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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】光学積層体およびこれを含む楕円偏光板
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20250527BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20250527BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20250527BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20250527BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
G02B5/30
H10K50/86
H10K59/10
G02F1/13363
G02F1/1335 510
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020149847
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044293
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-06-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】幡中 伸行
(72)【発明者】
【氏名】村野 耕太
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-262098(JP,A)
【文献】特表2008-503763(JP,A)
【文献】特開2007-310128(JP,A)
【文献】特開2007-171815(JP,A)
【文献】特開2006-308954(JP,A)
【文献】特開2006-195363(JP,A)
【文献】特開2005-309382(JP,A)
【文献】国際公開第2019/103143(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/016888(WO,A1)
【文献】特開2020-056988(JP,A)
【文献】特開2005-049698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
H10K 50/10
H05B 33/02
G02F 1/13363
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層と位相差フィルムと偏光子と透明保護フィルムとをこの順に含む光学積層体であって、
前記位相差フィルムが、100g/m/24時間以上の透湿度を有する基材フィルムと、該基材フィルム上に形成された、厚みが0.5μm以上3μm以下であり、かつ、下記式(1)および(2):
Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)
〔式中、Re(λ)は波長λにおける面内位相差値を示す〕
を単層で満たす液晶硬化膜と、を含んでなり、
前記偏光子が、二色性色素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムから構成され、
前記透明保護フィルムが、90%以上の全光線透過率、および、30%以下の380nm透過率を有し、
前記位相差フィルムと前記偏光子と前記透明保護フィルムとがポリビニルアルコールを含む乾燥固化型接着剤から形成される、厚みが5μm以下である接着剤層を介して隣接してなり、前記位相差フィルムは、該位相差フィルムと前記偏光子とを貼合する接着剤層と前記液晶硬化膜側で接する、光学積層体。
【請求項2】
前記基材フィルムは、全光線透過率が90%以上であり、かつ、550nmの光に対する厚み方向の位相差値Rth(550)の絶対値が5nm以下である、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記位相差フィルムは、基材フィルムと液晶硬化膜との間に厚み10nm以上1000nm以下の光配向膜を有する、請求項1または2に記載の光学積層体。
【請求項4】
前記液晶硬化膜は、波長300~400nmの間に少なくとも1つの極大吸収を有する少なくとも1種の化合物を硬化した膜である、請求項1~3のいずれかに記載の光学積層体。
【請求項5】
前記液晶硬化膜は下記式(3):
100nm≦Re(550)≦170nm (3)
〔式中、Re(λ)は波長λにおける面内位相差値を示す〕
を満たす、請求項1~4のいずれかに記載の光学積層体。
【請求項6】
前記透明保護フィルムは100g/m/24時間以上の透湿度を有する、請求項1~5のいずれかに記載の光学積層体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の光学積層体を巻き取ってなる光学積層体ロール。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の光学積層体を含む楕円偏光板。
【請求項9】
請求項8に記載の楕円偏光板を含む、有機EL表示装置。
【請求項10】
請求項8に記載の楕円偏光板を含む、フレキシブル画像表示装置。
【請求項11】
ウインドウとタッチセンサとをさらに含む、請求項10に記載のフレキシブル画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体、前記光学積層体のロール、並びに、前記光学積層体を含む楕円偏光板および有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
楕円偏光板は、偏光板と位相差板とが積層された光学部材であり、例えば、有機EL画像表示装置等の平面状態で画像を表示する装置において、該装置を構成する電極での光反射を防止するために用いられている。この楕円偏光板を構成する位相差板としては、一般にいわゆるλ/4板が用いられる。そのような位相差板として、基材上に重合性液晶化合物を塗布し、硬化させることにより作製される液晶硬化膜を用いた位相差板が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-207765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ディスプレイのフレキシブル化に対する要求があり、薄型化するとともに高い屈曲性を有する楕円偏光板が必要とされている。引用文献1に記載されるような重合性液晶化合物を硬化させて得られる位相差膜は薄型化を実現する観点からは、フレキシブルディスプレイに好適であり、このような液晶硬化膜から形成される位相差板(膜)を偏光板に感圧式粘着剤を介して転写することにより楕円偏光板(膜)を作製することができる。
しかしながら、本発明者等は、感圧式粘着剤を用いて液晶硬化膜から形成される位相差板を転写させると、これにより形成される楕円偏光板を屈曲した際に屈曲点において歪みが発生しやすく、これに起因してスジ状の欠陥や斜め方向からの光反射率(斜め反射率)の上昇が生じ得ることを見出した。
【0005】
本発明は、屈曲した際に歪みを生じ難く、高い屈曲性および斜め反射率において優れる光学積層体、特に、フレキシブルディスプレイに好適な光学積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]位相差フィルムと偏光子と透明保護フィルムとをこの順に含む光学積層体であって、
前記位相差フィルムが、100g/m/24時間以上の透湿度を有する基材フィルムと、該基材フィルム上に形成された、厚みが0.5μm以上3μm以下であり、かつ、下記式(1)および(2):
Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)
〔式中、Re(λ)は波長λにおける面内位相差値を示す〕
を単層で満たす液晶硬化膜と、を含んでなり、
前記偏光子が、二色性色素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムから構成され、
前記透明保護フィルムが、90%以上の全光線透過率、および、30%以下の380nm透過率を有し、
前記位相差フィルムと前記偏光子と前記透明保護フィルムとが接着剤層を介して隣接してなる、光学積層体。
[2]前記基材フィルムは、全光線透過率が90%以上であり、かつ、550nmの光に対する厚み方向の位相差値Rth(550)の絶対値が5nm以下である、前記[1]に記載の光学積層体。
[3]前記位相差フィルムは、基材フィルムと液晶硬化膜との間に厚み10nm以上1000nm以下の光配向膜を有する、前記[1]または[2]に記載の光学積層体。
[4]前記液晶硬化膜は、波長300~400nmの間に少なくとも1つの極大吸収を有する少なくとも1種の化合物を硬化した膜である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の光学積層体。
[5]前記液晶硬化膜は下記式(3):
100nm≦Re(550)≦170nm (3)
〔式中、Re(λ)は波長λにおける面内位相差値を示す〕
を満たす、前記[1]~[4]のいずれかに記載の光学積層体。
[6]前記透明保護フィルムは100g/m/24時間以上の透湿度を有する、前記[1]~[5]のいずれかに記載の光学積層体。
[7]前記接着剤層は乾燥固化型接着剤から形成される層である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の光学積層体。
[8]前記乾燥固化型接着剤はポリビニルアルコールを含む、前記[7]に記載の光学積層体。
[9]位相差フィルムは、位相差フィルムと偏光子とを貼合する接着剤層と前記液晶硬化膜側で接する、前記[1]~[8]のいずれかに記載の光学積層体。
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載の光学積層体を巻き取ってなる光学積層体ロール。
[11]前記[1]~[9]のいずれかに記載の光学積層体を含む楕円偏光板。
[12]前記[11]に記載の楕円偏光板を含む、有機EL表示装置。
[13]前記[11]に記載の楕円偏光板を含む、フレキシブル画像表示装置。
[14]ウインドウとタッチセンサとをさらに含む、前記[13]に記載のフレキシブル画像表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、屈曲した際に歪みを生じ難く、高い屈曲性および斜め反射率において優れる光学積層体、特に、フレキシブルディスプレイに好適な光学積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の光学積層体の層構成の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の光学積層体の層構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0010】
本発明の光学積層体は、位相差フィルムと偏光子と透明保護フィルムとをこの順に含み、位相差フィルムと偏光子と透明保護フィルムとが、それぞれ、接着剤層を介して隣接してなる。
【0011】
(接着剤層)
本発明の光学積層体において、位相差フィルムと偏光子、および、偏光子と透明保護フィルムは、それぞれ接着剤層を介して積層されている。位相差フィルムと偏光子、および、偏光子と透明保護フィルムとを、それぞれ、接着剤層により貼合することにより、得られる光学積層体を繰り返し屈曲した場合に位相差フィルムを構成する液晶硬化膜における変形と光学積層体全体としての変形とが互いに追従しやすくなると考えられ、屈曲点に対する歪みが生じ難く、前記歪みに起因して生じるスジ状の欠陥や斜め反射率の上昇を抑制することができる。
【0012】
位相差フィルムと偏光子、および、偏光子と透明保護フィルムとを接着する接着剤層は、接着剤により形成することができる。かかる接着剤層を形成し得る接着剤としては、例えば、水系接着剤などの乾燥固化型接着剤、および、活性エネルギー線硬化型接着剤などの化学反応型接着剤が挙げられる。位相差フィルムと偏光子、および、偏光子と透明保護フィルムとを接着する接着剤層は、互いに異なる接着剤から形成されていてもよいが、同じ接着剤から形成されることが好ましい。
【0013】
乾燥固化型接着剤としては、例えば、水酸基、カルボキシル基またはアミノ基等のプロトン性官能基とエチレン性不飽和基とを有するモノマーの重合体、若しくはウレタン樹脂を主成分として含有し、さらに、多価アルデヒド、エポキシ化合物、エポキシ樹脂、メラミン化合物、ジルコニア化合物、および亜鉛化合物等の架橋剤または硬化性化合物を含有する組成物等が挙げられる。水酸基、カルボキシル基またはアミノ基等のプロトン性官能基とエチレン性不飽和基とを有するモノマーの重合体としては、エチレン-マレイン酸共重合体、イタコン酸共重合体、アクリル酸共重合体、アクリルアミド共重合体、ポリ酢酸ビニルのケン化物、および、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。
【0014】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、および、アミノ基変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。水系の乾燥固化型接着剤におけるポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、水100質量部に対して、通常、1~10質量部であり、好ましくは1~5質量部である。
【0015】
ウレタン樹脂としては、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂等が挙げられる。ここでいうポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その中に少量のイオン性成分(親水成分)が導入された樹脂である。係るアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系の乾燥固化型接着剤とすることができる。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂を用いる場合は、架橋剤として水溶性のエポキシ化合物を配合することが有効である。
【0016】
エポキシ樹脂としては、ジエチレントリアミンまたはトリエチレンテトラミン等のポリアルキレンポリアミンとアジピン酸等のジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドエポキシ樹脂等が挙げられる。かかるポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、“スミレーズレジン(登録商標)650”および“スミレーズレジン(登録商標)675”(以上、住化ケムテックス株式会社製)、“WS-525”(日本PMC株式会社製)等が挙げられる。エポキシ樹脂を配合する場合、その添加量は、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、通常、1~100質量部であり、好ましくは1~50質量部である。
【0017】
中でも、乾燥固化型接着剤がポリビニルアルコール系樹脂を含む水系の乾燥固化型接着剤であることが好ましい。
【0018】
乾燥固化型接着剤は、溶媒を含んでいてよい。溶媒としては、水、水と親水性有機溶媒(例えばアルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒等)との混合溶媒、有機溶媒等が挙げられる。
【0019】
化学反応型接着剤である活性エネルギー線硬化型接着剤とは、活性エネルギー線の照射を受けて硬化する接着剤である。活性エネルギー線硬化型接着剤は溶媒を含んでいてもよい。
活性エネルギー線硬化型接着剤としては、エポキシ化合物とカチオン重合開始剤とを含有するカチオン重合性の接着剤、アクリル系硬化成分とラジカル重合開始剤とを含有するラジカル重合性の接着剤、エポキシ化合物等のカチオン重合性の硬化成分およびアクリル系化合物等のラジカル重合性の硬化成分の両者を含有し、さらにカチオン重合開始剤およびラジカル重合開始剤を含有する接着剤、並びに、これら重合開始剤を含まずに電子ビームを照射することで硬化される接着剤等が挙げられる。
【0020】
中でも、活性エネルギー線硬化型接着剤としては、アクリル系硬化成分とラジカル重合開始剤とを含有するラジカル重合性の活性エネルギー線硬化型接着剤、エポキシ化合物とカチオン重合開始剤とを含有するカチオン重合性の活性エネルギー線硬化型接着剤が好ましい。アクリル系硬化成分としては、メチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリル酸等が挙げられる。エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤は、エポキシ化合物以外の化合物をさらに含有していてもよい。エポキシ化合物以外の化合物としては、オキセタン化合物やアクリル化合物等が挙げられる。
【0021】
ラジカル重合開始剤としては、液晶硬化膜を形成する重合性液晶組成物に配合し得るものとして後述する光重合開始剤が挙げられる。カチオン重合開始剤の市販品としては、“カヤラッド”(登録商標)シリーズ(日本化薬株式会社製)、“サイラキュア UVI”シリーズ(ダウケミカル社製)、“CPI”シリーズ(サンアプロ株式会社製)、“TAZ”、“BBI”および“DTS”(以上、みどり化学株式会社製)、“アデカオプトマー”シリーズ(株式会社ADEKA製)、“RHODORSIL”(登録商標)(ローディア株式会社製)等が挙げられる。ラジカル重合開始剤並びにカチオン重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化型接着剤100質量部に対して、通常、0.5~20質量部であり、好ましくは1~15質量部である。
【0022】
位相差フィルム、偏光子および透明保護フィルムをこの順に積層してなる光学積層体においては、積層体の薄型化や屈曲性の向上等の観点から、高粘性材料から形成される感圧式粘着剤と比較して、乾燥固化型接着剤や化学反応型接着剤等の接着剤を用いることが有利であると考えられる。一方、本発明の光学積層体は、式(1)および(2)で表される光学特性を単層で示す液晶硬化膜を含んでおり、このような液晶硬化膜を形成する重合性液晶化合物は、後述する通り、一般に波長300~400nmの間に極大吸収波長を有することが多い。また、画像表示装置に組み込んだ際に視認側に位置する透明保護フィルムは、光学積層体の内部構造を紫外線から保護するために紫外線吸収能を有していることから、かかる構成の光学積層体の製造においては、照射した紫外線が液晶硬化膜や透明保護フィルムによって吸収され、接着剤の硬化に十分な量の紫外線が積層体内部まで到達し難くい場合がある。したがって、紫外線吸収能を有する層(液晶硬化膜および透明保護フィルム)に挟まれる構成となり得る本発明の光学積層体においては、位相差フィルムと偏光子、および、偏光子と透明保護フィルムとを貼合するための接着剤として乾燥固化型接着剤を用いることが、薄型化や屈曲性の向上の観点に加えて、各層間の密着性がより優れる光学積層体を得られる観点から有利である。
【0023】
位相差フィルムと偏光子、および、偏光子と透明保護フィルムを貼合する接着剤層の厚みは、それぞれ、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは50nm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。接着剤層の厚みが上記範囲内であると、繰り返し屈曲させた場合に、屈曲点における歪みが生じ難く、これに起因するスジ状欠陥の発生や斜め反射率の上昇を抑制しやすい。位相差フィルムと偏光子、および、偏光子と透明保護フィルムを貼合する接着剤層の厚みは、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
接着剤層の厚みは、例えば、干渉膜厚計、レーザー顕微鏡または触針式膜厚計等を用いて測定することができる。
【0024】
(位相差フィルム)
本発明の光学積層体を構成する位相差フィルムは、100g/m/24時間以上の透湿度を有する基材フィルムと、該基材フィルム上に形成される液晶硬化膜とを含んでなる。基材フィルムの透湿度は、好ましくは150g/m/24時間以上、より好ましくは200g/m/24時間以上である。位相差フィルムを構成する基材フィルムの透湿度が上記下限以上であると、位相差フィルムを偏光子と積層して形成される光学積層体中の水分を制御しやすい構成となり、特に、接着剤層を形成する接着剤として乾燥固化型接着剤を用いた場合に、接着剤中の溶媒を除去しやすく、基材フィルム上に形成される液晶硬化膜が有する弾性や屈曲性に近い物理的特性を有する接着剤層を調製しやすくなる。このため、光学積層体を屈曲した際に、各層を接着する接着剤層が液晶硬化膜における変形に影響を及ぼし難く、光学積層体全体の変形と各層における変形とが互いに追従しやすくなる。これにより、繰り返し屈曲させた場合にも屈曲点における歪みの発生が生じ難く、これに起因するスジ状の欠陥や斜め反射率の上昇を抑えることができる。基材フィルムの透湿度の上限は特に限定されるものではないが、通常、1000g/m/24時間以下、好ましくは500g/m/24時間以下である。
なお、基材フィルムの透湿度は、例えば、JIS Z 0208(カップ法)により測定することができる。詳細には、後述する実施例に記載の方法に従い測定できる。
【0025】
基材フィルムの透湿度は、フィルムを構成する樹脂の種類、フィルムの厚み、表面処理等により制御し得る。
【0026】
100g/m/24時間以上の透湿度を有する基材フィルムを構成する樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース、ポリビニルピロリドン系重合体、(メタ)アクリルアミド系重合体等が挙げられ、入手のしやすさ等の観点から、トリアセチルセルロースが好ましい。このような樹脂を、溶媒キャスト法、溶融押出法等の公知の手段により製膜して基材フィルムとすることができる。また、市販品を利用してもよい。
【0027】
基材フィルムの厚みは、所望する光学積層体の構成にあわせて適宜決定することができるが、光学積層体の薄型化、加工性、屈曲性および強度等の観点から、通常、5μm~300μmであり、好ましくは15μm~200μm、より好ましくは20μm~150μmである。
【0028】
基材フィルムは、好ましくは90%以上、より好ましくは92%以上の全光線透過率を有する。全光線透過率が上記下限値以上であると、透明性が高く、光学特性に優れる光学積層体を構成できる。基材フィルムにおける全光線透過率の上限値は特に限定されず、100%以下であればよい。全光線透過率は、例えば、JIS K 7361に従い測定できる。
【0029】
基材フィルムは、550nmの光に対する厚み方向の位相差値Rth(550)の絶対値が5nm以下であることが好ましく、3nm以下であることがより好ましい。基材フィルムの厚み方向の位相差値を制御することにより、液晶硬化膜により期待される光学特性に影響を及ぼし難く、得られる光学積層体の斜め反射率を低く抑えることができる。このような光学積層体は、表示装置等に組み込んだ際に黒表示時の光漏れや色相変化の抑制に優れるため、光学特性において有利な光学積層体となる。基材フィルムの前記位相差値Rth(550)は小さいほど好ましく、0nmであってもよい。基材フィルムの位相差値Rth(550)は、添加剤の配合により制御し得る他、流延方法等によっても制御し得る。
【0030】
基材フィルムの表面には、形成する液晶硬化膜や配向膜を構成する成分、基材フィルムと接し得る接着剤の成分などに応じて、これらとの密着性等を高めるために、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0031】
本発明において、位相差フィルムを構成する液晶硬化膜は、下記式(1)および(2):
Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)
〔式中、Re(λ)は波長λにおける面内位相差値を示す〕
を単層で満たす液晶硬化膜である。「単層で満たす」とは、液晶化合物を含む重合性液晶化合物から得られる1層の硬化膜が単層で、上記式(1)および(2)で表される光学特性を示すことを意味する。
【0032】
液晶硬化膜が式(1)および(2)を満たす場合、当該液晶硬化膜は、短波長での面内位相差値が長波長での面内位相差値よりも小さくなる、いわゆる逆波長分散性を示す。逆波長分散性を示す場合、可視光の広い波長範囲で一様の位相差性能を発揮しやすい傾向にあり、光学積層体の光学特性が向上しやすい。単層で上記式(1)および(2)を満たす光学特性を有する液晶硬化膜(以下、「液晶硬化膜(x)」ともいう)を用いることによって、光学特性に優れながらより薄型の位相差フィルムを得ることができる。
【0033】
逆波長分散性が向上し、液晶硬化膜の正面方向の反射色相の向上効果をより高めることができるため、Re(450)/Re(550)は、好ましくは0.70以上、より好ましくは0.78以上であり、また、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.92以下である。また、Re(650)/Re(550)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.01以上であり、さらに好ましくは1.02以上である。
【0034】
上記面内位相差値は、液晶硬化膜の厚みd1によって調整することができる。液晶硬化膜の面内位相差値は、Re=(nx(λ)-ny(λ))×d(式中、dは液晶硬化膜の厚みを表し、nxは、液晶硬化膜が形成する屈折率楕円体において、液晶硬化膜の平面に平行な方向の波長λnmにおける主屈折率を表し、nyは、液晶硬化膜が形成する屈折率楕円体において、液晶硬化膜の平面に対して平行であり、且つ、前記nxの方向に対して直交する方向の波長λnmにおける屈折率を表す)によって決定されることから、所望の面内位相差値を得るには、3次元屈折率と膜厚dとを調整すればよい。
【0035】
さらに、液晶硬化膜(x)は下記式(3):
100nm≦Re(550)≦170nm (3)
〔式中、Re(λ)は波長λにおける面内位相差値を示す〕
を満たすことが好ましい。液晶硬化膜(x)が式(3)を満たすと、該液晶硬化膜(x)を含む光学積層体(楕円偏光板)を有機EL表示装置に適用した場合の黒表示時の正面反射色相が向上しやすくなる。面内位相差値のさらに好ましい範囲は、130nm≦ReA(550)≦150nmである。
【0036】
本発明において液晶硬化膜(x)は、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物から形成できる。重合性液晶化合物としては、所望する光学特性を有する液晶硬化膜を形成し得るものであれば特に限定されず、位相差フィルムの分野において従来公知の重合性液晶化合物を用いることができる。
【0037】
重合性液晶化合物は、重合性基を有する液晶化合物である。重合性液晶化合物としては、一般に、該重合性液晶化合物を単独で特定方向に配向した状態で重合することにより得られる重合体(硬化物)が、正波長分散性を示す重合性液晶化合物と逆波長分散性を示す重合性液晶化合物とが挙げられる。上記式(1)および(2)で表される光学特性を単独で満たす液晶硬化膜が得られやすい観点から、本発明において位相差フィルムを構成する液晶硬化膜(x)は、単独で特定方向に配向した状態で重合することにより得られる重合体(硬化物)が逆波長分散性を示す重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の硬化物であることが好ましい。
【0038】
重合性基とは、重合反応に関与し得る基をいう。本発明において液晶硬化膜を形成する重合性液晶化合物が有する重合性基は、好ましくは光重合性基である。光重合性基とは、重合性基であって、光重合開始剤から発生した反応活性種、例えば活性ラジカルや酸などによって重合反応に関与し得る基のことをいう。光重合性基としては、例えばビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、オキシラニル基およびオキセタニル基が好ましく、アクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0039】
重合性液晶化合物が示す液晶性はサーモトロピック性液晶であってもよいし、リオトロピック性液晶であってもよいが、緻密な膜厚制御が可能な点でサーモトロピック性液晶が好ましい。また、サーモトロピック性液晶における相秩序構造としてはネマチック液晶でもスメクチック液晶でもディスコチック液晶でもよい。重合性液晶化合物は単独または二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
いわゆるT字型またはH型の分子構造を有する重合性液晶化合物は逆波長分散性を発現しやすく、T字型の分子構造を有する重合性液晶化合物はより強い逆波長分散性を発現する傾向にある。
【0041】
逆波長分散性を示す重合性液晶化合物としては、下記(A)~(D)の特徴を有する化合物であることが好ましい。
(A)ネマチック相またはスメクチック相を形成し得る化合物である。
(B)該重合性液晶化合物の長軸方向(a)上にπ電子を有する。
(C)長軸方向(a)に対して交差する方向〔交差方向(b)〕上にπ電子を有する。
(D)長軸方向(a)に存在するπ電子の合計をN(πa)、長軸方向に存在する分子量の合計をN(Aa)として下記式(i)で定義される重合性液晶化合物の長軸方向(a)のπ電子密度:
D(πa)=N(πa)/N(Aa) (i)
と、交差方向(b)に存在するπ電子の合計をN(πb)、交差方向(b)に存在する分子量の合計をN(Ab)として下記式(ii)で定義される重合性液晶化合物の交差方向(b)のπ電子密度:
D(πb)=N(πb)/N(Ab) (ii)
とが、式(iii)
0≦〔D(πa)/D(πb)〕<1 (iii)
の関係にある〔すなわち、交差方向(b)のπ電子密度が、長軸方向(a)のπ電子密度よりも大きい〕。上記記載のように長軸およびそれに対して交差方向上にπ電子を有する重合性液晶化合物は、一般にT字構造となりやすい。
【0042】
上記(A)~(D)の特徴において、長軸方向(a)およびπ電子数Nは以下のように定義される。
・長軸方向(a)は、例えば棒状構造を有する化合物であれば、その棒状の長軸方向である。
・長軸方向(a)上に存在するπ電子数N(πa)には、重合反応により消失するπ電子は含まない。
・長軸方向(a)上に存在するπ電子数N(πa)には、長軸上のπ電子およびこれと共役するπ電子の合計数であり、例えば長軸方向(a)上に存在する環であって、ヒュッケル則を満たす環に存在するπ電子の数が含まれる。
・交差方向(b)に存在するπ電子数N(πb)には、重合反応により消失するπ電子は含まない。
上記を満たす重合性液晶化合物は、長軸方向にメソゲン構造を有している。このメソゲン構造によって、液晶相(ネマチック相、スメクチック相)を発現する。
【0043】
上記(A)~(D)を満たす重合性液晶化合物を、相転移温度以上に加熱することにより、ネマチック相やスメクチック相を形成することが可能である。この重合性液晶化合物が配向して形成されたネマチック相またはスメクチック相では通常、重合性液晶化合物の長軸方向が互いに平行になるように配向しており、この長軸方向がネマチック相またはスメクチック相の配向方向となる。このような重合性液晶化合物を膜状とし、ネマチック相またはスメクチック相の状態で重合させると、長軸方向(a)に配向した状態で重合した重合体からなる重合体膜を形成することができる。この重合体膜は、長軸方向(a)上のπ電子と交差方向(b)上のπ電子により紫外線を吸収する。ここで、交差方向(b)上のπ電子により吸収される紫外線の吸収極大波長をλbmaxとする。λbmaxは通常300nm~400nmである。π電子の密度は、上記式(iii)を満足していて、交差方向(b)のπ電子密度が長軸方向(a)のπ電子密度よりも大きいので、交差方向(b)に振動面を有する直線偏光紫外線(波長はλbmax)の吸収が、長軸方向(a)に振動面を有する直線偏光紫外線(波長はλbmax)の吸収よりも大きな重合体膜となる。その比(直線偏光紫外線の交差方向(b)の吸光度/長軸方向(a)の吸光度の比)は、例えば1.0超、好ましくは1.2以上、通常30以下であり、例えば10以下である。
【0044】
上記特徴を有する重合性液晶化合物は、一般に、一方向に配向した状態で重合させたときにその重合体の複屈折率が逆波長分散性を示すものであることが多い。具体的には、例えば、下記式(X)で表される化合物(以下、「重合性液晶化合物(X)」ともいう)が挙げられる。
【化1】
【0045】
式(X)中、Arは置換基を有していてもよい芳香族基を有する二価の基を表す。ここでいう芳香族基とは、例えば後述する(Ar-1)~(Ar-23)で例示される基が挙げられる。またArは芳香族基を2個以上有していてもよい。該芳香族基中には窒素原子、酸素原子、硫黄原子のうち少なくとも1つ以上が含まれていてもよい。Arに含まれる芳香族基が2つ以上である場合、2つ以上の芳香族基は互いに単結合、-CO-O-、-O-などの二価の結合基で結合していてもよい。
およびGはそれぞれ独立に、二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基を表す。ここで、該二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフルオロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、シアノ基またはニトロ基に置換されていてもよく、該二価の芳香族基または二価の脂環式炭化水素基を構成する炭素原子が、酸素原子、硫黄原子または窒素原子に置換されていてもよい。
、L、BおよびBはそれぞれ独立に、単結合または二価の連結基である。
k、lは、それぞれ独立に0~3の整数を表し、1≦k+lの関係を満たす。ここで、2≦k+lである場合、BおよびB、GおよびGは、それぞれ互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
およびEはそれぞれ独立に、炭素数1~17のアルカンジイル基を表し、炭素数4~12のアルカンジイル基がより好ましい。また、アルカンジイル基に含まれる水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該アルカンジイル基に含まれる-CH-は、-O-、-S-、-C(=O)-で置換されていてもよい。
およびPは互いに独立に、重合性基または水素原子を表し、少なくとも1つは重合性基である。
【0046】
およびGは、それぞれ独立に、好ましくは、ハロゲン原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい1,4-フェニレンジイル基、ハロゲン原子および炭素数1~4のアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい1,4-シクロヘキサンジイル基であり、より好ましくはメチル基で置換された1,4-フェニレンジイル基、無置換の1,4-フェニレンジイル基、または無置換の1,4-trans-シクロヘキサンジイル基であり、特に好ましくは無置換の1,4-フェニレンジイル基、または無置換の1,4-trans-シクロへキサンジイル基である。
また、複数存在するGおよびGのうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であることが好ましく、また、LまたはLに結合するGおよびGのうち少なくとも1つは二価の脂環式炭化水素基であることがより好ましい。
【0047】
およびLはそれぞれ独立に、好ましくは、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、-O-、-S-、-Ra1ORa2-、-Ra3COORa4-、-Ra5OCORa6-、-Ra7OC=OORa8-、-N=N-、-CR=CR-、または-C≡C-である。ここで、Ra1~Ra8はそれぞれ独立に単結合、または炭素数1~4のアルキレン基を表し、RおよびRは炭素数1~4のアルキル基または水素原子を表す。LおよびLはそれぞれ独立に、より好ましくは単結合、-ORa2-1-、-CH-、-CHCH-、-COORa4-1-、または-OCORa6-1-である。ここで、Ra2-1、Ra4-1、Ra6-1はそれぞれ独立に単結合、-CH-、-CHCH-のいずれかを表す。LおよびLはそれぞれ独立に、さらに好ましくは単結合、-O-、-CHCH-、-COO-、-COOCHCH-、または-OCO-である。
【0048】
およびBはそれぞれ独立に、好ましくは、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、-O-、-S-、-Ra9ORa10-、-Ra11COORa12-、-Ra13OCORa14-、または-Ra15OC=OORa16-である。ここで、Ra9~Ra16はそれぞれ独立に単結合、または炭素数1~4のアルキレン基を表す。BおよびBはそれぞれ独立に、より好ましくは単結合、-ORa10-1-、-CH-、-CHCH-、-COORa12-1-、または-OCORa14-1-である。ここで、Ra10-1、Ra12-1、Ra14-1はそれぞれ独立に単結合、-CH-、-CHCH-のいずれかを表す。BおよびBはそれぞれ独立に、さらに好ましくは単結合、-O-、-CHCH-、-COO-、-COOCHCH-、-OCO-、または-OCOCHCH-である。
【0049】
kおよびlは、逆波長分散性発現の観点から2≦k+l≦6の範囲が好ましく、k+l=4であることが好ましく、k=2かつl=2であることがより好ましい。k=2かつl=2であると対称構造となるため好ましい。
【0050】
またはPで表される重合性基としては、エポキシ基、ビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、オキシラニル基、およびオキセタニル基等が挙げられる。中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基およびビニルオキシ基が好ましく、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
【0051】
Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、置換基を有していてもよい芳香族複素環、および電子吸引性基から選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。当該芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられ、ベンゼン環、ナフタレン環が好ましい。当該芳香族複素環としては、フラン環、ベンゾフラン環、ピロール環、インドール環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、トリアジン環、ピロリン環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、チエノチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、およびフェナンスロリン環等が挙げられる。なかでも、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、またはベンゾフラン環を有することが好ましく、ベンゾチアゾール環を有することがさらに好ましい。また、Arに窒素原子が含まれる場合、当該窒素原子はπ電子を有することが好ましい。
【0052】
式(X)中、Arで表される基が有するπ電子の合計数Nπは、通常6以上であり、8以上が好ましく、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは14以上であり、特に好ましくは16以上である。また、好ましくは32以下であり、より好ましくは26以下であり、さらに好ましくは24以下である。
【0053】
Arに含まれる芳香族基としては、例えば以下の基が挙げられる。
【0054】
【化2】
【0055】
式(Ar-1)~式(Ar-23)中、*印は連結部を表し、Z、ZおよびZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルキルスルフィニル基、炭素数1~12のアルキルスルホニル基、カルボキシル基、炭素数1~12のフルオロアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数1~12のアルキルチオ基、炭素数1~12のN-アルキルアミノ基、炭素数2~12のN,N-ジアルキルアミノ基、炭素数1~12のN-アルキルスルファモイル基または炭素数2~12のN,N-ジアルキルスルファモイル基を表す。また、Z、ZおよびZは、重合性基を含んでいてもよい。
【0056】
およびQは、それぞれ独立に、-CR2’3’-、-S-、-NH-、-NR2’-、-CO-または-O-を表し、R2’およびR3’は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0057】
およびJは、それぞれ独立に、炭素原子、または窒素原子を表す。
【0058】
、YおよびYは、それぞれ独立に、置換されていてもよい芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
【0059】
およびWは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、メチル基またはハロゲン原子を表し、mは0~6の整数を表す。
【0060】
、YおよびYにおける芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。芳香族複素環基としては、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基等の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1つ含む炭素数4~20の芳香族複素環基が挙げられ、フリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基が好ましい。
【0061】
、YおよびYは、それぞれ独立に、置換されていてもよい多環系芳香族炭化水素基または多環系芳香族複素環基であってもよい。多環系芳香族炭化水素基は、縮合多環系芳香族炭化水素基、または芳香環集合に由来する基をいう。多環系芳香族複素環基は、縮合多環系芳香族複素環基、または芳香環集合に由来する基をいう。
【0062】
、ZおよびZは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~12のアルコキシ基であることが好ましく、Zは、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基がさらに好ましく、ZおよびZは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基、シアノ基がさらに好ましい。また、Z、ZおよびZは重合性基を含んでいてもよい。
【0063】
およびQは、-NH-、-S-、-NR2’-、-O-が好ましく、R2’は水素原子が好ましい。中でも-S-、-O-、-NH-が特に好ましい。
【0064】
式(Ar-1)~(Ar-23)の中でも、式(Ar-6)および式(Ar-7)が分子の安定性の観点から好ましい。
【0065】
式(Ar-16)~(Ar-23)において、Yは、これが結合する窒素原子およびZと共に、芳香族複素環基を形成していてもよい。芳香族複素環基としては、Arが有していてもよい芳香族複素環として前記したものが挙げられるが、例えば、ピロール環、イミダゾール環、ピロリン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、インドール環、キノリン環、イソキノリン環、プリン環、ピロリジン環等が挙げられる。この芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。また、Yは、これが結合する窒素原子およびZと共に、前述した置換されていてもよい多環系芳香族炭化水素基または多環系芳香族複素環基であってもよい。例えば、ベンゾフラン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環等が挙げられる。
【0066】
本発明において、位相差フィルムを構成する液晶硬化膜(x)は波長300~400nmの間に少なくとも1つの極大吸収を有することが好ましく、液晶硬化膜(x)を形成する重合性液晶化合物は、波長300~400nmの間に極大吸収波長を有する重合性液晶化合物であることが好ましい。重合性液晶組成物に光重合開始剤が含まれる場合、長期保管時に重合性液晶化合物の重合反応およびゲル化が進行するおそれがあるが、重合性液晶化合物の極大吸収波長が300~400nmであれば保管中に紫外光が曝露されても、光重合開始剤からの反応活性種の発生および該反応活性種による重合性液晶化合物の重合反応およびゲル化の進行を有効に抑制できる。従って、重合性液晶組成物の長期安定性の点で有利となり、得られる液晶硬化膜の配向性および膜厚の均一性を向上できる。なお、重合性液晶化合物の極大吸収波長は、溶媒中で紫外可視分光光度計を用いて測定できる。該溶媒は重合性液晶化合物を溶解し得る溶媒であり、例えばクロロホルムやテトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0067】
液晶硬化膜(x)を形成し得る重合性液晶化合物としては、具体的には、特開2011-207765号公報、特開2010-031223号公報等に記載されるような重合性液晶化合物が挙げられる。また、単層で上記式(1)および(2)を満たす液晶硬化膜(x)を形成し得る限り、その単独重合体が正波長分散性を示す重合性液晶化合物を適量で用いてもよい。
【0068】
液晶硬化膜(x)を形成するための重合性液晶組成物中の重合性液晶化合物の含有量は、重合性液晶組成物の固形分100質量部に対して、例えば70~99.5質量部であり、好ましくは80~99質量部であり、より好ましくは85~98質量部であり、さらに好ましくは90~95質量部である。重合性液晶化合物の含有量が上記範囲内であれば、得られる液晶硬化膜(x)の配向性の観点から有利である。なお、本明細書において、重合性液晶組成物の固形分とは、重合性液晶組成物から有機溶媒等の揮発性成分を除いた全ての成分を意味する。
【0069】
液晶硬化膜(x)を形成するための重合性液晶組成物は、重合性液晶化合物に加えて、溶媒、重合開始剤、レベリング剤、酸化防止剤、光増感剤、反応性添加剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。これらの成分は、それぞれ、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
重合性液晶組成物は、通常、溶媒に溶解した状態で基材フィルム等に塗布されるため、溶媒を含むことが好ましい。溶媒としては、重合性液晶化合物を溶解し得るが、重合性液晶化合物の重合反応に不活性な溶媒であることが好ましい。また、用いる基材フィルムを溶解しない溶媒であることが好ましい。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノールおよびプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートおよび乳酸エチル等のエステル溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;ペンタン、ヘキサンおよびヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレンおよびアニソール等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;テトラヒドロフランおよびジメトキシエタン等のエーテル溶媒;クロロホルムおよびクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルミアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、単独または二種以上組み合わせて使用できる。中でも、フィルムコーティングの観点から、アルコール溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、塩素含有溶媒、アミド系溶媒および芳香族炭化水素溶媒から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、重合性液晶化合物の溶解性の観点から、エステル溶媒、ケトン溶媒、アミド系溶媒および芳香族炭化水素溶媒から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0071】
重合性液晶組成物中の溶媒の含有量は、重合性液晶組成物100質量部に対して、好ましくは50~98質量部、より好ましくは70~95重量部である。したがって、重合性液晶組成物100質量部に占める固形分は、2~50質量部が好ましい。固形分が50質量部以下であると、重合性液晶組成物の粘度が低くなることから、膜の厚みが略均一になり、ムラが生じ難くなる傾向がある。上記固形分は、製造しようとする重合性液晶硬化膜の厚みを考慮して適宜定めることができる。
【0072】
重合開始剤は、熱または光の寄与によって反応活性種を生成し、重合性液晶化合物等の重合反応を開始し得る化合物である。反応活性種としては、ラジカルまたはカチオンまたはアニオン等の活性種が挙げられる。中でも反応制御が容易であるという観点から、光照射によってラジカルを発生する光重合開始剤が好ましい。
【0073】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、ベンジルケタール化合物、オキシム化合物、α-ヒドロキシケトン化合物、α-アミノケトン化合物、トリアジン化合物、ヨードニウム塩およびスルホニウム塩が挙げられ、市販品を用いてもよい。具体的には、イルガキュア(Irgacure、登録商標)907、イルガキュア184、イルガキュア651、イルガキュア819、イルガキュア250、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア127、イルガキュア2959、イルガキュア754、イルガキュア379EG(以上、BASFジャパン株式会社製)、セイクオールBZ、セイクオールZ、セイクオールBEE(以上、精工化学株式会社製)、カヤキュアー(kayacure)BP100(日本化薬株式会社製)、カヤキュアーUVI-6992(ダウ社製)、アデカオプトマーSP-152、アデカオプトマーSP-170、アデカオプトマーN-1717、アデカオプトマーN-1919、アデカアークルズNCI-831、アデカアークルズNCI-930(以上、株式会社ADEKA製)、TAZ-A、TAZ-PP(以上、日本シイベルヘグナー社製)およびTAZ-104(三和ケミカル社製)等が挙げられる。
重合性液晶組成物において含まれる光重合開始剤は、少なくとも1種類であり、複数種を組み合わせて用いてもよく、重合性液晶組成物に含まれる重合性液晶化合物との関係において適宜選択すればよい。
【0074】
光重合開始剤は、光源から発せられるエネルギーを十分に活用でき、生産性に優れるため、極大吸収波長が300nm~400nmであると好ましく、300nm~380nmであるとより好ましく、中でも、α-アセトフェノン系重合開始剤、オキシム系光重合開始剤が好ましい。
【0075】
α-アセトフェノン化合物としては、2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルスルファニルフェニル)プロパン-1-オン、2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジルブタン-1-オンおよび2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-(4-メチルフェニルメチル)ブタン-1-オン等が挙げられ、より好ましくは2-メチル-2-モルホリノ-1-(4-メチルスルファニルフェニル)プロパン-1-オンおよび2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジルブタン-1-オンが挙げられる。α-アセトフェノン化合物の市販品としては、イルガキュア369、379EG、907(以上、BASFジャパン(株)製)およびセイクオールBEE(精工化学社製)等が挙げられる。
【0076】
オキシムエステル系光重合開始剤は、光が照射されることによってフェニルラジカルやメチルラジカル等のラジカルを生成させる。このラジカルにより重合性液晶化合物の重合が好適に進行するが、中でもメチルラジカルを発生させるオキシムエステル系光重合開始剤は重合反応の開始効率が高い点で好ましい。また、重合反応をより効率的に進行させるという観点から、波長350nm以上の紫外線を効率的に利用可能な光重合開始剤を使用することが好ましい。波長350nm以上の紫外線を効率的に利用可能な光重合開始剤としては、オキシムエステル構造を含むトリアジン化合物やカルバゾール化合物が好ましく、感度の観点からはオキシムエステル構造を含むカルバゾール化合物がより好ましい。オキシムエステル構造を含むカルバゾール化合物としては、1,2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。オキシムエステル系光重合開始剤の市販品としては、イルガキュアOXE-01、イルガキュアOXE-02、イルガキュアOXE-03(以上、BASFジャパン株式会社製)、アデカオプトマーN-1919、アデカアークルズNCI-831(以上、株式会社ADEKA製)等が挙げられる。
【0077】
光重合開始剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常、0.1~30質量部であり、好ましくは1~20質量部であり、より好ましくは1~15質量部である。上記範囲内であれば、重合性基の反応が十分に進行し、かつ、重合性液晶化合物の配向を乱し難い。
【0078】
レベリング剤は、重合性液晶組成物の流動性を調整し、組成物を塗布して得られる塗膜をより平坦にする機能を有する添加剤である。例えば、シリコーン系、ポリアクリレート系およびパーフルオロアルキル系のレベリング剤が挙げられる。レベリング剤として市販品を用いてもよく、具体的には、DC3PA、SH7PA、DC11PA、SH28PA、SH29PA、SH30PA、ST80PA、ST86PA、SH8400、SH8700、FZ2123(以上、全て東レ・ダウコーニング(株)製)、KP321、KP323、KP324、KP326、KP340、KP341、X22-161A、KF6001(以上、全て信越化学工業(株)製)、TSF400、TSF401、TSF410、TSF4300、TSF4440、TSF4445、TSF-4446、TSF4452、TSF4460(以上、全てモメンティブ パフォーマンス マテリアルズ ジャパン合同会社製)、フロリナート(fluorinert)(登録商標)FC-72、同FC-40、同FC-43、同FC-3283(以上、全て住友スリーエム(株)製)、メガファック(登録商標)R-08、同R-30、同R-90、同F-410、同F-411、同F-443、同F-445、同F-470、同F-477、同F-479、同F-482、同F-483、同F-556(以上、いずれもDIC(株)製)、エフトップ(商品名)EF301、同EF303、同EF351、同EF352(以上、全て三菱マテリアル電子化成(株)製)、サーフロン(登録商標)S-381、同S-382、同S-383、同S-393、同SC-101、同SC-105、KH-40、SA-100(以上、全てAGCセイミケミカル(株)製)、商品名E1830、同E5844((株)ダイキンファインケミカル研究所製)、BM-1000、BM-1100、BYK-352、BYK-353およびBYK-361N(いずれも商品名:BM Chemie社製)等が挙げられる。レベリング剤は単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0079】
レベリング剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がさらに好ましい。レベリング剤の含有量が、上記範囲内であると、重合性液晶化合物を配向させることが容易であり、かつ得られる液晶硬化膜がより平滑となる傾向にあるため好ましい。
【0080】
酸化防止剤を配合することにより、重合性液晶化合物の重合反応をコントロールすることができる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、キノン系酸化防止剤、ニトロソ系酸化防止剤から選ばれる一次酸化防止剤であってもよいし、リン系酸化防止剤および硫黄系酸化防止剤から選ばれる二次酸化防止剤であってもよい。重合性液晶化合物の配向を乱すことなく、重合性液晶化合物を重合するためには、酸化防止剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~3質量部である。酸化防止剤は単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0081】
光増感剤を用いることにより、光重合開始剤を高感度化することができる。光増感剤としては、例えば、キサントン、チオキサントン等のキサントン類;アントラセンおよびアルキルエーテル等の置換基を有するアントラセン類;フェノチアジン;ルブレンが挙げられる。光増感剤は単独または2種以上を組み合わせて使用できる。光増感剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、好ましくは0.05~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~3質量部である。
【0082】
反応添加剤を用いることにより、基材フィルムと液晶硬化膜との密着性や位相差フィルムと接着剤層との密着性を向上させ得る。反応性添加剤としては、その分子内に炭素-炭素不飽和結合と活性水素反応性基とを有するものが好ましい。なお、ここでいう「活性水素反応性基」とは、カルボキシル基(-COOH)、水酸基(-OH)、アミノ基(-NH)等の活性水素を有する基に対して反応性を有する基を意味し、グリシジル基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、無水マレイン酸基等がその代表例である。反応性添加剤が有する、炭素-炭素不飽和結合または活性水素反応性基の個数は、通常、それぞれ1~20個であり、好ましくはそれぞれ1~10個である。
【0083】
反応性添加剤において、活性水素反応性基が少なくとも2つ存在することが好ましく、この場合、複数存在する活性水素反応性基は同一でも、異なるものであってもよい。
【0084】
反応性添加剤が有する炭素-炭素不飽和結合とは、炭素-炭素二重結合、炭素-炭素三重結合、またはそれらの組み合わせであってよいが、炭素-炭素二重結合であることが好ましい。中でも、反応性添加剤としては、ビニル基および/または(メタ)アクリル基として炭素-炭素不飽和結合を含むことが好ましい。さらに、活性水素反応性基が、エポキシ基、グリシジル基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種である反応性添加剤が好ましく、アクリル基とイソシアネート基とを有する反応性添加剤がより好ましい。
【0085】
反応性添加剤の具体例としては、メタクリロキシグリシジルエーテルやアクリロキシグリシジルエーテル等の、(メタ)アクリル基とエポキシ基とを有する化合物;オキセタンアクリレートやオキセタンメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とオキセタン基とを有する化合物;ラクトンアクリレートやラクトンメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とラクトン基とを有する化合物;ビニルオキサゾリンやイソプロペニルオキサゾリン等の、ビニル基とオキサゾリン基とを有する化合物;イソシアナトメチルアクリレート、イソシアナトメチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレートまたは2-イソシアナトエチルメタクリレート等の、(メタ)アクリル基とイソシアネート基とを有する化合物のオリゴマー等が挙げられる。また、メタクリル酸無水物、アクリル酸無水物、無水マレイン酸またはビニル無水マレイン酸等の、ビニル基やビニレン基と酸無水物とを有する化合物等が挙げられる。中でも、メタクリロキシグリシジルエーテル、アクリロキシグリシジルエーテル、イソシアナトメチルアクリレート、イソシアナトメチルメタクリレート、ビニルオキサゾリン、2-イソシアナトエチルアクリレート、2-イソシアナトエチルメタクリレートまたは上記のオリゴマーが好ましく、イソシアナトメチルアクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレートまたは上記のオリゴマーが特に好ましい。
【0086】
前記反応性添加剤として、市販品をそのまま、または必要に応じて精製して用いることができる。市販品としては、例えば、Laromer(登録商標)LR-9000(BASF社製)が挙げられる。
【0087】
重合性液晶組成物が反応性添加剤を含む場合、反応性添加剤の含有量は、重合性液晶化合物100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~7質量部である。
【0088】
液晶硬化膜(x)を形成するための重合性液晶組成物は、それぞれ、重合性液晶化合物と、溶媒や重合開始剤などの成分とを所定温度で撹拌等することにより得ることができる。
【0089】
液晶硬化膜(x)は、例えば、
基材フィルムまたは後述する配向膜などの上に、少なくとも1種の重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物の塗膜を形成し、該塗膜を乾燥し、かつ、該重合性液晶組成物中の重合性液晶化合物を配向させる工程、および、
配向状態を保持したまま重合性液晶化合物を重合させ、液晶硬化膜を形成する工程
を含む方法により製造することができる。
【0090】
重合性液晶組成物の塗膜は、基材フィルムまたは後述するような基材フィルム上に形成された配向膜などの上に重合性液晶組成物を塗布することにより形成することができる。
【0091】
重合性液晶組成物を基材フィルム等に塗布する方法としては、スピンコーティング法、エクストルージョン法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、アプリケータ法などの塗布法、フレキソ法などの印刷法等の公知の方法が挙げられる。
【0092】
次いで、溶媒を乾燥等により除去することにより、乾燥塗膜が形成される。乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥および減圧乾燥法等が挙げられる。この際、重合性液晶組成物から得られた塗膜を加熱することにより、塗膜から溶媒を乾燥除去させるとともに、重合性液晶化合物を塗膜平面に対して水平方向などの所望の方向に配向させることができる。塗膜の加熱温度は、用いる重合性液晶化合物および塗膜を形成する基材フィルム等の材質などを考慮して適宜決定し得るが、重合性液晶化合物を液晶相状態へ相転移させるために、通常、液晶相転移温度以上の温度であることが必要である。重合性液晶組成物に含まれる溶媒を除去しながら、重合性液晶化合物を所望の配向状態とするため、例えば、前記重合性液晶組成物に含まれる重合性液晶化合物の液晶相転移温度(スメクチック相転移温度またはネマチック相転移温度)程度以上の温度まで加熱することができる。加熱温度は、好ましくは重合性液晶化合物の液晶相転移温度よりも3℃以上高い、より好ましくは5℃以上高い温度である。加熱温度の上限値は特に限定されないが、加熱による塗膜や基材フィルム等への損傷を避けるため、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。
なお、液晶相転移温度は、例えば、温度調節ステージを備えた偏光顕微鏡や、示差走査熱量計(DSC)、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)等を用いて測定することができる。また、重合性液晶化合物として2種以上を組み合わせて用いる場合、上記相転移温度は、重合性液晶組成物を構成する全重合性液晶化合物を重合性液晶組成物における組成と同じ比率で混合した重合性液晶化合物の混合物を用いて、1種の重合性液晶化合物を用いる場合と同様にして測定される温度を意味する。また、一般に重合性液晶組成物中における重合性液晶化合物の液晶相転移温度は、重合性液晶化合物単体としての液晶相転移温度よりも下がる場合があることも知られている。
【0093】
加熱時間は、加熱温度、用いる重合性液晶化合物の種類、溶媒の種類やその沸点およびその量等に応じて適宜決定し得るが、通常、0.5~10分であり、好ましくは0.5~5分である。
【0094】
塗膜からの溶媒の除去は、重合性液晶化合物の液晶相転移温度以上への加熱と同時に行ってもよいし、別途で行ってもよいが、生産性向上の観点から同時に行うことが好ましい。重合性液晶化合物の液晶相転移温度以上への加熱を行う前に、重合性液晶組成物から得られた塗膜中に含まれる重合性液晶化合物が重合しない条件で塗膜中の溶媒を適度に除去させるための予備乾燥工程を設けてもよい。かかる予備乾燥工程における乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥および減圧乾燥法等が挙げられ、該乾燥工程における乾燥温度(加熱温度)は、用いる重合性液晶化合物の種類、溶媒の種類やその沸点およびその量等に応じて適宜決定し得る。
【0095】
次いで、得られた乾燥塗膜において、重合性液晶化合物の配向状態を保持したまま、光照射により重合性液晶化合物を重合させることにより、所望の配向状態で存在する重合性液晶化合物の重合体である液晶硬化膜が形成される。重合方法としては、通常、光重合法が用いられる。光重合において、乾燥塗膜に照射する光としては、当該乾燥塗膜に含まれる光重合開始剤の種類、重合性液晶化合物の種類(特に、該重合性液晶化合物が有する重合性基の種類)およびその量に応じて適宜選択される。その具体例としては、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線およびγ線からなる群より選択される1種以上の光や活性電子線等の活性エネルギー線が挙げられる。中でも、重合反応の進行を制御し易い点や、光重合装置として当分野で広範に用いられているものが使用できるという点で、紫外光が好ましく、紫外光によって、光重合可能なように、重合性液晶組成物に含有される重合性液晶化合物や光重合開始剤の種類を選択しておくことが好ましい。また、重合時に、適切な冷却手段により乾燥塗膜を冷却しながら光照射することで、重合温度を制御することもできる。このような冷却手段の採用により、より低温で重合性液晶化合物の重合を実施すれば、基材が比較的耐熱性が低いものを用いたとしても、適切に液晶硬化膜を形成できる。また、光照射時の熱による不具合(基材フィルムの熱による変形等)が発生しない範囲で重合温度を高くすることにより重合反応を促進することも可能である。光重合の際、マスキングや現像を行うなどによって、パターニングされた硬化膜を得ることもできる。
【0096】
前記活性エネルギー線の光源としては、例えば、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマレーザー、波長範囲380~440nmを発光するLED光源、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0097】
紫外線照射強度は、通常、10~3,000mW/cmである。紫外線照射強度は、好ましくは光重合開始剤の活性化に有効な波長領域における強度である。光を照射する時間は、通常0.1秒~10分であり、好ましくは0.1秒~5分、より好ましくは0.1秒~3分、さらに好ましくは0.1秒~1分である。このような紫外線照射強度で1回または複数回照射すると、その積算光量は、10~3,000mJ/cm、好ましくは50~2,000mJ/cm、より好ましくは100~1,000mJ/cmである。
【0098】
液晶硬化膜(x)の厚みは、0.5μm以上3μm以下であり、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上であり、また、より好ましくは2.5μm以下である。液晶硬化膜(x)の膜厚が上記範囲であると、所定の光学特性を出しやすい他、繰り返し屈曲させた際に屈曲点における歪みの発生を抑制しやすくなる。液晶硬化膜(x)の厚みは、干渉膜厚計、レーザー顕微鏡または触針式膜厚計等を用いて測定することができる。
【0099】
液晶硬化膜(x)は配向膜上に形成してもよい。配向膜は、重合性液晶化合物を所望の方向に液晶配向させる、配向規制力を有するものである。重合性液晶化合物を水平方向に配向させる配向規制力を有する水平配向膜や、垂直方向に配向させる配向規制力を有する垂直配向膜を利用して液晶硬化膜を形成することにより、重合性液晶化合物を所望の方向により高い精度で配向させることができ、表示装置等に組み込んだ際に優れた光学特性を示す液晶硬化膜を得ることができる。配向規制力は、配向膜の種類、表面状態やラビング条件等によって任意に調整することが可能であり、配向膜が光配向性ポリマーから形成されている場合は、偏光照射条件等によって任意に調整することが可能である。
【0100】
配向膜としては、重合性液晶組成物の塗布等により溶解しない溶媒耐性を有し、また、溶媒の除去や重合性液晶化合物の配向のための加熱処理における耐熱性を有するものが好ましい。配向膜としては、配向性ポリマーを含む配向膜、光配向膜および表面に凹凸パターンや複数の溝を有するグルブ配向膜、配向方向に延伸してある延伸フィルム等が挙げられ、配向角の精度および品質の観点から光配向膜が好ましい。
【0101】
配向性ポリマーとしては、例えば、分子内にアミド結合を有するポリアミドやゼラチン類、分子内にイミド結合を有するポリイミドおよびその加水分解物であるポリアミック酸、ポリビニルアルコール、アルキル変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリオキサゾール、ポリエチレンイミン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびポリアクリル酸エステル類が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。配向性ポリマーは単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0102】
配向性ポリマーを含む配向膜は、通常、配向性ポリマーが溶媒に溶解した組成物(以下、「配向性ポリマー組成物」ともいう)を基材フィルム等の配向膜を形成すべき表面に塗布し、溶媒を除去する、または、配向性ポリマー組成物を基材に塗布し、溶媒を除去し、ラビングする(ラビング法)ことで得られる。溶媒としては、重合性液晶組成物に用い得る溶媒として先に例示した溶媒と同様のものが挙げられる。
【0103】
配向性ポリマー組成物中の配向性ポリマーの濃度は、配向性ポリマー材料が、溶媒に完溶できる範囲であればよいが、溶液に対して固形分換算で0.1~20%が好ましく、0.1~10%程度がさらに好ましい。
【0104】
配向性ポリマー組成物として、市販の配向膜材料をそのまま使用してもよい。市販の配向膜材料としては、サンエバー(登録商標、日産化学工業(株)製)、オプトマー(登録商標、JSR(株)製)などが挙げられる。
【0105】
配向性ポリマー組成物を基材フィルム等の配向膜を形成すべき表面に塗布する方法としては、重合性液晶組成物を基材フィルムへ塗布する方法として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0106】
配向性ポリマー組成物に含まれる溶媒を除去する方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥および減圧乾燥法等が挙げられる。
【0107】
配向膜に配向規制力を付与するために、必要に応じてラビング処理を行うことができる(ラビング法)。ラビング法により配向規制力を付与する方法としては、ラビング布が巻きつけられ、回転しているラビングロールに、配向性ポリマー組成物を基材に塗布しアニールすることで基材表面に形成された配向性ポリマーの膜を接触させる方法が挙げられる。ラビング処理を行う時に、マスキングを行えば、配向の方向が異なる複数の領域(パターン)を配向膜に形成することもできる。
【0108】
光配向膜は、通常、光反応性基を有するポリマーおよび/またはモノマーと溶媒とを含む組成物(以下、「光配向膜形成用組成物」ともいう)を、配向膜を形成すべき基材フィルム表面に塗布し、溶媒を除去後に偏光(好ましくは、偏光UV)を照射することで得られる。光配向膜は、照射する偏光の偏光方向を選択することにより、配向規制力の方向を任意に制御することができる点でも有利である。
【0109】
光反応性基とは、光照射することにより液晶配向能を生じる基をいう。具体的には、光照射により生じる分子の配向誘起または異性化反応、二量化反応、光架橋反応もしくは光分解反応等の液晶配向能の起源となる光反応に関与する基が挙げられる。中でも、二量化反応または光架橋反応に関与する基が、配向性に優れる点で好ましい。光反応性基として、不飽和結合、特に二重結合を有する基が好ましく、炭素-炭素二重結合(C=C結合)、炭素-窒素二重結合(C=N結合)、窒素-窒素二重結合(N=N結合)および炭素-酸素二重結合(C=O結合)からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する基が特に好ましい。
【0110】
C=C結合を有する光反応性基としては、ビニル基、ポリエン基、スチルベン基、スチルバゾール基、スチルバゾリウム基、カルコン基およびシンナモイル基等が挙げられる。C=N結合を有する光反応性基としては、芳香族シッフ塩基、芳香族ヒドラゾンなどの構造を有する基が挙げられる。N=N結合を有する光反応性基としては、アゾベンゼン基、アゾナフタレン基、芳香族複素環アゾ基、ビスアゾ基、ホルマザン基、および、アゾキシベンゼン構造を有する基等が挙げられる。C=O結合を有する光反応性基としては、ベンゾフェノン基、クマリン基、アントラキノン基およびマレイミド基等が挙げられる。これらの基は、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリルオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、ハロゲン化アルキル基などの置換基を有していてもよい。
【0111】
中でも、光二量化反応に関与する光反応性基が好ましく、光配向に必要な偏光照射量が比較的少なく、かつ、熱安定性や経時安定性に優れる光配向膜が得られやすいという点で、光反応性基はシンナモイル基およびカルコン基が好ましい。特に、液晶硬化膜が重合性基として(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性液晶化合物から形成される場合、配向膜を形成する光反応性基を有するポリマーとしてポリマー側鎖の末端部が桂皮酸構造となるようなシンナモイル基を有するものを用いると液晶硬化膜との密着性を向上させることができる。
【0112】
光配向膜形成用組成物に含まれる溶媒としては、重合性液晶組成物に用い得る溶媒として先に例示した溶媒と同様のものが挙げられ、光反応性基を有するポリマーあるいはモノマーの溶解性に応じて適宜選択することができる。
【0113】
光配向膜形成用組成物中の光反応性基を有するポリマーまたはモノマーの含有量は、ポリマーまたはモノマーの種類や目的とする光配向膜の厚みによって適宜調節できるが、光配向膜形成用組成物の質量に対して、少なくとも0.2質量%とすることが好ましく、0.3~10質量%の範囲がより好ましい。光配向膜の特性が著しく損なわれない範囲で、光配向膜形成用組成物は、ポリビニルアルコールやポリイミドなどの高分子材料や光増感剤を含んでいてもよい。
【0114】
配向膜を形成すべき表面に光配向膜形成用組成物を塗布する方法としては、配向性ポリマー組成物を塗布する方法と同様の方法が挙げられる。塗布された光配向膜形成用組成物から、溶媒を除去する方法としては例えば、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥及び減圧乾燥法等が挙げられる。
【0115】
偏光を照射するには、基板フィルム上に塗布された光配向膜形成用組成物から、溶媒を除去したものに直接、偏光UVを照射する形式でも、基材フィルム側から偏光を照射し、偏光を透過させて照射する形式でもよい。また、当該偏光は、実質的に平行光であると特に好ましい。照射する偏光の波長は、光反応性基を有するポリマーまたはモノマーの光反応性基が、光エネルギーを吸収し得る波長領域のものがよい。具体的には、波長250~400nmの範囲のUV(紫外線)が特に好ましい。当該偏光照射に用いる光源としては、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、KrF、ArFなどの紫外光レーザーなどが挙げられ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプがより好ましい。これらの中でも、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプおよびメタルハライドランプが、波長313nmの紫外線の発光強度が大きいため好ましい。前記光源からの光を、適当な偏光子を通過して照射することにより、偏光UVを照射することができる。かかる偏光子としては、偏光フィルターやグラントムソン、グランテーラーなどの偏光プリズムやワイヤーグリッドタイプの偏光子を用いることができる。
【0116】
なお、ラビングまたは偏光照射を行う時に、マスキングを行えば、液晶配向の方向が異なる複数の領域(パターン)を形成することもできる。
【0117】
グルブ(groove)配向膜は、膜表面に凹凸パターンまたは複数のグルブ(溝)を有する膜である。等間隔に並んだ複数の直線状のグルブを有する膜に重合性液晶化合物を塗布した場合、その溝に沿った方向に液晶分子が配向する。
【0118】
グルブ配向膜を得る方法としては、感光性ポリイミド膜表面にパターン形状のスリットを有する露光用マスクを介して露光後、現像およびリンス処理を行って凹凸パターンを形成する方法、表面に溝を有する板状の原盤に、硬化前のUV硬化樹脂の層を形成し、形成された樹脂層を基材等へ移してから硬化する方法、および、配向膜を形成すべき表面に形成した硬化前のUV硬化樹脂の膜に、複数の溝を有するロール状の原盤を押し当てて凹凸を形成し、その後硬化する方法等が挙げられる。
【0119】
配向膜(配向性ポリマーを含む配向膜または光配向膜)の厚みは、通常10nm以上10000nm以下の範囲であり、好ましくは10nm以上2500nm以下の範囲であり、より好ましくは10nm以上1000nm以下の範囲であり、さらに好ましくは10nm以上500nm以下、特に好ましい50nm以上250nm以下の範囲である。
【0120】
(偏光子)
本発明の光学積層体を構成する偏光子は、入射する自然光から直線偏光を取り出す機能を有するフィルムであり、二色性色素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムである。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂のケン化物を用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体(例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体等)が挙げられる。酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類等が挙げられる。
【0121】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85~100モル%程度であり、好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールも使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000~10,000程度であり、好ましくは1,500~5,000の範囲である。
【0122】
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルムの原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものでなく、公知の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系原反フィルムの膜厚は、例えば、10~150μm程度とすることができる。
【0123】
偏光子は、通常、このようなポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより、二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、およびホウ酸水溶液による処理後に水洗処理を行う工程を経て製造される。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより、二色性色素がポリビニルアルコール系樹脂フィルムに含まれることとなる。かかる製造方法にて偏光子を製造する場合、偏光子は二色性色素を含む延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムとなる。
【0124】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素の染色前に行なってもよく、染色と同時に行なってもよく、または染色の後に行なってもよい。一軸延伸を染色の後で行なう場合には、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行なってもよく、ホウ酸処理中に行なってもよい。これらの複数の段階で一軸延伸を行なうことも可能である。一軸延伸にあたっては、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよく、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、一軸延伸は、大気中で延伸を行なう乾式延伸であってもよく、溶剤を用い、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させた状態で延伸を行なう湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、偏光子の変形を抑制する観点から、好ましくは8倍以下、より好ましくは7.5倍以下、さらに好ましくは7倍以下である。また、延伸倍率は、偏光子としての機能を発現させる観点からは、通常4.5倍以上である。延伸倍率を前記範囲とすることにより、偏光子の経時的な変形を抑制することができる。
【0125】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色する方法としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。二色性色素としては、例えば、ヨウ素または二色性染料が用いられる。二色性染料には、例えば、C.I.DIRECT RED 39などのジスアゾ化合物からなる二色性直接染料、トリスアゾ、テトラキスアゾ化合物などからなる二色性直接染料が包含される。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に、水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
【0126】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は通常、ヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、水100質量部あたり、通常、0.01~1質量部程度である。またヨウ化カリウムの含有量は、水100質量部あたり、通常、0.5~20質量部程度である。染色に用いる水溶液の温度は、通常20~40℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20~1,800秒程度である。
なお、ヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する前に、膨潤させて染色を容易にするために、該フィルムを水に浸漬してもよい。かかる浸漬処理の温度は通常20~80℃、好ましくは30~60℃であり、浸漬時間(染色時間)は通常20~1800秒である。
【0127】
一方、二色性色素として二色性の有機染料を用いる場合は通常、水溶性二色性染料を含む水溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性有機染料の含有量は、水100質量部あたり、通常、1×10-4~10質量部程度であり、好ましくは1×10-3~1質量部であり、さらに好ましくは1×10-3~1×10-2質量部である。この水溶液は、硫酸ナトリウム等の無機塩を染色助剤として含んでいてもよい。染色に用いる二色性染料水溶液の温度は、通常、20~80℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常、10~1,800秒程度である。
【0128】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は通常、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に浸漬する方法により行うことができる。このホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は、水100質量部あたり、通常2~15質量部程度であり、好ましくは5~12質量部である。二色性色素としてヨウ素を用いた場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましく、その場合のヨウ化カリウムの含有量は、水100質量部あたり、通常0.1~15質量部程度であり、好ましくは5~12質量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、通常60~1,200秒程度であり、好ましくは150~600秒、さらに好ましくは200~400秒である。ホウ酸処理の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50~85℃、さらに好ましくは60~80℃である。
【0129】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬する方法により行うことができる。水洗処理における水の温度は、通常5~40℃程度である。また浸漬時間は、通常1~120秒程度である。
【0130】
水洗後に乾燥処理が施されて、偏光子が得られる。乾燥処理は例えば、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行うことができる。乾燥処理の温度は、通常30~100℃程度であり、好ましくは50~80℃である。乾燥処理の時間は、通常60~600秒程度であり、好ましくは120~600秒である。乾燥処理により、偏光子の水分率は実用程度にまで低減される。その水分率は、通常5~20質量%程度であり、好ましくは8~15質量%である。水分率が上記範囲内であると、適度な可撓性を有し、かつ、熱安定性に優れる偏光子を得られる。
【0131】
こうしてポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色、ホウ酸処理、水洗および乾燥をして得られる。
【0132】
偏光子の厚さは、好ましくは5~40μm、より好ましくは5~20μmである。
【0133】
(透明保護フィルム)
本発明の光学積層体は、偏光子の位相差フィルムとは反対側の面に接着剤層を介して貼合された透明保護フィルムを含む。偏光子は膜厚が薄く、その表面が損傷しやすいことから、通常、外部からの損傷や汚れを防止するために偏光子の両面に保護フィルムを備えていることが多いが、本発明の光学積層体において、偏光子の位相差フィルム側の面には保護フィルムは積層されない。これによって、より薄型で、斜め反射率の低い光学積層体となり得る。
【0134】
本発明において該透明保護フィルムは、90%以上、より好ましくは92%以上の全光線透過率を有する。全光線透過率が上記下限値以上であると、透明性が高く、光学特性に優れる光学積層体を構成できる。基材フィルムにおける全光線透過率の上限値は特に限定されず、100%以下であればよい。全光線透過率は、例えば、JIS K 7361に従い測定できる。
【0135】
また、前記透明保護フィルムにおける380nm透過率は30%以下であり、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下である。透明保護フィルムの380nm透過率が上記上限以下であると、該透明保護フィルムを含む光学積層体を画像表示装置に組み込んだ場合に、視認側において曝される紫外線から光学積層体の内部を構成する層(偏光子や液晶硬化膜など)を保護することができる。透明保護フィルムの380nm透過率の下限値は特に限定されるものではなく、0%であってもよい。透明保護フィルムにおける380nm透過率を30%以下にするために、透明保護フィルムは紫外線吸収剤等を含んでいてもよい。380nm透過率は、例えば、分光光度計に従い測定できる。
【0136】
接着剤層を介して偏光子と貼合される透明保護フィルムとしては、上記の全光線透過率および380nm透過率を満たすものであれば、公知の樹脂フィルムを用いることができる。透明保護フィルムを構成し得る樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびノルボルネン系ポリマーのようなポリオレフィン;環状オレフィン系樹脂;ポリビニルアルコール;ポリエチレンテレフタレート;ポリメタクリル酸エステル;ポリアクリル酸エステル;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、およびセルロースアセテートプロピオネートのようなセルロースエステル;ポリエチレンナフタレート;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリフェニレンスルフィドおよびポリフェニレンオキシドなどが挙げられる。このような樹脂を、溶媒キャスト法、溶融押出法等の公知の手段により製膜してフィルム状にすることができる。透明保護フィルムの表面には、シリコーン処理のような離型処理、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0137】
本発明の一実施態様において透明保護フィルムは、好ましくは100g/m/24時間以上、より好ましくは150g/m/24時間以上、さらに好ましくは200g/m/24時間以上の透湿度を有する。透明保護フィルムの透湿度が上記下限値以上であると、乾燥固化型接着剤を用いて位相差フィルムと偏光子とを積層して光学積層体を形成する際に、位相差フィルムを構成する基材フィルムに加えて透明保護フィルムからも乾燥固化型接着剤中の溶媒を効率よく除去することができる。これにより、屈曲した際に基材フィルム上に形成される液晶硬化膜における変形と光学積層体としての変形とが互いに追従しやすくなり、繰り返し屈曲させた場合にも屈曲点における歪みの発生が生じ難い光学積層体を得ることができる。また、基材フィルムのみが高い透湿度を有する場合と比較して、接着剤中の溶媒を除去する時間を短くし得るため、生産性の点においても有利であり得る。透明保護フィルムの透湿度の上限は特に限定されるものではないが、通常、1000g/m/24時間以下、好ましくは500g/m/24時間以下である。透明保護フィルムの透湿度は、基材フィルムの透湿度と同様の方法により測定できる。
【0138】
100g/m/24時間以上の透湿度を有する透明保護フィルムを用いる場合、透明保護フィルムは、基材フィルムと同じであっても異なっていてもよい。
【0139】
透明保護フィルムの厚みは、所望する光学積層体の構成にあわせて適宜決定することができるが、光学積層体の薄型化、加工性、屈曲性および強度等の観点から、通常、5μm~300μmであり、好ましくは20μm~200μm、より好ましくは20μm~150μmである。
【0140】
以下、本発明の光学積層体の層構成の一例を図1および図2に基づいて説明するが、本発明の光学積層体はこれらの態様に限定されるものではない。
図1に示す光学積層体100は、位相差フィルム1と、前記位相差フィルムの一方の面に接着剤層2を介して積層された偏光子3と、さらに、偏光子3の位相差フィルム1とは反対側の面に接着剤層4を介して積層された透明保護フィルム5とからなっている。図1に示す光学積層体100において、位相差フィルム1は、基材フィルム11上に配向膜12を介して形成された液晶硬化膜13からなる。
【0141】
本発明の光学積層体は、位相差フィルムと偏光子と透明保護フィルム、および、これらをそれぞれ互いに接着させる接着剤層に加えて、画像表示装置等に組み込まれ得る各種機能を有する他の層を含んで構成されていてもよいが、互いに隣接してなる、位相差フィルム/接着剤層/偏光子/接着剤層/透明保護フィルムの層構成中に他の層が組み込まれることはない。他の層としては、例えば、光学積層体を画像表示装置に組み込むための粘接着剤層、例えば、フィルム面に対して液晶化合物が垂直方向に配向するような、液晶硬化膜(x)とは異なる光学特性を有する液晶硬化膜を含む第2の位相差フィルムなどが挙げられる。
【0142】
本発明において、位相差フィルムは、位相差フィルムを構成する基材フィルムおよび液晶硬化膜のいずれの側で偏光子と、接着剤層を介して積層されていてもよい。例えば、図1に示す光学積層体100においては、位相差フィルム1を構成する基材フィルム11が接着剤層2を介して偏光子3と積層されている。一方、図2に示す光学積層体100においては、位相差フィルム1を構成する液晶硬化膜13が接着剤層2を介して偏光子3と積層されている。
【0143】
本発明の光学積層体を画像表示装置等に組み込む際に、位相差フィルムを構成する液晶硬化膜(x)が光学積層体と画像表示セル等の画像表示装置を構成する部材と接着するための粘着剤層と接していない場合、光学積層体の耐熱性が向上しやすい。したがって、本発明の一実施態様において、位相差フィルムが該位相差フィルムを構成する液晶硬化膜側で、位相差フィルムと偏光子とを接着させる接着剤層と接していることが好ましい。
【0144】
本発明の光学積層体は、位相差フィルムと偏光子と透明保護フィルムとを、それぞれ、接着剤を介して貼合させることにより製造することができる。接着剤として、乾燥固化型接着剤を用いる場合、位相差フィルム、偏光子および/または透明保護フィルムの貼合面に乾燥固化型接着剤を塗布/注入して、位相差フィルム/接着剤層/偏光子/接着剤層/透明保護フィルムの積層体を形成した後、該積層体から接着剤中の溶媒を乾燥、除去し、硬化させることにより、各層を貼合することができる。
【0145】
この乾燥処理および/または溶媒の除去は、例えば熱風を吹き付けることにより行うことができ、その温度は、溶媒の種類にもよるが、通常30~200℃、好ましくは35~150℃、より好ましくは40~100℃、さらに好ましくは50~100℃の範囲内である。また、乾燥時間は通常10秒~30分程度である。
【0146】
また、活性エネルギー線硬化型接着剤を用いる場合には、活性エネルギー線を照射することによって活性エネルギー線硬化型接着剤を硬化させることにより接着剤層が得られる。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線が好ましく、紫外線がより好ましい。光源としては、具体的に、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、およびメタルハライドランプなどが挙げられる。
【0147】
活性エネルギー線硬化型接着剤への光照射強度は、活性エネルギー線硬化型接着剤の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度は、通常、10~3,000mW/cmである。活性エネルギー線硬化型接着剤への光照射時間は、硬化させる活性エネルギー線硬化型接着剤によって適宜選択すればよく、特に制限されるものではないが、通常0.1秒~10分であり、好ましくは1秒~5分、より好ましくは5秒~3分、さらに好ましくは10秒~1分である。このような紫外線照射強度で1回または複数回照射すると、その積算光量は、通常10~3,000mJ/cm、好ましくは50~2,000mJ/cm、より好ましくは100~1,000mJ/cmである。
【0148】
本発明の光学積層体は、Roll to Roll方式により連続的に製造することができる。例えば、ロール状に巻回された基材フィルムと液晶硬化膜(x)とを含む位相差フィルムを作製し、この位相差フィルムを巻出しながら搬送して、各層を接着するための接着剤を用いて、該位相差フィルム上に別途作製した偏光子および透明保護フィルムを順に積層した後、接着剤を乾燥または光硬化等によって硬化させることにより、連続的に製造し得る。
したがって、本発明の一実施態様において、本発明の光学積層体は、ロール状に巻回された光学積層体ロールの形態であり得る。
【0149】
位相差フィルムと偏光子とを含んでなる本発明の光学積層体は楕円偏光板でもあり得るため、本発明は、本発明の光学積層体を含む楕円偏光板を包含する。
【0150】
本発明の一実施態様においては、本発明の光学積層体および楕円偏光板を構成する液晶硬化膜の遅相軸(光軸)と偏光子の吸収軸との成す角が45±5°となるように積層することが好ましい。
【0151】
本発明の楕円偏光板は、さまざまな表示装置に用いることができる。
表示装置とは、表示素子を有する装置であり、発光源として発光素子または発光装置を含む。表示装置としては、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、タッチパネル表示装置、電子放出表示装置(例えば電場放出表示装置(FED)、表面電界放出表示装置(SED))、電子ペーパー(電子インクや電気泳動素子を用いた表示装置、プラズマ表示装置、投射型表示装置(例えばグレーティングライトバルブ(GLV)表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を有する表示装置)および圧電セラミックディスプレイなどが挙げられる。液晶表示装置は、透過型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置、直視型液晶表示装置および投写型液晶表示装置などのいずれをも含む。これらの表示装置は、2次元画像を表示する表示装置であってもよいし、3次元画像を表示する立体表示装置であってもよい。特に本発明の楕円偏光板は有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置および無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置に好適に用いることができ、本発明の積層体は液晶表示装置およびタッチパネル表示装置に好適に用いることができる。これらの表示装置は、干渉ムラの生じ難い本発明の積層体を備えることにより、良好な画像表示特性を発現することができる。
【0152】
本発明の一実施態様において、上記表示装置は、フレキシブル画像表示装置であることが好ましく、本発明は、本発明の楕円偏光板を含むフレキシブル画像表示装置も包含する。
【0153】
本発明の楕円偏光板を有するフレキシブル画像表示装置は、ウインドウとタッチセンサとをさらに有することが好ましい。
フレキシブル画像表示装置は、例えば、フレキシブル画像表示装置用積層体と、有機EL表示パネルとからなり、有機EL表示パネルに対して視認側にフレキシブル画像表示装置用積層体が配置され、折り曲げ可能に構成されている。フレキシブル画像表示装置用積層体としては、上述の本発明の楕円偏光板に加え、ウインドウ、(タッチパネル)タッチセンサ等が含まれ得る。それらの積層順は任意であるが、視認側からウインドウ、楕円偏光板、タッチセンサの順、または、ウインドウ、タッチセンサ、楕円偏光板の順に積層されていることが好ましい。
【0154】
タッチセンサの視認側に楕円偏光板が存在すると、タッチセンサのパターンが視認されにくくなり表示画像の視認性がよくなるので好ましい。それぞれの部材は接着剤、粘着剤等を用いて積層することができる。また、フレキシブル画像表示装置用積層体は、前記ウインドウ、楕円偏光板、タッチセンサのいずれかの層の少なくとも一面に形成された遮光パターンを具備することができる。
【0155】
ウインドウは、フレキシブル画像表示装置の視認側に配置され、その他の構成要素を外部からの衝撃または温湿度等の環境変化から保護する役割を担っている。従来、このような保護層としてはガラスが使用されてきたが、フレキシブル画像表示装置におけるウインドウはガラスのようにリジッドで堅いものではなく、フレキシブルな特性を有する。前記ウインドウは、フレキシブルな透明基材からなり、少なくとも一面にハードコート層を含んでいてもよい。
【0156】
フレキシブル画像表示装置用積層体を構成するウインドウ、タッチセンサ等としては、特に限定されず、従来公知のものを採用し得る。
【実施例
【0157】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお、例中の「%」および「部」は、特記ない限り、それぞれ質量%および質量部を意味する。
【0158】
〔実施例1〕
(1)光配向膜形成用組成物の作製
下記化学式で表される数平均分子量28000のポリマー(1)2部とo-キシレン 98部とを混合し、得られた混合物を80℃で1時間攪拌することにより、光配向膜形成用組成物を得た。
【0159】
ポリマー(1)
【化3】
〔式中、Meはメチル基を表す。〕
【0160】
(2)液晶硬化膜形成用の重合性液晶組成物の調製
下記構造の重合性液晶化合物A-1(86.0部)と、重合性液晶化合物A-2(14.0部)と、ポリアクリレート化合物(レベリング剤/BYK-361N;BYK-Chemie社製)(0.12部)と、2-ジメチルアミノ-2-ベンジル-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン(光重合開始剤/イルガキュア369;チバ スペシャルティケミカルズ社製)(3.0部)と、LALOMER LR9000(BASFジャパン社製)(2.0部)とを混合した。さらに、固形分濃度が9%となるようにアニソールを添加した。重合性液晶化合物A-1および重合性液晶化合物A-2を含む重合性液晶組成物(A1)を得た。
なお、重合性液晶化合物A-1は、特開2010-31223号公報に記載の方法で合成した。クロロホルム中で測定した重合性液晶化合物A-1の極大吸収波長λmax(LC)は350nmであった。
【0161】
重合性液晶化合物A-1:
【化4】
【0162】
重合性液晶化合物A-2:
【化5】
【0163】
(3)位相差フィルムの作製
トリアセチルセルロースフィルム(コニカミノルタ社製KC4CZ-TAC、厚さ40μm)を、コロナ処理装置(AGF-B10;春日電機株式会社製)を用いて出力0.3kW、処理速度3m/分の条件で1回処理した。コロナ処理を施した表面に、前記光配向膜形成用組成物をバーコーター塗布し、80℃で1分間乾燥し、偏光UV照射装置(偏光子ユニット付SPOT CURE SP-7;ウシオ電機株式会社製)を用いて、100mJ/cmの積算光量で偏光UV露光を実施し、光配向膜を形成した。得られた光配向膜の厚みをエリプソメータ M-220(日本分光株式会社製)で測定したところ、100nmであった。
【0164】
以下の方法に従い、位相差フィルムの基材フィルムとして用いた前記トリアセチルセルロースフィルム(KC4CZ-TAC)の透湿度および全光線透過率を測定した。
(透湿度の測定)
JIS Z 0208に規定されるカップ法により、温度40℃、相対湿度90%におけるプロテクトフィルムの透湿度〔g/(m2・24hr)〕を測定した。上記TACフィルムの透湿度は、370g/m/24時間であった。
【0165】
(全光線透過率の測定)
JIS K7361に準拠して、(株)村上色彩技術研究所製のヘイズメータHM150を用いて全光線透過率を測定した。上記TACフィルムの全光線透過率は93%であった。
【0166】
また、基材である上記TACフィルムの波長550nmにおける位相差値〔Re(550)およびRth(550)〕を測定したところ、略0であった。
【0167】
続いて、前記光配向膜上に、先に調製した重合性液晶化合物を含む重合性液晶組成物(A1)を、バーコーターで塗布し、120℃で1分間乾燥した。その後、高圧水銀ランプ(ユニキュアVB-15201BY-A;ウシオ電機株式会社製)を用いて、重合性液晶組成物(A1)を塗布した面側から紫外線を照射(窒素雰囲気下、波長313nmにおける積算光量:500mJ/cm)することにより、トリアセチルセルロースフィルム(基材フィルム)/光配向膜/液晶硬化膜からなる積層体である位相差フィルムを形成した。得られた液晶硬化膜の厚みをレーザー顕微鏡(LEXT;オリンパス株式会社製)で測定したところ、2.3μmであった。
【0168】
得られた位相差フィルムの波長550nmにおける位相差値を測定したところ、Re(550)=140nmであった。また、得られた位相差フィルムの波長450nmおよび波長650nmにおける位相差値を測定したところ、Re(450)/Re(550)=0.85、Re(650)/Re(550)=1.05であった。
【0169】
(4)偏光子の作製(ヨウ素PVA型偏光子)
厚さ30μmのポリビニルアルコールフィルム(PVA:平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上)を、乾式延伸により約5倍に一軸延伸し、さらに緊張状態を保ったまま、40℃の純水に40秒間浸漬した。その後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の質量比が0.044/5.7/100の染色水溶液に28℃で30秒間浸漬して染色処理を行った。次に、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の質量比が11.0/6.2/100のホウ酸水溶液に70℃で120秒間浸漬した。引き続き、8℃の純水で15秒間洗浄した後、300Nの張力で保持した状態で、60℃で50秒間、次いで75℃で20秒間乾燥して、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素が吸着配向している厚さ12μmの偏光子を得た。
【0170】
(5)光学積層体の作製
上記で作製した位相差フィルムおよび偏光子、並びに、透明保護フィルムとしてトリアセチルセルロースフィルム(TAC:コニカミノルタオプト(株)製「KC4UY」)をこの順に積層させ、前記位相差フィルムのトリアセチルセルロース側と偏光子が、並びに該偏光子の位相差フィルムとは反対側に前記透明保護フィルムのトリアセチルセルロースが接するように水系の乾燥固化型接着剤を注入し、偏光子の吸収軸と位相差フィルムにおける液晶硬化膜の遅相軸が45°となるようニップロールで貼り合わせた。得られた貼合物の張力を430N/mに保ちながら、60℃で2分間乾燥して、液晶硬化膜/光配向膜/基材フィルム/接着剤層/偏光子/接着剤層/透明保護フィルムからなる光学積層体I(楕円偏光板)を得た。
なお、上記水系の乾燥固化型接着剤は、水100部に、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(クラレポバールKL318;株式会社クラレ製)3部と、水溶性ポリアミドエポキシ樹脂(スミレーズレジン650;住化ケムテックス株式会社製、固形分濃度30%の水溶液)1.5部とを添加して調製した。
【0171】
透明保護フィルムの透湿度および全光線透過率を、前述した基材フィルムにおける測定方法と同様にして測定したところ、透湿度は350g/m/24時間、全光線透過率は93%であった。
【0172】
また、透明保護フィルムの380nm透過率を、分光光度計(島津製作所株式会社製 UV-3150)に偏光子付フォルダーをセットした装置を用いてダブルビーム法により測定した。該フォルダーは、リファレンス側は光量を50%カットするメッシュを設置した。透明保護フィルムの380nm透過率は8%であった。
【0173】
(6)光学積層体の評価
(i)屈曲性の評価
屈曲性の評価は、JIS-K-5600-5-1に記載の塗料一般試験方法―耐屈曲性(円筒形マンドレル法)の方法を用いて、以下のように行った。
光学積層体を25mm×200mm角に切り取り、円筒型マンドレル法耐屈曲性試験機タイプII型(TP技研株式会社製)を用いて、温度25℃、相対湿度55%RHの条件下で、直径が6mm(屈曲半径R=3mm)のマンドレル棒に、位相差フィルムの液晶硬化層を外側にして巻きつけて屈曲性試験を行った。試験後の光学積層体を用いて、暗室環境下にて照明透過光で目視確認し、クラックの発生状況を観察したところ、割れが視認できたものを「×」とし、割れが視認できなかったものを「○」と判定した。結果を表1に示す。
【0174】
(ii)斜め反射率の評価
光学積層体の斜め反射率を、以下のようにして測定した。光学積層体の位相差フィルムに由来する側(光学積層体Iの場合、液晶硬化膜)と反射板(鏡面アルミニウム板)とをアクリル粘着剤を用いて貼合して測定サンプルを作製した。
分光測色計(コニカミノルタ(株)製CM3700A)を用いて、測定サンプルに8°方向からD65光源の光を入射して斜め反射率(反射Y値)を測定した。斜め反射率が1%以上6%未満であれば○、6%以上8%未満であれば△、8%以上であれば×とした。結果を表1に示す。
【0175】
(iii)耐熱試験の評価
光学積層体の位相差フィルムに由来する側とガラス板とをアクリル粘着剤を用いて貼合して測定サンプルを作製した。
得られた測定サンプルを85℃のオーブンに投入して500時間経過後、面内位相差値を測定して耐熱試験前後での550nmにおける面内位相差値の変化量を王子計測機器株式会社製のKOBRA-WRを用いて測定した。変化量が1nm以上3nm未満であれば○、3nm以上5nm未満であれば△、5nm以上であれば×とした。結果を表1に示す。
【0176】
〔実施例2〕
位相差フィルムと偏光子を貼合する際、液晶硬化膜側を偏光子と貼合したこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルム/光配向膜/液晶硬化膜/接着剤層/偏光子/接着剤層/透明保護フィルムからなる光学積層体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0177】
〔実施例3〕
透明保護フィルムとしてポリメタクリル酸メチル樹脂フィルム(住友化学株式会社製、透湿度:50g/m/24時間、全光線透過率:93%、380nm透過率:6%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルム/光配向膜/液晶硬化膜/接着剤層/偏光子/接着剤層/透明保護フィルムからなる光学積層体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0178】
〔実施例4〕
透明保護フィルムとして紫外線吸収剤を加えたシクロオレフィンポリマーフィルム(COP;ZF-14;日本ゼオン株式会社製、透湿度:13g/m/24時間、全光線透過率:92%、380nm透過率:8%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、基材フィルム/光配向膜/液晶硬化膜/接着剤層/偏光子/接着剤層/透明保護フィルムからなる光学積層体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0179】
〔比較例1〕
基材フィルムとして、実施例1の透明保護フィルムとして用いたTACフィルムを用い、光学積層体の作製工程にて、透明保護フィルムと偏光子とを実施例1で用いたのと同様の水系の乾燥固化型接着剤にて貼合した後、硬化後の厚みが5μmのアクリル系粘着剤を用いて、偏光子の透明保護フィルムが積層されていない側の面と位相差フィルムの液晶硬化膜側を貼合し、基材フィルムであるトリアセチルセルロースフィルムを剥離したこと以外は実施例1と同様にして、光配向膜/液晶硬化膜/粘着剤層/偏光子/接着剤層/透明保護フィルムからなる光学積層体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0180】
〔比較例2〕
基材フィルムであるトリアセチルセルロースを剥離しなかったこと以外は比較例1と同様にして、基材フィルム/光配向膜/液晶硬化膜/粘着剤層/偏光子/接着剤層/透明保護フィルムからなる光学積層体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0181】
〔参考例1〕
基材フィルムとしてシクロオレフィンポリマーフィルム(COP;ZF-14;日本ゼオン株式会社製、透湿度:13g/m/24時間、全光線透過率:92%、380nm透過率:90%)を用いたこと以外は実施例4と同様にして、基材フィルム/光配向膜/液晶硬化膜/接着剤層/偏光子/接着剤層/透明保護フィルムからなる光学積層体を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0182】
【表1】
【0183】
本発明に従う層構成を有する光学積層体(実施例1~4)は、屈曲性に優れ、斜め反射率が低いことが確認された。
【符号の説明】
【0184】
1:位相差フィルム
2:接着剤層
3:偏光子
4:接着剤層
5:透明保護フィルム
11:基材フィルム
12:配向膜
13:液晶硬化膜
100:光学積層体
図1
図2