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特許7688900光重合性組成物、重合体、及び重合体の製造方法
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  • 特許-光重合性組成物、重合体、及び重合体の製造方法 図1
  • 特許-光重合性組成物、重合体、及び重合体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-28
(45)【発行日】2025-06-05
(54)【発明の名称】光重合性組成物、重合体、及び重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20250529BHJP
   C08F 220/20 20060101ALI20250529BHJP
【FI】
C08F220/18
C08F220/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021170062
(22)【出願日】2021-10-18
(65)【公開番号】P2023060446
(43)【公開日】2023-04-28
【審査請求日】2024-04-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔ウェブサイトによる公開〕 掲載日 :令和2年11月2日 掲載アドレス:https://www.fiber.or.jp/jpn/events/2020/autumn/index.html http://www.kcms.jp/fiber2020aki/index.html 〔集会での発表による公開〕 集会名 :繊維学会秋季研究発表会(2020) 公開日 :令和2年11月6日 主催者 :一般社団法人繊維学会 開催場所 :オンライン開催(ZOOM)
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼橋 真二
(72)【発明者】
【氏名】荻野 賢司
(72)【発明者】
【氏名】安里 ルイス
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-105351(JP,A)
【文献】特開2021-070738(JP,A)
【文献】特開2006-111803(JP,A)
【文献】特開2019-026800(JP,A)
【文献】特表2016-505677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)、及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を重合性成分として含む光重合性組成物:
【化1】

[式(1)中、Rは、-C1531-2n基(n=0、1、2又は3)であり、Rは、水素又はメチル基である]
であって、少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)の含有量及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量の合計量が、重合性成分の総量に対して、80質量%以上であり、
2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)が、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びグリセロールトリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種である、光重合性組成物
【請求項2】
少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)の含有量が、重合性成分の総量に対して、10~90質量%であり、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量が、重合性成分の総量に対して、10~90質量%である、請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項3】
少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)が、カルダノールと(メタ)アクリル酸のエステル化合物である、請求項1又は2に記載の光重合性組成物。
【請求項4】
少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)、及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を重合性成分として含む重合体:
【化2】

[式(1)中、Rは、-C1531-2n基(n=0、1、2又は3)であり、Rは、水素又はメチル基である]
であって、少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)の含有量及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量の合計量が、重合性成分の総量に対して、80質量%以上であり、
2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)が、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びグリセロールトリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種である、重合体
【請求項5】
少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)の含有量が、重合性成分の総量に対して、10~90質量%であり、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量が、重合性成分の総量に対して、10~90質量%である、請求項に記載の重合体。
【請求項6】
少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)が、カルダノールと(メタ)アクリル酸のエステル化合物である、請求項4又は5に記載の重合体。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の光重合性組成物を光重合反応により硬化させる工程を含む、重合体の製造方法。
【請求項8】
カルダノールと(メタ)アクリル酸無水物とを反応させ、少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)を用意する工程をさらに含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
多価アルコールと(メタ)アクリル酸無水物とを反応させ、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を用意する工程をさらに含み、多価アルコールが、エチレングリコール及びグリセロールから選択される少なくとも1種である、請求項又はに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光重合性組成物、重合体、及び重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化対策として化石燃料の使用量の削減や再生可能エネルギーの導入等が求められている。バイオベースポリマーはカーボンニュートラルという特性を持ち、石油を出発原料とするプラスチックに代替することで石油資源の消費削減、温室効果ガスの排出削減といった効果が期待されている。
【0003】
バイオベースポリマーの一つとして、カシューナッツの外殻から抽出されるフェノール性の植物油(以下、「CNSL」とも称す。)が、主に塗料や接着剤、樹脂の原料として工業的に利用されている。CNSLの工業的利用例として、フェノール樹脂をはじめ、エポキシ硬化剤、反応希釈剤、木工用塗料、ブレーキライニング用添加剤(フェノール樹脂パーティクル)等が挙げられる。また、タイヤ等のエラストマーへの石油系フェノール樹脂の安価な代替添加剤としても検討されている。
【0004】
カルダノールを原料とした樹脂(塗料やフィルム用途)の製造に関する従来技術について、以下に説明する。
【0005】
フェノール性化合物であるカルダノールを出発原料として、酸又はアルカリ条件下においてホルマリンとの反応によるノボラック又はレゾール樹脂(フェノール樹脂)が製造されている。これらの樹脂は、例えば、建築用部材や自動車部材等に利用されている。また、粒子化したフェノール樹脂パーティクルは、自動車のブレーキライニング用添加剤として用いられている。上記フェノール樹脂の製造工程について以下に記載する。まず、カルダノールを主成分とする原料油をホルムアルデヒド及びヘキサメチレンテトラミンと反応させることによってカシューワニス(有機溶剤を加えて粘度を適当に調節したカルダノールプレポリマー)を製造する。次いで、カシューワニスの側鎖の二重結合部位を酸化重合させる触媒として金属ドライヤーを加えて、酸化重合型の樹脂とする。しかし、このような工程により製造された樹脂は、製造段階または製品化後に人体や環境に対して有害なホルムアルデヒドを発生させ得る。上記方法は、CNSLからフェノール樹脂を製造する方法として最も簡単であるが、製造時にホルマリンや重金属触媒、揮発性有機化合物(VOC)が使用されており、人体や環境に負荷の高い製造方法と言える。
【0006】
そこで、非特許文献1では、環境調和な製造プロセスとして、ホルマリン、重金属触媒、VOCを使用しないエポキシ樹脂の製造方法が報告されている。当該製造方法では、まず、カルダノールを主成分とした原料油にエピクロロヒドリンを反応させることによりカルダノールをエポキシ化させる。次いで、側鎖の二重結合部分を熱酸化重合させることによりエポキシカルダノールプレポリマーを合成する。そして、アミン化合物を加えて架橋させることにより硬化物を得る。また、非特許文献2では、エポキシカルダノールプレポリマーに光カチオン重合開始剤を加え、UV照射する方法により硬化物を得ることが開示されている。
【0007】
特許文献1では、アリルカルダノール(A)とチオール化合物(B)との重合体であり、ジスルフィド結合を有し、532nmのレーザー光を照射したときのラマンシフト1450cm-1におけるピーク強度〔I(1450)〕に対するラマンシフト530cm-1におけるピーク強度〔I(530)〕の比〔I(530)/I(1450)〕が0.10以上である重合体が開示されている。具体的には、特許文献1では、カルダノールを主成分とした原料油にアリルブロマイド又はアリルクロライドを反応させてアリルカルダノールを調製し、アリルカルダノールとチオール化合物とを光重合させることにより硬化物を製造している。
【0008】
カルダノールを原料の一部として利用する手法として、メチルメタクリレート(MMA)の重合体であるポリメチルメタクリレート(PMMA)の製造にあたり、MMAに対してカルダノールメタクリレートをモル分率で0.02~0.10加えて両者を共重合させることにより、熱安定性が向上したPMMAが得られることが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2021-11541号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】S.Kanehashi,et al, J. Appl. Polym. Sci., 132, 42725(2015)
【文献】S.Kanehashi,et al, J. Fiber Sci. Technol., 73, 210-221(2017)
【文献】S.Agarwal,et al, Preparation and characterization of copolymers from methyl methacrylate and cardanyl methacrylate, Die Angewandte Makromolekulare Chemie, 248(1997)95-104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の通り、非特許文献1及び非特許文献2に記載の方法では、ホルマリンや重金属触媒、VOCを使用せずに、バイオマス由来のカルダノールを利用して重合体を得ることができる。また、非特許文献1及び非特許文献2に記載の方法により得られる樹脂は、300℃付近まで熱的に安定であり、また、黄色ブドウ球菌や大腸菌に対する抗菌活性を有しているため、パッケージング材料やコーティング材料への応用に期待されている。しかし、エポキシ化のため、エピクロロヒドリンのような有機ハロゲン化合物が使用されている。有機ハロゲン化合物は、人体や環境に対して有害であり、環境調和型のバイオプラスチックの製造の観点からは、よりグリーンな代替プロセスが望まれる。また、エポキシカルダノールプレポリマーを作製する時の熱処理プロセスは、エネルギーを多く必要とするため、さらなる省エネルギー化が望まれている。また、物性面での課題として、非特許文献1及び非特許文献2に記載の方法により得られる樹脂は、熱重合(酸化重合)を利用しているため、茶褐色に着色する傾向がある。
【0012】
特許文献1に記載の方法も、非特許文献1及び非特許文献2と同様に、ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)、重金属触媒を使用しないため、人体や環境への負荷が少ない。さらに、特許文献1に記載の方法では、熱酸化重合を経ないため、省エネルギーの点で優れており、また、透明な樹脂を得ることができる。しかし、特許文献1に記載の方法は、非特許文献1及び非特許文献2に記載の方法と同様に、有機ハロゲン化合物を使用するため、環境調和型のバイオプラスチックの製造の観点からは、よりグリーンな代替プロセスが望まれる。また、特許文献1に記載の方法で得られる樹脂は、残存チオールによる臭気が残る傾向があり、また、強度や耐熱性の点で改善の余地がある。
【0013】
非特許文献3に記載の方法は、カルダノールメタクリレートを使用して熱安定性に優れた樹脂を得る方法であるが、メチルメタクリレートを主たるモノマーとして使用するものであり、石油資源の消費削減、温室効果ガスの排出削減という目的を十分に満たすものではなかった。また、本発明者らが検討した結果、メチルメタクリレートに対するカルダノールメタクリレートの質量比を増加させると十分な架橋度が得られないという問題が見出された。このため、カルダノールを主たるモノマーとした場合でも架橋度に優れた樹脂を製造できる新たな手法を開発する必要性が明らかとなった。
【0014】
そこで、本開示は、上記課題の少なくとも1つを解決することを目的とする。
【0015】
例えば、本開示は、カルダノール等のバイオマス由来原料を利用して重合体を得ることができる、重合性組成物を提供することを目的とする(A1)。例えば、本開示は、ホルマリン、重金属触媒及び/又はVOCを使用しない、重合性組成物を提供することを目的とする(A2)。例えば、本開示は、エピクロロヒドリン等の有機ハロゲン化合物を使用しない、重合性組成物を提供することを目的とする(A3)。例えば、本開示は、省エネルギーの点で優れている、重合性組成物を提供することを目的とする(A4)。例えば、本開示は、透明性に優れた重合体を得ることができる、重合性組成物を提供することを目的とする(A5)。例えば、本開示は、残存チオールによる臭気がない重合体を得ることができる、重合性組成物を提供することを目的とする(A6)。例えば、本開示は、強度(例えば高い架橋度)に優れた重合体を得ることができる、重合性組成物を提供することを目的とする(A7)。例えば、本開示は、可撓性に優れた重合体を得ることができる、重合性組成物を提供することを目的とする(A8)。例えば、本開示は、耐熱性に優れた重合体を得ることができる、重合性組成物を提供することを目的とする(A9)。本開示は、A1~A9の目的のうち少なくとも1つを達成し得る、重合性組成物を提供することを目的とする。
【0016】
例えば、本開示は、カルダノール等のバイオマス由来原料を利用して得ることができる、重合体を提供することを目的とする(B1)。例えば、本開示は、ホルマリン、重金属触媒及び/又はVOCを使用しないで得ることができる、重合体を提供することを目的とする(B2)。例えば、本開示は、エピクロロヒドリン等の有機ハロゲン化合物を使用しないで得ることができる、重合体を提供することを目的とする(B3)。例えば、本開示は、省エネルギーの点で優れた方法により得ることができる、重合体を提供することを目的とする(B4)。例えば、本開示は、透明性に優れた重合体を提供することを目的とする(B5)。例えば、本開示は、残存チオールによる臭気がない重合体を提供することを目的とする(B6)。例えば、本開示は、強度(例えば高い架橋度)に優れた重合体を提供することを目的とする(B7)。例えば、本開示は、可撓性に優れた重合体を提供することを目的とする(B8)。例えば、本開示は、耐熱性に優れた重合体を提供することを目的とする(B9)。本開示は、B1~B9の目的のうち少なくとも1つを達成し得る、重合体を提供することを目的とする。
【0017】
例えば、本開示は、カルダノール等のバイオマス由来原料を利用して重合体を得ることができる、重合体の製造方法を提供することを目的とする(C1)。例えば、本開示は、ホルマリン、重金属触媒及び/又はVOCを使用しない、重合体の製造方法を提供することを目的とする(C2)。例えば、本開示は、エピクロロヒドリン等の有機ハロゲン化合物を使用しない、重合体の製造方法を提供することを目的とする(C3)。例えば、本開示は、省エネルギーの点で優れている、重合体の製造方法を提供することを目的とする(C4)。例えば、本開示は、透明性に優れた重合体を得ることができる、重合体の製造方法を提供することを目的とする(C5)。例えば、本開示は、残存チオールによる臭気がない重合体を得ることができる、重合体の製造方法を提供することを目的とする(C6)。例えば、本開示は、強度(例えば高い架橋度)に優れた重合体を得ることができる、重合体の製造方法を提供することを目的とする(C7)。例えば、本開示は、可撓性に優れた重合体を得ることができる、重合体の製造方法を提供することを目的とする(C8)。例えば、本開示は、耐熱性に優れた重合体を得ることができる、重合体の製造方法を提供することを目的とする(C9)。本開示は、C1~C9の目的のうち少なくとも1つを達成し得る、重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本実施形態の態様例は以下の通りである。
【0019】
(1) 少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)、及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を重合性成分として含む光重合性組成物:
【化1】
[式(1)中、Rは、-C1531-2n基(n=0、1、2又は3)であり、Rは、水素又はメチル基である]。
(2) 少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)の含有量が、重合性成分の総量に対して、10~90質量%であり、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量が、重合性成分の総量に対して、10~90質量%である、(1)に記載の光重合性組成物。
(3) 少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)の含有量及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量の合計量が、重合性成分の総量に対して、80質量%以上である、(1)又は(2)に記載の光重合性組成物。
(4) 少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)が、カルダノールと(メタ)アクリル酸のエステル化合物である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の光重合性組成物。
(5) 2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)が、多価アルコールと(メタ)アクリル酸のエステル化合物である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の光重合性組成物。
(6) 2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)が、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びグリセロールトリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の光重合性組成物。
(7) 少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)、及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を重合性成分として含む重合体:
【化2】
[式(1)中、Rは、-C1531-2n基(n=0、1、2又は3)であり、Rは、水素又はメチル基である]。
(8) 少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)の含有量が、重合性成分の総量に対して、10~90質量%であり、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量が、重合性成分の総量に対して、10~90質量%である、(7)に記載の重合体。
(9) 少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)の含有量及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量の合計量が、重合性成分の総量に対して、80質量%以上である、(7)又は(8)に記載の重合体。
(10) 少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)が、カルダノールと(メタ)アクリル酸のエステル化合物である、(7)~(9)のいずれか1つに記載の重合体。
(11) 2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)が、多価アルコールと(メタ)アクリル酸のエステル化合物である、(7)~(10)のいずれか1つに記載の重合体。
(12) 2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)が、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びグリセロールトリ(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種である、(7)~(11)のいずれか1つに記載の重合体。
(13) (1)~(6)のいずれか1つに記載の光重合性組成物を光重合反応により硬化させる工程を含む、重合体の製造方法。
(14) カルダノールと(メタ)アクリル酸無水物とを反応させ、少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)を用意する工程をさらに含む、(13)に記載の製造方法。
(15) 多価アルコールと(メタ)アクリル酸無水物とを反応させ、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を用意する工程をさらに含む、(13)又は(14)に記載の製造方法。
(16) 多価アルコールが、エチレングリコール及びグリセロールから選択される少なくとも1種である、(15)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本開示により、上記目的の少なくとも1つを達成することができる。例えば、本開示は、A1~A9の目的のうち少なくとも1つを達成し得る、重合性組成物を提供するができる。本開示は、B1~B9の目的のうち少なくとも1つを達成し得る、重合体を提供することができる。例えば、本開示は、C1~C9の目的のうち少なくとも1つを達成し得る、重合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例4の共重合体フィルムE4(カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレート(質量比50:50)の重合体)のUV-VISスペクトル、並びに非特許文献1に記載の方法で得られた共重合体フィルムのUV-VISスペクトルである。
図2】実施例3の共重合体フィルムE3(カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレート(質量比80:20)の重合体)の両端をピンセットで摘まんで折り曲げた状態を撮影した写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態について説明する。なお、本開示は、以下の実施形態に限定されるものでなく、本開示の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
<光重合性組成物>
本実施形態は、式(1)で表される化合物、及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を重合性成分として含む光重合性組成物に関する。
【0024】
[重合性成分]
(式(1)で表される化合物(A))
本実施形態に係る光重合性組成物は、重合性成分として、少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)を含む。
【0025】
【化3】
[式(1)中、Rは、-C1531-2n基(n=0、1、2又は3)であり、Rは、水素又はメチル基である。]
【0026】
式(1)において、Rは、例えば、以下の構造(a)~(d)のいずれか又はそれらの組み合わせである。
【0027】
-(CH14CH ・・・(a)
-(CHCH=CH(CHCH ・・・(b)
-(CHCH=CHCHCH=CH(CHCH ・・・(c)
-(CHCH=CHCHCH=CHCHCH=CH ・・・(d)
【0028】
本実施形態に係る光重合性組成物において、化合物(A)は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、化合物(A)として、Rがそれぞれ異なる化合物の混合物を用いてもよい。また、Rがそれぞれ異なる化合物の混合物を用いてもよい。また、R及びR基がそれぞれ異なる化合物の混合物を用いてもよい。
【0029】
化合物(A)としては、合成したものを用いてもよく、市販のものを用いてもよい。また、市販品としては、Cardolite社製のCardolite GX-7201等が挙げられる。
【0030】
化合物(A)は、カルダノールを(メタ)アクリル酸無水物又は(メタ)アクリル酸クロライドで(メタ)アクリル化することにより調製することができる。すなわち、化合物(A)は、カルダノールと(メタ)アクリル酸のエステル化合物であることが好ましい。有機ハロゲン化合物を使用しない観点からは、化合物(A)は、カルダノールを(メタ)アクリル酸無水物で(メタ)アクリル化したものであることが好ましい。
【0031】
本開示において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリル化」とは、アクリル基(アクリロイル基)を導入すること又はメタクリル基(メタクリロイル基)を導入することを意味する。また、本開示において、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0032】
カルダノールは、カシューナッツの殻に含まれる成分であり、下記式(2)で表される化合物を含む。
【0033】
【化4】
【0034】
式(2)で表される化合物において、Rは、上記構造(a)~(d)の組み合わせである。一般に、カルダノールは、Rが構造(a)である化合物を約3%で、Rが構造(b)である化合物を約34%で、Rが構造(c)である化合物を約22%で、Rが構造(d)である化合物を約41%で含む混合物であるが、これに限定されるものではない。
【0035】
なお、カルダノールは、純度、色、臭気等に応じて様々なグレードのものが市販されている。
【0036】
化合物(A)の前駆体としてのカルダノールとして、CNSLを原料とする天然由来の化合物の混合物を用いてもよいし、CNSLから精製した1種の化合物又は2種以上の化合物(混合物)を用いてもよいし、CNSL中の各成分の組成比を調整した混合物であってもよい。化合物(A)を合成するにあたっては、不純物を含むカルダノールを原料として合成を行ってもよい。
【0037】
(2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B))
本実施形態に係る光重合性組成物は、重合性成分として、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を含む。エチレン性不飽和基とは、エチレン性不飽和二重結合を含有する官能基をいう。エチレン性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。2つ以上のエチレン性不飽和基が共に(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)は、チオール基を含まないことが好ましい。
【0038】
2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を重合性成分として用いることで、重合体がさらに高分子量化することができ、また、分子と分子とを架橋することができるので重合体の絡み合いを複雑にすることができる。その結果、重合体の強度や可撓性、耐熱性が向上するものと推測される。
【0039】
エチレン性不飽和基を有する化合物は、後述する光重合開始剤や電子線照射により生じたラジカルによって重合して高分子化する成分であり、例えば、モノマーやオリゴマー等であり得る。また、オリゴマーよりもさらに高分子量であるポリマーについてもエチレン性不飽和基を備えたものが各種市販されている。このようなポリマーも上記モノマーやオリゴマーによって、又は当該ポリマー同士によって架橋されて高分子量化することができる。そこで、こうしたポリマーを、上記モノマーやオリゴマーとともにエチレン性不飽和基を有する化合物として用いてもよい。
【0040】
化合物(B)は、好ましくは、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物である。多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物は、例えば、多価アルコールを、(メタ)アクリル酸無水物又は(メタ)アクリル酸クロライドで(メタ)アクリル化することにより調製することができる。有機ハロゲン化合物を使用しない観点からは、化合物(B)は、多価アルコールを(メタ)アクリル酸無水物で(メタ)アクリル化したものであることが好ましい。
【0041】
多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ブタンジオール(1,4-ブタンジオール)、ペンタンジオール(1,5-ペンタンジオール)、ヘキサンジオール(1,6-ヘキサンジオール)、ヘプタンジオール、オクタンジオール(1,8-オクタンジオール)、ノナンジオール(1,9-ノナンジオール)、デカンジオール、ドデカンジオール、テトラデカンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ブチルエチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール、マンニトール、又はこれらのアルキレンオキサイド付加物(例えばエチレンオキサイド付加物)等が挙げられる。多価アルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物としては、例えば、2つの(メタ)アクリロイル基を有するジ(メタ)アクリレート類、3つの(メタ)アクリロイル基を有するトリ(メタ)アクリレート類、4つの(メタ)アクリロイル基を有するテトラ(メタ)アクリレート類、5つの(メタ)アクリロイル基を有するペンタ(メタ)アクリレート類、又は6つの(メタ)アクリロイル基を有するヘキサ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0043】
2つのエチレン性不飽和基を有する化合物(ジ(メタ)アクリレート類)としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(例えば1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート)、ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、又はポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ジ(メタ)アクリレート類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
3つのエチレン性不飽和基を有する化合物(トリ(メタ)アクリレート類)としては、例えば、グリセロールトリ(メタ)アクリレート(グリセリントリ(メタ)アクリレート)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールヘキサントリ(メタ)アクリレート、又はトリメチロールオクタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。トリ(メタ)アクリレート類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
4つのエチレン性不飽和基を有する化合物(テトラ(メタ)アクリレート類)としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールエタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールブタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールオクタンテトラ(メタ)アクリレート、又は1,2,3-シクロヘキサンテトラメタクリレート等が挙げられる。テトラ(メタ)アクリレート類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
5つのエチレン性不飽和基を有する化合物(ペンタ(メタ)アクリレート類)としては、例えば、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ペンタ(メタ)アクリレート類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
6つのエチレン性不飽和基を有する化合物(ヘキサ(メタ)アクリレート類)としては、例えば、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、又はトリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヘキサ(メタ)アクリレート類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
また、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物は、エトキシ化及び/又はプロポキシ化多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルであってもよく、そのような化合物としては、例えば、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
一実施形態において、多価アルコールは、バイオマス由来のものを用いることができ、それにより環境に優しい方法で目的産物を取得できる。それゆえ、多価アルコールは、バイオマス由来のものを用いることが好ましく、バイオマス由来の多価アルコールとしては、例えば、エタンジオール類、ブタンジオール類、植物油脂、又はポリフェノール類(リグニン分解物)等が挙げられる。
【0050】
(その他の重合性成分)
本実施形態に係る光重合性組成物は、重合性成分として、式(1)で表される化合物(A)及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の他に、その他の重合性成分をさらに含んでもよい。
【0051】
その他の重合性成分としては、特に制限されるものではないが、例えば、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物が挙げられる。1つのエチレン性不飽和基を有する化合物としては、例えば、1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(以下、「モノ(メタ)アクリレート類」という)を挙げることができる。モノ(メタ)アクリレート類としては、(メタ)アクリル酸の他に、以下の化合物が挙げられる。
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのモノ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート等のポリオールのモノ(メタ)アクリレート;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等の脂環式基を有するモノ(メタ)アクリレート;
グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンスピロ-2-(1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート等の環状エーテル基を有するモノ(メタ)アクリレート;
ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノキシ(メタ)アクリレート及びp-クミルフェノールエチレン(メタ)アクリレート等の芳香族モノ(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリロリルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等のマレイミド基を有するモノ(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリロイルモルホリン;並びに
エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート等のアルキルカルビトール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル基を有するモノ(メタ)アクリレート。
【0052】
その他の重合性成分は、チオール基を有するモノマーを含まないことが好ましい。チオール基を有するモノマーを含有させないことにより、残存チオールによる臭気がない重合体を提供することができる。また、その他の重合性成分は、エチレン等のオレフィン系モノマーを含まないことが好ましい。オレフィン系モノマーを含有させないことにより、残存オレフィンによる経時変化を防ぐことができる。
【0053】
(含有量・含有量比)
本実施形態に係る光重合性組成物において、重合性成分の総含有量は、特に制限されるものではないが、光重合性組成物の総量に対して、例えば70質量%以上であり、好ましくは75質量%以上であり、好ましくは80質量%以上であり、好ましくは85質量%以上であり、好ましくは90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上であり、好ましくは98質量%以上である。
【0054】
式(1)で表される化合物(A)の含有量は、特に制限されるものではないが、重合性成分の総量に対して、例えば、5~95質量%である。式(1)で表される化合物(A)の含有量は、重合性成分の総量に対して、好ましくは10質量%以上であり、好ましくは15質量%以上であり、好ましくは20質量%以上であり、好ましくは25質量%以上であり、好ましくは30質量%以上であり、好ましくは35質量%以上であり、好ましくは40質量%以上である。式(1)で表される化合物(A)の含有量は、重合性成分の総量に対して、好ましくは90質量%以下であり、好ましくは85質量%以下であり、好ましくは80質量%以下であり、好ましくは75質量%以下であり、好ましくは70質量%以下であり、好ましくは65質量%以下であり、好ましくは60質量%以下である。
【0055】
2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量は、特に制限されるものではないが、重合性成分の総量に対して、例えば、5~95質量%である。2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量は、重合性成分の総量に対して、好ましくは10質量%以上であり、好ましくは15質量%以上であり、好ましくは20質量%以上であり、好ましくは25質量%以上であり、好ましくは30質量%以上であり、好ましくは35質量%以上であり、好ましくは40質量%以上である。2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量は、重合性成分の総量に対して、好ましくは90質量%以下であり、好ましくは85質量%以下であり、好ましくは80質量%以下であり、好ましくは75質量%以下であり、好ましくは70質量%以下であり、好ましくは65質量%以下であり、好ましくは60質量%以下である。
【0056】
本実施形態に係る光重合性組成物において、好ましくは、式(1)で表される化合物(A)の含有量が、重合性成分の総量に対して、10~90質量%であり、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量が、重合性成分の総量に対して、10~90質量%である。本実施形態に係る光重合性組成物において、好ましくは、式(1)で表される化合物(A)の含有量が、重合性成分の総量に対して、30~80質量%であり、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量が、重合性成分の総量に対して、20~70質量%である。式(1)で表される化合物(A)の含有量及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量をこれらの範囲とすることにより、重合体の強度、可撓性及び耐熱性を効果的に両立させることができる。
【0057】
本実施形態に係る光重合性組成物において、式(1)で表される化合物(A)の含有量及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量の合計量が、重合性成分の総量に対して、好ましくは80質量%以上であり、好ましくは85質量%以上であり、好ましくは90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上であり、好ましくは98質量%以上であり、好ましくは99質量%以上であり、好ましくは100質量%である。式(1)で表される化合物(A)の含有量及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量の合計量をこれらの範囲とすることにより、重合体の強度、可撓性及び耐熱性を効果的に向上させることができる。
【0058】
その他の重合性成分の含有量は、特に制限されるものではないが、重合性成分の総量に対して、例えば、0.1~20質量%である。その他の重合性成分の含有量は、重合性成分の総量に対して、好ましくは20質量%以下であり、好ましくは15質量%以下であり、好ましくは10質量%以下であり、好ましくは10質量%未満であり、好ましくは5質量%以下であり、好ましくは1質量%以下である。
【0059】
本実施形態に係る光重合性組成物において、化合物(A)のアクリロイル基と化合物(B)が有するエチレン性不飽和基のモル比が、0.1:1.0~1.0:0.1であることが好ましく、0.25:1~1:0.25であることが好ましい。化合物(A)のアクリロイル基と化合物(B)が有するエチレン性不飽和基のモル比をこれらの範囲とすることにより、重合体の強度及び耐熱性を効果的に向上させることができる。
【0060】
(光開始剤(C))
本実施形態に係る光重合性組成物は、光開始剤(C)を含む。
【0061】
光開始剤(C)は、光により重合性成分の重合を開始する能力を有する限り、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。光開始剤(C)は、紫外線から可視光線に対して感光性を有するものが好ましい。
【0062】
本実施形態に係る光重合性組成物は、光開始剤(C)から発生したラジカルによって、式(1)で表される化合物(A)と2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)とのラジカル重合反応が進行することで硬化する。
【0063】
光開始剤(C)としては、特に限定されるものではなく、当業者間で公知のものを制限なく用いることができる。
【0064】
光開始剤(C)としては、ベンゾイン系化合物、ベンジルケタール化合物、アセトフェノン系化合物、チオキサントン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、オキシム系化合物等が挙げられる。光開始剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
ベンゾイン系化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。ベンジルケタール化合物としては、例えば、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。アセトフェノン系化合物としては、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2,2’-ジエトキシアセトフェノン、2,2’-ジブトキシアセトフェノン、p-t-ブチルトリクロロアセトフェノン、p-t-ブチルジクロロアセトフェノン、4-クロロアセトフェノン、2,2’-ジクロロ-4-フェノキシアセトフェノン、2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン等が挙げられる。チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等が挙げられる。アシルホスフィンオキサイド化合物としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-2-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。トリアジン系化合物としては、例えば、2,4,6-トリクロロ-s-トリアジン、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3’,4’-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4’-メトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-トリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-ビフェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、ビス(トリクロロメチル)-6-スチリル-s-トリアジン、2-(ナフト-1-イル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-メトキシナフト-1-イル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-4-ビス(トリクロロメチル)-6-ピペロニル-s-トリアジン、2-4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシスチリル)-s-トリアジン等が挙げられる。オキシム系化合物としては、例えば、2-(o-ベンゾイルオキシム)-1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン、1-(o-アセチルオキシム)-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン、O-エトキシカルボニル-α-オキシアミノ-1-フェニルプロパン-1-オン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
具体的には、光開始剤(C)としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン〔商品名:イルガキュア184、BASFジャパン(株)〕、2-ヒドロキシ-2-メチル-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー〔商品名:エサキュアONE、ランバルティ(株)〕、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン〔商品名:イルガキュア2959、BASFジャパン(株)〕、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン〔商品名:イルガキュア127、BASFジャパン(株)〕、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン〔商品名:イルガキュア651、BASFジャパン(株)〕、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン〔商品名:ダロキュア1173、BASFジャパン(株)〕、2-メチル-1-[(4-メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン〔商品名:イルガキュア907、BASFジャパン(株)〕、フェニルグリオキシル酸メチル、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0067】
これらの中でも、光開始剤(C)としては、重合体の強度向上、及び重合体の黄変抑制の観点から、アセトフェノン系化合物が好ましく、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンがより好ましい。
【0068】
本実施形態に係る光重合性組成物において、光開始剤(C)の含有量は、重合性成分の総量に対して、0.1質量%~20質量%であることが好ましく、0.5質量%~10質量%であることが好ましく、1質量%~7質量%が好ましい。光開始剤(C)の含有量が0.1質量%以上である場合、光照射をした際に組成物の光硬化を効率的に促進することができ、硬化不良が生じ難い。光開始剤(C)の含有量が20質量%以下である場合、光開始剤(C)による過度な光吸収が抑制され、硬化不良が生じ難い。また、光開始剤(C)の経時による析出が抑制され、重合体の保存特性を効果的に向上することができる。これらの数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0069】
(その他の成分(D))
本実施形態に係る光重合性組成物は、本実施形態が奏する効果を損なわない範囲において、必要に応じて、式(1)で表される化合物(A)及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を含む重合性成分並びに光開始剤(C)以外のその他の成分(D)をさらに含んでいてもよい。
【0070】
その他の成分(D)としては、特に制限されるものではないが、例えば、溶媒、重合禁止剤、可塑剤、増感剤、難燃剤、相溶化剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、充填剤、補強剤、受酸剤、反応性トラップ剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、又は顔料等が挙げられる。補強剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、又はボロンナイトライド等が挙げられる。受酸剤としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等の酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の金属水酸化物;炭酸カルシウム;タルク等が挙げられる。反応性トラップ剤としては、例えば、エポキシ化合物、酸無水物化合物、又はカルボジイミド等が挙げられる。その他の成分(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
その他の成分(D)(「成分(D)」ともいう。)の含有量は、光重合性組成物の総量に対して、25質量%以下(又は25質量%未満)であることが好ましく、20質量%以下(又は20質量%未満)であることが好ましく、15質量%以下(又は15質量%未満)であることが好ましく、10質量%以下(又は10質量%未満)であることが好ましく、5質量%以下(又は5質量%未満)であることが好ましく、1質量%以下(又は1質量%未満)であることが好ましく、0質量%であることが好ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まないことを意味する。ただし、その他の成分(D)が、補強剤、改質剤、又は充填剤である場合に限り、光重合性組成物の総量に対して、その他の成分(D)の含有量は、15質量%以上であってもよく、25質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよく、また、上限値は特に制限されるものではないが、例えば、150質量%以下である。
【0072】
[重合体及び重合体の製造方法]
本実施形態に係る重合体の製造方法は、式(1)で表される化合物及び2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を重合性成分として含む光重合性組成物を光重合反応により硬化させる工程を含む。
【0073】
本実施形態に係る重合体の製造方法は、例えば、以下の工程を含み得る:
(a)少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)を用意する工程;
(b)2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を用意する工程;
(c)少なくとも1種の式(1)で表される化合物(A)、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、及び光開始剤(C)を含む光重合性組成物を用意する工程;及び
(d)工程(c)で得られた光重合性組成物に光線(例えば紫外線又は可視光線)を照射する工程。
【0074】
工程(a)に関し、一実施形態において、式(1)で表される化合物(A)は、カシューナッツシェルリキッド由来のカルダノールと(メタ)アクリル酸無水物とを、公知の条件下で反応させることにより合成される。具体的には、カルダノールと(メタ)アクリル酸無水物を触媒存在下で反応させることにより、式(1)で表される化合物(A)を合成することができる。当該方法によれば、原料のカルダノールとしてバイオマスのカシューナッツシェルリキッド由来のものを用いることができ、また、有機ハロゲン化合物を使用しないため、本実施形態に係る重合体の製造方法がより環境に優しいものとなる。
【0075】
(メタ)アクリル酸無水物によるエステル化において、必要に応じて溶媒を用いることができるが、カルダノールが溶媒として機能し得るため、溶媒を使用しないことも可能である。溶媒を使用しないことにより、さらに環境に優しいプロセスを提供することができる。溶媒としては、例えば、炭化水素溶媒が挙げられる。炭化水素溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、又はジクロロメタン等が挙げられる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
触媒としては、例えば、塩基触媒又はルイス酸触媒である。塩基触媒としては、例えば、ジメチルアミノピリジン(具体的には4-ジメチルアミノピリジン)、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、又はピリジン等が挙げられる。ルイス酸触媒としては、例えば、ビスマストリフルオロメタンスルホネート、スカンジウムトリフルロメタンスルホネート、又はインジウムトリフルオロメタンスルホネート等が挙げられる。触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
カルダノールの使用量と(メタ)アクリル酸無水物の使用量の比(モル比)は、例えば、1:0.1~1:10であり、石油資源の消費削減と温室効果ガスの排出削減の面からは好ましくは、1:0.1~1:1とするのがよく、樹脂の架橋度の面からは好ましくは、1:1~1:5である。
【0078】
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば-20~60℃であり、好ましくは0~40℃であり、好ましくは室温(約25℃)である。また、反応時間は、反応温度等の条件により異なるが、例えば、0.2~48時間である。
【0079】
反応終了後、過剰な(メタ)アクリル酸無水物等を除去することができる。除去は、適切な溶媒や溶液を用いてもよく、濾過によってもよい。目的生成物は、適宜、溶媒等による抽出処理やクロマトグラフィー等による精製処理を施すことができる。
【0080】
工程(b)に関し、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)は、上述の通り、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルであることが好ましく、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルは、例えば、多価アルコールを、(メタ)アクリル酸無水物又は(メタ)アクリル酸クロライドで(メタ)アクリル化することにより調製することができる。一実施形態において、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)は、バイオマス由来の多価アルコールと(メタ)アクリル酸無水物とを、公知の条件下で反応させることにより合成される。具体的には、バイオマス由来の多価アルコールと(メタ)アクリル酸無水物を触媒存在下で反応させることにより、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を合成することができる。当該方法によれば、原料の多価アルコールとしてバイオマス由来のものを用いることができ、また、有機ハロゲン化合物を使用しないため、本実施形態に係る重合体の製造方法がより環境に優しいものとなる。溶媒や使用量、反応条件・方法等は、上述した化合物(A)の(メタ)アクリル酸無水物によるエステル化と同様である。上述の通り、カルダノールが溶媒として機能し得るため、溶媒を使用せずに目的産物を得ることができる。溶媒を使用しないことにより、さらに環境に優しいプロセスを提供することができる。
【0081】
工程(c)は、各成分を混合することにより行うことができる。混合は、例えば、公知の手法により行うことができる。光重合性組成物は、溶媒を含んでもよく、また、溶媒を含まないでもよい。式(1)で表される化合物(A)及び/又は2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物が溶媒の代替となり得るため、溶媒を使用することなく(すなわち、無溶剤で)、光重合性組成物を調製することができる。均一な混合液を得る観点から、混合液は超音波処理されることが好ましい。均一な混合液を得る観点から、超音波処理の時間は1分間以上であることが好ましい。
【0082】
工程(d)に関し、光線の照射により、光開始剤(C)からラジカルが発生し、発生したラジカルによって、式(1)で表される化合物(A)と2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)とのラジカル重合反応が進行する。重合反応により、式(1)で表される化合物(A)に由来する構成単位と2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)に由来する構成単位とを含む重合体が得られる。
【0083】
光線は、例えば、波長300nm~450nmの紫外線又は可視光であり得る。照射時間は、例えば、1秒以上10分以下であり得る。
【0084】
得られる重合体に関し、構成成分の含有量や含量比については、上述の[重合性成分](特に(含有量・含有量比))の欄で説明した通りである。なお、重合体中に含まれる、式(1)で表される化合物(A)の含有量及び/又は2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有量は、これを製造する際の光重合性組成物の組成や重合性成分の仕込み量(質量)から算出することができる。
【0085】
本実施形態に係る重合体は、カルダノール等のバイオマス由来原料を利用して得ることができ、また、ホルマリン、重金属触媒及び/又はVOCを使用しないで得ることができ、また、エピクロロヒドリン等の有機ハロゲン化合物を使用しないで得ることができる。また、本実施形態に係る重合体は、透明性に優れており、優れた強度(具体的には、高い架橋度)、優れた可撓性、並びに優れた耐熱性を有し得る。本実施形態では、式(1)で表される化合物(A)と架橋性モノマーである2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(B)を組み合わせることにより、柔軟な炭化水素鎖を有する式(1)で表される化合物(A)の側鎖も含む複雑な架橋構造が形成されるため、優れた強度、可撓性及び耐熱性が得られるものと考えられる。
【0086】
本実施形態に係る重合体の用途は、特に制限されるものではないが、例えば、塗料、接着剤、粘着剤、電子光学材料(例えば、低誘電率材料)、包装材料(例えば、ガスバリア材料)、農業用生分解性マルチフィルム、ポッティング材、耐熱材料、耐薬品材料、又は抗菌材料等を例示することができる。また、本実施形態に係る重合体は、上述の通り、特定の角度に光散乱を制御する性質を有し得るため、新規な光学材料として応用可能である。
【実施例
【0087】
以下に、本実施形態について実施例を用いて説明する。なお、本開示は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0088】
[カルダノールメタクリレート(CM)の合成]
【0089】
【化5】
【0090】
マグネチックスターラー及び滴下漏斗を備えた二口フラスコ(200mL)にカルダノール(5.00g、16.5mmol)、及び4-ジメチルアミノピリジン(0.150g、1.24mmol)を加えた。そこに、メタクリル酸無水物(3.67mL、24.8mmol)を5分かけて滴下し、室温で24時間反応させた。反応後、100mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(NaHCOaq.)を加え、さらに1時間攪拌した。その後、ジエチルエーテルで抽出を行った後、飽和塩化ナトリウム水溶液(NaCl aq.)で洗浄し、硫酸マグネシウム(MgSO)で脱水した。脱水後、エバポレーターを用いて溶媒を除去し、混合溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=4:1(体積比))を展開溶媒としたカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的物(カルダノールメタクリレート)である微黄色透明の液体(4.58g、収率:78.4%)を得た。
【0091】
[グリセロールトリメタクリレート(GTM)の合成]
【0092】
【化6】
【0093】
マグネチックスターラー及び滴下漏斗を備えた二口フラスコ(200mL)にグリセロール(1.84g、20.0mmol)及び4-ジメチルアミノピリジン(0.786g、6.48mmol)を加えた。そこに、メタクリル酸無水物(13.3mL、90.0mmol)を5分かけて滴下し、室温で24時間反応させた。反応後、100mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(NaHCOaq.)を加え、さらに1時間攪拌した。その後、ジエチルエーテルで抽出を行った後、飽和塩化ナトリウム水溶液(NaCl aq.)で洗浄し、硫酸マグネシウム(MgSO)で脱水した。脱水後、エバポレーターを用いて溶媒を除去し、混合溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=4:1(体積比))を展開溶媒としたカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的物(グリセロールトリメタクリレート)である微黄色透明の液体(1.51g、収率:26.0%)を得た。
【0094】
[実施例1]
カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートを、質量比が95:5となるように、サンプル瓶中に秤量し、混合液を調製した。混合液に対して、光ラジカル開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(HMPP)を3質量%となるように加え、充分に混合した後、真空引きにより脱泡した。これにより、光重合性組成物E1を調製した。
【0095】
得られた光重合性組成物を、ガラス板に滴下し、その上から別のガラス板を被せることにより、ガラス板に均一に塗布した。2枚のガラス板の間には、酸素阻害を避けるため、スペーサー(ポリイミドテープ:膜厚55μm)を挟んだ。次に、紫外線照射窓から10cmの距離をとった露光台上に、光重合性組成物を塗布したガラス板を配置した。そして、紫外線を2分間照射した。そして、ガラス板から硬化膜を剥離することにより、共重合体フィルムE1を得た。共重合体フィルムE1の外観は透明であった。また、共重合体フィルムE1は、柔軟性を有していた。
【0096】
[実施例2]
カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートを質量比が90:10となるようにサンプル瓶中に秤量したこと以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物E2及び共重合体フィルムE2を製造した。
【0097】
[実施例3]
カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートを質量比が80:20となるようにサンプル瓶中に秤量したこと以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物E3及び共重合体フィルムE3を製造した。
【0098】
[実施例4]
カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートを質量比が50:50となるようにサンプル瓶中に秤量したこと以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物E4及び共重合体フィルムE4を製造した。
【0099】
[実施例5]
カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートを質量比が20:80となるようにサンプル瓶中に秤量したこと以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物E5及び共重合体フィルムE5を製造した。
【0100】
[比較例1]
カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートを質量比が100:0となるようにサンプル瓶中に秤量したこと以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物C1及び重合体フィルムC1を製造した。すなわち、比較例1では、グリセロールトリメタクリレートを用いずに、カルダノールメタクリレートのみを単独で重合させた。
【0101】
[比較例2]
カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートを質量比が0:100となるようにサンプル瓶中に秤量したこと以外は、実施例1と同様にして、光重合性組成物C2及び重合体フィルムC2を製造した。すなわち、比較例2では、カルダノールメタクリレートを用いずに、グリセロールトリメタクリレートのみを単独で重合させた。
【0102】
[評価]
(架橋度)
作製したフィルムの架橋度(ゲル分率)を、以下の工程により測定した。まず、フィルムを溶媒(アセトン)に24時間浸漬させた。次に、フィルムを取り出し、真空乾燥により溶媒を除去した。そして、浸漬前後のフィルムの重量から、下記式に基づいてゲル分率を算出した。結果を表1に示す。
【0103】
【数1】
[M:アセトン浸漬後のフィルム重量、M:アセトン浸漬前のフィルム重量]
【0104】
表1に示されるように、グリセロールトリメタクリレートの成分割合が0~20%(比較例1、実施例1~3)の範囲では、グリセロールトリメタクリレートの成分割合が多くなるに従い、ゲル分率が増大した。これは、カルダノールメタクリレート単独では架橋度が低い一方で、架橋性モノマーであるグリセロールトリメタクリレートの添加により架橋度が向上されることを示している。グリセロールトリメタクリレートの成分割合が20~100%の範囲では、フィルムのゲル分率は95%以上であり、高い架橋度を示した。
【0105】
【表1】
【0106】
(透明性)
得られたフィルムの透明性を評価するため、可視光領域での透過度を測定した。図1は、共重合体フィルムE4(カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレート(質量比50:50)の重合体)のUV-VISスペクトル(実線)、並びに、比較としての、非特許文献1に記載の方法で得られた共重合体フィルムのUV-VISスペクトル(点線)を示す。具体的には、比較としてのフィルムは、以下の方法により作製した。まず、カルダノールを主成分とした原料油にエピクロロヒドリンを反応させることによりカルダノールをエポキシ化させた。次いで、側鎖の二重結合部分を熱酸化重合させることによりエポキシカルダノールプレポリマーを合成した。そして、アミン化合物を加え、光重合性組成物を調製した。この光重合性組成物を上述の方法と同様にしてフィルム状に硬化させた。
【0107】
図1に示されるように、共重合体フィルムE4は、可視光領域において高い透過度を示し、可視光領域での光の吸収がほとんど無く、光学的に透明であった。また、その他の共重合体フィルムE1~E3及びE5のいずれも、光学的に透明であった。
【0108】
また、実施例の共重合体フィルムにおいて、光の散乱を特定の方向に収束させる挙動が観察された。この挙動は、2成分(カルダニルメタクリレートとグリセロールトリメタクリレート)による不均一な架橋構造に由来するものと推察される。この挙動はグリセロールトリメタクリレートの成分割合が増加するに従って、明確に確認された。そのため、本実施形態に係る重合体は、光の散乱を特定の方向に収束させ得る新規な光学材料として応用可能性を有することがわかる。
【0109】
(可撓性)
重合体フィルムC1(グリセロールトリメタクリレート単独重合体)及び重合体フィルムC2(カルダノールメタクリレート単独重合体)は、ピンセットを用いてガラス板から剥がそうとしても、ピンセットで摘まんだ箇所が崩れてしまい、剥離し難かった。すなわち、重合体フィルムC1及びC2は、自立性に乏しく、自立したフィルムの形成が困難であった。一方、共重合体フィルムE1~E5は、ガラス板からピンセットで容易に剥がすことができ、自立性に富んでいた。また、共重合体フィルムE1~E5は、優れた可撓性を有していた。具体的には、カルダノールメタクリレート成分が多くなるに従ってフィルムが柔軟になり、優れた可撓性を示すことがわかった。
【0110】
図2に、共重合体フィルムE3(カルダノールメタクリレート及びグリセロールトリメタクリレートの質量比が80:20)の両端をピンセットで摘まんで折り曲げた状態を撮影した写真を示す。図2に示されるように、共重合体フィルムE3の両端を摘まんで完全に折り曲げた場合でも、フィルムの破断が生じなかった。
【0111】
以上のことから、本実施形態に係る重合体は、優れた可撓性を有することが確認された。また、本実施形態に係る重合体は、化合物(A)と化合物(B)の組成比によって可撓性が変化するため、それらの組成比を調整することにより重合体の可撓性(ソフト~ハード)を制御できることがわかった。そのため、パッケージング材料やコーティング材料等を含む幅広い材料用途への応用が可能となる。
【0112】
(耐熱性)
フィルムの耐熱性を評価するため、実施例3~5及び比較例1~2のフィルムE3~5及びC1~2について熱重量分析(TGA)を行った。熱重量分析は、窒素雰囲気下で行い、昇温速度を10℃/分に設定した。熱分解温度(T)は、オンセット温度前後の曲線の最大勾配の点(変曲点)における接線と基線の延長線との交点として求めた。表2に、熱分解温度(T)の結果を示す。
【0113】
【表2】
【0114】
重合体フィルムC1(カルダノールメタクリレート単独重合体)は、作製した硬化物の中で、最も低い熱分解温度を示した。共重合体フィルムE3~E5では、グリセロールトリメタクリレートの成分割合が増加するに従って、熱分解温度が高くなり、優れた耐熱性を示した。興味深いことに、共重合体フィルムE3~E5は、重合体フィルムC2(グリセロールトリメタクリレート単独重合体)よりも熱分解温度が高かった。柔軟な炭化水素鎖を有するカルダノールメタクリレート成分と架橋性モノマーであるグリセロールトリメタクリレートを組み合わせることで、カルダノールメタクリレートの側鎖も含む複雑な架橋構造が形成され、耐熱性が向上したものと考えられる。以上のことから、本実施形態に係る重合体は、優れた耐熱性を有することが確認された。
【0115】
以下の実施例及び比較例では、カルダノールメタクリレートと共重合させるモノマーの官能基数の違いによる架橋度(ゲル分率)の変化を調べるため、カルダノールメタクリレートとメタクリル基を1つ又は2つ有するモノマーとの共重合体フィルムを作製し、それらのゲル分率を測定した。
【0116】
[実施例6]
グリセロールトリメタクリレートの代わりに、メタクリル基を2つ有するモノマーであるエチレングリコールジメタクリレート(EGDM)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、光重合性組成物E6及び共重合体フィルムE6を製造した。
【0117】
【化7】
【0118】
[比較例3]
グリセロールトリメタクリレートの代わりに、メタクリル基を1つ有するモノマーであるメチルメタクリレート(MMA)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、光重合性組成物C3及び共重合体フィルムC3を製造した。
【0119】
【化8】
【0120】
[評価]
作製したフィルムの架橋度(ゲル分率)を、上述の方法により測定した。ゲル分率の測定結果を表3に示す。なお、表3には、実施例3のフィルムE3及び比較例1のフィルムC1について測定した結果も示す。
【0121】
【表3】
【0122】
表3に示されるように、メタクリル基を3つ有するグリセロールトリメタクリレートと同様に、メタクリル基を2つ有するエチレングリコールジメタクリレートを用いた場合においても、高いゲル分率(約95%)が得られた。一方で、メタクリル基を1つしか持たないメチルメタクリレートを用いた場合では、カルダノールメタクリレートを単独で用いた場合よりも、ゲル分率が低下した。これは、モノマーが官能基を2つ以上もつ場合に特に効果的に架橋反応が進行し、架橋密度が向上するためと考えられる。
【0123】
以上の結果から、カルダノールメタクリレートとの共重合においては、官能基として2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物が架橋性モノマーとして効果的であることが確認された。上述の通り、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物は、バイオマス由来のジオール化合物やポリオール化合物から、有機ハロゲン化合物を使用せずに、室温で合成することができる。それゆえ、本開示は、バイオマス由来化合物の有効利用に繋がると考えられる。
【0124】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0125】
この記載した開示に続く特許請求の範囲は、本明細書においてこの記載した開示に明示的に組み込まれ、各請求項は個別の実施形態として独立している。本開示は独立請求項をその従属請求項によって置き換えたもの全てを含む。さらに、独立請求項及びそれに続く従属請求項から誘導される追加的な実施形態も、この記載した明細書に明示的に組み込まれる。
【0126】
当業者であれば本開示を最大限に利用するために上記の説明を用いることができる。本明細書に開示した特許請求の範囲及び実施形態は、単に説明的及び例示的なものであり、いかなる意味でも本開示の範囲を限定しないと解釈すべきである。本開示の助けを借りて、本開示の基本原理から逸脱することなく上記の実施形態の詳細に変更を加えることができる。換言すれば、上記の明細書に具体的に開示した実施形態の種々の改変及び改善は、本開示の範囲内である。
【0127】
以上、本実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
図1
図2