(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-22
(45)【発行日】2025-05-30
(54)【発明の名称】モデル生成装置、評価装置、支援システム、モデル生成方法、及び評価方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20250523BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20250523BHJP
【FI】
G06Q50/02
G01N33/15 C
(21)【出願番号】P 2021131960
(22)【出願日】2021-08-13
【審査請求日】2024-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】上杉 龍士
【審査官】松浦 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-082765(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047726(WO,A1)
【文献】特開2017-012138(JP,A)
【文献】特開2004-185222(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105678629(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107679664(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G01N 33/00-33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物生産における病虫害の防除効果を評価する評価モデルを生成するモデル生成装置であって、
農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、前記作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを含むデータセットを回帰分析し、前記作業情報を説明変数とし、前記病虫害防除効果の評価値を目的変数とする回帰モデルを生成するモデル生成部を備
えており、
前記評価値は、農作物生産者に対して行った、前記病虫害防除効果の評価に関するアンケートから得られるデータである、モデル生成装置。
【請求項2】
前記モデル生成部は、複数の前記説明変数を重回帰分析した重回帰モデル、又は、複数の前記説明変数を用いて機械学習した学習済モデルを生成する、請求項1に記載のモデル生成装置。
【請求項3】
前記モデル生成部は、複数の前記説明変数のそれぞれを単回帰分析した単回帰分析モデルを生成する、請求項1に記載のモデル生成装置。
【請求項4】
農産物生産における病虫害の防除効果を評価する評価装置であって、
農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、前記作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを含むデータセットを回帰分析することにより生成された、前記作業情報を説明変数とし、前記病虫害防除効果の評価値を目的変数とする回帰モデルを用いて、前記作業情報を入力として、前記病虫害防除効果の評価値を取得する評価部を備
えており、
前記評価値は、農作物生産者に対して行った、前記病虫害防除効果の評価に関するアンケートから得られるデータである、評価装置。
【請求項5】
前記評価部は、前記作業情報毎に出力された前記病虫害防除効果の評価値を集計し、前記作業情報の総合的な病虫害防除効果を評価した評価値を取得する、請求項4に記載の評価装置。
【請求項6】
前記評価値を増加させる前記作業情報を選択して、農作物生産者への提案情報を生成する提案部をさらに備
え、
前記提案部は、農作物生産者が前記病虫害防除効果の評価に対してネガティブな回答をした前記作業に対する前記病虫害防除効果の評価値の高い順に優先度を決定し、優先度の高い順に提案情報を提案する、請求項4又は5に記載の評価装置。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項に記載のモデル生成装置と、
請求項4から6のいずれか1項に記載の評価装置と
を備えた、
農作物生産における病虫害の防除を支援する支援システム。
【請求項8】
農作物生産における病虫害の防除効果を評価する評価モデルを生成するモデル生成方法であって、
農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、前記作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを含むデータセットを回帰分析し、前記作業情報を説明変数とし、前記病虫害防除効果の評価値を目的変数とする回帰モデルを生成するモデル生成ステップを包含
しており、
前記評価値は、農作物生産者に対して行った、前記病虫害防除効果の評価に関するアンケートから得られるデータである、モデル生成方法。
【請求項9】
農作物生産における病虫害の防除効果を評価する評価方法であって、
農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、前記作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを含むデータセットを回帰分析することにより生成された、前記作業情報を説明変数とし、前記病虫害防除効果の評価値を目的変数とする回帰モデルを用いて、前記作業情報を入力として、前記病虫害防除効果の評価値を取得する評価ステップを包含
しており、
前記評価値は、農作物生産者に対して行った、前記病虫害防除効果の評価に関するアンケートから得られるデータである、評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モデル生成装置、評価装置、支援システム、モデル生成方法、及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「みどりの食料システム戦略」では、化学農薬の使用量の50%低減、化学肥料の使用量の30%低減、有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大することなどが提言されている。農薬の使用を抑え、他の防除技術を用いて効果的に病虫害の管理を行うためには、病虫害に対する高度な知識が必要とされる。そのため、病虫害に対する高度な知識がなくても、最適な防除技術を併用した病虫害の管理を行うことを可能とする防除支援技術が求められている。
【0003】
特許文献1には、害虫の増殖率を目的変数とし、害虫、天敵及び競争者の数、気温等の環境要因を説明変数とした重回帰分析により、害虫の増殖率に与える要因を評価する評価方法が記載されている。特許文献2には、農業に関する蓄積データと、農地別の測定データとを分析し、顧客に対し対象農地の最適化アドバイスを送信するシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-57118号公報
【文献】特開2002-215717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術は、害虫の増殖率に影響する一般的な要因を評価するものであり、農作物生産者毎の事情を考慮して個別に最適な防除方法を評価するものではない。特許文献2に記載された技術は、農作物生産毎に農地の最適化アドバイスをするためのものであるが、現状で農作物生産者が実行している栽培・防除作業を考慮したものではない。
【0006】
病虫害を防除するために利用可能な様々な防除技術を組み合わせて実行する総合的な病害虫管理(IPM:Integrated Pest Management)が知られている。効果的なIPMの実行のためには、現在実行している防除方法を評価し、より効果的な他の防除技術を組み合わせることによってIPMを最適化することが重要である。そして、農作物生産者が病虫害に対する高度な知識を持っていなくても最適なIPMを構築できるように、オーダーメードでの支援が求められている。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、農作物生産者毎に適した防除方法を提案する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るモデル生成装置は、農作物生産における病虫害の防除効果を評価する評価モデルを生成するモデル生成装置であって、農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、前記作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを含むデータセットを回帰分析し、前記作業情報を説明変数とし、前記病虫害防除効果の評価値を目的変数とする回帰モデルを生成するモデル生成部を備えている。
【0009】
本発明の一態様に係る評価装置は、農産物生産における病虫害の防除効果を評価する評価装置であって、農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、前記作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを含むデータセットを回帰分析することにより生成された、前記作業情報を説明変数とし、前記病虫害防除効果の評価値を目的変数とする回帰モデルを用いて、前記作業情報を入力として、前記病虫害防除効果の評価値を取得する評価部を備えている。
【0010】
本発明の一態様に係る支援システムは、農作物生産における病虫害の防除を支援する支援システムであって、本発明の一態様に係るモデル生成装置と、本発明の一態様に係る評価装置とを備えている。
【0011】
本発明の一態様に係るモデル生成方法は、農作物生産における病虫害の防除効果を評価する評価モデルを生成するモデル生成方法であって、農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、前記作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを含むデータセットを回帰分析し、前記作業情報を説明変数とし、前記病虫害防除効果の評価値を目的変数とする回帰モデルを生成するモデル生成ステップを包含する。
【0012】
本発明の一態様に係る評価方法は、農作物生産における病虫害の防除効果を評価する評価方法であって、農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、前記作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを含むデータセットを回帰分析することにより生成された、前記作業情報を説明変数とし、前記病虫害防除効果の評価値を目的変数とする回帰モデルを用いて、前記作業情報を入力として、前記病虫害防除効果の評価値を取得する評価ステップを包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、農作物生産者毎に適した防除方法を提案する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一態様に係る支援システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一態様に係る支援システムの概要を説明する図である。
【
図3】本発明の一態様に係るモデル生成装置が実行する生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の一態様に係る評価装置が実行する評価処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】モデル生成装置が生成するデータベースの例を示す図である。
【
図6】モデル生成装置が実行するデータベース生成処理の例を示す図である。
【
図7】モデル生成装置が生成するデータベース生成処理の例を示す図である。
【
図8】モデル生成装置によるモデル生成処理の例を示す図である。
【
図9】モデル生成装置によるモデル生成処理の他の例を示す図である。
【
図10】評価装置による採点処理の例を示す図である。
【
図11】評価装置による提案処理の例を示す図である。
【
図12】評価装置が作成するIPM診断書の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様は、農作物生産における栽培及び防除に関する作業を含むIPMについて病虫害の防除効果を評価し、病虫害の防除効果の高いIPMを農作物生産者に提案する支援システムを実現するものである。本発明の一態様に係る支援システムは、農作物生産者毎に適したIPMをオーダーメードで提案することにより、農作物生産における病虫害の防除を支援するものであり得る。
【0016】
本明細書において、IPMは、農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を含み、病虫害の防除に影響する複数の作業を組み合わせた総合的な防除方法を意図する場合がある。用語「IPM要素技術」は、IPMに含まれる各作業を意図している。また、IPMに含まれる各作業は、それぞれがIPM成否に影響を及ぼす要因と称することもできる。用語「IPM成否」は、IPMの病虫害防除効果の評価を表している。そして、所定の病虫害防除効果が得られた場合には「IPM成功」、所定の病虫害防除効果が得られない場合には「IPM失敗」と表現することもある。
【0017】
〔支援システム100〕
図1に基づいて、農作物生産における病虫害の防除を支援する支援システム100について説明する。
図1は、本発明の一態様に係る支援システム100の要部構成の一例を示すブロック図である。予測システム100は、モデル生成装置10及び評価装置20を備えている。支援システム100は、さらに、入力装置30、記憶装置40、及び出力装置50を備えている。支援システム100は、モデル生成装置10及び評価装置20をそれぞれ独立した装置として備えていてもよいし、一の装置内に一体として備えていてもよい。
【0018】
ここで、支援システム100による病虫害の防除支援について、
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の一態様に係る支援システムの概要を説明する図である。
図2に示すように、支援システム100は、一例として、(1)アンケートによる情報収集、(2)IPM要素技術のデータベース化、(3)データの解析、(4)IPM成否に対する効果量の算出、(5)IPMの採点、及び(6)IPM要素技術の提案を含む処理を実行する。支援システム100は、(1)~(6)の処理を実行することにより、農作物生産者毎に適したIPMをオーダーメードで提案し、農作物生産における病虫害の防除を支援する。(1)~(6)の各処理の詳細については、後述する。
【0019】
入力装置30は、ユーザによる支援システム100に対する入力操作を受け付ける。支援システム100を利用するユーザは、農作物生産者、農業従事者等であり得る。入力装置30は、一例として、モデル生成装置10において評価モデルを生成するために用いるデータの入力を受け付ける。また、入力装置30は、評価装置20においてIPMを評価するために用いられるデータの入力を受け付ける。
【0020】
記憶装置40は、支援システム100にて使用されるプログラム及びデータを記憶する。記憶装置40は、一例として、入力装置30を介して入力された各種データを記憶している。また、記憶装置40は、一例として、モデル生成装置10において、評価モデルの生成に使用するデータセット及び生成した評価モデルを記憶している。さらに、記憶装置40は、一例として、評価装置20においてIPMを評価するために用いる評価モデル、入力情報、及び出力情報を記憶している。記憶装置40は、各種データを記憶するデータベースをクラウド又はサーバ上に有していてもよい。
【0021】
出力装置50は、評価装置20が評価した結果を出力する。また、出力装置50は、評価装置20が評価した結果に基づき選択されたIPM支援情報を出力してもよい。IPM支援情報には、一例として、現在のIPMに対する評価結果、現在のIPMの改善点、防除効果を向上させるためのIPM要素技術の提案等が含まれる。
【0022】
出力装置50による出力の態様は特に限定されない。出力装置50は、例えば、当該情報を画像として表示する表示装置、当該情報を印刷する印刷装置、又は、当該情報を音声として出力する警報装置であってもよい。また、出力装置50は、評価装置20が評価した結果や、結果に基づくIPM支援情報を表示する、スマートフォンのようなモバイルデバイスのディスプレイであってもよい。
【0023】
(モデル生成装置10)
モデル生成装置10は、農作物生産における病虫害の防除効果を評価する評価モデルを生成する。モデル生成装置10は、一例として、
図2に示す(2)及び(3)の処理を実行する。
【0024】
モデル生成装置10は、制御部11を備えている。制御部11は、モデル生成装置10の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部11の各部が構成される。当該各部として、制御部11は、データ取得部12、データベース生成部13、及びモデル生成部14を備えている。
【0025】
<データ取得部12>
データ取得部12は、評価モデルを生成するためのデータを取得する。データ取得部22は、入力装置30からの予測モデルの生成の開始指示を表す入力信号に基づき、記憶装置40からデータを読み出す。また、データ取得部12は、入力装置30を介して入力されたデータを取得してもよい。データ取得部12は、取得したデータをデータベース生成部13へ出力する。
【0026】
データ取得部12が取得するデータは、一例として、農作物生産者に対して行った、現在行っているIPM要素技術や、そのIPM要素技術による防除効果(IPM成否)の評価に関するアンケートにより得られるデータであり得る。農作物生産者に行うアンケートに含まれる質問事項の一例は、目的変数となるIPM成否に関する質問事項であり、説明変数となるIPMに関する質問事項である。このようなアンケートにより得られるデータは、農作物生産者が所定の質問事項に回答した結果に基づきIPM要素技術を特定し、その防除効果を評価したデータであってもよい。
【0027】
<データベース生成部13>
データベース生成部13は、データ取得部12から取得したデータに基づいて、IPM要素技術とIPM成否とを対応付けたデータベースを生成する。データベース生成部13は、農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、作業情報に含まれる作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを対応付けたデータベースを生成する。
【0028】
上述したデータベースに含まれるIPM要素技術は、栽培環境整備作業、栽培環境管理作業、病虫害発生状況確認作業、病虫害発生時対応作業、病虫害の天敵利用状況、及び農薬利用状況の少なくとも1つの情報を含む作業情報であり得る。上述したデータベースに含まれるIPM成否は、病虫害の発生状況、IPMに要する作業コスト、IPMの労力等を評価した病虫害防除効果の評価値であり得る。データベースに含まれるIPM成否は、病虫害の発生状況と、IPMに要する作業コスト及びIPMの労力の少なくとも一方とを評価した評価値であってもよい。
【0029】
<モデル生成部14>
モデル生成部14は、農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、前記作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを含むデータセットを回帰分析し、作業情報を説明変数とし、病虫害防除効果の評価値を目的変数とする回帰モデルを生成する。すなわち、モデル生成部14は、取得したデータセットを回帰分析し、IPM要素技術を説明変数とし、IPM成否を目的変数とする回帰モデルを、農作物生産における病虫害の防除効果を評価する評価モデルとして生成する。モデル生成部14は、生成した評価モデルを記憶装置40に格納する。
【0030】
モデル生成部14は、一例として、一般化線形回帰(GLR:Generalized Liner Regression)、部分的最小二乗回帰(PLS:Partial Least Squares Regression)等を用いて、線形の回帰モデルを生成する。他の例として、モデル生成部14は、ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン等の既知の機械学習方法を用いて、評価モデルを生成してもよい。
【0031】
モデル生成部14は、複数の前記説明変数を重回帰分析した重回帰モデル、又は、複数の説明変数を用いて機械学習した学習済モデルを評価モデルとして生成してもよい。また、モデル生成部14は、複数の説明変数のそれぞれを単回帰分析した単回帰分析モデルを評価モデルとして生成してもよい。重回帰モデル及び学習済モデルは、複数の説明変数間の関連性を考慮して生成される。
【0032】
モデル生成部14は、評価装置20による評価結果を解析し、回帰モデルを再構築してもよい。すなわち、モデル生成部14は、評価装置20からのフィードバックに基づいて、評価モデルを再生成してもよい。
【0033】
モデル生成装置10によれば、農作物生産者が実行するIPMの作業毎に回帰分析を行うことで、精度よくIPM成否を評価することが可能な評価モデルを生成する事ができる。
【0034】
(評価装置20)
評価装置20は、農作物生産における病虫害の防除効果を評価する。評価装置20は、IPM要素技術を説明変数とし、IPM成否を目的変数とする回帰モデルを用いて、IPM成否を評価する。評価装置20は、一例として、
図2に示す(4)~(6)の処理を実行する。
【0035】
評価装置20は、制御部21を備えている。制御部21は、評価装置20の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部21の各部が構成される。当該各部として、制御部21は、データ取得部22、モデル取得部23、評価部24、及び提案部25を備えている。
【0036】
<データ取得部22>
データ取得部22は、評価の対象となるIPM要素技術を表すIPMデータを取得する。評価の対象となるIPMデータは、アンケートに対する農作物生産者の回答に基づいて得られるデータであり得る。データ取得部22は、入力装置30からの評価の開始指示を表す入力信号に基づき、評価の対象となるIPMデータを記憶装置40から読み出す。また、データ取得部22は、入力装置30を介して入力された、評価の対象となるIPMデータを取得してもよい。データ取得部22は、取得したIPMデータを評価部24へ出力する。
【0037】
<モデル取得部23>
モデル取得部23は、モデル生成装置10により生成された、IPM要素技術を説明変数とし、IPM成否を目的変数とする評価モデルを取得する。モデル取得部23は、モデル生成装置10により生成され、記憶装置40に格納された評価モデルを取得してもよい。モデル取得部23は、取得した評価モデルを評価部24へ出力する。
【0038】
<評価部24>
評価部24は、農作物生産者が実行する栽培及び防除に関する作業を表す作業情報と、前記作業を実行した場合の病虫害防除効果の評価値とを含むデータセットを回帰分析することにより生成された、前記作業情報を説明変数とし、前記病虫害防除効果の評価値を目的変数とする回帰モデルを用いて、前記作業情報を入力として、前記病虫害防除効果の評価値を取得する。
【0039】
評価部24は、取得した評価モデルに、評価の対象となるIPM要素技術のデータを入力し、出力されるIPM成否に関する評価値を取得する。IPM成否に関する評価値は、IPMの成功確率、IPMへの影響の程度を表す効果量等であり得る。評価部24は、取得した評価値を提案部25へ出力する。
【0040】
評価部24は、IPM要素技術毎にIPM成否に及ぼす影響の程度を表す効果量を出力し得る。各IPM要素技術の効果量は、一例として、オッズ比、カイ二乗値等を用いて得られる、IPM成否に及ぼすIPM要素技術の影響の程度を示す統計量として算出され得る。
【0041】
評価部24は、作業情報毎に出力された病虫害防除効果の評価値を集計し、作業情報の総合的な病虫害防除効果を評価した評価値を取得してもよい。評価部24は、IPM要素技術毎に得られた評価値を集計することで、所望の病害虫防除効果を得るために実行したIPM要素技術を総合的に評価することができる。評価部24は、一例として、IPM成功に影響する評価値のみを集計し、IPM成功率を算出してもよい。また、評価部24は、IPM失敗に影響する評価値のみを集計し、IPM失敗率を算出してもよい。そして、評価部24は、IPM成功率及びIPM失敗率の少なくとも一方に基づき、IPM要素技術の総合的な採点を行ってもよい。
【0042】
<提案部25>
提案部25は、評価値を増加させる前記作業情報を選択して、農作物生産者への提案情報を生成する。提案部25は、取得した評価値を参照し、病虫害防除効果を向上させるためのIPM要素技術を選択し、農作物生産者へ提案する。これにより、IPMの改善を農作物生産者に提案する。
【0043】
提案部25は、一例として、IPM失敗に影響する評価値を基準として、基準よりも評価値の高い、他のIPM要素技術を選択する。他のIPM要素技術に関する情報は、予め取得されて記憶装置40に記憶されている情報を利用することができる。提案部25は、選択したIPM要素技術を含む提案情報を作成する。提案部25は、作成した提案情報を出力装置50に出力する。また、提案部25は、作成した提案情報を記憶装置40に格納してもよい。
【0044】
提案部25は、選択したIPM要素技術について、評価値の高い順に優先度を決定し、優先度の高い順に提案情報を生成し得る。また、提案部25は、提案するIPM要素技術について、基準となる評価値との差を加点情報として提案してもよい。
【0045】
評価装置20は、農作物生産における栽培及び防除に関する作業を含むIPM要素技術について病虫害の防除効果を評価し、病虫害の防除効果の高いIPM要素技術を農作物生産者に提案することができる。
【0046】
(他の構成)
農作物生産者に対して行うアンケートの質問事項は、IPMに関する適切なデータを得る目的で、適宜変更すればよい。評価装置20による評価結果を参照してアンケートの質問事項を作成すること、並びに、このようにして作成した質問事項を用いて、
図2の(1)農作物生産者へのアンケートによる情報収集を実行することについても、本発明の範疇に含まれる。
【0047】
(モデル生成処理)
モデル生成装置10による予測モデルの生成処理(予測モデルの生成方法)の流れについて、
図3を参照して説明する。
図3は、本発明の一態様に係るモデル生成装置10が実行する生成処理の一例を示すフローチャートである。
図3に示すように、まず、データ取得部12は、農作物生産者へのアンケートにより取得したIPM要素技術及びIPM成否を含むデータセットの取得する(ステップS1)。次に、データベース生成部13は、データ取得部12が取得したデータを用いて、IPM要素技術のデータベースを生成する(ステップS2)。
【0048】
モデル生成部14は、データベースに含まれるIPM要素技術に関する情報を説明変数とし、IPM成否に関する情報を目的変数として回帰分析することにより、回帰モデルを生成する(ステップS3)。モデル生成部14は、生成した回帰モデルを記憶装置40に格納し(ステップS4)、モデル生成処理を終了する。
【0049】
(評価処理)
評価装置20による評価処理(評価方法)の流れについて、
図4を参照して説明する。
図4は、本発明の一態様に係る評価装置20が実行する評価処理の一例を示すフローチャートである。
図4に示すように、まず、データ取得部22は、農産物生産者が実行するIPM要素技術を表すIPM要素技術情報を取得する(ステップS11)。モデル取得部23は、モデル生成装置10により生成された評価モデルを取得する(ステップS12)。そして、評価部24は、IPM要素技術情報を評価モデルに入力し、出力されるIPM成否に対する評価値を取得する(ステップS13)。提案部25は、IPM成否に対する評価値が向上するIPM要素技術を選択する(ステップS14)。そして提案部25は、選択したIPM要素技術を含む提案情報を生成して、出力装置50に出力し(ステップS15)、評価処理を終了する。
【0050】
(支援処理)
図2の(1)~(6)の処理を含む支援システム100による支援処理の一例について、
図5~12を参照して説明する。
【0051】
(1)アンケートによる情報収集
図2に示す(1)アンケートによる情報収集として、目的変数(IPM成否)及び説明変数(IPM要素技術)に関する情報収集のための質問事項を含むアンケートを農作物生産者に対して実施する。
【0052】
目的変数に関する情報収集のための質問事項は、一例として、病害虫の発生程度、病害虫による農業収穫物への被害程度、天敵による防除効果の実感、農業収穫物の収量及び品質、病害虫防除にかけた経費、病害虫防除にかけた労力(時間及び手間)、天敵利用による化学合成殺虫剤の散布回数の減少程度等である。表1に、目的変数に関する情報収集のための質問事項の例を示す。
【表1】
【0053】
説明変数に関する情報収集のための質問事項は、一例として、農作物定植前後の栽培管理及び病害虫の観察、栽培期間中の栽培管理及び病害虫観察、殺虫剤の選択方法及び使用方法、天敵資材の設置方法、天敵の観察、天敵資材の設置前後の農薬の使用方法等である。表2に、説明変数に関する情報収集のための質問事項の例を示す。
【表2】
【0054】
上述したような質問事項のうち、病害虫の発生程度、病害虫による農業収穫物への被害程度、及び天敵による防除効果の実感に関する項目は、必要であれば時期ごとに設問を設定してもよい。また、アンケートを実施する質問事項は作目毎に選択して設定し得る。アンケートを実施する質問事項は、目的変数及び説明変数に関するものをそれぞれ2~5個程度とすることが好ましい。また、IPM成否に及ぼす影響が高い質問事項から順に質問するように、質問事項の順序を設定することが好ましい。
【0055】
(2)IPMの集合知データベース化
次に、農作物生産者に実施したアンケートにより得られたデータをデータベース化し、IPMの集合知データベースを作成する。一例として、農作物生産者に実施したアンケートの結果について、IPMの集合知データベースを作成する。IPMの集合知データベースの例を
図5に示す。
図5に示すように、回答者IDと、農作物生産者の属性に関する回答、目的変数に関する回答、及び説明変数に関する回答とを対応付けて、データベースを作成する。
【0056】
次に、
図6に示すように、アンケートの回答をバイナリ化(0/1化)する。バイナリ化処理として、例えば、IPM成功に対してポジティブな回答は「1」、ネガティブな回答は「0」と変換し、総回答数が均等に割り振られるように処理する。これにより、
図7に示すように、回答をバイナリ化処理したIPMの集合知データベースが得られる。
【0057】
(3)データの解析
作成したデータベースを用いて、各目的変数に対する各説明変数のデータ解析を行う。データ解析は、各目的変数に対して複数の説明変数を用いる重回帰分析若しくは機械学習、又は、各目的変数に対して説明変数毎に行う単回帰分析により、各説明変数が目的変数に及ぼす影響度合い(効果量)を算出する評価モデルを生成する。説明変数の数が、例えば15以上のように多くなり、重回帰分析では解が不安定になるような場合には、単回帰分析するというように、解析方法は適宜選択すればよい。なお、この効果量が、病虫害防除効果の評価値である。
【0058】
(4)効果量の算出
生成した評価モデルを用いて、効果量を算出する。重回帰分析又は機械学習により生成した重回帰モデルを用いた効果量の算出を
図8に示し、単回帰分析により生成した単回帰モデルを用いた効果量の算出を
図9に示す。重回帰モデルを用いる場合、
図8に示すように、各目的変数に対して、説明変数間の関連性を調整した上で、各説明変数の効果量が算出される。一方、単回帰モデルを用いる場合、
図9に示すように、各目的変数に対して、説明変数間の関連性を調整せずに、各説明変数の効果量が算出される。算出された効果量を100分率(%)化してもよい。
【0059】
なお、アンケート回答者の属性(回答年や産地など)が効果量の算出に強く影響する場合には、属性に関する情報を変量効果として処理してもよい。
図8及び
図9に示す効果量の算出に用いたデータベースは、農作物生産者300名のアンケートに対する回答を疑似乱数によって自動生成したものである。
図8及び
図9に示す例ではロジスティック回帰モデル(2項分布モデル)を用い、効果量をオッズ比(OD)として算出した。
【0060】
(5)IPM要素技術の採点
算出した効果量に基づいて、各農作物生産者のアンケートに対する回答に対して採点し、各農作物生産者が実行しているIPM要素技術を評価する。一例として、IPM成否に対してポジティブな回答(1)に対して効果量(%)を加点し、合計点数を算出する。この算出を目的変数毎に行う。IPM要素技術の採点処理の一例を、
図10に示す。
【0061】
図10に示すように、例えば、回答者ID0001の「Qm01.定植から12月までに、ウィルス病(モザイク症状)による収量被害・果実被害」に対するIPM要素技術の点数は、89点/100点である。また、回答者ID0001の「Qm05.天敵利用時の殺虫剤の散布回数を減らす」に対するIPM要素技術の点数は、85点/100点である。
【0062】
次に、回答者ID0002の「Qm01.定植から12月までに、ウィルス病(モザイク症状)による収量被害・果実被害」に対するIPM要素技術の点数は、66点/100点である。また、回答者ID0002の「Qm05.天敵利用時の殺虫剤の散布回数を減らす」に対するIPM要素技術の点数は、63点/100点である。
【0063】
さらに、回答者ID0300の「Qm01.定植から12月までに、ウィルス病(モザイク症状)による収量被害・果実被害」に対するIPM要素技術の点数は、43点/100点である。また、回答者ID0300の「Qm05.天敵利用時の殺虫剤の散布回数を減らす」に対するIPM要素技術の点数は、51点/100点である。
【0064】
(6)推奨作業の提案及びIPM診断書の作成
採点結果に基づき、各農作物生産者のアンケートに対する回答に対して、点数を向上させるIPM要素技術を提案することにより、IPMの改善を提案する。IPM要素技術の提案処理の例を
図11に示す。
図11に示すように、IPM成否に対してネガティブな回答(0)を行った説明変数(IPM成否に関係する作業)に対して算出された効果量(%)を基準として、効果量が高い順に提案の優先度を決定する。これによって、優先度の高い順に推奨作業の提案を行うとともに、この作業を行った場合の加点数も算出する。また、必要に応じて、この作業に関する詳細情報について、農作物生産者がアクセスできるようにハイパーリンクなどを設定する。推奨作業、加点数及びハイパーリンク等を含めて、
図12に示すようなIPM診断書を作成し、アンケートに回答した農作物生産者に提案する。すなわち、農業生産者(アンケート回答)ごとに最適化した「診断書」によってIPMの支援を行うことができる。
【0065】
このように、支援システム100によれば、農作物生産における栽培及び防除に関する作業を含むIPMについて病虫害の防除効果を評価し、病虫害の防除効果の高いIPM要素技術を農作物生産者に提案することができる。支援システム100によれば、農作物生産者毎に適したIPMをオーダーメードで提案することにより、農作物生産における病虫害の防除を支援することができる。
【0066】
このような構成によれば、IPMの普及を通じて農業の維持及び発展につながり、陸の豊かさを守るという、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0067】
〔ソフトウェアによる実現例〕
モデル生成装置10及び評価装置20(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部11及び制御部21に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0068】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0069】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0070】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0071】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0072】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
10 モデル生成装置
14 モデル生成部
20 評価装置
24 評価部
25 提案部
100 支援システム