(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-03
(45)【発行日】2025-07-11
(54)【発明の名称】外用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/196 20060101AFI20250704BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250704BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20250704BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20250704BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20250704BHJP
【FI】
A61K31/196
A61P29/00
A61K47/22
A61K47/14
A61K47/10
(21)【出願番号】P 2020210328
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】井上 喬允
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-160707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/196
A61K47
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジクロフェナク及び/又はその塩、(B)ミリスチン酸イソプロピル、(C)N-メチル-2-ピロリドン、(D)水、
並びに(E)炭素数1~5の1価アルコールを含有する、外用医薬組成物
(但し、ジブチルヒドロキシトルエンを含む場合を除く)。
【請求項2】
前記(C)成分の含有量が2~15重量%である、請求項1に記載の外用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロフェナク及び/又はその塩と、ミリスチン酸イソプロピルと、水とを含み、分散性安定性が向上している外用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジクロフェナク及び/又はその塩は、非ステロイド性抗炎症薬の中でも、シクロオキシゲナーゼに対する阻害活性が高く、優れた消炎鎮痛作用を発揮できることが知られており、外用医薬組成物に使用されている。一方、外用医薬組成物に液状油を配合することにより使用感を向上できることが知られている。そこで、従来、ジクロフェナク及び/又はその塩と液状油を含む外用医薬組成物の処方について、種々報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ジクロフェナクと、多価アルコールと、グリコールエーテルと、高級脂肪酸エステル(液状油に該当)とを含む溶液又は懸濁液が、局所適用によって標的部位にジクロフェナクを効率的に送達できることが記載されている。
【0004】
一方、液状油の中でも、ミリスチン酸イソプロピルは、エリモント作用、ソフトでさっぱりした感触の付与等の点で優れており、外用医薬組成物にミリスチン酸イソプロピルを配合することよって良好な使用感を付与できることが知られている。そこで、ジクロフェナク及び/又はその塩を含む外用医薬組成物において、使用感の向上等を図るべく、更にミリスチン酸イソプロピルを配合した製剤処方の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、ジクロフェナク及び/又はその塩と、ミリスチン酸イソプロピルと、水とを含む外用医薬組成物を開発すべく鋭意検討を行ったところ、当該外用医薬組成物ではミリスチン酸イソプロピルの分散性安定性(分散された状態を安定に維持する特性)が低く、均一な懸濁状態を形成できないという課題を知得した。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ジクロフェナク及び/又はその塩と、ミリスチン酸イソプロピルと、水とを含み、分散性安定性が向上している外用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ジクロフェナク及び/又はその塩と、ミリスチン酸イソプロピルと、水とを含む外用医薬組成物に、N-メチル-2-ピロリドンを配合することによって、分散性安定性が向上し、均一な懸濁状態を形成できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)ジクロフェナク及び/又はその塩、(B)ミリスチン酸イソプロピル、(C)N-メチル-2-ピロリドン、並びに(D)水を含有する、外用医薬組成物。
項2. 前記(C)成分の含有量が2~15重量%である、請求項1に記載の外用医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ジクロフェナク及び/又はその塩と、ミリスチン酸イソプロピルと、水とを含む外用医薬組成物において、ミリスチン酸イソプロピルの分散安定性が向上しており、均一な懸濁状態を形成させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.外用医薬組成物
本発明の外用医薬組成物は、(A)ジクロフェナク及び/又はその塩、(B)ミリスチン酸イソプロピル、(C)N-メチル-2-ピロリドン、並びに(D)水を含有することを特徴とする。以下、本発明の外用医薬組成物について詳述する。
【0012】
[(A)ジクロフェナク及び/又はその塩]
本発明の外用医薬組成物は、ジクロフェナク及び/又はその塩((A)成分と表記することもある)を含有する。ジクロフェナクとは2-(2-(2,6-ジクロロフェニルアミノ)フェニル)酢酸とも称される非ステロイド性消炎鎮痛薬である。
【0013】
ジクロフェナクの塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の第1級、第2級若しくは第3級のアルキルアミンとの塩等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩が挙げられる。
【0014】
(A)成分として、ジクロフェナク及びその塩の中から1種を選択して単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。(A)成分の中でも、好ましくはジクロフェナクの塩、より好ましくはジクロフェナクのアルカリ金属塩、更に好ましくはジクロフェナクナトリウムが挙げられる。
【0015】
本発明の外用医薬組成物における(A)成分の含有量は、備えさせるべき薬効等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.1~10重量%、好ましくは0.5~3重量%、より好ましくは0.5~2重量%が挙げられる。
【0016】
[(B)ミリスチン酸イソプロピル]
本発明の外用医薬組成物は、ミリスチン酸イソプロピル((B)成分と表記することもある)を含有する。ミリスチン酸イソプロピルとは、ミリスチン酸とイソプロピルアルコールがエステル結合している脂肪酸アルキルエステルである。
【0017】
本発明の外用医薬組成物における(B)成分の含有量は、付与すべく使用感等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.1~30重量%、好ましくは0.5~20重量%、より好ましくは1~10重量%が挙げられる。
【0018】
本発明の外用医薬組成物において、(A)成分に対する(B)成分の比率については、これらの成分の各含有量に応じて定まるが、例えば、(A)成分1重量部当たり、(B)成分が0.01~1000重量部、好ましくは0.1~100重量部、より好ましくは0.5~20重量部が挙げられる。
【0019】
[(C)N-メチル-2-ピロリドン]
本発明の外用医薬組成物は、前記成分に加えて、N-メチル-2-ピロリドン((C)成分と表記することもある)を含有する。本発明の外用医薬組成物では、ジクロフェナク及び/又はその塩とミリスチン酸イソプロピルと共に、N-メチル-2-ピロリドンを含むことにより、ミリスチン酸イソプロピルの分散安定性が向上し、均一な懸濁状態を形成させることが可能になる。N-メチル-2-ピロリドンとは、2-ピロリドンの窒素原子にメチル基が置換されている化合物である。
【0020】
本発明の外用医薬組成物における(C)成分の含有量としては、例えば、0.1~20重量%が挙げられる。ミリスチン酸イソプロピルの分散安定性をより一層向上させるという観点から、好ましくは1~15重量%、本発明の外用医薬組成物における(C)成分の含有量として、より好ましくは2~15重量%、更に好ましくは5~15重量%が挙げられる。
【0021】
本発明の外用医薬組成物において、(A)成分に対する(C)成分の比率については、これらの成分の各含有量に応じて定まるが、例えば、(A)成分1重量部当たり、(C)成分が0.01~1000重量部、好ましくは0.1~100重量部、より好ましくは1~20重量部、更に好ましくは5~15重量部が挙げられる。
【0022】
[(D)水]
本発明の外用医薬組成物には、基剤として水が含まれる。本発明の外用医薬組成物における水の含有量は、配合する他の成分を除いた残部であればよいが、例えば、5~99重量%、好ましくは10~92重量%が挙げられる。
【0023】
[1価低級アルコール]
本発明の外用医薬組成物は、更に1価低級アルコールを含んでいてもよい。本発明において、1価低級アルコールとは炭素数1~5の1価アルコールを指す。
【0024】
1価低級アルコールの種類については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。これらの1価低級アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
これらの1価低級アルコールの中でも、好ましくはエタノール、イソプロパノール、より好ましくはエタノールが挙げられる。
【0026】
本発明の外用医薬組成物に1価低級アルコールを含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、0.1~80重量%、好ましくは1~75重量%が挙げられる。
【0027】
[その他の成分]
本発明の外用医薬組成物は、前述する成分の他に、必要に応じて、通常使用される他の添加剤が含まれていてもよい。このような添加剤としては、例えば、界面活性剤、植物油、動物油、鉱物油、脂肪酸アルキルエステル((B)成分以外)、脂肪酸、高級アルコール、pH調節剤、緩衝剤、可溶化剤、防腐剤、保存剤、酸化防止剤、安定化剤、香料、着色料等が挙げられる。本発明の外用医薬組成物において、これらの添加剤を含有させる場合、その含有量については、使用する添加剤の種類等に応じて適宜設定すればよい。
【0028】
また、本発明の外用医薬組成物は、前述する成分の他に、薬理成分が含まれていてもよい。このような薬理成分としては、例えば、抗ヒスタミン剤、保湿剤、殺菌剤、抗菌剤、鎮痒剤、皮膚保護剤、血行促進成分、ビタミン類等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本発明の外用医薬組成物において、これらの薬理成分を含有させる場合、その濃度については、使用する薬理成分の種類、期待する効果等に応じて適宜設定すればよい。
【0029】
[製剤形態]
本発明の外用医薬組成物の製剤形態については、経皮投与可能であることを限度として特に制限されず、例えば、液剤(懸濁液)、フォーム剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは液剤が挙げられる。これらの製剤形態への調製は、第十七改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法に従って、製剤形態に応じた添加剤を用いて製剤化することにより行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
試験例1
表1に示す組成の外用医薬組成物(懸濁液)を以下の方法で調製した。具体的には、ジクロフェナクナトリウム、水及びエタノールを所定量混合して溶解させた後に、ミリスチン酸イソプロピルを混合しながら徐々に添加し、最後にN-メチル-2-ピロリドン、プロピレングリコール又はグリセリンを所定量添加して、均一になるまで撹拌することにより、外用医薬組成物(懸濁液)を調製した。
【0032】
調製した各外用医薬組成物を室温で10分間静置した後に外観を観察し、「油分(ミリスチン酸イソプロピル)が著しく分離しており、均一な懸濁液を形成していない」を1点、「油分(ミリスチン酸イソプロピル)の分離が全く認められず、均一な懸濁液を形成している」を10点として、分散状態の程度に応じて1~10点の10段階で分散安定性を評点化した。なお、前記評点において、5点以上の場合には、実用化する上で許容できる分散安定性を有していると判定できる。
【0033】
結果を表1に示す。ジクロフェナクナトリウム及びミリスチン酸イソプロピルのみを添加した外用医薬組成物では、油分(ミリスチン酸イソプロピル)の多くが分離して下層に分布しており、均一な懸濁液を形成できなかった(比較例1)。また、ジクロフェナクナトリウム及びミリスチン酸イソプロピルと共に、分散剤として使用されているプロピレングリコール又はグリセリンを含んでいても、油分の多くが分離して下層に分布しており、均一な懸濁液を形成できなかった(比較例2及び3)。これに対して、ジクロフェナクナトリウム及びミリスチン酸イソプロピルと共に、N-メチル-2-ピロリドンを添加した外用医薬組成物では、油分の分離が認められず、均一な懸濁液を形成できていた(実施例1~5)。特に、N-メチル-2-ピロリドンの含有量が2重量%以上、特に5重量%以上の場合には、格段に優れた分散安定性が認められた(実施例2~7)。また、実施例2においてジクロフェナクナトリウムを未配合に変更した外用医薬組成物では、油分の多くが分離して上層に分布しており、均一な懸濁性を形成できなかった(比較例4)。よって、ジクロフェナクナトリウムもミリスチン酸イソプロピルの分散安定性を向上することが認められた。また、実施例6及び7において、エタノールをイソプロパノールに変更した外用医薬組成物でも、実施例6及び7と同程度に油分の分離が認められず、均一な懸濁液を形成できていた。
【0034】
【0035】
処方例
表2に示す組成の外用医薬組成物(懸濁液)を試験例1と同様の方法で調製し、試験例1と同様の方法で外観を観察したところ、処方例1~9いずれの外用医薬組成物においても分散安定性が認められた。
【0036】