(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-28
(45)【発行日】2025-06-05
(54)【発明の名称】乾麺の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20250529BHJP
【FI】
A23L7/109 B
(21)【出願番号】P 2021047094
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水上 将一
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 真彦
(72)【発明者】
【氏名】竹越 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】北 剛臣
(72)【発明者】
【氏名】山路 剛士
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-136921(JP,A)
【文献】特開2005-021112(JP,A)
【文献】特開平09-051774(JP,A)
【文献】特開平11-276105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾麺の製造方法であって、
生麺をボイルすること、
ボイルした麺を0~10℃の環境下で3時間以上保管し、次いで水分含量14質量%以下まで乾燥させること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ボイルが、加圧環境下、105℃以上で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記乾燥が0~50℃の環境下で行われる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記麺がうどんである、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾麺の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾麺は、長期保存可能な利便性の高い食品である。一方で、一般的な乾麺は、生麺に比べて弾力と粘りのある食感に劣る。
【0003】
特許文献1には、生麺類を加圧環境下で、かつ100℃より上の温度で茹で上げ、茹で上げたときの麺の水分含量を55~68重量%とすることで、肌荒がほとんどなく、弾力のある茹で麺類を製造することができることが記載されている。特許文献2には、生麺類を熱水中に投入して麺をほぐすほぐし茹工程と、加圧下、密閉下で100℃を超える温度まで加熱昇温した後、100℃を超える温度でさらに加圧して熱水の沸騰を抑えながら麺を茹でる加圧茹工程と、冷却水で100℃を超える熱水を冷却する冷却工程とを備えた茹麺類の製造方法により、麺表面のダメージを防止して品質のばらつきが少ない茹で麺を得られることが記載されている。特許文献3には、麺線を大気圧下90℃以上の茹水で所定時間茹で、その後、100℃を越える加圧環境下の茹水で所定時間茹で、続いて、茹上げた麺線を冷却する方法により、粘弾性のある茹麺類を最小限の費用と管理で大量製造できることが記載されている。このように特許文献1~3には、麺類を加圧下で加熱調理することが記載されているが、製造される麺類は茹で麺であり、乾麺ではない。
【0004】
特許文献4には、麺帯又は麺線を60~130℃の高温食塩水中に浸漬した後乾燥することで、復元性の良い即席乾燥麺類を製造することが記載されている。特許文献5には、ソーメンの生麺を高圧釜により高温高圧下で蒸した後、釜の内部圧力を真空状態に減圧し、次いで外気圧に戻すことで麺を乾燥させることにより、お湯を注ぐだけで食べることができる乾燥ソーメンを製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-195466号公報
【文献】特開2006-034176号公報
【文献】特開2007-306820号公報
【文献】特開昭53-081641号公報
【文献】特開2013-059305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
調理時のほぐれが良く、かつ弾力と粘りのある食感を有する乾麺を製造する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、生麺をボイルした後、冷蔵保管し、次いで乾燥させることで製造される乾麺が、調理時のほぐれが良く、かつ弾力と粘りのある食感を有することを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、乾麺の製造方法であって、
生麺線をボイルすること、
得られたボイル麺を0~10℃の環境下で3時間以上保管し、次いで水分含量14%以下まで乾燥させること、
を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、調理時のほぐれが良く、かつ弾力と粘りのある食感を有する乾麺を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の乾麺の製造方法は、生麺をボイルすること、及びボイルした麺を冷蔵保管し、次いで乾燥させることを含む。
【0011】
本発明において乾麺として製造される麺の種類は、特に限定されない。例えば、該麺は、麺線であっても、麺皮であってもよい。該麺の例としては、うどん、日本そば、きしめん、そうめん、ひやむぎ、中華麺、パスタ類などが挙げられ、好ましくはうどん、中華麺、及びパスタ類が挙げられる。
【0012】
本発明の方法で用いられる生麺は、麺の種類に応じて、通常の手順で製造することができる。該麺の主原料となる穀粉類としては、例えば、小麦粉、ソバ粉、コーンフラワー、ライ麦粉、大麦粉、オーツ粉、米粉などが挙げられる。小麦粉としては、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム粉、全粒粉などが挙げられる。これらの穀粉類は、いずれか1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。該麺はまた、澱粉類を含有していてもよい。該澱粉類としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、甘藷澱粉等の未加工澱粉、それらのα化澱粉、及びそれらに架橋、エステル化、エーテル化、酸化等の処理を施した加工澱粉類が挙げられる。これらの澱粉類は、いずれか1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、該麺は、一般的に使用される製麺用副資材、例えば、食塩;かんすい;卵白粉、全卵粉等の卵粉;キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸及びその塩、寒天、ゼラチン、ペクチン等の増粘剤;動植物油脂、乳化油脂、ショートニング等の油脂類;レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤;炭酸塩、リン酸塩等の無機塩類;グルテン、大豆蛋白質、カゼイン等の蛋白類;ソルビット;エチルアルコール;酵素剤、などを含有していてもよい。該麺における該穀粉類、澱粉類、及び副資材の配合割合は、目的とする麺の種類などに応じて、適宜決定すればよい。
【0013】
上記穀粉類、及び必要に応じて上記澱粉類や副資材を、練り水と混合して混捏することにより、麺生地を調製することができる。練り水としては、水、食塩水、かん水など、通常使用されるものを用いることができる。食感及び食味の観点からは、調製された麺生地の食塩含量は1質量%以下であることが好ましい。調製された麺生地を通常の方法で成形することにより、生麺を製造することができる。例えば、麺生地を通常の製麺機で押出し成形するか、又は麺生地を圧延し、次いで切断することによって、生麺を製造することができる。
【0014】
生麺の形状は、目的とする麺の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、生麺の厚みとしては、典型的には0.7~10mm程度が挙げられる。より具体的な例として、生麺の厚みは、うどんであれば1~5mmが好ましく、中華麺であれば1~3mmが好ましく、パスタ類であれば1~3mmが好ましい。
【0015】
得られた生麺は、ボイルによりα化される。具体的には、熱水に生麺を投入し、喫食可能になるまでボイルすればよい。例えば、うどんであれば、ボイルされた麺の歩留まり(ボイルした麺の質量)が対生麺150~230%、好ましくは170~210%になるように、中華麺であれば、ボイルされた麺の歩留まりが対生麺140~200%になるように、パスタであれば、ボイルされた麺の歩留まりが対生麺150~230%になるように、それぞれ生麺をボイルすればよい。ボイルの時間は、麺の種類や求めたい食感に応じて、好ましくは上記の歩留まりが達成できるように、適宜設定すればよい。該ボイルに用いる茹で水は、食塩、酸等の従前用いられる添加剤を含有していてもよい。ただし、食感及び食味の観点から、茹で水の食塩濃度は1質量%以下であることが好ましい。ボイルした麺は、必要に応じて湯切りしたり、水冷又は風冷してもよい。
【0016】
生麺のボイルの温度は、生麺がα化する温度以上であればよく、例えば沸騰水中で生麺をボイルすればよい。好ましくは、本発明の方法では、加圧環境下で生麺がボイルされ、このとき、該ボイルの温度は、好ましくは105℃以上、より好ましくは105~150℃、さらに好ましくは108~135℃、さらに好ましくは110~130℃である。生麺を加圧環境下でボイルすることにより、製造される乾麺のほぐれ性や、弾力と粘りがより向上する。
【0017】
加圧環境下でのボイルは、従前知られている方法にて行うことができる。例えば、圧力鍋等の加圧加熱調理器を用いて、好ましくは105℃以上、より好ましくは105~150℃、さらに好ましくは108~135℃、さらに好ましくは110~130℃になるように加圧加熱した環境下で生麺をボイルすることができる。より詳細な例では、加圧加熱調理器で茹で水を常圧下で沸騰させた後、茹で水に生麺を投入し、調理器を密閉し、加圧して内部の温度を上記の範囲に上げた後、加熱を弱めるか止めて圧力と温度を維持し、麺をボイルする。例えば、鍋内部を圧力60kPaで温度113℃に、圧力100kPaで温度120℃に、又は圧力140kPaで温度126℃に調整することができる。
【0018】
次いで、本発明の方法では、ボイルされた麺を冷蔵保管する。この工程により、ボイルされた麺の老化が進行すると考えられる。本発明では、ボイルによる麺のα化と、その後の冷蔵保管工程とを行うことにより、調理の際にほぐれやすく、かつ弾力と粘りのある食感を有する乾麺を製造することができる。麺の冷蔵保管は、大気中常圧下で行えばよく、保管の温度は、好ましくは0~10℃であり、保管の時間は、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、さらにより好ましくは9時間以上、さらに好ましくは12~24時間である。冷蔵保管の際には、ボイルされた麺の水分が保たれていた方がよい。そのため、冷蔵保管の際には、麺は、積極的に保湿又は加湿される必要はないが、乾燥を防ぐ処置がなされていることが好ましい。例えば、麺をシート、ラップ、油脂膜等で包む又は覆って冷蔵保管するか、又は、袋や容器に収納して冷蔵保管することが好ましい。あるいは、保湿環境下で麺を冷蔵保管してもよい。
【0019】
冷蔵保管した麺を乾燥させ、乾麺を製造する。好ましくは、該麺を水分含量14質量%以下、より好ましくは6~14質量%、さらに好ましくは6~11質量%の範囲まで乾燥させる。水分14質量%以下とすることで、製造した乾麺の保存性を保つことができる。本明細書において、麺の水分含量(質量%)は、絶乾処理した麺と該絶乾処理前の麺との質量差(すなわち麺の水分量)の、該絶乾処理前の麺の質量に対する百分率として算出することができる。
【0020】
麺の乾燥は、従前知られる方法にて行うことができる。例えば、麺を高温で静置、又は風乾させればよい。本発明の方法では、該麺を、好ましくは0~50℃、より好ましくは0~30℃の環境下で乾燥させる。50℃超で乾燥した場合、製造される乾麺が硬くなりやすく、そのため食感が悪くなったり、調理の際のほぐれが悪くなったりする場合がある。本発明の方法において、麺の乾燥工程は、上述した麺の冷蔵保管工程と同じ温度条件下で行われても、異なる温度条件下で行われてもよい。例えば、ボイルされた麺を、上述した麺の冷蔵保管工程において0~10℃で一定時間保管した後、そのまま当該温度範囲での保管を続けながら水分含量14質量%以下まで乾燥させてもよく、その際、麺に風を当てて乾燥を促してもよい(風乾)。あるいは、ボイルされた麺を、上述した麺の冷蔵保管工程において0~10℃で一定時間保管した後、より高温下(50℃以下)での静置又は風乾により麺を水分含量14質量%以下まで乾燥させてもよい。
【0021】
本発明の方法においては、調理の際の乾麺のほぐれをさらに促すため、乾燥前の麺にほぐれ剤を添加してもよい。ほぐれ剤としては、水溶性食物繊維加工品、乳化剤、でんぷん加工品などが挙げられ、このうち水溶性食物繊維加工品(例えば、ソヤアップM3000;不二製油(株)、など)が好ましい。ほぐれ剤を添加するタイミングは、生麺のボイル後かつ乾燥工程の前であればよく、例えば、上述した冷蔵保管工程の前、又は冷蔵保管工程の後かつ乾燥工程の前であり得る。
【0022】
本発明の方法で製造された乾麺は、通常の手順で湯戻しすることで喫食可能に復元することができる。例えば、該乾麺を熱湯に投入して茹でてもよく、又は、該乾麺を容器に入れ、そこに所定量の熱湯を注加して静置してもよく、又は、容器に該乾麺と水又は湯を入れ、電子レンジで加熱してもよい。このとき、湯戻しに用いる水としてスープを用いることもできる。湯戻しの時間や、湯戻しに使用される水の量は、加熱の方法、乾麺の種類や形状、量、又は喫食者の嗜好などに応じて適宜変更すればよい。
【実施例】
【0023】
本発明を具体的に説明するために、以下に実施例及び比較例を記載するが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0024】
試験例1 乾燥うどんの製造
(生麺の製造)
小麦粉3000gと水1200gを横型ミキサーで撹拌してそぼろ状にした。これをロール製麺機で製麺し、#9刃を用いて切断してうどんの生麺(麺厚3.3mm)を得た。
(ボイル)
沸騰した湯2Lを入れた圧力鍋に生麺1食分(200g)を投入し、蓋をして鍋内部の圧力(温度)が140kPa(126℃)、100kPa(120℃)、60kPa(113℃)、又は常圧(100℃)になるよう加熱した。圧力鍋内部の圧力が目標値になったら火を止め、そのまま静置した(ボイル時間、合計8分間)。ボイルした麺は水(20℃)で冷却した。
(冷蔵保管・乾燥)
ボイルした麺を蓋付きの番重に収納し、所定時間4℃で冷蔵保管した。冷蔵保管後の麺に3質量%のほぐれ剤(ソヤアップM3000;不二製油(株))を添加した(製造例10は添加なし)。次いで、サーキュレーターで風を当てながら所定温度で水分含量が14質量%になるよう麺を乾燥させて、乾燥うどんを製造した。
【0025】
製造した乾燥うどんの食感及び調理性を評価した。乾燥うどん1食分を1Lの沸騰した湯で10~15分間茹で、その際の調理性(ほぐれ)を評価した。また、得られた茹でうどんの食感(弾力性、粘り)を評価した。評価は、10名の訓練されたパネラーにより下記評価基準に従って行い、10名の評価の平均値を求めた。
【0026】
<評価基準>
弾力性
5点:弾力が非常に強く、極めて良好である
4点:弾力がかなりあり、良好である
3点:弾力がややあり、ほぼ良好である
2点:弾力があまりなく、やや不良である
1点:弾力が全くなく、不良である
粘り
5点:強い粘りがあり、極めて良好である
4点:かなりの粘りがあり、良好である
3点:粘りがややあり、ほぼ良好である
2点:粘りがあまりなく、やや不良である
1点:粘りが全くなく、不良である
調理性(ほぐれ)
5点:調理時に麺塊のほぐれが非常に早く、喫食時に麺同士のくっつきが全くない
4点:調理時に麺塊のほぐれが早く、喫食時に麺同士のくっつきが殆ど問題にならない
3点:調理時に麺塊のほぐれがやや早く、喫食時に麺同士のくっつきが問題にならない
2点:調理時に麺塊のほぐれがやや悪く、喫食時に麺同士がややくっついている
1点:調理時に麺塊のほぐれが悪く、喫食時に麺同士のくっつきが目立つ
【0027】
製造した乾燥うどんの製造工程でのボイル温度、冷蔵保管の温度と時間及び乾燥温度、ならびに評価結果を表1に示す。
【0028】