(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-20
(45)【発行日】2025-05-28
(54)【発明の名称】水溶性フィルムおよび包装体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20250521BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20250521BHJP
B65D 65/46 20060101ALI20250521BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
C08J7/00 302
B65D65/46
(21)【出願番号】P 2022533805
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2021022536
(87)【国際公開番号】W WO2022004342
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2024-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2020111937
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 稔
(72)【発明者】
【氏名】清水 さやか
(72)【発明者】
【氏名】風藤 修
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154714(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118978(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/020045(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/142835(WO,A1)
【文献】特開2001-329130(JP,A)
【文献】特開2009-051947(JP,A)
【文献】特表2009-535484(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218321(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08J 7/00
B65D 65/46
C08L 29/04
B29K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項9】
前記全炭素結合中のカルボニルの存在割合が1から5%である表面が薬剤と接触するように薬剤を収納した請求項6から8の
いずれか1項に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種薬剤の梱包などに好適に使用される水溶性フィルムおよびそれを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から水溶性フィルムは、その水溶性を活かして、液体洗剤や農薬といった各種薬剤の包装や、種子を内包するシードテープなど、幅広い分野で使用されてきた。
【0003】
かかる用途に用いる水溶性フィルムには、主にポリビニルアルコール樹脂(以下、PVAと称することがある)が用いられており、可塑剤等の各種添加剤を配合したり、変性ポリビニルアルコールを用いたりすることによって水溶性を高めたフィルムが提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
上記従来の方法では、PVAの結晶化度を下げる工夫により水溶性を改良している。しかしながら、近年、需要が拡大している液体洗剤の包装体などにおいて、酸化性を有する薬剤の場合は水溶性フィルムが薬剤に接触する内側の面において酸化劣化を生じやすい傾向にある。酸化劣化が生じると水溶性フィルムの強度が低下し、破れなどの原因となることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化劣化は、特にPVAのカルボニル(以下、C=Oと称する場合がある)を起点に発生し易いことが知られている。また、PVAの末端アルデヒドを起点として、その隣に位置するビニルアルコール単位において脱水反応を生じて炭素-炭素二重結合(以下、C=Cと称する場合がある)が生成し、それがさらに隣のビニルアルコール単位での脱水反応を誘発することにより生じる共役二重結合構造、いわゆるポリエン構造をとることが知られている。このポリエン構造が水溶性フィルムの表面に多く存在するような場合には、水溶性フィルムの疎水性が高くなり耐酸化劣化性は向上する。一方、水溶性フィルムの疎水性が高すぎると、冷水へのフィルムの溶解性(冷水溶解性)が低下する。すなわち、水溶性フィルムの冷水溶解性と耐酸化劣化性にはトレードオフの関係が成立する。従前の水溶性フィルムにおいては、フィルムの冷水溶解性と耐酸化劣化性を両立することが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、冷水溶解性と耐酸化劣化性の両立が可能な水溶性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
フィルム表面などに存在する元素量を定量する方法として、X線光電分光分析(以下、XPSと称することがある)がある。PVAを用いた水溶性フィルムの場合、XPS測定により、炭素(C)、酸素(O)などの他に、フッ素(F)、けい素(Si)などの各元素を定量することが可能である。
【0009】
また、XPSによる各種元素の詳細分析から、当該元素の結合状態とその存在割合を決定することも可能である。例えば、炭素-炭素一重結合(以下、C―Cと称する場合がある)とC=Oを区別しながら、かつ全炭素結合中に占めるそれぞれの結合の比率を求めることが可能である。
本発明者らは、上記XPSによる各種元素の詳細分析の知見に基づき、鋭意検討を重ねた結果、水溶性フィルムの片面もしくは両面の表面部をX線光電子分光分析で分析することで得られる、全炭素結合中のカルボニルの存在割合を特定の範囲に調整することにより、上記課題が達成されることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]
ポリビニルアルコール樹脂を含有し、X線光電子分光分析により得られる全炭素結合中のカルボニルの存在割合が1から5%である表面を少なくとも片面に有し、かつ10℃の水への完溶時間が120秒以下である水溶性フィルム、
に関する。
さらに本発明は、
[2]
前記全炭素結合中のカルボニルの存在割合が前記範囲である表面において、さらに前記カルボニルの存在割合に対するX線光電子分光分析により得られる炭素-炭素一重結合の存在割合の比(C―C/C=O)が10から50である上記[1]に記載の水溶性フィルム、
[3]
前記全炭素結合中のカルボニルの存在割合が前記範囲である表面において、X線光電子分光分析により得られる全元素中に占める炭素の存在割合が50から70%であり、酸素の存在割合が20から35%であり、かつ酸素に対する炭素の比率(C/O)が1.5から3.5である上記[1]または[2]に記載の水溶性フィルム、
[4]
前記全炭素結合中のカルボニルの存在割合が前記範囲である表面が表面改質されている上記[1]から[3]のいずれかに記載の水溶性フィルム、
および、
[5]
前記表面改質が、紫外線処理、オゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理のいずれかの方法による上記[4]に記載の水溶性フィルム、
に関する。
【0011】
さらに本発明は、
[6]
前記[1]から[5]のいずれかに記載の水溶性フィルムが薬剤を収容している包装体、
[7]
前記薬剤が農薬または洗剤である、上記[6]に記載の包装体、
[8]
前記薬剤が液体状である、上記[6]または[7]に記載の包装体、
および
[9]
前記全炭素結合中のカルボニルの存在割合が1から5%である表面が薬剤と接触するように薬剤を収納した上記[6]から[8]のいずれかに記載の包装体、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷水溶解性と耐酸化劣化性の両立が可能な水溶性フィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0014】
<XPS測定>
本発明において、水溶性フィルム表面の元素の量は、XPSにより測定される。XPS測定とは、試料表面にX線を照射することにより原子の内殻電子を励起し、それにより放出された光電子の運動エネルギーを検出することによって、試料表面に存在する元素の同定および定量や、化学結合状態の分析を行うものである。XPS分析では表面から約2から8nmの深さに存在する元素を測定することができる。
【0015】
また、このXPS測定において横軸を運動エネルギー、縦軸を強度としたとき、試料表面に存在する炭素原子由来の光電子によりC1sと帰属されるピークが得られる。このピークは、その炭素原子の結合状態に依存する様々なピークが合成されたものである。それら様々なピークの位置は、炭素原子の結合状態により決まる。例えば、C-Cもしくは炭素-水素結合(以下、C-Hと称する場合がある)は285eV、炭素-酸素一重結合(以下、C-Oと称する場合がある)は286.6eV、炭素-窒素一重結合(以下、C-Nと称する場合がある)は285.7eV、C=Oは287.7eV、エステル結合(以下、C(=O)-Oと称する場合がある)は289.4eV、カーボネート結合(以下、O-C(=O)-Oと称する場合がある)は290eVの位置にピークを示す。これらのピークが合成されたC1sピークは、例えばXPS分析装置に付随している自動波形分離フィッティングにより、それぞれのピークに分離することができる。(参考特許文献:特
開:2007-302740号公報)
上記各結合に帰属されるピークは、C1sを詳細に分析(ナロースキャン)することにより得られる。ナロースキャンとは、高いエネルギー分解能条件で狭い範囲のエネルギー範囲を走査する分析方法で、ピーク位置とピーク形状から分析対象の元素の化学状態を特定することができる。
【0016】
本発明の水溶性フィルムは、少なくとも片面の表面において、全炭素結合中のC=Oの存在割合が1から5%を示す水溶性フィルムである。C=Oの存在割合が1%未満である場合、フィルム表面が疎水的になって、十分な冷水溶解性を確保できない。一方、同比率が5%より大きい場合、耐酸化劣化性に劣り、破れ等が発生する。
C=Oの存在割合は1.5%以上であることが好ましく、2.0%以上であることがより好ましく、2.5%以上であることがさらに好ましい。またC=Oの存在割合は4.5%以下であることが好ましく、4.0%以下であることがさらに好ましく、3.5%以下であることが特に好ましい。
【0017】
なお「全炭素結合中のC=Oの存在割合」とは、C1sピークを上述のナロースキャンにより詳細に分析し、上述した自動波形分離フィッティングにより、C1sピークにおけるC=Oに帰属されるピークの割合を求め、その割合(%)をC=Oの存在割合とした。
【0018】
本発明において、表面部のC=Oの存在割合が1から5%であるのは、水溶性フィルムの片面、もしくは両面のいずれでもよいが、片面のみの場合は、包装体を製造する際に、その面を酸化劣化が生じやすい側に向けることが好ましい。すなわち、包装する薬剤などが酸化性を有する場合、表面部のC=Oの存在割合が1から5%を示す面を内側にし、表面部のC=Oの存在割合が1から5%を示す面が薬剤と接触するように薬剤を内包した包装体が好ましい。
近年使用量が増加傾向にある、3枚以上の水溶性フィルムを使用し、各フィルムの間に薬剤を包装する形態の包装体の場合、フィルムの両面に薬剤が接触するフィルムについては、両面の表面部のC=Oの存在割合が1から5%を示すことが好ましい。
【0019】
本発明の水溶性フィルムは、上述のように、少なくとも片面の表面のC=Oの存在割合が1から5%であり、さらに耐酸化劣化性の観点から、該表面は前記C=Oの存在割合に対するX線光電子分光分析により得られるC-Cの存在割合の比(以下、C―C/C=Oと略する場合がある)が10から50であることが好ましく、10から20がより好ましい。
C-Cの存在割合はC=Oの存在割合と同様、C1sピークを上述のナロースキャンにより詳細に分析し、上述した自動波形分離フィッティングにより、C1sピークに占める炭素-炭素一重結合に帰属されるピークの割合を求め、その割合(%)をC-Cの存在割合とした。このC-Cの存在割合をC=Oの存在割合で除した値をC―C/C=Oとした。
【0020】
またC=Oの存在割合が1から5%である面は、冷水溶解性の観点から、XPS測定から求められる、全元素中に占める炭素の存在割合が50から70%であり、酸素の存在割合が20から35%であり、かつ酸素に対する炭素の比率が1.5から3.5であることが好ましい。
ここで冷水溶解性とは温度10℃の水への溶解性である。
【0021】
XPS測定では、ほぼあらゆる種類の元素が測定可能であるが、本発明では、フィルム表面のXPS測定を行った結果、測定された炭素、窒素、酸素、フッ素、ナトリウム、ケイ素、リンおよび硫黄(これら測定されたすべての元素を、以下、測定された全元素と称する場合がある)を定量し、その合計量に対する炭素元素の割合、酸素元素の割合をそれぞれ、炭素の存在割合、酸素の存在割合とした。
なお、通常、PVAフィルムの表面をXPS測定した場合、測定される元素は、PVAや後述するような可塑剤、添加剤等に起因するものである。すなわち、PVAフィルムに含まれる可塑剤、添加材等の種類によっては、上記の炭素、窒素、酸素、フッ素、ナトリウム、ケイ素、リンおよび硫黄以外の元素も測定され得るが、本発明においては、上記測定された全元素の合計量に対する炭素元素の割合、酸素元素の割合をそれぞれ、炭素の存在割合(%)、酸素の存在割合(%)とした。
また酸素に対する炭素の比率(以下、C/Oと略する場合がある)とは、上記の炭素の存在割合を、酸素の存在割合で除した値である。
【0022】
炭素の存在割合が50%未満である場合、あるいは70%を超える場合、いずれも冷水溶解性が低下する傾向がある。全元素中に占める炭素の存在割合は52.5から67.5%であることがより好ましく、55から65%であることがさらに好ましい。
酸素の存在割合が20%未満である場合、冷水溶解性が低下する傾向があり、35%を超える場合は、耐酸化劣化性が低下する傾向がある。全元素中に占める酸素の存在割合は22.5から32.5%であることがより好ましく、25から30%であることがさらに好ましい。
さらに、C/Oが1.5未満である場合、または3.5を超える場合、耐酸化劣化性が不良になる傾向がある。C/Oは、より好適には1.7から3.3、さらに好適には1.9から3.1である。
なお、本発明の水溶性フィルムのC=Oの存在割合が1から5%である面において、炭素および酸素以外の元素、すなわち、窒素、フッ素、ナトリウム、ケイ素、リン、硫黄の元素の存在割合は合計で0.1から30%である。
【0023】
本発明の水溶性フィルムは、少なくとも片面の表面のC=Oの存在比率が1から5%であるが、さらに、
(1)耐酸化劣化性の観点から、該表面のC―C/C=Oが10から50、より好ましくは10から20であること、および
(2)冷水溶解性または耐酸化劣化性の観点から、該表面の全元素中に占める炭素の存在割合が50から70%であり、かつ酸素の存在割合が20から35%であり、かつ酸素に対する炭素の比率(C/O)が1.5から3.5であること
の両方を満たすことが好ましい。
【0024】
本発明において、水溶性フィルムの表面のC=Oの存在割合、および必要に応じてさらにC―C/C=O、炭素の存在割合、酸素の存在割合、C/Oを上記範囲に調整することが重要である。その方法は例えば、UV処理、オゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理などの処理条件を制御してフィルム表面を処理する方法、あるいは界面活性剤を含む薬液をフィルム表面に塗布する方法、PVAフィルムに適当な界面活性剤を添加する方法や、PVAフィルムを製膜する際の溶媒を揮発させる工程において、その湿度雰囲気を調整する方法などにより、上記範囲に調整することができる。
【0025】
例えば後述するように、溶媒の揮発工程において、乾燥温度を上げる、または乾燥時の湿度を下げるとC=Oの存在割合が減少する傾向にあるので、乾燥温度と湿度を適切に調整することで、C=Oの存在割合を適正にコントロールすることができる。
【0026】
また、フィルム表面をコロナ処理する場合、コロナ放電量を増加せるとC=Oの存在割合が増加する傾向にある。この傾向はUV処理、オゾン処理、プラズマ処理など他の表面処理方法においても同様と考えられ、各処理において放電量を調整することでC=Oの存在割合を調整することができる。
【0027】
UV処理、オゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理など、フィルム表面を処理する方法が、製造コストや溶媒処理などの観点より、好ましい。
【0028】
本発明の水溶性フィルムを10℃の水に浸漬した時の完溶時間は、120秒以下である。完溶時間が120秒以下であることにより、薬剤等の包装用フィルムとして好適に使用できる。完溶時間は90秒以下であることが好ましく、60秒以下であることがより好ましく、45秒以下であることがさらに好ましい。一方、完溶時間の下限に特に制限はないが、完溶時間が短すぎる水溶性フィルムでは、雰囲気中の水分の吸湿によるフィルム間のブロッキングやフィルム強度の低下などが生じやすくなる傾向がある。したがって完溶時間は5秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましく、15秒以上であることがさらに好ましく、20秒以上であることが特に好ましい。
【0029】
水溶性フィルムを10℃の水に浸漬したときの完溶時間は、以下のようにして測定することができる。完溶時間測定では水として脱イオン水を用いた。
<1> 水溶性フィルムを20℃-65%RHに調整した恒温恒湿器内に、16時間以上置いて調湿する。
<2> 調湿した水溶性フィルムから、長さ40mm×幅35mmの長方形のサンプルを切り出した後、長さ35mm×幅23mmの長方形の窓(穴)が開口した50mm×50mmのプラスチック板2枚の間に、サンプルの長さ方向が窓の長さ方向に平行でかつ窓がサンプルの幅方向のほぼ中央に位置するように挟み込んで固定する。
<3> 500mLのビーカーに300mLの脱イオン水を入れ、回転数280rpmで3cm長のバーを備えたマグネティックスターラーで攪拌しつつ、水温を10℃に調整する。
<4> 上記<2>においてプラスチック板に固定したサンプルを、マグネティックスターラーのバーに接触させないように注意しながら、ビーカー内の脱イオン水に完全に浸漬する。
<5> 脱イオン水に浸漬してから、脱イオン水中に分散したサンプル片が目視にて完全に消失するまでの時間を測定する。
上記の方法で測定される完溶時間はサンプルの厚みに依存するが、本明細書においては厚みに関係なく上記大きさのサンプルが完全に溶解するまでを完溶時間とした。
【0030】
<ポリビニルアルコール樹脂>
本発明の水溶性フィルムはPVAを含有する。PVAとしては、ビニルエステルモノマーを重合して得られるビニルエステル重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0031】
上記のビニルエステル重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステルモノマーのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルモノマーのみを用いて得られたものがより好ましい。1種または2種以上のビニルエステルモノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0032】
このようなビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3から30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。上記のビニルエステル重合体は、これらの他のモノマーのうちの1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0033】
上記のビニルエステル重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合は、得られる水溶性フィルムの水溶性やフィルム強度の観点から、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0034】
PVAの重合度は、フィルム強度の観点から200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましい。一方、PVAの生産性や水溶性フィルムの生産性などの点から、重合度は8,000以下であることが好ましく、5,000以下であることがより好ましく、3,000以下であることがさらに好ましい。ここで重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。
Po = ([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0035】
本発明において、PVAのけん化度は64から99.99モル%であることが好ましい。けん化度をこの範囲に調整することにより、フィルムの水溶性と力学物性を両立しやすい。けん化度は、70モル%以上であることがより好ましく、75モル%以上であることがさらに好ましい。一方けん化度は99.95モル%以下であることがより好ましく、99.92モル%以下であることがさらに好ましい。ここでPVAのけん化度は、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステルモノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。PVAのけん化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0036】
本発明における水溶性フィルムは、PVAとして1種類のPVAを用いてもよいし、重合度やけん化度あるいは変性度などが互いに異なる2種以上のPVAをブレンドして用いてもよい。
【0037】
本発明において、水溶性フィルムにおけるPVAの含有率は特に制限がないが、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。
【0038】
<可塑剤>
本発明の水溶性フィルムは、可塑剤を含まない状態では他のプラスチックフィルムに比べ剛直であり、衝撃強度等の機械的物性や二次加工時の工程通過性などが問題になることがある。それらの問題を防止するために、本発明の水溶性フィルムには可塑剤を含有させることが好ましい。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体的には、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の多価アルコールなどを挙げることができる。これらの可塑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの可塑剤の中でも、フィルム表面へのブリードアウトがしにくいなどの観点から、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましく、グリセリンがより好ましい。
【0039】
水溶性フィルムの可塑剤の含有量は、水溶性フィルムに含まれるPVA100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。また、可塑剤の量は70質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。可塑剤の量が1質量部未満であると、衝撃強度等の機械的物性の改善効果が十分でないことがある。一方、上記の含有量が70質量部を超えると、フィルムが柔軟になりすぎて取り扱い性が低下したり、フィルム表面にブリードアウトしたりする場合がある。
【0040】
<澱粉/水溶性高分子>
水溶性フィルムに機械的強度を付与し、該フィルムを取り扱う際の耐湿性を維持し、あるいは該フィルムを溶解する際の水の吸収による柔軟化の速度を調節することなどを目的として、本発明のフィルムに澱粉および/またはPVA以外の水溶性高分子を含有させてもよい。
【0041】
澱粉としては、例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、コメ澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の天然澱粉類;エーテル化加工、エステル化加工、酸化加工等が施された加工澱粉類などを挙げることができ、特に加工澱粉類が好ましい。
【0042】
水溶性フィルム中の澱粉の含有量は、PVA100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。澱粉の量が15質量部より大きいと、工程通過性が悪化するおそれがある。
【0043】
PVA以外の水溶性高分子としては、例えば、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、シェラック、アラビアゴム、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸の共重合体、ポリビニルピロリドン、セルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0044】
水溶性フィルムのPVA以外の水溶性高分子の含有量は、PVA100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。含有量が15質量部より大きいと、水溶性フィルムの水溶性が不足するおそれがある。
【0045】
<界面活性剤>
水溶性フィルムの製膜において、その取り扱い性や、また水溶性フィルムを製造する際の製膜装置からの剥離性の向上などの観点から水溶性フィルムに界面活性剤を添加することが好ましい。また水溶性フィルムに適当な界面活性剤を添加することで、本発明の水溶性フィルム表面のC=Oの存在割合、および必要に応じてさらにC-C/C=O、炭素の存在割合、酸素の存在割合、C/Oを所望の範囲にすることができる。界面活性剤の種類としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などが例示できる。
【0046】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが挙げられる。
【0047】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。
界面活性剤は1種を使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明における界面活性剤は、水溶性フィルム中に均一に分散するのではなく、該フィルム表面に集まる傾向を持つものが、少量の添加で効果を得るために好ましい。そのためには、PVAと適度な親和性を持つものを選択することが好ましい。PVAと親和性が高すぎる界面活性剤は均一分散する傾向が強くなり、親和性が低すぎる界面活性剤は相分離してフィルム中に液滴を形成し、フィルムの透明度を低下させたり、フィルム表面へのブリードアウトを生じたりしやすい。
また、PVAと適度な親和性を有する界面活性剤は、製膜時にPVAフィルムの表面に集まりやすい傾向がある。したがって、界面活性剤の種類、量を調整することにより、フィルム表面におけるC=Oの存在割合などを制御することが可能である。
PVAと適度な親和性を有する界面活性剤の例としては、ノニオン系界面活性剤が好ましく、特にアルカノールアミド型の界面活性剤がより好ましく、脂肪族カルボン酸(例えば、炭素数8から30の飽和または不飽和脂肪族カルボン酸など)のジアルカノールアミド(例えば、ジエタノールアミド等)がさらに好ましい。さらに、対応するアルカノールアミンを少量含有するジアルカノールアミドは、水溶性フィルム中の界面活性剤の分散状態を調整しやすいため、好適に用いられる。
【0049】
水溶性フィルムの界面活性剤の含有量は、得られるフィルムの製膜性や剥離性の観点から、PVA100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましい。一方、得られるフィルムの表面へのブリードアウトや界面活性剤の凝集性の観点から、界面活性剤の含有量は、10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることがさらに好ましく、0.3質量部以下であることが特に好ましい。上記含有量が0.01質量部より少ないと、製膜性が悪くなる傾向がある。また、PVAフィルムを製造する際の製膜装置からの剥離性が低下し、あるいはフィルム間でブロッキングを生じやすくなる。一方、上記含有量が10質量部より多いと、フィルム表面へのブリードアウトや、界面活性剤の凝集によるフィルム外観の悪化を生じやすい。
【0050】
<その他の成分>
本発明の水溶性フィルムは、可塑剤、澱粉、PVA以外の水溶性高分子、界面活性剤以外に、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、架橋剤、着色剤、充填剤、防腐剤、防黴剤、他の高分子化合物などの成分を、本発明の効果を妨げない範囲で含有してもよい。PVA、可塑剤、澱粉、PVA以外の水溶性高分子、界面活性剤の各質量の合計値が本発明の水溶性フィルムの全質量に占める割合は、60から100質量%の範囲内であることが好ましく、80から100質量%の範囲内であることがより好ましく、90から100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0051】
本発明の水溶性フィルムの厚みは、得られるフィルムの二次加工性の観点から、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。また水溶性フィルムの力学的強度の観点から、水溶性フィルムの厚みは5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。なお、水溶性フィルムの厚みは、任意の10箇所(例えば、PVAフィルムの長さ方向に引いた直線上にある任意の10箇所)の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0052】
<水溶性フィルムの製造方法>
本発明において、水溶性フィルムの製膜方法に特に制限はなく、PVAに溶媒、添加剤等を加えて均一化させた製膜原液を使用して、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(製膜原液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、PVAフィルムを得る方法)、あるいはこれらの組み合わせにより製膜する方法や押出機などを使用して上記製膜原液を得てこれをTダイなどから押出すことにより製膜する溶融押出製膜法やインフレーション成形法など、任意の方法により製膜することができる。これらの中でも流延製膜法および溶融押出製膜法が、均質なフィルムを生産性よく得ることができるため好ましい。以下、水溶性フィルムの流延製膜法または溶融押出製膜法について説明する。
【0053】
水溶性フィルムを流延製膜法または溶融押出製膜法にて製膜する場合、上記の製膜原液は金属ロールや金属ベルトなどの支持体の上へ膜状に流涎され、加熱されて溶媒が除去されることにより、固化してフィルム化する。固化したフィルムは支持体より剥離されて、必要に応じて乾燥ロール、乾燥炉などにより乾燥されて、さらに必要に応じて熱処理されて、巻き取られることにより、ロール状の長尺の水溶性フィルムを得ることができる。
【0054】
上記製膜原液の揮発分濃度(製膜時などに揮発や蒸発によって除去される溶媒等の揮発性成分の濃度)は50から90質量%の範囲内であることが好ましく、55~80質量%の範囲内であることがより好ましい。揮発分濃度が50質量%未満であると、製膜原液の粘度が高くなり、製膜が困難となる場合がある。一方、揮発分濃度が90質量%を超えると、粘度が低くなり得られるフィルムの厚さの均一性が損なわれやすい。
【0055】
ここで、本明細書における「製膜原液の揮発分率」とは、下記の式により求めた揮発分率をいう。
製膜原液の揮発分率(質量%)={(Wa-Wb)/Wa}×100
(式中、Waは製膜原液の質量(g)を表し、WbはWa(g)の製膜原液を105℃の電熱乾燥機中で16時間乾燥した時の質量(g)を表す。)
【0056】
製膜原液の調整方法に特に制限はなく、例えば、PVAと可塑剤、界面活性剤などの添加剤を溶解タンク等で溶解させる方法や、一軸または二軸押出機を使用して含水状態のPVAを溶融混錬する際に、可塑剤、界面活性剤などと共に溶融混錬する方法などが挙げられる。
【0057】
支持体上に流涎された製膜原液の膜は支持体上およびその後の乾燥工程で加熱乾燥されて固化するが、その際の乾燥条件はフィルムの表面状態に大きな影響を与える。例えば乾燥温度を高温にすれば、乾燥速度が速くなるため界面活性剤のフィルム表面への集中が起こりにくくなり、フィルム表面における全炭素結合中のカルボニルの存在割合などに影響を与える。また、製膜原液の膜の乾燥時の雰囲気の湿度が低ければ、フィルム表面に疎水基が集まりやすい傾向になり、逆に湿度が高い場合は親水基が集まりやすい傾向になる。
したがって、製膜時における乾燥条件の調整も、フィルム表面におけるC=Oの存在割合などを制御する方法の一つである。
製膜時における乾燥条件はフィルムの生産速度に影響し、界面活性剤などの使用原料を制約する可能性がある。したがって、フィルム表面におけるC=Oの存在割合を本発明の範囲内とするするためには、製膜時の乾燥条件の調整だけでなく、後述のように、製膜したフィルムに表面改質を施す方法と併用することが好ましい。
【0058】
製膜原液を流涎する支持体である第1乾燥ロールまたは第1乾燥ベルト(以下、第1乾燥ロール等と称する場合がある)の表面温度は50から110℃であることが好ましい。表面温度が50℃未満の場合、フィルムの水溶性および生産性が低下する傾向がある。110℃を超える場合は、発泡等の膜面の異常を生じやすくなる傾向、および結晶化度が低下してフィルムの機械的強度が低下する傾向がある。上記表面温度は60から105℃であることがより好ましい。
【0059】
第1乾燥ロール等上で製膜原液の膜を加熱すると同時に、製膜原液の膜の第1乾燥ロール等との非接触面側の全領域に風速1から10m/秒の熱風を均一に吹き付けて、乾燥速度を調節してもよい。非接触面側に吹き付ける熱風の温度は、乾燥効率や乾燥の均一性などの点から、50から150℃であることが好ましく、70から120℃であることがより好ましい。
フィルム表面におけるC=Oの存在割合を本発明の範囲内に調整しやすいという観点から熱風中の水分量は4から90g/m3であることが好ましく、5から70g/m3であることがより好ましく、6から50g/m3であることがさらに好ましい。
【0060】
第1乾燥ロール等から剥離されたフィルムは、引き続き後続の支持体(以下、乾燥ロール等と称する場合があり、2以上ある場合は、順次、第2乾燥ロール、第3乾燥ロール、または第2乾燥ベルト、第3乾燥ベルト、と称する場合がある)上で好ましくは揮発分率5から50質量%にまで乾燥される。揮発分率が好ましい範囲まで乾燥後、剥離され、必要に応じてさらに乾燥される。乾燥の方法に特に制限はなく、乾燥ロール等に接触させる方法以外に乾燥炉を用いる方法も挙げられる。複数の乾燥ロール等で乾燥させる場合は、フィルムの一方の面と他方の面を交互に第2乾燥ロール以降に接触させることが、両面を均一化することから好ましい。例えば、第2乾燥ロール以降の数は、第2乾燥ロールを含めて3個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましく、5から30個であることがさらに好ましい。乾燥炉、第2乾燥ロールまたは第2乾燥ベルト以降の温度は、40℃以上110℃以下であることが好ましい。乾燥炉、第2乾燥ロールまたは第2乾燥ベルト以降の温度の上限は100℃であることがより好ましく、95℃であることがより好ましい。乾燥炉、第2乾燥ロールまたは第2乾燥ベルト以降の温度が高すぎると、フィルムの冷水溶解性が低下するおそれがある。一方、乾燥炉、第2乾燥ロール以降の温度の下限は45℃であることがより好ましく、50℃であることがさらに好ましい。乾燥炉、第2乾燥ロールまたは第2乾燥ベルト以降の温度が低すぎると、フィルムの機械的強度が低下するおそれがある。
【0061】
得られた水溶性フィルムに対して、必要に応じてさらに熱処理を行うことができる。熱処理を行うことにより、フィルムの強度、水溶性などの調整を行うことができる。熱処理の温度は60℃以上135℃以下であることが好ましい。熱処理温度は130℃以下であることがより好ましい。熱処理温度が高すぎると、与える熱量が多すぎて冷水溶解性が低下するおそれがある。
【0062】
このようにして製造された水溶性フィルムは、必要に応じて、さらに、調湿処理、フィルム両端部(耳部)のカットなどを行い、円筒状のコアの上にロール状に巻き取られ、防湿包装されて、製品となる。
【0063】
上述した一連の処理によって最終的に得られる水溶性フィルムの揮発分率は1から5質量%の範囲内にあることが好ましく、2から4質量%の範囲内にあることがより好ましい。
【0064】
上記の通り、表面改質を施した水溶性フィルムは、本発明の好適な実施形態の一つである。表面改質の方法は特に限定されないが、紫外線処理、オゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理のいずれかの方法であることが好ましく、中でもコロナ処理が、処理速度、安全性、処理程度の調整のしやすさなどで優れており、より好ましい。
【0065】
コロナ処理の条件は、耐酸化劣化性とフィルムの着色、穴あきなどのダメージの観点から、150から400W・分/m2の範囲内であることが好ましく、180から350W・分/m2の範囲内であることがより好ましく、200から300W・分/m2の範囲内であることがさらに好ましい。なお、放電量は以下の式(1)により求められる。
放電量(W・分/m2) = 出力(W/m)/処理速度(m/分) (1)
【0066】
<用途>
本発明の水溶性フィルムは、冷水溶解性と耐酸化劣化性のバランスに優れ、各種水溶性フィルムの用途に好適に使用することができる。このような水溶性フィルムとしては、例えば、薬剤包装用フィルム、液圧転写用ベースフィルム、刺繍用基材フィルム、人工大理石成形用離型フィルム、種子包装用フィルム、汚物収容袋用フィルムなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより顕著に奏されることから、本発明の水溶性フィルムは薬剤包装用フィルムとして使用されるのが好ましく、中でも酸化性のある薬剤包装用フィルムとして使用されるのがより好ましい。
【0067】
本発明の水溶性フィルムを薬剤包装用フィルムとして使用する場合における薬剤の種類としては、農薬、洗剤(漂白剤を含む)、消毒薬などが挙げられる。薬剤の物性に特に制限はなく、酸性であっても、中性であっても、アルカリ性であってもよい。また、薬剤にはホウ素含有化合物が含まれていてもよい。薬剤の形態としては、粉末状、塊状、ゲル状および液体状のいずれであってもよい。包装形態に特に制限はないが、薬剤を単位量ずつ包装(好ましくは密封包装)するユニット包装の形態が好ましい。本発明のフィルムを薬剤包装用フィルムとして使用して薬剤を包装することにより、本発明の包装体が得られる。
【実施例】
【0068】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において採用された評価項目とその方法は、下記の通りである。
【0069】
(1)X線光電子分光分析(XPS)測定条件
フィルムを5mm×5mmのサイズに裁断し、導電性両面テープを介して、測定台座にセットする。測定にあたっては、フィルム両面を測定した。XPSは下記測定条件で各サンプルを測定した。
【0070】
測定装置:Ohi Quantera SXM(ULVAX-PHI.INC.)
解析ソフト:Multi Pack ver9.0(ULVAX-PHI.INC.)
X線源:単色化AlKα(1486.6eV)
X線ビーム径:100μmφ(25W、15kV)
測定範囲:100μm×300μm
信号の取り込み角:45°
帯電中和条件:中和電子銃、Ar+イオン銃
真空度:1×10-6Pa
なお、以下の実施例および比較例では、以下の元素を測定した。
測定元素:C1s、N1s、O1s、F1s、Na1s、Si2p、P2p、S2p
【0071】
得られたスペクトルを解析し、C1s、O1sの存在割合を求めた。
【0072】
また、得られたC1sのピークを上記解析ソフトで自動フィッティングし、炭素の結合状態C-C、C=Oの存在割合を求めた。
【0073】
(2)冷水溶解性評価(水溶性フィルムの10℃の水への完溶時間)
前記方法により、水溶性フィルムの10℃の脱イオン水中での完溶時間を求めた。
【0074】
(3)耐酸化劣化性評価
11cm×16cmの水溶性フィルムを2枚切り出し、3方シール(シール幅5mm)にて袋(10cm×15cm)を作成した。この袋に、過炭酸ナトリウムを主成分とする液体漂白剤35gを入れた後、残る一方を熱シールして密封することにより、内部に薬剤を有する包装体を得た。アルミニウムの表面にポリエチレンをラミネートしたフィルム(以下、アルミニウムラミネートフィルムと略記する)を用いて、上記で得られた包装体の外側を包んだ後、熱シールして密封することにより2重包装体を作成した。
長期保存テストの促進試験として、上記の2重包装体を40℃の恒温器中に3週間放置した後、以下の基準にて、水溶性フィルムの着色を目視評価した。
A:着色は認められず
B:わずかに黄色く着色
C:明らかに黄色く着色
【0075】
<実施例1>
ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られたPVA(けん化度88モル%、重合度1700)100質量部、可塑剤としてグリセリン20質量部、界面活性剤として、ラウリン酸ジエタノールアミンを不純物として10質量%含むラウリン酸ジエタノールアミド0.05質量部、および水からなる、揮発分率60質量%の製膜原液を調整した。表面温度100℃に調整した第1乾燥ロールの上に、製膜原液をろ過したものを膜状に吐出し、第1乾燥ロール上で、第1乾燥ロールの非接触面の全体に、水分量が24.9g/m3である85℃の熱風を5m/秒の速度で吹き付けて乾燥した。次いで第1乾燥ロールから剥離して、後続の最初の乾燥ロール(以下、第2乾燥ロールと称する)の表面に、製膜原液の膜の第1乾燥ロールと接触していた面とは異なる他方の面を接触させ乾燥させた。以後、製膜原液の膜の一方の面と他方の面とが、第2乾燥ロールを含めた6個の乾燥ロール(以下、順次、第3乾燥ロール、第4乾燥ロールとし、最後の乾燥ロールは第7乾燥ロールと称する)に順次、交互に接触するように乾燥を行い、フィルムを得た。第2乾燥ロールおよびその後続の乾燥ロールの表面温度は全て90℃であった。得られたフィルムの両面をさらに交互に表面温度が90℃の複数の熱処理ロールへ30秒間接触させて熱処理を行い、ポリ塩化ビニル製のパイプに巻き取って、水溶性フィルム(厚み35μm、長さ[フィルムの流れ方向]1200m)を得た。
【0076】
得られた水溶性フィルムの両面をXPSで測定した結果、一方のフィルム面の全炭素結合中のカルボニル(C=O)の存在割合は1.6%、カルボニルの存在割合と炭素-炭素一重結合の存在割合の比(C―C/C=O)は29.5、全元素中に占める炭素の存在割合は70.8%、同じく酸素の存在割合は28.3%、酸素に対する炭素の比率(C/O)は2.5であった。また、もう一方のフィルム面の全炭素結合中のカルボニル(C=O)の存在割合は1.3%、カルボニルの存在割合と炭素-炭素一重結合の存在割合の比(C―C/C=O)は45.7、全元素中に占める炭素の存在割合(C存在割合)は73.3%、同じく酸素の存在割合(O存在割合)は24.7%、酸素に対する炭素の比率(C/O)は3.0であった。
このフィルムの完溶時間(冷水溶解性)は88秒、耐酸化劣化性評価の結果はAであった。
製膜原液の組成、製膜条件、得られた水溶性フィルムのXPS分析結果および評価結果を表1にまとめた。なお第1乾燥ロールに接触した面を表面1、反対側の面を表面2と称した。
【0077】
<実施例2>
PVAを、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られたマレイン酸メチル(MA)変性PVA(けん化度99モル%、重合度1700、MA変性度5モル%)に変更した以外は実施例1と同様にして、水溶性フィルムを得た。この水溶性フィルムのXPS分析結果、完溶時間(冷水溶解性)、および耐酸化劣化性評価の結果を表1に示す。
【0078】
<実施例3、4>
実施例2で得たフィルムの一部を巻き出して、コロナ処理装置にてその両面を、250W・分/m2(実施例3)および350W・分/m2(実施例4)の条件で処理した後に巻き取った。この水溶性フィルムのXPS分析、完溶時間(冷水溶解性)、および耐酸化劣化性評価の結果を表1に示す。
【0079】
<実施例5>
界面活性剤の量を、0.2質量部とした以外は実施例1と同様にして、水溶性フィルムを得た。この水溶性フィルムのXPS分析、完溶時間(冷水溶解性)、および耐酸化劣化性評価の結果を表1に示す。
【0080】
<比較例1>
実施例1で得たフィルムの一部を巻き出して、コロナ処理装置にてその両面を、410W・分/m2の条件で処理した後に巻き取った。この水溶性フィルムのXPS分析、完溶時間(冷水溶解性)、および耐酸化劣化性評価の結果を表1に示す。
【0081】
<比較例2>
界面活性剤を、ポリオキシエチレンドデシルエーテル(ポリオキシエチレンの縮合度が4を中心とした1から10の範囲)に変更した以外は実施例1と同様にして、水溶性フィルムを得た。この水溶性フィルムのXPS分析、完溶時間(冷水溶解性)、および耐酸化劣化性評価の結果を表1に示す。
【0082】
<比較例3>
PVAを、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られたPVA(けん化度99モル%、重合度1700)に変更した以外は実施例1と同様にして、水溶性フィルムを得た。この水溶性フィルムのXPS分析、完溶時間(冷水溶解性)、および耐酸化劣化性評価の結果を表1に示す。
【0083】
<比較例4>
第1乾燥ロールの表面温度を115℃に、第1乾燥ロール非接触面の全体に吹き付ける熱風に含まれる水分量を0.5g/m3に、さらに第2乾燥ロールおよびその後続の乾燥ロールの表面温度を115℃に変更した以外は実施例1と同様にして、水溶性フィルムを得た。この水溶性フィルムのXPS分析、完溶時間(冷水溶解性)、および耐酸化劣化性評価の結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
上記の結果から、本発明の水溶性フィルムは、冷水溶解性と耐酸化劣化性のバランスに優れていることがわかる。したがって本発明の水溶性フィルムは、各種水溶性フィルムの用途、例えば、薬剤包装用フィルム、液圧転写用ベースフィルム、刺繍用基材フィルム、人工大理石成形用離型フィルム、種子包装用フィルム、汚物収容袋用フィルムなどに好適に使用できる。これらの中でも、本発明の水溶性フィルムは薬剤包装用フィルムとしてより好適に使用され、中でも、農薬、洗剤(漂白剤を含む)など酸化性のある薬剤包装用フィルムとして使用される。