(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20250527BHJP
C30B 15/20 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
C30B29/06 502G
C30B15/20
(21)【出願番号】P 2022561308
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2021034733
(87)【国際公開番号】W WO2022102251
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2020186976
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】松島 直輝
(72)【発明者】
【氏名】横山 竜介
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-184383(JP,A)
【文献】特開2004-051475(JP,A)
【文献】特開2001-203106(JP,A)
【文献】特開昭64-024090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内の融液に横磁場を印加しながら単結晶を引き上げる単結晶の製造方法であって、
結晶引き上げ工程中に前記融液の減少に合わせて前記ルツボを上昇させると共に、融液面における磁場の向きと前記ルツボの湾曲した底部の内面における磁場の向きがボディー部育成工程の開始から終了まで一定となるように、前記融液の減少に合わせて磁場分布を制御
し、
前記磁場分布の制御は、
前記ルツボの回転軸をZ軸とし、前記Z軸と直交する前記横磁場の印加方向の中心軸をY軸とし、前記Z軸と前記Y軸との交点を原点とし、YZ平面に直交し前記原点を通る軸をX軸とするとき、
前記ルツボの湾曲した底部の内面と前記YZ平面との交線上において、当該内面の法線ベクトルと磁場ベクトルとがなす角度θを75度以上105度以下に維持することを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記融液面における磁場の向きは、前記融液面と平行である、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記原点における磁場の強度を一定に維持しながら、前記ルツボの湾曲した底部の内面の法線ベクトルと磁場ベクトルとの内積の二乗の前記底部における積分値を最小化するように、前記磁場分布を調整する、
請求項1又は2に記載の単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記底部の中心で当該底部の形状と磁場のY方向の2階微分を一致させるように、前記磁場分布を調整する、
請求項1又は2に記載の単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記ルツボの半径をRとするとき、前記底部は、前記底部の中心から半径0.7R以下の範囲である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記ルツボの周囲に複数のコイル素子を設け、各コイル素子の磁場強度を個別に調整することで前記磁場分布を制御する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記複数のコイル素子は、コイル軸が一致した複数のコイル素子対を構成している、
請求項6に記載の単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記複数のコイル素子は、XZ平面を挟んで対称に配置されている、
請求項6又は7に記載の単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記複数のコイル素子は、XY平面と平行に配置されている、
請求項6乃至8のいずれか一項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記複数のコイル素子は、第1磁場を発生する第1コイル装置と、
前記第1磁場と異なる第2磁場を発生する第2コイル装置とを構成しており、
前記第1磁場の強度と前記第2磁場
の強度を個別に調整することで前記磁場分布を制御する、
請求項6乃至9のいずれか一項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項11】
前記第1磁場は、Y軸のプラス方向の磁場が徐々に弱くなった後、ゼロになり、さらにY軸のマイナス方向の磁場が徐々に強くなる磁場変化を有し、
前記第2磁場は、Y軸のマイナス方向の磁場が徐々に弱くなった後、ゼロになり、さらにY軸のプラス方向の磁場が徐々に強くなる磁場変化を有する、
請求項10に記載の単結晶の製造方法。
【請求項12】
前記ルツボの回転軸をZ軸とし、前記Z軸と直交する前記横磁場の印加方向の中心軸をY軸とし、前記Z軸と前記Y軸との交点を原点とし、YZ平面に直交し前記原点を通る軸をX軸とするとき、
前記第1コイル装置は、前記YZ平面上に配置され、コイル軸が一致する少なくとも一対のコイル素子を有し、
前記第2コイル装置は、XY平面と平行に配置され、コイル軸が一致する少なくとも二対のコイル素子を有し、
前記第1コイル装置及び前記第2コイル装置を構成する複数のコイル素子は、XZ平面を挟んで対称に配置されている、
請求項10又は11に記載の単結晶の製造方法。
【請求項13】
前記第1コイル装置は、前記YZ平面上に配置され、前記Z軸を挟んで対称に配置された第1及び第2コイル素子を有し、
前記第2コイル装置は、前記XY平面上に配置され、前記Z軸を挟んで対称に配置された第3及び第4コイル素子と、前記XY平面上に配置され、前記Z軸を挟んで対称に配置された第5及び第6コイル素子とを有し、
前記第1乃至第6コイル素子は、前記XZ平面を挟んで対称に配置されている、
請求項12に記載の単結晶の製造方法。
【請求項14】
前記第3及び第4コイル素子のコイル軸が前記Y軸となす角度が+45度であり、
前記第5及び第6コイル素子のコイル軸が前記Y軸となす角度が-45度である、
請求項13に記載の単結晶の製造方法。
【請求項15】
前記第1及び第2コイル素子を構成するループコイルのループサイズは同一であり、
前記第3乃至第6コイル素子を構成するループコイルのループサイズは同一である、
請求項13又は14に記載の単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶の製造方法に関し、特に、融液に水平磁場を印加しながら単結晶を引き上げる磁場印加チョクラルスキー法(Magnetic field applied Czochralski method)による単結晶の製造方法に関する。また、本発明はそのようなMCZ法に用いられる磁場発生装置及び単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石英ルツボ内のシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げるCZ法の一つとして、シリコン融液に磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるいわゆるMCZ法が知られている。MCZ法によれば、融液対流が抑えられることから、石英ルツボとの反応によりシリコン融液中に溶け込む酸素の量を抑制してシリコン単結晶の酸素濃度を低く抑えることができる。
【0003】
磁場の印加方法として幾つかの方法が知られているが、中でも横磁場(水平磁場)を印加するHMCZ法の実用化が進んでいる。HMCZ法では石英ルツボの側壁と略直交する横磁場を印加するので、ルツボの側壁近傍の融液対流が効果的に抑制されて、ルツボからの酸素の溶け出し量が減少する。一方、融液表面での対流抑制効果が小さく、融液表面からの酸素(シリコン酸化物)の蒸発がそれほど抑制されないため、融液中の酸素濃度が減少しやすい。したがって、低酸素濃度の単結晶が育成されやすいという特徴がある。
【0004】
HMCZ法に関し、例えば特許文献1には、単結晶の引き上げ進行に合わせて磁場中心位置を上下方向に移動させて液面に近接又は離間させることにより、単結晶に取り込まれる酸素濃度を低下又は上昇させることが記載されている。また特許文献2には、磁束がルツボの湾曲した底部に沿って進行するように磁場を発生させることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、磁力線の方向が90度ずれており、かつ磁場分布が互いに異なる2種類の磁場を切り替えて発生させることができる磁場発生装置を用いて、低酸素濃度且つ成長縞が抑制された単結晶だけでなく、高酸素濃度の単結晶も引き上げることが可能な単結晶製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-323323号公報
【文献】特開昭62-256787号公報
【文献】特開2017-206396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
HMCZ法において、融液面付近に印加される水平磁場は、融液面と平行に真っすぐ進行することが好ましい。上記のように、融液面と直交する磁場成分は融液面の融液対流を抑制し、酸素濃度の増加を招くからである。一方、ルツボ底部において磁場は湾曲した底部に沿って曲がりながら進行することが好ましい。ルツボ内壁面と直交する磁場成分が融液対流を抑制することで融液中の酸素の拡散が不十分となり、単結晶中の酸素濃度にムラが発生しやすいからである。したがって、特許文献2に記載のように、ルツボの湾曲した底面に沿って曲がった磁場を発生させることは有効である。
【0008】
しかし、結晶引き上げ工程中は結晶成長に伴う融液の減少に合わせて石英ルツボを上昇させて融液面の高さ位置を一定に維持する必要があり、石英ルツボを上昇させると、磁場分布及び石英ルツボと磁場の位置関係が変化するため、磁場を石英ルツボの湾曲した底面に沿わせることが難しくなる。特許文献1に記載のように、磁場分布がルツボの湾曲した底面に沿うように磁場中心位置を上昇させることも可能であるが、その場合には融液面付近において磁場が水平にならず、融液面付近での融液対流の停滞により単結晶の酸素濃度が増加するという問題がある。
【0009】
シリコン単結晶の結晶成長方向における酸素濃度分布の変動は、シリコンウェーハの酸素濃度の面内分布に影響を与える。
図14に示すように、結晶成長方向に酸素濃度分布の成長縞があるシリコン単結晶からウェーハを切り出すと、ウェーハの酸素濃度の面内分布は不均一になる。
【0010】
したがって、本発明の目的は、単結晶中の酸素濃度の面内分布を均一にすることが可能な単結晶の製造方法を提供することにある。また本発明の目的は、そのような単結晶の製造方法に用いられる磁場発生装置及び単結晶製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者らが単結晶中の酸素濃度の変動について調査したところ、結晶成長方向の特定の範囲では酸素濃度の成長縞が小さくなり、またその範囲では結晶直径の変動が非常に小さいことを見出した。さらに調査した結果、酸素濃度の成長縞が小さくなる範囲の単結晶を育成しているときにはルツボ底面付近での磁力線の向きがルツボ底面と平行に近いことが明らかになった。
【0012】
本発明はこのような技術的知見に基づくものであり、本発明による単結晶の製造方法は、ルツボ内の融液に横磁場を印加しながら単結晶を引き上げる単結晶の製造方法であって、結晶引き上げ工程中に前記融液の減少に合わせて前記ルツボを上昇させると共に、融液面における磁場の向きと前記ルツボの湾曲した底部の内面における磁場の向きがボディー部育成工程の開始から終了まで一定となるように、前記融液の減少に合わせて磁場分布を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明による単結晶の製造方法は、融液面付近での磁場の向きとルツボの底部付近での磁場の向きをボディー部育成工程の序盤から終盤まで一定に維持するので、単結晶中の酸素濃度に影響を与える融液対流をできるだけ抑えることができ、これにより単結晶の低酸素化のみならず酸素濃度の面内分布の均一化を図ることができる。
【0014】
本発明において、前記融液面における磁場の向きは、前記融液面と平行であることが好ましい。融液面は、融液と引き上げ炉内雰囲気との界面(気液界面)であり、通常は水平面である。これにより、融液面からの酸素の蒸発を活発化させて単結晶の低酸素化を図ることができる。
【0015】
前記ルツボの回転軸をZ軸とし、前記Z軸と直交する前記横磁場の磁場中心軸をY軸とし、前記Z軸と前記Y軸との交点を原点とし、YZ平面に直交し前記原点を通る軸をX軸とするとき、前記ルツボの湾曲した底部の内面と前記YZ平面との交線上において、当該内面の法線ベクトルと磁場ベクトルとがなす角度θを75度以上105度以下に維持することが好ましい。これにより、ルツボ底部での融液対流を抑制して単結晶中の酸素濃度の面内分布を均一にすることができる。
【0016】
本発明による単結晶の製造方法は、前記原点における磁場の強度を一定に維持しながら、前記ルツボの湾曲した底部の内面の法線ベクトルと磁場ベクトルとの内積の二乗の前記底部における積分値を最小化するように、前記磁場分布を調整することが好ましい。あるいは、前記底部の中心で当該底部の形状と磁場のY方向の2階微分を一致させるように、前記磁場分布を調整してもよい。これにより、ルツボ底部付近での磁場の向きを底部の湾曲した内面に沿わせることができる。
【0017】
前記ルツボの半径をRとするとき、前記底部は、前記底部の中心から半径0.7R以下の範囲であることが好ましい。通常、磁場分布が歪んでいない横磁場下での単結晶引き上げでは、中心付近の磁場分布はルツボの底面と平行に近いため、底部の設定領域が狭い場合、本発明は自動的に満たされ意味をなさない。底部の設定領域が0.7Rよりも広い場合には、側壁部に向かって曲率が大きく変化するルツボのコーナー部において上記条件を満たすことが困難となる。
【0018】
本発明による単結晶の製造方法は、前記ルツボの周囲に複数のコイル素子を設け、各コイル素子の磁場強度を個別に調整することで前記磁場分布を制御することが好ましい。この場合において、前記複数のコイル素子は、コイル軸が一致した複数のコイル素子対を構成していることが好ましい。本発明によれば、融液面における磁場の向きを水平に維持しつつ、ルツボ底部付近での磁場の向きをルツボの高さ位置の変化に合わせて変化させることができる。
【0019】
前記複数のコイル素子は、XZ平面を挟んで対称に配置されていることが好ましく、XY平面と平行に配置されていることが好ましい。本発明によれば、Z軸から見て対称性が高い磁場分布を実現することができる。
【0020】
前記複数のコイル素子は、第1磁場を発生する第1コイル装置と、前記第1磁場と異なる第2磁場を発生する第2コイル装置とを構成しており、前記第1磁場の強度と前記第2磁場及び強度を個別に調整することで前記磁場分布を制御することが好ましい。これにより、融液面における磁場の向きを水平に維持しつつ、ルツボ底部付近での磁場の向きをルツボの高さ位置の変化に合わせて変化させることができる。
【0021】
前記第1磁場は、Y軸のプラス方向の磁場が徐々に弱くなった後、ゼロになり、さらにY軸のマイナス方向の磁場が徐々に強くなる磁場変化を有し、前記第2磁場は、Y軸のマイナス方向の磁場が徐々に弱くなった後、ゼロになり、さらにY軸のプラス方向の磁場が徐々に強くなる磁場変化を有することが好ましい。これにより、融液面における磁場の向きを水平に維持しつつ、ルツボ底部付近での磁場の向きをルツボの高さ位置の変化に合わせて変化させることができる。
【0022】
また、本発明による磁場発生装置は、MCZ法による単結晶の製造に用いられ、ルツボ内の融液に横磁場を印加する磁場発生装置であって、第1磁場を発生する第1コイル装置と、前記第1磁場と異なる第2磁場を発生する第2コイル装置とを備え、前記ルツボの回転軸をZ軸とし、前記Z軸と直交する前記横磁場の印加方向の中心軸をY軸とし、前記Z軸と前記Y軸との交点を原点とし、YZ平面に直交し前記原点を通る軸をX軸とするとき、前記第1コイル装置は、前記YZ平面上に配置され、コイル軸が一致する少なくとも一対のコイル素子を有し、前記第2コイル装置は、XY平面と平行に配置され、コイル軸が一致する少なくとも二対のコイル素子を有し、前記第1コイル装置及び前記第2コイル装置を構成する複数のコイル素子は、XZ平面を挟んで対称に配置されていることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、融液面における磁場の向きを水平に維持しつつ、ルツボ底部付近での磁場の向きをルツボの高さ位置の変化に合わせて変化させることができる。このような磁場分布をボディー部育成工程の序盤から終盤まで一定に維持することにより、単結晶中の酸素濃度に影響を与える融液対流をできるだけ抑えることができ、これにより単結晶の低酸素化のみならず酸素濃度の面内分布の均一化を図ることができる。
【0024】
本発明において、前記第1コイル装置は、前記YZ平面上に配置され、前記Z軸を挟んで対称に配置された第1及び第2コイル素子を有し、前記第2コイル装置は、XY平面上に配置され、前記Z軸を挟んで対称に配置された第3及び第4コイル素子と、XY平面上に配置され、前記Z軸を挟んで対称に配置された第5及び第6コイル素子とを有し、前記第1乃至第6コイル素子は、XZ平面を挟んで対称に配置されていることが好ましい。これにより、Z軸から見て対称性が高い磁場分布を実現することができる。
【0025】
前記第3及び第4コイル素子のコイル軸が前記Y軸となす角度が+45度であり、前記第5及び第6コイル素子のコイル軸が前記Y軸となす角度が-45度であることが好ましい。これにより、Z軸から見て対称性が高い磁場分布を実現することができる。
【0026】
前記第1及び第2コイル素子を構成するループコイルのループサイズは同一であり、前記第3乃至第6コイル素子を構成するループコイルのループサイズは同一であることが好ましい。これにより、Z軸から見て対称性が高い磁場分布を実現することができる。
【0027】
さらにまた、本発明による単結晶製造装置は、融液を支持するルツボと、前記融液を加熱するヒーターと、前記融液から単結晶を引き上げる結晶引き上げ機構と、前記ルツボを回転及び昇降駆動するルツボ昇降機構と、前記融液に横磁場を印加する上述した本発明による磁場発生装置と、前記ヒーター、前記結晶引き上げ機構、前記ルツボ昇降機構、及び前記磁場発生装置を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0028】
本発明による単結晶製造装置は、融液面付近での磁場の向きとルツボの底部付近での磁場の向きをボディー部育成工程中のルツボの高さ位置の変化によらず一定に維持するので、単結晶中の酸素濃度に影響を与える融液対流をできるだけ抑えることができ、これにより単結晶の低酸素化のみならず酸素濃度の面内分布の均一化を図ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、単結晶中の酸素濃度の面内分布を均一にすることが可能な単結晶の製造方法、磁場発生装置及び単結晶製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は、本発明の第1の実施の形態による磁場発生装置の構成を示す略斜視図であって、(a)は磁場発生装置の全体構成、(b)は第1コイル装置の構成、(c)は第2コイル装置の構成をそれぞれ示している。
【
図5】
図5は、第1コイル装置21及び第2コイル装置22から発生する磁場強度の変化を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)~(c)は、石英ルツボ内のシリコン融液に印加される複合磁場のベクトル分布を示す模式図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は、本発明の第2の実施の形態による磁場発生装置20の構成を示す略斜視図であって、(a)は磁場発生装置の全体構成、(b)は第1コイル装置の構成、(c)は第2コイル装置の構成をそれぞれ示している。
【
図8】
図8(a)~(c)は、本発明の第3の実施の形態による磁場発生装置20の構成を示す略斜視図であって、(a)は磁場発生装置20の全体構成、(b)は第1コイル装置の構成、(c)は第2コイル装置の構成をそれぞれ示している。
【
図9】
図9(a)~(c)は、本発明の第4の実施の形態による磁場発生装置20の構成を示す略斜視図であって、(a)は磁場発生装置20の全体構成、(b)は第1コイル装置の構成、(c)は第2コイル装置の構成をそれぞれ示している。
【
図10】
図10(a)及び(b)は、磁場出力との関係を示すグラフであって、(a)は融液深さ(液面からルツボ底までの距離)と磁場出力との関係、(b)結晶長と磁場出力との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11(a)~(c)は、
図10(a)及び(b)に示した磁場出力プロファイルを用いて生成した複合磁場の磁力線とルツボ底部の内面とがなす角度を示すグラフであって、(a)は融液深さが200mm、(b)は融液深さが300mm、(c)は融液深さが400mmの場合をそれぞれ示すものである。
【
図12】
図12は、複合磁場を印加しながら製造した実施例によるシリコン単結晶の結晶成長方向の酸素濃度分布を示すグラフである。
【
図13】
図13(a)~(f)は、比較例及び実施例によるシリコン単結晶の酸素濃度の評価結果を示すグラフであって、
図13(a)~(c)は単一磁場を印加しながら製造した比較例によるシリコン単結晶の酸素濃度の評価結果であり、
図13(d)~(f)は複合磁場を印加しながら製造した実施例によるシリコン単結晶の酸素濃度の評価結果である。
【
図14】従来のシリコン単結晶の問題点を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を概略的に示す側面断面図である。
【0033】
図1に示すように、単結晶製造装置1は、チャンバー10と、チャンバー10内においてシリコン融液2を保持する石英ルツボ11と、石英ルツボ11を保持するグラファイト製のサセプタ12と、サセプタ12を支持する回転シャフト13と、回転シャフト13を回転及び昇降駆動するシャフト駆動機構14と、サセプタ12の周囲に配置されたヒーター15と、ヒーター15の外側であってチャンバー10の内面に沿って配置された断熱材16と、石英ルツボ11の上方に配置された熱遮蔽体17と、石英ルツボ11の上方であって回転シャフト13と同軸上に配置された単結晶引き上げ用のワイヤー18と、チャンバー10の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構19とを備えている。
【0034】
また単結晶製造装置1は、チャンバー10の外側に配置された磁場発生装置20と、チャンバー10内を撮影するCCDカメラ25と、CCDカメラ25で撮影された画像を処理する画像処理部26と、画像処理部26の出力に基づいてシャフト駆動機構14、ヒーター15及びワイヤー巻き取り機構19を制御する制御部27とを備えている。
【0035】
チャンバー10は、メインチャンバー10aと、メインチャンバー10aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー10bとで構成されており、石英ルツボ11、サセプタ12、ヒーター15及び熱遮蔽体17はメインチャンバー10a内に設けられている。プルチャンバー10bにはチャンバー10内にアルゴンガス等の不活性ガス(パージガス)を導入するためのガス導入口10cが設けられており、メインチャンバー10aの下部には不活性ガスを排出するためのガス排出口10dが設けられている。また、メインチャンバー10aの上部には覗き窓10eが設けられており、シリコン単結晶3の育成状況(固液界面)を覗き窓10eから観察可能である。
【0036】
石英ルツボ11は、円筒状の側壁部と、緩やかに湾曲した底部と、側壁部と底部との間に設けられたコーナー部とを有する石英ガラス製の容器である。サセプタ12は、加熱によって軟化した石英ルツボ11の形状を維持するため、石英ルツボ11の外表面に密着して石英ルツボ11を包むように保持する。石英ルツボ11及びサセプタ12はチャンバー10内においてシリコン融液を支持する二重構造のルツボを構成している。
【0037】
サセプタ12は鉛直方向に延びる回転シャフト13の上端部に固定されている。また回転シャフト13の下端部はチャンバー10の底部中央を貫通してチャンバー10の外側に設けられたシャフト駆動機構14に接続されている。サセプタ12、回転シャフト13及びシャフト駆動機構14は石英ルツボ11を回転させながら昇降駆動するルツボ昇降機構を構成している。
【0038】
ヒーター15は、石英ルツボ11内に充填されたシリコン原料を溶融して溶融状態を維持するために用いられる。ヒーター15はカーボン製の抵抗加熱式ヒーターであり、サセプタ12内の石英ルツボ11の全周を取り囲むように設けられた略円筒状の部材である。さらにヒーター15の外側は断熱材16に取り囲まれており、これによりチャンバー10内の保温性が高められている。
【0039】
熱遮蔽体17は、シリコン融液2の温度変動を抑制して固液界面付近に適切なホットゾーンを形成すると共に、ヒーター15及び石英ルツボ11からの輻射熱によるシリコン単結晶3の加熱を防止するために設けられている。熱遮蔽体17は、シリコン単結晶3の引き上げ経路を除いたシリコン融液2の上方の領域を覆うグラファイト製の円筒部材である。
【0040】
熱遮蔽体17の下端中央にはシリコン単結晶3の直径よりも大きな円形の開口が形成されており、シリコン単結晶3の引き上げ経路が確保されている。図示のように、シリコン単結晶3は開口を通過して上方に引き上げられる。熱遮蔽体17の開口の直径は石英ルツボ11の口径よりも小さく、熱遮蔽体17の下端部は石英ルツボ11の内側に位置するので、石英ルツボ11のリム上端を熱遮蔽体17の下端よりも上方まで上昇させても熱遮蔽体17が石英ルツボ11と干渉することはない。
【0041】
シリコン単結晶3の成長と共に石英ルツボ11内の融液量は減少するが、融液面2sと熱遮蔽体17との間隔(ギャップ)が一定になるように石英ルツボ11を上昇させることにより、シリコン融液2の温度変動を抑制すると共に、融液面2sの近傍(パージガス誘導路)を流れるガスの流速を一定にしてシリコン融液2からのドーパントの蒸発量を制御することができる。したがって、単結晶の引き上げ軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
【0042】
石英ルツボ11の上方には、シリコン単結晶3の引き上げ軸であるワイヤー18と、ワイヤー18を巻き取るワイヤー巻き取り機構19が設けられており、これらは結晶引き上げ機構を構成している。ワイヤー巻き取り機構19はワイヤー18と共に単結晶を回転させる機能を有している。ワイヤー巻き取り機構19はプルチャンバー10bの上方に配置されており、ワイヤー18はワイヤー巻き取り機構19からプルチャンバー10b内を通って下方に延びており、ワイヤー18の先端部はメインチャンバー10aの内部空間まで達している。
図1には、育成途中のシリコン単結晶3がワイヤー18に吊設された状態が示されている。単結晶の引き上げ時には種結晶をシリコン融液2に浸漬し、石英ルツボ11と種結晶をそれぞれ回転させながらワイヤー18を徐々に引き上げることにより単結晶を成長させる。
【0043】
磁場発生装置20は、石英ルツボ11の周囲に設けられた複数のコイルからなり、シリコン融液2に横磁場(水平磁場)を印加する。石英ルツボ11の回転軸上(結晶引き上げ軸の延長線上)における横磁場の最大強度は、一般的なHMCZの磁場強度範囲である0.15~0.6(T)であることが好ましい。シリコン融液2に磁場を印加することで磁力線に直交する方向の融液対流を抑制することができる。したがって、石英ルツボ11からの酸素の溶出を抑えることができ、シリコン単結晶中の酸素濃度を低減することができる。
【0044】
メインチャンバー10aの上部には内部を観察するための覗き窓10eが設けられており、CCDカメラ25は覗き窓10eの外側に設置されている。単結晶引き上げ工程中、CCDカメラ25は覗き窓10eから熱遮蔽体17の開口17aを通して見えるシリコン単結晶3とシリコン融液2との境界部の画像を撮影する。CCDカメラ25は画像処理部26に接続されており、撮影画像は画像処理部26で処理され、処理結果は制御部27において結晶引き上げ条件の制御に用いられる。
【0045】
図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造方法を説明するフローチャートである。また、
図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
【0046】
図2及び
図3示すように、シリコン単結晶3の製造では、石英ルツボ11内のシリコン原料を加熱してシリコン融液2を生成する(ステップS11)。その後、ワイヤー18の先端部に取り付けられた種結晶を降下させてシリコン融液2に着液させる(ステップS12)。
【0047】
次に、シリコン融液2との接触状態を維持しながら種結晶を徐々に引き上げて単結晶を育成する単結晶の引き上げ工程を実施する。単結晶の引き上げ工程では、無転位化のために結晶直径が細く絞られたネック部3aを形成するネッキング工程(ステップS13)と、規定の直径を得るために結晶直径が徐々に増加したショルダー部3bを形成するショルダー部育成工程(ステップS14)と、結晶直径が一定に維持されたボディー部3cを形成するボディー部育成工程(ステップS15)と、結晶直径が徐々に減少したテール部3dを形成するテール部育成工程(ステップS16)が順に実施され、シリコン単結晶3が融液面2sから最終的に切り離されることによりテール部育成工程が終了する。以上により、単結晶の上端から下端に向かって順に、ネック部3a、ショルダー部3b、ボディー部3c、及びテール部3dを有するシリコン単結晶インゴット3が完成する。
【0048】
単結晶の引き上げ工程中は、シリコン単結晶3の直径及びシリコン融液2の液面位置を制御するため、CCDカメラ25でシリコン単結晶3とシリコン融液2との境界部の画像を撮影し、撮影画像から固液界面におけるシリコン単結晶3の直径及び融液面2sと熱遮蔽体17との間隔(ギャップ)を算出する。制御部27は、シリコン単結晶3の直径が目標直径となるようにワイヤー18の引き上げ速度、ヒーター15のパワー等の引き上げ条件を制御する。また制御部27は、融液面2sと熱遮蔽体17との間隔が一定となるように石英ルツボ11の高さ位置を制御する。
【0049】
次に、磁場発生装置20の構成について詳細に説明する。
【0050】
図4(a)~(c)は、本発明の第1の実施の形態による磁場発生装置20の構成を示す略斜視図であって、(a)は磁場発生装置20の全体構成、(b)は第1コイル装置21の構成、(c)は第2コイル装置22の構成をそれぞれ示している。
【0051】
図4(a)に示すように、この磁場発生装置20は、第1の横磁場を発生する第1コイル装置21と、第1の横磁場と異なる第2の横磁場を発生する第2コイル装置22との組み合わせからなる。石英ルツボ11の回転軸(結晶中心軸)をZ軸とし、Z軸と融液面との交点を直交座標系の原点とするとき、横磁場の印加方向はY軸方向とする。このように、2つのコイル装置を用意し、各々が発生する横磁場の強度を独立に変化させることにより、石英ルツボ11の上昇に合わせて磁場分布を変化させることができる。
【0052】
図4(b)に示すように、第1コイル装置21は、ループコイルからなる一対のコイル素子を備えている。詳細には、第1コイル装置21は、第1コイル素子21aと、Z軸を挟んで第1コイル素子21aと対向する第2コイル素子21bとを備えている。第1コイル素子21aはY軸方向のマイナス側、第2コイル素子21bはY軸方向のプラス側にそれぞれ配置されている。特に、第1コイル素子21aと第2コイル素子21bはXZ平面を挟んで対称に配置されている。
【0053】
第1及び第2コイル素子21a,21bのループサイズは同一であり、比較的大きな直径を有している。第1コイル素子21a及び第2コイル素子21bのコイル軸(コイル中心軸)はY軸と一致している。そのため、第1コイル装置21から発生する磁場の中心軸はY軸と一致している。
【0054】
第1コイル装置21の動作では、一対のコイル素子の磁場発生方向を互いに一致させる。すなわち、第1コイル装置21からY軸のプラス方向の磁場を発生させたい場合には、第1及び第2コイル素子21a,21bともに磁場の向きをY軸のプラス方向(第1コイル素子21aから第2コイル素子21bに向かう方向)に設定する。逆に、Y軸のマイナス方向の磁場を発生させたい場合には、第1及び第2コイル素子21a,21bともに磁場の向きをY軸のマイナス方向(第2コイル素子21bから第1コイル素子21aに向かう方向)に設定する。
【0055】
図4(c)に示すように、第2コイル装置22は、ループコイルからなる二対のコイル素子を備えている。詳細には、第2コイル装置22は、第3コイル素子22aと、Z軸を挟んで第3コイル素子22aと対向する第4コイル素子22bと、第5コイル素子22cと、Z軸を挟んで第5コイル素子22cと対向する第6コイル素子22dとを備えている。第3コイル素子22a及び第5コイル素子22cはY軸方向のマイナス側、第4コイル素子22b及び第6コイル素子22dはY軸方向のプラス側にそれぞれ配置されている。特に、第3及び第5コイル素子22a,22cと第4及び第6コイル素子22b,22dはXZ平面を挟んで対称に配置されている。
【0056】
第3~第6コイル素子22a~22dのループサイズは同一であり、さらに第1及び第2コイル素子21a,21bのループサイズと同一である。第3及び第4コイル素子22a,22bのコイル軸はXY平面内に存在し、Y軸に対して反時計回りに45度(+45度)傾いている。第5及び第6コイル素子22c,22dのコイル軸もXY平面内に存在するが、Y軸に対して時計回りに45度(-45度)傾いている。したがって、第5及び第6コイル素子22c,22dのコイル軸は、第3及び第4コイル素子22a,22bのコイル軸と直交している。
【0057】
第2コイル装置22の動作でも、一対のコイル素子の磁場発生方向を互いに一致させる。すなわち、第2コイル装置22からY軸のプラス方向の磁場を発生させたい場合には、第3及び第4コイル素子22a,22bともに磁場の向きをY軸のプラス方向(第3コイル素子22aから第4コイル素子22bに向かう方向)にすると共に、第5及び第6コイル素子22c,22dともに磁場の向きをY軸のプラス方向(第5コイル素子22cから第6コイル素子22dに向かう方向)に設定する。これにより、第3~第6コイル素子22a~22dの合成磁場の向きはY軸のプラス方向となる。逆に、Y軸のマイナス方向の磁場を発生させたい場合には、第3及び第4コイル素子22a,22bともに磁場の向きをY軸のマイナス方向(第4コイル素子22bから第3コイル素子22aに向かう方向)に設定すると共に、第5及び第6コイル素子22c,22dともに磁場の向きをY軸のマイナス方向(第6コイル素子22dから第5コイル素子22cに向かう方向)に設定する。これにより、第3~第6コイル素子22a~22dの合成磁場の向きはY軸のマイナス方向となる。
【0058】
図5は、第1コイル装置21及び第2コイル装置22から発生する磁場強度の変化を示すグラフである。
【0059】
図5に示すように、結晶引き上げ工程の序盤では、第1コイル装置21からY軸のプラス方向を向いた比較的大きな磁場を印加し、第2コイル装置22からY軸のマイナス方向を向いた比較的大きな磁場を印加する。
【0060】
その後、結晶成長が進むにつれて、第1コイル装置21の磁場(第1磁場)を徐々に弱くし、第2コイル装置22から発生する磁場(第2磁場)を徐々に強くする。第1コイル装置21から発生する磁場は、Y軸のプラス方向の磁場が徐々に弱くなってゼロになり、さらに磁場の向きが反転し、Y軸のマイナス方向の磁場が徐々に強くなる磁場変化を有する。第2コイル装置22から発生する磁場は、Y軸のマイナス方向の磁場が徐々に弱くなってゼロになり、さらに磁場の向きが反転し、Y軸のプラス方向の磁場が徐々に強くなる磁場変化を有する。したがって、結晶引き上げ工程の終盤では、第1コイル装置21からY軸のマイナス方向を向いた比較的大きな磁場を印加し、第2コイル装置22からY軸のプラス方向を向いた比較的大きな磁場を印加する。第1コイル装置21の磁場プロファイルがゼロになるタイミングと第2コイル装置22の磁場プロファイルがゼロになるタイミングは一致しない。
【0061】
図6(a)~(c)は、石英ルツボ11内のシリコン融液2に印加される複合磁場のベクトル分布を示す模式図である。なお、
図6にはシリコン融液付近の磁場のみを記載し、シリコン融液の周囲に広がる磁場は省略している。また、融液面2sから引き上げられたシリコン単結晶3の図示も省略している。
【0062】
図6(a)に示す結晶引き上げ工程の序盤では、石英ルツボ11内のシリコン融液の残量が多く、融液面2sはルツボ底部から十分に離れている。なお融液面2sとは気液界面のことであり、シリコン融液2と石英ルツボ11との界面とは区別される。このとき、
図5に示した結晶長が短いときの磁場強度プロファイルを適用することにより、ルツボ底部付近に印加される磁場の向きをルツボの底部の湾曲形状にフィットさせることができる。
【0063】
図6(b)に示す結晶引き上げ工程の中盤では、石英ルツボ11内のシリコン融液が減少し、融液面2sが低下してルツボ底部に近づく。
図6(c)に示す結晶引き上げ工程の終盤では、融液面2sがさらに低下する。しかし、
図5に示したように、結晶長(シリコン融液残量)に合わせて第1コイル装置21及び第2コイル装置22の磁場強度を変化させることにより、結晶引き上げ工程の序盤から終盤まで、融液面2s付近の磁場を水平に維持しながら、ルツボ底部付近に印加される磁場の向きをルツボの底部の湾曲形状にフィットさせることができる。
【0064】
ルツボ底部付近に印加される磁場の向きがルツボの湾曲した底部に沿っていない場合、ルツボの底部において対流が部分的に抑制され、シリコン融液の大きなロール流の形状が時間的に変動して不安定となる。そのため、ルツボの底部でシリコン融液中に溶け込んだ酸素のシリコン単結晶への届き方も時間変動して酸素濃度の面内分布にばらつきが発生する。
【0065】
しかし、ルツボ底部付近に印加される磁場の向きがルツボの湾曲した底部に沿っている場合、シリコン融液には大きなロール流が安定的に発生し、融液面2sから酸素が蒸発しやすくなるので、シリコン単結晶中に取り込まれる酸素の量は減少する。ルツボ底部付近に印加される磁場の向きがルツボの湾曲した底部に沿っている場合、ルツボの底部の対流が抑制されないため、ルツボからシリコン融液への酸素の溶け出し量は多くなる。しかし、シリコン単結晶中の酸素濃度は、融液面からの酸素の蒸発の影響を強く受けるので、シリコン融液中への酸素の溶け込み量が多少増えたとしても、シリコン単結晶中の酸素濃度は上昇しない。
【0066】
図7(a)~(c)は、本発明の第2の実施の形態による磁場発生装置20の構成を示す略斜視図であって、(a)は磁場発生装置20の全体構成、(b)は第1コイル装置21の構成、(c)は第2コイル装置22の構成をそれぞれ示している。
【0067】
図7(a)~(c)に示すように、この磁場発生装置20は、第1の実施の形態で示した磁場発生装置よりも第1及び第2コイル装置21,22を構成するコイル素子のループサイズが小さい点にある。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。このような構成であっても、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0068】
図8(a)~(c)は、本発明の第3の実施の形態による磁場発生装置20の構成を示す略斜視図であって、(a)は磁場発生装置20の全体構成、(b)は第1コイル装置21の構成、(c)は第2コイル装置22の構成をそれぞれ示している。
【0069】
図8(a)~(c)に示すように、この磁場発生装置20は、
図7(a)~(c)に示した第1及び第2コイル装置21,22におけるコイル素子21a,21b,22a,22b,22c,22dを上下二段のコイル素子対21ap,21bp,22ap,22bp,22cp,22dpに置き換えたものである。すなわち、第1コイル装置21はループコイルからなる二対のコイル素子を備えており、第2コイル装置22はループコイルからなる四対のコイル素子を備えている。
【0070】
図8(b)に示すように、第1コイル装置21は、第1コイル素子対21ap(21a
1,21a
2)と、Z軸を挟んで第1コイル素子対21apと対向する第2コイル素子対21bp(21b
1,21b
2)とを備えている。第1コイル素子対21ap(21a
1,21a
2)はY軸方向のマイナス側、第2コイル素子対21bp(21b
1,21b
2)はY軸方向のプラス側にそれぞれ配置されている。
【0071】
第1コイル素子対21apの上段コイル部21a1は、XY平面を挟んで第1コイル素子対21apの下段コイル部21a2と対称な位置関係を有しており、第2コイル素子対21bpの上段コイル部21b1は、XY平面を挟んで第2コイル素子対21bpの下段コイル部21b2と対称な位置関係を有している。上段コイル部21a1と上段コイル部21b1はコイル軸が一致する一対のコイル素子を構成しており、下段コイル部21a2と下段コイル部21b2もコイル軸が一致する一対のコイル素子を構成している。
【0072】
図8(c)に示すように、第2コイル装置22は、第3コイル素子対22ap(22a
1,22a
2)と、Z軸を挟んで第3コイル素子対22apと対向する第4コイル素子対22bp(22b
1,22b
2)と、第5コイル素子対22cp(22c
1,22c
2)と、Z軸を挟んで第5コイル素子対22cpと対向する第6コイル素子対22dp(22d
1,22d
2)とを備えている。第3コイル素子対22ap及び第5コイル素子対22cpはY軸方向のマイナス側、第4コイル素子対22bp及び第6コイル素子対22dpはY軸方向のプラス側にそれぞれ配置されている。
【0073】
第3コイル素子対22apの上段コイル部22a1は、XY平面を挟んで第3コイル素子対22apの下段コイル部22a2と対称な位置関係を有しており、第4コイル素子対22bpの上段コイル部22b1は、XY平面を挟んで第4コイル素子対22bpの下段コイル部22b2と対称な位置関係を有している。上段コイル部22a1と上段コイル部22b1はコイル軸が一致する一対のコイル素子を構成しており、下段コイル部22a2と下段コイル部22b2もコイル軸が一致する一対のコイル素子を構成している。
【0074】
第5コイル素子対22cpの上段コイル部22c1は、XY平面を挟んで第5コイル素子対22cpの下段コイル部22c2と対称な位置関係を有しており、第6コイル素子対22dpの上段コイル部22d1は、XY平面を挟んで第6コイル素子対22dpの下段コイル部22d2と対称な位置関係を有している。上段コイル部22c1と上段コイル部22d1はコイル軸が一致する一対のコイル素子を構成しており、下段コイル部22c2と下段コイル部22d2もコイル軸が一致する一対のコイル素子を構成している。
【0075】
以上の構成を有する第3の実施の形態による磁場発生装置20も、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0076】
図9(a)~(c)は、本発明の第4の実施の形態による磁場発生装置20の構成を示す略斜視図であって、(a)は磁場発生装置20の全体構成、(b)は第1コイル装置21の構成、(c)は第2コイル装置22の構成をそれぞれ示している。
【0077】
図9(a)~(c)に示すように、この磁場発生装置20は、第1コイル装置21がループコイルからなる二対のコイル素子(コイル素子21a
1,21a
2,21b
1,21b
2)を備えており、第2コイル装置22がループコイルからなる二対のコイル素子(コイル素子22a,22b,22c,22d)を備えている点にある。すなわち、第1コイル装置21については
図8と同様の構成とし、第2コイル装置22については
図7と同様の構成を採用したものである。本実施形態においても、他の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0078】
石英ルツボの底部の湾曲形状に平行な磁場は、数式を用いて求めることができる。
【0079】
例えば、石英ルツボの内底面Z=C(Y)の法線ベクトルnと磁場ベクトルの内積の二乗のY=0からY=Ymaxまでの積分値を最小化するように磁場発生装置20の出力を調整する。つまり、以下の(1)式を、原点の磁場強度を特定の値に固定しながら最小化する。
【0080】
【0081】
ここでB1は第1コイル装置21が単独でつくる磁場ベクトルであり、B2は第2コイル装置22が単独でつくる磁場ベクトルである。
【0082】
磁場分布はルツボ中心軸付近では水平に近づくため、ルツボ底部の中心付近ではルツボ底部の形状と磁場分布はある程度平行に近い。それに対して、ルツボ底部の外周付近では磁場分布とルツボ形状が平行から離れる傾向がある。よって、(1)式の被積分関数はYが大きいところで大きくなるため、(1)式の最小化にはYの大きいところで被積分関数を小さくする、つまりルツボ形状と磁力線を平行に近づける必要がある。
【0083】
Ymaxはルツボ半径Rの70%以下が望ましい(0≦Ymax≦0.7R)。Ymaxが小さすぎればルツボ外周部での平行が満たされない。Ymaxが大きすぎれば、外周に合わせるためルツボ底部の中心部と外周部の間の部分で平行が悪くなり、また、ルツボ側壁面に向かって急変するルツボ形状が(1)式に大きく影響する。
【0084】
(1)式のバリエーションとしてBではなくBの方向ベクトルを用いて評価する方法も考えられる。
【0085】
すなわち、ルツボ底中心でルツボ底形状と磁力線のY方向の2階微分を一致させる。具体的には以下の(2)式を満たすように磁場発生装置20の出力を調整する。
【0086】
【0087】
ここでB1,Y及びB1,Zはそれぞれ第1コイル装置21が単独で作る磁場ベクトルB1のY方向成分及びZ方向成分であり、B2,YおよびB2,Zはそれぞれ第2コイル装置22が単独で作る磁場ベクトルB2のY方向成分及びZ方向成分である。
【0088】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0089】
例えば、上記実施形態においてはシリコン単結晶の製造方法を例に挙げたが、本発明はシリコン単結晶の製造方法に限定されず、HMCZ法を採用する種々の単結晶の製造方法に適用可能である。
【実施例】
【0090】
図9に示した磁場発生装置20を用いてHMCZ法によるシリコン単結晶の育成を行った。上記のように、この磁場発生装置20は、垂直面内に配置された4つのコイル素子21a
1,21a
2,21b
1,21b
2からなる第1コイル装置21と、水平面内に配置された4つのコイル素子22a,22b,22c,22dからなる第2コイル装置22とで構成されたものである。
【0091】
直交座標の原点(結晶中心軸(Z軸)と磁場中心軸(Y軸)との交点)での磁場強度は3000Gとした。石英ルツボの直径は813mm、石英ルツボの湾曲した底部の曲率半径は813mmであった。
【0092】
電磁場解析ソフトを用いて第1及び第2コイル装置が作る磁場を計算した。融液面における磁場ベクトルはY軸と平行にした。またYZ平面内で石英ルツボの底部の内面の法線と磁場ベクトルとがなす角度を計算し、融液深さ(液面からルツボ底までの距離)に対する磁場出力を、上記(2)式を用いて計算した。その結果を
図10(a)及び(b)のグラフに示す。なお、
図10(a)及び(b)のグラフでは、第1及び第2コイル装置の各々が単独で結晶-融液面中心で磁場強度を作るのに必要な出力を1としている。
【0093】
図10(a)及び(b)に示すように、第1コイル装置の出力(第1磁場)は、最初はY軸のプラス方向に大きな磁場強度を有するが、結晶成長が進み融液量が減少するにつれてY軸のプラス方向の磁場強度が徐々に低下して途中でゼロとなり、さらにY軸のマイナス方向の磁場強度が徐々に増加する。逆に、第2コイル装置の出力(第2磁場)は、最初はY軸のマイナス方向に大きな磁場強度を有するが、結晶成長が進み融液量が減少するにつれてY軸のマイナス方向の磁場強度が徐々に低下して途中でゼロとなり、さらにプラス方向の磁場強度が徐々に増加する。
【0094】
図11(a)~(c)は、
図10(a)及び(b)に示した磁場出力プロファイルを用いて生成した複合磁場の磁力線がルツボ底部の内面となす角度θを、第1及び第2コイル装置がそれぞれ単独で動作したときに発生する磁場と比較しながらに示すグラフである。
【0095】
図11(c)に示すように、融液深さが400mmの場合において、複合磁場を印加したときのルツボ底部の内面に対する磁場角度は約90度~95度となった。また
図11(b)に示すように、融液深さが300mmの場合においても、磁場角度は約90度~95度となった。
図11(a)に示すように、融液深さが200mmの場合には、磁場角度がほぼ90度となり、非常に良好な結果となった。
【0096】
図12は、複合磁場を印加しながら製造した実施例によるシリコン単結晶の結晶成長方向の酸素濃度分布を示すグラフである。図示のグラフから明らかなように、結晶成長方向の酸素濃度は10×10
17~11×10
17atoms/cm
3の範囲内で非常に安定した結果となった。
【0097】
図13(a)~(f)は、比較例及び実施例によるシリコン単結晶の酸素濃度の評価結果を示すグラフである。特に、
図13(a)~(c)は、単一磁場(従来磁場)を印加しながら製造した比較例によるシリコン単結晶の酸素濃度の評価結果であって、結晶長が500mm、1100mm、1700mmの位置での酸素濃度の面内分布(径方向分布)を示すグラフである。また、
図13(d)~(f)は、複合磁場を印加しながら製造した実施例によるシリコン単結晶の酸素濃度の評価結果であって、結晶長が500mm、1100mm、1700mmの位置での酸素濃度の面内分布(径方向分布)を示すグラフである。
【0098】
図13(a)~(c)に示すように、比較例によるシリコン単結晶の酸素濃度分布はばらつきが大きかった。一方、
図13(d)~(f)に示すように、実施例によるシリコン単結晶の酸素濃度分布はばらつきが小さくなった。
【符号の説明】
【0099】
1 単結晶製造装置
2 シリコン融液
3 シリコン単結晶(インゴット)
3a ネック部
3b ショルダー部
3c ボディー部
3d テール部
10 チャンバー
10a メインチャンバー
10b プルチャンバー
10c ガス導入口
10d ガス排出口
10e 覗き窓
11 石英ルツボ
12 サセプタ
13 回転シャフト
14 シャフト駆動機構
15 ヒーター
16 断熱材
17 熱遮蔽体
18 ワイヤー
19 ワイヤー巻き取り機構
20 磁場発生装置
21a 第1コイル素子
21a1 上段コイル部
21a2 下段コイル部
21ap 第1コイル素子対
21b 第2コイル素子
21b1 上段コイル部
21b2 下段コイル部
21bp 第2コイル素子対
22a 第3コイル素子
22a1 上段コイル部
22a2 下段コイル部
22ap 第3コイル素子対
22b 第4コイル素子
22b1 上段コイル部
22b2 下段コイル部
22bp 第4コイル素子対
22c 第5コイル素子
22c1 上段コイル部
22c2 下段コイル部
22cp 第5コイル素子対
22d 第6コイル素子
22d1 上段コイル部
22d2 下段コイル部
22dp 第6コイル素子対
25 CCDカメラ
26 画像処理部
27 制御部