(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-27
(45)【発行日】2025-06-04
(54)【発明の名称】イオンミリング装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/305 20060101AFI20250528BHJP
H01J 37/30 20060101ALI20250528BHJP
【FI】
H01J37/305 A
H01J37/30 Z
(21)【出願番号】P 2023567321
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2021045995
(87)【国際公開番号】W WO2023112131
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】会田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】高須 久幸
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 健人
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-139938(JP,A)
【文献】特開2019-160575(JP,A)
【文献】特開2010-257856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/04
H01J 37/20
H01J 37/305
(57)【特許請求の範囲】
【請求項10】
請求項9において、
前記温度センサは熱電対であるイオンミリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンミリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミリング装置は、電子顕微鏡観察対象である試料(例えば、金属、半導体、ガラス、セラミックなど)に対して非集束のイオンビームを照射し、スパッタリング現象によって試料表面の原子を弾き飛ばし、無応力で試料表面の研磨や試料の内部構造を露出させる装置である。イオンビーム照射によって研磨した試料表面や露出させた試料の内部構造は、走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡の観察面となる。
【0003】
イオンミリング装置によって試料の内部構造を露出させる場合、試料に遮蔽板を密着させるとともに、試料を遮蔽板に対して削り取りたい量(数μm~数100μmの範囲)だけ突出させ、突出量分をイオンビームで加工する。このようなイオンミリング装置による試料の断面加工においては、遮蔽板に対する試料突出量を一定にするため、遮蔽板から突出された試料の加工面に対して垂直にイオンビームを照射することが一般的である。
【0004】
これに対して、特許文献1はイオンミリング装置による断面加工において、試料突出量が変化してしまう方向に試料を傾斜させる例を開示する。試料に対してイオンビームを照射すると試料内部へのイオンビームの散乱によって、遮蔽板で遮蔽された領域においてアモルファス層の形成やスパッタリング現象が発生し、これにより、遮蔽板に沿った面から数μm程度オーバーハング状に加工される。このため、特許文献1では、イオンビームに対して試料が遮蔽板でマスクされる方向に試料及び遮蔽板を傾斜させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イオンミリング装置で加工する試料の中には、紙や高分子材料などのように熱ダメージの影響を受ける試料がある。熱ダメージを低減させる手法として液体窒素による試料の間接冷却が知られているが、ガラス転移点が比較的高い(0℃以上)試料にとっては冷却温度が極めて低く、本手法の適用は難しい。また、試料の間接冷却が可能であるとしても、遮蔽板の物性と試料の物性(例えば、熱伝達係数、線膨張係数)との乖離が大きい場合、試料の間接冷却によって遮蔽板と試料との間に隙間が生じることにより、あらかじめ設定した突出量から外れる場合がある。この場合、イオンビームの照射領域が変化することにより、目的とした加工結果が得られない。
【0007】
イオンビーム起因により試料の熱ダメージや冷却による加工形状への影響を回避するには、試料の遮蔽板に対する試料突出量を小さくして試料に対するイオンビームの照射領域を減らし、イオンビームに起因する試料の加熱を抑える必要がある。しかしながら、遮蔽板に対する試料の突出量を減らすと、露出させる試料の内部構造の位置によってはイオンミリング装置による断面加工が困難な場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施の形態であるイオンミリング装置は、イオンビームを出射するイオン源と、試料を保持する試料ステージと、イオンビームを遮蔽し、その端面と試料の加工面となる端面とが揃うように配置される遮蔽板と、遮蔽板の端面と試料の端面との境を回転軸として、試料ステージを回転させる試料ステージ駆動機構と、制御部とを有し、イオン源と試料ステージとの相対位置は、イオンビームの中心軸が回転軸と交差するように調整され、制御部は、イオン源からみて試料が遮蔽板から突出する試料突出量が所定の大きさとなるまで、試料ステージ駆動機構により回転軸を中心に試料ステージを回転させた後、イオン源からイオンビームを試料に照射して試料のミリング処理を行う。
【発明の効果】
【0009】
イオンビームによるミリング処理に起因する試料の加熱を抑制しつつ、高いスループットで試料の断面加工を可能にする。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1のイオンミリング装置の構成例(模式図)である。
【
図2】イオン源とイオン源に制御電圧を印加する電源回路とを示す模式図である。
【
図3A】断面加工における試料ステージの回転制御について説明するための図である。
【
図3B】断面加工における試料ステージの回転制御について説明するための図である。
【
図3C】断面加工における試料ステージの回転制御について説明するための図である。
【
図4】実施例1における試料の断面加工のフローチャートである。
【
図5】実施例2のイオンミリング装置の構成例(模式図)である。
【
図6】実施例2における試料の断面加工のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1のイオンミリング装置100の主要部を側面から示した模式図である。
図1では、鉛直方向をZ方向として表示している。イオンミリング装置100は、その主要な構成として、イオン源101、試料ステージ102、試料ステージ駆動機構103、試料105を載置する試料台104、遮蔽板106、アライメント機構107、高圧電源108、制御部109、供給ガス制御部110、試料室111を有する。
【0013】
イオンミリング装置100は、走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡によって試料の表面あるいは断面を観察するための前処理装置として用いられる。このような前処理装置向けのイオン源は、構造を小型化するために有効なペニング方式を採用する場合が多い。本実施例でもイオン源101はペニング方式を採用しており、イオン源101から試料105に向けて、非集束のイオンビームが出射される。制御部109は、高圧電源108からイオン源101の内部電極に印加される電圧や供給ガス制御部110から供給されるアルゴンガスの流量を調整して、イオン源101が放出するイオンビームの出力を制御する。
【0014】
試料105の加工面となる端面P1と遮蔽板106の端面P2とが揃うように、試料105は試料台104に取付けられ、試料ステージ102に保持される。端面P1と端面P2の境が回転軸Rとなり、試料ステージ駆動機構103はX方向に延びる回転軸Rを中心に試料ステージ102を回転させる。また、試料ステージ駆動機構103はZ方向に延びるスイング軸Sを中心に所定の角度範囲で試料ステージ102をスイングさせる。試料105がスイング軸Sを中心として所定の角度範囲でスイングさせられることにより、試料105の加工面に照射されるイオンビーム強度を平均化することができる。
【0015】
イオン源101から照射されるイオンビームの中心軸B、スイング軸S及び回転軸Rは一点で交差するように、イオン源101と試料ステージ102との相対位置が調整される。
図1の構成例ではアライメント機構107を用いて、イオン源101の位置を調整する。
【0016】
図2は、ペニング方式を採用したイオン源101と、イオン源101の電極部品に制御電圧を印加する電源回路とを示す模式図である。電源回路は高圧電源108の一部である。
【0017】
イオン源101は、第1カソード201、第2カソード202、アノード203、永久磁石204、加速電極205、ガス配管206を有する。イオンビームを発生させるため、ガス配管206を通してイオン源101内部にアルゴンガスが注入される。イオン源101内部には、同電位とされる第1カソード201及び第2カソード202が対向して配置されており、第1カソード201と第2カソード202との間にはアノード203が配置されている。カソード201,202とアノード203との間に高圧電源108から放電電圧Vdが印加されることにより電子が発生する。電子はイオン源101内に配置された永久磁石204によって滞留し、ガス配管206から注入されたアルゴンガスと衝突してアルゴンイオンを生成する。アノード203と加速電極205との間には高圧電源108から加速電圧Vaが印加されており、生成されたアルゴンイオンは加速電極205に誘引され、イオンビームとして放出される。
【0018】
図3A~Cを用いて、断面加工における試料ステージの回転制御について説明する。
図3Aにおいて、イオン源101からみた試料105及び遮蔽板106の正面
図301Aと
図1と同じ方向から見た試料105及び遮蔽板106の側面
図302Aとを対応させて示している。回転軸Rを中心に試料ステージ102を回転角θ
1だけ回転させたとき、イオン源101からみて試料105が遮蔽板106から突出している量である試料突出量hは、試料105の厚さをtとして、(式1)で表される。
h=t×sinθ
1 …(1)
この状態で、イオン源101からイオンビームを試料105に照射することにより、イオン源101からみて試料105の遮蔽板106から突出した部分が削られる。この状態での断面加工が終了した状態を
図3Bに示す。
図3Aと同様に、正面
図301Bと側面
図302Bとを対応させて示している。試料105の突出部分が削られることにより、正面
図301Bでは試料105が見えなくなっている。
【0019】
試料105のより内側にある断面を露出させるためには、さらに回転軸Rを中心に試料ステージ102を回転させる。回転軸Rを中心に試料ステージ102を回転角θ
2だけ回転させたときの状態を
図3Cに示す。
図3Aと同様に、正面
図301Cと側面
図302Cとを対応させて示している。このときの回転角θ
2は(式2)で表される。
θ
2=arcsin(h/t) …(2)
この状態で、イオン源101からイオンビームを試料105に照射することにより、イオン源101からみて試料105の遮蔽板106から突出した部分が削られる。さらに、試料105のより内側にある断面を露出させる場合には、回転軸Rを中心とした試料ステージ102の回転とイオンビームによるミリング処理とを繰り返す。
【0020】
ここで、試料突出量hが大きいほど、試料105に対するイオンビームの照射範囲が広がるため、試料105への加熱による影響は増大する。このため、試料加工前に設定する試料突出量hは、試料105がイオンビームによる熱の影響を受けない程度の試料突出量、例えば数μm~10数μm程度になるように設定する。試料105のより内側にある断面を露出させるには、熱の影響を受けない程度の試料突出量hでのミリング処理を繰り返すことによって、試料105に対する加熱の影響を抑制しつつ、高いスループットで目的量の試料加工が可能になる。
【0021】
図4に示すフローチャートは、実施例1のイオンミリング装置100における試料加工開始から終了までの一連の操作を示す。それぞれの操作の詳細について説明する。
【0022】
S01:イオンミリング装置100の試料加工条件を設定する。試料加工条件には、イオン源101の加速電圧及び放電電圧、アルゴンガスの供給量の設定などのミリング処理条件の他、ミリング処理を実行するときの試料突出量h、断面加工を行う加工量などの加工条件などを含む。ただし、望ましい試料突出量hの大きさは材料に依存するため、制御部109は、材料に応じた試料突出量hの大きさをあらかじめ登録しておき、加工を行う材料に応じた試料突出量hを選択できるようにしておくことが望ましい。
【0023】
試料105は試料105の加工面となる端面P1と遮蔽板106の端面P2とを揃えて、試料台104上に載置させる。回転軸R、スイング軸S、イオンビーム中心軸Bが一点で交差するよう、試料ステージ102の位置、アライメント機構107の事前調整を実施した後、試料105の断面加工を開始する。以降の操作は、制御部109により自動的に実行される。
【0024】
S02:制御部109は、試料ステージ駆動機構103により回転軸Rを中心に試料ステージ102を回転させ、試料突出量hになったところで試料ステージ102の回転を停止させる。
【0025】
S03:ステップS01において設定したミリング処理条件により、ミリング処理を実施する。
【0026】
S04:ステップS01において設定した設定した試料突出量hが削れているか確認する。イオン源からみて試料の遮蔽板から突出した部分が削れていれていれば、イオンビームの試料への照射を停止する。本ステップでの判定は、例えば、ミリング処理を開始してから所定の時間が経過したかによって判定してもよく、ミリング処理において発生する微小粒子の量などから判定してもよい。
【0027】
S05:目的の加工量を削れたか確認する。制御部109は、例えば、目的の加工量を得るために必要な試料突出量hのミリング処理の繰り返し回数を算出し、必要な繰り返し回数を実施したか否かにより、判定を行う。目的の加工量に達していない場合には、再度回転軸Rを中心に試料ステージ102を回転させて試料突出量hとし(S02)、ミリング処理を実行する(S03)。
【0028】
S06:目的の加工量に達すれば、加工を終了する。
【実施例2】
【0029】
図5は、実施例2のイオンミリング装置200の主要部を上面から示した模式図である。
図5でも、鉛直方向をZ方向として表示しており、実施例1のイオンミリング装置100と共通する構成については、同じ符号を付して、重複する説明は省略する。また、
図5において、試料ステージ102は試料の加工面となる端面P
1がZ方向を向けた姿勢となっている。
【0030】
イオンミリング装置200は、遮蔽板106に対する試料105の試料突出量hをモニタリングするために、試料ステージ102からX方向に配置されるカメラ112と、試料105の温度を測定する温度センサとして熱電対113とを備える。イオンミリング装置200は、ミリング処理中の試料105をモニタリングすることによって、試料105がミリング処理により熱ダメージを受けることをより確実に回避することが可能になる。
【0031】
具体的には、最大試料温度T1を事前に設定し、熱電対113が検知する試料105の温度が最大試料温度T1を上回ったとき、イオン源101からのイオンビーム照射を自動停止する。また、試料突出量hを定める試料ステージ駆動機構103による回転軸Rを中心とする試料ステージ102の回転についてもカメラ112でモニタリングしながら制御する。
【0032】
図6に示すフローチャートは、実施例2のイオンミリング装置200における試料加工開始から終了までの一連の操作を示す。
図4のフローチャートと同じステップについては、同じ符号を付して、重複する説明は省略し、実施例2のフローチャートにおいて追加されたステップを中心に説明する。
【0033】
S11:加工条件設定(ステップS01)後、制御部109は、熱電対113による試料温度測定機能およびカメラ112によるモニタ機能を起動する(S11)。最大試料温度T1はあらかじめ加工条件設定(S01)において設定されているものとする。制御部109は、材料に応じた最大試料温度T1の大きさをあらかじめ登録しておき、加工を行う材料に応じた最大試料温度T1を選択できるようにしておくことが望ましい。
【0034】
S12:試料突出量hになるまで回転軸Rを中心に試料ステージ102を回転(ステップS02)させた後、試料突出量が正確に調整できていることをカメラ112の撮像画像により確認する(S12)。調整できていなければ、制御部109は制御誤差を解消するよう試料ステージ駆動機構103を制御し、試料ステージ102を回転させて、試料105の位置を調整する。
【0035】
S13~S15:ミリング処理(ステップS03)中において、熱電対113を用いて、試料105が過剰に加熱されないよう制御する。このため、試料温度が設定した最大試料温度T1以上となった場合には、一旦高圧電源108からのイオン源101への電圧の供給を停止してイオン源101からのイオンビームの照射を停止する(ステップS14)。イオンビームの照射停止により、熱電対113で測定される温度が最大試料温度T1を下回ったことを確認できた場合(ステップS15でYES)、ミリング処理を再開する。
【0036】
試料突出量hが削れたかどうかの判定(ステップS04)にカメラ112を用いてもよい。
【0037】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は記述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、イオンビーム中心軸Bと回転軸R、スイング軸Sを一致させるため、アライメント機構107を設けるのではなく、試料ステージ102にX方向、Y方向、Z方向のそれぞれに可動できる機構を設けてもよい。この場合は、イオン源101を動かす代わりに試料ステージ102の位置調整を行うことにより、軸位置の調整を行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
100,200:イオンミリング装置、101:イオン源、102:試料ステージ、103:試料ステージ駆動機構、104:試料台、105:試料、106:遮蔽板、107:アライメント機構、108:高圧電源、109:制御部、110:供給ガス制御部、111:試料室、112:カメラ、113:熱電対、201:第1カソード、202:第2カソード、203:アノード、204:永久磁石、205:加速電極、206:ガス配管、301:正面図、302:側面図。