(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20250701BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/302 101C
(21)【出願番号】P 2021110341
(22)【出願日】2021-07-01
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】宮内 國男
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-135770(JP,A)
【文献】特開2013-110397(JP,A)
【文献】特開2019-135797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H10D 30/67
H10D 30/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cl系ガスからなる第1の処理ガスにより形成されたプラズマにより、酸化物半導体の上層の導電体層をエッチングする工程と、
Arガスからなる第2の処理ガスにより形成されたプラズマにより、前記酸化物半導体のチャネル領域中に形成されるダメージ層
としての酸素欠損層を物理的にエッチングして除去する工程と、を有する、
半導体デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記酸化物半導体は、インジウムガリウム亜鉛酸化物半導体である、
請求項
1に記載の半導体デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記ダメージ層をエッチングする工程は、ソース電力とバイアス電力の比率が、2:1以上、1:1以下である、
請求項1
または請求項
2に記載の半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ゲート電極と、ゲート電極と重なるゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜を介してゲート電極と重なる酸化物積層膜と、酸化物積層膜上に接するソース電極およびドレイン電極と、ソース電極上及びドレイン電極上に接する酸化物絶縁膜と、を有する半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に示すようなBCE(Back Channel Etching)型のTFT(Thin Film Transistor)において、酸化物半導体(酸化物積層膜)の上に導電体層を形成した後、導電体層をプラズマ処理によりエッチングしてソース電極及びドレイン電極を形成する。このプラズマ処理によって、酸化物半導体のチャネル領域にダメージが生じ、TFTの特性が悪化する。
【0005】
上記課題に対して、一側面では、半導体デバイスの特性を向上する半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、一の態様によれば、Cl系ガスからなる第1の処理ガスにより形成されたプラズマにより、酸化物半導体の上層の導電体層をエッチングする工程と、Arガスからなる第2の処理ガスにより形成されたプラズマにより、前記酸化物半導体のチャネル領域中に形成されるダメージ層としての酸素欠損層を物理的にエッチングして除去する工程と、を有する、半導体デバイスの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
一の側面によれば、半導体デバイスの特性を向上する半導体デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るプラズマ処理装置の一例を示す断面模式図。
【
図2】半導体デバイスを製造する基板処理の一例を示すフローチャート。
【
図4】第1の処理ガスにより形成されたプラズマに曝された酸化物半導体のXPS分析の一例。
【
図5】酸化物半導体の表面におけるO
IとO
IIのピーク比の結果の一例を示すグラフ。
【
図6】酸化物半導体の表面におけるO
IとO
IIのピーク比の結果の一例を示すグラフ。
【
図7】酸化物半導体の表面におけるO
IとO
IIのピーク比の結果の一例を示すグラフ。
【
図8】酸化物半導体の表面におけるO
IとO
IIのピーク比の結果の一例を示すグラフ。
【
図9】半導体デバイスのI-V特性の結果の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
[プラズマ処理装置]
まず、実施形態に係るプラズマ処理装置10について、
図1を用いて説明する。
図1は、実施形態に係るプラズマ処理装置10の一例を示す断面模式図である。実施形態に係るプラズマ処理装置10は、処理室4内で誘導結合によりプラズマを発生させ、被処理基板Gを処理する装置である。実施形態に係るプラズマ処理装置10は、例えばFPD(Flat Panel Display)用ガラス基板上に薄膜トランジスターを形成する際のメタル膜、ITO膜、酸化膜等のエッチングや、レジスト膜のアッシング処理等に用いられる。ここで、FPDとしては、液晶ディスプレイ(LCD)、エレクトロルミネセンス(Electro Luminescence:EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル(PDP)等が例示される。
【0011】
プラズマ処理装置10は、導電性材料、例えば、内壁面が陽極酸化処理(アルマイト処理)されたアルミニウムからなる角筒形状の気密な処理容器1を有する。処理容器1は、接地線1aにより接地されている。処理容器1は、処理容器1と絶縁されて形成された金属窓2により上部のアンテナ室3と、下部の処理室4とに区画されている。金属窓2は、本例では処理室4の天井壁を構成する。金属窓2は、例えば、非磁性体で導電性の金属で構成される。非磁性体で導電性の金属の例は、アルミニウム、又はアルミニウムを含む合金である。金属窓2は、処理容器1の側壁に支持されている。
【0012】
アンテナ室3の中央にて貫通し、ガス流路12に連通するようにガス供給管20aが設けられている。ガス流路12は、複数の分岐配管に分岐し(不図示)、絶縁物6により複数に分割された金属窓2の部分窓に接続され、それぞれの部分窓にガスを供給する。それぞれの部分窓は、内部にガス空間を有し(不図示)、処理室4に面した面に複数のガス吐出口を有し、複数のガス吐出孔から処理室4内にガスを供給する。ガス供給管20aは、処理容器1の天井からその外側へ貫通し、処理ガス供給源及びバルブシステム等を含む処理ガス供給部20に接続されている。したがって、プラズマ処理においては、処理ガス供給部20から供給された処理ガスがガス供給管20aを介して処理室4内へ吐出される。
【0013】
アンテナ室3内には金属窓2の上に、金属窓2に面するように高周波(RF)アンテナ13が配設されている。高周波アンテナ13は絶縁部材からなるスペーサ17により金属窓2から離間している。高周波アンテナ13は、渦巻状のアンテナを構成しており(不図示)、金属窓2は、渦巻状のアンテナの下部で、例えば24の部分窓に分割されている。高周波アンテナ13は、アンテナ室3において、絶縁部材のスペーサ17を介して金属窓2の上部に配置され、処理室4に誘導結合プラズマを生成する誘導結合アンテナの一例である。
【0014】
プラズマ処理中、第一の高周波電源(ソース電源)15からは、誘導電界形成用の、例えば、周波数が13.56MHzの高周波電力が整合器14及び給電部材16を介して高周波アンテナ13へ供給される。本例の高周波アンテナ13は、図示しないが、同心状に外側環状アンテナ、中間環状アンテナ、内側環状アンテナで構成されており、それぞれ給電部材16に接続される給電部41、42、43を有する。これら各給電部41、42、43からアンテナ線が周方向に延びて、3環状の高周波アンテナ13が構成される。各アンテナ線の終端にはコンデンサ18が接続され、各アンテナ線はコンデンサ18を介して高周波アンテナ13の側壁3aに接続され、接地される。このように高周波アンテナ13に供給された高周波電力により、金属窓2を介して処理室4内に誘導電界が形成され、この誘導電界により処理室4内に供給された処理ガスがプラズマ化される。
【0015】
処理室4内の下方には、金属窓2を挟んで高周波アンテナ13と対向するように、被処理基板G、例えば、ガラス基板を載置するためのステージSTが設けられている。ステージSTは、基台23及び絶縁体枠24を有する。基台23は、導電性材料、例えば表面が陽極酸化処理されたアルミニウムで構成されている。
【0016】
基台23は絶縁体枠24内に収納され、さらに、処理室4の底面に支持される。また、処理室4の側壁4aには、被処理基板Gを搬入出するための搬入出口27aおよびそれを開閉するゲートバルブ27が設けられている。
【0017】
基台23には、中空の支柱25内に設けられた給電線25aにより、整合器28を介して第二の高周波電源(バイアス電源)29が接続されている。第二の高周波電源29は、プラズマ処理中に、バイアス電圧用の高周波電力、例えば、周波数が3.2MHzの高周波電力を基台23に印加する。このバイアス電圧用の高周波電力により被処理基板G上にバイアス電圧を生成し、処理室4内に生成されたプラズマ中のイオンが被処理基板Gに引き込まれる。
【0018】
静電チャック26は、基台23の上に設けられ、被処理基板Gを載置する。静電チャック26は、絶縁体の間にチャック電極26aを挟み込んだ構造になっている。チャック電極26aには直流電源47が接続されている。直流電源47からチャック電極26aに直流電圧が印加されることでクーロン力が発生し、被処理基板Gは、静電チャック26により吸着保持される。
【0019】
さらに、基台23内には、被処理基板Gの温度を制御するため、セラミックヒータ等の加熱手段や冷媒流路等からなる温度制御機構と温度センサーとが設けられてもよい。これらの機構や部材に対する配管や配線は、いずれも中空の支柱25を通して処理容器1外に導出される。
【0020】
ステージSTと処理室4の側壁4aとの間には、バッフル板32が連続的或いは断続的に環状にステージSTを囲んで設けられ、処理室4から排気空間にガスを通す。処理室4の底部には、排気管31を介して真空ポンプ等を含む排気装置30が接続される。排気装置30により、バッフル板32下の排気空間が排気され、プラズマ処理中、処理室4内が所定の真空雰囲気(例えば1.33Pa)に設定及び維持される。
【0021】
静電チャック26と被処理基板Gとの間に熱伝達用ガスとしてHeガスを供給するためのHeガス流路55が設けられている。Heガス流路55には、Heガスライン56が接続され、圧力制御バルブ57を介してHe源に接続される。
【0022】
プラズマ処理装置10の各構成部は、コンピュータからなる制御部50に接続され、制御部50により制御される構成となっている。また、制御部50には、工程管理者がプラズマ処理装置10を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、プラズマ処理装置10の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース51が接続されている。さらに、制御部50には記憶部52が接続されている。記憶部52には、プラズマ処理装置10において実行される各種処理を制御部50の制御により実現するための制御プログラム、及び処理条件に応じてプラズマ処理装置10の各構成部に処理を実行させるためのプログラムであるレシピが格納されている。レシピはハードディスクや半導体メモリーに記憶されていてもよいし、CD-ROM、DVD等の可搬性の記憶媒体に収容された状態で記憶部52の所定位置にセットするようにしてもよい。さらに、他方の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース51からの指示等にて任意のレシピを記憶部52から呼び出して制御部50に実行させることで、プラズマ処理装置10の処理室4内で被処理基板Gに所望の処理が行われる。
【0023】
係る構成のプラズマ処理装置10では、高周波アンテナ13に供給された高周波電力により、金属窓2を介して処理室4内に誘導電界が形成される。この誘導電界により処理室4内に供給された処理ガスがプラズマ化され、誘導結合プラズマを用いて被処理基板Gに所望の処理が行われる。
【0024】
次に、半導体デバイスの製造方法について、
図2及び
図3を用いて説明する。
図2は、半導体デバイスを製造する基板処理の一例を示すフローチャートである。
図3は、被処理基板Gの断面模式図の一例である。ここでは、半導体デバイスとして、BCE(Back Channel Etching)型のTFT(Thin Film Transistor)を形成する。
【0025】
ステップS101において、被処理基板Gを準備する。
図3(a)は、ステップS101において準備される被処理基板Gの断面模式図の一例である。被処理基板Gは、基体210と、ゲート電極220と、ゲート絶縁膜230と、酸化物半導体240と、導電体層250と、を有する。
【0026】
基体210は、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜等の絶縁膜で形成される。ゲート電極220は、例えばモリブデン、タングステン等の導電体で形成され、基体210の上に形成される。ゲート絶縁膜230は、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜等の絶縁体で形成され、基体210及びゲート電極220の上に形成される。酸化物半導体240は、例えばインジウム-ガリウム-亜鉛酸化物半導体(以下、IGZOとも称する。)で形成され、ゲート絶縁膜230の上に形成される。導電体層250は、例えばチタン、アルミニウム、タングステン等の導電体で形成され、酸化物半導体240及びゲート絶縁膜230の上に形成される。
【0027】
ステップS102において、導電体層250をエッチングしてソース電極251及びドレイン電極252を形成する。まず、導電体層250の上にフォトレジストマスク(図示せず)を形成する。次に、フォトレジストマスクを用いて導電体層250をエッチングして、ソース電極251及びドレイン電極252を形成する。ここでは、プラズマ処理装置10(
図1参照)を用い、処理ガス供給部20から処理室4内にエッチングガス(第1の処理ガス)を供給して、処理室4内で誘導結合によりプラズマを発生させることにより、導電体層250にエッチング処理を施す。エッチングガスとしては、Clを含むガス(Cl系ガス)、例えばCl
2ガス、Cl
2にBCl
3を添加したガス等を用いることができる。その後、フォトレジストマスクを除去する。
【0028】
図3(b)は、ステップS102においてエッチング処理が施された被処理基板Gの断面模式図の一例である。導電体層250がエッチング処理されることにより、ソース電極251及びドレイン電極252が形成される。
【0029】
また、導電体層250をエッチングするプラズマによって、酸化物半導体240にダメージが生じ、ダメージ層(酸素欠損層)245が形成される。
図3(b)に示すように、ダメージ層245は、ソース電極251とドレイン電極252との間のチャネル領域に形成される。ダメージ層245では、酸化物半導体240がプラズマに曝されることにより、酸素(O)の欠損(欠陥)が生じ、酸化物半導体240が導体化する。
【0030】
ステップS103において、酸化物半導体240のダメージ層(酸素欠損層)245を除去する。ここでは、プラズマ処理装置10(
図1参照)を用い、処理ガス供給部20から処理室4内にArガス(第2の処理ガス)を供給して、処理室4内で誘導結合によりプラズマを発生させる。例えば、Arガス10mTに調圧し、第一の高周波電源(ソース電源)15のソース電力を4kWとし、第二の高周波電源(バイアス電源)29のバイアス電力を2kWとし、120秒間放電処理する。この処理により、アルゴン(Ar)はソース電力によってイオン化し、イオン化したアルゴン(Ar)はバイアス電力によって運動エネルギーを有して被処理基板Gの表面に衝突する。イオン化したアルゴン(Ar)を酸化物半導体240のダメージ層245に衝突させることで、ダメージ層245を物理的にエッチングして、ダメージ層245を除去する。
【0031】
図3(c)は、ステップS103において処理が施された被処理基板Gの断面模式図の一例である。イオン化したアルゴン(Ar)が衝突することで、ダメージ層245(
図3(b)参照)が除去される。
【0032】
ステップS104において、酸化物半導体240、ソース電極251及びドレイン電極252の上に、絶縁膜260を形成する。絶縁膜260は、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜等の絶縁体で形成される。絶縁膜260は、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)装置で成膜される。
【0033】
図3(d)は、ステップS104において処理が施された被処理基板Gの断面模式図の一例である。酸化物半導体240、ソース電極251及びドレイン電極252の上に絶縁膜260が形成される。
【0034】
ステップS105において、被処理基板Gにアニール処理が施される。アニール処理によって、半導体デバイスを活性化する。これにより、被処理基板Gに半導体デバイスとしてのTFTが形成される。
【0035】
次に、酸化物半導体240のダメージについて、
図4から
図7を用いて説明する。
【0036】
図4は、第1の処理ガスにより形成されたプラズマに曝された酸化物半導体240のXPS分析の一例である。ここでは、ステップS102の導電体層250のエッチング処理における酸化物半導体240のダメージを模擬して、酸化物半導体240(IGZO)に対して第1の処理ガス(Cl
2ガス)でプラズマエッチング処理を施し、酸化物半導体240の表面にダメージ層245を形成した。そして、表面にダメージ層245が形成された酸化物半導体240に対して、XPS分析を行った。
【0037】
図4(a)は、横軸は結合エネルギー(Binding Energy)(eV)を示し、縦軸は強度(intensity)(a.u.)を示す。また、スペクトル301は、酸化物半導体240の表面におけるXPS分析の結果を示す。また、スペクトル302~312は、酸化物半導体240の表面から1.3nmずつ深さ方向に掘り込んだ位置におけるXPS分析の結果を示す。
図4(b)は、酸化物半導体240の表面におけるXPS分析の結果を示す。
図4(c)は、酸化物半導体240の表面から1.3nm深さ方向に掘り込んだ位置におけるXPS分析の結果を示す。
【0038】
ここで、O1s軌道のスペクトル(実線で示す)は、OIスペクトル(一点鎖線で示す)とOIIスペクトル(破線で示す)に分離することができる。OIスペクトルは、酸素原子と金属原子との結合に基づく。OIIスペクトルは、酸素欠損に基づく。したがって、OIスペクトルのピーク強度(矢印で示す)とOIIスペクトルのピーク強度(矢印で示す)との比(OIとOIIのピーク比、OI/OII)を酸素欠損の指標として用いる。酸素欠損が多いほどOIとOIIのピーク比(OI/OII)は小さくなり、酸素欠損が少ないほどOIとOIIのピーク比(OI/OII)は大きくなる。
【0039】
図4(b)においてO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)は0.31となり、
図4(c)においてO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)は35.6となった。即ち、O
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)は、
図4(b)に示す酸化物半導体240の表面と比較して、
図4(c)に示す酸化物半導体240の表面から深さ方向1.3nmの位置で急激に大きくなる。即ち、酸化物半導体240のダメージ層245は、酸化物半導体240の表面から1.5nm以内に局在している。
【0040】
図5は、酸化物半導体240の表面におけるO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)の結果の一例を示すグラフである。ここでは、第1の処理ガス及び第2の処理ガスのガス種による酸化物半導体240のダメージ及びダメージの改善の影響を説明する。
【0041】
図5(a)は、未処理(Initial)の酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
図5(b)は、第1の処理ガスとしてCl
2ガスにBCl
3ガスを添加したガスを用い、第1の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
図5(c)は、第1の処理ガスとしてCl
2ガスを用い、第1の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
【0042】
図5(a)に示す未処理の酸化物半導体240の表面と比較して、
図5(b)(c)に示す第1の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面は、O
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)が減少する。即ち、第1の処理ガスにより形成されたプラズマによって、酸化物半導体240にダメージが生じている。また、BCl
3ガスを添加した
図5(b)は、BCl
3ガスを添加しない
図5(c)と比較して、酸化物半導体240のダメージが大きくなっている。
【0043】
図5(d)~(g)は、第1の処理ガスとしてCl
2ガスにBCl
3ガスを添加したガスを用い、第1の処理ガスにより形成されたプラズマで酸化物半導体240に処理を施した。
図5(d)は、第2の処理ガスとしてO
2ガスを用い、第2の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
図5(e)は、第2の処理ガスとしてCF
4ガスとO
2ガスの混合ガスを用い、第2の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
図5(f)は、第2の処理ガスとしてArガスを用い、第2の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
図5(g)は、第2の処理ガスとしてO
2ガスを用い、更にバイアス電力を印加して第2の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
【0044】
O
2ガスのプラズマ処理(
図5(d)参照)及びCF
4ガスとO
2ガスの混合ガスのプラズマ処理(
図5(e)参照)では、酸化物半導体240のダメージの改善はみられなかった。一方、Arガスのプラズマ処理(
図5(f)参照)では、酸化物半導体240のダメージが改善した。また、バイアス電力を印加したO
2ガスのプラズマ処理(
図5(d)参照)では、酸化物半導体240のダメージが進行した。
【0045】
図6は、酸化物半導体240の表面におけるO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)の結果の一例を示すグラフである。ここでは、プラズマ処理時のソース電力とバイアス電力との比による酸化物半導体240のダメージの改善の影響を説明する。
【0046】
図6では、第1の処理ガスとしてCl
2ガスにBCl
3ガスを添加したガスを用い、第1の処理ガスにより形成されたプラズマで酸化物半導体240に処理を施した後、第2の処理ガスとしてArガスを用い、第2の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。なお、Arガス供給量1000sccm、処理室4の圧力10mT、ソース電力を4kW、処理時間120秒とした。バイアス電力を0kW、2kW、4kWとした場合の結果をそれぞれ示す。また、Refは、第1の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
【0047】
図6に示すように、バイアス電力2kW及び4kWにおいて、O
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)が大きく改善した。換言すれば、「ソース電力:バイアス電力」の比が2:1以上1:1以下の範囲内において、酸化物半導体240のダメージを好適に改善することができる。
【0048】
図7は、酸化物半導体240の表面におけるO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)の結果の一例を示すグラフである。ここでは、処理時間による酸化物半導体240のダメージの改善の影響を説明する。
【0049】
図7では、第1の処理ガスとしてCl
2ガスにBCl
3ガスを添加したガスを用い、第1の処理ガスにより形成されたプラズマで酸化物半導体240に処理を施した後、第2の処理ガスとしてArガスを用い、第2の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。なお、第2の処理ガスによるプラズマ処理では、Arガス供給量1000sccm、処理室4の圧力10mT、ソース電力を4kW、バイアス電力を2kWとした。
図7(b)は、第2の処理ガスによる処理時間を120秒とした場合の結果を示す。
図7(c)は、第2の処理ガスによる処理時間を240秒とした場合の結果を示す。また、
図7(a)は、第1の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
【0050】
図7に示すように、処理時間120秒において、酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)が大きく改善した。また、処理時間240秒における結果に示すように、O
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)は、処理時間に対して飽和することが確認できた。
【0051】
次に、酸化物半導体240のダメージ及び半導体デバイスの特性について、
図8及び
図9を用いて説明する。
【0052】
図8は、酸化物半導体240の表面におけるO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)の結果の一例を示すグラフである。
【0053】
図8(a)は、未処理(Initial)の酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
図8(b)は、第1の処理ガスとしてCl
2ガスを用い、第1の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
図8(c)は、第1の処理ガスとしてCl
2ガスにBCl
3ガスを添加したガスを用い、第1の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。
図8(d)は、第1の処理ガスとしてCl
2ガスにBCl
3ガスを添加したガスを用い、第1の処理ガスにより形成されたプラズマで酸化物半導体240に処理を施した後、第2の処理ガスとしてArガスを用い、第2の処理ガスにより形成されたプラズマで処理が施された酸化物半導体240の表面に対するO
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)を示す。なお、
図8において、O
IとO
IIのピーク比(O
I/O
II)は、(a)が1となるように正規化している。
【0054】
図9は、
図8の(b)~(d)における半導体デバイスのI-V特性の結果の一例を示すグラフである。各グラフの横軸はゲート-ソース間電圧Vgsを示し、各グラフの縦軸はドレイン電流Idを示す。また、ドレイン電圧Vdが5.1Vの場合の結果を実線で図示し、ドレイン電圧Vdが0.1Vの場合の結果を破線で図示する。また、
図9の「Etching」は、ステップS102において導電体層250をエッチングしてソース電極251及びドレイン電極252を形成した状態(
図3(b)参照)における各半導体デバイスのI-V特性を示す。
図9の「Ar Treat」は、ステップS103において酸化物半導体240のダメージ層245を除去した状態(
図3(c)参照)における各半導体デバイスのI-V特性を示す。
図9の「CVD」は、ステップS104において絶縁膜260を形成した状態(
図3(d)参照)における各半導体デバイスのI-V特性を示す。
図9の「Post Anneal」は、ステップS105のアニール処理後における各半導体デバイスのI-V特性を示す。
【0055】
図9(b)では、ステップS102において第1の処理ガスとしてCl
2ガスを用い、ステップS103をスキップし、ステップS104において絶縁膜260の成膜、ステップS105においてアニール処理を行い、半導体デバイスを形成した。アニール処理後のI-V特性には、ヒステリシスが生じている。また、ドレイン電流Idは、ゲート-ソース間電圧Vgsが0Vよりも大きな電圧で立ち上がる。
【0056】
図9(c)では、ステップS102において第1の処理ガスとしてCl
2ガスにBCl
3ガスを添加したガスを用い、ステップS103をスキップし、ステップS104において絶縁膜260の成膜、ステップS105においてアニール処理を行い、半導体デバイスを形成した。アニール処理後のI-V特性には、絶縁化している。
【0057】
図9(d)では、ステップS102において第1の処理ガスとしてCl
2ガスにBCl
3ガスを添加したガスを用い、ステップS103において第2の処理ガスとしてArガスを用い、ステップS104において絶縁膜260の成膜、ステップS105においてアニール処理を行い、半導体デバイスを形成した。アニール処理後のI-V特性には、ヒステリシスが改善している。また、ドレイン電流Idは、ゲート-ソース間電圧Vgsが略0Vで立ち上がる。即ち、半導体デバイスのI-V特性を改善することができる。
【0058】
以上に説明したように、本実施形態に係る半導体デバイスの製造方法によれば、酸化物半導体240のダメージを改善して、半導体デバイスの特性を向上させることができる。
【0059】
今回開示された実施形態に係る半導体デバイスの製造方法は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 プラズマ処理装置
15 第一の高周波電源(ソース電源)
29 第二の高周波電源(バイアス電源)
210 基体
220 ゲート電極
230 ゲート絶縁膜
240 酸化物半導体
245 ダメージ層
250 導電体層
251 ソース電極
252 ドレイン電極
260 絶縁膜