(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20250611BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250611BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250611BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20250611BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20250611BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/013
C08K3/22
C08K3/28
C08K5/5419
(21)【出願番号】P 2022019242
(22)【出願日】2022-02-10
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒雄
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/153683(WO,A1)
【文献】特開2018-56567(JP,A)
【文献】特開2010-120980(JP,A)
【文献】特開2012-7057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C08K 3/00- 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表され、23℃において液体であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に
、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基
または炭素数7~10のアラルキル
基であり、Xは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、a、b、c、dは、0≦a≦0.8、0≦b≦0.8、0.2≦c≦1、0≦d≦0.8、かつa+b+c+d=1を満たす数であり、eは、0≦e≦0.1を満たす数である。)、および
(B)熱伝導性充填剤:2,000~7,000質量部
を含み、25℃における粘度が、1,000Pa・s以下である熱伝導性組成物。
【請求項2】
(A)成分が、下記式(2)で表されるオルガノポリシロキサンである請求項1記載の熱伝導性組成物。
【化2】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~10のアラルキル基であり、R
2は、それぞれ独立に、炭素数2~8のアルケニル基であり、a1、a2、a3、b1、b2、b3、c1、c2、c3は、0~1の数であり、但し、0≦(a1+a2+a3)≦0.8、0≦(b1+b2+b3)≦0.8、0.2≦(c1+c2+c3)≦1、0
=(a2+b2+c2)、
0=(a3+b3+c3)、かつa1+a2+a3+b1+b2+b3+c1+c2+c3+d=1を満たす数である。d、eおよびXは、上記と同義である。)
【請求項3】
(B)熱伝導性充填剤が、金属酸化物および金属窒化物からなる群より選ばれる1種以上である請求項1または2記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
さらに、(C)下記(C-1)および(C-2)成分からなる群より選ばれる少なくとも1種:(A)成分100質量部に対して0.01~300質量部
を含む請求項1~3のいずれか1項記載の熱伝導性組成物。
(C-1)下記一般式(3)で表されるアルコキシシラン化合物
【化3】
(式中、R
3は、炭素数6~18のアルキル基であり、R
4は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基であり、R
5は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基であり、mは、0~2の整数である。)
(C-2)下記一般式(4)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化4】
(式中、R
5は、上記と同義であり、nは、5~100の整数である。)
【請求項5】
溶剤の含有量が、組成物全体に対して1質量%以下である請求項1~
4のいずれか1項記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
熱伝導率が、3.0W/mK以上である請求項1~
5のいずれか1項記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
請求項
1~
6のいずれか1項記載の熱伝導性組成物を硬化させてなる熱伝導性硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性組成物およびその硬化物に関し、さらに詳述すると、発熱性電子部品の冷却のために、当該電子部品とヒートシンク、金属筐体等の放熱部品との間の熱境界面に介装する熱伝達材料として用いられる熱伝導性組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター、デジタルビデオディスク、携帯電話等の電子機器に使用されるCPU、ドライバIC、メモリー等のLSIチップは、高性能化・高速化・小型化・高集積化に伴い、それ自身が大量の熱を発生するようになり、その熱によるチップの温度上昇は、チップの動作不良、破壊を引き起こす。そのため、動作中のチップの温度上昇を抑制するための多くの熱放散方法およびそれに使用する熱放散部材が提案されている。
【0003】
さらに、近年、地球環境への配慮から、自動車の駆動にエンジンとモーターを併用するハイブリッドカーや、ガソリンを使用しない電気自動車の開発が活発に進められており、
これとともにモーターの高出力化が促進されている。
モーターの小形化、高出力化が急速に進み、これに伴い、コイル部品を封止する樹脂には、コイル部で発生した熱を速やかに放熱させる特性に加え、運転のON/OFFに伴うヒートサイクルに対応する強靭性が求められている。
【0004】
コイルの含浸、封止用途の樹脂としては、エポキシ樹脂が、その良好な耐熱・耐薬品性に加え、機械的にも優れた特性を有することから好適に用いられている。さらには、エポキシ樹脂は、硬化剤および各種添加剤との組合せにより、目的に応じた配合設計が実現できることから、電気部品の封止・モールドに広く用いられている(特許文献1、2)。
しかし、上述のようなモーターの高出力化に伴う発熱量の増加に対し、エポキシ樹脂では、耐熱性が十分とは言い難く、より信頼性の高い樹脂設計が所望されている。
【0005】
一方、電子機器等においては、従来、動作中のチップの温度上昇を抑えるために、アルミニウム、銅等の熱伝導率の高い金属板を用いたヒートシンクが使用されている。このヒートシンクは、そのチップが発生する熱を伝導し、その熱を外気との温度差によって表面から放出する。
チップから発生する熱をヒートシンクに効率よく伝えるために、ヒートシンクをチップに密着させる必要があるが、各チップの高さの違いや組み付け加工による公差があるため、柔軟性を有するシートやグリースをチップとヒートシンクとの間に介装し、このシートまたはグリースを介してチップからヒートシンクへの熱伝導を実現している。
【0006】
このようなシートまたはグリースに用いられる組成物として、熱伝導性フィラーが充填されたシリコーン組成物が一般的に知られている(特許文献3~12)。これらの熱伝導性シリコーン組成物は、直鎖状シリコーン骨格を有するポリマーを主成分とし、その硬化物は、柔軟性を特徴としたゴム特性の強いものであり、エポキシ樹脂硬化物のような硬度を有しないものである。
【0007】
耐熱性と硬度に優れた架橋バインダーの候補として、3次元架橋構造を持ったシリコーンレジンが挙げられる。このようなシリコーンレジンを用いた熱伝導性シリコーン組成物としては、シルセスキオキサン化合物またはシルセスキオキサン誘導体と窒化ホウ素等の熱伝導性充填剤とを含む粉末を圧縮成形した絶縁材組成物が知られている(特許文献13、14)。これらの絶縁材組成物は、有機溶媒に分散させたもの、または無溶媒において流動性を持たないものである。
そのため、流動性を有し、十分な強度を有する硬化物を与える熱伝導性の組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-117017号公報
【文献】特開2009-13213号公報
【文献】特開平2-196453号公報
【文献】特開平7-266356号公報
【文献】特開平8-238707号公報
【文献】特開平9-296114号公報
【文献】特開2000-327917号公報
【文献】特開2001-291807号公報
【文献】特開2002-234952号公報
【文献】特開2005-72220号公報
【文献】特開2013-147600号公報
【文献】特表2021-518466号公報
【文献】特開2019-133851号公報
【文献】国際公開第2021/153683号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、溶媒を含まない場合においても流動性を有し、熱伝導性に優れ、かつ硬化後は十分な強度が発現する熱伝導性組成物およびその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、3次元架橋構造を有する液状ポリシロキサンおよび特定量の熱伝導性充填剤を含有し、特定の粘度を有する熱伝導性組成物が、優れた熱伝導特性を有し、また、高強度を有する硬化物を与えうることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記式(1)で表され、23℃において液体であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~10のアラルキル基または炭素数2~8のアルケニル基であり、Xは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、a、b、c、dは、0≦a≦0.8、0≦b≦0.8、0.2≦c≦1、0≦d≦0.8、かつa+b+c+d=1を満たす数であり、eは、0≦e≦0.1を満たす数である。)、および
(B)熱伝導性充填剤:2,000~7,000質量部
を含み、25℃における粘度が、1,000Pa・s以下である熱伝導性組成物、
2. (A)成分が、下記式(2)で表されるオルガノポリシロキサンである1記載の熱伝導性組成物、
【化2】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~10のアラルキル基であり、R
2は、それぞれ独立に、炭素数2~8のアルケニル基であり、a1、a2、a3、b1、b2、b3、c1、c2、c3は、0~1の数であり、但し、0≦(a1+a2+a3)≦0.8、0≦(b1+b2+b3)≦0.8、0.2≦(c1+c2+c3)≦1、0<(a2+b2+c2)、かつa1+a2+a3+b1+b2+b3+c1+c2+c3+d=1を満たす数である。d、eおよびXは、上記と同義である。)
3. (B)熱伝導性充填剤が、金属酸化物および金属窒化物からなる群より選ばれる1種以上である1または2記載の熱伝導性組成物、
4. さらに、(C)下記(C-1)および(C-2)成分からなる群より選ばれる少なくとも1種:(A)成分100質量部に対して0.01~300質量部
を含む1~3のいずれかに記載の熱伝導性組成物、
(C-1)下記一般式(3)で表されるアルコキシシラン化合物
【化3】
(式中、R
3は、炭素数6~18のアルキル基であり、R
4は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基であり、R
5は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基であり、mは、0~2の整数である。)
(C-2)下記一般式(4)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化4】
(式中、R
5は、上記と同義であり、nは、5~100の整数である。)
5. (A)成分が、ケイ素原子に直接結合した炭素数2~8のアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有し、
さらに、(D)ケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有し、3次元架橋構造を有しない化合物:ケイ素原子に直接結合した水素原子の個数が(A)成分中のアルケニル基の個数に対して0.1~5.0倍となる量、および
(E)白金族金属系触媒:(A)成分の質量に対して白金族金属の質量換算で0.1~2,000ppm
を含む1~4のいずれかに記載の熱伝導性組成物、
6. 溶剤の含有量が、組成物全体に対して1質量%以下である1~5のいずれかに記載の熱伝導性組成物、
7. 熱伝導率が、3.0W/mK以上である1~6のいずれかに記載の熱伝導性組成物、
8. 5~7のいずれかに記載の熱伝導性組成物を硬化させてなる熱伝導性硬化物
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流動性および高い熱伝導率を有し、十分な強度を有する硬化物を与える熱伝導性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の熱伝導性組成物は、下記(A)および(B)成分を含有する。
(A)下記式(1)で表され、23℃において液体であるオルガノポリシロキサン
【化5】
(B)熱伝導性充填剤
【0014】
[(A)成分]
(A)成分は、下記式(1)で表され、23℃(大気圧下)において液体であるオルガノポリシロキサンである。
【0015】
【0016】
式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~10のアラルキル基または炭素数2~8のアルケニル基である。
Rのアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6である。その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等が挙げられる。
アリール基は、好ましくは炭素数6~8であり、その具体例としては、フェニル、トリル、ナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基は、好ましくは炭素数7~9であり、その具体例としてはベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、メチルベンジル基等が挙げられる。
アルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、好ましくは炭素数2~6、より好ましくは炭素数2~4であり、その具体例としては、ビニル、アリル、メタリル、ブテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、オクテニル基等が挙げられる。
また、これらの置換基のC-H結合において水素原子の一部または全部が塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換されたものであってもよく、一例として、プロピル基の1位がフッ素原子により置換された1,1,1-トリフルオロプロピル基(トリフルオロメチルエチル基)等が挙げられる。
これらの中でも、Rとしては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、フェニル、ベンジル、ビニル基が好ましく、メチル、エチル、フェニル、ビニル基がより好ましい。
Xは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、アルキル基の具体例としては、Rで例示したもののうち炭素数1~3の基と同様のものが挙げられるが、その中でも水素原子、メチル基、エチル基が好ましい。
【0017】
a、b、c、dは、それぞれ1~4官能性シロキサン単位(1官能性基をM単位、2官能性基をD単位、3官能性基をT単位、4官能性基をQ単位と以下それぞれ称する。)の存在比率を表し、0≦a≦0.8、0≦b≦0.8、0.2≦c≦1、0≦d≦0.8、かつa+b+c+d=1を満たす数である。
eは、ケイ素原子に直接結合するOX基の存在比率であり、0≦e≦0.1を満たす数である。
【0018】
aは、0≦a≦0.6を満たす数が好ましく、0.1≦a≦0.6がより好ましい。aが、0.8を超える場合、硬化物とした際の硬度に劣る。
bは、0<b≦0.6を満たす数が好ましく、0.2≦b≦0.6がより好ましい。bが、0.8を超える場合、D単位の比率が高くなることによりエラストマーとしての性質が強くなり、硬化物とした際の硬度に劣る。
cは、0.4≦c<1を満たす数が好ましく、0.4≦c≦0.7がより好ましく、0.4≦c≦0.6がさらに好ましい。cが、0.2未満の場合、組成物の流動性と得られる硬化物の硬度を両立することが困難となる。
dは、0≦d≦0.6を満たす数が好ましく、0≦d≦0.1がより好ましい。dが、0.8を超える場合、Q単位の比率が高くなることにより、(A)成分の流動性が著しく損なわれる。
また、eは、0≦e≦0.05を満たす数が好ましい。eが0.1を超える場合、(A)成分のオルガノポリシロキサンの安定性に劣るものとなり、粘度の増加やゲル化を起こしやすくなる。
【0019】
(A)成分としては、下記式(2)で表されるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを用いることができる。このようなオルガノポリシロキサンであれば、後述する(E)成分の存在下で、(D)成分とヒドロシリル化反応により架橋を形成し、硬化物を得ることができる。
【0020】
【0021】
式中、R1は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または炭素数7~10のアラルキル基であり、R2は、それぞれ独立に、炭素数2~8のアルケニル基であり、a1、a2、a3、b1、b2、b3、c1、c2、c3は、0~1の数であり、但し、0≦(a1+a2+a3)≦0.8、0≦(b1+b2+b3)≦0.8、0.2≦(c1+c2+c3)≦1、0<(a2+b2+c2)、かつa1+a2+a3+b1+b2+b3+c1+c2+c3+d=1を満たす数である。d、eおよびXは、上記と同義である。
【0022】
R1の炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基および炭素数7~10のアラルキル基、ならびに、R2の炭素数2~8のアルケニル基の具体例としては、それぞれ、上記Rにおいて挙げられたものと同様の基が挙げられ、中でも、R1としては、メチル基、フェニル基が好ましく、R2としては、ビニル基が好ましい。
【0023】
a1、a2、a3、b1、b2、b3、c1、c2、c3は、0~0.8の数が好ましく、0~0.6の数がより好ましい。
a1、a2、a3は、0≦(a1+a2+a3)≦0.8を満たす数であり、0≦(a1+a2+a3)≦0.6が好ましく、0.1≦(a1+a2+a3)≦0.6がより好ましい。a1+a2+a3が、0.8を超える場合、硬化物とした際の硬度に劣る。
b1、b2、b3は、0≦(b1+b2+b3)≦0.8を満たす数であり、0<(b1+b2+b3)≦0.6が好ましく、0.2≦(b1+b2+b3)≦0.6がより好ましい。b1+b2+b3が、0.8を超える場合、D単位の比率が高くなることにより、エラストマーとしての性質が強くなり、硬化物の硬度に劣る。
c1、c2、c3は、0.2≦(c1+c2+c3)≦1を満たす数であり、0.4≦(c1+c2+c3)<1が好ましく、0.4≦(c1+c2+c3)≦0.7がより好ましく、0.4≦(c1+c2+c3)≦0.6がさらに好ましい。c1+c2+c3が、0.2未満の場合、組成物の流動性と得られる硬化物の硬度を両立することが困難となる。
【0024】
ケイ素原子に直接結合したアルケニル基を有する構成単位の合計比率を表す(a2+b2+c2)は、0<(a2+b2+c2)を満たす数であり、0.1≦(a2+b2+c2)≦0.3が好ましい。
また、ケイ素原子に直接結合した水素原子を有する構成単位の合計比率を表す(a3+b3+c3)は、0≦(a3+b3+c3)≦0.2を満たす数が好ましく、a3=b3=c3=0がより好ましい。
【0025】
(A)成分は、一般的なオルガノポリシロキサンの製造方法に従って製造することができ、例えば、加水分解性基を有するシラン化合物を加水分解縮合させて得ることができる。
加水分解性基を有するシラン化合物は、加水分解性基であるクロルまたはアルコキシ基をケイ素原子上に1~4個含有し、上記条件を満たす有機置換基を有するシラン化合物であれば特に限定されるものではない。
その具体例としては、テトラクロロシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルイソプロポキシシラン、エチルトリクロロシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、プロピルメチルジクロロシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシラン、ヘキシルメチルジクロロシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジクロロシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジメチルフェニルクロロシラン、ジメチルフェニルメトキシシラン、ジメチルフェニルエトキシシラン、およびこれらの部分加水分解物等が挙げられるが、操作性、副生物の留去のしやすさ、および原料の入手の容易さから、メトキシシラン、エトキシシランが好適である。
なお、上記シラン化合物は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
加水分解を実施するに際し、加水分解触媒を使用してもよい。加水分解触媒としては、従来公知の触媒を使用することができ、その水溶液がpH1~7の酸性を示すものが好ましく、特に酸性のハロゲン化水素、スルホン酸、カルボン酸、酸性または弱酸性の無機塩、イオン交換樹脂等の固体酸等が好ましい。
酸性触媒の具体例としては、フッ化水素、塩酸、硝酸、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸、安息香酸、乳酸、燐酸、表面にスルホン酸またはカルボン酸基を有するカチオン交換樹脂等が挙げられる。
加水分解触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、反応を速やかに進行させるとともに、反応後の触媒の除去の容易性を考慮すると、加水分解性シラン1モルに対して0.0002~0.5モルの範囲が好ましい。
【0027】
加水分解性シランと、加水分解縮合反応に要する水との質量比は、特に限定されるものではないが、触媒の失活を防いで反応を十分に進行させるとともに、反応後の水の除去の容易性を考慮すると、加水分解性シラン1モルに対し、水0.1~10モルの割合が好ましい。
加水分解縮合時の反応温度は、特に限定されるものではないが、反応率を向上させるとともに、加水分解性シランが有する有機官能基の分解を防止することを考慮すると、-10~150℃が好ましい。
【0028】
なお、加水分解縮合の際には、有機溶剤を使用してもよい。使用できる有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0029】
また、(A)成分は、溶剤等を除く不揮発分が85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。揮発分が多くなると、組成物を硬化した際のボイド発生による外観の悪化や、機械的性質の低下の原因となるおそれがある。
【0030】
(A)成分の23℃における粘度は、100~50,000mPa・sが好ましく、500~10,000mPa・sがより好ましく、1,000~5,000mPa・sが特に好ましい。このような範囲であれば、熱伝導性組成物の流動性と硬化物の強度がより良好なものとなる。なお、上記粘度は、B型回転粘度計(回転数30~60rpm)による23℃における測定値である。
【0031】
(A)成分の具体例としては、下記式で表されるものが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、ケイ素原子に直接結合するアルケニル基を有するものが好ましく、ケイ素原子に直接結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するものがより好ましい。
【化8】
(式中、a1、b1、b2、b3,c1、dおよびeは、上記と同じである。c10およびc11は、c10≧0、c11≧0、かつc10+c11=c1を満たす数である。Meは、メチル基、Phは、フェニル基、Viは、ビニル基を表す。)
【0032】
なお、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、単一の組成でも、組成の異なる複数の化合物の混合物であってもよい。特に、平均組成の異なる複数の化合物を混合することで好適に製造できる。
【0033】
[(B)成分]
(B)成分は、熱伝導性充填剤である。(B)成分の熱伝導性充填剤としては、例えば、銅、銀、ニッケル、亜鉛、ステンレススチール等の金属;アルミナ、シリカ、マグネシア、ベンガラ、ベリリア、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の金属窒化物;人工ダイヤモンド;炭化ケイ素;カーボンなどの無機粉末が挙げられ、公知の熱伝導性充填剤が使用できるが、好ましくは、金属酸化物および金属窒化物からなる群より選ばれる1種以上である。
また、熱伝導性充填剤の形状は、球状、不定形状、針状、板状等、特に限定されるものではない。
【0034】
熱伝導性充填剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、表面処理が施されていてもよい。表面処理の具体例としては、シラン系、チタネート系等のカップリング剤処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0035】
熱伝導性充填剤の平均粒径は、好ましくは0.1~100μm、より好ましくは0.5~90μm、さらに好ましくは1~80μmである。なお、本発明において、平均粒径は、体積平均粒径であり、マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EX(日機装(株))による測定値である。
【0036】
熱伝導性充填剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して、2,000~7,000質量部であり、好ましくは2,300~5,000質量部である。熱伝導性充填剤の配合量が多すぎると硬化性組成物として用いた際の硬化物が脆くなってしまう。一方、配合量が少なすぎると、所望の熱伝導性を得ることができない。
【0037】
(B)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0038】
[(C)成分]
本発明の熱伝導性組成物は、さらに、(C)成分として、下記(C-1)および(C-2)成分からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。これらは熱伝導性充填剤の表面と相互作用し、シロキサンへの分散性を向上させる作用がある。
(C-1)下記一般式(3)で表されるアルコキシシラン化合物
(C-2)下記一般式(4)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【0039】
【0040】
式中、R3は、炭素数6~18のアルキル基であり、R4は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基であり、R5は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基であり、mは、0~2の整数であり、nは、5~100の整数である。
【0041】
R3の炭素数6~18のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、炭素数8~12のものが好ましく、炭素数8~10のものがより好ましい。その具体例としては、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-オクチル、n-デシル、n-ドデシル、n-テトラデシル、n-ヘキサデシル、n-オクタデシル基等が挙げられる。
R4の炭素数1~12のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、炭素数1~10のものが好ましく、炭素数1~8のものがより好ましい。その具体例としては、Rで例示した基と同様のものが挙げられ、さらに、n-ウンデシル、n-ドデシル基等が挙げられ、この中でもメチル基が好ましい。
R5の炭素数1~3のアルキル基としては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、その具体例としては、Rで例示した基のうち炭素数1~3のものと同様のものが挙げられ、中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
【0042】
mは、0~2の整数であり、好ましくは0である。
nは、5~100の整数であり、好ましくは10~80、より好ましくは20~50の整数である。
【0043】
(C-1)成分の具体例としては、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルメチルジエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルメチルジメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、デシルメチルジエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルメチルジメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルメチルジエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルメチルジメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルメチルジエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルメチルジエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも好ましくは、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシランであり、より好ましくはデシルトリメトキシシランである。
【0044】
(C-2)成分の具体例としては、分子鎖片末端トリメトキシシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖片末端トリエトキシシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
(C)成分を使用する場合、その配合量は、(A)成分100質量部に対して1~300質量部が好ましく、10~200質量部がより好ましい。このような範囲であれば、より効率よく熱伝導性充填剤の分散性向上効果が得られる。
(C)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明の熱伝導性組成物は、(A)成分が、ケイ素原子に直接結合した炭素数2~8のアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有する場合、さらに、(D)ケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有し、3次元架橋構造を有しない化合物、および(E)白金族金属系触媒を含むことにより、熱硬化性の組成物とすることができる。
【0047】
[(D)成分]
(D)成分は、ケイ素原子に直接結合した水素原子(Si-H基)を1分子中に少なくとも2個有し、3次元架橋構造を有しない化合物であり、(E)成分の存在下で、(A)成分中のアルケニル基とヒドロシリル化反応により架橋を形成することにより、組成物を硬化させる成分である。なお、本成分は、T単位(3次元架橋構造)を有しない点で、(A)成分とは区別される。
【0048】
(D)成分としては、例えば、直鎖状または環状のシロキサン骨格を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンが炭化水素基により連結された化合物等を使用できる。
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等が挙げられる。オルガノハイドロジェンポリシロキサンが炭化水素基により連結された化合物としては、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサンとビニルノルボルネン等のジエン化合物との付加反応物等が挙げられる。また、これら例示化合物においてメチル基の一部または全部を他のアルキル基等で置換したものなどが挙げられる。
(D)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
(D)成分の具体例としては、下記のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【化10】
(式中、R
6およびR
7は、それぞれ独立して、単結合または炭素数1~3のアルキレン基(メチレン、エチレン、トリメチレン基等)であり、p、qおよびrは、1~50の数であり、sは、1~10の数である。Meは、メチル基を表す。)
【0050】
(D)成分を用いる場合、その配合量は、(D)成分中のケイ素原子に直接結合した水素原子の数が、(A)成分中のアルケニル基の数に対して0.1~5.0倍となる量が好ましく、0.5~2.0倍となる量がより好ましい。
【0051】
[(E)成分]
(E)成分の白金族金属系触媒は、(A)成分由来のアルケニル基と(D)成分由来のヒドロシリル基の付加反応を促進するための触媒である。
(E)成分の具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O等の塩化白金、塩化白金酸および塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3220972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3159601号明細書、同第3159662号明細書、同第3775452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィン錯体;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸または塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとの錯体などが挙げられる。
【0052】
(E)成分を用いる場合、その配合量は、(A)成分の質量に対して白金族金属元素の質量換算で0.1~2,000ppmであり、好ましくは50~1,000ppmである。
【0053】
[その他の成分]
本発明の熱伝導性組成物は、上記(A)~(E)成分以外に、公知の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
例えば、本発明の組成物を熱硬化性の組成物とした場合、必要に応じて、付加反応制御剤を用いることができる。付加反応制御剤としては、通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤を全て用いることができる。例えば、エチニルメチリデンカルビノール、1-エチニル-1-ヘキサノール、3-ブチン-1-オール等のアセチレン化合物や各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。
付加反応制御剤を使用する場合、その配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01~5質量部が好ましく、0.1~2質量部がより好ましい。
【0054】
本発明の熱伝導性組成物は、実質的に有機溶剤を含まない無溶剤型の形態が好ましいが、その用途や作業性の面から溶剤を加えて用いることもできる。ここで、「実質的に」とは、組成物中に含まれる溶剤が、1質量%以下、特に0.1質量%以下であることを意味する。
使用可能な溶剤の具体例としては、(A)オルガノポリシロキサンの製造時に使用した反応溶媒と同様のものが挙げられる。なお、溶剤としては、減圧留去によって完全に除去できなかった反応溶媒など、組成物中に意図的に添加した成分ではないものも含む。
【0055】
[製造方法]
本発明の熱伝導性組成物は、上記(A)成分、(B)成分およびその他の成分を、常温で任意の順序で混合し、撹拌して得ることができる。
【0056】
本発明の熱伝導性組成物は、25℃における粘度が、1,000Pa・s以下であり、好ましくは300Pa・s以下である。粘度が高すぎると、成形性が損なわれる場合がある。粘度の下限は、特に限定されるものではないが、通常0.1Pa・s程度である。
なお、上記粘度は、レオメーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、HAAKE MARS 40)を使用し、パラレルプレートローター(直径20mm)でギャップ値を0.3mmと設定し、25℃、回転速度10サイクル毎秒の条件にて測定した値である。
【0057】
本発明の熱伝導性組成物の熱伝導率は、発熱量の大きい発熱体への適用を考慮すると、ホットディスク法による25℃における測定値が、3.0W/mK以上であることが好ましく、4.0W/mK以上がより好ましい。熱伝導率の上限は、熱伝導性充填剤に用いる材料によっても変化し、特に限定されるものではないが、通常500W/mK程度である。なお、熱伝導率は、熱伝導性充填剤の粒径、種類や添加量の組み合わせにより調整することができる。
【0058】
[硬化物]
本発明の熱伝導性組成物は、公知の硬化条件下で公知の硬化方法により硬化させることができる。具体的には、通常、80~200℃、好ましくは100~160℃の加熱温度で、0.5分~3時間程度、好ましくは1分~1時間程度の加熱時間で硬化させることができる。
【0059】
本発明の熱伝導性組成物は、バインダー成分としてポリシロキサンを主成分として含み、該成分が3次元シロキサン架橋構造を必須としたシリコーン構造であることから、熱伝達性能に優れ、かつ高い補強効果を与える。
本発明の熱伝導性組成物は、例えば、モーターのコイル部品等へ含浸、充填されて躯体の強度を保持しつつ、放熱を行うための熱伝導性材料として好適に用いることができる。
また、本発明の熱伝導性組成物は、例えば、熱伝導性グリースとして用いることができ、さらに、ヒドロシリル化により得られる熱伝導性硬化物は、放熱性成型体や、モーターコイルのような発熱部材の隙間に充填し、硬化させるような熱伝導性ポッティング剤として使用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
下記実施例および比較例において、特性評価に用いた各装置は、以下のとおりである。
(1)粘度
(A)成分の粘度は、B型回転粘度計(東機産業(株)製TVB-10、ローター:TM3またはTM4、回転数:30rpmまたは60rpm)にて、23℃環境下で測定した。
熱伝導性組成物の粘度は、レオメーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、HAAKE MARS 40)を使用し、パラレルプレートローター(直径20mm)でギャップ値を0.3mmと設定し、25℃、回転速度10サイクル毎秒の条件にて測定した。
(2)熱伝導率
組成物の25℃における熱伝導率を、ISO 22007-2に準拠し、京都電子工業(株)製ホットディスク法熱物性測定装置TPS 2500 Sを用いて測定した。
(3)デュロメータ硬度
組成物を6mm厚に硬化させたシートを、JIS K7215に準拠し、(株)TECLOCK製硬度計タイプD圧子を用いて測定した。
【0062】
下記実施例および比較例で用いた各成分を以下に示す。なお、下記式中、Meはメチル基、Phはフェニル基を表す。
【0063】
(A)成分:下記式で表される構成単位比を有するオルガノポリシロキサン
【化11】
(23℃における粘度:1,000mPa・s)
【化12】
(23℃における粘度:5,000mPa・s)
【化13】
(23℃における粘度:1,500mPa・s、ビニル価:0.41モル/100g)
【化14】
(23℃における粘度:1,600mPa・s、ビニル価:0.41モル/100g、Si-H基量:0.41モル/100g)
【化15】
(23℃における粘度:2,200mPa・s、ビニル価:0.30モル/100g)
【化16】
(23℃における粘度:1,300mPa・s、ビニル価:0.30モル/100g、Si-H基量:0.30モル/100g)
【化17】
(23℃における粘度:2,000mPa・s)
【化18】
(23℃における粘度:100,000mPa・s)
【化19】
(23℃における粘度:1,500mPa・s、ビニル価:0.38モル/100g、Si-H基量:0.38モル/100g)
【化20】
(23℃における粘度:120,000mPa・s、ビニル価:0.48モル/100g、Si-H基量:0.48モル/100g)
【0064】
(B)成分:
(B-1)平均粒径が3.6μmの不定形アルミナ
(B-2)平均粒径が17μmの球状アルミナ
(B-3)平均粒径が45μmの球状アルミナ
(B-4)平均粒径が70μmの球状アルミナ
(B-5)平均粒径が1.0μmの粒状窒化アルミニウム
(B-6)平均粒径が20μmの粒状窒化アルミニウム
【0065】
【0066】
(D)成分:下記式で表される化合物
【化22】
(Si-H基量:0.14モル/100g)
【化23】
(Si-H基量:1.11モル/100g)
【化24】
(s1=3~4の数、Si-H基量:0.71モル/100g)
【0067】
(E)成分:
5質量%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液
【0068】
(F)成分:
付加反応制御剤としてエチニルメチリデンカルビノール
【0069】
[1]熱伝導性組成物の製造
[実施例1-1~1-3、比較例1-1~1-4]
表1に示す割合(質量部)の(A)~(C)成分をプラネタリーミキサーで60分間混練し、その後、真空脱泡を30分間行い、組成物を得た。得られた組成物の粘度および熱伝導率を表1に示した。
【0070】
【0071】
表1に示されるように、実施例1-1~1-3の熱伝導性組成物は、低粘度であり、流動性に優れ、高い熱伝導率を示した。
一方、比較例1-1は、過剰量の熱伝導性充填剤を含むため、組成物の流動性に劣り、比較例1-2は、熱伝導性充填剤が不足するため、十分な熱伝導率が発現しない。
比較例1-3は、オルガノポリシロキサンのT単位の比率が低く、D単位の比率が高いものであり、実施例1-1と同じ熱伝導性充填剤配合量であるにもかかわらず、その熱伝導率は低いものとなった。また、比較例1-4は、オルガノポリシロキサンのT単位の比率が低く、Q単位の比率が高いものであり、粘度も非常に高いことから、結果として熱伝導性組成物の流動性に劣り、実用に耐えないものであった。
【0072】
[実施例1-4~1-10、比較例1-5,1-6]
表2に示す割合(質量部)の(A)~(C)成分および(F)成分をプラネタリーミキサーで60分間混練した。そこに(D)成分および(E)成分を加えて30分間混練し、その後、真空脱泡を30分間行い、組成物を得た。得られた組成物の粘度および熱伝導率を表2に示した。
【0073】
[2]硬化物シートの製造
[実施例2-1~2-7、比較例2-1,2-2]
実施例1-4~1-10および比較例1-5,1-6で得られた組成物を60mm×60mm×6mmの金型に流し込み、プレス成型機を用いて120℃、10分間の条件で加熱硬化させ、硬化物シートを得た。得られた硬化物シートのデュロメータ硬度を表3に示した。
【0074】
【0075】
【0076】
表2,3に示されるように、実施例1-4~1-10の熱伝導性組成物は、流動性および熱伝導性に優れ、これらの組成物を硬化して得られる硬化物の硬度が高いものであった。
一方、T単位の比率が低く、D単位の比率が高いオルガノポリシロキサンを用いた比較例1-5は、実施例1-4および1-5と同じ熱伝導性充填剤配合量であるにもかかわらず、その熱伝導率は低いものとなり、得られた硬化物の硬度も低い結果となった。
また、T単位の比率が低く、Q単位の比率が高いオルガノポリシロキサンを用いた比較例1-6は、オルガノポリシロキサンの粘度が非常に高いことから、結果として熱伝導性組成物の流動性が劣り、実用に耐えないものであり、実施例1-4および1-5と同じ熱伝導性充填剤配合量であるにもかかわらず、その熱伝導率は低いものとなった。