(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】抵抗体ペースト、焼成体及び電気製品
(51)【国際特許分類】
H01C 7/00 20060101AFI20250527BHJP
【FI】
H01C7/00 322
(21)【出願番号】P 2021570050
(86)(22)【出願日】2021-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2021000083
(87)【国際公開番号】W WO2021141021
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2020001563
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】吉井 喜昭
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-244119(JP,A)
【文献】特開昭57-211202(JP,A)
【文献】特開昭55-041795(JP,A)
【文献】特開2004-156929(JP,A)
【文献】特開2013-161770(JP,A)
【文献】特表2004-533091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/00
H01B 1/20- 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)銀及びスズを含み、ロジウム及びパラジウムを実質的に含まない金属粉と、
(B)ロジウム成分と、
(C)ガラスフリットと、を含み、
(A)金属粉の銀及びスズの合計重量を100重量%としたときに、金属粉中の銀の重量割合が75重量%以上であり、
(A)金属粉100重量部に対する(B)ロジウム成分中のロジウム含有量が0.1~10重量部である、抵抗体ペースト
であって、
(B)ロジウム成分が、ロジウムレジネートであり、
抵抗体ペーストが(A)金属粉100重量部に対して0~5重量部の(D)パラジウムを含み、
(A)金属粉100重量部に対する(C)ガラスフリットの含有量が0.1~30重量部であり、
500~900℃の焼成温度で抵抗体ペーストを焼成したときに、抵抗体ペースト中の焼失しない成分が、(A)金属粉、(B)ロジウム成分中のロジウム及び(C)ガラスフリットからなり、又は(A)金属粉、(B)ロジウム成分中のロジウム、(C)ガラスフリット及び(D)パラジウムからなる、抵抗体ペースト。
【請求項2】
(A)金属粉が、銀及びスズの合金粉である、請求項1に記載の抵抗体ペースト。
【請求項3】
(D)パラジウムを更に含む、請求項1又は2に記載の抵抗体ペースト。
【請求項4】
(C)ガラスフリットは、軟化点が700℃~850℃である、請求項1~
3の何れか1項に記載の抵抗体ペースト。
【請求項5】
抵抗体ペーストが、発熱体用の抵抗体ペーストである、請求項1~
4の何れか1項に記載の抵抗体ペースト。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか1項に記載の抵抗体ペーストを焼成した焼成体。
【請求項7】
請求項
6に記載の焼成体を使用した電気製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗発熱体などの抵抗体を形成する際に使用するための抵抗体ペーストに関する。また、本発明は、抵抗体ペーストを焼成した焼成体、及びその焼成体を含む電気製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックヒータなどに用いられる抵抗発熱体(抵抗体)を形成するための材料として、抵抗体ペーストが用いられている。抵抗体ペーストに含まれる金属として、例えば、酸化ルテニウム及びその化合物、銀及びパラジウムが用いられている。
【0003】
セラミックヒータとして、例えば、特許文献1には、セラミックで構成された基板と、前記基板上に形成された導電パターンと、前記導電パターンと電気的に接続されるように、前記基板上に形成された抵抗発熱体と、少なくとも前記抵抗発熱体を覆うように形成されたオーバーコート層と、を備えるセラミックヒータが記載されている。また、特許文献1には、前記抵抗発熱体は、銀およびパラジウムで構成された合金と、グラファイトと、を含んでおり、前記合金と前記グラファイトの総和に対するグラファイトの含有率が16~47%であることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、サーマルプリントヘッドのヒータ又はプリンタのトナー定着用のヒータ等が記載されている。特許文献2には、抵抗体ペーストを用いて、セラミック基板にヒータ回路を形成することによって製造されたセラミック基板ヒータが記載されている。さらに特許文献2には、セラミック基板ヒータ用の抵抗体ペーストとして、(A)導電性粉末としての(A-1)銀粉および(A-2)パラジウム粉と、(B)ガラスフリットと、(C)無機金属酸化物粉末と、を含有する抵抗体ペーストが記載されている。また、特許文献2には、抵抗体ペーストの(B)ガラスフリットの軟化点が750℃以上であり、かつ、その粒径が1~3μmの範囲内であること、(C)無機金属酸化物粉末が、アルミナ、ジルコニア、チタニア、およびイットリアからなる群から選択される少なくとも1種の無機金属酸化物の粉末であって、その粒径が0.1~1μmの範囲内であること、及び焼成後の抵抗体の抵抗値変動率が10%以下であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-200945号公報
【文献】特開2013-161770号公報
【発明の開示】
【0006】
抵抗体ペーストに含まれる金属粉の材料として、酸化ルテニウム及びその化合物、銀及びパラジウムが使用されている。銀及びパラジウムにガラスフリット、種々の添加剤を加えることにより、抵抗体ペーストを用いて形成された抵抗体の温度による抵抗値変化の制御、及びシート抵抗の制御を行うことができる。なお、抵抗体の温度による抵抗値変化を示す係数として、抵抗温度係数(TCR、Temperature Coefficient of Resistance)が用いられている。
【0007】
抵抗発熱体として用いられる抵抗体は、通電により加熱され、室温と動作温度との間の温度変化が繰り返されることになる。抵抗発熱体において、信頼性の高い動作を安定して得るためには、抵抗体の抵抗温度係数(TCR)が小さいことが必要である。
【0008】
抵抗体の抵抗温度係数(TCR)を小さくするために、抵抗体ペーストに含まれる金属粉の材料として、パラジウム(Pd)が添加されている。しかしながら、パラジウムの価格は高いため、抵抗体ペースト及びそれを用いて製造される抵抗体のコストが高くなるという問題がある。そのため、抵抗体ペーストのパラジウム含有量を低減することが求められている。
【0009】
そこで、本発明は、パラジウム含有量を低減し、かつ温度による抵抗値変化を抑制した抵抗体を製造するための抵抗体ペーストを提供することを目的とする。
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0011】
(構成1)
本発明の構成1は、(A)銀及びスズを含み、ロジウム及びパラジウムを実質的に含まない金属粉と、
(B)ロジウム成分と、
(C)ガラスフリットと、を含み、
(A)金属粉の銀及びスズの合計重量を100重量%としたときに、金属粉中の銀の重量割合が75重量%以上であり、
(A)金属粉100重量部に対する(B)ロジウム成分中のロジウム含有量が0.1~10重量部である、抵抗体ペーストである。
【0012】
(構成2)
本発明の構成2は、(A)金属粉が、銀及びスズの合金粉である、構成1の抵抗体ペーストである。
【0013】
(構成3)
本発明の構成3は、(D)パラジウムを更に含む、構成1又は2の抵抗体ペーストである。
【0014】
(構成4)
本発明の構成4は、(B)ロジウム成分が、ロジウムレジネートである、構成1~3の何れかの抵抗体ペーストである。
【0015】
(構成5)
本発明の構成5は、(C)ガラスフリットは、軟化点が700℃~850℃である、構成1~4の何れかの抵抗体ペーストである。
【0016】
(構成6)
本発明の構成6は、抵抗体ペーストが、発熱体用の抵抗体ペーストである、構成1~5の何れかの抵抗体ペーストである。
【0017】
(構成7)
本発明の構成7は、構成1~6の何れかの抵抗体ペーストを焼成した焼成体である。
【0018】
(構成8)
本発明の構成8は、構成7の焼成体を使用した電気製品である。
【0019】
本発明によれば、パラジウム含有量を低減し、かつ温度による抵抗値変化を抑制した抵抗体を製造するための抵抗体ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】抵抗体を有する発熱体の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0022】
本実施形態は、抵抗発熱体などの抵抗体を形成する際に使用するための抵抗体ペーストである。抵抗体の温度による抵抗値変化を示す係数として、抵抗温度係数(TCR、Temperature Coefficient of Resistance)が用いられている。抵抗温度係数(TCR)は、下記の式1により表すことができる。
TCR(ppm/℃)=[(Rb-Ra)/Ra]/(Tb-Ta)×106 (式1)
【0023】
式1において、Taは基準温度(℃)であり、Raは基準温度における抵抗値であり、Tbは所定の温度(比較対象の温度(℃))であり、Rbは所定の温度(比較対象の温度)における抵抗値である。なお、本明細書では、Ta(基準温度)を25℃、Tb(比較対象の温度)を125℃として、抵抗温度係数(TCR)を評価する。室温は25℃程度であり、発熱時(動作時)の抵抗体の温度は125℃程度なので、抵抗体の動作温度の範囲における抵抗温度係数(TCR)を評価することができるためである。Ta(基準温度)を25℃、Tb(比較対象の温度)を125℃としたときの抵抗体の抵抗温度係数(TCR)は、1000ppm以下であることが必要であり、800ppm以下であることが好ましい。TCRが、1000ppmを超える場合には、信頼性のある抵抗体として使用できない場合がある。
【0024】
次に、本実施形態の抵抗体ペーストについて説明する。
【0025】
本実施形態の抵抗体ペーストは、(A)金属粉と、(B)ロジウム成分と、(C)ガラスフリットとを含む。以下、各成分について説明する。
【0026】
(A)金属粉
本実施形態の抵抗体ペーストは、(A)金属粉を含む。(A)金属粉は、銀(Ag)及びスズ(Sn)を含み、ロジウム(Rh)及びパラジウム(Pd)を実質的に含まない。本実施形態の抵抗体ペーストが、所定の(A)金属粉を含むことにより、パラジウム含有量を低減し、かつ温度による抵抗値変化を抑制した抵抗体を製造するための抵抗体ペーストを得ることができる。また、銀とスズの配合比を制御することにより、得られた抵抗体の抵抗値(例えばシート抵抗)を制御できる。
【0027】
(A)金属粉は、銀及びスズを含む。従来の抵抗体ペーストの金属粉には、通常、銀と共にパラジウムが含有されている。スズの価格は、貴金属であるパラジウムと比較して大幅に低価格である。したがって、本実施形態の(A)金属粉を用いることにより、大幅に低コストの抵抗体ペーストを得ることができる。
【0028】
なお、本実施形態の抵抗体ペーストでは、(A)金属粉がロジウム及びパラジウムを実質的に含まない。本明細書において、「実質的に含まない」とは、(A)金属粉として、意図的にロジウム及びパラジウムを添加しないことを意味し、不純物として不可避的に混入するロジウム及びパラジウムが含有することまでも排除するものではない。なお、ロジウムについては、後述する(B)ロジウム成分として、別途、抵抗体ペーストに配合する。
【0029】
(A)金属粉は、銀粉及びスズ粉を含む混合粉であることができる。混合粉は、本実施形態の効果を損なわない範囲で、銀及びスズ以外の他の金属粉を含むことができる。しかしながら、低い抵抗温度係数(TCR)を信頼性良く達成するために、金属粉は、銀及びスズの金属粉のみからなることがより好ましい。
【0030】
また、(A)金属粉は、銀及びスズを含む合金の合金粉であることが好ましい。(A)金属粉が、銀及びスズを含む合金粉であることにより、銀粉及びスズ粉を含む混合粉の場合と比較して、より低い抵抗温度係数(TCR)を達成することができる。合金粉は、本実施形態の効果を損なわない範囲で、銀及びスズ以外の他の金属を含むこともできる。しかしながら、さらに低い抵抗温度係数(TCR)を達成するために、合金粉は、実質的に銀及びスズのみからなる合金粉であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態の抵抗体ペーストは、(A)金属粉の銀及びスズの合計重量を100重量%としたときに、金属粉中の銀の重量割合が75重量%以上であり、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。銀の重量割合が、所定の割合以上であることにより、低抵抗の抵抗体ペーストを得ることができる。
【0032】
(A)金属粉のスズの重量割合は、10重量%未満であることが好ましい。その場合、抵抗体ペーストを焼成して得られる抵抗体の抵抗値を低くすることができ、また、抵抗温度係数(TCR)をより低くすることができる。(A)金属粉のスズの重量割合が、10重量%以上であると、抵抗体の抵抗値を低くすることができなくなる。また、(A)金属粉のスズの重量割合が、2重量%未満であると、抵抗温度係数(TCR)が高くなってしまう。したがって、(A)金属粉のスズの重量割合は、2重量%以上であることが好ましく、7重量%以上であることがより好ましい。
【0033】
(A)金属粉に含まれることができる銀及びスズ以外の元素としては、銅、ニッケル、モリブデン、炭素、ケイ素、タングステン、及び鉄などを挙げることができる。銀及びスズ以外の元素は、実施形態の効果を妨げない範囲で、(A)金属粉に添加することができる。
【0034】
スクリーン印刷等の印刷を良好に行う観点から、(A)金属粉の平均粒径は、0.1~5μmであることが好ましく、1~3μmであることがより好ましい。ここで、金属粉の平均粒径は、レーザー回折散乱法による平均粒径(D50)をいう。金属粉の形状は、特に限定されず、球状、リン片状等が挙げられ、好ましくは球状である。なお、本明細書において、他の成分の平均粒径も金属粉と同様に、レーザー回折散乱法による平均粒径(D50)である。
【0035】
(B)ロジウム(Rh)成分
本実施形態の抵抗体ペーストは、(B)ロジウム(Rh)成分を含む。抵抗体ペーストが(B)ロジウム成分を含むことにより、抵抗体ペーストを焼成して得られる抵抗体の抵抗温度係数(TCR)をより低くすることができる。
【0036】
本実施形態の抵抗体ペーストは、(A)金属粉100重量部に対する(B)ロジウム成分中のロジウム含有量が0.10~10重量部であり、0.10~6重量部であることが好ましい。抵抗体ペーストの(B)ロジウム成分中のロジウム含有量が少ない場合には、抵抗体ペーストを焼成して得られる抵抗体の抵抗温度係数(TCR)を低くすることが困難になる。また、抵抗体ペーストの(B)ロジウム成分中のロジウム含有量が多すぎる場合には、抵抗体ペーストの印刷性が悪化するとともに、抵抗体ペーストのコストが上昇するという問題も生じる。
【0037】
本実施形態の抵抗体ペーストは、(B)ロジウム成分が、ロジウムレジネートであることが好ましい。(B)ロジウム成分が、ロジウムレジネートであることにより、ロジウム金属粉をそのまま添加するよりも、(B)ロジウム成分を抵抗体ペーストに均一に配合することができ、結果としてロジウム金属粉を添加する時よりもロジウム成分の添加量を減らし、同等の効果を得ることができる。
【0038】
本実施形態の抵抗体ペーストは、(C)ガラスフリットを含む。
【0039】
抵抗体ペーストが(C)ガラスフリットを含むことにより、抵抗体ペーストを焼成後の抵抗体のセラミック基板への接着性が付与され、抵抗体焼成時のクラック発生を防止することができる。また、ガラスフリットの含有量を調節することにより、焼成して得られる焼成体の電気抵抗(例えばシート抵抗)の値を制御することができ、抵抗温度係数(TCR)を低くすることができる。
【0040】
抵抗体ペーストの(C)ガラスフリットの含有量は、(A)金属粉100重量部に対して0.1~30重量部であることが好ましく、0.5~15重量部であることがより好ましい。ガラスフリットの含有量が0.1重量部より少ない場合には、抵抗体のセラミック基板への密着強度が低下する。また、ガラスフリットの含有量が30重量部より多い場合には、抵抗体の抵抗値が、許容される範囲より高くなる。
【0041】
本実施形態の抵抗体ペーストは、(C)ガラスフリットは、軟化点が700℃~850℃であることが好ましい。軟化点が比較的高い高耐熱ガラスのガラスフリットを使用することにより、抵抗体デバイスを作製する際の繰り返し焼成による抵抗値変化を少なくすることができ、かつ抵抗温度係数(TCR)も低くすることができる。なお、軟化点は、示差熱分析装置によって測定した値である。加えて、Ta(基準温度)を25℃、Tb(比較対象の温度)を125℃としたときの抵抗体の抵抗温度係数(TCR)は、1000ppm以下であることが必要であり、800ppm以下であることが好ましい。TCRが、1000ppmを超える場合には、信頼性のある抵抗体として使用できない場合がある。
【0042】
スクリーン印刷等の印刷、及び基板との接着性などを良好にするために、(C)ガラスフリットの平均粒径は、0.1~10μmであることが好ましく、1~5μmであることがより好ましい。
【0043】
本実施形態の抵抗体ペーストは、(D)パラジウム(Pd)を更に含むことが好ましい。本実施形態の抵抗体ペーストが、(D)パラジウムを更に含むことにより、焼成して得られる抵抗体の電気抵抗を、より低くすることができ、抵抗温度係数(TCR)をより低くすることができる。
【0044】
抵抗体ペーストの(D)パラジウムの含有量は、(A)金属粉100重量部に対して0.1~5重量部であることが好ましく、0.1~3重量部であることがより好ましい。本実施形態の抵抗体ペーストでは、パラジウムは必須成分ではないが、パラジウムの含有量が0.1重量部より少ない場合には、抵抗温度係数(TCR)を小さくする効果が少ない。また、パラジウムの含有量が5重量部より多い場合には、抵抗体ペーストのコストが高くなる。
【0045】
スクリーン印刷等の印刷、及び抵抗体の電気抵抗の低下などを良好に行うために、(D)パラジウム粒子の平均粒径は、0.01~5μmであることが好ましく、0.05~3μmであることがより好ましい。
【0046】
本実施形態の抵抗体ペーストは、セルロース樹脂及びセルロース樹脂などの(E)熱可塑性樹脂を含むことができる。
【0047】
(E)熱可塑性樹脂により、抵抗体ペーストの印刷性、チキソ性、脱バインダ温度の低温化が付与される。セルロース樹脂としてはエチルセルロース、及びニトロセルロースが挙げられる。アクリル樹脂としてはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、プロピルメタアクリレート、及びブチルメタアクリレートの重合体又はこれらの共重合体が挙げられる。(E)熱可塑性樹脂は、単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本実施形態の抵抗体ペーストは、(F)溶剤を含むことができる。
【0049】
抵抗体ペーストの溶剤としては、テルペン系、エステルアルコール、芳香族炭化水素、エステル系溶剤が用いられる。テルペン系溶剤としてはリモネン、パラメンタン、ピナン、ターピネオール、及びジヒドロターピネオール等が例示される。エステルアルコールとしては2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートが例示される。芳香族炭化水素としてはキシレン、イソプロピルベンゼン、及びトルエンが例示される。エステル系溶剤としては酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、及び酢酸ジエチレングリコールモノブチルエーテルが例示される。これらの溶剤は、単独で用いてよく、複数を用いてもよい。
【0050】
本実施形態の抵抗体ペーストは、本実施形態の効果を損なわない範囲で、粘度調整剤、消泡剤、難燃剤、及び酸化防止剤等を任意成分として含有することができる。
【0051】
本実施形態の抵抗体ペーストは、上述の材料、すなわち、(A)金属粉、(B)ロジウム成分、及び(C)ガラスフリットと、必要に応じて配合される(D)パラジウム、(E)熱可塑性樹脂及び/又は(F)溶剤等の任意材料とを、例えば、ライカイ機、ポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー等を用いて混合することで製造することができる。
【0052】
本実施形態の抵抗体ペーストは、抵抗体ペーストが、発熱体用の抵抗体ペーストであることが好ましい。
【0053】
図1に、発熱体10の一例を示す模式図を示す。
図1に示す発熱体10では、基板1の表面に、抵抗体2が形成されている。抵抗体2は一組の電極3に電気的に接続されており、1組のリード線4により外部電源(図示せず)からの電流を、抵抗体2に流すことができる。抵抗体2は、印加された電流によって発熱することにより、外部に熱を放出することができる。本実施形態の抵抗体ペーストは、発熱体10の抵抗体2を形成するために、好ましく用いることができる。
【0054】
図1に示す発熱体10の抵抗体2は、本実施形態の抵抗体ペーストを焼成した焼成体である。すなわち、本実施形態の抵抗体ペーストを、スクリーン印刷等により、基板1の表面に所定のパターンとなるように塗布する。抵抗体ペーストのパターンを大気雰囲気中で焼成することにより、所定のパターン形状の抵抗体2(焼成体)を得ることができる。本実施形態の抵抗体ペーストを用いるならば、大気を焼成雰囲気とした焼成により、低抵抗であり、低い抵抗温度係数(TCR)の抵抗体2(焼成体)を得ることができる。
【0055】
本実施形態の抵抗体ペーストの塗布方法は任意である。塗布方法として、例えば、ディスペンス、ジェットディスペンス、孔版印刷、スクリーン印刷、ピン転写、及びスタンピングなどの公知の方法を挙げることができる。所定のパターン形状を、所望の膜厚で再現性良く形成することができる点から、抵抗体ペーストの塗布方法としては、スクリーン印刷を用いることが好ましい。
【0056】
塗布した抵抗体ペーストを焼成することにより、
図1の抵抗体2のような焼成体を得ることができる。本実施形態の抵抗体ペーストの焼成は、大気雰囲気中で行うことができる。焼成温度は、500~900℃であることが好ましく、600~900℃であることがより好ましく、700~900℃であることがさらに好ましく、800~900℃であることが特に好ましい。このような焼成温度で焼成することにより、抵抗体ペーストに含まれる金属粉同士が焼結するとともに、抵抗体ペーストに含まれる有機バインダ等の成分を焼失させることができる。
【0057】
焼成体(抵抗体2)のシート抵抗の値は、50~500mΩ/□(mΩ/square)であることが必要である。抵抗体の25℃(室温)でのシート抵抗が、50mΩ/□以下、又は500mΩ/□以上である場合には、抵抗体用として使用できない場合がある。
【0058】
焼成体の膜厚は、5~30μmであることが好ましく、10~20μmであることがより好ましい。焼成体のシート抵抗の値が上述の範囲になるように、焼成体の膜厚を調整することができる。焼成体の膜厚は、例えばスクリーン印刷法を用いる場合には、スクリーンの選択、及び印刷条件の調整により、制御することができる。
【0059】
本実施形態は、上述の抵抗体ペーストを焼成した焼成体を使用した電気製品である。電気製品としては、サーマルプリントヘッド、プリンタ、及びホットプレートなどが挙げられる。
【0060】
本実施形態の抵抗体ペーストを焼成した焼成体は、サーマルプリントヘッドのヒータ、プリンタのトナー定着用ヒータ、及びホットプレートのヒータなどに用いられるセラミック基板ヒータ(発熱体)のための抵抗体として用いることができる。本実施形態の抵抗体ペーストを、セラミック基板の表面に所定のパターンとなるように印刷して焼成することにより、所定のヒータ回路を有するセラミック基板ヒータを製造することができる。
【0061】
本実施形態の抵抗体ペーストは、パラジウム含有量を低減することができるので、低コストである。また、本実施形態の抵抗体ペーストを焼成した抵抗体(焼成体)は、温度による抵抗値変化を抑制することができる。したがって、本実施形態の抵抗体ペーストを用いることにより、低コストかつ温度による抵抗値変化を抑制することができる抵抗体を得ることができる。そのため、本実施形態の抵抗体ペーストを用いた抵抗体を使用した電気製品は、比較的低コストにすることができ、かつ抵抗体を発熱体として使用した場合の温度変化を伴う作動の際の信頼性を高くすることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
表1及び表2に示す配合で各成分を配合して、実施例及び比較例の抵抗体ペーストを調整した。以下、(A)金属粉A1~A6、(B)ロジウム成分、(C)ガラスフリットC1及びC2、(D)パラジウム成分、(E)熱可塑性樹脂E1及びE2、(F)溶剤F1及びF2として用いた材料について説明する。なお、下記の説明の平均粒径は、レーザー回折散乱法による平均粒径(D50)である。
【0064】
(A)金属粉
(A)金属粉として、以下の金属粉A1~A6を用いた。下記のAg/Snの数値は、重量割合である。
金属粉A1(合金粉):Ag/Sn=93/7、球状、平均粒径2.5μm
金属粉A2(合金粉):Ag/Sn=98/2、球状、平均粒径2.5μm
金属粉A3(合金粉):Ag/Sn=95/5、球状、平均粒径2.5μm
金属粉A4(合金粉):Ag/Sn=70/30、球状、平均粒径2.5μm
金属粉A5:Ag粉、球状、平均粒径2.5μm
金属粉A6:Sn粉、球状、平均粒径2.5μm
【0065】
(B)ロジウム成分
(B)ロジウム(Rh)成分として、下記のものを用いた。なお、表1には、(A)金属粉を100重量部としたときの、レジネート中のRhの重量割合を示している。
Rhレジネート:Rh含有率10%(大研化学工業株式会社製)
【0066】
(C)ガラスフリット
(C)ガラスフリットとして、下記のガラスフリットC1及びC2を用いた。なお、軟化点は、示差熱分析装置によって測定した値である。また、ガラスフリットの平均粒子径は2μmとした。
ガラスフリットC1:SiO2系、軟化点820℃(奥野製薬工業株式会社製)
ガラスフリットC2:SiO2系、軟化点740℃(奥野製薬工業株式会社製)
【0067】
(D)パラジウム成分
(D)パラジウム(Pd)成分として、平均粒径が0.1μmのパラジウム粒子を用いた。
【0068】
(E)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂として、下記の熱可塑性樹脂E1及びE2を用いた。
熱可塑性樹脂E1:エチルセルロース樹脂(STD-14、ダウ・ケミカル社製)
熱可塑性樹脂E2:エチルセルロース樹脂(STD-200、ダウ・ケミカル社製)
【0069】
(F)溶剤
溶剤として、下記の溶剤F1及びF2を用いた。
溶剤F1:ブチルカルビトール(大伸化学株式会社製)
溶剤F2:テキサノール(イーストマンケミカル株式会社製)
【0070】
上述の所定の調製割合の材料を、プラネタリーミキサーで混合し、さらに三本ロールミルで分散し、ペースト化することによって抵抗体ペーストを調製した。
【0071】
次に、実施例及び比較例の抵抗体ペーストについて、下記の試験を行った。
【0072】
(25℃でのシート抵抗)
25℃(室温)でのシート抵抗(単位:mΩ/□)は、実施例及び比較例の抵抗体ペーストを用いて抵抗体を製造し、抵抗体のシート抵抗を測定することにより行った。
【0073】
まず、実施例及び比較例の抵抗体ペーストを、アルミナ製の基板の表面に、スクリーンプリント法により、長さ71mm、幅1mmの長方形の形状のテストパターンを、膜厚10μmになるように印刷した。
【0074】
上述のように抵抗体ペーストのテストパターンを表面に印刷した基板を、150℃で10分間乾燥した。次に、テストパターン付きの基板を、ベルト炉で、Air(大気)雰囲気中、最高温度850℃で10分間キープ、イン-アウト時間60分の条件で焼成することにより、実施例及び比較例のテストパターンの形状の抵抗体を製造した。
【0075】
次に、試料を温度25℃、相対湿度65%の恒温・恒湿雰囲気下に30分間静置した後、テスターを用いて4端子法にて、実施例及び比較例の抵抗体の室温(Ta=25℃)でのシート抵抗(Ra)(mΩ/□)を測定した。
【0076】
なお、製造した抵抗体の25℃(室温)でのシート抵抗は、50~500mΩ/□の範囲であることが必要である。製造した薄膜の25℃(室温)でのシート抵抗が、50mΩ/□以下、又は500mΩ/□以上である場合には、抵抗体用としての使用が困難であると考えられる。
【0077】
上述のようにして得られた実施例及び比較例のシート抵抗を、表1及び表2の「25℃でのシート抵抗(mΩ/□)」欄に示す。
【0078】
(抵抗温度係数)
抵抗温度係数(Temperature Coefficient of Resistance:TCR)の測定は、以下のようにして行った。
【0079】
上述のようにして、実施例及び比較例の抵抗体の室温(Ta=25℃)でのシート抵抗(Ra)を測定した後に、抵抗体を温度Tb=125℃まで加熱して、温度125℃(Tb)のシート抵抗(Rb)を測定した。温度Ta及びTb、及び測定して得られたシート抵抗Ra及びRbから、抵抗温度係数(TCR)を、下記の式を用いて算出した。
TCR(ppm/℃)=[(Rb-Ra)/Ra]/(Tb-Ta)×106
【0080】
なお、抵抗体の抵抗温度係数(TCR)は、1000ppm以下であることが必要であり、800ppm以下であることが好ましい。TCRが、1000ppmを超える場合には、信頼性のある抵抗体としての使用が困難であると考えられる。
【0081】
上述のようにして得られた実施例及び比較例の抵抗温度係数(TCR)を、表1及び表2の「抵抗温度係数(TCR)(ppm/℃)」欄に示す。
【0082】
(印刷性の評価)
実施例及び比較例の抵抗体ペーストの印刷性の評価は、上述の「25℃でのシート抵抗」での説明と同様のテストパターンを印刷して、コンフォーカル顕微鏡を用いて撮影したテストパターンの画像を評価することにより、行った。
【0083】
すなわち、まず、実施例及び比較例の抵抗体ペーストを、アルミナ製の基板の表面に、スクリーンプリント法により、長さ1mm、幅71mmの長方形の形状のテストパターンを、膜厚10μmになるように印刷した。次に、コンフォーカル顕微鏡を用いてテストパターンを撮影した。印刷性の評価として、撮影して得られた画像により、以下のように判断をした。表1に、印刷性の評価の結果を示す。
○:表面の凹凸なし、滲みなし
△:表面の凹凸ややあり、滲みがややあり
×:表面の凹凸あり、滲みあり
【0084】
(信頼性の評価)
信頼性の測定は、次のようにして行った。まず、上述の「25℃でのシート抵抗」での説明と同様に、実施例及び比較例の抵抗体を製造した。次に、試験前に25℃でのシート抵抗(R0)を測定した。次に、試料を加熱して、600℃で1時間保持し、その後、室温まで冷却した。この加熱、600℃で保持及び冷却を1サイクルとして、10サイクルの熱処理を行った。10サイクルの熱処理後、室温(25℃)でシート抵抗(R1)を測定した。信頼性の評価は、試験前のシート抵抗(R0)に対する試験後のシート抵抗の変化率((R1-R0)/R0)が所定の範囲であるかどうかを判断することにより行った。表1に、信頼性の判断の結果を示す。表1に示す記号は、下記のシート抵抗の変化率の範囲を示す。
○:シート抵抗の変化率が5%以内
△:シート抵抗の変化率が5~10%
×:シート抵抗の変化率が10%以上
【0085】
(評価結果)
表1及び表2に示す結果から、本発明の実施例1~13は、25℃でのシート抵抗、抵抗温度係数、印刷性、及び信頼性のすべての評価項目で、抵抗体としての要求を満たすことが明らかとなった。
【0086】
一方、表2に示す結果から、比較例3の25℃でのシート抵抗は50mΩ以下であり、抵抗体用としての使用が困難である。また、比較例5の25℃でのシート抵抗は、高すぎたため測定が不可能だった。また、比較例1、3及び4の抵抗温度係数(TCR)は、1000ppmを超えており、信頼性のある抵抗体としての使用が困難である。また、比較例2の印刷性の評価で得られたコンフォーカル顕微鏡の画像には、表面の凹凸が観察され、さらに滲みもあることが観察された。したがって、比較例2の抵抗体ペーストを用いた場合には、所望の形状のパターンを印刷することが困難であることは明らかである。
【0087】
【0088】
【符号の説明】
【0089】
1 基板
2 抵抗体
3 電極
4 リード線
10 発熱体