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特許7697694アルミナ系複合ゾル組成物、その製造方法及びアルミナ系複合薄膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】アルミナ系複合ゾル組成物、その製造方法及びアルミナ系複合薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/30 20220101AFI20250617BHJP
   C01B 33/113 20060101ALI20250617BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20250617BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20250617BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250617BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
C01F7/30
C01B33/113 Z
C09D1/00
C09D5/02
C09D7/63
C09D183/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022568116
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2021041086
(87)【国際公開番号】W WO2022123979
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2020203873
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】津布楽 博信
(72)【発明者】
【氏名】西迫 有希
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-132519(JP,A)
【文献】特開2013-216760(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0029446(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00 - 7/788
C01B 33/00 - 33/193
C09D 1/00
C09D 7/63
C09D 5/02
C09D 183/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾル、(B)アルコキシシラン化合物、(C)多価有機酸、及び(D)溶媒を含み、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物の量が、3質量%~11質量%である、アルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項2】
(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾル、(B)アルコキシシラン化合物、(C)多価有機酸、及び(D)溶媒を含むアルミナ系複合ゾル組成物であって、アルミナ系複合ゾル組成物中のアルミナ水和物の量が、1.6質量%~6.8質量%である、アルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項3】
(C)多価有機酸が、イタコン酸、クエン酸、グルタル酸、コハク酸、シトラコン酸、マレイン酸、マロン酸、又はリンゴ酸の少なくとも1つから選択される、請求項1又は2に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項4】
(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾルが、アルミニウムアルコキシドの加水分解で得られるアルミナゾルである、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項5】
アルミナ水和物が、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子である、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項6】
アルミナ水和物が、無定形、ベーマイト及び擬ベーマイトからなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶形を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項7】
(B)アルコキシシラン化合物が、下記一般式(1):
(RSi(OR4-m-n (1)
(式中、Rはエポキシ含有基又は(メタ)アクリル基を表し、R及びRは炭素数1~4のアルキル基を表し、n=0~2の範囲内であり、m=0~3の範囲内であり、n+m=0~3の範囲内である。)
で示される、請求項1~6のいずれか1項に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項8】
(D)溶媒が、水、アルコール又は水とアルコールとの組み合わせである、請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項9】
(B)アルコキシシラン化合物の量が、アルミナ水和物100質量部に対して、105~460質量部である、請求項1~8のいずれか1項に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項10】
(C)多価有機酸の量が、アルミナ系複合ゾル組成物中の固形分含量100質量部に対して、1~20質量部である、請求項1~9のいずれか1項に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項11】
コーティング組成物である、請求項1~10のいずれか1項に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項12】
絶縁コーティング剤又はハードコーティング剤である、請求項1~11のいずれか1項に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のアルミナ系複合ゾル組成物を基材表面に適用して硬化させることを含む、アルミナ系複合薄膜の製造方法。
【請求項14】
(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾル、(B)アルコキシシラン化合物、(C)多価有機酸、及び(D)溶媒を混合することを含み、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物の量が、3質量%~11質量%である、アルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
【請求項15】
(1)水中のアルミニウムアルコキシドを酸の不存在下70℃~100℃の温度で撹拌する工程、
(2)前記工程(1)で得た反応液に酸を添加し撹拌する工程
を含む、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子を含むアルミナゾルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ系複合薄膜を形成するためのアルミナ系複合ゾル組成物、その製造方法及びそのようなアルミナ系複合薄膜の製造方法に関する。本発明はまた、アルミナゾル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナゾルは、ゾル-ゲル法等の湿式法により製造され、その製造方法は多岐にわたる。アルミナゾルは様々な用途に用いられており、例えば、増粘剤、懸濁剤、触媒、ポリマーの補強剤やバインダーとしての用途、金属、無機粉体や多孔質担体等の表面改質剤としての用途、多孔性自立膜としての用途、基材上に形成された皮膜としての用途、及び水処理用吸着剤等として使用されている。アルミナゾルに含まれるアルミナ水和物粒子には、板状、柱状、針状、粒子状、繊維状等の様々な形状の粒子があり、アルミナ水和物粒子の形状によりアルミナゾルの物性は異なり、その物性によって用途も異なってくる。
【0003】
金属やグラファイト等の基材に絶縁性を付与するため基材表面に絶縁性皮膜を形成することが知られている。また、ガラス、プラスチックシート、プラスチックレンズ等の基材表面、表示装置等の耐擦傷性を向上させるため、基材表面にハードコート機能を有する透明皮膜を形成することが知られている。
【0004】
金属酸化物の薄膜を製造する方法として、PVD法やCVD法等の気相プロセス、及びゾル-ゲル法、電気泳動法等の液相プロセスがある。
【0005】
特許文献1には、成膜性、緻密性、ガスバリア性、熱安定性、電気絶縁性、防汚性、帯電防止性、等に優れたアルミナ薄膜をゾル-ゲル法にて形成できるコーティング組成物として、アルミニウムアルコキシドの加水分解で得られるアルミナゾルであって、短径1~10nm、長径100~10000nmおよびアスペクト比(長径/短径)30~5000で規定される繊維状または針状のアルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子を含むものと、該アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子100質量部に対して5~2000質量部のアルコキシシラン化合物とを含有することを特徴とするコーティング組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-216760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
絶縁コーティングとしての絶縁性が高い皮膜やハードコーティングとしての硬度が高い皮膜を得るには、コーティング膜内の細孔が十分小さく、クラックの発生が無い緻密な構造が必要である。これまでのアルミナゾルは、ゾル中の粒子の形状が菱形や毬栗形、歪んだ球形、柱状など、粒子同士の密着性に劣るものが多かった。このようなゾルでは、粒子間が緻密に繋がらず、基材表面を万遍に覆うことは困難であった。
【0008】
一方、金属酸化物の薄膜を製造する方法の一つであるゾル-ゲル法は、その全工程を常圧で行うことができ、工程数も少ないため、気相法(PVD、CVD等)や電気泳動法と比べ、安価で簡便な方法である。しかしながら、コーティング組成物の溶媒が揮発する過程で金属酸化物の収縮により皮膜にクラックが発生しやすいという問題がある。また、ゾル-ゲル法では、細孔のない緻密な膜を製造するためには、コーティング組成物を基材に適用した後500℃以上の温度で熱処理する必要があるため、適用する基材の材料に制限があった。
【0009】
特許文献1に記載のコーティング組成物は、アルミナ薄膜を製造する際、適用する基材や目的に応じて、例えば50℃~1500℃という広範囲の温度で熱処理をしているが、絶縁性を付与するためには、少なくとも300℃以上の温度での熱処理を必要としている。
【0010】
そこで、本発明は、絶縁性及び硬度が高いアルミナ系薄膜をゾル-ゲル法で比較的低温度の熱処理にて製造することができるコーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
本発明の第一の実施形態は、以下のアルミナ系複合ゾル組成物である。
(1)(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾル、(B)アルコキシシラン化合物、(C)多価有機酸、及び(D)溶媒を含み、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物の量が、3質量%~11質量%である、アルミナ系複合ゾル組成物。
(2)(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾル、(B)アルコキシシラン化合物、(C)多価有機酸、及び(D)溶媒を含むアルミナ系複合ゾル組成物であって、アルミナ系複合ゾル組成物中のアルミナ水和物の量が、1.6質量%~6.8質量%である、アルミナ系複合ゾル組成物。
(3)(C)多価有機酸が、イタコン酸、クエン酸、グルタル酸、コハク酸、シトラコン酸、マレイン酸、マロン酸、又はリンゴ酸の少なくとも1つから選択される、上記(1)又は(2)に記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
(4)(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾルが、アルミニウムアルコキシドの加水分解で得られるアルミナゾルである、上記(1)~(3)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
(5)アルミナ水和物が、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
(6)アルミナ水和物が、無定形、ベーマイト及び擬ベーマイトからなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶形を有する、上記(1)~(5)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
(7)(B)アルコキシシラン化合物が、下記一般式(1):
(RSi(OR4-m-n (1)
(式中、Rはエポキシ含有基又は(メタ)アクリル基を表し、R及びRは炭素数1~4のアルキル基を表し、n=0~2の範囲内であり、m=0~3の範囲内であり、n+m=0~3の範囲内である。)
で示される、上記(1)~(6)のいずれかに記載のアルミ系複合ゾル組成物。
(8)(D)溶媒が、水、アルコール又は水とアルコールとの組み合わせである、上記(1)~(7)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
(9)(B)アルコキシシラン化合物の量が、アルミナ水和物100質量部に対して、105~460質量部である、上記(1)~(8)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
(10)(C)多価有機酸の量が、アルミナ系複合ゾル組成物中の固形分含量100質量部に対して、1~20質量部である、上記(1)~(9)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
(11)コーティング組成物である、上記(1)~(10)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
(12)絶縁コーティング剤又はハードコーティング剤である、上記(1)~(11)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物。
【0012】
本発明の第二の実施形態は、以下のアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法である。
(13)(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾル、(B)アルコキシシラン化合物、(C)多価有機酸、及び(D)溶媒を混合することを含むアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法であって、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物の量が、3質量%~11質量%である、アルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
(14)(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾル、(B)アルコキシシラン化合物、(C)多価有機酸、及び(D)溶媒を混合することを含むアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法であって、アルミナ系複合ゾル組成物中のアルミナ水和物の量が、1.6質量%~6.8質量%である、アルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
(15)(C)多価有機酸が、イタコン酸、クエン酸、グルタル酸、コハク酸、シトラコン酸、マレイン酸、マロン酸、又はリンゴ酸の少なくとも1つから選択される、上記(13)又は(14)に記載のアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
(16)(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾルが、アルミニウムアルコキシドの加水分解で得られるアルミナゾルである、上記(13)~(15)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
(17)アルミナ水和物が、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子である、上記(13)~(16)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
(18)アルミナ水和物が、無定形、ベーマイト及び擬ベーマイトからなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶形を有する、上記(13)~(17)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
(19)(B)アルコキシシラン化合物が、下記一般式(1):
(RSi(OR4-m-n (1)
(上式中、Rはエポキシ含有基又は(メタ)アクリル基を表し、R及びRは炭素数1~4のアルキル基を表し、n=0~2の範囲内であり、m=0~3の範囲内であり、n+m=0~3の範囲内である。)
で示される、上記(13)~(18)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
(20)(D)溶媒が、水、アルコール又は水とアルコールとの組み合わせである、上記(13)~(19)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
(21)(B)アルコキシシラン化合物の量が、アルミナ水和物100質量部に対して、105~460質量部である、上記(13)~(20)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
(22)(C)多価有機酸の量が、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物の量と(B)アルコキシシラン化合物の量との合計100質量部に対して、1~20質量部である、上記(13)~(21)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法。
【0013】
本発明の第三の実施形態は、上記(1)~(12)のいずれかに記載のアルミナ系複合ゾル組成物を基材表面に適用して硬化させることを含む、アルミナ系複合薄膜の製造方法である。
本発明の第四の実施形態は、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子を含むアルミナゾルである。
本発明の第五の実施形態は、(1)水中のアルミニウムアルコキシドを酸の不存在下70℃~100℃の温度で撹拌する工程、
(2)前記工程(1)で得た反応液に酸を添加し撹拌する工程
を含む、本発明の第四の実施形態のアルミナゾルの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第一の実施形態によれば、絶縁性及び硬度が高く、基材への密着性に優れ、かつ様々な基材に適用可能なアルミナ系複合薄膜をゾル-ゲル法で比較的低温度の熱処理にて製造することができるアルミナ系複合ゾル組成物を得ることができる。また、本発明の第二の実施形態によれば、絶縁性及び硬度が高く、基材への密着性に優れ、かつ様々な基材に適用可能なアルミナ系複合薄膜をゾル-ゲル法で比較的低温度の熱処理にて製造することができるアルミナ系複合ゾル組成物を製造することができる。
また、本発明の第三の実施形態によれば、絶縁性及び硬度が高く、基材への密着性に優れ、かつ様々な基材に適用可能なアルミナ系複合薄膜をゾル-ゲル法で比較的低温度の熱処理にて製造することができる。
また、本発明の第四の実施形態によれば、絶縁性及び硬度が高く、基材への密着性に優れ、かつ様々な基材に適用可能なアルミナ系複合薄膜をゾル-ゲル法で比較的低温度の熱処理にて製造することができるアルミナ系複合ゾル組成物の製造に適したアルミナゾルを得ることができる。さらに、本発明の第五の実施形態によれば、絶縁性及び硬度が高く、基材への密着性に優れ、かつ様々な基材に適用可能なアルミナ系複合薄膜をゾル-ゲル法で比較的低温度の熱処理にて製造することができるアルミナ系複合ゾル組成物の製造に適したアルミナゾルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】アルミ基板上に形成したアルミナ系複合薄膜の写真である。
図2】アルミナゾルの透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[アルミナ系複合ゾル組成物及びその製造方法]
本発明の第一の実施形態であるアルミナ系複合ゾル組成物は、(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾル、(B)アルコキシシラン化合物、(C)多価有機酸、及び(D)溶媒を含む。ここで、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物の量は、3質量%~11質量%である。あるいは、ここで、アルミナ系複合ゾル組成物中のアルミナ水和物の量は、1.6質量%~6.8質量%である。
本実施形態によれば、絶縁性及び硬度が高く、基材への密着性に優れ、かつ様々な基材に適用可能なアルミナ系複合薄膜をゾル-ゲル法で比較的低温度の熱処理にて製造することができるアルミナ系複合ゾル組成物を得ることができる。
【0017】
(A)アルミナゾル
アルミナ系複合ゾル組成物は、(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾルを含む。アルミナゾルとは、水やアルコール等の分散媒にアルミナ水和物の微粒子が分散しているコロイド溶液である。分散媒が水の場合、コロイドの組成は形式的にAl・nHOで表される。アルミナゾルの製法は各種存在し、各製造法や製造条件によってアルミナ水和物の微粒子の形態や結晶性は様々に変化する。なお、「アルミナ」とは、組成式がAlで表される「酸化アルミニウム」と同義である。
【0018】
本実施形態において、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物の量は、3質量%~11質量%であり、好ましくは3質量%~9質量%であり、より好ましくは3質量%~5質量%である。アルミナゾル中のアルミナ水和物の量を3質量%以上とすることにより、アルミナ系複合ゾル組成物の粘度を適度に上げ、アルミナ系複合ゾル組成物の塗布性が向上するとともに、絶縁性を高めることができる。アルミナゾル中のアルミナ水和物の量を11質量%以下とすることにより、アルミナ系複合ゾル組成物の粘度が高すぎることを防ぎ、コーティング組成物の塗布性が向上するとともに、絶縁破壊強度を向上させることができる。ここで、このアルミナゾル中のアルミナ水和物の量とは、組成物を製造する際の仕込み量に相当する。
【0019】
あるいは、本実施形態において、アルミナ系複合ゾル組成物中のアルミナ水和物の量は、1.6質量%~6.8質量%であり、好ましくは1.6質量%~5.5質量%であり、より好ましくは1.8質量%~4.5質量%である。アルミナ系複合ゾル組成物中のアルミナ水和物の量を1.6質量%以上とすることにより、アルミナ系複合ゾル組成物の粘度を適度に上げ、アルミナ系複合ゾル組成物の塗布性が向上するとともに、絶縁性を高めることができる。アルミナ系複合ゾル組成物中のアルミナ水和物の量を6.8質量%以下とすることにより、アルミナ系複合ゾル組成物の粘度が高すぎることを防ぎ、コーティング組成物の塗布性が向上するとともに、絶縁破壊強度を向上させることができる。ここで、このアルミナ系複合ゾル組成物中のアルミナ水和物の量とは、組成物を製造する際の仕込み量に相当する。
【0020】
アルミナゾルは、ゾル-ゲル法等の湿式法により製造され、その製造方法は多岐にわたる。ゾル-ゲル法とは、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレートなどの金属有機化合物や硝酸塩、塩化物、硫酸塩などの金属無機化合物を溶液中で加水分解および脱水重縮合を行い、金属酸化物または金属水酸化物を分散させたゾルを得て、さらに反応を進めてゲル化(固化)させ酸化物固体を作成する方法である。このような方法としては、例えば、アルミニウムアルコキシドを加水分解する方法(B.E.Yoldas,Amer.Ceram.Soc.Bull.54,289(1975)など)、水溶性塩基性アルミニウム塩をアルカリで中和したアルミナゲルを有機酸の存在下で水熱処理する方法(特開昭53-112299号公報、特開昭54-116398号公報)、酸性アルミニウム化合物とアルカリ性物質との液相中和反応により得られるアルミナゲルを一価の無機酸の存在下に水熱処理する方法(特開昭55-27824号公報)、アルミン酸アルカリ金属塩の水溶液と有機ヒドロキシル酸の水溶液とを中和反応による方法(特開昭59-223223号公報)等の様々な方法が挙げられる。本実施形態において、無定形、ベーマイト又は擬ベーマイト型アルミナが得られる観点から、アルミナゾルは、アルミニウムアルコキシドの加水分解で得られるアルミナゾルであることが好ましい。
【0021】
アルミナゾルに含まれるアルミナ水和物粒子には、板状、柱状、針状、粒子状、繊維状等の様々な形状の粒子があり、アルミナ水和物粒子の形状によりアルミナゾルの物性は異なり、その物性によって用途も異なってくる。本実施形態においては、絶縁性及び硬度が高い緻密な薄膜を製造する観点から、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物は、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子であることが好ましい。短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子を含むアルミナゾルは、本発明の第四の実施形態である。本明細書中において、アルミナ水和物粒子の粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、得られる値とする。
【0022】
アルミナの結晶形態は数多く知られており、例えば、無定形、ベーマイト、擬ベーマイト、γ-アルミナ、θ-アルミナおよびα-アルミナなどがある。本実施形態においては、アルミナ系複合薄膜の絶縁性の観点から、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物は、無定形、ベーマイト及び擬ベーマイトからなる群より選ばれる少なくとも1種の結晶形を有することが好ましい。アルミナゾル中のアルミナ水和物の結晶形は、例えば、後述するアルミニウムアルコキシドの種類、その加水分解条件又は解膠条件の調節によって調製できる。ここで、アルミナゾル中のアルミナ水和物の結晶形は、X線回折装置(例えば、商品名「Ultima IV」、(株)リガク社製)を用い、次の条件で確認することができる。本実施形態において、無定形又は低結晶性のベーマイト若しくは擬ベーマイトが好ましく、その場合、X線回折はブロードなスペクトルを示す。
<条件>管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:40mA、サンプリング幅:0.020°、走査速度:20°/min、発散スリット:2/3°、発散縦制限スリット:10mm、散乱スリット:13mm、受光スリット:13mm
【0023】
短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子を含むアルミナゾルは、例えば、(1)水中のアルミニウムアルコキシドを酸の不存在下70℃~100℃の温度で撹拌する工程、
(2)前記工程(1)で得た反応液に酸を添加し撹拌する工程
を含む方法により製造することができる。このアルミナゾルの製造方法は、本発明の第五の実施形態である。
【0024】
上記工程(1)において、水中のアルミニウムアルコキシドを酸の不存在下70℃~100℃の温度で撹拌する。70℃~100℃の温度で撹拌することにより、水中のアルミニウムアルコキシドの加水分解反応及び重縮合反応を経て、アルミナ水和物が溶液中に分散したゾルとなる。撹拌は、大気雰囲気又は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気のいずれでも行うことができるが、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。工程(1)における撹拌は、70℃~100℃の温度で行い、好ましくは80℃~90℃の温度で行う。工程(1)における撹拌時間は、撹拌温度等の条件により変化し得るが、例えば、1分間~1時間である。
【0025】
アルミニウムアルコキシドの具体例としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムn-ブトキシド、アルミニウムsec-ブトキシド、アルミニウムtert-ブトキシド、アルミニウムイソプロポキシド等が挙げられる。
本明細書中において、アルミニウムアルコキシドには、アルミニウムキレートも含まれる。このようなアルミニウムキレートの具体例としては、環状アルミニウムオリゴマー、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセタト)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム等が挙げられる。
これらの化合物うち、適度な加水分解性を有し、副生成物の除去が容易であること等から、炭素数2~5のアルコキシル基を有するものが好ましい。
【0026】
上記工程(1)において、水中のアルミニウムアルコキシドの固形分濃度は9~18質量%が好ましく、9~12質量%がより好ましい。この固形分濃度が9質量%以上であることにより、得られるアルミナ水和物粒子を適切なサイズに揃えることができる。一方、固形分濃度が18質量%以下であることにより、反応液の撹拌性を良好に維持することができる。
【0027】
次に、上記工程(1)で得た反応液に酸を添加し、撹拌する(工程(2))。この工程(2)においては、凝析した固体が酸の作用によって再び溶液中に分散してコロイドを形成する(解膠作用)。これにより、アルミナ水和物が溶液中に分散したゾルを形成することができる。なお、工程(2)において、未反応のアルミニウムアルコキシドの加水分解反応・重縮合反応も同時に起こり得る。
【0028】
ゾルの形成過程は、アルコキシド基の加水分解反応とAl-OH基による重縮合反応との競争反応による。従って、加水分解反応との重縮合反応の反応速度比が重要なファクターになる。従来のアルミニウムアルコキシドを加水分解することによるアルミナゾルの製造方法では、加水分解のため、水中のアルミニウムアルコキシドの撹拌を当初から酸の存在下で行っていた。本実施形態においては、工程(1)は、酸の不存在下で行い、工程(2)において酸を添加することにより、加水分解反応との重縮合反応の反応速度を制御し、ゾルの構造を制御している。
【0029】
上記工程(2)において使用される酸は、一価の酸が好ましく、例えば、硝酸、塩酸等の無機酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の有機酸が挙げられる。得られる皮膜の性能に影響を与えにくいことや取り扱い性から、有機酸が好ましい。有機酸として、操作性、経済性の面で酢酸が好ましい。酸の使用量は、アルミニウムアルコキシドに対して0.05~0.2モル倍であることが好ましく、0.1~0.16モル倍であることがより好ましい。
【0030】
工程(2)における撹拌は、例えば、70℃~100℃の温度で、好ましくは80℃~90℃の温度で行う。工程(2)における撹拌は、撹拌条件により変化し得るが、例えば、50時間~150時間、好ましくは70時間~120時間行う。
【0031】
工程(1)及び工程(2)においては、アルミニウムアルコキシドの加水分解反応により副生成物としてアルコールが生成するが、このアルコールは反応系から留去してもよいし、特に留去しなくてもよい。
【0032】
工程(2)の後は、必要に応じて反応溶液を室温に冷却し、遠心分離等により反応溶液の上澄みを採取することにより、アルミナゾルを得ることができる。
【0033】
(B)アルコキシシラン化合物
アルミナ系複合ゾル組成物は、(B)アルコキシシラン化合物を含む。本明細書中において、(B)アルコキシシラン化合物は、ケイ素上に1つ以上のアルコキシ基を有する化合物のことをいう。本実施形態において、(B)アルコキシシラン化合物は、好ましくは、下記一般式(1):
(RSi(OR4-m-n (1)
(上式中、Rはエポキシ含有基又は(メタ)アクリル基を表し、R及びRは炭素数1~4のアルキル基を表し、n=0~2の範囲内であり、m=0~3の範囲内であり、n+m=0~3の範囲内である。)
で示される化合物である。
【0034】
最終的に得られるゾル組成物では、(B)アルコキシシラン化合物を含むことにより、その具体的な構造は定かではないが、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物が、(B)アルコキシシラン化合物の一部が加水分解して生成したシラノール基と結合し、アルミナ水和物-アルコキシシラン化合物複合体(本明細書中において、アルミナ系複合体ともいう)が生成され、それが溶液中に分散したゾルを形成していると考えられる。すなわち、アルミナ系複合ゾル組成物は、分散媒にアルミナ系複合体の微粒子が分散しているコロイド溶液である。但し、(B)アルコキシシラン化合物は、その一部は加水分解されずに溶液中に残り、また、シラノール基と結合していない(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物粒子も溶液中に存在する。よって、アルミナ系複合ゾル組成物中には、固形分として、アルミナ系複合体、アルミナ水和物、及びアルコキシシラン化合物が含まれる。
【0035】
(B)アルコキシシラン化合物の量は、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物100質量部に対して、好ましくは105~460質量部の量、より好ましくは150~450質量部の量、さらに好ましくは250~400質量部の量で混合されている。ここで、この(B)アルコキシシラン化合物の量とは、(A)アルミナゾルと混合する際の仕込み量に相当する。
【0036】
アルコキシシラン化合物の具体例として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の所謂シランカップリング剤の他、テトラエトキシシラン(TEOS)が挙げられる。アルコキシシラン化合物の他の具体例として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等のシランカップリング剤も挙げられる。アルコキシシラン化合物は、コーティング対象の基材の種類によって適宜選定される。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
(C)多価有機酸
アルミナ系複合ゾル組成物は、(C)多価有機酸を含む。本明細書中において、多価有機酸とは、1分子内に2個以上のカルボキシ基又はスルホ基を有する化合物をいい、好ましくは、1分子内に2個以上のカルボキシ基を有する化合物であり、より好ましくは1分子内に2個のカルボキシ基を有する化合物である。(C)多価有機酸を含むことにより、アルミナ系複合ゾルの粒子内及び/又は粒子間を架橋し、アルミナ系複合ゾル粒子を安定化する。また、(C)多価有機酸を含むことにより、結果として得られるアルミナ系複合薄膜において、アルミナ水和物と、アルコキシシラン化合物と、多価有機酸とが架橋された複合体を形成し、緻密な構造を有し、絶縁性及び硬度が高いアルミナ系複合薄膜を形成することができる。
【0038】
多価有機酸としては、例えば、シュウ酸、イタコン酸、クエン酸、グルタル酸、コハク酸、シトラコン酸、マレイン酸、マロン酸、リンゴ酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸、アコニット酸、オキサロ酢酸等が挙げられ、好ましくは、イタコン酸、クエン酸、グルタル酸、コハク酸、シトラコン酸、マレイン酸、マロン酸、又はリンゴ酸である。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
多価有機酸は、塩の形であってもよい。多価有機酸の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩が挙げられる。これらの中では、多価有機酸の水への溶解性を高める観点から、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩であることが好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、又はアンモニウム塩であることがより好ましい。
【0040】
(C)多価有機酸の量は、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物の量と(B)アルコキシシラン化合物の量との合計100質量部に対して、1~20質量部が好ましく、2~15質量部がより好ましい。あるいは、(C)多価有機酸の量は、アルミナ系複合ゾル組成物中の固形分含量100質量部に対して、1~20質量部が好ましく、2~15質量部がより好ましい。(C)多価有機酸の量は、組成物を製造する際の仕込み量に相当する。
【0041】
(D)溶媒
アルミナ系複合ゾル組成物は、(D)溶媒を含む。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、又は水とアルコールとの組み合わせを用いることができ、好ましくは水、エタノール、又は水とエタノールとの組み合わせである。
【0042】
アルミナ系複合ゾル組成物には、その性能に悪影響を及ぼさない限り、硬化剤、粘度調整剤、pH調整剤、色素成分等の添加物を配合してもよい。
【0043】
一実施形態において、アルミナ系複合ゾル組成物中の固形分含量は、6.5~15質量%の範囲内にあることが好ましい。この固形分含量が6.5質量%以上であることにより、塗布1回当たりの膜厚が十分な厚さとなる。一方、この固形分含量の合計が15質量%以下であることにより、製膜時の操作性やコーティング液の安定性が得られる。アルミナ系複合ゾル組成物中の固形分とは、アルミナ系複合ゾル組成物中に存在するアルミナ系複合体、アルミナ水和物、及びアルコキシシラン化合物を含む。
(D)溶媒の量は、アルミナ系複合ゾル組成物中のアルミナ水和物の量が1.6質量%~6.8質量%となるように調整することが好ましい。また、(D)溶媒の量は、アルミナ系複合ゾル組成物中の固形分含量が6.5~15質量%の範囲内になるように調整することが好ましい。
【0044】
一実施形態において、アルミナ系複合ゾル組成物の粘度は、14~22mPa.sであることが好ましい。粘度がこの範囲内にあることにより、塗布1回当たりの膜厚が十分な厚さとなり、また、製膜時の操作性やコーティング液の安定性が得られる。
【0045】
アルミナ系複合ゾル組成物は、(A)アルミナ水和物を含むアルミナゾル、(B)アルコキシシラン化合物、(C)多価有機酸、及び(D)溶媒を混合することにより製造することができる。ここで、(A)アルミナゾル中のアルミナ水和物の量は、3質量%~11質量%である。あるいは、ここで、アルミナ系複合ゾル組成物中のアルミナ水和物の量は、1.6質量%~6.8質量%である。このアルミナ系複合ゾル組成物の製造方法は、本発明の第二の実施形態である。混合する方法としては、これら成分を一度に混合してもよいし、例えば、(A)アルミナゾルと(D)溶媒とを混合して第一混合液を得る一方で、(B)アルコキシシラン化合物と(C)多価有機酸と(D)溶媒とを混合して第二混合液を得てから、これら第一混合液と第二混合液とを混合してもよい。
【0046】
これら成分の混合は、例えば、10℃~100℃の温度、好ましくは室温で行うことができる。これら成分の混合時間は、混合温度により変化し得るが、例えば、1~200時間であり、好ましくは50~120時間である。
【0047】
アルミナ系複合ゾル組成物は、コーティング組成物として用いることができる。特に、絶縁性及び硬度が高く、基材への密着性に優れ、かつ様々な基材に適用可能なアルミナ系複合薄膜をゾル-ゲル法で比較的低温度にて製造することができため、絶縁コーティング剤又はハードコーティング剤として用いることができる。絶縁コーティング剤として用いる場合、例えば、鉄、銅、アルミニウム、チタン、鋼、ステンレス(SUS)、真鍮等の金属系基材;Al、SiO、ZrO、TiO、ガラス、タイル、陶器等のセラミックス系基材;カーボン、グラファイト、紙、木片、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル系樹脂、ポリウレタン等のプラスチック等の有機物系基材;磁性材料等の基材へ適用することができる。ハードコーティング剤として用いる場合、例えば、鉄、銅、アルミニウム、チタン、鋼、ステンレス(SUS)、真鍮等の金属系基材;Al、SiO、ZrO、TiO、ガラス、タイル、陶器等のセラミックス系基材;カーボン、グラファイト、紙、木片、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル系樹脂、ポリウレタン等のプラスチック等の有機物系基材;磁性材料等の基材へ適用することができる。より具体的には、装置内面(アルミ、SUSなど)の絶縁コート又はハードコート、巻線コイル(Cuなど)の絶縁コート又はハードコート、フレキシブル基材(ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートなど)の絶縁コート又はハードコート、磁性体への絶縁コート又はハードコート、金属粉末又はカーボン粉末の絶縁コート、電子部品の絶縁コート又はハードコート、ガラス、シリカ等のセラミックスなどへの絶縁コート又はハードコートに用いることができる。
【0048】
また、アルミナ系複合ゾル組成物は、封孔剤として用いることができる。例えば、溶射皮膜(金属やセラミックス)や多孔質材料の封孔に用いることができる。
【0049】
[アルミナ系複合薄膜の製造方法]
本実施形態におけるアルミナ系複合薄膜の製造方法は、第一の実施形態によるアルミナ系複合ゾル組成物を基材表面に適用して硬化させることを含む。
【0050】
アルミナ系複合ゾル組成物を適用する基材としては、種類や形状に制限はなく、鉄、銅、アルミニウム、チタン、鋼、ステンレス(SUS)、真鍮等の金属系基材;Al、SiO、ZrO、TiO、ガラス、タイル、陶器等のセラミックス系基材;カーボン、グラファイト、紙、木片、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル系樹脂、ポリウレタン等のプラスチック等の有機物系基材;磁性材料等の基材が挙げられる。
【0051】
アルミナ系複合ゾル組成物を適用する方法としては、ディップ法、スピン法、スプレー法、ジェットディスペンス法、スクリーン印刷、ラミラーフロー法、電気泳動法など、基材の種類に合わせ適宜選定することができる。
【0052】
アルミナ系複合ゾル組成物を基材表面に適用した後、熱処理により硬化させて、アルミナ系複合薄膜を形成する。熱処理の温度としては、例えば、80℃~230℃であり、好ましくは110℃~200℃である。熱処理の時間としては、熱処理の温度により変化し得るが、例えば、5分間~60分間である。第一実施形態のアルミナ系複合ゾル組成物は、金属酸化物の焼結に必要な500℃以上の温度にて熱処理をする必要がないため、様々な基材へ適用することができる。また、第一実施形態のアルミナ系複合ゾル組成物は、比較的低温度の熱処理によっても、緻密な構造を有し、絶縁性及び硬度が高いアルミナ系複合薄膜を形成することができる。
【0053】
アルミナ系複合薄膜は、その具体的な構造は定かではないが、アルミナ水和物と、アルコキシシラン化合物と、多価有機酸とが架橋された複合体を形成し、緻密で強固な構造を有していると考えられる。その結果、アルミナ系複合薄膜は、高い絶縁性と硬度を示す。
【0054】
アルミナ系複合薄膜の厚さは、用途によって適宜選択することができ、例えば、0.01μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~10μmであり、さらに好ましくは1μm~5μmである。膜厚が上記範囲内にあることにより、所望の絶縁性及び硬度を得られるとともに、熱処理時のクラックの発生を回避することができる。
【実施例
【0055】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
[アルミゾルの製造]
調製例1 アルミナゾルAの製造
50lの反応容器に、純水43880gとアルミニウムイソプロポキシド4570gを入れ、その液温を撹拌しながら85℃に上昇させ、10分間撹拌した。その反応液に酢酸水溶液1550g(酢酸210g)を添加し、85℃で72~120時間反応を行った。反応液を室温に冷却し、反応を終了した。反応液をレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-960、(株)堀場製作所社製)で粒子径を確認しながら遠心分離を行い、上澄みを採取することにより、アルミナゾルAを得た。得られたアルミナゾルAは、透過型電子顕微鏡(TEM)(HT7700、(株)日立ハイテク社製(100kV))で観察した結果、図2に示したように、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子が分散してなるゾルであった。アルミナゾル中のアルミナ水和物濃度は3質量%であった。
【0057】
調製例2 アルミナゾルBの製造
純水を43380gとし、アルミニウムイソプロポキシドを5070gとしたことを除き、調製例1の手順を繰り返したことにより、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子が分散してなるアルミナゾルBを得た。アルミナゾル中のアルミナ水和物濃度は4質量%であった。
【0058】
調製例3 アルミナゾルCの製造
純水を39880gとし、アルミニウムイソプロポキシドを8570gとしたことを除き、調製例1の手順を繰り返したことにより、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子が分散してなるアルミナゾルCを得た。アルミナゾル中のアルミナ水和物濃度は11質量%であった。
【0059】
調製例4 アルミナゾルDの製造
純水を44130gとし、アルミニウムイソプロポキシドを4320gとしたことを除き、調製例1の手順を繰り返したことにより、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子が分散してなるアルミナゾルDを得た。アルミナゾル中のアルミナ水和物濃度は2.5質量%であった。
【0060】
調製例5 アルミナゾルEの製造
純水を39630gとし、アルミニウムイソプロポキシドを8820gとしたことを除き、調製例1の手順を繰り返したことにより、短径5~15nm、長径10~50nmで規定されるりん片状のアルミナ水和物粒子が分散してなるアルミナゾルEを得た。アルミナゾル中のアルミナ水和物濃度は11.5質量%であった。
【0061】
[アルミナ系複合ゾル組成物の製造]
(実施例1~14及び比較例1~3)
表1に記載した原料と仕込み量(質量部)を用いた。50lの反応容器に、アルミナゾルと純水とを入れ、室温にて60分間撹拌し、反応溶液Aを得た。一方、アルコキシシラン化合物と、多価有機酸及び水を含む有機酸溶液とを混合し、室温で1時間撹拌し、反応溶液Bを得た。反応溶液Aに対し、反応溶液Bを添加し、その混合物を室温で96時間撹拌することにより、実施例1~14及び比較例1~2のアルミナ系複合ゾル組成物を得た。比較例3では、多価有機酸を含まないことを除き、実施例1の手順と同様にして、比較例3のアルミナ系複合ゾル組成物を得た。
【0062】
表中、用いた(B)アルコキシシラン化合物は、以下である。
(B)アルコキシシラン化合物A:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【化1】

(B)アルコキシシラン化合物B:3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
【化2】
【0063】
[粘度測定]
実施例及び比較例のアルミナ系複合ゾル組成物の粘度を、ブルックフィールド粘度計 DV2TCP(コーン:CPA-52Z、回転数:200rpm)を用いて測定した。
【0064】
[アルミナ系複合薄膜の製造]
実施例及び比較例のアルミナ系複合ゾル組成物をアルミ基板(基材)上にディップ法にてコーティングし、150℃で1時間加熱処理し、アルミ基板上のアルミナ系複合薄膜を得た。アルミナ系複合薄膜は、図1に示すとおり、透明性を有する薄膜であった。アルミナ系複合薄膜の膜厚は、電磁式・渦電流式小型膜厚測定器 デュアルスコープFMP40((株)フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0065】
[絶縁破壊強度]
実施例及び比較例のアルミナ系複合ゾル組成物をアルミ基板(基材)上にディップ法にてコーティングし、150℃で1時間加熱処理し、アルミ基板上のアルミナ系複合薄膜を得た。このアルミ基板上のアルミナ系複合薄膜を使用し、耐電圧試験機 DAC-6041(総研電気(株)社製)を用いて絶縁破壊電圧を測定し、絶縁破壊強度を算出した。結果を表1に示す。絶縁破壊強度が200V/um以上である場合は、絶縁破壊強度が高く、良好とする。
【0066】
[密着性1]
実施例及び比較例のアルミナ系複合ゾル組成物をアルミ基板(基材)上にディップ法にてコーティングし、150℃で1時間加熱処理し、アルミ基板上のアルミナ系複合薄膜を得た。このアルミ基板上のアルミナ系複合薄膜について、密着性を、JIS K 5600-5-6に規定される方法により評価した。結果を表1に示す。密着性の評価が1以下である場合は、密着性が高く、良好とする。
【0067】
[硬度(鉛筆硬度)]
実施例及び比較例のアルミナ系複合ゾル組成物をアルミ基板(基材)上にディップ法にてコーティングし、150℃で1時間加熱処理し、アルミ基板上のアルミナ系複合薄膜を得た。このアルミ基板上のアルミナ系複合薄膜について、塗膜の硬度をJIS K 5600-5-4に規定する鉛筆硬度試験で試験した。結果を表1に示す。鉛筆硬度が6H以上である場合は、硬度が高く、良好とする。
【0068】
[絶縁抵抗]
実施例及び比較例のアルミナ系複合ゾル組成物をアルミ基板(基材)上にディップ法にてコーティングし、150℃で1時間加熱処理し、アルミ基板上のアルミナ系複合薄膜を得た。アルミナ系複合薄膜部分に電極を配置し、100Vの電圧を印加した時の絶縁抵抗値を極超絶縁計 SM-8220(日置電機(株)社製)で測定した。結果を表1に示す。絶縁抵抗値が1.0E+11Ω以上である場合は、絶縁性が高く、良好とする。
【0069】
【表1-1】
【0070】
【表1-2】
【0071】
【表1-3】
【0072】
表1に示す結果からわかる通り、実施例1~14のアルミナ系複合ゾル組成物を用いることにより、絶縁性、絶縁破壊強度、密着性及び硬度が高いアルミナ系複合薄膜を製造することができた。一方、比較例1のアルミナ系複合ゾル組成物を用いて製造されたアルミナ系複合薄膜は、十分な絶縁性が得られなかった。比較例2のアルミナ系複合ゾル組成物を用いて製造されたアルミナ系複合薄膜は、十分な絶縁破壊強度が得られなかった。比較例3のアルミナ系複合ゾル組成物では、十分な膜厚の薄膜を製造することができず、絶縁性、絶縁破壊強度、密着性及び硬度の測定自体が不能であった。
【0073】
[密着性2]
実施例2のアルミナ系複合ゾル組成物をアルミ基板、アルミナ基板、ガラス基板、及びポリイミド基板上にディップ法にてコーティングし、150℃で1時間加熱処理し、各種基板上のアルミナ系複合薄膜を得た。この各種基板上のアルミナ系複合薄膜について、密着性を、JIS K 5600-5-6に規定される方法により評価した。結果を表2に示す。密着性の評価が1以下である場合は、密着性が高く、良好とする。表2に示す結果からわかる通り、全ての基板において密着性は良好であった。
【0074】
【表2】
【0075】
日本国特許出願2020-203873号(出願日:2020年12月9日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0076】
1 コーティング部分
2 未コーティング部分(アルミ基板)
図1
図2