(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】ポリイミド組成物、樹脂フィルム、積層体、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔、金属張積層板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20250707BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20250707BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20250707BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20250707BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20250707BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20250707BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250707BHJP
【FI】
C08L79/08 B
C08L53/02
C08G73/10
B32B15/088
B32B27/34
H05K3/28 C
H05K3/28 F
H05K1/03 610N
(21)【出願番号】P 2020213774
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 祥人
(72)【発明者】
【氏名】須藤 芳樹
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119865(JP,A)
【文献】国際公開第2018/097010(WO,A1)
【文献】特開2018-140544(JP,A)
【文献】特開2020-169273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
B32B
H05K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリイミド、及び
(B)酸価が10mgKOH/g以下のポリスチレンエラストマー樹脂、
を含有するとともに、前記(A)成分の100重量部に対する前記(B)成分の含有量が10重量部以上100重量部以下の範囲内であり、
前記熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸無水物成分と、ジアミン成分と、を反応させてなるものであり、前記ジアミン成分に対し、脂肪族ジアミンを40モル%以上含有するとともに、前記脂肪族ジアミンが、下記の成分(a)~(c);
(a)ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が第1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミン;
(b)炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
(c)炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
における成分(a)を96重量%以上含有するダイマージアミン組成物であり、
フィルム化した状態で、23℃、50%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後に、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が0.0020以下である熱可塑性樹脂層を形成するものであるポリイミド組成物。
【請求項2】
前記(B)成分におけるスチレン単位の含有比率が10重量%以上65重量%以下の範囲内である請求項1に記載のポリイミド組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂層を含む樹脂フィルムであって、
前記熱可塑性樹脂層が、下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリイミド、及び
(B)酸価が10mgKOH/g以下のポリスチレンエラストマー樹脂、
を含有するとともに、前記(A)成分の100重量部に対する前記(B)成分の含有量が10重量部以上100重量部以下の範囲内であり、かつ、前記熱可塑性樹脂層は、23℃、50%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後に、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が0.0020以下であり、
前記熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸無水物成分と、ジアミン成分と、を反応させてなるものであり、前記ジアミン成分に対し、脂肪族ジアミンを40モル%以上含有するとともに、前記脂肪族ジアミンが、下記の成分(a)~(c);
(a)ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が第1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミン;
(b)炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
(c)炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
における成分(a)を96重量%以上含有するダイマージアミン組成物であることを特徴とする樹脂フィルム。
【請求項4】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面に積層された接着剤層と、を有する積層体であって、
前記接着剤層が、請求項
3に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする積層体。
【請求項5】
カバーレイ用フィルム材層と、該カバーレイ用フィルム材層に積層された接着剤層とを有するカバーレイフィルムであって、
前記接着剤層が、請求項
3に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とするカバーレイフィルム。
【請求項6】
接着剤層と銅箔とを積層した樹脂付き銅箔であって、
前記接着剤層が、請求項
3に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする樹脂付き銅箔。
【請求項7】
絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を有する金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、請求項
3に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする金属張積層板。
【請求項8】
請求項
7に記載の金属張積層板の前記金属層を配線加工してなる回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等の回路基板において接着剤として有用なポリイミド組成物、樹脂フィルム、積層体、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔、金属張積層板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、携帯電話等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
【0003】
上述した高密度化に加えて、機器の高性能化が進んだことから、伝送信号の高周波化への対応も必要とされている。情報処理や情報通信においては、大容量情報を伝送・処理するために伝送周波数を高くする取り組みが行われており、プリント基板材料は絶縁層の薄化と絶縁層の誘電特性の改善による伝送損失の低下が求められている。今後は、FPCを構成する絶縁層(接着剤層を含む)について、益々、伝送損失の低減と高周波化への対応が求められる。プリント基板材料の誘電特性の改善に関し、酸変性ポリスチレンエラストマー樹脂とカルボジイミド樹脂とエポキシ樹脂を含有する接着剤組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。ただし、特許文献1では、酸変性ポリスチレンエラストマー樹脂の酸価が低いと、他の成分との相溶性が低下して接着強度が発現しないとされている。また、半導体ウエハを研磨する際に支持体に固定するための接着剤に関するものであるが、酸変性ポリスチレンエラストマー樹脂を含有する接着剤組成物が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
ところで、ダイマー酸(二量体脂肪酸)などの脂肪族ジアミンから誘導されるジアミン化合物を原料とする熱可塑性ポリイミドと、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物と、を反応させて得られる架橋ポリイミド樹脂を、カバーレイフィルムの接着剤層に適用することが提案されている(例えば、特許文献3)。特許文献3の実施例では、脂肪族ジアミンを原料とする熱可塑性ポリイミド組成物に鱗片状のタルクを配合することも開示されている。ここで、ダイマー酸は、例えば大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、菜種油脂肪酸等の天然の脂肪酸及びこれらを精製したオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等を原料に用いてディールス-アルダー反応させて得られる二量体化脂肪酸であり、ダイマー酸から誘導される多塩基酸化合物は、原料の脂肪酸や三量体化以上の脂肪酸の組成物として得られることが知られている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6705456号公報
【文献】国際公開WO2013/153904号
【文献】特許第5777944号公報
【文献】特開2017-137375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脂肪族ジアミンを原料とする熱可塑性ポリイミドは、溶剤に可溶性であり、接着性に優れ、ハンドリング性が良好であることから、接着剤として有用な樹脂材料であるが、今後の高周波化の進展に対応するためには、上記諸特性を満足することに加え、いっそうの低誘電正接化が求められている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、熱可塑性ポリイミドを使用し、低い誘電正接と優れた接着性を兼ね備えた樹脂フィルムを形成可能なポリイミド組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポリイミド組成物は、下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリイミド、及び
(B)酸価が10mgKOH/g以下のポリスチレンエラストマー樹脂、
を含有するとともに、前記(A)成分の100重量部に対する前記(B)成分の含有量が10重量部以上100重量部以下の範囲内である。
【0009】
本発明のポリイミド組成物は、前記(B)成分におけるスチレン単位の含有比率が10重量%以上65重量%以下の範囲内であってもよい。
【0010】
本発明のポリイミド組成物において、前記熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸無水物成分と、ジアミン成分と、を反応させてなるものであってもよく、前記ジアミン成分に対し、脂肪族ジアミンを40モル%以上含有するものであってもよい。
【0011】
本発明のポリイミド組成物は、前記脂肪族ジアミンが、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が第1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物であってもよい。
【0012】
本発明のポリイミド組成物は、更に、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物を含有していてもよい。
【0013】
本発明の樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂層を含む樹脂フィルムであって、
前記熱可塑性樹脂層が、下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリイミド、
及び
(B)酸価が10mgKOH/g以下のポリスチレンエラストマー樹脂、
を含有するとともに、前記(A)成分の100重量部に対する前記(B)成分の含有量が10重量部以上100重量部以下の範囲内であることを特徴とする。
【0014】
本発明の樹脂フィルムにおいて、前記熱可塑性樹脂層は、23℃、50%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後に、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が0.0020以下であってもよい。
【0015】
本発明の積層体は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面に積層された接着剤層と、を有する積層体であって、前記接着剤層が、上記樹脂フィルムからなることを特徴とする。
【0016】
本発明のカバーレイフィルムは、カバーレイ用フィルム材層と、該カバーレイ用フィルム材層に積層された接着剤層とを有するカバーレイフィルムであって、前記接着剤層が、上記樹脂フィルムからなることを特徴とする。
【0017】
本発明の樹脂付き銅箔は、接着剤層と銅箔とを積層した樹脂付き銅箔であって、前記接着剤層が、上記樹脂フィルムからなることを特徴とする。
【0018】
本発明の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を有する金属張積層板であって、前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、上記樹脂フィルムからなることを特徴とする。
【0019】
本発明の回路基板は、上記金属張積層板の前記金属層を配線加工してなるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリイミド組成物は、熱可塑性ポリイミドと特定の酸価を有するポリスチレンエラストマー樹脂を含有しているので、低い誘電正接を維持しながら、実用上十分なピール強度を有する接着性に優れた樹脂フィルムを形成することができる。従って、本発明のポリイミド組成物及び樹脂フィルムは、例えば、高速信号伝送を必要とする電子機器において、FPC等の回路基板材料として特に好適に用いることができる。また、樹脂フィルムの誘電特性を向上させることにより、ダイレクトコンバージョン方式の受信機への適用が可能になる。さらに、樹脂フィルムのピール強度を向上させ得ることから、信頼性の高い低誘電接着剤として、あらゆる構造の電子機器への適用が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
[ポリイミド組成物]
本発明の一実施の形態に係るポリイミド組成物は、下記の(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリイミド、及び
(B)酸価が10mgKOH/g以下のポリスチレンエラストマー樹脂、
を含有する。
【0023】
<(A)成分:熱可塑性ポリイミド>
(A)成分の熱可塑性ポリイミドは、溶剤可溶性を有する熱可塑性ポリイミドであり、テトラカルボン酸無水物成分と、ジアミン成分と、を反応させて得られる前駆体のポリアミド酸をイミド化したものである。なお、「熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱によって軟化し、冷却によって固化し、これを繰り返すことができ、ガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本発明では、150℃未満の温度域でガラス転移温度が明確に確認できるポリイミドを意味する。また、低温での熱圧着性の観点から、100℃未満の温度域でガラス転移温度が明確に確認できるポリイミドが好ましく、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×108Pa以上であり、かつ、ガラス転移温度+30℃における貯蔵弾性率が3.0×107Pa未満であるポリイミドがより好ましい。また、「非熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が3.0×108Pa以上であるポリイミドをいう。
【0024】
(テトラカルボン酸無水物成分)
(A)成分の熱可塑性ポリイミドは、一般に熱可塑性ポリイミドに使用されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を特に制限なく含むことができるが、全テトラカルボン酸残基に対して、下記の一般式(1)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を、合計で90モル%以上含有することが好ましい。下記の一般式(1)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を、全テトラカルボン酸残基に対して合計で90モル%以上含有させることによって、ポリイミドの柔軟性と耐熱性の両立が図りやすく好ましい。下記の一般式(1)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基の合計が90モル%未満では、ポリイミドの溶剤溶解性が低下する傾向になる。
【0025】
【0026】
一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示す。
【0027】
【0028】
上記式において、Zは-C6H4-、-(CH2)n-又は-CH2-CH(-O-C(=O)-CH3)-CH2-を示すが、nは1~20の整数を示す。
【0029】
上記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物(BPADA)、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート(TMEG)などを挙げることができる。これらの中でも特に3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を使用する場合は、ポリイミドの接着性を向上させることができ、また分子骨格に存在するケトン基と、後述する架橋形成のためのアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成する場合があり、耐熱性を向上させる効果を発現しやすい。このような観点から、全テトラカルボン酸残基に対して、BTDAから誘導される4価のテトラカルボン酸残基(BTDA残基)を、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上含有することがよい。
【0030】
(A)成分の熱可塑性ポリイミドは、発明の効果を損なわない範囲で、上記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸無水物以外の酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有することができる。そのようなテトラカルボン酸残基としては、特に制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-又は2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0031】
(ジアミン成分)
(A)成分の熱可塑性ポリイミドは、原料として、全ジアミン成分に対して、脂肪族ジアミンを好ましくは40モル%以上、より好ましくは60モル%以上含有するジアミン成分を用いることがよい。つまり、(A)成分の熱可塑性ポリイミドは、全ジアミン残基に対して、脂肪族ジアミンから誘導されるジアミン残基を、好ましくは40モル%以上、より好ましくは60モル%以上含有することがよい。脂肪族ジアミンから誘導されるジアミン残基を上記の量で含有することによって、ポリイミドの誘電特性を改善させるとともに、ポリイミドのガラス転移温度の低温化(低Tg化)による熱圧着特性の改善及び低弾性率化による内部応力を緩和することができる。全ジアミン残基に対して、脂肪族ジアミンから誘導されるジアミン残基が40モル%未満では、誘電正接や熱圧着特性の改善効果が十分に得られない場合がある。ここで、脂肪族ジアミンとしては、例えば、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が第1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物、ヘキサメチレンジアミン、ドデカンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ポリオキシアルキレンアミン、4、4―ジアミノジシクロヘキシルメタンなどを用いることが可能であり、特にダイマージアミン組成物が好ましい。
【0032】
(ダイマージアミン組成物)
ダイマージアミン組成物は、下記成分(a)を主成分として含有するとともに、成分(b)及び(c)の量が制御されているものである。
【0033】
(a)ダイマージアミン;
(a)成分のダイマージアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(-COOH)が、第1級のアミノメチル基(-CH2-NH2)又はアミノ基(-NH2)に置換されてなるジアミンを意味する。ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11~22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸、リノレン酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20~54の他の重合脂肪酸を含有する。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、本発明では、更に水素添加反応して不飽和度を低下させたものもダイマー酸に含めるものとする。(a)成分のダイマージアミンは、炭素数18~54の範囲内、好ましくは22~44の範囲内にある二塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるジアミン化合物、と定義することができる。
【0034】
ダイマージアミンの特徴として、ダイマー酸の骨格に由来する特性を付与することができる。すなわち、ダイマージアミンは、分子量約560~620の巨大分子の脂肪族であるので、分子のモル体積を大きくし、ポリイミドの極性基を相対的に減らすことができる。このようなダイマー酸型ジアミンの特徴は、ポリイミドの耐熱性の低下を抑制しつつ、比誘電率と誘電正接を小さくして誘電特性を向上させることに寄与すると考えられる。また、2つの自由に動く炭素数7~9の疎水鎖と、炭素数18に近い長さを持つ2つの鎖状の脂肪族アミノ基とを有するので、ポリイミドに柔軟性を与えるのみならず、ポリイミドを非対象的な化学構造や非平面的な化学構造とすることができるので、ポリイミドの低誘電率化及び低誘電正接化を図ることができると考えられる。
【0035】
ダイマージアミン組成物は、分子蒸留等の精製方法によって(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは98重量%以上にまで高めたものを使用することがよい。(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。なお、技術的に可能であれば、ダイマージアミン組成物のすべて(100重量%)が、(a)成分のダイマージアミンによって構成されていることが最もよい。
【0036】
(b)炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物は、ダイマー酸の原料に由来する炭素数10~20の範囲内にある一塩基性不飽和脂肪酸、及びダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数21~40の範囲内にある一塩基酸化合物の混合物である。モノアミン化合物は、これらの一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0037】
(b)成分のモノアミン化合物は、ポリイミドの分子量増加を抑制する成分である。ポリアミド酸又はポリイミドの重合時に、該モノアミン化合物の単官能のアミノ基が、ポリアミド酸又はポリイミドの末端酸無水物基と反応することで末端酸無水物基が封止され、ポリアミド酸又はポリイミドの分子量増加を抑制する。
【0038】
(c)炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物は、ダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数41~80の範囲内にある三塩基酸化合物を主成分とする多塩基酸化合物である。また、炭素数41~80のダイマー酸以外の重合脂肪酸を含んでいてもよい。アミン化合物は、これらの多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を第1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0039】
(c)成分のアミン化合物は、ポリイミドの分子量増加を助長する成分である。トリマー酸を由来とするトリアミン体を主成分とする三官能以上のアミノ基が、ポリアミド酸又はポリイミドの末端酸無水物基と反応し、ポリイミドの分子量を急激に増加させる。また、炭素数41~80のダイマー酸以外の重合脂肪酸から誘導されるアミン化合物も、ポリイミドの分子量を増加させ、ポリアミド酸又はポリイミドのゲル化の原因となる。
【0040】
上記ダイマージアミン組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた測定によって各成分の定量を行う場合、ダイマージアミン組成物の各成分のピークスタート、ピークトップ及びピークエンドの確認を容易にするために、ダイマージアミン組成物を無水酢酸及びピリジンで処理したサンプルを使用し、また内部標準物質としてシクロヘキサノンを使用する。このように調製したサンプルを用いて、GPCのクロマトグラムの面積パーセントで各成分を定量する。各成分のピークスタート及びピークエンドは、各ピーク曲線の極小値とし、これを基準にクロマトグラムの面積パーセントの算出を行うことができる。
【0041】
また、本発明で用いるダイマージアミン組成物は、GPC測定によって得られるクロマトグラムの面積パーセントで、成分(b)及び(c)の合計が4%以下、好ましくは4%未満がよい。成分(b)及び(c)の合計を4%以下とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。
【0042】
また、(b)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下がよい。このような範囲にすることで、ポリイミドの分子量の低下を抑制することができ、更にテトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分の仕込みのモル比の範囲を広げることができる。なお、(b)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0043】
また、(c)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、2%以下であり、好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.5%以下がよい。このような範囲にすることで、ポリイミドの分子量の急激な増加を抑制することができ、更に樹脂フィルムの広域の周波数での誘電正接の上昇を抑えることができる。なお、(c)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0044】
また、成分(b)及び(c)のクロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1以上である場合、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)は、好ましくは0.97以上1.0未満とすることがよく、このようなモル比にすることで、ポリイミドの分子量の制御がより容易となる。
【0045】
また、成分(b)及び(c)の前記クロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1未満である場合、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)は、好ましくは0.97以上1.1以下とすることがよく、このようなモル比にすることで、ポリイミドの分子量の制御がより容易となる。
【0046】
ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~200,000の範囲内が好ましい。また、例えばFPC用の接着剤として適用する場合、ポリイミドの重量平均分子量は、20,000~150,000の範囲内がより好ましく、40,000~150,000の範囲内が更に好ましい。ポリイミドの重量平均分子量が20,000未満である場合、フロー耐性が悪化する傾向となる。一方、ポリイミドの重量平均分子量が150,000を超えると、過度に粘度が増加して溶剤に不溶になり、塗工作業の際に接着剤層の厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0047】
ダイマージアミン組成物は、(a)成分のダイマージアミン以外の成分を低減する目的で精製することが好ましい。精製方法としては、特に制限されないが、蒸留法や沈殿精製等の公知の方法が好適である。精製前のダイマージアミン組成物は、市販品での入手が可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。
【0048】
ポリイミドに使用される脂肪族ジアミン以外のジアミン化合物としては、芳香族ジアミン化合物を挙げることができる。それらの具体例としては、1,4-ジアミノベンゼン(p-PDA;パラフェニレンジアミン)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン等のジアミン化合物が挙げられる。
【0049】
ポリイミドは、上記のテトラカルボン酸無水物成分とジアミン成分を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、テトラカルボン酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~50重量%の範囲内、好ましくは10~40重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、メタノール、エタノール、ベンジルアルコール、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~50重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0050】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps~100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0051】
ポリアミド酸をイミド化させてポリイミドを形成させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。また、温度は一定の温度条件で加熱しても良いし、工程の途中で温度を変えることもできる。
【0052】
(A)成分の熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分の種類や、2種以上のテトラカルボン酸無水物成分又はジアミン成分を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、誘電特性、熱膨張係数、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、(A)成分の熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0053】
(A)成分の熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、好ましくは22重量%以下、より好ましくは20重量%以下がよい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)2-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が22重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化し、Tg及び引張弾性率が上昇する。
【0054】
(A)成分の熱可塑性ポリイミドは、完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光社製、商品名;FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出することができる。
【0055】
<(B)成分:ポリスチレンエラストマー樹脂>
(B)成分のポリスチレンエラストマー樹脂は、スチレン又はその誘導体と共役ジエン化合物との共重合体であり、その水素添加物を含む。ここで、スチレン又はその誘導体としては、特に限定されるものではないが、スチレン、メチルスチレン、ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン等が例示される。また、共役ジエン化合物としては、特に限定されるものではないが、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が例示される。
また、ポリスチレンエラストマー樹脂は水素添加されていることが好ましい。水素添加されていることによって、熱に対する安定性が一層向上し、分解や重合などの変質が起こり難くなるとともに、脂肪族的な性質が高くなり、(A)成分の熱可塑性ポリイミドとの相溶性が高まる。
【0056】
(B)成分のポリスチレンエラストマー樹脂の共重合構造は、ブロック構造でもランダム構造でもよい。ポリスチレンエラストマー樹脂の好ましい具体例として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
(B)成分のポリスチレンエラストマー樹脂の酸価は、10mgKOH/g以下であり、1mgKOH/g以下が好ましく、0mgKOH/gであることがより好ましい。ポリイミド組成物に酸価が10mgKOH/g以下であるポリスチレンエラストマー樹脂を配合することによって、樹脂フィルムを形成したときの誘電正接を低下させ得るとともに良好なピール強度を維持することができる。それに対して、酸価が10mgKOH/gを超えると、極性基の増加によって誘電特性が悪化するとともに、(A)成分との相溶性が悪くなって樹脂フィルムを形成したときの密着性が低下する。したがって、酸価は低いほどよく、酸変性していないもの(つまり、酸価が0mgKOH/gであるもの)が本発明の(B)成分として最も適している。本発明では、(A)成分の熱可塑性ポリイミドが脂肪族ジアミン由来の残基を含有する場合に優れた接着性を発現させることが可能となるため、酸変性されていない(つまり、脂肪族的な性質が強い)ポリスチレンエラストマー樹脂を用いても、特許文献1において懸念されているような接着強度の低下は回避することができる。
【0058】
(B)成分のポリスチレンエラストマー樹脂は、スチレン単位[-CH2CH(C6H5)-]の含有比率が10重量%以上65重量%以下の範囲内であることが好ましく、20重量%以上65重量%以下の範囲内であることがより好ましく、30重量%以上60重量%以下の範囲内であることが最も好ましい。ポリスチレンエラストマー樹脂中のスチレン単位の含有比率が10重量%未満では樹脂の弾性率が低下してフィルムとしてのハンドリング性が悪化し、65重量%を超えて高くなると、樹脂が剛直になり、接着剤としての使用が困難となるほか、ポリスチレンエラストマー樹脂中のゴム成分が少なくなるため、誘電特性の悪化に繋がる。
また、スチレン単位の含有比率が上記範囲内であることによって、樹脂フィルム中の芳香環の割合が高くなるため、樹脂フィルムを用いて回路基板を製造する過程でレーザー加工によりビアホール(貫通孔)及びブラインドビアホールを形成する場合に、紫外線領域の吸収性を高めることが可能となり、レーザー加工性をより向上させることができる。
【0059】
(B)成分のポリスチレンエラストマー樹脂の重量平均分子量は、例えば、50,000~300,000の範囲内であることが好ましく、80,000~270,000の範囲内がより好ましい。(B)成分の重量平均分子量が上記範囲よりも低いと、誘電特性の改善効果が低くなる場合があり、逆に高いと、ポリイミド組成物とした場合の粘度が高くなり、樹脂フィルムの作製が困難となる場合がある。
【0060】
(B)成分のポリスチレンエラストマー樹脂としては、酸価が10mgKOH/g以下である限り、市販品を適宜選定して用いることができる。そのような市販のポリスチレンエラストマー樹脂として、例えば、KRATON社製のA1535HU(商品名)、G1652MU(商品名)、G1726VS(商品名)、G1645VS(商品名)、FG1901GT(商品名)、G1650MU(商品名)、G1654HU(商品名)、G1730VO(商品名)、MD1653MO(商品名)などを好ましく使用することができる。
【0061】
[配合量]
ポリイミド組成物における(A)成分100重量部に対する(B)成分の含有量は、10重量部以上100重量部以下の範囲内であり、20重量部以上90重量部以下の範囲内が好ましく、30重量部以上80重量部以下の範囲内がより好ましい。(A)成分100重量部に対する(B)成分の含有量が10重量部未満では、誘電正接を低下させる効果が十分に発現しない場合がある。一方、(B)成分の重量比率が100重量部を超えると、樹脂フィルムを形成したときの接着性が低下するとともに、ポリイミド組成物中の固形分濃度が高くなり過ぎて粘度が上昇し、ハンドリング性が低下する場合がある。
【0062】
[任意成分]
(A)成分の熱可塑性ポリイミドがケトン基を有する場合に、該ケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物(本明細書において「架橋形成用アミノ化合物」と記すことがある)のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることによって、架橋構造を形成することができる。架橋構造の形成によって、接着剤層を形成する熱可塑性ポリイミドの耐熱性を向上させることができる。したがって、本実施の形態のポリイミド組成物は、任意成分として架橋形成用アミノ化合物を含有することができる。
【0063】
ケトン基を有するポリイミドを形成するために好ましいテトラカルボン酸無水物としては、例えば3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を、ジアミン化合物としては、例えば、4,4’―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等の芳香族ジアミンを挙げることができる。架橋構造を形成させる目的において、本実施の形態のポリイミド組成物は、特に、全テトラカルボン酸残基に対して、BTDAから誘導されるBTDA残基を、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上含有する上記(A)成分の熱可塑性ポリイミド及び架橋形成用アミノ化合物、を含むことが好ましい。
【0064】
架橋形成用アミノ化合物としては、(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等を例示することができる。これらの中でも、ジヒドラジド化合物が好ましい。ジヒドラジド化合物以外の脂肪族アミンは、室温でも架橋構造を形成しやすく、ワニスの保存安定性に懸念があり、一方、芳香族ジアミンは、架橋構造の形成のために高温にする必要がある。このように、ジヒドラジド化合物を使用した場合は、ワニスの保存安定性と硬化時間の短縮化を両立させることができる。ジヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ二酸ジヒドラジド、4,4-ビスベンゼンジヒドラジド、1,4-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジン二酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物が好ましい。以上のジヒドラジド化合物は、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0065】
また、上記(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等のアミノ化合物は、例えば(I)と(II)の組み合わせ、(I)と(III)との組み合わせ、(I)と(II)と(III)との組み合わせのように、カテゴリーを超えて2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0066】
また、架橋形成用アミノ化合物による架橋で形成される網目状の構造をより密にするという観点から、本発明で使用する架橋形成用アミノ化合物は、その分子量(架橋形成用アミノ化合物がオリゴマーの場合は重量平均分子量)が5,000以下であることが好ましく、より好ましくは90~2,000、更に好ましくは100~1,500がよい。この中でも、100~1,000の分子量をもつ架橋形成用アミノ化合物が特に好ましい。架橋形成用アミノ化合物の分子量が90未満になると、架橋形成用アミノ化合物の1つのアミノ基がポリイミド樹脂のケトン基とC=N結合を形成するにとどまり、残りのアミノ基の周辺が立体的に嵩高くなるために残りのアミノ基はC=N結合を形成しにくい傾向となる。
【0067】
(A)成分の熱可塑性ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物とを架橋形成させる場合は、(A)成分を含む樹脂溶液に、上記架橋形成用アミノ化合物を加えて、熱可塑性ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基とを縮合反応させる。この縮合反応により、樹脂溶液は硬化して硬化物となる。この場合、架橋形成用アミノ化合物の添加量は、ケトン基1モルに対し、第1級アミノ基が合計で0.004モル~1.5モル、好ましくは0.005モル~1.2モル、より好ましくは0.03モル~0.9モル、最も好ましくは0.04モル~0.6モルとすることができる。ケトン基1モルに対して第1級アミノ基が合計で0.004モル未満となるような架橋形成用アミノ化合物の添加量では、架橋形成用アミノ化合物による架橋が十分ではないため、硬化後の耐熱性が発現しにくい傾向となり、架橋形成用アミノ化合物の添加量が1.5モルを超えると未反応の架橋形成用アミノ化合物が熱可塑剤として作用し、接着剤層としての耐熱性を低下させる傾向がある。
【0068】
架橋形成のための縮合反応の条件は、(A)成分の熱可塑性ポリイミドにおけるケトン基と上記架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基が反応してイミン結合(C=N結合)を形成する条件であれば、特に制限されない。加熱縮合の温度は、縮合によって生成する水を系外へ放出させるため、又は(A)成分の熱可塑性ポリイミドの合成後に引き続いて加熱縮合反応を行なう場合に当該縮合工程を簡略化するため等の理由で、例えば120~220℃の範囲内が好ましく、140~200℃の範囲内がより好ましい。反応時間は、30分~24時間程度が好ましい。反応の終点は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1670cm-1付近のポリイミド樹脂におけるケトン基に由来する吸収ピークの減少又は消失、及び1635cm-1付近のイミン基に由来する吸収ピークの出現により確認することができる。
【0069】
(A)成分の熱可塑性ポリイミドのケトン基と上記架橋形成用アミノ化合物の第1級のアミノ基との加熱縮合は、例えば、
(1)(A)成分の熱可塑性ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、架橋形成用アミノ化合物を添加して加熱する方法、
(2)ジアミン成分として予め過剰量のアミノ化合物を仕込んでおき、(A)成分の熱可塑性ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、イミド化若しくはアミド化に関与しない残りのアミノ化合物を架橋形成用アミノ化合物として利用して熱可塑性ポリイミドとともに加熱する方法、又は、
(3)架橋形成用アミノ化合物を添加したポリイミド組成物を所定の形状に加工した後(例えば任意の基材に塗布した後やフィルム状に形成した後)に加熱する方法、
等によって行うことができる。
【0070】
(A)成分の熱可塑性ポリイミドの耐熱性付与のため、架橋構造の形成でイミン結合の形成を説明したが、これに限定されるものではなく、(A)成分の熱可塑性ポリイミドの硬化方法として、例えばエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、マレイミドや活性化エステル樹脂やスチレン骨格を有する樹脂等の不飽和結合を有する化合物等を配合し硬化することも可能である。
【0071】
本実施の形態のポリイミド組成物には、さらに必要に応じて任意成分として、発明の効果を損なわない範囲で、無機フィラー、有機フィラー、可塑剤、硬化促進剤、カップリング剤、顔料、難燃剤などを適宜配合することができる。ここで、無機フィラーとしては、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ベリリウム、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ケイフッ化カリウム、ホスフィン酸金属塩等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、任意成分として、例えばエポキシ樹脂、フッ素樹脂、オレフィン系樹脂などの他の樹脂成分を配合してもよい。
【0072】
さらに、本実施の形態のポリイミド組成物は、有機溶媒などの溶剤を含有することができる。(A)成分の熱可塑性ポリイミドは溶剤可溶性を有しており、また、(B)成分のポリスチレンエラストマー樹脂も、例えばキシレン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒に良好な溶解性を示すことから、本実施の形態のポリイミド組成物を、溶剤を含有するポリイミド溶液(ワニス)として調製することができる。有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等から選ばれる1種又は2種以上と、上記芳香族炭化水素系溶媒とを任意の比率で混合した混合溶媒を用いることが好ましい。
溶剤の含有量としては特に制限されるものではないが、ポリアミド酸又はポリイミドの濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0073】
[粘度]
ポリイミド組成物の粘度は、ポリイミド組成物を塗工する際のハンドリング性を高め、均一な厚みの塗膜を形成しやすい粘度範囲として、例えば3000cps~100000cpsの範囲内とすることが好ましく、5000cps~50000cpsの範囲内とすることがより好ましい。上記の粘度範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0074】
[ポリイミド組成物の調製]
ポリイミド組成物は、例えば、任意の溶剤を用いて作製した熱可塑性ポリイミドの樹脂溶液にポリスチレンエラストマー樹脂を配合し、混合することによって調製することができる。このとき、熱可塑性ポリイミドとポリスチレンエラストマー樹脂とを均一に混合するため、ポリスチレンエラストマー樹脂を溶剤に溶解した状態で混合してもよく、あるいは、ポリスチレンエラストマー樹脂に対して高い溶解性を示す溶剤を添加してもよい。
【0075】
本実施の形態のポリイミド組成物は、これを用いて接着剤層を形成した場合に優れた柔軟性と熱可塑性を有するものとなる。したがって、例えばFPC、リジッド・フレックス回路基板などにおいて、接着剤層の材料や、配線部を保護するカバーレイフィルム用接着剤などの用途に好ましい特性を有している。
【0076】
[樹脂フィルム]
本実施の形態の樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂層を含む単層もしくは複数層からなる樹脂フィルムであり、該熱可塑性樹脂層が、上記ポリイミド組成物の固形分(溶剤を除いた残部)を主要成分としてフィルム化してなるものである。つまり、熱可塑性樹脂層は、(A)成分及び(B)成分;
(A)熱可塑性ポリイミド、
及び
(B)酸価が10mgKOH/g以下のポリスチレンエラストマー樹脂、
を含有するとともに、前記(A)成分の100重量部に対する前記(B)成分の含有量が10重量部以上100重量部以下の範囲内である。本実施の形態の樹脂フィルムは、優れた高周波特性と、優れた接着性(特にピール強度)を有するものである。
【0077】
本実施の形態の樹脂フィルムは、上記の熱可塑性樹脂層を含む絶縁樹脂のフィルムであれば特に限定されるものではなく、絶縁樹脂のみからなるフィルム(シート)であってもよく、銅箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等の基材に積層された状態の絶縁樹脂のフィルムであってもよい。
【0078】
(比誘電率)
本実施の形態の樹脂フィルムは、例えばFPC等の回路基板に使用した際のインピーダンス整合性を確保するため、また電気信号のロス低減のために、23℃、50%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後の10GHzにおける比誘電率(ε)が、好ましくは3.3以下がよく、より好ましくは3.1以下がよい。この比誘電率が3.3を超えると、例えばFPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0079】
(誘電正接)
また、本実施の形態の樹脂フィルムは、例えばFPC等の回路基板に使用した際の電気信号のロス低減のために、23℃、50%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後の10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、好ましくは0.0020以下がよく、より好ましくは0.0018以下がよい。この誘電正接が0.0020を超えると、例えばFPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0080】
(ガラス転移温度)
本実施の形態の樹脂フィルムは、ガラス転移温度(Tg)が250℃以下であることが好ましく、40℃以上200℃以下の範囲内であることがより好ましい。樹脂フィルムのTgが250℃以下であることによって、低温での熱圧着が可能になるため、積層時に発生する内部応力を緩和し、回路加工後の寸法変化を抑制できる。樹脂フィルムのTgが250℃を超えると、接着温度が高くなり、回路加工後の寸法安定性を損なう恐れがある。
【0081】
(厚み)
本実施の形態の樹脂フィルムは、厚みが、例えば5μm以上125μm以下の範囲内が好ましく、8μm以上100μm以下の範囲内であることがより好ましい。樹脂フィルムの厚みが5μmに満たないと、樹脂フィルムの製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがあり、一方、樹脂フィルムの厚みが125μmを超えると樹脂フィルムの生産性低下の虞がある。
【0082】
(引張弾性率)
本実施の形態の樹脂フィルムは、しわ発生の低減、積層時の気泡の噛みこみ防止、ハンドリング性などの観点から、引張弾性率が0.1GPa~3.0GPaの範囲内であることが好ましく、0.2GPa~2.0GPaの範囲内がより好ましい。
【0083】
(最大伸度)
本実施の形態の樹脂フィルムは、FPCの絶縁樹脂層として適用したときの折り曲げ性、クラック防止の観点から、最大伸度が30%~200%の範囲内であることが好ましく、60%~160%の範囲内がより好ましい。
【0084】
本実施の形態の樹脂フィルムは、低い誘電正接と優れた接着性を有することから、カバーレイフィルムにおける接着剤層、回路基板、多層回路基板、樹脂付き銅箔などにおける接着剤層、ボンドプライ、ボンディングシートなどとして有用である。
【0085】
[積層体]
本発明の一実施の形態に係る積層体は、基材と、この基材の少なくとも一方の面に積層された接着剤層と、を有し、接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。なお、積層体は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。積層体における基材としては、例えば、銅箔、ガラス板などの無機材料の基材や、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂材料の基材を挙げることができる。
積層体の好ましい態様として、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔などを挙げることができる。
【0086】
[カバーレイフィルム]
積層体の一態様であるカバーレイフィルムは、基材としてのカバーレイ用フィルム材層と、該カバーレイ用フィルム材層の片側の面に積層された接着剤層とを有し、接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。なお、カバーレイフィルムは、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0087】
カバーレイ用フィルム材層の材質は、特に限定されないが、例えばポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等のポリイミド系フィルムや、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどを用いることができる。これらの中でも、優れた耐熱性を持つポリイミド系フィルムを用いることが好ましい。また、カバーレイ用フィルム材は、遮光性、隠蔽性、意匠性等を効果的に発現させるために、黒色顔料を含有することもでき、また誘電特性の改善効果を損なわない範囲で、表面の光沢を抑制するつや消し顔料などの任意成分を含むことができる。
【0088】
カバーレイ用フィルム材層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば5μm以上100μm以下の範囲内が好ましい。
また、接着剤層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば10μm以上75μm以下の範囲内が好ましい。
【0089】
本実施の形態のカバーレイフィルムは、以下に例示する方法で製造できる。
まず、第1の方法として、カバーレイ用のフィルム材層の片面に、溶剤を含有するワニス状のポリイミド組成物を塗布した後、例えば80~180℃の温度で乾燥させて接着剤層を形成することにより、カバーレイ用フィルム材層と接着剤層を有するカバーレイフィルムを形成できる。
【0090】
また、第2の方法として、任意の基材上に、溶剤を含有するワニス状のポリイミド組成物を塗布し、例えば80~180℃の温度で乾燥した後、剥離することにより、接着剤層用の樹脂フィルムを形成し、この樹脂フィルムを、カバーレイ用のフィルム材層と例えば60~220℃の温度で熱圧着させることによってカバーレイフィルムを形成できる。
【0091】
[樹脂付き銅箔]
積層体の別の態様である樹脂付き銅箔は、基材としての銅箔の少なくとも片側に接着剤層を積層したものであり、接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。なお、本実施の形態の樹脂付き銅箔は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0092】
樹脂付き銅箔における接着剤層の厚みは、例えば2~125μmの範囲内にあることが好ましく、2~100μmの範囲内がより好ましい。接着剤層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な接着性が担保出来なかったりするなどの問題が生じることがある。一方、接着剤層の厚みが上記上限値を超えると、寸法安定性が低下するなどの不具合が生じる。また、低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、接着剤層の厚みを3μm以上とすることが好ましい。
【0093】
樹脂付き銅箔における銅箔の材質は、銅又は銅合金を主成分とするものが好ましい。銅箔の厚みは、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5~25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から、銅箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔は圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0094】
樹脂付き銅箔は、例えば、樹脂フィルムに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えば銅メッキによって銅層を形成することによって調製してもよく、あるいは、樹脂フィルムと銅箔とを熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。さらに、樹脂付き銅箔は、銅箔の上に接着剤層を形成するため、ポリイミド組成物の塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、必要な熱処理を行って調製してもよい。
【0095】
[金属張積層板]
(第1の態様)
本発明の一実施の形態に係る金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備え、絶縁樹脂層の少なくとも1層が、上記樹脂フィルムからなるものである。なお、本実施の形態の金属張積層板は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0096】
(第2の態様)
本発明の別の実施の形態に係る金属張積層板は、例えば絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された接着剤層と、この接着剤層を介して絶縁樹脂層に積層された金属層と、を備えた、いわゆる3層金属張積層板であり、接着剤層が、上記樹脂フィルムからなるものである。なお、3層金属張積層板は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。3層金属張積層板は、接着剤層が、絶縁樹脂層の片面又は両面に設けられていればよく、金属層は、接着剤層を介して絶縁樹脂層の片面又は両面に設けられていればよい。つまり、3層金属張積層板は、片面金属張積層板でもよいし、両面金属張積層板でもよい。3層金属張積層板の金属層をエッチングするなどして配線回路加工することによって、片面FPC又は両面FPCを製造することができる。
【0097】
3層金属張積層板における絶縁樹脂層としては、電気的絶縁性を有する樹脂により構成されるものであれば特に限定はなく、例えばポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ETFEなどを挙げることができるが、ポリイミドによって構成されることが好ましい。絶縁樹脂層を構成するポリイミド層は、単層でも複数層でもよいが、非熱可塑性ポリイミド層を含むことが好ましい。
【0098】
3層金属張積層板における絶縁樹脂層の厚みは、例えば1~125μmの範囲内にあることが好ましく、5~100μmの範囲内がより好ましい。絶縁樹脂層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な電気絶縁性が担保出来ないなどの問題が生じることがある。一方、絶縁樹脂層の厚みが上記上限値を超えると、金属張積層板の反りが生じやすくなるなどの不具合が生じる。
【0099】
3層金属張積層板における接着剤層の厚みは、例えば0.1~125μmの範囲内にあることが好ましく、0.3~100μmの範囲内がより好ましい。本実施の形態の3層金属張積層板において、接着剤層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な接着性が担保出来なかったりするなどの問題が生じることがある。一方、接着剤層の厚みが上記上限値を超えると、寸法安定性が低下するなどの不具合が生じる。また、絶縁樹脂層と接着剤層との積層体である絶縁層全体の低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、接着剤層の厚みは、3μm以上とすることが好ましい。
また、絶縁樹脂層の厚みと接着剤層との厚みの比(絶縁樹脂層の厚み/接着剤層の厚み)は、例えば0.1~3.0の範囲内が好ましく、0.15~2.0の範囲内がより好ましい。このような比率にすることで、3層金属張積層板の反りを抑制することができる。また、絶縁樹脂層は、必要に応じて、フィラーを含有してもよい。フィラーとしては、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、有機ホスフィン酸の金属塩等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0100】
[回路基板]
本発明の実施の形態に係る回路基板は、上記いずれかの実施の形態の金属張積層板の金属層を配線加工してなるものである。金属張積層板の一つ以上の金属層を、常法によってパターン状に加工して配線層(導体回路層)を形成することによって、FPCなどの回路基板を製造できる。なお、回路基板は、配線層を被覆するカバーレイフィルムを備えていてもよい。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0102】
[ポリイミドの重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、商品名;HLC-8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用いた。
【0103】
[貯蔵弾性率の測定]
動的粘弾性測定装置(DMA:ティー・エイ・インスツルメント社製、商品名:RSA-G2)を用いて測定した。
【0104】
[誘電特性の評価]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)およびSPDR共振器を用いてポリイミドフィルム(硬化後のポリイミドフィルム)を温度;23℃、湿度;50%RHの条件下で、24時間放置した後、周波数10GHzにおける比誘電率(ε)および誘電正接(Tanδ)を測定した。
【0105】
[ガラス転移温度(Tg)]
温度;160℃、圧力;3.5MPa、時間;60分間の条件でプレスした接着剤シートを5mm×20mmのサイズの試験片に切り出し、動的粘弾性測定装置(DMA:ティー・エイ・インスツルメント社製、商品名;RSA―G2)を用いて、30℃から200℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行い、弾性率変化(tanδ)が最大となる温度をガラス転移温度とした。
【0106】
[引張弾性率及び最大伸度]
テンションテスター(オリエンテック製テンシロン)を用いて、樹脂フィルムの試験片(幅;12.7mm、長さ;127mm)について、50mm/minの引張試験を行い、25℃における引張弾性率及び最大伸度を求めた。
【0107】
[半田耐熱試験(乾燥)]
両面銅張積層板(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名;エスパネックスMB12-25-12UEG)の片方の銅箔をエッチング除去して、もう一方の銅箔面と接着剤シートを銅箔で挟む形で積層し、温度;160℃、圧力;3.5MPa、時間;60分間の条件でプレスした。この銅箔付きの試験片を135℃/60分で乾燥した後、260℃から10℃きざみで300℃までの各評価温度に設定した半田浴中に10秒間浸漬し、その接着状態を観察して、発泡、ふくれ、剥離等の不具合の有無を確認した。判定として280℃にて不具合が認められない場合は〇(良好)、不具合が認められた場合は×(不良)とした。
【0108】
[半田耐熱試験(吸湿)]
両面銅張積層板(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名;エスパネックスMB12-25-12UEG)の片面の銅箔をエッチング除去して、もう一方の銅箔面と接着剤シートを銅箔で挟む形で積層し、温度;160℃、圧力;3.5MPa、時間;60分間の条件でプレスした。この銅箔付きの試験片を40℃、相対湿度;90%RHで72時間放置した後、240℃から10℃きざみで300℃までの各評価温度に設定した半田浴中に10秒間浸漬し、その接着状態を観察して、発泡、ふくれ、剥離等の不具合の有無を確認した。判定として260℃にて不具合が認められない場合は〇(良好)、不具合が認められた場合は×(不良)とした。
【0109】
[ピール強度の測定]
両面銅張積層板(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名;エスパネックスMB12-25-12UEG)を幅;50mm、長さ;100mmに切り出した後、片面の銅箔をエッチング除去したサンプルの銅箔側に接着剤シートを置き、更にこの接着剤シートの上にポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名;カプトン50EN-S)を積層し、温度;160℃、圧力;3.5MPa、時間;60分の条件でプレスして積層体を調製した。この積層体を幅5mmに切り出し試験片とし、引張試験機(東洋精機製作所製、商品名;ストログラフVE)を用いて、試験片の180°方向に、速度50mm/minで引っ張ったときの接着剤層と銅箔の剥離強度を測定し、ピール強度とした。
【0110】
[フィルム保持性の評価方法]
接着剤シートを幅20mm、長さ20mmの試験片に切り出し、対角線に沿って折り目がつくように折り曲げた後、開いてフィルムの状態を観察した。この時、折り目をつけて開いた後も試験片に亀裂がないものを「良」、一部でも亀裂が入っているものを「不可」とした。
【0111】
[フィルム欠陥の評価方法]
ポリイミドワニスを離型処理されたPETフィルムの片面に塗布し、100℃で5分間乾燥した後、120℃で10分間乾燥を行い、剥離したフィルムの状態を観察した。この時、凝集物起因やエラストマー樹脂の溶解性不良のためのかすれ(引きずった跡)などがないものを「良」、かすれが入っているものを「不可」とした。
【0112】
[酸価]
酸価は、試料1gを中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のmg数である。これは、例えば、次のような方法により測定される。まず試料を精密に量り、250mLのフラスコに入れ、エタノールまたはエタノールおよびエーテルの等容量混液50mLを加え、加温して溶かし、必要に応じて振り混ぜながら0.1N水酸化カリウム液で滴定する(指示薬:フェノールフタレイン)。滴定の終点は、液の淡紅色が30秒持続する点とする。次いで、同様の方法で空試験を行なって補正し、次の式から酸価の値を求める。
酸価=〔0.1N水酸化カリウム液の消費量(mL)×5.611〕/〔試料量(g)〕
【0113】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
DDA:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(a成分;99.2重量%、b成分:0%、c成分;0.8%、アミン価:210mg KOH/g)
N-12:ドデカン二酸ジヒドラジド
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
エラストマー樹脂1:KRATON社製、商品名;A1535HU(水添ポリスチレンエラストマー樹脂、スチレン単位含有割合58重量%、比重;0.96、酸価無し)
エラストマー樹脂2:KRATON社製、商品名;G1652MU(水添ポリスチレンエラストマー樹脂、スチレン単位含有割合30重量%、比重;0.91、酸価無し)
エラストマー樹脂3:KRATON社製、商品名;G1726VS(水添ポリスチレンエラストマー樹脂、スチレン単位含有割合30重量%、比重;0.91、酸価無し)
エラストマー樹脂4:KRATON社製、商品名;G1645VS(水添ポリスチレンエラストマー樹脂、スチレン単位含有割合13重量%、比重;0.89、酸価無し)
エラストマー樹脂5:KRATON社製、商品名;FG1901GT(水添ポリスチレンエラストマー樹脂、スチレン単位含有割合30重量%、比重;0.91、酸価10mgKOH/g)
エラストマー樹脂6:旭化成社製、商品名;タフテックM1913(水添ポリスチレンエラストマー樹脂、スチレン単位含有割合30重量%、比重;0.91、酸価11mgKOH/g)
エラストマー樹脂7:旭化成社製、商品名;タフテックM1943(水添ポリスチレンエラストマー樹脂、スチレン単位含有割合20重量%、比重;0.91、酸価11mgKOH/g)
なお、上記DDAにおいて、a成分、b成分及びc成分の「%」は、GPC測定におけるクロマトグラムの面積パーセントを意味する。また、DDAの分子量は下記式(1)により算出した。
分子量=56.1×2×1000/アミン価・・・(1)
【0114】
(合成例1)
1000mlのセパラブルフラスコに、55.51gのBTDA(0.1721モル)、94.49gのDDA(0.1735モル)、210gのNMP及び140gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、10時間加熱、攪拌し、125gのキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド溶液1(固形分;31重量%、重量平均分子量;80,900、熱可塑性ポリイミド)を調製した。
【0115】
[実施例1]
合成例1で調製したポリイミド溶液1の100gに、1.12gのN-12及び7.8gのエラストマー樹脂1を配合し、固形分が27重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス1aを調製した。
【0116】
[実施例2~8]
エラストマー樹脂1、2、3、4、5を使用して配合量を表1のように変えた以外は、実施例1と同様にしてポリイミドワニス2a~8aを調製した。
【0117】
比較例1、2
エラストマー樹脂6、7を使用して配合量を表1のように変えたこと、及び、ポリイミドワニスの固形分濃度を31重量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドワニス9a、10aを調製した。
【0118】
比較例3
エラストマーを使用しなかったこと、及び、ポリイミドワニスの固形分濃度を31重量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドワニス11aを調製した。
【0119】
表1及び表2に、実施例1~8及び比較例1~3の配合を示した。
【0120】
【0121】
【0122】
[実施例9]
実施例1で調製したポリイミドワニス1aを離型処理されたPETフィルムの片面に塗布し、100℃で5分間乾燥した後、120℃で10分間乾燥を行い、剥離することによって、接着剤シート1b(厚さ;25μm)を調製した。
接着剤シート1bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.5、誘電正接;0.0018、引張弾性率;0.3GPa、最大伸度;136%、Tg;41℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);〇、半田耐熱試験(吸湿);〇、ピール強度;1.5kN/m、フィルム欠陥;良
【0123】
[実施例10]
ポリイミドワニス2aを使用し、実施例9と同様にして接着剤シート2bを調製した。
接着剤シート2bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.5、誘電正接;0.0015、引張弾性率;0.3GPa、最大伸度;195%、Tg;43℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);〇、半田耐熱試験(吸湿);〇、ピール強度;1.4kN/m、フィルム欠陥;良
【0124】
[実施例11]
ポリイミドワニス3aを使用し、実施例9と同様にして接着剤シート3bを調製した。
接着剤シート3bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.5、誘電正接;0.0013、引張弾性率;0.3GPa、最大伸度;230%、Tg;42℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);〇、半田耐熱試験(吸湿);〇、ピール強度;1.3kN/m、フィルム欠陥;良
【0125】
[実施例12]
ポリイミドワニス4aを使用し、実施例9と同様にして接着剤シート4bを調製した。
接着剤シート4bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.6、誘電正接;0.0018、引張弾性率;0.4GPa、最大伸度;118%、Tg;40℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);〇、半田耐熱試験(吸湿);〇、ピール強度;1.5kN/m、フィルム欠陥;良
【0126】
[実施例13]
ポリイミドワニス5aを使用し、実施例9と同様にして接着剤シート5bを調製した。
接着剤シート5bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0017、引張弾性率;0.3GPa、最大伸度;144%、Tg;40℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);〇、半田耐熱試験(吸湿);〇、ピール強度;1.6kN/m、フィルム欠陥;良
【0127】
[実施例14]
ポリイミドワニス6aを使用し、実施例9と同様にして接着剤シート6bを調製した。
接着剤シート6bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.6、誘電正接;0.0018、引張弾性率;0.3GPa、最大伸度;103%、Tg;42℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);〇、半田耐熱試験(吸湿);〇、ピール強度;1.4kN/m、フィルム欠陥;良
【0128】
[実施例15]
ポリイミドワニス7aを使用し、実施例9と同様にして接着剤シート7bを調製した。
接着剤シート7bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.6、誘電正接;0.0020、引張弾性率;0.2GPa、最大伸度;103%、Tg;41℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);〇、半田耐熱試験(吸湿);〇、ピール強度;1.4kN/m、フィルム欠陥;良
【0129】
[実施例16]
ポリイミドワニス8aを使用し、実施例9と同様にして接着剤シート8bを調製した。
接着剤シート8bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.6、誘電正接;0.0019、引張弾性率;0.3GPa、最大伸度;122%、Tg;41℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);〇、半田耐熱試験(吸湿);〇、ピール強度;1.2kN/m、フィルム欠陥;良
【0130】
比較例4
ポリイミドワニス9aを使用し、実施例9と同様にして接着剤シート9bを調製した。
接着剤シート9bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0022、引張弾性率;0.3GPa、最大伸度;201%、Tg;43℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);〇、半田耐熱試験(吸湿);×、ピール強度;1.6kN/m、フィルム欠陥;不可
【0131】
比較例5
ポリイミドワニス10aを使用し、実施例9と同様にして接着剤シート10bを調製した。
接着剤シート10bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0022、引張弾性率;0.2GPa、最大伸度;185%、Tg;41℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);〇、半田耐熱試験(吸湿);〇、ピール強度;1.4kN/m、フィルム欠陥;不可
【0132】
比較例6
ポリイミドワニス11aを使用し、実施例9と同様にして接着剤シート11bを調製した。
接着剤シート11bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.6、誘電正接;0.0021、引張弾性率;0.5GPa、最大伸度;119%、Tg;44℃、フィルム保持性;良、半田耐熱試験(乾燥);×、半田耐熱試験(吸湿);×、ピール強度;1.0kN/m、フィルム欠陥;良
【0133】
以上の結果をまとめて表3に示す。
【0134】
【0135】
表3より、比較例4、5の接着剤シート9b、10bと比較して、エラストマー樹脂1およびエラストマー樹脂2、3,4、5を添加した実施例9~16の接着剤シート1b~8bは、誘電正接が0.0020以下であり、高いピール強度が得られ、フィルムの欠陥もないことが確認された。このような結果から、本実施の形態に係る樹脂フィルムとしての接着剤シートは、例えば10~20GHz程度の高周波帯における伝送損失の低減が期待でき、かつ、柔軟性やフィルム保持性を維持しつつ、優れたピール強度を有することが確認された。
【0136】
以上、各実施例に示すように、脂肪族ジアミンを原料とするポリイミドに酸価が10mgKOH/g以下の水添ポリスチレンエラストマー樹脂を添加することによって、明確な誘電特性の向上が見られ、さらにピール強度の向上も見られた。
さらに、各実施例で得られた接着剤シートは、酸価が10mgKOH/g以下の水添ポリスチレンエラストマー樹脂を実用範囲の配合量で使用することによって、フィルムとしての形状を保持していることも確認された。
【0137】
以上のような結果から、本実施の形態に係る樹脂フィルムは、高周波対応FPCなどの回路基板用材料として好適に使用されることが確認された。
【0138】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。