(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-20
(45)【発行日】2025-06-30
(54)【発明の名称】燃料電池セルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1226 20160101AFI20250623BHJP
H01M 8/1213 20160101ALI20250623BHJP
H01M 8/124 20160101ALI20250623BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20250623BHJP
H01M 8/1253 20160101ALN20250623BHJP
【FI】
H01M8/1226
H01M8/1213
H01M8/124
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1253
(21)【出願番号】P 2023510001
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021013769
(87)【国際公開番号】W WO2022208705
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹子 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 憲之
(72)【発明者】
【氏名】横山 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 耕司
(72)【発明者】
【氏名】三瀬 信行
(72)【発明者】
【氏名】杉本 有俊
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/105575(WO,A1)
【文献】特開2020-129433(JP,A)
【文献】特開2015-122288(JP,A)
【文献】特開平07-320756(JP,A)
【文献】特開2007-265898(JP,A)
【文献】特開2005-302612(JP,A)
【文献】特開2018-098169(JP,A)
【文献】特開2020-091949(JP,A)
【文献】特開2008-234927(JP,A)
【文献】特開2020-095984(JP,A)
【文献】特開2007-165143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/0297
H01M 8/08-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルであって、
第1多孔質基板、
前記第1多孔質基板上に形成された第1多孔質電極層、
前記第1多孔質電極層上に形成された第1固体電解質層、
前記第1固体電解質層と直接に接して形成された第2固体電解質層、
前記第2固体電解質層の前記第1固体電解質層と接していない側に形成された第2多孔質電極層、
を備え、
前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層との間の界面は、前記第1固体電解質層と前記第1多孔質電極層との間の界面よりも平坦であり、
前記第1固体電解質層の下地に付着している異物に起因して前記第2固体電解質層の膜厚が最も薄くなっている部分は、前記燃料電池セルの出力電圧が前記第1多孔質電極層と前記第2多孔質電極層との間に生じたときであっても、前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層との間のリーク電流が
ブロックされる厚さを有する
ことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
前記第2固体電解質層の最大膜厚と最小膜厚との間の差分は、前記第1多孔質電極層の表面の最大山高さと最大谷深さの合計よりも小さい
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記第1固体電解質層の膜厚は、前記第1多孔質電極層の表面の最大山高さと最大谷深さの合計以上であり、前記合計の2倍以下であり、
前記第1固体電解質層の膜厚と前記第2固体電解質層の膜厚の合計が1マイクロメートル以下である
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記第1固体電解質層と前記第1多孔質電極層との間の界面に配置され、前記第1固体電解質層の材料とは異なる金属酸化物によって形成された第1界面層、
または、
前記第2固体電解質層と前記第2多孔質電極層との間の界面に配置され、前記第2固体電解質層の材料は異なる金属酸化物によって形成された第2界面層、
のうち少なくともいずれかを備える
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記第1多孔質基板は、前記第1多孔質電極層と接する深さの第1孔を有し、
前記第1孔の内壁には、前記第1多孔質電極層に対して給電する第1配線層が形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記燃料電池セルはさらに、前記第2多孔質電極層上に形成された第2多孔質基板を備え、
前記第2多孔質基板は、前記第2多孔質電極層と接する深さの第2孔を有し、
前記第2孔の内壁には、前記第2多孔質電極層に対して給電する第2配線層が形成されており、
前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層との間の界面は、前記第2固体電解質層と前記第2多孔質電極層との間の界面よりも平坦であり、
前記第1固体電解質層の膜厚が最も薄い部分は、前記燃料電池セルの出力電圧が前記第1多孔質電極層と前記第2多孔質電極層との間に印加されたときであっても、前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層との間のリーク電流が
ブロックされる厚さを有する ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項7】
前記第1多孔質基板は、陽極酸化アルミナ基板または多孔質金属基板である
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池セル。
【請求項8】
燃料電池セルを製造する方法であって、
第1多孔質基板上に第1多孔質電極層を形成する工程、
前記第1多孔質電極層上に第1固体電解質層を形成する工程、
前記第1固体電解質層の表面を平坦化する工程、
前記平坦化された前記第1固体電解質層の表面に直接に接して第2固体電解質層を形成する工程、
前記第2固体電解質層の前記第1固体電解質層と接していない側に第2多孔質電極層を形成する工程、
を有し、
前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層との間の界面は、前記第1固体電解質層と前記第1多孔質電極層との間の界面よりも平坦であり、
前記第1固体電解質層の下地に付着している異物に起因して前記第2固体電解質層の膜厚が最も薄くなっている部分は、前記燃料電池セルの出力電圧が前記第1多孔質電極層と前記第2多孔質電極層との間に生じたときであっても、前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層との間のリーク電流が
ブロックされる厚さを有する
ことを特徴とする燃料電池セル製造方法。
【請求項9】
前記第2固体電解質層の最大膜厚と最小膜厚との間の差分は、前記第1多孔質電極層の表面の最大山高さと最大谷深さの合計よりも小さい
ことを特徴とする請求項8記載の燃料電池セル製造方法。
【請求項10】
前記第1固体電解質層の膜厚は、前記第1多孔質電極層の表面の最大山高さと最大谷深さの合計以上であり、前記合計の2倍以下であり、
前記第1固体電解質層の膜厚と前記第2固体電解質層の膜厚の合計が1マイクロメートル以下である
ことを特徴とする請求項8記載の燃料電池セル製造方法。
【請求項11】
前記第1固体電解質層を形成する工程と、前記第1多孔質電極層を形成する工程との間において、前記第1固体電解質層と前記第1多孔質電極層との間の界面に配置され、前記第1固体電解質層とは異なる金属酸化物によって形成された第1界面層を形成する工程、 または、
前記第2固体電解質層を形成する工程と、前記第2多孔質電極層を形成する工程との間において、前記第2固体電解質層と前記第2多孔質電極層との間の界面に配置され、前記第2固体電解質層とは異なる金属酸化物によって形成された第2界面層を形成する工程、 のうち少なくともいずれかを有する
ことを特徴とする請求項8記載の燃料電池セル製造方法。
【請求項12】
前記第1多孔質基板は、前記第1多孔質電極層と接する深さの第1孔を有し、
前記方法はさらに、
前記第1多孔質電極層を形成する工程の前に、前記第1多孔質基板を第1平坦基板上に配置する工程、
前記第1平坦基板の前記第1多孔質基板と接していない側の面の一部を除去することにより、前記第1多孔質基板と接する深さの空隙を形成する工程、
前記第1孔の内壁に、前記第1多孔質電極層に対して給電する第1配線層を形成する工程、
を有する
ことを特徴とする請求項8記載の燃料電池セル製造方法。
【請求項13】
前記第2固体電解質層を形成する工程と前記第2多孔質電極層を形成する工程は、
第2多孔質基板上に前記第2多孔質電極層を形成する工程、
前記第2多孔質電極層上に前記第2固体電解質層を形成する工程、
前記第2固体電解質層の表面を平坦化する工程、
前記平坦化した前記第2固体電解質層の表面と、前記平坦化した前記第1固体電解質層の表面とを接合する工程、
を有する
ことを特徴とする請求項8記載の燃料電池セル製造方法。
【請求項14】
前記第2多孔質基板は、前記第2多孔質電極層と接する深さの第2孔を有し、
前記方法はさらに、
前記第2多孔質電極層を形成する工程の前に、前記第2多孔質基板を第2平坦基板上に配置する工程、
前記第2平坦基板の前記第2多孔質基板と接していない側の面の一部を除去することにより、前記第2多孔質基板と接する深さの空隙を形成する工程、
前記第2孔の内壁に、前記第2多孔質電極層に対して給電する第2配線層を形成する工程、
を有し、
前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層との間の界面は、前記第2固体電解質層と前記第2多孔質電極層との間の界面よりも平坦であり、
前記第1固体電解質層の膜厚が最も薄い部分は、前記燃料電池セルの出力電圧が前記第1多孔質電極層と前記第2多孔質電極層との間に印加されたときであっても、前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層との間のリーク電流が
ブロックされる厚さを有する
ことを特徴とする請求項13記載の燃料電池セル製造方法。
【請求項15】
前記第1多孔質基板は、陽極酸化アルミナ基板または多孔質金属基板である
ことを特徴とする請求項8記載の燃料電池セル製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層を成膜プロセスによって形成する固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2016-115506号公報(特許文献1)、Journal of Power Sources 194(2009)119-129(非特許文献1)がある。
【0003】
非特許文献1は、薄膜成膜プロセスによって燃料電池膜のアノード層、固体電解質層、カソード層を形成するセル技術について記載している。固体電解質を薄膜化することにより、イオン伝導度を向上し発電効率を向上することができる。固体電解質のイオン伝導度は活性化型の温度依存性を示す。したがって、イオン伝導度は高温で大きく、低温では小さい。固体電解質の薄膜化により、低温でも充分大きなイオン伝導度が得られ、実用的な発電効率が実現できる。固体電解質層としては、例えばイットリアなどをドーピングしたジルコニアであるYSZ(Yttria Stabilized Zirconia)が用いられることが多い。化学的安定性に優れていて、燃料電池の内部リーク電流の原因となる電子、ホールによる電流が少ないという長所があるためである。アノード層、カソード層として多孔質の電極を使用することにより、ガス、電極、固体電解質が互いに接する三相界面を増加させることができ、電極界面で生じる分極抵抗による電力損失を抑制することができる。
【0004】
固体電解質層を薄膜化することにより面積当りの出力電力を向上することができるが、薄膜化によりアノード層とカソード間の固体電解質層でのリーク電流が問題になる。均一な固体電解質層を形成できる場合には例えば固体電解質層にYSZを用いる場合では100ナノメートル以下にまで薄膜化できる。実際には固体電解質層を形成する前に下地に存在する異物により、固体電解質層に極端に薄い部分が形成される結果、アノード層とカソード間でリーク電流が増加する場合が多い。
【0005】
特許文献1に開示されているようなグリーンシートを用いて製造する燃料電池セルの場合は厚さ数十マイクロメートルの固体電解質層を用いるのに対して、薄膜成膜により固体電解質層を形成する燃料電池セルでは固体電解質層を1マイクロメートル程度以下に薄膜化する。このため異物による影響の抑制が必須である。
【0006】
固体電解質層を形成する前に下地に存在する異物の対策ではないが、非特許文献2には固体電解質層中に形成される空隙を充填する技術が開示されている。アノード層上に成膜する固体電解質層(YSZ層)に形成される空隙を、原子層堆積法(ALD法)によってアルミナを成膜することにより充填した後、エッチバックでアルミナの一部を除去し、続けて固体電解質層(YSZ層)を追加で成膜する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Journal of Power Sources 194(2009)119-129
【文献】Adv. Funct. Mater.21(2011) 1154-1159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献2に記載されている方法では、固体電解質中に形成された空隙を埋め込むことはできるが、固体電解質層を形成する前に下地に存在する異物の影響を抑制することはできない。燃料電池セルでは電極がガスを拡散させる必要があるため多孔質で形成する必要がある。このため固体電解質層を形成する際には多孔質の電極上に形成することになる。多孔質の電極は粒状形状の電極材料が集まった構造を持つため、平坦で緻密な電極と比較して形成時に異物が生じる頻度が非常に高い。固体電解質層の膜厚と比較して無視できない大きさの異物が下地の多孔質電極上に存在する場合、異物部では固体電解質層の膜厚が極端に薄く形成され、極端な場合には固体電解質層に孔が形成される。その結果、燃料電池セルの動作時に異物部の薄い固体電解質層を介してアノード層とカソード間で電子電流、ホール電流によるリークが生じて燃料電池セルの出力電力を低下させる。また、固体電解質層に孔が形成される場合、アノード側に供給する燃料ガスとカソード側に供給する酸化剤ガスが固体電解質層の孔を介して相互に拡散し、やはり燃料電池セルの出力電力を低下させる。
【0010】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、薄膜固体電解質層の形成時に下地に存在する異物による出力電力の低下を抑制し、燃料電池セルの面積を増加させた場合の歩留まりを高め、燃料電池のコストを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る燃料電池セルは、支持基板上に下部電極層、第1固体電解質層、第2固体電解質層、上部電極層からなる膜電極接合体が形成され、第1固体電解質層と第2固体電解質層との間の界面は、下部電極層と固体電解質層との間の界面と比較して平坦であり、第2固体電解質層は、前記燃料電池セルの出力電圧が生じたときであっても前記第1固体電解質層と前記第2固体電解質層との間のリーク電流が許容値未満となる程度の膜厚を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る燃料電池セルによれば、面積当りの出力電力が大きく、大面積化が可能で、低温動作が可能な固体酸化物形燃料電池を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】薄膜化した固体電解質層を備える燃料電池セルの一般的な構造を示す図である。
【
図2】実施形態1に係る薄膜プロセス型SOFCを用いた燃料電池モジュールの構成例を示す概略図である。
【
図4】燃料電池セルを遮蔽板の裏側から見た図である。
【
図5】実施形態1に係る燃料電池セル1の構成例を示す概略図である。
【
図6】
図5に示す燃料電池セル1を形成する方法の1例について説明する図である。
【
図7】
図5に示す燃料電池セル1を形成する方法の1例について説明する図である。
【
図8】
図5に示す燃料電池セル1を形成する方法の1例について説明する図である。
【
図9】
図5に示す燃料電池セル1を形成する方法の1例について説明する図である。
【
図10】
図5に示す燃料電池セル1を形成する方法の1例について説明する図である。
【
図11】
図5に示す燃料電池セル1を形成する方法の1例について説明する図である。
【
図12】
図5に示す燃料電池セル1を形成する方法の1例について説明する図である。
【
図13】下部電極層20上の異物200が存在する部位における、従来技術の燃料電池セルと、実施形態1に係る燃料電池セル1の形状の違いを示している。
【
図14】実施形態1に係る燃料電池セル1のリーク電流について説明する図である。
【
図15】燃料電池セル1の基板に第1多孔質金属基板71を用いた変形例の製造方法を示す。
【
図16】燃料電池セル1の基板に第1多孔質金属基板71を用いた変形例の製造方法を示す。
【
図17】燃料電池セル1の基板に第1多孔質金属基板71を用いた変形例の製造方法を示す。
【
図18】燃料電池セル1の基板に第1多孔質金属基板71を用いた変形例の製造方法を示す。
【
図19】燃料電池セル1の基板に第1多孔質金属基板71を用いた変形例の製造方法を示す。
【
図20】実施形態2における燃料電池セル1の製造方法の1例を示す。
【
図21】実施形態2における燃料電池セル1の製造方法の1例を示す。
【
図22】実施形態2における燃料電池セル1の製造方法の1例を示す。
【
図23】実施形態2における燃料電池セル1の製造方法の1例を示す。
【
図24】実施形態2における燃料電池セル1の製造方法の1例を示す。
【
図25】実施形態2における燃料電池セル1の製造方法の1例を示す。
【
図26】実施形態2における燃料電池セル1の製造方法の1例を示す。
【
図27】下部電極層20上と上部電極層10上の異物200が存在する部位における、実施形態2に係る燃料電池セル1の形状を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連する符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、複数の類似の部材(部位)が存在する場合には、総称の符号に記号を追加し個別または特定の部位を示す場合がある。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0015】
以下の実施の形態においては、説明上の方向として、X方向、Y方向、およびZ方向を用いる。X方向とY方向とは互いに直交し、水平面を構成する方向であり、Z方向は水平面に対して鉛直の方向である。
【0016】
実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見易くするためにハッチングを省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見易くするためにハッチングを付す場合もある。
【0017】
断面図および平面図において、各部位の大きさは実デバイスと対応するものではなく、図面を分かりやすくするため、特定の部位を相対的に大きく表示する場合がある。また、断面図と平面図が対応する場合においても、図面を分かりやすくするため、特定の部位を相対的に大きく表示する場合がある。
【0018】
<薄膜プロセス型燃料電池による基板への投影面積当りの出力電力向上および動作温度の低温化>
図1は、薄膜化した固体電解質層を備える燃料電池セルの一般的な構造を示す図である。発電効率を上げて低温動作を実現するためには、燃料電池用膜電極接合体を構成する固体電解質層を薄膜化する必要があり、それには成膜プロセスで固体電解質層を形成する薄膜プロセス型燃料電池が最適である。アノード電極層、固体電解質層、カソード電極層を全て薄膜化すると、燃料電池用膜電極接合体の機械的強度が弱くなるが、
図1のように基板支持によって補うことができる。基板には例えば
図1に示すように陽極酸化アルミナ基板(AAO基板)4を用いることができる。
図1では、第1AAO基板4上に形成された下部電極層20上に第1固体電解質層101が形成され、その上に上部電極層10が形成されている。第1AAO基板4は第1空孔51を介して裏面から下部電極層20に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを供給することができる。上部電極層10、下部電極層20は多孔質で形成することができる。
【0019】
<実施の形態1:燃料電池の構成>
図2は、本発明の実施形態1に係る薄膜プロセス型SOFC(Solid OxideFuel Cell)を用いた燃料電池モジュールの構成例を示す概略図である。モジュール内のガス流路は、燃料ガスの流路と酸素ガスを含む気体(例えば空気、以下同様)の流路に分離されている。燃料ガスの流路は、燃料導入口、燃料室、燃料排出口を含む。空気の流路は、空気導入口、空気室、空気排出口を含む。燃料ガスと空気はモジュール内で混ざらないように
図2の遮蔽板で遮蔽されている。燃料電池セルのアノード電極とカソード電極からはコネクタによって配線が引き出されていて外部負荷に接続される。
【0020】
図3は、遮蔽板を燃料電池側から見た図である。燃料電池セルは遮蔽板に搭載されている。燃料電池セルは1つでもよいが一般には複数個が並べられる。
【0021】
図4は、燃料電池セルを遮蔽板の裏側から見た図である。遮蔽板には各々の燃料電池セルごとに穴が形成されていて、燃料電池セルに燃料室から燃料ガスが供給されるようになっている。
【0022】
図5は、本実施形態1に係る燃料電池セル1の構成例を示す概略図である。燃料電池セル1は、
図2~4に示す燃料電池セルに対応する。第1AAO基板4上に下部電極層20が形成されている。第1AAO基板4には第1空孔51が形成されていて、これを介して裏面から下部電極層20に燃料ガスもしくは酸化剤ガスを供給することができる。下部電極層20は例えば、白金、白金と金属酸化物からなるサーメット材料、ニッケル、ニッケルと金属酸化物からなるサーメット材料、などによって形成することができる。下部電極層20には、第1空孔51の側壁に形成された下部電極配線層21を介して第1AAO基板4の裏面から給電することができる。下部電極配線層21は例えば白金、ニッケルなどによって形成することができる。下部電極層20、下部電極配線層21は多孔質材料によって形成することができる。
【0023】
下部電極層20の上層には第1固体電解質層101となるイットリアをドープしたジルコニア薄膜が形成されている。イットリアのドープ量は例えば3%、あるいは8%とすることができる。第1固体電解質層101は第1AAO基板上の下部電極層20を完全に覆うように形成されている。第1固体電解質層101の膜厚は、下地となる下部電極層20の表面の所定の領域の凹凸(D)以上とし、その2倍(2×D)以下とすることができる。例えばDが100nmの場合には100nm以上200nm以下とする。第1固体電解質層101の上表面は下部電極層20の表面と比較して平坦化することができる。これは後述するように、第1固体電解質層101を成膜した後に化学的機械研磨法(CMP法)を用いることにより実現できる。ここでいう凹凸(D)は、例えば表面上の所定領域内における最大山高さと最大谷深さの合計として定義できる。
【0024】
第1固体電解質層101の上層には第2固体電解質層102となるイットリアをドープしたジルコニア薄膜が形成されている。イットリアのドープ量は例えば3%、あるいは8%とすることができる。第2固体電解質層102の材料として第1固体電解質層101と同じ材料を用いることができる。第2固体電解質層102は第1固体電解質層101を完全に覆うように形成されている。第2固体電解質層102の膜厚は、第2固体電解質層102だけでアノード層とカソード層との間の電子リーク、ホールリークによる電流を充分に抑制できるような膜厚とする。YSZは燃料電池セル1の内部リーク電流となる電子電流やホール電流が高温でも極めて少ないので、第2固体電解質層102を100nm以下に薄膜化することも可能である。下部電極層20の凹凸(D)を充分に小さくすることにより、第1固体電解質層101と第2固体電解質層102の合計膜厚を1000nm以下
にすることができる。
【0025】
第2固体電解質層102の上層に第1界面層61が形成されている。第1界面層61は例えばガドリニア(Gd2O3)を10%ドープしたセリア(CeO2)で形成することができる。第1界面層61は第2固体電解質層102の上表面を覆うように形成されている。第2固体電解質層102と上部電極層10が、燃料電池セル1の製造工程や動作時の熱負荷によって化学的に反応しやすくこれらを直接接触させることが好ましくない場合などにおいて、第1界面層61を用いる。第1界面層61を上部電極層10と第2固体電解質層102との間に形成することによって、動作時における上部電極層10での分極抵抗を低減させる効果が得られる場合もある。燃料電池セル1の動作温度などの使用条件によっては、第1界面層61は形成しないことも可能である。また、後述するように下部電極層20と第1固体電解質層101との界面に別途界面層を形成することも可能である。
【0026】
第1界面層61の上層に上部電極層10が形成されている。上部電極層10は例えば、多孔質の白金や、白金と金属酸化物からなるサーメット材料によって形成することができる。上部電極層10は、第1AAO基板4の一部を覆うように形成されている。
【0027】
以上のように、薄膜プロセス型の燃料電池セル1は下層から、第1AAO基板4、下部電極配線層21、下部電極層20、第1固体電解質層101、第2固体電解質層102、第1界面層61、上部電極層10で構成された膜電極接合体を備える。
【0028】
下部電極層20側に例えば水素を含む燃料ガスを供給し、上部電極層10側に例えば空気などの酸化剤ガスを供給する。供給した燃料ガスは第1AAO基板4の第1空孔51を介して下部電極層20に到達する。供給した酸化剤ガスは上部電極層10表面に供給される。第1固体電解質層101、第2固体電解質層102、第1界面層61を介したイオン伝導により酸化剤ガスと燃料ガスが反応することによって通常の燃料電池と同様に動作することができる。供給する酸化剤ガスと燃料ガスがガスの状態で互いに混合しないように、下部電極層20側と上部電極層10側の間はシールする。
【0029】
燃料ガスと酸化剤ガスの供給はこれとは逆に、下部電極層20側に例えば空気などの酸化剤ガスを供給し、上部電極層10側に例えば水素を含む燃料ガスを供給することもできる。この場合も供給する酸化剤ガスと燃料ガスがガスの状態で互いに混合しないように、下部電極層20側と上部電極層10側の間はシールする。
【0030】
<実施の形態1:製造方法>
図6~
図12は、
図5に示す燃料電池セル1を形成する方法の1例について説明する図である。まずシリコン基板2上に第1AAO基板4を形成する(
図6)。第1AAO基板4には表裏面間を貫通する複数の第1空孔51が形成されている。第1空孔51の直径は例えば50~100nmとすることができる。
【0031】
次に第1AAO基板4上に下部電極層20を形成する(
図7)。例えば、下部電極層20はニッケルとYSZからなるサーメットを用いてスパッタ法によって成膜し、膜厚は100~200nmとすることができる。第1AAO基板4の上表面が凹凸形状であること、下部電極層20が多孔質で形成されることにより、下部電極層20の上表面は凹凸形状となる。また多孔質の下部電極層20を形成する際に異物が発生して下部電極層20の表面に付着する頻度が極めて高い。下部電極層20の成膜工程で発生する異物は導電性があり、後述する通り従来技術の燃料電池セルでは、アノード層とカソード層の間の電子リーク、ホールリークを引き起こし、燃料電池セルの出力電圧を低下させるので対策が必須である。下部電極層20は、
図7のように第1AAO基板4の上表面の他に、第1AAO基板4の側面、シリコン基板2の上表面にも形成される。シリコン基板2は充分な強度と表面の平坦性、加工容易性があれば他の材料を用いた基板でも代替できる。
【0032】
次に、下部電極層20の上表面に、第1固体電解質層101を形成する(
図8)。第1固体電解質層101の材料は、イットリアのドープ量を例えば3%、あるいは8%とすることができる。固体電解質層は、アノード側とカソード側のガスの混合を防止する役目があるので緻密に形成する。例えば酸化物ターゲットを用いたスパッタ法、あるいはメタルターゲットを用いた反応性スパッタ法によって緻密な第1固体電解質層101を形成することができる。下部電極層20の上表面が凹凸形状であることにより、第1固体電解質層101の上表面は凹凸形状となる。また、前述の下部電極層20上に異物が形成されている場合には、異物部では第1固体電解質層101は所望の膜厚にならない。異物部の形状については後述する(
図13)。第1固体電解質層101は、
図8のように第1AAO基板4の上表面の他に、第1AAO基板4の側面、シリコン基板2の上表面にも形成される。
【0033】
次に第1固体電解質層101の表面の一部を、化学的機械研磨法(CMP法)で除去する(
図9)。この際に、第1固体電解質層
101が完全に除去されて下部電極層20が露出し、あるいは第1固体電解質層101の残膜厚が厚すぎて燃料電池セル1の出力電圧が極端に低下することが無いように、第1固体電解質層101の残膜厚は、下地となる下部電極層20の表面の所定の領域の凹凸(D)以上とし、その2倍(2×D)以下とする。例えばDが100nmの場合には100nm以上200nm以下とする。CMP法を用いると、第1AAO基板4の上表面の第1固体電解質層101は一部が除去されるが、標高が低いシリコン基板2上に形成された第1固体電解質層101は除去されずに成膜した膜厚が残る。第1AAO基板4上の下部電極層20上に前述の異物がある場合は、CMP法による研磨工程で異物は第1固体電解質層101と同時に研磨されるので表面は異物部でも平坦化される。異物部の形状については後述する(
図13)。第1固体電解質層101は、
図9のように第1AAO基板4の上表面では一部が除去されるが、第1AAO基板4の側面、シリコン基板2の上表面では除去されない。
【0034】
次に、第1固体電解質層101の上表面に、第2固体電解質層102を形成する(
図10)。第2固体電解質層102の材料は、イットリアのドープ量を例えば3%、あるいは8%とすることができる。第2固体電解質層102として、第1固体電解質層101と同じ組成を用いることもできる。固体電解質層は、アノード側とカソード側のガスの混合を防止する役目があるので緻密に形成する。例えば酸化物ターゲットを用いたスパッタ法、あるいはメタルターゲットを用いた反応性スパッタ法によって緻密な第2固体電解質層102を形成することができる。第1AAO基板4の上表面領域では、第1固体電解質層101の表面が平坦化されているので、第2固体電解質層102は均一な膜厚で形成することができる。厳密に見ると、第1固体電解質層101の表面にはCMP法による研磨後にも多少の凹凸は残るが、下部電極層20の凹凸形状の影響による凹凸は無くなっている。このため、第2固体電解質層102の面内分布は下部電極層20の局所的な凹凸には影響を受け無くなる。前述の異物部でも同様に第2固体電解質層102は均一な膜厚で形成することができる。第2固体電解質層102の膜厚は例えば100nmとすることができる。異物部の形状については後述する(
図13)。第2固体電解質層102は、
図10のように第1AAO基板4の上表面の他に、第1AAO基板4の側面、シリコン基板2の上表面にも形成される。
【0035】
第2固体電解質層102の膜厚は均一であるが、必ずしも厳密に全部分の膜厚が同一でなくともよい。少なくとも、第2固体電解質層102の最大膜厚と最小膜厚との間の差分は、下部電極層20の凹凸(D)よりも小さい。これにより、第2固体電解質層102を下部電極層20よりも平坦に形成したということができる。以下の実施形態において第2固体電解質層102を平坦に形成する場合も同様である。
【0036】
次に、第2固体電解質層102の上表面に、第1界面層61を形成する(
図11)。第1界面層61は例えばガドリニア(Gd2O3)を10%ドープしたセリア(CeO2)で形成することができる。第1界面層61は第2固体電解質層102の上表面を覆うように形成する。第1AAO基板4の上表面領域では、第2固体電解質層102の表面が平坦なので、第1界面層61は均一な膜厚で形成することができる。第1界面層61は、第1AAO基板4の上表面の他に、第1AAO基板4の側面、シリコン基板2の上表面にも形成される。次に、第1界面層61の上表面に、上部電極層10を形成する(
図11)。上部電極層10は第1AAO基板4の上表面の一部に形成する。上部電極層10は例えば、多孔質の白金や、白金と金属酸化物からなるサーメット材料などによって形成することができる。
【0037】
次に、第1AAO基板4が形成されている領域の一部のシリコン基板2を裏面側から除去した後に、第1空孔51の内壁にALD法で下部電極配線層21を成膜し、燃料電池セル1を完成する(
図12)。下部電極配線層21は、例えば白金、ニッケルで形成することができる。下部電極層20、下部電極配線層21は多孔質材料で形成することができる。下部電極配線層21を介して第1AAO基板4の裏面側と下部電極層20を電気的に接続することができる。下部電極配線層21は第1空孔51の側壁に形成され、第1空孔51を完全には埋め込まない。したがって、第1AAO基板4の裏面側から供給する燃料ガス、または酸化剤ガスは、第1空孔51を介して下部電極層20に到達できる。
図12に示すように、第1燃料電池セル端部301には成膜した下部電極層20、第1固体電解質層101、第2固体電解質層102、第1界面層61、上部電極層10が形成されている。第1燃料電池セル端部301における第1固体電解質層101は、
図9のCMP工程で除去されないため、第1AAO基板4の上表面の領域の第1固体電解質層101と比較して厚く形成されている。
【0038】
<実施の形態1:効果>
図13は、前述した下部電極層20上の異物200が存在する部位における、従来技術の燃料電池セルと、本実施形態1に係る燃料電池セル1の形状の違いを示している。
図13上段に示すように、CMP工程を行わない従来技術による燃料電池セルでは、異物200の周辺において第1固体電解質層101、第1界面層61が極端に薄くなる領域が形成される。前述の通り、下部電極層20の成膜工程で発生する異物は導電性がある。その結果、燃料電池セル1の動作時に、導電性の異物200を介してアノード層とカソード層の間で、電子電流、ホール電流によるリーク電流が生じて燃料電池セル1の出力電圧を低下させる。一方、本実施形態1に係る燃料電池セル1では、異物200が存在する部位においても異物の上部が
図9のCMP工程で第1固体電解質層101の上部の一部と同時に除去されて平坦化されているので、第2固体電解質層102は均一な膜厚で形成される。第2固体電解質層102の膜厚が、電子電流、ホール電流によるリーク電流を抑制するのに充分であれば、出力電力の低下は生じない。
【0039】
換言すると、第2固体電解質層102は、以下のように構成されているということができる。燃料電池セル1が発電するとき、下部電極層20と上部電極層10との間の電位差は、燃料電池セル1の出力電圧となる。この電位差が生じたときであっても、第1固体電解質層101と第2固体電解質層102との間でリーク電流が許容値未満となる(第2固体電解質層102がリーク電流をブロックする)程度の膜厚が、第2固体電解質層102の任意の場所において(すなわち第2固体電解質層102の膜厚が最も薄い場所において)確保されていることになる。具体的な膜厚は、リーク電流をブロックする性能と燃料電池セル1の性能との間のバランスに鑑みて、適宜定めればよい。
【0040】
図14は、本実施形態1に係る燃料電池セル1のリーク電流について説明する図である。
図14上段は、本実施形態1に係る燃料電池セル1のサンプル#1~#5のリーク電流である。燃料電池セル面積は大きくするほど異物を含む確率が上がるので、リーク電流による不良が生じやすくなる。サンプル#1~#5のセル面積は、コストの観点から許容される最小のセル面積より大きい。
図14上段に示す通り、リーク電流を許容値以下に抑制することが可能である。
図13下段に示す異物200が存在する部位におけるリークが抑制できていると考えられる。
図14下段はセル面積と良品率の関係を示した図である。従来技術の燃料電池セルでは面積の増加に伴って良品率が急減に減少する。コストの観点から許容される最小のセル面積より大きいセル面積では、許容される良品率を維持できない。
図13上段に示す異物200の部位におけるリーク電流による不良率がセル面積の増加に伴って急増したためであると考えられる。一方、本実施形態1に係る燃料電池セル1では、コストの観点から許容される最小のセル面積より大きいセル面積でも高い良品率を確保できた。
【0041】
<実施の形態1:変形例>
図15~
図19は、燃料電池セル1の基板に第1多孔質金属基板71を用いた変形例の製造方法を示す。
図6~12では第1AAO基板4を用いた燃料電池セル1の構造と製造方法について説明したが、燃料電池セル1の基板には第1多孔質金属基板71を用いることもできる。
図15~
図19を用いて、燃料電池セル1の基板に第1多孔質金属基板71を用いた実施形態1の変形例の製造方法を説明する。
【0042】
まず第1多孔質金属基板71を準備する(
図15)。多孔質なので表面は凹凸形状である。第1多孔質金属基板71の材料には例えばSUSなどのフェライト系ステンレス鋼を用いることができる。次に、第1多孔質金属基板71の上表面上に下部電極層20を形成する(
図16)。例えば、下部電極層20はニッケルとYSZからなるサーメットを用いてスパッタ法によって成膜し、膜厚は100~200nmとすることができる。第1多孔質金属基板71の上表面が凹凸形状であること、下部電極層20が多孔質で形成されることにより、下部電極層20の上表面は凹凸形状となる。また多孔質の下部電極層20を形成する際に異物が発生して下部電極層20の表面に付着する頻度が極めて高い。下部電極層20の成膜工程で発生する異物は導電性があり、後述する通り従来技術の燃料電池セルでは、アノード層とカソード層の間の電子リーク、ホールリークを引き起こし、燃料電池セルの出力電圧を低下させるので対策が必須である。
【0043】
次に、下部電極層20の上表面に、第1固体電解質層101を形成する(
図17)。第1固体電解質層101の材料は、イットリアのドープ量を例えば3%、あるいは8%とすることができる。固体電解質層は、アノード側とカソード側のガスの混合を防止する役目があるので緻密に形成する。例えば酸化物ターゲットを用いたスパッタ法、あるいはメタルターゲットを用いた反応性スパッタ法によって緻密な第1固体電解質層101を形成することができる。下部電極層20の上表面が凹凸形状であることにより、第1固体電解質層101の上表面は凹凸形状となる。下部電極層20上に異物が形成されている場合には、異物部では第1固体電解質層101は所望の膜厚とならない。
【0044】
次に第1固体電解質層101の表面の一部を、例えば化学的機械研磨法(CMP法)などの適当な手法によって除去する(
図18)。この際に、第1固体電解質層101が完全に除去されて下部電極層20が露出したり、第1固体電解質層
101の残膜厚が厚すぎて燃料電池セル1の出力電圧が極端に低下することが無いように、第1固体電解質層101の残膜厚は、下地となる下部電極層20の表面の所定の領域の凹凸(D)以上とし、その2倍(2×D)以下とする。例えばDが100nmの場合には100nm以上200nm以下とする。第1多孔質金属基板71の上表面上の下部電極層20上に前述の異物がある場合は、CMP法による研磨工程で異物は第1固体電解質層101と同時に研磨されるので表面は異物部でも平坦化される。
【0045】
次に、第1固体電解質層101の上表面に、第2固体電解質層102を形成する(
図19)。第2固体電解質層102の材料は、イットリアのドープ量を例えば3%、あるいは8%とすることができる。第2固体電解質層102として、第1固体電解質層101と同じ組成を用いることもできる。固体電解質層は、アノード側とカソード側のガスの混合を防止する役目があるので緻密に形成する。例えば酸化物ターゲットを用いたスパッタ法、あるいはメタルターゲットを用いた反応性スパッタ法によって緻密な第2固体電解質層102を形成することができる。第2固体電解質層102の膜厚は例えば100nmとすることができる。第1多孔質金属基板71の上表面領域では、第1固体電解質層101の表面が平坦化されているので、第2固体電解質層102は均一な膜厚で形成することができる。厳密に見ると、第1固体電解質層101の表面にはCMP法による研磨後にも多少の凹凸は残るが、下部電極層20の凹凸形状の影響による凹凸は無くなっている。このため、第2固体電解質層102の面内分布は下部電極層20の局所的な凹凸には影響を受け無くなる。前述の異物部でも同様に第2固体電解質層102は均一な膜厚で形成することができる。
【0046】
次に、第2固体電解質層102の上表面に、第1界面層61を形成する。第1界面層61は例えばガドリニア(Gd2O3)を10%ドープしたセリア(CeO2)で形成することができる。第1界面層61は第2固体電解質層102の上表面を覆うように形成する。
【0047】
次に、第1界面層61の上表面に、上部電極層10を形成して燃料電池セル1を完成する(
図19)。上部電極層10は第1多孔質金属基板71の上表面の一部に形成する。上部電極層10は例えば多孔質の白金や、白金と金属酸化物からなるサーメット材料で形成することができる。
【0048】
図12の構造では第1AAO基板4が絶縁体であるので下部電極配線層21を形成する必要があったが、変形例の
図19の構造は第1多孔質金属基板71が導電性の金属で形成されているので下部電極層20への給電が容易である。また、第1多孔質金属基板71は多孔質であるので、第1多孔質金属基板71の裏面から燃料ガス、あるいは酸化剤ガスを下部電極層20に供給することができる。
【0049】
本変形例においても、下部電極層20の上表面の異物部で生じるリーク電流を抑制し、コストの観点から許容される最小のセル面積より大きいセル面積でも高い良品率を確保できた。
【0050】
<実施の形態2>
実施形態1では、第1固体電解質層101の上表面をCMP法で平坦化した後に第2固体電解質層102を形成したが、下部電極層20上の第1固体電解質層101と、上部電極層10上の第2固体電解質層102を、それぞれ別々に作製した後で接合することもできる。
【0051】
図20~26を用いて、本実施形態2における燃料電池セル1の製造方法の1例を示す。
図20は、実施形態1の
図9の工程で、シリコン基板2の裏面の一部を除去し、下部電極配線層21を形成した図である。下部電極層20と第1固体電解質層101の境界に第1界面層61が形成されている点は
図9と異なる。燃料電池セル1の動作温度などの使用条件によっては、第1界面層61は形成しないことも可能である。第1固体電解質層101の残膜厚は実施形態1では下地となる下部電極層20の表面の所定の領域の凹凸(D)以上としその2倍(2×D)以下とした。
図20における第1固体電解質層101の残膜厚は、下部電極層20の表面の所定の領域の凹凸(D)以上であることと、第1固体電解質層101の厚さだけでリーク電流を止められる膜厚であることが必要とされる。最も薄い領域の膜厚が100nm以上であればよい。
【0052】
図20とは別に、
図21のようにシリコン基板3上に第2AAO基板5を形成する。第2AAO基板5には表裏面間を貫通する複数の第2空孔52が形成されている。第2空孔52の直径は例えば50~100nmとすることができる。次に第2AAO基板5上に上部電極層10を形成する(
図22)。上部電極層10は第
2AAO基板
5の上表面の一部に形成する。上部電極層10は例えば多孔質の白金や、白金と金属酸化物からなるサーメット材料で形成することができる。スパッタ法によって成膜し、膜厚は100~200nmとすることができる。第2AAO基板5の上表面が凹凸形状であること、上部電極層10が多孔質で形成されることにより、上部電極層10の上表面は凹凸形状となる。また多孔質の上部電極層10を形成する際に異物が発生して上部電極層10の表面に付着する頻度が極めて高い。上部電極層10の成膜工程で発生する異物は導電性があり、後述する通り従来技術の燃料電池セルでは、アノード層とカソード層の間の電子リーク、ホールリークを引き起こし、燃料電池セルの出力電圧を低下させるので対策が必須である。上部電極層10は、
図22のように第2AAO基板5の上表面の他に、第2AAO基板5の側面、シリコン基板3の上表面にも形成される。シリコン基板3は充分な強度と表面の平坦性、加工容易性があれば他の材料を用いた基板でも代替できる。
【0053】
次に、上部電極層10の上表面に、第2界面層62と第2固体電解質層102を形成する(
図23)。第2界面層62は例えばガドリニア(Gd2O3)を10%ドープしたセリア(CeO2)で形成することができる。第2界面層62は上部電極層10を覆うように形成する。第2固体電解質層102の材料はイットリアのドープ量は例えば3%、あるいは8%とすることができる。固体電解質層は、アノード側とカソード側のガスの混合を防止する役目があるので緻密に形成する。例えば酸化物ターゲットを用いたスパッタ法、あるいはメタルターゲットを用いた反応性スパッタ法によって緻密な第2固体電解質層102を形成することができる。上部電極層10の上表面が凹凸形状であることにより、第2固体電解質層102の上表面は凹凸形状となる。また、前述の上部電極層10上に異物が形成されている場合には、異物部では第2固体電解質層102は所望の膜厚とならない。第2界面層62と第2固体電解質層102は、
図23のように第2AAO基板5の上表面の他に、第2AAO基板5の側面、シリコン基板3の上表面にも形成される。
【0054】
次に第2固体電解質層102の表面の一部を、例えば化学的機械研磨法(CMP法)などの適当な手法によって除去する(
図24)。この際に、第2固体電解質層が完全に除去されて第2界面層62や上部電極層10が露出しないように、第2固体電解質層102の残膜厚は、下地となる上部電極層10の表面の所定の領域の凹凸(D)以上とする。さらに、第2固体電解質層102の厚さだけでリーク電流を止められる膜厚であることが必要とされる。最も薄い領域の膜厚が100nm以上であれば良い。CMP法を用いると、第2AAO基板5の上表面の第2固体電解質層102は一部が除去されるが、標高が低いシリコン基板3上に形成された第2固体電解質層102は除去されずに成膜した膜厚が残る。第2AAO基板5上の上部電極層10上に前述の異物がある場合は、CMP法による研磨工程で異物は第2固体電解質層102と同時に研磨されるので表面は異物部でも平坦化される。第2固体電解質層102は、
図24のように第2AAO基板5の上表面では一部が除去されるが、第2AAO基板5の側面、シリコン基板3の上表面では除去されない。
【0055】
次に、第2AAO基板5が形成されている領域の一部のシリコン基板3を裏面側から除去した後に、第2空孔52の内壁にALD法で上部電極配線層11を成膜する(
図25)。上部電極配線層11は、例えばニッケル、白金で形成することができる。上部電極配線層11を介して第2AAO基板5の裏面側と上部電極層10を電気的に接続することができる。上部電極配線層11は第2空孔52の側壁に形成され、第2空孔52を完全には埋め込まない。したがって、第2AAO基板5の裏面側から供給する燃料ガス、または酸化剤ガスは、第2空孔52を介して上部電極層10に到達できる。
図25に示すように、第2燃料電池セル端部302には成膜した上部電極層10、第2界面層62、第2固体電解質層102が形成されている。第2燃料電池セル端部302における第2固体電解質層102は、
図24のCMP工程で除去されないので、第2AAO基板5の上表面の領域の第2固体電解質層102と比較して厚く形成されている。
【0056】
次に
図20の第1固体電解質層101の表面と
図25の第2固体電解質層102の表面を
図26のように接触させて焼成することにより接合して燃料電池セル1を完成する。第2固体電解質層102は上部電極層10の上表面に形成した後にCMPで平坦化して形成しているので、その膜厚は上部電極層10の表面の凹凸とは無関係である。同様に第1固体電解質層101は下部電極層20の上表面に形成した後にCMPで平坦化して形成しているので、その膜厚は下部電極層20の表面の凹凸とは無関係である。
【0057】
焼成温度による熱負荷は燃料電池セル1の各部にかかることになる。下部電極配線層21、上部電極配線層11への熱負荷については、工程順序を入れ替えて、第1固体電解質層101と第2固体電解質層102を接合した後に形成することで回避できる。
【0058】
図27は、前述した下部電極層20上と上部電極層10上の異物200が存在する部位における、本実施形態2に係る燃料電池セル1の形状を示している。異物200が存在する部位においても異物の上部が、第1固体電解質層101のCMP工程と、第2固体電解質層のCMP工程により除去されて平坦化されている。第1固体電解質層101と第2固体電解質層102の膜厚はそれぞれ単独でリーク電流を抑制可能な厚さである。第1固体電解質層101中の異物の位置と第2固体電解質層102中の異物の位置が
図25の接合時に重なる確率は充分に低いので、本実施形態2に係る燃料電池セル1では異物を介したアノード、カソード間のリーク電流による不良率は充分に下げられる。本実施形態2に係る燃料電池セルにおいても、異物部で生じるリーク電流を抑制し、コストの観点から許容される最小のセル面積より大きいセル面積でも高い良品率を確保できた。
【0059】
換言すると、本実施形態2は以下のように構成されているということができる。本実施形態2における第2固体電解質層102の膜厚は、実施形態1と同様に、燃料電池セル1の出力電圧が下部電極層20と上部電極層10との間に生じたときであっても、任意箇所において第1固体電解質層101と第2固体電解質層102との間のリーク電流をブロックできる程度に確保されている。本実施形態2においてはさらに、第1固体電解質層101の膜厚も、同様に任意箇所において(すなわち膜厚が最も薄い箇所において)第1固体電解質層101と第2固体電解質層102との間のリーク電流をブロックできる程度に確保されている。
【0060】
<実施の形態2:変形例>
図28は、本実施形態2の変形例を示す。
図20~26では、第1AAO基板4と第2AAO基板5を用いたが、
図28に示す本実施形態2の変形例のように、第1多孔質金属基板71と第2多孔質金属基板72を用いることもできる。
【0061】
第1多孔質金属基板71上に下部電極層20、第1界面層61、第1固体電解質層101を形成した後にCMP法で第1固体電解質層101の上部の一部を除去して平坦化した部品と、第2多孔質金属基板72上に上部電極層10、第2界面層62、第2固体電解質層102を形成した後にCMP法で第2固体電解質層102の上部の一部を除去して平坦化した部品とを、第1固体電解質層101の表面と第2固体電解質層102の表面で接触させて焼成することで接合して燃料電池セル1を完成した。CMP工程での第1固体電解質層101の残膜厚は、下地となる下部電極層20の表面の所定の領域の凹凸(D)以上で、かつ第1固体電解質層101の厚さだけでリーク電流を止められる膜厚であることが必要とされる。最も薄い領域の膜厚が100nm以上であればよい。CMP工程での第2固体電解質層102の残膜厚は、下地となる上部電極層10の表面の所定の領域の凹凸(D)以上で、かつ第2固体電解質層102の厚さだけでリーク電流を止められる膜厚であることが必要とされる。最も薄い領域の膜厚が100nm以上であればよい。
【0062】
第2固体電解質層102は上部電極層10の上表面に形成した後にCMPで平坦化して形成しているので、その膜厚は上部電極層10の表面の凹凸とは無関係である。逆に、第1固体電解質層101は下部電極層20の上表面に形成した後にCMPで平坦化して形成しているので、その膜厚は下部電極層20の表面の凹凸とは無関係である。
【0063】
図26の構造では第1AAO基板4と第2AAO基板5が絶縁体であるので下部電極配線層21と上部電極配線層11を形成する必要があったが、変形例の
図28の構造は第1多孔質金属基板71と第2多孔質金属基板72が導電性の金属で形成されているので下部電極層20と上部電極層10への給電が容易である。第1多孔質金属基板71と第2多孔質金属基板72は多孔質であるため、第1多孔質金属基板71と第2多孔質金属基板72を介して燃料ガス、あるいは酸化剤ガスを下部電極層20と上部電極層10にそれぞれ供給することができる。
【0064】
第1固体電解質層101と第2固体電解質層102の膜厚はそれぞれ単独でリーク電流を抑制可能な厚さであり、第1固体電解質層101中の異物の位置と第2固体電解質層102中の異物の位置が
図28の接合時に重なる確率は充分に低いので、本実施形態2の変形例に係る燃料電池セル1では異物を介したアノード、カソード間のリーク電流による不良率は充分に下げられる。本実施の形態2の変形例に係る燃料電池セルにおいても、異物部で生じるリーク電流を抑制し、コストの観点から許容される最小のセル面積より大きいセル面積でも高い良品率を確保できた。
【0065】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0066】
以上の実施形態において、下部電極層20がアノード層として機能し、上部電極層10がカソード層として機能する場合と、上部電極層10がアノード層として機能し、下部電極層20がカソード層として機能する場合がある。いずれの場合であっても本発明の効果を発揮することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 燃料電池セル
2 シリコン基板
3 シリコン基板
4 第1陽極酸化アルミナ基板(AAO基板)
5 第2陽極酸化アルミナ基板(AAO基板)
10 上部電極層
11 上部電極配線層
20 下部電極層
21 下部電極配線層
51 第1空孔
52 第2空孔
61 第1界面層
62 第2界面層
71 第1多孔質金属基板
72 第2多孔質金属基板
101 第1固体電解質層
102 第2固体電解質層
200 異物
301 第1燃料電池セル端部
302 第2燃料電池セル端部