(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-27
(45)【発行日】2025-06-04
(54)【発明の名称】物体検出装置、物体検出方法および物体検出システム
(51)【国際特許分類】
G01V 3/12 20060101AFI20250528BHJP
G01S 13/46 20060101ALI20250528BHJP
G01S 5/02 20100101ALI20250528BHJP
【FI】
G01V3/12 A
G01S13/46
G01S5/02 Z
(21)【出願番号】P 2021178970
(22)【出願日】2021-11-01
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】大槻 信也
(72)【発明者】
【氏名】牟田 修
(72)【発明者】
【氏名】高田 圭輔
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-034878(JP,A)
【文献】国際公開第2020/186329(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0351775(US,A1)
【文献】特表2019-518202(JP,A)
【文献】特開2011-066640(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114769(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104267439(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
G01S 5/00-5/14
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
G01S 19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出装置であって、
前記無線端末局が通信波のサブキャリア毎に推定した伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せて送信するフィードバック信号を受信する処理と、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出する処理と、
抽出された前記伝搬チャネル情報の周波数特性に逆フーリエ変換を施して、時間領域のインパルス応答を得る処理と、
前記インパルス応答に窓関数を適用して、情報量が削減された削減インパルス応答を取得する処理と、
前記削減インパルス応答を時系列に結合して時系列伝搬チャネル情報を生成する処理と、
前記時系列伝搬チャネル情報に基づいて前記物体検出を行う処理と、
を実行するように構成された物体検出装置。
【請求項2】
前記窓関数を変更して、窓関数毎に前記物体検出の処理を実行させる処理と、
前記窓関数毎の物体検知率を検出する処理と、
最大の物体検知率を達成する窓関数を、前記削減インパルス応答を生成するための窓関数として採用する処理と、
を更に実行するように構成された請求項
1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出装置であって、
前記無線端末局が通信波のサブキャリア毎に推定した伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せて送信するフィードバック信号を受信する処理と、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出する処理と、
抽出された前記伝搬チャネル情報の周波数特性から、一定の周波数間隔で要素を抽出することにより削減周波数特性を得る処理と、
前記削減周波数特性に逆フーリエ変換を施して、時間領域の削減インパルス応答を取得する処理と
、
前記削減インパルス応答を時系列に結合し
て時系列伝搬チャネル情報を生成する処理と、
前記時系列伝搬チャネル情報に基づいて前記物体検出を行う処理と、
を実行するように構成された物体検出装置。
【請求項4】
前記一定の周波数間隔を変更して、周波数間隔毎に前記物体検出の処理を実行させる処理と、
前記周波数間隔毎の物体検知率を検出する処理と、
最大の物体検知率を達成する周波数間隔を、前記削減周波数特性を得るための周波数間隔として採用する処理と、
を更に実行するように構成された請求項
3に記載の物体検出装置。
【請求項5】
前記時系列伝搬チャネル情報を生成する処理は、前記検出エリアにおいて検出すべき物体が特定の方向に移動するものとして、時系列に生ずる前記伝搬チャネル情報のうち、当該移動の方向に対応する情報を結合して前記時系列伝搬チャネル情報を生成する処理を含む請求項1乃至
4の何れか1項に記載の物体検出装置。
【請求項6】
無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出方法であって、
前記無線基地局が、通信に用いる周波数帯に含まれる複数のサブキャリアの夫々に乗せて、無線端末局に向けて無線信号を送信するステップと、
前記無線端末局が、前記サブキャリア毎に伝搬チャネル情報を推定するステップと、
前記無線端末局が、前記伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せたフィードバック信号を送出するステップと、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出するステップと、
抽出された前記伝搬チャネル情報の周波数特性に逆フーリエ変換を施して、時間領域のインパルス応答を得るステップと、
前記インパルス応答に窓関数を適用して、情報量が削減された削減インパルス応答を取得するステップと、
前記削減インパルス応答を時系列に結合して時系列伝搬チャネル情報を生成するステップ、
前記時系列伝搬チャネル情報に基づいて前記物体検出を行うステップと、
を含む物体検出方法。
【請求項7】
無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出方法であって、
前記無線基地局が、通信に用いる周波数帯に含まれる複数のサブキャリアの夫々に乗せて、無線端末局に向けて無線信号を送信するステップと、
前記無線端末局が、前記サブキャリア毎に伝搬チャネル情報を推定するステップと、
前記無線端末局が、前記伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せたフィードバック信号を送出するステップと、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出するステップと、
抽出された前記伝搬チャネル情報の周波数特性から、一定の周波数間隔で要素を抽出することにより削減周波数特性を得るステップと、
前記削減周波数特性に逆フーリエ変換を施して、時間領域の削減インパルス応答を取得するステップと、
前記削減インパルス応答を時系列に結合して時系列伝搬チャネル情報を生成するステップと、
前記時系列伝搬チャネル情報に基づいて前記物体検出を行うステップと、
を含む物体検出方法。
【請求項8】
通信に用いる周波数帯に含まれる複数のサブキャリアの夫々に乗せて無線信号を送信する無線基地局と、
前記無線信号を受信して、前記サブキャリア毎に伝搬チャネル情報を推定すると共に、当該伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せたフィードバック信号を送出する無線端末局と、
前記無線基地局と前記無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出装置と、を備え、
前記物体検出装置は、
前記フィードバック信号を受信する処理と、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出する処理と、
抽出された前記伝搬チャネル情報の周波数特性に逆フーリエ変換を施して、時間領域のインパルス応答を得る処理と、
前記インパルス応答に窓関数を適用して、情報量が削減された削減インパルス応答を取得する処理と、
前記削減インパルス応答を時系列に結合して時系列伝搬チャネル情報を生成する処理と、
前記時系列伝搬チャネル情報に基づいて前記物体検出を行う処理と、を実行するように構成された物体検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、物体検出装置、物体検出方法および物体検出システムに係り、特に、無線端末局が測定する伝搬チャネル情報に基づいて、特別なデバイスを保持しない物体を検出するうえで好適な物体検出装置、物体検出方法および物体検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の分野では、増加し続ける無線トラヒックを安定的に収容するために、電波の指向性を制御するビームフォーミングの技術など、様々な技術を用いて通信速度の改善が進められている。
【0003】
一方で、無線信号の信号強度情報(例えばRSS(Received Signal Strength))を利用して、通信エリア内における無線端末局の検出や位置情報を提供するサービスが考えられている。そのようなサービスでは、例えば、複数の無線基地局から送信されるビーコン信号のRSSを無線端末局が測定し、測定された複数のRSSから無線端末局の位置が計算される。この方法は、GPS(Global Positioning System)の利用が困難な屋内環境における測位システムとして広く利用されている。
【0004】
また、下記の非特許文献1に開示されているように、デバイスフリー型の検出方法も知られている。デバイスフリー型の検出方法では、アンテナなどの特別なデバイスを保持しない物体、例えば人などの対象物を検出することができる。
【0005】
デバイスフリー型の検出方法は、検出エリア内に固定された無線基地局と無線端末局とが存在する環境で用いられる。無線端末局は、無線基地局から送信されてくる無線信号に基づいて伝搬チャネル情報(CSI)を測定する。CSIには、無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体の有無、或いは物体の状態が反映される。そして、物体検出は、CSIに表れる変動特性に基づいて実施される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“WiFi Sensing with Channel State Information: A Survey”, YONGSEN MA, GANG ZHOU, and SHUANGQUAN WANG, Computer Science Department, College of William & Mary, USA, ACM Computing Surveys, Vol. 52, No. 3, Article 46. Publication date: June 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、デバイスフリー型の検出方法は、伝搬環境に生ずる小さな変動に基づいて実施される。このため、アンテナ等のデバイスを保持する物体を検出する場合に比して、検出精度の確保が難しい。また、無線端末局が推定するCSIには、ノイズ等に起因する瞬間的な誤差が生ずることがある。このため、単一時刻のCSIを基礎とする従来の物体検出の手法においては、瞬間的な誤差に起因する検知精度の低下も課題となる。
【0008】
本開示は、上記の課題に着目してなされたものであり、ノイズ等に起因する瞬間的な誤差の影響を抑えて、検出エリア内のデバイスフリーの物体を常に高い精度で検出することのできる物体検出装置を提供することを第一の目的とする。
また、本開示は、ノイズ等に起因する瞬間的な誤差の影響を抑えて、検出エリア内のデバイスフリーの物体を常に高い精度で検出するための物体検出方法を提供することを第二の目的とする。
更に、本開示は、ノイズ等に起因する瞬間的な誤差の影響を抑えて、検出エリア内のデバイスフリーの物体を常に高い精度で検出することのできる物体検出システムを提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様は、上記の目的を達成するため、無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出装置であって、
前記無線端末局が通信波のサブキャリア毎に推定した伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せて送信するフィードバック信号を受信する処理と、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出する処理と、
前記伝搬チャネル情報に関わる情報を、時系列に結合して時系列伝搬チャネル情報を生成する処理と、
前記時系列伝搬チャネル情報に基づいて前記物体検出を行う処理と、
を実行するように構成されていることが望ましい。
【0010】
また、本開示の第2の態様は、無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出方法であって、
前記無線基地局が、通信に用いる周波数帯に含まれる複数のサブキャリアの夫々に乗せて、無線端末局に向けて無線信号を送信するステップと、
前記無線端末局が、前記サブキャリア毎に伝搬チャネル情報を推定するステップと、
前記無線端末局が、前記伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せたフィードバック信号を送出するステップと、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出するステップと、
前記伝搬チャネル情報に関わる情報を、時系列に結合して時系列伝搬チャネル情報を生成するステップと、
前記時系列伝搬チャネル情報に基づいて前記物体検出を行うステップと、
を含むことが望ましい。
【0011】
また、本開示の第3の態様は、物体検出システムであって、
通信に用いる周波数帯に含まれる複数のサブキャリアの夫々に乗せて無線信号を送信する無線基地局と、
前記無線信号を受信して、前記サブキャリア毎に伝搬チャネル情報を推定すると共に、当該伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せたフィードバック信号を送出する無線端末局と、
前記無線基地局と前記無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出装置と、を備え、
前記物体検出装置は、
前記フィードバック信号を受信する処理と、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出する処理と、
前記伝搬チャネル情報に関わる情報を、時系列に結合して時系列伝搬チャネル情報を生成する処理と、
前記時系列伝搬チャネル情報に基づいて前記物体検出を行う処理と、を実行するように構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ノイズ等に起因する瞬間的な誤差の影響を抑えて、検出エリア内のデバイスフリーの物体を常に高い精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施の形態1の物体検出システムの構成を説明するための図である。
【
図2】本開示の実施の形態1が対象とする検出エリアの一例を説明するための図である。
【
図3】本開示の実施の形態1において無線端末局が取得する伝搬チャネル情報の概要を説明するための図である。
【
図4】CSIに表れる周波数特性の一例を示す図である。
【
図5】物体の移動に伴う伝送路の変動の影響が時系列でCSIの周波数特性に表れる様子を示す図である。
【
図6】CSIに表れる周波数特性に逆フーリエ変換を施すことで得られるインパルス応答の一例を示す図である。
【
図7】単一時刻のCSIを基礎とする場合の検知率と、時系列に表れるCSIの結合を基礎とする場合の検知率とを対比して表した図である。
【
図8】本開示の実施の形態1において実施される物体検出処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図9】CSIに関わる情報を周波数領域または時間領域で削減する手法を説明するための図である。
【
図10】本開示の実施の形態2において実施される物体検出処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図11】本開示の実施の形態2において実施される情報削減の効果を説明するための図である。
【
図12】本開示の実施の形態3において実施される物体検出処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図13】物体の移動方向が既知である場合に、その移動方向を制限条件として利用する手法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は本開示の実施の形態1の物体検出システムの構成を示すブロック図である。本実施形態のシステムは、無線基地局10を備えている。無線基地局10は、M個のアンテナ12-1~12-Mを備えている。以下、アンテナ12-1~12-Mを区別する必要がない場合は、符号の添え字を省略して、それらを「アンテナ12」と称す。
【0015】
無線基地局10は、予め割り当てられた周波数帯に属する無線信号をアンテナ12の夫々から送信する。より具体的には、この周波数帯には複数のサブキャリアが含まれており、アンテナ12からは、それらのサブキャリア毎に無線信号が送信される。
【0016】
本実施形態のシステムは、無線端末局20を備えている。無線端末局20は、N個のアンテナ22-1~22-Nを備えている。アンテナ22-1~22-Nの夫々は、アンテナ12-1~12-Mの夫々から複数のサブキャリアに乗せて送信されてくる無線信号を受信する。以下、アンテナ22-1~22-Nについても、それらを区別する必要がない場合は、符号の添え字を省略して「アンテナ22」と称す。
【0017】
図2は、無線基地局10のアンテナ12と無線端末局20のアンテナ22とが置かれる環境を説明するための図である。ここには、無線基地局10のアンテナ12が四本、無線端末局20のアンテナ22が一本の場合を例示している。
【0018】
本実施形態において、アンテナ12およびアンテナ22は、何れも固定配置されている。アンテナ12とアンテナ22との間には、検出エリアが設定される。
図2は、検出エリアが(1)~(8)の八つに分割された例を示している。本実施形態では、例えば人のように無線信号を発するデバイスを保持しない対象物が、検出エリア内に存在しているか、更には、検出エリア内のどの領域に、どのような密度で存在しているか、等を検知するシステムを開示する。
【0019】
再び
図1を参照する。無線端末局20のアンテナ22-1~22-Nには、夫々無線部24-1~24-Nが接続されている。以下、無線部24-1~24-Nについても、それらを区別する必要がない場合は、符号の添え字を省略して「無線部24」と称す。
【0020】
無線部24は、アンテナ22が受信した無線信号を、伝搬チャネル情報(CSI)の推定が可能な形式に変換する。無線部24によって変換された信号は、CSI推定部26に提供される。ここで、CSIとは、伝搬路におけるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)のサブキャリア毎の振幅情報、位相情報、およびアンテナ間の相対値の情報である。
【0021】
無線端末局20のアンテナ22-1には、無線基地局10のアンテナ12-1~12-Mから発せられたM種類の無線信号が到達する。他のアンテナ22-2~22-Nについても同様である。無線部24-1~24-Nが、それぞれM種類の無線信号を受信するため、CSI推定部26には、M×N種類の信号が提供される。そして、それらM×N種類の信号の夫々には、サブキャリア毎の周波数要素が含まれている。
【0022】
図3は、CSI推定部26が推定するCSIの概要を説明するための図である。
図3には、M×NのCSI行列がサブキャリア毎に定義され、更に、それらがサンプリング時刻毎に繰り返し定義される様子が示されている。CSI推定部26では、
図3に示すように、サンプリング時刻毎に、周波数方向に並ぶM×N行列の形式でCSIが推定される。
【0023】
図1に示すように、CSI推定部26が推定したCSIは、変換部28に提供される。変換部28は、無線通信に関する標準化技術に従って、M×NのCSI行列を特異値分解により右特異行列に変換する。変換された右特異行列は圧縮部30に提供される。
【0024】
圧縮部30は、標準化技術で定められた既知の手法で、右特異行列の情報を圧縮する。圧縮された情報は、無線部32において無線信号に変換され、フィードバック信号としてアンテナ22-1~22-Nから送信される。
【0025】
本実施形態のシステムは、無線基地局10および無線端末局20に加えて、物体検出装置40を備えている。無線端末局20から発せられたCSIのフィードバック信号は、無線基地局10に受信されると共に、物体検出装置40のアンテナ42にも受信される。アンテナ42により受信された信号は、抽出部44に提供される。
【0026】
抽出部44は、アンテナ42から提供されてくる信号からCSIの圧縮情報を抽出する。抽出された圧縮情報は、抽出部44から解凍部46に提供される。解凍部46は、標準化で定められている解凍方式により、抽出した情報から右特異行列を復元する。これにより、サブキャリア毎の右特異行列、つまり周波数方向に並んだ右特異行列が復元される。
【0027】
図4は、右特異行列の特定要素を抜き出して周波数方向に並べた結果を示す。サブキャリア毎に生成される右特異行列の各要素は、
図4に示すように、周波数特性として表すことができる。
【0028】
解凍部46で復元された右特異行列の情報は、
図1に示すように、情報結合部48と、記憶部50に提供される。記憶部50は、解凍部46から提供される右特異行列の情報を時系列に記憶する。情報結合部48は、過去の情報を記憶部から読み出し、最新の情報と過去の情報とを結合して、幾つかのサンプリング時刻におけるCSIの情報を含む時系列CSIを生成する。
【0029】
図5は、検出エリア内で物体が移動することに伴って伝送路に生ずる変動の影響が、時系列でCSIの周波数特性に表れる様子を示している。
図5の下段に示す三次元の波形は、連続する三つのサンプリング時刻の夫々において得られたCSIの周波数特性を示している。CSIには、検出エリア内に存在する物体の影響が表れる。そして、
図5の上段に示すようにその物体が検出エリア内で移動すると、その影響は、時系列でCSIに表れる。
【0030】
単一時刻のCSI(以下、「瞬時CSI」と称す)に着目して物体検出を行う場合、ノイズ等の影響で瞬間的な誤差が生じれば、その誤差の影響が物体検出の結果にそのまま反映される。これに対して、時系列で並ぶ複数のCSI(以下、「時系列CSI」と称す)を結合させて、その結合の結果から物体検出の結果を導くこととすれば、スペクトログラムを観測するのと同様に、瞬間的な誤差の影響を抑えて検出結果の精度を高めることができる。情報結合部48は、このような精度向上のメリットを得るために、記憶部50の情報を利用して時系列CSIを生成する。
【0031】
情報結合部48で生成された時系列CSIは、
図1に示すように、判定部52に提供される。判定部52では、先ず、時系列CSIに表れる周波数特性に逆フーリエ変換が施される。これにより、周波数領域の情報が時間領域のインパルス応答に変換される。
【0032】
図6は、上記
図4に示す周波数特性に逆フーリエ変換を施すことで得られるインパルス応答の一例を示す。判定部52では、時系列CSIに含まれる瞬時CSIの夫々に表れる周波数特性に対して逆フーリエ変換が施される。これにより、
図6に示すようなインパルス応答が複数連結された情報(以下、「時系列インパルス応答」と称す)が生成される。
【0033】
その後、判定部52は、このようにして生成した時系列インパルス応答に基づいて、既知の手法により物体検出の処理を行う。より具体的には、判定部52は、上記の時系列インパルス応答に機械学習を適用して、既知の手法により物体検出を行う。
【0034】
図7は、瞬時CSIに基づいて実施した物体検出のシミュレーション結果と、時系列CSIに基づいて物体検出を行った場合のシミュレーション結果とを対比して表した図である。
図7に示す例では、時系列CSIを用いることで、瞬時CSIを用いる場合に比して高い平均検知率が得られている。時系列CSIによれば、ノイズ等に起因してCSIに重畳する瞬間的な誤差の影響を抑えることができ、上記の通り物体検出の精度を高めることができる。
【0035】
[物体検出装置における処理の流れ]
図8は、上記の機能を実現するために、本実施形態において物体検出装置40が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。本実施形態において、物体検出装置40は、演算処理ユニットと、プログラムを格納するメモリとを備えていてもよい。そして、
図8に示す処理は、演算処理ユニットが、メモリに格納されているプログラムを実行することにより実現されてもよい。
【0036】
図8に示すルーチンでは、先ず、無線端末局20から発せられたCSIのフィードバック信号が受信される(ステップ100)。
【0037】
次に、受信した信号からCSIの圧縮情報が抽出される(ステップ102)。これにより、
図1に示す抽出部44の機能が実現される。
【0038】
次に、既定の解凍処理により、圧縮情報から右特異行列が復元される(ステップ104)。これにより、
図1に示す解凍部46の機能が実現される。解凍された右特異行列の情報は、記憶部50を構成するメモリに記録される。
【0039】
物体検出装置40は、次に、今回の処理で新たに復元された右特異行列と、記憶部50から読み出した既定数の過去の右特異行列とを含む時系列CSIを生成する(ステップ106)。これにより、
図1に示す情報結合部48の機能が実現される。
【0040】
最後に、上記ステップ106で得た時系列CSIの情報に基づいて物体検出の処理が実行される(ステップ108)。具体的には、先ず、結合された右特異行列に表れる周波数特性に逆フーリエ変換が施される。次いで、その結果生成された結合インパルス応答に、機械学習を適用して物体検出の処理を行う。これにより、
図1に示す判定部52の機能が実現される。
【0041】
以上説明した通り、本実施形態のシステムによれば、複数の瞬時CSIを結合して得た時系列CSIに基づいて物体検出を実施する。これにより、本実施形態のシステムによれば、ノイズ等に起因する瞬間的な誤差の影響を抑えて、常に高い精度で物体検出の機能を実現することができる。
【0042】
実施の形態2.
[実施の形態2の構成]
次に、
図1と共に
図9および
図10を参照して本開示の実施の形態2について説明する。本実施形態の物体検出システムは、実施の形態1の場合と同様に、
図1に示す構成により実現することができる。より具体的には、本実施形態の物体検出システムは、物体検出装置40に、上記
図8に示すルーチンに代えて、後述する
図10に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0043】
[情報削減の原理]
図9は、CSIに含まれる情報量を周波数領域または時間領域で削減する手法を説明するための図である。より具体的には、
図9の左上領域は、瞬時CSIに表れる周波数特性を示す。また、
図9の右上領域は、その周波数特性に逆フーリエ変換を施すことで得られる時間領域のインパルス応答を示す。
【0044】
CSIには、無線信号の遅延波に起因する繰り返しの情報など、物体検出の基礎とするうえで意味の無い、或いは重要でない情報が含まれている。CSIの周波数特性に逆フーリエ変換を施すと、そのような情報は、エイリアスと称される周期的な波形としてインパルス応答上に表れる。
【0045】
図9の右下領域は、右上領域に示すインパルス応答に対して、エイリアスを削除するための窓関数を適用することで得られた情報削減後のインパルス応答(以下、「削減インパルス応答」と称す)を示す。物体検出の観点からすると、エイリアスの部分は大きな意味を持っていない。このため、情報を削減する前のインパルス応答を基礎としても、削減インパルス応答を基礎としても、物体検出の精度に大きな変化は生じない。
【0046】
従って、以下の手順に従えば、物体検出の精度を下げることなく、物体検出の計算負荷を下げることができる。
(1)周波数特性に逆フーリエ変換を施してインパルス応答を得る。
(2)インパルス応答に適当な窓関数を適用して、削減インパルス応答を得る。
(3)削減インパルス応答に基づいて、物体検出の処理を行う。
【0047】
図9の左上領域に示す周波数特性は、波形を構成する破線のドット夫々と、一定間隔で並ぶ〇印の双方が、サブキャリア毎のCSIの要素を表している。そして、ここでは、破線のドットが、物体検出の観点では意味の無い、或いは重要でないデータを表している。他方、〇印は、物体検出の観点で重要なデータを表している。
【0048】
図9の左下領域は、左上領域に示す周波数特性から、重要なデータである〇印だけを抽出することで得た周波数特性(以下、「削減周波数特性」と称す)を示す。削減周波数特性に対して逆フーリエ変換を施すと、
図9右下領域に示すような、無駄のない情報だけを含む削減インパルス応答を得ることができる。
【0049】
従って、上記(1)~(3)の手順に代えて以下の手順に従うことによっても、物体検出の精度を下げることなく、物体検出の計算負荷を下げることが可能である。
(A)周波数特性から一定間隔でデータを抜き出して削減周波数特性を得る。
(B)削減周波数特性に逆フーリエ変換を施して削減インパルス応答を得る。
(C)削減インパルス応答に基づいて、物体検出の処理を行う。
【0050】
上述した実施の形態1では、解凍部46が、解凍した右特異行列の情報を、そのまま情報結合部48および記憶部50に提供する。これに対して、本実施形態のシステムでは、解凍部46が、上述した二つの手法の何れかで情報削減を図った後の情報が情報結合部48および記憶部50に提供される。これにより、情報結合部48は、情報量の削減が図られた時系列CSIを判定部52に提供する。その結果、本実施形態によれば、実施の形態1の場合に比して、検出精度を下げることなく、判定部52の計算負荷を軽くすることができる。
【0051】
[実施の形態2における処理の流れ]
図10は、本実施形態において物体検出装置40が実行するルーチンのフローチャートを示す。
図10において、
図8に示すステップと同様のステップについては、共通する符号を付して、その説明を省略または簡略する。
【0052】
図10に示すルーチンでは、ステップ104において右特異行列が復元された後、情報削減の処理が実行される(ステップ110)。具体的には、上記(1)および(2)の手順により、或いは上記(A)および(B)の手順により、復元した右特異行列の周波数特性に対応する削減インパルス応答が生成される。本実施形態では、上記ステップ104および110の処理により、
図1に示す解凍部46の機能が実現される。
【0053】
次に、今回の処理で新たに生成された削減インパルス応答と、記憶部50から読み出した既定数の過去の削減インパルス応答とが結合されて、時系列CSIが生成される(ステップ112)。これにより、
図1に示す情報結合部48の機能が実現される。
【0054】
以後、ステップ108において、実施の形態1の場合と同様にして、時系列CSIに基づく物体検出が実行される。
【0055】
図11は、本実施形態において実施される情報削減の効果を説明するための図である。図中、左側のバーと中央のバーは、
図7に示す場合と同様に、瞬時CSIおよび時系列CSIを基礎とした場合の物体検知率を示す。また、右側のバーは、情報削減を図った時系列CSIに基づいて実施された物体検出のシミュレーション結果を示す。但し、ここでは、時系列CSIのデータサイズが瞬時CSIのデータサイズの16倍となるように情報結合の条件が定められているものとする。また、情報削減の条件は、データサイズが1/16となるように設定されているものとする。
【0056】
図11に示す結果は、情報量の削減が図られた時系列CSIを用いる物体検出では、瞬時CSIを用いる場合と同様のデータサイズでありながら、瞬時CSIを用いる場合に比して優れた平均検知率が得られることを示している。このように、本実施形態のシステムによれば、実施の形態1の場合と同様の優れた検出精度を、実施の形態1の場合に比して大幅に軽い計算負荷により実現することができる。
【0057】
実施の形態3.
次に、
図1と共に
図12を参照して、本開示の実施の形態3について説明する。本実施形態の物体検出システムは、実施の形態1および2の場合と同様に、
図1に示す構成により実現することができる。より具体的には、本実施形態の物体検出システムは、物体検出装置40に、上記
図8または
図10に示すルーチンに代えて、後述する
図12に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0058】
上述した実施の形態1および2では、情報の結合条件を、予め実験的に定めておくことを前提としている。本実施形態で実行される
図12に示すルーチンは、適切な結合条件を選定する処理を含んでいる。本実施形態の物体検出システムは、
図12に示すルーチンを用いることにより、適切な結合条件を選定する機能を物体検出装置40に与えた点に特徴を有している。
【0059】
図12は、本実施形態において物体検出装置40が実行するルーチンのフローチャートを示す。
図12において、
図8に示すステップと同様のステップについては、共通する符号を付して、その説明を省略または簡略する。
【0060】
図12に示すルーチン中、ステップ106では、実施の形態1の場合と同様に、適当な結合条件により右特異行列が結合される。結合条件としては、例えば、結合する瞬時CSIの数、結合する瞬時CSIの時間間隔等が定められている。この処理に続いて、ステップ108では、結合により得られた時系列CSIに基づく物体検出が実施される。
【0061】
図12に示すルーチンでは、上記の処理に続いて、結合条件の探索が終了したか否かが判別される(ステップ114)。本実施形態では、結合条件の候補が予め定められている。ここでは、候補の全てについてステップ106および108の処理が実施されたか否かが判別される。そして、候補の全てについてそれらの処理が実施されていないと判断された場合は、探索終了の判別が否定される。
【0062】
上記ステップ114で、探索終了の判別が否定された場合は、結合条件が未使用のものに変更される(ステップ116)。以後、変更された結合条件を用いてステップ106および108の処理が再び実施される。
【0063】
一方、上記ステップ114で、探索終了の判別が肯定された場合は、次に、最大の検知率を実現する結合条件が選定される(ステップ118)。
【0064】
最後に、上記の処理で選定された結合条件が、時系列CSIを生成するための条件として決定される(ステップ120)。
【0065】
以上説明した処理によれば、物体検出装置40での使用が想定されている結合条件の中で、最も高い検知率を実現する結合条件を適切に選定することができる。そのような最適な結合条件は、検出エリアの環境が変わることにより変化することがある。本実施形態のシステムによれば、そのような環境変化に追従して、常に最適な結合条件を用いることで、常に高精度な物体検出を実現することができる。
【0066】
[実施の形態3の変形例]
ところで、上述した実施の形態3では、最適な結合条件を選定する機能を、実施の形態1の機能に組み合わせることとしている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではない。最適な結合条件を選定する機能は、実施の形態2で説明した情報削減の機能と組み合わせて用いることとしてもよい。
【0067】
また、上述した実施の形態3では、最大の検知率を実現する結合条件を、最適な結合条件として採用することとしているが、本開示はこれに限定されるものではない。物体の検知精度は、瞬時CSIの結合数が増えるほど改善し易いが、その結合数が増えるほど物体検出の計算負荷が増し、処理に要する時間が長くなる。このため、物体検出についてリアルタイム性が求められる場合には、時間の制限を設けて、時間条件をクリアする条件の中で最大の検知率を達成する条件を最適条件とすることとしてもよい。
【0068】
実施の形態4.
次に、
図1と共に
図13を参照して本開示の実施の形態4について説明する。本実施形態の物体検出システムは、実施の形態1の場合と同様に、
図1に示す構成により実現することができる。
【0069】
上述した実施の形態1では、検出エリアにおいて物体がどのように移動するかを考慮することなく情報の結合条件を設定することとしている。検出エリアが、例えば、人の移動のための「通路」であれば、検出の対象物である人の「移動方向」は、通路の長手方向であると想定できる。また、その場合、「移動の速度」についても、標準的な歩行速度を想定することができる。検出エリアが、例えば道路である場合も、自動車の「移動方向」および「移動速度」は、特定して想定することができる。
【0070】
本実施形態のシステムは、検出エリアにおける物体の「移動方向」が想定できる場合、或いは物体の「移動方向」と「移動速度」の双方が想定できる場合に、それらの想定に基づいて設定した結合条件を用いて瞬時CSIの結合を図る点に特徴を有している。
【0071】
図13は、物体の移動方向が既知である場合に、その移動方向を前提に情報の結合条件を設定する手法を説明するための図である。より具体的には、
図13に示す例では、検出エリアの内部に、5cm間隔で格子状に「位置」が定義されている。
図13に定義された位置の夫々には、何れかのサンプリング時刻における、M×NのCSI行列の何れかの要素を対応付けることができる。
【0072】
検出対象である人が、
図13中にハッチングを付して示す「基準位置」に検出されており、かつ、その移動方向が
図13の上下方向に想定されている場合は、例えば、「基準位置」に対して上下左右の四か所の位置に対応する瞬時CSIを結合して、学習検知のための時系列CSIを生成する。これにより、移動方向に沿って瞬時CSIを結合することができ、かつ、左右方向の誤差をカバーするように瞬時CSIを結合することができる。その結果、本実施形態のシステムによれば、実施の形態1の場合に比して、更に優れた検知精度を実現することができる。
【0073】
また、「移動速度」が想定できる場合は、その移動速度に合わせて、上記の「基準位置」に対して、上下方向、つまり移動方向については、移動速度に応じた数の「位置」を飛ばして、瞬時CSIを抽出する「位置」を決定してもよい。これにより、物体の検出精度を更に高めることができる。
【0074】
[実施の形態4の変形例]
ところで、上述した実施の形態4では、想定される「移動方向」、或いは「移動速度」および「移動速度」の双方を結合条件に反映させる技術を、実施の形態1の構成に組み合わせることとしている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではない。「移動方向」等を結合条件に反映させる技術は、実施の形態2または3の構成と組み合わせることとしてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 無線基地局
20 無線端末局
40 物体検出装置
48 情報結合部
50 記憶部
52 判定部