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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-06
(45)【発行日】2025-06-16
(54)【発明の名称】量子ドット含有組成物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20250609BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20250609BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20250609BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20250609BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20250609BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20250609BHJP
   C09K 11/70 20060101ALI20250609BHJP
【FI】
G02B5/20
B82Y20/00
B82Y40/00
C09K11/02 Z
C09K11/08 G
C09K11/88
C09K11/70
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022160770
(22)【出願日】2022-10-05
(65)【公開番号】P2024054513
(43)【公開日】2024-04-17
【審査請求日】2024-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸司
(72)【発明者】
【氏名】丸山 仁
(72)【発明者】
【氏名】野島 義弘
(72)【発明者】
【氏名】鳶島 一也
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-524156(JP,A)
【文献】特開2017-206696(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0322926(US,A1)
【文献】特開2016-111292(JP,A)
【文献】特表2016-505212(JP,A)
【文献】特表2017-514299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
B82Y 20/00
B82Y 40/00
C09K 11/02
C09K 11/08
C09K 11/88
C09K 11/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光により蛍光を発する量子ドットを樹脂組成物に分散させた量子ドット含有組成物であって、前記量子ドットはその表面に配位する配位子と、前記配位子と結合しシロキサン結合を含有する表面被覆層とを有し、前記表面被覆層は前記樹脂組成物に含まれる高分子が有する置換基、前記樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基、または前記高分子と同一な骨格構造を持つ化合物を少なくとも一種以上含有するものであり、前記樹脂組成物が、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ポリアミド-イミド、ポリイミド、ポリイミド前駆体およびそのエステル化生成物、及びテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物から選ばれる1種以上を含むものであることを特徴とする量子ドット含有組成物。
【請求項2】
前記量子ドットはII-VI族、III-V族、IV族、IV-VI族、I-III-VI族、II-IV-V族およびこれらの混晶や合金、またはペロブスカイト構造をもつ化合物からなる群より選択される量子ドットコアを含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の量子ドット含有組成物。
【請求項3】
前記量子ドットは、前記量子ドットコアよりもバンドギャップの大きいシェルにより前記量子ドットコアを被覆したコアシェル型量子ドットを含有するものであることを特徴とする請求項2に記載の量子ドット含有組成物。
【請求項4】
前記配位子は、アミノ基、チオール基、カルボキシ基、ホスフィノ基、ホスフィンオキシド基、及びアンモニウムイオンのいずれか1種以上を有するものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の量子ドット含有組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物に含まれる高分子が有する置換基は、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、水酸基、フェノール性水酸基、及びエポキシ基のいずれか1種以上のものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の量子ドット含有組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基は、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、水酸基、フェノール性水酸基、及びエポキシ基のいずれか1種以上のものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の量子ドット含有組成物。
【請求項7】
前記高分子と同一な骨格構造は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから誘導される骨格構造または、シルフェニレン骨格、ノルボルネン骨格、フルオレン骨格、イソシアヌレート骨格であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の量子ドット含有組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の量子ドット含有組成物の硬化物であることを特徴とする波長変換部材。
【請求項9】
励起光により蛍光を発する量子ドットを含有する請求項1から請求項のいずれか一項に記載の量子ドット含有組成物の製造方法であって、
前記量子ドットが分散した溶液と、シロキサン結合を形成する置換基を有する配位子とを混合し、前記量子ドットの最表面に前記配位子を配位する配位子交換工程と、
前記配位子交換工程の後、前記シロキサン結合を形成する置換基と、前記シロキサン結合を形成する置換基と反応してポリシロキサンを生成する化合物とを反応させ表面被覆層を形成する表面被覆層形成工程と、
前記表面被覆層形成工程の後、前記表面被覆層により被覆された前記量子ドットを前記樹脂組成物と混合する樹脂組成物混合工程とを含むことを特徴とする量子ドット含有組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット含有組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ナノ粒子単結晶において、結晶のサイズが励起子のボーア半径以下になると強い量子閉じ込め効果が生じ、エネルギー準位が離散的になる。エネルギー準位は結晶のサイズに依存することになり、光吸収波長や発光波長は結晶サイズで調整が可能となる。また、半導体ナノ粒子単結晶の励起子再結合による発光が量子閉じ込め効果により高効率となり、またその発光は基本的に輝線であることから、大きさの揃った粒度分布が実現できれば、高輝度狭帯域な発光が可能となることから注目を集めている。このようなナノ粒子における強い量子閉じ込め効果による現象を量子サイズ効果と呼び、その性質を利用した半導体ナノ粒子単結晶を量子ドットとして広く応用展開に向けて検討が行われている。
【0003】
量子ドットの応用として、ディスプレイ用蛍光体材料への利用が検討されてきている。狭帯域高効率な発光を実現できれば既存技術で再現できなかった色を表現できることになることから、次世代のディスプレイ材料として注目されてきている。
【0004】
現在量子ドットの利用が進められてきているディスプレイとして、量子ドット液晶ディスプレイがあり、すでに製品化が進行している。白色光または青色LEDバックライトから照射された光を量子ドット含有波長変換部材に通すことにより緑色、赤色へと色を変換する試みがなされている。量子ドットの表面は活性であり、大気中の水分や酸素により徐々に量子収率が低下していってしまうため、量子ドット含有波長変換部材については安定性向上が必須の検討項目となっている。
【0005】
量子ドット含有の波長変換部材の安定化について、様々な検討が行われている。一例としてガスバリア封止があげられる。量子ドットが両親媒性高分子または相溶性ポリマー内に分散された内層を形成し、さらに別のガス透過性の低い樹脂層に分散させることで安定性が向上している。特許文献1において、疎水性の樹脂層の中に量子ドット(QD:Quantum Dot)を分散させることでポリマービーズを形成し、そのポリマービーズに親水性ポリマーに分散するように表面改質し、親水性ポリマーに分散する方法が公開されている。親水性のポリマーのほうが疎水性ポリマーよりもガスバリア性が高い傾向にあるため、このような二層や多層の構造でQDを分散させている。しかしながら、液晶ディスプレイユニットに使用されているような高温高湿環境になりうる用途での使用にはガスバリア性が不十分のため、QDフィルムをガスバリアフィルムで挟み込むことで酸素や水蒸気の影響を除去する方法がとられている。
【0006】
ポリマービーズの作製方法に関しても様々検討が行われている。特許文献2において、アミノ基と重合性官能基を有するポリシロキサンでQD含有ポリマービーズを作製し、さらにもう一つ別の重合性官能基を有するポリマーを混合し、エマルジョン化してさらに硬化させる方法が開示されている。この方法では、QD表面に配位するリガンドを導入したポリマーによりQDとの密着性を上げて、ポリマービーズ内に含まれるQDの濃度を上げることが可能であり、安定性を向上させることができる。しかし、この方法でも安定性は不十分であり、バリアフィルムで挟み込むことで実装化されている。
【0007】
バリアフィルムを使用せず、耐熱性、耐湿性を向上させた検討として、特許文献3が公開されている。この方法では、上記の特許文献1のポリマービーズ構造を用いた多層の樹脂組成物にさらにシラザンコーティング処理を行うというもので、安定性が向上している。
【0008】
また、別の試みとして特許文献4が公開されている。この方法は、量子ドットにリガンドを配位させ、リガンドにはビニル基やメタクリル基などの反応性の置換基を導入し、次いでSi-H含有のシリコーンレジンと硬化剤とを混ぜ合わせ、そのままスピンコートして加熱することにより硬化させて耐熱性、耐湿性が向上したフィルムを作製している。
【0009】
また、カラーフィルターへの応用の際には、そのパターニング方法に適した量子ドット表面状態を形成することが重要になる。現在、カラーフィルターは顔料を含有する感光性樹脂組成物をガラス基板上に塗布し、溶媒を乾燥させた後、UV照射でマスク露光し、アルカリ現像により未硬化部分を除去することにより色のパターンを形成し、この工程を繰り返すことで、青、赤、緑のパターンを形成するフォトリソグラフィー法が実用化されている。フォトリソグラフィー法には未硬化部分が無駄になってしまうことから、原料のロスが大きく、工程も煩雑で高価な装置を使用するなど、問題も多い。そのため、近年ではインクジェット方式の検討も行われている。インクジェット方式であれば、原料のロスはなく、大型化や大面積化についても高価な装置を導入することなく作製が可能など、コストの面で競争力がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第9708532号公報
【文献】特開2016-111292号公報
【文献】特表2019-536653号公報
【文献】米国特許公表第20190322926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1、2のようにバリアフィルムを用いるとコスト増となるだけでなく、必然的に厚さも増してしまう。現在、液晶ディスプレイは薄型化が求められており、波長変換部材の厚さを低減する必要があることから、バリアフィルムフリーでの安定性向上が求められている。また、カラーフィルター用途を考えた際、パターニングが必要となり、バリアフィルムのような保護層を設けるのは現実的ではなく、量子ドット自体の安定性が必要になる。
【0012】
特許文献3に記載の方法では短紫外線(170nm)の照射によるシラザンコーティング光硬化の際に量子収率が低下してしまう問題がある。また、特許文献4に記載の方法では、使用しているSi-H含有シリコーンレジンと量子ドットは相溶性が低く、高濃度に分散させようとすると凝集が生じてしまう。そのため、リガンド処理により相溶性を向上させなければならないが、リガンドを配位させる際に疎水性基と親水性基のバランスが変わると凝集が起きやすく量子収率が低下してしまう問題がある。
【0013】
また、インクジェット方式では、微細なノズルを作る技術が難しく、さらにノズルが小さくなると根詰まりや吐出が不安定性になるなどの問題もあり、微細化には実績のあるフォトリソグラフィー、コスト競争力のあるインクジェットの両方の検討が行われている。一方でフォトリソグラフィー、インクジェットのいずれでも高濃度かつ高分散に量子ドットを含有する樹脂組成物を作製することが問題となる。樹脂組成物は一部を除き、PGMEAやPGME等の極性を持った溶剤に分散されている。量子ドットは基本的に疎水性で、これら溶媒やレジン材料には分散しにくく、凝集してしまうため、高濃度かつ高分散に量子ドットを含有する感光性樹脂組成物を作製することが難しい。対策として分散剤を入れる検討がなされているが、量子ドット含有量を下げてしまうことや、硬化後の樹脂の特性を変質させてしまうなどの問題がある。
【0014】
本発明は上記のような問題に鑑みてなされたもので量子ドットの特性を維持しつつ、安定性を向上させ、かつ極性の高い溶剤や感光性樹脂組成物との相溶性を改善させた量子ドット含有組成物とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明では、励起光により蛍光を発する量子ドットを樹脂組成物に分散させた量子ドット含有組成物であって、前記量子ドットはその表面に配位する配位子と、前記配位子と結合しシロキサン結合を含有する表面被覆層とを有し、前記表面被覆層は前記樹脂組成物に含まれる高分子が有する置換基、前記樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基、または前記高分子と同一な骨格構造を持つ化合物を少なくとも一種以上含有するものである量子ドット含有組成物を提供する。
【0016】
このような量子ドット含有組成物であれば、量子ドットの特性を維持しつつ、安定性を向上させ、かつ極性の高い溶剤や感光性樹脂組成物との相溶性を改善させた量子ドット含有組成物となる。
【0017】
また、本発明では、前記量子ドットはII-VI族、III-V族、IV族、IV-VI族、I-III-VI族、II-IV-V族およびこれらの混晶や合金、またはペロブスカイト構造をもつ化合物からなる群より選択される量子ドットコアを含有するものであることが好ましい。
【0018】
このような量子ドットであれば、励起光による蛍光発光が可能となる。
【0019】
この時、前記量子ドットは、前記量子ドットコアよりもバンドギャップの大きいシェルにより前記量子ドットコアを被覆したコアシェル型量子ドットを含有するものであることが好ましい。
【0020】
このような量子ドットであれば、発光が安定となり比較的取り扱いが容易となる。
【0021】
また、本発明では、前記配位子は、アミノ基、チオール基、カルボキシ基、ホスフィノ基、ホスフィンオキシド基、及びアンモニウムイオンのいずれか1種以上を有するものであることが好ましい。
【0022】
このような配位子であれば、量子ドット表面に配位しやすいため好ましい。
【0023】
また、本発明では、前記樹脂組成物に含まれる高分子が有する置換基は、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、水酸基、フェノール性水酸基、及びエポキシ基のいずれか1種以上のものであることが好ましい。
【0024】
このような置換基であれば、量子ドット表面構造を変化させることがなく、温和な条件で混合することができる。
【0025】
また、本発明では、前記樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基は、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、水酸基、フェノール性水酸基、及びエポキシ基のいずれか1種以上のものであることが好ましい。
【0026】
このような置換基であれば、前記樹脂組成物との相溶性が向上し、温和な条件下で混合することができる。また、硬化の際に前記樹脂組成物と量子ドットの間で重合させることができ、量子ドットを樹脂組成物に固定化することにより凝集を抑制することができる。
【0027】
また、本発明では、前記高分子と同一な骨格構造は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから誘導される骨格構造または、シルフェニレン骨格、ノルボルネン骨格、フルオレン骨格、イソシアヌレート骨格であることが好ましい。
【0028】
このような骨格構造であれば、前記高分子との相溶性が向上する。
【0029】
また、本発明では、上記に記載の量子ドット含有組成物の硬化物である波長変換部材を提供する。
【0030】
このような波長変換部材であれば、高温高湿条件において蛍光発光効率の劣化が抑制され、信頼性が高いものとなる。
【0031】
また、本発明では、励起光により蛍光を発する量子ドットを含有する上記に記載の量子ドット含有組成物の製造方法であって、
前記量子ドットが分散した溶液と、シロキサン結合を形成する置換基を有する配位子とを混合し、前記量子ドットの最表面に前記配位子を配位する配位子交換工程と、
前記配位子交換工程の後、前記シロキサン結合を形成する置換基と、前記シロキサン結合を形成する置換基と反応してポリシロキサンを生成する化合物とを反応させ表面被覆層を形成する表面被覆層形成工程と、
前記表面被覆層形成工程の後、前記表面被覆層により被覆された前記量子ドットを前記樹脂組成物と混合する樹脂組成物混合工程とを含む量子ドット含有組成物の製造方法を提供する。
【0032】
このような量子ドット含有組成物の製造方法であれば、量子ドットの特性を維持しつつ、安定性を向上させ、かつ極性の高い溶剤や感光性樹脂組成物との相溶性を改善させた量子ドット含有組成物を製造することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明の量子ドット含有組成物によれば、量子ドットの特性を維持しつつ、安定性を向上させ、かつ極性の高い溶剤や感光性樹脂組成物との相溶性を改善させた量子ドット含有組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
上述のように、量子ドットの特性を維持しつつ、安定性を向上させ、かつ極性の高い溶剤や感光性樹脂組成物との相溶性を改善させた量子ドット含有組成物とその製造方法の開発が求められていた。
【0035】
本発明者らは、上述のような課題について鋭意検討を重ねた結果、シロキサンを含む表面被覆層を形成することにより不活性化し、安定性を向上させることがわかった。さらに、樹脂組成物との相溶性を改善するために、表面被覆層に樹脂組成物のモノマーまたは高分子と同一な骨格構造を持つ化合物を導入することで、相溶性を改善することができ、さらに樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基を導入することで、高濃度に添加しても硬化させることが可能な量子ドットを作製することができ、樹脂組成物に含まれる高分子が有する置換基を導入することで、相溶性を向上させることができる。その結果、バリアフィルム無しで85℃、85%RHにおける信頼性試験において、250時間処理後の内部量子効率の低下率を10%以内に抑えることができ、安定化が可能となることを見出した。また、樹脂組成物との相溶性が改善でき、凝集体の観察されない均一な分散状態を実現できる。
【0036】
即ち、本発明は、励起光により蛍光を発する量子ドットを樹脂組成物に分散させた量子ドット含有組成物であって、前記量子ドットはその表面に配位する配位子と、前記配位子と結合しシロキサン結合を含有する表面被覆層とを有し、前記表面被覆層は前記樹脂組成物に含まれる高分子が有する置換基、前記樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基、または前記高分子と同一な骨格構造を持つ化合物を少なくとも一種以上含有するものである量子ドット含有組成物である。
【0037】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
本発明の量子ドット含有組成物は、量子ドットを樹脂組成物に分散させた量子ドット含有組成物であって、量子ドットの表面に配位する配位子と、前記配位子と結合しシロキサン結合を含有する表面被覆層とを有するものである。
【0039】
(量子ドット)
本発明における量子ドットは励起光により蛍光を発するものであれば特に限定されることは無く、どのような形態でも使用することが可能である。量子ドットは主に10nm以下のナノ粒子であるが、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノチューブ、ナノキューブ等でもよく、どのような形状のものでも適用可能である。
【0040】
本発明に用いられる量子ドットは任意の好適な材料、例えば、半導体材料としては、II-VI族、III-V族、IV族、IV-VI族、I-III-VI族、II-IV-V族およびこれらの混晶や合金、またはペロブスカイト構造をもつ化合物からなる群より選択される量子ドットコアを含有するものを用いることができる。
【0041】
具体的には、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、Si、Ge、Sn、Pb、PbS、PbSe、PbTe、SnS、SnSe、SnTe、AgGaS、AgInS、AgGaSe、AgInSe、CuGaS、CuGaSe、CuInS、CuInSe、ZnSiP、ZnGeP、CdSiP、CdGeP、CsPbCl、CsPbBr、CsPbI、CsSnCl、CsSnBr、CsSnIを含む化合物が挙げられるが、これに限定されない。
【0042】
また、本発明に用いられる量子ドットはコアシェル構造を有するものとすることができる。コアシェル構造を形成できるシェル材料としては、特に限定されないが、コア材料に対してバンドギャップが大きく、格子不整合性が低いものが好ましく、コア材料に合わせて任意に組み合わせることが可能である。具体的なシェル材料は、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、BeS、BeSe、BeTe、MgS、MgSe、MgTe、PbS、PbSe、PbTe、SnS、SnSe、SnTe、CuF、CuCl、CuBr、CuIが挙げられ、上記材料を単一または複数の混晶としても選択されてもよいが、これに限定されない。
【0043】
前記量子ドットは、前記量子ドットコアよりもバンドギャップの大きいシェルにより前記量子ドットコアを被覆したコアシェル型量子ドットを含有するものであることが好ましい。
【0044】
量子ドットの製造法は液相法や気相法など様々な方法があるが、本発明においては特に限定されないが、高い蛍光発光効率を示す観点から、高沸点の非極性溶媒中において高温で前駆体種を反応させる、ホットソープ法やホットインジェクション法を用いて得られる半導体ナノ粒子を用いることが好ましく、非極性溶媒への分散性を付与し、表面欠陥を低減するため、表面に有機配位子が配位していることが望ましい。
【0045】
有機配位子は分散性の観点から脂肪族炭化水素を含むことが好ましい。このような有機配位子としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリル酸、デカン酸、オクタン酸、オレイルアミン、ステアリル(オクタデシル)アミン、ドデシル(ラウリル)アミン、デシルアミン、オクチルアミン、オクタデカンチオール、ヘキサデカンチオール、テトラデカンチオール、ドデカンチオール、デカンチオール、オクタンチオール、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィン、トリブチルホスフィンオキシド等が挙げられ、これらを1種単独で用いても複数組み合わせても良い。
【0046】
(量子ドットに配位する配位子)
また、本発明における量子ドットはその表面に配位する配位子を有する。本発明における量子ドットには前記の有機配位子の他にシロキサン結合を形成できる置換基を有する配位子が配位していることが望ましい。シロキサン結合を形成できる置換基を有する配位子として、量子ドット表面に相互作用または吸着する置換基を有することが望ましい。量子ドット表面に相互作用または吸着する置換基として、アミノ基、チオール基、カルボキシ基、メルカプト基、ホスフィノ基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、スルフォニル基、アンモニウムイオン、第4級アンモニウム塩等が挙げられ、この中で配位性の強さの観点からアミノ基、カルボキシ基、メルカプト基、ホスフィン基、第4級アンモニウム塩が好ましい。
【0047】
また、本発明の量子ドット含有組成物においては、ポリシロキサンによって量子ドット表面をポリマーで被覆することが望ましい。そのため、上記量子ドットはその表面に配位可能な置換基を有する配位子がシロキサン結合を形成できる置換基を有していることが望ましい。シロキサン結合を形成できる置換基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基、ジメチルメトキシシリル基、エトキシジメチルシリル基などのアルコキシシランを含有する化合物、シラザン結合を有する化合物、Si-OH結合を有する化合物、Si-X(X:ハロゲン)結合を有する化合物、カルボン酸などがあるが、反応の副生成物として酸が発生しない温和な条件で反応が進行できることから、アルコキシシランやシラザン、Si-OHを含有する配位子を用いることが好ましい。
【0048】
(表面被覆層)
本発明の量子ドット含有組成物は、前記シロキサン結合を形成できる置換基を有する配位子と結合しシロキサン結合を含有する表面被覆層を有する。本発明の量子ドット含有組成物はポリシロキサンによって量子ドット表面をポリマーで被覆することが望ましい。そのため、上記の量子ドットに配位可能な置換基を有する配位子に含有されたシロキサン結合を形成できる置換基と反応させることで、ポリシロキサンを含有した量子ドット表面被覆層を形成することが望ましい。
【0049】
また、本発明における表面被覆層は後述の樹脂組成物に含まれる高分子が有する置換基、後述の樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基、または前記高分子と同一な骨格構造を持つ化合物を少なくとも一種以上有している。高分子が有する置換基や高分子と重合可能な置換基や同一な骨格構造を持つ化合物は表面被覆層に共有結合を形成して含有されていることが望ましい。表面被覆された量子ドットと会合体を形成する場合や、量子ドット表面や表面被覆層に配位するように含有されている場合、後の精製操作の際に外れてしまいやすく望ましい特性を発揮できなくなってしまう。
【0050】
また、高分子と重合可能な置換基として、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、水酸基、フェノール性水酸基、エポキシ基、スルフォニル基、カルボキシ基、チオール基等が挙げられるが、酸性の強いもの、量子ドットと配位しやすいものを導入すると凝集が起きてしまいやすいことから、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、水酸基、フェノール性水酸基、エポキシ基が好ましい。
【0051】
また、樹脂組成物に含まれる高分子と同一な骨格構造を持つ化合物については、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから誘導される骨格構造または、シルフェニレン骨格、ノルボルネン骨格、フルオレン骨格、イソシアヌレート骨格構造を持つ化合物が挙げられるが、導入する種類や数、比率などは樹脂組成物と量子ドットを混合させた際に凝集等が起きないように適宜調整すればよい。
【0052】
(樹脂組成物)
本発明の量子ドット含有組成物は量子ドットと樹脂組成物との混合物であり、樹脂組成物はベースポリマーである高分子のほか重合開始剤を含んでもよく、さらに、有機溶剤、重合性架橋剤、光酸発生剤、酸化防止剤、光散乱剤等を含んでも良い。高分子はアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルからそれぞれ誘導された重合体や複数を組み合わせた共重合体、グリシジル(メタ)アクリレートを繰り返し単位に持つ高分子、シロキサン骨格、ウレタン骨格、シルフェニレン骨格、ノルボルネン骨格、フルオレン骨格、イソシアヌレート骨格を含む高分子を好適に利用でき、適宜用途に合わせて使用する高分子を選んでよい。例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ポリアミド-イミド、ポリイミドなどのポリイミド前駆体およびそのエステル化生成物、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応生成物が挙げられる。また、これら高分子には重合性の置換基が導入されており、重合開始剤と組み合わせて使用することで硬化が可能となる。ラジカル重合性の置換基としては、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、チオール基等があるがいずれも好適に利用できる。カチオン重合性置換基としては、水酸基、フェノール性水酸基、エポキシ基、グリシジル基、オキセタニル基、イソシアネート基等が挙げられるが、いずれも好適に利用できる。また、そのほかにアルカリ現像性を付与するため、カルボキシ基を導入されていても良い。
【0053】
(重合開始剤)
また、本発明の量子ドット含有組成物は重合開始剤を含むことも好ましい。重合開始剤は熱または光重合開始剤があり、前記ベースポリマーに合わせていずれも好適に利用できる。光ラジカル重合開始剤としては、BASF社から市販されているイルガキュア(Irgacure(登録商標))シリーズでは、例えば、イルガキュア290、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819、イルガキュア1173等が挙げられる。また、ダロキュア(Darocure(商標登録))シリーズでは、例えばTPO、ダロキュア1173等が挙げられる。その他、公知の熱ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を含んでいてもよい。
【0054】
重合開始剤含有量は、添加する高分子100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、さらに好ましくは0.2~5質量部である。
【0055】
(溶剤)
本発明の量子ドット含有組成物にはその塗布性を向上するために溶剤が含まれてもよい。溶剤としては量子ドットとの相溶性の観点から有機溶剤が良く、例えばケトン、アルキレングリコールエーテル、アルコールおよび芳香族化合物である。ケトンの群から、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなど、アルキレングリコールエーテルの群からのメチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)、ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)、酢酸メチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールプロピルエーテル、酢酸ジエチレングリコールイソプロピルエーテル、酢酸ジエチレングリコールブチルエーテル、酢酸ジエチレングリコール第三ブチルエーテル、酢酸トリエチレングリコールメチルエーテル、酢酸トリエチレングリコールエチルエーテル、酢酸トリエチレングリコールプロピルエーテル、酢酸トリエチレングリコールイソプロピルエーテル、酢酸トリエチレングリコールブチルエーテル、酢酸トリエチレングリコール第三ブチルエーテルなど、アルコールの群からのメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、3-メチル-3-メトキシブタノールなど、および、芳香族溶媒の群からのベンゼン、トルエン、キシレンが好適に利用できる。
【0056】
また、本発明の量子ドット含有組成物はその他に重合性架橋剤、光酸発生剤、酸化防止剤、光散乱剤等を含んでも良く、重合性や塗布性に応じて適宜調整可能である。
【0057】
(波長変換部材)
本発明の波長変換部材は量子ドット含有組成物を硬化させた硬化物である。本発明における波長変換部材の形態は、特に限定されないが、シート状に加工してから硬化させることで、量子ドットが樹脂に分散した波長変換フィルム、また、インクジェットやレジスト材料としてパターニングを行った波長変換カラーフィルターが挙げられる。波長変換材料の製造方法は特に限定されないが、例えば、量子ドット含有組成物をPETやポリイミドなどの透明フィルムや基板材料に塗布し硬化させ、ラミネート加工することで波長変換材料を得ることができる。
【0058】
透明フィルムへの塗布はスプレーやインクジェットなどの噴霧法、スピンコートやバーコーターを利用できる。
【0059】
量子ドット含有組成物を硬化させる方法は特に限定されないが、例えば、量子ドット含有組成物を塗布したフィルムを60℃で2時間加熱、その後150℃で4時間加熱することで行うことができる。また、光重合反応を用いて量子ドット含有組成物を硬化させても良く、用途に合わせて適宜変更することができる。
【0060】
このような表面被覆層に樹脂組成物中の高分子と重合可能な置換基が導入されていることで、硬化後の信頼性が高く凝集や硬化阻害もない波長変換部材が製造可能となる。
【0061】
(量子ドット含有組成物の製造方法)
本発明では、励起光により蛍光を発する量子ドットを含有する上記に記載の量子ドット含有組成物の製造方法であって、
前記量子ドットが分散した溶液と、シロキサン結合を形成する置換基を有する配位子とを混合し、前記量子ドットの最表面に前記配位子を配位する配位子交換工程と、
前記配位子交換工程の後、前記シロキサン結合を形成する置換基と、前記シロキサン結合を形成する置換基と反応してポリシロキサンを生成する化合物とを反応させ表面被覆層を形成する表面被覆層形成工程と、
前記表面被覆層形成工程の後、前記表面被覆層により被覆された前記量子ドットを前記樹脂組成物と混合する樹脂組成物混合工程とを含むことを特徴とする量子ドット含有組成物の製造方法を提供する。
【0062】
本発明の量子ドット含有組成物は例えば下記の方法で製造することができる。
まず、疎水性の溶媒に長鎖炭化水素を含む配位子が配位した量子ドットを分散させ、シロキサン結合を形成する置換基と量子ドット表面に配位する置換基を有する配位子と混合することで配位子交換反応を行う。配位子交換反応は配位子の種類によって添加量、加熱温度、時間、光照射などの条件は適宜変更する。
次に、前記シロキサン結合を形成する置換基と、前記シロキサン結合を形成する置換基と反応してポリシロキサンを生成する化合物とを反応させることで、シロキサン結合を形成可能な置換基を有する配位子が配位した量子ドットとポリシロキサンを形成する反応を行い、シロキサン結合を含有した表面被覆層を形成する。
次に、前記表面被覆層により被覆された前記量子ドットを前記樹脂組成物と混合することで量子ドット含有組成物を製造することができる。
【0063】
ポリシロキサン結合を形成する一般的な方法としてゾルゲル法が好適に利用できるが、量子ドットが酸性条件下や水分に弱いことから、塩基性条件下でのゾルゲル方であることが好ましく、さらに好ましくはジフェニルシランジオールやテトラメチルジシロキサンジオール等を用いた非加水分解ゾルゲル法が好ましい。また、本発明における表面被覆層は前記樹脂組成物に含まれる高分子が有する置換基、前述の樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基、または前記樹脂組成物に含まれる高分子と同一な骨格構造を持つ化合物を少なくとも一種以上有している。樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基や同一な骨格構造を持つ化合物は表面被覆層に共有結合を形成して含有されていることが望ましい。共有結合を形成する方法については特に制限はないが、例えば、樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基や前記樹脂組成物に含まれる高分子と同一な骨格構造を持つ化合物にシロキサン結合を形成できる置換基を導入し、上記の非加水分解ゾルゲル反応の際に添加することで、表面被覆層に共有結合を形成した状態で含有する方法や、上記の非加水分解ゾルゲル反応の際に樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基を導入しておき、その後、高分子やモノマーを反応させることで表面被覆層に導入する方法が好適に利用できる。表面被覆層を形成したのち、未反応物を精製により除去し、樹脂組成物と混合することで量子ドット含有組成物を製造することができる。表面被覆層を形成することで、樹脂組成物との相溶性が向上し、量子ドットが凝集することなく均一に分散された量子ドット含有組成物が製造できる。
【実施例
【0064】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例では量子ドット材料としてInP/ZnSe/ZnSのコアシェル型量子ドットを用いた。
【0065】
[実施例1]
(量子ドットコア合成工程)
フラスコ内にパルミチン酸を0.23g(0.9mmol)、酢酸インジウムを0.088g(0.3mmol)、1-オクタデセンを10mL加え、減圧下、100℃で加熱撹拌を行い、原料を溶解させながら1時間脱気を行った。その後、窒素をフラスコ内にパージし、トリストリメチルシリルホスフィンをトリオクチルホスフィンと混合して0.2Mに調した溶液を0.75mL(0.15mmol)加えて300℃に昇温し、溶液が黄色から赤色に着色し、コア粒子が生成しているのを確認した。
【0066】
(量子ドットシェル層合成工程)
次いで、別のフラスコにステアリン酸亜鉛2.85g(4.5mmol)、1-オクタデセン15mLを加え、減圧下、100℃で加熱撹拌を行い、溶解させながら1時間脱気を行ったステアリン酸亜鉛オクタデセン溶液0.3Mを用意し、コア合成後の反応溶液に3.0mL(0.9mmol)添加して200℃まで冷却した。次いで、別のフラスコにセレン0.474g(6.0mmol)、トリオクチルホスフィン4.0mLを加えて150℃に加熱して溶解させ、セレントリオクチルホスフィン溶液1.5Mを調し、200℃に冷却しておいたコア合成工程後の反応溶液を320℃まで30分かけて昇温しながら、セレントリオクチルホスフィン溶液を0.1mLずつ合計0.6mL(0.9mmol)添加するように加えて320℃で10分保持した後に室温まで冷却した。酢酸亜鉛を0.44g(2.2mmol)加え、減圧下、100℃で加熱撹拌することで溶解させた。再びフラスコ内を窒素でパージして230℃まで昇温し、1-ドデカンチオールを0.98mL(4.0mmol)添加して1時間保持した。得られた溶液を室温まで冷却し、コアシェル型量子ドット含有溶液を作製した。
【0067】
(配位子交換工程)
シロキサン結合形成可能な置換基と量子ドット表面に配位する置換基を有する配位子(リガンド)として(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン(東京化成工業株式会社)を使用した。配位子の交換反応としては室温まで冷却したシェル層合成工程後の溶液に(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン(3.0mmol)添加して24時間撹拌した。反応終了後、エタノールを加えて反応溶液を沈殿させ、遠心分離を行い、上澄みを除去した。同様な精製をもう一度行い、トルエンに分散させてシロキサン結合形成可能な置換基を有する配位子が配位した量子ドット溶液を作製した。
【0068】
(表面被覆層形成工程)
窒素でパージしておいたフラスコにトリエトキシビニルシラン(4.0mmol)とジフェニルシランジオール(6.0mmol)と水酸化バリウム・一水和物(0.15mmol)と配位子交換工程後の量子ドットトルエン溶液を加え、65℃で24時間加熱撹拌した。反応終了後室温まで冷却し、エタノールを加えて反応溶液を沈殿させ、遠心分離を行い、上澄みを除去した。トルエンに分散させ、あらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、メタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)を量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。撹拌混合、脱泡を行った後に撹拌しながらUVLED照射装置により波長365nm出力4000mW/cmの光を20秒照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させた。
【0069】
(樹脂組成物混合工程)
トルエンに分散させた表面被覆層形成工程後の溶液とメタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)を不揮発性分比で量子ドットが20質量%含まれるように秤量して混合した。混合後、メタクリル変性シリコーンオイル100質量部に対して熱ラジカル発生剤AIBN(東京化成製)を1質量部添加して量子ドット含有組成物を得た。
【0070】
(波長変換部材の製造方法)
得られた量子ドット含有組成物を用いて波長変換部材を作製した。量子ドット含有組成物を真空脱気し、フッ素樹脂コーティングされた20cm×10cm角、厚さ500μmの金型に、固形分濃度20%にした量子ドット含有組成物を流し込み、ホットプレート上で120℃、1時間加熱することで溶剤を飛ばしながら量子ドット含有組成物を熱硬化させ、その後金型から取り出すことで、厚さ100μmの波長変換部材を作製した。
【0071】
(発光波長、発光半値幅、発光効率測定)
実施例及び比較例において、量子ドット含有組成物の蛍光発光特性評価としては、大塚電子株式会社製:量子効率測定システム(QE-2100)用いて、励起波長450nmにおける量子ドットの発光波長、蛍光発光半値幅及び蛍光発光効率(内部量子効率)を測定した。
【0072】
(信頼性試験)
得られた波長変換部材を85℃、85%RH(相対湿度)条件で250時間処理を行い、処理後の波長変換部材の蛍光発光効率を測定することで、その信頼性を評価した。
【0073】
[比較例1]
実施例1と同様に量子ドットシェル層合成工程まで行い、配位子交換工程と表面被覆層形成工程を行わずに樹脂組成物混合工程を行った。量子ドットシェル層合成工程後の溶液にメタクリル変性シリコーンオイルX-32-3817-3(信越化学工業株式会社)を不揮発性分比で量子ドットが20質量%含まれるように秤量して混合した。混合後、溶媒を除去して添加したメタクリル変性シリコーンオイル100質量部に対して熱ラジカル発生剤AIBN(東京化成製)を1質量部添加して量子ドット含有組成物を得た。その他は実施例1と同様な方法で波長変換部材を作製した。
【0074】
[実施例2]
配位子交換工程までは実施例1と同様に作製した。
【0075】
(表面被覆層形成工程)
窒素でパージしておいたフラスコにメタクリル酸トリエトキシシリルプロピル(4.0mmol)とジフェニルシランジオール(6.0mmol)と水酸化バリウム・一水和物(0.15mmol)と配位子交換工程後の量子ドットトルエン溶液を加え、65℃で24時間加熱撹拌した。反応終了後室温まで冷却し、エタノールを加えて反応溶液を沈殿させ、遠心分離を行い、上澄みを除去した。トルエンに分散させ、あらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、アクリル樹脂RA-4101(根上工業株式会社)を量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。さらに、Irgacure1173をアクリル樹脂100質量部に対して1質量部添加し、撹拌混合を行った後にUVLED照射装置により波長365nm出力4000mW/cmの光を20秒照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させた。
【0076】
(樹脂組成物混合工程)
トルエンに分散させた表面被覆層形成工程後の溶液とアクリル樹脂RA-4101(根上工業株式会社)を不揮発性分比で量子ドットが20質量%含まれるように秤量し、アクリル樹脂不揮発性分100質量部に対して熱ラジカル発生剤AIBN(東京化成製)を1質量部添加して混合した。混合後、減圧蒸留によりトルエン溶媒を除去し、量子ドット含有組成物を得た。
【0077】
(波長変換部材の製造方法)
得られた量子ドット含有組成物を用いて波長変換部材を作製した。量子ドット含有組成物を真空脱気し、フッ素樹脂コーティングされた20cm×10cm角、厚さ500μmの金型に、固形分濃度20%にした量子ドット含有組成物を流し込み、ホットプレート上で120℃、1時間加熱することで溶剤を飛ばしながら量子ドット含有組成物を熱硬化させ、その後金型から取り出すことで、厚さ100μmの波長変換部材を作製した。
【0078】
[比較例2]
量子ドットシェル層合成工程まで実施例1と同様な方法で作製し、配位子交換工程、表面被覆層形成工程を除き、実施例2と同様な方法で波長変換部材を製造した。
【0079】
[実施例3]
配位子交換工程までは実施例1と同様に作製した。
【0080】
(表面被覆層形成工程)
窒素でパージしておいたフラスコにメタクリル酸トリエトキシシリルプロピル(4.0mmol)とジフェニルシランジオール(6.0mmol)と水酸化バリウム・一水和物(0.15mmol)と配位子交換工程後の量子ドットトルエン溶液を加え、65℃で24時間加熱撹拌した。反応終了後室温まで冷却し、エタノールを加えて反応溶液を沈殿させ、遠心分離を行い、上澄みを除去した。トルエンに分散させ、あらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、イソシアヌル酸誘導体DA-MGIC(四国化成工業株式会社)と量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。さらに、Irgacure1173をDA-MGIC100質量部に対して1質量部添加し、撹拌混合を行った後にUVLED照射装置により波長365nm出力4000mW/cmの光を20秒照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させた。
【0081】
(樹脂組成物混合工程)
エポキシ含有シリコーン樹脂(信越化学製 CAS No.2253674-54-1)とトルエンに分散させた表面被覆層形成工程後の溶液と不揮発性分比で量子ドットが20質量%含まれるように秤量し混合した。シリコーン樹脂不揮発性分100質量部に対して熱酸発生剤TA-100(サンアプロ製)を2質量部、架橋剤THI-DEを20質量部秤量して混合した。混合後、減圧蒸留によりトルエン溶媒を除去し、量子ドット含有組成物を得た。
【0082】
(波長変換部材の製造方法)
得られた量子ドット含有組成物を用いて波長変換部材を作製した。量子ドット含有組成物を真空脱気し、フッ素樹脂コーティングされた20cm×10cm角、厚さ500μmの金型に、固形分濃度20%にした量子ドット含有組成物を流し込み、ホットプレート上で120℃、1時間加熱することで溶剤を飛ばしながら量子ドット含有組成物を熱硬化させ、その後金型から取り出すことで、厚さ100μmの波長変換部材を作製した。
【0083】
[比較例3]
量子ドットシェル層合成工程まで実施例1と同様な方法で作製し、配位子交換工程、表面被覆層形成工程を除き、実施例3と同様な方法で波長変換部材を製造した。
【0084】
[実施例4]
配位子交換工程までは実施例1と同様に作製した。
【0085】
(表面被覆層形成工程)
窒素でパージしておいたフラスコにメタクリル酸トリエトキシシリルプロピル(4.0mmol)とジフェニルシランジオール(6.0mmol)と水酸化バリウム・一水和物(0.15mmol)と配位子交換工程後の量子ドットトルエン溶液を加え、65℃で24時間加熱撹拌した。反応終了後室温まで冷却し、エタノールを加えて反応溶液を沈殿させ、遠心分離を行い、上澄みを除去した。トルエンに分散させ、あらかじめ窒素でパージしておいたフラスコに加え、フルオレン骨格を有するフェノール反応性化合物BIOAP-FL(旭有機材工業)と量子ドットトルエン溶液100質量部に対して2質量部添加した。さらに、Irgacure1173をBIOAP-FL100質量部に対して1質量部添加し、撹拌混合を行った後にUVLED照射装置により波長365nm出力4000mW/cmの光を20秒照射した。反応終了後、エタノールを加えて沈殿させ、遠心分離の後に上澄みを除去して再度トルエンに分散させた。
【0086】
(樹脂組成物混合工程)
フェノール架橋性のシリコーン樹脂(信越化学製 CAS No.916059-41-1)とトルエンに分散させた表面被覆層形成工程後の溶液と不揮発性分比で量子ドットが20質量%含まれるように秤量し混合した。シリコーン樹脂不揮発性分100質量部に対して熱酸発生剤TA-100(サンアプロ製)を2質量部、架橋剤THI-DEを20質量部秤量して混合した。混合後、減圧蒸留によりトルエン溶媒を除去し、量子ドット含有組成物を得た。
【0087】
(波長変換部材の製造方法)
得られた量子ドット含有組成物を用いて波長変換部材を作製した。量子ドット含有組成物を真空脱気し、フッ素樹脂コーティングされた20cm×10cm角、厚さ500μmの金型に、固形分濃度20%にした量子ドット含有組成物を流し込み、ホットプレート上で120℃、1時間加熱することで溶剤を飛ばしながら量子ドット含有組成物を熱硬化させ、その後金型から取り出すことで、厚さ100μmの波長変換部材を作製した。
【0088】
[比較例4]
量子ドットシェル層合成工程まで実施例1と同様な方法で作製し、配位子交換工程、表面被覆層形成工程を除き、実施例4と同様な方法で波長変換部材を製造した。
【0089】
実施例1~4と比較例1~4を比較した結果を表1に示す。
【表1】
【0090】
樹脂組成物硬化後の蛍光発光効率及び信頼性評価後の蛍光発光効率の値を示す。表1の結果より、実施例と比較して比較例は量子収率が低下し、かつ発光波長も長波長シフトが大きいことがわかる。顕微鏡を用いて観察してみると、比較例1~4は1~50μm程度の凝集体が多く観察されており、その結果、量子収率が下がってしまっている。一方で実施例は凝集体が小さく、数が少ないため量子収率の低下が抑えられていると考えられる。実施例はシリコーンや樹脂の被覆により大きな立体障害が導入でき、凝集が効果的に抑えられていることがわかる。信頼性試験(85℃、85%RH、250時間処理)結果を比較すると実施例はいずれも比較例よりも安定性が改善しており、量子収率の低下が抑制されていることがわかる。
【0091】
以上のように、本発明における、量子ドット含有組成物は、高い安定性を示し、これを用いた波長変換部材は、高温高湿条件において蛍光発光効率の劣化が抑制され、信頼性が高いものであることが確認された。
【0092】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:励起光により蛍光を発する量子ドットを樹脂組成物に分散させた量子ドット含有組成物であって、前記量子ドットはその表面に配位する配位子と、前記配位子と結合しシロキサン結合を含有する表面被覆層とを有し、前記表面被覆層は前記樹脂組成物に含まれる高分子が有する置換基、前記樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基、または前記高分子と同一な骨格構造を持つ化合物を少なくとも一種以上含有するものであることを特徴とする量子ドット含有組成物。
[2]:前記量子ドットはII-VI族、III-V族、IV族、IV-VI族、I-III-VI族、II-IV-V族およびこれらの混晶や合金、またはペロブスカイト構造をもつ化合物からなる群より選択される量子ドットコアを含有するものであることを特徴とする上記[1]の量子ドット含有組成物。
[3]:前記量子ドットは、前記量子ドットコアよりもバンドギャップの大きいシェルにより前記量子ドットコアを被覆したコアシェル型量子ドットを含有するものであることを特徴とする上記[2]の量子ドット含有組成物。
[4]:前記配位子は、アミノ基、チオール基、カルボキシ基、ホスフィノ基、ホスフィンオキシド基、及びアンモニウムイオンのいずれか1種以上を有するものであることを特徴とする上記[1]、上記[2]又は上記[3]の量子ドット含有組成物。
[5]:前記樹脂組成物に含まれる高分子が有する置換基は、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、水酸基、フェノール性水酸基、及びエポキシ基のいずれか1種以上のものであることを特徴とする上記[1]、上記[2]、上記[3]又は上記[4]の量子ドット含有組成物。
[6]:前記樹脂組成物に含まれる高分子と重合可能な置換基は、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、水酸基、フェノール性水酸基、及びエポキシ基のいずれか1種以上のものであることを特徴とする上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]又は上記[5]の量子ドット含有組成物。
[7]:前記高分子と同一な骨格構造は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから誘導される骨格構造または、シルフェニレン骨格、ノルボルネン骨格、フルオレン骨格、イソシアヌレート骨格であることを特徴とする上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]又は上記[6]の量子ドット含有組成物。
[8]:上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]、上記[6]又は上記[7]の量子ドット含有組成物の硬化物であることを特徴とする波長変換部材。
[9]:励起光により蛍光を発する量子ドットを含有する上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]、上記[6]又は上記[7]の量子ドット含有組成物の製造方法であって、
前記量子ドットが分散した溶液と、シロキサン結合を形成する置換基を有する配位子とを混合し、前記量子ドットの最表面に前記配位子を配位する配位子交換工程と、
前記配位子交換工程の後、前記シロキサン結合を形成する置換基と、前記シロキサン結合を形成する置換基と反応してポリシロキサンを生成する化合物とを反応させ表面被覆層を形成する表面被覆層形成工程と、
前記表面被覆層形成工程の後、前記表面被覆層により被覆された前記量子ドットを前記樹脂組成物と混合する樹脂組成物混合工程とを含むことを特徴とする量子ドット含有組成物の製造方法。
【0093】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。