IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-10
(45)【発行日】2025-06-18
(54)【発明の名称】電極形成用組成物および添加剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20250611BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250611BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20250611BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20250611BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/525
H01M4/58
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2025519493
(86)(22)【出願日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2024021024
(87)【国際公開番号】W WO2024257722
(87)【国際公開日】2024-12-19
【審査請求日】2025-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2023098499
(32)【優先日】2023-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑中 辰也
(72)【発明者】
【氏名】池田 匠
(72)【発明者】
【氏名】太田 博史
(72)【発明者】
【氏名】境田 康志
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-173582(JP,A)
【文献】特表2022-519146(JP,A)
【文献】特開2023-075531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/525
H01M 4/58
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ環含有化合物、正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物であって、
上記ヘテロ環含有化合物が、下記式(1)で表される電極形成用組成物。
【化1】
(式中、Raは、それぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基であり、
Lは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合またはアミド結合であり、
aは、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基である。)
【請求項2】
上記Xaが、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子またはフェニル基である請求項1記載の電極形成用組成物。
【請求項3】
上記Lが、単結合であり、Raが、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である請求項1記載の電極形成用組成物。
【請求項4】
上記式(1)において、RaおよびXaが有する置換基が、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、エステル基、ケトン基、アミノ基、フェニル基、ハロゲン原子、アルコキシシリル基、エポキシ基およびカルボン酸クロリド基からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の電極形成用組成物。
【請求項5】
上記ヘテロ環含有化合物が、下記式(1-1)で表される請求項1記載の電極形成用組成物。
【化2】
【請求項6】
さらに、導電助剤を含む請求項1記載の電極形成用組成物。
【請求項7】
上記正極活物質が、S、FeまたはNiを30質量%以上含むものである請求項1記載の電極形成用組成物。
【請求項8】
さらに、分散剤を含み、その分散剤が、ピロリドン構造またはニトリル基を含むポリマーである請求項1記載の電極形成用組成物。
【請求項9】
上記分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびポリアクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項8記載の電極形成用組成物。
【請求項10】
上記ヘテロ環含有化合物の含有量が、固形分中0.001~0.5質量%である請求項1~9のいずれか1項記載の電極形成用組成物。
【請求項11】
正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物用の添加剤であって、下記式(1)で表されるヘテロ環含有化合物からなる添加剤。
【化3】
(式中、Raは、それぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基であり、
Lは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合またはアミド結合であり、
aは、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基である。)
【請求項12】
ゲル化抑制剤である請求項11記載の添加剤。
【請求項13】
正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物用の添加剤溶液であって、下記式(1)で表されるヘテロ環含有化合物
からなる添加剤および溶媒からなる添加剤溶液。
【化4】
(式中、Raは、それぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基であり、
Lは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合またはアミド結合であり、
aは、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極形成用組成物および添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、重量や体積当たりのエネルギー密度が高いため、搭載電子機器の小型・軽量化に寄与している。近年は、自動車のゼロエミッションにむけた取り組みとして、電機自動車の普及が加速しており、その更なる低抵抗化、長寿命化、高容量化、安全性、低コスト化が求められている。
【0003】
リチウムイオン電池は、一般的に、正極、セパレータ、負極の3層構造が電解液を含む構造を有する。正極および負極は、例えば、活物質と導電材とバインダーを混合した電極スラリーを集電体に塗工して製造される。現在、負極の製造方法としては、集電体となる銅箔に負極用スラリーを塗工して乾燥するプロセスが主流であり、正極の製造方法としては、溶媒としてN-メチルピロリドン等の有機溶媒を用いた正極用スラリーを作製し、集電体となるアルミニウム箔に塗工するプロセスが主流である。
【0004】
リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、4V前後の電池電圧を得ることができるものとして、アルカリ金属を含む遷移金属酸化物や遷移金属カルコゲンなどの無機化合物が知られている。このなかでも、高容量のリチウムイオン二次電池を得ることを目的として、ニッケルやマンガンを多く含むアルカリ性の高い正極活物質が使用されている。
【0005】
例えば、LixNiO2に代表されるハイニッケル正極活物質は、放電容量が高く、魅力的な正極材料であるが、表面に、原料の残渣もしくは水分とのプロトン交換反応、空気中の水分や炭酸ガスと反応して生成されるLiOH、Li2O、LiHCO3、Li2CO3といったアルカリ成分が存在する。
【0006】
そのような正極活物質を使用した場合、電極スラリーが、増粘したり、ゲル化したりすることで、徐々に流動性を失う問題が生じる。電極スラリーが流動性を失うと、均質な塗工厚さを得ることが困難となるだけでなく、場合によっては、塗布が行えなくなり材料の無駄が生じてしまう。
【0007】
この主な原因としては、正極を作製する工程において、正極活物質表面に存在するアルカリ成分が、微量の水分の存在下において、バインダーとして使用するフッ化ビニリデン構造を有するPVdFに代表されるフッ素系バインダーの脱フッ化水素化反応を促進することが考えられている。
【0008】
さらに、アルカリ成分は、正極の集電箔として一般的に用いられるアルミニウム箔を腐食することで電池を高抵抗化させる。また、上記アルカリ成分は、電池内において、電解液と反応して電池を高抵抗化させ、また寿命を悪化させるおそれがある。
【0009】
上述した増粘やゲル化は、原料や電極スラリーをドライ環境下で取り扱い、水分量を制御することによって、抑制することができるが、電極スラリーの調製から電池を製造するまでの一連の量産工程において大規模な設備が必要となり、また多量の電気を使用することによるコストアップや環境負荷の増加が問題となってしまう。
【0010】
この問題を解決するため、例えば、特許文献1には、水に分散しても強いアルカリ性を示さないように電極スラリー(正極材スラリー)の調製を行うことで、電極スラリーのゲル化を抑制する技術等が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法で、強いアルカリ性を示さないように電極スラリーを調製することは、厳格なpH管理が必要となるだけでなく、正極活物質を一度、水に分散し、分散液から濾過して正極活物質を取り出した後、乾燥をするという処理が必要となる。その結果として、作業の煩雑さや歩留まりの低下を招いてしまう。また、上記のような処理は、正極活物質自体の性能低下を引き起こす可能性もある。
【0011】
また、特許文献2では、超高分子量(重量平均分子量が220万以上)のポリエチレンオキサイド等の化合物を使うことで、水との相互作用(例えば、水素結合)により水を拘束し、正極活物質のアルカリ成分と水との反応を抑制することで、増粘およびゲル化を抑制する技術が報告されている。しかしながら、超高分子量の増粘効果の強いポリマーは、溶媒への均一溶解処理に時間が必要でコストがかかり、また、高濃度溶液とすることが難しいといったハンドリング上の問題がある。また、上述した超高分子量ポリマーは、水を拘束する能力が高いことから、逆に、当該ポリマー自身が水を持ち込んでしまう懸念があり、これを防ぐために事前の乾燥に厳格な管理が必要である。
【0012】
特許文献3および特許文献4では、リチウムイオン二次電池の正極において、電極スラリー(正極合剤スラリー)のゲル化を抑制するため、有機酸または無機酸を添加することが提案されている。特許文献3では、マレイン酸、シトラコン酸、およびマロン酸が正極合剤に使用され、特許文献4では、酢酸や、リン酸、硫酸などが電極スラリー(正極ペースト)に使用されている。しかしながら、酸によりアルカリを中和するには、多量の添加を必要とし、その結果として、電池のエネルギー密度の低下や、電池の抵抗の増大を招くおそれがある。また、酸が、電極を作製する装置を腐食してしまう問題もある。
【0013】
特許文献5では、フッ素ガスを用いて正極活物質を処理し、残存LiOHをLiFとして固定化することで、ゲル化を防止できるとともに、ガス発生を抑制する方法が報告されている。しかながら、フッ素ガスは毒性が高く取り扱いが困難であり、また副生成物として生じるLiFが電池内部抵抗を高め、容量が低下し、正極活物質のフッ素ガスによる腐食によっても容量が低下する。さらに、残留フッ素は活物質中や電解液中に存在する微量な水分と反応してフッ化水素を生じてサイクル劣化を発生しやすいという問題があった。
【0014】
特許文献6では、リチウム塩を含む水溶液で洗浄することによって、未反応の水酸化リチウムや原料由来の不純物を除去することが報告されている。しかしながら、洗浄の際に出る排水による環境負荷の増加や排水の処理にともなうコストの面で課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2000-90917号公報
【文献】特開2019-121471号公報
【文献】特開平9-306502号公報
【文献】特開平10-79244号公報
【文献】特開2006-286240号公報
【文献】国際公開第2017-034001号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、このような事情から、簡便な方法により、電極スラリーの増粘およびゲル化を抑制して、保存安定性が向上し、かつ固形分の高濃度化と、電池の劣化抑制が可能な電極形成用組成物、ならびに電極形成用組成物のゲル化抑制に効果的な添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、少なくとも正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物に対して、同一環内に2つのヘテロ原子を有する5員環のヘテロ環を2つ有する特定のヘテロ環含有化合物を添加することで、組成物の増粘やゲル化を抑制でき、保存安定性を高めることができることを見出した。さらに、本発明の電極形成用組成物を用いて作製した電極は、アルカリ成分に起因する電池内における劣化が抑制され、電池特性を高めることもできる。
【0018】
すなわち、本発明は、下記の電極形成用組成物および添加剤を提供する。
1. ヘテロ環含有化合物、正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物であって、
上記ヘテロ環含有化合物が、下記式(1)で表される電極形成用組成物。
【化1】
(式中、Raは、それぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基であり、
Lは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合またはアミド結合であり、
aは、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基である。)
2. 上記Xaが、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子またはフェニル基である1の電極形成用組成物。
3. 上記Lが、単結合であり、Raが、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である1の電極形成用組成物。
4. 上記式(1)において、RaおよびXaが有する置換基が、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、エステル基、ケトン基、アミノ基、フェニル基、ハロゲン原子、アルコキシシリル基、エポキシ基およびカルボン酸クロリド基からなる群より選ばれる少なくとも1種である1の電極形成用組成物。
5. 上記ヘテロ環含有化合物が、下記式(1-1)で表される1の電極形成用組成物。
【化2】
6. さらに、導電助剤を含む1~5のいずれかの電極形成用組成物。
7. 上記正極活物質が、S、FeまたはNiを30質量%以上含むものである1~6のいずれかの電極形成用組成物。
8. さらに、分散剤を含み、その分散剤が、ピロリドン構造またはニトリル基を含むポリマーである1~7のいずれかの電極形成用組成物。
9. 上記分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびポリアクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種である8の電極形成用組成物。
10. 上記ヘテロ環含有化合物の含有量が、固形分中0.001~0.5質量%である1~9のいずれかの電極形成用組成物。
11. 正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物用の添加剤であって、下記式(1)で表されるヘテロ環含有化合物からなる添加剤。
【化3】
(式中、Raは、それぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基であり、
Lは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合またはアミド結合であり、
aは、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基である。)
12. ゲル化抑制剤である11の添加剤。
13. 正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物用の添加剤溶液であって、下記式(1)で表されるヘテロ環含有化合物からなる添加剤および溶媒からなる添加剤溶液。
【化4】
(式中、Raは、それぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基であり、
Lは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合またはアミド結合であり、
aは、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基である。)
【発明の効果】
【0019】
本発明の電極形成用組成物は、増粘やゲル化が起こりにくく、高い保存安定性を有するものであり、エネルギー貯蔵デバイス用の正極電極の形成に好適に使用し得るものである。当該組成物を用いて作製される電極を備えたエネルギー貯蔵デバイスを製造した場合、組成物の保存安定性の向上による品質や歩留まりの向上、固形分の高濃度化によるコスト削減や環境負荷の低減、アルカリ成分に起因する電池内における劣化の抑制といったメリットが期待され、エネルギー貯蔵デバイスの製造コストの削減や電池特性の向上に寄与することができる。
【0020】
なお、上記の増粘およびゲル化のメカニズム、ならびに、その抑制効果の発現のメカニズムは定かではないが、本発明では、電極形成用組成物に特定のヘテロ環含有化合物を添加することにより、アルカリ成分表面に保護皮膜が形成されるためと考えられる。この保護皮膜が、アルカリ成分とバインダー、特にフッ素系バインダーとの反応を抑制し、その結果として、組成物の増粘およびゲル化の抑制が可能となり、保存安定性を向上したものと考えられる。電極形成用組成物の増粘およびゲル化が抑制されることで、正極活物質および導電助剤等の固形分の分散性が良好となるので、均質な正極電極層を形成することが可能となる。また、電極スラリーにおける固形分の濃度を向上することも可能となり、エネルギー貯蔵デバイスを作るコストや環境負荷を低減できる。更には、アルカリ成分に由来する、集電箔として一般的に用いられるアルミニウム箔の腐食や、電解液との反応による電池特性の劣化を抑制することができる。ただし、これらは推定であって、本発明はこれらメカニズムに限定して解釈されない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の電極形成用組成物は、ヘテロ環含有化合物、正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物であって、上記ヘテロ環含有化合物が、下記式(1)で表されるものである。
【0022】
【化5】
(式中、Raは、それぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基であり、
Lは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合またはアミド結合であり、
aは、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基である。)
【0023】
aで表される炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の炭素数1~6の直鎖または分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3~6の環状アルキル基が挙げられる。
【0024】
aで表される炭素数2~6のアルケニル基としては、エテニル基、n-1-プロペニル基、n-2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、n-1-ブテニル基、n-2-ブテニル基、n-3-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-エチルエテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、n-1-ペンテニル基等が挙げられる。
【0025】
aで表される炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
【0026】
上記Raは置換基を有していてもよい。置換基としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、エステル基、ケトン基、アミノ基、フェニル基、ハロゲン原子、アルコキシシリル基、エポキシ基、カルボン酸クロリド基、チオール基等が挙げられる。上記アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、メトキシジメチルシリル基、トリエトキシシリル基、ジエトキシメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基等が挙げられる。本発明では、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、エステル基、ケトン基、アミノ基、フェニル基、ハロゲン原子、アルコキシシリル基、エポキシ基およびカルボン酸クロリド基が好ましい。上記Raが置換基を有する場合、その数は、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0027】
上記Raとしては、水素原子、ヒドロキシ基、チオール基、および置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基が好ましく、水素原子、および置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、水素原子、および炭素数1~6のアルキル基がより一層好ましく、水素原子およびメチル基がさらに好ましい。
【0028】
Lとしては、単結合、エステル結合、アミド結合が好ましく、単結合がより好ましい。
【0029】
aで表される炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の炭素数1~6の直鎖または分岐鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3~6の環状アルキル基が挙げられる。
【0030】
aで表される炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
【0031】
上記Xaは置換基を有していてもよい。置換基としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、エステル基、ケトン基、アミノ基、フェニル基、ハロゲン原子、アルコキシシリル基、エポキシ基、カルボン酸クロリド基、チオール基等が挙げられる。上記アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、メトキシジメチルシリル基、トリエトキシシリル基、ジエトキシメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基等が挙げられる。本発明では、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、エステル基、ケトン基、アミノ基、フェニル基、ハロゲン原子、アルコキシシリル基、エポキシ基およびカルボン酸クロリド基が好ましい。上記Xaが置換基を有する場合、その数は、1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
【0032】
上記Xaとしては、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、炭素数1~4のアルキル基、および炭素数6~10のアリール基が好ましく、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、炭素数1~3のアルキル基、および炭素数6~8のアリール基より一層好ましく、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、メチル基およびフェニル基が特に好ましく、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子およびフェニル基がさらに好ましい。
【0033】
上記式(1)で表されるヘテロ環含有化合物としては、下記式(1a)で表されるヘテロ環含有化合物が好ましい。
【0034】
【化6】
(式中、Ra、Xaは、上記と同じである。)
【0035】
上記ヘテロ環含有化合物の具体例としては、下記式(1-1)~(1-4)で表されるヘテロ環含有化合物が挙げられる。本発明では、これらの中でも、下記式(1-1)で表されるヘテロ環含有化合物(Bis(3-methyl-1-phenyl-5-pyrazolone))が好ましい。
【0036】
【化7】
【0037】
上記ヘテロ環含有化合物の含有量は、固形分中0.001~4質量%が好ましく、より好ましくは0.001~2質量%、より一層好ましくは0.001~0.5質量%、さらに好ましくは0.001~0.3質量%、特に好ましくは0.001~0.2質量%である。また、上記ヘテロ環含有化合物の含有量のより一層好ましい下限は、固形分中0.01質量%である。ヘテロ環含有化合物の含有量を上記範囲内とすることにより、集電体と電極層の密着性を向上させることができ、得られる電池の電池特性も維持することができる。なお、本発明において、固形分とは、組成物を構成する溶媒以外の成分を意味する(以下、同様)。
【0038】
正極活物質としては、電池容量をより向上させるとともに、希少金属の使用量が少なく、低コストである点から、S、FeまたはNiを30質量%以上含むものが好ましい。本発明では、希少金属の使用量を更に減らし、更に寿命の長い電池を得ることを考慮すると、FeまたはNiを35質量%以上含むものがより好ましく、45質量%以上含むものがより一層好ましい。また、その上限は、特に限定されるものではないが、通常、65質量%以下である。このような正極活物質としては、従来、二次電池等のエネルギー貯蔵デバイス用の電極に用いられている各種活物質から、上記の条件を満たすものを適宜選択して用いることができる。例えば、リチウム二次電池やリチウムイオン二次電池の場合、リチウムイオンを吸着・離脱可能なカルコゲン化合物またはリチウムイオン含有カルコゲン化合物、ポリアニオン系化合物、硫黄単体およびその化合物等を用いることができる。
【0039】
リチウムイオン含有カルコゲン化合物としては、例えば、LiNiO2、LixNiy1-y2(Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を表し、0.05≦x≦1.10、0.3≦y≦1.0)、LiaNi(1-x-y)Cox1 y2 zw2(M1は、MnおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種、M2は、Zr、Ti、Mg、B、Zr、WおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、1.00≦a≦1.50、0.00≦x≦0.50、0≦y≦0.50、0.000≦z≦0.020、0.000≦w≦0.020)等が挙げられる。
ポリアニオン系化合物としては、例えば、LiFePO4、LiaMnbFecdPO4(1.00≦a≦1.15、0.01≦b≦0.99、0.01≦c≦0.99、0.00≦d≦0.10であり、Dが、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、およびZnから選ばれ、少なくとも一部がオリビン構造を有する)等が挙げられる。
硫黄化合物としては、例えば、硫黄、Li2S、FeS2、TiS2、MoS2、ルベアン酸等が挙げられる。
これらの正極活物質は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明では、上記正極活物質の中でも、LiaNi(1-x-y)Cox1 y2 zw2(M1は、MnおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種、M2は、Zr、Ti、Mg、WおよびVからなる群より選ばれる少なくとも1種を表し、1.00≦a≦1.50、0.00≦x≦0.50、0≦y≦0.50、0.000≦z≦0.020、0.000≦w≦0.020)が好ましい。これらの活物質は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
上記正極活物質の含有量は、固形分中88.0~99.949質量%が好ましく、より好ましくは88.0~99.899質量%、より一層好ましくは95.0~99.0質量%である。
【0042】
上記バインダーとしては、公知の材料から適宜選択して用いることができ、特に限定されるものではないが、その具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン;フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むコポリマー等のフッ素系バインダー、および、ポリイミド、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、ポリエチレンおよびポリプロピレン等の非水系のバインダーが挙げられる。本発明では、組成物の保存安定性の向上の点から、フッ素系バインダーを用いることが好ましい。また、上記フッ素系バインダーは、カルボキシ基、水酸基等の極性官能基で変性されていることが好ましい。なお、上記極性官能基は、核磁気共鳴装置(NMR装置)による測定において、10~15ppmの範囲で検出される明確なピークの有無により確認することができる。上記バインダーは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
上記バインダーの重量平均分子量(Mw)は、集電体と電極層の密着性を向上させる点から、通常、600,000~3,000,000程度であり、好ましくは700,000~2,000,000、より好ましくは700,000~1,500,000である。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
【0044】
上記バインダーの含有量は、コストを抑制し、また高いエネルギー密度を得るという観点から、固形分中0.05~8質量%が好ましく、より好ましくは0.05~5質量%、より一層好ましくは0.05~4質量%、さらに好ましくは0.1~3質量%、特に好ましくは0.2~2質量%、最も好ましくは0.3~1.5質量%である。
【0045】
本発明の電極形成用組成物には、さらに、電気伝導性をより良好にするために、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック(AB)、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン、グラフェン等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子等が挙げられる。上記導電助剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
上記導電助剤を含む場合、その含有量は、特に限定されるものではないが、固形分中0.05~5質量%が好ましく、より好ましくは0.05~4質量%、より一層好ましくは0.1~3質量%、さらに好ましくは0.2~2質量%である。導電助剤の含有量を上記範囲内とすることにより、良好な電気伝導性を得ることができる。
【0047】
本発明の電極形成用組成物には、更に、上記活物質や導電助剤の分散性を向上させるために、分散剤を含んでいてもよい。上記分散剤としては、従来、CNT等の導電性炭素材料の分散剤として用いられているものから適宜選択することができるが、電池内における安定性の点から、非イオン性ポリマーを含むことが好ましい。上記非イオン性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ならびに、ニトリル基、ヒドロキシ基、カルボニル基、アミノ基、スルホニル基およびエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有するポリマー等が挙げられる。上記ポリマーの具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリイミド、ポリフェニルエーテル、ポリフェニルスルホン、ポリエチレンイミン、ポリアニリン等が挙げられる。本発明では、ピロリドン構造またはニトリル基を含むポリマーが好ましく、ポリビニルピロリドンおよびポリアクリロニトリルがより好ましい。上記分散剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
上記分散剤を含む場合、その含有量は、特に限定されるものではないが、固形分中0.001~0.5質量%が好ましく、0.001~0.3質量%がより好ましく、0.001~0.2質量%がより一層好ましい。また、上記分散剤の含有量のより一層好ましい下限は、固形分中0.01質量%である。
また、得られる電極層と集電体との密着性を考慮すると、上記ヘテロ環含有化合物と上記分散剤との総量が、固形分中0.001~1質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01~1質量%である。
【0049】
本発明の電極形成用組成物は溶媒を含む。溶媒としては、従来、電極形成用組成物の調製に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、水;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール等のアルコール類;n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキソラン、スルホラン、等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
なお、上記バインダーは、必要に応じてこれらの溶媒に溶解、もしくは分散させて使用してもよい。
この場合の好適な溶媒としては、水、NMP、DMSO、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、THF、ジオキソラン、スルホラン、DMF、DMAc等が挙げられ、バインダーの種類に応じて適宜選択すればよいが、PVdF等の非水溶性のバインダーの場合はNMPが好適であり、水溶性のバインダーの場合は水が好適である。
【0051】
本発明の電極形成用組成物の固形分濃度は、組成物の塗工性や形成する電極の厚さ等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常、60~92質量%程度であり、好ましくは65~90質量%程度、より好ましくは70~85質量%程度である。
【0052】
本発明の電極形成用組成物の粘度は、塗工方法や形成する電極の厚さ等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常、100~2,000,000mPa・s程度であり、好ましくは300~1,000,000mPa・s程度、より好ましくは400~800,000mPa・s程度である。上記粘度は、E型粘度計により25℃で測定した値である。
【0053】
本発明の電極形成用組成物は、上述した各成分を混合して得ることができる。なお、本発明の添加剤(ヘテロ環含有化合物)、正極活物質およびバインダー以外の任意成分を含む場合、添加剤と正極活物質は、任意成分と一緒に混合しても、両成分をあらかじめ混合した後、任意成分と混合してもよい。いずれの方法であっても、本発明の効果を発現させることができる。
【0054】
本発明の電極は、集電体である基板上の少なくとも一方の面に、上で説明した電極形成用組成物からなる電極層を備えるものである。
電極層を基板上に形成する方法としては、調製した電極形成用組成物を基板上に塗工して塗膜を形成した後、これを乾燥する方法が挙げられる。この方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種方法を用いることができる。塗工法の具体例としては、オフセット印刷、スクリーン印刷等の各種印刷法、ブレードコート法、ディップコート法、スピンコート法、バーコート法、スリットコート法、インクジェット法、ダイコート法等が挙げられる。
【0055】
また、塗膜を乾燥する際、自然乾燥および加熱乾燥のいずれを採用してもよいが、製造効率の観点から加熱乾燥が好ましい。加熱乾燥を実施する場合、その温度は、50~400℃程度が好ましく、70~150℃程度がより好ましい。
【0056】
上記電極に用いられる基板としては、例えば、白金、金、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、リチウム等の金属基板、これらの金属の任意の組み合わせからなる合金基板、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アンチモン錫酸化物(ATO)等の酸化物基板、またはグラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンフェルト等の炭素基板等が挙げられる。特に、基板の厚みは、特に限定されるものではないが、本発明においては、1~100μmが好ましく、3~30μmが好ましく、5~25μmが最も好ましい。
【0057】
上記電極層の膜厚は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01~1,000μm程度、より好ましくは5~300μm程度である。なお、電極層を単独で電極とする場合は、その膜厚を10μm以上とすることが好ましい。
【0058】
電極は、必要に応じてプレスしてもよい。プレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特に金型プレス法やロールプレス法が好ましい。また、プレス圧力は、特に限定されるものではないが、1kN/cm以上が好ましく、2kN/cm以上が好ましく、5kN/cm以上がより好ましい。また、上記プレス圧力の上限は、特に限定されるものではないが、50kN/cm以下が好ましい。
【0059】
本発明の二次電池は、上述した電極を備えたものであり、より具体的には、少なくとも一対の正負極と、これら各極間に介在するセパレータと、電解質とを備えて構成され、正極が、上述した電極から構成される。その他の電池素子の構成部材は従来公知のものから適宜選択して用いればよい。
【0060】
上記セパレータに使用される材料としては、例えば、ガラス繊維、セルロース、多孔質ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。
【0061】
上記電解質としては、液体、固体のいずれでもよく、また水系、非水系のいずれでもよいが、実用上十分な性能を容易に発揮させ得る観点から、電解質塩と溶媒等とから構成される電解液を好適に使用し得る。
【0062】
上記電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2F)2、LiN(C25SO22、LiAsF6、LiSbF6、LiAlF4、LiGaF4、LiInF4、LiClO4、LiN(CF3SO22、LiCF3SO3、LiSiF6、LiN(CF3SO2)、(C49SO2)等のリチウム塩、LiI、NaI、KI、CsI、CaI2等の金属ヨウ化物、4級イミダゾリウム化合物のヨウ化物塩、テトラアルキルアンモニウム化合物のヨウ化物塩および過塩素酸塩、LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2等の金属臭化物等が挙げられる。これらの電解質塩は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
上記溶媒としては、電池を構成する物質に対して腐食や分解を生じさせて性能を劣化させるものでなく、上記電解質塩を溶解するものであれば特に限定されない。例えば、非水系の溶媒として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン等の環状エステル類、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類、酢酸メチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状エステル類、アセトニトリル等のニトリル類等が用いられる。これらの溶媒は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
また、固体電解質としては、硫化物系固体電解質および酸化物系固体電解質等の無機固体電解質や、高分子系電解質等の有機固体電解質を好適に用いることができる。これらの固体電解質を用いることで電解液を使用しない全固体電池を得ることができる。
【0065】
上記硫化物系固体電解質としては、Li2S-SiS2-リチウム化合物(ここで、リチウム化合物はLi3PO4、LiIおよびLi4SiO4からなる群より選ばれる少なくとも1種である)Li2S-P25、Li2S-B25、Li2S-P25-GeS2等のチオリシコン系材料等を挙げることができる。
【0066】
上記酸化物系固体電解質としては、ガーネット型構造の酸化物であるLi5La3212(M=Nb,Ta)やLi7La3Zr212、LISICONと総称されるγ-Li3PO4構造を基本とする酸素酸塩化合物、ペロブスカイト型、LIPONと総称されるLi3.3PO3.80.22、ナトリウム/アルミナ等を挙げることができる。
上記高分子系固体電解質としては、ポリエチレンオキシド系材料や、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレンおよびフッ化ビニリデン等のモノマーを重合又は共重合して得られる高分子化合物等を挙げることができる。なお、上記高分子系固体電解質には、支持塩および可塑剤を含んでいてもよい。
【0067】
上記高分子系固体電解質に含まれる支持塩としては、リチウム(フルオロスルホニルイミド)等を挙げることができ、可塑剤としては、スクシノニトリル等を挙げることができる。
【0068】
本発明の電極形成用組成物を用いて製造した電池は、一般的な二次電池と比較してフッ素バインダーが少なくても、高い電池特性を有するものとなる。
【0069】
二次電池の形態や電解質の種類は特に限定されるものではなく、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、マンガン電池、空気電池等のいずれの形態を用いてもよいが、リチウムイオン電池が好適である。ラミネート方法や生産方法についても特に限定されるものではない。
【0070】
コイン型に適用する場合、上述した本発明の電極を、所定の円盤状に打ち抜いて用いればよい。例えば、リチウムイオン二次電池は、コインセルのワッシャーとスペーサーが溶接されたフタに、一方の電極を設置し、その上に、電解液を含浸させた同形状のセパレータを重ね、さらに上から、電極層を下にして本発明の電極を重ね、ケースとガスケットを載せて、コインセルかしめ機で密封して作製することができる。
【0071】
また、本発明は、正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物用の添加剤として、下記式(1)で表されるヘテロ環含有化合物からなる添加剤を提供する。上記添加剤は、正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物用のゲル化抑制剤として好適に使用できるものである。
【0072】
【化8】
(式中、Raは、それぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基であり、
Lは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合またはアミド結合であり、
aは、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基である。)
【0073】
式(1)において、RaおよびXaの具体例については、電極形成用組成物の説明において例示したものと同じである。
【0074】
また、電極形成用組成物の正極活物質、バインダーおよび溶媒に関しても、上の説明において記載したものと同じである。
【0075】
さらに、本発明は、正極活物質、バインダーおよび溶媒を含む電極形成用組成物用の添加剤溶液として、下記式(1)で表されるヘテロ環含有化合物からなる添加剤および溶媒からなる添加剤溶液を提供する。本発明の添加剤溶液を用いることで、電極形成用組成物に対して上記添加剤を混合しやすくなる。
【0076】
【化9】
(式中、Raは、それぞれ独立して、水素原子、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基であり、
Lは、それぞれ独立して、単結合、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合またはアミド結合であり、
aは、それぞれ独立して、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基である。)
【0077】
式(1)において、RaおよびXaの具体例については、電極形成用組成物の説明において例示したものと同じである。
【0078】
上記ゲル化抑制剤溶液は、上記各化合物が、溶媒に溶解または分散しているものが好ましく、溶媒に溶解しているものがより好ましい。
【0079】
使用できる溶媒としては、電極形成用組成物の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。本発明では、その中でも特にNMP、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを好適に使用できる。
【0080】
また、電極形成用組成物の正極活物質およびバインダーに関しても、上の説明において記載したものと同じである。
【0081】
本発明のゲル化抑制剤溶液の固形分濃度は、溶媒への飽和溶解度や保存安定性等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常、1~60質量%程度であり、好ましくは3~55質量%程度、より好ましくは3~50質量%程度である。
【実施例
【0082】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、用いた装置は以下のとおりである。
【0083】
(1)自転・公転方式ミキサー:シンキ―(株)製、あわとり練太郎 大気圧タイプ ARE-310
(2)ドライブース:日本スピンドル製造(株)製
(3)E型粘度計:東機産業(株)製、VISCOMETER TV-22、測定温度:25℃、ロータ:1°34’×R24、の測定条件で測定開始後5分後の粘度を採用した。
【0084】
また、使用した原料等は以下のとおりである。
<活物質>
NCA:ニッケル酸リチウム(LiNi0.88Co0.11Al0.012、NCA-034H、Ni比率:55質量%)、Ecopro社製
<フッ素系バインダー>
Solef-5130:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、SOLVAY社製
<導電助剤>
AB:デンカブラック(登録商標)Li100(高純度アセチレンブラック)、デンカ(株)製
<溶媒>
NMP:日本リファイン(株)製
<添加剤A>
[実施例で使用した添加剤]
A1:Bis(3-methyl-1-phenyl-5-pyrazolone)、東京化成工業(株)製
【化10】
[比較例で使用した添加剤]
a1:Oxalic acid、富士フイルム和光純薬(株)製
a2:Piperonylic Acid、東京化成工業(株)製
a3:8-Quinolinol、東京化成工業(株)製
a4:Anthranil、東京化成工業(株)製
a5:Phthalazone、東京化成工業(株)製
a6:Pyridine、富士フイルム和光純薬(株)製
【化11】
【0085】
・正極用組成物(電極スラリー)の調製
[実施例1-1、比較例1-1~1-7]
各添加剤について5質量%のNMP溶液を調製した。PVdFの7質量%のNMP溶液を調製した。表1に示す組成比となるように、ドライブース内にて、正極活物質、バインダー溶液、導電助剤、添加剤溶液、NMP、水を混合し、自転・公転方式ミキサーを用いて混合することで、電極スラリーを得た。調製したスラリーの総量は、いずれも各20g、固形分は80質量%とし、スラリーの溶媒組成はNMP/H2O=97/3(質量比)となるように調整した。なお、上記水はスラリー中に水分量が多い状態を意図的に生み出すために添加している。
【0086】
上記で得られたスラリーについて、調製直後にE型粘度計を用いて粘度測定を行った。また、24時間/40℃で保存した後に目視にてゲル化の有無を確認した。ゲル化していないものについては、同様にE型粘度計を用いて粘度測定を行うことで、増粘およびゲル化傾向の有無を確認し、以下の基準に基づいて判定した。表1にはこれらの評価もまとめた。
《判定基準》
A:ゲル化していないもの
B:組成物がゲル化し、電極形成への使用ができないもの
【0087】
【表1】
【0088】
上記表1の結果より、特定のヘテロ環含有化合物を添加した本発明の電極形成用組成物において、増粘やゲル化が抑制され、保存安定性が向上したことが確認された。