(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-30
(45)【発行日】2025-06-09
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20250602BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20250602BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250602BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20250602BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20250602BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/22
C08K5/5419
C08L83/06
(21)【出願番号】P 2022063110
(22)【出願日】2022-04-05
【審査請求日】2024-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】森村 俊晴
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-180200(JP,A)
【文献】特開2004-331962(JP,A)
【文献】特開2021-176945(JP,A)
【文献】特開2013-147600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ヒドロシリル基のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-4)からなる熱伝導性充填材:4,300~5,800質量部、
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー:1,750~3,000質量部、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー:750~2,000質量部、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー:750~1,500質量部、
(C-4)平均粒径が0.7μmを超えて4μm以下である球状アルミナフィラー:125~750質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm、
(E)付加反応制御剤:0.01~2.0質量部、
(F)酸化セリウム:7.5~25質量部、及び
(G)下記(G-1)及び(G-2)から選ばれる1種以上の表面処理剤:0.01~300質量部、
(G-1)下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物、
R
1
aR
2
bSi(OR
3)
4-a-b (1)
(式中、R
1は独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、R
2は独立に炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、R
3は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
(G-2)下記一般式(2)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、
【化1】
(式中、R
4は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
を含むものであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
更に、(H)成分として、下記一般式(3)で表される23℃における動粘度が10~100,000mm
2/sのオルガノポリシロキサンを前記(A)成分の100質量部に対して、0.1~100質量部で含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【化2】
(式中、R
5は独立に炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、dは5~2,000の整数である。)
【請求項3】
23℃におけるフローテスタ粘度計で測定した前記熱伝導性シリコーン組成物の粘度が4,000Pa・s以下のものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であることを特徴とする熱伝導性シリコーン硬化物。
【請求項5】
前記熱伝導性シリコーン硬化物の形状がシート状のものであることを特徴とする請求項4に記載の熱伝導性シリコーン硬化物。
【請求項6】
前記熱伝導性シリコーン硬化物のアスカーC硬度計で測定した硬さにおいて、150℃×500時間エージング後の硬さが、エージング前の硬さに対して、-5ポイント以上、40ポイント以下のものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の熱伝導性シリコーン硬化物。
【請求項7】
前記熱伝導性シリコーン硬化物のホットディスク法により測定した23℃における熱伝導率が、7.5W/m・K以上のものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の熱伝導性シリコーン硬化物。
【請求項8】
前記熱伝導性シリコーン硬化物の1mm厚における絶縁破壊電圧が10kV/mm以上のものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の熱伝導性シリコーン硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の高機能化、電子部品の小型・高集積化に伴い、電子機器や電子部品の発熱量は増大し、発熱密度が高くなる傾向にあり、対策として放熱性に優れた機器設計にすることや、熱伝導性に優れた材料を使用する必要がある。また、発熱部品から発生する熱をヒートシンク等の冷却部品に速やかに伝えるため、放熱グリースや放熱シートが使用されているが、放熱材料にも高い熱伝導性が求められている。
放熱材料の熱伝導性を高めるためには、例えば窒化アルミニウムや窒化ホウ素等の熱伝導率の高い熱伝導性充填材を使用することや、熱伝導性充填材を高充填化する方法があるが、熱伝導率の高い充填材はコストが高く、充填材の高充填化は組成物の粘度が高くなる等の問題があった。
【0003】
この問題を解決するために、球状アルミナ粉のみを使用する方法もあるが、高熱伝導化するためには、不定形アルミナに比べ、大量に充填する必要があり、組成物の粘度が上昇し、加工性が悪化する。また、高熱伝導化のために粒子径の大きい球状アルミナ粉を使用する方法もあるが、粒子径が大きすぎると材料の撹拌時に反応釜や撹拌羽が削れたり、シート成型時の加工性が悪くなったり、成型したシートが脆くなる問題があった。
また、シリコーン硬化物中のアルミナ粉の充填量が高くなると、高温で長時間使用した時に、硬化物の硬度が顕著に低下する傾向があり、振動が強いモジュール等、用途によっては復元性が不足することで密着不良が発生し、経時で熱抵抗が上昇する問題があった。
【0004】
特許文献1には、球状溶融固化アルミナを含む耐熱性熱伝導シリコーン組成物が記載されている。
特許文献2には、環状構造中に2級のアミノ基を1個以上、かつケトン基を1個以上含む有機多環芳香族化合物を含む耐熱性シリコーン樹脂組成物が記載されている。
特許文献3には、粒径の異なる球状アルミナと不定形アルミナを含む熱伝導シリコーン組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-123200号公報
【文献】国際公開第2021/161580号
【文献】特開2021-176945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、絶縁性、熱伝導性、加工性、耐熱性に優れた熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。特に、高温で長時間使用しても硬度が低下しない熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ヒドロシリル基のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-4)からなる熱伝導性充填材:4,300~5,800質量部、
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー:1,750~3,000質量部、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー:750~2,000質量部、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー:750~1,500質量部、
(C-4)平均粒径が0.7μmを超えて4μm以下である球状アルミナフィラー:125~750質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm、
(E)付加反応制御剤:0.01~2.0質量部、
(F)酸化セリウム:7.5~25質量部、及び
(G)下記(G-1)及び(G-2)から選ばれる1種以上の表面処理剤:0.01~300質量部、
(G-1)下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物、
R
1
aR
2
bSi(OR
3)
4-a-b (1)
(式中、R
1は独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、R
2は独立に炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、R
3は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
(G-2)下記一般式(2)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、
【化1】
(式中、R
4は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
を含むものである熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【0008】
このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、その硬化物が絶縁性、熱伝導性、加工性、耐熱性に優れたものとなり、特に、高温で長時間使用しても硬度が低下しない硬化物を与える熱伝導性シリコーン組成物となる。このような熱伝導性シリコーン組成物は、例えば電子機器内の発熱部品と放熱部品の間に設置される熱伝導性樹脂成形体として好適に用いられる。
【0009】
また、本発明では、更に、(H)成分として、下記一般式(3)で表される23℃における動粘度が10~100,000mm
2/sのオルガノポリシロキサンを前記(A)成分の100質量部に対して、0.1~100質量部で含有するものであることが好ましい。
【化2】
(式中、R
5は独立に炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、dは5~2,000の整数である。)
【0010】
このような熱伝導シリコーン組成物であれば、柔軟性に優れ、得られる硬化物のオイルブリードが発生しづらくなる。
【0011】
また、本発明では、23℃におけるフローテスタ粘度計で測定した前記熱伝導性シリコーン組成物の粘度が4,000Pa・s以下のものであることが好ましい。
【0012】
このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、成形性(加工性)に優れる。
【0013】
また、本発明では、上記に記載の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物である熱伝導性シリコーン硬化物を提供する。
【0014】
このような熱伝導性シリコーン硬化物であれば、絶縁性、熱伝導性、加工性、耐熱性に優れたものとなり、例えば電子機器内の発熱部品と放熱部品の間に設置される熱伝導性樹脂成形体として好適に用いられる。
【0015】
また、本発明では、前記熱伝導性シリコーン硬化物の形状がシート状のものであることが好ましい。
【0016】
このような熱伝導性シリコーン硬化物であれば、取り扱い性に優れる。
【0017】
また、本発明では、前記熱伝導性シリコーン硬化物のアスカーC硬度計で測定した硬さにおいて、150℃×500時間エージング後の硬さが、エージング前の硬さに対して、-5ポイント以上、40ポイント以下のものであることが好ましい。
【0018】
このような熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であれば、高温で長時間使用しても硬度の低下が小さいものとなる。
【0019】
また、本発明では、前記熱伝導性シリコーン硬化物のホットディスク法により測定した23℃における熱伝導率が、7.5W/m・K以上のものであることが好ましい。
【0020】
このような熱伝導性シリコーン硬化物であれば、熱伝導性に優れる。
【0021】
また、本発明では、前記熱伝導性シリコーン硬化物の1mm厚における絶縁破壊電圧が10kV/mm以上のものであることが好ましい。
【0022】
このような熱伝導性シリコーン硬化物であれば、使用時に安定的に絶縁を確保することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の熱伝導性シリコーン組成物であれば、絶縁性、熱伝導性、加工性に優れた熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を提供できる。また、高温保存時における硬度低下が抑えられ、7.5W/m・K以上の熱伝導率を有し、シート状に成型された熱伝導性シリコーン硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述のように、絶縁性、熱伝導性、加工性、耐熱性に優れた熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物の開発が求められていた。
【0025】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、平均粒径が8μmを超えて40μm以下の球状アルミナフィラーと、平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下の不定形アルミナフィラーと、平均粒径が0.7μmを超えて4μm以下の球状アルミナフィラーと、平均粒径が70μmを超えて135μm以下の球状アルミナフィラーとを特定割合で混合し、酸化セリウムを併用することで上記問題を解決することができることを見出した。即ち、比表面積が小さい平均粒径が70μmを超えて135μm以下の球状アルミナフィラーを多く配合することで、効果的に熱伝導性を向上させることが可能であり、かつ粘度が低く加工性に優れた熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物を提供できることを見出した。
また、40μm以下の平均粒径を有する球状アルミナフィラー及び不定形アルミナフィラーを併用し、特に4μm以下の粒径では不定形アルミナフィラーと球状アルミナフィラーを併用することにより、熱伝導性シリコーン組成物の流動性が向上し、加工性が改善する。更に5μm以上の粒子には球状アルミナフィラーを使用するため、反応釜や撹拌羽の磨耗が抑えられ、絶縁性が向上することを見出した。
つまり、粒径が小さい球状アルミナフィラーと、大粒径球状アルミナフィラーがお互いの欠点を補い合うことで、上記目的を達成し得る熱伝導性シリコーン組成物及び硬化物を与えることを見出した。
また、上記熱伝導性シリコーン組成物に酸化セリウムを添加することにより、高温保存時における硬化物の硬度低下を抑制できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0026】
即ち、本発明は、熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ヒドロシリル基のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-4)からなる熱伝導性充填材:4,300~5,800質量部、
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー:1,750~3,000質量部、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー:750~2,000質量部、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー:750~1,500質量部、
(C-4)平均粒径が0.7μmを超えて4μm以下である球状アルミナフィラー:125~750質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm、
(E)付加反応制御剤:0.01~2.0質量部、
(F)酸化セリウム:7.5~25質量部、及び
(G)下記(G-1)及び(G-2)から選ばれる1種以上の表面処理剤:0.01~300質量部、
(G-1)下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物、
R
1
aR
2
bSi(OR
3)
4-a-b (1)
(式中、R
1は独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、R
2は独立に炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、R
3は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
(G-2)下記一般式(2)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、
【化3】
(式中、R
4は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
を含むものである熱伝導性シリコーン組成物である。
【0027】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
[熱伝導性シリコーン組成物]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)下記(C-1)~(C-4)からなる熱伝導性充填材、
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー、
(C-4)平均粒径が0.7μmを超えて4μm以下である球状アルミナフィラー、
(D)白金族金属系硬化触媒、
(E)付加反応制御剤、
(F)酸化セリウム、
(G)表面処理剤
を必須成分として含有する。以下、各成分について詳述する。
【0029】
[(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン、即ち1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンであり、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の主剤となるものである。通常は主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるのが一般的であるが、これは分子構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよいが、得られる熱伝導性シリコーン硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0030】
上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の炭素原子数が2~8のものが挙げられ、中でもビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が好ましく、特に好ましくはビニル基である。なお、アルケニル基は、1分子中に2個以上存在することを特徴とし、好ましくは2~6個であり、より好ましくは2~3個である。また、得られる熱伝導性シリコーン硬化物の柔軟性がよいものとするためには、分子鎖末端のケイ素原子にのみ結合して存在することが最も好ましい。
【0031】
ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の官能基としては、炭素原子数が1~10、好ましくは炭素原子数が1~6の1価炭化水素基が挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、及びフェニル基が好適に用いられる。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の官能基は全てが同一であっても異なっていてもよい。
【0032】
このオルガノポリシロキサンの23℃における動粘度は、通常、10~100,000mm2/s、特に好ましくは500~50,000mm2/sの範囲である。前記動粘度が10mm2/s以上であれば、得られる熱伝導性シリコーン組成物の保存安定性が良くなり、また100,000mm2/s以下であれば、得られる熱伝導性シリコーン組成物の伸展性が良くなる。なお、本明細書において、動粘度はJIS Z 8803:2011記載の方法でキャノン-フェンスケ粘度計を用いて23℃で測定した場合の値である。
【0033】
この(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独でも、動粘度が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
[(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に2個以上、好ましくは2~100個のヒドロシリル基(ケイ素原子に直接結合する水素原子)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分の架橋剤として作用する成分である。即ち、(B)成分中のヒドロシリル基と(A)成分中のアルケニル基とが、後述する(D)成分の白金族金属系硬化触媒により促進されるヒドロシリル化反応により付加して、架橋構造を有する3次元網目構造を与える。なお、ヒドロシリル基の数が1分子中に2個未満の場合、硬化しない。
【0035】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均構造式(4)で示されるものが用いられるが、これに限定されるものではない。
【化4】
(式中、R
6は独立に水素原子、又は炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる1価炭化水素基である。ただし、1分子中の2個以上、好ましくは2~10個のR
6は水素原子である。また、eは1以上の整数、好ましくは10~200の整数である。)
【0036】
式(4)中、R6は独立に水素原子、又は炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる1価炭化水素基である。ただし、1分子中の2個以上、好ましくは2~10個のR6は水素原子である。R6の水素原子以外の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基が挙げられる。これらの1価炭化水素基の中で、好ましくは炭素原子数が1~10、特に好ましくは炭素原子数が1~6のものであり、中でも、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1~3のアルキル基、及びフェニル基が好適に用いられる。また、eは1以上の整数、好ましくは10~200の整数である。
【0037】
(B)成分の添加量は、(B)成分由来のヒドロシリル基が(A)成分由来のアルケニル基1モルに対して0.1~5.0モルとなる量、即ちヒドロシリル基のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量であることを特徴とする。好ましくは、0.3~2.0モルとなる量、更に好ましくは0.5~1.0モルとなる量である。(B)成分由来のヒドロシリル基の量が(A)成分由来のアルケニル基1モルに対して0.1モル未満であると硬化しない、又は熱伝導性シリコーン硬化物の強度が不十分で成形体としての形状を保持できず取り扱えない場合がある。また5.0モルを超えると熱伝導性シリコーン硬化物の柔軟性がなくなり、熱伝導性シリコーン硬化物が脆くなる。
【0038】
[(C)熱伝導性充填材]
(C)成分である熱伝導性充填材は、下記(C-1)~(C-4)成分からなるものである。
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー、
(C-4)平均粒径が0.7μmを超えて4μm以下である球状アルミナフィラー。
なお、本発明において、上記平均粒径は、日機装(株)製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXにより、レーザ回折・散乱法にて測定した体積基準の累積平均粒径(メディアン径)の値である。
【0039】
(C-1)成分の球状アルミナフィラーは、熱伝導率を優位に向上させることができる。球状アルミナの平均粒径は70μmを超えて135μm以下であり、70μmを超えて120μm以下であることが好ましく、さらに70μmを超えて100μm以下であることがより好ましい。平均粒径が70μm以下であると、熱伝導性を向上させる効果が低くなり、また、熱伝導性シリコーン組成物の粘度が上昇し、加工性が悪くなる。また、平均粒径が135μmより大きいと、反応釜や撹拌羽根の磨耗が顕著となり、熱伝導性シリコーン組成物の絶縁性が低下する懸念がある。さらに、プレス成形時に球状アルミナフィラーと樹脂の分離が発生し、シート端部がフィラーリッチ部となり脆化してしまう問題があった。この場合、シート成形における材料収率が大きく低下してしまう。(C-1)成分の球状アルミナフィラーとしては1種又は2種以上を複合して用いてもよい。2種以上を複合して用いる場合は、それぞれ上記平均粒径の範囲を満たせばよい。
【0040】
(C-2)成分の球状アルミナフィラーは、熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率を向上させるとともに、後述する(C-3)の不定形アルミナフィラーと反応釜や撹拌羽根の接触を抑制し、磨耗を抑えるバリア効果を提供する。平均粒径は8μmを超えて40μm以下であり、10~40μmであることが好ましい。平均粒径が8μm以下であると、バリア効果が低下し、不定形アルミナフィラーによる反応釜や撹拌羽根の磨耗が顕著となる。
【0041】
(C-3)成分の不定形アルミナフィラーは、熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率を向上させる役割も担うが、その主な役割は熱伝導性シリコーン組成物の粘度調整、滑らかさ向上、充填性向上である。(C-3)成分の平均粒径は0.4μmを超えて4μm以下であり、0.6~3μmであることが、上記した特性発現のためにより好ましい。
【0042】
(C-4)成分の球状アルミナフィラーは、熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率を向上させる役割も担うが、その主な役割は熱伝導性シリコーン組成物の粘度調整、滑らかさ向上、充填性向上である。(C-4)成分の平均粒径は0.7μmを超えて4μm以下であり、0.7μmを超えて3μm以下であることが、上記した特性発現のためにより好ましい。
【0043】
(C-1)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1,750~3,000質量部であり、好ましくは1,875~2,500質量部である。少なすぎると熱伝導率の向上が困難であり、多すぎると反応釜や撹拌羽根の磨耗が顕著となり、熱伝導性シリコーン組成物の絶縁性が低下する。
【0044】
(C-2)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して750~2,000質量部であり、好ましくは1,000~1,600質量部である。少なすぎると熱伝導率の向上が困難であり、多すぎると熱伝導性シリコーン組成物の流動性が失われ、成形性が損なわれる。
【0045】
(C-3)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して750~1,500質量部であり、好ましくは900~1,250質量部である。少なすぎると熱伝導率の向上が困難であり、多すぎると熱伝導性シリコーン組成物の流動性が失われ、成形性が損なわれる。
【0046】
(C-4)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して125~750質量部であり、好ましくは125~375質量部である。少なすぎると熱伝導率の向上が困難であり、多すぎると熱伝導性シリコーン組成物の流動性が失われ、成形性が損なわれる。
【0047】
更に、(C)成分の配合量(即ち、上記(C-1)~(C-4)成分の合計配合量)は、(A)成分100質量部に対して4,300~5,800質量部であることが必要であり、好ましくは4,500~5,200質量部である。この配合量が4,300質量部未満の場合には、得られる熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率が悪くなる。5,800質量部を超える場合には、得られる熱伝導性シリコーン組成物の流動性が失われ、成形性が損なわれる。
【0048】
上記配合割合で(C)成分を用いることで、上記した本発明の効果がより有利にかつ確実に達成できる。
【0049】
[(D)白金族金属系硬化触媒]
(D)成分の白金族金属系硬化触媒は、(A)成分由来のアルケニル基と、(B)成分由来のヒドロシリル基の付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KaHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照)、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照)、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム-オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。
【0050】
(D)成分の使用量は、(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppmであり、好ましくは50~1,000ppmである。
【0051】
[(E)反応制御剤]
(E)成分の付加反応制御剤は、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤であれば、特に限定されない。例えば、1-エチニル-1-ヘキサノール、3-ブチン-1-オール、エチニルメチリデンカルビノール等のアセチレン化合物や各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。(E)成分を配合する場合の使用量としては、(A)成分100質量部に対して0.01~2.0質量部、特に0.1~1.2質量部程度が望ましい。(E)成分の配合量が少なすぎると付加反応の進行により熱伝導性シリコーン組成物の取り扱い性に劣る場合があり、多すぎると硬化反応が進まず、成形効率が損なわれる場合がある。
【0052】
[(F)酸化セリウム]
(F)成分の酸化セリウムは、耐熱性の改善、特には、前記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物の軟化劣化を抑制することを目的とする。酸化セリウムの添加量は、(A)成分100質量部に対して、7.5~25質量部であり、好ましくは、8.0~14質量部である。添加量がこの範囲外だと、150℃の高温で保存した場合硬度の低下が見られる恐れがある。
【0053】
酸化セリウムを添加することで、前記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物は、耐熱性に優れたものとなる。具体的には、前記硬化物のアスカーC硬度計で測定した硬さにおいて、150℃×500時間エージング後の硬さが、エージング前の硬さに対して、-5ポイント以上、+40ポイント以下であることが好ましく、-3ポイント以上+20ポイント以下であることがより好ましい。
【0054】
[(G)表面処理剤]
(G)成分の表面処理剤は、熱伝導性シリコーン組成物調製時に前記(C)成分を疎水化処理し、前記(A)成分との濡れ性を向上させ、(C)成分を(A)成分からなるマトリックス中に均一に分散させることを目的とする。(G)成分としては、下記に示す(G-1)成分及び(G-2)成分から選ばれる1種以上の表面処理剤である。
【0055】
(G-1)成分は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物である。
R1
aR2
bSi(OR3)4-a-b (1)
(式中、R1は独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、R2は独立に炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、R3は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
【0056】
上記一般式(1)において、R1で表される炭素原子数6~15のアルキル基としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。このR1で表されるアルキル基の炭素原子数が6~15の範囲を満たすと(A)成分の濡れ性が十分に向上し、取り扱い性がよく、組成物の低温特性が良好なものとなる。
【0057】
R2で表される炭素原子数1~5のアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。炭素原子数6~12のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等が挙げられる。そして、炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基の例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等が挙げられる。中でも、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1~3のアルキル基、及びフェニル基が挙げられる。R3としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0058】
(G-2)成分は、下記一般式(2)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンである。
【化5】
(式中、R
4は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、具体的には前記R
3で例示されたアルキル基と同じものが例示できる。cは5~100、好ましくは5~70、特に好ましくは10~50の整数である。)
【0059】
(G)成分の表面処理剤としては、(G-1)成分と(G-2)成分のいずれか一方でも両者を組み合わせて配合しても差し支えない。
【0060】
(G)成分を配合する場合の配合量としては、(A)成分100質量部に対して0.01~300質量部であり、0.1~200質量部であることが好ましい。300質量部を超えて本成分の割合が多くなるとオイル分離を誘発する可能性がある。
【0061】
[(H)オルガノポリシロキサン]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、熱伝導性シリコーン組成物の粘度調整等の特性付与を目的として、(H)成分のオルガノポリシロキサンを配合してもよい。この(H)成分としては、下記一般式(3)で表される23℃における動粘度が10~100,000mm
2/sのオルガノポリシロキサンを添加することができる。(H)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【化6】
(式中、R
5は独立に炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基、dは5~2,000の整数である。)
【0062】
上記一般式(3)において、R5は独立に炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基である。R5の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。中でも、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1~3のアルキル基、及びフェニル基が挙げられるが、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0063】
上記dは要求される粘度の観点から、好ましくは5~2,000の整数で、特に好ましくは10~1,000の整数である。
【0064】
また、(H)成分の23℃における動粘度は、好ましくは10~100,000mm2/sであり、特に100~10,000mm2/sであることが好ましい。動粘度が10mm2/s以上であれば、得られる組成物の硬化物がオイルブリードを発生し難くなる。動粘度が100,000mm2/s以下であれば、得られる熱伝導性シリコーン組成物の柔軟性が優れたものとなる。
【0065】
(H)成分を本発明の熱伝導性シリコーン組成物に添加する場合、その添加量は特に限定されず、所望の効果が得られる量であればよいが、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは1~50質量部である。添加量がこの範囲にあると、硬化前の熱伝導性シリコーン組成物に良好な流動性、作業性を維持し易く、また(C)成分の熱伝導性充填材を組成物に充填するのが容易である。
【0066】
[その他の成分]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、本発明の目的に応じて、更に他の成分を配合しても差し支えない。例えば、酸化鉄等の耐熱性向上剤;シリカ等の粘度調整剤;着色剤;離型剤等の任意成分を配合することができる。
【0067】
[熱伝導性シリコーン硬化物]
本発明では、上記熱伝導性シリコーン組成物の硬化物である、熱伝導性シリコーン硬化物を提供する。本発明の熱伝導性シリコーン硬化物は絶縁性、熱伝導性、加工性、耐熱性に優れ、例えば電子機器内の発熱部品と放熱部品の間に設置される熱伝導性樹脂成形体として好適に用いられる。また、熱伝導性シリコーン硬化物の形状がシート状であれば、取り扱い性に優れるため好ましい。
【0068】
[熱伝導性シリコーン組成物の調製]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上述した各成分を常法に準じて均一に混合することにより調製することができる。
【0069】
[熱伝導性シリコーン組成物の粘度]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物の粘度は、23℃において4,000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは3,000Pa・s以下である。粘度が4,000Pa・s以下であれば、成形性が損なわれる場合がない。なお、本発明において、この粘度はフローテスタ粘度計による測定に基づく。
【0070】
[熱伝導性シリコーン硬化物の製造方法]
熱伝導性シリコーン組成物を成形する硬化条件としては、公知の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物と同様でよく、例えば、常温でも十分硬化するが、必要に応じて加熱してもよい。好ましくは100~120℃で8~12分間で付加硬化させるのがよい。このような本発明の熱伝導性シリコーン硬化物は熱伝導性に優れる。
【0071】
[熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率]
本発明における熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率は、ホットディスク法により測定した23℃における測定値が7.5W/m・K以上、特に8.0W/m・K以上であることが望ましい。
【0072】
[熱伝導性シリコーン硬化物の絶縁破壊電圧]
本発明における熱伝導性シリコーン硬化物の絶縁破壊電圧は、熱伝導性シリコーン硬化物の1mm厚における絶縁破壊電圧をJIS K 6249:2003に準拠して測定したときの測定値が、10kV/mm以上、より好ましくは12kV/mm以上であることが好ましい。絶縁破壊電圧が10kV/mm以上の硬化物の場合、使用時に安定的に絶縁を確保することができる。なお、このような絶縁破壊電圧は、フィラーの種類や純度を調整することにより、調整することができる。
【0073】
[熱伝導性シリコーン硬化物の硬度]
本発明における熱伝導性シリコーン硬化物の硬さは、アスカーC硬度計で測定した23℃における測定値が60以下、好ましくは40以下、より好ましくは30以下であることが好ましく、また5以上であることが好ましい。硬さが60以下の場合、被放熱体の形状に沿うように変形し、被放熱体に応力をかけることなく良好な放熱特性を示す。なお、このような硬さは、(A)成分と(B)成分の比率を変えて、架橋密度を調整することにより、調整することができる。また、150℃×500時間エージング後の硬さが、エージング前の硬さに対して、-5ポイント以上、40ポイント以下のものであることが好ましい。このような熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であれば、高温で長時間使用しても硬度の低下が小さいものとなる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、組成物の粘度は23℃においてフローテスタ粘度計により測定した。測定装置としては島津製作所製のCFT-500EXを使用した。ダイ穴径を直径2mm、ダイ長さを2mm、試験荷重を10kgとして時間とストロークをプロットし、傾きから粘度を算出した。また、平均粒径は日機装(株)製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXにより測定した体積基準の累積平均粒径(メディアン径)の値である。
【0075】
下記実施例及び比較例に用いられる(A)~(H)成分を下記に示す。
(A)成分:
下記式(5)で示されるオルガノポリシロキサン。
【化7】
(式中、Xはビニル基であり、fは下記粘度を与える数である。)
(A-1)動粘度:600mm
2/s
(A-2)動粘度:30,000mm
2/s
【0076】
(B-1)成分:
下記式(6-1)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン。
【化8】
(B-2)成分:
下記式(6-2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン。
【化9】
【0077】
(C)成分:
平均粒径が下記の通りである球状アルミナフィラー、不定形アルミナフィラー。
(C-1)平均粒径が98.8μmの球状アルミナフィラー。
(C-2)平均粒径が23.4μmの球状アルミナフィラー。
(C-3)平均粒径が1.7μmの不定形アルミナフィラー。
(C-4)平均粒径が2.3μmの球状アルミナフィラー。
【0078】
(D)成分:
5質量%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液。
【0079】
(E)成分:
エチニルメチリデンカルビノール。
【0080】
(F)成分:
酸化セリウム。
【0081】
(G)成分:(G-2)成分
下記式(7)で示される平均重合度が30の片末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン。
【化10】
【0082】
(H)成分
可塑剤として、下記式(8)で示される23℃における動粘度が100mm
2/sのジメチルポリシロキサン。
【化11】
【0083】
[実施例1~4、比較例1~4]
実施例1~4及び比較例1~4において、上記(A)~(H)成分を下記表1に示す所定の量を用いて下記のように熱伝導性シリコーン組成物を調製し、成形硬化させ、下記方法に従って熱伝導性シリコーン組成物の粘度、その硬化物の熱伝導率、硬度、絶縁破壊電圧測定した。結果を表1に併記する。
【0084】
[熱伝導性シリコーン組成物の調製]
(A)、(C)、(F)、(G)、(H)成分を下記表1の実施例1~4及び比較例1~4に示す所定の量で加え、プラネタリーミキサーで60分間混練した。そこに(D)成分を下記表1の実施例1~4及び比較例1~4に示す所定の量で加え、更にセパレータとの離型を促す内添離型剤として、信越化学製のフェニル変性シリコーンオイルであるKF-54を有効量加え、30分間混練した。
そこに更に(B)、(E)成分を下記表1の実施例1~4及び比較例1~4に示す所定の量で加え、30分間混練し、熱伝導性シリコーン組成物を得た。
【0085】
[成形方法]
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を長さ60mm×幅60mmで、厚さ6mmもしくは1mmの金型に流し込み、プレス成形機を用い、120℃、10分間で成形した。
【0086】
[評価方法]
熱伝導性シリコーン組成物の粘度:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物の粘度を、フローテスタ粘度計にて、23℃環境下で測定した。
【0087】
熱伝導率:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を、プレス成型機を用いて、120℃、10分間の条件で6mm厚のシート状に硬化させ、そのシートを2枚用いて、熱伝導率計(商品名:TPS-2500S、京都電子工業(株)製)により該シートの熱伝導率を測定した。
【0088】
絶縁破壊電圧:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を、プレス成型機を用いて、120℃、10分間の条件で1mm厚のシート状に硬化させ、JIS K 6249:2003に準拠して絶縁破壊電圧を測定した。
【0089】
硬さ:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を上記と同様に6mm厚のシート状に硬化させ、そのシートを2枚重ねてアスカーC硬度計で測定した。
【0090】
150℃、500時間保存後の硬さ:
実施例1~4及び比較例1~4で得られた熱伝導性シリコーン組成物を、プレス成型機を用いて、120℃、10分間の条件で6mm厚のシート状に硬化させた硬化物を、150℃の高温炉に500時間保存したのち、そのシートを2枚重ねてアスカーC硬度計で測定した。
【0091】
【0092】
実施例1~4では、熱伝導性シリコーン組成物の粘度、成形性、熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率、絶縁破壊電圧、硬さとも良好な結果であった。また、(F)酸化セリウムを添加したことで、さらに150℃の高温で保存しても、軟化劣化による硬度の低下はみられなかった。
【0093】
比較例1のように(C-4)成分(平均粒径が0.7μmを超えて4μm以下である球状アルミナフィラー)を含有しないと、熱伝導性シリコーン組成物の粘度が著しく上昇した。比較例2のように(F)酸化セリウムの添加量が本発明の範囲から外れた場合、150℃×500時間保存後の硬さが低下した。比較例3のように(C)熱伝導性充填材の配合量が多すぎると、熱伝導性充填材の濡れ性が不足し、グリース状の均一な熱伝導性シリコーン組成物を得ることができなかった。比較例4のように(C)熱伝導性充填材の配合量が少なすぎると、熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率が顕著に低下した。
【0094】
本明細書は以下の態様を包含する。
[1]:熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ヒドロシリル基のモル数が前記(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.1~5.0倍量となる量、
(C)下記(C-1)~(C-4)からなる熱伝導性充填材:4,300~5,800質量部、
(C-1)平均粒径が70μmを超えて135μm以下である球状アルミナフィラー:1,750~3,000質量部、
(C-2)平均粒径が8μmを超えて40μm以下である球状アルミナフィラー:750~2,000質量部、
(C-3)平均粒径が0.4μmを超えて4μm以下である不定形アルミナフィラー:750~1,500質量部、
(C-4)平均粒径が0.7μmを超えて4μm以下である球状アルミナフィラー:125~750質量部、
(D)白金族金属系硬化触媒:前記(A)成分に対して白金族金属元素質量換算で0.1~2,000ppm、
(E)付加反応制御剤:0.01~2.0質量部、
(F)酸化セリウム:7.5~25質量部、及び
(G)下記(G-1)及び(G-2)から選ばれる1種以上の表面処理剤:0.01~300質量部、
(G-1)下記一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物、
R
1
aR
2
bSi(OR
3)
4-a-b (1)
(式中、R
1は独立に炭素原子数6~15のアルキル基であり、R
2は独立に炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、R
3は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、aは1~3の整数、bは0~2の整数であり、但しa+bは1~3の整数である。)
(G-2)下記一般式(2)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、
【化12】
(式中、R
4は独立に炭素原子数1~6のアルキル基であり、cは5~100の整数である。)
を含むものであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
[2]:更に、(H)成分として、下記一般式(3)で表される23℃における動粘度が10~100,000mm
2/sのオルガノポリシロキサンを前記(A)成分の100質量部に対して、0.1~100質量部で含有するものであることを特徴とする上記[1]の熱伝導性シリコーン組成物。
【化13】
(式中、R
5は独立に炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、及び炭素原子数7~12のアラルキル基から選ばれる基であり、dは5~2,000の整数である。)
[3]:23℃におけるフローテスタ粘度計で測定した前記熱伝導性シリコーン組成物の粘度が4,000Pa・s以下のものであることを特徴とする上記[1]又は上記[2]の熱伝導性シリコーン組成物。
[4]:上記[1]、上記[2]又は上記[3]の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物であることを特徴とする熱伝導性シリコーン硬化物。
[5]:前記熱伝導性シリコーン硬化物の形状がシート状のものであることを特徴とする上記[4]の熱伝導性シリコーン硬化物。
[6]:前記熱伝導性シリコーン硬化物のアスカーC硬度計で測定した硬さにおいて、150℃×500時間エージング後の硬さが、エージング前の硬さに対して、-5ポイント以上、40ポイント以下のものであることを特徴とする上記[4]又は上記[5]の熱伝導性シリコーン硬化物。
[7]:前記熱伝導性シリコーン硬化物のホットディスク法により測定した23℃における熱伝導率が、7.5W/m・K以上のものであることを特徴とする上記[4]、上記[5]又は上記[6]の熱伝導性シリコーン硬化物。
[8]:前記熱伝導性シリコーン硬化物の1mm厚における絶縁破壊電圧が10kV/mm以上のものであることを特徴とする上記[4]、上記[5]、上記[6]又は上記[7]の熱伝導性シリコーン硬化物。
【0095】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。