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特許7690745エピタキシャル成膜装置の管理システムおよび管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-03
(45)【発行日】2025-06-11
(54)【発明の名称】エピタキシャル成膜装置の管理システムおよび管理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/54 20060101AFI20250604BHJP
   C23C 16/52 20060101ALI20250604BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20250604BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20250604BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20250604BHJP
【FI】
C23C14/54 F
C23C16/52
C30B29/36 A
C30B25/20
H01L21/205
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021007715
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112078
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】卜 渊
(72)【発明者】
【氏名】沖野 泰之
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-091826(JP,A)
【文献】特開平09-205049(JP,A)
【文献】特開2020-123675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/54
C23C 16/52
C30B 29/36
C30B 25/20
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャル成膜装置の処理のレシピを生成する管理システムであって、
プロセッサを備え、
前記エピタキシャル成膜装置の処理は、基板に対するエピタキシャル成長を利用してエピタキシャル膜を成膜する処理を含み、
前記プロセッサは、
前記エピタキシャル成膜装置のメンテナンス直後の1回目の処理のレシピ、および処理結果の前記エピタキシャル膜の品質の評価値の情報を入力して初期条件として、前記処理のモデルを構築または更新し、
前記モデルに基づいて、前記メンテナンス直後の2回目以降の処理のためのレシピとして、前記品質の評価値が目標値を含む許容範囲内になるレシピを生成し、
前記レシピは、パラメータ値として、ガス流量を含み、
前記品質の評価値は、濃度分布を含み、
前記メンテナンスは、前記成膜する処理が行われるチャンバの堆積物に関するメンテナンスを含み、
前記プロセッサは、前記メンテナンス直後の1回目の処理のレシピを、メンテナンス直前の処理のレシピの値と同じにして、当該メンテナンス直後の1回目の処理を実行させ、当該メンテナンス直後の1回目の処理結果の品質の評価値を取得し、これらの情報を前記初期条件として、前記モデルを更新し、更新された前記モデルに基づいて、前記メンテナンス直後の2回目以降の処理のためのレシピとして、前記品質の評価値が前記目標値を含む前記許容範囲内になるレシピを生成
前記モデルは、機械学習のモデルであり、補償係数を用いて、メンテナンス前後での前記エピタキシャル成膜装置の状態の変動を扱うモデルであり、
前記補償係数は、前記メンテナンス直前の処理結果の品質の評価値と、前記メンテナンス直後の1回目の処理結果の品質の評価値とを用いて計算される、
エピタキシャル成膜装置の管理システム。
【請求項2】
請求項1記載のエピタキシャル成膜装置の管理システムにおいて、
前記プロセッサは、前記モデルに基づいて生成したレシピにおいて、推定される前記品質の評価値が前記許容範囲を満たすレシピが無い場合、メンテナンスが必要であると判断し、前記メンテナンスが必要である旨を出力する、
エピタキシャル成膜装置の管理システム。
【請求項3】
請求項記載のエピタキシャル成膜装置の管理システムにおいて、
前記プロセッサは、前記メンテナンスが必要であると判断した場合、前記モデルを用いて、前記許容範囲を満たすレシピの生成に必要なメンテナンス方法を生成し、前記メンテナンス方法を前記メンテナンスが必要である旨とともに出力し、前記メンテナンス方法での前記メンテナンスを実施させた結果のメンテナンス効果の評価値を用いて前記モデルを更新する、
エピタキシャル成膜装置の管理システム。
【請求項4】
請求項記載のエピタキシャル成膜装置の管理システムにおいて、
前記プロセッサは、前記メンテナンス効果の評価値として、前記メンテナンス直後の前記エピタキシャル成膜装置のチャンバ内の副生成物の物理量の検出値を用いる、
エピタキシャル成膜装置の管理システム。
【請求項5】
請求項1記載のエピタキシャル成膜装置の管理システムにおいて、
前記プロセッサは、
前記基板についての品質の評価値を含む基板情報を、前記モデルの入力情報の1つとして入力し、
前記モデルおよび前記基板情報に基づいて、前記許容範囲を満たすレシピが無い場合、前記許容範囲を満たすレシピの生成に必要な前記基板の品質の条件を生成し、
前記条件を満たす基板に変更するかどうかを出力し、
前記基板を変更しないと入力された場合には、前記メンテナンスが必要であると判断し、前記メンテナンスが必要である旨を出力する、
エピタキシャル成膜装置の管理システム。
【請求項6】
請求項1記載のエピタキシャル成膜装置の管理システムにおいて、
前記基板に対する前記処理を行う候補として、複数のエピタキシャル成膜装置と、前記エピタキシャル成膜装置内の複数のチャンバとを有し、
前記プロセッサは、前記モデルの入力情報の1つとして、前記候補のうち前記基板に対する前記処理を行う対象となるエピタキシャル成膜装置およびチャンバの情報を入力し、前記モデルに基づいて、前記対象となるエピタキシャル成膜装置の前記チャンバでの前記処理のレシピを生成する、
エピタキシャル成膜装置の管理システム。
【請求項7】
請求項1記載のエピタキシャル成膜装置の管理システムにおいて、
前記プロセッサは、前記メンテナンス直後の2回目以降の処理のためのレシピとして推定したレシピでの前記品質の評価値が前記許容範囲を満たさない場合には、前記レシピでは前記許容範囲を満たさないが前記処理を実施するかどうかを出力し、実施すると入力された場合には、前記レシピでの前記処理を実施させる、
エピタキシャル成膜装置の管理システム。
【請求項8】
請求項1記載のエピタキシャル成膜装置の管理システムにおいて、
前記エピタキシャル成膜装置は、前記エピタキシャル膜の前記品質を実測値に基づいて分析・評価するための分析チャンバを備え、
前記管理システムは、前記分析チャンバでの分析・評価結果を取得する、
エピタキシャル成膜装置の管理システム。
【請求項9】
エピタキシャル成膜装置の処理のレシピを生成する管理システムにおける管理方法であって、
前記管理システムは、プロセッサを備え、
前記エピタキシャル成膜装置の処理は、基板に対するエピタキシャル成長を利用してエピタキシャル膜を成膜する処理を含み、
前記プロセッサが、
前記エピタキシャル成膜装置のメンテナンス直後の1回目の処理のレシピ、および処理結果の前記エピタキシャル膜の品質の評価値の情報を入力して初期条件として、前記処理のモデルを構築または更新するステップと、
前記モデルに基づいて、前記メンテナンス直後の2回目以降の処理のためのレシピとして、前記品質の評価値が目標値を含む許容範囲内になるレシピを生成するステップと、
を有し、
前記レシピは、パラメータ値として、ガス流量を含み、
前記品質の評価値は、濃度分布を含み、
前記メンテナンスは、前記成膜する処理が行われるチャンバの堆積物に関するメンテナンスを含み、
前記プロセッサが、前記メンテナンス直後の1回目の処理のレシピを、メンテナンス直前の処理のレシピの値と同じにして、当該メンテナンス直後の1回目の処理を実行させ、当該メンテナンス直後の1回目の処理結果の品質の評価値を取得し、これらの情報を前記初期条件として、前記モデルを更新し、更新された前記モデルに基づいて、前記メンテナンス直後の2回目以降の処理のためのレシピとして、前記品質の評価値が前記目標値を含む前記許容範囲内になるレシピを生成
前記モデルは、機械学習のモデルであり、補償係数を用いて、メンテナンス前後での前記エピタキシャル成膜装置の状態の変動を扱うモデルであり、
前記補償係数は、前記メンテナンス直前の処理結果の品質の評価値と、前記メンテナンス直後の1回目の処理結果の品質の評価値とを用いて計算される、
エピタキシャル成膜装置の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル成膜装置の管理システム等の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な社会の実現における最も重要な課題は、エネルギー資源の枯渇と、CO2等の温室効果ガスの過量排出である。このため、エネルギー効率に優れ、CO2排出量の少ない電力変換装置等が重要となってきている。電力変換装置の多くは、スイッチング素子である絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)と、整流素子であるPiNダイオード(PND)とを並列接続したパワーモジュールで構成されている。このため、半導体素子の損失低減が、電力変換装置の省エネ化に直結する。半導体素子の損失低減技術として、4H型炭化珪素(4H-SiC:以下ではSiCとも記載する)で素子を形成する方法が注目されている。SiC素子の信頼性向上およびコスト低減のため、高品質かつ安価なSiCエピタキシャル基板(以下では基板とも記載する)が必要である。
【0003】
半導体製造装置の1つとして、エピタキシャル成膜装置がある。SiC向けのエピタキシャル成膜装置としては、SiCエピタキシャル成長装置がある。エピタキシャル成長(epitaxial growth)は、薄膜結晶成長技術の1つであり、下地の基板となる結晶の上に結晶成長を行い、基板の結晶面に揃えて配列する技術である。SiCエピタキシャル成長は、オフカットされたSiC基板上にSiCを成膜する技術である。一般にSiC基板は基板のドナー濃度が高いため、使用耐圧用途別にドナー濃度や膜厚を調整する必要があり、SiC素子の作製のためにエピタキシャル成長(言い換えるとエピタキシャル成膜)が行われている。エピタキシャル成長技術への要求は、例えば、基板の大口径化に伴うエピタキシャル成長の大口径化、ドナー濃度の均一性の確保、エピタキシャル膜厚の均一性の確保、高速成長、低結晶欠陥化など、多岐にわたる。
【0004】
半導体製造に係る評価・管理・制御等を行うシステムの1つとして、エピタキシャル成膜装置の管理システムがある。この管理システムは、成膜装置に設定するための、成膜工程の制御のための条件である成膜条件(「レシピ」等と呼ばれる場合もある)を管理する。この管理システムは、成膜装置による成膜条件に基づいた成膜工程の状態や結果を把握・評価し、好適な成膜条件を生成する。
【0005】
上記に係る先行技術例としては、特開2020-123675号公報(特許文献1)が挙げられる。特許文献1には、半導体製造装置の管理システムとして、半導体製造装置の経時変化に応じたレシピを決定する旨の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-123675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の半導体デバイス製造技術において、成膜装置の成膜工程で生成されるSiCエピタキシャル膜(省略して「エピ膜」と記載する場合がある)の品質は、成膜装置の経時変化やメンテナンス等によって変動してしまうことが分かった。そのため、安定なエピ膜を得るためには、成膜コストが増加してしまう課題がある。
【0008】
特に、本発明者は、エピタキシャル成膜装置に好適な成膜条件を一旦設定していたとしても、成膜装置のメンテナンス毎に、成膜結果のエピ膜の品質が変動してしまうことを見出した。メンテナンス前後では、一般に定量化はしにくいが、装置状態の変動が生じている。例えば、成膜装置の真空室(チャンバとも呼ばれる)の壁面には、成膜に伴う物質が堆積する。メンテナンス直後の時点では、そのような装置状態の変動を要因として、過去の成膜条件がもはや好適なものではなくなっている場合がある。そのため、メンテナンス直後での成膜結果のエピ膜の品質は、製造上の仕様等で定められた所定の品質条件の範囲内から外れてしまう場合もあった。
【0009】
本発明の目的は、上記エピタキシャル成膜装置の管理システム等の技術に関して、SiCエピタキシャル膜の品質として安定な品質を得ることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のうち代表的な実施の形態は以下に示す構成を有する。実施の形態のエピタキシャル成膜装置の管理システムは、エピタキシャル成膜装置の処理のレシピを生成する管理システムであって、プロセッサを備え、前記エピタキシャル成膜装置の処理は、基板に対するエピタキシャル成長を利用してエピタキシャル膜を成膜する処理を含み、前記プロセッサは、前記エピタキシャル成膜装置のメンテナンス直後の1回目の処理のレシピ、および処理結果の前記エピタキシャル膜の品質の評価値の情報を入力して初期条件として、前記処理のモデルを構築または更新し、前記モデルに基づいて、前記メンテナンス直後の2回目以降の処理のためのレシピとして、前記品質の評価値が目標値を含む許容範囲内になるレシピを生成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のうち代表的な実施の形態によれば、上記エピタキシャル成膜装置の管理システム等の技術に関して、SiCエピタキシャル膜の品質として安定な品質を得ることができる。上記以外の課題や効果等については、[発明を実施するための形態]において示される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1のエピタキシャル成膜装置の管理システムの構成を示す。
図2】実施の形態1の変形例(1)における管理システムの構成を示す。
図3】実施の形態1の変形例(2)における管理システムの構成を示す。
図4】実施の形態1の管理システムの詳細構成例を示す。
図5】実施の形態1で、エピタキシャル成膜装置の構成例を示す。
図6】実施の形態1の管理システムの機能ブロック構成を示す。
図7】実施の形態1の管理システムの処理フローを示す。
図8】実施の形態1で、モデルの構成等の説明図を示す。
図9】実施の形態1で、レシピおよびエピ品質の経時変化の例を示す。
図10】実施の形態2の管理システムの構成を示す。
図11】実施の形態2の管理システムの処理フローを示す。
図12】実施の形態3の管理システムの処理フローを示す。
図13】実施の形態4の管理システムで、成膜装置、チャンバおよびモデルの対応関係の例を示す。
図14】実施の形態1~4の変形例における、GUI表示例を示す。
図15】実施の形態1~4の変形例における、GUI表示例の続きを示す。
図16】実施の形態に対する比較例の管理システムにおける、レシピおよびエピ品質の経時変化の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。図面において、同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明を省略する。図面において、各構成要素の表現は、発明の理解を容易にするために、実際の位置、大きさ、形状、および範囲等を表していない場合があり、本発明は、図面に開示された位置、大きさ、形状、および範囲等には必ずしも限定されない。
【0014】
説明上、プログラムによる処理について説明する場合に、プログラムや機能や処理部等を主体として説明する場合があるが、それらについてのハードウェアとしての主体は、プロセッサ、あるいはそのプロセッサ等で構成されるコントローラ、装置、計算機、システム等である。計算機は、プロセッサによって、適宜にメモリや通信インタフェース等の資源を用いながら、メモリ上に読み出されたプログラムに従った処理を実行する。これにより、所定の機能や処理部等が実現される。プロセッサは、例えばCPUやGPU等の半導体デバイス等で構成される。プロセッサは、所定の演算が可能な装置や回路で構成される。処理は、ソフトウェアプログラム処理に限らず、専用回路でも実装可能である。専用回路は、FPGA、ASIC等が適用可能である。プログラムは、対象計算機に予めデータとしてインストールされていてもよいし、プログラムソースから対象計算機にデータとして配布されてインストールされてもよい。プログラムソースは、通信網上のプログラム配布サーバでもよいし、非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体でもよい。プログラムは、複数のプログラムモジュールから構成されてもよい。コンピュータシステムは、複数台の装置によって構成されてもよい。コンピュータシステムは、クライアントサーバシステム、クラウドコンピューティングシステム、IoTシステム等で構成されてもよい。説明上、各種のデータや情報を、例えばテーブルやリスト等の表現で説明する場合があるが、このような構造や形式には限定されない。各種の要素について識別するためのデータや情報を、識別情報、識別子、ID、名、番号等の表現で説明する場合があるが、これらの表現は互いに置換可能である。
【0015】
[課題等]
前述の課題等について補足説明する。実施の形態に対する比較例としての半導体製造装置の管理システムおよび管理方法について以下に概要を説明する。比較例の管理システムは、成膜装置の処理来歴情報を記録・保持する。処理来歴情報は、言い換えると処理の時系列データであり、処理に使用したレシピ、および処理結果としてのエピ品質の評価結果、等の情報を含む。管理システムは、処理来歴情報から、チャンバの経時変化を自律的に推定し、メンテナンスの要否を判断する。レシピは、モデルを用いて目標値に近い成膜結果を実現するための成膜条件である。この比較例の技術では、レシピおよびエピ品質を含む処理来歴情報から、装置状態の経時変化を推定するため、経時変化を確認するための成膜を伴わない。
【0016】
図16は、比較例における、(a)成膜条件および(b)エピ品質についての経時変化の例のグラフを示す。横軸は成膜時期(対応する時点や回)である。例えば、時点t1から時点t2までの期間では、エピ品質が目標範囲V0内でのほぼ一定の値v1となるように、成膜条件が設定されている。予め定められた目標範囲V0は、値V1を中心として、下限値V2から上限値V3までの範囲である。例えば、時点tm1では成膜装置のメンテナンスが実施された。これにより、装置状態が内在的に変動している。その結果、メンテナンス後の時点t3から時点t4までの期間では、メンテナンス前の期間と同じ成膜条件で、エピ品質が、目標範囲V0から外れた値v2となっている。同様に、時点tm2では成膜装置のメンテナンスが実施された。その結果、メンテナンス後の時点t5から時点t6までの期間では、メンテナンス前の期間と同じ成膜条件で、エピ品質が、目標範囲V0から外れた値v3となっている。
【0017】
上記のように、比較例では、メンテナンス前後の装置状態の内在的な変動については考慮されておらず、メンテナンス前後で同じ一定の装置状態を仮定して、メンテナンス直後でもレシピを決定している。そのため、上記のように、メンテナンス直後からの複数回の成膜(例えば時点t3からの複数のプロットで示す各回の成膜)に関して、エピ品質が目標範囲V0から外れてしまう場合があった。
【0018】
成膜装置の状態の変動は、様々な要因があるため、一般に定量化は難しい。実施の形態では、仕組みとして、成膜装置の状態の定量化は必要ではなく、モデルの入力としてのレシピに対し、出力としての成膜結果のエピ品質の評価値を用いて、メンテナンス前後での好適なレシピの生成・調整の制御を行うものである。
【0019】
<実施の形態1>
図1図9を用いて、本発明の実施の形態1のエピタキシャル成膜装置の管理システム等の技術について説明する。実施の形態1の管理システムは、エピタキシャル成膜装置の装置状態に合わせた最適な成膜条件であるレシピを生成・提案する機能を有するシステムであり、主にコンピュータシステムで実現される。実施の形態1の管理方法は、実施の形態1の管理システムで実行されるステップを有する方法である。実施の形態1の管理システムは、エピタキシャル成膜装置のメンテナンスの直後のエピタキシャル成膜結果のエピタキシャル膜の品質(エピ品質と記載する場合がある)の値を、初期条件として、エピタキシャル成膜に係わる成膜条件を生成するためのモデルを、機械学習によって構築し、更新する。なお、メンテナンス直後とは、言い換えると、メンテナンス後から1回目の成膜処理実施時点を指す。
【0020】
[管理システム]
図1は、実施の形態1のエピタキシャル成膜装置の管理システムの構成概要を示す。実施の形態1の管理システム1は、エピタキシャル成膜装置20の管理システムであり、コンピュータシステム10によって実装されている。コンピュータシステム10は、統合管理部11、装置制御部12、レシピ探索部13、分析評価部14、入力装置15A、および出力装置15Bを備え、これらが相互に接続されている。なお、入力装置15A、および出力装置15Bは、外部接続される装置としてもよい。ユーザU1は、入力装置15Aおよび出力装置15Bを介して、このコンピュータシステム10による管理システム1を操作して利用する。ユーザU1は、例えば製造工程(特に成膜工程)を管理する人である。コンピュータシステム10は、有線または無線等の通信200を通じて、エピタキシャル成膜装置20の制御部21と接続されている。
【0021】
エピタキシャル成膜装置20は、制御部21やチャンバ22を備える。制御部21は、成膜装置の各部の駆動等の制御を行う。チャンバ22は、例えば真空室等で構成され、真空室内にステージ23を備える。ステージ23は、例えば水平方向での移動(例えば平行移動や回転)が制御される。ステージ23上には対象基板としてSiC基板24等が配置される。成膜装置20は、SiC基板24の面に対し、エピタキシャル成膜処理を行うことで、エピ膜25を形成する。このようなエピタキシャル成膜工程に伴い、チャンバ22には、所定の物質が堆積する。堆積箇所26は、一例として、チャンバ22の側壁面である。成膜装置20は、後述のセンサ27を備える。センサ27は、堆積箇所26の堆積物に関して、厚さや量等の所定の物理量を計測する。チャンバ22の態様や、堆積の態様は、本例に限定されず、様々な態様がある。
【0022】
統合管理部11は、必要なデータ・情報の入力や出力、記憶、管理等を行う部分である。装置制御部12は、成膜装置20と通信しながら成膜装置20の動作等を制御する部分である。レシピ探索部13は、機械学習等に基づいて、成膜装置に設定するための最適なレシピを探索する処理を行う部分である。分析評価部14は、レシピでの成膜の結果について分析・評価し、エピ膜の品質の評価値等を得る部分である。分析評価部14またはユーザU1は、分析・評価の結果、例えば、エピ膜の膜厚、不純物濃度、結晶欠陥密度等の値を得る。
【0023】
[管理システム-変形例(1)]
図2は、実施の形態1の変形例での管理システム1の実装例を示す。図2の実装例では、図1と同様の構成要素がLAN201を通じて相互に接続されている。図2の構成例では、統合管理部11等の各部がそれぞれコンピュータシステムで実装されている。すなわち、統合管理部11のコンピュータシステムCS1と、装置制御部12のコンピュータシステムCS2と、レシピ探索部13のコンピュータシステムCS3と、分析評価部14のコンピュータシステムCS4とを有し、それらがLAN201を通じて相互に接続されている。各コンピュータシステムは、複数台のコンピュータの接続で構成されてもよいし、例えば複数のGPUが並列接続されたマシンを適用してもよい。図2の構成例では、複数のコンピュータシステムを用いた並列分散処理によって、迅速な処理が可能である。
【0024】
[管理システム-変形例(2)]
図3は、実施の形態1の他の変形例での管理システム1の実装例を示す。図3の実装例では、図1と同様の構成要素の一部として、レシピ探索部13が、広域通信網を介したクラウドコンピューティングシステム202上にサーバ等の態様で設けられている。統合管理部11等を含むコンピュータシステムCS5は、広域通信網を介して、クラウドコンピューティングシステム202上にサーバ等によるレシピ探索部13と接続される。レシピ探索部13の処理は、機械学習等に係わるので、相対的に負荷が高く、高性能および多量の計算資源を要する場合がある。そのため、本実装例では、レシピ探索部13をクラウドコンピューティングシステム202上で実装することで、迅速な処理が可能である。また、この実装例では、1つのレシピ探索部13を、複数の成膜装置に係わる複数のコンピュータシステムの間で共用させることも可能である。
【0025】
[管理システム-詳細]
図4は、図1の実施の形態1の管理システム1の詳細構成例を示す。図4の構成では、統合管理部11等の各部は、それぞれ、プロセッサ116、ROM117、RAM118、インタフェース115、およびそれらを相互に接続するバス等を有するコンピュータまたは回路で構成されている。各部の機能は、コンピュータプログラムによる処理で実現されてもよいし、FPGA等による専用回路で実装されてもよい。また、図4の構成では、装置制御部12に接続されたコントローラ211や、分析評価部14に接続されたコントローラ212を有し、これらのコントローラは、制御部、または、ユーザU1が設定や指示を入力するための操作部に相当する。
【0026】
[エピタキシャル成膜装置]
図5は、図1のエピタキシャル成膜装置20に関する実装構成例を示す。図5の(A)は、クラスタ装置の形態での実装構成例を示す。このクラスタ装置は、基板分析チャンバ22A、洗浄チャンバ22B、分析評価チャンバ22C、処理チャンバ22D、再生チャンバ22E、および、ロードロックチャンバ・トランスファーチャンバ22Fを備える。
【0027】
図5の(B)は、SiCエピ装置の形態での実装構成例を示す。このSiCエピ装置は、分析・再生・成長チャンバを備えるSiCエピクラスタ装置であり、基板分析チャンバ22a、エピ分析チャンバ22b、欠陥分析チャンバ22c、エピ成長チャンバ22d、CMPチャンバ22e、および、ロードロックチャンバ・トランスファーチャンバ22fを備える。
【0028】
実施の形態1の管理システム1は、エピタキシャル成膜装置20を含む半導体製造装置を対象として管理する。また、管理システム1は、構成要素としては、基板やエピ膜についての分析評価装置、またはその分析評価装置による分析評価結果データを取得する手段が必要となる。その分析評価装置または手段は、図1では分析評価部14が相当し、図5の(A)では分析評価チャンバ22Cが相当し、図5の(B)ではエピ分析チャンバ22bが相当する。必要な構成要素は、図5の(A)の例のように、クラスタ装置として1つの装置にまとめた形態としてもよいし、(B)のように、SiCエピ装置としてもよい。また、基板分析チャンバ22A,22aを設けた形態とし、後述の実施の形態3のように、管理システム1は、基板分析チャンバ等から基板情報を自動的に取得し利用してもよい。
【0029】
基板分析チャンバ22A,22aは、成膜対象である基板(図1のSiC基板24)に関する分析・評価を行うためのチャンバであり、この結果、後述の基板情報が得られる。処理チャンバ22Dは、基板に対する処理を行うチャンバである。エピ成長チャンバ22dは、処理チャンバ22Dの例であり、SiC基板に対するエピタキシャル成長の成膜処理を行うチャンバである。分析評価チャンバ22Cは、処理チャンバ22Dで処理された基板を分析・評価するためのチャンバである。エピ分析チャンバ22bは、分析評価チャンバ22Cの例であり、例えば図1のエピ膜25の膜厚や不純物濃度を評価するためのチャンバである。欠陥分析チャンバ22cは、分析評価チャンバ22Cの例であり、エピ膜25の欠陥を分析・評価するためのチャンバである。
【0030】
また、管理システム1は、再生チャンバ22EやCMPチャンバ22eを設けた形態としてもよい。再生チャンバ22Eは、処理チャンバ22Dで処理された基板を再生するためのチャンバである。CMPチャンバ22eは、再生チャンバ22Eの例であり、CMP(化学機械研磨)による基板の再生を行うためのチャンバである。これにより、たとえ処理の結果で所望のエピ結果が得られなかった場合(例えば生成したレシピでの処理結果のエピ品質が後述の許容範囲を満たさなかった場合)でも、基板(図1のSiC基板24)のCMP等による再利用が可能となる。
【0031】
基板の分析評価装置は、例えば、基板形状の測定装置、欠陥や表面粗さの評価装置を有する。基板形状の測定装置は、例えばソリやウェハエッジの形状、板厚等の基板形状を測定する。評価装置は、例えばX線、PL光、CL、放射線トポ、レーザー、または顕微鏡を用いて、表面欠陥や内部欠陥、表面粗さを評価する。
【0032】
エピタキシャル成膜の分析評価装置は、例えば、エピ濃度評価装置、エピ膜厚評価装置、欠陥評価装置を有する。欠陥評価装置は、例えばX線、PL光、 CL、放射線トポ、レーザー、または顕微鏡を用いて、欠陥を評価する。
【0033】
[装置状態変化]
図1のエピタキシャル成膜装置20であるSiCエピタキシャル成膜装置では、成膜に伴い、装置状態変化の例として、以下のように物質が堆積する。SiCエピ成長時に、SiC基板24以外の部材(例えばチャンバ22の内壁やサセプタ)に、材料ガスに由来した副生成物が強固に付着する。この副生成物(言い換えると堆積物)は、エピ成長中に高温に曝され、蒸発し、エピ品質の経時変化を生じさせる要因となる。他の種類の半導体製造装置、例えばCVD装置では、ガスクリーニング等による副生成物の除去が比較的容易である。しかし、SiCエピタキシャル成膜装置では、現状、有効なガスクリーニング等の手法が確立されていない。このため、副生成物の除去のためには、頻繁にチャンバを解放するといったメンテナンスが要求され、コスト増大原因となる。
【0034】
また、SiCエピタキシャル成膜装置では、チャンバ等のメンテナンスが実施された結果、前述のように、装置状態が内在的に変化し、メンテナンス前後で同一のレシピを適用しても、成膜結果のエピ品質が変化してしまい、許容範囲を満たさなくなる場合がある。そこで、実施の形態1の管理システムは、メンテナンス直後に、1回目の処理の入力情報に基づいて、2回目以降のための最適なレシピを発見する。言い換えると、管理システムは、推定したレシピでの処理結果のエピ膜の品質が、許容範囲でなるべく目標値に近い最適なレシピとなるように、モデルを更新する。
【0035】
[管理システム-機能]
管理システム1の主な機能や処理概要は以下である。処理概要については後述の図7のフローにも示される。管理システム1は、成膜装置20のメンテナンス直後の1回目のレシピとエピ品質(なお品質としては分析評価結果値を用いる)とを入力し、従来技術例のモデルまたはメンテナンス前のモデル(後述の図8のf(x))を用いて推測されたエピ品質を、上記入力された最新のエピ品質と比較し、補償係数(図8でのA)を算出する。管理システム1は、算出した補償係数を用いて、モデルを新モデル(図8でのF(x))に更新する。このモデルは、レシピ生成・推定のための後述(図8)の機械学習のモデルである。このモデル更新は、言い換えるとメンテナンス前後の装置状態変化を補償するための更新である。
【0036】
管理システム1は、上記更新後の新モデルを用いて、ターゲットであるSiC基板24に対する最適なレシピを推定し、その推定した候補レシピ毎に処理結果のエピ品質を推定する。管理システム1は、推定したエピ品質が許容範囲を満たすような最適なレシピを生成する。管理システムは、生成したレシピを用いて、メンテナンス直後の2回目以降の成膜を実施させ、実施時のレシピやエピ品質等のデータを履歴(言い換えると処理来歴情報)としてデータベース(DB)に保存する。
【0037】
また、実施の形態1の管理システム1は、上記最適なレシピから推定した結果のエピ品質が、許容範囲を満たさない場合には、以下のように制御してもよい。すなわち、管理システム1は、その時に算出した最適なレシピの情報を、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)を通じてユーザU1に通知し、そのレシピでは許容範囲を満たせない旨をユーザU1に伝える。ユーザU1は、この通知を確認し、そのレシピでの成膜の実施を許容するか否かを判断し、判断に応じた入力を行う。そのレシピでは許容範囲を満たせない場合でも、実施を許容する入力がされた場合には、そのレシピでの成膜の実施が許容される。実施を許容しない入力がされた場合には、許容範囲の設定値を見直す等の対応が可能である。この機能は、後述の図7のフローでは、ステップS105,S106の部分が相当する。
【0038】
また、管理システムは、各回の成膜で、レシピでの成膜結果のエピ品質が、許容範囲を満たさなかった場合でも、GUIでのユーザU1への通知およびユーザU1の判断の入力に応じて、フローを終了させる。この機能は、後述の図7のフローでは、ステップS111,112の部分が相当する。
【0039】
[管理システム-機能ブロック構成]
図6は、図1の実施の形態1の管理システム1の機能ブロック構成例を示す。図6でのコンピュータシステム10は、中央処理部104、DB105、入力装置15A、出力装置15B、モデル構成部107、レシピ推定部108、装置制御部110、プロセス処理部111、分析評価部112、および収束判定部113を有する。
【0040】
入力装置15Aを通じた入力情報101として、目標値、許容範囲、分析評価結果、メンテナンス直後の1回目のレシピ、およびエピ品質、等を有する。エピ品質は、濃度等の評価値である。目標値は、エピ品質の目標値である。許容範囲は、目標値を用いて構成される、仕様等に応じて定められる範囲である。分析評価結果は、分析評価装置から取得できる情報である。メンテナンス直後の1回目のレシピおよびエピ品質の情報は、そのメンテナンス直後の1回目の成膜で適用したレシピ、およびその成膜結果のエピ品質の評価値である。
【0041】
ユーザU1は、入力装置15A(例えばキーボードやマウス)を操作して、各情報を入力して、入力情報101の一部とすることができる。あるいは、管理システム1の統合管理部11は、自動的に取得できる入力情報については自動的に取得して入力してもよい。
【0042】
出力装置15Bを通じた出力情報102としては、最適レシピ、および分析評価結果、等を有する。最適レシピは、メンテナンス直後の2回目以降に適用するためのレシピとして、エピタキシャル成膜装置20(成膜装置20とも記載する)に設定される。言い換えると、成膜装置20に設定されているレシピは、その新たなレシピに更新される。
【0043】
ユーザU1は、出力装置15Bの1つである表示装置の表示画面で、出力情報102の内容の確認等が可能である。ユーザU1は、表示画面でのGUIに従って、指示や設定、入力情報101の入力等が可能である。
【0044】
管理システム1は、中央処理部104によるプログラム処理等に基づいて実現される各部として、モデル構成部107、レシピ推定部108、装置制御部110、プロセス処理部111、分析評価部112、および収束判定部113を有する。中央処理部104は、図4のプロセッサ等で構成され、メモリや通信インタフェース等の資源を適宜に用いながら処理を行う。ROMまたは図示しない二次記憶装置には、制御用のプログラム等が格納されている。DB105は、メモリ、二次記憶装置、あるいはDBサーバ等で構成できる。中央処理部104は、メモリやDB105等に格納されている各種のデータや情報を読み書きしながら処理を行う。DB105には、入力情報101や出力情報102、関連情報、設定情報など、各種のデータ・情報が整理して格納される。RAM等のメモリには、処理中のデータ・情報が格納される。
【0045】
モデル構成部107は、機械学習のモデルを構成し管理する。レシピ推定部108は、モデルに基づいてレシピを推定する。これら(107,108)は、図1でのレシピ探索部13に相当する。装置制御部110は、成膜装置20を制御する。プロセス処理部111は、成膜装置20での成膜工程に係る処理を行う。これら(110,111)は、図1での装置制御部12に相当する。分析評価部112は、図1での分析評価部14に相当する。
【0046】
[処理フロー(1)]
図7は、実施の形態1の管理システム1(特にコンピュータシステム10、中央処理部104、およびプロセッサ等)による主な処理のフローを示す。このフローは、ステップS101~S112を有する。ステップS101で、管理システム1は、メンテナンス直後の1回目のレシピ、およびそのレシピでの成膜結果のエピ品質(対応する評価値)などの情報を入力情報101として入力する。
【0047】
ステップS102で、管理システム1は、レシピ推定部108によって、モデル構成部107にあるレシピ生成用のモデル(後述の図8)の補償係数を算出する。
【0048】
ステップS103で、管理システム1は、所望の目標値および許容範囲の情報を入力情報101の一部として入力する。例えば、ユーザU1は、入力装置15Aおよび出力装置15Bを通じて、その目標値および許容範囲を設定する。
【0049】
ステップS104で、管理システム1は、ステップS102の補償係数を用いて補償されたモデルを用いて、許容範囲内の目標値になるべく近いエピ品質の値を実現するための最適なレシピを生成し、このレシピに基づいたエピ成膜の結果のエピ品質の値を推定する。このエピ品質の推定は、例えばシミュレーションとして実現できる。
【0050】
ステップS105で、管理システム1は、上記推定の結果であるエピ品質の値が、許容範囲を満たすかを判断・確認する。満たす場合(Y)にはステップS107へ、満たさない場合(N)にはステップS106へ進む。
【0051】
ステップS106では、管理システム1は、出力装置15BのGUIを通じて、ユーザU1に対し、ステップS104で生成したレシピでは許容範囲(ステップS103で指定されたもの)を満たさない旨を通知する。そして、管理システム1は、そのレシピでの成膜の実施を許容するか否か、ユーザU1の確認・判断による入力を受け付ける。そのレシピでの成膜の実施を許容する入力がされた場合(Y)には、ステップS107へ進み、許容しない入力がされた場合(N)には、ステップS103へ戻る。ステップS103では、許容範囲の設定が見直される。
【0052】
ステップS107では、管理システム1は、プロセス処理部111によって、上記最適なレシピに従ったエピタキシャル成膜処理を成膜装置20に実行させる。そして、管理システム1は、その時の使用したレシピの情報を、DB105に入力して履歴の一部として保存する。
【0053】
ステップS108で、管理システム1は、分析評価部112によって、上記レシピでの成膜処理結果のエピ品質についての分析評価を実施し、エピ品質を含む分析評価結果情報(言い換えると処理結果情報)を作成する。
【0054】
ステップS109で、管理システム1は、中央処理部104によって、上記処理結果情報を受信・取得する。あるいは、入力装置15Aを通じてユーザU1が処理結果情報を入力してもよい。中央処理部104は、処理結果情報を、その処理に用いたレシピの情報と関連付けて、DB105に履歴の一部として保存する。
【0055】
ステップS110で、管理システム1は、モデル構成部107において、上記更新されたDB105の情報を用いて、レシピ生成用のモデルを更新する。
【0056】
ステップS111で、管理システム1は、上記最適なレシピでの成膜結果のエピ品質が、許容範囲を満たしたかを判断・確認し、満たした場合(Y)にはフローの終了となり、満たさない場合(N)にはステップS112に進む。
【0057】
ステップS112で、管理システム1は、出力装置15BのGUIを通じて、ユーザU1に対し、その回での成膜処理を実施したレシピでは許容範囲を満たさなかった旨を通知する。そして、管理システム1は、その成膜結果で終了するか否か、ユーザU1の確認・判断による入力を受け付ける。その成膜結果で終了する入力がされた場合(Y)には、フローの終了となり、終了しない入力がされた場合(N)には、例えばステップS104へ戻る。ステップS104では、レシピの見直しがされる。以降同様の処理の繰り返しである。
【0058】
上記フローに基づいて、メンテナンス直後の2回目以降の各回において、最適または好適なレシピでのエピタキシャル成膜を行い、最適または好適なエピ品質を安定的に得ることができる。なお、管理システム1は、上記フローの例では、メンテナンス後の2回目以降の複数回において、上記のような最適なレシピの推定および提案をまとめて行うことができる。これに限らず、管理システム1は、メンテナンス後の2回目以降の各回において、回毎に上記のような最適なレシピの推定および提案を行ってもよい。管理システム1は、設定された回数毎の単位で、上記レシピの推定および提案を行うようにしてもよい。
【0059】
[モデル]
図8は、実施の形態1で、機械学習を用いてモデルを更新する方法等についての説明図である。以下に、レシピの生成・推定のためのモデルの構成方法等について説明する。(a)は、レシピのためのモデルの概要を示す。機械学習のモデルにおいて、入力の情報は、各回の成膜毎のレシピおよびエピ品質を含み、出力の情報は、最適なレシピおよびエピ品質の推定結果を含む。実施の形態1では、特に、モデルの入力は、メンテナンス直後の1回目のレシピおよびエピ品質を含み、モデルの出力は、メンテナンス直後の2回目以降に適用するための、推定された最適なレシピおよびエピ品質を含む。最適とは、推定されたエピ品質が許容範囲内を満たし目標値になるべく近いことである。
【0060】
(b)は、モデルの更新の概要を示す。関数の表現を用いて、従来または前回のモデルをf(x)で表し、更新後の新モデルをF(x)で表す。新モデルであるF(x)は、図示のように、F(x)=A*f(x)+W0で導出される。Aは、補償係数である。W0は、メンテナンス直後の装置状態である。
【0061】
(c)は、機械学習を用いたモデル更新方法を示す。この方法では、成膜装置20のメンテナンス直後の装置状態(W0)を考慮して、モデルに基づいて、最適なレシピを生成する。この方法では、メンテナンスまでの成膜結果のエピ品質(対応する評価値)の1つとして濃度分布Cを用いる。装置状態を表す潜在変数をXとする。添え字tは時間を表す。
【0062】
装置状態に応じた出力である濃度分布Cは、図示のように記述される。式1は、C=g(X,θ)+δである。θは、レシピ、基板情報(後述)等に応じた値である。δは、ばらつきである。式2は、X=f(Xt-1,Zt-1)+εである。Zt-1は、メンテナンス有無、堆積物の膜厚、経過時間等に応じた値である。εは、ばらつきである。g(X,θ)およびf(Xt-1,Zt-1)は、関数である。これらの関数の関数形は未知である。そのため、管理システム1は、回帰分析を行うことで、これらの関数の関数形を導出する。
【0063】
成膜装置20のメンテナンス直後の1回目を除く、メンテナンス後の2回目以降での濃度分布Cは、以下の式で記述される。式3は、C=A*C+Cである。式4は、A=f(C,C-1)である。Cは、メンテナンス直後の1回目の濃度分布の実測値である。C-1は、メンテナンス前の濃度分布の実測値である。補償係数Aは、上記のように、濃度分布の実測値(C,C-1)から導出できる。そのため、メンテナンス直後の濃度分布Cは、濃度分布Cを用いて導出できる。
【0064】
なお、レシピの生成または機械学習の方法の詳細については、ニューラルネットワーク、サポートベクタマシン等の公知の方法が適用でき、例えばRNN(Recurrent Neural Network)やLSTM(Long-Short Term Memory)等の方法を適用可能である。
【0065】
[レシピ調整]
図9は、実施の形態1の管理システム1において、成膜装置20での各回のエピタキシャル成膜の実施および適宜のメンテナンスの実施に応じた、エピ品質の変動、およびレシピの調整についての具体例を示す説明図である。図9のグラフは、横軸を成膜時期(対応する時点や回数)として、(a)のレシピである成膜条件、および(b)のエピ品質の時間変化を示す。この図9の内容は、言い換えると、メンテナンスに伴う装置状態およびエピ品質の変動に応じて、メンテナンス直後から最適なレシピに調整する例を示している。(a)のレシピは、SiCエピタキシャル成長の成膜工程に適用する成膜条件のうちの1つのパラメータ値(一例としてはガス流量であるが限定しない)を示す。(b)のエピ品質は、(a)のレシピでの成膜工程の結果のSiCエピタキシャル膜(図1でのエピ膜25)の品質の評価値であり、例えば図8での濃度分布Cの値である。
【0066】
許容範囲900は、エピ品質の目標値V1を中心として、下限値V2と上限値V3とを有する範囲である。また、時点tm1等は、成膜装置20のメンテナンスを実施した日時の例を示す。メンテナンスの例は、前述のようにチャンバ22の堆積物を除去する等してチャンバ22の状態を整えることが挙げられる。
【0067】
例えば、時点t1(通算1回目)では、レシピの値をp1として成膜がされた結果、エピ品質の値がv1となっており、許容範囲900内を満たしている。時点t2(通算2回目)では、レシピの値をp2として調整して成膜がされた結果、エピ品質の値がv2となっており、許容範囲900内で目標値V1に近い値となっている。時点t2から時点t10(通算10回目)までの期間では、レシピの値を適宜に微調整しながら、各回の成膜が実施された結果、各回のエピ品質が値v2のように許容範囲900内で目標値V1に近い値に維持されている。
【0068】
ここで、時点t10(通算10回目)の後、時点tm1で、成膜装置20のメンテナンスが実施されている。このメンテナンスの直後、時点t11はメンテナンス直後の1回目(通算では11回目)、時点t12はメンテナンス直後の2回目(通算では12回目)、等の各回の成膜に相当する。
【0069】
時点t11での、メンテナンス直後の1回目の成膜では、レシピの値p3は、メンテナンス直前の時点t10でのレシピの値と同じであり、この成膜の結果、エピ品質の値は、黒丸で示すように、値v3に変動している。この値v3は、下限値V2を下回るようにして許容範囲900から外れている。
【0070】
そのため、管理システム1は、時点t11(メンテナンス直後の1回目)でのレシピの値p3およびエピ品質の値v3に基づいて、前述の図7の処理を行うことで、次の時点t12(メンテナンス直後の2回目)では、レシピの値p3を、新モデルに基づいて推定した最適な値p4に変更するように提案して調整901を行う。この調整901の結果、時点t12でのレシピの値p4での成膜の結果のエピ品質の値が、許容範囲900内の目標値V1に近い値v2になっている。
【0071】
時点t13以降の各回でも、同様に、レシピが調整されている。例えば時点t12で、時点t13以降の各回のレシピもまとめて提案されており、回毎に少しずつ値が大きくなるように調整されている。時点t12から時点t20までの期間では、各回の成膜の結果、エピ品質の値が許容範囲900内の値v2に維持されている。
【0072】
また、時点t20の後、時点tm2では、成膜装置20のメンテナンスが実施されている。その結果、メンテナンス直後の1回目の時点t21(通算21回目)では、レシピの値p5での成膜結果のエピ品質が値v4となっている。値v4は、上限値V3を超えるようにして許容範囲900から外れている。そのため、管理システム1は、先の調整901と同様に、調整902を行っている。この調整902では、メンテナンス直後の1回目の時点t21でのレシピの値p5から、メンテナンス直後の2回目の時点t22でのレシピの値p6に変更されている。時点t22以降では、レシピの微調整とともに、各回の成膜結果のエピ品質が値v2に維持されている。以降、同様に、メンテナンス実施の直後のエピ品質に応じてレシピの調整が行われる。なお、図9の例では、レシピを構成する1つのパラメータ、およびエピ品質の1つの評価値についての調整例を示したが、これに限らず、他の複数のパラメータについて同様に適用可能である。
【0073】
[効果等(1)]
上記のように、実施の形態1のエピタキシャル成膜装置の管理システム等によれば、SiCエピタキシャル膜の品質として安定な品質を得ることができる。実施の形態1によれば、ユーザによるレシピの作成・設定の作業の手間を低減でき、半導体デバイス製造工程を効率化できる。実施の形態1によれば、図9の例のように、メンテナンス直後の1回目の成膜の結果のエピ品質に応じて、その後の2回目以降に適用するレシピが最適なレシピとなるように調整する。これにより、メンテナンス後の1回目を除く2回目以降の各回の成膜ですぐにエピ品質を許容範囲内の好適な値に収束・維持させることができる。
【0074】
<実施の形態2>
図10図11を用いて、実施の形態2のエピタキシャル成膜装置の管理システム等について説明する。実施の形態2等の基本的な構成は実施の形態1と同様であり、以下では、実施の形態2等における実施の形態1とは異なる構成部分について主に説明する。実施の形態2の管理システムは、メンテナンス直後の成膜工程に適用するために推定したレシピでのエピ品質が、許容範囲を満たさない場合に、メンテナンス通知を行う機能を有する。
【0075】
[管理システム(2)]
図10は、実施の形態2の管理システム1でのコンピュータシステム10の機能ブロック構成を示す。この構成は、図6の実施の形態1での構成要素に加え、メンテナンス通知機能に係わる処理部として、メンテナンス判定部109、およびメンテナンス効果評価部106を有する。出力情報102は、前述の情報に加え、メンテナンス通知およびメンテナンス評価結果を含む。
【0076】
管理システム1は、レシピ推定部108でメンテナンス直後の成膜工程に適用するために推定したレシピでのエピ品質が、許容範囲を満たさない場合には、メンテナンス判定部109から中央処理部104に「メンテナンス要」の旨の情報を入力する。これは、許容範囲を満たすためには成膜装置20のメンテナンスの実施が必要である旨の情報である。この入力を受けた中央処理部104は、メンテナンス通知ステップに移行する(後述の図11)。中央処理部104は、レシピ推定部108に、好適なレシピの生成のために必要な最適なメンテナンス方法の生成を開始させる。レシピ推定部108は、モデルに基づいて、最適なメンテナンス方法を生成し、その情報を中央処理部104に返す。中央処理部104は、その最適なメンテナンス方法等を、GUIを通じてユーザU1に対し通知する。
【0077】
成膜装置20のメンテナンス方法は、複数の種類の方法がある。例えば、方法A,B,Cの3種類の方法があるとする。レシピ推定部108は、そのような候補となる複数のメンテナンス方法から、好適なレシピ(すなわちエピ品質が許容範囲を満たすレシピ)の生成のために必要な最適なメンテナンス方法を選択する。
【0078】
メンテナンス方法の生成は、例えば以下のように実現できる。管理システム1は、DB105の処理来歴情報の中に、メンテナンス実施の日時や方法等の情報を含むメンテナンス来歴情報を含めるように管理する。管理システム1は、メンテナンス判定部109でメンテナンス要と判定された場合、メンテナンス来歴情報を含めたモデルに基づいて、候補の複数のメンテナンス方法のうちどの方法でのメンテナンスが最適であるかや、メンテナンス方法での詳しいパラメータ値等を判断・導出する。
【0079】
また、実施の形態2では、成膜装置20のメンテナンスを実施した際のそのメンテナンスによる効果を、定量的に評価する。メンテナンス効果評価部106は、そのメンテナンスによる効果の定量的な評価を行い、メンテンナンス効果評価結果を中央処理部104に入力する。メンテナンス効果の評価は、例えば、図1のチャンバ22内の壁における副生成物ないし堆積物の堆積量や厚さ等を測定して評価することが挙げられる。例えば、図1のセンサ27は、堆積箇所26の堆積量や厚さ等の所定の物理量を測定する。管理システム1は、この測定値を取得してメンテナンス効果の評価値として用いる。センサ27の例としては、膜厚センサや光学的な膜厚評価装置等でもよい。この測定の結果は、ユーザU1が管理システム1に入力してもよい。管理システム1がセンサ27の信号を自動的に取得・入力してもよい。管理システム1はセンサ27の信号を経時的にモニタリング・記録してもよい。
【0080】
なお、実施の形態2等でも、実施の形態1と同様に、最適なレシピで許容範囲が満たせない場合でもユーザU1の判断で処理を実施できる機能(図7のステップS106)等を有する。
【0081】
[処理フロー(2)]
図11は、実施の形態2での管理システム1の処理フローを示す。図11のフローは、図7のフローに対し、メンテナンス通知機能に係わるステップS200の部分が追加されている。前述のステップS105で、推定したレシピによる推定したエピ品質が、許容範囲を満たさない場合(N)には、ステップS200に遷移する。ステップS200は、ステップS201~S204を有する。
【0082】
ステップS201で、管理システム1は、レシピ推定部108によって、モデル構成部107にあるモデルを用いて、目標値に近いエピ品質の値を実現するためのレシピの生成のために必要なメンテナンス方法(言い換えるとメンテナンス内容等)を生成する。
【0083】
ステップS202で、管理システム1は、上記メンテナンス方法でのメンテナンスを実施させるように、GUIを通じてユーザU1に対し通知し、ユーザU1は、成膜装置20のメンテナンスを実施する。メンテナンス効果評価部106は、メンテナンス実施結果のメンテナンス効果を評価し、メンテナンス効果評価結果情報とする。あるいは、ユーザU1は、メンテナンス効果を評価し、メンテナンス効果評価結果情報を入力する。
【0084】
ステップS203で、中央処理部104は、メンテナンス効果評価結果情報を取得し、メンテナンス実施内容(日時や方法等を含む)とメンテナンス効果評価結果とを関連付けて、DB105にメンテナンス来歴情報の一部として保存する。
【0085】
ステップS204で、管理システム1は、モデル構成部107によって、上記更新されたDB105の情報を用いて、モデルを更新する。ステップS204の後、フローの終了となる。
【0086】
[効果等(2)]
上記のように、実施の形態2によれば、メンテナンス無しでのレシピでは許容範囲が満たせない場合に、許容範囲を満たせる好適なレシピとなるように好適なメンテナンス方法を通知して実施させる。これにより、そのメンテナンス実施直後の1回目の成膜では、その好適なレシピを適用した成膜の結果、許容範囲を満たす良好なエピ品質が得られる。実施の形態2によれば、メンテナンス通知に応じて、メンテナンス実施作業の効率化もできる。
【0087】
前述の図9を用いて、効果について補足する。実施の形態1の場合では、例えば時点tm1,tm2等が定期的なメンテナンスであったとする。それに対し、実施の形態2の場合では、運用として、そのような定期的なメンテナンスは無い、もしくは、定期的なメンテナンス間でも適宜に追加のメンテナンスが実施されるものとする。例えば、時点t10の後で、管理システム1は、そのままメンテナンスが無いと仮定した場合に、次の時点t11の成膜ではエピ品質が許容範囲を満たさないと判断する。そこで、管理システム1は、上記のようにメンテナンス実施とその実施結果とを考慮して、好適なレシピおよびメンテナンス方法を生成し、ユーザU1に通知する。これにより、例えば時点t10からt11の間でメンテナンスが実施される。この結果、そのメンテナンス直後の1回目の時点t11の成膜では、エピ品質を許容範囲内にすることができる。
【0088】
<実施の形態3>
図12を用いて、実施の形態3のエピタキシャル成膜装置の管理システム等について説明する。実施の形態3は、実施の形態2に機能を追加した形態である。実施の形態3の管理システムは、成膜処理の対象である基板(図1のSiC基板24)の情報(基板情報と記載する)を入力し、その基板情報を加味して、最適なレシピ生成等を行う。管理システム1は、チャンバ22内でステージ23上に基板(例えば半導体ウェハ)を設置した後、はじめに、その基板についての評価を行い、基板評価結果情報を得る。
【0089】
[基板]
一般に、SiC基板は、Si基板に比べ、転位等の欠陥が多い。例えば、転位密度は、エピ成膜後の欠陥密度に影響する。このため、欠陥密度を出力(前述のモデルの出力、エピ品質の評価値)として用いる場合には、基板の欠陥の情報を考慮する必要がある。また、基板のソリ等も、エピ品質に影響を及ぼす。そこで、実施の形態3では、それらの情報を含んだ基板情報を加味することで、精度良く最適なレシピを生成する。実施の形態3では、機械学習の教師データのうちの入力情報に、基板情報を含める。管理システム1は、対象基板を用いた成膜結果のエピ品質が許容範囲内で目標値になるべく近い値となるように、最適なレシピを生成する。
【0090】
そのレシピの生成の際に、入力の1つである基板情報は、予め指定した基板スペック(言い換えると基板品質)を満たすものとする制約が必要である。例えば、仮に対象基板の欠陥が多い場合、推定した最適なレシピが許容範囲を満たさない可能性がある。このため、管理システム1は、対象基板においてどの程度までの欠陥数(言い換えると欠陥密度)であれば最適なレシピを生成できるかを計算・判断する。管理システム1は、例えば欠陥数を段階的に減らしてそれぞれの欠陥数の条件で、許容範囲を満たすレシピを生成できるかどうかを計算する。そして、管理システム1は、そのレシピを生成可能となった欠陥数・欠陥密度の条件(言い換えると基板スペックの条件)を、GUIを通じて通知する。管理システム1は、設置されている対象基板が、その条件を満たすか満たさないか等を通知する。その後、管理システム1は、対象基板がその条件を満たさない場合、GUIを通じてユーザU1に対し、対象基板を、その条件を満たす基板に変更するか確認して判断を求める。ユーザU1は、それに応じて、基板を変更する、または基板を変更しない等を判断・入力する。また、基板を変更しないとされた場合、管理システム1は、メンテナンス実施フローに遷移させる。
【0091】
[管理システム(3)]
実施の形態3での管理システム1の機能ブロック構成は、図10の実施の形態2の構成と同様であり、異なる点としては、入力情報101の1つとして基板情報を含み、出力情報102の1つとして上記欠陥密度等の基板スペックに関する情報および基板変更通知等を含む。
【0092】
[処理フロー(3)]
図12は、実施の形態3での管理システム1の処理フローを示す。図12のフローは、図7および図11のフローに対し、基板情報に係わる処理のステップが追加されている。図7でのステップS103とステップS104との間に、ステップS301を有する。ステップS301で、管理システム1は、ステージ23上の対象基板(SiC基板24)に関する基板情報を入力・取得し、DB105内に登録する。この際、ユーザU1が、GUIを通じて基板情報を入力してもよいし、管理システム1が他の装置から基板情報を取得してもよい。
【0093】
ステップS104の処理内容は、前述のものとは一部異なる(S104cとする)。ステップS104cでは、管理システム1は、前述のモデルと、上記基板情報とを用いて、最適なレシピを生成し、それに対応するエピ品質を推定する。
【0094】
また、ステップS107の処理内容は、前述のものとは一部異なり(S107cとする)、ステップS107cでは、管理システム1は、レシピおよび基板情報を関連付けてBD105に入力する。
【0095】
実施の形態3では、ステップS105で許容範囲を満たさない場合(N)、ステップS302に進む。ステップS302で、管理システム1は、レシピ推定部108によって、モデル構成部107のモデルを用いて、許容範囲内で目標値に近いエピ品質の値を実現するレシピの生成に必要な基板スペック、例えば上記欠陥密度等の条件、を導出する。
【0096】
次に、ステップS303で、管理システム1は、上記基板スペック・条件と基板情報とに基づいて、ステージ23上の対象基板が基板スペックの条件を満たすかどうかを判断し、また、満たさない場合には、ステージ23上の対象基板を、上記基板スペック・条件を満たす別の基板に変更するかを判断する。この際、管理システム1は、GUIを通じて、ユーザU1に対し、対象基板の欠陥密度等の情報や、基板スペック・条件を通知し、対象基板が条件を満たさない場合に別の基板に変更するかについての判断・入力を受け付ける。ユーザU1は、その通知を確認して、基板を変更するかどうかを判断・入力する。基板を変更する場合(Y)には、ステップS301に戻る。その場合、ステップS301では、変更された後の基板に関する基板情報が入力される。基板を変更しない場合(N)には、前述のメンテナンス通知に係わるステップS200に遷移し、同様の処理が行われる。
【0097】
[基板とモデル]
実施の形態3では、上記のように、対象基板として複数の基板を扱い、個々の基板の違いに対応させて好適なレシピを生成する。実施の形態3では、前述のレシピ生成用のモデルは、対象基板として1つの標準的なSiC基板を想定したモデルである。管理システム1は、このモデルと個々の基板の基板情報とに基づいて、個々の基板の基板スペック・条件に応じた好適なレシピを生成可能である。
【0098】
[効果等(3)]
上記のように、実施の形態3によれば、実施の形態1,2と同様の効果に加え、各回の成膜で適用される個々の基板の特性に応じた好適なレシピでの成膜の結果、安定したエピ品質を得ることができる。図9の例で言えば、各時点の各回の成膜は、対象基板として個々の特性を持つ基板であり、メンテナンス直後を含め、各回で好適なエピ品質が得られる。
【0099】
<実施の形態4>
図13を用いて、実施の形態4のエピタキシャル成膜装置の管理システム等について説明する。実施の形態4は、実施の形態3に機能を追加した形態である。実施の形態4の管理システムは、さらに、複数の成膜装置20および複数のチャンバ22における個々の成膜装置およびチャンバの特性を考慮して、最適なレシピの生成等を行う機能を有する。実施の形態4では、基板に対する処理を行う候補として、複数のエピタキシャル成膜装置と、エピタキシャル装置内の複数のチャンバとを有する。プロセッサは、モデルの入力情報の1つとして、候補のうち基板に対する処理を行う対象となるエピタキシャル成膜装置およびチャンバの情報を入力し、モデルに基づいて、対象となるエピタキシャル成膜装置のチャンバでの処理のレシピを生成する。
【0100】
実施の形態4の管理システム1の構成は、前述の図10と同様であり、異なる点としては、入力情報101の1つとして、装置番号およびチャンバ番号を有する。実施の形態4での処理フローは、例えば図12に対し異なる点として、ステップS301で、さらに、装置番号およびチャンバ番号が入力され、他の情報と関連付けてDB105内に登録される。
【0101】
装置番号は、個々の成膜装置20を識別するIDであり、チャンバ番号は、個々のチャンバ22を識別するIDである。ユーザU1は、GUIを通じて、成膜に使用する対象の成膜装置20の装置番号と、その成膜装置20における使用するチャンバ22(例えば図5の(B)でのエピ成長チャンバ22d)のチャンバ番号とを入力する。あるいは、管理システム1は、対象の装置番号およびチャンバ番号を自動的に把握、または他の装置等から取得してもよい。なお、装置番号やチャンバ番号が入力・指定されない場合には、管理システム1は、装置番号やチャンバ番号のデフォルト設定値を用いる。このデフォルト設定値は、GUIを通じてユーザU1による設定も可能である。
【0102】
管理システム1は、入力された装置番号およびチャンバ番号で識別される成膜装置20およびチャンバ22に対応させたモデルを使用して、ステップS104でのレシピ生成等の処理を行う。ステップS107では、管理システム1は、基板情報、装置番号、チャンバ番号、モデル、およびレシピ等の情報を関連付けて、DB105に情報を保存する。
【0103】
[成膜装置およびチャンバ]
成膜に使用する成膜装置20およびチャンバ22が異なる場合に、同じレシピを適用したとしても、それぞれの成膜結果のエピ品質に違いが生じる場合がある。そこで、実施の形態4の管理システム1は、装置番号およびチャンバ番号に基づいて、成膜に使用する個々の成膜装置20とそのチャンバ22を把握し、その成膜装置20およびチャンバ22の特性に対応させて好適なレシピを生成する。具体的には、機械学習のモデルにおいて、個々の成膜装置20およびチャンバ22の特性を反映する。また、個々の成膜装置20およびチャンバ22毎のモデルを構成し使用してもよいが、転移学習等の手法を用いてもよい。転移学習では、ある1つの成膜装置20およびチャンバ22を固定として想定した1つのモデルを構成し、そのモデルに基づいて、他の成膜装置20およびチャンバ22については、転移学習によって、対応するモデルを構成する。これにより、ある固定の少ない情報に基づいて、各成膜装置20およびチャンバ22に対応した高精度のモデルを構成できる。
【0104】
図13は、補足として、実施の形態4で、複数の成膜装置20、複数のチャンバ22、および適用するモデル等についての関係の例を示す。(a)の表は、第1の手法として、個々の成膜装置20およびチャンバ22毎に、個々のモデルを構成する場合の管理情報の例を示す。(a)の表は、列として、装置番号、チャンバ番号、およびモデルを有する。例えば、装置番号=1の成膜装置20におけるチャンバ番号=11のチャンバでは、モデルM111が適用され、別のチャンバ番号=12のチャンバでは、別のモデルM112が適用される。別の装置番号=2の成膜装置20では、別のモデル(M221,M222)が適用される。(b)の表は、第2の手法として、複数の成膜装置20および複数のチャンバ22に、共通の1つモデルをベースとして構成する場合の管理情報の例を示す。例えば、装置番号=1,2の2台の成膜装置20では、同じモデルM100が使用されている。装置番号=3の1台の成膜装置20では、同じモデルM300が使用されている。
【0105】
[効果等(4)]
上記のように、実施の形態4によれば、実施の形態3と同様の効果に加え、各回の成膜で適用される個々の成膜装置20およびチャンバ22の特性に応じた好適なレシピでの成膜の結果、安定したエピ品質を得ることができる。例えば、成膜装置20のチャンバ22毎に、メンテナンスの影響を含む状態が異なり得る。その場合にも、個々のチャンバ22の特性が考慮されたモデルに基づいて、最適なレシピが生成でき、メンテナンス直後の成膜のエピ品質を安定させることができる。
【0106】
<実施の形態1~4の変形例>
実施の形態1~4の変形例として、以下も可能である。変形例の管理システム1の構成は、例えば図10と同様であり、異なる点としては、入力情報101の1つとして、ハイパーパラメータを有する。このハイパーパラメータは、公知の機械学習アリゴリズムに設定するパラメータ、言い換えると機械学習アリゴリズム・モデルの設定情報を指す。この変形例での処理フローは、例えば実施の形態3の図12のフローに対し、異なる点として、ステップS301で、入力情報の1つとしてハイパーパラメータが入力される。ユーザU1は、GUIを通じてハイパーパラメータを入力・設定する。
【0107】
機械学習において、膨大なデータを使用する場合、最適なレシピを探索する際に、計算の量、時間、負荷が大きくなる。探索計算ステップ(値を変える幅など)を大きくする等の工夫で、探索に要する時間を短縮可能であるが、精度が低下する。そこで、実施の形態4では、レシピ生成用のモデルに対し、適切なハイパーパラメータを入力・設定することで、高精度と短時間計算との両立を図る。例えば、管理システム1は、ハイパーパラメータの1つとして、レシピ探索のスタート値を、最適解に近いレシピの値に設定する。最適解とは、例えば図9でエピ品質が目標値V1となるようなレシピ(対応する成膜条件)である。これにより、実施の形態4によれば、レシピ探索の探索計算ステップが小さい場合でも、探索に要する時間を短くできる場合がある。すなわち、処理や作業の効率化が可能である。
【0108】
[GUI]
実施の形態1~4、またはそれらの変形例において、以下のようなGUIの例が適用できる。本例では、上記ハイパーパラメータの機能を有する変形例におけるユーザU1に対するGUIを含む画面の表示例を示す。
【0109】
図14および図15は、GUI例を示す。図14で、欄g1は、レシピ探索機能欄であり、実施の形態1等で説明した機能についての有効(enable)/無効(disable)の状態を設定できる。欄g2は、メンテナンス通知メッセージ欄であり、前述のメンテナンス通知のメッセージが表示される。欄g3は、装置・チャンバ情報入力欄であり、前述の装置番号およびチャンバ番号を入力・確認できる。欄g4は、基板情報入力欄であり、前述の基板情報を入力・確認できる。例えば、スロット毎の基板の基板ID、厚さ等の値が入力できる。
【0110】
欄g5は、目標値・許容範囲入力欄であり、エピ品質を表すパラメータ毎に、前述の目標値、上限値および下限値を入力・確認できる。欄g6は、ハイパーパラメータ入力欄であり、前述のハイパーパラメータの値を入力・確認できる。欄g7は、メンテナンス直後のデータセット入力欄であり、前述のメンテナンス直後の1回目の成膜でのデータセットとしてレシピおよびエピ品質を入力・確認できる。欄g8は、メンテナンス評価結果入力欄であり、前述のメンテナンスが実施された場合(例えば図9の時点tm1)のメンテナンス効果の評価結果(メンテナンス内容のメンテナンス方法、および各メンテナンス項目の評価値など)を入力・確認できる。図14の各欄は主に設定情報の入力欄に相当する。
【0111】
続いて、図15で、各欄は、主に結果の出力欄に相当する。欄g9は、最適レシピ出力欄であり、例えば実施の形態1でのメンテナンス直後の2回目以降に適用するための生成された最適レシピの内容と、その最適レシピでのエピ品質の推定結果とが表示される。欄g10は、メンテナンス直後のエピ品質出力欄であり、例えば実施の形態1でのメンテナンス直後の2回目以降での成膜の結果におけるエピ品質の評価値(実測値と記載)と、それに対応した推定値(欄g9の最適レシピと対応して管理システム1が推定した値)とが表示される。欄g11は、来歴情報出力欄であり、DB105に保存されている来歴情報が表示される。欄g11は、例えば、処理情報欄、レシピ内容欄、およびエピ品質の評価結果欄を含む。処理情報欄は、処理番号、処理日時、基板ID等を有する。処理情報欄は、その他、装置番号、チャンバ番号等を有してもよい。
【0112】
レシピ内容欄は、処理に適用されたレシピの各パラメータ値を有する。評価結果欄は、エピ品質の各評価値を有する。欄g12は、メンテナンス評価結果出力欄であり、例えば前述の実施の形態2で「メンテナンス要」となってメンテンナンスが実施された場合のメンテナンス効果の評価結果が表示される。
【0113】
管理システム1は、上記GUI例の各欄に対応するようなテーブル等のデータをDB105やメモリに保持している。管理システム1は、そのデータに基づいて、出力装置15Bの表示画面に表示するための画面データ(例えばWebページでもよい)を生成し表示する。
【0114】
他のGUIとしては、管理システム1は、図1のセンサ27で堆積物の物理量の経時変化を検出、モニタリングした結果のグラフ等を、他の情報と関連付けて表示してもよい。
【0115】
[付記]
以上、本発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。各構成要素は、特に限定しない場合、単数でも複数でもよい。実施の形態の組み合わせによる形態も可能である。必須要素を除いて、実施の形態の構成要素の追加・削除・置換等が可能である。実施の形態では、レシピの生成・調整に関して、SiCエピタキシャル成膜に適用する場合を説明したが、他の工程や装置、例えば、リソグラフィ(露光、電子ビーム描画、X線描画など)、他の成膜(CVD、PVD、蒸着、スパッタリング、熱酸化など)、パターン加工(エッチング、電子ビーム、レーザーなど)、イオン注入(プラズマなど)、洗浄(液体、超音波など)などにも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0116】
1…管理システム、10…コンピュータシステム、20…エピタキシャル成膜装置、11…統合管理部、12…装置制御部、13…レシピ探索部、14…分析評価部、15A…入力装置、15B…出力装置、U1…ユーザ、21…制御部、22…チャンバ、23…ステージ、24…SiC基板、25…エピ膜、26…堆積箇所、27…センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16