカ粒子は、緻密なシェルを持っており、有機溶媒中でも中空構造を維持できることがわかった。
【0144】
<試験例4>
得られた中空シリカ粒子の吸湿性を測定するため、次のような試験を実施した。中空シリカ粒子として、試験例1で作製した例1、3、17、24を使用した。
中空シリカ粒子を200℃で乾燥後、40℃で、RH90%の環境に24時間放置したものを、カールフィッシャー法(電量滴定法)で測定した。結果を表5に示す。
〔カールフィッシャー法(電量滴定法)の条件〕
微量水分測定装置(CA-200型、三菱ケミカルアナリテック社製)
水分気化装置(VA-200、三菱ケミカルアナリテック社製)
陽極液(ハイドラナールクーロマット AG-OVEN、林純薬社製)
陰極液(ハイドラナールクーロマット CG、林純薬社製)
加熱温度:200℃
窒素流量:約250ml/分
【0145】
【表5】
【0146】
表5より、焼成温度が高いほど、中空シリカ粒子表面の親水性が減少するため、水分吸着量が減少することが分かった。また、シラン処理を実施したほうが、表面の親水性が減少するため、水分吸着量が減少することが分かった。水分吸着量が少ないほど、中空シリカ粒子を樹脂組成物とした際の吸湿量が減少し、樹脂組成物の誘電損失を抑えられることが分かった。
【0147】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2020年2月27日出願の日本特許出願(特願2020-032046)、2020年9月25日出願の日本特許出願(特願2020-161378)及び2020年9月25日出願の日本特許出願(特願2020-161379)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
図1