(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-18
(45)【発行日】2025-06-26
(54)【発明の名称】一酸化窒素産生抑制剤及び一酸化窒素産生抑制用食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20250619BHJP
A61K 36/23 20060101ALI20250619BHJP
A61K 36/48 20060101ALI20250619BHJP
A61K 36/67 20060101ALI20250619BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20250619BHJP
A61K 36/81 20060101ALI20250619BHJP
A61K 36/9066 20060101ALI20250619BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250619BHJP
A61P 3/06 20060101ALN20250619BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20250619BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/23
A61K36/48
A61K36/67
A61K36/752
A61K36/81
A61K36/9066
A61P29/00
A61P3/06
A61P29/00 101
A61P43/00
(21)【出願番号】P 2020069587
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2023-02-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000116297
【氏名又は名称】ヱスビー食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】吉野 七海
(72)【発明者】
【氏名】葛西 雅博
(72)【発明者】
【氏名】恩田 浩幸
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-102444(JP,A)
【文献】特開2016-044169(JP,A)
【文献】特開2019-081736(JP,A)
【文献】ビタミンアカデミー[online],2016年09月04日,[2024年7月24日検索],<URL:https://vitaminj.tokyo/archives/1456>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミックススパイスの水抽出物
(ただし、エタノールを50容量%以上含む水溶液による抽出物を除く)を含む一酸化窒素産生抑制剤であって、前記ミックススパイスが、焙煎された、コリアンダー、クミン、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子を含み、
抗炎症用である、一酸化窒素産生抑制剤。
【請求項2】
前記ミックススパイスが、カレー用ミックススパイスである、請求項1に記載の一酸化窒素産生抑制剤。
【請求項3】
ミックススパイスの水抽出物
(ただし、エタノールを50容量%以上含む水溶液による抽出物を除く)を含む一酸化窒素産生抑制用食品組成物であって、前記ミックススパイスが、焙煎された、コリアンダー、クミン、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子を含み、
抗炎症用である、一酸化窒素産生抑制用食品組成物。
【請求項4】
前記ミックススパイスが、カレー用ミックススパイスである、請求項3に記載の一酸化窒素産生抑制用食品組成物。
【請求項5】
焙煎された、コリアンダー、クミン、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子を含むミックススパイスであって、請求項1に記載の一酸化窒素産生抑制剤の調製に用いられる、前記ミックススパイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化窒素産生抑制剤及び一酸化窒素産生抑制用食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(以下、NOと称することがある)は、生体内で多彩な機能を示す生理活性物質である。NOはマクロファージ等で産生され、NOが体内で大量に産生された場合、自己組織の破壊及び炎症の発生、又はリウマチや糖尿病の原因となり、生体にとって有害である。
そのため、NOの産生を抑制するNO産生抑制剤の探索が進められており、サクラ抽出物(特許文献1)、イソフムロン(特許文献2)、及びスフィンゴ糖脂質(特許文献3)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-229170号公報
【文献】特開2013-177369号公報
【文献】特開2016-108314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一酸化窒素は種々の生理機能に関与するため、過度の抑制作用を示すことなく、生体に対して安全であることが求められている。
従って、本発明の目的は、生体に安全な一酸化窒素産生抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、生体に安全な一酸化窒素産生抑制剤について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、コリアンダー及びクミンを含み、更にターメリック、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含むミックススパイスの水抽出物が、一酸化窒素産生を抑制する作用を有することを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]コリアンダー及びクミンを含むミックススパイスの水抽出物を含む一酸化窒素産生抑制剤であって、前記ミックススパイスが、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つを更に含む、一酸化窒素産生抑制剤、
[2]前記ミックススパイスが、ターメリックを含むカレー用ミックススパイスである、[1]に記載の一酸化窒素産生抑制剤、
[3]抗炎症用である、[1]又は[2]に記載の一酸化窒素産生抑制剤、
[4]コリアンダー及びクミンを含むミックススパイスの水抽出物を含む抗炎症用食品組成物であって、前記ミックススパイスが、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つを更に含む、一酸化窒素産生抑制用食品組成物、
[5]前記ミックススパイスが、ターメリックを含むカレー用ミックススパイスである、[4]に記載の一酸化窒素産生抑制用食品組成物、及び
[6]抗炎症用である、[4]又は[5]に記載の一酸化窒素産生抑制用食品組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一酸化窒素産生抑制剤によれば、生体に有害な一酸化窒素産生を抑制することができる。更に、本発明の一酸化窒素産生抑制剤の1つの実施態様の効果として、細胞への有害な作用を示さないことが挙げられる。すなわち、細胞の生存率が高いことが挙げられる。また、本発明の一酸化窒素産生抑制剤によれば、一酸化窒素産生により生じる炎症を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】コリアンダー、クミン、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子を含むミックススパイスの水抽出物及び熱水抽出物による、NO産生の抑制及び細胞生存率(A)、及びTNF-α産生の抑制(B)を示したグラフである。
【
図2】カレーの水抽出物及び熱水抽出物による、NO産生の抑制及び細胞生存率(A)、及びTNF-α産生の抑制(B)を示したグラフである。
【
図3】クミンの水抽出物及び熱水抽出物による、NO産生の抑制及び細胞生存率を示したグラフである。
【
図4】フェネグリークの水抽出物及び熱水抽出物による、NO産生の抑制及び細胞生存率を示したグラフである。
【
図5】赤唐辛子の水抽出物及び熱水抽出物による、NO産生の抑制及び細胞生存率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]一酸化窒素産生抑制剤
本発明の一酸化窒素産生抑制剤は、コリアンダー及びクミンを含むミックススパイスの水抽出物を含む一酸化窒素産生抑制剤であって、前記ミックススパイスが、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つを更に含む。
【0009】
《水抽出物》
本発明の一酸化窒素産生抑制剤の有効成分の抽出に用いるミックススパイスは、生のまま用いてもよく、又は乾燥させたものを用いてもよい。後述の実施例では、乾燥したスパイスから有効成分を抽出しているが、乾燥物に含まれる有効成分は、生のスパイスにも含まれていると考えられ、水抽出法等により、抽出されると考えられる。また、抽出効率が向上するように、生又は乾燥物を、破砕物又は粉体の状態に加工してから抽出してもよい。
有効成分の抽出には、植物等に由来する成分の水抽出に用いられる通常の抽出方法を用いることができる。具体的には水抽出法、熱水抽出法、又は水蒸気蒸留法が挙げられる。また、抽出液としては、水、生理食塩水、又は緩衝液などを挙げることができる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、炭酸ナトリウム緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、及びトリス緩衝液などが挙げられる。前記抽出液のpHは、特に制限されず、例えば3~10、好ましくは、5~8、より好ましくは、6.5~7.5である。
【0010】
前記水抽出物の抽出温度は、有効成分が抽出液(水等)に抽出される限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば0℃~150℃であることが好ましく、0℃~100℃であることがより好ましく、1℃~100℃であることが最も好ましい。
抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。抽出時間は、例えば根、茎、葉、花、果実、又は種子などの使用部分に応じて適宜決定することができる。また、抽出時間は、例えばスパイスの状態、すなわち、生若しくは乾燥物であるか、又は破砕物若しくは粉体の状態に加工した場合にはその加工状態に応じて適宜決定することができる。更に、抽出時間は、例えば抽出液の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無などの抽出条件に応じて適宜決定することができる。抽出時間は、通常、1分~72時間であり、1時間~48時間であることが好ましく、12時間~36時間であることが最も好ましい。
【0011】
前記抽出物は、基本的にはスパイスが混合されたミックススパイスから抽出される。しかし、ミックススパイスの含まれるそれぞれのスパイスから抽出された抽出物を混合してもよい。ミックススパイスから抽出された抽出物に含まれる有効成分と、各スパイスから抽出された抽出物の混合物に含まれる有効成分は、基本的に同じである。
【0012】
(水抽出法)
水抽出法としては、例えば、ミックススパイスの生粉末又は乾燥粉末に2~100倍量の蒸留水を加え、1~72時間攪拌する。得られた抽出液を遠心分離し、上清を回収する。上清を吸引濾過し、そのまま抽出液として使用するか、又は凍結乾燥して使用する。水の温度は、例えば0℃以上50℃未満で実施することができる。
【0013】
(熱水抽出法)
熱水抽出法としては、例えばミックススパイスの生粉末又は乾燥粉末に2~100倍量の蒸留水を加え、1~72時間攪拌する。得られた抽出液を遠心分離し、上清を回収する。上清を吸引濾過し、そのまま抽出液として使用するか、又は凍結乾燥して使用する。水の温度は、例えば50℃以上、100℃以下で実施することができる。
【0014】
(水蒸気蒸留法)
水蒸気蒸留法とは、カラムに充填した原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法である。蒸留手段として、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、及び減圧水蒸気蒸留のいずれかを採用することができる。
【0015】
前記抽出物は、液体又は固体で、本発明の一酸化窒素産生抑制剤に含まれてよい。液体としては、水抽出物又は熱水抽出物をそのまま用いればよい。固体としては、前記抽出液から水分を除去したものでもよい。具体的な固体としては、ペレット又は乾燥物等が例示できる。前記乾燥物は、例えば凍結乾燥物が挙げられる。水分の除去処理は、例えば自然乾燥処理、加熱乾燥処理、及び凍結乾燥処理等が挙げられる。
【0016】
本発明の一酸化窒素産生抑制剤は、前記ミックススパイスの水抽出物から成るものでもよく、また、ミックススパイスの水抽出物を含むものでもよい。本発明の一酸化窒素産生抑制剤が、ミックススパイスの水抽出物を含むものである場合、他の添加剤を含むことができる。
本発明の一酸化窒素産生抑制剤の投与剤型としては、特には限定がなく、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は非経口剤を挙げることができる。
【0017】
前記経口剤は、例えばゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
非経口剤としては、例えば注射剤を挙げることができる。注射剤の調製においては、有効成分の他に、例えば生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
【0018】
本発明の一酸化窒素産生抑制剤は、ミックススパイスの水抽出物を、例えば乾燥物として、90重量%以上、50重量%以上、10重量%以上、又は1重量%以上含むことができる。一酸化窒素産生抑制剤は、ミックススパイスの水抽出物を含んでもよく、各スパイスの水抽出物の混合物を含んでもよい。
【0019】
《ミックススパイス》
前記ミックススパイスは、コリアンダー及びクミンを含み、更に、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。スパイスの種類は、3種以上であれば限定されないが、好ましくは4種であり、更に好ましくは5種であり、更に好ましくは6種であり、最も好ましくは7種である。
【0020】
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、コリアンダー及びターメリックを含み、更に、クミン、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、コリアンダー及びマンダリンを含み、更に、クミン、ターメリック、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、コリアンダー及びフェネグリークを含み、更に、クミン、ターメリック、マンダリン、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、コリアンダー及びペッパーを含み、更に、クミン、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、コリアンダー及び赤唐辛子を含み、更に、クミン、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、及びペッパーからなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、クミン及びターメリックを含み、更に、コリアンダー、マンダリン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、クミン及びマンダリンを含み、更に、コリアンダー、ターメリック、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、クミン及びフェネグリークを含み、更に、コリアンダー、ターメリック、マンダリン、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、クミン及びペッパーを含み、更に、コリアンダー、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、クミン及び赤唐辛子を含み、更に、コリアンダー、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、及びペッパーからなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、ターメリック及びマンダリンを含み、更に、コリアンダー、クミン、フェネグリーク、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、ターメリック及びフェネグリークを含み、更に、コリアンダー、クミン、マンダリン、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、ターメリック及びペッパーを含み、更に、コリアンダー、クミン、マンダリン、フェネグリーク、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、ターメリック及び赤唐辛子を含み、更に、コリアンダー、クミン、マンダリン、フェネグリーク、及びペッパーからなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、マンダリン及びフェネグリークを含み、更に、コリアンダー、クミン、ターメリック、ペッパー、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、マンダリン及びペッパーを含み、更に、コリアンダー、クミン、ターメリック、フェネグリーク、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、マンダリン及び赤唐辛子を含み、更に、コリアンダー、クミン、ターメリック、フェネグリーク、及びペッパーからなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、フェネグリーク及びペッパーを含み、更に、コリアンダー、クミン、ターメリック、マンダリン、及び赤唐辛子からなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、フェネグリーク及び赤唐辛子を含み、更に、コリアンダー、クミン、ターメリック、マンダリン、及びペッパーからなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
本発明の別の実施態様においては、ミックススパイスは、ペッパー及び赤唐辛子を含み、更に、コリアンダー、クミン、ターメリック、マンダリン、及びフェネグリークからなる群から選択される少なくとも1つのスパイスを含む。
【0021】
ミックススパイスは、全体量に対してそれぞれのスパイスを、例えば0.5~90重量%含み、好ましくは1~80重量%含み、より好ましくは1~70重量%含み、更に好ましくは1~60重量%含む。より具体的には、3種のミックススパイスである場合、全体量に対してそれぞれのスパイスを、例えば0.5~90重量%含み、好ましくは1~80重量%含み、より好ましくは1~70重量%含み、更に好ましくは1~60重量%含む。4種のミックススパイスである場合、全体量に対してそれぞれのスパイスを、例えば0.5~80重量%含み、好ましくは1~75重量%含み、より好ましくは1~70重量%含み、更に好ましくは1~65重量%含み、最も好ましくは1~55重量%含む。5種のミックススパイスである場合、全体量に対してそれぞれのスパイスを、例えば0.5~75重量%含み、好ましくは1~70重量%含み、より好ましくは1~65重量%含み、更に好ましくは1~60重量%含み、最も好ましくは1~50重量%含む。6種のミックススパイスである場合、全体量に対してそれぞれのスパイスを、例えば0.5~70重量%含み、好ましくは1~65重量%含み、より好ましくは1~55重量%含み、更に好ましくは1~50重量%含み、最も好ましくは1~45重量%含む。7種のミックススパイスである場合、全体量に対してそれぞれのスパイスを、例えば0.5~65重量%含み、好ましくは1~60重量%含み、より好ましくは1~55重量%含み、更に好ましくは1~45重量%含み、最も好ましくは1~40重量%含む。
ミックススパイス中の各スパイスの含有量は、本発明の効果が得られる限りにおいて、ミックススパイスの用途等に応じて、適宜調整することができる。
【0022】
前記ミックススパイスは、本発明の効果(例えば、一酸化窒素産生の抑制効果、又は細胞の高生存率)が得られる限りにおいて、前記7種以外のスパイスを含むことができる。7種以外のスパイスとしては、例えばローズマリー、サフラン、マジョラム、ジュニパーベリー、ホースラディッシュ、わさび、オレガノ、サボリー、パセリ、ディルウィード、カフェライムリーフ、ベイリーブス、スターアニス、ガーリック、ナツメグ、メース、シナモン、カルダモン、フェンネル、ローレル、タイム、セージ、キャラウェイ、ペパーミント、スペアミント、タラゴン、レモングラス、パプリカ、バジル、アニス、ディル、ロングペッパー、マスタード、オールスパイス、ジンジャー、セロリシード、クローブ、山椒、花椒、甘草、及びカレーリーフが挙げられ、これらのスパイスの1種以上を含んでもよい。また、3~7種からなるミックススパイスに、7種以外のスパイスを含んでもよい。7種以外のスパイスの含有量は、3~7種からなるミックススパイスの全体量を100重量%とした場合に、0.1~30重量%、好ましくは0.1~20重量%、更に好ましくは0.1~10重量%添加すればよい。
【0023】
ミックススパイスの用途としては、カレー用スパイス、又はガラムマサラ等の各種マサラ用スパイスが挙げられる。カレー用スパイスとしては、少なくともコリアンダー、クミン、及びターメリックを含み、好ましくはペッパーを含み、より好ましくは赤唐辛子を含み、更に好ましくはマンダリンを含み、最も好ましくはフェヌグリークを含む。ガラムマサラ用スパイスとしては、少なくともコリアンダー、クミン、及びカルダモンを含み、好ましくは赤唐辛子を含み、より好ましくはペッパーを含み、最も好ましくはクローブを含む。
【0024】
本発明のミックススパイスは、限定されるわけではないが、スパイスの乾燥品又は乾燥粉末を焙煎したものでもよい。例えば、水分を添加せずに、直火で煎ることができるフライパン、大型鍋や、オーブン、焙煎機、又は砂回転焙煎機などの一般的な加熱機を用いて実施することができる。焙煎の温度は、特に限定されるものではないが80~230℃であり、好ましくは100~200℃であり、更に好ましくは110~180℃である。焙煎時間も特に限定されるものではないが、0.5分~60分であり、好ましくは1~45分で、更に好ましくは3~30分である。焙煎によって水分量を減少させることができるが、一酸化窒素産生抑制の作用を有する有効成分は分化されることはない。一方、細胞の生存率を低下させる成分を減少させることもできる。
焙煎は、スパイスを混合したミックススパイスの状態で実施してもよく、それぞれのスパイスを焙煎してから、混合して焙煎ミックススパイスとしてもよい。
【0025】
(コリアンダー)
コリアンダーは、地中海東部原産のセリ科の一年草である。古くから食用とされ、高さ25cm程度で、葉や茎に独特の芳香がある。また、熟した果実の香りは、レモンにも似ている。葉はパクチーとして生食されているが、乾燥して香辛料としても使用される。更に果実の乾燥したものを、香辛料として用いる。前記ミックススパイスに用いるコリアンダーは、果実の乾燥物である。
【0026】
(クミン)
クミン(Cuminum cyminum)は、地中海沿岸東部原産の一年生又は二年生のセリ科の草本である。草丈は20~40cmであり、株全体に毛はない。葉柄は長さ1cm程度と短く、針形の鞘がある。葉は細長い針型で、2回羽状に全裂する。花は傘形花で直径2~3cmである。花弁の色はピンク又は白色である。花弁の形は、長楕円形であり、先端がわずかに欠ける。種子は長楕円形で両端が狭く、長さ6mm、幅1.5mm程度であり、全体が白い剛毛に被われている。花期は4月ごろで、5月ごろに種子ができる。クミンシードは、一般的には種子と認識されているが、植物学上は果実に該当する。このクミンシードが、香辛料としてよく用いられている。
【0027】
(ターメリック)
ターメリック(turmeric)は、インド原産のショウガ科ウコン属の多年草であり、ウコン(Curcuma longa)とも称される。根茎を煮て、2週間ほど乾燥させて細かく砕いたものが香辛料として使用されている。
本発明に用いるミックススパイスにおいては、限定されるものではないが、ターメリックを含むことにより、細胞への有害な作用を抑制できると推定される。しかしながら、本発明は、この推定によって限定されるものではない。
【0028】
(マンダリン)
陳皮とも称され、ミカン科のマンダリンオレンジ(温州ミカン)の果皮を干した香辛料である。マンダリンオレンジは、ミカン属の柑橘類であり、常緑低木であり、白い花をつけ、秋から冬に果実をつける。
【0029】
(フェネグリーク)
フェネグリークは、地中海地方原産のマメ亜科の一年草植物である。枝分かれしながら60cmほどにまで成長し、黄色か白い花を咲かせた後に細長い豆果を付ける。種子を香辛料として使用する。
【0030】
(ペッパー)
ペッパーは、和名胡椒であり、コショウ科コショウ属のつる性植物の果実を原料とする香辛料であり、乾燥の方法等で、ブラックペッパー、ホワイトペッパー等がある。
ブラックペッパーは、胡椒の木から取れた完全に熟す前の緑色の実を、果皮ごと長時間かけて乾燥させ黒色に変色させたものである。ホワイトペッパーは、赤色に完熟した実を収穫し、乾燥させた後に水に漬け、柔らかくなった果皮を剥いだものである。コショウ(Piper nigrum)は、インド原産のコショウ科コショウ属のつる性植物である。インド、インドネシア、マレーシア、ベトナム、スリランカ、ブラジル、カンボジアなどで生産されている。
【0031】
(赤唐辛子)
赤唐辛子は、中南米を原産とする、ナス科トウガラシ属(Capsicum)の植物であり、果実が香辛料として利用される。熟す前の緑色のものは青唐辛子、熟した赤いものを赤唐辛子と呼ぶ。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
《実施例1》
本実施例では、コリアンダー、クミン、ターメリック、マンダリン、フェネグリーク、ブラックペッパー、及び赤唐辛子を含むミックススパイスの水抽出物及び熱水抽出物の一酸化窒素産生抑制作用、及びTNF-α産生量の抑制作用を検討した。
コリアンダー(20重量%)、クミン(10重量%)、ターメリック(30重量%)、マンダリン(20重量%)、フェネグリーク(15重量%)、ブラックペッパー(3重量%)、及び赤唐辛子(2重量%)を混合して、ミックススパイスを調製した。
ミックススパイスを20gに10倍量の蒸留水(200g)を添加し、そして混合した。スターラーを用いて、4℃で12時間攪拌した。抽出液を3200rpmで10分間、遠心分離した。上清を回収し、最大孔径20~25μmのフィルターで吸引濾過した。得られた上清を凍結乾燥し、水抽出物の乾固物を得た。
【0034】
ミックススパイスを20gに10倍量の蒸留水(200g)を添加し、そして混合した。スターラーを用いて、95℃で1時間攪拌した。抽出液を3200rpmで10分間、遠心分離した。上清を回収し、最大孔径20~25μmのフィルターで吸引濾過した。得られた上清を凍結乾燥し、熱水抽出物の乾固物を得た。
【0035】
得られた水抽出物の乾固物及び熱水抽出物の乾固物のマクロファージに対するNO産生量の抑制効果を検討した。
10%FBS-DMEM培地で継代培養したマクロファージ様細胞株(RAW264.7)を、平板96ウェルプレートに2×10
5cell/wellの細胞密度で播種し、5%CO
2インキュベーター中で、37℃で20時間培養して細胞を定着させた。各サンプルを0.008重量%、0.04重量%、又は0.2重量%の濃度で添加した。また、細菌毒素Lipopolysaccharides(LPS) from E.coli O26:B6を100μg/mLの濃度で添加し、RAW264.7におけるiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)を刺激した。5%CO
2インキュベーターで、37℃で24時間培養した。
NO産生量は、培養液を回収し、Griess Reagent System(Promega社)で溶液中の一酸化窒素(NO
-)の分解生成物である亜硝酸(NO
2-)を測定することによって分析した。
細胞の生存率を、培養終了後にMTT Cell Viability Assay Kit(Biotium社)を用いて、プレート上の細胞の生死を測定した。
図1(A)に示すように、水抽出物及び熱水抽出物ともに、用量依存的に一酸化窒素の産生を抑制した。また、細胞の生存率も良好であった。
【0036】
得られた水抽出物の乾固物及び熱水抽出物の乾固物のTNF-α産生量の抑制効果を検討した。
10%FBS-DMEM培地で継代培養したマクロファージ様細胞株(RAW264.7)を、平板96ウェルプレートに2×10
5cell/wellの細胞密度で播種し、5%CO
2インキュベーター中で、37℃で20時間培養して細胞を定着させた。各サンプルを0.008重量%、0.04重量%、又は0.2重量%の濃度で添加した。また、細菌毒素Lipopolysaccharides(LPS) from E.coli O26:B6を100μg/mLの濃度で添加し、RAW264.7におけるサイトカインカスケードを刺激した。5%CO
2インキュベーターで、37℃で6時間培養した。
TNF-α産生量は、培養液を回収し、TNF alpha Mouse Uncoated ELISA Kit(Invitrogen社)を用いて、培養液中のTNF-α濃度を測定した。
図1(B)に示すように、水抽出物及び熱水抽出物ともに、TNF-α産生を抑制した。
【0037】
《実施例2》
本実施例では、ミックススパイスとしてカレー粉の水抽出物及び熱水抽出物の一酸化窒素産生抑制作用、及びTNF-α産生量の抑制作用を検討した。カレー粉として、赤缶カレー粉(S&B社)を用いた。コリアンダー、クミン、ターメリック、フェネグリーク、こしょう、赤唐辛子、及び陳皮を含んでいる。なお、赤缶カレー粉のミックススパイスは、100℃以上で焙煎されている。
実施例1のミックススパイスに代えて、赤缶カレー粉を用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、水抽出物の乾固物及び熱水抽出物の乾固物を得、そしてNO産生量の抑制効果、及びTNF-α産生量の抑制作用を検討した。
図2(A)に示すように、水抽出物及び熱水抽出物ともに、用量依存的に一酸化窒素の産生を抑制した。また、
図2(B)に示すように、水抽出物及び熱水抽出物ともに、TNF-α産生を抑制した。
【0038】
《参考例1》
本参考例では、クミンの水抽出物及び熱水抽出物の一酸化窒素産生抑制作用を検討した。
ミックススパイスに代えて、クミンを用いたことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、水抽出物の乾固物及び熱水抽出物の乾固物を得、そしてNO産生量の抑制効果を検討した。なお、TNF-α産生量の抑制については、実施しなかった。
図3に示すように、水抽出物及び熱水抽出物ともに、用量依存的に一酸化窒素の産生を抑制した。0.2重量%の添加で、細胞の生存率が、若干低下した。
【0039】
《参考例2》
本参考例では、フェネグリークの水抽出物及び熱水抽出物の一酸化窒素産生抑制作用を検討した。
クミンに代えて、フェネグリークを用いたことを除いては、参考例1の操作を繰り返して、水抽出物の乾固物及び熱水抽出物の乾固物を得、そしてNO産生量の抑制効果を検討した。
図4に示すように、水抽出物及び熱水抽出物ともに、一酸化窒素の産生を抑制した。0.2重量%の添加で、細胞の生存率が、若干低下した。
【0040】
《参考例3》
本参考例では、赤唐辛子の水抽出物及び熱水抽出物の一酸化窒素産生抑制作用を検討した。
クミンに代えて、赤唐辛子を用いたことを除いては、参考例1の操作を繰り返して、水抽出物の乾固物及び熱水抽出物の乾固物を得、そしてNO産生量の抑制効果を検討した。
図5に示すように、水抽出物及び熱水抽出物ともに、用量依存的に一酸化窒素の産生を抑制した。0.2重量%の添加で、細胞の生存率が、低下した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の一酸化窒素産生抑制剤及び一酸化窒素産生抑制用食品組成物は、炎症を抑えることができる。