(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/448 20060101AFI20250701BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20250701BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20250701BHJP
H01L 21/368 20060101ALN20250701BHJP
H01L 21/205 20060101ALN20250701BHJP
【FI】
C23C16/448
C23C16/455
C23C16/40
H01L21/368
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2023080011
(22)【出願日】2023-05-15
(62)【分割の表示】P 2022515268の分割
【原出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2020071898
(32)【優先日】2020-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 崇寛
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070422(JP,A)
【文献】特開2020-002396(JP,A)
【文献】特開2020-053598(JP,A)
【文献】特開平04-022139(JP,A)
【文献】特開2019-119925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/448
C23C 16/455
C23C 16/40
H01L 21/368
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置であって、
原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、
前記ミスト化部に接続され、前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、
前記ミストを含むキャリアガスに混合する、1種類以上の気体を主成分とする添加用流体を搬送する少なくとも1本以上の配管と、
成膜部と接続し、前記ミストを含むキャリアガスと前記添加用流体を混合した混合ミスト流体を搬送する配管と、
前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記添加用流体を搬送する配管と、前記混合ミスト流体を搬送する配管とを接続する接続部材と、
前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部と、
制御部と、
を少なくとも具備し、
前記接続部材によって接続される、前記添加用流体を搬送する配管と前記混合ミスト流体を搬送する配管の成す角が100度以上であり、
前記制御部は、成膜速度が1.1μm/hr以上となるように、前記キャリアガスの流量及び前記添加用流体の流量を制御するものであることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記添加用流体を搬送する配管と前記混合ミスト流体を搬送する配管の成す角が120度以上であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記接続部材によって前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記添加用流体を搬送する配管と、前記混合ミスト流体を搬送する配管とが接続される接続部における前記添加用流体の線速度を、前記ミストを含むキャリアガスの線速度の10倍以上とするものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記接続部材の前記添加用流体を搬送する配管と接続する部分の断面積が、前記接続部材の前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と接続する部分の断面積以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記キャリアガスの流量を、8L/min以上とするものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記基体として面積が10cm
2以上のものを処理することが可能なものであることを特徴とする請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項7】
成膜方法であって、
ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを生成する工程と、
前記ミスト化部にキャリアガスを供給して、ミストを含むキャリアガスを前記ミスト化部から搬送する工程と、
前記ミストを含むキャリアガスと、1種類以上の気体を主成分とする少なくとも1種類の添加用流体とを混合して混合ミスト流体を形成する工程と、
前記混合ミスト流体を成膜部に搬送する工程と、
前記成膜部において、前記混合ミスト流体中のミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程と
を含み、
前記混合ミスト流体を形成する工程において、前記添加用流体の流れのベクトルと、前記混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角を80度以下とし、
成膜速度が1.1μm/hr以上となるように、前記キャリアガスの流量及び前記添加用流体の流量の制御を行うことを特徴とする成膜方法。
【請求項8】
成膜方法であって、
ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを生成する工程と、
前記ミスト化部にキャリアガスを供給して、ミストを含むキャリアガスを前記ミスト化部から搬送する工程と、
前記ミストを含むキャリアガスと、1種類以上の気体を主成分とする少なくとも1種類の添加用流体とを混合して混合ミスト流体を形成する工程と、
前記混合ミスト流体を成膜部に搬送する工程と、
前記成膜部において、前記混合ミスト流体中のミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程と
を含み、
前記混合ミスト流体を形成する工程において、成膜速度が1.1μm/hr以上となるように、前記添加用流体の流れのベクトル及び前記混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角の設定、並びに、前記キャリアガスの流量及び前記添加用流体の流量の制御を行うことを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
前記添加用流体の流れのベクトルと、前記混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角を、60度以下とすることを特徴とする請求項7又は
請求項8に記載の成膜方法。
【請求項10】
接続部材によって前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記添加用流体を搬送する配管と、前記混合ミスト流体を搬送する配管とが接続される接続部における前記添加用流体の線速度を、前記ミストを含むキャリアガスの線速度の10倍以上とすることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項11】
前記キャリアガスの流量を8L/min以上とすることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項12】
前記基体として面積が10cm
2以上のものを用いることを特徴とする請求項7から
請求項11のいずれか一項に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスト状の原料を用いて基体上に成膜を行う成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスレーザー堆積法(Pulsed laser deposition:PLD)、分子線エピタキシー法(Molecular beam epitaxy:MBE)、スパッタリング法等の非平衡状態を実現できる高真空成膜装置が開発されており、これまでの融液法等では作製不可能であった酸化物半導体の作製が可能となってきた。
【0003】
また、霧化されたミスト状の原料を用いて、基板上に結晶成長させるミスト化学気相成長法(Mist Chemical Vapor Deposition:Mist CVD。以下、「ミストCVD法」ともいう。)が開発され、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の作製が可能となってきた。α-Ga2O3は、バンドギャップの大きな半導体として、高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子への応用が期待されている。
【0004】
ミストCVD法に関して、特許文献1には、管状炉型のミストCVD装置が記載されている。特許文献2には、ファインチャネル型のミストCVD装置が記載されている。特許文献3には、リニアソース型のミストCVD装置が記載されている。特許文献4には、管状炉のミストCVD装置が記載されており、特許文献1に記載のミストCVD装置とは、ミスト発生器内にキャリアガスを導入する点で異なっている。特許文献5には、ミスト発生器の上方に基板を設置し、さらにサセプタがホットプレート上に備え付けられた回転ステージであるミストCVD装置が記載されている。
【0005】
図13に、特許文献6の
図1におけるミストを含むキャリアガスを搬送する配管と希釈ガスを搬送する配管の接続部301hの拡大図を示す。
図13に示すように、特許文献6には、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と混合ミスト流体を搬送する配管304のそれぞれに対し、希釈ガスである添加用流体を搬送する配管303を直角に接続し、原料供給系で作製したミストをキャリアガスにより搬送し、ミストを含むキャリアガスの流れのベクトルAに対し、直交する添加用流体の流れのベクトルBを有する希釈ガス(添加用流体)を混合し、混合した混合ミスト流体の流れのベクトルCが、ミストを含むキャリアガスの流れのベクトルAと平行であるようなミストCVD装置が記載されている。希釈ガスを用いることで、ミストの搬送量と独立して混合ミスト流体の線速度を調整し、このような混合ミスト流体を、相対する方向に供給する供給手段を用いることで面内膜厚分布を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-257337号公報
【文献】特開2005-307238号公報
【文献】特開2012-46772号公報
【文献】特許第5397794号公報
【文献】特開2014-63973号公報
【文献】特開2020-2396号公報
【文献】特開2020-2426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ミストCVD法は、他のCVD法とは異なり比較的低温で成膜を行うことができ、α-Ga2O3のコランダム構造のような準安定相の結晶構造も作製可能である。
【0008】
しかしながら、本発明者は、ミストの搬送中に、希釈ガスである添加用流体によってミストが配管に衝突し結露する、及び/又は、添加用流体がミストを含むキャリアガスの配管に逆流することで、ミストの搬送効率が低下し、成膜速度が低下するという新たな問題点を見出した。この問題は、流量が多くなるほど、すなわち、多くのガスを必要とする大面積基体や複数枚の基体への成膜を行う際に顕著であった。このような問題に対し、特許文献7では、ミスト搬送部を加熱することでミストの寿命を伸ばし、成膜速度を向上させるミストCVD装置が記載されている。しかしながら、この方法を用いても、成膜速度の低下は完全には解消されていない。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、成膜速度に優れたミストCVD法が適用可能な成膜装置、及び、成膜速度に優れた成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、成膜装置であって、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、前記ミスト化部に接続され、前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記ミストを含むキャリアガスに混合する、1種類以上の気体を主成分とする添加用流体を搬送する少なくとも1本以上の配管と、成膜部と接続し、前記ミストを含むキャリアガスと前記添加用流体を混合した混合ミスト流体を搬送する配管と、前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記添加用流体を搬送する配管と、前記混合ミスト流体を搬送する配管とを接続する接続部材と、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部とを少なくとも具備し、前記接続部材によって接続される、前記添加用流体を搬送する配管と前記混合ミスト流体を搬送する配管の成す角が120度以上である成膜装置を提供する。
【0011】
このような成膜装置によれば、簡便な装置構成により、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管への添加用流体の逆流が抑制できるものとなる。また、接続部壁面への衝突によるミストの減少を抑制でき、成膜速度を向上させることが可能なものとなる。
【0012】
このとき、前記添加用流体を搬送する配管と前記混合ミスト流体を搬送する配管の成す角を180度とすることができる。
【0013】
これにより、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管への添加用流体の逆流がさらに抑制できるものとなる。また、接続部の配管壁面への衝突によるミストの減少をさらに抑制でき、成膜速度をさらに向上させることが可能なものとなる。
【0014】
このとき、前記添加用流体の線速度が前記ミストを含むキャリアガスの線速度の1倍~100倍であるものとすることができる。
【0015】
これにより、接続部壁面への衝突によるミストの減少をさらに抑制でき、また、エジェクタ効果により、接続部において高速の添加用流体に低速のミストを含むキャリアガスが引き寄せられることで、より安定的にミストを搬送することが可能となり、成膜速度をより向上させることが可能なものとなる。
【0016】
また、本発明は、成膜装置であって、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、前記ミスト化部に接続され、前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記ミストを含むキャリアガスに混合する、1種類以上の気体を主成分とする添加用流体を搬送する少なくとも1本以上の配管と、成膜部と接続し、前記ミストを含むキャリアガスと前記添加用流体を混合した混合ミスト流体を搬送する配管と、前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記添加用流体を搬送する配管と、前記混合ミスト流体を搬送する配管とを接続する接続部材と、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部とを少なくとも具備し、前記接続部材によって接続される、前記添加用流体を搬送する配管と前記混合ミスト流体を搬送する配管の成す角が100度以上であり、前記接続部における前記添加用流体の線速度を、前記ミストを含むキャリアガスの線速度以上とするものである成膜装置を提供する。
【0017】
このような成膜装置によれば、簡便な装置構成により、大流量のガスを流す場合においても、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管への添加用流体の逆流が抑制できるものとなる。また、接続部壁面への衝突によるミストの減少を抑制でき、成膜速度を向上させることが可能なものとなる。
【0018】
このとき、前記添加用流体を搬送する配管と前記混合ミスト流体を搬送する配管の成す角が120度以上である成膜装置とすることができる。
【0019】
これにより、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管への添加用流体の逆流がさらに抑制できるものとなる。また、接続部の配管壁面への衝突によるミストの減少をさらに抑制でき、成膜速度をさらに向上させることが可能なものとなる。
【0020】
このとき、前記接続部における前記添加用流体の線速度を、前記ミストを含むキャリアガスの線速度の10倍以上とするものである成膜装置とすることができる。
【0021】
これにより、接続部壁面への衝突によるミストの減少をさらに抑制でき、また、エジェクタ効果により、接続部において高速の添加用流体に低速のミストを含むキャリアガスが引き寄せられることで、より安定的にミストを搬送することが可能となり、成膜速度をより向上させることが可能なものとなる。
【0022】
このとき、前記接続部材の前記添加用流体を搬送する配管と接続する部分の断面積が、前記接続部材の前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と接続する部分の断面積以下である成膜装置とすることができる。
【0023】
これにより、添加用流体の流量が少なくとも、添加用流体の線速度を大きくすることができるものとなり、ミストの線速度の自由度が上がり、工業的に有利となる。
【0024】
このとき、前記キャリアガスの流量を、8L/min以上とするものである成膜装置とすることができる。
【0025】
これにより、多くの流量を必要とする大面積基板への成膜においても、より大きい成膜速度で成膜することができるものとなる。
【0026】
このとき、前記基体として面積が10cm2以上のものを処理することが可能な成膜装置とすることができる。
【0027】
これにより、より早い成膜速度で、大面積に膜を成膜することが可能なものとなる。
【0028】
また、本発明は、成膜方法であって、ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを生成する工程と、前記ミスト化部にキャリアガスを供給して、ミストを含むキャリアガスを前記ミスト化部から搬送する工程と、前記ミストを含むキャリアガスと、1種類以上の気体を主成分とする少なくとも1種類の添加用流体とを混合して混合ミスト流体を形成する工程と、前記混合ミスト流体を成膜部に搬送する工程と、前記成膜部において、前記混合ミスト流体中のミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含み、前記混合ミスト流体を形成する工程において、前記添加用流体の流れのベクトルと、前記混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角を60度以下とする成膜方法を提供する。
【0029】
このような成膜方法によれば、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管への添加用流体の逆流が抑制でき、接続部壁面への衝突によるミストの減少を抑制できるため、ミストの搬送効率を大きく改善し、成膜速度を向上させることが可能となる。
【0030】
このとき、前記添加用流体の流れのベクトルと、前記混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角を0度とすることができる。
【0031】
これにより、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管への添加用流体の逆流がより抑制でき、ミストの搬送効率をさらに向上させることが可能となり、成膜速度をさらに向上させることが可能となる。
【0032】
このとき、前記添加用流体の線速度を、前記ミストを含むキャリアガスの線速度の1倍~100倍とすることができる。
【0033】
これにより、ミストの搬送効率をさらに向上させることが可能となり、また、エジェクタ効果により、接続部において高速の添加用流体に低速のミストを含むキャリアガス流が引き寄せられることで、より安定的にミストを搬送することが可能となり、成膜速度をより向上させることが可能となる。
【0034】
本発明は、また、成膜方法であって、ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを生成する工程と、前記ミスト化部にキャリアガスを供給して、ミストを含むキャリアガスを前記ミスト化部から搬送する工程と、前記ミストを含むキャリアガスと、1種類以上の気体を主成分とする少なくとも1種類の添加用流体とを混合して混合ミスト流体を形成する工程と、前記混合ミスト流体を成膜部に搬送する工程と、前記成膜部において、前記混合ミスト流体中のミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含み、前記混合ミスト流体を形成する工程において、前記添加用流体の流れのベクトルと、前記混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角を80度以下とし、前記接続部における前記添加用流体の線速度を、前記ミストを含むキャリアガスの線速度以上とする成膜方法を提供する。
【0035】
このような成膜方法によれば、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管への添加用流体の逆流が抑制でき、接続部壁面への衝突によるミストの減少を抑制できるため、ミストの搬送効率を大きく改善し、成膜速度を向上させることが可能となる。
【0036】
このとき、前記添加用流体の流れのベクトルと、前記混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角を、60度以下とすることができる。
【0037】
これにより、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管への添加用流体の逆流がより抑制でき、ミストの搬送効率をさらに向上させることが可能となり、成膜速度をさらに向上させることが可能となる。
【0038】
このとき、前記接続部における前記添加用流体の線速度を、前記ミストを含むキャリアガスの線速度の10倍以上とすることができる。
【0039】
これにより、ミストの搬送効率をさらに向上させることが可能となり、また、エジェクタ効果により、接続部において高速の添加用流体に低速のミストを含むキャリアガス流が引き寄せられることで、より安定的にミストを搬送することが可能となり、成膜速度をより向上させることが可能となる。
【0040】
このとき、前記キャリアガスの流量を8L/min以上とすることができる。
【0041】
これにより、多くの流量を必要とする大面積基板への成膜においても、より大きい成膜速度で成膜することができる。
【0042】
このとき、前記基体として面積が10cm2以上のものを用いることができる。
【0043】
これにより、より早い成膜速度で、大面積に膜を成膜することが可能となる。
【発明の効果】
【0044】
以上のように、本発明の成膜装置によれば、簡便な装置構成により、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管への添加用流体の逆流が抑制でき、接続部壁面への衝突によるミストの減少を抑制でき、ミストの搬送効率がよく、成膜速度を大きく改善することが可能なものとなる。また、本発明の成膜方法によれば、簡便な方法により、ミストの搬送効率を大きく改善し、成膜速度を大きく改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図2】本発明に係る成膜装置における原料供給系の概略構成図である。
【
図3】本発明に係る成膜装置における原料供給系のミスト化部の一例を説明する図である。
【
図4】本発明に係る成膜装置における原料供給系の接続部の一例を説明する図である。
【
図5】本発明に係る成膜装置における原料供給系の接続部の別の一例を説明する図である。
【
図6】本発明に係る成膜装置における原料供給系の接続部の他の一例を説明する図である。
【
図7】本発明に係る成膜装置における原料供給系の接続部の他の一例を説明する図である。
【
図8】本発明に係る成膜装置における原料供給系の接続部の他の一例を説明する図である。
【
図9】本発明に係る成膜装置における原料供給系の接続部の他の一例を説明する図である。
【
図10】実施例13で用いた成膜装置における原料供給系の接続部を説明する図である。
【
図13】従来の成膜装置における原料供給系の接続部の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
上述のように、成膜速度に優れたミストCVD法が適用可能な成膜装置、及び、成膜速度に優れた成膜方法が求められていた。
【0048】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、成膜装置であって、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、前記ミスト化部に接続され、前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記ミストを含むキャリアガスに混合する、1種類以上の気体を主成分とする添加用流体を搬送する少なくとも1本以上の配管と、成膜部と接続し、前記ミストを含むキャリアガスと前記添加用流体を混合した混合ミスト流体を搬送する配管と、前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記添加用流体を搬送する配管と、前記混合ミスト流体を搬送する配管とを接続する接続部材と、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部とを少なくとも具備し、前記接続部材によって接続される、前記添加用流体を搬送する配管と前記混合ミスト流体を搬送する配管の成す角が120度以上である成膜装置により、成膜速度に優れたミストCVD法が適用できる成膜装置となることを見出し、本発明を完成した。
【0049】
本発明者は、また、成膜装置であって、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、前記ミスト化部に接続され、前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記ミストを含むキャリアガスに混合する、1種類以上の気体を主成分とする添加用流体を搬送する少なくとも1本以上の配管と、成膜部と接続し、前記ミストを含むキャリアガスと前記添加用流体を混合した混合ミスト流体を搬送する配管と、前記ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記添加用流体を搬送する配管と、前記混合ミスト流体を搬送する配管とを接続する接続部材と、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部とを少なくとも具備し、前記接続部材によって接続される、前記添加用流体を搬送する配管と前記混合ミスト流体を搬送する配管の成す角が100度以上であり、前記接続部における前記添加用流体の線速度を、前記ミストを含むキャリアガスの線速度以上とするものである成膜装置により、成膜速度に優れたミストCVD法が適用できる成膜装置となることを見出し、本発明を完成した。
【0050】
また、成膜方法であって、ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを生成する工程と、前記ミスト化部にキャリアガスを供給して、ミストを含むキャリアガスを前記ミスト化部から搬送する工程と、前記ミストを含むキャリアガスと、1種類以上の気体を主成分とする少なくとも1種類の添加用流体とを混合して混合ミスト流体を形成する工程と、前記混合ミスト流体を成膜部に搬送する工程と、前記成膜部において、前記混合ミスト流体中のミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含み、前記混合ミスト流体を形成する工程において、前記添加用流体の流れのベクトルと、前記混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角を60度以下とする成膜方法により、成膜速度に優れた成膜方法となることを見出し、本発明を完成した。
【0051】
さらに、成膜方法であって、ミスト化部において原料溶液をミスト化してミストを生成する工程と、前記ミスト化部にキャリアガスを供給して、ミストを含むキャリアガスを前記ミスト化部から搬送する工程と、前記ミストを含むキャリアガスと、1種類以上の気体を主成分とする少なくとも1種類の添加用流体とを混合して混合ミスト流体を形成する工程と、前記混合ミスト流体を成膜部に搬送する工程と、前記成膜部において、前記混合ミスト流体中のミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含み、前記混合ミスト流体を形成する工程において、前記添加用流体の流れのベクトルと、前記混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角を80度以下とし、前記接続部における前記添加用流体の線速度を、前記ミストを含むキャリアガスの線速度以上とする成膜方法により、成膜速度に優れた成膜方法となることを見出し、本発明を完成した。
【0052】
以下、図面を参照して説明する。
【0053】
ここで、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子の総称を指し、霧、液滴等と呼ばれるものも含む。
【0054】
本発明に係る成膜装置は、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、ミスト化部に接続され、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、ミストを含むキャリアガスに混合する、1種類以上の気体を主成分とする添加用流体を搬送する少なくとも1本以上の配管と、成膜部と接続し、前記ミストを含むキャリアガスと前記添加用流体を混合した混合ミスト流体を搬送する配管と、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管と、前記添加用流体を搬送する配管と、前記混合ミスト流体を搬送する配管とを接続する接続部材と、ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部とを少なくとも具備している。以下では、本発明に係る成膜装置の構成要素を詳細に説明していく。なお、各図面で共通する事項については、説明を適宜省略することがある。
【0055】
(成膜装置)
図1に本発明に係る成膜装置401の一例を示す。成膜装置401は、キャリアガス供給部120と、添加用流体供給部130と、ミスト化部201と、ミストを熱処理して基体403上に成膜を行う成膜部420と、混合ミスト流体搬送部107と、添加用流体供給部130、ミスト化部201、混合ミスト流体搬送部107を接続する接続部301を有する。また、成膜装置401は、成膜装置401の全体または一部を制御する制御部(図示なし)を備えることによって、その動作が制御されてもよい。以下、成膜部420と、原料の流れから見て成膜部420の上流側の原料供給系101(
図2参照)とに分けて説明する。
【0056】
(原料供給系)
図2に、本発明に係る原料供給系101の一例を示す。原料供給系101は、原料溶液102aをミスト化してミストを発生させるミスト化部201と、ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部120と、ミストを含むキャリアガスに混合する添加用流体を供給する添加用流体供給部130と、ミストを含むキャリアガスと添加用流体とを混合した混合ミスト流体を搬送する混合ミスト流体搬送部107と、ミスト化部201と添加用流体供給部130と混合ミスト流体搬送部107とを接続する接続部301とを有する。キャリアガス供給部120はミスト化部201を介して、添加用流体供給部130及び混合ミスト流体搬送部107と接続される。
【0057】
(ミスト化部)
ミスト化部201では、原料溶液102aを調製し、前記原料溶液102aをミスト化してミストを発生させる。ミスト化手段は、原料溶液102aをミスト化できさえすれば特に限定されず、公知のミスト化手段であってよいが、超音波振動によるミスト化手段を用いることが好ましい。より安定してミスト化することができるためである。
【0058】
このようなミスト化部201の一例を、
図3も併せて参照しながら説明する。例えば、ミスト化部201は、原料溶液102aが収容されるミスト発生源102と、超音波振動を伝達可能な媒体、例えば水103aが入れられる容器103と、容器103の底面に取り付けられた超音波振動子104を含んでもよい。詳細には、原料溶液102aが収容されているミスト発生源102が、水103aが収容されている容器103に、支持体(図示せず)を用いて収納されている。容器103の底部には、超音波振動子104が備え付けられており、超音波振動子104と発振器202とが接続されている。そして、発振器202を作動させると超音波振動子104が振動し、水103aを介してミスト発生源102内に超音波が伝播し、原料溶液102aがミスト化するように構成されている。
【0059】
(キャリアガス供給部)
図1、2に示すように、キャリアガス供給部120はキャリアガスを供給するキャリアガス源105aを有する。このとき、キャリアガス源105aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁105bを備えていてもよい。
【0060】
キャリアガスの種類は、特に限定されず、成膜物に応じて適宜選択可能である。例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類でも、2種類以上であってもよい。例えば、第1のキャリアガスと同じガスをそれ以外のガスで希釈した(例えば10倍に希釈した)希釈ガスなどを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよく、空気を用いることもできる。
【0061】
また、キャリアガスの供給箇所は1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されない。例えば、直径4インチ(約100mm)の基体上に成膜する場合には、1~80L/minとすることが好ましく、2~20L/minとすることがより好ましい。
【0062】
なお、本発明における流量は20℃における測定値とし、その他の温度で測定した場合や異なる種類の流量(質量流量等)を測定した場合には、気体の状態方程式を用いて20℃における体積流量に換算することができる。
【0063】
(添加用流体供給部)
図1、2に示すように、添加用流体供給部130は添加用流体を供給する添加用流体源106aを有する。このとき、添加用流体源106aから送り出される添加用流体中の気体の流量を調節するための流量調節弁106bを備えていてもよい。
【0064】
添加用流体は、1種類以上の気体を主成分とする。気体の種類は特に限定されず、成膜物に応じて適宜選択可能である。例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、添加用流体は1種類以上のガスが主成分であれば、ミストを含んでいてもよい。
【0065】
また、添加用流体の供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。添加用流体中の気体の流量は、特に限定されない。直径4インチ(約100mm)の基体上に成膜する場合には、1~80L/minとすることが好ましく、4~40L/minとすることがより好ましい。
【0066】
(接続部)
接続部301の一例を、
図4も併せて参照しながら説明する。接続部301は、ミスト化部201に接続され、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と、添加用流体供給部130において、ミストを含むキャリアガスに混合する添加用流体を搬送する配管303と、成膜部402と接続する混合ミスト流体搬送部107において、ミストを含むキャリアガスと添加用流体を混合した混合ミスト流体を搬送する配管304、および、これらの配管を接続する接続部材305を有する。
【0067】
これらの配管および接続部材の材質は、ガラス、石英、塩化ビニル、塩素化ポリエーテル、アクリル樹脂、フッ素樹脂(パーフルオロアルコキシアルカン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンポリウレタン等があげられるが、これに限られるものではない。
【0068】
本発明に係る成膜装置において、接続部301は、前記接続部材305によって接続される、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角θが120度以上となるように接続部材305によって接続する。特に、180度とすることがより好ましい。例えば、
図5の接続部301aは、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角θが120度の例であり、
図4の接続部301はθが180度の例である。接続部301を上記のような構造とすると、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角θが大きい(120度以上)ため、添加用流体のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302への逆流が抑制され、また、ミストを含むキャリアガスがどのように接続されても、接続部壁面への衝突によるミストの減少を抑制できるものとなる。なお、流れのベクトル(図中のA~C)については、後述する。
【0069】
添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角θが120度以上であれば、
図6の接続部301bの接続部材305bや
図7の接続部301cの接続部材305cのように、ミストを含むキャリアガスを搬送する配管302の向き(接続される角度)は限定されない。
【0070】
添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角θが120度以上であれば、
図8の接続部301dの接続部材305dのように、添加用流体を搬送する第2の配管303dが接続されていてもよい。この場合、添加用流体を搬送する配管303と添加用流体を搬送する第2の配管303dのそれぞれと混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角は、異なっていてもよい。また、
図9のように、各配管を接続する部分の太さや断面積が異なっていてもよい。
【0071】
また、このとき、添加用流体の線速度が、ミストを含むキャリアガスの線速度の1倍~100倍となるものとすることが好ましい。このようにするためには、上述の制御部によって各流体の流量を制御しても良いし、添加用流体の流量や配管の断面積と、ミストを含むキャリアガスの流量や配管の断面積を調整することによっても可能である。
【0072】
これにより、接続部壁面への衝突によるミストの減少をさらに抑制でき、また、エジェクタ効果により、接続部において高速の添加用流体に低速のミストを含むキャリアガスが引き寄せられることで、より安定的にミストを搬送することが可能となり、成膜速度をより向上させることが可能なものとなる。
【0073】
本発明に係る成膜装置では、また、接続部301は、前記接続部材305によって接続される、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角θが100度以上となるように接続部材305によって接続するとともに、接続部301における添加用流体の線速度を、ミストを含むキャリアガスの線速度以上とする。このとき、特に、120度以上とすることが好ましく、180度とすることがより好ましい。例えば、
図5の接続部301aの接続部材305aは、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角θが120度の例であり、
図4はθが180度の例である。接続部301を上記のような構造とすると、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角θが大きい(100度以上)ため、添加用流体のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302への逆流が抑制され、また、ミストを含むキャリアガスがどのように接続されても、接続部壁面への衝突によるミストの減少を抑制できるものとなる。
【0074】
また、このとき、添加用流体の線速度は、接続部301における添加用流体の線速度がミストを含むキャリアガスの線速度以上であれば、特に限定されない。10倍以上では、更に本発明の効果が顕著に発揮される。また、線速度の比の上限は特に限定されない。添加用流体の速度が早ければ早いほど、本発明の構成による成膜速度の低下を抑制する効果が顕著に発揮される。このようにするためには、上述の制御部によって各流体の流量を制御しても良いし、添加用流体の流量や配管の断面積と、ミストを含むキャリアガスの流量や配管の断面積を調整することによっても可能である。接続部301において、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の断面積を、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の断面積以下とすることができる。例えば、
図9の接続部301eの接続部材305eのように、接続部材305eの添加用流体を搬送する配管303と接続する部分を他の配管と接続する部分よりも細くする(断面積を小さくする)ことで、少量の添加用流体で線速度を大きくでき、ミストの線速度の自由度が上がり、工業的に有利となる。また、成膜部に供給されるガスの総量が多いと、成膜部の熱がガスによって奪われ、成膜される膜の結晶性が低下する問題が生じる。このため、
図9の様な構成にすることで、ガスによる排熱を抑制しながら、ミストの搬送効率を上げ、成膜速度を大きくすることが可能となる。
【0075】
また、線速度は、20℃における体積流量を断面積で割ることで算出できる。その他の温度で測定した場合や異なる種類の流量(質量流量等)を測定した場合には、気体の状態方程式を用いて20℃における体積流量に換算することができる。
【0076】
これにより、接続部壁面への衝突によるミストの減少をさらに抑制でき、また、エジェクタ効果により、接続部において高速の添加用流体に低速のミストを含むキャリアガスが引き寄せられることで、より安定的にミストを搬送することが可能となり、成膜速度をより向上させることが可能なものとなる。
【0077】
(成膜部)
成膜部420では、ミストを加熱し熱反応を生じさせて、基体403の表面の一部または全部に成膜を行う。成膜部420は、例えば、成膜室402を備え、成膜室402内には基体403が設置されており、基体403を加熱するためのホットプレート404を備えることができる。ホットプレート404は、
図1に示されるように成膜室402の外部に設けられていてもよいし、成膜室402の内部に設けられていてもよい。また、成膜室402には、基体403へのミストの供給に影響を及ぼさない位置に、排ガスの排気口405が設けられていてもよい。
【0078】
また、本発明においては、基体403を成膜室402の上面に設置するなどして、フェイスダウンとしてもよいし、基体403を成膜室402の底面に設置して、フェイスアップとしてもよい。
【0079】
更に、成膜装置は、成膜部において基体として面積が10cm2以上のものを処理することが可能なものがより好ましい。基体が円形のウェーハの場合は、例えば直径2インチ(約50mm)以上のものを処理可能なものであることが好ましい。このような成膜装置であれば、より早い成膜速度で、大面積に膜を成膜することが可能なものとなる。
【0080】
(原料溶液)
原料溶液102aは、ミスト化が可能な材料を含んでいれば特に限定されず、無機材料であっても、有機材料であってもよい。金属又は金属化合物が好適に用いられ、ガリウム、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むものを使用できる。
【0081】
前記原料溶液102aは、上記金属をミスト化できるものであれば特に限定されないが、前記原料溶液102aとして、前記金属を錯体又は塩の形態で、有機溶媒又は水に溶解又は分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。
【0082】
また、前記原料溶液102aに、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられるが、なかでも、臭化水素酸またはヨウ化水素酸が好ましい。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H2O2)、過酸化ナトリウム(Na2O2)、過酸化バリウム(BaO2)、過酸化ベンゾイル(C6H5CO)2O2等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0083】
さらに、前記原料溶液102aには、ドーパントが含まれていてもよい。前記ドーパントは特に限定されない。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、スズ、イリジウム、ロジウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、例えば、約1×1016/cm3~1×1022/cm3であってもよく、約1×1017/cm3以下の低濃度にしても、約1×1020/cm3以上の高濃度としてもよい。
【0084】
(基体)
基体403は、成膜可能であり膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体403の材料も、特に限定されず、公知の基体を用いることができ、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、酸化ガリウム、タンタル酸リチウム等が挙げられるが、これに限られるものではない。基体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、10~2000μmであり、より好ましくは50~800μmである。基体の面積は特に限定されないが、10cm2以上が好ましい。基体が円形のウェーハの場合は、例えば直径2インチ(約50mm)以上のものが好ましい。早い成膜速度で、大面積に膜を成膜できるためである。
【0085】
また、成膜は基体上に直接行ってもよいし、基体上に形成された中間層の上に積層させてもよい。中間層は特に限定されず、例えば、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、鉄、ガリウム、ロジウム、インジウム、イリジウムのいずれかを含む酸化物を主成分とすることができる。より具体的には、Al2O3、Ti2O3、V2O3、Cr2O3、Fe2O3、Ga2O3、Rh2O3、In2O3、Ir2O3であり、また上記の金属元素から選ばれる2元素をA、Bとした場合に(AxB1-x)2O3(0<x<1)で表される2元系の金属酸化物や、あるいは、上記の金属元素から選ばれる3元素をA、B、Cとした場合に(AxByC1-x-y)2O3(0<x<1、0<y<1)で表される3元系の金属酸化物とすることができる。
【0086】
(成膜方法)
本発明に係る成膜方法は、ミスト化部201において原料溶液102aをミスト化してミストを生成する工程と、ミスト化部201にキャリアガスを供給して、ミストを含むキャリアガスをミスト化部201から搬送する工程と、前記ミストを含むキャリアガスと、1種類以上の気体を主成分とする少なくとも1種類の添加用流体とを混合して混合ミスト流体を形成する工程と、混合ミスト流体を成膜部420に搬送する工程と、成膜部420において、混合ミスト流体中のミストを熱処理して基体403上に成膜を行う工程とを含んでいる。そして、上記の混合ミスト流体を形成する工程において、添加用流体の流れのベクトルと、混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角を60度以下とすることに特徴を有している。
【0087】
以下、
図1、2を参照しながら、本発明に係る成膜方法の一例を説明する。本発明に係る成膜方法の1実施形態は、原料供給系において、原料溶液を霧化または液滴化して生成されるミストをキャリアガスでもって成膜部内の基体まで搬送するときに、添加用流体を混合して混合ミスト流体を形成し、基体上で前記ミストを熱反応させて成膜するものである。
【0088】
まず、原料溶液102aをミスト発生源102内に収容し、基体403をホットプレート404上に直接又は成膜室402の壁を介して設置し、ホットプレート404を作動させる。次に、流量調節弁105bを開いてキャリアガス源105aからキャリアガスを成膜室402内に供給し、成膜室402の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量と添加用流体中の気体の流量を流量調節弁105b、106bによりそれぞれ調節する。
【0089】
次に、ミスト化部201において、超音波振動子104を振動させ、その振動を、水103aを通じて原料溶液102aに伝播させることによって、原料溶液102aをミスト化させてミストを生成する(ミストを生成する工程)。
【0090】
次に、ミストは、ミスト化部201に供給されたキャリアガスによって接続部301へと搬送される(ミストを含むキャリアガスをミスト化部から搬送する工程)。
【0091】
そして、接続部301において、ミストを含むキャリアガスと、1種類以上の気体を主成分とする少なくとも1種類の添加用流体とを混合して混合ミスト流体を形成する(混合ミスト流体を形成する工程)。
【0092】
このとき、
図4、5に示すように、混合ミスト流体を形成する工程において、添加用流体の流れのベクトルBと、混合ミスト流体の流れのベクトルCの成す角を60度以下とする。なお、添加用流体を搬送する配管303と混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角をθ(度)としたときに、上記のベクトルBとCの角度は180-θ(度)に対応している。すなわち、上記接続部301について説明したように、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304とを、成す角θが120度以上となるように接続して、添加用流体と混合ミスト流体を搬送する場合について、「添加用流体の流れのベクトルBと混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角」で表現すると、60度以下となる。接続部301において、添加用流体の流れのベクトルBと、混合ミスト流体の流れのベクトルCの成す角を60度とすることができ、また、0度とすることもできる。このように、添加用流体の流れのベクトルBと、混合ミスト流体の流れのベクトルCの成す角が60度以下となるようにする。特に、0度がより好ましい。
【0093】
上述のように、
図5は、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角θが120度の例であるが、このような接続部301にガスを流した場合、添加用流体の流れのベクトルBと、混合ミスト流体の流れのベクトルCの成す角は60度となる。
図4に示す例(θ=180度)では、添加用流体の流れのベクトルBと、混合ミスト流体の流れのベクトルCの成す角は0度となる。
【0094】
添加用流体の流れのベクトルBと、混合ミスト流体の流れのベクトルCの成す角が60度以下であれば、ミストを含むキャリアガスの流れのベクトルA(向き)は限定されない(
図6、7参照)。
【0095】
また、このとき、添加用流体の線速度を、ミストを含むキャリアガスの線速度の1倍~100倍とすることが好ましい。例えば、各配管の断面積に応じて、添加用流体の流量やミストを含むキャリアガスの流量を調整することができる。
【0096】
これにより、接続部壁面への衝突によるミストの減少をさらに抑制でき、また、エジェクタ効果により、接続部301において高速の添加用流体に低速のミストを含むキャリアガスが引き寄せられることで、安定的にミストを搬送することが可能となり、成膜速度をより向上させることが可能なものとなる。
【0097】
さらに、混合ミスト流体搬送部107を経て、混合ミスト流体は、成膜室402内の基体403へと搬送される(混合ミスト流体を成膜部に搬送する工程)。このようにして混合ミスト流体を成膜部に搬送することにより、成膜部420へのミストの搬送効率を高めることが可能となる。
【0098】
さらに、混合ミスト流体中のミストは成膜室402内でホットプレート404の熱により熱反応して、基体403上に成膜される。このようにしてミストの供給を行うことで、成膜室402内に導入されたミストは、基体403上に高い成膜速度で成膜される(成膜を行う工程)。なお、成膜室402内のガスは、基体403の上方に設けられた排気口405から外部へと排気されてもよい。
【0099】
熱反応は、加熱によりミストが反応すればよく、反応条件等も特に制限されない。原料は成膜物に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度は120~600℃の範囲であり、好ましくは200~600℃の範囲であり、より好ましくは300~550℃の範囲とすることができる。
【0100】
熱反応は、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下、空気雰囲気下及び酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、成膜物に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力は、大気圧下、加圧下または減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、大気圧下の成膜であれば、装置構成が簡略化できるので好ましい。
【0101】
本発明に係る成膜方法は、また、上記の混合ミスト流体を形成する工程において、添加用流体の流れのベクトルと、混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角を80度以下とし、接続部301における添加用流体の線速度が、ミストを含むキャリアガスの線速度以上である、ことに特徴を有している。
【0102】
このとき、
図4、5に示すように、混合ミスト流体を形成する工程において、添加用流体の流れのベクトルBと、混合ミスト流体の流れのベクトルCの成す角を80度以下とする。なお、添加用流体を搬送する配管303と混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角をθ(度)としたときに、上記のベクトルBとCの角度は180-θ(度)に対応している。すなわち、上記接続部301について説明したように、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304とを、成す角θが100度以上となるように接続して、添加用流体と混合ミスト流体を搬送する場合について、「添加用流体の流れのベクトルBと混合ミスト流体の流れのベクトルの成す角」で表現すると、80度以下となる。接続部301において、添加用流体の流れのベクトルBと、混合ミスト流体の流れのベクトルCの成す角を60度とすることができ、また、0度とすることもできる。このように、添加用流体の流れのベクトルBと、混合ミスト流体の流れのベクトルCの成す角が80度以下となるようにする。特に、60度以下が好ましく、0度がより好ましい。
【0103】
添加用流体の流れのベクトルBと、混合ミスト流体の流れのベクトルCの成す角が80度以下であれば、ミストを含むキャリアガスの流れのベクトルA(向き)は限定されない(
図6、7参照)。
【0104】
また、このとき、添加用流体の線速度は、接続部301における添加用流体の線速度がミストを含むキャリアガスの線速度以上であれば、特に限定されない。10倍以上では、更に本発明の効果が顕著に発揮される。また、線速度の比の上限は特に限定されない。添加用流体の速度が速ければ速いほど、本発明の構成による成膜速度の低下を抑制する効果が顕著に発揮される。例えば、各配管の断面積に応じて、添加用流体の流量やミストを含むキャリアガスの流量を調整することができる。
【0105】
これにより、接続部壁面への衝突によるミストの減少をさらに抑制でき、また、エジェクタ効果により、接続部301において高速の添加用流体に低速のミストを含むキャリアガスが引き寄せられることで、安定的にミストを搬送することが可能となり、成膜速度をより向上させることが可能となる。
【0106】
本発明においては、成膜後、アニール処理を行ってもよい。アニール処理の温度は、特に限定されないが、600℃以下が好ましく、550℃以下がより好ましい。膜の結晶性を損なわないためである。アニール処理の処理時間は、特に限定されないが、10秒~10時間とすることが好ましく、10秒~1時間とすることがより好ましい。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0108】
(実施例1)
まず、
図1を参照しながら、実施例1で用いた成膜装置401を説明する。成膜装置401としては、キャリアガスを供給するキャリアガス源105aと、キャリアガス源105aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁105bと、添加用流体を供給する添加用流体源106aと、添加用流体源106aから送り出される添加用流体中の気体の流量を調節するための流量調節弁106bと、原料溶液102aが収容されるミスト発生源102と、水103aが収容される容器103と、容器103の底面に取り付けられた超音波振動子104と、成膜室402と、ミスト発生源102から成膜室402までをつなぐ、配管、接続部301及び混合ミスト流体搬送部107と、成膜室402の外部に設けたホットプレート404とを備えたものを使用した。
【0109】
実施例1において、接続部301は、
図4のように、T字型の接続部材305を用い、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)製の添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304とを、これらの配管の成す角が180度となるように接続部材305に接続し、これらの配管に対しそれぞれ90度を成すように、PFA製のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302が接続部材305に接続されている。
【0110】
まず、原料溶液の作製を行った。ヨウ化ガリウム0.05mol/Lの水溶液を調整し、さらに48%ヨウ化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させ、これを原料溶液102aとした。
【0111】
上述のようにして得た原料溶液102aをミスト発生源102内に収容した。次に、基体403として直径4インチ(約100mm)のc面サファイア基体を、成膜室402内でホットプレート404に載置し、ホットプレート404を作動させて温度を450℃に昇温した。
【0112】
次に、流量調節弁105bを開いてキャリアガス源105aからキャリアガスを成膜402内に供給し、成膜室402の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量と添加用流体の流量をそれぞれ8L/min、40L/minに調節した。なお、キャリアガスおよび、添加用流体には窒素を用いた。
【0113】
次に、超音波振動子104を2.4MHzで振動させ、その振動を、水103aを通じて原料溶液102aに伝播させることによって、原料溶液102aをミスト化してミストを生成した。このミストを、キャリアガスによって接続部301に搬送し、接続部301内で添加用流体と混合し、混合ミスト流体搬送部107を経て成膜室402内に導入した。そして、大気圧下、450℃の条件で、成膜室402内でミストを熱反応させて、基体403上にコランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の薄膜を形成した。成膜時間は30分とした。
【0114】
ミスト発生源102内の原料溶液102aの時間当たりの減少量を時間平均ミスト流量と定義し、時間平均ミスト流量の測定、および成膜を行った。
【0115】
基体403上に形成した薄膜について、測定箇所を基体403上の面内の17点として、段差計を用いて膜厚を測定し、それぞれの値から平均膜厚を算出した。
【0116】
時間平均ミスト流量は、3.2g/min、平均膜厚は、660nmであり、平均膜厚を成膜時間で割った成膜速度は1320nm/hであった。
【0117】
(実施例2)
図5のようにθ=120度であるY字型の管を接続部材305aとして用い、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角、添加用流体を搬送する配管303とミストを含むキャリアガスを搬送する配管302の成す角、混合ミスト流体を搬送する配管304とミストを含むキャリアガスを搬送する配管302の成す角をいずれも120度にしたこと以外は、実施例1と同様に成膜、評価を行った。
【0118】
時間平均ミスト流量は、3.0g/min、平均膜厚は、590nmであり、成膜速度は1180nm/hであった。
【0119】
(比較例1)
図13のようにθ=90度であるT字型の接続部材305hを用い、PFA製のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と、混合ミスト流体を搬送する配管304とを、これらの配管の成す角が180度となるように接続部材305hに接続し、これらの配管に対しそれぞれ90度を成すように、PFA製の添加用流体を搬送する配管303を接続したこと以外は、実施例1と同様に成膜、評価を行った。
【0120】
時間平均ミスト流量は、1.7g/min、平均膜厚は、230nmであり、成膜速度は460nm/hであった。
【0121】
(実施例3)
キャリアガスの流量と添加用流体の流量をそれぞれ20L/min、5L/minに調節したこと以外は、実施例1と同様に成膜、評価を行った。時間平均ミスト流量は、4.6g/min、平均膜厚は、1140nmであり、成膜速度は2280nm/hであった。
【0122】
(比較例2)
キャリアガスの流量と添加用流体の流量をそれぞれ20L/min、5L/minに調節したこと以外は、比較例1と同様に成膜、評価を行った。時間平均ミスト流量は、2.7g/min、平均膜厚は、540nmであり、成膜速度は1080nm/hであった。
【0123】
(参考例)
キャリアガスの流量と添加用流体の流量をそれぞれ2L/min、50L/minに調節したこと、成膜時間を120分にしたこと以外は、実施例1と同様に成膜、評価を行った。時間平均ミスト流量は、0.7g/min、平均膜厚は、280nmであり、成膜速度は140nm/hであった。
【0124】
(比較例3)
キャリアガスの流量と添加用流体の流量をそれぞれ2L/min、50L/minに調節したこと、成膜時間を120分にしたこと以外は、比較例1と同様に成膜、評価を行った。時間平均ミスト流量は、0.1g/min、平均膜厚は、60nmであり、成膜速度は30nm/hであった。
【0125】
実施例1~3、参考例及び比較例1~3の結果を、表1にまとめた。
【0126】
【0127】
実施例1~3、参考例と比較例1~3との比較より、添加用流体を搬送する配管と混合ミスト流体を搬送する配管の成す角を120度以上にすることで、時間平均ミスト流量が大きく向上し、成膜速度も大きく向上することが分かった。
【0128】
(実施例5)
実施例5では、実施例1で用いた成膜装置401と同様の装置を使用した。実施例1と異なる点を以下に説明する。
【0129】
実施例5において、接続部301は、
図9のようにT字型の接続部材305eを用い、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)製の添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304とを、これらの配管の成す角が180度となるように接続部材305eに接続し、これらの配管に対しそれぞれ90度を成すように、PFA製のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302が接続部材305eに接続されている。このとき、接続部材305eの添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の断面積S
Bと、接続部材305eのミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の断面積S
Aの比をα(=S
A/S
B)としたとき、αは20であった。また、このとき、接続部材305eの添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の内径は0.4cm、接続部材305eのミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の内径は3.6cmであった。
【0130】
まず、原料溶液の作製を行った。ヨウ化ガリウム0.05mol/Lの水溶液を調整し、さらに48%ヨウ化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させ、これを原料溶液102aとした。
【0131】
上述のようにして得た原料溶液102aをミスト発生源102内に収容した。次に、基体403として直径4インチ(約100mm)のc面サファイア基体を、成膜室402内でホットプレート404に載置し、ホットプレート404を作動させて温度を450℃に昇温した。
【0132】
次に、流量調節弁105bを開いてキャリアガス源105aからキャリアガスを成膜402内に供給し、成膜室402の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量と添加用流体の流量をそれぞれ8L/min、4L/minに調節した。なお、キャリアガスおよび、添加用流体には窒素を用いた。
【0133】
次に、超音波振動子104を2.4MHzで振動させ、その振動を、水103aを通じて原料溶液102aに伝播させることによって、原料溶液102aをミスト化してミストを生成した。このミストを、キャリアガスによって接続部301に搬送し、接続部301内で添加用流体と混合し、混合ミスト流体搬送部107を経て成膜室402内に導入した。そして、大気圧下、450℃の条件で、成膜室402内でミストを熱反応させて、基体403上にコランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の薄膜を形成した。成膜時間は60分とした。
【0134】
ミスト発生源102内の原料溶液102aの時間当たりの減少量を時間平均ミスト流量と定義し、時間平均ミスト流量の測定、および成膜を行った。
【0135】
基体403上に形成した薄膜について、測定箇所を基体403上の面内の17点として、段差計を用いて膜厚を測定し、それぞれの値から平均膜厚を算出した。平均膜厚を成膜時間で割ることにより、成膜速度を算出した。
【0136】
(実施例6~8)
添加用流体の流量を10、20、40L/minとしたこと以外は、実施例5と同様に行った。
【0137】
(比較例4)
図13のようなθ=90度であるT字型の接続部材305hを用い、PFA製のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と、混合ミスト流体を搬送する配管304とを、これらの配管の成す角が180度となるように接続部材305hに接続し、これらの配管に対しそれぞれ90度を成すように、PFA製の添加用流体を搬送する配管303を接続したこと以外は、実施例5と同様に成膜、評価を行った。
【0138】
(比較例5~7)
添加用流体の流量を10、 20、40L/minとしたこと以外は、比較例4と同様に行った。
【0139】
(実施例9)
接続部材305の形状を変更し、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の断面積SBと、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の断面積SAの比αを1としたこと、添加用流体の流量を8L/minとしたこと以外は、実施例5と同様に成膜を行った。また、このとき、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の内径は1.8cm、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の内径は1.8cmであった。
【0140】
(比較例8)
接続部材305の形状を変更し、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の断面積SBと、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の断面積SAの比αを1としたこと、添加用流体の流量を8L/minとしたこと以外は、比較例4と同様に成膜を行った。また、このとき、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の内径は1.8cm、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の内径は1.8cmであった。
【0141】
(実施例10)
接続部材305の形状を変更し、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の断面積SBと、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の断面積SAの比αを50としたこと、添加用流体の流量を24L/minとしたこと以外は、実施例5と同様に行った。また、このとき、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の内径は0.8cm、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の内径は5.6cmであった。
【0142】
(比較例9)
接続部材305の形状を変更し、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の断面積SBと、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の断面積SAの比αを50としたこと、添加用流体の流量を24L/minとしたこと以外は、比較例4と同様に行った。また、このとき、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の内径は0.8cm、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の内径は5.6cmであった。
【0143】
(実施例11)
図5のようにθ=120度であるY字型の管を接続部材305aとして用い、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角、添加用流体を搬送する配管303とミストを含むキャリアガスを搬送する配管302の成す角、混合ミスト流体を搬送する配管304とミストを含むキャリアガスを搬送する配管302の成す角をいずれも120度にしたこと以外は、実施例5と同様に成膜、評価を行った。
【0144】
(実施例12)
添加用流体の流量を40L/minとしたこと以外は、実施例11と同様に行った。
【0145】
(実施例13)
図10のようにθ=100度であるY字型の管を接続部材305fとして用い、添加用流体を搬送する配管303と、混合ミスト流体を搬送する配管304の成す角を100度、添加用流体を搬送する配管303とミストを含むキャリアガスを搬送する配管302の成す角、混合ミスト流体を搬送する配管304とミストを含むキャリアガスを搬送する配管302の成す角をいずれも130度にしたこと以外は、実施例5と同様に成膜、評価を行った。
【0146】
(実施例14)
添加用流体の流量を10L/minとしたこと以外は、実施例13と同様に行った。
【0147】
実施例5~14及び比較例4~9の結果を、表2にまとめた。なお、配管角度は添加用流体を搬送する配管と混合ミスト流体を搬送する配管の成す角を表し、線速度比は、添加用流体の線速度をキャリアガスの線速度で割った値を表す。また、線速度比に対して、時間平均ミスト流量、成膜速度をそれぞれプロットした図を
図11、
図12に示す。
【0148】
【0149】
(実施例15)
直径6インチ(150mm)のサファイア基板を用いたこと、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の断面積SBと、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の断面積SAの比αを1としたこと、キャリアガスの流量および添加用流体の流量を共に20L/minとしたこと以外は実施例5と同様に成膜を行った。このとき、線速度比は1であり、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の内径は2.6cm、接続部材305とミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の内径は2.6cmであった。また、時間平均ミスト流量は4.65g/min、成膜速度は1.42μm/hrであった。
【0150】
(実施例16)
直径6インチ(150mm)のサファイア基板を用いたこと、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の断面積SBと、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の断面積SAの比αを1としたこと、キャリアガスの流量および添加用流体の流量を共に20L/minとしたこと、以外は実施例11と同様に成膜を行った。このとき、線速度比は1であり、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の内径は2.6cm、接続部材305とミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の内径は2.6cmであった。また、時間平均ミスト流量は4.25g/min、成膜速度は1.26μm/hrであった。
【0151】
(実施例17)
直径6インチ(150mm)のサファイア基板を用いたこと、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の断面積SBと、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の断面積SAの比αを1としたこと、キャリアガスの流量および添加用流体の流量を共に20L/minとしたこと、以外は実施例13と同様に成膜を行った。このとき、線速度比は1であり、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の内径は2.6cm、接続部材305とミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の内径は2.6cmであった。また、時間平均ミスト流量は4.04g/min、成膜速度は1.06μm/hrであった。
【0152】
(比較例10)
直径6インチ(150mm)のサファイア基板を用いたこと、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の断面積SBと、接続部材305のミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の断面積SAの比αを1としたこと、キャリアガスの流量および添加用流体の流量を共に20L/minとしたこと、以外は比較例4と同様に成膜を行った。このとき、線速度比は1であり、接続部材305の添加用流体を搬送する配管303と接続する部分の内径は2.6cm、接続部材305とミストを含むキャリアガスを搬送する配管302と接続する部分の内径は2.6cmであった。また、時間平均ミスト流量は1.81g/min、成膜速度は0.43μm/hrであった。
【0153】
実施例5~14と比較例4~9、実施例15~17と比較例10の比較より、添加用流体を搬送する配管と混合ミスト流体を搬送する配管の成す角を100度以上とし、添加用流体の線速度をキャリアガスの線速度以上にすることで、時間平均ミスト流量が大きく向上し、成膜速度も大きく向上することが分かった。
【0154】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。