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特許7705125評価装置、評価システム、評価方法、評価プログラムおよび記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-01
(45)【発行日】2025-07-09
(54)【発明の名称】評価装置、評価システム、評価方法、評価プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20250702BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20250702BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20250702BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20250702BHJP
【FI】
A61B10/00 L
A61B5/11 100
A61B5/113
A61B5/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023500535
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2021041823
(87)【国際公開番号】W WO2022176287
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2024-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2021023870
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】520409132
【氏名又は名称】ハートラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 繁
(72)【発明者】
【氏名】澤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】麻野井 英次
(72)【発明者】
【氏名】池川 直
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第6800303(JP,B2)
【文献】特開2014-210034(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0256087(US,A1)
【文献】「体動センサが大阪大学の新型コロナウイルス関連研究に採用 ~重症化を早期検出する研究開発課題としてAMEDに採択~」,SUMITOMO RIKO PRESS RELEASE [online],2020年08月04日,インターネット<URL:https://www.sumitomoriko.co.jp/news/2020/pdf/n51910535.pdf>,(令和 7年 3月27日検索)
【文献】迫田美香(外1名),人工臓器-最近の進歩「呼吸安定時間を用いた在宅心不全患者の遠隔モニタリングシステムの開発」,人工臓器,2020年,49巻3号,p.169-172, インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsao/49/3/49_169/_article/-char/ja/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/11
A61B 5/113
A61B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象患者の肺炎の重症度を評価する評価装置であって、
前記対象患者の呼吸波形を取得する取得部と、
前記呼吸波形から呼吸周期または呼吸周波数の不安定性を示す指標として、前記呼吸周波数の標準偏差の逆数であるRSTを算出する算出部と、
前記算出された前記RSTが閾値未満である場合に前記重症度が高いと評価する評価部と、
を備え
前記閾値は26秒である、評価装置。
【請求項2】
前記肺炎は、COVID-19によって引き起こされる肺炎である、請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記対象患者の呼吸波形を含む信号を検出する検出装置と、
請求項1または2に記載の評価装置と、
を備える、評価システム。
【請求項4】
前記検出装置は、在床している前記対象患者の下に設けられるシートセンサを備え、前記シートセンサが発生する体圧信号を前記信号として検出する、請求項に記載の評価システム。
【請求項5】
コンピュータによって対象患者の肺炎の重症度を評価する評価方法であって、
前記対象患者の呼吸波形を取得する取得ステップと、
前記呼吸波形から呼吸周期または呼吸周波数の不安定性を示す指標として、前記呼吸周波数の標準偏差の逆数であるRSTを算出する算出ステップと、
前記算出された前記RSTが閾値未満である場合に前記重症度が高いと評価する評価ステップと、
を備え
前記閾値は26秒である、評価方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の評価装置の各部としてコンピュータを動作させるための評価プログラム。
【請求項7】
請求項に記載の評価プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺炎の重症度を評価する技術に関し、特に、COVID-19によって引き起こされる肺炎の重症度を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19は、世界各国に伝搬し、2021年1月下旬には累計患者数が1億人を超え、死者数も210万人に達している。日本国においても、2021年1月8日には1日に7,882人の新規患者が発生しており、全ての患者を医療機関に入院させることはできなくなっている。すなわち、ほとんどのCOVID-19患者は宿泊・自宅療養を行い、その過程で高度な治療が必要なほど重症化した患者に絞って入院させざるを得ない状況となっている。
【0003】
これに対し厚生労働省は、宿泊・自宅療養しているCOVID-19患者の健康観察について、都道府県の保健所等が中心となって、電話等情報通信機器を用いて定期的に健康状態を把握するとともに、患者の症状が悪化した際に速やかに適切な医療機関を受診できる体制を整備することを定めている(下記非特許文献1の4頁)。また、自宅療養者にパルスオキシメーターを配送し、酸素飽和度をチェックすることによって自宅療養者の健康観察を行うことも推進している(下記非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る自宅療養の実施に関する留意事項」、厚生労働省、新型コロナウイルス感染症対策推進本部、2020年5月1日(2020年8月7日改正)、インターネット〈URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000657891.pdf〉
【文献】「自宅療養における健康観察の際のパルスオキシメーターの活用について」、厚生労働省、新型コロナウイルス感染症対策推進本部、2021年1月28日、インターネット〈URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000732500.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
COVID-19は、肺炎等の呼吸不全のほか、不整脈や心障害などの心血管系疾患、肺塞栓症や急性期脳卒中などの血栓塞栓症等、合併症を引き起こして急激に重症化して死に至るという特徴がある。現在、自宅・宿泊療養中のCOVID-19患者は、自覚症状と体温、さらには酸素飽和度を患者自身がチェックし、その結果を基に入院治療の必要性をトリアージされている。しかし、自覚症状や体温は肺炎に対する特異性が低く、トリアージの判断材料とはなりにくい。酸素飽和度はトリアージの重要な情報ではあるが、体調が悪い中で患者自らが計測してデータを保健所等の管理者に報告するというアクションが必要であり、患者の負担となっている。そして、これらをセルフチェックしても、残念ながら自宅・宿泊療養中の患者が死亡するというケースが相次いでいる。
【0006】
このように自宅・宿泊療養中の患者の死亡を防ぐために、患者自身のアクションを必要とせず、遠隔で多数の患者の病状をモニタリングでき、その情報から入院の必要性を簡単に判別できるシステムが必要とされている。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、簡便に肺炎の重症度を評価することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を含む。
項1.
対象患者の肺炎の重症度を評価する評価装置であって、
前記対象患者の呼吸波形を取得する取得部と、
前記呼吸波形から呼吸周期または呼吸周波数の不安定性を示す指標の値を算出する算出部と、
前記算出された値に基づいて前記重症度を評価する評価部と、
を備える、評価装置。
項2.
前記算出部は、前記呼吸周波数の標準偏差の逆数であるRSTを前記指標の値として算出する、項1に記載の評価装置。
項3.
前記評価部は、前記RSTが閾値未満である場合に前記重症度が高いと評価する、項2に記載の評価装置。
項4.
前記肺炎は、COVID-19によって引き起こされる肺炎である、項1~3のいずれかに記載の評価装置。
項5.
前記対象患者の呼吸波形を含む信号を検出する検出装置と、
項1~4のいずれかに記載の評価装置と、
を備える、評価システム。
項6.
前記検出装置は、在床している前記対象患者の下に設けられるシートセンサを備え、前記シートセンサが発生する体圧信号を前記信号として検出する、項5に記載の評価システム。
項7.
対象患者の肺炎の重症度を評価する評価方法であって、
前記対象患者の呼吸波形を取得する取得ステップと、
前記呼吸波形から呼吸周期または呼吸周波数の不安定性を示す指標の値を算出する算出ステップと、
前記算出された値に基づいて前記重症度を評価する評価ステップと、
を備える、評価方法。
項8.
項1~4のいずれかに記載の評価装置の各部としてコンピュータを動作させるための評価プログラム。
項9.
項8に記載の評価プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、RST等の呼吸周期または呼吸周波数の不安定性を示す指標の値に基づいて肺炎の重症度を評価している。当該指標は、遠隔の対象患者から容易にモニタリングできるので、簡便に肺炎の重症度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る評価システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】検出装置および中継端末の設置例を示す概略図である。
図3】本実施形態に係る評価システムを用いて対象患者の肺炎の重症度を評価する評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
図4】厚生労働省発行の「COVID-19診療の手引き」で示される「中等症II・重症」の患者および「軽症・中等症I」の患者のRSTを比較した箱ひげ図である。
図5】National Early Warning Score(NEWS)で示される「MediumまたはHigh」の患者および「LowまたはLow-medium」の患者のRSTを比較した箱ひげ図である。
図6】CTで肺炎像のある患者および肺炎像のない患者のRSTを比較した箱ひげ図である。
図7】COVID-19患者の重症化に対するROC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(システム構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る評価システム1の概略構成を示すブロック図である。評価システム1は、対象患者の肺炎の重症度を評価するシステムであり、検出装置2と、中継端末3と、評価装置4と、閲覧端末5を備えている。
【0013】
本実施形態では、対象患者はCOVID-19が陽性であると判定され、自宅または宿泊施設で療養している者である。検出装置2および中継端末3は、対象患者が滞在する自宅または宿泊施設に設けられる。また、評価装置4はクラウド上に設けられ、閲覧端末5は、対象患者の健康観察を行う機関(保健所、病院等)に設けられる。なお、評価装置4および閲覧端末5を単一の装置として構成してもよい。
【0014】
図2は、検出装置2および中継端末3の設置例を示す概略図である。検出装置2は、対象患者の呼吸波形を含む信号を検出する装置であり、シートセンサ21および計測ユニット22を備えている。
【0015】
シートセンサ21は、薄く柔らかい帯状の圧電ゴムで構成された圧電型の体動センサであり、例えば対象患者が使用するベッド上に設けられる。なお、図2では、シートセンサ21上に敷かれるシーツや掛け布団の図示を省略している。対象患者が在床している間は、シートセンサ21に圧力が印加され、シートセンサ21は、圧電効果によってアナログの体圧信号を発生する。体圧信号には、呼吸波形の他、呼吸以外の体動やノイズによる波形が含まれている。
【0016】
計測ユニット22は、シートセンサ21に接続されており、シートセンサ21が発生した体圧信号をAD変換する。また、計測ユニット22は、中継端末3とBluetooth(登録商標)を用いて通信する機能を有しており、体圧信号を中継端末3に送信する。
【0017】
中継端末3は、スマートフォンで構成されており、計測ユニット22から受信した体圧信号を、インターネットNを介してクラウド上の評価装置4に送信する。なお、計測ユニット22がインターネットNに接続可能であれば、中継端末3を省略して、体圧信号を計測ユニット22から評価装置4に直接送信してもよい。
【0018】
図1に示す評価装置4は、サーバ装置として構成することができる。評価装置4は、記憶部41と、取得部42と、算出部43と、評価部44とを備えている。
【0019】
記憶部41は、例えばHDDやSSDで構成することができる。記憶部41には、評価プログラムD1等の各種データが記憶されている。
【0020】
取得部42、算出部43および評価部44の各部は、論理回路等によってハードウェア的に実現してもよいし、CPU等を用いてソフトウェア的に実現してもよい。前記各部をソフトウェア的に実現する場合、評価プログラムD1を、評価装置4のCPU等が主記憶装置に読み出して実行することにより前記各部を実現することができる。評価プログラムD1は、インターネットN等の通信ネットワークを介して評価装置4にダウンロードしてもよいし、評価プログラムD1を記録したCD-R等のコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体を介して評価装置4にインストールしてもよい。
【0021】
取得部42は、対象患者の呼吸波形を取得する機能を有している。本実施形態では、取得部42は、検出装置2から中継端末3を介して受信した体圧信号から呼吸以外の体動やノイズによる波形を除去することにより、呼吸波形を抽出する。
【0022】
算出部43は、取得部42によって取得された呼吸波形から呼吸周期または呼吸周波数の不安定性を示す指標の値を算出する機能を有している。本実施形態では、算出部43は、呼吸波形を周波数解析(最大エントロピー法)することにより、呼吸周波数の標準偏差の逆数であるRST(Respiratory Stability Time:呼吸安定時間)を前記指標の値として算出する。具体的には、RSTは、呼吸波形から呼吸周期の帯域を抽出して、呼吸周波数成分の最大値の5%以上の周波数の標準偏差を求め、その標準偏差の逆数として算出される。
RST=1/A
A:呼吸周波数成分の最大値の5%以上の周波数の標準偏差
【0023】
評価部44は、算出部43によって算出された値に基づいて、対象患者の肺炎の重症度を評価する機能を有している。本実施形態では、評価部44は、RSTが閾値未満である場合に前記重症度が高いと評価する。対象患者がCOVID-19の陽性者である場合、閾値は、20~30秒であることが好ましく、26秒であることがより好ましい。
【0024】
評価部44による評価結果は、記憶部41に保存されるとともに、インターネットNを介して閲覧端末5に送信される。閲覧端末5では、対象患者のRSTが一覧表示され、重症度が高いと評価された対象患者については、他の患者とは異なる態様(色を異ならせる、強調表示する等)で数値が表示される。これにより、閲覧端末5のユーザ(保健所の管理者等)は、容易に入院を必要とする対象患者を識別することができる。
【0025】
(処理手順)
図3は、本実施形態に係る評価システム1を用いて対象患者の肺炎の重症度を評価する評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0026】
ステップS1では、検出装置2のシートセンサ21によって、在床している対象患者の体圧信号を検出する。ステップS2(取得ステップ)では、評価装置4の取得部42が、検出装置2から受信した体圧信号から対象患者の呼吸波形を取得する。ステップS3(算出ステップ)では、評価装置4の算出部43が、取得部42によって取得された呼吸波形からRSTを算出する。ステップS4(評価ステップ)では、評価装置4の評価部44が、算出部43によって算出された値に基づいて、対象患者の肺炎の重症度を評価する。ステップS5では、閲覧端末5が評価部44による評価結果を表示する。
【0027】
なお、各ステップの動作主体は上記に限定されない。
【0028】
(効果)
以上のように、本実施形態では、RSTに基づいて肺炎の重症度を評価している。RSTは、在床している対象患者の下に設けられるシートセンサ21が発生する体圧信号から呼吸波形を自動的に抽出・解析することにより得られる。すなわちRSTは、パルスオキシメーターのように患者自身の特別なアクションを必要とせず、患者にとって非侵襲的、無拘束の環境下で得られる。また、管理者等が対象患者と対面する必要が無いので、COVID-19等の感染症により自宅や宿泊療養所に隔離された患者に対しても、RSTを遠隔地から簡便で、安価にかつ連続して毎日モニタリングできる。さらに、RSTが一定閾値未満になれば、肺炎の発症など状態が悪化したと判断できる。
【0029】
このように、本実施形態に係る評価システムを用いれば、RSTに基づいて入院での治療が必要な患者を検出することが可能となる。これにより、入院が必要な患者をタイムリーに入院させることができるので、自宅・宿泊療養中の患者の死亡を減らすことができるだけでなく、遠隔で見守られている安心感を患者に与えることができる。
【0030】
また、保健所等の従業員が少人数で多くの自宅・宿泊療養中の患者を一括管理できるので、医療資源の有効利用にもつながる。また、患者にとっては、早期増悪発見により、心身の負担や経済的な負担を軽減することができる。
【0031】
(原理)
RSTは、呼吸様式の変化を定量評価するために本願の発明者が創出した指標である。
【0032】
肺の気管支及び間質に4つの伸展受容器が存在する。心不全による肺動脈圧の上昇あるいは間質浮腫は、これらの生体センサを刺激し、呼吸を不安定化させる。また、心不全による循環遅延と中枢性化学反射の亢進も、呼吸を不安定化し周期性呼吸を誘発する。呼吸波形の周波数解析から算出できるRSTはこれらの不安定呼吸を単一の指標で定量できる点が優れている。
【0033】
COVID-19によって引き起こされる肺炎や誤嚥性肺炎等の肺炎患者の場合、肺実質の炎症により肺伸展受容器が刺激され、呼吸が不安定化すると考えられる。そのため、本実施形態に係る評価システムにおいてRSTを遠隔モニタリングすることによって、肺炎の重症化を早期に検出できる可能性が高いと考えられる。また、本実施形態に係る評価システムにより、個別性を重視した先制医療が可能になり、早期治療・入院の回避など患者のQOLの向上と医療経済的な効果につながる。
【0034】
(付記事項)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0035】
上記実施形態では、シートセンサが検出した体圧信号から呼吸以外の体動やノイズによる波形を除去することにより呼吸波形を取得しているが、本発明はこれに限定されず、例えば、対象患者の鼻腔付近の皮膚面に貼付した呼吸気流センサによって呼吸波形を取得してもよい。その他、呼吸信号の検出装置として、Depth sensor、レーダードップラー、超音波ドップラー等を用いてもよい。ただし、患者自身への負担が増えることから、簡便性の観点からは、上記実施形態のほうが好ましい。
【0036】
また、上記実施形態では、肺炎の重症度を評価する指標としてRSTを用いていたが、RSTと等価である呼吸周期または呼吸周波数の不安定性を示す指標であれば特に限定されない。
【0037】
また、RSTに加え呼吸数および心拍数も考慮して肺炎の重症度を評価してもよい。この場合、図1に示す算出部43は、呼吸波形からRST、呼吸数および心拍数を算出し、評価部44は、RST、呼吸数および心拍数に基づいて肺炎の重症度を評価する。これにより、評価の精度をさらに高めることができる。
【実施例
【0038】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されない。
【0039】
本願の発明者らは、2020年7月31日~11月19日に日本全国40名の患者(COVID-19患者:32名、肺炎患者8名)を対象に、シートセンサ21の体圧信号から終夜のRSTを遠隔モニタリングした。シートセンサ21として、住友理工株式会社製の体動センサを用いた。
【0040】
その結果、厚生労働省発行の「COVID-19診療の手引き」で示される「中等症II・重症」の患者は、「軽症・中等症I」の患者に比べ有意にRSTが低値となった(図4)。同様に、National Early Warning Score(NEWS)で示される「MediumまたはHigh」の患者は、「LowまたはLow-medium」の患者に比べ有意にRSTが低値となった(図5)。また、CTで肺炎像のある(浸潤のある)患者は、肺炎像のない患者に比べ有意にRSTが低かった(図6)。
【0041】
COVID-19患者に絞って、将来の重症化の有無に対して、感度と特異度が最も高くなる入院時のRSTを検討したところ、カットオフ閾値は26.3秒であった。その最適カットオフ値でのROC曲線を図7に示す。なお、感度は0.727、特異度は0.700、曲線下面積は0.7227であった。
【0042】
これらの結果から、中等症IIまたは重症に該当するか否かの評価基準となるRST閾値は26秒前後にあることが示唆された。したがって、RSTが20~30秒未満になると、入院を必要とする程度に肺炎が重症化していると判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、隔離されたCOVID-19陽性者のモニタリングに特に好適であるが、これに限定されない。例えば、介護老人保健医療施設などにおいて本発明を適用し、入所者のRSTをモニタリングすることにより、誤嚥性肺炎等の早期発見が可能になる。
【符号の説明】
【0044】
1 評価システム
2 検出装置
21 シートセンサ
22 計測ユニット
3 中継端末
4 評価装置
41 記憶部
42 取得部
43 算出部
44 評価部
5 閲覧端末
D1 評価プログラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7