(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、半導体封止材、接着剤、接着フィルム、プリプレグ、層間絶縁材料及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C08F 299/02 20060101AFI20250707BHJP
C08F 22/40 20060101ALI20250707BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20250707BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20250707BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20250707BHJP
C09J 179/08 20060101ALI20250707BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20250707BHJP
C09J 4/00 20060101ALI20250707BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20250707BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20250707BHJP
H01B 3/30 20060101ALI20250707BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250707BHJP
【FI】
C08F299/02
C08F22/40
C08G73/10
H01L23/30 R
C09J179/08 Z
C09J11/06
C09J4/00
C09J7/35
C08J5/24 CFG
H01B3/30 D
H05K1/03 610N
(21)【出願番号】P 2022101901
(22)【出願日】2022-06-24
【審査請求日】2024-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 洋之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】津浦 篤司
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】池田 多春
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152149(WO,A1)
【文献】特開2022-077848(JP,A)
【文献】国際公開第2021/205675(WO,A1)
【文献】特開2019-203122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73
C08F
C08L
C09J
C08J5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表されるマレイミド化合物
【化1】
(式(1)中、Aは独立してダイマー酸及びトリマー酸由来の炭化水素基を示し、Bは独立して環状構造を含む4価の有機基を示し、nは1~1000である。)
及び
(B)触媒
を含有する硬化性樹脂組成物であって、
該硬化性樹脂組成物における(A)成分の含有量は、60~99質量%であり、
式(1)中のAは、ダイマー酸及びトリマー酸由来の炭化水素基のうちダイマー酸由来の炭化水素基が占める割合が95質量%以上であって、かつ水添処理された基である、
半導体封止用硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
JIS K7244-4:1999に記載の方法に準じ、25℃の測定温度で、動的粘弾性測定装置を用いて、周波数10Hz、温度範囲-50℃~200℃、昇温速度5℃/分で測定した、硬化性樹脂組成物の硬化物の貯蔵弾性率が、1000MPa未満である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
JIS K 6253-3:2012に記載の方法に準じ、25℃の測定温度で、デュロメータタイプDの硬度計を用いて測定した、硬化性樹脂組成物の硬化物の硬度が、D50以下である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分の触媒が、有機過酸化物、アニオン重合開始剤及び光硬化開始剤から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物からなる接着剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物からなる接着フィルム。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物と繊維基材からなるプリプレグ。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物からなる層間絶縁材料。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を有するプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、半導体封止材、接着剤、接着フィルム、プリプレグ、層間絶縁材料及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5Gという次世代通信システム(26GHz~80GHzのミリ波領域)が流行しており、さらには6Gという次々世代の通信システムの開発も始まり、今以上の高速、大容量、低遅延通信を実現しようとしている。これらの通信システムを実現するためには、3~80GHzの高周波帯用の材料が必要であり、ノイズ対策として伝送損失の低減が必須となる。
伝送損失は導体損失と誘電損失の和であり、導体損失の低減には使用する金属箔の表面の低粗化が必要である。一方、誘電損失は、比誘電率の平方根と誘電正接の積に比例することから、絶縁材としては誘電特性の優れた(低比誘電率かつ低誘電正接の)絶縁材料の開発が求められている。
その中でも基板用途で、このような誘電特性の優れた絶縁材料が求められている。リジッド基板では反応性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、フレキシブルプリント基板(FPC)では液晶ポリマー(LCP)や特性を改良した変性ポリイミド(MPI)と呼ばれる製品が使用されるようになってきている。
【0003】
これに対して、実質的にダイマージアミン骨格(ダイマー酸由来の骨格)を有するマレイミド化合物(特殊マレイミド化合物)を基板用の主要樹脂として使用することが報告されている(特許文献1~4)。一般的なマレイミド樹脂の特性とは逆で、特殊マレイミド化合物は、低ガラス転移温度(Tg)、高熱膨張係数(CTE)であるが、誘電特性に非常に優れ、フレキシブルな特性を有し、金属などへの接着力に優れ、熱硬化樹脂であるために(高)多層化できる可能性があるなど優位な点も多く、広い範囲にわたって研究開発されている。しかし、特殊マレイミド化合物の単独使用が主であった。
また、誘電損失は前述の通り、比誘電率の平方根と誘電正接の積と比例関係にあり、このことから誘電正接を低くすることがより重要である。
【0004】
一方で、トリマートリアミン骨格(トリマー酸由来の骨格)を有するマレイミド化合物を基板用の主要樹脂として用いた樹脂材料が、耐熱性、機械強度、誘電特性などに優れると報告されている(特許文献5、6)。
一般的にダイマー酸とトリマー酸とは混合物であり、総称してダイマー酸と呼ばれている場合が多い。そして、ダイマー酸とトリマー酸から誘導されたダイマージアミンとトリマートリアミンに関しても同様であり、総称してダイマージアミンと呼ばれており、ダイマージアミンと称される化合物の市販品においても、製品によりダイマージアミン及びトリマートリアミンの割合が異なることはよく知られている(特許文献7、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-131243号公報
【文献】特開2016-131244号公報
【文献】国際公開第2016/114287号
【文献】特開2018-201024号公報
【文献】特開2019-182932号公報
【文献】国際公開第2020/45408号
【文献】特開2017-186551号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】有機合成化学協会誌、1967年、25(2)、180-183
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような背景のもと、これらのトリマートリアミン骨格由来の構造を有するマレイミド化合物について合成し、検討してみたところ、トリマートリアミン骨格由来の構造を有するマレイミド化合物を含む組成物の硬化物は、貯蔵弾性率や硬度が高いために反りやクラックが発生しやすく、高周波における比誘電率、誘電正接が大きく、また加熱による影響が大きく耐熱性に劣ることがわかった。
従って、本発明は、低弾性、低硬度であるために硬化後の反りが小さく、更に耐クラック性に優れ、高周波でも優れた誘電特性を示し、高温下に長時間置いた後でも誘電特性の変化が小さい硬化物となる硬化性樹脂組成物を提供し、さらにはそれを含有する半導体封止材、接着剤、接着フィルム、プリプレグ、層間絶縁材料及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記樹脂組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、以下の硬化性樹脂組成物を提供するものである。
[1]
(A)下記一般式(1)で表されるマレイミド化合物
【化1】
(式(1)中、Aは独立してダイマー酸及びトリマー酸由来の炭化水素基を示し、Bは独立して環状構造を含む4価の有機基を示し、nは1~1000である。)
及び
(B)触媒
を含有する硬化性樹脂組成物であって、
式(1)中のAは、ダイマー酸及びトリマー酸由来の炭化水素基のうちダイマー酸由来の炭化水素基が占める割合が95質量%以上であって、かつ水添処理された基である、硬化性樹脂組成物。
[2]
JIS K7244-4:1999に記載の方法に準じ、25℃の測定温度で、動的粘弾性測定装置を用いて、周波数10Hz、温度範囲-50℃~200℃、昇温速度5℃/分で測定した、硬化性樹脂組成物の硬化物の貯蔵弾性率が、1000MPa未満である[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
[3]
JIS K 6253-3:2012に記載の方法に準じ、25℃の測定温度で、デュロメータタイプDの硬度計を用いて測定した、硬化性樹脂組成物の硬化物の硬度が、D50以下である[1]又は[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
[4]
(B)成分の触媒が有機過酸化物、アニオン重合開始剤及び光硬化開始剤から選ばれる少なくとも1種である[1]~[3]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物からなる半導体封止材。
[6]
[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物からなる接着剤。
[7]
[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物からなる接着フィルム。
[8]
[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物と繊維基材からなるプリプレグ。
[9]
[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物からなる層間絶縁材料。
[10]
[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物の硬化物を有するプリント配線板。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化性樹脂組成物は、低弾性、低硬度であるために硬化後の反りが小さく、更に耐クラック性に優れ、高周波でも優れた誘電特性を示し、高温下に長時間置いた後でも誘電特性の変化が小さい硬化物を与える。したがって、本発明の硬化性樹脂組成物は半導体封止材、接着剤、接着フィルム、プリプレグ、層間絶縁材料及びプリント配線板として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のプリプレグの一例を示す切断端面図である。
【
図2】本発明の積層板の一例を示す切断端面図である。
【
図3】本発明のプリント配線板の一例を示す切断端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に関して更に詳しく説明する。
【0013】
(A)下記一般式(1)で表されるマレイミド化合物
(A)成分は下記一般式(1)で表されるマレイミド化合物である。
【化2】
式(1)中、Aは独立してダイマー酸及びトリマー酸由来の炭化水素基を示し、Bは独立して環状構造を含む4価の有機基を示し、nは1~1000である。
【0014】
式(1)中のAは、ダイマー酸及びトリマー酸由来の炭化水素基のうちダイマー酸由来の炭化水素基が占める割合が95質量%以上である。以下、このダイマー酸及びトリマー酸由来の炭化水素基のうちダイマー酸由来の炭化水素基が占める割合を、単に「ダイマー割合」と表記したり、ダイマー:トリマーと表記したりする場合がある。
このダイマー割合が95%質量以上であると(A)成分のマレイミド化合物の粘度が低く、化合物自体のハンドリング性に優れ、また組成物とした際、成形性が高いなどの長所を有する。ダイマー割合は95質量%以上であり、96質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。
また、式(1)中のAは水添処理された基である。すなわち、後記の通り、(A)成分の原料となるアミン化合物の基Aに対応する基には二重結合が含まれ得るが、これを水添処理して二重結合が低減したアミン化合物を原料として用いる。基A中の二重結合が低減されることで二重結合の酸化が抑えられ、熱による劣化及びそれによる誘電特性の悪化を防止することができる。
【0015】
なお、本明細書において、ダイマー割合は下記測定条件で行ったガスクロマトグラフィー(GC)測定のピーク面積比から算出した値である。
測定条件:
装置:GC-2014(島津製作所製)
カラム:DB-5 30m×0.25mm×0.25μm
気化室温度:280℃
温度:50℃→10℃/分→300℃、20分保持
カラム流量:1.00mL/分
パージ流量:3.00mL/分
【0016】
前述のように一般的にダイマー酸とトリマー酸とは混合物であり、総称してダイマー酸と呼ばれている場合が多い。そして、ダイマー酸とトリマー酸から誘導されたダイマージアミンとトリマートリアミンに関しても同様であり、総称してダイマージアミンと呼ばれており、ダイマージアミンと称される化合物の市販品においても、製品によりダイマージアミン及びトリマートリアミンの割合が異なることはよく知られている。
【0017】
ここで言う、ダイマー酸とは、植物系油脂などの天然物を原料とする炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された、炭素数36のジカルボン酸を主成分とする液状の二塩基酸であり、ダイマー酸は単一の骨格ではなく、複数の構造を有し、何種類かの異性体が存在する。ダイマー酸の代表的なものは直鎖型(a)、単環型(b)、芳香族環型(c)、多環型(d)という名称で分類される。
【化3】
【0018】
また、トリマー酸とは、上記ダイマー酸製造時の副生成物であり、ダイマー酸と同様にトリマー酸は単一の構造ではなく、複数の構造を有し、何種類かの異性体が存在する。代表的な構造として下記式(e)のような構造が挙げられる。
【化4】
(式(e)中のRはエチレン基又はエテニレン基を示す。)
【0019】
式(1)中のBは独立して環状構造を有する4価の有機基を示し、中でも下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化5】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0020】
式(1)中のnは1~1000であり、好ましくは1~100であり、更に好ましくは3~50である。この範囲であれば、樹脂組成物が未硬化でも強度が高く、さらに溶剤溶解性も良いため好ましい。
【0021】
本発明で用いる(A)成分は、上記ダイマー酸から誘導されたダイマージアミン及びトリマー酸から誘導されたトリマートリアミンの混合物(以下ダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物という)を原料として製造することができる。なお、ダイマー酸から誘導されたダイマージアミンとは、ダイマー酸の2つのカルボキシ基をそれぞれ1級アミノメチル基で置換した構造を有するものであり、同様に、トリマー酸から誘導されたトリマートリアミンとは、トリマー酸の3つのカルボキシ基をそれぞれ1級アミノメチル基で置換した構造を有するものであり、したがって、式(1)中のAがダイマー酸及びトリマー酸由来の炭化水素基を示すとは、基Aがこれらダイマー酸から誘導されたダイマージアミン及びトリマー酸から誘導されたトリマートリアミンの混合物に由来することを意味する。
【0022】
本発明で用いる(A)成分は、BMI-1500、BMI-3000(以上、Designer Molecules Inc.製)等の市販品を用いてもよく、以下の方法で合成したものを用いてもよい。
【0023】
(A)成分の具体的な製造方法としては、例えば、ダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物と、環状構造を有するテトラカルボン酸二無水物と、無水マレイン酸とを反応させる方法が挙げられる。
この反応は、ジアミンとカルボン酸無水物からアミック酸を合成し該アミック酸の脱水反応を行う、公知のポリイミドの合成方法に準じて行うことができる。すなわち、ダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物と、環状構造を有するテトラカルボン酸二無水物とからアミック酸を合成し閉環脱水後、さらに無水マレイン酸を反応させマレアミック酸を合成し閉環脱水する方法が一例として挙げられる。(マレ)アミック酸を合成する反応は、一般的には、有機溶媒(例えば、非極性溶媒又は高沸点非プロトン性極性溶媒)中、室温(25℃)~100℃で反応が進行する。続くアミック酸の閉環脱水反応は、90~120℃の条件で反応した後、縮合反応により副生した水を系中から取り除きながら進行させる。閉環脱水反応を促進させるために有機溶媒(例えば、非極性溶媒、高沸点非プロトン性極性溶媒等)や酸触媒を添加してもよい。有機溶媒としては、トルエン、キシレン、アニソール、ビフェニル、ナフタレン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また酸触媒としては、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
環状構造を有するテトラカルボン酸二無水物とダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物のモル比は、環状構造を有するテトラカルボン酸二無水物/ダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物=0.5~0.999/1.0とすることが好ましい。
また、その後添加する無水マレイン酸は、無水マレイン酸/ダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物=0.1~10.0/1.0となる量で添加することが好ましい。
【0024】
上記反応において、原料であるダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物中の両者の比率及び水添処理の有無は、得られるマレイミド化合物にそのまま反映されるため、生産性の観点から、原料であるダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物として、ダイマー割合が95質量%以上であり、水添処理されたものを使用することが好ましい。このようなダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物として、以下の市販品が挙げられる。
バーサミン552(コグニクスジャパン(株)製)、ダイマー:トリマー=95:5、水添処理あり
Priamine-1075(クローダジャパン(株)製)、ダイマー:トリマー=98:2、水添処理あり
上記した市販品又は上記以外のダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物の市販品を、薄膜蒸留等の精製方法によりダイマー割合を高めたものを使用してもよいし、ダイマー割合が異なる複数種のダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物を組み合わせてダイマー割合を調整してもよい。また、水添処理されていないダイマージアミン及びトリマートリアミンの混合物の市販品に対してラネーニッケル等の触媒を用いて水素化したものを使用してもよい。
【0025】
環状構造を有するテトラカルボン酸無水物としては市販のものを使用することができ、例えば無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、4,4’-ジフタル酸無水物、4,4’-スルホニルジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物等が挙げられる。これらの酸無水物は目的、用途等に合わせて1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。マレイミド化合物の電気特性の観点から、酸無水物は、無水ピロメリット酸、4,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物が好ましい。
【0026】
また、本発明の組成物を硬化した際に、反りを小さくするために該組成物の硬化物の25℃における貯蔵弾性率は1000MPa未満であることが好ましく、より好ましくは900MPa以下であり、更に好ましくは800MPa以下である。貯蔵弾性率が1000MPa以上だと接着剤やフィルムとして使用した際に硬化後の反りが大きくなってしまう場合がある。
なお、貯蔵弾性率はJIS K7244-4:1999に記載の方法に準拠して、動的粘弾性測定装置、例えばDMA-Q800(TA Instruments製)を用いて、周波数10Hz、温度範囲-50℃~200℃、昇温速度5℃/分の測定条件で測定した値である。
【0027】
また、本発明の組成物の硬化物の耐クラック性を高めるために該硬化物の25℃における硬度はD50以下であることが好ましく、より好ましくはD40以下であり、更に好ましくはD30以下である。硬度がD50より大きいと半導体封止材として使用した際、耐クラック性が悪くなってしまう場合がある。なお、硬度は、JIS K 6253-3:2012に記載の方法に準拠して、デュロメータタイプDの硬度計を用いて25℃で測定した値である。
【0028】
(A)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
また、本発明の硬化性樹脂組成物中の(A)成分の含有量は、30~99質量%であることが好ましく、60~95質量%であることがより好ましい。
【0029】
(B)触媒
本発明で用いる(B)成分は触媒である。本発明における触媒は、(A)成分のマレイミド基及び/又は後述するマレイミド基と反応しうる基の反応を開始させたり、促進させたりするものである。(B)成分としては(A)成分のマレイミド基及び/又は後述するマレイミド基と反応しうる基の反応を開始させたり、促進させたりするものであれば、特に制限はないが、有機過酸化物、アニオン重合開始剤及び光硬化開始剤から選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。
【0030】
有機過酸化物の例としては、ジクミルパーオキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシベンゾエート、ジベンゾイルパーオキシド、ジウラロイルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド等が挙げられる。
【0031】
アニオン重合開始剤の例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリブチルホスフィン、トリ(p-メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等の有機リン化合物;トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α-メチルベンジルジメチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第三級アミン化合物が挙げられる。
【0032】
光硬化開始剤としては、光によって反応を開始させるものであれば特に限定はないが、例えば、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルフォリノプロパノン-1、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、及びフェナントレンキノン等の芳香族ケトン;ベンジルジメチルケタール等のベンジル誘導体;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(m-メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2,4-ジ(p-メトキシフェニル)-5-フェニルイミダゾール二量体、及び2-(2,4-ジメトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;9-フェニルアクリジン、及び1,7-ビス(9,9’-アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体;ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド、及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のビスアシルホスフィンオキサイド;1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン等のアルキルフェノン系化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系化合物;ベンゾフェノン化合物等が挙げられる。
【0033】
(B)成分の配合量は(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1~5.0質量部であり、より好ましくは0.2~4.5質量部であり、更に好ましくは0.5~4.0質量部である。
また、本発明の組成物が後述する(A)成分以外の、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する硬化性樹脂を含有する場合、(A)成分及びマレイミド基と反応しうる反応性基を有する硬化性樹脂の合計を硬化性樹脂成分として、(B)成分の配合量は、硬化性樹脂成分100質量部に対して、好ましくは0.1~7.0質量部であり、より好ましくは0.2~6.0質量部であり、更に好ましくは0.5~5.0質量部である。
(A)成分100質量部に対する(B)成分の配合量が0.1質量部未満では硬化の進行が遅くなることがあり、5.0質量部より多くなると保存安定性に欠けるものになってしまう場合がある。
(B)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0034】
その他の添加剤
本発明の硬化性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。その他の添加剤を以下に例示する。
【0035】
マレイミド基と反応しうる反応性基を有する硬化性樹脂
本発明ではさらに、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する硬化性樹脂を添加してもよい。
硬化性樹脂としてはその種類を限定するものではなく、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、(A)成分以外のマレイミド化合物を始めとする環状イミド樹脂、ユリア樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ・シリコーンハイブリッド樹脂など(A)成分以外の各種樹脂が挙げられる。また、マレイミド基と反応しうる反応性基としては、エポキシ基、マレイミド基、水酸基、酸無水物基、アリル基やビニル基のようなアルケニル基、(メタ)アクリル基、チオール基などが挙げられる。
【0036】
反応性の観点から、硬化性樹脂の反応性基は、エポキシ基、マレイミド基、水酸基、及びアルケニル基の中から選ばれるものであることが好ましく、さらに誘電特性の観点からはアルケニル基又は(メタ)アクリル基がより好ましい。
ただし、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する硬化性樹脂の配合量は、硬化性樹脂の総和中、0~80質量%である。
【0037】
無機充填材
本発明ではさらに、必要に応じて無機充填材を添加してもよい。無機充填材は、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物の強度や剛性を高めたり、熱膨張係数や硬化物の寸法安定性を調整したりする目的で配合する。無機充填材としては、通常エポキシ樹脂組成物やシリコーン樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。例えば、球状シリカ、溶融シリカ及び結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、硫酸バリウム、タルク、クレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ガラス繊維及びガラス粒子等が挙げられる。さらに誘電特性改善のために含フッ素樹脂、コーティングフィラー、及び/又は中空粒子を用いてもよく、導電性の付与などを目的として金属粒子、金属被覆無機粒子、炭素繊維、カーボンナノチューブなどの導電性充填材を添加してもよい。無機充填材は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。無機充填材の添加量は(A)成分100質量部に対して0~300質量部であればよく、30~300質量部が好ましい。
【0038】
無機充填材の平均粒径及び形状は特に限定されないが、フィルムや基板を成形する場合は特に平均粒径が0.5~5μmの球状シリカが好適に用いられる。なお、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めた値である。
【0039】
さらに無機充填材は特性を向上させるために、マレイミド基と反応しうる有機基を有するシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。このようなシランカップリング剤としては、エポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、及びアルケニル基含有アルコキシシラン等が挙げられる。
前記シランカップリング剤としては、(メタ)アクリル基及び/又はアミノ基含有アルコキシシランが好適に用いられ、具体的には、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
前記シランカップリング剤の配合量としては、特に制限はないが、無機充填材の添加量100質量部に対して0~5質量部であればよく、0.2~2質量部が好ましい。
【0041】
その他
上記以外に、無官能シリコーンオイル、反応性希釈剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、光増感剤、光安定剤、重合禁止剤、酸化防止剤、難燃剤、顔料、染料、接着助剤、イオントラップ材等を配合してもよい。
また、上述した無機充填材を表面処理するエポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン及びアルケニル基含有アルコキシシラン等のシランカップリング剤は、別途本発明の硬化性樹脂組成物に配合されていてもよく、具体的なものも上述したものと同様のものが挙げられる。
【0042】
本発明の硬化性樹脂組成物は、有機溶剤に溶解してワニスとして扱うこともできる。該組成物をワニス化することによってフィルム化しやすくなり、また、Eガラスや低誘電ガラス、石英ガラスなどでできたガラスクロス等の繊維基材へも塗布し、含浸しやすくなる。有機溶剤に関しては(A)成分、(B)成分及びその他の添加剤としてのマレイミド基と反応しうる反応性基を有する硬化性樹脂が溶解するものであれば制限なく使用することができるが、例えば、アニソール、テトラリン、メシチレン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
[製造方法]
本発明の硬化性樹脂組成物の製造方法としては、(A)成分及び(B)成分、並びに必要に応じて加えられるその他の添加剤を、例えば、プラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)や、攪拌機THINKY CONDITIONING MIXER(シンキー(株)製)を使用して混合する方法が挙げられる。
【0044】
[未硬化樹脂フィルム/硬化樹脂フィルム]
本発明の硬化性樹脂組成物は、前述のワニスを基材に塗工し、有機溶剤を揮発させることで未硬化樹脂シート又は未硬化樹脂フィルムにしたり、さらにそれを硬化させることで硬化樹脂シート又は硬化樹脂フィルムとしたりすることができる。以下にシート及びフィルムの製造方法を例示するが、これに限定されるものではない。
【0045】
例えば、有機溶剤に溶解した硬化性樹脂組成物(ワニス)を基材に塗布した後、通常80℃以上、好ましくは100℃以上の温度で0.5~20分加熱することによって有機溶剤を除去し、さらに130℃以上、好ましくは150℃以上の温度で0.5~10時間加熱することで、表面が平坦で強固な樹脂硬化皮膜を形成することができる。
有機溶剤を除去するための乾燥工程、及びその後の加熱硬化工程での温度は、それぞれ一定であってもよいが、段階的に温度を上げていくことが好ましい。これにより、有機溶剤を効率的に組成物外に除去するとともに、樹脂の硬化反応を効率よく進めることができる。
ワニスの塗布方法として、スピンコーター、スリットコーター、スプレー、ディップコーター、バーコーター等が挙げられるが特に制限はない。
【0046】
基材としては、一般的な樹脂基材を用いることができ、例えばポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂などのポリエステル樹脂、などが挙げられる。該基材の表面を離形処理していてもかまわない。また、塗工層の厚さも特に限定されないが、溶剤留去後の厚さが1~100μm、好ましくは3~80μmの範囲である。さらに塗工層の上にカバーフィルムを使用してもかまわない。
【0047】
他にも、各成分をあらかじめ予備混合し、溶融混練機を用いてシート状又はフィルム状に押し出して未硬化樹脂フィルム又は硬化樹脂フィルムを作製してもよい。
【0048】
本発明の硬化性樹脂組成物の硬化により得られる硬化皮膜は、耐熱性、機械的特性、電気的特性、基材に対する接着性及び耐溶剤性に優れている上、低比誘電率を有している。そのため、例えば半導体装置、具体的には半導体素子表面のパッシベーション膜や保護膜、ダイオード、トランジスタ等の接合部のジャンクション保護膜、VLSIのα線遮蔽膜、層間絶縁膜、イオン注入マスク等のほか、プリントサーキットボードのコンフォーマルコート、液晶表面素子の配向膜、ガラスファイバーの保護膜、太陽電池の表面保護膜に応用することができる。更に、前記硬化性樹脂組成物に無機フィラーを配合した印刷用ペースト組成物、導電性充填材を配合した導電性ペースト組成物といったペースト組成物など幅広い範囲に応用することもできる。中でも接着剤用途が好ましい。
【0049】
また、未硬化の状態でフィルム状又はシート状にでき、自己接着性があり、誘電特性にも優れることから、特にフレキシブルプリント配線板(FPC)用などのボンディングフィルムやリジッド基板の層間絶縁材料などに好適に用いることができる。また、硬化樹脂フィルムはカバーレイフィルムとして使用することもできる。
【0050】
他にも、ワニス化した硬化性樹脂組成物をEガラスや低誘電ガラス、石英ガラスなどでできたガラスクロス等の繊維基材へ含浸し、有機溶剤を除去し半硬化状態にすることでプリプレグとして使用することもできる。また、そのプリプレグや銅箔などを積層させることで高多層のものを含む積層板やプリント配線板を作製することができる。
【0051】
[プリプレグ]
本発明の一実施形態にかかるプリプレグの概略端面図を
図1に示す。プリプレグ1は、硬化性樹脂組成物2と繊維基材3とを備える。硬化性樹脂組成物2は、前記硬化性樹脂組成物又は該樹脂組成物の半硬化物である。
なお、半硬化物とは、樹脂組成物をさらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、半硬化物は、樹脂組成物を半硬化した状態、いわゆるBステージ化されたものである。一方、未硬化の状態をAステージということもある。
すなわち、硬化性樹脂組成物2はAステージ状態の前記硬化性樹脂組成物であってもよいし、Bステージ状態の前記硬化性樹脂組成物でであってもよい。
【0052】
繊維基材3は前述の通り、Eガラス、低誘電ガラス、石英ガラス、さらにはSガラス、Tガラスなどが挙げられ、使うガラスの種類を問わないが、硬化性樹脂組成物の特性を生かす観点から低誘電特性を有する石英ガラスクロスが好ましい。なお、一般的に使用される繊維基材の厚さは、例えば、0.01mm以上、0.3mm以下である。
【0053】
プリプレグ1を製造する際には、プリプレグを形成するための基材である繊維基材3に含浸するために、硬化性樹脂組成物2は、ワニス状に調製された樹脂ワニスとすることが好ましい。このようなワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)は、例えば、以下のようにして調製される。
まず、樹脂組成物の組成のうち有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて用いられる、無機充填材など有機溶媒に溶解しない成分を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物(樹脂ワニス)が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、キシレン及びアニソールが挙げられる。
【0054】
プリプレグ1を製造する方法としては、例えば、硬化性樹脂組成物2、例えば、ワニス状に調製された硬化性樹脂組成物2を繊維基材3に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。硬化性樹脂組成物2は、繊維基材3へ、浸漬及び塗布等によって含浸される。必要に応じて複数回繰り返して含浸することも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂組成物を用いて含浸を繰り返すことにより、最終的に所望の組成及び含浸量に調整することも可能である。硬化性樹脂組成物(樹脂ワニス)2が含浸された繊維基材3は、所望の加熱条件、例えば、80℃以上180℃以下で1分間以上20分間以下加熱される。加熱によって、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)の硬化性樹脂組成物2を備えるプリプレグ1が得られる。なお、前記加熱によって、前記樹脂ワニスから有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させることができる。
【0055】
[積層板]
本発明の一実施形態にかかる積層板は、前記硬化性樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層又は前記硬化性樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層と、絶縁層以外の層とを積層したものである。一般的によく知られている積層板は、金属張積層板であり、その概略端面図を
図2に示す。金属張積層板11は、前記硬化性樹脂組成物の硬化物を含む又はからなる絶縁層12と、該絶縁層12の両面に金属箔13とを備える。
図2には絶縁層12の両面に金属箔13を備える両面金属張積層板を図示したが、絶縁層12の片面にのみ金属箔13を備える片面金属張積層板であってもよい。
また、絶縁層12は、該硬化性樹脂組成物の硬化物からなるものであってもよいし、前述のプリプレグの硬化物からなるものであってもよく、さらにプリプレグ1の硬化物を複数枚積層させたものであってもよい。また、前記金属箔13の厚みは、最終的に得られる配線板に求められる性能等に応じて異なり、特に限定されない。前記金属箔13の厚みは、所望の目的に応じて、適宜設定することができ、例えば、1~70μmであることが好ましい。また、前記金属箔13としては、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられ、前記金属箔が薄い場合は、ハンドリング性を向上のために剥離層及びキャリアを備えたキャリア付銅箔であってもよい。
このような積層板を製造する方法としては、一般的な方法であれば特に限定されない。例えば、プリプレグを使用する場合、プリプレグ1(
図1)を1枚又は複数枚重ね、さらに、その上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔13を重ね、加熱加圧成形して積層一体化することによって、積層板を製造する方法等が挙げられる。
【0056】
[プリント配線板]
本発明の一実施形態のプリント配線板は、前記硬化性樹脂組成物の硬化物を含むものであり、その一例として、前記積層板、特に
図2に示す金属張積層板を使用して製造されるプリント配線板の概略端面図を
図3に示す。前記のように、プリント配線板の製造に使用される金属張積層板の絶縁層12は、前述のプリプレグを使用して製造されたものであってもよい。プリント配線板21は、公知の方法によって、穴開け加工、金属めっき加工、金属箔のエッチング等による回路形成加工及び多層化接着加工を行うことによって製造することができる。
【0057】
[半導体封止材]
本発明の硬化性樹脂組成物を半導体封止材に使用する場合は、(A)成分、(B)成分及び必要に応じてその他の成分を所定の組成比で配合し、ミキサー等によって十分に均一に混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等による溶融混合し、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕すればよい。得られた樹脂組成物は封止材料として使用できる。
【0058】
半導体封止材として一般的な成形方法としては、トランスファー成形法や圧縮成形法が挙げられる。トランスファー成形法では、トランスファー成形機を用い、成形圧力5~20N/mm2、成形温度120~190℃で成形時間30~500秒、好ましくは成形温度150~185℃で成形時間30~180秒で行う。また、圧縮成形法では、コンプレッション成形機を用い、成形温度は120~190℃で成形時間30~600秒、好ましくは成形温度130~160℃で成形時間120~300秒で行う。更に、いずれの成形法においても、後硬化を150~225℃で0.5~20時間行ってもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0060】
実施例及び比較例で使用した各成分を以下に示す。尚、以下において数平均分子量(Mn)はポリスチレンを基準として、下記測定条件により測定されたものである。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperHZ4000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ3000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ2000(4.6mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL(濃度0.2質量%のTHF溶液)
【0061】
また、ダイマー割合(ダイマー:トリマーの質量比)は、下記測定条件で行ったガスクロマトグラフィー(GC)測定のピーク面積比から算出した。
[測定条件]
装置:GC-2014(島津製作所製)
カラム:DB-5 30m×0.25mm×0.25μm
気化室温度:280℃
温度:50℃→10℃/分→300℃、20分保持
カラム流量:1.00mL/分
パージ流量:3.00mL/分
【0062】
アミン化合物
合成例では、以下の操作により得たアミン化合物又は市販のアミン化合物を使用した。
[アミン化合物1]
Priamine-1075(クローダジャパン(株)製、水添処理済、ダイマー:トリマー≒98:2)
[アミン化合物2]
Priamine-1074(クローダジャパン(株)製、水添処理済、ダイマー:トリマー≒95:5)
[アミン化合物3]
Priamine-1075 300gを、200℃で60分間薄膜蒸留し、アミン化合物3を得た。アミン化合物3の主鎖は水添処理されたものであって、ダイマー:トリマー≒99.2:0.8であった。
[アミン化合物4]
Priamine-1075 80g及びPriamine-1074 161gを混合したものをアミン化合物4として得た。アミン化合物4の主鎖は水添処理されたものであって、ダイマー:トリマー≒96:4であった。
[アミン化合物1'(比較例用)]
Priamine-1073(クローダジャパン(株)製、水添処理なし、ダイマー:トリマー≒95:5)
[アミン化合物2'(比較例用)]
Priamine-1071(クローダジャパン(株)製、水添処理なし、ダイマー:トリマー≒80:20)
[アミン化合物3'(比較例用)]
Priamine-1071 300gを、180℃で60分間薄膜蒸留し、その後、ラネーニッケルにより水素化し、アミン化合物3'を得た。アミン化合物3'の主鎖は水添処理されたものであって、ダイマー:トリマー≒93:7であった。
【0063】
(A)マレイミド化合物
前記アミン化合物を原料として、以下の操作によりマレイミド化合物を合成した。なお、各合成例で得られたマレイミド化合物は、式(1)中のAがダイマー酸及びトリマー酸由来の炭化水素基であって、表1に示すダイマー割合を有し、基Aの水添処理の有無も表1に示す通りのものであり、式(1)中のBが各合成例のテトラカルボン酸無水物に由来する環状構造を有する4価の有機基であるものであった。
[合成例1]
攪拌機、ディーンスターク管、冷却コンデンサー及び温度計を備えた1Lのガラス製4つ口フラスコに、アミン化合物1 241g(0.45モル)、ピロメリット酸無水物87g(0.4モル)、メタンスルホン酸20g及びトルエン300gを加え、110℃に昇温し、副生した水分を留去しながら24時間撹拌した。反応後、無水マレイン酸97g(0.99モル)を加え、110℃で副生した水分を留去しながら6時間撹拌し、反応液を200gのイオン交換水を用いて5回水洗した。その後、ヘキサンに再沈殿することで黄色固体の目的物(A-1)を300g(収率90%、Mn=5000、式(1)中のn=7)得た。
【0064】
[合成例2]
攪拌機、ディーンスターク管、冷却コンデンサー及び温度計を備えた1Lのガラス製4つ口フラスコに、アミン化合物1 428g(0.8モル)、4,4’-オキシジフタル酸無水物186g(0.6モル)、メタンスルホン酸20g及びトルエン200gを加え、110℃に昇温し、副生した水分を留去しながら24時間撹拌した。反応後、無水マレイン酸97.2g(0.99モル)を加え、110℃で副生した水分を留去しながら6時間撹拌し、反応液を200gのイオン交換水を用いて5回水洗した。その後、80℃の減圧ストリップにより室温で褐色固体の目的物(A-2)を540g(収率87%、Mn=3000、式(1)中のn=3)得た。
【0065】
[合成例3]
合成例1のアミン化合物1を、等モル量のアミン化合物2に変えたのみで他は同様に操作することで、黄色固体の目的物(A-3)を290g(収率88%、Mn=5300、式(1)中のn=7)得た。
【0066】
[合成例4]
合成例1のアミン化合物1を、等モル量のアミン化合物3に変えたのみで他は同様に操作することで、黄色固体の目的物(A-4)を280g(収率85%、Mn=4500、式(1)中のn=6)得た。
【0067】
[合成例5]
合成例1のアミン化合物1 241gを、アミン化合物4 241gに変えたのみで他は同様に操作することで、黄色固体の目的物(A-5)を290g(収率88%、Mn=5000、式(1)中のn=7)得た。
【0068】
[合成例6]
合成例2のアミン化合物1を、等モル量のアミン化合物3に変えたのみで他は同様に操作することで、褐色固体の目的物(A-6)を530g(収率86%、Mn=3000、式(1)中のn=3)得た。
【0069】
[比較合成例1]
合成例1のアミン化合物1を、等モル量のアミン化合物1'に変えたのみで他は同様に操作することで、黄色固体の目的物(A’-1)を290g(収率88%、Mn=6000、式(1)中のn=8、比較例用)得た。
【0070】
[比較合成例2]
合成例1のアミン化合物1を、等モル量のアミン化合物2'に変えたのみで他は同様に操作することで、黄色固体の目的物(A’-2)を300g(収率90%、Mn=7000、式(1)中のn=9、比較例用)得た。
【0071】
[比較合成例3]
合成例1のアミン化合物1を、等モル量のアミン化合物3'に変えたのみで他は同様に操作することで、黄色固体の目的物(A’-3)を290g(収率88%、Mn=7000、式(1)中のn=9、比較例用)得た。
【0072】
[比較合成例4]
合成例2のアミン化合物1を、等モル量のアミン化合物2'に変えたのみで他は同様に操作することで、褐色固体の目的物(A’-4)を530g(収率86%、Mn=4000、式(1)中のn=4、比較例用)得た。
【0073】
(B)触媒
(B-1):2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名:トリゴノックス101、化薬ヌーリオン(株)製)
【0074】
<サンプルの調製>
表2の配合比で各成分をプラスチック容器に入れ、シンキーミキサー((株)シンキー製、製品名あわとり練太郎ARE-310)を用いて混合し、各樹脂組成物を調製した。
【0075】
<貯蔵弾性率>
50mm×50mm、1mm厚の枠を用意し、各樹脂組成物を厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム(E7006、東洋紡製)2枚で挟み込んで、真空プレス機(ニッコー・マテリアルズ製)を用いて160℃で5分の条件で成形し、硬化物を作製した。作製した硬化物を20mm長×5mm幅×1mm厚にカットし、動的粘弾性測定装置DMA-Q800(TA Instruments製)を用い、温度範囲-50℃~200℃、周波数10Hz、昇温速度5℃/分で25℃における貯蔵弾性率を測定した。
【0076】
<硬度>
50mm径×10mm厚のアルミニウム製シャーレに調製した各樹脂組成物を流し込み、160℃で5分の条件で成形し、硬化物を作製した。得られた硬化物の硬さをJIS K 6253-3:2012に記載の方法に準拠して、デュロメータタイプD硬度計を用いて25℃で測定した。
【0077】
<反り特性>
調製した各樹脂組成物を350mm×350mm、100μm厚になるようにフィルム状に塗工した。塗工したフィルムをフィルムラミネーターV-100(ニッコー・マテリアルズ製)を使って、直径300mm、厚さ750μmのシリコンウエハー上にラミネートし、160℃で5分加熱することでシリコンウエハー上に硬化物を作製した。作製した硬化物を25℃まで冷却したあと、シリコンウエハーの一端を机に固定し、固定していないシリコンウエハーの他端の机からの距離(高さ)を測定し、該高さが5mm以下であれば良、5mmより大きければ不良とした。
【0078】
<耐クラック性>
32mm×32mm、厚さ1.6mm厚のガラスエポキシプリント配線基板に10mm×10mm、厚さ0.75mmのシリコンチップを搭載したもの準備し、160℃、6.9N/mm2、硬化時間5分間の条件でトランスファー成形し、硬化性樹脂の成形サイズが28×28mm、成形厚さが1.2mmの半導体装置を作製した。作製した半導体装置20個について、-40℃/30分、150℃/30分、1,000サイクルのサーマルサイクル試験(TCT)をそれぞれ行い、硬化性樹脂にクラックが生じた半導体装置の数を計測した。
【0079】
<誘電特性および耐熱性>
70mm×70mm、200μm厚の枠を用意し、各樹脂組成物を厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム(E7006、東洋紡製)2枚で挟み込んで、真空プレス機(ニッコー・マテリアルズ製)を用いて160℃で5分の条件で成形し、硬化物(成形フィルム)を作製した。前記成形フィルムを180℃で1時間ポストキュアし、硬化樹脂フィルムを得た後、前記硬化樹脂フィルムを用いてネットワークアナライザ(キーサイト製、製品名:E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、上記硬化樹脂フィルムの周波数10GHz及び28GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。
さらにこの硬化樹脂フィルムを150℃で48時間放置し、同様に硬化樹脂フィルムの周波数10GHz及び28GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。
【0080】
【0081】
【0082】
以上から、本発明の組成物の硬化物は低弾性、低硬度であるために硬化後の反りが小さく、更に耐クラック性に優れ、高周波でも優れた誘電特性を示し、高温下に長時間置いた後でも誘電特性の変化の少ないことがわかった。
【符号の説明】
【0083】
1 プリプレグ
2 硬化性樹脂組成物
3 繊維基材
11 金属張積層板
12 絶縁層
13 金属箔
21 プリント配線板
22 配線層