(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-27
(45)【発行日】2025-07-07
(54)【発明の名称】ポリマーフィルム及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20250630BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20250630BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B15/08 Z
(21)【出願番号】P 2021141202
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2024-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/262255(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/218141(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/174868(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/106768(WO,A1)
【文献】特開2019-135301(JP,A)
【文献】特許第6640072(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/22
B32B 1/00-43/00
B29C 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマーを含む、ポリマーフィルムであって、
前記液晶ポリマーが、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族もしくは脂肪族ジオール、芳香族もしくは脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、及び、芳香族アミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つに由来する繰り返し単位を有する、熱可塑性液晶ポリエステル又は熱可塑性液晶ポリエステルアミドであり、
前記ポリマーフィルムの厚み方向に沿った断面において、前記ポリマーフィルムの一方の表面から他方の表面に向かって前記ポリマーフィルムの厚みの半分の距離にある位置Aにおける硬度を硬度Aとし、前記ポリマーフィルムの前記一方の表面から前記他方の表面に向かって前記ポリマーフィルムの厚みの1/10の距離にある位置Bにおける硬度を硬度Bとした際に、下記式(1A)の関係を満たし、
前記断面において、前記ポリマーフィルムの前記一方の表面から前記他方の表面に向かって、前記ポリマーフィルムの厚みの1/10の距離にある位置を位置T1、前記ポリマーフィルムの厚みの4/10の距離にある位置を位置T2、前記ポリマーフィルムの厚みの6/10の距離にある位置を位置T3とし、前記一方の表面から前記位置T1までの領域を第1表層領域、前記位置T2から前記位置T3までの領域を中央領域とし、前記第1表層領域における空隙の面積割合を空隙面積割合X、前記中央領域における空隙の面積割合を空隙面積割合Yとした際に、下記式(2A)の関係を満たす、ポリマーフィルム。
式(1A) (硬度A+硬度B)/2≧0.10GPa
式(2A) 空隙面積割合Y-空隙面積割合X≧0.10%
【請求項2】
前記液晶ポリマーが、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-(4-ヒドロキシフェニル)安息香酸、ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジメチル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジオール、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、p-フェニレンジアミン、4-アミノフェノール、及び、4-アミノ安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1つに由来する繰り返し単位を有する、請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項3】
前記液晶ポリマーが、下記式(1)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位、下記式(2)で表される芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位、及び、下記式(3)で表される芳香族ジオールに由来する繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1つを有する、請求項1又は2に記載のポリマーフィルム。
-O-Ar1-CO- (1)
-CO-Ar2-CO- (2)
-O-Ar3-O- (3)
式(1)中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。
式(2)中、Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。
式(3)中、Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。
-Ar4-Z-Ar5- (4)
式(4)中、Ar4及びAr5はそれぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し、Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキレン基を表す。
前記フェニレン基、前記ナフチレン基及び前記ビフェニリレン基はいずれも、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選択される置換基を有していてもよい。
【請求項4】
前記液晶ポリマーが、パラヒドロキシ安息香酸に由来する繰り返し単位、及び、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項5】
前記液晶ポリマーが、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位、芳香族ジオールに由来する繰り返し単位、テレフタル酸に由来する繰り返し単位、及び、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項6】
前記硬度A及び前記硬度Bが、下記式(1B)の関係を満たす、請求項1
~5のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
式(1B) (硬度A-硬度B)≧-0.02GPa
【請求項7】
単層構造である、請求項1
~6のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項8】
前記ポリマーフィルムの温度23℃及び周波数28GHzでの誘電正接が0.0024以下である、請求項1~
7のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項9】
請求項1~
8の記載のポリマーフィルムと、少なくとも1つの金属含有層とを有する、積層体。
【請求項10】
少なくとも2つの前記金属含有層を有し、前記金属含有層、前記ポリマーフィルム及び前記金属含有層がこの順に配置されている、請求項
9に記載の積層体。
【請求項11】
前記金属含有層の厚みが5~30μmである、請求項
9又は10に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルム及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代通信技術とされる第5世代(5G)移動通信システムには、これまで以上の高周波数帯域が用いられる。そのため、5G移動通信システムのための回路基板用のフィルム基材には、高周波数帯域での伝送損失を低減させる観点から、低誘電正接及び低吸水性が求められており、種々の素材による開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなる液晶ポリマーフィルムであって、フィルムを加熱する前後の比誘電率の変化率が特定の関係を満たす熱可塑性液晶ポリマーフィルム、並びに、熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなるフィルム層と金属層とを備える積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、誘電正接が低いポリマーフィルムが求められている。ここで、ポリマーフィルムの硬度は誘電正接に関連しており、ポリマーフィルムを低誘電正接とするために、硬度の高いポリマーフィルムを用いる場合がある。
しかしながら、硬度の高いポリマーフィルムと銅箔とを熱圧着して積層体を製造した場合、得られる積層体に反りが生じたり、ポリマーフィルムと銅箔との剥離が生じたりすることがある。この問題を解決する方法の一つとして、銅箔との線膨張係数の差が小さいポリマーフィルムを用いる方法が挙げられる。
本発明者らは、特許文献1に記載されたようなポリマーフィルムを評価したところ、低誘電正接ではあるものの、銅箔との線膨張係数の差が大きくなり、改善の余地があることを明らかとした。
【0006】
そこで、本発明は、誘電正接が低く、銅箔との線膨張係数の差が小さいポリマーフィルムの提供を課題とする。
また、本発明は、上記のポリマーフィルムと金属含有層とを有する積層体の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリマーフィルムにおいて、厚み方向の特定位置における硬度が所定の関係を満たし、かつ、厚み方向の特定領域における空隙面積割合が所定の関係を満たしていれば、誘電正接が低く、かつ、銅箔との線膨張係数の差が小さくなることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0008】
[1]
液晶ポリマーを含む、ポリマーフィルムであって、
上記ポリマーフィルムの厚み方向に沿った断面において、上記ポリマーフィルムの一方の表面から他方の表面に向かって上記ポリマーフィルムの厚みの半分の距離にある位置Aにおける硬度を硬度Aとし、上記ポリマーフィルムの上記一方の表面から上記他方の表面に向かって上記ポリマーフィルムの厚みの1/10の距離にある位置Bにおける硬度を硬度Bとした際に、下記式(1A)の関係を満たし、
上記断面において、上記ポリマーフィルムの上記一方の表面から上記他方の表面に向かって、上記ポリマーフィルムの厚みの1/10の距離にある位置を位置T1、上記ポリマーフィルムの厚みの4/10の距離にある位置を位置T2、上記ポリマーフィルムの厚みの6/10の距離にある位置を位置T3とし、上記一方の表面から上記位置T1までの領域を第1表層領域、上記位置T2から上記位置T3までの領域を中央領域とし、上記第1表層領域における空隙の面積割合を空隙面積割合X、上記中央領域における空隙の面積割合を空隙面積割合Yとした際に、下記式(2A)の関係を満たす、ポリマーフィルム。
式(1A) (硬度A+硬度B)/2≧0.10GPa
式(2A) 空隙面積割合Y-空隙面積割合X≧0.10%
[2]
上記硬度A及び上記硬度Bが、下記式(1B)の関係を満たす、[1]に記載のポリマーフィルム。
式(1B) (硬度A-硬度B)≧-0.02GPa
[3]
単層構造である、[1]又は[2]に記載のポリマーフィルム。
[4]
上記ポリマーフィルムの温度23℃及び周波数28GHzでの誘電正接が0.0024以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリマーフィルム。
[5]
上記液晶ポリマーが、パラヒドロキシ安息香酸に由来する繰り返し単位、及び、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1つを含む、[1]~[4]のいずれかに記載のポリマーフィルム。
[6]
[1]~[5]の記載のポリマーフィルムと、少なくとも1つの金属含有層とを有する、積層体。
[7]
少なくとも2つの上記金属含有層を有し、上記金属含有層、上記ポリマーフィルム及び上記金属含有層がこの順に配置されている、[6]に記載の積層体。
[8]
上記金属含有層の厚みが5~30μmである、[6]又は[7]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、誘電正接が低く、銅箔との線膨張係数の差が小さいポリマーフィルム、及びこれを含む積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、インフレーション成形によるポリマーフィルムの製造に使用する製造装置の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。
【0012】
本明細書において、ポリマーフィルム又は積層体が長尺状である場合、長さ方向とは、ポリマーフィルム又は積層体の長手方向及びMD(machine direction)方向を意味し、幅方向とは、ポリマーフィルム又は積層体の面内において長さ方向に垂直な方向(短手方向及びTD(transverse direction)方向)を意味する。
本明細書において、各成分は、各成分に該当する物質を1種単独で使用してよく、2種以上を使用してもよい。ここで、各成分について2種以上の物質を使用する場合、その成分についての含有量とは、特段の断りが無い限り、2種以上の物質の合計含有量を指す。
本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、温度23℃及び周波数28GHzの条件下で測定されるポリマーフィルム又はポリマーフィルムに含まれる液晶ポリマーの誘電正接を、「標準誘電正接」とも記載する。
【0013】
[ポリマーフィルム]
本発明のポリマーフィルムは、液晶ポリマーを含む。また、上記ポリマーフィルムの一方の表面から他方の表面に向かって上記ポリマーフィルムの厚みの半分の距離にある位置Aにおける硬度を硬度Aとし、上記ポリマーフィルムの上記一方の表面から上記他方の表面に向かって上記ポリマーフィルムの厚みの1/10の距離にある位置Bにおける硬度を硬度Bとした際に、下記式(1A)の関係を満たす。また、上記断面において、上記ポリマーフィルムの上記一方の表面から上記他方の表面に向かって、上記ポリマーフィルムの厚みの1/10の距離にある位置を位置T1、上記ポリマーフィルムの厚みの4/10の距離にある位置を位置T2、上記ポリマーフィルムの厚みの6/10の距離にある位置を位置T3とし、上記一方の表面から上記位置T1までの領域を第1表層領域、上記位置T2から上記位置T3までの領域を中央領域とし、上記第1表層領域における空隙の面積割合を空隙面積割合X、上記中央領域における空隙の面積割合を空隙面積割合Yとした際に、下記式(2A)の関係を満たす。
式(1A) (硬度A+硬度B)/2≧0.10GPa
式(2A) 空隙面積割合Y-空隙面積割合X≧0.10%
【0014】
本発明のポリマーフィルムは、誘電正接が低く、銅箔との線膨張係数の差が小さい。この理由の詳細は明らかではないが、概ね以下のように推定している。
硬度の高いポリマーフィルムは、低い標準誘電正接を示す傾向にある。ここで、上記式(1A)は、ポリマーフィルムの厚みの中心部における硬度と、表層部における硬度との関係を示しており、式(1A)を満たすポリマーフィルムは、フィルム全体の硬度が高いといえるので、低い標準誘電正接を示したと推測される。
【0015】
ここで、ポリマーフィルムを回路基板の製造に用いる場合、ポリマーフィルムと銅箔とを有する積層体の形態で用いられる。この場合、ポリマーフィルムの硬度が高いと、積層体を加熱した際に積層体の反りが生じたり、ポリマーフィルムと銅箔との密着性が低下したりすることの原因となる。
この問題を解決するための方法の一つとして、ポリマーフィルムと銅箔との線膨張係数の差を小さくする方法が挙げられる。本発明者らは、式(1A)とともに、式(2A)を満たすポリマーフィルムを用いることで、銅箔との線膨張係数の差を小さくできることを見出した。
上記式(2A)は、ポリマーフィルムの表層部における空隙面積割合と、ポリマーフィルムの厚みの中心部における空隙面積割合と、の関係を示している。その理由は定かではないが、空隙面積割合が式(2A)の関係を満たすポリマーフィルムは、厚み方向への伸びが制御されて、面内方向における膨張が抑制されると考えられる。その結果、式(1A)を満たすような硬度の高いポリマーフィルムを用いた場合であっても、式(2A)を満たしていることで、驚くべきことに銅箔との線膨張係数の差が小さくなったと推測される。
【0016】
〔硬度〕
本発明のポリマーフィルムは、ポリマーフィルムの厚み方向に沿った断面において、ポリマーフィルムの一方の表面から他方の表面に向かってポリマーフィルムの厚みの半分の距離にある位置Aにおける硬度を硬度Aとし、ポリマーフィルムの一方の表面から他方の表面に向かってポリマーフィルムの厚みの1/10の距離にある位置Bにおける硬度を硬度Bとした際に、下記式(1A)の関係を満たす。
式(1A) (硬度A+硬度B)/2≧0.10GPa
【0017】
式(1A)における「(硬度A+硬度B)/2」の下限は、本発明の効果がより優れる点で、0.12GPa以上が好ましく、0.14GPa以上がより好ましく、0.16GPa以上が更に好ましい。
式(1A)における「(硬度A+硬度B)/2」の上限は、本発明の効果がより優れる点で、0.30GPa以下が好ましく、0.25GPa以下がより好ましく、0.20GPa以下が更に好ましい。
【0018】
硬度A及び硬度Bは、本発明の効果がより優れる点で、さらに式(1B)の関係を満たすことが好ましい。
式(1B) (硬度A-硬度B)≧-0.02GPa
【0019】
式(1B)における「(硬度A-硬度B)」の下限は、本発明の効果がより優れる点で、-0.01GPa以上が好ましく、0.00GPa以上がより好ましい。
式(1B)における「(硬度A-硬度B)」の上限は、本発明の効果がより優れる点で、0.06GPa以下が好ましく、0.04GPa以下がより好ましく、0.02GPa以下が更に好ましい。
【0020】
硬度Aは、本発明の効果がより優れる点で、0.10~0.25GPaが好ましく、0.12~0.20GPaがより好ましい。
硬度Bは、本発明の効果がより優れる点で、0.12~0.30GPaが好ましく、0.14~0.25GPaがより好ましい。
【0021】
ポリマーフィルムの断面における硬度は、ISO14577に従ってナノインデンターを用いて測定される押し込み硬さであり、その具体的な測定方法は後述の実施例に記載する。
また、ポリマーフィルムにおける「(硬度A+硬度B)/2」の値は、例えば、ポリマーフィルムの製膜工程において後述する特定熱処理を実施すること、及び、後述するアニール処理における熱量(温度×時間)を制御すること、により調整できる。
また、ポリマーフィルムにおける「(硬度A-硬度B)」の値は、例えば、ポリマーフィルムの製膜工程において後述する特定熱処理を実施すること、及び、後述するアニール処理にポリマーフィルムの厚み方向に係る熱量を制御すること、によって調節できる。
【0022】
〔空隙面積割合〕
本発明のポリマーフィルムは、ポリマーフィルムの厚み方向に沿った断面において、ポリマーフィルムの一方の表面から他方の表面に向かって、ポリマーフィルムの厚みの1/10の距離にある位置を位置T1、ポリマーフィルムの厚みの4/10の距離にある位置を位置T2、ポリマーフィルムの厚みの6/10の距離にある位置を位置T3とし、一方の表面から上記位置T1までの領域を第1表層領域、位置T2から位置T3までの領域を中央領域とし、第1表層領域における空隙の面積割合を空隙面積割合X、中央領域における空隙の面積割合を空隙面積割合Yとした際に、下記式(2A)の関係を満たす。
式(2A) 空隙面積割合Y-空隙面積割合X≧0.10%
【0023】
式(2A)における「空隙面積割合Y-空隙面積割合X」の下限は、本発明の効果がより優れる点で、0.20%以上が好ましく、0.30%以上がより好ましい。
式(2A)における「空隙面積割合Y-空隙面積割合X」の上限は、本発明の効果がより優れる点で、0.70%以下が好ましく、0.60%以下がより好ましく、0.50%以下が更に好ましい。
【0024】
空隙面積割合Xは、本発明の効果がより優れる点で、8~20%が好ましく、10~18%がより好ましい。
空隙面積割合Yは、本発明の効果がより優れる点で、10~22%が好ましく、12~ 20%がより好ましい。
【0025】
ポリマーフィルムの断面の各領域における空隙面積割合は、ポリマーフィルムの断面の各領域の面積に対する、各領域内における空隙の面積の割合(%)を意味する。空隙面積割合は、厚み方向の断面が露出するように割断したポリマーフィルムをプロピルアミンに浸漬した後、走査型電子顕微鏡(SEM)によってポリマーフィルムの断面を撮影し、撮影画像を画像処理ソフトウェア(ImageJ)によって画像処理して得られたデータに基づいて求められ、具体的な測定方法は後述の実施例に記載する。
また、ポリマーフィルムにおける、空隙面積割合(空隙面積割合X及びY)、及び、「空隙面積割合Y-空隙面積割合X」の値は、例えば、ポリマーフィルムの製膜工程において後述する特定熱処理を実施すること、後述するアニール処理における熱量(温度×時間)を制御すること、及び、後述するアニール処理にポリマーフィルムの厚み方向にかかる熱量を制御すること、により調節できる。
【0026】
〔成分〕
以下、ポリマーフィルムに含まれる成分について詳しく説明する。
【0027】
<液晶ポリマー>
本発明のポリマーフィルムに含まれる液晶ポリマーは特に制限されず、例えば、溶融成形可能な液晶ポリマーが挙げられる。
液晶ポリマーとしては、サーモトロピック液晶ポリマーが好ましい。サーモトロピック液晶ポリマーは、所定の温度範囲で加熱したとき溶融状態で液晶性を示すポリマーを意味する。
サーモトロピック液晶ポリマーは、溶融成形できる液晶ポリマーであればその化学的組成については特に制限されず、例えば、熱可塑性液晶ポリエステル、及び、熱可塑性液晶ポリエステルにアミド結合が導入された熱可塑性ポリエステルアミドが挙げられる。
液晶ポリマーとしては、例えば、国際公開第2015/064437号明細書、及び、特開2019-116586号公報に記載の熱可塑性液晶ポリマーを使用できる。
【0028】
より具体的な液晶ポリマーとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族もしくは脂肪族ジオール、芳香族もしくは脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、及び、芳香族アミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つに由来する繰り返し単位を有する、熱可塑性液晶ポリエステル又は熱可塑性液晶ポリエステルアミドが挙げられる。
【0029】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、及び、4-(4-ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられる。これらの化合物は、ハロゲン原子、低級アルキル基及びフェニル基等の置換基を有してもよい。なかでも、パラヒドロキシ安息香酸、又は、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。
芳香族又は脂肪族ジオールとしては、芳香族ジオールが好ましい。芳香族ジオールとしては、ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジメチル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジオール及びこれらのアシル化物が挙げられ、ヒドロキノン又は4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
芳香族もしくは脂肪族ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、及び、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられ、テレフタル酸が好ましい。
芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、及び、芳香族アミノカルボン酸としては、例えば、p-フェニレンジアミン、4-アミノフェノール、及び、4-アミノ安息香酸が挙げられる。
【0030】
また、液晶ポリマーは、下記式(1)~式(3)で表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1つを有することが好ましい。
-O-Ar1-CO- (1)
-CO-Ar2-CO- (2)
-X-Ar3-Y- (3)
式(1)中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。
式(2)中、Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。
式(3)中、Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表し、X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。
-Ar4-Z-Ar5- (4)
式(4)中、Ar4及びAr5はそれぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し、Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキレン基を表す。
上記フェニレン基、上記ナフチレン基及び上記ビフェニリレン基は、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選択される置換基を有していてもよい。
【0031】
なかでも、液晶ポリマーは、上記式(1)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位、上記式(3)で表され、X及びYがいずれも酸素原子である芳香族ジオールに由来する繰り返し単位、及び、上記式(2)で表される芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。
また、液晶ポリマーは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位を少なくとも有することがより好ましく、パラヒドロキシ安息香酸に由来する繰り返し単位、及び、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを有することが更に好ましく、パラヒドロキシ安息香酸に由来する繰り返し単位、及び、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位を有することが特に好ましい。
【0032】
また、他の好ましい態様として、本発明の効果がより優れる点で、液晶ポリマーは、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位、芳香族ジオールに由来する繰り返し単位、テレフタル酸に由来する繰り返し単位、及び、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを有することがより好ましく、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位、芳香族ジオールに由来する繰り返し単位、テレフタル酸に由来する繰り返し単位、及び、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰り返し単位をすべて有することが、更に好ましい。
【0033】
液晶ポリマーが芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位を含む場合、その組成比は、液晶ポリマーの全繰り返し単位に対して50~65モル%が好ましい。また、液晶ポリマーが、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位のみを有することも好ましい。
液晶ポリマーが芳香族ジオールに由来する繰り返し単位を含む場合、その組成比は、液晶ポリマーの全繰り返し単位に対して17.5~25モル%が好ましい。
液晶ポリマーが芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位を含む場合、その組成比は、液晶ポリマーの全繰り返し単位に対して11~23モル%が好ましい。
液晶ポリマーが芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族アミノカルボン酸のいずれかに由来する繰り返し単位を含む場合、その組成比は、液晶ポリマーの全繰り返し単位に対して2~8モル%が好ましい。
【0034】
液晶ポリマーの合成方法は特に制限されず、上記化合物を、溶融重合、固相重合、溶液重合及びスラリー重合等の公知の方法で重合することにより、合成できる。
液晶ポリマーとしては、市販品を用いてもよい。液晶ポリマーの市販品としては、例えば、ポリプラスチックス社製「ラペロス」、セラニーズ社製「ベクトラ」、上野製薬社製「UENO LCP」、住友化学社製「スミカスーパーLCP」、ENEOS社製「ザイダー」、及び、東レ社製「シベラス」が挙げられる。
なお、液晶ポリマーは、ポリマーフィルム内において、任意成分である架橋剤又は相溶成分(反応性相溶化剤)等と、化学結合を形成していてもよい。この点は、液晶ポリマー以外の成分についても同様である。
【0035】
標準誘電正接が低い(好ましくは0.0025以下の)ポリマーフィルムを容易に製造できる点で、液晶ポリマーの標準誘電正接は、0.0022以下が好ましく、0.0015以下がより好ましく、0.0010以下が更に好ましい。下限値は特に制限されず、例えば、0.0001以上であってよい。
なお、ポリマーフィルムが2種以上の液晶ポリマーを含む場合、「液晶ポリマーの誘電正接」は、2種以上の液晶ポリマーの誘電正接の質量平均値を意味する。
【0036】
ポリマーフィルムに含まれる液晶ポリマーの標準誘電正接は、下記の方法で測定できる。
まず、ポリマーフィルムの全質量に対して1000質量倍の有機溶剤(例えば、ペンタフルオロフェノール)に浸漬した後、120℃で12時間加熱して、液晶ポリマーを含む有機溶剤可溶成分を、有機溶剤中に溶出させる。次いで、ろ過により液晶ポリマーを含む溶出液と非溶出成分とを分離する。続いて、溶出液に貧溶媒としてアセトンを加え、液晶ポリマーを析出させ、ろ過により析出物を分離する。
得られた析出物をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製チューブ(外径2.5mm、内径1.5mm、長さ10mm)に充填し、空洞共振器(例えば、関東電子応用開発社製「CP-531」)を用いて、温度23℃及び周波数28GHzの条件下、空洞共振器摂動法により誘電特性を測定し、PTFE製チューブ内の空隙の影響をBruggemanの式と空隙率で補正することで、液晶ポリマーの標準誘電正接が得られる。
上記空隙率(チューブ内における空隙の体積率)は、以下のように算出される。上記チューブの内径及び長さから、チューブ内の空間の体積を求める。次いで、析出物を充填する前後のチューブの重さを測定して充填した析出物の質量を求めた後、得られた質量と析出物の比重から、充填した析出物の体積を求める。このようにして得られた析出物の体積を、上記で求めたチューブ内の空間の体積で割って、充填率を算出することにより、空隙率を算出できる。
なお、液晶ポリマーの市販品を使用する場合、その市販品のカタログ値として記載されている誘電正接の数値を用いてもよい。
【0037】
液晶ポリマーとしては、耐熱性がより優れる点で、融点Tmが250℃以上であることが好ましく、280℃以上であることがより好ましく、310℃以上であることが更に好ましい。
液晶ポリマーの融点Tmの上限値は特に制限されないが、成形性がより優れる点で、400℃以下が好ましく、380℃以下がより好ましい。
液晶ポリマーの融点Tmは、示差走査熱量計(島津製作所社製「DSC-60A」)を用いて吸熱ピークが現れる温度を測定することにより、求めることができる。液晶ポリマーの市販品を使用する場合、その市販品のカタログ値として記載されている融点Tmを用いてもよい。
【0038】
液晶ポリマーの数平均分子量(Mn)は特に制限されないが、1万~60万が好ましく、3万~15万がより好ましい。
液晶ポリマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)により、標準ポリスチレンの換算値である。
GPCの測定は、下記の装置及び条件で実施できる。
測定装置は東ソー(株)社製「HLC(登録商標)-8320GPC」を用い、カラムはTSKgel(登録商標)SuperHM-H(6.0mmID×15cm、東ソー(株)社製)を2本用いる。液晶ポリマーを溶解する溶媒(溶離液)としては、特に制限されないが、例えば、ペンタフルオロフェノール/クロロホルム=1/2(質量比)の混合溶液が挙げられる。測定条件としては、試料濃度を0.03質量%、流速を0.6ml/min、サンプル注入量を20μL及び測定温度を40℃とする。検出は、RI(示差屈折)検出器を用いて行う。
検量線は、東ソー(株)社製の「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F-40」、「F-20」、「F-4」、「F-1」、「A-5000」、「A-2500」、「A-1000」及び「n-プロピルベンゼン」の8サンプルから作成する。
【0039】
ポリマーフィルムは、液晶ポリマーを1種単独で含んでいてもよく、2種以上の液晶ポリマーを含んでいてもよい。
液晶ポリマーの含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して、40~99.9質量%が好ましく、50~95質量%がより好ましく、60~90質量%が更に好ましい。
なお、ポリマーフィルムにおける液晶ポリマー及び後述の成分の含有量は、赤外分光法及びガスクロマトグラフィー質量分析等の公知の方法で測定できる。
【0040】
<任意成分>
ポリマーフィルムは、上記ポリマー以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、ポリオレフィン、相溶成分、熱安定剤、並びに、後述する添加剤が挙げられる。
【0041】
(ポリオレフィン)
ポリマーフィルムは、ポリオレフィンを含んでいてもよい。
本明細書において、「ポリオレフィン」は、オレフィンに由来する繰り返し単位を有する重合体(ポリオレフィン樹脂)を意図する。
ポリマーフィルムは、液晶ポリマーと、ポリオレフィンとを含むことが好ましく、液晶ポリマー、ポリオレフィン及び相溶成分を含むことがより好ましい。
【0042】
ポリオレフィンは、直鎖状でも分岐状でもよい。また、ポリオレフィンは、ポリシクロオレフィンのように、環状構造を有していてもよい。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(三井化学社製TPX等)、水添ポリブタジエン、シクロオレフィンポリマー(COP、日本ゼオン社製ゼオノア等)、及び、シクロオレフィンコポリマー(COC、三井化学社製アペル等)が挙げられる。
ポリエチレンは、高密度ポリエチレン(HDPE)及び低密度ポリエチレン(LDPE)のいずれでもよい。また、ポリエチレンは、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であってもよい。
【0043】
ポリオレフィンは、オレフィンと、アクリレート、メタクリレート、スチレン、及び/又は、ビニルアセテート系モノマーのようなオレフィン以外の共重合成分との共重合体でもよい。
上記共重合体であるポリオレフィンとしては、例えば、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)が挙げられる。SEBSは水添されていてもよい。
ただし、本発明の効果がより優れる点でオレフィン以外の共重合成分の共重合比は小さいことが好ましく、共重合成分を含まないことがより好ましい。例えば、上記共重合成分の含有量は、ポリオレフィンの全質量に対して、0~40質量%が好ましく、0~5質量%がより好ましい。
また、ポリオレフィンは、後述の反応性基を実質的に含まないことが好ましく、反応性基を有する繰り返し単位の含有量は、ポリオレフィンの全質量に対して、0~3質量%が好ましい。
【0044】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、COP、又は、COCが好ましく、ポリエチレンがより好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)が更に好ましい。
【0045】
ポリオレフィンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
ポリマーフィルムがポリオレフィンを含む場合、その含有量は、ポリマーフィルムの表面性がより優れる点で、ポリマーフィルムの全質量に対して、0.1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、ポリマーフィルムの平滑性がより優れる点で、ポリマーフィルムの全質量に対して、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、25質量%以下が更に好ましい。またポリオレフィンの含有量が50質量%以下である場合、熱変形温度を十分に高くしやすく、ハンダ耐熱性を良好にできる。
【0046】
(相溶成分)
相溶成分としては、例えば、液晶ポリマーに対して相溶性又は親和性が高い部分を有する重合体(非反応性相溶化剤)、及び、液晶ポリマーの末端のフェノール性水酸基又はカルボキシル基に対する反応性基を有する重合体(反応性相溶化剤)が挙げられる。
反応性相溶化剤が有する反応性基としては、エポキシ基、又は、無水マレイン酸基が好ましい。
相溶成分としては、ポリオレフィンに対して相溶性又は親和性が高い部分を有する共重合体が好ましい。また、ポリマーフィルムがポリオレフィン及び相溶成分を含む場合、相溶成分としては、ポリオレフィンを微分散化できる点で、反応性相溶化剤が好ましい。
なお、相溶成分(特に反応性相溶化剤)は、ポリマーフィルム中において、液晶ポリマー等の成分と化学結合を形成していてもよい。
【0047】
反応性相溶化剤としては、例えば、エポキシ基含有ポリオレフィン系共重合体、エポキシ基含有ビニル系共重合体、無水マレイン酸含有ポリオレフィン系共重合体、無水マレイン酸含有ビニル共重合体、オキサゾリン基含有ポリオレフィン系共重合体、オキサゾリン基含有ビニル系共重合体、及び、カルボキシル基含有オレフィン系共重合体が挙げられる。中でも、エポキシ基含有ポリオレフィン系共重合体、又は、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン系共重合体が好ましい。
【0048】
エポキシ基含有ポリオレフィン系共重合体としては、例えば、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート/酢酸ビニル共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体へのポリスチレングラフト共重合体(EGMA-g-PS)、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体へのポリメチルメタクリレートグラフト共重合体(EGMA-g-PMMA)、及び、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体へのアクリロニトリル/スチレングラフト共重合体(EGMA-g-AS)が挙げられる。
エポキシ基含有ポリオレフィン系共重合体の市販品としては、例えば、住友化学社製ボンドファースト2C、及び、ボンドファーストE;アルケマ社製Lotadar;並びに、日油社製モディパーA4100、及び、モディパーA4400が挙げられる。
【0049】
エポキシ基含有ビニル系共重合体としては、例えば、グリシジルメタクリレートグラフトポリスチレン(PS-g-GMA)、グリシジルメタクリレートグラフトポリメチルメタクリレート(PMMA-g-GMA)、及び、グリシジルメタクリレートグラフトポリアクリロニトリル(PAN-g-GMA)が挙げられる。
【0050】
無水マレイン酸含有ポリオレフィン系共重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(PP-g-MAH)、無水マレイン酸グラフトエチレン/プロピレンゴム(EPR-g-MAH)、及び、無水マレイン酸グラフトエチレン/プロピレン/ジエンゴム(EPDM-g-MAH)が挙げられる。
無水マレイン酸含有ポリオレフィン系共重合体の市販品としては、例えば、アルケマ社製Orevac Gシリーズ;及び、ダウ・ケミカル社製FUSABOND Eシリーズが挙げられる。
【0051】
無水マレイン酸含有ビニル共重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフトポリスチレン(PS-g-MAH)、無水マレイン酸グラフトスチレン/ブタジエン/スチレン共重合体(SBS-g-MAH)、無水マレイン酸グラフトスチレン/エチレン/ブテン/スチレン共重合体(SEBS-g-MAH)、及び、スチレン/無水マレイン酸共重合体及びアクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体が挙げられる。
無水マレイン酸含有ビニル共重合体の市販品としては、旭化成社製タフテックMシリーズ(SEBS-g-MAH)が挙げられる。
【0052】
相溶成分としては、その他にも、オキサゾリン系相溶化剤(例えば、ビスオキサゾリン-スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビスオキサゾリン-無水マレイン酸変性ポリエチレン、及び、ビスオキサゾリン-無水マレイン酸変性ポリプロピレン)、エラストマー系相溶化剤(例えば、芳香族系樹脂、石油樹脂)、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレン無水マレイン酸エチルアクリレート共重合体、エチレングリシジルメタクリレート-アクリロニトリルスチレン、酸変性型ポリエチレンワックス、COOH化ポリエチレングラフトポリマー、COOH化ポリプロピレングラフトポリマー、ポリエチレン-ポリアミドグラフト共重合体、ポリプロピレン-ポリアミドグラフト共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、EVA-PVC-グラフト共重合体、酢酸ビニル-エチレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体、水添スチレン-イソプロピレン-ブロック共重合体、並びに、アミン変性スチレン-エチレン-ブテン-スチレン共重合体が挙げられる。
【0053】
また、相溶成分として、アイオノマー樹脂を使用してもよい。
このようなアイオノマー樹脂としては、例えば、エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー、エチレン-アクリル酸共重合体アイオノマー、プロピレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー、プロピレン-アクリル酸共重合体アイオノマー、ブチレン-アクリル酸共重合体アイオノマー、エチレン-ビニルスルホン酸共重合体アイオノマー、スチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー、スルホン化ポリスチレンアイオノマー、フッ素系アイオノマー、テレケリックポリブタジエンアクリル酸アイオノマー、スルホン化エチレン-プロピレン-ジエン共重合体アイオノマー、水素化ポリペンタマーアイオノマー、ポリペンタマーアイオノマー、ポリ(ビニルピリジウム塩)アイオノマー、ポリ(ビニルトリメチルアンモニウム塩)アイオノマー、ポリ(ビニルベンジルホスホニウム塩)アイオノマー、スチレン-ブタジエンアクリル酸共重合体アイオノマー、ポリウレタンアイオノマー、スルホン化スチレン-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンサルフェイトアイオノマー、酸-アミンアイオノマー、脂肪族系アイオネン、及び、芳香族系アイオネンが挙げられる。
【0054】
ポリマーフィルムが相溶成分を含む場合、その含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して、0.05~30質量%が好ましく、0.1~20質量%がより好ましく、0.5~10質量%が更に好ましい。
【0055】
(熱安定剤)
ポリマーフィルムは、溶融押出製膜時の熱酸化劣化を抑止し、ポリマーフィルム表面の平面性及び平滑性を改善する目的で、熱安定剤を含んでいてもよい。
熱安定剤としては、例えば、ラジカル捕捉作用を有するフェノール系安定剤及びアミン系安定剤;過酸化物の分解作用を有するフォスファイト系安定剤及び硫黄系安定剤;並びに、ラジカル補足作用と過酸化物の分解作用とを有するハイブリッド型安定剤が挙げられる。
【0056】
フェノール系安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系安定剤、セミヒンダードフェール系安定剤、及び、レスヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。
ヒンダードフェノール系安定剤の市販品としては、例えば、ADEKA社製アデカスタブAO-20、AO-50、AO-60、及び、AO-330;並びに、BASF社製Irganox259、1035、及び、1098が挙げられる。
セミヒンダードフェノール系安定剤の市販品としては、例えば、ADEKA社製アデカスタブAO-80;及び、BASF社製Irganox245が挙げられる。
レスヒンダードフェノール系安定剤の市販品としては、例えば、大内新興化学工業社製ノクラック300;並びに、ADEKA社製アデカスタブAO-30、及び、AO-40が挙げられる。
フォスファイト系安定剤の市販品としては、例えば、ADEKA社製アデカスタブ2112、PEP-8、PEP-36、及び、HP-10を挙げられる。
ハイブリッド型安定剤の市販品としては、例えば、住友化学製スミライザーGPが挙げられる。
【0057】
熱安定剤としては、熱安定化効果がより優れる点で、ヒンダードフェノール系安定剤、セミヒンダードフェノール系安定剤、又は、フォスファイト系安定剤が好ましく、ヒンダードフェノール系安定剤がより好ましい。一方、電気特性の点では、セミヒンダードフェノール系安定剤、又は、フォスファイト系安定剤がより好ましい。
【0058】
熱安定剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
ポリマーフィルムが熱安定剤を含む場合、熱安定剤の含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して0.0001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.1~2質量%が更に好ましい。
【0059】
(添加剤)
ポリマーフィルムは、上記成分以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、可塑剤、滑剤、無機粒子及び有機粒子、並びに、UV吸収材が挙げられる。
【0060】
可塑剤としては、アルキルフタルリルアルキルグリコレート化合物、ビスフェノール化合物(ビスフェノールA、ビスフェノールF)、アルキルフタルリルアルキルグリコレート化合物、リン酸エステル化合物、カルボン酸エステル化合物、及び、多価アルコールが挙げられる。可塑剤の含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して0~5質量%であってよい。
滑剤としては、脂肪酸エステル及び、金属石鹸(例えばステアリン酸無機塩)が挙げられる。滑剤の含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して0~5質量%であってよい。
ポリマーフィルムは、補強材、マット剤、誘電率、又は、誘電正接改良材として、無機粒子及び/又は有機粒子を含有してもよい。無機粒子としては、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、タルク、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、ガラスビーズ、グラファイト、タングステンカーバイド、カーボンブラック、クレイ、マイカ、炭素繊維、ガラス繊維及び金属粉が挙げられる。有機粒子としては、架橋アクリル、及び、架橋スチレンが挙げられる。無機粒子及び有機粒子の含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して0~50質量%であってよい。
UV吸収材としては、サリチレート化合物、ベンゾフェノン化合物、ベンゾトリアゾール化合物、置換アクリロニトリル化合物、及び、s-トリアジン化合物が挙げられる。UV吸収材の含有量は、ポリマーフィルムの全質量に対して0~5質量%であってよい。
【0061】
また、ポリマーフィルムは、液晶ポリマー以外のポリマー成分を含んでいてもよい。
上記ポリマー成分としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、及び、ポリエステルエーテルケトン等の熱可塑性ポリマーが挙げられる。
【0062】
<ポリマーフィルムの物性>
(厚み)
ポリマーフィルムの厚みは、5~1000μmが好ましく、10~500μmがより好ましく、20~300μmが更に好ましい。
なお、ポリマーフィルムの厚みは、積層体の厚み方向に沿った断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察して得られる観察画像から、任意の異なる100点におけるポリマーフィルムの厚みを測定して得られる測定値の算術平均値である。
【0063】
(誘電特性)
ポリマーフィルムの標準誘電正接は特に制限されず、例えば0.0025以下であり、0.0024以下が好ましく、0.0022以下がより好ましく、0.0020以下が更に好ましく、0.0015以下が特に好ましく、0.0010以下が最も好ましい。下限値は特に制限されず、0.0001以上であってよい。
ポリマーフィルムの比誘電率は、その用途によって異なるが、2.0~4.0が好ましく、2.5~3.5がより好ましい。
ポリマーフィルムの標準誘電正接及び比誘電率を含む誘電特性は、空洞共振器摂動法により測定できる。ポリマーフィルムの誘電特性の具体的な測定方法は、後述の実施例欄に記載する。
【0064】
(線膨張係数)
ポリマーフィルムの面内方向の線膨張係数(CTE)は、14~22ppm/℃が好ましく、16~20ppm/℃がより好ましく、17~19ppm/℃が更に好ましい。
ポリマーフィルムの面内方向の線膨張係数が上記の範囲内であると、銅箔の線膨張係数(18ppm/℃)との差が小さいので、銅箔とポリマーフィルムを含む積層体の製造時における積層体の反りを抑制でき、また、銅箔とポリマーフィルムとの密着性を良好にできる。
ポリマーフィルムの面内方向の線膨張係数は、例えば、上記式(2A)を満たすようなポリマーフィルムを用いることで上記範囲にすることができる。
ポリマーフィルムの面内方向の線膨張係数の測定方法は、後述の実施例に記載する。
【0065】
ポリマーフィルムは、単層構造であってもよく、複数の層が積層されてなる積層構造であってもよい。なお、ポリマーフィルムが「単層構造である」とは、そのポリマーフィルムが厚み全体にわたって同一の材料で構成されていることを意味する。
【0066】
〔ポリマーフィルムの製造方法〕
ポリマーフィルムの製造方法としては、式(1A)および式(2A)を満たすポリマーフィルムを製造できる方法であれば特に制限されないが、インフレーション成形によりポリマーフィルムを製造することが好ましい。
より具体的には、上述のポリマーフィルムを構成する成分を混練してペレットを得るペレット化工程と、上記ペレットから形成される溶融樹脂を用いてインフレーション成形によりポリマーフィルムを形成する製膜工程とを有する製造方法であって、製膜工程において後述する特定熱処理及びアニール処理を行う方法が挙げられる。
以下、液晶ポリマーを含むポリマーフィルムを作製する工程について詳しく説明する。
【0067】
<ペレット化工程>
(1)原料形態
フィルム製膜に用いる液晶ポリマー等のポリマーは、ペレット形状、フレーク状又は粉体状態のものをそのまま用いることもできるが、製膜の安定化又は添加剤(液晶ポリマー以外の成分を意味する。以下同様。)の均一分散を目的として、1種類以上の原料(ポリマー及び添加剤の少なくとも1つを意味する。以下同様。)を、押出機を用いて混練し、ペレット化して得られるペレットを使用してもよい。
【0068】
(2)乾燥又はベントによる乾燥代替
ペレット化を行うにあたり、液晶ポリマー及び添加剤は事前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥方法としては、低露点の加熱エアーを循環させること、及び、真空乾燥により除湿する方法等がある。特に、酸化し易い樹脂の場合には、真空乾燥又は不活性気体を用いた乾燥が好ましい。
【0069】
(3)原料供給法
原料供給法は、混練ペレット化する前に原料を予め混ぜ合わせておいて供給する方法であってもよく、押出機内へ一定割合になるように原料を別々に供給する方法であってもよく、両者を組み合わせた方法であってもよい。
【0070】
(4)押出し時の雰囲気
溶融押出しする際には、均一分散を妨げない範囲で、可能な限り熱及び酸化劣化を防止することが好ましく、真空ポンプを用いて減圧したり、不活性ガスを流入したりして酸素濃度を低下させることも有効である。これらの方法は単独でも組み合わせて実施してもよい。
【0071】
(5)温度
混練温度は、液晶ポリマー及び添加剤の熱分解温度以下にすることが好ましく、押出機の負荷及び均一混練性低下が問題にならない範囲で、可能な限り低温にすることが好ましい。
【0072】
(6)圧力
ペレット化時の混練樹脂圧力は、0.05~30MPaで行うことが好ましい。せん断により着色又はゲルが発生し易い樹脂の場合には、押出機内に1~10MPa程度の内圧を加えて、樹脂原料を2軸押出機内に充満させることが好ましい。
【0073】
(7)ペレタイズ方法
ペレタイズ方法としては、ヌードル状に押出したものを水中で固化したのち、裁断する方法が一般的であるが、押出機による溶融後、水中に口金より直接押出ながらカットするアンダーウオーターカット法、又は、熱い状態のままカッティングするホットカット法によってペレット化を行ってもよい。
【0074】
(8)ペレットサイズ
ペレットサイズは、断面積が1~300mm2であり、長さが1~30mmであるのが好ましく、断面積が2~100mm2であり、長さが1.5~10mmであるのがより好ましい。
【0075】
(乾燥)
(1)乾燥の目的
溶融製膜の前に、ペレット中の水分及び揮発分を減少させることが好ましく、ペレットの乾燥を行うことが有効である。ペレット中に水分又は揮発分が含まれている場合には、ポリマーフィルムへの泡混入又はヘイズの低下による外観の低下を引き起こすのみでなく、液晶ポリマーの分子鎖切断による物性の低下、又は、モノマーもしくはオリゴマーの発生によるロール汚れが発生する場合がある。また、用いる液晶ポリマーの種類によっては、乾燥による溶存酸素除去により、溶融製膜時の酸化架橋体の生成を抑制できる場合もある。
【0076】
(2)乾燥方法・加熱方法
乾燥の方法については、乾燥効率及び経済性の点で除湿熱風乾燥機を用いることが一般的であるが、目的とする含水率が得られるのであれば特に制限されない。また、液晶ポリマーの物性の特性に合わせて、より適切な方法を選定することも問題ない。
加熱方法としては、加圧水蒸気、ヒーター加熱、遠赤外線照射、マイクロ波加熱、及び、熱媒循環加熱方式が挙げられる。
【0077】
<製膜工程>
以下、製膜工程として、液晶ポリマーを含むペレットを用いてインフレーション成形によりポリマーフィルムを形成する工程について説明する。
【0078】
(押出し条件)
・原料乾燥
押出機によるペレットの溶融可塑化工程でも、ペレット化工程と同様に水分及び揮発分を減少させることが好ましく、ペレットの乾燥を行うことが有効である。
【0079】
・原料供給法
押出機の供給口から投入される原料(ペレット)が、複数種類の場合には、予め混ぜ合わせておいてもよいし(プレミックス法)、押出機内へ一定割合になるように別々に供給してもよいし、又は、両者を組み合わせた方法であってもよい。また、押出し安定化のために、供給口から投入する原料の温度及びかさ比重の変動を小さくすることが一般的に行われている。また、可塑化効率の点で、原料温度は粘着して供給口にブロッキングしない範囲であれば高温であることが好ましく、非結晶状態の場合には{ガラス転移温度(Tg)(℃)-150℃}~{Tg(℃)-1℃}、結晶性樹脂の場合には{融点(Tm)(℃)-150℃}~{Tm(℃)-1℃}の範囲が好ましく、原料の加温又は保温が行われる。また、原料のかさ比重は、可塑化効率の点で、溶融状態の0.3倍以上であることが好ましく、0.4倍以上であることがより好ましい。原料のかさ比重が溶融状態の比重の0.3倍未満の時には、原料を圧縮して擬似ペレット化する等の加工処理が行われることも好ましい。
【0080】
・押出し時の雰囲気
溶融押出し時の雰囲気は、ペレット化工程と同様に均一分散を妨げない範囲で、可能な限り熱及び酸化劣化を防止することが必要であり、不活性ガス(窒素等)の注入、真空ホッパーを用いて押出機内の酸素濃度を下げること、及び、押出機にベント口を設けて真空ポンプによる減圧を行うことも有効である。これらの減圧、不活性ガスの注入は独立で実施しても、組み合わせて実施しても構わない。
【0081】
・回転数
押出機の回転数は5~300rpmが好ましく、10~200rpmがより好ましく、15~100rpmが更に好ましい。回転速度が下限値以上であれば、滞留時間が短くなり、熱劣化により分子量が低下を抑制でき、変色を抑制できる。回転速度が上限値以下であれば、剪断による分子鎖の切断を抑制でき、分子量低下及び架橋ゲルの増加を抑制できる。回転数は、均一分散性と滞留時間延長による熱劣化の両面から適正条件を選定することが好ましい。
【0082】
・温度
バレル温度(供給部温度T1℃、圧縮部温度T2℃、計量部温度T3℃)は、一般的には以下の方法で決定される。ペレットを押出機により目標温度T℃で溶融可塑化させる場合、計量部温度T3はせん断発熱量を考慮してT±20℃に設定される。この時T2はT3±20℃の範囲内で押出安定性と樹脂の熱分解性を考慮して設定する。T1は一般的には{T2(℃)-5℃}~{T2(℃)-150℃}とし、樹脂を送る駆動力(フィード力)となる樹脂とバレルとの摩擦確保と、フィード部での予熱の両立の点で、最適値を選定する。通常の押出機の場合には、T1~T3各ゾーンを細分して温度を設定することが可能であり、各ゾーン間の温度変化がなだらかになる様な設定を行うことで、より安定化させることが可能となる。この際、Tは樹脂の熱劣化温度以下とすることが好ましく、押出機のせん断発熱によって、熱劣化温度を超える場合には、積極的にせん断発熱を冷却除去することも一般的に行われる。また、分散性アップと熱劣化の両立のために、押出機の前半部分で比較的高温で溶融混合させて、後半で樹脂温度を下げる条件も有効である。
【0083】
・圧力
押出機内の樹脂圧力は1~50MPaが一般的であり、押出しの安定性と溶融均一性の点で2~30MPaが好ましく、3~20MPaがより好ましい。押出機内の圧力が1MPa以上であれば、押出機内のメルトの充満率が十分であるため、押出し圧力の不安定化及び滞留部発生による異物発生が抑制できる。また、押出機内の圧力が50MPa以下であれば、押出機内部で受けるせん断応力が過多となることを抑制できるので、樹脂温度の上昇による熱分解を抑制できる。
【0084】
・滞留時間
押出機における滞留時間(製膜時の滞留時間)は、ペレット化工程と同様に、押出機部分の容積と、ポリマーの吐出容量とから算出することができる。滞留時間は、10秒間~60分間が好ましく、15秒間~45分間がより好ましく、30秒間~30分間が更に好ましい。滞留時間が10秒間以上であれば、溶融可塑化と添加剤の分散が十分となる。滞留時間が30分間以下であれば、樹脂劣化と樹脂の変色を抑えることができる点で好ましい。
【0085】
(濾過)
・種類、設置目的、構造
原料中に含まれる異物によるギアポンプの損傷防止、及び、押出機下流に設置する微細な孔径のフィルタ寿命延長のために、押出機出口部に濾過設備を設けることが一般的に用いられる。メッシュ状の濾材を、強度を有する開口率の高い補強板と組み合わせて用いる、いわゆるブレーカープレート式の濾過を行うことが好ましい。
【0086】
・メッシュサイズ、濾過面積
メッシュサイズは40~800メッシュが好ましく、60~700メッシュがより好ましく、100~600メッシュが更に好ましい。メッシュサイズが40メッシュ以上であれば、異物がメッシュを通過することを十分に抑制できる。また、800メッシュ以下であれば、濾過圧力上昇スピードの向上を抑制でき、メッシュ交換頻度を低くできる。また、フィルタメッシュは濾過精度と強度保持の点で、メッシュサイズの異なる複数種類を重ね合わせて用いることが多い。また、濾過開口面積を広くとることが可能であり、メッシュの強度保持が可能なことからブレーカープレートを用いてフィルタメッシュを補強することもある。用いるブレーカープレートの開口率は、濾過効率と強度の点で30~80%であることが多い。
また、スクリーンチェンジャーは、押出機のバレル径と同径のものが用いることが多いが、濾過面積を増やすためにテーパー状の配管を用いて、より大径のフィルタメッシュを用いられるか、或いは、流路を分岐して複数のブレーカープレートを用いることもある。濾過面積は1秒間あたりの流量0.05~5g/cm2を目安に選定することが好ましく、0.1~3g/cm2がより好ましく、0.2~2g/cm2が更に好ましい。
異物を捕捉することによりフィルタは目詰りを起こして濾圧が上昇する。その際には押出機を停止してフィルタを交換する必要があるが、押出を継続しながらフィルタを交換可能なタイプも使用できる。また、異物捕捉による濾過圧力上昇対策として、フィルタに捕捉された異物をポリマーの流路を逆にして洗浄除去することにより濾過圧力を低下させる機能を有するものも使用できる。
【0087】
(インフレーション成形)
以下、具体的な製造装置を例示しながら、インフレーション成形により本発明のポリマーフィルムを製造する製造方法の実施形態の一例を説明する。
本発明のポリマーフィルムの製造方法は、下記実施形態に制限されるものではないが、上記の式(1A)及び式(2A)を満たすポリマーフィルムの製造が容易である点で、本実施形態に係る方法でポリマーフィルムを製造することが好ましい。
【0088】
図1に、インフレーション成形によるポリマーフィルムの製造に使用する製造装置の構成の一例を示す断面図である。
図1に示す製膜装置10は、環状スリットを有する環状ダイ12、冷却ブロワ14、加熱器16、及び、冷却器18を備える。製膜装置10においては、鉛直下方側から、環状ダイ12、冷却ブロワ14、加熱器16、及び、冷却器18がこの順に配置されている。また、製膜装置10は、環状ダイ12から押し出された溶融状態の円筒状フィルムFの内部空間に気体が供給されるように構成されている。
【0089】
環状ダイ12には、図示しない押出機から溶融状態の液晶ポリマーが連続的に供給される。供給された溶融状態の液晶ポリマーは、環状ダイ12の環状スリットを通り、円筒状フィルムFとなって鉛直上方に押し出される。押し出された円筒状フィルムFは、その内部に供給された空気によって膨張して径が拡大すると共に、環状ダイ12の上方において環状ダイ12と同心状に配置されている冷却ブロワ14から噴き出される冷却用気流によって冷却され、フロストラインFLにおいて固化される。
加熱器16及び冷却器18は、後述する特定熱処理を行うために使用する。
【0090】
環状ダイ12から吐出される溶融物の温度(供給手段の出口における温度)は、液晶ポリマーの成形性向上及び劣化抑制の点で、液晶ポリマーの融点をTm(℃)として、{Tm-10}~{Tm+40}℃が好ましい。溶融粘度の目安としては50~3500Pa・sが好ましい。
【0091】
本実施形態に係るインフレーション成形による製膜工程における円筒状フィルムFの延伸倍率は特に制限されないが、MD方向の延伸倍率(ドロー比:Dr)に対するTD方向の延伸倍率(ブロー比:Br)の比率(Br/Dr)として、1.5~5が好ましく、2.0~4.5がより好ましい。
また、MD方向の延伸倍率(Dr)は、例えば1.0~5倍であり、1.1~3倍が好ましく、1.2~2倍がより好ましい。また、TD方向の延伸倍率(Br)は、例えば1.5~20倍であり、2~15倍が好ましく、2.5~14倍がより好ましい。
【0092】
(特定熱処理)
本実施形態の製造方法では、インフレーション成形による膨張する過程において、円筒状フィルムFが固化される前に、加熱器16を用いて円筒状フィルムFを再加熱し、その直後に冷却器18を用いて円筒状フィルムFを冷却する熱処理工程を行う。以下、円筒状フィルムFが膨張する過程において行う再加熱及び冷却からなる一連の熱処理を「特定熱処理」とも記載する。
膨張する円筒状フィルムFに対して固化前(フロストラインFLに到達する前)に特定熱処理を行うことにより、円筒状フィルムFにおいて、厚み方向の中心部では硬度が高く、表面に近い表層部では硬度が低くなるという厚み方向の硬度分布が生じ易くなるが、フィルム全体としての硬度は高くなると考えられる。
このような硬度分布が生じ易くなり、かつ、フィルム全体としての硬度が高くなる詳細なメカニズムは明らかではないが、本発明者らは、再加熱処理によりフィルム表面を融点近傍の温度に加熱する一方で、インフレーション製膜性が阻害されないように加熱後すぐにフィルム表面を冷却することにより、フィルムの表層部を溶融~急冷により結晶構造を変化させたことによるものと推測している。
【0093】
特定熱処理を行うタイミングは、円筒状フィルムが固化する前であれば特に制限されないが、インフレーション成形による最終的なTD方向の延伸倍率に対して、膨張過程にある円筒状フィルムFの延伸倍率が50%を超えてから行うことが好ましく、80%を超えてから行うことがより好ましく、90%を超えてから行うことが更に好ましい。
TD方向の延伸倍率は、円筒状フィルムFの直径又は周方向の長さを測定することにより確認できる。また、加熱器16の鉛直方向の位置を調整することにより、円筒状フィルムFを再加熱するタイミングを調整できる。冷却器18の位置及び冷却を行うタイミングについても同様である。
【0094】
特定熱処理の条件は、ポリマーフィルムを構成する材料及び目的の硬度等に応じて適宜調整される。
再加熱の温度は、厚み方向の硬度分布をより明らかにできる点で、液晶ポリマーの融点をTm(℃)として、{Tm-10}℃以上が好ましく、Tmを超える温度がより好ましい。また、フィルムの軟化による厚みムラの発生を抑制できる点で、再加熱の温度は、{Tm+20}℃以下が好ましく、{Tm+15}℃以下がより好ましい。
再加熱の処理時間は、加熱手段及び加熱温度によって異なるが、0.2~15秒間が好ましく、1~10秒間がより好ましい。
再加熱に用いる加熱手段(加熱器16)としては、熱風乾燥機、及び、赤外線ヒーター等の公知の加熱手段が挙げられ、短時間でフィルム表面温度を上昇できることから、赤外線ヒーターが好ましい。また、加熱手段を円筒状フィルムFの周囲を取り囲むように配置することにより、円筒状フィルムFの周方向における温度差が小さくなるように再加熱を行うことが好ましい。
【0095】
特定熱処理における冷却処理は、フィルム表層部の構造形成と厚みムラ抑制のために、再加熱後速やかに行うことが好ましい。冷却処理は、円筒状フィルムFの表面温度が-10℃/秒以上(より好ましくは-20℃/秒以上、更に好ましくは-30℃/秒以上)の速度で冷却することが好ましい。
冷却処理は、円筒状フィルムFの表面温度が上記結晶化温度を下回るまで行うことが好ましい。結晶化温度は、DSCにより融点以上に加熱し、10℃/分で冷却した時の再結晶化ピーク温度にて測定することができる。具体的な冷却処理時間は、冷却手段及び再加熱により加熱されたフィルム表面の温度によって異なるが、0.3~15秒間が好ましく、2~5秒間がより好ましい。
冷却処理に用いる冷却手段(冷却器18)としては、公知の冷却装置が使用できるが、円筒状フィルムFに風(好ましくは冷風)を当てるブロワを使用することが好ましい。このようなブロワを円筒状フィルムFの周囲を取り囲むように配置して、周方向における温度差が小さくなるように冷却することが好ましい。
【0096】
固化された円筒状フィルムFは、製膜装置10の上方において、図示しないニップロールでニップされた後、図示しない巻取り機で巻き取られ、ポリマーフィルムが得られる。
【0097】
(緩和処理)
本実施形態において、インフレーション成形されたポリマーフィルムを熱収縮させることによって、フィルム内部に存在する歪みを緩和する緩和工程を行ってもよい。緩和工程では、張力下(例えば、MD方向に2.0~3.0kg/mm2程度)、ポリマーフィルムをTD方向に熱収縮させる。収縮率は、例えばTD方向に1%以上であり、1.5%以上が好ましい。収縮率の上限はフィルムに応じて適宜決定されるが、TD方向において4%以下が多い。
緩和処理は、例えば、ポリマーフィルムを熱風乾燥炉等の公知の加熱装置に導入することにより実施できる。緩和処理の設定温度は、液晶ポリマーの融点をTm(℃)として、Tm以下が好ましく、{Tm-30}℃以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、{Tm-120}℃以上が好ましく、{Tm-90}℃以上がより好ましい。或いは、緩和処理の設定温度は、200~290℃程度が好ましく、230~270℃程度がより好ましい。
【0098】
(アニール処理)
本実施形態の製造方法では、特定熱処理の後に、ポリマーフィルムの溶融温度付近で加熱するアニール処理を行う。アニール処理は、特定熱処理の後であって、緩和処理の前に実施することが好ましい。
【0099】
特定熱処理後(好ましくは緩和処理後)にアニール処理を行うことによって、ポリマーフィルム中の液晶ドメインの分子量が増加する。
【0100】
アニール処理における加熱温度は、ポリマーフィルムの融点をTm(℃)として、上記式(2A)を満たすポリマーフィルムが得られやすくなる点で、{Tm-30}℃~{Tm+10}℃が好ましく、{Tm-25}℃~{Tm+5}℃が好ましい。アニール処理における加熱時間は、10秒~24時間が好ましく、4~12時間がより好ましい。
アニール処理における加熱手段としては、熱風乾燥炉、熱プレス(例えば、面プレス又は加熱ロール)に等が挙げられ、熱プレスが好ましい。
アニール処理においては、加熱時におけるポリマーフィルムの変形等を抑制できる点で、ポリマーフィルムを被着体(例えば、銅箔、アルミニウム箔などの金属箔)に積層させた複合体を用いて行うことが好ましい。
複合体を用いてアニール処理を行う場合には、ポリマーフィルムの熱膨張係数が被着体の熱膨張係数と同じ熱膨張係数(例えば、16×10-6~26×10-6cm/cm/℃)になるように熱処理を行った後、アニール処理を行うことが好ましい。複合体を用いてアニール処理を行った後、複合体から被着体を剥離してポリマーフィルムを得る。
【0101】
アニール処理の後、さらに熱緩和処理を行ってもよい。
【0102】
<表面処理>
ポリマーフィルムと金属含有層又は他の層との密着性を更に向上できるため、ポリマーフィルムに対して表面処理を行うことが好ましい。表面処理としては、例えば、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、及び、酸又はアルカリ処理が挙げられる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3~20Torrの低圧ガス下で起こる低温プラズマでもよく、大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。
グロー放電処理はプラズマ励起性気体を使用して行う。プラズマ励起性気体とは、上記のような条件においてプラズマ励起される気体であり、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物が挙げられる。
【0103】
巻き取られたポリマーフィルムの機械特性、熱寸法安定性、又は、巻き姿改善等のため、ポリマーフィルムを液晶ポリマーのTg以下の温度でエージング処理することも有用である。
また、ポリマーフィルムは、製膜工程を経た後に、更に、加熱ロールでポリマーフィルムを狭圧する工程及び/又は延伸する工程を行い、ポリマーフィルムの平滑性を更に向上させてもよい。
【0104】
[積層体]
本発明の積層体は、上記ポリマーフィルムと、少なくとも1つの金属含有層とを有する。
以下、本発明に係る積層体の構成について、詳細に説明する。
【0105】
積層体は、少なくとも1つの金属含有層と、少なくとも1つのポリマーフィルムとを有する。積層体が有する金属含有層及びポリマーフィルムの数は制限されず、各層の数は1つのみであっても2以上であってもよい。
積層体は、1つのポリマーフィルムの片面側に1つの金属含有層のみを有する片面積層体であってもよく、1つのポリマーフィルムの両面側に2つの金属含有層を有する両面積層体であってもよい。
なかでも、積層体は、金属含有層、ポリマーフィルム及び金属含有層の順に積層された層構成を少なくとも有することが好ましい。
【0106】
また、積層体は、3つ以上の金属含有層と、2つ以上のポリマーフィルムとが、互い違いに積層された多層構造を有していてもよい。即ち、積層体は、ポリマーフィルムからなる絶縁層を介して3つ以上の金属層又は金属配線が配置された多層構造を有してもよい。このような多層構造を有する積層体は、高機能化された多層回路基板(例えば、2層回路基板、3層回路基板及び4層回路基板等)として適用できる。
積層体は、2つの金属層又は金属配線と、1つのポリマーフィルムからなる絶縁層とを備える単層回路基板であってもよい。また、積層体は、1つ又は2つの金属層又は金属配線と1つのポリマーフィルムからなる絶縁層とを備える、上記の多層構造を有する積層体を製造するための中間体であってもよい。
【0107】
〔金属含有層〕
金属含有層は、ポリマーフィルムの表面に形成され、金属を含む層であれば特に制限されず、例えば、ポリマーフィルムの表面全体を覆う金属層、及び、ポリマーフィルムの表面に形成される金属配線が挙げられる。
金属含有層を構成する材料としては、例えば、電気的接続に使用される金属が挙げられる。そのような金属としては、例えば、銅、金、銀、ニッケル、アルミニウム、及び、これらのいずれかの金属を含む合金が挙げられる。合金としては、例えば、銅-亜鉛合金、銅-ニッケル合金、及び、亜鉛-ニッケル合金が挙げられる。
金属含有層を構成する材料としては、導電性及び加工性に優れる点で、銅が好ましい。金属含有層としては、銅又は銅を95質量%以上含む銅合金からなる銅層又は銅配線が好ましい。銅層としては、例えば、圧延法によって製造される圧延銅箔、及び、電気分解法によって製造される電解銅箔等の銅箔が挙げられる。金属含有層には、酸洗浄等の化学的処理が施されていてもよい。
【0108】
後述するように、金属含有層は、例えば、金属箔を用いて作製され、必要に応じて公知の加工方法により配線パターンが形成される。
積層体の作製に銅箔等の金属箔を用いる場合、本発明の効果がより優れる点で、金属箔の表面(少なくとも一方の表面)の表面粗さRaは、3μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましい。下限値は特に制限されず、例えば0.1μm以上であり、0.3μm以上が好ましい。
表面粗さRaが上記範囲にある金属箔としては、例えば、無粗化処理銅箔等が挙げられ、市場から入手できる。
金属箔及び金属含有層の表面のRaは、表面粗さ測定器(例えば、ミツトヨ(株)製、商品名:サーフテストSJ-201)を用いて、JIS B 0601に準拠した方法で求められる。具体的な測定方法は、後述する実施例に記載する。
【0109】
金属含有層の厚みは特に限定されず、回路基板の用途に応じて適宜選択されるが、配線の導電性及び経済性の点で、1~100μmが好ましく、5~30μmがより好ましく、10~20μmが更に好ましい。
【0110】
積層体は、必要に応じて、ポリマーフィルム及び金属含有層以外の他の層を有していてもよい。他の層としては、接着層、防錆層及び耐熱層が挙げられる。
【0111】
<接着層>
積層体は、ポリマーフィルムと金属含有層との密着性がより優れる点で、接着層を有することが好ましい。
積層体が接着層を有する場合、接着層は、ポリマーフィルムと金属含有層との間に配置されていることが好ましい。例えば、ポリマーフィルムの両面に2つの金属含有層が配置されている場合、金属含有層、接着層、ポリマーフィルム、接着層、及び、金属含有層の順に積層されていることが好ましい。
【0112】
接着層としては、銅張積層体等の配線板の製造に使用される公知の接着層が使用でき、例えば、公知のバインダー樹脂を含む接着剤組成物の硬化物からなる層が挙げられる。
接着層の形成に用いる接着剤組成物としては、特に制限されないが、例えば、バインダー樹脂を含み、任意成分として、後述する反応性化合物及び添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを更に含む組成物が挙げられる。
【0113】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリ桂皮酸ビニル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルフォン、ポリパラキシレン、ポリエステル、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、セルロースアシレート、フッ素化樹脂、液晶ポリマー、シンジオタクチックポリスチレン、シリコーン樹脂、エポキシシリコーン樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、芳香族スルホンアミド、ベンゾグアナミン樹脂、シリコーンエラストマー、脂肪族ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、及び、ポリプロピレン)、並びに、環状オレフィンコポリマーが挙げられる。中でも、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリイミド、シンジオタクチックポリスチレン、又は、環状オレフィンコポリマーが好ましく、ポリイミドがより好ましい。
【0114】
バインダー樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
バインダー樹脂の含有量は、接着層の全質量に対して、60~99.9質量%が好ましく、70~99.0質量%がより好ましく、80~97.0質量%が更に好ましい。
【0115】
(反応性化合物)
接着層は、反応性基を有する化合物の反応物を含んでいてもよく、反応性化合物を含むことが好ましい。本明細書において、反応性基を有する化合物及びその反応物を総称して「反応性化合物」ともいう。
反応性化合物が有する反応性基は、ポリマーフィルムの表面に存在し得る基(特に、カルボキシ基及びヒドロキシ基等の酸素原子を有する基)と反応可能な基であることが好ましい。
反応性基としては、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、イソシアネート基、酸無水物基、カルボジイミド基、N-ヒドロキシエステル基、グリオキサール基、イミドエステル基、ハロゲン化アルキル基、及び、チオール基が挙げられ、エポキシ基、酸無水物基、及び、カルボジイミド基よりなる群から選択される少なくとも1種の基が好ましく、エポキシ基がより好ましい。
【0116】
エポキシ基を有する反応性化合物の具体例としては、芳香族グリシジルアミン化合物(例えば、N,N-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン、4,4’-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン、及び、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、4-t-ブチルフェニルグリシジルエーテル)、脂肪族グリシジルアミン化合物(例えば、1,3-ビス(ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等)、並びに、脂肪族グリシジルエーテル化合物(例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル)が挙げられる。
【0117】
酸無水物基を有する反応性化合物の具体例としては、テトラカルボン酸二無水物(例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p-ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2-ビス〔(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、及び、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物)が挙げられる。
【0118】
カルボジイミド基を有する反応性化合物の具体例としては、モノカルボジイミド化合物(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、及び、N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、並びに、ポリカルボジイミド化合物(例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47-033279号公報、J.Org.Chem.28巻、p2069-2075(1963)、及び、Chemical Review 1981、81巻、第4号、p.619-621等に記載された方法により製造された化合物)が挙げられる。
カルボジイミド基を有する反応性化合物の市販品としては、カルボジライト(登録商標)HMV-8CA、LA-1、及び、V-03(いずれも日清紡ケミカル株式会社製)、スタバクゾール(登録商標)P、P100、及び、P400(いずれもラインケミー社製)、並びに、スタビライザー 9000(商品名、ラシヒケミ社製)等が挙げられる。
【0119】
反応性化合物が有する反応性基の数は、1個以上であるが、ポリマーフィルムと金属含有層との密着性がより優れる点から、3個以上が好ましい。上限は特に制限されず、例えば6個以下であり、5個以下が好ましい。
反応性基を有する化合物の反応物としては、反応性基を有する化合物に由来する化合物であれば特に制限されず、例えば、反応性基を有する化合物の反応性基がポリマーフィルムの表面に存在する酸素原子を含む基と反応した反応物が挙げられる。
【0120】
反応性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
反応性化合物の含有量は、接着層の全質量に対して、0.1~40質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、3~20質量%が更に好ましい。
【0121】
接着層は、バインダー樹脂及び反応性化合物以外の成分(以下、「添加剤」ともいう。)を更に含んでいてもよい。
添加剤としては、無機フィラー、硬化触媒及び難燃剤等が挙げられる。
添加剤の含有量は、接着層の全質量に対して、0.1~40質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、3~20質量%が更に好ましい。
【0122】
(厚み)
積層体が接着層を有する場合、接着層の厚みは、ポリマーフィルムと金属含有層との密着性がより優れる点で、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.2μm以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、1μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.6μm以下が更に好ましい。
また、ポリマーフィルムの厚みに対する接着層の厚みの比率は、ポリマーフィルムと金属含有層との密着性がより優れる点で、0.1~2%が好ましく、0.2~1.6%がより好ましい。
なお、上記の接着層の厚みは、接着層1層当たりの厚みである。
接着層の厚みは、上記のポリマーフィルムの厚みの測定方法に従って測定できる。
【0123】
〔積層体の製造方法〕
積層体の製造方法は特に制限されず、例えば、本発明のポリマーフィルムと金属箔とを積層した後、高温条件下でポリマーフィルムと金属箔とを圧着することにより積層体を製造する工程(以下、「工程B」ともいう。)を有する方法が挙げられる。
【0124】
<工程B>
工程Bでは、本発明のポリマーフィルムと金属含有層を構成する金属からなる金属箔とを積層し、高温条件下でポリマーフィルムと金属箔とを圧着することにより、ポリマーフィルムと金属含有層とを有する積層体を製造する。
工程Bに用いるポリマーフィルム及び金属箔については、上述のとおりである。工程Bにおけるポリマーフィルムと金属箔とを熱圧着する方法及び条件は、特に制限されず、公知の方法及び条件から適宜選択される。
熱圧着の温度条件としては、ポリマーフィルムの融点をTm(℃)として、{Tm-80}℃~{Tm+30}℃が好ましく、{Tm-40}℃~Tm(℃)がより好ましい。熱圧着の圧力条件としては、0.1~20MPaが好ましい。圧着処理の処理時間は0.001~1.5時間が好ましい。
【0125】
積層体が備える金属含有層は、パターン状の金属配線であってもよい。金属配線を作製する方法は特に制限されず、例えば、ポリマーフィルムと金属箔とを熱圧着により積層する工程Bを行った後、形成された金属層にエッチング処理等を施すことにより、上記金属配線を形成する方法が挙げられる。また、スパッタリング法、イオンプレーティング法、及び、真空蒸着法等の気相法、並びに、湿式のめっき法等の公知の方法により、ポリマーフィルムの表面にパターン状の金属配線を直接形成してもよい。
【0126】
<接着層形成工程>
ポリマーフィルム、接着層及び金属含有層をこの順に有する積層体を製造する場合、接着剤組成物を用いてポリマーフィルムの少なくとも一方に接着層を形成する工程を行い、次いで、得られた接着層付きポリマーフィルムと金属箔とを用いて工程Bを行うことにより、上記接着層を有する積層体が得られる。
【0127】
接着層形成工程としては、例えば、ポリマーフィルムの少なくとも一方の表面に接着剤組成物を塗布し、必要に応じて塗布膜の乾燥及び/又は硬化を行って、ポリマーフィルム上に接着層を形成する工程が挙げられる。
【0128】
接着剤組成物は、例えば、上記のバインダー樹脂、反応性化合物及び添加剤等の接着層を構成する成分と、溶剤とを含む組成物が挙げられる。接着層を構成する成分については、上述した通りであるので、それらの説明を省略する。
【0129】
溶剤(有機溶剤)としては、エステル化合物(例えば、酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、及び、酢酸イソブチル)、エーテル化合物(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、及び、ジエチレングリコールモノエチルエーテル)、ケトン化合物(例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン、及び、3-ヘプタノン)、炭化水素化合物(ヘキサン、シクロヘキサン、及び、メチルシクロヘキサン)、並びに、芳香族炭化水素化合物(例えば、トルエン、キシレン)が挙げられる。
【0130】
溶剤は、1種単独で用いても2種以上を用いてもよい。
溶剤の含有量は、例えば、接着剤組成物の全質量に対して、0.0005~0.02質量%が好ましく、0.001~0.01質量%がより好ましい。
接着剤組成物の固形分の含有量は、接着剤組成物の全質量に対して、99.98~99.9995質量%が好ましく、99.99~99.999質量%がより好ましい。
本明細書において、組成物の「固形分」とは溶剤(有機溶剤)及び水を除いた成分を意味する。即ち、接着剤組成物の固形分とは、上記のバインダー樹脂、反応性化合物及び添加剤等の接着層を構成する成分を意図する。
【0131】
ポリマーフィルム上に接着剤組成物を付着させる方法としては、特に制限されないが、例えば、バーコート法、スプレーコート法、スキージコート法、フローコート法、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、及び、カーテンコート法が挙げられる。
ポリマーフィルム上に付着させた接着剤組成物を乾燥する場合、乾燥条件は特に制限されないが、乾燥温度は25~200℃が好ましく、乾燥時間は1秒~120分が好ましい。
積層体の製造方法において、接着剤組成物を用いて接着層を形成する工程を行った後、ポリマーフィルムと金属含有層と(接着層と)を積層し、ポリマーフィルムと金属箔とを熱圧着する上記工程Bを行うことにより、本発明の積層体を作製できる。
【0132】
なお、ポリマーフィルムと金属含有層とを有する本発明の積層体を製造する方法は、上記の方法に制限されない。
例えば、金属箔の少なくとも一方の表面に、上記接着剤組成物を塗布し、必要に応じて塗布膜の乾燥及び/又は硬化を行って接着層を形成した後、接着層付き金属箔とポリマーフィルムとを、接着層がポリマーフィルムと接するように積層し、次いで、工程Bに記載の方法に従って金属箔、接着層及びポリマーフィルムを熱圧着することにより、ポリマーフィルム、接着層及び金属含有層がこの順に積層された積層体を製造できる。
また、蒸着、無電解めっき及び電解めっき等の公知の方法によって、ポリマーフィルムの表面に金属含有層を形成し、積層体を作製してもよい。
【0133】
上記の製造方法で製造された積層体は、上述した多層回路基板の製造に使用できる。
例えば、上記の製造方法で製造された積層体(第1の積層体)が備える金属層に対して、必要に応じてパターニング工程を施して金属配線を形成し、次いで、金属配線を有する第1の積層体と、ポリマーフィルムからなる絶縁層の一方の表面に金属層が貼り合わされてなる第2の積層体とを、第1の積層体の金属配線側の表面と第2の積層体の絶縁層側の表面が接するように積層し、得られた積層体を上記の工程Bに準じて熱圧着することにより、多層構造の回路基板を製造できる。
このとき、第1の積層体の製造に本発明のポリマーフィルムを用いることにより、第1の積層体と第2の積層体との積層時における金属配線の面内方向(積層方向に垂直な方向)の位置ずれを抑制できる。
【0134】
〔積層体の用途〕
積層体の用途としては、積層回路基板、フレキシブル積層板、及び、フレキシブルプリント配線板(FPC)等の配線基板が挙げられる。積層体は、特に、高速通信用基板として使用されることが好ましい。
【実施例】
【0135】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更できる。従って、本発明は以下の実施例に示す態様に制限されない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0136】
[原材料]
<液晶ポリマー>
下記の液晶ポリマーを用いてポリマーフィルムを製造した。
・LCP1:ポリプラスチックス株式会社製「ベクトラ(登録商標)A950」、熱可塑性液晶ポリエステル樹脂、融点Tm:280℃。
・LCP2:ポリプラスチックス株式会社製「ベクトラ(登録商標)C950」、熱可塑性液晶ポリエステル樹脂、融点Tm:320℃。
上記LCP1及びLCP2はいずれも、パラヒドロキシ安息香酸に由来する繰り返し単位及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位で構成されているII型液晶ポリマーである。
【0137】
<金属箔>
金属張積層体の製造において、下記の金属箔を用いた。
・銅箔1:圧延銅箔、厚み12μm、表面粗さRa0.9μm。
・銅箔2:圧延銅箔、厚み18μm、表面粗さRa0.9μm。
なお、銅箔の表面粗さRaは、表面粗さ測定器(ミツトヨ(株)製、商品名:サーフテストSJ-201)を使用して、JIS B0601に準拠して銅箔表面の10箇所の算術平均粗さRaを測定し、測定値を平均することにより算出した。
【0138】
[実施例1]
図1に示す製造装置を用いて、下記の方法でポリマーフィルムを製造した。なお、インフレーション成形の詳細な条件については、後述する。
【0139】
〔インフレーション成形による製膜工程(工程A)〕
上記LCP1のペレットを予め150℃の温度で6時間加熱して乾燥した後、単軸押出機のシリンダー(直径60mm)内に供給して295℃で加熱混練して、下記構造を有する環状ダイからダイ剪断速度1000秒-1でLCP1の溶融物を押し出し、円筒状フィルムを形成した。
【0140】
その後、下記構成を有する製造装置(インフレーション成形装置)を用いて、吐出された溶融状態の円筒状フィルムに対して、その外表面を冷却しながら、内部空間に空気を供給し、内圧により膨張させた。このとき、膨張した円筒状フィルムのMD方向(長手方向)の延伸倍率に対するTD方向(周方向)の延伸倍率の比率が3となるように、延伸倍率を制御した。
また、上方に移動しながら延伸される円筒状フィルムに対して、TD方向の延伸倍率が最終倍率の90%を超える位置において、円筒状フィルムを加熱し、直後に冷却する特定熱処理を行った。
より詳しくは、特定熱処理として、上記位置に配置された赤外線ヒーターを用いて、円筒状フィルムの表面温度が後述する温度になるように2秒間の加熱を行った。その直後に、赤外線ヒーターの直上に配置された冷風エアーノズルを用いて、円筒状フィルムの表面温度が後述する冷却速度で低下するように、2秒間の冷却を行った。次いで、トリミングしてフィルム形態で巻き取った。
【0141】
次いで、作製されたフィルムを、MD方向に張力を加えながら、260℃に設定した熱風乾燥炉に導入して加熱することにより、TD方向に熱収縮させる緩和処理を行った。緩和処理の前後におけるフィルムの熱収縮率は、2%であった。
【0142】
次いで、緩和処理されたフィルムを、270℃に設定した熱風乾燥炉に導入して10時間加熱することにより、フィルム内部に存在する液晶ドメインの分子量を増加させるアニール処理を行った。
アニール処理後のフィルムを、ローラにより案内させながら搬送し、ニップローラにより引き取り、本発明のポリマーフィルムを得た。製造されたポリマーフィルムの厚みは50μmであった。
【0143】
実施例1のポリマーフィルムの各製造条件、及び、インフレーション成形装置の構成を、以下に示す。
・押出機の溶融温度 : 295℃
・原料樹脂の吐出温度 : 283℃
・原料樹脂(溶融)の吐出量 : 13kg/時間
・環状ダイの直径 : 50mm
・環状ダイのスリット幅 : 250μm
・冷却リングの位置 : 環状ダイの鉛直上方 30mm
・冷却リングから吹き出す気体の温度 : 150℃
・冷却リングから吹き出す気体の風速 : 5m/秒
・赤外線ヒータの位置 : 環状ダイの鉛直上方350mm
・フィルム表面加熱温度 : 290℃
・冷却装置の位置 : 環状ダイの鉛直上方450mm
・フィルム表面冷却速度 : -50℃/秒
・TD方向膨張率 : 4倍
・TD方向膨張率/MD方向膨張率 : 3
・ポリマーフィルムの引取速度 : 9.9m/分
【0144】
〔金属張積層体の製造(工程B)〕
上記工程で製造されたポリマーフィルムと、2枚の上記銅箔1とを積層し、連続熱プレス機が備える耐熱ゴムロールと加熱金属ロールとの間に積層体を導入して圧着することにより、銅箔1、ポリマーフィルム及び銅箔1の順に積層されてなる銅張積層体を作製した。
上記耐熱ゴムロールとして、樹脂被覆金属ロール(由利ロール機械(株)製、商品名:スーパーテンペックス、樹脂厚み:1.7cm)を使用した。また、耐熱ゴムロール及び加熱金属ロールとして、直径が40cmのものを使用した。
加熱金属ロールの表面温度は、260℃になるように設定した。更に、耐熱ゴムロールと加熱金属ロールの間で、ポリマーフィルム及び銅箔1に加えられる圧力を面圧換算で120kg/cm2に設定した。
【0145】
[実施例2及び3]
アニール処理を後述する表1に記載の条件に変更したこと以外は、実施例1の工程Aに記載の方法に従って実施例2及び3のポリマーフィルムをそれぞれ製造した。
次いで、製造されたそれぞれのポリマーフィルムを用いること以外は実施例1の工程Bに記載の方法に従って、実施例2及び3の両面銅張積層体をそれぞれ作製した。
【0146】
[実施例4]
アニール処理を以下に示す方法により実施した以外は、実施例1の工程Aに記載の方法に従って、実施例4のポリマーフィルムを製造した。
実施例4におけるアニール処理は次の通りである。まず、被着体(銅箔)上に緩和処理されたフィルムを積層させた複合体を作製した。次に、得られた複合体を用いて、300℃で1時間の熱プレスを実施した。なお、複合体に加える圧力は、面圧換算で40kg/cm2に設定した。その後、アニール処理後の被着体から円筒状フィルムを剥がして、アニール処理後のフィルムを得た。
次いで、製造されたポリマーフィルムを用いること以外は実施例1の工程Bに記載の方法に従って、実施例4の両面銅張積層体を作製した。
【0147】
[実施例5]
実施例1の工程Aに記載の方法と同様にして、実施例5のポリマーフィルムを製造した。
次いで、製造されたポリマーフィルムを用いること、及び、2枚の銅箔1に代えて2枚の上記銅箔2を用いること以外は、実施例1の工程Bに記載の方法に従って、実施例5の両面銅張積層体を作製した。
【0148】
[実施例6]
実施例1の工程Aに記載の方法と同様にして、実施例6のポリマーフィルムを製造した。
次いで、工程Bを実施する前に、ポリマーフィルムの両面に、接着剤である架橋剤溶液(架橋剤:N,N-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン(シグマアルドリッチ社製)溶媒:トルエン、架橋剤の濃度:10質量%)を塗布し、110℃の連続乾燥炉で溶媒成分を乾燥除去して、両面に接着層が設けられたポリマーフィルムを得た。乾燥後の接着層の厚みは、0.001mmであった。
このようにして得られた接着層が両面に設けれたポリマーフィルムを用いた以外は、実施例1の工程Bに記載の方法に従って、実施例6の両面銅貼積層体を作製した。
【0149】
[実施例7]
実施例3の工程Aに記載の方法と同様にして、実施例7のポリマーフィルムを製造した。
次いで、製造されたポリマーフィルムを用いる以外は、実施例6と同様にして、実施例7の両面銅張積層体を作製した。
【0150】
[実施例8]
実施例4の工程Aに記載の方法と同様にして、実施例8のポリマーフィルムを製造した。
次いで、製造されたポリマーフィルムを用いる以外は、実施例6と同様にして、実施例8の両面銅張積層体を作製した。
【0151】
[実施例9]
液晶ポリマーの原料としてLCP1に代えて上記LCP2を使用すること、特定熱処理における加熱温度を後述する表1に記載の条件に変更すること、及び、アニール処理を後述する表1に記載の条件に変更したこと以外は、実施例1の工程Aに記載の方法に従って実施例9のポリマーフィルムを製造した。
次いで、製造されたポリマーフィルムを用いること、及び、加熱金属ロールの表面温度を290℃に設定したこと以外は、実施例1の工程Bに記載の方法に従って、実施例9の両面銅張積層体を作製した。
【0152】
[比較例1]
インフレーション成形により形成されるフィルムに対して特定熱処理を行わなかったこと、及び、アニール処理を行わなかったこと以外は実施例1の工程Aに記載の方法に従って、比較例1のポリマーフィルムを製造した。
次いで、製造されたポリマーフィルムを用いること、及び、2枚の銅箔1に代えて2枚の上記銅箔2を用いること以外は、実施例1の工程Bに記載の方法に従って、比較例1の両面銅張積層体を作製した。
【0153】
[比較例2]
インフレーション成形により形成されるフィルムに対して特定熱処理を行わなかったこと以外は実施例1の工程Aに記載の方法に従って、比較例2のポリマーフィルムを製造した。
次いで、製造されたポリマーフィルムを用いること、及び、2枚の銅箔1に代えて2枚の上記銅箔2を用いること以外は、実施例1の工程Bに記載の方法に従って、比較例2の両面銅張積層体を作製した。
【0154】
[ポリマーフィルム特性]
<空隙面積割合>
各例で製造されたポリマーフィルムの空隙面積割合を、下記の方法で測定した。
各例で製造されたポリマーフィルムを室温(25℃)下、ミクロトームのダイアモンドナイフを用いて厚み方向に沿って割断した。断面が露出したポリマーフィルムをモノメチルアミンに室温(25℃)で4時間浸漬し、蒸留水を断面に滴下して洗浄し、エアーダスターにて水滴を除去した。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクフィールディング製「S-4800型」)を用いてポリマーフィルムの断面を加速電圧2kV、倍率3000倍で撮影した。
撮影された画像を、画像処理ソフトウェア「ImageJ」のThreshold機能を用いて2値化し、暗部と明部に画像を区分し、画像処理データを得た。2値化における閾値は、撮影画像のコントラストに応じて256階調の88~105の間で画像処理ソフトウェアにより自動判別させた。撮影画像の範囲は、厚み方向15μm×搬送方向42μmであった。2値化された画像処理データにおける暗部が、ポリマーフィルムの空隙領域に相当する。
2値化された画像処理データから、暗部の面積を自動的に検出及び採寸し、得られた計測値から各空隙領域の面積を求めるとともに、空隙領域の平均面積を求めた。
ポリマーフィルムの一方の表面から他方の表面に向かって、ポリマーフィルムの厚みの1/10の距離にある位置を位置T1、ポリマーフィルムの厚みの4/10の距離にある位置を位置T2、ポリマーフィルムの厚みの6/10の距離にある位置を位置T3とし、一方の表面から位置T1までの領域を第1表層領域、位置T2から位置T3までの領域を中央領域とし、n=2の撮影画像から、2値化したデータを取得し、第1表層領域における空隙の面積割合である空隙面積割合X、中央領域における空隙の面積割合である空隙面積割合Yを算出した。各空隙面積割合は、ポリマーフィルムの断面の各領域の面積に対する、各領域内における空隙の面積の割合(%)を意味する。
後述する表1に、「空隙面積割合Y-空隙面積割合X」の値(表中、(Y-X)と記す。)を示す。
【0155】
<硬度>
各例で製造されたポリマーフィルムの硬度を、下記の方法で測定した。
各例で製造されたポリマーフィルムをエポキシ樹脂で包埋し、包埋したポリマーフィルムの厚み方向に沿って割断して、露出した断面をミクロトームで研削して、測定用の切断面を得た。得られた切断面において、一方の表面から他方の表面に向かってポリマーフィルムの厚みの半分の距離にある位置Aにおける硬度A、及び、一方の表面から他方の表面に向かってポリマーフィルムの厚みの1/10の距離にある位置Bにおける硬度Bを、ナノインデンテーション法により測定した。
測定は、ISO14577に準じて行い、具体的には、ベルコビッチ圧子を用いたTI-950(ナノトライボインデンター)(ブルカージャパン(株)製)によって行い、押し込み荷重500μNの条件にて、位置毎に6点測定して、6点の算術平均値を硬度(単位:GPa)とした。
後述する表1に、「(硬度A+硬度B)/2」の値(表中、(A+B)/2と記す。)、及び、「硬度A-硬度B」の値(表中、(A-B)と記す。)をそれぞれ示す。
【0156】
<誘電特性>
各例で製造されたポリマーフィルムの厚み方向の全体が含まれるように切り出したサンプルを用いて、スプリットシリンダ型共振器(関東電子応用開発社製「CR-728」)及びネットワークアナライザ(Keysight N5230A)を用いて、温度23℃及び湿度65%RHの環境下において、周波数28GHz帯における誘電正接を測定した。測定した誘電正接の値に基づいて、以下の基準によって評価した。
A:誘電正接が0.0021以下
B:誘電正接が0.0021超、0.0024以下
C:誘電正接が0.0024超
【0157】
<熱特性>
各例で製造されたポリマーフィルムの線膨張係数を、下記の方法で測定した。
各例で製造されたポリマーフィルムのセンター部分から、幅6mm、長さ6mmのサンプルを裁断し、サンプルを熱機械分析装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製「TMA-Q400」)の試料ステージに載せ、次いで、ポリマーフィルムの面内方向の線膨張係数(CTE)を測定した。測定した線膨張係数の値に基づいて、以下の基準によって評価した。なお、銅の線膨張係数は、18ppm/℃である。
A:線膨張係数が17~19ppm/℃
B:線膨張係数が、19ppm/℃超23ppm/℃以下、又は、13ppm/℃以上17ppm/℃未満
C:線膨張係数が23ppm/℃超、又は、13ppm/℃未満
【0158】
[結果]
下記表1に、各実施例及び各比較例について、ポリマーフィルムの製造条件及び特性、金属張積層体の製造条件、並びに、各評価結果を示す。
表1の「樹脂」欄は、各例においてポリマーフィルムの製造に使用した樹脂(液晶ポリマー)の種類及び融点(単位:℃)を示す。
表1の「ポリマーフィルムの製造」欄は、工程Aにおける特定熱処理及びアニール処理の方法及び条件を示す。
【0159】
【0160】
上記表に示した結果から、本発明のポリマーフィルムによれば本発明の課題を解決できることが確認された。
【符号の説明】
【0161】
10 製膜装置
12 環状ダイ
14 冷却ブロワ
16 加熱器
18 冷却器