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特許7687267希土類焼結磁石及び希土類焼結磁石の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】希土類焼結磁石及び希土類焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20250527BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20250527BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20250527BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20250527BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
B22F3/00 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022073955
(22)【出願日】2022-04-28
(65)【公開番号】P2023163209
(43)【公開日】2023-11-10
【審査請求日】2024-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 寛
(72)【発明者】
【氏名】飯田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】吉田 三貴夫
(72)【発明者】
【氏名】廣田 晃一
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-116060(JP,A)
【文献】特開2006-165361(JP,A)
【文献】特開2007-165534(JP,A)
【文献】特開2015-122395(JP,A)
【文献】特開2015-179841(JP,A)
【文献】特開2018-082040(JP,A)
【文献】特開2006-210893(JP,A)
【文献】特開2017-017121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
C22C 38/00
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
12~17原子%のR(Rは希土類元素から選ばれる少なくとも1種以上である)、0.1~3原子%のM 1 (M 1 はSi,Al,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb,Biから選ばれる1種以上の元素)、0.05~1原子%のM 2 (M 2 はTi,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wから選ばれる1種以上の元素でTiを必須とする)、4.8~6.5原子%のB、1.5原子%以下の炭素、1.5原子%以下の酸素、0.5原子%以下の窒素、及び残部T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素である)の組成を有し、214B主相結晶粒子と、互いに隣接する主相結晶粒子間に形成される二粒子粒界相と、三個以上の主相結晶粒子に囲まれた粒界三重点とを含む希土類焼結磁石であって、前記主相結晶粒子内、前記二粒子粒界相内、及び前記粒界三重点内のいずれもが、TiB2結晶を含むことを特徴とする希土類焼結磁石。
【請求項2】
前記TiB2結晶がAlB2型結晶構造を有するものである請求項1記載の希土類焼結磁石。
【請求項3】
前記TiB2結晶の形状が、扁平な六角柱形状であり、その六角柱形状の高さ方向の厚みの平均値が10~60nmである請求項1記載の希土類焼結磁石。
【請求項4】
前記M 2 が、0.05原子%以上のTi、及び0.05原子%以上のZrを含む請求項1記載の希土類焼結磁石。
【請求項5】
前記二粒子粒界及び前記粒界三重点からなる全粒界相の10~90体積%が、R 6 13 1 相である請求項1記載の希土類焼結磁石。
【請求項6】
前記主相結晶粒の断面積から算出される円相当直径の平均値である平均結晶粒径が4μm以下である請求項1記載の希土類焼結磁石。
【請求項7】
Dy,Tb,Hoの含有量が合計で0~5.0原子%である請求項1記載の希土類焼結磁石。
【請求項8】
所定の組成を有する合金溶湯を鋳造して原料合金を得る鋳造工程、前記原料合金を粉砕して合金微粉末を調製する粉砕工程、前記合金微粉末を磁場印加中で圧粉成形して成形体を得る成形工程、前記成形体を熱処理して焼結体を得る熱処理工程を含む、請求項1記載の希土類焼結磁石を製造する方法であって、
前記鋳造工程は、合金溶湯を1480~1600℃まで昇温後、500℃までの平均冷却速度を100~1200℃/秒に制御して冷却する工程であり、前記熱処理工程は、前記成形体を950℃~1200℃の温度範囲で0.5~20時間保持する焼結工程を含むことを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に高い保磁力を有することを特徴とする希土類焼結磁石、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(以下、Nd磁石という場合がある。)は、省エネや高機能化に必要不可欠な機能性材料として、その応用範囲と生産量は年々拡大している。例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車、家電製品用の各種モータなどに用いられている。これら種々の用途においては、R-T-B系焼結磁石の高い保磁力(以下、HcJと称する。)が大きな利点となっているが、更なる耐熱性の向上のため、HcJの向上が求められている。
【0003】
従来、R-T-B系焼結磁石のHcJを高める手法として重希土類(主としてDy)が多量に添加されていたが、重希土類添加によって残留磁束密度Br(以下、Brと称する)が低下するという問題があった。そのため、近年、R-T-B系焼結磁石の表面から内部に重希土類元素を拡散させて主相結晶粒の外殻部に重希土類を濃化して、Brの低下を抑制しつつ、高いHcJを得る方法である粒界拡散法がよく採用されるようになってきている。
【0004】
しかし、Dyなどの重希土類は産出地が限定されている等の理由で供給が不安定であり、価格が大きく変動するという問題がある。そのため、Dyなどの重希土類元素をできるだけ使用せずにR-T-B系焼結磁石のHcJを向上させる技術が求められている。
【0005】
国際公開第2013/008756号公報(特許文献1)には、R-T-B系合金においてその組成が所定の関係式を満たすように調製して、通常よりもB量が少ない組成とすることが提案されている。この手法によれば、R217相が生成するが、該R217相を原料として、希土類元素Rと金属元素Mとを反応させ生成させた遷移金属リッチ相(R613M)の体積率を充分に確保することにより、Dyの含有量を抑制しつつ、保磁力の高いR-T-B系焼結磁石が得られると、記載している。
【0006】
また、特開2015-179841号公報(特許文献2)では、R:27~35質量%、B:0.9~1.0質量%、Ga:0.15~0.6質量%、残部Tとした合金粉末と、Tiの水素化物の粉末とを混合した上で、R-T-B系焼結磁石を製造することにより、重希土類元素をできるだけ使用することなく、Brの低下を抑制しつつ高い保磁力と角形性を有するR-T-B系焼結磁石を得ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/008756号公報
【文献】特開2015-179841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1のR-T-B系焼結磁石は、一般的なR-T-B系焼結磁石と比べて角形性が低く、またHcJが高くなるほど角形性が低くなる傾向がある。
【0009】
また、特許文献2のR-T-B系焼結磁石では、角形性を高くすることができるものの、Tiの水素化物を別途準備して混合する必要があるため、製造工程が多くなることによって製造コストが高くなるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、R-T-B系希土類焼結磁石について、2合金混合することなく、高いHcJと角形性を有する高品質のR-T-B系希土類焼結磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、希土類焼結磁石における主相結晶粒子内、二粒子間粒界内、粒界三重点内のいずれもがTiB2結晶を含むことにより、高いHcJと良好な角形性を有する希土類焼結磁石とすることが出来ること、また、その製造については、所定の組成を有する合金溶湯を鋳造して原料合金を得る際に、溶湯の温度及び冷却速度を適正化することで、高いHcJと良好な角形性を有する当該希土類焼結磁石を製造し得ることを見出し、本発明を完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、下記希土類焼結磁石、及びその製造方法を提供するものである。1. 12~17原子%のR(Rは希土類元素から選ばれる少なくとも1種以上である)、0.1~3原子%のM 1 (M 1 はSi,Al,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb,Biから選ばれる1種以上の元素)、0.05~1原子%のM 2 (M 2 はTi,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wから選ばれる1種以上の元素でTiを必須とする)、4.8~6.5原子%のB、1.5原子%以下の炭素、1.5原子%以下の酸素、0.5原子%以下の窒素、及び残部T(Tは鉄族元素から選ばれる1種以上の元素である)の組成を有し、214B主相結晶粒子と、互いに隣接する主相結晶粒子間に形成される二粒子粒界相と、三個以上の主相結晶粒子に囲まれた粒界三重点とを含む希土類焼結磁石であって、前記主相結晶粒子内、前記二粒子粒界相内、及び前記粒界三重点内のいずれもが、TiB2結晶を含むことを特徴とする希土類焼結磁石。
2. 前記TiB2結晶がAlB2型結晶構造を有するものである1の希土類焼結磁石。
3. 前記TiB2結晶の形状が、扁平な六角柱形状であり、その六角柱形状の高さ方向の厚みの平均値が10~60nmである1又は2の希土類焼結磁石。
4. 前記M 2 が、0.05原子%以上のTi、及び0.05原子%以上のZrを含む1~3のいずれかの希土類焼結磁石。
5. 前記二粒子粒界及び前記粒界三重点からなる全粒界相の10~90体積%が、R 6 13 1 相である1~4のいずれかの希土類焼結磁石。
6. 前記主相結晶粒の断面積から算出される円相当直径の平均値である平均結晶粒径が4μm以下である1~5のいずれかの希土類焼結磁石。
7. Dy,Tb,Hoの含有量が合計で0~5.0原子%である1~6のいずれかの希土類焼結磁石。
8. 所定の組成を有する合金溶湯を鋳造して原料合金を得る鋳造工程、前記原料合金を粉砕して合金微粉末を調製する粉砕工程、前記合金微粉末を磁場印加中で圧粉成形して成形体を得る成形工程、前記成形体を熱処理して焼結体を得る熱処理工程を含む、1の希土類焼結磁石を製造する方法であって、
前記鋳造工程は、合金溶湯を1480~1600℃まで昇温後、500℃までの平均冷却速度を100~1200℃/秒に制御して冷却する工程であり、前記熱処理工程は、前記成形体を950℃~1200℃の温度範囲で0.5~20時間保持する焼結工程を含むことを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高いHcJと良好な角形性を兼備した高性能な希土類焼結磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1における希土類焼結磁石の断面を電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)にて観察した画像である。
図2】同希土類焼結磁石に含まれるTiB2結晶をSTEM-EDXにより観察した画像、及びその画像の電子線回折像(a)ならびにBとTiの元素分布像(b)である。
図3】比較例2における希土類焼結磁石の断面を電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)にて観察した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の希土類焼結磁石は、上記の通り、希土類焼結磁石の主相結晶粒子内、二粒子粒界相内、及び粒界三重点内のいずれもが、TiB2結晶を含むものである。
【0016】
まず、磁石全体について説明すると、本発明の希土類焼結磁石は、いわゆるR-T-B系希土類焼結磁石であり、特に限定されるものではないが、12~17原子%のR、0.1~3原子%のM1、0.05~1.0原子%のM2、4.8~6.5原子%のB、1.5原子%以下の炭素、1.5原子%以下の酸素、0.5原子%以下の窒素、及び残部Tからなる組成を有することが好ましい。
【0017】
上記Rは、希土類元素から選ばれる少なくとも1種以上で、かつNdを必須とすることが好ましい。R中のNdの比率は、60原子%以上であることが好ましく、75原子%以上であることがより好ましい。Rの含有量は、特に制限されるものではないが、希土類焼結磁石のHcJおよびBrの極端な低下を抑制する観点から、12~17原子%であることが好ましく、13~16原子%であることがより好ましい。なお、RとしてDy,Tb,Hoは含有しなくてもよく、含有する場合はDyとTbとHoの合計量として、希土類焼結磁石全体に対し、5.0原子%以下(0~5.0原子%)であることが好ましい。
【0018】
上記M1は、Si,Al,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb,Biから選ばれる1種以上の元素で構成される。M1の含有量は、特に制限されるものではないが、R-Fe(Co)-M1粒界相の良好な存在比を確保してHcJの十分な向上効果を得、また磁石の角形性の悪化及びBrの低下を抑制する観点から、0.1~3原子%が好ましく、0.5~2.5原子%がより好ましい。
【0019】
上記M2は、Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wから選ばれる1種以上の元素で、Tiを必須とする。M2の含有量は、特に制限されるものではないが、ホウ化物を安定して形成し焼結時の異常粒成長を抑制する観点から、0.05~1.0原子%が好ましく、0.1~0.5原子%がより好ましい。これにより、製造時に比較的高温で焼結することが可能となり、角形性の改善と磁気特性の向上につながる。
【0020】
ここで、特に制限されるものではないが、上記M2が、0.05原子%以上のTi、及び0.05原子%以上のZrを含むことが好ましく、より好ましくは、Tiは0.1原子%以上、Zrは0.2原子%以上である。
【0021】
上記Bは、特に制限されるものではないが、R1.1Fe44化合物相、いわゆるBリッチ相が形成されることで、HcJの増大が妨げられることを防ぎ、また主相の体積率を確保して磁気特性良好に保つ観点から、4.8~6.5原子%であることが好ましく、5.0~6.2原子%であることがより好ましい。
【0022】
また、本発明の希土類焼結磁石は、酸素、炭素、窒素の含有量が少ないほうが望ましいが、製造工程上、混入を完全に避けることは困難である。酸素含有量は好ましくは1.5原子%以下、特に1.2原子%以下、とりわけ1.0原子%以下、最も好ましくは0.8原子%以下であり、炭素含有量は好ましくは1.5原子%以下、特に1.3原子%以下であり、窒素含有量は好ましくは0.5原子%以下、特に0.3原子%以下である。その他、不純物としては、H,F,Mg,P,S,Cl,Ca等の元素を0.1質量%以下含むことを許容するが、これらの元素も少ないほうが好ましい。
【0023】
上記Tは、鉄族元素から選ばれる1種以上の元素であり、このTとしてFeを含有することが好ましく、更にCoを含んでいてもよい。Tの量は残部であるが、その含有量は70~80原子%が好ましく、75~80原子%が特に好ましい。上記の通り、Coは含有してもしなくてもよいが、キュリー温度及び耐食性の向上を目的として、希土類焼結磁石全体の組成の10原子%以下、好ましくは5原子%以下でTに含んでもよい。10原子%を超えるCo置換は、HcJの大幅な低下を招くことになり好ましくない。
【0024】
本発明希土類焼結磁石の平均結晶粒径は4μm以下であることが好ましく、R2Fe14B粒子の磁化容易軸であるc軸の配向度が98%以上であることが好ましい。平均結晶粒径の測定方法は、次の手順で行うことができる。まず焼結磁石の断面を鏡面になるまで研磨したあと、例えばビレラ液(グリセリン:硝酸:塩酸混合比が3:1:2の混合液)等のエッチング液に浸漬して粒界相を選択的にエッチングした断面をレーザー顕微鏡にて観察する。得られた観察像をもとに、画像解析にて個々の粒子の断面積を測定し、等価な円としての直径を算出する。そして各粒度の占める面積分率のデータを基に平均粒径を求める。なお、平均粒径は異なる20個所の画像における合計約2,000個の粒子の平均とする。焼結体の平均結晶粒径の制御は、微粉砕時の焼結磁石合金微粉末の平均粒度を調節することにより行うことができる。
【0025】
本発明の希土類焼結磁石の組織は、R214B相を主相とし、互いに隣接する主相結晶粒子間に形成される二粒子粒界相と、三個以上の主相結晶粒子に囲まれた粒界三重点とを含むものであり、上記二粒子粒界相及び粒界三重点は、R6131 1相、R-M1相、M2-B2相を含むものであってもよい。そして本発明では、上記主相内、二粒子粒界相内、及び粒界三重点内にTiB2結晶を含むものである。
【0026】
上記TiB2結晶はAlB2型結晶構造を有し、この同定はSTEM-EDXによって行うことができる。結晶形状は扁平な六角柱形状であり、前記六角柱形状の高さ方向である厚みの平均値が10~60nmであることが好ましい。このような組織を取ることで、希土類焼結磁石の特性が向上する理由は必ずしも明らかではないものの、次のように推測される。すなわち、上記TiB2結晶が、主相内、二粒子粒界相内、及び粒界三重点内に析出することで、焼結体の異常粒成長を抑える効果とともに主相粒子間の磁気的な結合を弱めるスペーサーとしても機能し、保磁力の向上や角形性の向上に寄与すると考えられる。
【0027】
このような組織形態はTiを添加して合金を製造することにより得られると考えられる。また、鋳型合金中でのTiは主相に固溶しており、焼結を行うことでTiB2として主相内、粒界相内、及び粒界三重点内に析出していくと考えられる。
【0028】
また、上記二粒子粒界相及び粒界三重点には、R6131 1相を体積率で10~90%含むことが好ましく、50~80%含むことがより好ましい。このような範囲とすることで、十分に高いHcJを得、また、Br大きな低下を抑制できる。
【0029】
ここで、特に制限されるものではないが、上記R6131 1相におけるM1は、SiがM1中0.5~50原子%を占め、M1の残部がAl,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb,Biから選ばれる1種以上の元素であること、又はGaがM1中1.0~80原子%を占め、M1の残部がSi,Al,Mn,Ni,Cu,Zn,Ge,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb,Biから選ばれる1種以上の元素であること、或いはAlがM1中0.5~50原子%を占め、M1の残部がSi,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb,Biから選ばれる1種以上の元素であることが好ましい。
【0030】
これらの元素は金属間化合物(例えば、R6Fe13Ga1やR6Fe13Si1など)を安定的に形成し、かつM1サイトを相互に置換できる。M1サイトの元素を複合化しても磁気特性に顕著な差は認められないが、実用上、磁気特性バラツキの低減による品質の安定化や、高価な元素添加量の低減による低コスト化が図られる。
【0031】
なお、本発明希土類焼結磁石には、上記主相、二粒子粒界相及び粒界三重点の他に、更にR-リッチ相及びR酸化物、R炭化物、R窒化物、Rハロゲン化物、R酸ハロゲン化物等の製造工程上で混入する不可避元素からなる相を含んでもよい。
【0032】
次に、本発明希土類焼結磁石の製造方法について説明する。
本発明の希土類焼結磁石の製造方法は、上記本発明の希土類焼結磁石を製造するものであり、所定の組成を有する合金を粉砕し、これを磁場印加中で圧粉成形し、焼結するものである。
【0033】
本発明の製造方法により、R-Fe-B系希土類焼結磁石用合金を製造する際の各工程は、基本的には通常の粉末冶金法と同様に行うことができる。つまり、特に制限されるものではないが、通常は、所定の組成を有する原料を溶解し、その合金溶湯を鋳造して原料合金を得る鋳造工程、該原料合金を粉砕して合金微粉末を調製する粉砕工程、該合金微粉末を磁場印加中で圧粉成形する成形工程、該成形体を熱処理して焼結体を得る熱処理工程を含む。ここで、熱処理工程は成形体を焼結する焼結工程を含み、更に焼結した磁石に熱処理を施す熱処理工程を含んでいてもよい。また、上記粉砕工程には、粗粉砕粉末を得る粗粉砕工程と微粉末を得る微粉砕工程とを含んでいてもよい。
【0034】
まず、上記鋳造工程においては、上述した本発明における所定の組成となるように各元素の原料となる金属、又は合金を秤量し、例えば、高周波溶解により原料を溶解し、その合金溶湯を冷却し鋳造して原料合金を製造する。上述した通り、本発明の希土類焼結磁石は、合金を製造する際にTiを添加することで製造することが出来る。より具体的には、上記鋳造工程において、Tiを含む所定の組成を有する上記原料を溶解する際に、合金溶湯を1480~1600℃、好ましくは1500~1550℃まで昇温後、500℃までの平均冷却速度を100~1200℃/秒、好ましくは500~1000℃/秒に制御して冷却する。このようにすることで、Tiが主相に固溶した合金組織ができる。冷却速度が100℃/秒未満であった場合、冷却過程で粗大なTiB2結晶が析出するため微細なTiB2結晶が分散した磁石が得られない。一方、冷却速度が1200℃/秒を超える場合、合金組織内にチル晶やアモルファス相が生成し、磁石の磁気特性が低下してしまう。
【0035】
上記粉砕工程は、例えば粗粉砕工程と微粉砕工程を含む複数段階の工程とされる。粗粉砕工程では、例えば、ジョークラッシャー、ブラウンミル、ピンミルあるいは水素化粉砕が用いられ、ストリップキャストにより作製された合金の場合、通常は水素化粉砕を適用することで、例えば0.05~3mm、特に0.05~1.5mmに粗粉砕された粗粉を得ることができる。
【0036】
上記微粉砕工程においては、上記粗粉砕工程で得られた粗粉に対して潤滑剤を添加し、例えばジェットミル粉砕などの方法を用いて微粉砕する。
【0037】
本発明の製造方法では、この微粉砕工程において、微粉末の平均粒径が好ましくは0.5~3.5μmの範囲となるように微粉砕を行う。この場合、より好ましい微粉末の平均粒径は1.0~3.0μm、更に好ましくは1.5~2.8μmである。下限値の0.5μmは、微粉末の酸化、窒化を抑制する観点及び良好なHcJを得る観点による設定値であり、また上限値の3.5μmは、十分なHcJを得る観点による設定値である。なお、粉末の平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布におけるメジアン径を指すものとする。
【0038】
このようにして調製した上記微粉末を磁場印加中で圧粉成形して成形体を得、かかる成形体を熱処理して焼結体とすることにより、焼結磁石とする。
【0039】
成形工程においては、400~1600kA/mの磁界を印加し、合金粉末を磁化容易軸方向に配向させながら、圧縮成形機で圧粉成形すればよい。
【0040】
焼結工程においては、成形工程で得られた成形体を高真空中又はArガスなどの非酸化性雰囲気中で焼結を行う。本発明では、この焼結操作を950℃~1200℃、好ましくは1000~1150℃の温度範囲で、0.5~20時間、好ましくは3~10時間保持することで行うものとする。これにより、主相に固溶していたTiがTiB2として主相内、粒界相内、及び粒界三重点内に析出した磁石組織が得られる。焼結温度が950℃未満であった場合、成形体の緻密化が十分進行せず、また1200℃を超える場合、異常粒成長が起こってしまう。保持時間が0.5時間未満であった場合、TiB2結晶の析出量が不十分となり、また20時間を超える場合、TiB2結晶の粗大化が起こってしまう。
【0041】
焼結工程に続いて、特に制限されるものではないが、HcJを高めることを目的に、前記焼結温度より低い温度で熱処理する熱処理工程を実施しても良い。この焼結後熱処理は、高温熱処理と低温熱処理の2段階の熱処理を行っても良いし、低温熱処理のみを行っても良い。この焼結後熱処理における高温熱処理では、焼結体を600~950℃の温度で熱処理することが好ましく、低温熱処理では400~600℃の温度で熱処理することが好ましい。冷却の際、少なくとも400℃までの冷却速度は5~100℃/分、好ましくは5~80℃/分、より好ましくは5~50℃/分の速度で冷却する。冷却速度が5℃/分未満の場合、R6131 1相が粒界三重点に偏析するため、磁気特性が著しく悪化する場合がある。一方、冷却速度が100℃/分を超える場合、冷却過程におけるR6131 1相の析出を抑制することはできるが、組織中においてR-M1相の分散性が不十分であるため、焼結磁石の角形性が悪化する場合がある。
【0042】
また、得られた焼結磁石に対して、DyやTbを用いた粒界拡散処理を施してもよく、上記のように窒素濃度を800ppm以下に低減することで、粒界拡散後のHcJの増大量を低下させずに安定した特性を得ることができる。
【実施例
【0043】
以下、実施例、比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0044】
[実施例1~5、比較例1~4]
希土類金属(Nd又はジジム)、電解鉄、Co、その他メタル及び合金を使用し、所定の組成となるように秤量し、アルゴン雰囲気中、高周波誘導炉で溶解し、水冷銅ロール上で溶融合金をストリップキャストすることによって合金薄帯を製造した。この時、それぞれの実施例及び比較例で溶融合金の昇温温度と冷却速度を変化させた。その時の条件を表2に示す。次に、作製した合金薄帯を水素化による粗粉砕を行って粗粉末を得、続いて粗粉末に潤滑剤としてメントールを0.20質量%加えて混合した。次に、得られた粗粉末を窒素気流中のジェットミルで微粉砕して微粉末を作製した。その後、不活性ガス雰囲気中でこれらの微粉末を成形装置の金型に充填し、15kOe(1.19MA/m)の磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に加圧成形した。得られた圧粉成形体を真空中において1030~1080℃で5~30時間焼結し、200℃以下まで冷却した。得られた焼結体は、900℃で2時間焼結後熱処理を行い、200℃まで冷却し、引き続き2時間の時効処理を行った。表1に磁石の組成を示す。
【0045】
得られた各焼結体の中心部を18mm×15mm×12mmのサイズの直方体形状に切出して焼結磁石を得、かかる各焼結磁石についてB-Hトレーサを用いて磁気特性を測定した。表2に実施例1~5および比較例1~4それぞれの値を示す。なお、焼結磁石の酸素濃度については不活性ガス融解赤外吸収法、窒素濃度については不活性ガス融解熱伝導法、炭素濃度については燃焼赤外吸収法により測定した。平均結晶粒径D50(μm)については、焼結磁石の磁化方向に対して平行方向の断面を鏡面になるまで研磨し、グリセリン:硝酸:塩酸=3:1:2の混合溶液に浸漬して断面の粒界相を選択的にエッチングし、レーザー顕微鏡で85×85μmの範囲の断面像を25枚取得し、得られた断面像をもとに、画像解析にて個々の粒子の断面積を測定し、円相当径として算出された各粒子の直径の面積平均として求めた。
【0046】
実施例1で作製した焼結磁石の断面を電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)にて観察したところ、図1に示すようにR214Bを主相とし、互いに隣接する主相結晶粒子間に形成される二粒子粒界相と、三個以上の主相結晶粒子に囲まれた粒界三重点が観察された。上記二粒子粒界相及び粒界三重点は、R6131 1相、R-M1 1相、M2-B2相を含む。全粒界相中の75体積%がR6131 1相であった。また、上記主相内、二粒子粒界相内、及び粒界三重点内にTiB2結晶を含んでいた。上記TiB2結晶をSTEM-EDXにより観察したところ、図2(a)に示すようにAlB2型結晶構造を有していた。また、図2(b)に示したように結晶形状は扁平な六角柱形状であり、前記六角柱形状の高さ方向である厚みの平均値が約40nmであることが分かる。図3は比較例2で作製した焼結磁石の断面をEPMAで観察した図であり、ZrB2結晶が粒界三重点内に偏析していることがわかる。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表2及び図1~3に示されているように、主相内、二粒子粒界相内、及び粒界三重点内にTiB2結晶を含んでいる磁石は、高いHcjと角形性を兼備し、高性能な磁石として種々の用途に適用し得るものである。
図1
図2
図3