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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物、半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20250527BHJP
   C08G 73/14 20060101ALI20250527BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20250527BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
C08L79/08 C
C08G73/14
H01L23/30 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023532054
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2022026233
(87)【国際公開番号】W WO2023277134
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/024883
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泉樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 岳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英一
【審査官】渡邉 勇磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-113597(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047451(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/045004(WO,A1)
【文献】特開2012-062355(JP,A)
【文献】特開2016-029126(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133415(WO,A1)
【文献】特開2020-097661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08G 73/14
H01L 23/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアミドイミドを含む樹脂と、
ラクトン構造を有する少なくとも1種の溶媒Aと、
前記溶媒Aと相溶する少なくとも1種のグリコールエステル系溶媒B1とを含み、
平均粒子径0.1~5.0μmの樹脂フィラーを含まない、樹脂組成物であって、
前記溶媒A/前記溶媒B1の質量比率が、90/10~75/25であり、
前記樹脂が、下式(Ia)で表される構造単位と、下式(IIa)で表される構造単位と、下式(1)で表される構造単位とを有するポリアミドイミド(A)、又は下式(IIa)で表される構造単位と、下式(IVa)で表される構造単位と、下式(1)で表される構造単位とを有するポリアミドイミド(B)を含む、樹脂組成物。
【化1】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1種以上の置換基を表し、
Xは、単結合、又は以下から選択される2価の有機基であり、
【化2】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、及びフェニル基からなる群から選択される1種以上の置換基である。)
【化3】
(式中、R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を表し、R11及びR12は、それぞれ独立して、2価の炭化水素基を表し、mは1以上の整数である。)
【化4】
(式中、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表す。)
【化5】
(式中、Rは、ジアミン化合物からアミノ基を除いた残基、又はジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【請求項2】
ポリアミドイミドを含む樹脂と、
ラクトン構造を有する少なくとも1種の溶媒Aと、
前記溶媒Aと相溶する少なくとも1種のグリコールエステル系溶媒B1とを含み、
25℃の条件下、10rpmで測定した粘度が10~400mPa・sである樹脂組成物であって
前記溶媒A/前記溶媒B1の質量比率が、90/10~75/25であり、
前記樹脂が、下式(Ia)で表される構造単位と、下式(IIa)で表される構造単位と、下式(1)で表される構造単位とを有するポリアミドイミド(A)、又は下式(IIa)で表される構造単位と、下式(IVa)で表される構造単位と、下式(1)で表される構造単位とを有するポリアミドイミド(B)を含む、樹脂組成物
【化6】
(式中、R ~R は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1種以上の置換基を表し、
Xは、単結合、又は以下から選択される2価の有機基であり、
【化7】
式中、R 及びR は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、及びフェニル基からなる群から選択される1種以上の置換基である。)
【化8】
(式中、R ~R 10 は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を表し、R 11 及びR 12 は、それぞれ独立して、2価の炭化水素基を表し、mは1以上の整数である。)
【化9】
(式中、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表す。)
【化10】
(式中、Rは、ジアミン化合物からアミノ基を除いた残基、又はジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【請求項3】
リアミドイミドを含む樹脂と、
ラクトン構造を有する少なくとも1種の溶媒Aと、
前記溶媒Aと相溶する少なくとも1種の環状ケトン系溶媒B2とを含み、
平均粒子径0.1~5.0μmの樹脂フィラーを含まない、樹脂組成物であって、
前記溶媒A/前記溶媒B2の質量比率が、70/30~30/70であり、
前記樹脂が、下式(Ia)で表される構造単位と、下式(IIa)で表される構造単位と、下式(1)で表される構造単位とを有するポリアミドイミド(A)、又は下式(IIa)で表される構造単位と、下式(IVa)で表される構造単位と、下式(1)で表される構造単位とを有するポリアミドイミド(B)を含む、樹脂組成物。
【化11】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1種以上の置換基を表し、
Xは、単結合、又は以下から選択される2価の有機基であり、
【化12】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、及びフェニル基からなる群から選択される1種以上の置換基である。)
【化13】
(式中、R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を表し、R11及びR12は、それぞれ独立して、2価の炭化水素基を表し、mは1以上の整数である。)
【化14】
(式中、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表す。)
【化15】
(式中、Rは、ジアミン化合物からアミノ基を除いた残基、又はジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【請求項4】
ポリアミドイミドを含む樹脂と
ラクトン構造を有する少なくとも1種の溶媒Aと、
前記溶媒Aと相溶する少なくとも1種の環状ケトン系溶媒B2とを含み
25℃の条件下、10rpmで測定した粘度が10~400mPa・sである、樹脂組成物であって、
前記溶媒A/前記溶媒B2の質量比率が、70/30~30/70であり
前記樹脂が、下式(Ia)で表される構造単位と、下式(IIa)で表される構造単位と、下式(1)で表される構造単位とを有するポリアミドイミド(A)、又は下式(IIa)で表される構造単位と、下式(IVa)で表される構造単位と、下式(1)で表される構造単位とを有するポリアミドイミド(B)を含む、樹脂組成物
【化16】
(式中、R ~R は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1種以上の置換基を表し、
Xは、単結合、又は以下から選択される2価の有機基であり、
【化17】
式中、R 及びR は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、及びフェニル基からなる群から選択される1種以上の置換基である。)
【化18】
(式中、R ~R 10 は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を表し、R 11 及びR 12 は、それぞれ独立して、2価の炭化水素基を表し、mは1以上の整数である。)
【化19】
(式中、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表す。)
【化20】
(式中、Rは、ジアミン化合物からアミノ基を除いた残基、又はジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【請求項5】
前記溶媒Aの沸点が100~250℃である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記溶媒B1又は溶媒B2の沸点が100~250℃である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
溶媒Aがγ-ブチロラクトンを含み、溶媒B1がエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
溶媒Aがγ-ブチロラクトンを含み、溶媒B2がシクロペンタノン又はシクロヘキサノンを含む、請求項3又は4に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリアミドイミド(B)は、下式(Va)、(Vb)、及び(Vc)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位をさらに含む樹脂である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化21】
(式中、Sは、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基を表し、aは0~4の整数を表し、bは0~3の整数を表し、cは0~4の整数を表す。)
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて形成した塗膜を備えた半導体装置。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて塗膜を形成することを含む、半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記塗膜の形成は、封止工程の前に行われる、請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記塗膜が、プライマー層又は絶縁層である、請求項11又は12に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、ポリアミドイミド等の樹脂と、有機溶媒とを含む樹脂組成物に関し、より詳細には、実質的にNMPを含まない樹脂組成物に関する。本発明の他の実施形態は、上記実施形態の樹脂組成物を使用した半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリイミドといった樹脂は、耐熱性、耐薬品性、機械的特性等の各種特性において優れている。そのため、例えば、塗料のバインダー樹脂として様々な用途で広く使用されている。ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリイミドといった樹脂の合成時、及びワニス又は塗料の調製時には、極性溶媒が使用される。なかでも、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)は、ポリアミドイミド樹脂に対する好適な有機溶媒として汎用されている(特許文献1)。
【0003】
しかし、近年、環境保全及び安全衛生の観点から、有機溶媒の使用に関する規制が厳しくなっている。さらにNMPについては、人体への有害性が懸念され、産業界ではNMP使用時の作業環境での安全衛生が問題視されている。例えば、ヨーロッパでは、REACH規則により、NMPは高懸念物質(SVHC:Substances of Very High Concern)に分類され、その使用が規制されている。したがって、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリイミドといった樹脂を使用する用途において、NMPの代替溶媒に対するニーズが高まっている。
【0004】
例えば、NMPの代替溶媒として、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)が知られている。しかし、NEPはNMPと分子構造が類似するため、今後、NMPと同様に使用が規制される可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-241082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術においては、NMPの代替溶媒を使用した場合、NMPを使用した樹脂組成物に比べると特性が低下する傾向があり、十分に満足できる特性レベルには至っていない。
そこで、本発明の実施形態は、溶媒としてNMPを実質的に含まず、NMPを使用した従来の樹脂組成物と同程度の特性を実現できる樹脂組成物を提供する。特に、本発明の一実施形態は、塗布後の白化の発生を抑制でき、優れた塗膜特性が得られる樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の状況に鑑み、NMPの代替溶媒について種々の検討を行った。その結果、特定の有機溶媒の組合せによって、塗布後の白化の発生を抑制でき、また優れた塗膜特性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の実施形態は以下に関する。しかし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0008】
一実施形態は、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、及びポリアミド酸からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と、
ラクトン構造を有する少なくとも1種の溶媒Aと、
上記溶媒Aと相溶する少なくとも1種の溶媒Bとを含み、前記溶媒Bは30℃、60%RHの環境下で3時間保管した後の水分含有量が2質量%以下である、樹脂組成物に関する。
【0009】
一実施形態は、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、及びポリアミド酸からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と、
ラクトン構造を有する少なくとも1種の溶媒Aと、
上記溶媒Aと相溶する少なくとも1種の溶媒Bと
を含み、上記溶媒Bが、グリコールエステル系溶媒、及び環状ケトン系溶媒からなる群から選択される、樹脂組成物に関する。
【0010】
上記実施形態において、上記溶媒A/上記溶媒Bの質量比率は、90/10~10/90であることが好ましい。
【0011】
上記溶媒A及び上記溶媒Bの沸点は、それぞれ100~250℃であることが好ましい。
【0012】
上記樹脂は、下式(1)に示される構造単位を有するポリアミドイミド樹脂を含むことが好ましい。
【化1】
式中、Rは、ジアミン化合物からアミノ基を除いた残基、又はジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基を表し、nは1以上の整数を表す。
【0013】
上記実施形態において、上記樹脂は、下式(Ia)で表される構造単位を有する樹脂であることが好ましい。
【化2】
【0014】
式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1種以上の置換基を表す。
Xは、単結合、又は以下から選択される2価の有機基である。
【化3】
【0015】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、及びフェニル基からなる群から選択される1種以上の置換基である。
【0016】
上記実施形態において、上記樹脂は、下式(IIa)又は(VIa)で表される構造単位を有する樹脂であることが好ましい。
【化4】
【0017】
式中、R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を表し、R11及びR12は、それぞれ独立して、2価の炭化水素基を表し、mは1以上の整数である。
【0018】
【化5】
【0019】
式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表し、nは、1~6の整数を表す。
【0020】
上記実施形態において、上記樹脂は、下式(IVa)で表される構造単位を有する樹脂であることが好ましい。
【化6】
【0021】
式中、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表す。
上記樹脂は、下式(Va)、(Vb)、及び(Vc)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位をさらに含むことが好ましい。
【化7】
【0022】
式中、Sは、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基を表し、aは0~4の整数を表し、bは0~3の整数を表し、cは0~4の整数を表す。
【0023】
他の実施形態は、上記実施形態の樹脂組成物を用いて塗膜を形成することを含む、半導体装置の製造方法に関する。
【0024】
上記塗膜の形成は、封止工程の前に行われることが好ましい。
【0025】
上記塗膜は、プライマー層又は絶縁層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の実施形態によれば、溶媒としてNMPを実質的に含まず、NMPを使用した従来の樹脂組成物と同程度の特性を実現できる樹脂組成物を提供することができる。本発明の実施形態による樹脂組成物は、塗布後に白化が生じ難く、塗料、半導体装置材料等の様々な用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、種々の実施形態を含む。
【0028】
<樹脂組成物>
本発明の一実施形態である樹脂組成物は、NMP以外の有機溶媒と、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミド、及びポリアミド酸からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂とを含む。「樹脂組成物」は、「ワニス」、「塗料」と等価の意味で用いられることがある。
【0029】
上記樹脂組成物は、実質的にNMPを含まない。一実施形態において、「実質的にNMPを含まない」とは、樹脂組成物の全質量を基準として、好ましくはNMPの含有量が0.3質量%未満であってよい。上記NMPの含有量は、好ましくは0.2質量%未満であってよく、より好ましくは0.1質量%未満であってよい。そのため、例えば、樹脂の合成などのプロセスにおいて混入して樹脂組成物中に残存するNMPを完全に除外するものではない。
【0030】
(有機溶媒)
上記樹脂組成物において、有機溶媒は、後述する溶媒Aと溶媒Bとを含む。一実施形態において、溶媒Aは、ラクトン構造(環状エステル構造)を有する少なくとも1種の溶媒である。少なくとも溶媒Aは、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、及びポリアミド酸からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を溶解することが好ましい。
上記「溶解」とは、室温において、樹脂に溶媒Aを加えて撹拌して得た溶液を目視にて確認した時に、沈殿物がなく、濁りがなく、溶液全体が透明な状態になることを意味する。ここで、上記「室温」は、概ね10~40℃の範囲であってよく、20~30℃の範囲が好ましい。一実施形態において、溶媒Aは、100mLの溶媒Aに対し、樹脂の粉末を30mgまで溶解できることが好ましい。上記「撹拌」は、ミックスローターなどの撹拌機を使用し、40~50rpmの条件で実施してよい。
【0031】
一方、溶媒Bは、上記溶媒Aと相溶する少なくとも1種の溶媒であり、乾燥させた溶媒Bを、30℃、60%RH(相対湿度)の環境下で3時間保管した後の水分含有量が2質量%以下であることを特徴とする。上記水分含有量は、半径2cmの円筒状容器に30gの乾燥させた溶媒Bを入れ、30℃、60%RHの環境下で3時間保管した後の溶媒Bについて測定した値である。水分含有量は2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。溶媒Bの上記水分含有量が2質量%以下であることで、樹脂組成物の白化(樹脂沈殿)を容易に抑制することができ、均一な塗膜を容易に得ることができる。
上記水分含有量は、溶媒Bの全質量を基準とする溶媒Bに含まれる水分量の割合を意味する。本明細書では、室温下、カールフィッシャー電量滴定法にしたがって、カールフィッシャー水分測定装置(水分計)を使用して測定した値である。例えば、日東精工アナリテック株式会社製の水分計CA-21を使用することができる。
【0032】
溶媒Bと溶媒Aとの相溶性は、以下のようにして判定する。先ず、無色透明なガラス容器中に、10mLの溶媒Aに対して10mLの溶媒Bを混入する。次いで、これらを25℃で撹拌又は分散させて得た溶液を10分間にわたって静置する。その後、ガラス容器の横側から溶液の界面を目視によって観察する。溶液中に界面が観察された場合は「相溶しない」と判定する。一方、溶液中に界面が観察されない場合は「相溶する」と判定する。上記溶液を調製する時の撹拌又は分散は、ガラス容器を手に持ち、上下に素早く10往復程度振とうする等の条件で実施してよい。
【0033】
溶媒Aの具体例として、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-ヘプタラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、及びε-カプロラクトン等のラクトン類が挙げられる。一実施形態において、溶媒Aは、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-カプロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、少なくともγ-ブチロラクトンを含むことがより好ましい。
【0034】
一方、溶媒Bは、上述のように上記溶媒Aと相溶する少なくとも1種の溶媒であり、30℃、60%RH(相対湿度)の環境下で3時間保管した後の水分含有量が2質量%以下であればよく、特に限定されない。
溶媒Bの具体例として、芳香族系炭化水素溶媒、脂肪族系炭化水素溶媒、エステル系溶媒(但し、環状エステル系溶媒を除く)、エーテル系溶媒、及びケトン系溶媒が挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0035】
より具体的には、芳香族系炭化水素溶媒は、例えば、キシレン、エチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等であってよい。
脂肪族系炭化水素溶媒は、例えば、ヘキサン、オクタン、デカン等であってよい。また、これらの混合物である石油エーテル、ホワイトガソリン、ソルベントナフサ等であってもよい。
【0036】
エステル系溶媒(但し、環状エステル系溶媒を除く)は、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のアルキルアセテートであってよい。また、エステル系溶媒は、グリコールエステル系溶媒であってよい。具体例として、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(ブチルセロソルブアセテート)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルモノアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルモノアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の、モノアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアセテート、又はポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアセテートが挙げられる。
さらに、エステル系溶媒は、グルタル酸ジアルキル、コハク酸ジアルキル、アジピン酸ジアルキル等のポリカルボン酸アルキルエステルであってもよい。
なかでも、グリコールエステル系溶媒が好ましく、モノアルキレングリコールモノアルキルエーテルモノアセテートがより好ましく、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートがさらに好ましい。
【0037】
エーテル系溶媒は、ジエチルエーテル、エチルブチルエーテル等のアルキルエーテルであってよい。また、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテルであってもよい。さらに、テトラヒドロフラン等の環状エーテルであってもよい。
【0038】
ケトン系溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン等の非環状ケトン、並びにシクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン等の環状ケトンであってもよい。なかでも環状ケトン系溶媒が好ましく、シクロペンタノン、又はシクロヘキサノンがより好ましい。
【0039】
溶媒Bとして、上述の溶媒を単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。一実施形態において、溶媒Bは、グリコールエステル系溶媒(以下「溶媒B1」とも記す)、及び環状ケトン系溶媒(以下「溶媒B2」とも記す)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。一実施形態において、溶媒Bは、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(ブチルセロソルブアセテート)(BuCA)、シクロペンタノン(CPN)、シクロヘキサノン(CHN)からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましい。
【0040】
特に限定するものではないが、溶媒A/溶媒Bの好ましい組合せの一例として、GBL/CPN、GBL/CHN、及びGBL/BuCAが挙げられる。
【0041】
理論によって拘束するものではないが、例えば、溶媒Aの一例であるGBLは、NMPと同様に極性溶媒であるが、NMPとの比較において樹脂の溶解性に劣る傾向がある。そのことでGBLを使用した樹脂組成物では、塗布後に白化が発生しやすいと考えられる。一方、溶媒Bは、吸水性の低い溶媒であり、例えば、30℃、60%RHの環境下で3時間保管した後の水分含有量が2質量%以下となる溶媒である。したがって、溶媒Aと、吸水性の低い溶媒Bとを併用することによって、溶媒Aの吸水性を抑制できると推測される。また、溶媒Aと溶媒Bとの併用によって、塗膜特性の改善が可能になると推測される。
溶媒A/溶媒Bの質量比率は、樹脂の溶解性、及び吸水性などの観点から適宜調整することができる。一実施形態において、溶媒A/溶媒Bの質量比率は90/10~10/90であってよい。以下に、樹脂が後述する樹脂(A)又は樹脂(B)である場合についてさらに詳しく説明する。
【0042】
一実施形態において、溶媒A/溶媒BがGBL/CPN又はCHNなどの環状ケトン系溶媒(B2)の場合、溶媒A/溶媒B2の質量比率は90/10~10/90が好ましい。上記質量比率は、70/30~30/70がより好ましく、60/40~40/60がさらに好ましい。このような組み合わせであることにより、塗膜の乾燥後の表面粗さが良好になったり、ディスペンス塗布した際のノズルの乾燥を防ぎやすくなったりする傾向にある。
【0043】
他の実施形態において、溶媒A/溶媒BがGBL/BuCA等のグリコールエステル系溶媒(B1)の場合、溶媒A/溶媒B1の質量比率は90/10~60/40が好ましく、90/10~70/30がより好ましい。上記質量比率は、85/15~75/25がさらに好ましい。また、溶媒A/溶媒B1の質量比率は、90/10~75/25であることも好ましい。このような組み合わせであることにより、吸水率が低下し、塗膜形成時の樹脂の析出を抑えやすくなる傾向にある。
【0044】
一実施形態において、樹脂組成物は、所望する特性を低下させない範囲で上記溶媒A及び溶媒Bとは異なる溶媒をさらに含んでもよい。溶媒の全質量を基準として、溶媒A及び溶媒Bの合計量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量以上であることがより好ましく、99.7質量%以上であることがさらに好ましい。
【0045】
一実施形態において、塗膜形成時の乾燥性等の観点から、溶媒A及び溶媒Bの沸点は、それぞれ100~250℃であることが好ましい。上記沸点は、130~220℃であることがより好ましく、150~210℃であることがさらに好ましい。先に例示した溶媒のなかでも、沸点の観点から、溶媒Aは、γ-ブチロラクトン(GBL、沸点204℃)が好ましい。一方、溶媒Bは、シクロペンタノン(CPN、沸点131℃)、シクロヘキサノン(CHN、沸点156℃)、及びブチルセロソルブアセテート(BuCA、沸点192℃)が好ましい。
これらの溶媒を使用した場合、NMPの沸点と同様であるか、NMPの沸点よりも低いため、NMPを使用時と同様に塗膜形成時に優れた乾燥性を容易に得ることができる。
【0046】
(樹脂)
上記実施形態の樹脂組成物において、樹脂は、当技術分野で周知の樹脂であってよいが、少なくともポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミド、及びポリアミド酸からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。これらの樹脂は、耐熱性に優れ、強靭であり、かつ可とう性に優れる。そのため、これらの樹脂を使用した樹脂組成物は、例えば、半導体素子の絶縁層、又はプライマー層として好ましい特性を有する塗膜を容易に形成することができる。
【0047】
ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミド及びポリアミド酸は、当技術分野で周知の方法にしたがって合成することができる。上記実施形態の樹脂組成物において、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミド及びポリアミド酸からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂は、例えば、下式(Ia)で表される構造単位を含んでいてもよい。また、下式(IIa)で表される構造単位を含んでいてもよい。
【0048】
【化8】
【0049】
式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1種以上の置換基を表す。
上記アルキル基又はアルコキシ基は、直鎖構造、分岐構造、環状構造のいずれであってもよい。上記アルキル基及び上記アルコキシ基は、炭素数1~6であることがより好ましく、炭素数1~3であることがさらに好ましい。
上記ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子のいずれであってもよい。
【0050】
Xは、単結合、又は以下から選択される2価の有機基である。一実施形態において、Xは-CR-であることが好ましい。
【化9】
【0051】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、及びフェニル基からなる群から選択される1種以上の置換基である。
上記アルキル基は、直鎖構造、分岐構造、及び環状構造のいずれであってもよい。一実施形態において、式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1又は2のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0052】
【化10】
【0053】
式中、R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を表し、R11及びR12は、それぞれ独立して、2価の炭化水素基を表し、mは1以上の整数である。
【0054】
一実施形態において、上記R~R10は、それぞれ独立して、置換基であることが好ましい。置換基は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。上記アルキル基及び上記アルコキシ基は、直鎖構造、分岐構造、環状構造のいずれであってもよい。R~R10は、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基であることがより好ましい。上記フェニル基における水素原子は炭素数1~6のアルキル基で置換されていてもよい。一実施形態において、R~R10は、それぞれ、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。
【0055】
上記R11及びR12は、それぞれ独立して、炭素数1~9のアルキレン基、又はフェニレン基であってよい。フェニレン基における水素原子は炭素数1~3のアルキル基で置換されていてもよい。上記アルキレン基は、直鎖構造、分岐構造、環状構造のいずれであってもよい。一実施形態において、R11及びR12は、それぞれ独立して、炭素数1~6の直鎖のアルキレン基であることが好ましく、炭素数2~5のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数3又は4のアルキレン基であることがさらに好ましい。
上記式において、mは1~100であることが好ましく、1~40であることがより好ましく、1~10であることがさらに好ましい。
【0056】
一実施形態において、樹脂は、さらに下式(IIIa)で表される構造単位を含むポリアミドイミド樹脂であってもよい。
【化11】
【0057】
一実施形態において、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミド、及びポリアミド酸からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂は、例えば、下式(IVa)で表されるカルド構造型フルオレン骨格を有する構造単位を含んでいてもよい。また、下式(Va)、(Vb)、及び(Vc)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【化12】
【0058】
【化13】
【0059】
上式(IVa)において、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表す。
上記ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子であってよい。上記アルキル基及び上記アルコキシ基は、直鎖構造、分岐構造、及び環状構造のいずれであってもよい。
【0060】
一実施形態において、Xは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又はハロゲン原子であることが好ましい。上記アルキル基は、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素数1~3のアルキル基がさらに好ましい。一実施形態において、Xは、それぞれ、水素原子であることが好ましい。
【0061】
上式(Va)、(Vb)、及び(Vc)において、Sは、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基を表し、aは0~4の整数を表し、bは0~3の整数を表し、cは0~4の整数を表す。
【0062】
一実施形態において、樹脂は、さらに、下式で表される構造単位(VIa)を含んでいてもよい。
【化14】
【0063】
式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表し、nは、1~6の整数を表す。
上記ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子であってよい。上記アルキル基及び上記アルコキシ基は、直鎖構造、分岐構造、及び環状構造のいずれであってもよい。
一実施形態において、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~9のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがさらに好ましい。
nは、2~4の整数であることが好ましく、3又は4であることがより好ましい。
【0064】
上記実施形態において、樹脂は、上式(Ia)で表される構造単位と、上式(IIa)又は(VIa)で表される構造単位とを含む樹脂であることが好ましい。樹脂は、上式(Ia)で表される構造単位と、上式(IIa)又は(VIa)で表される構造単位とを含むポリアミドイミド樹脂であることがより好ましい。樹脂は、上式(Ia)で表される構造単位と、上式(IIa)又は(VIa)で表される構造単位と、下式(IIIa)で表される構造単位とを含む、ポリアミドイミド樹脂であることがさらに好ましい。
【0065】
上記実施形態において、樹脂は、上式(IVa)で表される構造単位と、上式(Va)、(Vb)、及び(Vc)のいずれか1つで表される構造単位とを含む樹脂であることが好ましい。樹脂は、上式(IVa)で表される構造単位と、上式(Va)、(Vb)、及び(Vc)のいずれか1つで表される構造単位と、上式(IIa)又は(VIa)で表される構造単位を含む樹脂であることがより好ましい。樹脂は、上式(IVa)で表される構造単位と、上式(Va)、(Vb)、及び(Vc)のいずれか1つで表される構造単位と、必要に応じて(IIa)又は(VIa)で表される構造単位とを含むポリアミドイミド樹脂であることがより好ましく、さらに下式(IIIa)で表される構造単位を含む、ポリアミドイミド樹脂であることがよりいっそう好ましい。
【0066】
【化15】
【0067】
上記カルド構造型フルオレン骨格を有するポリアミドイミド樹脂(B)の他の実施形態として、上式(Va)、(Vb)、及び(Vc)のいずれか1つで表される構造単位にかえて、下式(Vd)で表される構造単位を有してもよい。
【化16】
【0068】
上式において、Aは、2価の基、又は単結合を表す。2価の基は、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、ジメチルメチレン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、アミド基、エステル基、ジフェニルケトン基、1,4-フェニレンオキシ基、1,4-ビフェニレンオキシ基、スルホニルビス(1,4-フェニレンオキシ)基、イソプロピリデンビス(1,4-フェニレンオキシ)基、及びヘキサフルオロイソプロピリデンビス(1,4-フェニレンオキシ)基からなる群から選択されるいずれか1つの基である。一実施形態において、Aは、酸素原子であることが好ましい。
【0069】
Bは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、トリフルオロメチル基、カルボン酸基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表す。上記ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子であってよい。
一実施形態において、Bは、それぞれ独立して、水素原子であるか、又は、炭素数1~9のアルキル基であることが好ましい。上記アルキル基は、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0070】
(ポリアミドイミド)
以下、樹脂の一例としてポリアミドイミドについてより具体的に説明する。
ポリアミドイミドは、ジアミン化合物又はジイソシアネート化合物と、三塩基酸無水物又は三塩基酸ハライドを含む酸成分とを反応させて得られる樹脂である。ここで、各原料化合物は、各々、任意に複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
ジアミン化合物又はジイソシアネート化合物は、例えば、芳香族ジアミン又は芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジアミン又は脂肪族ジイソシアネートであってよい。芳香族ジアミン又は芳香族ジイソシアネートが好ましい。
芳香族ジアミン(ジイソシアネート)の一例として、2,7-ジアミノフルオレン、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-9H-フルオレン、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビフェニルジスルホン酸、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-フェニレンジアミン、2-クロロ-1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,6-ジアミノカルバゾール、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2-トリフルオロメチル-1,4-ジアミノベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニルエーテル、4-アミノフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルビフェニル、ナフタレンジアミン、ナフタレンジイソシアネートが挙げられる。
【0072】
脂肪族ジアミン(ジイソシアネート)の一例として、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-ジ(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。
【0073】
一実施形態において、先に説明した式(Ia)、(IIa)、(IVa)、(Va)~(Vd)、及び(VIa)で表される構造単位を誘導可能なジアミン化合物又はジイソシアネート化合物を使用することが好ましい。
例えば、式(IVa)で表される構造単位を誘導可能なジアミン化合物又はジイソシアネート化合物は、下式(IV)で表される。式中、Xは先に説明したとおりであり、Yは、アミノ基(-NH)、又はイソシアネート基(-NCO)を表す。
【0074】
【化17】
【0075】
上式(IV)で表される化合物の具体例として、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらは、構造単位(IVa)を誘導可能なジアミン化合物として好適に使用することができる。
【0076】
また、式(VIa)で表される構造単位を誘導可能な化合物の具体例として、1,3-ビス(3-アミノプロピル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(2-アミノエチル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(アミノメチル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(5-アミノペンチル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(6-アミノヘキシル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン等、が挙げられる。
【0077】
一実施形態として、ポリアミドイミド樹脂(A)は、式(Ia)で表される構造単位と、式(IIa)で表される構造単位とを有することが好ましい。このポリアミドイミド樹脂(A)では、ジアミン化合物又はジイソシアネート化合物に由来する構造単位の全量に対して、式(Ia)で表される構造単位の割合と、式(IIa)で表される構造単位の割合との合計量は80モル%超であってよく、100モル%であってもよい。
また、他の実施形態として、ポリアミドイミド樹脂(B)は、式(IIa)で表される構造単位と、式(IVa)で表される構造単位とを有する樹脂であってよく、さらに式(Va)、(Vb)、(Vc)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を有することが好ましい。このポリアミドイミド樹脂(B)では、ジアミン化合物又はジイソシアネート化合物に由来する構造単位の全量に対して、式(IIa)で表される構造単位の割合と、式(IVa)で表される構造単位の割合と、式(Va)、(Vb)、(Vc)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位の割合との合計量は、80モル%超であってよく、100モル%であってもよい。ここで、ジアミン化合物又はジイソシアネート化合物に由来する構造単位の全量に対して、式(IVa)で表される構造単位の割合は、好ましくは10~90モル%であってよく、より好ましくは30~70モル%であってよく、さらに好ましくは40~60モル%であってよい。式(IVa)で表される構造単位の割合を上記範囲内に調整することによって、樹脂の耐熱性を高めつつ、溶解性とのバランスをとることが容易となる。
上記実施形態のポリアミドイミド樹脂(A)及び(B)のいずれにおいても、ジアミン化合物又はジイソシアネート化合物に由来する構造単位の全量に対して式(IIa)で表される構造単位の割合は、好ましくは1~50モル%であってよく、より好ましくは3~30モル%であってよく、さらに好ましくは5~10モル%であってよい。
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂を製造するために、式(Ia)、(IIa)、(IVa)、(Va)~(Vd)、及び(VIa)で表される構造単位以外の構造単位を誘導可能な、その他のジアミン化合物又はジイソシアネート化合物を組合せて使用してもよい。その他のジアミン化合物又はジイソシアネート化合物に由来する構造単位の割合は、ジアミン化合物又はジイソシアネート化合物に由来する構造単位の全量に対して20モル%以下とすることが好ましい。上記その他の化合物に由来する構造単位の割合は、10モル%以下とすることがより好ましく、5モル%以下とすることがさらに好ましい。
【0078】
三塩基酸無水物としては、特に限定されないが、好ましくは芳香族三塩基酸無水物が用いられ、なかでもトリメリット酸無水物が好ましい。三塩基酸ハライドとしては、特に限定はされないが、三塩基酸クロライドが用いられ、さらには芳香族三塩基酸クロライドが好ましく用いられる。例えば、トリメリット酸無水物クロライド(無水トリメリット酸クロリド)等が挙げられる。環境への負荷を軽減させる観点から、トリメリット酸無水物等を用いることが好ましい。
このような観点から、一実施形態において、上記ポリアミドイミド樹脂(A)及び(B)は、三塩基酸無水物に由来する構造単位としてトリメリット酸無水物に由来する上式(IIIa)をさらに含むことが好ましい。酸成分に由来する構造単位の全量を基準として、上式(IIIa)で表される構造単位の割合は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%であることがさらに好ましい。一実施形態において、酸成分に由来する構造単位の全量を基準として、上式(IIIa)で表される構造単位の割合は、100モル%であってもよい。
【0079】
酸成分としては、上記の三塩基酸無水物(又は三塩基酸ハライド)の他に、ジカルボン酸、テトラカルボン酸二無水物等の飽和又は不飽和多塩基酸を、ポリアミドイミドの特性を損なわない範囲で用いることができる。
ジカルボン酸としては、特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、複数種を任意の組み合わせで使用してもよい。
三塩基酸以外のカルボン酸(ジカルボン酸とテトラカルボン酸)の総量は、ポリアミドイミドの特性を保つ観点から、全カルボン酸中に0~50モル%の範囲で使用されることが好ましく、0~30モル%の範囲であることがより好ましい。
【0080】
ジアミン化合物(又はジイソシアネート化合物)と、酸成分(三塩基酸無水物又は三塩基酸無水物ハライドと必要に応じて使用するジカルボン酸及びテトラカルボン酸二無水物の合計量)との使用比率は、生成されるポリアミドイミドの分子量及び架橋度の観点から調整されることが好ましい。例えば、酸成分の総量1.0モルに対して、ジアミン化合物(又はジイソシアネート化合物)を0.8~1.1モルとすることが好ましく、0.95~1.08モルとすることがより好ましく、特に、1.0~1.05モルとすることがいっそう好ましい。
【0081】
ポリアミドイミドは、分子骨格内にアミド結合とイミド結合とを有する樹脂であり、例えば、ジアミン化合物又はジイソシアネート化合物と、トリカルボン酸無水物等の酸成分との反応によって得られる。一実施形態において、ポリアミドイミドは下式(1)に示される構造単位を有することが好ましい。
【化18】
式中、Rは、ジアミン化合物からアミノ基を除いた残基、又はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基を表し、nは1以上の整数を表す。
【0082】
一実施形態において、Rは、先に説明した式(Ia)で表される構造単位、及び式(IIa)で表される構造単位であってよい。このような構造を有するポリアミドイミド(A)は、例えば、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンと、1,3-ビス(3-アミノプロピル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンと、無水トリメリット酸クロライドと反応させることによって得ることができる。
【0083】
他の実施形態において、Rは、先に説明した式(IVa)で表される構造単位、式(Va)、(Vb)、及び(Vc)のいずれか1つで表される構造単位、並びに式(VIa)で表される構造単位であってよい。このような構造を有するポリアミドイミド(B)は、例えば、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンと、4,4’-メチレンビス[2,6-ビス(1-メチルエチル)ベンゼンアミン]と、無水トリメリット酸クロライドとを反応させることによって得ることができる。
【0084】
(ポリアミドイミド樹脂の製造方法)
ポリアミドイミド樹脂は、公知の方法に従い製造することができ、特に限定されない。ポリアミドイミド樹脂は、例えば、ジアミン成分及び/又はジイソシアネート成分と、酸成分との反応を経て製造することができる。ジアミン成分、ジイソシアネート成分、及び酸成分は、先に説明したとおりである。上記反応は、無溶媒又は有機溶媒の存在下で行うことができる。反応温度は、25℃~250℃の範囲が好ましい。反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件等に応じて、適宜調整することができる。
【0085】
ポリアミドイミド樹脂の製造時に使用する有機溶媒(合成溶媒)は、特に制限されない。使用可能な有機溶媒として、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン等の含硫黄系溶媒、γ-ブチロラクトン等の環状エステル系(ラクトン系)溶媒、酢酸セロソルブ等の非環状エステル系溶媒、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン等の含窒素系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒の1種を単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0086】
一実施形態において、生成する樹脂を溶解可能な有機溶媒を選択して使用することが好ましく、極性溶媒を使用することが好ましい。特に限定されないが、極性溶媒の具体例として、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン、及びN,N’-ジメチルプロピレン尿素〔1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジミン-2(1H)-オン〕等の含窒素系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン等が挙げられる。なかでも、含窒素系溶媒が好ましい。
【0087】
合成溶媒の使用量は、特に限定されないが、酸成分とジアミン化合物又はジイソシアネート化合物との合計量100質量部に対して、300~3,500重量部質量部であることが好ましく、400~2,000重量部質量部であることがより好ましい。
一般的に、合成溶媒は、樹脂の合成後に周知に技術にしたがって除去され、樹脂が回収される。例えば、樹脂を含む反応液に水を加えて樹脂を沈殿させ、この沈殿物を分離回収することによって樹脂が得られる。必要に応じて、回収した樹脂を加熱乾燥する工程を設けてもよい。加熱乾燥は、2段階以上で実施してもよく、樹脂の相転移や分解を生じない範囲の温度に加熱して実施してもよい。
【0088】
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、先ず、酸成分とジアミン成分との反応によってポリアミドイミド樹脂の前駆体を製造し、次いでこの前駆体を脱水閉環してポリアミドイミド樹脂を得る方法によって製造することができる。しかし、上記前駆体の閉環方法は、特に制限されず、当技術分野で周知の方法を使用することができる。例えば、常圧又は減圧下で、加熱によって脱水閉環する熱閉環法、触媒の存在下又は非存在下で、無水酢酸等の脱水剤を使用する化学閉環法等を使用することができる。
【0089】
熱閉環法の場合、脱水反応で生じる水を系外に除去しながら行うことが好ましい。脱水反応の時、80℃~400℃、好ましくは100℃~250℃に反応液を加熱してもよい。また、ベンゼン、トルエン、キシレン等のような水と共沸可能な有機溶媒を併用し、水を共沸除去してもよい。
【0090】
化学閉環法の場合、化学的脱水剤の存在下、0℃~120℃、好ましくは10℃~80℃で反応を実施してもよい。化学的脱水剤としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水安息香酸等の酸無水物、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物等を用いることが好ましい。反応の時、ピリジン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アミノピリジン、イミダゾール等の環化反応を促進する物質を併用することが好ましい。
【0091】
化学的脱水剤は、ジアミン成分の総量に対して90~600モル%、環化反応を促進する物質はジアミン成分の総量に対して40~300モル%の割合で使用してもよい。また、トリフェニルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリフェニルホスフェート、リン酸、五酸化リン等のリン化合物、ホウ酸、無水ホウ酸等のホウ素化合物などの脱水触媒を用いてもよい。
【0092】
一実施形態において、ポリアミドイミドの重量平均分子量(Mw)は、塗膜の強度を確保する観点から、30,000以上であることが好ましく、35,000以上であることがより好ましく、38,000以上であることがさらに好ましい。一方、有機溶媒への溶解性を確保する観点からは、ポリアミドイミドの重量平均分子量は150,000以下であることが好ましく、130,000以下であることがより好ましく、120,000以下がさらに好ましい。本明細書において記載する「Mw」は、ゲル浸透クロマトグラフィーを使用し、標準ポリスチレン換算で測定した値である。
【0093】
一実施形態において、ポリアミドイミドのMwは、30,000~150,000の範囲であることが好ましい。上記Mwは、35,000~130,000の範囲であることがより好ましく、38,000~120,000の範囲であることがさらに好ましい。上記範囲内のMwを有するポリアミドイミドを使用した場合、樹脂組成物の粘度変化を抑制し、良好な貯蔵安定性を容易に得ることができる。
【0094】
ポリアミドイミドのMwは、樹脂合成時にサンプルリングして、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。目的とする数平均分子量になるまで、ポリアミドイミドの合成を継続することによって、上記好ましい範囲に管理することができる。GPCの測定条件については実施例において後述する。
【0095】
一実施形態において、ポリアミドイミドのガラス転移温度(Tg)は、120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。一方、溶解性の観点から、Tgは、400℃以下であることが好ましく、380℃以下であることがより好ましく、350℃以下であることがさらに好ましい。
ここで、Tgとは、溶媒に溶かした樹脂(ワニス)を塗布及び乾燥して得られる膜を用い、動的粘弾性試験を実施して得た値である。Tgは、120~400℃が好ましく、150~380℃がより好ましく、200~350℃がさらに好ましい。
【0096】
ポリアミドイミドが150℃以上のTgを有することによって、例えばヒートサイクル試験においても、優れた信頼性を得ることが可能となる。また、上記樹脂組成物を塗布してパワー半導体装置のプライマー層を構成した場合、駆動時の発熱によって塗膜が軟化し、密着性が低下することを容易に抑制することができる。
【0097】
ポリアミドイミドのTgが350℃以下となる骨格で樹脂を設計することによって、溶媒に対する溶解性が担保できるため、製膜加工性が向上する。
【0098】
樹脂組成物における樹脂の含有量は、その用途に応じて適宜設定することができる。特に限定はされないが、一実施形態において、樹脂の含有量は、他の成分とのバランスの観点から、樹脂組成物の全質量を基準として、5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましい。
【0099】
樹脂組成物における樹脂の含有量を5質量%以上にすることにより、樹脂組成物を塗布及び乾燥した後の目標膜厚を達成するために必要な塗布量が少なくなるため、プロセス性を容易に向上できる。一方、樹脂組成物における樹脂の含有量を25質量%以下にすることにより、樹脂組成物を長期保管した際の粘度安定性を容易に向上できる。
【0100】
一実施形態において、樹脂組成物の粘度は特に制限されないが、例えば10~400mPa・sの範囲であってもよい。樹脂組成物の粘度は、塗布方法に応じて調整することができる。このような観点から、一実施形態において、樹脂組成物の粘度は、好ましくは10~200mPa・sであってよく、より好ましくは10~150mPa・sであってよく、さらに好ましくは10~100mPa・sであってよい。他の実施形態において、樹脂組成物の粘度は、好ましくは100~400mPa・sであってよく、より好ましくは150~350mPa・sであってよく、さらに好ましくは200~300mPa・sであってよい。
ここで、上記粘度は、不揮発成分(固形分成分)が1~20%となるように溶媒に溶解したワニスを、E型粘度計を使用して、25℃の条件下、10rpmで測定して得た値である。
10rpmで測定した粘度が10mPa・s以上であると、塗布時に十分な膜厚を確保することが容易である。また、上記粘度が400mPa・s以下であると、塗布時に均一な膜厚を確保することが容易となりやすい傾向にある。なお、上記粘度は、例えば、東機産業株式会社製の粘度計(RE型)を用いて測定することができる。測定では、測定温度を25℃±0.5℃に設定し、次いで粘度計に1mL~1.5mLの樹脂組成物の溶液を入れ、測定開始から10分後の粘度を記録する。
【0101】
(その他の成分)
一実施形態において上記樹脂組成物は、樹脂及び有機溶媒に加え、その使用目的に応じて任意の成分を含むことができる。例えば、樹脂組成物は、塗料として好ましく使用することができる。樹脂組成物を塗料として使用する場合は、必要に応じて、顔料、充填材、消泡剤、防腐剤、界面活性剤等の任意成分を添加してもよい。また、上記樹脂以外の樹脂をさらに含んでいてもよい。
【0102】
上記樹脂組成物は、膜形成用として使用できる。膜の製造方法は、例えば、上記実施形態の樹脂組成物を基材に塗布すること、及び基材上の樹脂組成物を加熱によって乾燥させて塗膜を得ることを含む。一実施形態において、上記樹脂組成物は、ポリアミド、ポリアミドイミド、又はポリイミドを含む樹脂組成物であることが好ましい。このような樹脂組成物を使用した場合、上記乾燥は、30~120℃で加熱し、次いで150~300℃で加熱することによる2段階で実施することが好ましい。上記実施形態の樹脂組成物は、塗膜を形成する工程でイミド化などの反応を必要としないため、ポリアミド酸を塗布し、イミド化する場合と比較して、より低い加熱温度で塗膜を得ることができる。
一実施形態において、上記樹脂組成物は、半導体装置材料として使用するワニス又は塗料であってよい。例えば、上記塗料は、ポリアミドイミドと、上記溶媒A及び溶媒Bを含む有機溶媒と、シランカップリング剤とを含んでよい。このような塗料(樹脂組成物)は、半導体装置を製造するための塗膜材料として好適に使用することができる。このような観点から、本発明の一実施形態は、上記実施形態の塗料を使用して形成される塗膜を有する半導体装置に関する。
【0103】
本発明の一実施形態である半導体装置は、上記実施形態の塗料(樹脂組成物)を用いて塗膜を形成することを含む製造方法によって得ることができる。例えば、半導体装置の構成部材の上に塗料を塗布し、加熱及び乾燥させることによって上記塗膜を形成することができる。塗膜形成時(加熱乾燥時)の加熱温度及び加熱時間などの条件は、適宜調整することができる。
一実施形態において、加熱乾燥は2段階で実施されることが好ましい。この実施形態において、1段階目の加熱乾燥温度は、好ましくは30~120℃の範囲であってよく、より好ましくは50~100℃の範囲であってよい。2段階目の加熱乾燥温度は150~300℃の範囲であってよく、より好ましくは180~260℃の範囲であってよく、さらに好ましくは200~230℃の範囲であってよい。
【0104】
本発明の一実施形態は、少なくとも半導体素子を搭載した基板の表面に、上記実施形態の塗料(樹脂組成物)を用いて塗膜を形成することを含む、半導体装置の製造方法に関する。上記塗料は、例えば、半導体装置の保護層、封止材と基板との密着性を向上するプライマー層、及び半導体装置の絶縁層等の塗膜を形成するために使用することができる。上記半導体装置の製造方法は、上記塗膜の形成工程と、封止工程を含んでもよい。上記塗膜の形成工程は、先に説明したとおりであり、例えば、封止工程の前に実施されてよい。上記塗料は、実質的にNMPを含まないため作業安全性に優れるだけでなく、特定の溶媒の組合せによってNMPを使用した塗料との比較において特性低下が抑制され、所望とする特性を容易に得ることが可能となる。また、塗膜形成時の乾燥温度を低下させることも容易となる。
【0105】
一実施形態において、半導体装置の製造方法は、少なくとも、半導体素子を搭載した基板の表面に、上記実施形態の塗料(樹脂組成物)を塗布し乾燥させて絶縁膜(絶縁層)を形成すること、及び上記絶縁層の上に樹脂封止層を形成することを含む。
上記製造方法において、作業性の観点から、上記樹脂組成物は樹脂成分としてポリアミドイミド樹脂を含むことが好ましい。上記絶縁層の形成は、上記樹脂組成物を所定の箇所に塗布し、塗膜を乾燥することによって実施することができる。上記樹脂組成物の塗布は、各種塗布法を適用して実施することができる。塗布を行う方法は、特に制限されないが、例えば、スプレー塗布法、ポッティング法、ディッピング法、ディスペンス法等が挙げられる。作業性などを考慮するとポッティング法またはディスペンス塗布が好ましい。
【0106】
一実施形態において、樹脂組成物を成膜して得られる塗膜の膜厚は特に制限されないが、0.5~10μmの範囲であってよい。塗膜が上記範囲内の膜厚を有することで、例えば基板との十分な密着力を確保しやすくなる傾向にある。この観点から、膜厚は、好ましくは1~10μmの範囲であり、さらに好ましくは3~10μmの範囲である。
【0107】
基板の材料は、特に限定されず、当技術分野で周知の材料から選択することができる。パワー半導体装置を製造する観点から、ダイパット材料は、Ni、Cu、及びそれらの上に形成されたAgめっきからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。リードフレームのリード材料は、Ni、及びCuからなる群から選択されることが好ましい。
半導体素子の材料は、特に限定されず、例えば、シリコンウェハ、シリコンカーバイドウェハ等であってよい。
【0108】
樹脂封止層は、当技術分野で封止材料として周知の樹脂の硬化物から構成することができる。封止材料として、例えば、液状又は固体のエポキシ系樹脂組成物を用いることができる。樹脂封止層は、例えば、封止材料を用いてトランスファー成形を行うことによって形成することができる。
【0109】
他の実施形態において、半導体装置の製造方法は、例えば、同一構造の配線が複数形成された半導体基板に、上記実施形態の樹脂組成物を塗布及び乾燥して樹脂層を形成すること、及び、必要に応じて上記樹脂層上に上記半導体基板上の電極と電気的に導通する再配線を形成することを含む。また、これらの工程に加えて、必要に応じて再配線上又は樹脂層上に上記樹脂組成物を用いて保護層(樹脂層)を形成することを有してよい。さらに、上記工程に加えて、必要に応じて上記樹脂層に外部電極端子を形成すること、次いで、必要に応じてダイシングすることを含んでもよい。
【0110】
上記半導体装置において、半導体素子は、特に制限されないが、例えば、シリコンウェハ、シリコンカーバイドウェハ等であってよい。上記樹脂層の塗布方法は、特に制限されないが、スピンコート、スプレー塗布、又はディスペンス塗布であることが好ましい。上記樹脂層の乾燥方法は当技術分野で公知の方法によって行うことができる。上記実施形態の樹脂組成物は、再配線を形成する工程で必要とされる耐スパッタ性、耐メッキ性、耐アルカリ性等の特性にも優れることから、上記に記載した半導体装置の構成に限定されることなく、あらゆる半導体装置の構成材料として好適に使用することができる。
【0111】
以下に、本発明の例示的な実施形態をまとめて示す。
[1]ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、及びポリアミド酸からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と、
ラクトン構造を有する少なくとも1種の溶媒Aと、
前記溶媒Aと相溶する少なくとも1種のグリコールエステル系溶媒B1と
を含み、
前記溶媒A/前記溶媒B1の質量比率が、90/10~75/25であり、
前記樹脂が、下式(Ia)で表される構造単位と、下式(IIa)で表される構造単位とを有する樹脂(A)、又は下式(IIa)で表される構造単位と、下式(IVa)で表される構造単位とを有する樹脂(B)を含む、樹脂組成物。
【化19】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1種以上の置換基を表し、
Xは、単結合、又は以下から選択される2価の有機基であり、
【化20】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、及びフェニル基からなる群から選択される1種以上の置換基である。)
【化21】
(式中、R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を表し、R11及びR12は、それぞれ独立して、2価の炭化水素基を表し、mは1以上の整数である。)
【化22】
(式中、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表す。)
【0112】
[2]ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、及びポリアミド酸からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と、
ラクトン構造を有する少なくとも1種の溶媒Aと、
前記溶媒Aと相溶する少なくとも1種の環状ケトン系溶媒B2と
を含み、
前記溶媒A/前記溶媒B2の質量比率が、70/30~30/70であり、
前記樹脂が、下式(Ia)で表される構造単位と、下式(IIa)で表される構造単位とを有する樹脂(A)、又は下式(IIa)で表される構造単位と、下式(IVa)で表される構造単位とを有する樹脂(B)を含む、樹脂組成物。
【化23】
(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1種以上の置換基を表し、
Xは、単結合、又は以下から選択される2価の有機基であり、
【化24】
式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、及びフェニル基からなる群から選択される1種以上の置換基である。)
【化25】
(式中、R~R10は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を表し、R11及びR12は、それぞれ独立して、2価の炭化水素基を表し、mは1以上の整数である。)
【化26】
(式中、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を表す。)
【0113】
[3]前記溶媒Aの沸点が100~250℃である、前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0114】
[4]前記溶媒B1又は溶媒B2の沸点が100~250℃である、前記[1]~[3]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0115】
[5]溶媒Aがγ-ブチロラクトンを含み、溶媒B1がエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含む、前記[1]に記載の樹脂組成物。
【0116】
[6]溶媒Aがγ-ブチロラクトンを含み、溶媒B2がシクロペンタノン又はシクロヘキサノンを含む、前記[2]に記載の樹脂組成物。
【0117】
[7]前記樹脂(A)及び前記樹脂(B)は、それぞれ下式(1)に示される構造単位をさらに有するポリアミドイミドを含む、前記[1]~[6]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化27】
(式中、Rは、ジアミン化合物からアミノ基を除いた残基、又はジイソシアネート化合物からイソシアネート基を除いた残基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【0118】
[8]前記樹脂(B)は、下式(Va)、(Vb)、及び(Vc)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位をさらに含む樹脂である、前記[1]~[7]のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化28】
(式中、Sは、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基を表し、aは0~4の整数を表し、bは0~3の整数を表し、cは0~4の整数を表す。)
【0119】
[9]前記[1]~[8]のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて形成した塗膜を備えた半導体装置。
【0120】
[10]前記[1]~[8]のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて塗膜を形成することを含む、半導体装置の製造方法。
【0121】
[11]前記塗膜の形成は、封止工程の前に行われる、前記[10]に記載の半導体装置の製造方法。
【0122】
[12]前記塗膜が、プライマー層又は絶縁層である、前記[11]又は[12]に記載の半導体装置の製造方法。
【実施例
【0123】
次に、様々な実施例について説明するが、本発明の好ましい実施形態はこれらの実施例に限定されるものではなく、発明の主旨に基づいたこれら以外の多くの実施態様を含むことは言うまでもない。
1.ポリアミドイミドの合成
(合成例1)
温度計、撹拌機、窒素導入管、油水分離機付き冷却管を取り付けた1リットルの4つ口フラスコに、窒素気流下、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを45.4g、1,3-ビス(3-アミノプロピル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを3.1g入れ、更にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと記載する)を310.1g加えて溶解し、溶液を得た。
次に、上記溶液に、20℃を超えない様に冷却しながら、無水トリメリット酸クロライド(以下、TACと記載する)を26.1g加えた。室温で2時間撹拌した後、トリエチルアミン(以下、TEAと記載する)を15.0g加えて、室温で少なくとも15時間反応させて、ポリアミック酸溶液を得た。
得られたポリアミック酸溶液について、更に180℃で6時間行い、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。このポリアミドイミド樹脂溶液を水に注ぎ、得られた沈殿物を分離、粉砕、及び加熱乾燥することによってして、粉末のポリアミドイミド(A)を得た。
得られたポリアミドイミド(A)の重量平均分子量(Mw)について、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと記載する)を使用して、標準ポリスチレン換算で測定したところ、Mwは98,000であった。また、ガラス転移温度(Tg)は220℃であった。
【0124】
(合成例2)
温度計、撹拌機、窒素導入管、油水分離機付き冷却管を取り付けた1リットルの4つ口フラスコに、窒素気流下、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンを15.7g、4,4’-メチレンビス[2,6-ビス(1-メチルエチル)ベンゼンアミン]を16.5g、及び1,3-ビス(3-アミノプロピル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを2.5g入れ、更にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと記載する)を298g加えて溶解し、溶液を得た。
次に、上記溶液に、20℃を超えない様に冷却しながら、無水トリメリット酸クロライド(以下、TACと記載する)を21.1g加えた。室温で2時間撹拌した後、トリエチルアミン(以下、TEAと記載する)を12.1g加えて、室温で少なくとも15時間反応させて、ポリアミック酸溶液を得た。
得られたポリアミック酸溶液について、更に180℃で6時間行い、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。このポリアミドイミド樹脂溶液を水に注ぎ、得られた沈殿物を分離、粉砕、及び加熱乾燥することによってして、粉末のポリアミドイミド(B)を得た。
得られたポリアミドイミド(B)の重量平均分子量(Mw)について、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと記載する)を使用して、標準ポリスチレン換算で測定したところ、Mwは67,000であった。また、ガラス転移温度(Tg)は330℃であった。
【0125】
なお、合成例1及び2で得たポリアミドイミドのGPCの測定条件は、以下のとおりである。
送液ポンプ:LC-20AD
UV-Vis検出器:SPD-20A
流速:1mL/分
カラム温度:40℃
分子量標準物質:標準ポリスチレン
溶離液:NMP
【0126】
また、合成例1及び2で得たポリアミドイミドのガラス転移温度(Tg)の測定方法は、以下のとおりである。
合成例1及び合成例2で得たポリアミドイミドを、それぞれGBL/BuCA=8/2の混合溶媒に溶解し、ワニスを調製した。調製したワニスを、バーコータを用いて基板上に塗布及び加熱乾燥させることによって、厚み10μmの乾燥膜を得た。上記乾燥膜を形成するための加熱乾燥は、100℃で10分加熱した後、200℃で1時間乾燥する条件下で実施した。
上記のようにして得た乾燥膜を測定用サンプルとして用い、以下の測定を行った。
株式会社UBM製の動的粘弾性測定装置(Rheogel-E4000)に測定用サンプルを設置し、ポリアミドイミド樹脂のガラス転移温度の測定を行った。測定は、チャック間距離20mm、昇温速度3℃/分の条件で実施し、tanδのピーク位置からガラス転移温度(Tg)を得た。
【0127】
2.ポリアミドイミド樹脂組成物の調製
(実施例1)
直径100mmのアンカー翼を備えた0.5リットルの4つ口フラスコに、窒素気流下、合成例1で得たポリアミドイミド樹脂粉末(A)11.8g、溶媒A(GBL)78.3g、溶媒B(BuCA)8.7g、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製の製品名「KBM-403(3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン))1.2gを加えて、100rpmで12時間撹拌し、黄色の溶液を得た。
得られた黄色の溶液を、ろ過器KST-47(アドバンテック株式会社製)に充填し、0.3MPaの圧力で加圧ろ過することによって、樹脂組成物(1)(固形分12.4質量%)を得た。
【0128】
(実施例2~8)
実施例1に記載の樹脂組成物の調製において、樹脂、溶媒A、溶媒B、及びシランカップリング剤を用いて表1に示す配合にそれぞれ変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、樹脂組成物(2)~(8)を調製した。得られた樹脂組成物(2)~(8)の各種特性を表1に示す。
【0129】
(比較例1)
実施例1に記載の樹脂組成物の調製において、溶媒Aを使用せず、表1に配合に変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、樹脂組成物(C1)を調製した。得られた樹脂組成物(C1)の各種特性を表1に示す。
【0130】
(比較例2)
実施例1に記載の樹脂組成物の調製において、溶媒Bを使用せず、表1に配合に変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、樹脂組成物(C2)を調製した。得られた樹脂組成物(C2)の各種特性を表1に示す。
【0131】
(比較例3)
比較例1に記載の樹脂組成物の調製において、CPNにかえてBuCAを使用したことを除き、実施例1と同様にして、樹脂組成物(C2)を調製した。BuCAに対して樹脂は不溶であった。
【0132】
(参考例)
実施例1に記載の樹脂組成物の調製において、溶媒Aの代わりにNMPを使用し、表1に配合に変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物の各種特性を表1に示す。
【0133】
3.各種評価結果
樹脂組成物の調製時に使用した溶媒A及び溶媒Bについて、以下に記載する方法にしたがって各種特性を評価した。
【0134】
<溶媒Aと溶媒Bとの相溶性>
先ず、無色透明なガラス容器中に、10mlの溶媒Aに対して10mlの溶媒Bを混入する。次いで、これらを25℃で撹拌して(分散させて)得た溶液を10分間にわたって静置する。その後、ガラス容器の横側から溶液の界面を観察する。溶液中に界面が観察された場合は相溶しない」と判定する。一方、溶液中に界面が観察されない場合は「相溶する」と判定する。各実施例で使用した溶媒について、判定した結果を表1に示す。
【0135】
<溶媒Bにおける水分含有量>
半径2cmの円筒状容器に30gの乾燥した溶媒Bを入れ、30℃、60%RHの環境下で3時間保管した後の溶媒Bにおける水分含有量を測定した。測定は、日東精工アナリテック株式会社製の水分計CA-21を使用して、室温下で実施した。結果を表1に示す。
【0136】
<樹脂組成物の粘度>
東機産業株式会社製の粘度計(RE型)を用い、測定温度を25℃±0.5℃に設定し、次いで粘度計に1mL~1.5mLの樹脂組成物を入れ、測定開始から10分後の粘度を測定した。
【0137】
実施例及び比較例で調製した樹脂組成物について、以下に記載する方法にしたがって各種特性を評価した。
【0138】
<白化(樹脂沈殿)の評価>
ガラス板上に樹脂組成物20mgを塗布した。その後、未乾燥の塗膜を有するガラス板を、30℃、50%RHの恒温槽内に設置された格子上に置き、風が直接当たらないように上部を覆った。この状態で5分間静置した後の塗膜の外観を目視により評価した。評価結果を表1に示す。
(評価基準)
A:5分後の外観に変化はない。
B:白い影が見られたが、透明性を保っている。
C:白色沈殿が生じ、不透明になった。
【0139】
<表面粗さ>
実施例および比較例で得た樹脂組成物について、スプレー塗布工程後の表面粗さを測定した。具体的には、まず、シリコンミラーウエハ上に株式会社サンエイテック製スプレー塗布装置を用いて、実施例及び比較例に記載の樹脂組成物を等間隔に線塗布しウエハ全体に塗布した。
スプレー塗布条件は以下のとおりである。
・ノズル型番:SV-91
・樹脂組成物供給圧力:0.1MPa
・霧化圧力:0.35MPa
・ノズル移動スピード:300mm/s
・線塗布間隔10mm
・吐出量:1.2g/5s
【0140】
その後、樹脂組成物を塗布したシリコンミラーウエハを、80℃のホットプレート上に乗せ、30分乾燥し、株式会社東京精密製の表面粗さ計を用いて、平均表面粗さRaを測定した。表面粗さの測定条件は以下のとおりである。
・装置:サーフコム NEX100
・測定範囲:10mm
・測定速度1.5mm/s
上記測定で得た値から、以下の評価基準に従い、表面粗さ(凹凸)を評価した。評価結果を表1に示す。
(評価基準)
良好:Raが0.5μm未満である。
不良:Raが0.5μm以上である。
【表1】
【0141】
表1から明らかなように、特定の溶媒Aと溶媒Bとの組合せの要件を満たす本発明の実施形態、すなわち各実施例で得られたポリアミドイミド樹脂組成物は、樹脂沈殿が抑制され、表面粗さが小さい優れた塗膜特性を提供できる。一方、上記特定の溶媒Aと溶媒Bとの組合せの要件を満たさない比較例で得られたポリアミドイミド樹脂組成物は、樹脂沈殿が生じるか(比較例2)、そもそも樹脂が溶媒に溶解しない結果となった(比較例3)。また、樹脂沈殿が抑制される場合でも、表面粗さが大きく塗膜特性に劣る結果となった(比較例1)。これは、CPNは樹脂の溶解性に優れるが、CPNのみでは揮発性が高すぎて、スプレー塗布後に急激に塗膜が乾燥したことが原因と考えられる。
以上のことから、NMPの代替溶媒として特定の溶媒を併用した樹脂組成物によれば、参考例に示したようにNMPを使用した場合と少なくとも同程度の特性を実現可能な樹脂組成物を提供できることが分かる。