(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-18
(45)【発行日】2025-06-26
(54)【発明の名称】冷菓用水中油型乳化物、冷菓、及び冷菓の風味強化方法
(51)【国際特許分類】
A23G 9/00 20060101AFI20250619BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20250619BHJP
A23G 9/42 20060101ALI20250619BHJP
【FI】
A23G9/00 101
A23D9/00 512
A23G9/42
(21)【出願番号】P 2021032085
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 喬比古
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/028483(WO,A1)
【文献】特開2015-015907(JP,A)
【文献】特開2003-250455(JP,A)
【文献】特開2018-186722(JP,A)
【文献】特開2019-180297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱臭焙煎胡麻油を
10~250ppm含有する冷菓用水中油型乳化物。
【請求項2】
脱臭焙煎胡麻油の脱臭温度が200℃以下である請求項
1に記載の冷菓用水中油型乳化物。
【請求項3】
脱臭焙煎胡麻油の焙煎温度が250℃以下である請求項1
又は2に記載の冷菓用水中油型乳化物。
【請求項4】
乳固形分が15質量%未満であるか又は乳脂肪分が8質量%未満である、請求項1~
3の何れか1項に記載の冷菓用水中油型乳化物。
【請求項5】
脱臭焙煎胡麻油を
冷菓用水中油型乳化物中に10~250ppm含有させる工程を有する冷菓用水中油型乳化物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の冷菓用水中油型乳化物を含有させた冷菓。
【請求項7】
請求項1~4の何れか1項に記載の冷菓用水中油型乳化物を含有させる、冷菓の風味強化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷菓用水中油型乳化物、冷菓、及び冷菓の風味強化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本でよく食される菓子の一つに冷菓がある。冷菓は、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス(以下、単にアイスクリーム類とも書く。)、氷菓に分類される。乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(以下、乳等省令とも書く。)によれば、アイスクリームは乳固形分が15質量%以上で、そのうち乳脂肪分が8質量%以上であるものを指し、アイスミルクは乳固形分が10質量%以上で、そのうち乳脂肪分が3質量%以上であるものを指し、ラクトアイスは乳固形分が3質量%以上であるものを指すと定義されている。また、食品、添加物等の規格基準によれば、氷菓は乳固形分が3質量%未満であるものを指すと定義されている。これらの冷菓は、水、脂肪分、乳成分、糖類、乳化剤、安定剤などを混合乳化して水中油型乳化物とし、この水中油型乳化物を必要に応じて含気しながら冷凍することにより製造される。
【0003】
これらの冷菓では、乳固形分と乳脂肪分の含有量の高いアイスクリームが最も濃厚な乳風味を有している。これに対し、アイスミルクやラクトアイスは乳固形分や乳脂肪分を減らし、植物油脂や豆乳等の植物由来の原料を使用した水中油型乳化物を使用して製造されるため、アイスクリームと比較すると乳風味が不足し、濃厚な乳風味が得られない。また、乳脂や乳固形分は冷菓の濃厚感を付与する効果もあるため、冷菓がバニラやチョコレート、いちご、抹茶等の風味成分を含有する場合、乳固形分や乳脂肪分を減らすと、それら風味成分の濃厚感が低下するという問題もあった。なお、上記濃厚感とは風味の強さと質が口中で持続することである。
そこで、乳固形分や乳脂肪分が少ない、又は含まない冷菓における乳風味や、乳や風味成分の濃厚感を向上させる手法が検討されてきた。その手法の一つとして、冷菓用水中油型乳化物に乳風味を呈する油脂を含有させる手法がある。
【0004】
例えば、マロニルイソフラボン配糖体を5~50ppm、及びδ-ラクトン類を10~1000ppm含有する乳脂様風味油脂を使用する手法(特許文献1参照)や、構成脂肪酸として炭素数が6~10である脂肪酸のみが結合しており、構成脂肪酸全量に占める炭素数8の脂肪酸の含有量が75質量%以上であるトリアシルグリセロールを、乳化物である食品に含まれる全油脂中0.005~3質量%含有させる手法(特許文献2参照)が開示されている。
【0005】
しかし、これらの手法においては、乳風味を呈する油脂を得るために煩雑な工程を経なければならないという課題があった。さらに、たしかにこれらの技術によって乳風味は向上させることができるが、乳や風味成分の濃厚感は改善されないものであった。
そこで、乳風味に限らず、冷菓の乳や風味成分の濃厚感も向上させる手法が検討されている。
【0006】
例えば、構成脂肪酸としてラウリン酸を20~60質量%含み、20℃のSFC(固体脂含量)が30以上であり、30℃のSFCが8以上である冷凍菓子用油脂組成物を用いる手法(特許文献3参照)や、パーム系油脂及びラウリン系油脂の少なくとも一方と、オリーブ油とを有し、オリーブ油の含有量が10~50質量%である冷凍菓子用ミックスを用いる手法(特許文献4参照)が開示されている。
しかし、特許文献3においては、SFCが高い油脂を使用する必要があり、冷菓の口どけが悪くなってしまう問題があった。また、特許文献4においては、強い風味を有する油脂を多量に使用する必要があり、冷菓に異味が付与されてしまう問題があった。
このように、従前の検討とは異なり、乳固形分や乳脂肪分が少ない、又は含まない場合であっても、冷菓の乳風味や、乳や風味成分の濃厚感を、口どけの悪化や異味を付与することなく、簡単な方法で向上させることができる手法が求められている。
ところで、日本では、食品に良好な風味を与えるために、しばしば香味を有する油脂を調理や食品に添加して用いてきた。特に胡麻油は、古来より人々に親しまれ用いられてきた。
【0007】
胡麻油は「焙煎油」、すなわち胡麻種子を焙煎してから圧搾あるいは抽出して得られる、色が濃く、濃厚な胡麻風味を有する油脂と、「太白油」、すなわち通常の植物油脂と同様に胡麻種子を焙煎することなく搾油し、脱ガム、脱酸、漂白及び脱臭して得られる、透明で無風味な油脂に分類される。
ここで、前者の焙煎油は脱臭するとその特徴が消失することから、脱臭工程を経ることなくそのままで各種飲食品、特に中華料理や和風料理を中心に、胡麻風味を積極的に付与する用途に利用されている。(例えば、特許文献5の段落〔0007〕参照)
【0008】
また、焙煎胡麻油を利用した油脂組成物に関する発明としては、臭気を有する油脂に50ppm程度のごく少量の焙煎胡麻油を添加して臭気と焙煎油の風味の両方を抑制した油脂組成物(特許文献6参照)、精製油脂に50%以上となるように焙煎胡麻油を添加した香味を有する精製油脂(特許文献7参照)などがある。
なお、上述のように焙煎油は脱臭するとその特徴が消失することから、焙煎油を脱臭して精製油とすることは通常はなく、わずかに、臭気を有する油脂に0.01~1%という少量の脱臭焙煎胡麻油を添加して臭気と焙煎油の風味の両方を抑制した油脂組成物(特許文献8参照)があるのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-188367号公報
【文献】特開2019-004913号公報
【文献】特開2020-028238号公報
【文献】特開2019-017335号公報
【文献】WO2005-073356号パンフレット
【文献】特開2007-236206号公報
【文献】特開2009-284803号公報
【文献】WO2009-028483号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明が解決しようとする課題は、乳固形分や乳脂肪分が少ない、又は乳固形分や乳脂肪分を含まない場合であっても、冷菓の乳風味や、乳や風味成分の濃厚感を、口どけの悪化や異味を付与することなく、簡単な方法で向上させることができる手法を提供することである。乳固形分や乳脂肪分を含まない場合としては例えば動物乳製品の代わりに植物性ミルクを用いる場合等が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々の検討を重ねた結果、通常、脱臭処理を施すことのない焙煎胡麻油に対して脱臭処理を施した、脱臭焙煎胡麻油を冷菓用水中油型乳化物の製造に使用することにより、驚くべきことに冷菓の乳風味が向上し、乳や風味成分の濃厚感も与えられることを知見した。
【0012】
本発明は、上記知見に基づくものであり、すなわち、
(1)脱臭焙煎胡麻油を含有する冷菓用水中油型乳化物。
(2)脱臭焙煎胡麻油の含量が冷菓用水中油型乳化物中10~250ppmである(1)に記載の冷菓用水中油型乳化物。
(3)脱臭焙煎胡麻油の脱臭温度が200℃以下である(1)又は(2)に記載の冷菓用水中油型乳化物。
(4)脱臭焙煎胡麻油の焙煎温度が250℃以下である(1)~(3)の何れかに記載の冷菓用水中油型乳化物。
(5)乳固形分が15質量%未満であるか又は乳脂肪分が8質量%未満である、(1)~(4)の何れかに記載の冷菓用水中油型乳化物。
(6)脱臭焙煎胡麻油を含有させる工程を有する冷菓用水中油型乳化物の製造方法。
(7)脱臭焙煎胡麻油を含有させた冷菓。
(8)脱臭焙煎胡麻油を含有させる、冷菓の風味強化方法。
に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、乳固形分や乳脂肪分が少ない、又は含まない場合であっても、口どけの悪化や異味を付与することなく、冷菓の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感のある冷菓を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述する。
まず、本発明で使用する脱臭焙煎胡麻油について説明する。
本発明で使用する脱臭焙煎胡麻油とは、胡麻種子を焙煎してから圧搾あるいは抽出して得た焙煎胡麻油を、その後脱臭して得られる油脂である。従来知られている胡麻油には、色が濃く、濃厚な胡麻風味を有する焙煎油や、透明で無風味の太白油があるが、本発明で使用する脱臭焙煎胡麻油は、これらのいずれとも異なる油脂である。なお、圧搾あるいは抽出の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0015】
本発明で使用する脱臭焙煎胡麻油の焙煎温度とは、脱臭焙煎胡麻油を製造するために用いる胡麻種子の焙煎温度を指す。脱臭焙煎胡麻油の焙煎温度は、乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与える効果を好ましく得る点と、異味を生じさせない点から、120~250℃であることが好ましく、150~210℃であることがより好ましい。
【0016】
上記焙煎胡麻油の脱色については行っても行わなくてもよいが、風味維持の点から未脱色であることが好ましい。脱色を行う場合は、脱色の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
上記焙煎胡麻油の脱臭の方法は特に限定されないが、油脂の精製に通常用いられる減圧水蒸気蒸留にて脱臭することが好ましい。
【0017】
本発明で使用する脱臭焙煎胡麻油の脱臭温度とは、上記減圧水蒸気蒸留の温度を指す。脱臭焙煎胡麻油の脱臭温度は特に制限はなく、通常の油脂と同様の脱臭温度であればよいが、本発明の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与える効果を好ましく得る点から、200℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることが最も好ましい。
【0018】
脱臭温度が200℃を超える場合、得られる脱臭焙煎胡麻油に対して加熱臭が付与されやすく、この加熱臭が異味として現れやすくなる恐れがある。なお、脱臭温度の下限については、脱臭の効果を良好に得る観点から90℃以上であることが好ましい。
上記の脱臭を行う時間については、減圧下、10~300分の範囲で適宜選択可能であるが、30~150分であることが好ましく、60~150分であることがより好ましい。上記範囲の時間で脱臭を行うことで、脱臭時の加熱臭の発生を抑制し、良好に脱臭の効果を得ることができる。
【0019】
減圧の程度は、油脂の劣化抑制及び風味維持の観点から、絶対圧で1500Pa以下とすることが好ましく、900Pa以下とすることがより好ましい。
また、水蒸気蒸留における水蒸気の吹込み量は、油脂の劣化抑制及び風味維持の観点から、油脂に対して1~8質量%であることが好ましく、2~6質量%であることがより好ましい。
【0020】
なお、脱臭焙煎胡麻油に係る、上記の脱臭温度及び焙煎温度、減圧の程度や水蒸気吹き込み量等の記載が、仮に物の製造方法により物を特定するものであったとしても、本願出願時においては、脱臭焙煎胡麻油の特性を全て特定することが不可能であるという事情が存在した。具体的には、本明細書で述べた脱臭焙煎胡麻油による効果と関係する脱臭焙煎胡麻油の特性を確認することには、新たな測定方法を確立して特定する必要があり、そのためには、著しく過大な経済的支出及び時間を要する。このため、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、出願人は、上記の脱臭及び焙煎等に係る各条件を記載した。
【0021】
次に、本発明の冷菓用水中油型乳化物について説明する。
本願における冷菓用水中油型乳化物とは、油脂、水、その他原料を含有し、凍結させることで冷菓となる水中油型乳化物である。
本発明の冷菓用水中油型乳化物は、上記脱臭焙煎胡麻油を含有することを特徴の一つとする。上記脱臭焙煎胡麻油を含有することで、乳固形分や乳脂肪分が少ない、又は含まない場合であっても、本発明の冷菓用水中油型乳化物や、本発明の冷菓用水中油型乳化物から製造された冷菓の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与えることができる。
【0022】
なお、本明細書における、乳固形分や乳脂肪分が少ない冷菓用水中油型乳化物や冷菓とは、冷菓用水中油型乳化物中の乳固形分が15質量%未満、又は乳脂肪分が8質量%未満のものを指す。乳固形分は、水分以外の動物乳由来成分(乳脂肪分と無脂乳固形分の合計)を指し、乳脂肪分は、その乳固形分の中でも動物乳由来の脂肪成分を指す。
【0023】
本発明の冷菓用水中油型乳化物の上記脱臭焙煎胡麻油の含量は、求める味の強度や質によって、冷菓用水中油型乳化物の機能や味、本発明の冷菓用水中油型乳化物から製造された冷菓の味に影響が出ない範囲で任意に設定することができる。本発明の冷菓用水中油型乳化物や本発明の冷菓用水中油型乳化物から製造された冷菓の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与える効果をより好ましく得る点では、上記脱臭焙煎胡麻油の含量は、冷菓用水中油型乳化物中10~250ppmであることが好ましく、20~200ppmであることがより好ましく、25~150ppmであることが最も好ましい。上記脱臭焙煎胡麻油の含有量が冷菓用水中油型乳化物中250ppm以下であると、乳風味を向上させ乳や風味成分の濃厚感を与えながら、脱臭焙煎胡麻油由来の風味が強く発現して異味として感じる恐れを防止できる。上記脱臭焙煎胡麻油の含有量が冷菓用水中油型乳化物中10ppm以上であると、乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与える効果が確実に得られる。
【0024】
本発明の冷菓用水中油型乳化物には上記脱臭焙煎胡麻油以外に、その他の油脂が含有される。
上記その他の油脂としては特に制限がないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、紅花油、亜麻仁油、グレープシードオイル、チアシードオイル、マカダミアナッツ油、アーモンド油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、カカオ脂、シア脂等の植物油脂や、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することができる。
【0025】
本発明においては、これらの油脂を、その他の油脂として単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。本発明の冷菓用水中油型乳化物を用いて製造した冷菓の口どけを良好にする点で、パーム油、パーム核油、ヤシ油、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することが好しく、これらの中でも、油脂を構成する脂肪酸残基中ラウリン酸残基が35質量%以上である油脂、例えば、パーム核油やヤシ油、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することがさらに好ましい。ラウリン酸残基が35質量%以上である油脂を使用する場合、その使用割合は、水中油型乳化物に用いる油脂中30質量%以上であることが口溶けの点で好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。ここでいう油脂には、焙煎脱臭胡麻油や、後述するその他原料に含まれる油脂分も含むものとする。尚、脂肪酸残基とは、脂肪酸(RCOOH;たとえば、Rは炭化水素基)から水酸基を除いた有機基であるアシル基(RCO-)を意味する。
【0026】
本発明の冷菓用水中油型乳化物の油脂の含量は、冷菓用水中油型乳化物中1~40質量%であることが好ましく、3~25質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることが最も好ましい。油脂の含量が上記の範囲内であると、冷菓用水中油型乳化物の乳化が安定となり、風味が良好なものとなる。
なお、上記本発明の冷菓用水中油型乳化物の油脂の含量は、上記脱臭焙煎胡麻油とその他油脂、後述のその他原料に含まれる油脂の合計量である。上記本発明の冷菓用水中油型乳化物の油脂のうち、後述のその他原料由来の油脂は、冷菓用水中油型乳化物中8質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
また、本発明の冷菓用水中油型乳化物から製造された冷菓の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与えるという効果を低下させないために、コーン油やオリーブ油等の、上記脱臭焙煎胡麻油以外の、常温(25℃)で液状である油脂は含有させないことが好ましい。常温で液状である油脂の量は、本発明の冷菓用水中油型乳化物の油脂の含量中、5質量%以下であることが、冷菓の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与える効果が好ましく得られる点から好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
本発明は、乳脂肪分が少ない、又は含まない場合に高い効果が得られるため、冷菓用水中油型乳化物中の乳脂の含量(乳脂肪分)は8質量%未満であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることが最も好ましい。
なお、上記本発明の冷菓用水中油型乳化物に含有される乳脂とは、油脂とその他原料が含有する乳脂の合計である。
【0029】
また、本発明の冷菓用水中油型乳化物の乳固形分の含量は、冷菓用水中油型乳化物中15質量%未満であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましい。
なお、上記本発明の冷菓用水中油型乳化物に含有される乳固形分とは、油脂とその他原料が含有する乳固形分の合計である。
【0030】
なお本発明の冷菓用水中油型乳化物は、動物乳又は豆乳等の植物性ミルクの固形分として2質量%以上含有することが冷菓の風味強化の効果が一層高くなる点で好ましい。植物性ミルクの固形分の上限としては、例えば、特に限定はされないが一般に12質量%以下であることが、本発明の風味向上効果が発揮されやすい点から好ましい。
【0031】
本発明の冷菓用水中油型乳化物は、本発明の冷菓用水中油型乳化物から製造された冷菓の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与える効果をより一層強化できるという点で、乳清ミネラルを含有することが好ましい。
乳清ミネラルとは、乳又はホエーから、可能な限り蛋白質や乳糖を除去したものであり、高濃度に乳の灰分を含有するという特徴を有する。そのため、そのミネラル組成は、原料となる乳やホエー中のミネラル組成に近い比率となる。本発明で使用する乳清ミネラルは、本発明の冷菓用水中油型乳化物から製造された冷菓の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与える効果が高くなる点で、固形分中のカルシウム含量が2質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。なお、該カルシウム含量は低いほど好ましい。
なお以下、本明細書で単に「固形分」という場合、水分を除く全成分量の合計を指す。
【0032】
牛乳から通常の製法で製造された乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含量が5質量%以上である。上記カルシウム含量が2質量%未満の乳清ミネラルは、乳又はホエーから、膜分離及び/又はイオン交換、更には冷却により、乳糖及び蛋白質を除去して乳清ミネラルを得る際に、あらかじめカルシウムを低減した乳を使用した酸性ホエーを用いる方法、あるいは、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にカルシウムを除去する工程を挿入することで得ることができるが、工業的に実施する上での効率やコストの点で、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にある程度ミネラルを濃縮した後に、カルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法を採ることが好ましい。ここで使用する脱カルシウムの方法としては、特に限定されず、調温保持による沈殿法等の公知の方法を採ることができる。
【0033】
本発明の冷菓用水中油型乳化物に使用される乳清ミネラルの形態は特に制限がなく、流動状やペースト状、固形状、粉末状等、どのような形態であっても使用できる。
本発明の冷菓用水中油型乳化物における乳清ミネラルの含量は、冷菓用水中油型乳化物中固形分として0.002~0.1質量%であることが好ましく、0.004~0.05質量%であることがより好ましい。
【0034】
本発明の冷菓用水中油型乳化物に用いられる水は、通常の冷菓用水中油型乳化物を製造する際に用いられる水を使用することができる。例えば、水道水やミネラルウォーター等が挙げられる。
本発明の冷菓用水中油型乳化物の水の含量は、50~85質量%であることが好ましく、55~80質量%であることがより好ましい。
なお、上記本発明の冷菓用水中油型乳化物の水の含量には、後述のその他原料に含まれる水分も含む。
【0035】
本発明の冷菓用水中油型乳化物に用いられる、脱臭焙煎胡麻油、油脂、水、乳清ミネラル以外のその他原料は、特に制限されず、通常の冷菓用水中油型乳化物を製造する際に用いられる原料を用いることができる。例えば、乳や乳製品、糖類、高甘味度甘味料、果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びそれらの加工品、卵類及びその加工品、乳化剤、酸化防止剤、安定剤、着色料、風味材料、調味料、香料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、食品添加物、その他食品素材等が挙げられる。これらの中から1種又は2種以上を用いることができる。
上記乳は、例えば、牛乳、ヤギや羊等の動物から得られる動物乳、脱脂乳等が挙げられる。上記乳製品は、例えば、脱脂粉乳、全脂粉乳、発酵乳、生クリーム、コンパウンドクリーム、バター、チーズ、ヨーグルト、練乳、加糖練乳、濃縮乳、ホエー(乳清)、ホエーパウダー等が挙げられる。
【0036】
上記糖類は、例えば、上白糖、ショ糖、乳糖、ブドウ糖、果糖、グラニュー糖、黒糖、麦芽糖、粉糖、液糖、異性化糖、転化糖、酵素糖化水あめ、異性化水あめ、ショ糖結合水あめ、還元澱粉糖化物、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の糖類、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール等の糖アルコール等が挙げられる。
本発明の冷菓用水中油型乳化物の糖類の含量は、冷菓用水中油型乳化物中、固形分で5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましい。なお、本発明の冷菓用水中油型乳化物の糖類の含量には、ほかのその他成分に含まれる糖類も含む。
【0037】
上記高甘味度甘味料は、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、ネオテーム、甘草、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、ジヒドロカルコン、ソーマチン、モネリン等が挙げられる。
上記果物・野菜・豆類・穀物類・種実類及びそれらの加工品は、例えば、果物や野菜の果実、果肉、果汁、大豆やえんどう豆等の豆類、小麦や大麦、米等の穀物類、アーモンドやマカダミアナッツ、ココナッツ等の種実類、豆乳やアーモンドミルク、ココナッツミルク等の豆類、穀物類、種実類由来の植物性ミルク、及びこれらを加工して製造されたジャムやペースト、粉末、乾燥物等が挙げられる。
【0038】
上記卵類及びその加工品は、例えば、全卵、卵黄、卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白等、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等が挙げられる。
【0039】
上記乳化剤は、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド、レシチン、リゾレシチン、乳脂肪球皮膜等が挙げられる。
本発明の冷菓用水中油型乳化物における乳化剤の含量は、冷菓用水中油型乳化物中0.05~0.5質量%であることが好ましい。
【0040】
上記酸化防止剤は、例えば、トコフェロールや茶抽出物等が挙げられる。
【0041】
上記安定剤は、例えば、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、キサンタンガム、グルコマンナン、タラガム、グアーガム、ジェランガム、アラビアガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム等の増粘多糖類や、澱粉類及び加工澱粉類等が挙げられる。
【0042】
上記着色料は、例えば、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等が挙げられる。
【0043】
上記風味材料は、例えば、チョコレートやココアパウダー、カカオマス、抹茶・紅茶・緑茶等の茶葉やその粉末、はちみつ、甘酒や洋酒等の、風味成分を有する材料が挙げられる。
【0044】
上記調味料は、例えば、塩化カリウムや塩化ナトリウム、食塩、香辛料等が挙げられる。
【0045】
上記本発明の冷菓用水中油型乳化物のその他原料の含量は、冷菓用水中油型乳化物中10~49質量%であることが好ましく、15~40質量%であることがより好ましい。
本発明の冷菓用水中油型乳化物の油脂、水、及びその他原料の含量は、冷菓用水中油型乳化物としての能力を発揮できる範囲内であれば、合計が100質量%となるように自由に設定できるが、それぞれの含量がすべて上記好ましい範囲内であることが好ましい。
なお、ここでいうその他原料の含量は、その他原料が油脂分又は水分を含有する場合、当該油脂分又は水分を含まない量とする。
【0046】
なお、本発明において、水中油型乳化物には、水中油中水型などの多重乳化型を含むものとする。
【0047】
次に、本発明の冷菓用水中油型乳化物の製造方法について説明する。
本発明の冷菓用水中油型乳化物の製造方法は、上記脱臭焙煎胡麻油を含有させる工程を有することを特徴の一つとする。上記脱臭焙煎胡麻油を含有させる工程を有する以外は、通常の冷菓用水中油型乳化物の製造方法と同様でよい。なお、上記脱臭焙煎胡麻油を含有させる工程は、製造のどの段階でもよいが、乳化前であることが本発明の効果を高く得られる点で好ましい。その際には、油相を得る段階で上記脱臭焙煎胡麻油とその他油脂とを混合することが最も好ましい。また、上記脱臭焙煎胡麻油を混合する工程は何度かに分けて行うこともできるが、一度に混合することが好ましい。また、乳化後に均質化することが好ましい。
【0048】
以下に、好ましい製造方法の一様態について述べる。
上記脱臭焙煎胡麻油とその他油脂を加温して融解させ、混合し、ここに必要に応じて油溶性のその他原料を加えて撹拌し、これらを分散・溶解させた油相を得る。次に、加温した水(好ましくは50~75℃)に、水溶性のその他原料を加えて撹拌し、これらを分散・溶解させた水相を得る。そして、水相に油相を加え、混合、撹拌することによって乳化させ、水中油型の予備乳化物を得る。
【0049】
次いで、得られた上記予備乳化物を、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置により均質化する。均質化圧力は特に制限がないが、0~200MPaであることが好ましい。2段式ホモジナイザーを用いて均質化を行う場合は、例えば、1段目を3~150MPa、2段目を15~200MPaで行うことが好ましい。また、均質化後に、必要に応じてその他原料をさらに追加して混合してもよい。
【0050】
上記予備乳化物を均質化後、必要によりインジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、プレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌又は加熱殺菌処理を施してもよく、直火等の加熱調理により加熱殺菌してもよい。さらに、加熱殺菌後に必要に応じて再度均質化してもよい。
【0051】
加熱殺菌の条件は、殺菌の効果が得られる条件の範囲内であれば特に制限がないが、60~100℃で5秒~60分間加熱殺菌することが好ましい。
上記予備乳化物を均質化後、好ましくは0~10℃まで冷却する。冷却は、徐冷又は急冷のいずれでもよいが、急冷により行うことが好ましい。ここで急冷とは、-0.5℃/分以上、好ましくは-1.0℃/分以上の冷却速度で冷却を行うことを指す。
冷却後、エージングを行う。エージングの温度は、0~10℃であることが好ましい。また、エージングを行う時間は特に制限されないが、1~48時間行うことが好ましく、5~36時間行うことがより好ましい。また、必要に応じてエージング後に、0~10℃で本発明の冷菓用水中油型乳化物を保存することができる。
【0052】
上記の製造方法によって得られた、脱臭焙煎胡麻油を含有する冷菓用水中油型乳化物と、その他の冷菓用水中油型乳化物を混合することによって、本発明の冷菓用水中油型乳化物を得ることもできる。
【0053】
次に、本発明の冷菓について述べる。
本発明の冷菓は、上記脱臭焙煎胡麻油を含有させたものであり、上記本発明の冷菓用水中油型乳化物を使用して製造された冷菓であることが好ましい。なお、本発明で言う冷菓とは、冷凍状態で食される食品の総称であり、日本の乳及び乳製品の成分規格等に関する省令ではアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス,氷菓に分類される。上述した通り、アイスクリームは乳固形分が15質量%以上で、そのうち乳脂肪分が8質量%以上であるものを指し、アイスミルクは乳固形分が10質量%以上で、そのうち乳脂肪分が3質量%以上であるものを指し、ラクトアイスは乳固形分が3質量%以上であるものを指す。また冷菓の具体例としては、アイスクリーム、ソフトクリーム、かき氷、ジェラート、シャーベット、フローズンヨーグルト、ソルベ、アイスキャンディ、フラッペ等が挙げられる。
【0054】
本発明の冷菓の乳固形分の含量は、本発明の乳脂が少ない場合に高い効果を有することから、冷菓中15質量%未満であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましい。
【0055】
本発明の冷菓の乳脂肪分の含量は、本発明の乳脂が少ない場合に高い効果を有することから、冷菓中8質量%未満であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることが最も好ましい。
【0056】
なお本発明の冷菓は、動物乳又は豆乳等の植物性ミルクの固形分として2質量%以上含有することが冷菓の風味強化の効果が一層高くなるため好ましい。植物性ミルクの固形分の上限としては、例えば、特に限定はされないが一般に12質量%以下であることが、本発明の風味向上効果が発揮されやすい点から好ましい。
【0057】
本発明の冷菓の、上記脱臭焙煎胡麻油の含有量は、冷菓中10~250ppmであることが好ましく、20~200ppmであることがより好ましく、25~150ppmであることがさらに好ましい。
【0058】
本発明の冷菓は、上記脱臭焙煎胡麻油を使用する以外は、通常の冷菓と同様の方法で製造することができる。具体的には、例えば、冷菓と上記脱臭焙煎胡麻油を直接混合する方法や、冷菓用水中油型乳化物に上記脱臭焙煎胡麻油を混合しながら凍結させる方法、上記本発明の冷菓用水中油型乳化物を凍結させる方法が挙げられるが、冷菓の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与える効果がより好ましく得られ、上記脱臭焙煎胡麻油由来の異味を生じさせにくいという点で、上記冷菓用水中油型乳化物を凍結させる方法が好ましい。
本発明の冷菓における構成成分やその量、例えば水、油脂、乳清ミネラル及びその他原料についての種類並びにそれらの好ましい量としては、上記の冷菓用水中油型乳化物における水、油脂、乳清ミネラル及びその他原料についての種類及びそれらの好ましい量と同様とすることができる。上記で挙げた各種成分の水中油型乳化物中の好ましい量は、冷菓中の好ましい量とすることができる。
【0059】
本発明の冷菓を製造する好ましい一様態を以下に示す。例えば、上記本発明の冷菓用水中油型乳化物を、フリーザーを用いて撹拌しながら冷却し、好ましくは含気させながら凍結させることで本発明の冷菓を製造することができる。上記フリーザーとしては、冷菓を製造するためのものであれば特に制限はなく、例えば、カルピジャーニ社の「ソフトフリーザー191BAR/PSP」を用いて、冷菓用水中油型乳化物を撹拌しながら冷却し、含気させ、凍結させて本発明の冷菓を製造することができる。
【0060】
本発明の冷菓を上記本発明の冷菓用水中油型乳化物を用いて製造する場合は、本発明の冷菓の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感を与えるという効果を損ねない範囲で、上記本発明の冷菓用水中油型乳化物に用いることのできるその他原料を必要によりさらに含有させることができる。さらに含有させるその他原料は、冷菓用水中油型乳化物に加えても良いし、凍結して冷菓とした後に加えてもよい。さらに含有させるその他原料は、冷菓用水中油型乳化物100質量部に対し、25質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
【0061】
本発明の冷菓を製造する際の冷却温度は、-10~-30℃であることが好ましい。
本発明の冷菓のオーバーランは、50%以上が好ましく、70~150%であることがより好ましい。冷菓のオーバーランとは、冷菓中の含気量の指標であり、冷菓に含気されている気体の容積を、同冷菓中の冷菓用水中油型乳化物の容積で割り、百分率で表すことで求めることができる。例えば、ある冷菓の容積中50%が空気であれば、その冷菓のオーバーランは100%となる。
【0062】
冷菓のオーバーランは、冷菓の口当たりを左右する数値であり、一般的にオーバーランが低いと重たい口当たりとなり、オーバーランが高いと軽い口当たりとなる。冷菓のオーバーランが上記範囲であると、口当たりが良好で、本発明の冷菓の乳風味や、乳や風味成分の濃厚感が良好となる効果を感じやすいため好ましい。
【0063】
次に、本発明の冷菓の風味強化方法について説明する。
本発明の冷菓の風味強化方法は、上記脱臭焙煎胡麻油を冷菓に含有させることを特徴の一つとするものである。本発明の冷菓の風味強化方法により、冷菓用水中油型乳化物及び冷菓の乳固形分や乳脂肪分が少ない、又は含まない場合であっても、冷菓の乳風味を向上させ、乳や風味成分の濃厚感が良好なものに強化することができる。なお乳風味とは、一般に牛乳等の動物乳の風味を指すが、本明細書において、「乳風味」には、動物乳の風味だけでなく、豆乳等の植物性ミルクの風味も含めるものとする。同様に、本明細書において、同様に乳の濃厚感という場合、動物乳の濃厚感だけでなく、植物性ミルクの濃厚感も含めるものとする。
冷菓用水中油型乳化物及び冷菓への、上記脱臭焙煎胡麻油の好ましい添加量及び添加方法は上述の通りである。
【実施例】
【0064】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0065】
〈脱臭焙煎胡麻油の製造〉
〔製造例1〕
未脱臭の焙煎胡麻油(焙煎温度:160℃以上200℃未満)に対し、脱臭(脱臭温度120℃、120分間、水蒸気吹込み量は油脂に対して5質量%、絶対圧4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、脱臭焙煎胡麻油Aを得た。
【0066】
〔製造例2〕
未脱臭の焙煎胡麻油(焙煎温度:160℃以上200℃未満)に対し、脱臭(脱臭温度100℃、150分間、水蒸気吹込み量は油脂に対して5質量%、絶対圧4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、脱臭焙煎胡麻油Bを得た。
【0067】
〔製造例3〕
未脱臭の焙煎胡麻油(焙煎温度:160℃以上200℃未満)に対し、脱臭(脱臭温度250℃、60分間、水蒸気吹込み量は油脂に対して5質量%、絶対圧4.0×102Pa以下の減圧下)を行い、脱臭焙煎胡麻油Cを得た。
【0068】
〈乳清ミネラルの製造〉
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエーをナノ濾過膜分離し、更に逆浸透濾過膜分離により濃縮した。次いで、80℃、20分の加熱処理をして生じた沈殿を遠心分離して除去し、固形分37質量%の液体状の乳清ミネラルを得た。得られた乳清ミネラルの固形分中のカルシウム含量は0.14質量%であった。
【0069】
〈冷菓用水中油型乳化物の製造〉
〔実施例1〕
ヤシ油8質量部、脱臭焙煎胡麻油A0.004質量部(水中油型乳化物中40ppm)を55℃に加温して溶解させて混合し、混合油脂を得た。ここにグリセリン脂肪酸エステルを0.2質量部加えてさらに撹拌し、分散・溶解させて油相を得た。水63.6質量部を55℃に加温し、グラニュー糖15質量部、水あめ(固形分75質量%)5質量部、脱脂粉乳8質量部、グアーガム0.2質量部を加えて撹拌し、分散・溶解させて水相を得た。水相に油相を加えて撹拌し、混合し、乳化させて予備乳化物を得た。この予備乳化物を均質化し、加熱滅菌し、急冷し、24時間4℃でエージングして、本発明の冷菓用水中油型乳化物(1)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(1)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
なお、使用したヤシ油の構成脂肪酸残基中、ラウリン酸残基は50質量%であった。
【0070】
〔実施例2〕
脱臭焙煎胡麻油A0.004質量部を、脱臭焙煎胡麻油B0.004質量部とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(2)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(2)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
【0071】
〔実施例3〕
脱臭焙煎胡麻油A0.004質量部を、脱臭焙煎胡麻油C0.004質量部とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(3)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(3)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
【0072】
〔実施例4〕
脱臭焙煎胡麻油A0.004質量部を、0.002質量部(水中油型乳化物中20ppm)とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(4)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(4)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
【0073】
〔実施例5〕
脱臭焙煎胡麻油A0.004質量部を、0.008質量部(水中油型乳化物中80ppm)とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(5)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(5)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
【0074】
〔実施例6〕
脱臭焙煎胡麻油A0.004質量部を、0.012質量部(水中油型乳化物中120ppm)とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(6)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(6)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
【0075】
〔実施例7〕
脱臭焙煎胡麻油A0.004質量部を、0.02質量部(水中油型乳化物中200ppm)とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(7)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(7)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
【0076】
〔実施例8〕
無塩バター(乳脂肪分83質量%、無脂乳固形分1質量%)4質量部を加え、ヤシ油8質量部を4質量部とし、脱脂粉乳8質量部を12質量部とし、水63.6質量部を59.6質量部とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(8)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(8)の乳固形分は11.4質量%、乳脂肪分は3.3質量%であった。
【0077】
〔実施例9〕
ヤシ油8質量部を4質量部とし、水63.6質量部を67.6質量部とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(9)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(9)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
【0078】
〔実施例10〕
ヤシ油8質量部を、パーム核油8質量部とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(10)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(10)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
なお、使用したパーム核油の構成脂肪酸残基中、ラウリン酸残基は50質量%であった。
【0079】
〔実施例11〕
ヤシ油8質量部を、パームミッドフラクション8質量部とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(11)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(11)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
なお、使用したパームミッドフラクションのヨウ素価は45であり、構成脂肪酸残基中ラウリン酸残基は0.3質量%であった。
【0080】
〔実施例12〕
上記の乳清ミネラルを0.02質量部加えた以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(12)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(12)の乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
なお、冷菓用水中油型乳化物(12)中の固形分としての乳清ミネラルの含量は0.007質量%である。
【0081】
〔実施例13〕
上記の水63.6質量部を26.6質量部とし、水あめ5質量部を10質量部とし、脱脂粉乳8質量部を用いず、豆乳(固形分9質量%)40質量部を加えた以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、本発明の冷菓用水中油型乳化物(13)を得た。本発明の冷菓用水中油型乳化物(13)の乳固形分は0質量%、乳脂肪分は0質量%であった。
【0082】
〔比較例1〕
脱臭焙煎胡麻油A0.004質量部を、「太白油」である精製胡麻油(胡麻油の脱酸、脱色油を減圧下で250℃、60分脱臭処理したもの)0.004質量部とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、冷菓用水中油型乳化物(A)を得た。乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
【0083】
〔比較例2〕
脱臭焙煎胡麻油A0.004質量部を、製造例1~3で原料油脂として用いた未脱臭の焙煎胡麻油0.004質量部とした以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、冷菓用水中油型乳化物(B)を得た。乳固形分は7.7質量%、乳脂肪分は0.1質量%であった。
【0084】
実施例1~13、比較例1、比較例2の使用油脂種、使用乳成分や乳固形分量、乳脂肪分量等を表1に記載する。表1における数値の単位は上記で説明した通りである。
【0085】
【0086】
〈冷菓用水中油型乳化物の風味評価〉
脱臭焙煎胡麻油Aを使用していない以外は、実施例1と同様の配合及び製造方法で、コントロールとなる冷菓用水中油型乳化物(Cont.)を得た。
4℃で保管していた、上記の本発明の冷菓用水中油型乳化物(1)~(13)及び冷菓用水中油型乳化物(Cont.)、(A)及び(B)を10人のパネラーが試飲し、コントロールの冷菓用水中油型乳化物(Cont.)と比較して風味を評価した。評価は下記の基準に沿って1~5点で採点し、その合計点を評価結果とした。なお、事前にパネラーの評価基準はすり合わせを行っている。
【0087】
〔評価基準〕
(1)乳風味
5点…コントロールと比較して、乳風味が向上している。
4点…コントロールと比較して、乳風味がやや向上している。
3点…コントロールと比較して、乳風味が同等である。又は、わずかに異味を感じる。
2点…コントロールと比較して、乳風味がやや弱い。又は、少し異味を感じる。
1点…コントロールと比較して、乳風味が弱い。又は、異味を感じる。
(2)濃厚感
5点…コントロールと比較して、濃厚感が優れている。
4点…コントロールと比較して、濃厚感がやや優れている。
3点…コントロールと比較して、濃厚感が同等である。
2点…コントロールと比較して、濃厚感がやや弱い。
1点…コントロールと比較して、濃厚感が弱い。
〔評価結果〕
◎:合計点が43~50点である。
○:合計点が36~42点である。
△:合計点が26~35点である。
×:合計点が25点以下である。
【0088】
【0089】
表2に示したように、冷菓用水中油型乳化物(1)~(13)は、コントロール品と比較して有意に乳風味の向上効果及び濃厚感の付与効果があらわれていた。また、脱臭温度が200℃以下の脱臭焙煎胡麻油を使用している冷菓用水中油型乳化物(1)と(2)は、(3)と比較して乳風味の向上効果及び濃厚感の付与効果がより高かった。一方、胡麻油の太白油を使用した冷菓用水中油型乳化物(A)と、未脱臭の焙煎胡麻油を使用した冷菓用水中油型乳化物(B)では、乳風味の向上効果がなく、濃厚感も感じられず、冷菓用水中油型乳化物(B)は、焙煎胡麻油由来の異味を強く感じた。
【0090】
また各実施例に示す通り、脱臭焙煎胡麻油20~200ppmの範囲において、優れた乳風味の向上及び濃厚感の付与効果があらわれていた。
【0091】
冷菓用水中油型乳化物中のその他油脂の含量や油種が異なる、本発明の冷菓用水中油型乳化物(9)、(10)及び(11)でも、本発明の乳風味の向上効果及び濃厚感の付与効果が得られた。
【0092】
また、乳固形分と乳脂肪分を増やした冷菓用水中油型乳化物(8)では、より濃厚感が増しており、乳清ミネラルを併用した冷菓用水中油型乳化物(12)でも乳風味の向上効果及び濃厚感の付与効果がより好ましく得られた。そして、乳固形分と乳脂肪分を含まない、豆乳を使用した冷菓用水中油型乳化物(13)でも、乳風味の向上効果及び濃厚感の付与効果が得られた。
【0093】
〈冷菓の製造と風味評価〉
上記の本発明の冷菓用水中油型乳化物(1)、(5)、(12)、(13)及び冷菓用水中油型乳化物(Cont.)、(B)を、撹拌しながらフリーザーを用いて-20℃で凍結し、オーバーランが70%の冷菓を製造した。この本発明の冷菓(1)、(5)、(12)、(13)及び冷菓(Cont.)、(B)を10人のパネラーが試食し、コントロールの冷菓(Cont.)と比較して風味がどのように変わっているかを評価した。評価は下記の基準に沿って1~5点で採点し、その合計点を評価結果とした。なお、事前にパネラーの評価基準はすり合わせを行っている。
【0094】
〔評価基準〕
(1)乳風味
5点…コントロールと比較して、乳風味が向上している。
4点…コントロールと比較して、乳風味がやや向上している。
3点…コントロールと比較して、乳風味が同等である。又は、わずかに異味を感じる。
2点…コントロールと比較して、乳風味がやや弱い。又は、少し異味を感じる。
1点…コントロールと比較して、乳風味が弱い。又は、異味を感じる。
【0095】
(2)濃厚感
5点…コントロールと比較して、濃厚感が優れている。
4点…コントロールと比較して、濃厚感がやや優れている。
3点…コントロールと比較して、濃厚感が同等である。
2点…コントロールと比較して、濃厚感がやや弱い。
1点…コントロールと比較して、濃厚感が弱い。
【0096】
〔評価結果〕
◎:合計点が43~50点である。
○:合計点が36~42点である。
△:合計点が26~35点である。
×:合計点が25点以下である。
【0097】
【0098】
表3に示したように、冷菓でも、上記の冷菓用水中油型乳化物と同様に、脱臭焙煎胡麻油を含有させることによって、冷菓の乳風味が向上し、濃厚感が付与されていた。未脱臭の焙煎胡麻油を使用した冷菓(B)では、乳風味の向上効果が得られず、異味を強く感じた。そして、冷菓用水中油型乳化物の場合と同様に、乳清ミネラルを併用することで、より良好に乳風味の向上効果及び濃厚感の付与効果が得られ、乳固形分と乳脂肪分を含まない冷菓でも乳風味の向上効果及び濃厚感の付与効果が得られた。よって、他の実施例の冷菓用水中油型乳化物でも、冷菓用水中油型乳化物で乳風味の向上効果及び濃厚感の付与効果を得られたものから製造された冷菓は、乳風味の向上効果及び濃厚感の付与効果を得ることができると示唆される。
【0099】
さらに、ココアパウダーを5質量部と、チョコレート香料0.1質量部を加え、水63.6質量部を58.5質量部とした以外は実施例1と同様の配合及び製造方法で本発明のチョコレート風味の冷菓用水中油型乳化物、及びそれを使用して製造したチョコレート風味の冷菓を得て、乳風味及び濃厚感を評価した。その結果、得られたチョコレート風味の冷菓用水中油型乳化物及び冷菓でも、乳風味が向上し、乳及び風味成分であるチョコレートの濃厚感が付与されていることを確認した。