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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-02
(45)【発行日】2025-06-10
(54)【発明の名称】漢方製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/076 20060101AFI20250603BHJP
   A61K 36/62 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 36/8968 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 36/258 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 36/68 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 36/539 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 36/481 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 36/815 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20250603BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20250603BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20250603BHJP
【FI】
A61K36/076
A61K36/62
A61K36/8968
A61K36/258
A61K36/68
A61K36/539
A61K36/481
A61K36/815
A61K36/484
A61P13/02
A61K31/704
A61K31/7048
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020110245
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007332
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 綾郁
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-530326(JP,A)
【文献】生薬学雑誌,vol. 44, no. 3,1990年,pp. 202-206
【文献】生薬学雑誌,vol. 45, no. 3,1991年,pp. 220-226
【文献】薬学雑誌,vol. 123, no. 8,2003年,pp. 619-631
【文献】アグリバイオ,2018年01月20日,vol. 2, no. 1,pp. 48-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/
BIOSIS/AGRICOLA/BIOTECHNO/CABA/
SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
清心蓮子飲エキスを含有する漢方製剤であって、
前記清心蓮子飲エキス中、グリチルリチン酸の含有量が0.22~1重量%、且つグリチルリチン酸100重量部に対するオノニンの含有量が8.34~23重量部である、漢方製剤。
【請求項2】
散剤、細粒剤、顆粒剤、トローチ剤、又はチュアブル剤である、請求項1に記載の漢方製剤。
【請求項3】
グリチルリチン酸を0.22~1重量%含有する清心蓮子飲エキスを含有する漢方製剤においてグリチルリチン酸の甘味を抑制する方法であって、
前記清心蓮子飲エキス中、グリチルリチン酸100重量部に対しオノニンの含有量が8.34~23重量部となるように調整する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清心蓮子飲エキスを含有する漢方製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
清心蓮子飲エキスは、9種の生薬を含む生薬混合物の抽出エキスであり、全身倦怠感があり、口や舌が乾き、尿が出しぶるものの次の諸症:残尿感、頻尿、排尿痛に用いられる(非特許文献1、2)。
【0003】
清心蓮子飲エキスの製造方法としては、生薬混合物を、水を用いて煎出(非特許文献1、2)する方法が一般的である。
【0004】
清心蓮子飲エキスの製造に用いられるカンゾウに含まれるグリチルリチン酸には抗炎症作用、免疫調節作用、肝細胞増殖作用をはじめとする多くの薬効の薬理作用が報告されている(非特許文献3)。また、グリチルリチン酸は砂糖の約170倍もの甘味を有することが知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】医薬品インタビューフォーム、2013年4月(改訂第3版)、漢方製剤 ツムラ清心蓮子飲エキス顆粒(医療用)
【文献】医薬品インタビューフォーム、2017年2月改訂(第3版)、漢方製剤 ジュンコウ清心蓮子飲FCエキス顆粒 医療用
【文献】日経メディカル処方薬事典、消化器官用薬、肝疾患用薬、グリチルリチン製剤,[online],[令和2年6月10日検索],インターネット<URL:https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/556e7e5c83815011bdcf8340.html>
【文献】近畿中国四国農業研究センター研究報告 第6号、55-69、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
清心蓮子飲エキス中に含まれるカンゾウ由来のグリチルリチン酸が多くなれば、当該成分による薬理作用をより効果的に享受することができると考えられる。工業的に通常用いられている製造方法でも、甘草に含まれていた成分含量等によってはグリチルレチン酸の含量が多い清心蓮子飲エキスが得られることもある。しかしながら、本発明者が検討したところ、清心蓮子飲エキス中のグリチルリチン酸が0.22重量%以上になると、当該成分による甘味が強すぎて、清心蓮子飲エキス製剤は特有の不快な甘味を呈する。
【0007】
そこで、本発明は、グリチルリチン酸を0.22重量%以上含有する清心蓮子飲エキスを含有する漢方製剤において、グリチルリチン酸の特有の不快な甘味を抑制する処方を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、独自の製造方法によって、清心蓮子飲エキスに含まれる様々な成分の比率を変化させたところ、グリチルリチン酸100重量部に対して、オノニンの含有量が8重量部以上となるように調整することによって、グリチルリチン酸の特有の不快な甘味が抑制されることを見出した。本発明は、この知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 清心蓮子飲エキスを含有する漢方製剤であって、
前記清心蓮子飲エキス中、グリチルリチン酸の含有量が0.22重量%以上、且つグリチルリチン酸100重量部に対するオノニンの含有量が8重量部以上である、漢方製剤。
項2. 散剤、細粒剤、顆粒剤、トローチ剤、又はチュアブル剤である、項1に記載の漢方製剤。
項3. グリチルリチン酸を0.22重量%以上含有する清心蓮子飲エキスを含有する漢方製剤においてグリチルリチン酸の甘味を抑制する方法であって、
前記清心蓮子飲エキス中、グリチルリチン酸100重量部に対しオノニンの含有量が8重量部以上となるように調整する、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、グリチルリチン酸を0.22重量%以上含有する清心蓮子飲エキスを含有する漢方製剤において、グリチルリチン酸の特有の不快な甘味を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.漢方製剤
本発明の漢方製剤は、特定成分が特定比率で含まれる清心蓮子飲エキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の漢方製剤について詳述する。
【0012】
清心蓮子飲は、中国明時代の医書「万病回春」に記載されており、レンニク、バクモンドウ、ブクリョウ、ニンジン、シャゼンシ、オウゴン、オウギ、ジコッピ、カンゾウを含む混合生薬である。
【0013】
本発明において、清心蓮子飲を構成する生薬の混合比については特に制限されないが、通常、レンニク2~5重量部、好ましくは3~4重量部;バクモンドウ1.5~4重量部、好ましくは2~3重量部;ブクリョウ2~4重量部、好ましくは2.5~3.5重量部;ニンジン1.5~5重量部、好ましくは2~4重量部;シャゼンシ1.5~3重量部、好ましくは2~2.5重量部;オウゴン1.5~3重量部、好ましくは2~2.5重量部;オウギ1~4重量部、好ましくは2~3重量部;ジコッピ1~3重量部、好ましくは2~2.5重量部;カンゾウ0.7~2重量部、好ましくは0.7~1重量部が挙げられる。
【0014】
本発明で使用される清心蓮子飲エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例としては、レンニク3.5重量部、バクモンドウ2.1重量部、ブクリョウ2.8重量部、ニンジン3.5重量部、シャゼンシ2.1重量部、オウゴン2.1重量部、オウギ2.8重量部、ジコッピ2.1重量部、カンゾウ0.7重量部が挙げられる。
【0015】
本発明に用いられる清心蓮子飲エキスは、グリチルリチン酸が0.22重量%以上含まれる。このようにグリチルリチン酸の含量が高い清心蓮子飲エキスを含む漢方製剤は、特有の不快な甘味を呈するが、本発明の漢方製剤では、グリチルリチン酸が高含量でありながら、特有の不快な甘味が抑制されている。
【0016】
本発明の漢方製剤は、特有の不快な甘味の抑制効果に優れているため、グリチルリチン酸の含量がより一層高い場合であっても、効果的に不快な甘味を抑制することができる。このような観点から、本発明に用いられる清心蓮子飲エキスに含まれるグリチルリチン酸の好適な例としては、0.3重量%以上、より好ましくは0.4重量%以上、さらに好ましくは0.45重量%以上、一層好ましくは0.48重量%以上が挙げられる。本発明に用いられる清心蓮子飲エキスに含まれるグリチルリチン酸の上限としては特に限定されないが、例えば1重量%以下、好ましくは0.9重量%以下が挙げられる。
【0017】
また、本発明に用いられる清心蓮子飲エキスは、グリチルリチン酸100重量部に対し、オノニンの含有量を8重量部以上含む。これによって、高含量のグリチルリチン酸に特有の不快な甘味が抑制される。不快な甘味の抑制効果をより一層高める観点から、グリチルリチン酸100重量部に対するオノニンの含有量の好ましい例としては、8.3重量部以上又は9重量部以上、より好ましくは11重量部以上、さらに好ましくは13重量部以上、一層好ましくは15重量部以上、特に好ましくは16重量部以上が挙げられる。グリチルリチン酸100重量部に対するオノニンの含有量の上限としては特に限定されないが、例えば23重量部以下、好ましくは19重量部以下が挙げられる。
【0018】
本発明に用いられる清心蓮子飲エキス中のオノニンの含有量としては、グリチルリチン酸100重量部に対する量が上述の量である限りにおいて特に限定されないが、例えば、0.02重量%以上、好ましくは0.028重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.07重量%以上、特に好ましくは0.08重量%以上が挙げられる。本発明に用いられる清心蓮子飲エキスに含まれるオノニン含有量の上限としては特に限定されないが、例えば0.4重量%以下、好ましくは0.2重量%以下が挙げられる。
【0019】
本発明に用いられる清心蓮子飲エキスに含まれるグリチルリチン酸は、その少なくとも一部が清心蓮子飲を構成するカンゾウに由来しているが、好ましくは、その全てが清心蓮子飲を構成するカンゾウに由来している。
【0020】
本発明に用いられる清心蓮子飲エキスに含まれるオノニンは、その少なくとも一部が清心蓮子飲を構成するオウギに由来しているが、好ましくは、その全てが清心蓮子飲を構成するオウギに由来している。
【0021】
清心蓮子飲エキス中のグリチルリチン酸の含量及びそれに対するオノニンの含有比率を上記の範囲に調整する方法の一例として、清心蓮子飲エキスを調整した後、不足しているグリチルリチン酸及び/又はオノニンを添加する方法が挙げられる。この方法において、グリチルリチン酸及び/又はオノニンの添加に使用される成分としては、それら精製化合物であってもよいし、カゾウエキス、オウギエキス、又はカンゾウ及びオウギの混合生薬のエキスであってもよい。
【0022】
不快な甘味の抑制効果をより一層高める観点から、清心蓮子飲エキス中のグリチルリチン酸の含量及びそれに対するオノニンの含有比率を上記の範囲に調整する方法の他の例として、清心蓮子飲を構成する生薬混合物に用いるオウギ、又はカンゾウ及びオウギの細切物の少なくとも一部に、公称目開き1mmの篩を通過する大きさに砕いた細かい細切物を用いる方法が好ましい。この方法において、清心蓮子飲を構成する生薬混合物に用いるオウギ、又はカンゾウ及びオウギの細切物の一部に、前記の細かい細切物を用いる場合(つまり、当該細切物の一部が前記の細かい細切物であり、残りが公称目開き4mmの篩を通過しない大きさに砕いた通常の大きさの細切物である場合)、カンゾウの全細切物1重量部に対するカンゾウの前記の細かい細切物の比率、オウギの全細切物1重量部に対するオウギの前記の細かい細切物の比率、としてはいずれも、0.3重量部以上が挙げられる。不快な甘味の抑制効果をより一層高める観点から、当該比率はいずれも、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは0.7重量部以上、さらに好ましくは0.9重量部以上が挙げられる。不快な甘味の抑制効果を更に高める観点から、清心蓮子飲を構成する生薬混合物に用いるオウギ、又はカンゾウ及びオウギの細切物が全て前記の細かい細切物であることが最も好ましい。
【0023】
清心蓮子飲のエキスは、上記の混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮又はさらに乾燥させることにより得ることができる。
【0024】
清心蓮子飲エキスの抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノール、好ましくは水が挙げられる。また、清心蓮子飲の液状のエキスは、得られた抽出液を濃縮することにより得ることができる。さらに、清心蓮子飲の乾燥エキス末は、液状のエキスを乾燥処理することにより得ることができる。乾燥処理の方法としては特に限定されず、例えば、スプレードライ法や、エキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0025】
清心蓮子飲のエキスの形態としては、流エキス、軟エキス等の液状のエキス、又は固形状の乾燥エキス末のいずれであってもよい。
【0026】
本発明の漢方製剤中の清心蓮子飲エキスの含有量としては、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、清心蓮子飲エキスの乾燥エキス末量換算で、10~100重量%、好ましくは20~90重量%、より好ましくは40~80重量%、更に好ましくは60~70重量%が挙げられる。なお、本発明において、清心蓮子飲の乾燥エキス末量換算とは、清心蓮子飲の乾燥エキス末を使用する場合にはそれ自体の量であり清心蓮子飲の液状のエキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、清心蓮子飲の乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0027】
その他の成分
本発明の漢方製剤は、清心蓮子飲エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、漢方製剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0028】
また、本発明の漢方製剤は、清心蓮子飲エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0029】
製剤形態
本発明の漢方製剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤(好ましくは素錠剤)、トローチ剤、チュアブル剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、丸剤等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられ、好ましくは、散剤、細粒剤、顆粒剤、トローチ剤、チュアブル剤が挙げられる。
【0030】
製造方法
本発明の漢方製剤の製造方法は、上記の方法によって得た、特定成分が特定比率で含まれる清心蓮子飲エキスを用い、必要に応じて他の成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0031】
2.甘味を抑制する方法
上述するように、グリチルリチン酸が高含量である清心蓮子飲エキスにおいて、グリチルリチン酸に対して特定量のオノニンを含むように調整することで、高含量のグリチルリチン酸に特有の不快な甘味を抑制する効果を発現させる。従って、本発明は、更に、グリチルリチン酸を0.22重量%以上含有する清心蓮子飲エキスを含有する漢方製剤においてグリチルリチン酸の甘味を抑制する方法であって、前記清心蓮子飲エキス中、グリチルリチン酸100重量部に対しオノニンの含有量が8重量部以上となるように調整する方法を提供する。
【0032】
本発明の甘味を抑制する方法において、使用する清心蓮子飲エキスに含まれる成分の含有量や比率、当該含有量及び比率に調整するための方法、漢方製剤に配合される成分の種類や含有量、及び製剤形態等については、前記「1.漢方製剤」のに記載の通りである。
【実施例
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(1)清心蓮子飲エキスの調製
原料生薬として、レンニク3.5重量部、バクモンドウ2.1重量部、ブクリョウ2.8重量部、ニンジン3.5重量部、シャゼンシ2.1重量部、オウゴン2.1重量部、オウギ2.8重量部、ジコッピ2.1重量部、カンゾウ0.7重量部を用いた。これらのうちカンゾウ及びオウギについては、通常の細切物(公称目開き4mmの篩を通過しない大きさの細切物)、細かい細切物(公称目開き1mmの篩を通過する大きさの細切物)、又は通常の細切物0.5重量部と細かい細切物0.5重量部との混合物を用いた。カンゾウ及びオウギの細切物の大きさは揃えた。他の生薬については、通常の細切物(公称目開き4mmの篩を通過しない大きさの細切物)を用いた。
【0035】
これらの生薬の細切物を混合し、水10倍重量を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮してスプレードライヤーを用いて乾燥し、清心蓮子飲エキス末を得た。得られた清心蓮子飲エキス末は、原料生薬混合物21.7g当たり2238mgであった。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行った。
【0036】
(2)グリチルリチン酸及びオノニンの測定
得られた清心蓮子飲エキスに含まれるグリチルリチン酸及びオノニンの含有量を、以下の方法で測定した。以下において、希釈した試薬の希釈率に関する「(x→y)」との記載は、当該試薬x体積部を水でy体積部に希釈したことを意味する。
【0037】
<グリチルリチン酸の測定>
乾燥エキス約0.2gを精密に量り、酢酸エチル20mL及び水10mLを加えて10分間振り混ぜた。これを遠心分離し、上層を除いた後、酢酸エチル20mLを加えて同様に操作し、上層を除いた。得られた水層にメタノール10mLを加えて30分間振り混ぜた後、遠心分離し、上澄液を分取した。残留物に希釈したメタノール(1→2)20mLを加えて5分間振り混ぜた後、遠心分離し、上澄液を分取し、先の上澄液と合わせ、希釈したメタノール(1→2)を加えて正確に50mLとし、試料溶液とした。別にグリチルリチン酸標準品約10mgを精密に量り、希釈したメタノール(1→2)に溶かして正確に100mLとし、標準溶液とした。
【0038】
試料溶液及び標準溶液10μLずつを正確にとり、次の条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行い、それぞれの液のグリチルリチン酸の試料溶液のピーク面積AT及び標準溶液のピーク面積ASを測定した。
【0039】
(液体クロマトグラフィー試験条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:酢酸アンモニウム3.85gを水720mLに溶かし、酢酸(100)5mL及びアセトニトリル280mLを加えた。
流量:毎分1.0mL
【0040】
得られたピーク面積AT及びASを用い、下記式に基づいて、秤取量あたりのグリチルリチン酸の量(mg)を導出した。
【0041】
【数1】
【0042】
<オノニンの測定>
乾燥エキス約0.5gを精密に量り、メタノール50mLを正確に加えて30分間振り混ぜた後、30分間超音波抽出した。この液をろ過し、ろ液を試料溶液とした。別途、オノニン標準品を精密に量り、メタノールを加えて溶かし正確に100mLとした。このメタノール溶液を超音波照射し、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液を10μLずつ正確にとり、次の条件で液体クロマトグラフィーによる試験を行い、それぞれの試料溶液中のオノニンの試料溶液のピーク面積AT及び標準溶液のピーク面積ASを測定した。
【0043】
(液体クロマトグラフィー試験条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:249nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:希釈した酢酸(1→500)/アセトニトリル(4/1(体積比))混液
流量:毎分1.0mL
【0044】
得られたピーク面積AT及びASを用い、下記式に基づいて、オノニンの量を導出した。
【0045】
【数2】
【0046】
(3)甘味スコアの判定
呈味に関するトレーニングがされたモニター10名が、得られた清心蓮子飲エキス1gを直接舌の上に載せ、感じる甘味を、5段階(1が弱い、5が強い)でVAS評価し、モニター全員の評点を平均した。得られた平均点を以下の基準で分類し、甘味スコアを得た。結果を表1に示す。
【0047】
<甘味スコア>
+++++:4.7以上
++++:3.7以上4.7未満
+++:2.7以上3.7未満
++:1.7以上2.7未満
+:1.7未満
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示す通り、通常の細切物を用いて調製すると、グリチルリチン酸が0.18重量%、0.23重量%を含む清心蓮子飲エキス(参考例1、比較例1)が得られたが、グリチルリチン酸が0.23重量%を含む清心蓮子飲エキス(比較例1)では、極めて強い甘味を呈した。モニターによると、この極めて強い甘味は、グリチルリチン酸に特有の不快な甘味であった。
【0050】
一方、カンゾウ及びオウギの細切物の半分重量を、細かい細切物に置換して調製すると、グリチルリチン酸が増加するとともに、グリチルリチン酸に対するオノニンの比率が増加した清心蓮子飲エキス(実施例1、2)が得られた。そして、これらの清心蓮子飲エキス(実施例1、2)では、不快な強い甘味の原因となるグリチルリチン酸の含有量が多いにも関わらず、甘味は顕著に低減された。
【0051】
さらに、カンゾウ及びオウギの細切物として全て細かい細切物を用いて調製すると、グリチルリチン酸が更に増加するとともに、グリチルリチン酸に対するオノニンの比率も更に増加した清心蓮子飲エキス(実施例3)が得られた。そして、この清心蓮子飲エキス(実施例3)では、不快な強い甘味の原因となるグリチルリチン酸の含有量がさらに多いにも関わらず、甘味はより一層顕著に低減された。