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特許7700627粉体塗料用樹脂組成物、粉体塗料、該塗料の塗膜を有する物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-23
(45)【発行日】2025-07-01
(54)【発明の名称】粉体塗料用樹脂組成物、粉体塗料、該塗料の塗膜を有する物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20250624BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20250624BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20250624BHJP
   C09D 133/26 20060101ALI20250624BHJP
   C09D 125/08 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/03
C09D133/14
C09D133/26
C09D125/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021174571
(22)【出願日】2021-10-26
(65)【公開番号】P2023064339
(43)【公開日】2023-05-11
【審査請求日】2024-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】柴 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】清家 奈緒之
(72)【発明者】
【氏名】村上 晃一
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7070818(JP,B2)
【文献】特開昭50-95333(JP,A)
【文献】特開2001-115083(JP,A)
【文献】特開2000-63705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を有するアクリル単量体(a1)と、(メタ)アクリルアミド(a2)と、スチレン(a3)と、その他の不飽和単量体(a4)とを必須原料とするアクリル樹脂(A)を含有する粉体塗料用樹脂組成物であって、前記アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中の前記アクリル単量体(a1)が20~60質量%であり、(メタ)アクリルアミドが0.1~30質量%であり、スチレンが10~50質量%であることを特徴とする粉体塗料用樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤(B)とを含有する請求項1記載の粉体塗料用樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化剤(B)が、脂肪族多価カルボン酸及び/又はその無水物である請求項2記載の粉体塗料用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項記載の粉体塗料用樹脂組成物から得られる粉体塗料。
【請求項5】
請求項4記載の粉体塗料の塗膜を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料用樹脂組成物、粉体塗料、該塗料の塗膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染等の問題から有機溶剤に対する規制が厳しくなり、環境調和型塗料が注目されている。その中でも、粉体塗料は無溶剤型塗料として環境保護の観点から脚光を浴びており、特にアクリル系粉体塗料は耐候性、耐汚染性等の塗膜性能に優れることから、アルミホイール等の自動車部品、金属外装、家電の用途に注目されている。しかしながら、粉体塗料は溶剤型塗料と比較し、塗膜の平滑性が劣るという欠点があった。
【0003】
これに対して、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エポキシ基含有アクリル単量体、その他共重合可能なビニル系単量体を共重合させて得られるエポキシ基含有アクリル樹脂と、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤とを含んでなる粉体塗料が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この粉体塗料から得られる硬化塗膜は、平滑性が改善されているものの、耐糸錆性が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-69368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、硬化性、平滑性、及び耐糸錆性に優れる硬化塗膜を得ることのできる粉体塗料用樹脂組成物、粉体塗料及び該塗料の塗膜を有する物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、エポキシ基を有するアクリル単量体と、(メタ)アクリルアミドと、スチレンと、その他の不飽和単量体とを必須原料とするアクリル樹脂を含有する粉体塗料用樹脂組成物から得られる硬化塗膜が、硬化性、平滑性、及び耐糸錆性に優れることを見出し、発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、エポキシ基を有するアクリル単量体(a1)と、(メタ)アクリルアミド(a2)と、スチレン(a3)と、その他の不飽和単量体(a4)とを必須原料とするアクリル樹脂(A)を含有する粉体塗料用樹脂組成物であって、前記アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中の前記アクリル単量体(a1)が20~60質量%であり、(メタ)アクリルアミドが0.1~30質量%であり、スチレンが10~50質量%であることを特徴とする粉体塗料用樹脂組成物、粉体塗料及び該塗料で塗装された物品に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粉体塗料用樹脂組成物は、硬化性、外観、及び耐糸錆性に優れること硬化塗膜を形成することができることから、アルミホイール等の物品を塗装する塗料に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の粉体塗料用樹脂組成物は、エポキシ基を有するアクリル単量体(a1)と、(メタ)アクリルアミド(a2)と、スチレン(a3)と、その他の不飽和単量体(a4)とを必須原料とするアクリル樹脂(A)を含有する粉体塗料用樹脂組成物であって、前記アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中の前記アクリル単量体(a1)が20~60質量%であり、(メタ)アクリルアミドが0.1~30質量%であり、スチレンが10~50質量%であるものである。
【0010】
まず、前記アクリル樹脂(A)について説明する。前記アクリル樹脂(A)はエポキシ基を有するものであるが、前記アクリル単量体(a1)と、(メタ)アクリルアミド(a2)と、スチレン(a3)と、その他の不飽和単量体(a4)とを共重合することにより得られる。
【0011】
前記アクリル単量体(a1)は、エポキシ基を有するアクリル単量体であり、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテル、(メタ)アリルメチルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらの中でも、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。なお、これらのアクリル単量体(a1)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0012】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリルアミド」とは、メタクリルアミドとアクリルアミドの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイル基」とは、メタクリロイル基とアクリロイル基の一方又は両方をいう。
【0013】
前記(メタ)アクリルアミド(a2)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0014】
前記その他の不飽和単量体(a4)は、前記アクリル単量体(a1)、(メタ)アクリルアミド、及びスチレン以外の不飽和単量体であり、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-n-ブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレート、末端に水酸基を有するラクトン変性(メタ)アクリレート等の単官能単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA-ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA-EO変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート等の2官能単量体;イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の3官能以上の単量体などが挙げられるが、これらの中でも、塗膜の硬化性、耐糸錆性がより向上することから、アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素原子数が1~4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。なお、これらの不飽和単量体(a4)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0015】
前記アクリル単量体(a1)の使用量は、前記アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中、20~60質量%であるが、硬化性と耐糸錆性のバランスがより向上することから、25~50質量%が好ましく、25~40質量%がより好ましい。
【0016】
前記(メタ)アクリルアミド(a2)の使用量は、前記アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中、0.1~30質量%であるが、硬化性と耐糸錆性のバランスがより向上することから、0.1~20質量%が好ましく、0.2~15質量%がより好ましく、0.5~5質量%がさらに好ましい。
【0017】
前記スチレン(a3)の使用量は、前記アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中、10~50質量%であるが、硬化性と耐糸錆性のバランスがより向上することから、15~45質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。
【0018】
前記不飽和単量体(a4)の使用量は、硬化性と耐糸錆性のバランスがより向上することから、前記アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中、20~70質量%が好ましい。
【0019】
また、前記アクリル樹脂(A)のガラス転移温度は、塗膜の耐糸錆性が向上することから、20~120℃が好ましい。さらに好ましくは、40~100℃が好ましい。
【0020】
なお、本発明において、ガラス転移温度とは、
FOXの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・
(Tg:求めるべきガラス転移温度、W1:成分1の重量分率、Tg1:成分1のホモポリマーのガラス転移温度)
に従い計算により求めたものである。各成分のホモポリマーのガラス転移温度の値は、日刊工業新聞社の「粘着技術ハンドブック」またはWiley-Interscienceの「ポリマーハンドブック(Polymer Handbook)」に記載の値を採用するものとする。なお、メタクリルアミドのホモポリマーのTgは、77℃とする。以下、この計算によるガラス転移温度を「設計Tg」と略称する場合がある。
【0021】
さらに、前記アクリル樹脂(A)の数平均分子量は溶融時の流動性と耐糸錆性に優れることから、1,000~10,000が好まく、2,000~8,000がより好ましい。ここで、数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する。)測定に基づきポリスチレン換算した値である。
【0022】
前記アクリル樹脂(A)を得る方法としては、前記アクリル単量体(a1)、前記(メタ)アクリルアミド(a2)、前記スチレン(a3)、及び前記不飽和単量体(a4)を原料として、公知の重合方法で行うことができるが、溶液ラジカル重合法が最も簡便であることから好ましい。
【0023】
上記の溶液ラジカル重合法は、原料である各単量体を溶剤に溶解し、重合開始剤存在下で重合反応を行う方法である。この際に用いることができる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、オクタン等の炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0024】
前記重合開始剤としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド化合物;1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジtert-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジtert-アミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジtert-ヘキシルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジtert-オクチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジクミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等のパーオキシケタール化合物;クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド化合物;デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド化合物;ビス(tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシカーボネート化合物;tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシエステル化合物などの有機過酸化物と、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ化合物とが挙げられる。
【0025】
本発明の粉体塗料用樹脂組成物は、前記アクリル樹脂(A)を含有するものであるが、塗膜物性がより向上することから、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤(B)を含有することが好ましい。
【0026】
前記硬化剤(B)は、エポキシ基と反応可能な官能基を有する硬化剤であり、例えば、スベリン酸、アゼライン酸、2,4-ジエチルグルタル酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ブラシル酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、エイコサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、ブタントリカルボン酸等の多価カルボン酸化合物、これら多価カルボン酸の無水物、及び多価フェノール化合物などが挙げられる。これらの中でも、高強度の塗膜が得られることから、脂肪族多価カルボン酸化合物及びその無水物が好ましく、ドデカンジカルボン酸がより好ましい。また、これらの硬化剤(B)は単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0027】
本発明の粉体塗料用樹脂組成物における前記アクリル樹脂(A)と前記硬化剤(B)との配合量としては、高強度の塗膜が得られることから、前記アクリル樹脂(A)中のエポキシ基の当量数と、前記硬化剤(B)中のエポキシ基と反応可能な官能基の当量数との当量比(A/B)が、0.5~1.5が好ましく、0.8~1.2がより好ましい。
【0028】
本発明の粉体塗料用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、有機系ないしは無機系の顔料をはじめ、レベリング剤、流動調整剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の公知慣用の種々の添加剤を添加することができる。また、焼き付け時の硬化反応を促進する目的で、触媒を添加することもできる。
【0029】
本発明の粉体塗料用樹脂組成物には、塗膜の耐糸錆性を向上させるために、本発明の効果を損なわない範囲内で、シリカ及びアルコキシシラン、シランカップリング剤のような加水分解可能なシラン化合物をさらに含むことができる。なお、これらの化合物は、単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0030】
好適なシランカップリング剤の例としては、グリシジルアルコキシシランおよびアミノアルコキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、耐糸錆性に優れる塗膜が得られることからグリシジルトリアルコキシシランが好ましく、グリシジルトリメトキシシランがより好ましい。
【0031】
前記シランカップリング剤の配合量としては、耐糸錆性に優れる塗膜が得られることから、粉体塗料用樹脂組成物中、0.01~3質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましい。
【0032】
本発明の粉体塗料の調製方法としては、公知慣用の種々の方法を利用することができるが、例えば、前記アクリル樹脂(A)と、前記硬化剤(B)と、必要に応じて、顔料、表面調整剤等の種々の添加剤とを混合し、次いで、それらを溶融混練したのちに、微粉砕、分級するという、いわゆる機械粉砕方式などを利用することができる。
【0033】
本発明の粉体塗料は、エクステリア、家電用品、自動車用品、二輪車用品、防護柵等に塗装することが可能であるが、耐候性、耐衝撃性、耐チッピング性、耐水性、耐糸錆性等に優れる高外観の塗膜が得られることから、アルミホイール合金部材等の金属部材への塗装に適している。
【0034】
本発明の粉体塗料の塗装方法としては、静電粉体塗装法等の公知慣用の種々の方法が挙げられる。また、本発明の粉体塗料を塗装後、硬化塗膜とする方法としては、基材の種類や目的に応じて適宜選択することができるが、耐糸錆性、耐水性及び耐候性に優れる塗膜が得られることから、120~250℃の温度範囲で、5~30分間の範囲で焼き付けることが好ましい。また、塗装膜厚は、50~200μmの範囲が好ましい。
【実施例
【0035】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。なお、アクリル樹脂のエポキシ当量及び数平均分子量は、下記の方法で測定したものである。
【0036】
[エポキシ当量の測定方法]
塩酸-ピリジン法により測定した。樹脂に、塩酸-ピリジン溶液25mlを加え、130℃で1時間、加熱溶解した後、フェノールフタレインを指示薬として0.1N-水酸化カリウムアルコール溶液で滴定した。消費した0.1N-水酸化カリウムアルコール溶液の量によってエポキシ当量を算出した。
【0037】
[数平均分子量の測定方法]
GPCにより測定した。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度4mg/mLのテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0038】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0039】
(合成例1:アクリル樹脂(A-1)の合成)
攪拌機、温度計、コンデンサー及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、キシレン67質量部を仕込んで、窒素雰囲気下に135℃まで昇温した。そこへ、スチレン(以下、「St」と略記する。)25質量部、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と略記する。)49質量部、グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」と略
記する。)25質量部、アクリルアミド(以下、「AM」と略記する。)1質量部およびt-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート6質量部からなる混合物を6時間に亘って滴下し、滴下終了後も同温度に6時間保持して重合反応を行い、しかる後160℃で20mmHgの減圧下に溶剤をのぞき、数平均分子量3,000、ガラス転移温度84℃、エポキシ当量569g/eqなる固形のアクリル樹脂(A-1)を得た。
【0040】
(合成例2:アクリル樹脂(A-2)の合成)
単量体の組成を、St 25質量部、MMA 40質量部、GMA 25質量部、AM 10質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、数平均分子量3,000、ガラス転移温度91℃、エポキシ当量569g/eqの固形のアクリル樹脂(A-2)を得た。
【0041】
(合成例3:アクリル樹脂(A-3)の合成)
単量体の組成を、St 25質量部、MMA 40質量部、GMA 25質量部、メタクリルアミド(以下、「MAM」と略記する。)10質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、数平均分子量3,000、ガラス転移温度84℃、エポキシ当量569g/eqなる固形のアクリル樹脂(A-3)を得た。
【0042】
(合成例4:アクリル樹脂(A-4)の合成)
単量体の組成を、St 10質量部、MMA 64質量部、GMA 25質量部、AM 1質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、数平均分子量3,000、ガラス転移温度88℃、エポキシ当量569g/eqなる固形のアクリル樹脂(A-4)を得た
【0043】
(合成例5:アクリル樹脂(A-5)の合成)
単量体の組成を、St 20質量部、MMA 29質量部、GMA 50質量部、AM 1質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、数平均分子量3,000、ガラス転移温度72℃、エポキシ当量284g/eqなる固形のアクリル樹脂(A-5)を得た。
【0044】
(合成例6:アクリル樹脂(RA-1)の合成)
単量体の組成を、St 25質量部、MMA 47質量部、GMA 28質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、数平均分子量3,000、ガラス転移温度85℃、エポキシ当量508g/eqなる固形のアクリル樹脂(RA-1)を得た。
【0045】
(合成例7:アクリル樹脂(RA-2)の合成)
単量体の組成を、St 25質量部、MMA 64質量部、GMA 10質量部、AM 1質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、数平均分子量3,350、ガラス転移温度97℃、エポキシ当量1,422g/eqなる固形のアクリル樹脂(RA-2)を得た。
【0046】
(合成例8:アクリル樹脂(RA-3)の合成)
単量体の組成を、St 5質量部、MMA 66質量部、GMA 28質量部、AM 1質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、数平均分子量3,400、ガラス転移温度87℃、エポキシ当量508g/eqなる固形のアクリル樹脂(RA-3)を得た。
【0047】
(合成例9:アクリル樹脂(RA-4)の合成)
単量体の組成を、St 5質量部、MMA 35質量部、n-ブチルメタクリレート(以下、「nBMA」と略記する。)40質量部、GMA 15質量部、MAM 5質量部に変更した以外は合成例1と同様に操作することにより、数平均分子量3,000、ガラス転移温度56℃、エポキシ当量948g/eqなる固形のアクリル樹脂(RA-4)を得た。
【0048】
上記の合成例1~5で合成したアクリル樹脂(A-1)~(A-5)及び(RA-1)~(RA-4)の単量体組成及び性状値を表1及び2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
(実施例1:粉体塗料(1)の製造及び評価)
合成例1で得られたアクリル樹脂(A-1)85質量部、ドデカンジカルボン酸(以下、「DDDA」と略記する。)15質量部、ベンゾイン0.5質量部及びレベリング剤(ESTRON製「レジフローLF」)0.3質量部を配合した樹脂組成物を、二軸混練機(ツバコー横浜販売株式会社製「APV・ニーダーMP-2015型」)を使用して溶融混練した後、微粉砕し、さらに、200メッシュの金網で分級し、粉体塗料(1)を得た。
【0052】
[評価用硬化塗膜の作製]
上記で得られた粉体塗料を未処理アルミ板(A-1050P)(7cm×15cm)に、焼き付け後の膜厚が80~120μmとなるように静電粉体塗装した後、170℃で20分間焼き付けを行い、評価用硬化塗膜を作製した。
【0053】
[硬化性の評価]
上記で得られた粉体塗料0.5gを160℃に加熱したホットプレート上に投下し、タックが無くなるまでの時間(ゲルタイム)を測定した。ゲルタイムを基に、硬化性を以下の通り判定した。
〇:ゲルタイムが160秒未満
△:ゲルタイムが160秒以上200秒未満
×:ゲルタイムが200秒以上
【0054】
[平滑性試験]
PCI(パウダーコーティングインスティチュート)による粉体塗膜の平滑性目視判定用標準板を用いて判定した。標準板は、1~10の10枚あり、数字が大きくなるに従い、平滑性が良好となる。作成した粉体塗膜の平滑性がどの標準板に相当するかを目視で判定した。判定した結果をもとに、平滑性を以下のように判定した。
〇:平滑性が8以上
△:平滑性が6~7
×:平滑性が5以下
【0055】
[耐糸錆性の評価]
上記で得られた評価用硬化塗膜にカッターナイフで基材の素地に達するように13cmの直線の傷を2本入れ、CASS試験機にて次の試験を行った。温度50℃、噴霧液量1.2~1.8cc/h、噴霧圧力0.1MPaの条件下、塩水(塩化銅(II)水和物2.6g、氷酢酸10cc、並塩500gを10Lのイオン交換水に溶解し調製)を6時間噴霧する試験1と、温度60℃、湿度85%の条件下96時間放置する試験2とを1サイクルとして、合計5サイクル行った。CASS試験終了後、塗装板の傷から生じた糸錆を目視にて確認し、最長に成長した糸錆の長さにより耐糸錆性を評価した。最長に成長した糸錆の長さをもとに、塗膜の耐糸錆性を以下のように判定した。
〇:糸錆の最長長さが2.0mm以下
△:糸錆の最長長さが2.0mmを超え、3.0mm以下
×:糸錆の最長長さが3.0mmを超える
【0056】
(実施例2~5:粉体塗料(2)~(5)の製造及び評価)
実施例1で配合したアクリル樹脂(A-1)及びDDDAを、表3に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、粉体塗料(2)~(5)を調製し、各種物性を評価した。
【0057】
(比較例1~4:粉体塗料(R1)~(R4)の製造及び評価)
実施例1で配合したアクリル樹脂(A-1)及びDDDAを、表4に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様に操作することにより、粉体塗料(R1)~(R4)を調製し、各種物性を評価した。
【0058】
上記の実施例1~5で得た粉体塗料(1)~(5)及び比較例1~4で得た粉体塗料(R1)~(R4)の配合組成及び評価結果を表3及び4に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
実施例1~5の本発明の粉体塗料用樹脂組成物から得られる硬化塗膜は、硬化性、平滑性、及び耐糸錆性に優れることが確認された。
【0062】
一方、比較例1は、アクリル樹脂(A)の原料として、(メタ)アクリルアミド(a2)を用いなかった例であるが、耐糸錆性が不十分であることが確認された。
【0063】
比較例2は、アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中のアクリル単量体(a1)が、本発明の下限である20質量%より少ない例であるが、平滑性が不十分であることが確認された。
【0064】
比較例3は、アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中のスチレンが、本発明の下限である10質量%より少ない例であるが、硬化性が不十分であることが確認された。
【0065】
比較例4は、アクリル樹脂(A)の原料である単量体成分中のアクリル単量体(a1)及びスチレンが、本発明の下限より少ない例であるが、硬化性が不十分であることが確認された。