(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-01
(45)【発行日】2025-07-09
(54)【発明の名称】硬化性樹脂積層体、ドライフィルムおよび硬化物、電子部品
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20250702BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20250702BHJP
C08G 65/44 20060101ALI20250702BHJP
H05K 1/03 20060101ALN20250702BHJP
【FI】
B32B27/00 103
B32B27/20 Z
C08G65/44
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
H05K1/03 670
(21)【出願番号】P 2021062057
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三島 翔子
(72)【発明者】
【氏名】関口 翔也
(72)【発明者】
【氏名】大城 康太
(72)【発明者】
【氏名】石川 信広
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-055998(JP,A)
【文献】特開2020-196853(JP,A)
【文献】特開2003-017861(JP,A)
【文献】特開平11-227077(JP,A)
【文献】特開2005-088873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の硬化性組成物からなる第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層の主面の少なくとも一方の面に積層された、第2の硬化性組成物からなる第2の樹脂層とを有する硬化性樹脂積層体であって、
前記第2の樹脂層は、前記第1の樹脂層及び前記第2の樹脂層の合計の厚みに対して5~35%の厚みを有し、
前記第1の硬化性組成物は、(A1)ポリフェニレンエーテルと、(B1)フィラーとを含み、前記(B1)フィラーの含有率(M
B1)が、組成物中の全固形分に対して30質量%以上であり、
前記第2の硬化性組成物は、(A2)ポリフェニレンエーテルを含み、(B2)フィラーを含まない、又は、(B2)フィラーの含有率(M
B2)が、組成物中の全固形分に対して40質量%以下であり、
前記(B1)フィラーの含有率(M
B1)と前記(B2)フィラーの含有率(M
B2)との関係がM
B1>M
B2であり、
前記(A1)ポリフェニレンエーテル及び(A2)ポリフェニレンエーテルは、少なくとも条件1を満たすフェノール類を含む原料フェノール類から得られ、コンフォメーションプロットで算出された傾きが0.6未満であるポリフェニレンエーテルである
ことを特徴とする、硬化性樹脂積層体。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性樹脂積層体を有するドライフィルム。
【請求項3】
請求項
1に記載の硬化性樹脂積層体
、又は、請求項2に記載のドライフィルムが有する前記硬化性樹脂積層体を硬化して得られる硬化物。
【請求項4】
請求項3の硬化物を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板(以下、単に「配線板」とも称する)等の電子部品における層間絶縁層を製造するために有用な、硬化性樹脂積層体、当該硬化性樹脂積層体を有するドライフィルム、および、当該硬化性樹脂積層体又は当該ドライフィルムを用いて得られる硬化性樹脂積層体の硬化物及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転システム)向けミリ波レーダー等の普及により、電子機器の信号の高周波化が進んでいる。
【0003】
このような電子機器に内蔵される配線板には、絶縁材料としてエポキシ樹脂等を主成分とした硬化性樹脂組成物が用いられていたが、かかる組成物からなる硬化物は、比誘電率(Dk)や誘電正接(Df)が高く、高周波数帯の信号に対して伝送損失が増大し、信号の減衰や発熱等の問題が生じていた。そのため、低誘電特性に優れるポリフェニレンエーテルが注目されてきた。
【0004】
非特許文献1には、ポリフェニレンエーテルの分子内にアリル基を導入させて、熱硬化性樹脂とすることで、耐熱性を向上させたポリフェニレンエーテルが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. Nunoshige, H. Akahoshi, Y. Shibasaki, M. Ueda, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2008, 46, 5278-3223.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリフェニレンエーテルを配線板用の絶縁膜、例えば、銅張積層板(CCL)等の上下の導体層に挟まれた層間絶縁材用途等に用いた場合、かかる導体層に用いられる銅箔との密着性、いわゆるピール強度が十分に得られないという問題があった。
【0007】
そこで本発明の目的は、低誘電特性を有し、導体層に対して優れた密着性(ピール強度)を有する絶縁層の形成に有用な硬化性樹脂積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、各層の厚みの構成が特定範囲である多層構造体であって、且つ各層を形成する硬化性組成物が、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルを含み、さらにフィラーの含有率を特定の範囲とすることで、上記課題を解決可能し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
【0009】
本発明は、
第1の硬化性組成物からなる第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層の主面の少なくとも一方の面に積層された、第2の硬化性組成物からなる第2の樹脂層とを有する硬化性樹脂積層体であって、
前記第2の樹脂層は、前記第1の樹脂層及び前記第2の樹脂層の合計の厚みに対して5~35%の厚みを有し、
前記第1の硬化性組成物は、(A1)ポリフェニレンエーテルと、(B1)フィラーとを含み、前記(B1)フィラーの含有率(MB1)が、組成物中の全固形分に対して30質量%以上であり、
前記第2の硬化性組成物は、(A2)ポリフェニレンエーテルを含み、(B2)フィラーを含まない、又は、(B2)フィラーの含有率(MB2)が、組成物中の全固形分に対して40質量%以下であり、
前記(B1)フィラーの含有率(MB1)と前記(B2)フィラーの含有率(MB2)との関係がMB1>MB2であり、
前記(A1)ポリフェニレンエーテル及び(A2)ポリフェニレンエーテルは、少なくとも条件1を満たすフェノール類を含む原料フェノール類から得られ、コンフォメーションプロットで算出された傾きが0.6未満であるポリフェニレンエーテルであることを特徴とする、硬化性樹脂積層体である。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
【0010】
本発明は、前記硬化性樹脂積層体を有するドライフィルムであってもよい。
本発明は、前記硬化性積層体からなる硬化物であってもよい。
本発明は、前記硬化物を有する電子部品であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低誘電特性を有し、導体層に対して優れた密着性(ピール強度)を有する絶縁層の形成に有用な硬化性樹脂積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、少なくとも2層の樹脂層を含む積層構造体である硬化性樹脂積層体について説明するが、本発明は以下には何ら限定されない。
【0013】
説明した化合物に異性体が存在する場合、特に断らない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0014】
本発明において、ポリフェニレンエーテル(PPE)の原料として用いられ、ポリフェニレンエーテルの構成単位になり得るフェノール類を総称して、「原料フェノール類」とする。
【0015】
本発明において、原料フェノール類の説明を行う際に「オルト位」や「パラ位」等と表現した場合、特に断りがない限り、フェノール性水酸基の位置を基準(イプソ位)とする。
【0016】
本発明において、単に「オルト位」等と表現した場合、「オルト位の少なくとも一方」等を示す。従って、特に矛盾が生じない限り、単に「オルト位」とした場合、オルト位のどちらか一方を示すと解釈してもよいし、オルト位の両方を示すと解釈してもよい。
【0017】
本発明において、ポリフェニレンエーテルが有する一部または全ての官能基(例えば、水酸基)が変性されたポリフェニレンエーテルを、単に「ポリフェニレンエーテル」と表現する場合がある。従って、「ポリフェニレンエーテル」と表現された場合、特に矛盾が生じない限り、未変性のポリフェニレンエーテルおよび変性されたポリフェニレンエーテルの両方を含む。
【0018】
本明細書において、原料フェノール類としては主に1価のフェノール類を開示しているが、本発明の効果を阻害しない範囲で、原料フェノール類として多価のフェノール類を使用してもよい。
【0019】
本明細書において、数値範囲の上限値と下限値とが別々に記載されている場合、矛盾しない範囲で、各下限値と各上限値との全ての組み合わせが実質的に記載されているものとする。
【0020】
本明細書において、固形分とは、不揮発分(溶媒等の揮発成分以外の成分)の意味で使用される。
【0021】
以下、硬化性樹脂積層体の構成及び成分、硬化性樹脂積層体の効果、硬化性樹脂積層体の製造方法、硬化性樹脂積層体の用途等について説明する。
【0022】
なお、以下においては、硬化性組成物中に含まれる成分と、硬化性組成物の乾燥塗膜である硬化性樹脂層中に含まれる成分と、を区別せずに説明することがある。
【0023】
<<<<<<硬化性樹脂層の構成及び成分>>>>>>
本発明の硬化性樹脂積層体は、第1の樹脂層と、第1の樹脂層の主面の少なくとも一方の面に(直接)積層された第2の樹脂層とを有する。
第2の樹脂層は、前記第1の樹脂層及び前記第2の樹脂層の合計の厚みに対して5~35%の厚みである。
第1の樹脂層及び第2の樹脂層は、ポリフェニレンエーテルを含有する。
また、第1の樹脂層はフィラーを必須的に含むが、第2の樹脂層はフィラーを含有しない、又は、第2の樹脂層がフィラーを含む場合は、第2の樹脂層のフィラーの含有率は、第1の樹脂層のフィラーの含有率よりも少なくなるように構成される。
【0024】
本発明の硬化性樹脂積層体は、通常、第2の樹脂層が銅箔(銅回路)等の被着対象と接触するように使用される。そのため、第1の樹脂層と第2の樹脂層からなる2層の積層体である場合には、樹脂層の第1の樹脂層側に配線板等の基板に接するように配置され、且つ、第2の樹脂層が銅箔(銅回路)等の被着対象と接するように使用する。
【0025】
本発明の硬化性樹脂積層体は、第1の樹脂層及び/又は第2の樹脂層の外層に、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン等からなる基材フィルムやその他の樹脂層を積層していてもよい。また、基材フィルムやその他の層は2層以上設けられていてもよい。
【0026】
なお、本発明の硬化性樹脂積層体は、上記構成を充足する積層体であればよく、例えば、第2の樹脂層/第1の樹脂層/第2の樹脂層の順番で積層された、少なくとも3層からなる積層体とすることも可能である。本発明の硬化性樹脂積層体が第2の樹脂層を2層有する場合、下記条件を満たす範囲で、各々の第2の樹脂層の厚みや材質等を、同一のものとしてもよいし異なるものとしてもよい。
(条件)
第2の樹脂層を合わせた厚みは、(1)第1の樹脂層と第2の樹脂層を合わせた厚みに対して10~70%の厚みであり、且つ、第2の樹脂層の単独層は、(2)フィラーを含有しない、又は、第2の樹脂層におけるフィラーの含有率が、組成物中の全固形分に対して40質量%以下であり、第2の樹脂層のフィラーの含有率は、第1の樹脂層のフィラーの含有率よりも少なくなるように構成される。
【0027】
<<<<<構成>>>>>
<<<<構成:第1の樹脂層>>>>
本発明の第1の樹脂層は、(A1)ポリフェニレンエーテルと、(B1)フィラーとを含む。また、第1の樹脂層中の全固形分に対する(B1)フィラーの含有率MB1は、30質量%以上である。
【0028】
別の表現によれば、第1の樹脂層は、(A1)ポリフェニレンエーテルと(B1)フィラーとを含む第1の硬化性組成物から得られる乾燥塗膜であって、第1の硬化性組成物中の全固形分に対する(B1)フィラーの含有率MB1が30質量%以上である乾燥塗膜である。
【0029】
(B1)フィラーの含有率MB1は、低熱膨張化の観点から、より好ましくは30~80質量%であり、更に好ましくは50~80質量%であり、特に好ましくは65~80質量%である。
【0030】
第1の樹脂層中の全固形分に対する(A1)ポリフェニレンエーテルの含有率MA1は、好ましくは3~40質量%であり、より好ましくは5~30質量%であり、更に好ましくは7~25質量%であり、特に好ましくは9~20質量%である。
【0031】
また、第1の樹脂層は、(C1)その他の成分を含んでいてもよい。
【0032】
(A1)ポリフェニレンエーテル、(B1)フィラー、(C1)その他の成分については後述する。
【0033】
第1の樹脂層の厚みT1は、第2の樹脂層の厚みT2よりも厚く、例えば、1~50μmであることが好ましく、10~45μmであることがより好ましく、20~30μmであることが更に好ましく、24~29μmであることが特に好ましい。
【0034】
<<<<構成:第2の樹脂層>>>>
本発明の第2の樹脂層は、(A2)ポリフェニレンエーテルを含み、(B2)フィラーを含まない、又は、(B2)フィラーの含有率(MB2)が、組成物中の全固形分に対して40質量%以下であり、前記(B1)フィラーの含有率(MB1)と前記(B2)フィラーの含有率(MB2)との関係がMB1>MB2である。
【0035】
別の表現によれば、第2の樹脂層は、(A2)ポリフェニレンエーテルを含み、(B2)フィラーを含まない第2の硬化性組成物から得られる乾燥塗膜、又は、第2の硬化性組成物中の全固形分に対する(B2)フィラーの含有率MB2が40質量%以下であり、前記(B1)フィラーの含有率(MB1)と前記(B2)フィラーの含有率(MB2)との関係がMB1>MB2である、第2の硬化性組成物から得られる乾燥塗膜である。
【0036】
第1の硬化性組成物中の全固形分に対する(B1)フィラーの含有率MB1に対する第2の硬化性組成物中の全固形分に対する(B2)フィラーの含有率MB2の比率(MB2/MB1)は、低誘電特性化の観点から、より好ましくは50%以下、更に好ましくは45%以下、更により好ましくは15%以下である。
【0037】
第2の樹脂層及び第2の硬化性組成物の(B2)フィラーの含有率MB2は、好ましくは35質量%以下である。
第2の樹脂層及び第2の硬化性組成物がフィラーを含む場合、低熱膨張性及び導体層との密着性のバランスに優れることから、(B2)フィラーの含有率MB2は、好ましくは5~35質量%であり、より好ましくは20~35質量%である。
【0038】
第2の樹脂層中の全固形分に対する(A2)ポリフェニレンエーテルの含有率MA2は、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは30~50質量%である。
【0039】
また、第2の樹脂層は、(C2)その他の成分を含んでいてもよい。
【0040】
(A2)ポリフェニレンエーテル、(B2)フィラー、(C2)その他の成分については後述する。
【0041】
第2の樹脂層の厚みT2は、第1の樹脂層の厚み(T1)及び第2の樹脂層の厚み(T2)の合計の厚み(T1+T2)に対する第2の樹脂層の厚みT2の比率(T2/(T1+T2))は、5~35%であり、10~25%であることが好ましく、15~25%であることがより好ましい。第2の樹脂層の厚みT2の比率が上記の範囲にあることで安定した導体層との密着性を得ることができる。
【0042】
第2の樹脂層の厚みT2は、第1の樹脂層の厚みT1よりも薄く、例えば、0.5~40μmであることが好ましく、0.7~30μmであることがより好ましく、1~20μmであることが更に好ましく、3~10μmであることが特に好ましい。
【0043】
<<<<構成:その他の層>>>>
その他の層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン等の基材フィルムや、硬化性樹脂層表面を保護するカバーフィルム等が挙げられる。
【0044】
<<<<<成分>>>>>
上述した第1の樹脂層及び第2の樹脂層の構成成分である、(A1)ポリフェニレンエーテル、(A2)ポリフェニレンエーテル、(B1)フィラー、(B2)フィラー、(C1)その他の成分、(C2)その他の成分について説明する。
【0045】
<<<<成分:ポリフェニレンエーテル(A1)及び(A2)>>>>
第1の硬化性組成物及び樹脂層に含まれる(A1)ポリフェニレンエーテルと、第2の硬化性組成物及び樹脂層に含まれる(A2)ポリフェニレンエーテルとは、同一の成分であっても異なる成分であってもよい。ここでは、(A1)ポリフェニレンエーテルと(A2)ポリフェニレンエーテルとをポリフェニレンエーテル(所定ポリフェニレンエーテル)としてまとめて説明する。
【0046】
<<<ポリフェニレンエーテル(所定ポリフェニレンエーテル)>>>
本発明のポリフェニレンエーテルは、少なくとも条件1を満たすフェノール類を含む原料フェノール類から得られ、少なくとも条件1を満たすフェノール類を含む原料フェノール類から得られ、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルである。このようなポリフェニレンエーテルを、所定ポリフェニレンエーテルとする。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
【0047】
条件1を満たすフェノール類{例えば、後述するフェノール類(A)およびフェノール類(B)}は、オルト位に水素原子を有するため、フェノール類と酸化重合される際に、イプソ位、パラ位のみならず、オルト位においてもエーテル結合が形成され得るため、分岐鎖状の構造を形成することが可能となる。
【0048】
このように、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルを、所定ポリフェニレンエーテル分岐ポリフェニレンエーテルと表現する場合がある。
【0049】
このように、所定ポリフェニレンエーテルは、その構造の一部が、少なくともイプソ位、オルト位、パラ位の3か所がエーテル結合されたベンゼン環により分岐することとなる。この所定ポリフェニレンエーテルは、例えば、骨格中に少なくとも式(i)で示されるような分岐構造を有するポリフェニレンエーテル化合物であると考えられる。
【0050】
【0051】
式(i)中、Ra~Rkは、水素原子、または炭素数1~15(好ましくは、炭素数1~12)の炭化水素基である。
【0052】
ここで、所定ポリフェニレンエーテルを構成する原料フェノール類は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、条件1を満たさないその他のフェノール類を含んでいてもよい。
【0053】
このようなその他のフェノール類としては、例えば、後述するフェノール類(C)およびフェノール類(D)、パラ位に水素原子を有しないフェノール類が挙げられる。特に後述するフェノール類(C)およびフェノール類(D)は、酸化重合される際には、イプソ位およびパラ位においてエーテル結合が形成され、直鎖状に重合されていく。そのため、ポリフェニレンエーテルの高分子量化のためには、原料フェノール類として、フェノール類(C)およびフェノール類(D)をさらに含むことが好ましい。
【0054】
また、所定ポリフェニレンエーテルは、不飽和炭素結合を含む官能基を有していてもよい。かかる官能基を有することにより、架橋性を付与する効果と優れた反応性により、硬化物の諸特性がより良好となる。
なお、本発明において「不飽和炭素結合」は、特に断らない限り、エチレン性またはアセチレン性の炭素間多重結合(二重結合または三重結合)を示す。
このような不飽和炭素結合を含む官能基としては、特に限定されないが、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基)、アルキニル基(例えば、エチニル基)、または、(メタ)アクリルロイル基であることが好ましく、硬化性に優れる観点からビニル基、アリル基、(メタ)アクリルロイル基であることがより好ましく、低誘電特性に優れる観点からアリル基であることがさらに好ましい。これらの不飽和炭素結合を有する官能基は、炭素数を、例えば15以下、10以下、8以下、5以下、3以下等とすることができる。
このような不飽和炭素結合を含む官能基を所定ポリフェニレンエーテルに導入する方法としては、特に限定されないが、次の[方法1]または[方法2]が挙げられる。
【0055】
[方法1]
方法1は、
原料フェノール類として、
少なくとも下記条件1および下記条件2をいずれも満たすフェノール類(A)を含ませる(形態1)、または、少なくとも下記条件1を満たし下記条件2を満たさないフェノール類(B)と下記条件1を満たさず下記条件2を満たすフェノール類(C)の混合物を含ませる(形態2)方法である。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
(条件2)
パラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む官能基を有する
【0056】
方法1によれば、原料フェノール類由来の不飽和炭素結合を含む官能基を有する所定ポリフェニレンエーテルを得ることができる。
【0057】
[方法2]
方法2は、
分岐ポリフェニレンエーテルの末端水酸基を、不飽和炭素結合を含む官能基に変性させ、末端変性ポリフェニレンエーテルとする方法である。
【0058】
方法2によれば、原料フェノール類が不飽和炭素結合を含む官能基を有しない場合でも、不飽和炭素結合を含む官能基が導入された所定ポリフェニレンエーテルを得ることができる。
【0059】
[方法1]と[方法2]とは、同時に実施されてもよい。
【0060】
<<方法1によって得られる所定ポリフェニレンエーテル>>
方法1によって得られる所定ポリフェニレンエーテルは、条件2を満たすフェノール類{例えば、フェノール類(A)およびフェノール類(C)のいずれか}を少なくともフェノール原料として用いているので、少なくとも不飽和炭素結合を含む炭化水素基による架橋性を有することとなる。所定ポリフェニレンエーテルがこのような不飽和炭素結合を含む炭化水素基を有する場合、該炭化水素基と反応し、かつエポキシ基等の反応性官能基を有する化合物を用いてエポキシ化等の変性を実施することも可能である。
【0061】
すなわち、方法1によって得られる所定ポリフェニレンエーテルは、例えば、骨格中に少なくとも式(i)で示されるような分岐構造を有するポリフェニレンエーテルであり、かつ少なくとも一つの不飽和炭素結合を含む炭化水素基を官能基として有する化合物と考えられる。具体的には、上記式(i)中のRa~Rkの少なくとも一つが、不飽和炭素結合を有する炭化水素基である化合物と考えられる。
【0062】
特に、上記形態2において、工業的・経済的な観点から、フェノール類(B)が、o-クレゾール、2-フェニルフェノール、2-ドデシルフェノールおよびフェノールの少なくともいずれか1種であり、フェノール類(C)が、2-アリル-6-メチルフェノールであることが好ましい。
【0063】
以下、フェノール類(A)~(D)に関してより詳細に説明する。
【0064】
フェノール類(A)は、上述のように、条件1および条件2のいずれも満たすフェノール類、即ち、オルト位およびパラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む官能基を有するフェノール類であり、好ましくは下記式(1)で示されるフェノール類(a)である。
【0065】
【0066】
式(1)中、R1~R3は、水素原子、または炭素数1~15の炭化水素基である。ただし、R1~R3の少なくとも一つが、不飽和炭素結合を有する炭化水素基である。なお、酸化重合時に高分子化することが容易になるという観点から、炭化水素基は、炭素数1~12であることが好ましい。
【0067】
式(1)で示されるフェノール類(a)としては、o-ビニルフェノール、m-ビニルフェノール、o-アリルフェノール、m-アリルフェノール、3-ビニル-6-メチルフェノール、3-ビニル-6-エチルフェノール、3-ビニル-5-メチルフェノール、3-ビニル-5-エチルフェノール、3-アリル-6-メチルフェノール、3-アリル-6-エチルフェノール、3-アリル-5-メチルフェノール、3-アリル-5-エチルフェノール等が例示できる。式(1)で示されるフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0068】
フェノール類(B)は、上述のように、条件1を満たし、条件2を満たさないフェノール類、即ち、オルト位およびパラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類であり、好ましくは下記式(2)で示されるフェノール類(b)である。
【0069】
【0070】
式(2)中、R4~R6は、水素原子、または炭素数1~15の炭化水素基である。ただし、R4~R6は、不飽和炭素結合を有しない。なお、酸化重合時に高分子化することが容易になるという観点から、炭化水素基は、炭素数1~12であることが好ましい。
【0071】
式(2)で示されるフェノール類(b)としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール、o-tert-ブチルフェノール、m-tert-ブチルフェノール、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、2-ドデシルフェノール、等が例示できる。式(2)で示されるフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0072】
フェノール類(C)は、上述のように、条件1を満たさず、条件2を満たすフェノール類、即ち、パラ位に水素原子を有し、オルト位に水素原子を有せず、不飽和炭素結合を含む官能基を有するフェノール類であり、好ましくは下記式(3)で示されるフェノール類(c)である。
【0073】
【0074】
式(3)中、R7およびR10は、炭素数1~15の炭化水素基であり、R8およびR9は、水素原子、または炭素数1~15の炭化水素基である。ただし、R7~R10の少なくとも一つが、不飽和炭素結合を有する炭化水素基である。なお、酸化重合時に高分子化することが容易になるという観点から、炭化水素基は、炭素数1~12であることが好ましい。
【0075】
式(3)で示されるフェノール類(c)としては、2-アリル-6-メチルフェノール、2-アリル-6-エチルフェノール、2-アリル-6-フェニルフェノール、2-アリル-6-スチリルフェノール、2,6-ジビニルフェノール、2,6-ジアリルフェノール、2,6-ジイソプロペニルフェノール、2,6-ジブテニルフェノール、2,6-ジイソブテニルフェノール、2,6-ジイソペンテニルフェノール、2-メチル-6-スチリルフェノール、2-ビニル-6-メチルフェノール、2-ビニル-6-エチルフェノール等が例示できる。式(3)で示されるフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0076】
フェノール類(D)は、上述のように、パラ位に水素原子を有し、オルト位に水素原子を有せず、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類であり、好ましくは下記式(4)で示されるフェノール類(d)である。
【0077】
【0078】
式(4)中、R11およびR14は、不飽和炭素結合を有しない炭素数1~15の炭化水素基であり、R12およびR13は、水素原子、または不飽和炭素結合を有しない炭素数1~15の炭化水素基である。なお、酸化重合時に高分子化することが容易になるという観点から、炭化水素基は、炭素数1~12であることが好ましい。
【0079】
式(4)で示されるフェノール類(d)としては、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-6-エチルフェノール、2-エチル-6-n-プロピルフェノール、2-メチル-6-n-ブチルフェノール、2-メチル-6-フェニルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2,6-ジトリルフェノール等が例示できる。式(4)で示されるフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0080】
ここで、本発明において、炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられ、好ましくはアルキル基、アリール基、アルケニル基である。不飽和炭素結合を有する炭化水素基としては、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。なお、これらの炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。
【0081】
<<方法2によって得られる所定ポリフェニレンエーテル>>
方法2によって得られる所定ポリフェニレンエーテルは、末端変性分岐ポリフェニレンエーテルである。
【0082】
このような末端変性分岐ポリフェニレンエーテルは、分岐構造を有し、かつ末端水酸基が変性されているため、種々の溶媒に可溶でありつつも、低誘電特性を更に低減した硬化物が得られる。また、末端変性分岐ポリフェニレンエーテルは、不飽和炭素結合を末端の位置に配した結果、反応性が極めて良好となり、得られる硬化物の緒性能はより良好となる。
【0083】
変性用化合物により末端水酸基を変性する場合、通常、末端水酸基と変性用化合物とでエーテル結合またはエステル結合を形成する。
【0084】
ここで、変性用化合物としては、不飽和炭素結合を有する官能基を含み、触媒の存在下または非存在下で、フェノール性の水酸基と反応可能な限りにおいて特に限定されない。
【0085】
変性用化合物の好適例としては、下記式(11)で示される有機化合物が挙げられる。
【0086】
【0087】
式(11)中、RA、RB、RCは、各々独立して、水素または、炭素数1~9の炭化水素基であり、RDは、炭素数1~9の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br、IまたはCN等のフェノール性水酸基と反応可能な基である。
【0088】
また、別の観点では、変性用化合物の好適例としては、下記式(11-1)で示される有機化合物が挙げられる。
【0089】
【0090】
式(11-1)中、Rは、ビニル基、アリル基、又は、(メタ)アクリルロイル基であり、Xは、F、Cl、Br、I等のフェノール性水酸基と反応可能な基である。
【0091】
分岐ポリフェニレンエーテルの末端水酸基が変性されたことは、分岐ポリフェニレンエーテルと末端変性分岐ポリフェニレンエーテルとの水酸基価を比較することで確認することができる。なお、末端変性分岐ポリフェニレンエーテルは、一部が未変性の水酸基のままであってもよい。
【0092】
変性に際しての反応温度、反応時間、触媒の有無および触媒の種類等については、適宜設計可能である。変性用化合物として2種類以上の化合物を使用してもよい。
【0093】
以上説明したような所定ポリフェニレンエーテルは、硬化性組成物の成分として用いる場合、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0094】
なお、所定ポリフェニレンエーテル合成時に用いられる原料フェノール類の合計に対する条件1を満たすフェノール類の割合は、1~50mol%であることが好ましい。
【0095】
また、上記条件2を満たすフェノール類を使用しなくてもよいが、使用する場合には、原料フェノール類の合計に対する条件2を満たすフェノール類の割合は、0.5~99mol%であることが好ましく、1~99mol%であることがより好ましい。
【0096】
<<所定ポリフェニレンエーテルの物性および性質>>
<分岐度>
所定ポリフェニレンエーテルの分岐構造(分岐の度合い)は、以下の分析手順に基づいて確認することができる。
【0097】
(分析手順)
ポリフェニレンエーテルのクロロホルム溶液を、0.1、0.15、0.2、0.25mg/mLの間隔で調製後、0.5mL/minで送液しながら屈折率差と濃度のグラフを作成し、傾きから屈折率増分dn/dcを計算する。次に、下記装置運転条件にて、絶対分子量を測定する。RI検出器のクロマトグラムとMALS検出器のクロマトグラムを参考に、分子量と回転半径の対数グラフ(コンフォメーションプロット)から、最小二乗法による回帰直線を求め、その傾きを算出する。
【0098】
(測定条件)
装置名 :HLC8320GPC
移動相 :クロロホルム
カラム :TOSOH TSKguardcolumnHHR-H
+TSKgelGMHHR-H(2本)
+TSKgelG2500HHR
流速 :0.6mL/min.
検出器 :DAWN HELEOS(MALS検出器)
+Optilab rEX(RI検出器、波長254nm)
試料濃度 :0.5mg/mL
試料溶媒 :移動相と同じ。試料5mgを移動相10mLで溶解
注入量 :200μL
フィルター :0.45μm
STD試薬 :標準ポリスチレン Mw 37,900
STD濃度 :1.5mg/mL
STD溶媒 :移動相と同じ。試料15mgを移動相10mLで溶解
分析時間 :100min
【0099】
絶対分子量が同じ樹脂において、高分子鎖の分岐が進行しているものほど重心から各セグメントまでの距離(回転半径)は小さくなる。そのため、GPC-MALSにより得られる絶対分子量と回転半径の対数プロットの傾きは、分岐の程度を示し、傾きが小さいほど分岐が進行していることを意味する。本発明においては、上記コンフォメーションプロットで算出された傾きが小さいほどポリフェニレンエーテルの分岐が多いことを示し、この傾きが大きいほどポリフェニレンエーテルの分岐が少ないことを示す。
【0100】
本発明の硬化性組成物を構成する所定ポリフェニレンエーテルにおいて、上記傾きは、0.6未満であり、0.55以下、0.50以下、0.45以下、0.40以下、又は、0.35以下であることが好ましい。上記傾きがこの範囲である場合、ポリフェニレンエーテルが十分な分岐を有していると考えられる。なお、上記傾きの下限としては特に限定されないが、例えば、0.05以上、0.10以上、0.15以上、又は、0.20以上である。
【0101】
なお、コンフォメーションプロットの傾きは、ポリフェニレンエーテルの合成の際の、温度、触媒量、攪拌速度、反応時間、酸素供給量、溶媒量を変更することで調整可能である。より具体的には、温度を高める、触媒量を増やす、攪拌速度を速める、反応時間を長くする、酸素供給量を増やす、及び/又は、溶媒量を少なくすることで、コンフォメーションプロットの傾きが低くなる(ポリフェニレンエーテルがより分岐し易くなる)傾向となる。
【0102】
<所定ポリフェニレンエーテルの分子量>
本発明の硬化性組成物を構成する所定ポリフェニレンエーテルは、数平均分子量が2,000~30,000であることが好ましく、5,000~30,000であることがより好ましく、8,000~30,000であることが更に好ましく、8,000~25,000であることが特に好ましい。分子量をこのような範囲とすることで、溶媒への溶解性を維持しつつ、硬化性組成物の製膜性を向上させることができる。さらに、本発明の硬化性組成物を構成する所定ポリフェニレンエーテルは、多分散指数(PDI:重量平均分子量/数平均分子量)が、1.5~20であることが好ましい。
【0103】
本発明において、数平均分子量および重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定を行い、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算したものである。
【0104】
<所定ポリフェニレンエーテルの水酸基価>
本発明の硬化性組成物を構成する所定ポリフェニレンエーテルの水酸基価は、数平均分子量(Mn)が2,000~30,000の範囲において、15.0以下であることが好ましく、より好ましくは2以上10以下、さらに好ましくは3以上8以下である。
【0105】
なお、所定ポリフェニレンエーテルが方法2によって得られた所定ポリフェニレンエーテルである場合等、水酸基価が上記した数値より低いものとなる場合がある。
【0106】
<所定ポリフェニレンエーテルの溶媒溶解性>
本発明の硬化性組成物を構成する所定ポリフェニレンエーテル1gは、25℃で、好ましくは100gのシクロヘキサノンに対して(より好ましくは、100gの、シクロヘキサノン、DMFおよびPMAに対して)可溶である。なお、ポリフェニレンエーテル1gが100gの溶媒(例えば、シクロヘキサノン)に対して可溶とは、ポリフェニレンエーテル1gと溶媒100gとを混合したときに、濁りおよび沈殿が目視で確認できないことを示す。この所定ポリフェニレンエーテルは、25℃で、100gのシクロヘキサノンに対して、1g以上可溶であることがより好ましい。
【0107】
本発明の硬化性組成物を構成する所定ポリフェニレンエーテルは、分岐構造を有することで種々の溶媒への溶解性、組成物中の成分同士の分散性や相溶性が向上する。このため組成物の各成分が均一に溶解または分散し、均一な硬化物を得ることが可能となる。この結果、この硬化物は機械的特性等が極めて優れている。特に、所定ポリフェニレンエーテルは、相互に架橋することができる。この結果、得られる硬化物の機械的特性や低熱膨張性等はより良好となる。
【0108】
<<所定ポリフェニレンエーテルの製造方法>>
本発明の硬化性組成物を構成する所定ポリフェニレンエーテルは、原料フェノール類として特定のものを使用すること以外は、従来公知のポリフェニレンエーテルの合成方法(重合条件、触媒の有無および触媒の種類等)を適用して製造することが可能である。
【0109】
次に、この所定ポリフェニレンエーテルの製造方法の一例について説明する。
【0110】
所定ポリフェニレンエーテルは、例えば、特定のフェノール類、触媒および溶媒を含む重合溶液を調製すること(重合溶液調製工程)、少なくとも前記溶媒に酸素を通気させること(酸素供給工程)、酸素を含む前記重合溶液内で、フェノール類を酸化重合させること(重合工程)で製造可能である。
【0111】
以下、重合溶液調製工程、酸素供給工程および重合工程について説明する。なお、各工程を連続的に実施してもよいし、ある工程の一部または全部と、別の工程の一部または全部と、を同時に実施してもよいし、ある工程を中断し、その間に別の工程を実施してもよい。例えば、重合溶液調製工程中や重合工程中に酸素供給工程を実施してもよい。また、本発明のポリフェニレンエーテルの製造方法は、必要に応じてその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、例えば、重合工程により得られるポリフェニレンエーテルを抽出する工程(例えば、再沈殿、ろ過および乾燥を行う工程)、上述した変性工程等が挙げられる。
【0112】
<重合溶液調製工程>
重合溶液調製工程は、後述する重合工程において重合されるフェノール類を含む各原料を混合し、重合溶液を調製する工程である。重合溶液の原料としては、原料フェノール類、触媒、溶媒が挙げられる。
【0113】
(触媒)
触媒は特に限定されず、ポリフェニレンエーテルの酸化重合において使用される適宜の触媒とすればよい。
【0114】
触媒としては、例えば、アミン化合物や、銅、マンガン、コバルト等の重金属化合物とテトラメチルエチレンジアミンなどのアミン化合物とからなる金属アミン化合物が挙げられ、特に、十分な分子量の共重合体を得るためには、アミン化合物に銅化合物を配位させた銅-アミン化合物を用いることが好ましい。触媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0115】
触媒の含有量は特に限定されないが、重合溶液中、原料フェノール類の合計に対し0.1~0.6mol%等とすればよい。
【0116】
このような触媒は、予め適宜の溶媒に溶解させてもよい。
【0117】
(溶媒)
溶媒は特に限定されず、ポリフェニレンエーテルの酸化重合において使用される適宜の溶媒とすればよい。溶媒は、フェノール性化合物および触媒を溶解または分散可能なものを用いることが好ましい。
【0118】
溶媒としては、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、ニトロベンゼン等のニトロ化合物、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(CA)等が挙げられる。溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0119】
なお、溶媒として、水や水と相溶可能な溶媒等を含んでいてもよい。
【0120】
重合溶液中の溶媒の含有量は特に限定されず、適宜調整すればよい。
【0121】
(その他の原料)
重合溶液は、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の原料を含んでいてもよい。
【0122】
<酸素供給工程>
酸素供給工程は、重合溶液中に酸素含有ガスを通気させる工程である。
【0123】
酸素ガスの通気時間や使用する酸素含有ガス中の酸素濃度は、気圧や気温等に応じて適宜変更可能である。
【0124】
<重合工程>
重合工程は、重合溶液中に酸素が供給された状況下、重合溶液中のフェノール類を酸化重合させる工程である。
【0125】
具体的な重合の条件としては特に限定されないが、例えば、25~100℃、2~24時間の条件で攪拌すればよい。
【0126】
以上説明したような工程を経る所定ポリフェニレンエーテルの製造に際しては、上述した方法1や方法2を参照することで、分岐ポリフェニレンエーテルに不飽和炭素結合を含む官能基を導入する具体的な方法を理解できる。即ち、原料フェノール類の種類を特定のものとするか、または、重合工程後に末端水酸基を変性する工程(変性工程)を更に設けること等で、不飽和炭素結合を含む官能基を有する所定ポリフェニレンエーテルを得ることができる。
【0127】
<<<<成分:フィラー(B1)及び(B2)>>>>
本発明の第1の硬化性組成物及び樹脂層に含まれる(B1)フィラーと、第2の硬化性組成物及び樹脂層に含まれる(B2)フィラーとは、同一の成分であっても異なる成分であってもよい。ここでは、(B1)フィラーと(B2)フィラーとをフィラーとしてまとめて説明する。
【0128】
フィラーとしては、例えば、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。
無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、酸化チタンなどの金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物;タルク、マイカなどの粘土鉱物;チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどのフェロブスカイト型結晶構造を有するフィラー;窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を使用できる。
有機フィラーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/エチレンの共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂フィラー;シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)等の炭化水素系樹脂フィラー等を使用できる。
【0129】
中でも、フィラー成分は、低誘電正接化、低熱膨張性を考慮して、シリカであることが好ましい。以下、フィラー成分の好ましい形態であるシリカについて説明する。
【0130】
<<シリカ>>
シリカの平均粒径は、好ましくは0.01~10μm、より好ましくは0.1~3μmである。ここで平均粒径は、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から、累積分布によるメディアン径(d50、体積基準)として求めることができる。
【0131】
異なる平均粒径のシリカを併用することも可能である。シリカの高充填化を図りたい場合には、例えば平均粒径1μm以上のシリカとともに、平均粒径1μm未満のナノオーダーの微小のシリカを併用してもよい。
【0132】
シリカはカップリング剤により表面処理が施されていてもよい。表面をシランカップリング剤で処理することで、ポリフェニレンエーテルとの分散性を向上させることができる。また有機溶媒との親和性も向上させることができる。
【0133】
シランカップリング剤としては、例えば、エポキシシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤などを用いることができる。エポキシシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどを用いることができる。メルカプトシランカップリング剤としては、例えば、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどを用いることができる。ビニルシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシランなどを用いることができる。
【0134】
シランカップリング剤の使用量は、例えば、シリカ100質量部に対して0.1~5質量部、0.5~3質量部としてもよい。
【0135】
<<<<成分:その他の成分(C1)及び(C2)>>>>
第1の硬化性組成物及び樹脂層は、(C1)その他の成分を含んでいても良く、第2の硬化性組成物及び樹脂層は、(C2)その他の成分を含んでいてもよい。(C1)その他の成分及び(C2)その他の成分は、同一の成分であっても異なる成分であってもよい。ここでは、(C1)その他の成分と(C2)その他の成分とをその他の成分としてまとめて説明する。
【0136】
その他の成分としては、第1の硬化性組成物及び第2の硬化性組成物に配合可能な従来公知の添加剤が挙げられる。より具体的には、過酸化物、架橋型硬化剤、エラストマー、マレイミド化合物等を含むことが好ましい。
【0137】
また、その他の成分には、本発明の効果を損なわない範囲で、難燃性向上剤(リン系化合物等)、セルロースナノファイバー、ポリマー成分(シアネートエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノ-ルノボラック樹脂等の樹脂成分、非分岐型ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミド等の有機ポリマー)、分散剤、熱硬化触媒、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、防錆剤、密着性付与剤等の成分を含んでもよい。
これらは、1種のみが使用されてもよいし、2種以上が使用されてもよい。
【0138】
<<<過酸化物>>>
上述した所定ポリフェニレンエーテルが不飽和炭素結合を有する場合、硬化性組成物乃至は硬化性樹脂積層体は過酸化物を含むことが好ましい。
【0139】
過酸化物としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ブテン、アセチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、m-トルイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチレンパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、等があげられる。過酸化物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0140】
過酸化物としては、これらの中でも、取り扱いの容易さと反応性の観点から、1分間半減期温度が130℃から180℃のものが望ましい。このような過酸化物は、反応開始温度が比較的に高いため、乾燥時など硬化が必要でない時点での硬化を促進し難く、ポリフェニレンエーテルを含有した硬化性組成物の保存性を貶めず、また、揮発性が低いため乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。
【0141】
過酸化物の硬化性組成物中乃至は硬化性樹脂積層体中の含有量は、過酸化物の総量で、硬化性組成物中乃至は硬化性樹脂積層体の全固形分に対し、0.01~20質量%とするのが好ましく、0.05~10質量%とするのがより好ましく、0.1~10質量%とするのが特に好ましい。過酸化物の総量をこの範囲とすることで、低温での効果を十分なものとしつつ、塗膜化した際の膜質の劣化を防止することができる。
【0142】
また、必要に応じてアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ化合物やジクミル、2,3-ジフェニルブタン等のラジカル開始剤を含有してもよい。
【0143】
<<<架橋型硬化剤>>>
所定ポリフェニレンエーテルが不飽和炭素結合を有する場合、硬化性組成物乃至は硬化性樹脂積層体は架橋型硬化剤を含むことが好ましい。
【0144】
架橋型硬化剤としては、ポリフェニレンエーテルとの相溶性が良好なものが用いられるが、ジビニルベンゼンやジビニルナフタレンやジビニルビフェニルなどの多官能ビニル化合物;フェノールとビニルベンジルクロライドの反応から合成されるビニルベンジルエーテル系化合物;スチレンモノマー,フェノールとアリルクロライドの反応から合成されるアリルエーテル系化合物;さらにトリアルケニルイソシアヌレートなどが良好である。架橋型硬化剤としては、ポリフェニレンエーテルとの相溶性が特に良好なトリアルケニルイソシアヌレートが好ましく、なかでも具体的にはトリアリルイソシアヌレート(以下、TAIC(登録商標))やトリアリルシアヌレート(以下TAC)が好ましい。これらは、低誘電特性を示し、かつ耐熱性を高めることができる。特にTAIC(登録商標)は、ポリフェニレンエーテルとの相溶性に優れるので好ましい。
【0145】
また、架橋型硬化剤としては、(メタ)アクリレート化合物(メタクリレート化合物およびアクリレート化合物)を用いてもよい。特に、3~5官能の(メタ)アクリレート化合物を使用するのが好ましい。3~5官能のメタクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート等を用いることができ、一方、3~5官能のアクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリアクリレート等を用いることができる。これらの架橋型硬化剤を用いると耐熱性を高めることができる。架橋型硬化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0146】
所定ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物乃至は硬化性樹脂積層体中の成分が、不飽和炭素結合を有する炭化水素基を含む場合、特に架橋型硬化剤と硬化させることにより誘電特性に優れた硬化物を得ることができる。
【0147】
硬化性組成物乃至は硬化性樹脂積層体中、所定ポリフェニレンエーテルと架橋型硬化剤(例えば、トリアルケニルイソシアヌレート)との配合比率は、固形分比(所定ポリフェニレンエーテル:架橋型硬化剤)として、20:80~90:10とすることが好ましく、30:70~90:10とすることがより好ましい。このような範囲とすることで、低誘電特性と耐熱性に優れる硬化物が得られる。
【0148】
<<<マレイミド化合物>>>
マレイミド化合物は、1分子中に少なくとも1つのマレイミド基を含有する限り特に限定されない。
【0149】
マレイミド化合物としては、
(1)単官能脂肪族/脂環族マレイミド、
(2)単官能芳香族マレイミド、
(3)多官能脂肪族/脂環族マレイミド、
(4)多官能芳香族マレイミド、
を挙げることができる。
【0150】
<<(1)単官能脂肪族/脂環族マレイミド>>
単官能脂肪族/脂環族マレイミド(1)としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、特開平11-302278号に開示されているマレイミドカルボン酸とテトラヒドロフルフリルアルコールとの反応物等を挙げることができる。
【0151】
<<(2)単官能芳香族マレイミド>>
単官能芳香族マレイミド(2)としては、例えば、N-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド等を挙げることができる。
【0152】
<<(3)多官能脂肪族/脂環族マレイミド>>
多官能脂肪族/脂環族マレイミド(3)としては、例えば、N,N’-メチレンビスマレイミド、N,N’-エチレンビスマレイミド、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートと脂肪族/脂環族マレイミドカルボン酸とを脱水エステル化して得られるイソシアヌレート骨格のマレイミドエステル化合物、トリス(カーバメートヘキシル)イソシアヌレートと脂肪族/脂環族マレイミドアルコールとをウレタン化して得られるイソシアヌレート骨格のマレイミドウレタン化合物等のイソシアヌル骨格ポリマレイミド類、イソホロンビスウレタンビス(N-エチルマレイミド)、トリエチレングリコールビス(マレイミドエチルカーボネート)、脂肪族/脂環族マレイミドカルボン酸と各種脂肪族/脂環族ポリオールとを脱水エステル化し、又は脂肪族/脂環族マレイミドカルボン酸エステルと各種脂肪族/脂環族ポリオールとをエステル交換反応して得られる脂肪族/脂環族ポリマレイミドエステル化合物類、脂肪族/脂環族マレイミドカルボン酸と各種脂肪族/脂環族ポリエポキシドとをエーテル開環反応して得られる脂肪族/脂環族ポリマレイミドエステル化合物類、脂肪族/脂環族マレイミドアルコールと各種脂肪族/脂環族ポリイソシアネートとをウレタン化反応して得られる脂肪族/脂環族ポリマレイミドウレタン化合物類等を挙げることができる。
【0153】
具体的には、炭素数1~6のアルキル基、より好ましくは直鎖状アルキル基を有するマレイミドアルキルカルボン酸又はマレイミドアルキルカルボン酸エステルと、数平均分子量100~1000のポリエチレングリコール及び/又は数平均分子量100~1000のポリプロピレングリコール及び/又は数平均分子量100~1000のポリテトラメチレングリコールとを、脱水エステル化反応又はエステル交換反応して得られる下記一般式(X1)及び一般式(X2)で表される脂肪族ビスマレイミド化合物等を挙げることができる。
【0154】
(式中、mは1~6の整数、nは2~23の値、R1は水素原子又はメチル基を表す。)
【0155】
(式中、mは1~6の整数、pは2~14の値を表す。)
【0156】
<<(4)多官能芳香族マレイミド>>
多官能芳香族マレイミド(4)としては、例えば、N,N’-(4,4’-ジフェニルメタン)ビスマレイミド、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,2’-ビス-(4-(4-マレイミドフェノキシ)プロパン、N,N’-(4,4’-ジフェニルオキシ)ビスマレイミド、N,N’-p-フェニレンビスマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-2,4-トリレンビスマレイミド、N,N’-2,6-トリレンビスマレイミド、マレイミドカルボン酸と各種芳香族ポリオールとを脱水エステル化し、又はマレイミドカルボン酸エステルと各種芳香族ポリオールとをエステル交換反応して得られる芳香族ポリマレイミドエステル化合物類、マレイミドカルボン酸と各種芳香族ポリエポキシドとをエーテル開環反応して得られる芳香族ポリマレイミドエステル化合物類、マレイミドアルコールと各種芳香族ポリイソシアネートとをウレタン化反応して得られる芳香族ポリマレイミドウレタン化合物類等を挙げることができる。
【0157】
これらの中でも、マレイミド化合物は、多官能であることが好ましい。マレイミド化合物は、ビスマレイミド骨格を有することが好ましい。マレイミド化合物は、1種を単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0158】
マレイミド化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、100以上、200以上、500以上、750以上、1,000以上、2000以上、または、100,000以下、50,000以下、10,000以下、5,000以下、4,000以下、3,500以下とすることができる。
【0159】
マレイミド化合物の含有量は、典型的には、硬化性組成物乃至は硬化性樹脂積層体中、固形分全量基準で、0.5~50質量%、1~40質量%または1.5~30質量%とすることができる。
また、別の観点では、硬化性組成物乃至は硬化性樹脂積層体中、所定ポリフェニレンエーテルとマレイミド化合物との配合比率は、固形分比として、9:91~99:1、17:83~:95:5、または、25:75~90:10とすることができる。
また、硬化性組成物乃至は硬化性樹脂積層体がマレイミド化合物と架橋型硬化剤とを含む場合、マレイミド化合物と架橋型硬化剤との配合比率は、固形分比(マレイミド化合物:架橋型硬化剤)として、80:20~10:90とすることが好ましく、70:30~20:80とすることがより好ましい。このような範囲とすることで、低誘電特性と耐熱性に優れる硬化物が得られる。
【0160】
<<<エラストマー>>>
エラストマーは、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-プロピレンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン-プロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系合成ゴム、天然ゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマー、シリコーン系エラストマー等が挙げられる。
【0161】
ポリフェニレンエーテルとの相溶性および誘電特性の観点から、エラストマーの少なくとも一部はスチレン系エラストマーが好ましい。スチレン系エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー等のスチレン-ブタジエン共重合体;スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー等のスチレン-イソプレン共重合体;スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロックコポリマー、等が挙げられる。得られる硬化物の誘電特性が特に良好であることから、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー等の不飽和炭素結合を有しないスチレン系エラストマーが好ましい。
【0162】
スチレン系エラストマーにおけるスチレンブロックの含有比率は、10~70質量%、30~60質量%、または40~50質量%であることが好ましい。スチレンブロックの含有比率は、1H-NMRにより測定されたスペクトルの積分比から求めることができる。
【0163】
ここでスチレン系エラストマーの原料モノマーとしては、スチレンだけでなく、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン等のスチレン誘導体が含まれる。
【0164】
エラストマー100重量%に占めるスチレン系エラストマーの含有割合は、例えば、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、100質量%としてもよい。
【0165】
エラストマーは他の成分と反応する官能基(結合を含む)を有していても良い。
【0166】
例えば、反応性官能基として不飽和炭素結合を有していても良い。エラストマーをこのように構成することで、不飽和炭素結合(例えば、分岐ポリフェニレンエーテルが有する不飽和炭素結合)に架橋することができ、ブリードアウトのリスクを低減するなどの効果がある。
【0167】
エラストマーは、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、これらの無水物もしくはエステルなどを使用して変性されていてもよい。また、さらにジエン系エラストマーの残存不飽和結合に水添加して得られたものであってもよい。
【0168】
エラストマーの数平均分子量は、1,000~150,000としてもよい。数平均分子量が前記下限値以上であると低熱膨張性に優れ、前記上限値以下であると他の成分との相溶性に優れる。
【0169】
エラストマーの含有量は、硬化性組成物乃至は硬化性樹脂積層体中、所定ポリフェニレンエーテル100質量部に対して10~300質量部としてもよい。あるいは、エラストマーの含有量は、硬化性組成物乃至は硬化性樹脂積層体中の固形分全量基準で、3~65質量%としてもよい。上記範囲内の場合、良好な引張特性、密着性、耐熱性をバランスよく実現できる。
【0170】
<<<<<<硬化性樹脂積層体の効果>>>>>>
本発明の硬化性樹脂積層体は、前記第2の樹脂層と被着対象物(銅箔等)とが接触するように被着対象物上に配置し、加熱圧着することで、被着対象物(銅箔等)の凹凸部に第2の樹脂層が隙間なく充填され、その後、硬化性樹脂積層体を硬化することにより、第1の樹脂層、第2の樹脂層、及び前記樹脂層間の界面にて架橋反応が生じ、被着対象物と硬化性樹脂積層体が強固に密着することで、優れたピール強度が得られる。
【0171】
<<<<<<硬化性樹脂積層体の製造方法>>>>>>
<<<<<原料>>>>>
硬化性樹脂積層体は、上述した第1の硬化性組成物と第2の硬化性組成物を必要に応じて溶媒等により希釈して溶液とし、基材フィルムや基板上に塗布、乾燥して得ることができる。
【0172】
硬化性組成物の希釈に用いる溶媒の含有量は特に限定されず、硬化性組成物の用途や所望の粘度に応じて適宜調整可能である。
【0173】
<<<<溶媒>>>>
本発明の硬化性組成物に使用可能な溶媒の一例としては、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン等の従来使用可能な溶媒の他、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(CA)、メチルエチルケトン、酢酸エチル、等の比較的安全性の高い溶媒等が挙げられる。なお、溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)であってもよい。溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0174】
<<<<<製造工程>>>>>
以下、硬化性樹脂積層体の製造工程の一例について説明する。
【0175】
<<<<ドライフィルム>>>>
本発明のドライフィルムは、硬化性樹脂積層体の少なくとも片面が、フィルムで支持又は保護されてなることを特徴とする。
【0176】
支持体となるフィルム(基材フィルム)は特に限定されず、銅箔等の金属箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等のフィルム、とすることができる。なお、これらのフィルムは、ドライフィルムの支持体やカバーフィルムとして使用することもできる。
【0177】
ドライフィルムの製造方法は、例えば、基材フィルム上に第2の硬化性組成物の溶液をアプリケーター等により塗工、乾燥させて第2の樹脂層を形成し、次いで、第2の樹脂層上に第1の硬化性組成物の溶液を塗工、乾燥させて第1の樹脂層を形成することで、基材フィルム上に第2の樹脂層及び第1の樹脂層を順に積層した2層の硬化性樹脂積層体を有するドライフィルムを形成することができる。
また、前記2層の硬化性樹脂積層体の第1の樹脂層上には、さらに第2の樹脂層を形成することで、第1の樹脂層の両面に第2の樹脂層を有する3層の硬化性樹脂構造体を有するドライフィルムを形成することができる。
【0178】
樹脂層を形成した後に、必要に応じてその他の層(例えば、カバーフィルム)を設ける工程を実施してもよい。
【0179】
硬化性樹脂積層体を有するドライフィルムは、上述した基材フィルム上に樹脂層を順に積層させる工程に替えて、第1の樹脂層を有する第1のドライフィルム及び/又は第2の樹脂層を有する第2のドライフィルムを予め準備しておき、これらを貼り合せ、さらに基材フィルムを剥離して貼り合せることで、前記2層の硬化性樹脂積層体や前記3層の硬化性樹脂積層体が基材フィルムで挟持された構造のドライフィルムを作製することができる。
【0180】
硬化性組成物の塗工及び乾燥は、公知の方法及び条件によって実施することができる。例えば、コンマコーター、ブレードコーター、リップコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、リバースコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、スプレーコーター等の公知の塗工方法により、均一な厚さの硬化性組成物を得る。
【0181】
その後、塗工によって得られた硬化性組成物の塗膜を、60~130℃の温度で1~30分間加熱乾燥することで、乾燥塗膜からなる樹脂層を形成することができる。加熱乾燥は、熱風循環式乾燥炉、IR炉、ホットプレート、コンベクションオーブン等の公知の加熱手段によって実施することができる。
【0182】
塗工条件や硬化性組成物の粘度を変更することで、樹脂層の厚さを調整することができる。
【0183】
<<<<<<硬化性樹脂積層体の使用方法及び用途>>>>>>
本発明の硬化性樹脂積層体は、一例として、第2の樹脂層が表層側となるように、適宜の基板上に形成した後、第2の樹脂層に導体層(銅箔等)を圧着して使用される。基板上への形成方法としては、第1の硬化性組成物及び第2の硬化性組成物を基板上に塗工及び乾燥して形成してもよいし、上述したドライフィルムの形態を介して、基板上に形成してもよい。
【0184】
基板としては、予め回路形成されたプリント配線基板やフレキシブルプリント配線基板の他、紙-フェノール樹脂、紙-エポキシ樹脂、ガラス布-エポキシ樹脂、ガラス-ポリイミド、ガラス布/不繊布-エポキシ樹脂、ガラス布/紙-エポキシ樹脂、合成繊維-エポキシ樹脂、フッ素樹脂・ポリエチレン・PPO・シアネートエステル等の複合材を用いた全てのグレード(FR-4等)の銅張積層板、ポリイミドフィルム、PETフィルム、ガラス基板、セラミック基板、ウエハ板等を用いることができる。
【0185】
基板上に塗工及び乾燥して基板上に形成する場合は、例えば、基板上に第1の硬化性組成物の溶液を塗工及び乾燥させて第1の樹脂層を形成し、次いで、第1の樹脂層上に第2の硬化性組成物の溶液を塗工及び乾燥させて第2の樹脂層を形成することで、基板上に第1の樹脂層及び第2の樹脂層の順で積層した硬化性樹脂積層体を形成することができる。
【0186】
基板上に塗工及び乾燥は、公知の方法及び条件によって実施することができ、上述したドライフィルムの製造方法と同様の塗工及び乾燥方法を用いることができる。
【0187】
ドライフィルムの形態を介して基板上に形成する場合は、例えば、基材フィルムにて挟持された2層の硬化性樹脂積層体を有するドライフィルムの場合は、第1の樹脂層に接する基材フィルムを剥離した後、第1の樹脂層が基板と接するように配置する。次いで、真空ラミネーター等を用いて、第2の樹脂層に接する基材フィルム側から加熱加圧することで基板にドライフィルムをラミネートし、常温まで冷却した後に表層の基材フィルムを剥離することで、基板上に第1の樹脂層及び第2の樹脂層の順で積層した硬化性樹脂積層体を形成することができる。
【0188】
基材上へのドライフィルムのラミネートは、公知の方法及び条件によって実施することができる。中でも、ボイド等が発生しないことから真空ラミネーターを用いることが好ましく、温度条件が80~160℃、時間条件が10~120秒の範囲でラミネートすることできる。
【0189】
その後、硬化性樹脂積層体の表層側となる第2の樹脂層上に銅箔等の被着対象を配置し、真空ラミネーターや真空プレス機を用いて加熱加圧することで、第2の樹脂層上に導体層を形成する。その後、硬化性樹脂積層体を適宜の方法により熱硬化させる。
【0190】
熱硬化工程は、例えば、熱風循環式乾燥炉により100~220℃、30~120分間加熱することにより、硬化性樹脂積層体は熱硬化反応を生じ、硬化物が形成される。
【0191】
本発明の硬化性樹脂積層体及びドライフィルムは、回路基板上に絶縁膜を形成するために好適に使用され、層間接着剤、電磁波シールド層、又は、層間絶縁層の形成に好適である。
【実施例】
【0192】
以下、実施例及び比較例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下には何ら限定されない。
【0193】
<<PPE樹脂の合成>>
<PPE-1(分岐PPE樹脂)の合成>
3Lの二つ口ナスフラスコに、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)2.6gと、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)3.18mLを加えて十分に溶解させ、10ml/minにて酸素を供給した。原料フェノール類である2,6-ジメチルフェノール105gと2-アリルフェノール13gとをトルエン1.5Lに溶解させ原料溶液を調製した。この原料溶液をフラスコに滴下し、600rpmの回転速度で攪拌しながら40℃で6時間反応させた。反応終了後、メタノール20L:濃塩酸22mLの混合液で再沈殿させてろ過にて取り出し、80℃で24時間乾燥させ、分岐PPE樹脂であるPPE-1を得た。
【0194】
PPE-1の数平均分子量は20,000、重量平均分子量は60,000であった。
【0195】
PPE-1のコンフォメーションプロットの傾きは0.31であった。
【0196】
<PPE-2(分岐PPE樹脂)の合成>
3Lの二つ口ナスフラスコに、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)2.6gと、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)3.18mLを加えて十分に溶解させ、10ml/minにて酸素を供給した。原料フェノール類である2,6-ジメチルフェノール105gとオルトクレゾール4.89gとをトルエン1.5Lに溶解させ原料溶液を調製した。この原料溶液をフラスコに滴下し、600rpmの回転速度で攪拌しながら40℃で6時間反応させた。反応終了後、メタノール20L:濃塩酸22mLの混合液で再沈殿させてろ過にて取り出し、80℃で24時間乾燥させ、分岐PPE樹脂を得た。
【0197】
滴下漏斗を備えた1Lの二つ口ナスフラスコに、50gの分岐PPE樹脂、変性用化合物としてアリルブロミド4.8g、NMP300mLを加え、60℃で攪拌した。その溶液に5MのNaOH水溶液5mLを滴下した。その後、さらに60℃で5時間攪拌した。次に、塩酸で反応溶液を中和した後、メタノール5L中に再沈殿させて濾過にて取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄後、80℃で24時間乾燥させ、分岐PPE樹脂であるPPE-2を得た。
【0198】
PPE-2の数平均分子量は19,000、重量平均分子量は66,500であった。
【0199】
PPE-2のコンフォメーションプロットの傾きは0.33であった。
【0200】
<非分岐PPE樹脂の合成>
原料フェノール類である2-アリル-6-メチルフェノール7.6g、2,6-ジメチルフェノール34gをトルエン0.23Lに溶解させた原料溶液に水を34mL添加した以外はPPE-1と同様の合成方法に基づき非分岐PPE樹脂を得た。
【0201】
非分岐PPE樹脂の数平均分子量は1,000、重量平均分子量は2,000であった。
【0202】
非分岐PPE樹脂のコンフォメーションプロットの傾きは測定不能であった。
【0203】
なお、各PPE樹脂の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めた。GPCにおいては、Shodex K-805Lをカラムとして使用し、カラム温度を40℃、流量を1mL/min、溶離液をクロロホルム、標準物質をポリスチレンとした。
【0204】
<PPE樹脂の溶剤溶解性>
各PPE樹脂の溶剤溶解性を確認した。
【0205】
分岐PPE樹脂-1、2は、シクロヘキサノンに可溶であった。
【0206】
非分岐PPE樹脂は、シクロヘキサノンに可溶ではなく、クロロホルムには可溶であった。
<<<硬化性組成物の調製/ドライフィルムの作成>>>
以下のようにして、各実施例及び各比較例に係る硬化性組成物のワニス及びドライフィルムを得た。
<<実施例1>>
<第1の樹脂層用硬化性組成物の調製>
PPE-1:100質量部およびスチレンエラストマー(旭化成 株式会社:商品名「H1051」):49質量部に、溶剤としてシクロヘキサノン:540質量部を加えて40℃にて30分混合、攪拌して完全に溶解させた。これによって得たPPE樹脂溶液に、架橋型硬化剤としてTAIC(三菱ケミカル株式会社製):60質量部、球状シリカフィラー(アドマテックス株式会社製:商品名「SC2500-SVJ」):534質量部、マレイミド樹脂(Designer Molecules社製:商品名「BMI-3000J」、Mw=3,000):16質量部、を添加してこれを混合した後、三本ロールミルで分散させた。最後に、過酸化物であるα,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン(日本油脂株式会社製:商品名「パーブチルP-40」)を3質量部配合し、マグネチックスターラーにて攪拌した。以上のようにして、実施例1の第1の樹脂層用硬化性組成物のワニスを得た。
【0207】
次いで、厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡株式会社製:商品名「TN-200」)上に、実施例1の第1の樹脂層用硬化性組成物のワニスを乾燥後の樹脂層の厚さが29μmとなるように、アプリケーターにて塗布、90℃5分間乾燥し、実施例1の第1の樹脂層を備えるドライフィルムを作製した。
【0208】
<第2の樹脂層用硬化性組成物の調製>
上述した第1の樹脂層用硬化性組成物において、球状シリカフィラーの含有量を0質量部とした以外は同様の方法で実施例1の第2の樹脂層用硬化性組成物のワニスを得た。
【0209】
次いで、厚さ100μmのPETフィルム上に、実施例1の第2の樹脂層用硬化性組成物のワニスを乾燥後の樹脂層の厚さが2μmとなるように、アプリケーターにて塗布、90℃5分間乾燥し、実施例1の第2の樹脂層を備えるドライフィルムを作製した。
【0210】
上述した第1の樹脂層を備えるドライフィルムと、第2の樹脂層を備えるドライフィルムとを、樹脂層同士が接するように配置し、名機製作所製真空ラミネーターMVLP-500を用いて貼り合せ、実施例1のドライフィルムを得た。
【0211】
<<実施例2-13、比較例1-3>>
各成分と含有量を表に示す数値とした以外は実施例1と同様に、第1及び第2の樹脂層用硬化性組成物を調整し、実施例2-13、比較例1-3に係るドライフィルムを作製した。
【0212】
<<実施例14>>
第1の樹脂層を備えるドライフィルムと、第2の樹脂層を備えるドライフィルムとを貼り合せた後、第1の樹脂層側のPETフィルムを剥離し、更に第2の樹脂層を備えるドライフィルムを貼り合せ、実施例14に係るドライフィルムを作製した。
【0213】
<<比較例4-10>>
第1の樹脂層を備えるドライフィルムを作製し、かかる樹脂層に接するようにPETフィルムを貼り合せ、比較例4-10に係るドライフィルムを作製した。
【0214】
<<<硬化物の作製>>>
実施例及び比較例の各ドライフィルムの第1の樹脂層側のPETフィルムを剥離後、低粗度銅箔(FV-WS(古河電機社製):Rz=1.2μm)の光沢面に第1の樹脂層が接するようにドライフィルムを配置し、真空ラミネーターにてラミネートした。次いで、残るPETフィルムを剥離した後、イナートオーブンを用いて窒素を完全に充満させて200℃まで昇温後60分硬化、実施例及び比較例の各硬化膜を得た。
【0215】
なお、比較例3のドライフィルムでは硬化膜を作製することができなかった。
【0216】
<<<評価>>>
前述した硬化物の硬化膜について、以下の評価を行った。
【0217】
<<CTE:熱膨張率>>
硬化膜を長さ3cm、幅0.3cmに切り出し、ティー・エイ・インスツルメント社製TMA(Thermomechanical Analysis)Q400を用いて、引張モードで、チャック間16mm、荷重30mN、窒素雰囲気下、20~250℃まで5℃/分で昇温し、次いで、250~20℃まで5℃/分で降温して測定した。降温時における100℃から50℃の平均熱膨張率を求めた。
【0218】
<<ヤング率及び破断ひずみ>>
硬化膜を長さ8cm、幅0.5cmに切り出し、ヤング率及び破断ひずみを下記条件にて測定した。
なお、ヤング率は、得られた応力ひずみ線図の応力が5MPaから10MPaにおけるひずみの傾きにより求めた。
[測定条件]
試験機:引張試験機EZ-SX(株式会社島津製作所製)
チャック間距離:50mm
試験速度:1mm/min
伸び計算:(引張移動量/チャック間距離)×100
【0219】
<<誘電率>>
比誘電率Dkおよび誘電正接Dfは、以下の方法に従って測定した。
硬化膜を長さ80mm、幅45mmに切断したものを試験片としてSPDR(Split Post Dielectric Resonator)共振器法により測定した。測定器には、キーサイトテクノロジー合同会社製のベクトル型ネットワークアナライザE5071C、SPDR共振器、計算プログラムはQWED社製のものを用いた。条件は、周波数10GHz、測定温度25℃とした。
【0220】
<<ピール強度>>
銅ベタ(全面銅箔)の銅張積層板の表面をメック社製CZ-8100によって前処理した。次いで、実施例1-13、比較例1-3のドライフィルムの第1の樹脂層側のPETフィルム、実施例14、比較例4-10の片面のPETフィルムを剥離し、露出した樹脂層と前記処理面が接するように真空ラミネーターにて貼り合せた。その後、残るPETフィルムを剥離して、露出した樹脂層上に低粗度銅箔(FV-WS(古河電機社製):Rz=1.2μm)の粗面が接するように真空ラミネーターにて貼り合せた後、イナートオーブンを用いて窒素を完全に充満させて200℃まで昇温後60分硬化して、ピール強度評価用基板を作製した。
上述したピール強度評価用基板の低粗度銅箔部に、幅10mm、長さ100mmの切込みをいれ、この一端を剥がしてつかみ具で掴み、下記条件にて90°ピール強度測定を行った。
[測定条件]
試験機:引張試験機EZ-SX(株式会社島津製作所製)
試験速度:1mm/min
【0221】
【0222】