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特許7705692ラインセンサの劣化評価方法、スペクトル計測装置及びコンピュータ可読媒体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-02
(45)【発行日】2025-07-10
(54)【発明の名称】ラインセンサの劣化評価方法、スペクトル計測装置及びコンピュータ可読媒体
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/00 20060101AFI20250703BHJP
   G01J 1/00 20060101ALI20250703BHJP
   H10F 39/10 20250101ALI20250703BHJP
【FI】
G01M11/00 T
G01J1/00 B
H10F39/10 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023520627
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2021017881
(87)【国際公開番号】W WO2022239110
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2024-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】河野 夏彦
(72)【発明者】
【氏名】守屋 正人
【審査官】貝沼 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-073863(JP,A)
【文献】特開昭63-154932(JP,A)
【文献】特開2006-041046(JP,A)
【文献】特表2015-521367(JP,A)
【文献】特開平06-188502(JP,A)
【文献】特表2013-536566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M11/00
G01J1/00-G01J1/60
G01J3/00-G01J3/52
G01J9/00
G01N21/00-G01N21/61
H10F39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラインセンサを用いてパルスレーザ光の干渉縞を検出することと、
前記ラインセンサの少なくとも一部のセンサチャンネル範囲に含まれる複数のセンサチャンネルのそれぞれから前記干渉縞の光強度に応じて得られる信号値に基づいて、前記センサチャンネル毎に又は前記センサチャンネルのグループ毎に、劣化の指標となる評価値を算出して前記評価値を記憶装置に記憶することと、
前記評価値を基に前記ラインセンサの劣化状況を判定することと、
前記評価値の最大値、最小値及び平均値のうち少なくとも1つを求めることと、
を含むラインセンサの劣化評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載のラインセンサの劣化評価方法であって、
前記評価値は、前記センサチャンネルから得られる前記信号値が第1の閾値を超える回数をカウントすることによって得られるカウント値である、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項3】
請求項2に記載のラインセンサの劣化評価方法であって、
前記カウント値は、前記カウントした回数を積算した値を第1の定数で割ることによって得られる値である、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項4】
請求項1に記載のラインセンサの劣化評価方法であって、
前記評価値は、前記信号値を積算することにより得られる光量積算値又は前記光量積算値を非線形変換することにより算出される値である、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項5】
請求項4に記載のラインセンサの劣化評価方法であって、
前記光量積算値は、前記信号値を積算した値を第2の定数で割ることによって得られる、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項6】
請求項4に記載のラインセンサの劣化評価方法であって、
前記光量積算値は、前記信号値から第3の定数を引いて得られる値を積算することによって得られる、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項7】
請求項4に記載のラインセンサの劣化評価方法であって、
前記非線形変換は、前記パルスレーザ光の照射エネルギ積算量とセンサ感度低下との関係を示すセンサ劣化特性を反映した変換である、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項8】
請求項1に記載のラインセンサの劣化評価方法であって、
前記劣化状況の判定は、前記評価値を第2の閾値と比較することにより行われる、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項9】
請求項に記載のラインセンサの劣化評価方法であって、
前記評価値は、値が小さいほど劣化が進んでいることを表す指標であり、
前記劣化状況の判定は、前記評価値の前記最小値、もしくは前記最大値と前記最小値との差分、もしくは前記平均値と前記最小値との差分と、第3の閾値とを比較することにより行われる、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項10】
請求項1に記載のラインセンサの劣化評価方法であって、
プロセッサが、
前記センサチャンネル毎の前記信号値のデータから前記評価値を算出する処理と、
前記評価値を前記記憶装置に記憶する処理と、
前記評価値を基に前記ラインセンサの劣化状況を判定し、判定結果を出力する処理と、
を実行する、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項11】
請求項1に記載のラインセンサの劣化評価方法であって、
前記判定結果を出力する処理は、
前記判定結果を表示装置に表示させる処理と、前記判定結果に基づく報知を行う処理と、前記判定結果をログに記録する処理とのうち少なくとも1つの処理を含む、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項12】
ラインセンサを用いてパルスレーザ光の干渉縞を検出することと、
前記ラインセンサの少なくとも一部のセンサチャンネル範囲に含まれる複数のセンサチャンネルのそれぞれから前記干渉縞の光強度に応じて得られる信号値に基づいて、前記センサチャンネル毎に又は前記センサチャンネルのグループ毎に、劣化の指標となる評価値を算出して前記評価値を記憶装置に記憶することと、
前記評価値を基に前記ラインセンサの劣化状況を判定することと、
前記ラインセンサによって検出される前記干渉縞の光強度分布からフリンジ次数を算出することと、を含み、
同心円状の前記干渉縞の中心からの距離rの位置における前記フリンジ次数をMavExとすると、MavExは、前記干渉縞の内側1番目の半径をrm1、内側2番目の半径をrm2として、次式、
MavEx=r/(rm2 -rm1
によって算出され、
前記評価値は、前記センサチャンネル範囲としての前記フリンジ次数の範囲を複数の区間に分けてグループ分けしたフリンジ次数グループ毎に、前記フリンジ次数の値をカウントすることにより得られるカウント値である、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項13】
ラインセンサを用いてパルスレーザ光の干渉縞を検出することと、
前記ラインセンサの少なくとも一部のセンサチャンネル範囲に含まれる複数のセンサチャンネルのそれぞれから前記干渉縞の光強度に応じて得られる信号値に基づいて、前記センサチャンネル毎に又は前記センサチャンネルのグループ毎に、劣化の指標となる評価値を算出して前記評価値を記憶装置に記憶することと、
前記評価値を基に前記ラインセンサの劣化状況を判定することと、
前記評価値の最大値を求めることと、を含み、
前記評価値の前記最大値が第2の閾値を超えた場合に、前記ラインセンサは正確な干渉
縞を検出できないおそれがあるセンサと判定される、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項14】
ラインセンサを用いてパルスレーザ光の干渉縞を検出することと、
前記ラインセンサの少なくとも一部のセンサチャンネル範囲に含まれる複数のセンサチャンネルのそれぞれから前記干渉縞の光強度に応じて得られる信号値に基づいて、前記センサチャンネル毎に又は前記センサチャンネルのグループ毎に、劣化の指標となる評価値を算出して前記評価値を記憶装置に記憶することと、
前記評価値を基に前記ラインセンサの劣化状況を判定することと、
前記評価値の最大値及び最小値を求めることと、を含み、
前記評価値の前記最大値と前記最小値との差分が第2の閾値を超えた場合に、前記ラインセンサは正確な干渉縞を検出できないおそれがあるセンサと判定される、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項15】
ラインセンサを用いてパルスレーザ光の干渉縞を検出することと、
前記ラインセンサの少なくとも一部のセンサチャンネル範囲に含まれる複数のセンサチャンネルのそれぞれから前記干渉縞の光強度に応じて得られる信号値に基づいて、前記センサチャンネル毎に又は前記センサチャンネルのグループ毎に、劣化の指標となる評価値を算出して前記評価値を記憶装置に記憶することと、
前記評価値を基に前記ラインセンサの劣化状況を判定することと、
前記評価値の最大値及び平均値を求めることと、を含み、
前記評価値の前記最大値と前記平均値との差分が第2の閾値を超えた場合に、前記ラインセンサは正確な干渉縞を検出できないおそれがあるセンサと判定される、
ラインセンサの劣化評価方法。
【請求項16】
パルスレーザ光が入射することにより干渉縞を生成する光学系と、
前記干渉縞を検出するラインセンサと、
前記ラインセンサから得られる情報を処理するプロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
前記ラインセンサの少なくとも一部のセンサチャンネル範囲に含まれる複数のセンサチャンネルのそれぞれから前記干渉縞の光強度に応じて得られる信号値に基づいて、前記センサチャンネル毎に又は前記センサチャンネルのグループ毎に、劣化の指標となる評価値を算出して前記評価値を記憶装置に記憶し、
前記評価値を基に前記ラインセンサの劣化状況を判定し、
前記評価値の最大値、最小値及び平均値のうち少なくとも1つを求める、
スペクトル計測装置。
【請求項17】
請求項1に記載のスペクトル計測装置であって、
前記光学系は、エタロン又はグレーティングを含み、
前記プロセッサは、前記ラインセンサから得られる情報を基に、前記パルスレーザ光の波長及びスペクトル線幅の少なくとも一方を計測する、
スペクトル計測装置。
【請求項18】
請求項1に記載のスペクトル計測装置と、
前記パルスレーザ光を出力するレーザ発振器と、
を備えるレーザ装置。
【請求項19】
非一時的なコンピュータ可読媒体であって、
プロセッサに、
パルスレーザ光の干渉縞を検出するラインセンサから出力される信号を取得する処理と、
前記ラインセンサの少なくとも一部のセンサチャンネル範囲に含まれる複数のセンサチャンネルのそれぞれから前記干渉縞の光強度に応じて得られる信号値に基づいて、前記センサチャンネル毎に又は前記センサチャンネルのグループ毎に、劣化の指標となる評価値を算出して前記評価値を記憶装置に記憶する処理と、
前記評価値を基に前記ラインセンサの劣化状況を判定する処理と、
前記評価値の最大値、最小値及び平均値のうち少なくとも1つを求める処理と、
を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラインセンサの劣化評価方法、スペクトル計測装置及びコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体露光装置においては、半導体集積回路の微細化及び高集積化につれて、解像力の向上が要請されている。このため、露光用光源から放出される光の短波長化が進められている。例えば、露光用のガスレーザ装置としては、波長約248nmのレーザ光を出力するKrFエキシマレーザ装置、ならびに波長約193nmのレーザ光を出力するArFエキシマレーザ装置が用いられる。
【0003】
KrFエキシマレーザ装置及びArFエキシマレーザ装置の自然発振光のスペクトル線幅は、350~400pmと広い。そのため、KrF及びArFレーザ光のような紫外線を透過する材料で投影レンズを構成すると、色収差が発生してしまう場合がある。その結果、解像力が低下し得る。そこで、ガスレーザ装置から出力されるレーザ光のスペクトル線幅を、色収差が無視できる程度となるまで狭帯域化する必要がある。そのため、ガスレーザ装置のレーザ共振器内には、スペクトル線幅を狭帯域化するために、狭帯域化素子(エタロンやグレーティング等)を含む狭帯域化モジュール(Line Narrow Module:LNM)が備えられる場合がある。以下では、スペクトル線幅が狭帯域化されるガスレーザ装置を狭帯域化ガスレーザ装置という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4629910号
【文献】英国特許第2374267号
【概要】
【0005】
本開示の1つの観点に係るラインセンサの劣化評価方法は、ラインセンサを用いてパルスレーザ光の干渉縞を検出することと、干渉縞の光強度に応じてラインセンサにおける少なくとも一部のセンサチャンネル範囲に含まれる複数のセンサチャンネルのそれぞれから得られる信号値に基づいて、センサチャンネル毎に又はセンサチャンネルのグループ毎に、劣化の指標となる評価値を算出して評価値を記憶装置に記憶することと、評価値を基にラインセンサの劣化状況を判定することとを含む。
【0006】
本開示の他の1つの観点に係るスペクトル計測装置は、パルスレーザ光が入射することにより干渉縞を生成する光学系と、干渉縞を検出するラインセンサと、ラインセンサから得られる情報を処理するプロセッサと、を備え、プロセッサは、ラインセンサの少なくとも一部のセンサチャンネル範囲に含まれる複数のセンサチャンネルのそれぞれから干渉縞の光強度に応じて得られる信号値に基づいて、センサチャンネル毎に又はセンサチャンネルのグループ毎に、劣化の指標となる評価値を算出して評価値を記憶装置に記憶し、評価値を基にラインセンサの劣化状況を判定する。
【0007】
本開示の他の1つの観点に係るコンピュータ可読媒体は、プロセッサに、パルスレーザ光の干渉縞を検出するラインセンサから出力される信号を取得する処理と、ラインセンサの少なくとも一部のセンサチャンネル範囲に含まれる複数のセンサチャンネルのそれぞれから干渉縞の光強度に応じて得られる信号値に基づいて、センサチャンネル毎に又はセンサチャンネルのグループ毎に、劣化の指標となる評価値を算出して評価値を記憶装置に記憶する処理と、評価値を基にラインセンサの劣化状況を判定する処理と、を実行させるためのプログラムを記録した非一時的なコンピュータ可読媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
図1図1は、エタロン分光器の概略構成を示した模式図である。
図2図2は、ラインセンサを用いて干渉縞の検出を行う場合の例を示す。
図3図3は、干渉縞の光強度分布の例を示すグラフであり、干渉縞の半径の二乗を求める計算方法を示す。
図4図4は、ラインセンサにおいて検出された干渉縞の光強度分布の例を示すグラフであり、内側1番目のフリンジの半径の二乗を求める計算方法を示す。
図5図5は、ラインセンサにおいて検出された干渉縞の光強度分布の例を示すグラフであり、内側2番目のフリンジの半径の二乗を求める計算方法を示す。
図6図6は、ラインセンサにおいて検出された干渉縞の光強度分布の例を示すグラフであり、算出されるフリンジ次数の値の具体例を示す。
図7図7は、フリンジ次数の値が1.21のフリンジから得られたスペクトル計測波形の例を示すグラフである。
図8図8は、比較例1に係るレーザ装置の構成を概略的に示す。
図9図9は、比較例2に係るレーザ装置の構成を概略的に示す。
図10図10は、劣化のないラインセンサを用いてフリーランスペクトルを検出した例を示すグラフである。
図11図11は、劣化したセンサチャンネルを含むラインセンサを用いてフリーランスペクトルを検出した例を示すグラフである。
図12図12は、実施形態1に係るレーザ装置の構成を概略的に示す。
図13図13は、ラインセンサから得られた1パルス目のフリンジ波形の例を示すグラフである。
図14図14は、図13に示す1パルス目のフリンジ波形において光量閾値を超えたセンサチャンネルのみをカウントした場合のセンサチャンネル毎のカウント値の例を示す図表である。
図15図15は、2パルス目のフリンジ波形の例を示すグラフである。
図16図16は、2パルス目終了時のセンサチャンネル毎のカウント値の例を示す図表である。
図17図17は、ラインセンサにおいて検出されたフリンジ波形の例を示すグラフである。
図18図18は、あらかじめ計算されたラインセンサのバックグラウンドノイズの平均値の例を示すグラフである。
図19図19は、図17のフリンジ波形から図18のバックグラウンドノイズの平均値を引いた光量値のフリンジ波形の例を示すグラフである。
図20図20は、50ビリオンパルス到達時のカウント値の例を示すグラフである。
図21図21は、実施形態2における1パルス目のフリンジ波形の例を示すグラフである。
図22図22は、センサチャンネル番号が101番目~110番目の範囲の各センサチャンネルについての1パルス目終了時の光量積算値の例を示す図表である。
図23図23は、2パルス目のフリンジ波形の例を示すグラフである。
図24図24は、センサチャンネル番号が101番目~110番目の範囲の各センサチャンネルについての2パルス目における光量の例を示す図表である。
図25図25は、センサチャンネル番号が101番目~110番目の範囲の各センサチャンネルについての2パルス目終了時の光量積算値の例を示す図表である。
図26図26は、50ビリオンパルス到達時の光量積算値の例を示すグラフである。
図27図27は、実施形態3における1パルス目のフリンジ波形の例を示すグラフである。
図28図28は、フリンジ次数のグループ毎にカウントされるMavExの値のカウント値の例を示す図表である。
図29図29は、50ビリオンパルス到達時のカウント値の例を示すグラフである。
図30図30は、実施形態4におけるフリンジ波形の例を示すグラフであり、MavExの値が0.5~1.5に相当する範囲のセンサチャンネルをカウントの対象とする例を示す。
図31図31は、50ビリオンパルス到達時のカウント値の例を示すグラフである。
図32図32は、50ビリオンパルス到達時の光量積算値の例を示すグラフである。
図33図33は、センサチャンネル毎にフリンジ光量が光量閾値を超えた回数をカウントして劣化状況を判定する処理の例を示すフローチャートである。
図34図34は、センサチャンネル毎にフリンジ光量の値を積算してラインセンサの劣化状況を判定する処理の例を示すフローチャートである。
図35図35は、ラインセンサのセンサ劣化特性の例を示すグラフである。
図36図36は、実施形態5に適用されるセンサ劣化特性を反映したルックアップテーブル(LUT1)の例を示すグラフである。
図37図37は、図26のグラフの縦軸を照射エネルギ積算量に換算したグラフである。
図38図38は、図37のグラフからLUT1を用いた変換で得られたセンサチャンネル毎の感度推定量を示すグラフである。
図39図39は、実施形態6に適用されるセンサ劣化特性及び感度低下分の補正を反映したルックアップテーブル(LUT2)の例を示すグラフである。
図40図40は、図37のグラフからLUT2を用いた変換で得られたセンサチャンネル毎の感度推定量を示すグラフである。
図41図41は、露光装置の構成例を概略的に示す。
【実施形態】
【0009】
-目次-
1.用語・技術の説明
1.1 エタロン分光器の原理
1.2 計測波長の計算
1.3 フリンジ次数MavExの説明
2.比較例1に係るレーザ装置の概要
2.1 構成
2.2 動作
3.比較例2に係るレーザ装置の概要
3.1 構成
3.2 動作
4.課題
5.実施形態1
5.1 構成
5.2 動作
5.3 作用・効果
6.実施形態2
6.1 構成
6.2 動作
6.3 作用・効果
7.実施形態3
7.1 構成
7.2 動作
7.3 作用・効果
8.実施形態4
8.1 構成
8.2 動作
8.3 作用・効果
9.実施形態5
9.1 構成
9.2 動作
9.3 作用・効果
10.実施形態6
10.1 構成
10.2 動作
10.3 作用・効果
11.レーザ装置の他の例
12.プログラムを記録したコンピュータ可読媒体について
13.電子デバイスの製造方法
14.その他
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0010】
1.用語・技術の説明
1.1 エタロン分光器の原理
図1は、エタロン分光器10の概略構成を示した模式図である。図1に示すように、エタロン分光器10は、拡散素子12と、FP(Fabry-Perot)エタロン14と、集光レンズ16と、ラインセンサ18とを備える。ラインセンサ18は、リニアイメージセンサであってもよいし、フォトダイオードアレイであってもよい。
【0011】
レーザ光は、拡散素子12に入射する。拡散素子12は、入射したレーザ光を散乱させる。この散乱光は、FPエタロン14に入射する。FPエタロン14を透過したレーザ光は、集光レンズ16に入射する。レーザ光は、集光レンズ16を透過し、焦点面上に干渉縞を生成する。ラインセンサ18は、焦点距離fである集光レンズ16の焦点面に配置される。集光レンズ16によって集光された透過光は、ラインセンサ18の位置に干渉縞(フリンジ)を生成させる。ラインセンサ18は、FPエタロン14によって生成された干渉縞の光強度を検出する。
【0012】
図2に、ラインセンサ18を用いて干渉縞IFの光強度を検出する場合の例を示す。図2の上段には干渉縞IFとラインセンサ18との位置関係を示す平面図が示されており、図2の下段にラインセンサ18から得られる検出信号の例が示されている。横軸は位置を表し、例えば、ラインセンサ18の各受光素子(センサチャンネル)の位置を示すセンサチャンネル番号であってよい。縦軸は検出された干渉縞IFの光強度を表し、例えば、各センサチャンネルから出力される検出信号のデジタル信号値であってもよいし、強度分布における最大値を「1」として規格化した値であってもよい。
【0013】
図2に示すように、ラインセンサ18の検出面(受光面)において干渉縞IFが当たる位置で高い光強度が検出される。なお、図2に示す干渉縞IFは、実線で示す同心円状のリングが光強度のピーク位置(明部)を表している。図2の下段に示すような、干渉縞IFの光強度分布を示す波形をフリンジ波形という。以下の説明では干渉縞IFの中心を「フリンジ中心」と呼ぶ。また、干渉縞IFの明部の各々を「フリンジ」と呼び、フリンジ中心に最も近いフリンジを1番目、その外側を2番目という具合に、フリンジの内側からフリンジに番号を付して、各フリンジを区別する。
【0014】
1.2 計測波長の計算
一般にエタロンの干渉縞は以下の式(1)で表される。
【0015】
【数1】
ここで、λはレーザ光の波長、nはエアギャップの屈折率、dはミラー間隔の距離、mは0でない整数、θはレーザ光の入射角、rは干渉縞の半径である。
【0016】
式(1)のように、干渉縞の半径rの二乗は、レーザ光の波長λと比例関係にある。そのため、検出した干渉縞からレーザ光全体のスペクトル線幅(スペクトルプロファイル)と中心波長とを検出し得る。スペクトル線幅と中心波長とは、検出した干渉縞から不図示の情報処理装置によって求めてもよいし、波長制御部(例えば図3の波長制御部60)で算出してもよい。
【0017】
図3は、ラインセンサ18において検出された干渉縞の光強度分布の例を示すグラフであり、横軸は検出面上の位置を、縦軸は光強度Iを示す。干渉縞の半径rの二乗は、干渉縞の半値の位置の内側の半径rの二乗と、外側の半径rの二乗との平均値から計算してもよい。すなわち、干渉縞の半径rの二乗は、下記の式(2)から求めてもよい。
【0018】
=(r +r )/2 ・・・(2)
干渉縞の半値とは、強度分布を示す波形におけるフリンジピークのピーク強度Imaxの半値(50%強度)Imax/2をさす。
【0019】
1.3 フリンジ次数MavExの説明
既述のとおり、レーザ光の波長λは干渉縞の半径rの二乗と比例関係にある。この関係を用いて、波長空間におけるフリンジピークの相対的な位置を表す指標としてフリンジ次数がある。フリンジ次数は以下のように計算される。
【0020】
まず、図3と同様にして、図4に示すように、内側1番目の2つのフリンジの各強度ピークから50%の高さに相当するセンサチャンネル位置(内側及び外側の両方)をそれぞれ計算する。強度ピークの50%高さに相当するセンサチャンネル位置は、前後2点の実チャンネルの線形補間により計算される。2つのフリンジの50%高さ内側同士の距離の2分の1をr11、50%高さ外側同士の距離の2分の1をr21として、r11とr21とを計算し、以下の式(3)から半径rm1を計算する。
【0021】
m1 =(r11 +r21 )/2 ・・・(3)
同様にして、図5に示すように、内側2番目の2つのフリンジの各強度ピークの50%高さ相当のセンサチャンネル位置(内側及び外側の両方)から、50%高さ内側同士の距離の2分の1をr12、50%高さ外側同士の距離の2分の1をr22として、r12とr22とを計算し、以下の式(4)から半径rm2を計算する。
【0022】
m2 =(r12 +r22 )/2 ・・・(4)
ここで、フリンジ中心からの任意の距離rに対し、その位置におけるフリンジ次数をMavExとすると、MavExは以下の式(5)で定義される。
【0023】
MavEx=r/(rm2 -rm1 )・・・(5)
図6に示すように、r=rm1におけるMavExが0.21であったとすると、r=rm2におけるMavExは1.21となる。このように、隣り合うフリンジにおいてフリンジ次数の差は必ず1となる。
【0024】
例えば、フリンジ中心から左半分の範囲において、MavExの値が0.5から1.5の間であるフリンジは、MavEx=1.21であるフリンジ1本だけとなる。このフリンジ次数の性質により、特定範囲のフリンジを選択して中心波長やスペクトル線幅を計算することが可能となる。図7には、MavEx=1.21のフリンジから得られたスペクトル計測波形の例を示す。図7の横軸は波長、縦軸は光強度を表す。
【0025】
2.比較例1に係るレーザ装置の概要
2.1 構成
図8は、比較例1に係るレーザ装置101の構成を概略的に示す図である。本開示の比較例とは、出願人のみによって知られていると出願人が認識している形態であって、出願人が自認している公知例ではない。図8に示すように、レーザ装置101は、チャンバ20と、電源26と、出力結合ミラー30と、狭帯域化モジュール32と、モニタモジュール40と、波長制御部60と、レーザ制御部61と、ドライバ62とを含む狭帯域化ガスレーザ装置である。
【0026】
出力結合ミラー30と狭帯域化モジュール32とは、レーザ共振器を構成する。チャンバ20は、レーザ共振器の光路上に配置される。狭帯域化モジュール32は、複数(例えば2個)のプリズム34と、グレーティング36と、回転ステージ38とを含む。
【0027】
プリズム34は、ビームエキスパンダとして機能するように配置される。グレーティング36は、入射角度と回折角度とが一致するようにリトロー配置される。プリズム34は、回転ステージ38の上に設置され、回転ステージ38によってプリズム34が回転することによって、グレーティング36への入射角度が変化するように配置される。
【0028】
チャンバ20は、ウインドウ22a,22bと、一対の電極24a,24bとを含む。チャンバ20は、レーザガスを内部に収容する。レーザガスは、例えば、レアガスとしてArガス又はKrガス、ハロゲンガスとしてFガス、バッファガスとしてNeガスを含んでいてもよい。
【0029】
電極24a,24bは、チャンバ20内に図8の紙面に対して垂直な方向(V方向)で対向し、電極24a,24bの長手方向がレーザ共振器の光路の方向と一致するように配置される。電極24a,24bは、電源26と接続される。
【0030】
電源26は、スイッチ28を含み、スイッチ28がオンになると、チャンバ20内の電極24a,24b間に高電圧を印加する。
【0031】
ウインドウ22a,22bは、電極24a,24b間での放電励起により増幅したレーザ光が通過するように配置される。
【0032】
出力結合ミラー30は、レーザ光の一部を反射し、他の一部を透過する膜がコートされる。
【0033】
モニタモジュール40は、ビームスプリッタ41と、ビームスプリッタ42と、集光レンズ43と、パルスエネルギモニタ44と、密封チャンバ45と、ラインセンサ52と、ラインセンサ53とを含む。
【0034】
ビームスプリッタ41は、出力結合ミラー30から出力されたレーザ光の光路上において、ビームスプリッタ41で反射したレーザ光がビームスプリッタ42に入射するように配置される。ビームスプリッタ41を透過したレーザ光は、レーザ装置101から出射される。露光装置302は、レーザ装置101が出射したレーザ光が入射するように配置される。
【0035】
ビームスプリッタ42は、ビームスプリッタ41で反射したレーザ光の光路上において、ビームスプリッタ42で反射したレーザ光がパルスエネルギモニタ44に入射するように配置される。パルスエネルギモニタ44は、フォトダイオード、光電管又はパイロ素子であってもよい。
【0036】
集光レンズ43は、ビームスプリッタ42を透過したレーザ光が入射するように配置される。
【0037】
密封チャンバ45は、拡散板46と、ファインエタロン47と、コースエタロン48と、ビームスプリッタ49と、集光レンズ50と、集光レンズ51とを含む。
【0038】
拡散板46は、集光レンズ43の集光位置近傍に配置される。拡散板46は、片面が平面、他の片面がスリガラス状に加工された合成石英による光学素子である。拡散板46は、不図示のOリングで密封チャンバ45にシールされている。
【0039】
ファインエタロン47は、拡散板46を透過したレーザ光がビームスプリッタ49を透過して入射するように配置される。ビームスプリッタ49は、拡散板46とファインエタロン47との間の光路上において、ビームスプリッタ49で部分反射したレーザ光がコースエタロン48に入射するように配置される。ファインエタロン47とコースエタロン48とは、それぞれ部分反射膜がコートされた2枚のミラーがスペーサを介して接合されたエアギャプエタロンであってよい。
【0040】
ファインエタロン47のフリースペクトラルレンジFSRfとコースエタロン48のフリースペクトラルレンジFSRcとは、以下の式(6)の関係を満たす。
【0041】
FSRf<FSRc ・・・(6)
フリースペクトラルレンジFSRは、以下の式(7)で表される。
【0042】
FSR=λ/(2nd) ・・・(7)
一般に、エタロンのフィネスをFとすると、分解能RはR=FSR/Fで表される。フィネスFが同じ場合は、FSRが小さくなると分解能Rが高くなる。しかし、FSRが小さくなると、波長がFSR分だけ変化した場合に略同じ干渉縞となるので、FSRの小さな1つのエタロンによる計測では区別がつかない。
【0043】
そこで、エキシマレーザのように、波長を約400pm程度変化させ、かつ高精度に波長を計測する場合は、ファインエタロン47とコースエタロン48とのそれぞれの干渉縞をそれぞれラインセンサ52とラインセンサ53とで計測することによって、高精度に波長を計測することができる。ファインエタロン47のFSRfは、例えば、FSRf=10pm、コースエタロン48のFSRcは、例えば、FSRc=400pmであってもよい。
【0044】
集光レンズ50は、ファインエタロン47を透過したレーザ光の光路上に配置され、密封チャンバ45に不図示のOリングでシールされている。集光レンズ51は、コースエタロン48を透過したレーザ光の光路上に配置され、密封チャンバ45に不図示のOリングでシールされている。集光レンズ51の焦点距離は、集光レンズ50の焦点距離よりも短い。
【0045】
ラインセンサ52とラインセンサ53とは、それぞれ集光レンズ50と集光レンズ51との焦点面の位置に配置される。ラインセンサ52とラインセンサ53とのそれぞれは、複数の受光素子が1次元に配列されており、受光した干渉縞の光強度に応じた検出信号を出力する。ラインセンサ52とラインセンサ53とのそれぞれには、受光量に応じた検出信号をデジタルデータに変換するA/D変換器を含む信号処理回路が搭載されている。ラインセンサ52,53のそれぞれの受光素子によって検出された光量は、例えば、12ビットのデジタル値で表される信号値としてラインセンサ52,53から出力される。
【0046】
受光素子は「画素」に相当しており、複数の受光素子のそれぞれをセンサチャンネルという。干渉縞の検出面上の位置は、センサチャンネルの位置を示すセンサチャンネル番号によって表すことができる。
【0047】
エタロンの干渉縞は、式(1)より式(8)で表される。
【0048】
mλ=2nd・cosθ ・・・(8)
波長制御部60は、ラインセンサ52と、ラインセンサ53と、レーザ制御部61と、ドライバ62とに通信可能に構成される。波長制御部60とレーザ制御部61とはプロセッサを用いて実現される。本開示のプロセッサとは、制御プログラムが記憶された記憶装置と、制御プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)とを含む処理装置である。プロセッサは本開示に含まれる各種処理を実行するために特別に構成又はプログラムされている。波長制御部60として機能するプロセッサと、レーザ制御部61として機能するプロセッサとを別々に備える構成であってもよいし、1つのプロセッサによって両方の機能を実現してもよい。
【0049】
レーザ制御部61は、電源26と、スイッチ28と、パルスエネルギモニタ44と、露光装置302の露光装置制御部310とに通信可能に構成される。ドライバ62は、回転ステージ38と通信可能に構成される。
【0050】
2.2 動作
レーザ制御部61は、露光装置制御部310から目標パルスエネルギEtと目標波長λtとのデータを読み込む。レーザ制御部61は、パルスレーザ光のパルスエネルギが目標パルスエネルギEt、発振波長が目標波長λtとなるように、電源26に充電電圧Vを送信し、波長制御部60に目標波長λtを送信する。レーザ制御部61は、露光装置制御部310から送信された発振トリガに基づいて、スイッチ28をオンさせる。
【0051】
スイッチ28がオンすると、電極24a,24b間に高電圧が印加され、放電が発生することによってレーザガスが励起される。レーザガスが励起されると、狭帯域化モジュール32と出力結合ミラー30とにより構成されるレーザ共振器でレーザ発振し、出力結合ミラー30から狭帯域化されたパルスレーザ光が出力される。
【0052】
出力結合ミラー30から出力され、ビームスプリッタ41によってサンプリングされたパルスレーザ光は、ビームスプリッタ42に入射する。ビームスプリッタ42の反射光はパルスエネルギモニタ44に入射し、ビームスプリッタ42の透過光は、密封チャンバ45の拡散板46に入射する。
【0053】
レーザ制御部61は、パルスエネルギモニタ44の検出結果に基づいて、パルスレーザ光のパルスエネルギが目標パルスエネルギEtとなるように、電源26の充電電圧Vを制御する。
【0054】
一方、波長制御部60は、コースエタロン48とファインエタロン47とによって生成されたそれぞれの干渉縞の光強度分布を、ラインセンサ53とラインセンサ52とによりパルス毎に計測して、データを読み込む。波長制御部60は、パルス毎に読み込んだ干渉縞の光強度分布のデータから、パルスレーザ光の計測波長λをパルス毎に計算する。計測波長λの算出は、パルス毎ではなく複数パルスによる積算や平均化を行ったデータから行ってもよい。波長制御部60は、計測波長λに基づいて、パルスレーザ光の発振波長が目標波長λtとなるように、ドライバ62を介してプリズム34の回転ステージ38を制御する。
【0055】
以上のように、レーザ装置101のパルスエネルギと発振波長とは、露光装置302によって与えられる目標パルスエネルギEtと目標波長λtとに安定化する。ここで、密封チャンバ45は密封されているため、コースエタロン48とファインエタロン47とのそれぞれにおける式(1)のエアギャップの屈折率nの差異は小さく抑制されており、コースエタロン48とファインエタロン47とのドリフトによる波長計測の誤差は低減される。
【0056】
3.比較例2に係るレーザ装置の概要
3.1 構成
図9は、比較例2に係るレーザ装置102の構成を概略的に示す図である。図9に示す構成について、図8と異なる点を説明する。図9に示すレーザ装置102は、図8のコースエタロン48に代えて、グレーティング分光器を備える。グレーティング分光器を用いてFSRc相当の波長範囲を計測し、ファインエタロン47と同時に干渉縞の計測を行うことにより、両者が連携して広範囲の波長を高精度に計測してもよい。レーザ装置102は、ビームスプリッタ70と、アパーチャ71と、ミラー72と、コリメートレンズ73と、コース用グレーティング74とを含む。
【0057】
ビームスプリッタ70は、集光レンズ43を通過したレーザ光の光路上に配置される。アパーチャ71は、ビームスプリッタ70で反射されたレーザ光が入射するように、集光レンズ43の集光位置近傍に配置される。
【0058】
ミラー72は、アパーチャ71を通過したレーザ光が入射するように配置される。コリメートレンズ73は、ミラー72で反射されたレーザ光が入射するように配置される。コース用グレーティング74は、コリメートレンズ73から入射したレーザ光をコリメートレンズ73に向けて反射するように配置される。
【0059】
ラインセンサ53は、コース用グレーティング74で反射されてコリメートレンズ73を通過したレーザ光が入射するように配置される。他の構成は図8と同様であってよい。
【0060】
3.2 動作
出力結合ミラー30から出力され、ビームスプリッタ41によってサンプリングされたパルスレーザ光は、ビームスプリッタ42に入射する。ビームスプリッタ42の透過光は、集光レンズ43を透過してビームスプリッタ70に入射する。
【0061】
ビームスプリッタ70の反射光はアパーチャ71に入射する。ビームスプリッタ70の透過光は、密封チャンバ45の拡散板46に入射する。
【0062】
アパーチャ71を通過したパルスレーザ光は、ミラー72で反射されてコリメートレンズ73によってコリメートされ、コース用グレーティング74に入射する。コース用グレーティング74によって回折されたパルスレーザ光は、コリメートレンズ73を透過してラインセンサ53の受光面の位置に干渉縞を生成する。
【0063】
以上のように、レーザ装置102によれば、グレーティング分光器によってコースエタロン48のフリースペクトラルレンジFSRc相当の波長範囲を計測することができる。したがって、図9に示すレーザ装置102は、レーザ装置101と同様に、ラインセンサ53とラインセンサ52とによりパルス毎に計測することで、連携して広範囲の波長を高精度に計測することができる。
【0064】
4.課題
モニタモジュール40のラインセンサ52,53には寿命がある。ラインセンサ52,53は、長期の使用によって劣化し、センサ感度が低下する。
【0065】
図10は、劣化のない状態のラインセンサ52を用いてフリーランスペクトルを検出した例を示すグラフである。図11は、劣化した状態のセンサチャンネルを含むラインセンサ52を用いてフリーランスペクトルを検出した例を示すグラフである。図10及び図11において、横軸はラインセンサ52のセンサチャンネル番号、縦軸は光強度の計測値である。
【0066】
図10図11とを比較すると明らかなように、劣化した状態のセンサチャンネルはセンサ感度が低下し、正確な計測値を得ることが困難になる。このような現象は、ラインセンサ52に限らず、ラインセンサ53など他のラインセンサについても同様である。各センサチャンネルの劣化の度合い(センサ感度の低下の度合い)は、各センサチャンネルに照射されるパルスレーザ光の照射エネルギの累積量と関係している。各センサチャンネルに照射されるパルスレーザ光の照射エネルギの累積量は、各センサチャンネルの受光積算量と言い換えてもよい。
【0067】
比較例1及び比較例2に示すレーザ装置101,102では、この劣化を想定してあらかじめ決められたショット数(ショットリミット)を超えて使用されたモニタモジュール40は一律に交換されていた。
【0068】
しかしながら、モニタモジュール40の使用状況やラインセンサ52,53の個体差によっては、ショットリミットを超えて使用してもリニアリティ誤差が許容できる範囲にあり、十分使用可能な状態のものが多く存在することが解っていた。
【0069】
したがって、半導体製造工場等のフィールドにおいて、ラインセンサ52,53のセンサ感度のユニフォーミティの劣化、あるいはエタロン計測器の計測リニアリティ誤差を評価して、問題のあるモニタモジュール40のみを交換することが経済的に望ましい。このため、ラインセンサ52,53の個別の劣化状況を評価して交換の要否を判断する方策が望まれていた。
【0070】
5.実施形態1
5.1 構成
図12は、実施形態1に係るスペクトル計測装置150を含むレーザ装置110の構成を概略的に示す。図12に示す構成について、図8と異なる点を説明する。レーザ装置110は、図8の波長制御部60に、センサデータ管理部160が追加されている。センサデータ管理部160もまた波長制御部60やレーザ制御部61と同様に、プロセッサを用いて実現される。センサデータ管理部160は、カウンタ162と、演算部164と、記憶部166とを含む。スペクトル計測装置150は、モニタモジュール40と、波長制御部60とを含む。他の構成は図8と同様であってよい。なお、センサデータ管理部160は、図9の波長制御部60に加えられてもよい。
【0071】
5.2 動作
センサデータ管理部160の動作について説明する。ここではラインセンサ52を例に劣化評価方法を例示するが、ラインセンサ53など他のラインセンサの劣化評価方法も同様である。
【0072】
[ステップ1A]センサデータ管理部160は、ラインセンサ52のセンサチャンネル毎にフリンジパターンの光量が閾値を超えた回数を積算し、センサチャンネル毎のカウント値をセンサデータ管理部160内の記憶部166に記憶する。例えば、ラインセンサ52の各センサチャンネルのデジタル出力規格が12ビットならば、光量計測値を示すセンサチャンネルから出力される信号値は、0~4095の値となり得る。この場合、信号値が飽和しない程度にSN比を高くするため、フリンジピーク値が2000~3000となるように信号値が調整されることが多い。
【0073】
図13は、フリンジピーク値が2000~3000となるような条件で得られた1パルス目のフリンジ波形の例を示す。ここでは、光量閾値Th1を2000として、この光量閾値Th1を超えた場合のみ、その回数をセンサチャンネル毎にカウントする例を示す。2000に設定される光量閾値Th1は本開示における「第1の閾値」の一例である。図13は、センサチャンネル数が448chのラインセンサ52を用いて検出されたフリンジ波形の例である。図13において、光量閾値Th1を超えたフリンジピークは破線円で囲んで表示されている。
【0074】
図14に示す図表は、1パルス目のフリンジ波形において光量閾値Th1(=2000)を超えたセンサチャンネルのみをカウントした場合のセンサチャンネル毎のカウント値の例を示す。光量閾値Th1を超える光量が検出されたセンサチャンネルに対して「1」がカウントされる。
【0075】
続いて、2パルス目のフリンジ波形に対して、同様に、光量閾値Th1を超えたセンサチャンネルのみがカウントされ、前に記録した(前回の)カウント値に加算される。図15は、同じ448chのラインセンサ52上に検出された2パルス目のフリンジ波形の例である。図15において、光量閾値Th1を超える光量が検出されたセンサチャンネル番号は、64、174、175、272、273及び342である。この場合、図16に示すように、2パルス目終了時には、これらのセンサチャンネル番号について前回の(図14の)カウント値に「1」が加算され、カウント値が更新される。
【0076】
このようにして、センサデータ管理部160は、光量閾値Th1を超えた回数をセンサチャンネル毎に積算する。このカウント値は、各センサチャンネルの受光の累積による局所的な劣化を定量的に評価する指標(局所劣化の評価指標)として用いられる。カウント値が大きいほど、劣化の度合いが大きい状態と評価し得る。カウント値は本開示における「評価値」の一例である。
【0077】
光量閾値Th1を超えたセンサチャンネル毎の積算は、全てのパルスではなく、ある一定のパルス数毎に対して行ってもよい。例えば、10パルス毎に1パルスの頻度で、光量閾値Th1を超えたセンサチャンネル毎の積算をしてもよい。
【0078】
また、光量閾値Th1を超えたセンサチャンネルの積算は、1パルスで得られるフリンジ波形に対してだけでなく、ある一定のパルス数の積算で得られるフリンジ波形に対して行ってもよい。例えば、10パルスの照射を積算して得られた1つのフリンジ波形に対して、光量閾値Th1を超えたセンサチャンネルの積算をしてもよい。
【0079】
また、光量閾値Th1を超えたかどうかの判定については、図17に示されるような各センサチャンネルが検出した光量計測値をそのまま光量閾値Th1と比較する態様に限らない。例えば、図18に示すように、あらかじめラインセンサ52のバックグラウンドノイズの平均値を求めておき、各センサチャンネルが検出した光量計測値(図17)から、バックグラウンドノイズの平均値(図18)を引いた後のフリンジ波形(図19参照)に対して、光量閾値Th1を超えたかどうかの判定を行ってもよい。バックグラウンドノイズの平均値は本開示における「第3の定数」の一例である。
【0080】
[ステップ2A]センサデータ管理部160の演算部164は、ステップ1Aの手段にてカウントされた各センサチャンネルのカウント値について、最大値を毎回計算する。あるいは、最大値、最小値及び平均値を毎回計算し、最大値と最小値との差分もしくは最大値と平均値との差分を毎回計算する。ここでいう「毎回」とは、ラインセンサ52からフリンジ光量のデータが読み出される都度、という意味である。1パルスに1回のデータ読み出しが行われる場合には、1パルスの単位で毎回という意味であり、一定パルス数の積算でラインセンサ52から1回のデータ読み出しが行われる場合には、一定パルス数の単位で毎回という意味である。
【0081】
[ステップ3A]センサデータ管理部160は、ステップ2Aの手段にて得られるカウント値の最大値に対して閾値Th2を設け、最大値が閾値Th2を超えた場合に当該ラインセンサ52は正確なフリンジパターンが得られない劣化した状態のセンサと判定する。例えば、カウント値の最大値に対する閾値Th2を50,000,000,000(50ビリオン)として、図20のように、センサデータ管理部160に記録されるセンサチャンネル毎のカウント値の最大値が50ビリオンを超えた場合に、当該ラインセンサ52は正確なフリンジパターンが得られない劣化した状態と判定する。
【0082】
この最大値に対して適用した閾値判定の方法については、最大値と最小値との差分の値もしくは最大値と平均値との差分の値に対して適用してもよい。50ビリオンに設定される閾値Th2は本開示における「第2の閾値」の一例である。
【0083】
[ステップ4A]センサデータ管理部160は、ステップ2Aにてカウントされる値もしくは判定用の閾値Th2がオーバーフローを引き起こす場合、カウントされる値や閾値Th2は、ある一定の数値で割った値を用いてもよい。例えば、ステップ3Aで例示した閾値Th2は、50ビリオンを1,000,000で割った値、すなわち50,000としてもよい。この場合、ラインセンサ52の各センサチャンネルについて記録されるカウントの値についても、同様に1,000,000で割った値を積算するようにして、その最大値、もしくは最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分を計算して閾値判定を行ってもよい。除数の1,000,000は本開示における「第1の定数」の一例である。
【0084】
[ステップ5A]各センサチャンネルのカウント値及び閾値判定の結果は、レーザ装置110の稼働状況をモニターするユーザインターフェースにより表示されてもよい。例えば、センサデータ管理部160として機能するプロセッサは不図示の表示装置と接続され、表示装置にカウント値及び閾値判定の結果が表示されるように構成されてもよい。
【0085】
[ステップ6A]閾値判定に使われる値(実施形態1の場合、カウント値)が閾値Th2を超えた場合、ステップ5Aのユーザインターフェース上にワーニングを表示、もしくはワーニングの発生をログに記録してもよい。センサデータ管理部160は、判定結果を表示装置に表示させる処理と、判定結果をログに記録する処理と、判定結果に基づく報知を行う処理とのうち少なくとも1つの処理を実行し得る。
【0086】
〈その他〉
上記の動作は、エタロン分光器により形成されるフリンジパターンを用いて説明されているが、エタロン分光器だけでなくグレーティング分光器を対象として同様の動作を行ってもよい。なお、後述の実施形態2~6についてもエタロン分光器を用いる例を説明するが、グレーティング分光器を対象として実施形態2~6と同様の動作を行ってもよい。エタロン分光器やグレーティング分光器は本開示における「光学系」の一例である。
【0087】
5.3 作用・効果
実施形態1によれば、ラインセンサ52,53における特定のセンサチャンネルの感度低下を検知できるので、影響が小さなうちに劣化しているラインセンサ52もしくはラインセンサ53又はモニタモジュール40の交換が可能になる。これにより、波長やスペクトル線幅を適正に計測できる状態を維持することができる。
【0088】
また、実施形態1によれば、ラインセンサ52,53が実際に劣化した状態であることを検知してから、交換を実施することができるため、ショットリミットに基づき一律に交換する場合と比較して経済的に有利である。
【0089】
6.実施形態2
6.1 構成
実施形態2の構成は、図12に示す実施形態1と同様であってよい。
【0090】
6.2 動作
実施形態1と異なる点を説明する。実施形態1では、干渉縞の光強度に応じて出力される各センサチャンネルの信号値(光量に応じた値)が光量閾値Th1を超えた回数をセンサチャンネル毎にカウントしたが、実施形態2では、各センサチャンネルの信号値をセンサチャンネル毎に積算し、その光量積算値を用いて劣化状況を評価する。実施形態2におけるセンサデータ管理部160は、次のように動作する。
【0091】
[ステップ1B]センサデータ管理部160は、ラインセンサ52におけるセンサチャンネル毎にフリンジパターンの光量を積算し、センサチャンネル毎の光量積算値をセンサデータ管理部160内の記憶部166に記憶する。例えば図21は、センサチャンネル数が448chのラインセンサ52上に検出された1パルス目のフリンジ波形を表しており、1パルス目終了時におけるセンサチャンネル番号の101番目~110番目の各センサチャンネルの光量積算値は図22のようになる。
【0092】
続いて、同じ448chのラインセンサ52上に検出された2パルス目のフリンジ波形が図23のようなグラフとして得られた場合、101番目~110番目の各センサチャンネルにおける2パルス目の光量は図24に示すようになるが、センサデータ管理部160には、1パルス目と2パルス目との2パルス分の光量が積算された光量積算値が記憶され、2パルス目終了時において、101番目~110番目の各センサチャンネルにおける光量積算値は図25に示すようになる。このようにして、センサチャンネル毎に、検出されたフリンジ光量の積算値をセンサデータ管理部160にて管理する。光量積算値は本開示における「評価値」の一例である。
【0093】
光量の積算は、全てのパルスではなく、ある一定のパルス数毎に対して行ってもよい。例えば、10パルス毎に1パルスの頻度で、センサチャンネル毎の光量積算を行ってもよい。
【0094】
また、光量の積算は、1パルスで得られるフリンジ波形に対してだけでなく、ある一定のパルス数の積算で得られるフリンジ波形に対して行ってもよい。例えば、10パルスの照射を積算して得られた1つのフリンジ波形に対して、センサチャンネル毎の光量積算を行ってもよい。
【0095】
また、光量の積算は、あらかじめ計算しておいたバックグラウンドノイズの平均値を引いた後のフリンジ波形に対して行ってもよい。
【0096】
[ステップ2B]センサデータ管理部160の演算部164は、ステップ1Bの手段にて積算された各センサチャンネルの光量積算値について、最大値を毎回計算する。あるいは、各センサチャンネルの光量積算値について、最大値、最小値及び平均値を毎回計算し、最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分を毎回計算する。
【0097】
[ステップ3B]センサデータ管理部160は、ステップ2Bの手段にて得られる光量積算値の最大値に対して閾値Th3を設け、光量積算値の最大値が閾値Th3を超えた場合に、当該ラインセンサ52は正確なフリンジパターンが得られないセンサと判定する。
【0098】
図26は、50ビリオンパルス到達時のセンサチャンネル毎の光量積算値の例を示すグラフである。例えば、光量積算値の閾値Th3を100,000,000,000,000(100トリリオン)として、図26に示すように、センサデータ管理部160に記録されるセンサチャンネル毎の光量積算値の最大値が100トリリオンを超えた場合に、当該ラインセンサ52は正確なフリンジパターンが得られないと判定する。
【0099】
この最大値に対して適用した閾値判定の方法については、最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分に対して適用してもよい。100トリリオンに設定される閾値Th3は本開示における「第2の閾値」の一例である。
【0100】
[ステップ4B]ステップ3Bにおいて、ステップ2Bの光量積算値、もしくは判定用の閾値Th3がオーバーフローを引き起こす場合、積算される光量値や閾値Th3はある一定の数値で割った値を用いてもよい。例えば、ステップ2Bの光量積算値についての判定用の閾値Th3は、100トリリオンを1,000,000,000で割った値、すなわち100,000としてもよい。また、ラインセンサ52の各センサチャンネルについて記録される光量積算値についても同様に、1,000,000,000で割った値を記録するようにし、その最大値、もしくは最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分を計算して閾値判定を行ってもよい。除数の1,000,000,000は本開示における「第2の定数」の一例である。
【0101】
[ステップ5B]各センサチャンネルの光量積算値及び閾値判定の結果は、レーザ装置110の稼働状況をモニターするユーザインターフェースにより表示されてもよい。
【0102】
[ステップ6B]閾値判定に使われる値(実施形態2の場合、光量積算値)が閾値Th3を超えた場合、センサデータ管理部160は、ユーザインターフェース上にワーニングを表示させる処理と、ワーニングの発生をログに記録する処理と、判定結果に基づく報知を行う処理とのうち少なくとも1つの処理を実行し得る。
【0103】
6.3 作用・効果
実施形態2によれば、実施形態1よりも正確に各センサチャンネルの劣化状況を把握することができる。
【0104】
7.実施形態3
7.1 構成
実施形態3の構成は、図12に示す実施形態1と同様であってよい。
【0105】
7.2 動作
実施形態1と異なる点を説明する。実施形態3では、フリンジ次数MavExを利用して対象範囲を限定し、かつ、その対象範囲を複数の区間(グループ)にグループ分けしてグループ毎にカウントする。実施形態3におけるセンサデータ管理部160は、次のように動作する。
【0106】
[ステップ1C]実施形態3のセンサデータ管理部160は、グループ毎にカウントすることにより、実施形態1と同様の判定を行う。図27は、センサチャンネル数が1024chのラインセンサ52上に検出されたフリンジ波形の例を示すグラフである。例えば、図27のように、フリンジ中心から左半分の範囲においてMavExの値が0.5~1.5の間にあるフリンジを選択し中心波長やスペクトル線幅の計算を行う場合、カウントの対象とするMavExの範囲(対象範囲)は0.5~1.5だけでよい。
【0107】
このとき、例えば、MavExの値について、0.5~0.6,0.6~0.7,・・・,1.3~1.4,1.4~1.5とするように、「0.1」の範囲(区間)毎にMavExの対象範囲のグループ分けを行い、フリンジのMavExの値に応じてグループ毎にカウントする。「0.1」の範囲でグループ分けされた各グループは本開示における「フリンジ次数グループ」の一例である。MavExの対象範囲のグループ分け区分は「0.1」の他の値でもよい。
【0108】
図27に示す例の場合、MavExが0.5~1.5の間にあるフリンジのMavExは1.21となるが、その場合は図28に示すように「1.2~1.3」のグループに「1」とカウントする。もし、次のパルスのフリンジのMavExも同じく「1.2~1.3」の間にくる場合、MavExのグループ「1.2~1.3」のカウント値は「2」となる。
【0109】
フリンジから中心波長を計算する場合、左半分など片側だけでなく、左右両方のフリンジを用いて計算してもよい。また、フリンジからスペクトル線幅を計算する場合も、左側ではなく、右側のフリンジを用いて計算してもよい。
【0110】
フリンジ次数別のカウントは、全てのパルスではなく、ある一定のパルス数毎に対して行ってもよい。例えば、10パルス毎に1パルスの頻度で、フリンジ次数別にカウントを行ってもよい。
【0111】
また、フリンジ次数別のカウントは、1パルスで得られるフリンジ波形に対してだけでなく、ある一定のパルス数の積算で得られるフリンジ波形に対して行ってもよい。例えば、10パルスを積算して得られた1つのフリンジ波形に対して、フリンジ次数別にカウントを行ってもよい。
【0112】
また、フリンジ次数別のカウントは、あらかじめ計算しておいたバックグラウンドノイズの平均値を引いた後のフリンジ波形に対して行ってもよい。
【0113】
[ステップ2C]センサデータ管理部160の演算部164は、ステップ1Cの手段にてカウントされたMavExの各グループのカウント値について、最大値を毎回計算する。あるいは、各グループのカウント値について、最大値、最小値及び平均値を毎回計算し、最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分を毎回計算する。
【0114】
[ステップ3C]センサデータ管理部160は、ステップ2Cの手段にて得られるカウント値の最大値に閾値Th4を設け、その値が閾値Th4を超えた場合に当該ラインセンサは正確なフリンジパターンが得られないセンサと判定する。閾値Th4は本開示における「第2の閾値」の一例である。
【0115】
図29は、50ビリオンパルス到達時のグループ毎のカウント値の例を示すグラフである。例えば、カウント値の閾値Th4を50,000,000,000(50ビリオン)として、図29に示すように、センサデータ管理部160に記録されるMavExの各グループのカウント値の最大値が50ビリオンを超えた場合に、当該ラインセンサ52は正確なフリンジパターンが得られないと判定する。
【0116】
この閾値判定の方法については、最大値と最小値の差分、もしくは最大値と平均値の差分に対して行ってもよい。
【0117】
[ステップ4C]ステップ2Cにてカウントされる値、もしくは閾値Th4がオーバーフローを引き起こす場合、カウントされる値や閾値Th4はある一定の数値で割った値を用いてもよい。例えば、閾値Th4は、50ビリオンを1,000,000で割った値、すなわち50,000としてもよい。ラインセンサ52のセンサチャンネルの各グループに対して記録されるカウントの値についても、同様に1,000,000で割った値を積算するようにして、その最大値、もしくは最大値と最小値の差分、もしくは最大値と平均値の差分を計算して閾値判定を行ってもよい。
【0118】
[ステップ5C]各グループのカウント値及び閾値判定の結果は、レーザ装置110の稼働状況をモニターするユーザインターフェースにより表示されてもよい。
【0119】
[ステップ6C]閾値判定に使われる値(実施形態3の場合、カウント値)が閾値Th4を超えた場合、センサデータ管理部160は、ユーザインターフェース上にワーニングを表示させる処理と、ワーニングの発生をログに記録する処理と、判定結果に基づく報知を行う処理とのうち少なくとも1つの処理を実行し得る。
【0120】
MavExの値の範囲は、センサチャンネル番号の範囲と対応付けることができ、MavExの値による「0.1」ずつのグループ分けは、センサチャンネルのグループ分けに相当し得る。MavExのグループ毎に算出されるMavExの値のカウント値は、それぞれのグループに対応するセンサチャンネル範囲(グループ)の局所的な劣化を定量的に評価する指標として用いられる。このカウント値は本開示における「評価値」の一例である。
【0121】
7.3 作用・効果
実施形態3によれば、実施形態1及び実施形態2よりも、簡易的にラインセンサ52,53の劣化状況を把握することができる。
【0122】
8.実施形態4
8.1 構成
実施形態4の構成は、図12に示す実施形態1と同様であってよい。
【0123】
8.2 動作
実施形態4では、実施形態3のMavExの範囲に相当するセンサチャンネルを対象として、実施形態1もしくは実施形態2と同様の判定を行う。
【0124】
例えば、図30に示す例では、フリンジ中心から左半分の範囲においてMavExが0.5~1.5に相当する範囲のセンサチャンネルは130番目~300番目である。
【0125】
この範囲のセンサチャンネルのみを対象に、実施形態1もしくは実施形態2に示されるようなカウントの積算もしくは光量の積算を行い、それらの最大値、もしくは最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分を用いて同様の閾値判定を行う(図31及び図32参照)。
【0126】
カウントもしくは光量の積算は、全てのパルスではなく、ある一定のパルス数毎に対して行ってもよい。カウントもしくは光量の積算は、1パルスで得られるフリンジ波形に対してだけでなく、ある一定パルス数の積算で得られるフリンジ波形に対して行ってもよい。カウントもしくは光量の積算は、あらかじめ計算しておいたバックグラウンドノイズの平均値を引いた後のフリンジ波形に対して行ってもよい。
【0127】
図31は、50ビリオンパルス到達時のカウント値の例を示す。図32は、50ビリオンパルス到達時の光量積算値の例を示す。
【0128】
図33は、センサチャンネル毎にフリンジ光量が光量閾値Th1を超えた回数をカウントしてラインセンサ52の劣化状況を判定する処理の例を示すフローチャートである。
【0129】
ステップS11において、センサデータ管理部160は、フリンジデータの光量閾値Th1及びカウント値の最大値、もしくは最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分に閾値Th2を設定する。
【0130】
ステップS12において、ラインセンサ52からフリンジパターンの光量データを出力し、センサデータ管理部160は、ラインセンサ52から出力された光量データを取得する。
【0131】
ステップS13において、センサデータ管理部160は、センサチャンネル毎にフリンジ光量が光量閾値Th1を超えたか否かを判定する。
【0132】
ステップS14において、センサデータ管理部160は、フリンジ光量が光量閾値Th1を超えたセンサチャンネルは「1」を、超えないセンサチャンネルは「0」をカウントし、値を積算する。
【0133】
ステップS15において、センサデータ管理部160は、各センサチャンネルのカウント値の最大値を計算する。あるいは各センサチャンネルのカウント値の最大値、最小値及び平均値を計算し、最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分を計算する。
【0134】
ステップS16において、センサデータ管理部160は、カウント値の最大値、もしくは最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分がカウント値の閾値Th2を超えたか否かを判定する。
【0135】
ステップS17において、センサデータ管理部160は、カウント値の閾値Th2を超えた場合、フリンジパターンが正確に取得できないものと判定する。
【0136】
図34は、センサチャンネル毎にフリンジ光量の値を積算してラインセンサ52の劣化状況を判定する処理の例を示すフローチャートである。
【0137】
ステップS21において、センサデータ管理部160は、フリンジデータの光量積算値の最大値、もしくは最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分に閾値Th3を設定する。
【0138】
ステップS22において、ラインセンサ52からフリンジパターンの光量データを出力し、センサデータ管理部160は、ラインセンサ52から出力された光量データを取得する。
【0139】
ステップS24において、センサデータ管理部160は、センサチャンネル毎にフリンジ光量の値を積算する。
【0140】
ステップS25において、センサデータ管理部160は、各センサチャンネルの光量積算値の最大値を計算する。あるいは、各センサチャンネルの光量積算値の最大値、最小値及び平均値を計算し、最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分を計算する。
【0141】
ステップS26において、センサデータ管理部160は、光量積算値の最大値、もしくは最大値と最小値との差分、もしくは最大値と平均値との差分が光量積算の閾値Th3を超えたか否かを判定する。
【0142】
ステップS27において、センサデータ管理部160は、光量積算の閾値Th3を超えた場合、フリンジパターンが正確に取得できないものと判定する。
【0143】
8.3 作用・効果
実施形態4によれば、実施形態1や実施形態2よりも簡易的にセンサのライン劣化状況を把握することができる。また、実施形態4によれば、実施形態3よりも正確にラインセンサの劣化状況を把握することができる。
【0144】
9.実施形態5
9.1 構成
実施形態5の構成は、図12に示す実施形態1と同様であってよい。
【0145】
9.2 動作
実施形態5では、実施形態2における光量積算値の演算に関して、紫外線照射エネルギ積算量に依存する劣化量の補正を行う処理が追加される。ラインセンサ52,53は紫外線の照射エネルギ積算量(J/cm)に応じて感度低下の量は異なる。図35は、照射エネルギ積算量とセンサ感度低下との関係を示すセンサ劣化特性の例を示すグラフである。横軸は照射エネルギ積算量、縦軸はセンサ感度(%)を表す。例えば、図35のように照射エネルギ積算量の増大に伴い、劣化量(感度低下量)が鈍化する場合がある。その特性は、センサの構造や材質に依存する。
【0146】
そこで、実施形態5では、このセンサ劣化特性を反映したルックアップテーブル(LUT)をあらかじめ用意して(図36参照)、照射エネルギ積算量からセンサの感度換算を行えるようにする。
【0147】
図36は、照射エネルギ積算量とセンサ感度換算量との関係を表すLUT1の例を示すグラフである。横軸は照射エネルギ積算量(J/cm)を表し、縦軸はセンサ感度変換料(%)を表す。図36に示すLUT1は、図35のセンサ劣化特性を反映したLUTである。センサデータ管理部160は、図36のようなLUT1を記憶しており、センサチャンネル毎の光量積算値から照射エネルギ積算量を求め、さらにLUT1を用いて、センサチャンネル毎の感度低下量を推定する。
【0148】
図37は、図26のグラフの縦軸を照射エネルギ積算量に変換したグラフである。例えば、図26に示したセンサチャンネル数が448chのラインセンサ52における、センサチャンネル毎のフリンジ光量積算値を照射エネルギ積算量(J/cm)のスケールに換算すると、図37のようなグラフとなる。これを図36に示すLUT1を用いて、LUT変換することにより、図38に示すようなセンサチャンネル毎の感度換算値が得られる。LUT1を適用したLUT変換は本開示における「非線形変換」の一例である。
【0149】
LUT変換前の縦軸(図37)はセンサチャンネル毎のおおよその照射エネルギ積算量(J/cm)であり、LUT変換後の縦軸(図38)はセンサ劣化特性に基づくセンサチャンネル毎の感度推定量(%)である。
【0150】
なお、実施形態5においては、図26の縦軸を照射エネルギ積算量(J/cm)のスケールに換算する際に、単純に光量積算値(Total Intensity)4.0E+13(a.u.)を照射エネルギ積算量100(kJ/cm)とした。「E+13」の表記は「10の13乗」を表す。
【0151】
図35に示すようなセンサ劣化特性、あるいは図36に示すようなLUT1は、均一で一定エネルギの光(波長も対象レーザと同じ)を実際のラインセンサに照射し、ラインセンサの出力値のチャンネル平均を照射エネルギ積算量ごとに記録することで得ることができる。
【0152】
実施形態5において、他の実施形態1~4と同様に、センサの劣化判定において、感度推定量の最小値、もしくは最大値と最小値の差分、もしくは最小値と平均値の差分を計算して閾値判定を行ってもよい。実施形態5の閾値判定に用いられる閾値は本開示における「第3の閾値」の一例である。実施形態5において算出される感度推定量は、値が小さいほどセンサの劣化が進んでいることを示す評価指標であり、本開示における「評価値」の一例である。
【0153】
9.3 作用・効果
実施形態5によれば、センサの感度低下量をより精度高く推定することができるため、劣化判定の精度が一層向上する。
【0154】
10.実施形態6
10.1 構成
実施形態6の構成は、図12に示す実施形態1と同様であってよい。
【0155】
10.2 動作
実施形態6では、実施形態5における感度推定量の演算に関して、紫外線の照射エネルギ積算量に依存する劣化量の補正を行う処理が追加される。実施形態6の動作について、実施形態5と異なる点を説明する。
【0156】
実施形態5の説明において、図37のグラフの縦軸をセンサチャンネル毎のおおよその照射エネルギ積算量(J/cm)であるとした理由は、図37のデータが、実際には照射エネルギの正確な積算ではなく、照射時にラインセンサ52から出力されたセンサチャンネル毎の信号値を積算しているからである。センサは光を照射する度に厳密には劣化し、次第に出力(感度)が下がるため、光量積算値の多いチャンネルほど実際の照射エネルギ積算量は多くなる。よって、この効果をさらに補正するために、図39の破線に示すようなLUT2を用いて換算を行うことにより(図40参照)、さらにセンサの劣化量の推定精度を向上することができる。
【0157】
図39の破線で示す曲線は、光照射の累積によるセンサの感度低下分を補正した換算テーブルとしてのLUT2の例である。実線で示す曲線は図36で説明したLUT1であり、光照射の累積によるセンサの感度低下分を補正していない換算テーブルである。
【0158】
図40は、図39のLUT2を用いて図37のデータを変換して得られたセンサチャンネル毎の感度推定量を示すグラフである。こうして求まる感度推定量について最小値、もしくは最大値と最小値の差分、もしくは最小値と平均値の差分を計算して閾値判定を行うことにより、ラインセンサの劣化状況を精度よく判定することができる。
【0159】
10.3 作用・効果
実施形態6によれば、実施形態5よりもさらに、センサの感度低下量を精度高く推定することができるため、劣化判定の精度が一層向上する。
【0160】
11.レーザ装置の他の例
図12に示したチャンバ20と、出力結合ミラー30と、LNM32とを含むレーザ発振器は、本開示における「レーザ発振器」の一例である。実施形態1~6では、狭帯域化ガスレーザ装置を例示したが、レーザ発振器は、ガスレーザ装置に限らず、半導体レーザを含む固体レーザ装置であってもよい。また、レーザ装置は、レーザ増幅器を含む構成であってもよい。
【0161】
12.プログラムを記録したコンピュータ可読媒体について
上述の各実施形態で説明したセンサデータ管理部160として、プロセッサを機能させるための命令を含むプログラムを光ディスクや磁気ディスクその他の非一時的なコンピュータ可読媒体(有体物たる非一時的な情報記憶媒体)に記録し、このコンピュータ可読媒体を通じてプログラムを提供することが可能である。また、コンピュータ可読媒体に記録されたプログラムをコンピュータに組み込み、プロセッサがプログラムの命令を実行することにより、コンピュータにセンサデータ管理部160の機能を実現させることができる。
【0162】
13.電子デバイスの製造方法
図41は、露光装置302の構成例を概略的に示す。電子デバイスの製造方法は、レーザ装置110と、露光装置302とを含むシステムによって実施される。レーザ装置110から出力されたパルスレーザ光は、露光装置302に入力され、露光光として用いられる。
【0163】
露光装置302は、照明光学系304と投影光学系306とを含む。照明光学系304は、レーザ装置110から入射したレーザ光によって、レチクルステージRT上に配置された不図示のレチクルのレチクルパターンを照明する。投影光学系306は、レチクルを透過したレーザ光を、縮小投影してワークピーステーブルWT上に配置された不図示のワークピースに結像させる。ワークピースはフォトレジストが塗布された半導体ウエハ等の感光基板である。
【0164】
露光装置302は、レチクルステージRTとワークピーステーブルWTとを同期して平行移動させることにより、レチクルパターンを反映したレーザ光をワークピースに露光する。以上のような露光工程によって半導体ウエハにレチクルパターンを転写後、複数の工程を経ることで半導体デバイスを製造できる。半導体デバイスは電子デバイスの一例である。
【0165】
14.その他
上述の各実施形態では、モニタモジュール40に用いられるラインセンサ52,53の劣化評価を行う例を説明したが、評価対象となるラインセンサはこの例に限らず、モニタモジュール40以外の検出器に適用されるラインセンサであってもよい。本開示の技術は、パルスレーザ光の干渉縞の検出に用いられるラインセンサの局所劣化を評価する技術として広く適用可能である。
【0166】
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図している。したがって、特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかである。また、本開示の実施形態を組み合わせて使用することも当業者には明らかである。
【0167】
本明細書及び特許請求の範囲全体で使用される用語は、明記が無い限り「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」、「有する」、「備える」、「具備する」などの用語は、「記載されたもの以外の構成要素の存在を除外しない」と解釈されるべきである。また、修飾語「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。また、「A、B及びCの少なくとも1つ」という用語は、「A」「B」「C」「A+B」「A+C」「B+C」又は「A+B+C」と解釈されるべきである。さらに、それらと「A」「B」「C」以外のものとの組み合わせも含むと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
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図19
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図40
図41