(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-03
(45)【発行日】2025-07-11
(54)【発明の名称】皮脂分泌促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/727 20060101AFI20250704BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20250704BHJP
A61K 31/135 20060101ALI20250704BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250704BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250704BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250704BHJP
【FI】
A61K31/727
A61K8/73
A61K31/135
A61P17/00
A61P43/00 121
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2017111633
(22)【出願日】2017-06-06
【審査請求日】2020-05-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】宅見 信哉
(72)【発明者】
【氏名】来福 七央人
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】井上 千弥子
【審判官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-180206号公報(JP,A)
【文献】特開2016-196419号公報(JP,A)
【文献】特開2000-229884号公報(JP,A)
【文献】特開2016-169188号公報(JP,A)
【文献】特開2016-169240号公報(JP,A)
【文献】皮膚, 発行日, 1984, Vol.26, No.6, pp.1249-1257
【文献】ヘパソフトプラス, 日本, 2015, 発行日
【文献】メンソレータムヘパソフトクリーム, 日本, 2014, 発行日
【文献】フェルゼア ヘパキュア クリーム, 日本, 2015, 発行日
【文献】イハダドライキュア乳液, 日本, 2015, 発行日
【文献】ビーソフテン外用スプレー0.3%, 医薬品インタビューフォーム, 2012, 発行日
【文献】シモアキュア, 日本, 2015, 発行日
【文献】ホソイドンゲル, 日本, 2009, 発行日
【文献】ビーソフテンローション, 日本, 2016, 発行日
【文献】アセモテーマS, 日本, 2012, 発行日
【文献】アセモアa, 日本, 2015, 発行日
【文献】皮膚, 発行日, 1992, Vol.34, No.1, pp.97-104
【文献】最新医学大辞典, 日本, 2005, 発行日
【文献】J. Invest. Dermatol., 2008, 発行日, Vol.128 No.5, pp.1280-1285
【文献】ビーソフテン外用スプレー0.3%, 医薬品インタビューフォーム, 2012, 発行日
【文献】池田重雄, 標準皮膚科学, 2002, 発行日, 第6版第3刷, p.274
【文献】「主婦湿疹」とは?改善方法を解説, ココカラクラブ, 2016, 掲載日, https://www.cocokarafine.co.jp/oyakudachi/health/201609157.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/MBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリン類似物質
及びジフェンヒドラミ
ンを含有し、乳化組成物である、皮脂分泌促進剤
(但し、痒み症状へ適用されるものを除く)。
【請求項2】
皮膚外用剤である、請求項1に記載の皮脂分泌促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮脂の分泌を促進できる皮脂分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮脂は、皮膚に柔軟性や弾力性を与えたり、紫外線や細菌等から皮膚を保護したりする作用があり、正常な皮膚状態を維持する上で重要な役割を果たしている。皮脂は、皮脂腺によって分泌されるが、年齢、体質、季節、ライフスタイル、薬物投与等の要因によってその分泌量が低下することがある。皮脂の分泌量が低下すると、皮膚の柔軟性や弾力性が損なわれたり、皮膚の抵抗力が低下したりするだけでなく、皮脂欠乏症、皮脂欠乏性湿疹等の皮膚疾患を発症させることもある。そのため、皮脂の分泌量が低下した皮膚において、正常な皮膚状態に改善又は維持するために、皮脂を補うことは重要である。
【0003】
従来、皮脂の分泌量の低下に対する対処策として、皮脂の構成成分であるトリグリセリド、ワックスエステル、スクアレン、遊離脂肪酸等の油分を含む外用組成物を用いて皮膚に油分を補給する方法が知られている。しかしながら、このような方法では、皮脂の分泌量の低下に対する対処療法にしかならず、その効果は限定的であり、根本的な解決策とはならないという欠点がある。
【0004】
一方、皮脂の分泌量の低下に対する対処策として、皮脂の分泌を促進できる成分を使用して、皮脂の分泌量自体を増加させる方法も知られている。このような方法では、皮脂腺を賦活化させるため、皮脂の分泌量が低下した皮膚を効果的に改善できることが期待される。
【0005】
従来、皮脂の分泌を促進上させる成分について種々報告されている。例えば、γ-オリザノールには、皮脂の分泌を促進作用があることが知られている。また、ビャクシ抽出物、ブリオノール酸、及びマルトオリゴ糖には、皮脂の分泌を促進作用があり、皮脂分泌促進剤に使用できることが報告されている(特許文献1~3参照)。しかしながら、製剤処方の多様化、皮脂分泌促進作用の更なる向上等に対応するために、皮脂の分泌を促進させる新たな製剤技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-176030号公報
【文献】特開平7-109214号公報
【文献】特開平5-294837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、皮脂の分泌を促進させる皮脂分泌促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ヘパリン類似物質には、γ―オリザノールを凌ぐ皮脂分泌作用があり、皮脂分泌促進剤に使用可能であることを見出した。更に、本発明者は、ヘパリン類似物質とジフェンヒドラミン及び/又はその塩を併用すると、皮脂分泌作用が相乗的に向上することをも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、以下に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ヘパリン類似物質を含有する、皮脂分泌促進剤。
項2. 更に、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有する、項1に記載の皮脂分泌促進剤。
項3. 皮膚外用剤である、項1又は2に記載の皮脂分泌促進剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の皮脂分泌促進剤によれば、皮脂の分泌を効果的に促進できるので、正常な皮膚状態に改善又は維持することが可能になっており、例えば、皮脂の分泌量の低下が要因の一つになっている皮膚疾患や皮膚症状の予防又は治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ゴールデンハムスターの耳介内部に各クリーム剤を所定期間塗布した後に、塗布部の真皮シートを作成して皮脂腺をSudan IIIにて染色して顕微鏡観察した像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の皮脂分泌促進剤は、ヘパリン類似物質を含有することを特徴とする。以下、本発明の皮脂分泌促進剤について詳述する。
【0013】
ヘパリン類似物質
ヘパリン類似物質には、γ―オリザノールよりも高い皮脂分泌促進作用があり、本発明の皮脂分泌促進剤では、ヘパリン類似物質を有効成分として含有する。ヘパリン類似物質とは、コンドロイチン多硫酸等の多硫酸化ムコ多糖であり、抗炎症作用、血行促進作用等を有することが知られている公知の薬剤である。
【0014】
本発明で使用されるヘパリン類似物質の由来については、特に制限されないが、例えば、ムコ多糖類を多硫酸化することにより得られたもの、食用獣の組織(例えば、ウシやブタ等の気管軟骨を含む肺臓)から抽出したもの等が挙げられる。本発明の皮脂分泌促進剤では、ヘパリン類似物質として、日本薬局方外医薬品規格に収戴されているヘパリン類似物質が好適に使用される。
【0015】
本発明の皮脂分泌促進剤におけるヘパリン類似物質の含有量については、製剤形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.05~1重量%が挙げられる。皮脂の分泌をより一層効果的に促進させるという観点から、ヘパリン類似物質の含有量として、好ましくは0.05~0.3重量%、更に好ましくは0.1~0.3重量%が挙げられる。
【0016】
ジフェンヒドラミン及び/又はその塩
本発明の皮脂分泌促進剤は、ヘパリン類似物質と共に、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有してもよい。本発明者によってジフェンヒドラミン及び/又はその塩にも皮脂分泌促進作用があることが見出されている。ヘパリン類似物質とジフェンヒドラミン及び/又はその塩とを併用することによって、相乗的に皮脂分泌促進作用を向上させることができる。
【0017】
ジフェンヒドラミンは、抗ヒスタミン作用があることが知られている公知の薬剤である。
【0018】
ジフェンヒドラミンの塩としては、薬学的に許容されるものである限り特に制限されないが、具体的には、塩酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、サリチル酸塩、ジフェニルジスルホン酸塩、タンニン酸塩、ラウリル硫酸塩、硫酸塩等の酸付加塩が挙げられる。これらの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
本発明の皮脂分泌促進剤は、ジフェンヒドラミン及びその塩の中から、1種を選択して使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
ジフェンヒドラミン及びその塩の中でも、皮脂分泌促進作用をより一層効果的に向上させるという観点から、好ましくはジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミンが挙げられる。
【0021】
本発明の皮脂分泌促進剤においてジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、0.01~5重量%が挙げられる。皮脂分泌促進作用をより一層効果的に向上させるという観点から、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の含有量として、好ましくは0.1~3重量%、更に好ましくは0.1~2重量%が挙げられる。
【0022】
本発明の皮脂分泌促進剤においてジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有させる場合、ヘパリン類似物質に対するジフェンヒドラミン及び/又はその塩の比率については、前述する各成分の含有量に応じて定まるが、例えば、ヘパリン類似物質100重量部当たり、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩が1~10000重量部が挙げられる。皮脂分泌促進作用をより一層効果的に向上させるという観点から、ヘパリン類似物質100重量部当たり、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩が、好ましくは50~350重量部、更に好ましくは100~250重量部が挙げられる。
【0023】
γ-オリザノール
本発明の皮脂分泌促進剤は、更にγ-オリザノールを含有してもよい。γ-オリザノールは、皮脂分泌促進作用があることが知られており、ヘパリン類似物質とγ-オリザノールを併用することによって、格段に優れた皮脂分泌促進作用を発揮させることが可能になる。特に、ヘパリン類似物質と、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩と、γ-オリザノールとを組み合わせた場合には、これらの成分の相乗作用によって皮脂分泌促進作用を飛躍的に向上させることができる。
【0024】
γ-オリザノールとは、フェルラ酸とトリテルペンアルコールとのエステル、又はフェルラ酸とステロールとのエステルである。
【0025】
本発明の皮脂分泌促進剤において、γ-オリザノールとして、フェルラ酸とトリテルペンアルコールとのエステル又はフェルラ酸とステロールとのエステルのいずれか一方を単独で使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。本発明で使用されるγ-オリザノールの好適な例として、フェルラ酸シクロアルテニル(C40H58O4)を含むもの、更に好ましくはフェルラ酸シクロアルテニルを95重量%以上含むもの、特に好ましくはフェルラ酸シクロアルテニル98重量%以上含むものが挙げられる。
【0026】
γ-オリザノールのCAS登録番号は、「11042-64-1」で表される。本発明で使用されるγ-オリザノールには、オリザノールA(CAS登録番号[21238-33-5])及びオリザノールC(CAS登録番号[469-36-3])等が含まれ得る。
【0027】
本発明で使用されるγ-オリザノールについては、その原料、製造方法、精製方法等は特に限定されず、例えば、米糠等から自ら単離及び精製したもの等が挙げられる。
【0028】
本発明の皮脂分泌促進剤においてγ-オリザノールを含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、0.05重量%以上が挙げられる。皮脂分泌促進作用をより一層効果的に向上させるという観点から、γ-オリザノールの含有量として、好ましくは0.05~2重量%、更に好ましくは0.1~1重量%、特に好ましくは0.5~1重量%が挙げられる。
【0029】
本発明の皮脂分泌促進剤においてγ-オリザノールを含有させる場合、ヘパリン類似物質に対するγ-オリザノールの比率については、前述する各成分の含有量に応じて定まるが、例えば、ヘパリン類似物質100重量部当たり、γ-オリザノールが5~4000重量部が挙げられる。皮脂分泌促進作用をより一層効果的に向上させるという観点から、ヘパリン類似物質100重量部当たり、γ-オリザノールが、好ましくは100~600重量部、更に好ましくは250~400重量部が挙げられる。
【0030】
界面活性剤
また、本発明の皮脂分泌促進剤には、所望の製剤形態にするために、界面活性剤が含まれていてもよい。特に、γ-オリザノールが含まれる場合には、γ-オリザノールを可溶化又は乳化させて所望の製剤形態にするために、界面活性剤が含まれていることが好ましい。界面活性剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されず、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれを使用してもよいが、好ましくはノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0031】
界面活性剤としては、具体的には、POE(10~50モル)フィトステロールエーテル、POE(10~50モル)ジヒドロコレステロールエーテル、POE(10~50モル)2-オクチルドデシルエーテル、POE(10~50モル)デシルテトラデシルエーテル、POE(10~50モル)オレイルエーテル、POE(2~50モル)セチルエーテル、POE(5~50モル)ベヘニルエーテル、POE(5~30モル)ポリオキシプロピレン(5~30モル)2-デシルテトラデシルエーテル、POE(10~50モル)ポリオキシプロピレン(2~30モル)セチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、これらのリン酸・リン酸塩(POEセチルエーテルリン酸ナトリウムなど)、POE(20~60モル)ソルビタンモノオレート、POE(10~60モル)ソルビタンモノイソステアレート、POE(10~80モル)グリセリルモノイソステアレート、POE(10~30モル)グリセリルモノステアレート、POE(20~100モル)・ポリオキシプロピレン変性シリコーン、POE・アルキル変性シリコーン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノパルミチン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジパルミチン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジリシノレイン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(5~100)、ポリソルベート(20~85)、グリセリン脂肪酸エステル(モノステアリン酸グリセリン等)、水素添加大豆リン脂質、水素添加ラノリンアルコール等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明の皮脂分泌促進剤に、界面活性剤を含有させる場合、その含有量については、製剤形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~30重量%が挙げられる。より具体的には、本発明の皮脂分泌促進剤がクリーム剤の場合であれば、界面活性剤の含有量として、0.1~15重量%、好ましくは0.5~10重量%が挙げられる。また、本発明の皮脂分泌促進剤が液剤の場合であれば、界面活性剤の含有量として、0.1~30重量%、好ましくは0.5~15重量%が挙げられる。
【0033】
油性基剤
本発明の皮脂分泌促進剤は、所望の製剤形態への調製等のために、必要に応じて、油性基剤が含まれていてもよい。油性基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、植物油、動物油、鉱物油、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸、高級アルコール、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0034】
油性基剤として、具体的には、オリーブ油、小麦胚芽油、こめ油、サフラワー油、大豆油、つばき油、とうもろこし油、なたね油、ごま油、ひまし油、ひまわり油、綿実油、落花生油、ホホバ油、硬化油、アボガド油、ウイキョウ油、チョウジ油、ハッカ油、ユーカリ油、レモン油、オレンジ油、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、コメヌカロウ、木ロウ等の植物油;ラード、魚油、スクワラン、蜜蝋等の動物油;パラフィン、水添ポリイソブテン、流動パラフィン、ゲル化炭化水素(プラスチベース等)、ワセリン等の鉱物油;アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル、セバシン酸ジエチル、オレイン酸エチル等の炭素数4~30の脂肪酸と炭素数1~34のアルコールのエステル;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、セバシン酸、オレイン酸、リノール酸等の炭素数4~30の脂肪酸;ミリスチルアルコール、セタノール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラノリンアルコール等の炭素数6~34の1価高級アルコール;チルポリシロキサン、架橋型メチルポリシロキサン、環状シリコーン、アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーン、アクリルシリコーン、フェニル変性シリコーン等のシリコーンオイル等が挙げられる。これらの油性基剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明の皮脂分泌促進剤に、油性基剤を含有させる場合、その含有量については、製剤形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.05~60重量%が挙げられる。より具体的には、本発明の皮脂分泌促進剤がクリーム剤の場合であれば、油性基剤の含有量として、0.1~60重量%、好ましくは1~40重量%が挙げられる。また、本発明の皮脂分泌促進剤が液剤の場合であれば、油性基剤の含有量として、0.05~30重量%、好ましくは0.1~15重量%が挙げられる。
【0036】
水
本発明の皮脂分泌促進剤は、所望の製剤形態への調製等のために、必要に応じて水が含まれていてもよい。
【0037】
本発明の皮脂分泌促進剤に水を含有させる場合、その含有量については、製剤形態に応じて適宜設定すればよいが、例えば30重量%以上、好ましくは40~99.5重量%、更に好ましくは50~99重量%、特に好ましくは60~95重量%が挙げられる。
【0038】
その他の成分
【0039】
本発明の皮脂分泌促進剤は、前述する成分の他に、必要に応じて、前述する成分以外の薬理成分を含有していてもよい。このような薬理成分としては、例えば、抗ヒスタミン剤(クロルフェニラミンマレイン酸塩等)、局所麻酔剤(プロカイン、テトラカイン、ブピパカイン、メピパカイン、クロロプロカイン、プロパラカイン、メプリルカイン又はこれらの塩、オルソカイン、オキセサゼイン、オキシポリエントキシデカン、ロートエキス、ペルカミンパーゼ、テシットデシチン等)、抗炎症剤(グリチルリチン酸ジカリウム、インドメタシン、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェンナトリウム等)、皮膚保護剤(コロジオン、ヒマシ油等)、血行促進成分(ノニル酸ワニリルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、カプサイシン、トウガラシエキス等)、清涼化剤(メントール、カンフル等)、ムコ多糖類(コンドロイチン硫酸ナトリウム、グルコサミン等)等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの薬理成分を含有させる場合、その含有量については、使用する薬理成分の種類、期待する効果等に応じて適宜設定すればよい。
【0040】
更に、本発明の皮脂分泌促進剤は、所望の製剤形態にするために、必要に応じて、前述する成分以外の基材や添加剤が含まれていてもよい。このような基剤や添加剤については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、多価アルコール(エチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、低級アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、清涼化剤(メントール、カンフル、ボルネオール、ハッカ水、ハッカ油等)、防腐剤(メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸等)、着香剤(シトラール、1,8-シオネール、シトロネラール、ファルネソール等)、着色剤(タール色素(褐色201号、青色201号、黄色4号、黄色403号等)、カカオ色素、クロロフィル、酸化アルミニウム等)、粘稠剤(ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、カラギーナン等)、pH調整剤(リン酸、塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等)、湿潤剤(dl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム液、D-ソルビトール液、マクロゴール等)、安定化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エデト酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、DL-アラニン、グリシン、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、クロロゲン酸、カテキン、ローズマリー抽出物等)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、粘着剤、緩衝剤、溶解補助剤、可溶化剤、保存剤等の添加剤が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の含有量は、製剤形態等に応じて適宜設定することができる。
【0041】
製剤形態
本発明の皮脂分泌促進剤は、皮膚外用剤として使用されることが望ましい。本発明の皮脂分泌促進剤を皮膚外用剤として使用する場合、その形状については、経皮適用できることを限度として特に制限されないが、例えば、液状、固形状、半固形状(ジェル状、軟膏状、ペースト状)等が挙げられる。
【0042】
また、本発明の皮脂分泌促進剤を皮膚外用剤として使用する場合、その製剤形態については、経皮適用できることを限度として特に制限されないが、例えば、皮膚外用医薬品、皮膚外用医薬部外品、化粧料、皮膚洗浄料等が挙げられる。本発明の皮脂分泌促進剤を皮膚外用剤にする場合の製剤形態として、具体的には、クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、液剤、貼付剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤等の皮膚外用医薬品;クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、液剤、貼付剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤等の皮膚外用医薬部外品;クリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、液剤、軟膏剤、パック剤等の化粧料;ボディーシャンプー、ヘアシャンプー、リンス等の皮膚洗浄料等が挙げられる。これらの製剤形態の中でも、好ましくは皮膚外用医薬品、更に好ましくはクリーム剤、ローション剤、ジェル剤、乳液剤、パック剤が挙げられる。
【0043】
用途・用量
本発明の皮脂分泌促進剤は、皮脂の分泌を促進することにより、正常な皮膚状態に改善又は維持することができる。従って、本発明に皮脂分泌促進剤は、皮脂の分泌量が低下している皮膚の正常化、正常な皮膚における皮脂の分泌量の低下抑制等のために使用することができる。
【0044】
また、本発明の皮脂分泌促進剤は、皮脂の分泌量の低下が要因の一つになっている疾患や症状の予防又は治療にも有効である。皮脂の分泌量の低下が要因の一つになっている疾患や症状としては、具体的には、皮脂欠乏症、皮脂欠乏性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹等が挙げられる。
【0045】
本発明の皮脂分泌促進剤の用量については、剤形、製剤形態、適用する症状の程度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、本発明の皮脂分泌促進剤を皮膚外用剤として使用する場合であれば、その用量の一例として、1回当たり、皮膚1cm2当たり、ヘパリン類似物質が0.1~3mg程度となる量で、1日1~数回程度の頻度が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
試験例
表1に示す組成のクリーム剤(水中油型の乳化組成物)を調製した。クリーム剤の具体的な製造方法は、次の通りである。表1中の(I)に示す各成分を所定量混合して、80℃に加温し、均一に撹拌することにより油相用組成物を調製した。また、別途、表1中の(II)に示す各成分を所定量混合して、80℃に加温し、均一に撹拌することにより水相用組成物を調製した。得られた油相用組成物と水相用組成物を80℃に加温した状態で混合して乳化処理を行った後に冷却し、クリーム剤を得た。
【0048】
得られたクリーム剤の皮脂分泌促進作用を評価した。具体的な試験方法は、次の通りである。ゴールデンハムスター(8週齢、雌)の耳介内部側に、クリーム剤を1日1回の頻度で塗布し、15日目に耳介中央部の内部側の耳介皮膚片を医療用パンチで採取した。耳介皮膚片から外側の皮膚と軟骨を除去した後に、2Nの臭化ナトリウム水溶液に浸漬して表皮を剥離し、真皮シートを作成した。得られた真皮シートの皮脂腺をSudan IIIによって染色し、システム生物顕微鏡(オリンパス社製)にて皮脂腺を観察した。皮脂腺の面積を測定し、以下の算出式に従って、皮脂分泌量の相対値を算出した。
【0049】
【0050】
本試験では、各群3匹のゴールデンハムスターを使用し、1匹から1枚の真皮シートを作成し、1枚の真皮シートにおいて、ランダムに選択した15個の皮脂腺の面積を測定した。このようにして1群当たり合計45個(N=45)の皮脂腺の面積を測定し、その平均値を各群の皮脂腺の面積として前記算出式に代入した。
【0051】
なお、本試験方法では、皮脂腺の大きさを測定することにより、皮脂分泌量を評価している。一般に、皮脂腺は全分泌腺であり、脂質を蓄積した細胞が自壊して皮脂となり、皮表に排出される。このため、皮脂腺の面積と皮脂腺機能には直接的な関係があり、皮脂分泌量と皮脂腺の面積は略比例関係にあることが一般的に知られている(小林美恵、皮脂腺に対するフェルラ酸エステル混合物の局所作用-生化学的および組織学的研究-、皮膚、第21巻、第1号、公益社団法人日本皮膚科学会発行、昭和54年2月)従って、本試験方法で得られた結果は、皮脂分泌量を正しく反映できている。
【0052】
真皮シートをSudan IIIによって染色して顕微鏡観察した際の像を
図1に示し、皮脂分泌量の相対値を求めた結果を表1に示す。この結果、ヘパリン類似物質は単独でも、皮脂分泌促進作用があることが知られているγ-オリザノールよりも、高い皮脂分泌促進作用があることが確認された(実施例1)。また、ヘパリン類似物質とジフェンヒドラミン又はγ-オリザノールを併用した場合には、皮脂分泌促進作用が格段に向上していた(実施例2~4)。特に、ヘパリン類似物質とジフェンヒドラミンを併用した場合には、相乗的な皮脂分泌促進作用の向上が認められ(実施例2及び4)、ヘパリン類似物質とジフェンヒドラミンとγ-オリザノールを併用した場合には、皮脂分泌促進作用が格段顕著に向上していた(実施例4)。
【0053】
【0054】
処方例
表2に示すクリーム剤、表3に示すローション剤、表4に示すジェル剤、及び表5に示す乳液剤を調製した。これらの製剤は、いずれも、前記試験例の場合と同様に、皮脂の分泌を促進させる効果が期待され、皮脂分泌促進用途に有効である。
【0055】
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【0058】