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特許7706688完熟サンショウの水性抽出物を含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】完熟サンショウの水性抽出物を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20250707BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20250707BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20250707BHJP
   A23L 27/40 20160101ALN20250707BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/10 C
A23L33/105
A23L27/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020145550
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040714
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-05-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】樋爪 彩子
(72)【発明者】
【氏名】八木 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 守紘
(72)【発明者】
【氏名】生貝 達也
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-000142(JP,A)
【文献】国際公開第2011/040505(WO,A1)
【文献】特開2011-254772(JP,A)
【文献】特開2014-226039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00 -27/40
A24L 27/60-27/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
完熟サンショウの水性抽出物を添加してなる、飲食品の味の濃さの強度を増加させるための組成物であって、
前記水性抽出物が、完熟サンショウの40%エタノール抽出物を下記条件
(分取クロマトグラフィー条件)
カラム:ODSカラム(ODS-SM-50C、山善社製)
移動相:水/メタノール
流速:30mL/分
温度:30℃
検出波長:270nm


の分取クロマトグラフィーに付した場合のクロマトグラムにおける保持時間10分付近のピークと保持時間40分付近のピークとの間から分取したフラクションである、前記組成物。
【請求項2】
完熟サンショウの水性抽出物を添加してなる、塩味増感用組成物であって、
前記水性抽出物が、完熟サンショウの40%エタノール抽出物を下記条件
(分取クロマトグラフィー条件)
カラム:ODSカラム(ODS-SM-50C、山善社製)
移動相:水/メタノール
流速:30mL/分
温度:30℃
検出波長:270nm


の分取クロマトグラフィーに付した場合のクロマトグラムにおける保持時間10分付近のピークと保持時間40分付近のピークとの間から分取したフラクションである、前記組成物。
【請求項3】
完熟サンショウの水性抽出物を添加してなる、飲食品の味の口中での持続性を向上するための組成物であって、
前記水性抽出物が、完熟サンショウの40%エタノール抽出物を下記条件
(分取クロマトグラフィー条件)
カラム:ODSカラム(ODS-SM-50C、山善社製)
移動相:水/メタノール
流速:30mL/分
温度:30℃
検出波長:270nm


の分取クロマトグラフィーに付した場合のクロマトグラムにおける保持時間10分付近のピークと保持時間40分付近のピークとの間から分取したフラクションである、前記組成物。
【請求項4】
前記飲食品が、減塩食品である、請求項1又は3に記載の組成物。
【請求項5】
前記水性抽出物が、C10182又はC10162の組成式で示される化合物を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
完熟サンショウの水性抽出物を添加してなる飲食品であって、
前記水性抽出物が、完熟サンショウの40%エタノール抽出物を下記条件
(分取クロマトグラフィー条件)
カラム:ODSカラム(ODS-SM-50C、山善社製)
移動相:水/メタノール
流速:30mL/分
温度:30℃
検出波長:270nm


の分取クロマトグラフィーに付した場合のクロマトグラムにおける保持時間10分付近のピークと保持時間40分付近のピークとの間から分取したフラクションである、前記飲食品。
【請求項7】
減塩食品である、請求項6に記載の飲食品。
【請求項8】
前記水性抽出物が、C10182又はC10162の組成式で示される化合物を含む、請求項6又は7に記載の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、完熟サンショウの水性抽出物を含む組成物に関しており、特に、完熟サンショウの水性抽出物を含む、塩味増感用組成物、飲食品の味の口中での持続性を向上するための組成物、及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
健康志向の高まりを受けて、生活習慣病の一因となり得る食塩の摂取量を減らすことが望まれている。一方で、食塩相当量の低い食品は味が物足りなく感じられるため、その塩味を増強するために、種々の研究が行われている。例えば、特許文献1には、サンショウ破砕物と、当該破砕物の辛み成分を食前の数分程度口腔内に残すための基材とを含み、所定量のサンショオールを含む、食前に用いる塩味増強剤が記載されている。また、特許文献2には、サンショウ抽出物及びフタライド類を有効成分として含有する、所定の飲食品の塩味増強剤が記載されている。そして、特許文献3には、サンショウ抽出物とアルキル基を有するスルフィド化合物とを含有する塩味増感用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5625089号公報
【文献】特許第5733737号公報
【文献】特開2020-142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、サンショウ抽出物中に含まれるサンショオール類が塩味増強作用又は塩味増感作用の有効成分の1つであると考えられていたが、他の有効成分については十分には研究されていなかった。そこで、本発明は、新規有効成分を含む、塩味増感に適した組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、食品原料として通常使用されている果皮の色が緑色のサンショウ(未熟サンショウ)ではなく、果皮の色が赤色の完熟サンショウの水性抽出物中には、サンショオール類以外の塩味増感作用を有する有効成分が含まれていること、及び、当該有効成分は、塩分濃度の低下により味の強度が低下している食品の味の口中での持続性を向上させる作用も有していることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す塩味増感用組成物、飲食品の味の口中での持続性を向上するための組成物、及び飲食品を提供するものである。
〔1〕完熟サンショウの水性抽出物を含む、塩味増感用組成物。
〔2〕完熟サンショウの水性抽出物を含む、飲食品の味の口中での持続性を向上するための組成物。
〔3〕前記飲食品が、減塩食品である、前記〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記水性抽出物が、完熟サンショウの水抽出物及び/又はアルコール抽出物を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔5〕前記水性抽出物が、C10182又はC10162の組成式で示される化合物を含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔6〕完熟サンショウの水性抽出物を含む飲食品。
〔7〕減塩食品である、前記〔6〕に記載の飲食品。
〔8〕前記水性抽出物が、完熟サンショウの水抽出物及び/又はアルコール抽出物を含む、前記〔6〕又は〔7〕に記載の飲食品。
〔9〕前記抽出物が、C10182又はC10162の組成式で示される化合物を含む、前記〔6〕~〔8〕のいずれか1項に記載の飲食品。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、完熟サンショウの水性抽出物を使用することにより、飲食品の塩味の増感が可能となり、また、飲食品の味の口中での持続性も向上することができる。したがって、例えば、減塩食品をより美味しく食することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ビジュアルアナログスケール法(VAS法)による評価結果を示す。
図2】時間強度測定法(TI法)による評価結果を示す。
図3】完熟サンショウの水性抽出物のクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、完熟サンショウの水性抽出物を含む、塩味増感用組成物に関している。本明細書に記載の「塩味増感」とは、飲食品を口腔中に入れたときに感じる塩味が、当該飲食品における食塩相当量が変わらないにもかかわらず、より強く感じられるようになることをいう。すなわち、本発明の組成物を、対象の飲食品を口腔内に入れる前に又はそれと同時に摂食すると、当該飲食品の塩味をより強く感じることができる。
【0009】
また、本発明は、完熟サンショウの水性抽出物を含む、飲食品の味の口中での持続性を向上するための組成物にも関している。本発明の組成物により飲食品の味の濃さの強度が高まり、その味が口中で長く持続するようになる。例えば、飲食品を口に入れたときに最初に感じる味(先味)に続いて感じる味(中味)と、その後の口中に残る味(後味)の強度が高まり、全体として口中での持続時間が長くなると考えられる。本発明の組成物を、対象の飲食品を口腔内に入れる前に又はそれと同時に摂食すると、当該飲食品の味を長く堪能することができる。
【0010】
本発明の組成物により塩味が増感される飲食品又は口中での味の持続性が向上される飲食品は、特に限定されないが、当該飲食品が減塩食品であると、前記組成物による塩味増感作用又は味の持続性向上作用をより強く感じることができる。なお、本明細書に記載の「減塩食品」とは、通常流通している一般的な態様と比較して塩分濃度が低い食品のことをいう。前記減塩食品の塩分濃度は、特に限定されないが、例えば、通常流通している一般的な態様と比較して食塩相当量で約25~約70質量%低くてもよい。
【0011】
本明細書に記載の「完熟サンショウ」とは、ミカン科サンショウ属の植物の実であって、果皮の色に赤みがかかるまで樹上で熟した実のことをいい、赤ザンショウなどと呼ばれることもある。前記ミカン科サンショウ属の植物としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができ、例えば、サンショウ(Zanthoxylum piperitum DC)、アサクラザンショウ(Z.piperitum DC.forma inerme Makino)及びそれから派生したとされるブドウサンショウ、ヤマアサクラザンショウ(Z.piperitum DC.forma brevispinosum Makino)、イヌザンショウ(Z.schinifolium)、並びに花椒(Z.bungeanum)などが例示され得る。
【0012】
前記水性抽出物は、前記完熟サンショウを、そのまま又は破砕・粉砕処理及び乾燥処理などを行った後に水性溶媒で抽出することにより調製することができる。その抽出手段としては、後述する有効成分が抽出される限り特に限定されないが、例えば、溶媒抽出法、水蒸気蒸留抽出法、及び超臨界又は亜臨界抽出法などを採用してもよい。前記水性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水や、エタノール及びメタノールなどのアルコール類などを使用してもよく、これらの2種以上を混合して使用してもよい。ある態様では、前記水性抽出物は、完熟サンショウの水抽出物(特に熱水抽出物)及び/又は完熟サンショウのアルコール抽出物(特にエタノール抽出物)を含む。
【0013】
前記水性抽出物の含有量は、塩味増感作用又は味の持続性向上作用が奏される限り特に制限されないが、例えば、本発明の組成物の全質量に対して、ヒドロキシαサンショールが約3.0×10-5~約100質量ppm(以下、単に「ppm」とする。)で存在する濃度に相当する量であってもよく、好ましくはヒドロキシαサンショールが約0.01~約10ppmで存在する濃度に相当する量である。このような量で前記水性抽出物が含まれていると、塩味増感作用及び味の持続性向上作用がより良好に発揮され、かつ本発明の組成物と同時又はこれと連続して摂取される飲食品の風味への影響を最小限にすることができる。なお、ヒドロキシαサンショールは、本発明の有効成分ではなく、前記水性抽出物の含有量の目安として記載しているに過ぎないものであり、当該水性抽出物を分画し、ヒドロキシαサンショールが含まれていないフラクションの水溶液を水性抽出物として使用した場合でも、その含有量をヒドロキシαサンショール相当量として規定することが可能である。例えば、前記水性抽出物を官能評価用中圧分取クロマトグラフィーによっていくつかのフラクションに分画した後に、ヒドロキシαサンショールを含むフラクションの水溶液を1ppmの濃度になるように調製するのと同じ比率で水を添加して他のフラクションの水溶液を調製したとき、当該水溶液における前記水性抽出物の含有量は、ヒドロキシαサンショール相当量で1ppmと表される。
【0014】
ある態様では、前記完熟サンショウの水性抽出物は、C10182(化合物A)又はC10162(化合物B)の組成式で示される化合物を含んでいる。特定の理論に拘束されるものではないが、これらの化合物は、未熟サンショウの水性抽出物には比較的微量しか含まれず、前記完熟サンショウの水性抽出物に特有の塩味増感作用及び口中での味の持続作用が発揮されるフラクションに相当程度含まれるものであるから、化合物A及びBが、それらの作用の有効成分である可能性がある。なお、以下の条件で液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)により分析したときの化合物A及びBの保持時間は、それぞれ20.96分及び20.86分である。
使用機器:Ultimate3000(Thermo Scientific社製)、Orbitrap velos pro(Thermo Scientific社製)
カラム:ODSカラム(Unison-UK-C18、Imtakt社製)
サイズ:4.6×250mm
粒子径:3μm
移動相:メタノール/0.1%ギ酸/蒸留水(表1参照)
流速:0.4mL/分
温度:30℃
注入量:3μL
(Orbitrap条件)
イオン化モード:ポジティブ
ヒーター温度:200℃
スプレー電圧:3.5kV
キャピラリー温度:300℃
シースガス:50L/h
Auxiliaryガス:15L/h
コリジョンエネルギー:35eV
【表1】
(この表は、移動相のメタノール濃度を、0~8分の間では50%に維持し、8~15分の間では50%から75%に徐々に上昇させ、15~35分の間では75%に維持し、35~35.5分の間では75%から95%に上昇させ、35.5~45分の間では95%に維持し、45~45.5分の間では95%から50%に低下させ、45.5分~60分の間では50%に維持することを示している。以降の移動相条件の表も、同様に解釈される。)
【0015】
LC-MSの結果などから判明している化合物A及び化合物Bの特徴をまとめると、以下の表2のとおりである。
【表2】
【0016】
本発明の組成物の形状は、摂食可能なものである限り特に限定されないが、例えば、液体状、ゼリー状、ペースト状、粉末状、顆粒状、及びブロック状などであってもよい。具体的には、前記組成物は、お茶などの飲料、ゼリー、飴、ふりかけ、味噌汁、及び調味料などの形態であってもよい。前記組成物は、そのまま摂食してもいいし、塩味を強く感じたい飲食品中に配合してもよい。また、塩味を強く感じたい飲食品と一緒に摂食する他の飲食品中に配合して、これらを交互に摂食してもよい。
【0017】
別の態様では、本発明は、完熟サンショウの水性抽出物を含む飲食品にも関している。本発明の飲食品は、前記完熟サンショウの水性抽出物を含んでいるため、その塩味増感作用又は味の持続性向上作用により、たとえ塩分濃度が低い食品であったとしても、その味の強度を高め、口中での持続性を向上し、おいしく摂食することが可能となる。
【0018】
本発明の塩味増感用組成物、飲食品の味の口中での持続性を向上するための組成物、及び飲食品は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料又は任意の添加剤をさらに含んでもいいし、塩味増感又は味の持続性向上のために有効な他の添加剤をさらに含んでもよい。
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0020】
〔試験例1〕
完熟ブドウサンショウ(赤色)及び未熟ブドウサンショウ(緑色)の生の実(冷凍)を10gずつ用意し、常法によりそれぞれの熱水抽出物を100gずつ調製した。各熱水抽出物中のヒドロキシαサンショールの濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定すると、完熟ブドウサンショウの熱水抽出物では34ppm、未熟ブドウサンショウの熱水抽出物では18ppmだった。これらの熱水抽出物を、ヒドロキシαサンショールの最終濃度が1.5ppmになるようにウーロン茶に添加し、このウーロン茶による味の増強効果を、9名のパネラーが評価した。すなわち、各パネラーは、いずれかの熱水抽出物を含むウーロン茶又はいずれも含まないウーロン茶(対照群)を1口(約20mL)摂取した後、塩分0.4%のかつおだしを摂取して、官能評価ソフトウェア(FIZZ、ver.2.51 c 02、BIOSYSTEMS社)により、「先味」、「味の厚み」、「後味の伸び」、「味の濃さ」、「水っぽさのなさ」、「満足度」、及び「おいしさ」をビジュアルアナログスケール法(VAS法)で評価した。また、「味の濃さ」については、同じ官能評価ソフトウェアにより時間強度測定法(TI法)でも評価した。
【0021】
なお、VAS法では、両端が短い縦線で閉じられている水平な直線をコンピューター画面上に表示し、その両端の基準を以下の表3のように設定して、パネラーの評価を直線上に縦線として記入した。そして、左端からパネラーが記入した縦線までの距離を計測し、それを線の全長で割った数値をスコアとして、ダネット検定を行った。
【表3】
【0022】
VAS法及びTI法による評価結果を図1及び図2にそれぞれ示す。図1に示されているように、塩分0.4%のかつおだしは、それだけでは塩分濃度が低いため、味は薄く感じられ、水っぽいものであったが、未熟サンショウの熱水抽出物を含むウーロン茶の事前摂取により、各評価項目のスコアはいずれも上昇した。そして、完熟サンショウの熱水抽出物を含むウーロン茶の事前摂取では、先味の項目を除いてさらに高いスコアを示した。特に「味の厚み」及び「後味の伸び」の向上は、塩分濃度が低い食品をおいしく摂取するために解決しなければいけない課題であり、それらが向上した結果として「味の濃さ」、「水っぽさのなさ」、「満足度」、及び「おいしさ」も向上したことから、完熟サンショウの熱水抽出物などの水性抽出物は、減塩食品にける塩味増感のために適していることが分かった。
【0023】
また、図2に示されているように、サンショウの熱水抽出物を含まない対照のウーロン茶(実線)を事前摂取した場合と比較して、未熟サンショウの熱水抽出物を含むウーロン茶(破線)を事前摂取すると、味の濃さの強度が高くなり、かつ口中での味の持続時間が長くなったが、完熟サンショウの熱水抽出物を含むウーロン茶(一点破線)を事前摂取すると、口中での味の持続時間がさらに長くなった。すなわち、完熟サンショウの熱水抽出物などの水性抽出物は、味に対する感度を上げるだけでなく、口中での味の持続性も向上できることから、減塩食品の味の調整のために一層適していることが分かった。
【0024】
〔試験例2〕
完熟ブドウサンショウの実(乾燥物)を用意し、5質量部の実から常法により100質量部の40%エタノール抽出物(ヒドロキシαサンショールの濃度は260ppm)を調製した。このエタノール抽出物を、以下の条件の官能評価用中圧分取クロマトグラフィーによってフラクション1~5(図3のFr.1~Fr.5)を分取した。
カラム:ODSカラム(ODS-SM-50C、山善社製)
移動相:水/メタノール(表4参照)
流速:30mL/分
温度:30℃
検出波長:270nm
【表4】
【0025】
標準物質を用いたHPLC分析により、フラクション3にはヒドロキシαサンショールが含まれており、フラクション4にはαサンショールが含まれていることが分かった。各フラクションの溶媒をエバポレーターで蒸発乾固し、回収した乾固物の量を測定した(表5)。そして、フラクション3の乾固物が全量ヒドロキシαサンショールであるとみなし、その1mgを1mLの60%エタノールに溶解(1000ppm)し、これを最終濃度が1.0ppmになるように水で希釈した。他のフラクションについても同様に操作し、最終的な希釈率がフラクション3と同じになるように、すなわち各乾固物の回収量の比が水溶液中の溶解量の比と一致するように、それぞれの水溶液を作製した。
【表5】
【0026】
各フラクションの水溶液を一口(約20mL)摂取した後に、塩分0.7%の味噌汁を飲み、味噌汁の先味、中味、及び後味のどこを強く感じるかを4人のパネラーが評価した。結果を表6に示す。
【表6】
【0027】
フラクション3、フラクション4、又はフラクション5を摂取した後に味噌汁を飲むと、味噌汁の先味が強くなったと感じたパネラーが多かったが、フラクション2を摂取した後に味噌汁を飲むと、味噌汁の後味が強くなったと感じたパネラーが多かった。フラクション3に含まれているヒドロキシαサンショール及びフラクション4に含まれているαサンショールは、未熟サンショウの水性抽出物にも含まれ得るものであるが、フラクション2には含まれていない。したがって、味の濃さを高め口中での味の持続性を向上する完熟サンショウに特有の効果を奏する成分は、フラクション2に含まれている可能性がある。
【0028】
〔試験例3〕
完熟ブドウサンショウの実及び未熟ブドウサンショウの実(乾燥物)を用意し、5質量部の実から常法により100質量部の40%エタノール抽出物をそれぞれ調製した。試験例2と同様の方法で官能評価用中圧分取クロマトグラフィーのフラクション2の水溶液を調製し、その濃度をヒドロキシαサンショール相当量で1.0ppm(フラクション2の乾固物に基づくと0.2ppm)になるように調整した(表7)。
【表7】
【0029】
各溶液を一口(約20mL)摂取した後に、塩分0.7%の味噌汁を飲み、味噌汁の先味、中味、及び後味のどこを強く感じるかを3人のパネラーが評価した。その結果、3人のパネラー全員が、未熟サンショウのフラクション2は味噌汁の味に影響を与えなかったが、完熟サンショウのフラクション2を摂取すると味噌汁の塩味が増強され、後味が強く感じられたと回答した。したがって、塩味を増強し、口中の味を持続させる効果は、完熟サンショウに特有のものである。
【0030】
〔試験例4〕
完熟サンショウの40%エタノール抽出物に由来するフラクション2をさらに5つ(Fr.2-1~Fr.2-5)に分けて分取した。そして、試験例3と同様にして、味噌汁の味に対する影響を調査した。その結果、3人のパネラー全員が、2番目と3番目のフラクション(Fr.2-2及びFr.2-3)については、塩味を増強し口中の味を持続させる効果があり、その他のフラクションにはそのような効果が無いと回答した。
【0031】
〔試験例5〕
試験例3と同様にして調製した完熟又は未熟ブドウサンショウの40%エタノール抽出物に由来するフラクション2をLC-MSで分析し、両者の分析結果を比較した。そして、以下の条件で高速液体クロマトグラフィーにより分析したときの保持時間が20~22分である2種の化合物が、完熟サンショウに特異的に含まれており、かつその絶対量も多いことを見出した。
使用機器:Ultimate3000(Thermo Scientific社製)、Orbitrap velos pro(Thermo Scientific社製)
カラム:ODSカラム(Unison-UK-C18、Imtakt社製)
サイズ:4.6×250mm
粒子径:3μm
移動相:メタノール/0.1%ギ酸/蒸留水(表8参照)
流速:0.4mL/分
温度:30℃
注入量:3μL
(Orbitrap条件)
イオン化モード:ポジティブ
ヒーター温度:200℃
スプレー電圧:3.5kV
キャピラリー温度:300℃
シースガス:50L/h
Auxiliaryガス:15L/h
コリジョンエネルギー:35eV
【表8】
【0032】
LC-MSの結果より、保持時間が20.96分の化合物(化合物A)は、分子量が170.13であること、組成式C10182であること、そして、フラグメンテーションパターンの様子からOH基を1つ以上有していることが分かった。他方の保持時間が20.86分の化合物(化合物B)は、分子量が168.11であること、組成式C10162であることが分かった。また、どちらの化合物も特徴的なUV吸収を示さないことから、これらは共役二重結合などを有さないものである。
【0033】
試験例4で分取したFr.2-1~Fr.2-5をLC-MSで分析すると、化合物A及び化合物Bは、Fr.2-2及びFr.2-3に含まれており、その他のフラクションには含まれていなかった。したがって、化合物A及び化合物Bが、完熟サンショウの水性抽出物による塩味の増強又は増感作用及び口中での味の持続性向上作用に寄与していると考えられる。
【0034】
以上より、完熟サンショウの水性抽出物を使用することにより、飲食品の塩味の増感が可能となり、また、飲食品の味の口中での持続性も向上することができることが分かった。したがって、例えば、減塩食品をより美味しく食することができる。
図1
図2
図3