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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-09
(45)【発行日】2025-06-17
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/35 20060101AFI20250610BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20250610BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20250610BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20250610BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20250610BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20250610BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20250610BHJP
【FI】
A61K8/35
A61K8/19
A61K8/49
A61K8/60
A61Q11/00
A61K8/46
A61K8/34
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020213485
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099621
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩明
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-517442(JP,A)
【文献】特開平07-138155(JP,A)
【文献】特開2020-097536(JP,A)
【文献】特開2017-193538(JP,A)
【文献】特開2021-031399(JP,A)
【文献】特開2021-031400(JP,A)
【文献】特開平07-126139(JP,A)
【文献】特開2015-218162(JP,A)
【文献】特開2014-198700(JP,A)
【文献】特開2006-280605(JP,A)
【文献】Toothpaste(ID#1454742),Mintel GNPD,2010年12月,[検索日 2024.12.9],インターネット:<URL:https://www.gnpd.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキチオール、及び水溶性銅化合物を含有し、
更にジメチルスルホキシド及び/又は炭素数1~5の1価アルコールを含有する、口腔用組成物。
【請求項2】
前記水溶性銅化合物が、銅クロロフィリンナトリウム又はグルコン酸銅である、請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
ヒノキチオールを含む口腔用組成物においてヒノキチオールの溶解性を向上させる方法であって、
口腔用組成物に、ヒノキチオール及び水溶性銅化合物、更にジメチルスルホキシド及び/又は炭素数1~5の1価アルコールを配合する、溶解性向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒノキチオールを含み、ヒノキチオールの溶解性が向上している口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の多様化等により、う蝕、歯周病等の口腔内疾患が蔓延している。う蝕及び歯周病は、硬組織又は歯周ポケット内に形成されたデンタルプラーク内の口腔内細菌が発症に大きく関与している細菌感染症である。う蝕の原因菌としては、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)等の連鎖球菌が知られており、また、歯周病の原因菌としてはポルフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis)等が知られている。そのため、口腔内を健常な状態に維持するためには、口腔内におけるこれらの病原菌数を低レベルに抑えることが重要である。
【0003】
従来、う蝕や歯周病の病原菌数を低下させるために、歯磨剤や洗口剤等の口腔用組成物に殺菌剤が配合されている。口腔用組成物に配合される殺菌剤は種々知られているが、ヒノキチオールは、低毒性で幅広い抗菌スペクトルを示すため、口腔用組成物に広く使用されている。従来、ヒノキチオールを含む口腔用組成物の処方について、種々提案されている。例えば、特許文献1には、口腔用組成物にヒノキチオールと共にレモングラスシトラールを配合することによって、殺菌作用を相乗的に向上させ得ることが開示されている。
【0004】
一方、ヒノキチオールは、水に対する溶解度が低く、口腔用組成物に配合すると、可溶化し難かったり、析出物が生成し易くなったりするという欠点がある。そこで、ヒノキチオールを含む口腔用組成物において、ヒノキチオールの溶解性を高める製剤技術の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-63166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ヒノキチオールを含む口腔用組成物において、ヒノキチオールの溶解性を高め、ヒノキチオールによる析出物や不溶物の生成を抑制できる製剤技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、口腔用組成物において、ヒノキチオールと共に水溶性銅化合物を配合することにより、ヒノキチオールの溶解性が向上し、ヒノキチオールによる析出物や不溶物の生成を抑制できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ヒノキチオール、及び水溶性銅化合物を含有する、口腔用組成物。
項2. 前記水溶性銅化合物が、銅クロロフィリンナトリウム又はグルコン酸銅である、項1に記載の口腔用組成物。
項3. ヒノキチオールを含む口腔用組成物においてヒノキチオールの溶解性を向上させる方法であって、
口腔用組成物に、ヒノキチオール及び水溶性銅化合物を配合する、溶解性向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヒノキチオールを含む口腔用組成物において、ヒノキチオールの溶解性を高め、ヒノキチオールによる析出物や不溶物の生成を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.口腔用組成物
本発明の口腔用組成物は、ヒノキチオール、及び水溶性銅化合物を含有することを特徴とする。以下、本発明の口腔用組成物について詳述する。
【0011】
[ヒノキチオール]
本発明の口腔用組成物はヒノキチオールを含有する。ヒノキチオールとは、殺菌作用等を有している公知の化合物である。
【0012】
本発明において、ヒノキチオールは、天然物由来のものを使用してもよく、化学合成されたものを使用してもよい。また、本発明で使用されるヒノキチオールは、精製品又は粗精製品の別を問わず、例えば、樹木から得られたヒノキチオール含有精油を使用することもできる。
【0013】
本発明の口腔用組成物におけるヒノキチオールの含有量は、口腔用組成物の種類、付与すべき殺菌作用の程度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.0005~1重量%、好ましくは0.005~0.8重量%、より好ましくは0.01~0.5重量%が挙げられる。
【0014】
[水溶性銅化合物]
本発明の口腔用組成物は、ヒノキチオールに加えて、水溶性銅化合物を含有する。本発明の口腔用組成物において、水溶性銅化合物は、ヒノキチオールの溶解性を高め、ヒノキチオールによる析出物や不溶物の生成を抑制する役割を果たす。
【0015】
水溶性銅化合物とは、水溶性の銅錯体及び銅塩である。水溶性の銅錯体の種類については、口腔内に適用可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、銅クロロフィリンのアルカリ金属塩(銅クロロフィリンナトリウム等)等が挙げられる。また、水溶性の銅塩の種類については、口腔内に適用可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、グルコン酸銅、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酢酸銅、乳酸銅、酪酸銅、蟻酸銅、リン酸銅、リンゴ酸銅、コハク酸銅、マロン酸銅、マレイン酸銅等が挙げられる。
【0016】
これらの水溶性銅化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの水溶性銅化合物の中でも、ヒノキチオールの溶解性をより一層向上させるという観点から、好ましくは銅クロロフィリンのアルカリ金属塩、グルコン酸銅、より好ましくは銅クロロフィリンのアルカリ金属塩、更に好ましくは銅クロロフィリンナトリウムが挙げられる。
【0017】
本発明の口腔用組成物における水溶性銅化合物の含有量は、口腔用組成物の種類、ヒノキチオールの含有量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、水溶性銅化合物の総量で0.00005~5重量%、好ましくは0.0001~1重量%、より好ましくは0.005~0.5重量%、更に好ましくは0.01~0.2重量%が挙げられる。
【0018】
本発明の口腔用組成物において、ヒノキチオールと水溶性銅化合物の比率については、これらの両成分の各含有量に応じて定まるが、例えば、ヒノキチオール1重量部当たり、水溶性銅化合物が総量で0.001~100重量部、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.05~5重量部が挙げられる。
【0019】
[ジメチルスルホキシド]
本発明の口腔用組成物は、前述する成分に加えて、ジメチルスルホキシドを含んでいてもよい。
【0020】
本発明の口腔用組成物にジメチルスルホキシドを含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、0.01~15重量%、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは1~8重量%が挙げられる。
【0021】
[1価低級アルコール]
本発明の口腔用組成物は、必要に応じて、1価低級アルコールを含んでいてもよい。本発明において、1価低級アルコールとは炭素数1~5の1価アルコールを指す。
【0022】
1価低級アルコールの種類については、口腔内に適用可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、sec-アミルアルコール、イソアミルアルコール、tert-アミルアルコール、ネオペンチルアルコール等が挙げられる。これらの1価低級アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
これらの1価低級アルコールの中でも、好ましくはエタノールが挙げられる。
【0024】
本発明の口腔用組成物に1価低級アルコールを含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、0.001~5重量%、好ましくは0.01~2重量%、より好ましくは0.05~1重量%が挙げられる。
【0025】
[水]
本発明の口腔用組成物は、溶媒として水を含む。本発明の口腔用組成物における水の含有量については、添加する成分を除いた残部であればよいが、例えば、30~99重量%、好ましくは40~99重量%、50~98重量%が挙げられる。
【0026】
[その他の成分]
本発明の口腔用組成物は、前述する成分以外に、必要に応じて他の薬効成分が含まれていてもよい。このような薬効成分としては、医薬品、口腔ケア製品等に配合可能なものであることを限度として特に制限されないが、例えば、ヨウ素系殺菌成分、気管支拡張薬、鎮咳薬、去痰薬、抗炎症剤、グルコシルトランスフェラーゼ阻害剤、プラーク抑制剤、知覚過敏抑制剤、歯石予防剤、解熱鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、殺菌剤、胃粘膜保護薬、カフェイン類、ビタミン薬、漢方薬、生薬成分等が挙げられる。
【0027】
また、本発明の口腔用組成物には、所望の製剤形態にするために、基剤や添加剤が含まれていてもよい。このような基剤や添加剤としては、医薬品、口腔ケア製品等に配合可能でものであることを限度として特に制限されないが、例えば、油性成分、多価アルコール、界面活性剤、清涼化剤、防腐剤、増粘剤、香料、矯味剤、色素、消臭成分(水溶性銅化合物以外)、顔料、緩衝剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0028】
[形状・製剤形態]
本発明の口腔用組成物の形状については、特に制限されず、液状又は半固形状(ゲル状、軟膏状、ペースト状)のいずれであってもよい。
【0029】
本発明の口腔用組成物の製剤形態は、口腔内に適用されて口腔内で一定時間滞留し得るものである限り制限されないが、例えば、液状歯磨剤、練歯磨剤、洗口液、口腔用スプレー(喉用のスプレー剤を含む)、含嗽剤、口中清涼剤、口腔用パスタ剤、歯肉マッサージクリーム等の口腔ケア製品が挙げられる。これらの中でも、好ましくは液状歯磨剤、練歯磨剤、洗口液、含嗽剤、より好ましくは液状歯磨剤、練歯磨剤が挙げられる。
【0030】
2.ヒノキチオールの溶解性向上方法
本発明の溶解性向上方法は、ヒノキチオールを含む口腔用組成物においてヒノキチオールの溶解性を向上させる方法であって、口腔用組成物に、ヒノキチオール及び水溶性銅化合物を配合することを特徴とする。
【0031】
本発明の溶解性向上方法において、使用する成分の種類や使用量、口腔用組成物の形状や製剤形態等については、前記「1.口腔用組成物」の欄に示す通りである。
【実施例
【0032】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
試験例1
表1に示す口腔用組成物(液状)を調製した。具体的には、ジメチルスルホキシド又はエタノールに溶解させたヒノキチオール、及び水溶性銅化合物(銅クロロフィリンナトリウム又はグルコン酸銅)を精製水に所定量添加して十分に混合することにより、口腔用組成物を調製した。
【0034】
得られた各口腔用組成物の外観を観察し、生じている析出物又は不溶物の程度を下記判定基準に従って判定し、ヒノキチオールの溶解性を評価した。
<判定基準>
◎:析出物又は不溶物が全く生じておらず、ヒノキチオールが完全に溶解された状態になっている。
○:僅かにだけ析出物又は不溶物が認められるが、ヒノキチオールの溶解性は改善されており、実用上問題のない状態である。
×:析出物又は不溶物が著しく認められ、ヒノキチオールの溶解性が改善されておらず、実用化できない状態である。
【0035】
結果を表1に示す。ヒノキチオールを含む口腔用組成物において、銅クロロフィリンナトリウム又はグルコン酸銅を含まない場合、顕著な析出物又は不溶物が認められた(比較例1及び2)。これに対して、ヒノキチオールと共に、銅クロロフィリンナトリウム又はグルコン酸銅を含む口腔用組成物では、ヒノキチオールの溶解性が向上し、析出物又は不溶物の生成が十分に抑制されていた(実施例1~5)。特に、ヒノキチオール及び銅クロロフィリンナトリウムを含む口腔用組成物では、析出物又は不溶物が全く認められず、ヒノキチオールの溶解性が顕著に向上していた(実施例1~3)。
【0036】
また、実施例4及び5において、グルコン酸銅を硫酸銅、塩化銅又は硝酸銅に変更した口腔用組成物を調製し、前記と同様に、ヒノキチオールの溶解性を評価したところ、析出物又は不溶物の生成が十分に抑制されており、実施例4及び5と同様の結果であった。
【0037】
【表1】
【0038】
処方例
表2に示す組成の練歯磨剤、及び表3に示す組成の液状歯磨剤を調製した。これらの練歯磨剤及び液状歯磨剤は、いずれも、ヒノキチオールの溶解性が向上し、析出物又は不溶物の生成が十分に抑制できていた。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】