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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-22
(45)【発行日】2025-05-30
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20250523BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20250523BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250523BHJP
【FI】
C01B21/064 H
C08K3/38
C08L101/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021004348
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022109032
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-076956(JP,A)
【文献】特開2019-182737(JP,A)
【文献】特開2010-047450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C08K 3/38
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(D50)が2.0~6.0μm、BET法により測定される比表面積が4~12m/gの六方晶窒化ホウ素粉末であって、上記粉末を構成する六方晶窒化ホウ素粒子表面におけるカルシウム元素の濃度が0.5ppm以下、ケイ素元素の濃度が5ppm以下、ナトリウム元素の濃度がppm以下、鉄元素の濃度が1ppm以下、であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
平均アスペクト比(長径/厚み)が1~7である請求項1記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
樹脂用フィラーである請求項1又は2記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
メラミン法により得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末を石臼型摩砕機で解砕した後に、鉄元素が1ppm以下、強熱残分が5ppm以下である塩酸と25℃ における導電率が5μS/cm以下の純水を混合した酸水溶液を加え、pHが1以下に調整されたスラリーとし、このスラリーを上記pHの範囲を維持した状態で8~15時間撹拌して洗浄する酸洗工程、及び、上記酸洗工程で得られた窒化ホウ素粉末を、濾過器内に供給し、25℃ における導電率が5μS/cm以下の純水を供給しながら濾過を行い、濾液のpHが6以上となるまで窒化ホウ素粉末と純水とを接触せしめる水洗工程を含むことを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末と、樹脂とを含有する樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な六方晶窒化ホウ素粉末に関する。詳しくは、従来の製造方法では実現ができなかった、金属元素不純物の量が極めて少ない、高純度の六方晶窒化ホウ素粉末を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素は、六方晶系の層状構造を有する白色粉末であり、熱伝導性、電気絶縁性、潤滑性、耐食生、離型性、高温安定性、化学的安定性等の多くの優れた特性を有することから、熱伝導性絶縁放熱シート、高柔軟性熱伝導性シリコンゴム、放熱性グリース、放熱性シーラント、半導体封止樹脂、等の充填剤、溶融金属や溶融ガラス成形型の離型剤、固体潤滑剤、化粧品原料等の多くの用途に使用されている。
【0003】
また、六方晶窒化ホウ素の代表的な製造方法としては、
(1)硼酸、酸化ホウ素等のホウ素酸化物をメラミン等の含窒素化合物で還元・窒化させるメラミン法、
(2)酸化ホウ素と炭素源を高温で窒素と反応させ還元・窒化させる還元窒化法
などが知られている。
【0004】
前記六方晶窒化ホウ素の用途において、熱伝導性絶縁放熱シートを始めとする放熱材料は、六方晶窒化ホウ素粉末を樹脂等のマトリックスに高充填して使用され、半導体素子を搭載する半導体装置の放熱層として使用されている。
【0005】
このような中、半導体装置の高集積化が進むに連れて、前記放熱層においてより高度な絶縁耐性が要求されるようになってきた。上記絶放熱層の絶縁耐性は、これに充填される六方晶窒化ホウ素粉末の表面の不純物濃度に大きく影響されると言われている。
【0006】
一方、前記半導体装置は、高集積化と共に装置の小型化も進んでおり、放熱層として10μm~50μm程度の厚みの熱伝導性絶縁放熱シートの要求も高まりつつある。そのため、かかる極めて薄いシートを製造するための窒化ホウ素粉末は、比較的小さい粒径を有する窒化ホウ素粉末の製造に有利なメラミン法によって得られる窒化ホウ素粉末を使用することが有利であると考えられる。
【0007】
ところが、メラミン法で得られる窒化ホウ素粉末は、その粒径が小さいことに起因して高度な洗浄が困難であり、現に、メラミン法によって製造された窒化ホウ素粉末において、高度に高純度化を達成した事例は未だ報告されていないのが現状である。また、メラミン法によって得られた窒化ホウ素粉末を、炭酸リチウムを含むフラックス中で結晶成長させてアスペクト比(長径/厚み)を小さくした窒化ホウ素粉末も知られているが、かかる方法により得られた六方晶窒化ホウ素粉末も、小粒径の粒子よりなる窒化ホウ素粉末であり、依然として同様の課題を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、比較的小さい粒径を有する窒化ホウ素粉末において、その表面に存在する金属不純物の量を著しく低減し、高度に高純度化が達成された窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、メラミン法に代表される方法により得られた、比較的小粒径の窒化ホウ素粉末に対して、酸水溶液による特定の処理と純水による特定の処理を組み合わせることにより、従来の方法では達成できなかった、高度に高純度化された窒化ホウ素粉末を得ることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、平均粒子径(D50)が2.0~6.0μm、BET法により測定される比表面積が4~12m/gの六方晶窒化ホウ素粉末であって、上記粉末を構成する六方晶窒化ホウ素粒子表面におけるカルシウム元素の濃度が1ppm以下、ケイ素元素の濃度が5ppm以下、ナトリウム元素の濃度が5ppm以下、鉄元素の濃度が1ppm以下、であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末が提供される。
【0011】
更に、本発明の窒化ホウ素粉末は、平均アスペクト比(長径/厚み)が1~7であることが好ましい。
【0012】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、上記特性より、樹脂用フィラーとして有用である。
【0013】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、メラミン法により得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末に鉄元素が1ppm以下、強熱残分が5ppm以下である塩酸と25℃ における導電率が5μS/cm以下の純水を混合した酸水溶液を加え、pHが1以下に調整されたスラリーとし、このスラリーを上記pHの範囲を維持した状態で8~15時間撹拌して洗浄する酸洗工程、及び、上記酸洗工程で得られた窒化ホウ素粉末を、濾過器内に供給し、25℃ における導電率が5μS/cm以下の純水を供給しながら濾過を行い、濾液のpHが6以上となるまで窒化ホウ素粉末と純水とを接触せしめる水洗工程を含む方法により製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、平均粒子径(D50)が2.0~6.0μm、BET法により測定される比表面積が4~12m/gと小粒径でありながら、上記粉末を構成する六方晶窒化ホウ素粒子表面における金属不純物の濃度が極めて低く、且つ、酸化ホウ素の量も低く抑えられているため、フィラーとして樹脂等のマトリックスに高充填して使用し、半導体素子を搭載する半導体装置の放熱層として使用した場合に、極めて優れた絶縁耐性と六方晶窒化ホウ素が元来有する高い放熱特性とを発揮することができる。
【0015】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法によれば、上記高純度の六方晶窒化ホウ素粉末を確実に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<六方晶窒化ホウ素粉末>
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、平均粒子径(D50)が2.0~6.0μm、BET法により測定される比表面積が4~12m/gの六方晶窒化ホウ素粉末であって、上記粉末を構成する六方晶窒化ホウ素粒子表面におけるカルシウム元素の濃度が1ppm以下、ケイ素元素の濃度が5ppm以下、ナトリウム元素の濃度が5ppm以下、鉄元素の濃度が1ppm以下、であることを特徴とする。
【0017】
前記六方晶窒化ホウ素粉末は、後述のメラミン法による製造方法に起因して小粒径であり、また、これにフラックス法を併用して得られる粒子は、肉厚の板状の六方晶窒化ホウ素一次粒子を含む。前記したように、このような、小粒径の六方晶窒化ホウ素粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末は洗浄による精製が極めて困難であり、従来上記レベルまで高純度化された六方晶窒化ホウ素粉末は存在しなかった。
【0018】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒子径(D50)は、2.0μm~6.0μmである。平均粒子径(D50)の上限は、5.0μm以下であることが好ましく、4.0μm以下であることがより好ましい。また、平均粒子径(D50)の下限は、3.0μm以上であることが好ましい。上記平均粒子径を有する六方晶窒化ホウ素粉末は、近年需要が増しているシート厚みが10~50μmと薄い樹脂シートを作製する際、フィラーがシート表面に突出せず、表面の平滑性を維持するために有用なフィラーとして使用されるものであり、かかる大きさを有しながら、後述するように、高純度化された六方晶窒化ホウ素粉末を充填した樹脂シートは、六方晶窒化ホウ素粉末による熱伝導性の付与と共に、高い絶縁耐性を示す。
【0019】
尚、上記平均粒子径(D50)は、実施例において詳細に説明するように、窒化ホウ素粉末をエタノールに分散させたものを測定試料として、レーザー回折・散乱方式により測定されるものであり、六方晶窒化ホウ素一次粒子が単独、或いは、凝集することにより構成された六方晶窒化ホウ素凝集粒子の粒子径の平均値を示すものである。
【0020】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、BET法により測定される比表面積が、4~12m/gであり、4~10m/gであることがより好ましく、5~10m/gであることがさらに好ましく、6~10m/gであることがことさら好ましい。比表面積が前記範囲であることは、六方晶窒化ホウ素粉末を構成する六方晶窒化ホウ素一次粒子が小粒径であることを意味する。
【0021】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成する六方晶窒化ホウ素一次粒子が比較的肉厚であり、凝集が比較的少ない場合に、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積が上記範囲となる傾向があり、これにより、六方晶窒化ホウ素粉末を樹脂に混練する際、樹脂組成物の粘度の上昇が抑制され、樹脂へ充填し易くなる。その結果、本発明の一実施形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末を用いて作製した樹脂シートでは、良好な熱伝導性および良好な絶縁耐力を示す。
【0022】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の最大の特徴は、粉末を構成する六方晶窒化ホウ素粒子表面における金属不純物の濃度として、カルシウム元素の濃度1ppm以下、ケイ素元素の濃度が5ppm以下、ナトリウム元素の濃度が5ppm以下、鉄元素の濃度が1ppm以下、であることにある。さらに、上記カルシウム元素の濃度は0.5ppm以下、ケイ素元素の濃度が4ppm以下、ナトリウム元素の濃度が3ppm以下、鉄元素の濃度が0.5ppm以下、であることがより好ましい。本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成する六方晶窒化ホウ素粒子表面における金属不純物の濃度が上記の範囲であることは、本発明の一実施形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末を用いて樹脂シートを作製した際に、六方晶窒化ホウ素が本来有する絶縁性を十全に発揮することを可能とする。
【0023】
尚、本発明において、六方晶窒化ホウ素粉末を構成する六方晶窒化ホウ素粒子表面における金属不純物の濃度の測定は、実施例において詳述するが、0.04mol/Lの濃度の硫酸水溶液に、25℃で120分浸漬後、回収された液をICP発光分光分析法により元素分析する方法により行ったものである。
【0024】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、平均アスペクト比(長径/厚み)は1~7であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~5であることがさらに好ましい。1~4であることがことさらに好ましい。六方晶窒化ホウ素粉末の平均アスペクト比が上記の範囲であるということは、前記比表面積でも特定したように、六方晶窒化ホウ素一次粒子が比較的肉厚の板状粒子であることを表すものである。
【0025】
尚、六方晶窒化ホウ素一次粒子のアスペクト比は、後述の実施例に記載の測定方法によって測定された平均値を表す。
【0026】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の酸素含有量は特に限定されないが、放熱材料用途として使用する場合は、酸素含有量が高いと熱伝導率が低下する傾向にあるため、酸素含有量は1.0質量%以下であることが好ましい。なお、メラミン法で製造された六方晶窒化ホウ素粉末の場合、酸素含有量が0.1質量%~1.0質量%程度となることが一般的である。六方晶窒化ホウ素粉末の酸素含有量は、後述の実施例に記載の測定方法によって測定された値を表す。
【0027】
<樹脂組成物>
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末と樹脂とを配合することで樹脂組成物を得ることが出来る。樹脂組成物は例えば樹脂シートとして使用することが可能であり、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末により、高熱伝導性および高絶縁耐力を示す樹脂シートを得ることができる。得られる樹脂組成物は、六方晶窒化ホウ素粉末が極めて高純度であるため、絶縁耐性が向上した樹脂組成物を構成することができ、その成形体、例えば樹脂シートにおいて、上記効果を発揮することができる。
【0028】
前記樹脂組成物を構成する樹脂は、特に制限されず、例えばシリコーン系樹脂またはエポキシ系樹脂であってよい。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型の水素添加エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ポリテトラメチレングリコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、四官能ナフタレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノールエポキシ樹脂、ナフトールノボラックエポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ポリサルファイド編成エポキシ樹脂、トリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂、およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物型のエポキシ樹脂等が挙げられる。これらエポキシ樹脂の1種を単独で、あるいは、2種以上を混合して使用してもよい。また、硬化剤としてアミン系樹脂、酸無水物系樹脂、フェノール系樹脂、イミダゾール類、活性エステル系硬化剤、シアネートエステル系硬化剤、ナフトール系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤等を用いてもよい。これら硬化剤も1種を単独で、あるいは、2種以上を混合して使用してもよい。これら、硬化剤のエポキシ樹脂に対する配合量は、エポキシ樹脂に対する当量比で、0.5~1.5当量比、好ましくは0.7~1.3当量比である。本明細書において、これらの硬化剤も樹脂に包含される。
【0029】
また、シリコーン系樹脂としては、付加反応型シリコーン樹脂とシリコーン系架橋剤との混合物である公知の硬化性シリコーン樹脂を制限なく使用することができる。付加反応型シリコーン樹脂としては、例えば、分子中にビニル基やヘキセニル基のようなアルケニル基を官能基としてもつポリジメチルシロキサン等のポリオルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系架橋剤としては、例えば、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジエンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキサン基末端封鎖ポリ(メチルハイドロジエンシロキサン)、ポリ(ハイドロジエンシルセスキオキサン)等のケイ素原子結合水素原子を有するポリオルガノシロキサン等が挙げられる。また、硬化触媒には、シリコーン樹脂の硬化に用いられる公知の白金系触媒等を制限なく使用することができる。例えば、微粒子状白金、炭素粉末に担持した微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウム、ロジウム触媒等が挙げられる。
【0030】
また、樹脂としては、液晶ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリフタルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリアリールエーテルケトン、ポリフェノレンオキシド、フッ素樹脂、シアン酸エステル化合物、マレイミド化合物などを使用することも可能である。
【0031】
液晶ポリマーには、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーと、溶液状態で液晶性を示すレオトロピック液晶ポリマーとがあり何れの液晶ポリマーを用いてもよい。
【0032】
サーモトロピック液晶ポリマーとしては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)と、テレフタル酸と、4,4’-ビフェノールから合成されるポリマー 、PHBと2,6-ヒドロキシナフトエ酸から合成されるポリマー、PHBと、テレフタル酸と、エチレングリコールから合成されるポリマーなどが挙げられる。
【0033】
フッ素樹脂としては、例えば、例えば四ふっ化エチレン樹脂(PTFE)、四ふっ化エチレン-六ふっ化プロピレン共重合樹脂(PFEP)、四ふっ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)などが挙げられる。
【0034】
シアン酸エステル化合物としては、例えば、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物、ビフェニルアラルキル型シアン酸エステル化合物、ナフチレンエーテル型シアン酸エステル化合物、キシレン樹脂型シアン酸エステル化合物、アダマンタン骨格型シアン酸エステル化合物が好ましく、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物、ビフェニルアラルキル型シアン酸エステル化合物、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物が挙げられる。
【0035】
マレイミド化合物としては、例えば、N-フェニルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス{4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル}プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5-ジエチル-4-マレイミドフェニル)メタン、下記式(1)で表されるマレイミド化合物、下記式(2)で表されるマレイミド化合物などが挙げられる。
【0036】
【化1】
【0037】
上記式(1)中、Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を示し、好ましくは水素原子を示す。また、nは、1以上の整数を表し、好ましくは10以下の整数であり、より好ましくは7以下の整数である。
【0038】
【化2】
【0039】
上記式(2) 中、複数存在するRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等)、又はフェニル基を表し、耐燃性及びピール強度をより一層向上する観点から、水素原子、メチル基、及びフェニル基からなる群より選択される基であることが好ましく、水素原子及びメチル基の一方であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。
【0040】
樹脂と六方晶窒化ホウ素粉末との配合比は、用途に応じて適宜決定すればよく、例えば、全樹脂組成物中に上述の六方晶窒化ホウ素粉末を好ましくは30~90体積%、より好ましくは40~80体積%、さらに好ましくは50~70体積%配合することができる。
【0041】
樹脂組成物は、六方晶窒化ホウ素および樹脂以外の成分を含んでいてもよい。樹脂組成物は、例えば、無機フィラー、硬化促進剤、変色防止剤、界面活性剤、分散剤、カップリング剤、着色剤、可塑剤、粘度調整剤、抗菌剤などを本発明の効果に影響を与えない範囲で適宜含んでいてもよい。
【0042】
本発明の樹脂組成物の用途は、例えば、接着フィルム、プリプレグ等のシート状積層材料(樹脂シート)、回路基板(積層板用途、多層プリント配線板用途)、ソルダーレジスト、アンダ-フィル材、熱接着剤、ダイボンディング材、半導体封止材、穴埋め樹脂、部品埋め込み樹脂、熱インターフェース材(シート、ゲル、グリース等)、パワーモジュール用基板、電子部品用放熱部材等を挙げることができる。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、例えば回路基板用途に使用することが可能である。回路基板用途、特に樹脂組成物と銅箔とを積層した銅貼積層板用途においては、好適な樹脂として、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、ふっ素樹脂、シアン酸エステル化合物、マレイミド化合物等を挙げることが出来る。この中でも衛星放送の受信機器や携帯電話等の電子通信機器に搭載される銅貼積層板用途においては、高周波特性、耐熱性、耐候性、耐薬品性、撥水性に優れていることから、ふっ素樹脂が特に好適な樹脂として挙げられる。また、回路基板が鉛フリー半田を使用して製造される場合には、鉛フロー半田のリフロー温度が260℃程度であることから、耐熱性の高い液晶ポリマーを使用することが好適であり、耐熱性や難燃性により優れることから、サーモトロピック液晶ポリマーが特に好適である。
【0044】
さらに、銅貼積層板用途においては、樹脂として、エポキシ樹脂及び/またはマレイミド化合物と、シアン酸エステル化合物とを使用することが好ましい形態として挙げることが出来る。このような樹脂組成とすることで、ピール強度や吸湿耐熱性に優れた樹脂組成物とすることが容易となる。この場合、エポキシ樹脂としては、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂が難燃性や耐熱性の観点から好ましく、マレイミド化合物としては、2,2’-ビス{4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル}プロパン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン及び前記式(B-1)で表されるマレイミド化合物、及び前記式(B-2)で表されるマレイミド化合物が、熱膨張率やガラス転移温度の観点から好ましく、シアン酸エステル化合物としては、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物、ビフェニルアラルキル型シアン酸エステル化合物、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物が、ガラス転移温度やめっき密着性の観点から好ましい。
【0045】
また、本発明の樹脂組成物は、多層プリント配線板の絶縁層として使用することも可能である。この場合、樹脂としては、耐熱性と銅箔回路への接着性に優れることから、エポキシ樹脂を使用することが好ましい。エポキシ樹脂としては、温度20℃で液状のエポキシ樹脂と、温度20℃で固形状のエポキシ樹脂とを併用することが、優れた可撓性を有する樹脂組成物が得られると共に、絶縁層の破断強度が向上するため好ましい。好ましい温度20℃で液状のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂が挙げられる。好ましい温度20℃で固形状のエポキシ樹脂としては、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。温度20℃で液状のエポキシ樹脂と、温度20℃で固形状のエポキシ樹脂の配合比は、質量比で1:0.1~1:4の範囲が好ましく、1:0.8~1:2.5がより好ましい。
【0046】
また、本発明の樹脂組成物をアンダーフィル材としてとして使用する場合、樹脂としては、耐熱性、体質性、機械的強度等の観点からエポキシ樹脂であることが好まし、常温で液状のエポキシ樹脂を使用することが特に好ましい。
【0047】
また、樹脂組成物をグリース状の熱インターフェース材として使用する場合には、樹脂としてシリコーン樹脂を使用することが好ましい。シリコーン樹脂としては、付加反応型シリコーン樹脂として下記式(3)で示されるポリオルガノシロキサンと、シリコーン系架橋剤として1分子中に少なくともケイ素原子結合水素原子を有するポリオルガノシロキサンとを使用することが好ましい。
【0048】
【化3】
【0049】
式中、Rは独立に非置換又は置換の1価炭化水素基であり、炭素数1~3の1価の炭化水素基であることが好ましい。Rは独立に炭素数1~ 4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基である。pは5~100の整数であり、好ましくは10~50である。aは1~3の整数である。
【0050】
<六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法>
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は特に制限されるものではないが、代表的な製造方法として、メラミン法により得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末に鉄元素が1ppm以下、強熱残分が5ppm以下である塩酸と25℃ における導電率が5μS/cm以下の純水を混合した酸水溶液を加え、pHが1以下に調整されたスラリーとし、このスラリーを上記pHの範囲を維持した状態で8~15時間撹拌して洗浄する酸洗工程、及び、上記酸洗工程で得られた窒化ホウ素粉末を、濾過器内に供給し、25℃ における導電率が5μS/cm以下の純水を供給しながら濾過を行い、濾液のpHが6以上となるまで純水と接触せしめる水洗工程を含む方法が挙げられる。
【0051】
<粗六方晶窒化ホウ素粉末>
本発明の製造方法において、粗六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、前記平均粒径の六方晶窒化ホウ素粉末を得る方法として、ホウ素酸化物と、窒素を含む有機化合物を含む混合粉末を加熱する加熱工程を含む、所謂メラミン法が挙げられる。メラミン法は小粒径の窒化ホウ素粉末を得ることが容易であり、また、低アスペクトな粒子を得ることが容易であるため、平均粒子径(D50)が2.0~6.0μm、比表面積が4~12m/g、アスペクト比が1~7の窒化ホウ素粉末を得ることができ、還元窒化法より好ましい方法である。
【0052】
粗六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法において、前記混合粉末に含まれるホウ素酸化物としては、三酸化二ホウ素(酸化ホウ素)、二酸化二ホウ素、三酸化四ホウ素、五酸化四ホウ素、硼砂、または無水硼砂等を例示でき、なかでも三酸化二ホウ素を用いることが好ましい。ホウ素酸化物として三酸化二ホウ素を用いることにより、安価な原料を使用するので工業的に有益である。なお、ホウ素酸化物として、二種以上を併用してもよい。
【0053】
混合粉末に含まれる窒素を含む有機化合物としては、メラミン、アンメリン、アンメリド、メラム、メロン、ジシアンジアミド、および尿素等を例示でき、なかでもメラミンを用いることが好ましい。窒素を含む有機化合物としてメラミンを用いることにより、安価な原料を使用するので工業的に有益である。なお、窒素を含む有機化合物として、二種以上を併用してもよい。
【0054】
前記混合粉末における窒素原子に対するホウ素原子の重量比(B/N)は、0.2以上、0.5以下であることが好ましく、0.25以上、0.35以下であることがより好ましい。B/Nが0.2以上であることにより、B源を確保し、十分な収率を確保することができる。また、B/Nが0.5以下であることにより、窒化に十分なN源を確保することができる。なお、加熱工程において加熱する混合粉末における窒素原子は、窒素を含む有機化合物由来であり、過熱工程において加熱する混合粉末におけるホウ素原子は、ホウ素酸化物由来である。
【0055】
前記混合粉末はホウ素酸化物と窒素を含む有機化合物以外に、フラックス剤として、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩または酸化物を含んでも良い。上記アルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩または酸化物としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムを例示される。そのうち、炭酸リチウムは、六方晶窒化ホウ素一次粒子を成長させるための助剤として作用するフラックスとなり、一次粒子の厚さ方向の成長を促進することより、樹脂に分散する際に配向を抑制し、樹脂組成物の熱的異方性を小さくできる肉厚の粒子を得ることができ好ましい。なお、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩または酸化物としては、二種以上を併用してもよい。
【0056】
また、前記混合粉末における炭酸リチウムに対するホウ素原子の重量比(B/LiCO)は、0.22以上、0.98以下であることが好ましく、0.30以上、0.80以下であることがより好ましい。B/LiCOが0.22以上であることにより、フラックスの量を適度に抑制できるため、六方晶窒化ホウ素一次粒子を適度に凝集させることができる。また、B/LiCOが0.98以下であることにより、十分な量のフラックスを形成することができるため、前記アスペクト比を有する六方晶窒化ホウ素一次粒子を均一に得ることができる。
【0057】
粗六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法において、加熱工程では、混合粉末を最高温度1200℃以上、1500℃以下で加熱することが好ましい。1200℃以上の温度で混合粉末を加熱することにより、六方晶窒化ホウ素一次粒子の粒子径が過度に小さくなることを防ぎ、かつ、アスペクト比が大きくなることを抑制できる。最高温度は、1250℃以上であることがより好ましく、1300℃以上であることがさらに好ましい。また、1500℃以下の温度で混合粉末を加熱することにより、フラックス剤を使用する場合、その揮発を防ぐことができるとともに、特に、炭酸リチウムを使用した場合は、六方晶窒化ホウ素一次粒子の粒子径およびアスペクト比が大きくなることを抑制できる。最高温度は1450℃以下であることがより好ましい。
【0058】
前記加熱工程では、不活性ガス雰囲気下であって、常圧または減圧環境下において、混合粉末を加熱することが好ましい。上記環境において加熱することにより、加熱炉体の損傷を抑制できる。なお、本明細書において、不活性ガス雰囲気下とは、混合粉末を加熱する容器に不活性ガスを流入させ、当該容器内部の気体を不活性ガスで置換した状態である。不活性ガスの流入量は、特に限定されないが、不活性ガスの流入量が5L/min.以上であってよい。また、不活性ガスは、例えば窒素ガス、炭酸ガスまたはアルゴンガス等であってよい。
【0059】
前記加熱工程より、粗六方晶窒化ホウ素粉末が得られるが、本発明においては、得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末を前記フラックス剤中に供給し、温度1500~2200℃で、1~10時間程度加熱することにより、更に結晶成長させてもよい。上記加熱後に得られる六方晶窒化ホウ素粉末も、粗六方晶窒化ホウ素粉末として扱われる。
【0060】
<解砕工程>
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法において、上述の方法で得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集しているため、粒径の調整を目的に解砕工程を設けても良い。かかる解砕工程は、粗六方晶窒化ホウ素粉末に含有される六方晶窒化ホウ素一次粒子が高密度に凝集することにより構成された粗六方晶窒化ホウ素凝集粒子を解砕する工程である。解砕方法は特に限定されずロールクラッシャーやジェットミル、ビーズミル、遊星ミル、石臼型摩砕機などによる解砕であって良い。また、これらの解砕方法を組み合わせても良く、さらに複数回行っても良い。なお、解砕工程により装置等から金属不純物が混入する場合があるが、後述の酸洗浄工程及び水洗工程により高度に除去することが可能である。
【0061】
<酸洗浄工程>
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法において、酸洗浄工程は、前記方法により得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末に鉄元素が1ppm以下、強熱残分が5ppm以下である塩酸と25℃ における導電率が5μS/cm以下の純水を混合した酸水溶液を加え、pHが1以下に調整されたスラリーとし、このスラリーを上記pHの範囲を維持した状態で8~15時間、好ましくは、10~14時間撹拌して洗浄する工程である。
【0062】
一般に、酸洗浄工程は、酸を用いて加熱工程により得られた六方晶窒化ホウ素粉末を含有する焼成物を洗浄することにより、六方晶窒化ホウ素粉末に付着した炭酸リチウム、酸化ホウ素、または炭酸リチウムおよび酸化ホウ素の複合酸化物、混合粉末に含まれる酸に可溶な不純物、酸洗浄工程までに混入した酸可溶異物等を溶解除去する工程であるが、本発明においては、かかる工程を撹拌下に長時間実施することが特徴である。
【0063】
前記酸洗浄において、粗六方晶窒化ホウ素粉末を酸水溶液と混合して得られるスラリーのpHは洗浄時間を通じて1以下に調整されることが、粗六方晶窒化ホウ素粉末の粒子表面の不純物を十分溶解し、溶けきれない不純物がスラリーに残り六方晶窒化ホウ素粉末の粒子に付着することで酸洗浄不良となる現象を防止でき好ましい。
【0064】
また、前記酸洗浄中はスラリーを撹拌することが必要である。かかる撹拌により酸可溶物と酸水溶液との接触を促進し、酸可溶物の溶解による酸可溶物表面近傍の局所的なpHの上昇を防止し、溶解反応を円滑に進行させることで洗浄不良を防止することができる。上記撹拌の程度は、スラリーを流動させる程度で十分であり、具体的には撹拌翼により撹拌する方法が挙げられる。
【0065】
さらに、前記洗浄時間は8~15時間とすることが好ましい。洗浄時間が8時間より短いと溶解反応が終了しておらず、スラリーに酸可溶物が残り酸洗浄不良となることがある。洗浄時間が15時間以上では効率が悪く工業生産的に好ましくない。また、洗浄温度は、20~60℃ が好ましい。
【0066】
前記酸洗浄工程においてスラリー中の粗六方晶窒化ホウ素粉末と酸水溶液の配分は粗六方晶窒化ホウ素粉末の質量に対して酸水溶液の質量が2~5倍が好ましい。粗六方晶窒化ホウ素粉末に対して酸水溶液が少ないとスラリーの粘度が高くなりすぎ、スラリー全体が撹拌されず、酸洗浄不良となる可能性がある。酸水溶液が多いと撹拌には問題ないが、スラリーの量が多くなるため効率的ではない。
【0067】
前記酸洗浄工程に用いる酸は、塩酸等の希酸が好ましい。そして鉄元素が1ppm以下、強熱残分が5ppm以下である塩酸がより好ましく、鉄元素が0.5ppm以下、強熱残分が3ppm以下である塩酸がさらに好ましい。また、前記酸洗浄工程に用いる純水は25℃ における導電率が5μS/cm以下の純水が好ましく、25℃ における導電率が1μS/cm以下であることがより好ましく、25℃ における導電率が0.5μS/cm以下であることがさらに好ましい。そして前記塩酸と純水を混合した酸水溶液を洗浄液として用いることが好ましい。
【0068】
<水洗工程>
本発明において、水洗工程は、上記酸洗工程で得られた窒化ホウ素粉末を、濾過器内に供給し、25℃ における導電率が5μS/cm以下である純水を供給しながら濾過を行い、濾液のpHが6以上となるまで純水と接触せしめるものである。
【0069】
一般に、水洗工程は、酸洗浄工程で六方晶窒化ホウ素粉末に付着した酸および酸可溶物を除去するために、六方晶窒化ホウ素粉末を水と接触させて洗浄する工程であるが、本発明においては、酸洗浄工程で得られた六方晶窒化ホウ素粉末と水との接触において、純水を使用し、上記純水を供給しながら濾過を行う、「通水濾過」の方式を採用することにより、酸および酸可溶物を高度に除去することを可能とする。
【0070】
上記洗浄に使用する純水は25℃ における導電率が5μS/cm以下であることが好ましく、25℃ における導電率が1μS/cm以下であることがより好ましく、25℃ における導電率が0.5μS/cm以下であることがさらに好ましい。即ち、上記水の導電率が上記範囲より大きい場合、六方晶窒化ホウ素粉末に付着している不純物成分を十分に除去することができない。例えば、水道水などの導電率が5μS/cmを上回る水を使用した場合、水道水中に含まれる金属不純物が六方晶窒化ホウ素粉末に残存する虞があるため適切ではない。
【0071】
水洗工程では酸洗浄工程を経たスラリーを、濾過器内に供給し六方晶窒化ホウ素粉末と洗浄液に分離する。純水を間欠的、好ましくは連続的に濾過機に供給し、六方晶窒化ホウ素粉末と接触せしめることで六方晶窒化ホウ素粉末に付着した酸および酸可溶物を純水側に移し、濾過により六方晶窒化ホウ素粉末と酸および酸可溶物を含んだ純水を直ちに濾液として分離する。純水の供給と濾過を同時に行うことにより、常に新しい純水と六方晶窒化ホウ素粉末を接触せしめると同時に汚染された純水を除去することが可能であり高度な洗浄が可能となる。
【0072】
前記水洗は六方晶窒化ホウ素粉末と接触した後の純水のpHが6以上、好ましくは、6.5以上となるまで継続することが好ましい。また、水洗は六方晶窒化ホウ素粉末1kg当たり、1~20L/分、好ましくは、2~10L/分の純水と接触せしめることが好ましい。また、水洗温度は、20~60℃ が好ましい。
【0073】
このような流水濾過による洗浄を行うことで、六方晶窒化ホウ素粒子表面における金属不純物の濃度が極めて低い六方晶窒化ホウ素粉末を得ることが出来る。
【0074】
前記流水濾過に使用する濾過器は、特に制限されるものではないが、吸引による減圧濾過、加圧による濾過、遠心分離による濾過等の濾過器が好適に使用される。
【0075】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法において、純水による洗浄の終了時には、純水の供給を止めた状態で濾過を継続、つまり脱水を行うことにより、精製された六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。
【0076】
脱水は、含水率が50Wt%以下、より好ましくは45Wt%以下となるように行うことが好ましい。
【0077】
<乾燥工程>
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法において、水洗工程に続き、乾燥工程を実施することが好ましい。六方晶窒化ホウ素粉末の乾燥条件としては、50~250℃の温度で、大気圧下、好ましくは、減圧下での乾燥が好ましい。乾燥時間は、特に限定されないが、含水率が可及的に0%になるまで乾燥することが好ましく、一般には、前記温度で1~48時間行うことが推奨される。
【0078】
<その他の工程>
六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法では、上記以外の工程を含んでよい。このような工程を本明細書において「その他の工程」と称する。六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法に含まれるその他の工程としては、例えば、混合工程、分級工程が挙げられる。
【0079】
前記混合工程は、ホウ素酸化物、窒素を含む有機化合物、および炭酸リチウム等を加熱工程前に混合する工程である。事前に混合粉末を混合することにより、反応が略均一に進むため、作製された六方晶窒化ホウ素一次粒子の粒子径等の変動が抑制される。
【0080】
前記分級工程は、六方晶窒化ホウ素粉末を粒子の大きさおよび/または粒子の形状等に応じて分ける工程である。分級操作は、篩分けであってもよく、湿式分級または気流分級であってよい。
【実施例
【0081】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。各試験方法は以下のとおりである。
【0082】
<アスペクト比>
六方晶窒化ホウ素一次粒子のアスペクト比は分析走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ株式会社製:S-3400N)を用いて測定した。倍率5000倍の走査電子顕微鏡観察像から異なる六方晶窒化ホウ素一次粒子100個を無作為に選び、六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径の長さ、厚みを測定してそれぞれのアスペクト比(長径の長さ/厚みの長さ)を算出し、その平均値をアスペクト比とした。
【0083】
<含水率>
六方晶窒化ホウ素粉末10gを採取し、水分計(エーアンドデイ製M X-50)を用いて水分量を求めた。
【0084】
<比表面積>
六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、マウンテック社製:Macsorb HM model-1201を使用してBET法で測定した。
【0085】
<平均粒子径(D50)>
六方晶窒化ホウ素粉末の粒度分布は、日機装株式会社製:粒子径分布測定装置MT3000を使用して測定した。なお、測定サンプルは、以下に示す方法により調製した。まず、50mLスクリュー管瓶にエタノール20gを分散媒として加え、エタノール中に六方晶窒化ホウ素粉末0.3gを投入した。スクリュー管瓶の蓋を締め、手でスクリュー管瓶を保持し、「上下を反転させ次いで戻す」動作を1回としてその動作を連続して10回繰り返し調整完了とした。そして、測定サンプルの粒度分布測定を行い、得られた結果から体積基準の平均粒子径D50を算出した。
【0086】
<溶出カルシウム量、溶出ケイ素量、溶出ナトリウム量および溶出鉄量>
150ccのビーカーに、0.04mol/Lの濃度の硫酸水溶液50g、六方晶窒化ホウ素粉末2gを投入し、振盪撹拌した後、120分静置した。その間、液の温度を25℃ に調整した。その後、得られた液中のホウ素をICP発光分光分析装置(THERMO FISHER社製iCAP6500)により分析し、溶出カルシウム量(ppm)、溶出ケイ素量(ppm)、溶出ナトリウム量(ppm)および溶出鉄量(ppm)を求め、六方晶窒化ホウ素粉末を構成する六方晶窒化ホウ素粒子表面における各元素濃度とした。
【0087】
<酸素濃度測定>
六方晶窒化ホウ素粉末の酸素濃度は、堀場製作所製:酸素/窒素分析装置EMGA-620を使用して測定した。
【0088】
<純水の導電率>
純水の導電率は、電気伝導率計(オルガノ株式会社製:RG-12)で測定した。
【0089】
<塩酸の鉄濃度>
標準試料液の調製として、共栓付比色管に標準試料(鉄標準液(10μg/mL)及び精密分析用の塩酸(富士フィルム和光純薬製))を所定の鉄量となるように合計10mL測り取り、これに0.02mol/Lの過マンガン酸カリウム溶液(富士フィルム和光純薬製)を1~2滴、チオシアン酸アンモンを5mL加えた後、純水を加え液量を50mLに調整した後、良く混合した。次に測定試料液の調整として、別の共栓付比色管に測定試料(塩酸)10mLを採取し、0.02mol/Lの過マンガン酸カリウム溶液(富士フィルム和光純薬製)を1~2滴、チオシアン酸アンモンを5mL加えた後、純水を加え液量を50mLに調整し良く混合した。そして、測定試料液と標準試料液の色相を白色を背景として目視で比較し、色相が合致していれば、測定試料の鉄量であるとして、塩酸中の鉄濃度を算出した。色相が合致していなければ標準試料液の鉄標準液の液量を変更して再度比較した。
【0090】
<塩酸の強熱残分>
塩酸の強熱残分は以下の方法で測定した。洗浄・乾燥(105~110℃、30分)しデシケーター内で室温まで放冷した蒸発皿の重量m(g)を測定した後、該蒸発皿に塩酸を85mL測り取り、さらに特級硫酸(和光純薬)を1~2滴添加したものを測定試料とした。その後、測定試料を蒸発皿ごと200℃に設定したサンドバス上に、白煙が発生しなくなるまで静置し、次に650℃に設定した電気炉内に1時間静置して強熱した。強熱後、乾燥(105~110℃、30分)しデシケーター内で室温まで放冷した後、蒸発皿の重量m(g)を測定した。得られた結果から、以下の式により、塩酸の強熱残分を求めた。
塩酸の強熱残分(%)=(m-m)/(85×ρ)×100
式中、ρは塩酸の密度(g/mL)である。
【0091】
<樹脂組成物(樹脂シート)の作製>
六方晶窒化ホウ素粉末100質量部と、樹脂として液状硬化性エポキシ樹脂(三菱化学製、jER828、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量184~194g/eq)を22.4質量部及びエポキシ樹脂硬化剤(三菱化学製、jER cure WA、変性芳香族アミン、アミン価623~639)5.6質量部と、溶剤として、シクロヘキサノン(和光純薬製、特級)225質量部とを測り取り、自公転ミキサー(倉敷紡績製:マゼルスターKK-250S)を用いて混合した。
得られた混合物の粘度をブルックフィールド型回転粘度計(ブルックフィールド社製:HBDV2TCP)を用いて温度25℃で測定して、剪断速度200s-1における粘度が700~800mPa・sの範囲となるまで、シクロヘキサノンを追加で配合して自公転ミキサーを用いて撹拌混合を行った。得られた組成物を、離型性ポリイミドフィルム(宇部興産社製:ユーピレックス-50S、厚さ50μm)上に、自動塗工装置(テスター産業社製:PI-1210)を用い、バード式アプリケータで膜厚50μmとなるように塗工した。そして、塗工されたフィルムをドラフト内で15分間風乾の後、真空乾燥機を用いて130℃で40分乾燥して溶剤を除去して未硬化樹脂シートを得た。次いで、前記未硬化樹脂シート2枚を、離型性ポリイミドフィルムごと未硬化樹脂シート同士が接するように重ねて、真空加熱プレス装置(井元製作所社製:手動油圧真空加熱プレス)を用いて、減圧下で、100℃、プレス圧4MPaの条件で3分間熱プレスして圧着させた。続いて150℃に昇温して、減圧下で、プレス圧20MPaの条件で60分間熱プレスして未硬化樹脂シートを硬化させた後、ボックス型オーブン内に移して、165℃で2時間熱処理を行った後、さらに190℃で2時間の熱処理を行い、未硬化樹脂シートを完全に硬化させた。その後、両面の離型性ポリイミドフィルムを剥がして樹脂シートを得た。得られた樹脂シートの厚みは50μmであった。また、樹脂シート中の六方晶窒化ホウ素粉末が占める体積部は65%であった。
【0092】
〔実施例1〕
ホウ素酸化物として無水硼砂4450g、窒素を含む有機化合物としてメラミン5580gを混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは、0.26であった。
【0093】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1300℃にて1時間加熱することにより粗六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。作製した粗六方晶窒化ホウ素粉末を石臼式磨砕機(増幸産業社製:スーパーマスコロイダーMKCA6-5J)で回転数2200rpm、砥石間隔20μmで解砕した。
【0094】
次いで、酸洗工程を実施した。酸洗工程では、容器に解砕した粗六方晶窒化ホウ素粉末と表1に示す純度の35%塩酸及び後記の水洗に使用した純水と同じ純水を充填してスラリーとし、撹拌機で500rpmの回転数で撹拌しながら、表1に示すpHとなるよう調整し、表1に示す時間をかけて処理した。上記酸洗浄完了後、水洗工程を実施した。水洗工程は、酸洗工程完了後のスラリーの全量を遠心濾過機(回転数:1900rpm)に供給し、表1に示す導電率を有する純水を、濾過面に存在する酸洗後の窒化ホウ素粉末に連続的に供給しながら、「通水濾過」を行った。水洗浄完了後、純水の供給を停止し、遠心脱水を行った。脱水後の六方晶窒化ホウ素粉末は、乾燥工程にて含水率0.02%まで減圧乾燥を行い、六方晶窒化ホウ素粉末を得た。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、前記測定を行った結果を表2に示す。
【0095】
〔実施例2〕
ホウ素酸化物として無水硼砂3980g、窒素を含む有機化合物としてメラミン6580g、炭酸リチウム1480g、を混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは、0.28であり、B/LiCOは0.58であった。
【0096】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1300℃にて1時間加熱することにより粗六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。
【0097】
得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末を、表1に示す条件で、実施例1の方法に準じて、解砕、酸洗、水洗及び乾燥のそれぞれの工程を実施し、六方晶窒化ホウ素粉末を得た。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、前記測定を行った結果を表2に示す。
【0098】
〔実施例3〕
ホウ素酸化物として酸化ホウ素2850g、窒素を含む有機化合物としてメラミン5140g、炭酸リチウム2030g、を混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは、0.26であり、B/LiCOは0.44であった。
【0099】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1400℃にて1時間加熱することにより粗六方晶窒化ホウ素粉末を作製した。
【0100】
得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末を、表1に示す条件で、実施例1の方法に準じて、解砕、酸洗、水洗及び乾燥のそれぞれの工程を実施し、六方晶窒化ホウ素粉末を得た。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、前記測定を行った結果を表2に示す。
【0101】
〔実施例4〕
作製した粗六方晶窒化ホウ素粉末を解砕せず洗浄した以外は実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末を得た。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、前記測定を行った結果を表2に示す。
【0102】
〔実施例5〕
作製した粗六方晶窒化ホウ素粉末を石臼式磨砕機で解砕する条件を回転数2000rpm、砥石間隔40μmとした以外は実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を得た。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、前記測定を行った結果を表2に示す。
【0103】
〔実施例6~10〕
実施例1~5で作製した六方晶窒化ホウ素粉末を使用して、前記樹脂シートの作製方法により樹脂シートを作製した。得られた樹脂シートを目視で確認し、平滑である場合を「○(合格)」とし、凹凸の生じた場合を「×(不合格)」として、シート化の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0104】
〔比較例1〕
酸洗工程において、酸洗浄時、スラリーのpHを表1に示す値とした以外は実施例1と同様とした。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、前記測定を行った結果を表2に示す。
【0105】
〔比較例2〕
酸洗工程において、酸洗浄時にスラリーの撹拌を行わなかった以外は実施例1と同様とした。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、前記測定を行った結果を表2に示す。
【0106】
〔比較例3〕
酸洗工程において、酸洗時間を表1に示す値とした以外は実施例1と同様とした。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、前記測定を行った結果を表2に示す。
【0107】
〔比較例4〕
水洗工程において、水洗を「非連続」で実施した以外は、実施例1と同様にした。尚、表1において、水洗工程の「非連続」は、容器にスラリーと純水を加え撹拌し、吸引による減圧濾過で脱水する操作を10回繰り返して行う水洗方法を採用した。得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、前記測定を行った結果を表2に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】